説明

ツイストドリル

【課題】加工初期からドリル先端切れ刃が加工裏面に達した貫通時まで、穴加工により生じるドリル刃先のフラツキ、加工穴径が大きくなったりする等の課題を解決することを目的とする。
【解決手段】先端部に切れ刃が形成されたツイストドリルにおいて、前記先端切れ刃中心部に角錐状のセンターを有し、該センターの角錐頂角が60°以上110°以下、該センターの角錐稜線底部のドリル軸心からの長さがドリル心厚の0.1倍以上0.7倍以下としたことを特徴とするツイストドリルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ツイストドリルにおいて切削中のドリル刃先のフラツキを防止し、高精度穴加工が可能なツイストドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
ドリルで穴加工をすると切削抵抗によりドリル刃先がフラツキ、加工穴径が大きくなったり丸い穴が加工出来ないトラブルが発生する、対策として、特許文献1には、ドリルのマージン数を増やしたり、ドリルの溝を増やしたりして、加工穴内壁にドリル外周部(マージン部)をガイドさせることで改善を図っているが、ドリル外周部が加工穴内壁に接するまでの間効果は得られない。併せて、ドリル先端切刃は超硬ドリルでは一般的に鈍角(140°)で構成され、先端切刃中心にはチゼル部(押し潰し作用)があるので、穴加工を行なう際ドリル先端が加工面に接触するとドリル先端が滑って、所定の位置に加工出来ないまた切れ刃が加工面に食い込み始めるために切削が不安定になる等の不都合が生じるので、ドリル先端に小凸起状刃部を設け改善を行なうが加工が難しうえ、先端が鋭利に出来ないので充分な効果が得られない。
【特許文献1】特開平6−246522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明は、加工初期からドリル先端切れ刃が加工裏面に達した貫通時まで、穴加工により生じるドリル刃先のフラツキ、加工穴径が大きくなったりする等の課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願発明は、先端部に切れ刃が形成されたツイストドリルにおいて、前記先端切れ刃中心部に角錐状のセンターを有し、該センターの角錐頂角が60°以上110°以下、該センターの角錐稜線底部のドリル軸心からの長さがドリル心厚の0.1倍以上0.7倍以下としたことを特徴とするツイストドリルである。本願発明は、上記構成を採用することで、加工初期(ドリル先端が加工面に接触しドリル外周部が加工穴内壁に接するまでの間)のドリル先端の滑り防止ならびに切削の安定が高まり、次に、加工中は、角錐状のセンターの求心性と加工穴内壁とドリル外周部(マージン部)のガイド性の相乗効果、更に、ドリル先端切れ刃が加工裏面に達した貫通時には加工穴内壁とドリル外周部(マージン部)のガイド性により、加工全般にわたり、切削抵抗によるドリル刃先のフラツキを防止して高精度穴加工が可能なツイストドリルである。より好ましくは、該センター角錐稜線頂部の曲率を0.1mm以上0.5mm以下のR状とし、ドリル内部にシャンク部後端から刃先近傍まで切削油剤或いは切削ミスト或いはエアー等の流体を供給する流体供給用のスパイラル貫通孔を有し、硬質皮膜及び/又は潤滑性膜のコーティングを被覆する。
【発明の効果】
【0005】
本願発明によって、加工初期からドリル先端切れ刃が加工裏面に達した貫通時まで、加工全般にわたり、切削抵抗によるドリル刃先のフラツキを防止して高精度穴加工が可能なツイストドリルを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1記載の本発明例のドリルは、先端側に切れ刃を有し、基端側でツーリングで保持されつつ回転と切り込みを与えて穴明けを行うドリルであり、切れ刃と基端側は他の工具に比して離隔しており、その間にはドリル断面積の約55パーセントを占める切り屑排出溝が設けられており、剛性が乏しく切削諸元により性能が変わるドリルである。本発明例のドリルを用いて所定の位置に高精度な穴をあけるには、正確な位置決めのできる先端形状と切削抵抗等の不均衡な応力にもブレる事の無いセンターが必要で、これを満足するものとして角錐状のセンターを設け、該センターの角錐頂角が60°以下では切削中の不均衡な応力によりセンターの折損性が高くなり、110°以上では不均衡な応力に対峙できずブレが発生し穴精度が低下する。望ましくは90°が耐折損性とブレ抑制による穴精度に優れる。該センターの角錐稜線底部のドリル軸心からの長さがドリル心厚の0.1倍以下ではブレ抑制の効果に乏しく、0.7倍以上では角錐底部に切り屑排出溝の一部が形成され、センターの安定性が損なわれ穴精度が低下する。
【0007】
次に、ドリル外周部が加工穴内壁に接すると、ドリルは該センターの効果と外周部と穴内壁のガイドの相乗効果により、一層切削が安定し高精度な穴加工が行われるが、2本の切り屑排出溝を持つドリルでは通常一対のシングルマージンであるが、もう一対設けたダブルマージンにしたり、切り屑排出溝を3本にしたりして更なるガイド性の向上がはかることが出来る。更に、ドリル先端がワーク裏面に貫通し該センターの効果が喪失してもドリル外周部と穴内壁のガイドにより高精度な穴加工を維持できる。また、該センター角錐稜線頂部の曲率が0.1mm以下では、鋭利になりすぎて該センター角錐頂部がワークに接触した際の折損の危険性が大きく、0.5mm以上では該センター円錐頂部がワークに接触した際に滑って所定の位置に加工できない。
【実施例】
【0008】
(実施例1)
比較例1、本発明例2〜4、比較例5は、超硬合金製でドリル直径6.0mm、ドリル溝長28mm、ドリル全長70mm、捩れ角30°、心厚1.8mm、先端角140°、中心部貫通孔の径1.0mm、切り屑排出溝本数3本、コーティングはTiAlNをイオン誘導型アーク放電式イオンプレーティング法とスパッタリング法を組み合わせて施し、、先端切れ刃中心部(チゼル部)に設けた角錐(三角)状センターの該センターの角錐稜線頂部の曲率が0.3mm、角錐頂角と角錐稜線底部のドリル軸心からの長さを、比較例1−0.09mm、本発明例2〜4−0.18〜1.26mm、比較例5−1.44mmとしたものを製作した。
各試料を用い、切削条件V60m/min、f0.12mm/rev、穴の深さ15mmウェット雰囲気でS50Cを10穴加工し、切削状態を○、△、×で表記し穴径の拡大量(入口より5mm位置)の測定結果の平均値を括弧書で表1に併記した。
【0009】
【表1】

【0010】
表1より、本発明例2、3、4として、センターが折損や潰れも無く、安定した穴加工が行なえ穴径の拡大量も小さかったが、比較例1、5は、角錐センターが折損や潰れを発生し加工中止に至ったり、加工は出来ても穴加工途中で振動による切削異常音発生し不安定であった、更に穴径の拡大量も大きかった。
【0011】
(実施例2)
比較例6、本発明例7〜9、比較例10として、超硬合金製でドリル直径6.0mm、ドリル溝長28mm、ドリル全長70mm、捩れ角30°、心厚1.8mm、先端角140°、スパイラル貫通孔の径φ0.7mm、スパイラル貫通孔のピッチφ2.5mm、スパイラル貫通孔の数3穴、該センター角錐稜線底部のドリル軸心からの長さ0.9mm、角錐稜線頂部の曲率を表2記載の本発明例7〜9、比較例6、10の各試料を製作した。
【0012】
【表2】

【0013】
更に、各々5本の工具を用い、切削条件V50m/min、f0.12mm/rev、穴の深さ=15mm(貫通)、水溶性切削油を2.0MPaでシャンク部スパイラル貫通孔(3穴)に供給し、SCM440(HB280)を10穴加工し、切削状態ならびに穴径の拡大量(入口より5mmと12mm位置)の測定結果の平均値を表2に併記する。表2より、本発明例7〜9は、折損も無く穴径の拡大量も小さかったが、比較例6又は10は、センター折損やワークに食い付き時に先端が滑りドリル折損等のトラブルが発生し途中で加工を中止した。更に、ドリル表面を観察したところ、コーティング表面が平滑であり併せて、切り屑も遷移切断型のものが生成され金属光沢を有し、焼け色がなかった
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の正面拡大視図を示す。
【図2】図2は、本発明の軸端視図を示す。
【符号の説明】
【0015】
1:角錐センター
2:角錐頂角の半角
3:角錐稜線底部のドリル軸心からの長さ
4:角錐稜線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に切れ刃が形成されたツイストドリルにおいて、前記先端切れ刃の中心部に角錐状のセンターを有し、該センターの角錐頂角が60°以上110°以下、該センターの角錐稜線底部のドリル軸心からの長さがドリル心厚の0.1倍以上0.7倍以下としたことを特徴とするツイストドリル。
【請求項2】
請求項1記載のドリルにおいて、該センター角錐稜線頂部の曲率を0.1mm以上0.5mm以下のR状としたことを特徴とする、ツイストドリル。
【請求項3】
請求項1乃至2何れかに記載のツイストドリルにおいて、ドリル内部にシャンク部後端から刃先近傍まで切削油剤或いは切削ミスト或いはエアー等の流体を供給する流体供給用のスパイラル貫通孔を有したことを特徴とするツイストドリル。
【請求項4】
請求項1乃至3何れかに記載のツイストドリルにおいて、該ドリルに、硬質皮膜及び/又は潤滑性膜のコーティングを被覆したことを特徴とするツイストドリル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−224213(P2006−224213A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38570(P2005−38570)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【Fターム(参考)】