説明

テナトプラゾール及びヒスタミンH2受容体拮抗剤を組み合わせた医薬組成物

本発明は新規な医薬の組み合わせに関する。胃酸過多に関連した病態の治療を目的とする本発明の医薬組成物は、テナトプラゾールとシメチジン、ラニチジン、ファモチジン及びニザチジンから選択される1種以上のヒスタミンH2受容体拮抗剤との組み合わせを含む。本発明は胃十二指腸潰瘍並びに胃食道逆流の症状及び胃食道逆流に起因する病変の治療に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な医薬の組み合わせに関し、より詳しくは、胃酸過多症、特に胃十二指腸潰瘍、及び胃食道逆流に関連する症状と病変に関する疾患の治療のためのヒスタミンH2受容体拮抗剤及びテナトプラゾールを組み合わせた新規医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
消化不良、胃酸過多症、胃炎などの消化器系の障害を治療する際は通常、胃粘膜を痛める胃酸の除去が目指される。制酸剤、ヒスタミンH2受容体拮抗剤及びプロトンポンプ阻害剤などの様々な医薬品がこのような治療に用いられてきている。
【0003】
すなわち、ヒスタミンH2受容体拮抗剤は胃酸の分泌を抑制するため、例えば胃潰瘍の治療等の胃酸の過分泌に関連する障害の治療に頻繁に用いられている。ヒスタミンH2受容体拮抗剤はシメチジン、ラニチジン、ファモチジンなどの一連のよく知られた製品から選択すればよい。
【0004】
プロトンポンプ阻害剤についても、胃十二指腸潰瘍の治療における有用性が明らかになっている。この系列で初めて公知となった誘導体は欧州特許第005,129号に記載のオメプラゾールであった。オメプラゾールは胃酸の分泌を阻害する性質を有しており、ヒトの治療において抗潰瘍剤として広く使用されている。その他、プロトンポンプ阻害剤としては、ラベプラゾール、パントプラゾール、及びランソプラゾールが挙げられ、これらは全て構造的に類似しており、ピリジニル‐メチル‐スルフィニル‐ベンゾイミダゾール群に属する。テナトプラゾールは類似の構造を有するが、イミダゾピリジン型である。これらの化合物は硫黄原子の位置で非対称を示すスルホキシドであるため、普通、二つのエナンチオマーのラセミ混合物の形態になっている。
【0005】
オメプラゾールは胃食道逆流障害の治療にも使用できると予想されてきたが、この用途における作用は完全に満足のいくものではない。すなわち、その他のプロトンポンプ阻害剤の作用持続時間と同様に、オメプラゾールの作用持続時間が夜間逆流の効果的な治療を確実にするためには不十分であることが、研究によって示されている。
【0006】
テナトプラゾール、すなわち、5‐メトキシ‐2‐[[(4−メトキシ‐3,5‐ジメチル‐2‐ピリジル)メチル]スルフィニル]イミダゾ[4,5‐b]ピリジンは欧州特許第254,588号に記載されており、テナトプラゾールがATPase (H+ + K+)及び胃酸分泌を阻害する性質についても該特許に記載されている。
【0007】
これらの分類に属する活性物質の様々な組み合わせが、薬効改善のため又は公知の副作用の軽減のために想定されてきた。例えば、米国特許6,090,412号特許には、ファモチジンのようなヒスタミンH2受容体拮抗剤を、強い中和能力を示す重炭酸ナトリウム及び水酸化マグネシウム並びに弱い中和能力を示す水酸化アルミニウムゲルのような少なくとも2種の標準的な制酸剤と組み合わせた経口投与用の医薬処方が記載されている。フランス国特許第2,656,528号には、シメチジン及び抗ムスカリン剤であるピレンゼピンの組み合わせが記載されており、ピレンゼピンはシメチジンの副作用を軽減するとされている。
【0008】
胃食道逆流の患者にオメプラゾールを一日2回投与してラニチジンを夜に投与することが有益である可能性があると研究によって示されている(Peghini PL, Katz PO, Castell DO, "ラニチジンはオメプラゾールでの夜間の胃酸の漏出(breakthrough)を制御する:健常人における対照実験(Ranitidine controls nocturnal gastric acid breakthrough on omeprazole : a control study in normal subjects)" Gastroenterology (1998) 115(6):1335-9)しかし、別の研究は、オメプラゾールを朝と夜に投与する工程を含む治療がオメプラゾールの投与とラニチジンの投与とを組み合わせた治療より効果的であるとしている(Cross LB, Justice LN, "胃食道逆流症の組み合わせ薬剤治療(Combination drug therapy for gastroesophageal reflux disease)", Ann. Pharmacother. (May 2002) 36(5):912-6)。このような結果から、おそらく部分的にはプロトンポンプ阻害剤の低い排出半減期が原因となって、ヒスタミンH2受容体拮抗剤及びプロトンポンプ阻害剤の組み合わせは特に利点はないものであると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、出願人によって行われた研究によって特定のプロトンポンプ阻害剤すなわちテナトプラゾール及びヒスタミンH2受容体拮抗剤の組み合わせが、他のプロトンポンプ阻害剤及び他のヒスタミンH2受容体拮抗剤をそれぞれ単独で又は組み合わせて用いた場合と比較して予想外の効果をもたらすことが示された。より詳しくは、テナトプラゾール及び1種以上のヒスタミンH2受容体拮抗剤の組み合わせによって、単独で用いられるそれぞれの構成成分が達成できるよりも著しく優れた胃の酸性度の調節が可能になり、特に、胃食道逆流に関連する症状と病変の患者であってプロトンポンプ阻害剤を用いた標準的な治療法では難治性の患者の効果的な治療を可能になることが示された。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の課題は特定のプロトンポンプ阻害剤としてテナトプラゾールと1種以上のヒスタミンH2受容体拮抗剤とを組み合わせた医薬組成物である。
【0011】
さらに、本発明の課題は経口投与のための医薬組成物であって、テナトプラゾールと1種以上のヒスタミンH2受容体拮抗剤とを含み、胃酸過多症、特に胃十二指腸潰瘍、及び胃食道逆流の症状と病変に関連する疾患の治療に適した形態である医薬組成物である。
【0012】
本発明の別の課題は、胃酸過多症、特に胃十二指腸潰瘍、及び胃食道逆流の症状と病変に関連する疾患の治療のためのテナトプラゾールと少なくとも1種のヒスタミンH2受容体拮抗剤との組み合わせ使用、並びに胃酸過多症、特に胃十二指腸潰瘍、及び胃食道逆流の症状と病変に関連する疾患の治療を目的とする医薬品の製造のためのテナトプラゾールと少なくとも1種のヒスタミンH2受容体拮抗剤との組み合わせ使用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明によれば、テナトプラゾールは遊離の形態で用いることもでき、例えばカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、又はカルシウム塩などの塩の形態で用いることもできる。
【0014】
本発明の組成物で用いられるヒスタミンH2受容体拮抗剤はシメチジン、ラニチジン、ファモチジン又はニザチジンから選択すればよい。
【0015】
テナトプラゾールの含量とヒスタミンH2受容体拮抗剤の含量との比は1:30から1:2の間であればよく、好ましくは1:20から1:5の間である。この比率は選択したヒスタミンH2受容体拮抗剤に応じて変えてよい。
【0016】
胃食道逆流の症状と病変の患者及び健康なボランティア被検者のうち、約70%は酸性度の夜間のピーク、すなわち、22時から6時までの夜間において、少なくとも1時間 、4より低いpHを経験していることが以前の研究によって示されている。食道粘膜の病変の程度も4より低いpH の胃酸への暴露の持続時間と関係があることが知られている。
【0017】
新たに行われた研究によって、これらの症状と病変が、テナトプラゾール及びヒスタミンH2受容体拮抗剤を組み合わせた本発明に沿った組成物によって効果的に治療できることが示され、また、この利点はヒスタミンH2受容体拮抗剤の作用と補完しあうテナトプラゾール固有の作用の種類によるものであることが示された。
【0018】
実際、テナトプラゾールは、出願人が行った実験によって示されたように、驚異的に長い排出半減期を有している点、また、組織への暴露度が顕著である点で他のプロトンポンプ阻害剤とは異なっている。
【0019】
すなわち、白人(1グループにつきn=8)での第一相試験により、単回及び7日間一日一回の経口投与の場合の、様々な投与量のテナトプラゾールが薬物動態パラメーターに及ぼす影響を明らかにすることができた。
試験を行った投与量はテナトプラゾール、10、20、40、及び80 mgであった。
得られた結果を下記表1にまとめる。
【0020】
【表1】

【0021】
この表において、使用されている略語は下記の意味である:
Cmax 最大濃度
Tmax 最大濃度を得るために必要となる時間
T1/2 排出半減期
AUC0-t 時間0から測定可能な最終濃度までの曲線下面積。
【0022】
上記表1に示された結果は、排出半減期の平均が、投与量に従って、単回投与の後は5から6時間の間であり、7日間の投与の後は5から9.5時間の間であったことを示している。テナトプラゾールはまた、高いAUC値(曲線下面積)を示し、経口経路における低い代謝率及び/又は高いバイオアべイラビリティーの証拠を示した。さらに、単回又は反復の投与条件に関わらず、Cmax、AUC0-t、及びAUC0-inf値は直線的に増加した。AUC0-inf値は外挿で計算された。
【0023】
ランソプラゾール及びオメプラゾールという二つのプロトンポンプ阻害剤のAUC値の比較はすでにトールマン(Tolman)らによって行われている(J. Clin. Gastroenterol., 24(2), 65-70, 1997)、しかし、この比較によっては一つの製品が他の製品と比較して優れているか否かについての判定はできなかった。実際、異なった基準、すなわちポンプの再生に必要な時間、プロトンポンプを阻害するのに必要な最小濃度を超えた期間を考慮しなければならない。ポンプの再生時間については、ポンプは通常約30から48時間の半減期を有し、そのため、72から96時間ごとに全部新しくされていることが観測される。
【0024】
出願人によって行われた薬物動態試験により、テナトプラゾールは上述の予想外の薬物動態特性のおかげで、既に特定した二つの基準に見合う十分に長い時間の間阻害濃度を保つことによって、プロトンポンプ再生現象の影響を弱めることができることが示された。
【0025】
すなわち、得られたAUC値によって示されているように、長い半減期と関連した長い暴露によりテナトプラゾールは活性部位に長く存在することができるため、長期間の薬物動態学的効果がもたらされている。すなわち、テナトプラゾールは他のプロトンポンプ阻害剤で見られるより顕著に高い血漿半減期/ポンプ再生時間比を有するため、現在入手可能な医薬品ではほとんど効果がなかった病状、特に胃食道逆流や胃十二指腸潰瘍の夜間症状の治療に使用できることが実験によって示された。
【0026】
従って、シメチジン又はラニチジンのようなヒスタミンH2受容体拮抗剤と組み合わせ、好ましくは就寝前の夜に投与された場合、テナトプラゾールは他のプロトンポンプ阻害剤と比較して胃の酸性を抑制することにおいて著しい利点があり、この結果、胃食道逆流の患者の夜間の胃酸のピーク及び夜間症状に対する効果的な作用が可能であり、該患者においては、オメプラゾールのような一般的に用いられるプロトンポンプ阻害剤の標準的な治療法では難治性の患者においてでさえ、顕著な症状の緩和が可能である。
【0027】
本発明の組成物にはまた、胃食道逆流の症状の迅速な治療に顕著に有利な点として、通常の医薬の量は治療的効果の許容可能な持続時間を達成するために比較的高い必要があるが本発明ではその必要がないという利点がある。
【0028】
本発明の組成物は、選択される投与法に適合した標準的な形態で投与されることができ、投与法は例えば、経口又は非経口経路であればよく、経口又は静脈経路が好ましい。例えば、活性物質としてテナトプラゾール及びヒスタミンH2受容体拮抗剤を含む錠剤もしくはカプセル剤、又は1種以上のヒスタミンH2受容体拮抗剤と組み合わせたテナトプラゾール塩及び標準的な薬学的に許容できる担体を含む非経口投与用の乳濁液もしくは溶液を用いることができる。
【0029】
投与単位は10から60 mgのテナトプラゾール及び40から400 mgのヒスタミンH2受容体拮抗剤、特にラニチジン又はシメチジンを含んでいればよい。
【0030】
例として、カプセル剤の適当な処方を下記に示す:
テナトプラゾール 20 mg
ラニチジン 200 mg
賦形剤 qs 300 mg
【0031】
投与量は患者の状態と障害の程度に応じて医師が決定する。投与量は通常、一日あたりテナトプラゾールで10から120 mg、好ましくは20から40 mg、ラニチジンは200から400 mgである。
【0032】
例えば、胃食道逆流の夜間症状の治療は、初期治療又は維持治療の場合、それぞれ20 mgのテナトプラゾールと300 mgのラニチジンを含む錠剤の1から2錠を毎晩投与することからなり、期間は4から10週間であればよい。
【0033】
重篤な障害の患者の場合、本医薬品をはじめに静脈経路で投与し、続いて経口経路で投与するのが効果的であるかもしれない。本発明はまた、ラニチジン又はシメチジンなどのヒスタミンH2受容体拮抗剤20から300 mgと組み合わせた20又は40 mgのテナトプラゾールを含む錠剤を1錠各週単回投与することによって効果的な逐次治療が可能であるという利点もある。
下記に示す臨床試験によって、本発明の組成物の有効性が示された。
【0034】
【表2】

【0035】
記号 + 、++、及び +++ は症状の変化及び安全性が、それぞれ、緩やか、好ましい、及び非常に好ましいものであることを示す。
【0036】
治療は20 mgのテナトプラゾール及び300 mgのラニチジンを含む錠剤を一錠、就寝時に毎日投与するものであった。上記表2はこの治療において9例のうち7例では完全に耐性があり、残りの2患者も十分に耐性があったことを示し、症状に認められる改善は概して非常に好ましいものであったことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃酸過多に関連する疾患の治療のための医薬組成物であって、1種以上のヒスタミンH2受容体拮抗剤及びテナトプラゾールの組み合わせを含む医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、ヒスタミンH2受容体拮抗剤がシメチジン、ラニチジン、ファモチジン及びニザチジンから選択される組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の組成物であって、テナトプラゾールとヒスタミンH2受容体拮抗剤との重量比が1:30から1:2の間である組成物。
【請求項4】
先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物であって、該組成物が10から60 mgのテナトプラゾール及び40から400 mgのヒスタミンH2受容体拮抗剤を含む組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、テナトプラゾールがカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、又はカルシウム塩の形態である組成物。
【請求項6】
先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物であって、該組成物が経口又は非経口投与のための形態で存在する組成物。
【請求項7】
胃酸過多に関連する疾患の治療を目的とする医薬品の製造における、テナトプラゾール及び少なくとも1種のヒスタミンH2受容体拮抗剤の組み合わせ使用。
【請求項8】
請求項7に記載の使用であって、医薬品が胃十二指腸潰瘍及び胃食道逆流に関連する症状と病変の治療を目的とする使用。


【公表番号】特表2006−506377(P2006−506377A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546116(P2004−546116)
【出願日】平成15年10月21日(2003.10.21)
【国際出願番号】PCT/FR2003/003124
【国際公開番号】WO2004/037256
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(505150028)シデム ファーマ (3)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】