説明

ダミーファイバ機器及びそれを用いた被測定光ファイバの光学特性の測定方法

【課題】光ファイバ工事等の際における光ファイバの破損事故の可能性を低減する。
【解決手段】ダミーファイバ機器Aは、両ファイバ端部のそれぞれに光コネクタが取り付けられた光ファイバ心線をコイル状に巻いた光ファイバコイルを収容した筐体10と、各々、筐体10に、一方の接続部が筐体10内に且つ他方の接続部が筐体10外にそれぞれ配されるように設けられ、一方の接続部に光ファイバコイルのファイバ端部に取り付けられた光コネクタが接続された一対の光アダプタ11と、を備える。ダミーファイバ機器Aは、筐体10に吊り下げ用のストラップ30が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OTDR(Optical Time Domain Reflectometry)測定等に用いられるダミーファイバ機器及びそれを用いた被測定光ファイバの光学特性の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの故障箇所の検出評価等を行うOTDR測定において、故障箇所の探索を可能ならしめるべく、被測定光ファイバとOTDR測定器との間にダミーファイバ機器を介設することが行われる。
【0003】
かかるダミーファイバ機器は、例えば特許文献1に開示されているような中空コイルや、特許文献2に開示されているボビン巻きコイルで構成される。
【特許文献1】特開2007−127812号公報
【特許文献2】特開2005−181791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、光ファイバ工事等での被測定光ファイバの光学特性の測定の際における光ファイバの破損事故の可能性を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のダミーファイバ機器は、両ファイバ端部のそれぞれに光コネクタが取り付けられた光ファイバ心線をコイル状に巻いた光ファイバコイルを収容した筐体と、
各々、上記筐体に、一方の接続部が該筐体内に且つ他方の接続部が該筐体外にそれぞれ配されるように設けられ、該一方の接続部に上記光ファイバコイルのファイバ端部に取り付けられた上記光コネクタが接続された一対の光アダプタと、
を備えたものであって、
上記筐体に吊り下げ用のストラップが取り付けられていることを特徴とする。
【0006】
本発明の被測定光ファイバの光学特性の測定方法は、
両ファイバ端部のそれぞれに光コネクタが取り付けられた光ファイバ心線をコイル状に巻いた光ファイバコイルを収容した筐体と、
各々、上記筐体に、一方の接続部が該筐体内に且つ他方の接続部が該筐体外にそれぞれ配されるように設けられ、該一方の接続部に上記光ファイバコイルのファイバ端部に取り付けられた上記光コネクタが接続された一対の光アダプタと、
を備えたダミーファイバ機器を用いて、所定の光学測定器により測定する方法であって、
ダミーファイバ機器を、筐体が吊り下げ状態となるように保持するステップと、
上記ダミーファイバ機器の筐体外の一方の光アダプタの接続部に、測定器から延びる光ファイバのファイバ端部に取り付けられた光コネクタを、また、他方の光アダプタの接続部に、被測定光ファイバのファイバ端部に取り付けられた光コネクタをそれぞれ接続するステップと、
上記光学測定器により上記被測定光ファイバの所定の光学特性を測定するステップと、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、筐体が吊り下げ状態となるようにダミーファイバ機器を保持することにより、筐体が左右に可動状態で保持されるので、光ファイバ工事等での被測定光ファイバの光学特性の測定の際に光ファイバに何かが引っ掛かって引っ張られても、余長を有することとなり、結果として、光ファイバの破損事故の可能性を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0009】
図1〜7は本実施形態に係るダミーファイバ機器Aを示す。このダミーファイバ機器Aは、光ファイバの光学特性の測定等の際に、測定器と被測定光ファイバとの間に介設されるものである。
【0010】
このダミーファイバ機器Aは、筐体10が機器本体を構成しており、その筐体10内に光ファイバコイル20が収容されている。
【0011】
筐体10は、例えば、硬質樹脂により縦長の矩形平板状に形成されており、浅底の皿状部材10aとその開口を係止構造により塞ぐ蓋部材10bとで構成されている。筐体10は、例えば、長さが60〜150mm、幅が40〜100mm、及び厚さが10〜30mmに形成されている。
【0012】
図8は筐体10に収容された光ファイバコイル20を示す。
【0013】
光ファイバコイル20は、光ファイバ心線からなるコイル本体21が基板22上に設けられると共に被覆シート23で被覆されてパッキングされた構造を有する。
【0014】
コイル本体21は、光ファイバ心線がコイル状に巻かれて円筒状に形成されている。コイル本体21は、例えば、外径が35〜95mm、内径が15〜60mm、及び高さが5〜28mmに形成されている。
【0015】
コイル本体21を形成する光ファイバ心線は、コア及びクラッドを有する石英製或いは樹脂製の光ファイバが樹脂製の被覆層によって被覆されている。光ファイバは、例えば、1.3μm用SMF(Single Mode Fiber)やEDF(Erbium Doped Fiber)やDCF(Dispersion Compensating Fiber)や1.55μm用DSF(Dispersion Shifted Fiber)で構成され、その全長が10〜1000mに形成されている。
【0016】
コイル本体21は、周方向に間隔をおいて結束材24により光ファイバ心線の束が結束されている。結束材24は、例えば、自己融着性を有するポリテトラフルオロエチレン製テープ等で構成される。
【0017】
基板22は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の矩形の可撓性樹脂シート上に粘着層が設けられた構造に構成されている。基板22は、例えば、縦が55〜145mm、横が38〜98mm、及び厚さが5〜28mmに形成されている。
【0018】
被覆シート23は、例えば、ポリエチレン(PE)等の熱可撓性樹脂フィルムで構成されている。被覆シート23は、例えば厚さが0.02〜0.2mmに形成されている。
【0019】
コイル本体21からは両ファイバ端部のそれぞれへと延びる一対の引出線25が基板22外に引き出されている。各引出線25の先端部であるファイバ端部には光コネクタ26が取り付けられている。光コネクタ26としては、例えば、FCコネクタ(JIS C5970 (F01))、SCコネクタ(JIS C5973 (F04))、D型コネクタ(JIS C5980 (F11))、MTコネクタ(JIS C5981 (F12))、MPOコネクタ(JIS C5982 (F13))、MUコネクタ(JIS C5983 (F14))、LCコネクタ(IEC61754−20)等が挙げられる。
【0020】
このダミーファイバ機器Aは、筐体10の上側の側面部の中央に一対の光アダプタ11が左右対称に並設されている。
【0021】
一対の光アダプタ11のそれぞれは、一方の接続部が筐体10内に且つ他方の接続部が筐体10外にそれぞれ配されており、筐体10外の接続部には不使用時用のキャップ12が着脱可能に嵌め込まれている。一対の光アダプタ11は、筐体10内の両接続部がコイル本体21の両引出線25のファイバ端部に取り付けられた光コネクタ26に対応した構成を有し、一方の接続部に、コイル本体21の一方の引出線25のファイバ端部に取り付けられた光コネクタ26が、また、他方の接続部に、コイル本体21の他方の引出線25のファイバ端部に取り付けられた光コネクタ26がそれぞれ接続されている。一対の光アダプタ11は、筐体10外の両接続部が測定器から延びる光ファイバ40のファイバ端部に取り付けられた光コネクタ41及び被測定側の光ファイバ50のファイバ端部に取り付けられた光コネクタ51に対応した構成を有するが、筐体10内の接続部と筐体10外の接続部とが同一であってもよく、また、相異していてもよい。光アダプタ11としては、例えば、FC−FCタイプ、SC−SCタイプ、MU−MUタイプ、LC−LCタイプ、FC−SCタイプ、SC−LCタイプ、SC−フェルールタイプ等のものが挙げられる。
【0022】
このダミーファイバ機器Aは、筐体10に吊り下げ用のストラップ30が取り付けられている。
【0023】
ストラップ30は、ストラップ本体31とそれを筐体10に取り付けるストラップ取付具32とで構成されている。
【0024】
ストラップ本体31は、繊維材料により環状の紐状体或いは帯状体に構成されている。ストラップ本体31は、下端部よりやや上方にかしめ具33が取り付けられ、それより下の下端部分に小環部31aが構成されている。ストラップ本体31は、例えば、周長が40〜160mm、及び幅が5〜20mmに形成されており、また、若干の伸縮性を有していてもよい。なお、ストラップ本体31には、吊り下げ長さを調節するための調節具が設けられていてもよく、また、過剰な力が作用したときに破壊して環状を開放するための脆弱部材が設けられていてもよい。
【0025】
ストラップ取付具32は、筐体10側の一対の線状部材34、円筒部材35、及び下側環状部材36と、ストラップ本体31側の着脱部材37、及び上側環状部材38と、を有する。
【0026】
一対の線状部材34のそれぞれは、下端が筐体10と光アダプタ11との間に挟まれるように固定され、内向き斜め上方に向かって延び、上端が円筒部材35の下部に固定され、これにより、円筒部材35を一対の光アダプタ11の間の中央上方に位置付けている。円筒部材35の上部には横方向に延びるように貫通孔が形成されており、その貫通孔に金属線材を環状に形成した下側環状部材36が挿通されている。
【0027】
上側環状部材38は、ストラップ本体31の小環部31aに通されていると共に、部材下部に上下方向に延びるように貫通孔が形成されており、その貫通孔に着脱部材37の軸状の部材本体37aの上部が挿通されて先端がかしめられている。着脱部材37は、部材本体37aがC字状に形成されて下側環状部材36に係合しており、その部材本体37aの開口を開閉する開口開閉材37bが設けられている。開口開閉材37bは、一端が部材本体37aの上側の開口端に回転可能に軸支されていると共に、他端が下側の開口端に当接するように付勢されている。
【0028】
以上の構成のダミーファイバ機器Aでは、筐体10にストラップ30が取り付けられていることにより携帯性が優れる。また、上側環状部材38或いは下側環状部材36が介設されていることにより、機器本体を構成する筐体10が上側環状部材38或いは下側環状部材36を中心とした左右への揺動が可能に構成されており、さらに、上側環状部材38への着脱部材37の取付構造により、着脱部材37の部材本体37aの上部を軸とする回転が可能に構成されている。また、下側環状部材36が係合する着脱部材37の部材本体37aに開口開閉材37bが設けられ、ストラップ取付具32が筐体10側とストラップ本体31側とに分割できるので、筐体10をストラップ本体31との着脱が可能に構成されている。
【0029】
次に、このダミーファイバ機器Aを用いた被測定光ファイバの所定の光学特性の測定方法について説明する。具体的ケースとしては、例えば、OTDR装置を測定器とした被測定光ファイバの伝送損失や接続損失の測定等が挙げられる。
【0030】
まず、図9に示すように、ストラップ30を首に掛けて、ダミーファイバ機器Aを、筐体10が吊り下げ状態となるように保持する。ここで、吊り下げ半径(吊り下げ中心から筐体10の取付端までの長さ)については、測定作業性及び衝撃吸収性の観点から、20〜80cmとすることが好ましく、約50cmとすることがより好ましい。
【0031】
次に、ダミーファイバ機器Aの筐体10外の一方の光アダプタ11の接続部からキャップ12を外し、そこに測定器から延びる光ファイバ40のファイバ端部に取り付けられた光コネクタ41を接続し、また、他方の光アダプタ11の接続部からキャップ12を外し、そこに被測定光ファイバに接続された測定用の光ファイバ50のファイバ端部に取り付けられた光コネクタ51を接続する。なお、光ファイバ40,50は、実際には、ポリアミド樹脂被覆やUV硬化樹脂被覆が設けられた光ファイバ心線、或いは、それに抗張力繊維が設けられた直径1.1〜3.0mmのコードの形態である。また、このとき、いずれの光コネクタ41,51も、その接続端面を拭いて清掃することが好ましい。これにより、塵や埃等による光コネクタ41,51の端面の破損事故を未然に防ぐことができる。そのため、ダミーファイバ機器Aは、コネクタ端面清掃具が取り付けられたものであってもよい。
【0032】
そして、光学測定器により被測定光ファイバの所定の光学特性を測定する。
【0033】
以上のような測定方法によれば、筐体10が吊り下げ状態となるようにダミーファイバ機器Aを保持することにより、筐体10が左右に可動状態で保持されるので、光ファイバ工事等における被測定光ファイバの光学特性の測定の際に光ファイバ40,50に何かが引っ掛かって引っ張られても、余長を有することとなり、結果として、光ファイバ40,50の破損事故の可能性を低減することができる。例えば、図10に示すように、吊り下げ半径(吊り下げ中心から筐体10の取付端までの長さ)が0.5m、筐体10の質量が0.1kg、及び測定器から延びる光ファイバ或いは被測定光ファイバの長さが2.4mとして、光ファイバに何かが引っ掛かって0.4m引っ張られた状態となっても、ストラップ30が引っ張られて筐体10が鉛直方向に対して60°程度回転し、光ファイバに作用する力が約1.94Nとなる。これはJIS C5974の表4で示される光コネクタの横方向の許容引っ張り力4.9Nよりもはるかに小さい。さらに、ストラップ30に若干の伸縮性があれば、僅かではあるが引っ張り力を低減することができる。
【0034】
なお、同様の作用効果を得る手段として、測定器から延びる光ファイバ或いは被測定光ファイバに、特開2005−3821号公報等に開示されている光ファイバカールコードを接続することも考えられるが、上記の方法によれば、かかる高価なものを用いる必要が無い。
【0035】
本実施形態では、筐体10が平板状に形成された構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、その他の形状の構成であってもよい。
【0036】
また、本実施形態では、一対の光アダプタ11が筐体10の同一の側面部に並設された構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、異なる側面部に設けられた構成であってもよい。但し、作業性の観点からは本実施形態の構成が好ましい。
【0037】
また、本実施形態では、吊り下げ使用時に、一対の光アダプタ11が設けられた側面部が上面になるようにストラップ30が筐体10に取り付けられた構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、一対の光アダプタ11が設けられた側面部が下面になるようにストラップ30が筐体10に取り付けられた構成等であってもよい。但し、作業性の観点からは本実施形態の構成が好ましい。
【0038】
また、本実施形態では、ストラップ30を首に掛けて、ダミーファイバ機器Aを、筐体10が吊り下げ状態となるように保持したが、特にこれに限定されるものではなく、その他のものに掛けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、光ファイバの光学特性の測定等に用いられるダミーファイバ機器及びそれを用いた被測定光ファイバの光学特性の測定方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態に係るダミーファイバ機器の正面図である。
【図2】本実施形態に係るダミーファイバ機器の右側面図である。
【図3】本実施形態に係るダミーファイバ機器の背面図である。
【図4】図1におけるA−A’部分拡大図である。
【図5】図2におけるB−B’部分拡大図である。
【図6】図3におけるC−C’部分拡大図である。
【図7】図4におけるD−D’部分拡大斜視図である。
【図8】光ファイバコイルの斜視図である。
【図9】光学特性の測定方法を示す説明図である。
【図10】光学特性の測定方法の作用を示す説明図である。
【符号の説明】
【0041】
A ダミーファイバ機器
10 筐体
11 光アダプタ
20 光ファイバコイル
26,41,51 光コネクタ
30 ストラップ
40 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両ファイバ端部のそれぞれに光コネクタが取り付けられた光ファイバ心線をコイル状に巻いた光ファイバコイルを収容した筐体と、
各々、上記筐体に、一方の接続部が該筐体内に且つ他方の接続部が該筐体外にそれぞれ配されるように設けられ、該一方の接続部に上記光ファイバコイルのファイバ端部に取り付けられた上記光コネクタが接続された一対の光アダプタと、
を備えたダミーファイバ機器であって、
上記筐体に吊り下げ用のストラップが取り付けられていることを特徴とするダミーファイバ機器。
【請求項2】
請求項1に記載されたダミーファイバ機器において、
上記筐体は平板状に形成されていると共に、上記一対の光アダプタは該筐体の同一の側面部に並設され、且つ上記ストラップは、吊り下げ使用時に、該一対の光アダプタが設けられた側面部が上面になるように該筐体に取り付けられていることを特徴とするダミーファイバ機器。
【請求項3】
両ファイバ端部のそれぞれに光コネクタが取り付けられた光ファイバ心線をコイル状に巻いた光ファイバコイルを収容した筐体と、
各々、上記筐体に、一方の接続部が該筐体内に且つ他方の接続部が該筐体外にそれぞれ配されるように設けられ、該一方の接続部に上記光ファイバコイルのファイバ端部に取り付けられた上記光コネクタが接続された一対の光アダプタと、
を備えたダミーファイバ機器を用いて、所定の光学測定器により被測定光ファイバの所定の光学特性を測定する方法であって、
ダミーファイバ機器を、筐体が吊り下げ状態となるように保持するステップと、
上記ダミーファイバ機器の筐体外の一方の光アダプタの接続部に、測定器から延びる光ファイバのファイバ端部に取り付けられた光コネクタを、また、他方の光アダプタの接続部に、被測定光ファイバのファイバ端部に取り付けられた光コネクタをそれぞれ接続するステップと、
上記光学測定器により上記被測定光ファイバの所定の光学特性を測定するステップと、
を備えたことを特徴とする測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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