説明

デュアルクラッチ式変速機の制御方法とデュアルクラッチ式変速機とそれを搭載した車両

【課題】
発進段側のクラッチの負担を低減して、摩耗を抑制することができ、クラッチの交換期間を長くするデュアルクラッチ式変速機の変速装置とデュアルクラッチ式変速機とそれを搭載する車両を提供する。
【解決手段】
第1クラッチC1と結合する第1入力軸11、第2クラッチC2と結合する第2入力軸12、第1入力軸11及び第2入力軸12と、出力軸3との間にそれぞれ奇数段G1、G3、G5と偶数段G2、G4、G6のギア段を一段おきに配置し、
車両を発進するときに、発進段DG2を第2入力軸12に、発進段DG2よりも一段以上低いギア比を有した補助段SG1を第1入力軸11に、それぞれ同期係合させると共に、第1入力軸11に第1クラッチC1を、第2入力軸12に第2クラッチC2をそれぞれ同時に半結合(半クラッチ)させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2本の入力軸と2つのクラッチを備え、変速操作を円滑にしたデュアルクラッチ式変速機において、両クラッチの負担を低減すると共に、摩耗を抑制して、耐久性を高めたデュアルクラッチ式変速機の制御方法とデュアルクラッチ式変速機とそれを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速マニュアルトランスミッション(以下、AMTという)の変速時間改善のため、クラッチを2系統もつデュアルクラッチトランスミッション(以下、DCTという)が開発されている。DCTは通常、偶数段と奇数段のそれぞれにクラッチを持ち、両者を切り換えて変速していくため、偶数段(奇数段)の使用中に奇数段(偶数段)の変速操作を行うことができる。このDCTは変速タイムラグの無い素早い変速を可能とすると共に、クラッチで動力を伝達するため、構造がシンプルで動力損失も少なく伝達効率に優れており、燃費の向上にもつながる。
【0003】
ここで、従来のDCTについて図5及び図6を参照しながら説明する。図5に示すように、DCT1Xは、第1入力軸11、第2入力軸12、第1クラッチC1、第2クラッチC2、カウンターシャフト13、歯車段G1〜G6、歯車段GR、カップリングスリーブS1〜S3、及びカップリングスリーブSRを備える。
【0004】
クランクシャフト2からエンジン(内燃機関)の動力を第1クラッチC1又は第2クラッチC2を介して受け取り、各ギア段で変速して出力軸3へとその動力を伝達している。
【0005】
第2入力軸12を中空状に形成し、第1入力軸11を第2入力軸12内の同軸上になるように挿通する。ギア段G1、G3、G5、及びGRを第1入力軸11に配置し、ギア段G2、G4、及びG6を第2入力軸に配置する。第1クラッチC1を第1入力軸11に、又は第2クラッチC2を第2入力軸に結合すると共に、カウンターシャフト13に設けた各カップリングスリーブS1〜SRが各ギア段G1〜GRと同期係合することで、動力を伝達することができる。
【0006】
クラッチC1は、フライホイールC1a、クラッチカバーC1b、レリーズベアリングC1c、ダイヤフラムスプリングC1d、プレッシャープレートC1e、及びライニング、トーションダンパー、スラストなどからなるクラッチディスクC1fを備える。クラッチC2も同様の構成になる。
【0007】
また、上記のDCT1Xは、図6に示すように、ECU(制御装置)20、クラッチC1又はクラッチC2を動作させるクラッチ動作機構21、及びカップリングスリーブS1〜SRを動作させるシフト動作機構22を備える。クラッチ動作機構21及びシフト動作機構22には油圧ピストンなどを用いることができる。
【0008】
次に、このDCT1Xの発進動作を説明する。このDCT1Xはギア段G1を発進段DG1とする。車両が止まり、エンジンが停止すると、ECU20は、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の結合を解除すると共に、カップリングスリーブS1を発進段DG1に同期係合する。車両を発進するときには、第1クラッチC1を第1入力軸11と結合する。図6の矢印がこのときの動力の伝達を示している。
【0009】
次に、加速を円滑に行うために、カップリングスリーブS2をギア段G2に同期係合しておく。これにより、発進段DG1からギア段G2へ変更する場合は、第1クラッチC1と第1入力軸とを切り離し(以下、完断という)、第2クラッチC2を第2入力軸12と結合(以下、完接という)する。このように、交互に切り換えることができるため、変速操作を円滑にすることができる。
【0010】
しかし、上記のように、DCTにおいては、通常、発進には1速もしくは2速といった、決まったギア段が使用されるため、発進に用いられるクラッチは奇数段用か偶数段用のどちらか一方となる。発進時の結合ではクラッチにとって負荷が高く摩耗が進む状況にある。従って奇数段又は偶数段のどちらか一方のクラッチのみ摩耗が進行してしまう。
【0011】
このクラッチの摩耗を防ぐために、十分な容量のクラッチを用いればよいが、狭いスペースに2組のクラッチを収めているDCTでは、十分な容量をとることが難しい。また、この摩耗対策として、クラッチの摩耗状況や発進条件などにより発進段を使い分ける方法を採用した装置がある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。これらの装置はクラッチの摩耗状況により発進段を適宜選択することで摩耗を均等化できる。しかし、一方で発進フィーリングの変化により運転しづらい車両となるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−132562号公報
【特許文献2】特開2008−309325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、追加構成部品を必要とせず、且つ発進フィーリングを変化させずに、一方のクラッチにかかる負担を低減して、一方のクラッチのみの摩耗を抑制することができ、クラッチの交換時期を長くすることができるデュアルクラッチ式変速機の制御方法とデュアルクラッチ式変速機とそれを搭載する車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するためのデュアルクラッチ式変速機の制御方法は、少なくとも第1クラッチと結合する第1入力軸と第2クラッチと結合する第2入力軸とを備え、前記第1入力軸及び前記第2入力軸と、出力軸との間にそれぞれ奇数段と偶数段の歯車段を一段おきに配置し、動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、発進用の歯車段である発進段を前記第2入力軸に同期係合させると共に、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合させて動力の伝達を開始するデュアルクラッチ式変速機の制御方法において、前記動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、前記発進段を前記第2入力軸に、前記発進段よりも一段以上低い歯車比を有した補助段を前記第1入力軸に、それぞれ同期係合させると共に、前記第1入力軸に前記第1クラッチを、前記第2入力軸に前記第2クラッチをそれぞれ同時に半結合させることを特徴とする方法である。
【0015】
この方法によれば、車両の発進の瞬間に両クラッチを用いて、両クラッチでトルクを伝達して、発進段のクラッチの摩耗を抑制することができるので、クラッチの交換期間を長くすることができる。また、発進段と補助段でギア比が異なり、両者に繋がっているクラッチ双方が完接すると二重噛み合いとなり動作しなくなるか、又は片方のクラッチが滑り出すこととなるが、両者に繋がっている各クラッチが半結合の半クラッチ状態であり、回転数差を吸収するため、二重噛み合いとなることはない。この方法の場合は、一段以上低い歯車比を持つ補助段が必要であるため、発進段を2速段以上に設定する。例えば、発進段を2速段に設定し、補助段を1速段に設定する。
【0016】
また、上記のデュアルクラッチ式変速機の制御方法において、前記第1クラッチへ入力される回転数と前記第1クラッチから出力される回転数との差が予め定めた閾値よりも下回ったときに、前記第1入力軸から前記第1クラッチを切り離し、前記補助段と前記第1入力軸との同期係合を外すと共に、前記発進段よりも一段高い歯車比を有した加速段を前記第1入力軸に同期係合させてから、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合するようにする。
【0017】
この方法によれば、発進の瞬間に両クラッチでトルクを伝達する際に、補助段側のクラッチへ入力される回転数(クランクシャフトの回転数)と補助段側のクラッチから出力される回転数との差が、発進段側のクラッチよりも先に一致する。そのため、その回転数の差の値が予め定めた閾値である設定値よりも下回ったときは、補助段側のクラッチの半結合を完断して、発進段のみで回転の伝達を行う。これにより、補助段側のクラッチが滑り出して余計に摩耗してしまうことを防ぐことができる。また、発進段の次の加速段を予め同期係合しておくことで、スムースに加速することができる。
【0018】
上記の目的を達成するためのデュアルクラッチ式変速機は、少なくとも第1クラッチと結合する第1入力軸と第2クラッチと結合する第2入力軸とを備え、前記第1入力軸及び前記第2入力軸と、出力軸との間にそれぞれ奇数段と偶数段の歯車段を一段おきに配置し、動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、発進用の歯車段である発進段を前記第2入力軸に同期係合させると共に、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合して動力の伝達を開始するデュアルクラッチ式変速機において、前記発進段よりも一段以上低い歯車比を有している補助段と制御装置とを備え、前記制御装置に前記動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、前記発進段を前記第2入力軸に、前記補助段を前記第1入力軸に、それぞれ同期係合させる手段と、前記第1入力軸に前記第1クラッチを、前記第2入力軸に前記第2クラッチをそれぞれ同時に半結合させる手段とを備えて構成される。
【0019】
また、上記のデュアルクラッチ式変速機において、前記発進段よりも一段高い歯車比を有している加速段と、前記第1クラッチへ入力される回転数を検出する入力回転数センサと、前記第1クラッチから出力される回転数を検出する出力回転数センサとを備え、前記制御装置に、前記第1クラッチへ入力される回転数と前記第1クラッチから出力される回転数の差の値が予め定めた閾値よりも下回るか否かを判断する手段と、前記回転数の差の値が前記閾値よりも下回った場合に前記第1クラッチを前記第1入力軸から切り離す手段と、前記補助段と前記第1入力軸との同期係合を外して、前記加速段を前記入力軸に同期係合させる手段と、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合する手段とを備える。
【0020】
これらの構成によれば、従来のデュアルクラッチ変速機に部品を追加しなくとも、上記と同様の作用効果を得ることができるため、コストを抑えることができる。
【0021】
上記の目的を達成するための車両は、上記に記載のデュアルクラッチ式変速機を搭載して構成される。この構成によれば、クラッチの摩耗を均等化すると共に、発進フィーリングが変化しないため、運転し易い車両を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、追加構成部品を必要とせず、且つ発進フィーリングを変化させずに、一方のクラッチにかかる負担を低減して、一方のクラッチのみの摩耗を抑制することができ、クラッチの交換時期を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施の形態のデュアルクラッチ式変速機を示した概略図である。
【図2】本発明に係る実施の形態のデュアルクラッチ式変速機の発進動作を示し、(a)は発進前の状態を示し、(b)は発進した瞬間の状態を示し、(c)は回転数差が設定値よりも下回り、補助段側のクラッチを完断した状態を示し、(d)は加速時の状態を示した図である。
【図3】本発明に係る実施の形態のデュアルクラッチ式変速機の制御方法を示したフローチャートである。
【図4】本発明に係る実施の形態のデュアルクラッチ式変速機の各部動作を示した図である。
【図5】従来のデュアルクラッチ式変速機を示した図である。
【図6】従来のデュアルクラッチ式変速機を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態のデュアルクラッチ式変速機の制御方法とデュアルクラッチ式変速機とそれを搭載する車両について、図面を参照しながら説明する。なお、図5及び図6に示した従来のデュアルクラッチトランスミッション(DCT)1Xと同一の構成及び動作については同一の符号を用いて、その説明を省略する。また、本発明に係る実施の形態では6速のDCTを例にして説明するが、本発明のDCTは、例えば8速などでもよく、変速段の段数は限定しない。
【0025】
本発明に係る実施の形態のデュアルクラッチトランスミッション(デュアルクラッチ式変速機、以下DCTという)1は、図1に示すように、DCT1は、第1入力軸11、第2入力軸12、第1クラッチC1、第2クラッチC2、カウンターシャフト13、ギア段G1〜G6、ギア段GR、カップリングスリーブS1〜S3、カップリングスリーブSR、ECU(制御装置)20、クラッチ動作機構21、及び同期係合機構22を備え、図6に示す従来のDCT1Xと同様の構成を用いている。そして、図1に示すように、ギア段G2を発進段DG2、ギア段G1を補助段SG1、及びギア段G3を加速段AG3とすること、クラッチ動作機構21が両クラッチC1及びC2を同時に動作させることができる構成にすること、及び第1クラッチ入力回転数センサ23と第1クラッチ出力回転数センサ24を追加することが、従来のDCT1Xと相違する構成である。
【0026】
このDCT1は、自動変速マニュアルトランスミッションであれば、上記の構成に限らず、両入力軸の配置や、入力軸とクラッチの搭載数、及びギア段の数などを限定しない。例えば、両入力軸を同軸上に配置せずに、平行に配置し、両入力軸の間にカウンターシャフトを配置する構成や、また、クラッチを3つ備えたトリプルクラッチトランスミッションにも適用することができる。従って、従来のDCTであれば、特に追加構成部品を追加しなくともよいため、コストを低く抑えることができる。
【0027】
上記の構成のギア段G2を発進段DG2とし、発進段DG2よりも一段低いギア比(歯車比)で、第1入力軸11と同期係合するギア段G1を補助段SG1とする。また、発進段DG2よりも一段高いギア比で、第1入力軸11と同期係合するギア段G3を加速段AG3とする。この発進段は、ギア段G2(2速)以上であれば、どのギア段に設定してもよい。また、補助段は、発進段よりも一段以上低いギア比で、且つ発進段とは別の入力軸と同期係合すればよい。例えば、ギア段G3を発進段とする場合は、補助段をギア段G2に、また、加速段をギア段G4に設定する。
【0028】
ECU20は、エンジンコントロールユニットと呼ばれる制御装置であり、電気回路によってトランスミッションを含むパワープラント全体の制御を担当している。またエンジ
ンもコントロールしており、電気的な制御を総合的に行うマイクロコントローラである。オートマチック車においては、ECU20にあらゆる運転状態における最適制御値を記憶させ、その時々の状態をセンサで検出し、センサからの入力信号により、記憶しているデータの中から最適値を選出し各機構を制御している。
【0029】
このECU20は、第1クラッチC1を第1入力軸11に、また、第2クラッチC2を第2入力軸12に結合させる制御を、独立、且つ同時に行う。また、第1クラッチC1及び第2クラッチC2をそれぞれ半クラッチ(半結合)に制御することもできる。半クラッチとは、クラッチを完全につないでいない状態のことであり、この状態ではエンジンからの駆動力をトランスミッション、トランスファー、及びデフギアなどの動力伝達系に加減して伝えることができる。そのため、車両の進行速度とエンジンの回転数が合致しない低速走行時や停車時にも駆動力を車輪に伝えることができる。
【0030】
加えて、ECU20は、各ギア段G1〜GRをそれぞれ第1入力軸11又は第2入力軸12に各カップリングスリーブS1〜SRを介して同期係合させる制御も行う。この制御は、円滑な変速動作となるように、例えば、偶数段G2、G4、及びG6の使用中に奇数段G1、G3、及びG5の同期係合を行うことができる。
【0031】
クラッチ動作機構21は、クラッチC1及びC2を動作させ、それぞれを第1入力軸11と第2入力軸12とに結合することができ、且つ同時に動作させることができればよく、例えば油圧ピストンや電磁アクチュエータなどで構成する。シフト動作機構22は、各カップリングスリーブS1〜SRを揺動させるシフトフォークを含み、そのシフトフォークを動作させることができればよく、例えば油圧ピストンや電磁アクチュエータなどで構成する。クラッチ動作機構21とシフト動作機構22は上記の構成に限らず、クラッチ動作機構21は各クラッチC1及びC2を、シフト動作機構22はカップリングスリーブS3をそれぞれ動作することができればよい。
【0032】
第1クラッチ入力回転数センサ23は、第1クラッチC1の入力回転数Ninを検出することができるセンサであり、第1クラッチ出力回転数センサ24は、第1クラッチC2の出力回転数Noutを検出することができるセンサである。入力回転数Ninは、クランクシャフト2の回転数のことであり、既存のクランク角センサを用いることができる。また、出力回転数Noutは、第1クラッチC1を介すことで、入力回転数Ninより回転数が小さくなる第1入力軸11の回転数であり、既存の速度センサなどを用いることができる。この第1クラッチ出力回転数センサ24は、第1入力軸11に設ける以外に、補助段G1のギア比を考慮すれば、出力軸3に設けることもできる。
【0033】
次にDCT1の動作について、図2を参照しながら説明する。図2の(a)に示すように、車両を発進させる前、若しくは車両を発進させるときにECU20は発進段DG2を第2入力軸12に、また、補助段SG1を第1入力軸11にそれぞれ同期係合する。そして車両を発進するときに、図2の(b)に示すように、第1クラッチC1を第1入力軸11に、また、第2クラッチC2を第2入力軸12にそれぞれを同時に半クラッチにする。これにより、発進の瞬間に、両クラッチC1及びC2でトルクを伝達して、発進段DG2側の第2クラッチC2のみではなく、補助段SG1側の第1クラッチに一部のトルク伝達を負担することができる。
【0034】
次に、第1クラッチ入力回転数センサ23と第1クラッチ出力回転数センサ24とが検出した入力回転数Ninと出力回転数NoutをECU20に送り、ECU20でそれらの回転数差ΔN(Nin−Nout)を算出する。この回転数差ΔNが予め定めた値である設定値Nlimを下回った場合に、図2の(c)に示すように、半クラッチ状態の補助段SG1側の第1クラッチC1を第1入力軸11から完断する。第1クラッチC1が完断
となったら即座に補助段SG1の同期係合を外し、加速段AG3を同期係合する。なお、この間も発進段DG2側にてトルク伝達が行われており、車両の加速は続いている。
【0035】
加速段AG3の同期係合が完了すると、発進段DG2側の第2クラッチC2を第2入力軸12に完接する。加速する場合は、図2の(d)に示すように、発進段DG2側の第2クラッチC2を第2入力軸12から完断し、加速段AG3側の第1クラッチC1を第1入力軸11に完接する。
【0036】
この動作によれば、発進時に両クラッチC1、C2を用いるため、発進段DG2側の第2クラッチC2の摩耗を抑制することができので、両クラッチC1及びC2の交換期間を長くすることができる。
【0037】
また、発進段DG2と補助段SG1でギア比が異なり、両者につながっている両クラッチC1及びC2が完接すると二重噛み合いとなり動作しなくなるが、発進中、両者につながっている各クラッチC1及びC2が半クラッチにて回転数差を吸収するため、二重噛み合いを防ぐことができる。そのため、両クラッチC1及びC2を同時に用いることができる。加えて、補助段SG1側の第1クラッチC1の方が先に入出力の回転数差ΔNが一致するので、その回転数差ΔNが設定値Nlimよりも小さくなったときに第1クラッチC1を完断することで、第1クラッチが滑り出し、余計に摩耗することを防ぐことができる。
【0038】
加えて、発進段DG2よりも一つ高いギア比の加速段AG3を第1入力軸11に同期係合してから、発進段DG2を完接すると、加速するときに、各クラッチC1及びC2の切り換えだけでスムースに加速することができる。
【0039】
次に、DCT1の制御方法について、図3を参照しながら説明する。まず、車両を停止するか否かを判断するステップS1を行う。車両が停止していると判断すると、次に、第1クラッチC1を第1入力軸11から、又は、第2クラッチC2を第2入力軸12から完断するステップS2を行う。次に、発進段DG2と補助段SG1とをそれぞれ第2入力軸12又は第1入力軸11に同期係合するステップS2を行う。このステップS2ではECU20はシフト動作機構22を動作させて、カップリングスリーブS2とカップリングスリーブS1とを揺動して、発進段DG2と補助段SG1を同期係合する。
【0040】
次に、車両の発進操作が行われたか否かを判断するステップS4を行う。車両の発進操作が行われたと判断すると、次に第1クラッチC1を第1入力軸11に、及び第2クラッチC2を第2入力軸12にそれぞれ半クラッチ状態で結合するステップS5を行う。このステップS5により、車両を発進する瞬間に、クランク軸2からの動力を両クラッチC1及びC2で伝達して、出力軸3へと伝達することができる。
【0041】
次に、第2クラッチC2が第2入力軸12と完接しているか否かを判断するステップS6を行う。ステップS5で第2クラッチC2は半クラッチになっているため、次の第1クラッチC1が第1入力軸11と完断しているか否かを判断するステップS7を行う。ここでもステップS5で第1クラッチC1は半クラッチになっているため、次のステップへと進む。
【0042】
次に、第1クラッチC1の入力回転数Ninと、出力回転数Noutとの回転数差ΔNを算出するステップS8を行う。次に、回転数差ΔNが予め定めた閾値である設定値Nlimよりも小さいか否かを判断するステップS9を行う。発進段DG2よりも補助段SG1のギア比が低いため、先に回転数差ΔNが一致してしまう。仮に、この回転数差ΔNの値が0になる、つまり一致すると、第1クラッチC1が滑り出して、余計に摩耗してしま
う。そこで、設定値Nlimを、好ましくは「設定値Nlim=回転数差ΔN>0」となるような値に設定する。このステップS9で回転数差ΔNが設定値Nlim以上の場合は、再度ステップS6に戻って、ステップS6からステップS9までを行う。
【0043】
次に、回転数差ΔNが設定値Nlimよりも小さいと判断されると第1クラッチC1を第1入力軸11から完断するステップS10を行う。ステップS10が完了すると次に、ステップS6に戻る。現時点では、第1クラッチC1は完断、第2クラッチC2は半クラッチ、発進段DG2は同期係合、及び補助段SG1は同期係合の状態である。
【0044】
よって、ステップS6は否であり、ステップS7に進む。ステップS7で、第1クラッチC1が完断していると判断されると、次に、補助段SG1の同期係合が外れているか否かを判断するステップS11を行う。補助段SG1の同期係合は外れていないため、次の補助段SG1の同期係合を外すステップS12を行う。ステップS12が完了するとステップS6に戻る。現時点では、第1クラッチC1は完断、第2クラッチC2は半クラッチ、発進段DG2は同期係合、補助段SG1は同期係合が解除の状態である。
【0045】
次に、ステップS6、ステップS7、そしてステップS11へと進み、補助段SG1の同期係合が外れていると判断されると、次に、加速段AG3を同期係合するステップS13を行う。ステップ13が完了すると第2クラッチC2を第2入力軸12に完接するステップS14を行う。ステップS14が完了するとステップS6へと戻る。現時点では、第1クラッチC1は完断、第2クラッチC2は完接、発進段DG2は同期係合、補助段SG1は同期係合が解除、加速段AG2は同期係合の状態である。
【0046】
ステップS6で第2クラッチC2が完接していると判断されるとこの制御方法は終了する。
【0047】
この方法によれば、発進に両クラッチC1及びC2を用いるため発進段DG2側の第2クラッチC2にかかる負担を低減して、第2クラッチC2の摩耗を抑制することができる。そのため、両クラッチC1及びC2の交換時期を長くすることができる。また、両クラッチC1及びC2を独立して、且つ同時に操作することができれば、上記の作用効果を得ることができるため、従来のDCTに追加構成部品などを必要としないため、コストを抑えることができる。加えて、発進段DG2が発進の度に変わらないため、発進フィーリングを変化させずに、両クラッチC1及びC2の摩耗を抑制することができる。
【0048】
さらに、摩耗を抑制するために両クラッチC1及びC2を利用することで発生する二重噛み合いの問題を両クラッチC1及びC2を半クラッチにすることで、解決することができる。これは、各クラッチが半クラッチにて回転数差を吸収するためである。もう一つの片方のクラッチが滑り出す問題を、補助段SG1の回転数差ΔNが予め定めた閾値である設定値Nlimよりも小さいか否かを判断して、回転数差ΔNが小さい場合を補助段SG1側の第1クラッチC1を完断するタイミングとしていることで解決することができる。
【0049】
次に、上記の制御方法によって、各部がどのように動作しているかを、図4を参照しながら説明する。時間t0を発進操作が行われた時間、時間t1を回転数差が設定値を下回った時間、時間t2を第1クラッチC1が完断した時間、時間t3を補助段SG1の同期係合が外れる時間、時間t4を加速段AG3の同期係合が完了した時間、及び時間t5を第2クラッチが完接する時間とする。
【0050】
時間t0に発進操作が行われ、その発進操作を判断して、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが半クラッチになる。これにより、車両の発進の瞬間には両クラッチC1及びC2とでトルクを伝達することができる。補助段SG1の入力回転数Ninはしばらくす
ると一定になるが、出力回転数Noutは徐々に増加していく。よって、回転数差ΔNは徐々に小さくなる。時間t1で、回転数差ΔNが設定値Nlimを下回り、補助段SG1側の第1クラッチC1を完断し始める。
【0051】
時間t2で、補助段SG1の同期係合を外し始める。そして、時間t3で、加速段AG3を同期係合し始める。加速段AG3の同期係合が完了する時間t4で発進段G2を半クラッチから完接し始め、時間t5で、発進段DG2側の第2クラッチC2の完接が完了する。
【0052】
上記の動作からわかるように、従来のDCTに、本発明の制御方法を適用すると、二重噛み合いや片方のクラッチが滑ってしまうことなく、発進段DG2側の第2クラッチC2の負担を低減し、摩耗を抑制することができる。
【0053】
上記に記載のDCT1を搭載する車両は、両クラッチC1及びC2の摩耗を均等化して、両クラッチC1及びC2の交換期間を従来よりも長くすることができる。また、発進フィーリングが変化させずに上記の作用効果を得ることができるため、運転し易い車両を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のデュアルクラッチ式変速機の制御方法は、追加構成部品を必要とせずに、且つ発進フィーリングを変化させることなく、発進段側のクラッチの負担を低減して、摩耗を抑制することができるので、クラッチの交換期間を長くすることができる。そのため、スムースな変速操作によって低燃費を実現するためにデュアルクラッチ式変速機を搭載したトラックなどの大型車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 DCT(デュアルクラッチ式変速機)
11 第1入力軸
12 第2入力軸
13 カウンターシャフト
C1 第1クラッチ
C2 第2クラッチ
SG1 補助段
DG2 発進段
AG3 加速段
G4〜G6、GR ギア段
S1〜S3 カップリングスリーブ
20 ECU(制御装置)
21 クラッチ動作機構
22 シフト動作機構
23 第1クラッチ入力回転数センサ
24 第1クラッチ出力回転数センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1クラッチと結合する第1入力軸と第2クラッチと結合する第2入力軸とを備え、前記第1入力軸及び前記第2入力軸と、出力軸との間にそれぞれ奇数段と偶数段の歯車段を一段おきに配置し、
動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、発進用の歯車段である発進段を前記第2入力軸に同期係合させると共に、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合させて動力の伝達を開始するデュアルクラッチ式変速機の制御方法において、
前記動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、前記発進段を前記第2入力軸に、前記発進段よりも一段以上低い歯車比を有した補助段を前記第1入力軸に、それぞれ同期係合させると共に、前記第1入力軸に前記第1クラッチを、前記第2入力軸に前記第2クラッチをそれぞれ同時に半結合させることを特徴とするデュアルクラッチ式変速機の制御方法。
【請求項2】
前記第1クラッチへ入力される回転数と前記第1クラッチから出力される回転数との差が予め定めた閾値よりも下回ったときに、前記第1入力軸から前記第1クラッチを切り離し、前記補助段と前記第1入力軸との同期係合を外すと共に、前記発進段よりも一段高い歯車比を有した加速段を前記第1入力軸に同期係合させてから、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合することを特徴とする請求項1に記載のデュアルクラッチ式変速機の制御方法。
【請求項3】
少なくとも第1クラッチと結合する第1入力軸と第2クラッチと結合する第2入力軸とを備え、前記第1入力軸及び前記第2入力軸と、出力軸との間にそれぞれ奇数段と偶数段の歯車段を一段おきに配置し、
動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、発進用の歯車段である発進段を前記第2入力軸に同期係合させると共に、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合して動力の伝達を開始するデュアルクラッチ式変速機において、
前記発進段よりも一段以上低い歯車比を有している補助段と制御装置とを備え、
前記制御装置に前記動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、前記発進段を前記第2入力軸に、前記補助段を前記第1入力軸に、それぞれ同期係合させる手段と、前記第1入力軸に前記第1クラッチを、前記第2入力軸に前記第2クラッチをそれぞれ同時に半結合させる手段とを備えることを特徴とするデュアルクラッチ式変速機。
【請求項4】
前記発進段よりも一段高い歯車比を有している加速段と、前記第1クラッチへ入力される回転数を検出する入力回転数センサと、前記第1クラッチから出力される回転数を検出する出力回転数センサとを備え、
前記制御装置に、前記第1クラッチへ入力される回転数と前記第1クラッチから出力される回転数の差の値が予め定めた閾値よりも下回るか否かを判断する手段と、前記回転数の差の値が前記閾値よりも下回った場合に前記第1クラッチを前記第1入力軸から切り離す手段と、前記補助段と前記第1入力軸との同期係合を外して、前記加速段を前記入力軸に同期係合させる手段と、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合する手段とを備えることを特徴とする請求項3に記載のデュアルクラッチ式変速機。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のデュアルクラッチ式変速機を搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−15183(P2013−15183A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148151(P2011−148151)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】