説明

デジタルアンプ、デジタルアンプの制御方法およびプログラム

【課題】高い処理速度を必要とせず且つ簡単な回路構成にすることができると共に、自身の回路にダメージを与えることなくスピーカーのショート判定を行うことができる。
【解決手段】スピーカー12と接続されて用いられるデジタルアンプ11であって、アナログ音声信号をパルス信号に変調する比較回路23と、変調した音声信号を増幅する増幅回路25と、増幅した音声信号を、アナログ信号に復調しつつ、その高周波成分を減衰するローパスフィルター26と、起動時にテスト信号を入力するミュート切替部29と、テスト信号をローパスフィルターに通した後の残留キャリアレベルを検出するレベル検出部27と、検出したテスト信号の残留キャリアレベルに基づいて、スピーカーがショートしているか否かを判定する制御部31と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力したアナログ音声信号を増幅し、スピーカーに出力するデジタルアンプ、デジタルアンプの制御方法およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、AVレシーバー等のマルチチャンネル出力を有するアンプにおいて、スピーカーターミナル部のレイアウトで各端子が近接されて置かれる状況にあり、スピーカーケーブル接続時にケーブル端処理の不備によりリードタッチによるショートモードを起こしやすくなっている。
これに対し、従来、デジタルアンプとして、オーディオ信号を入力する入力手段と、入力されたオーディオ信号をPWM信号に変換する信号処理手段と、変換したPWM信号をスイッチング増幅する増幅手段と、インダクターおよびコンデンサーを備える共に増幅されたPWM信号から高周波成分を除去するローパスフィルターと、オーディオ信号のボリウムを調整するボリウム調整手段と、ローパスフィルターが備えるインダクターに流れる電流値を検出する検出手段と、調整されたボリウムおよび検出した電流値から過電流が発生したか否かを判別する判別手段と、過電流が発生したことを判別した場合デジタルアンプを過電流から保護する保護手段と、を備えたデジタルアンプが知られている(特許文献1参照)。すなわち、このデジタルアンプでは、判別手段によって過電流が発生したことを判定し、保護手段によって、例えば、スピーカーとの電気的接続を切断することで、デジタルアンプの構成部品やスピーカーの破損を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−94148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構成では、音声再生時において、音声信号を入力した際の電流値を検出して過電流を判定する構成であるため、スピーカーがショートしている場合、一時的とはいえ、ショート状態でデジタルアンプを駆動することになる。その結果、デジタルアンプの回路にダメージを与えてしまう虞があるという問題があった。また、ショート状態での駆動時間を極力短くする必要があるので、電流検出処理および過電流判定処理を素早く行う必要がある。よって、検出手段および判定手段を処理速度が速いものにせざるを得ないという問題もある。さらに、電流値を検出する検出手段を必要とする上、インダクターの両端からの電流値を検出することは難しく、回路構成が複雑になってしまうという問題もあった。
【0005】
本発明は、高い処理速度を必要とせず且つ簡単な回路構成にすることができると共に、自身の回路にダメージを与えることなくスピーカーのショート判定を行うことができるデジタルアンプ、デジタルアンプの制御方法およびプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のデジタルアンプは、スピーカーと接続されて用いられるデジタルアンプであって、アナログ音声信号をパルス信号に変調する信号変調手段と、変調した音声信号を増幅する増幅手段と、増幅した音声信号をアナログ信号に復調しつつ、その高周波成分を減衰するローパスフィルターと、起動時にテスト信号を入力するテスト信号入力手段と、ローパスフィルターに通した後のテスト信号の残留キャリアレベルを検出するレベル検出手段と、検出したテスト信号の残留キャリアレベルに基づいて、スピーカーがショートしているか否かを判定するショート判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明のデジタルアンプの制御方法は、入力したアナログ音声信号を増幅し、ローパスフィルターを介して、スピーカーに出力するデジタルアンプの制御方法であって、デジタルアンプが、起動時にテスト信号を入力するテスト信号入力ステップと、テスト信号をローパスフィルターに通した後の残留キャリアレベルを検出するレベル検出ステップと、検出したテスト信号の残留キャリアレベルに基づいて、スピーカーがショートしているか否かを判定するショート判定ステップと、を実行することを特徴とする。
【0008】
ローパスフィルター等のフィルター手段は、出力側の負荷(インピーダンス)の変化によって、入力信号に対する減衰特性が変化することが知られている。特にローパスフィルターでは、出力側の負荷が規定値から減少していくと、入力信号を、より減衰させるように減衰特性が変化していく。つまり、スピーカーがショートしていると、出力側の負荷が極端に減少するので、ローパスフィルターへの入力信号に対し強力な減衰がかかることになる。
上記の構成によれば、テスト信号を入力し、ローパスフィルターに通した後の当該テスト信号の残留キャリアレベルを検出して、その検出結果に基づいて、スピーカーがショートしているか否かを判定する。すなわち、上記したように、スピーカーがショートしていると、テスト信号に強力な減衰がかかるので、振幅成分である残留キャリアレベルが大きく減少する(ほぼ0になる)。この性質に基づき、残留キャリアレベルからショート判定を行うことができる。このようにショート判定を行うことで、テスト信号によるテスト駆動のみでショート判定を行うことができ、自身の回路にダメージを与えることがない。また、起動時の処理によって、ショート判定を行うことができる。すなわち、ショート状態での駆動時にショート判定等を行うものではないため、一連の処理に高い処理速度を必要としない。さらに、残留キャリアレベルを検出するレベル検出手段の検出結果を利用して、ショート判定を行うことができるため、回路構成を簡素化できる。またさらに、使用するスピーカーやスピーカーケーブルのインピーダンス特性によりスピーカー側やスピーカーケーブル途中で残留キャリアレベルの検出を行うと、適切なショート判定を行うことができないのに対し、上記構成によれば、デジタルアンプ側で残留キャリアレベルの検出を行うため、適切なショート判定を行うことができる。
【0009】
この場合、スピーカーとの電気的接続を切断した状態で、第1のテスト信号を入力する切断時テスト信号入力手段を、更に備え、テスト信号入力手段は、スピーカーとの電気的接続を接続した状態で第2のテスト信号を入力し、ショート判定手段は、第1のテスト信号の残留キャリアレベルと、第2のテスト信号の残留キャリアレベルと、を比較してスピーカーがショートしているか否かを判定することが好ましい。
【0010】
上記のデジタルアンプにおいて、ショート判定手段は、第1のテスト信号の残留キャリアレベルから、第2のテスト信号の残留キャリアレベルへの減少率が、所定率以上である場合、スピーカーがショートしているものと判定し、減少率が、所定率未満である場合、スピーカーがショートしていないものと判定することが好ましい。
【0011】
上記のデジタルアンプにおいて、ショート判定手段は、第1のテスト信号の残留キャリアレベルから、第2のテスト信号の残留キャリアレベルへの減少値が、所定値以上である場合、スピーカーがショートしているものと判定し、減少値が、所定値未満である場合、スピーカーがショートしていないものと判定することが好ましい。
【0012】
デジタルアンプの回路は、スピーカー接続時の負荷と、スピーカー非接続時の負荷とが、略同等になるように設計されている。よって、スピーカーがショートしていないのであれば、非接続時の残留キャリアレベルと、接続時の残留キャリアレベルとは近い値になる。これを利用し、スピーカー非接続時におけるテスト信号(第1のテスト信号)の残留キャリアレベルと、スピーカー接続時におけるテスト信号(第2のテスト信号)の残留キャリアレベルとを比較することで、ショート判定を行うことができる。
上記の構成によれば、両残留キャリアレベルを比較してショート判定を行うので、スピーカーの接続・非接続以外の条件によって残留キャリアレベルが大きく減少したケースを除外して、ショート判定を行うことができる。よって、例えば、ローパスフィルターやデジタルアンプ自身の不具合によって、残量キャリアレベルが大きく減少するケースを除外することができ、ショート判定を精度良く行うことができる。
【0013】
一方、テスト信号は、ミュート信号であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、ミュート信号を用いることで、スピーカーから、人に聞こえる音を出すことなくショート判定を行うことができる。また、ミュート信号は、単調な波形を有しているので、残留キャリアレベルのバラツキが少なく、ショート判定をより精度良く行うことができる。
【0015】
また、ショート判定手段により、スピーカーがショートしているものと判定した場合、スピーカーとの電気的接続を切断するスピーカー切断手段を、更に備えることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、スピーカーがショートしているものと判定した場合に、スピーカーとの電気的接続を切断することで、デジタルアンプの回路を保護することができる。
【0017】
本発明のプログラムは、コンピューターに、請求項6に記載のデジタルアンプの制御方法における各ステップを実行させることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、コンピューターに本プログラムを搭載するだけで、上記のデジタルアンプの制御方法を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係るデジタルアンプを示した回路構成図である。
【図2】デジタルアンプの起動処理を示したフローチャートである。
【図3】起動処理の変形例を示したフローチャートである。
【図4】デジタルアンプの変形例を示した回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係るデジタルアンプおよびデジタルアンプの制御方法について説明する。実施形態では、本発明を適用したデジタルアンプ(いわゆるD級アンプ)を例示する。このデジタルアンプは、スピーカーと接続して用いられ、入力したアナログ音声信号を増幅して、ローパスフィルターを介してスピーカーに出力するものである。
【0021】
図1は、デジタルアンプ11の回路構成を示した図である。図1に示すように、デジタルアンプ11は、交流電源部21と、三角波生成部22と、比較回路(信号変調手段)23と、ゲート回路24と、増幅回路(増幅手段)25と、ローパスフィルター26と、レベル検出部(レベル検出手段)27と、インピーダンス補正回路28と、ミュート切替部(テスト信号入力手段および切断時テスト信号入力手段)29と、接続切替回路(スピーカー切断手段)30と、これらを制御する制御部(ショート判定手段)31と、を備えている。また、デジタルアンプ11は、回路の下流端に、スピーカー端子部32を介してスピーカー12を接続している。
【0022】
交流電源部21は、アナログ音声信号を入力信号として入力する。三角波生成部22は、三角波を生成する。比較回路23は、生成した三角波と比較して、入力した音声信号をPWM(Pulse Width Modulation)信号に変調する(いわゆるパルス幅変調)。
【0023】
ゲート回路24は、PWM信号に変調した音声信号に基づいてスイッチング処理を行う。増幅回路25は、スイッチング処理に伴って、PWM信号に変調した音声信号を増幅する。ローパスフィルター26は、コイル41およびコンデンサー42を有したLCフィルターであり、増幅された音声信号をアナログ信号に復調しつつ、その高周波成分(ノイズ成分)を減衰する。
【0024】
レベル検出部27は、ローパスフィルター26の下流側に接続されると共に、ローパスフィルター26を通過した後の音声信号(アナログ信号)の残留キャリアレベルを検出する。残留キャリアレベルは、ローパスフィルター26により減衰し切れずに残った高周波成分(ノイズ成分)の残留値である。ここでは、高周波成分の最大振幅(Vpp)を残留キャリアレベルとする。
【0025】
インピーダンス補正回路28は、レベル検出部27の下流側に接続されると共に、コンデンサー43および抵抗器44を有してスピーカー12側の負荷を補正する。また、インピーダンス補正回路28は、接続するスピーカー12のインピーダンスに合わせて設計されている。すなわち、インピーダンス補正回路28は、スピーカー12のインダクタンスに合わせたコンデンサー43と、スピーカー12の抵抗値に合わせた抵抗器44とにより構成されている。これにより、スピーカー12接続時の負荷と、スピーカー12非接続時の負荷とが、略同等になっている。
【0026】
ミュート切替部29は、交流電源部21と比較回路23との間に介設されており、デジタルアンプ11におけるミュートモードのON/OFFを切り替えると共に、ミュートモードをONに切り替えた際、ミュート信号を入力信号として入力する。ミュート信号は、波形が単調なアナログ信号であり、スピーカー12から出力された際、人から音声として聞こえないように生成された信号である。すなわち、ミュート信号が入力されると、比較回路23、ゲート回路24、増幅回路25およびローパスフィルター26は、アナログ音声信号が入力された場合と同様に、ミュート信号を変調・増幅する。そして、ミュート信号がスピーカー12に出力され、スピーカー12を消音する。ミュート信号は、スピーカー12がショートしている状態で、当該ミュート信号によりデジタルアンプ11を駆動してもデジタルアンプ11が故障しない程度に小さい最大振幅および周波数に設計されている。
【0027】
接続切替回路30は、インピーダンス補正回路28の下流側に配設されたリレー回路で構成されており、そのさらに下流側に接続されたスピーカー12の電気的接続状態を、接続・非接続の間で切り替える。すなわち、接続切替回路30により、スピーカー12との電気的接続を接続し、また切断することができる。
【0028】
音声再生時には、ミュート切替部29によりミュートモードをOFFに切り替え且つ接続切替回路30によりスピーカー12を電気的に接続した状態で、アナログ音声信号を入力する。アナログ音声信号が入力されると、比較回路23により、このアナログ音声信号をPWM信号に変調し、ゲート回路24および増幅回路25により、変調した音声信号を増幅する。さらに、ローパスフィルター26によって、増幅した音声信号をPWM信号からアナログ信号に復調しつつ、その高周波成分を減衰する。そして、この音声信号(アナログ音声信号)をスピーカー12に出力する。これを受けたスピーカー12は、このアナログ音声信号により音声出力を行う。
【0029】
また、音声再生の際、ユーザー操作によりミュートモードに切り替えることも可能である。すなわち、ユーザー操作に起因して、ミュート切替部29により、ミュートモードをONにすると、アナログ音声信号の入力をキャンセルしてミュート信号を入力する。入力されたミュート信号が、比較回路23、ゲート回路24、増幅回路25およびローパスフィルター26を通って、スピーカー12に出力されるので、スピーカー12からの音声が消音される。
【0030】
さらに、音声再生の際、レベル検出部27により、ローパスフィルター26を通過した後の音声信号の残留キャリアレベルを検出し、異常判定を行うようにしても良い。例えば、検出した残留キャリアレベルが所定の閾値に達しているか否かを判別し、所定の閾値に達している場合には、デジタルアンプ11および/またはスピーカー12に異常があると判定し、これらの駆動を停止し、もしくは接続切替回路30によりスピーカー12との電気的接続を切断した後、エラー表示を行う。
【0031】
ここで図2を参照して、デジタルアンプ11の起動処理について説明する。この起動処理は、デジタルアンプ11起動時における駆動の予備動作であり、デジタルアンプ11の電源をONにするユーザー操作(例えば電源ボタンの押下)に起因して実行される。なお、接続切替回路30によりスピーカー12を電気的に切断した状態(非接続)を初期状態とする。
【0032】
図2に示すように、デジタルアンプ11の電源がONされると(S1:Yes)、制御部31は、ミュート切替部29により、デジタルアンプ11におけるミュートモードをONに切り替え(S2)、これに伴ってミュート信号の入力を開始する(S3)。ミュート信号が入力されると、比較回路23、ゲート回路24、増幅回路25およびローパスフィルター26を介して、ミュート信号が変調・増幅される。
【0033】
ミュート信号の入力が開始されたら、レベル検出部27により、ローパスフィルター26を通った後のミュート信号における残留キャリアレベルを検出する(S4)。すなわち、スピーカー12非接続時におけるミュート信号(第1のミュート信号)の残留キャリアレベルを検出する。残留キャリアレベルを検出したら、今度は、接続切替回路30によりスピーカー12を電気的に接続した後(S5)、レベル検出部27により、再度、ローパスフィルター26のミュート信号における残留キャリアレベルを検出する(S6:レベル検出ステップ)。すなわち、スピーカー12接続時におけるミュート信号(第2のミュート信号)の残留キャリアレベルを検出する。
【0034】
スピーカー12非接続時の残留キャリアレベルおよびスピーカー12接続時の残留キャリアレベルを検出したら、これらを比較して、ショート判定処理を行う(ショート判定ステップ)。具体的には、まず、スピーカー12非接続時の残留キャリアレベルからスピーカー12接続時の残留キャリアレベルへの減少率(%)を算出する(S7)。例えば、スピーカー12非接続時の残留キャリアレベルが、2.0Vppであり、スピーカー12接続時の残留キャリアレベルが、1.1Vppである場合、減少率は、(2.0−1.1)÷2.0×100=45%である。減少率を算出したら、当該減少率が所定率以上(例えば、LPF定数がL1=22μH、C1=0.47μF、SW周波数450kHzの場合、電圧電源±60Vの条件下で、「40%以上」とする)である否かを判定する(S8)。減少率が所定率未満である場合(S8:No)には、スピーカー12がショートしていないものと判定する(S9)。ショートしていないものと判定したら、ミュート切替部29により、ミュートモードをOFFに切り替えて(S10)、本起動処理を終了する。一方、減少率が所定率以上である場合(S8:Yes)には、スピーカー12がショートしているものと判定する(S11)。ショートしているものと判定したら、接続切替回路30によりスピーカー12を切断した後(S12)、エラー表示を行って(S13)、本起動処理を終了する。
【0035】
以上のような構成によれば、ミュート信号の残留キャリアレベルを検出し、この検出結果に基づいて、スピーカー12がショートしているか否かを判定するため、ミュート信号によるテスト駆動のみでショート判定を行うことができ、自身の回路にダメージを与えることがない。また、起動時の処理によって、ショート判定を行うことができる。すなわち、ショート状態での駆動時にショート判定等を行うものではないため、一連の処理に高い処理速度を必要としない。さらに、残留キャリアレベルを検出するレベル検出部27の検出結果を利用して、ショート判定を行うことができるため、回路構成を簡素化できる。
【0036】
また、スピーカー12接続時の残留キャリアレベルと、スピーカー12非接続時の残留キャリアレベルとを比較してショート判定を行うので、スピーカー12の接続・非接続以外の条件によって残留キャリアレベルが大きく減少したケースを除外して、ショート判定を行うことができる。よって、例えば、ローパスフィルター26やデジタルアンプ11自身の不具合によって、残量キャリアレベルが大きく減少するケースを除外することができ、ショート判定を精度良く行うことができる。
【0037】
さらに、ショート判定時の入力信号としてミュート信号を用いることで、スピーカー12から、人に聞こえる音を出すことなくショート判定を行うことができる。また、ミュート信号は、単調な波形を有しているので、残留キャリアレベルのバラツキが少なく、ショート判定をより精度良く行うことができる。
【0038】
またさらに、スピーカー12がショートしているものと判定した場合に、スピーカー12との電気的接続を切断することで、デジタルアンプ11の回路を保護することができる。
【0039】
なお、本実施形態においては、ローパスフィルター26として、単一のフィルター回路から成るフィルターを用いたが、ローパスフィルター26として、多重のフィルター回路から成るフィルターを用いても良い。かかる場合、レベル検出部27により、多重のフィルター回路すべてを通った後の残留キャリアレベルを検出しても良いし、途中まで通った後の残留キャリアレベルを検出しても良い。
【0040】
また、本実施形態においては、デジタルアンプ11に本発明を適用したが、他のアンプ(増幅器)に本発明を適用しても良い。また、ショート時に減衰特性が変化するフィルター手段を備えたものであれば、必ずしもローパスフィルター26を備えたものでなくとも適用可能である。例えば、オペアンプに本発明を適用しても良いし、フィルター手段として、ハイパスフィルターやバンドパスフィルタを備えたアンプに本発明を適用しても良い。
【0041】
さらに、本実施形態においては、ショート判定の際に、ミュート信号を入力して残留キャリアレベルを検出したが、テスト信号を入力する構成であれば、ミュート信号を入力するものに限るものではない。例えば、ショート判定に適したテスト信号を新たに生成し、これを入力する構成であっても良いし、アナログ音声信号を、ショート状態でも不良が生じない程に減衰し、テスト信号として用いる構成であっても良い。すなわち、テスト信号は、スピーカー12がショートしている状態で不良が生じない程度に低い最大振幅および周波数を有したものであることが好ましい。
【0042】
またさらに、本実施形態においては、スピーカー12非接続時の残留キャリアレベルと、スピーカー12接続時の残留キャリアレベルとの減少率を、ショート判定に用いたが、減少率(%)ではなく、減少値(具体的な数値:Vpp)を、ショート判定に用いても良い。かかる場合、減少値が所定値(例えば0.8Vpp)以上であるか否かによって、ショートしているか否かを判定する。
【0043】
また、本実施形態においては、残留キャリアレベルとして、高周波成分の最大振幅(Vpp)をショート判定に用いる構成であったが、残留キャリアレベルとして、高周波成分の相対高さ(db)を残留キャリアレベルとしても良い。かかる場合、例えば、減少値が所定値(例えば、5db)以上であるか否かによって、ショートしているか否かを判定する。
【0044】
さらに、本実施形態においては、両残留キャリアレベル間の減少率が所定率以上であるか否かに基づいてショート判定を行ったが、当該減少率が所定率未満であり且つ両残留キャリアレベルが異常値に達している場合、デジタルアンプ11の回路に不具合(例えばローパスフィルター26の不具合やレベル検出部27の誤検出等)が生じているものと考えられる。これを利用し、当該減少率が所定率未満であり且つ両残留キャリアレベルが異常値に達している場合には、デジタルアンプ11の回路に不具合が生じているものと判定する構成であっても良い。
【0045】
また、本実施形態においては、スピーカー12接続時、非接続時の両残留キャリアレベルに基づいてショート判定を行ったが、スピーカー12接続時の残留キャリアレベルのみに基づいて、ショート判定を行う構成であっても良い。例えば、図3に示すように、スピーカー12非接続時における残留キャリアレベルの検出(S4)を省略すると共に、ショート判定処理では、スピーカー12接続時の残留キャリアレベルが、ショート状態であると判断できる所定値以下であるか否かを判定する(S18)。そして、当該残留キャリアレベルが上記所定値以下である場合(S18:Yes)には、ショートしているものと判定し(S11)、当該残留キャリアレベルが所定値以下ではない場合(S18:No)には、ショートしていないものと判定する(S9)。かかる構成であれば、ショート判定を簡易な処理で行うことができ、また、回路の不具合も含めたエラー判定を行うことができる。
【0046】
また、かかる構成において、図4に示すように、レベル検出部27が、接続切換回路30とスピーカー12(厳密には、スピーカー端子部32)との間で残留キャリアレベルを検出する構成としても良い。特に、デジタルアンプ11からスピーカー端子部32までの配線長が長い場合や、電波対策などでノイズフィルター等を挿入してある場合には、スピーカー端子部32近傍で残留キャリアレベルを検出することが好ましい。
【符号の説明】
【0047】
11:デジタルアンプ、 12:スピーカー、 23:比較回路、 24:増幅回路、 26:ローパスフィルター、 27:レベル検出部、 29:ミュート切替部、 30:接続切替回路、 31:制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーと接続されて用いられるデジタルアンプであって、
アナログ音声信号をパルス信号に変調する信号変調手段と、
変調した前記音声信号を増幅する増幅手段と、
増幅した前記音声信号をアナログ信号に復調しつつ、その高周波成分を減衰するローパスフィルターと、
起動時にテスト信号を入力するテスト信号入力手段と、
前記ローパスフィルターに通した後の前記テスト信号の残留キャリアレベルを検出するレベル検出手段と、
検出した前記テスト信号の残留キャリアレベルに基づいて、前記スピーカーがショートしているか否かを判定するショート判定手段と、を備えたことを特徴とするデジタルアンプ。
【請求項2】
前記スピーカーとの電気的接続を切断した状態で、第1の前記テスト信号を入力する切断時テスト信号入力手段を、更に備え、
前記テスト信号入力手段は、前記スピーカーとの電気的接続を接続した状態で第2の前記テスト信号を入力し、
前記ショート判定手段は、前記第1のテスト信号の残留キャリアレベルと、前記第2のテスト信号の残留キャリアレベルと、を比較して前記スピーカーがショートしているか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載のデジタルアンプ。
【請求項3】
前記ショート判定手段は、前記第1のテスト信号の残留キャリアレベルから、前記第2のテスト信号の残留キャリアレベルへの減少率が、所定率以上である場合、前記スピーカーがショートしているものと判定し、前記減少率が、所定率未満である場合、前記スピーカーがショートしていないものと判定することを特徴とする請求項2に記載のデジタルアンプ。
【請求項4】
前記ショート判定手段は、前記第1のテスト信号の残留キャリアレベルから、前記第2のテスト信号の残留キャリアレベルへの減少値が、所定値以上である場合、前記スピーカーがショートしているものと判定し、前記減少値が、所定値未満である場合、前記スピーカーがショートしていないものと判定することを特徴とする請求項2に記載のデジタルアンプ。
【請求項5】
前記テスト信号は、ミュート信号であることを特徴とする請求項1に記載のデジタルアンプ。
【請求項6】
前記ショート判定手段により、前記スピーカーがショートしているものと判定した場合、前記スピーカーとの電気的接続を切断するスピーカー切断手段を、更に備えたことを特徴とする請求項1に記載のデジタルアンプ。
【請求項7】
入力したアナログ音声信号を増幅し、ローパスフィルターを介して、スピーカーに出力するデジタルアンプの制御方法であって、
前記デジタルアンプが、
起動時にテスト信号を入力するテスト信号入力ステップと、
前記テスト信号を前記ローパスフィルターに通した後の残留キャリアレベルを検出するレベル検出ステップと、
検出した前記テスト信号の残留キャリアレベルに基づいて、前記スピーカーがショートしているか否かを判定するショート判定ステップと、を実行することを特徴とするデジタルアンプの制御方法。
【請求項8】
コンピューターに、請求項7に記載のデジタルアンプの制御方法における各ステップを実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−12973(P2013−12973A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145209(P2011−145209)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】