説明

トラクタ

【課題】軽負荷の作業時には燃料を無駄に消費することのないトラクタを構成する。
【解決手段】アクセルペダル35の操作に対応した燃料をエンジンEに供給する燃料供給制御手段51を備え、この燃料供給制御手段51による燃料供給に優先して燃料供給量設定ダイヤル41で人為的に設定される上限値未満の燃料の供給を行う燃料制限制御手段52を備え、過負荷が作用する場合にのみ上限値を超える燃料の供給を許す燃料強制供給手段53を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセル操作具の操作位置に対応した燃料をエンジンに供給する燃料供給制御手段が備えられているトラクタに関し、詳しくは、エンジンの回転を制限する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成されたトラクタに関連するものとして特許文献1には、エンジンの回転数と出力トルクとの関係において走行モードと、通常作業モードと、重作業モードとの3種類のモードの切り換えを行えるものが示されている。
【0003】
具体的には、走行モードでは、エンジン回転数の変動を許すドループ制御を行い、通常作業モードでは、負荷が変動してもエンジン回転数が一定となるアイソクロナス制御を行い、重作業モードでは通常作業モードと同様にエンジン回転数を一定にするアイソクロナス制御に加えて、負荷限界近くになると回転数を上昇させる制御を行う点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009‐132310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トラクタでの作業を例に挙げると、例えば、車体を移動させるだけの軽負荷の作業ではエンジン回転を高める必要はなくエンジンを低速で駆動することで済む。また、車体を移動させるものより大きいエンジンの出力を要するものでも播種作業や肥料散布のように比較的軽負荷の作業ではエンジンの高速回転は必要としない。
【0006】
このような現状に対して、アクセルペダルを備えたトラクタでは、アクセルペダルの操作に対応してエンジン回転の制御を任意に設定できるため、車体を移動させる際にアクセルペダルを大きく踏み込んだ場合には、エンジンを高速回転させるものであった。このようにエンジンを高速回転させた場合には必然的に燃料の消費量が増大するものとなり、燃費の低下に繋がっていた。そこで、燃料の供給量を制限することも考えられるが、供給量を単純に制限するだけでは大きい負荷が作用した場合にエンジンストールに繋がることも考えられ改善の余地がある。
【0007】
本発明の目的は、軽負荷の作業時には燃料を無駄に消費することがなく、エンジンストールに陥る不都合も解消できるトラクタを合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は、アクセル操作具の操作位置に対応した燃料をエンジンに供給する燃料供給制御手段が備えられているトラクタであって、
前記燃料供給制御手段によって供給可能な燃料の上限値を設定すると共に、前記アクセル操作具が前記上限値を超える量の燃料供給を設定する位置に操作された場合には前記上限値の燃料を前記エンジンに供給する燃料制限制御手段が備えられ、
前記燃料制限制御手段によって燃料の供給量が制限されている状況下で、エンジン負荷が設定値を超えた際に、前記燃料制限制御手段の制限に優先して燃料の供給量の増大を許す燃料強制供給手段が備えられている点にある。
【0009】
この構成によると、燃料制限制御手段によって燃料の供給量の上限値が設定されることにより、アクセル操作具を操作した場合には、その操作位置が上限値未満の燃料供給位置にある場合には、アクセル操作具の操作位置に対応した燃料供給が可能となる。また、アクセル操作具の操作位置が上限値を超える燃料供給位置である場合には、燃料制限制御手段で設定された上限値の燃料がエンジンに供給されることになり、結果として燃料の供給量は上限値を超えることがない。更に、燃料の供給量の上限値が設定されている状況下で、エンジン負荷が設定値を超えた場合には、人為的な操作を行わずとも燃料制限制御手段の制限に優先して、燃料強制供給手段が燃料の供給量の増大を図ることになり、エンジンストールを招くことがない。その結果、軽負荷の作業時には燃料を無駄に消費することがなく、エンジンストールに陥る不都合も解消できるトラクタが構成された。
【0010】
本発明は、前記燃料制限制御手段は、人為操作具の設定位置に対応して前記上限値を任意に設定できると共に、この人為操作具の操作によって上限値の設定と解除との選択を行っても良い。
【0011】
これによると、人為操作具の設定位置に対応した上限値を設定できると共に、この人為操作具の操作により上限値の設定と解除とが可能となり、エンジンに供給する燃料の上限値を設定する状態と、エンジンに対して上限を設定することなく燃料を供給する状態とを現出できる。
【0012】
本発明は、車体に備えられる作業装置の種類を判別する作業装置判別手段を備え、前記燃料制限制御手段は、前記作業装置判別手段で判別される作業装置に対応して上限値を設定しても良い。
【0013】
これによると、車体に備えた作業装置の種類に対応して自動的に上限値が設定されることになり、例えば、作業装置による作業時にエンジン負荷が比較的低い場合には上限値を低く設定し、作業装置による作業のエンジン負荷が比較的高い場合には上限値を高く設定することにより、作業装置の種類に対応して適切な上限値を設定することが可能となり、人為的に操作する手間を省ける。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】トラクタの全体側面図である。
【図2】ロータリ耕耘装置の昇降作動系を示す斜視図である。
【図3】トラクタの運転部の平面図である。
【図4】トラクタの制御系を示すブロック回路図である。
【図5】エンジンの制御系を示すブロック図である。
【図6】燃料供給制御のフローチャートである。
【図7】トルク・燃料噴射量とエンジン回転数との関係をグラフ化した図である。
【図8】別実施形態(a)のエンジンの制御系を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
図1に示すように、走行装置として左右一対の前車輪1と左右一対の後車輪2とを備えた車体Aの中央位置に運転部Acを配置すると共に、この車体Aの後端に昇降自在、かつ、ローリング自在に作業装置としてのロータリ耕耘装置Rを連結してトラクタが構成されている。
【0016】
このトラクタは、車体Aの前部位置のエンジンフード内に水冷式のディーゼルエンジンE(以下、エンジンEと略称する)を備え、車体Aの中央位置で運転部Acの下側から後端に亘る部位にミッションケースMを備えている。ミッションケースMは、エンジンEの駆動力を変速して前車輪1と後車輪2と伝える機能を有した変速装置Mtを備え、変速駆動力を車体後端の出力軸としてのPTO軸3に伝える。
【0017】
図4に示すようにエンジンEには、燃料噴射量や噴射タイミングを電子制御するコモンレール式の燃料噴射装置を備えている。燃料噴射装置は、燃料タンク5に貯留した燃料を圧送するサプライポンプ6と、圧送した燃料を蓄圧するコモンレール7と、蓄圧した燃料を燃焼室(図示せず)に噴射する電子制御式の複数のインジェクタ8と、コモンレール7の内圧を検出する圧力センサ9と、エンジンEの回転速度を計測するピックアップ式の回転センサ10とを備えている。尚、エンジンEはガソリンエンジンであっても良い。
【0018】
図面には示していないが、前述した変速装置Mtは、作業者の変速操作時に伝動系の油圧クラッチの切り作動を行い、次に、アクチュエータとしての油圧式のシフトシリンダの作動で変速ギヤのシフト作動を行い、次に、油圧クラッチの入り作動を行い、これらの作動を短時間のうちにシーケンシャルに実行することで作業者が主クラッチを人為的に切り操作せずとも変速を実現する。尚、この変速装置Mtでは、シフトシリンダの駆動力で作動するシフタを有したシンクロメッシュ式のギヤ変速系と、油圧によって作動するシフトシリンダと、油圧によって入り切り作動する油圧クラッチと、これらを連係させるパイロット油圧系等を備えている。
【0019】
本発明のトラクタの変速装置Mtは、前述したようにシフトシリンダで変速作動を行うものに限るものではなく、伝動系のギヤ変速部毎に油圧クラッチ(アクチュエータとして機能することになる)を備え、作業者の変速操作時には複数の油圧クラッチのうちの何れかを選択的に入り作動させることで、そのギヤ変速部からの変速駆動力を取り出す変速構造を備えたものであっても良い。
【0020】
図1及び図2に示すように、車体Aの後端でミッションケースMの上部位置には、リフトシリンダ11の作動により揺動端が昇降作動する左右一対のリフトアーム12を備え、このリフトアーム12の基端位置には揺動角を計測するリフトアームセンサ12Sを備えている。ロータリ耕耘装置Rは、単一のトップリンク13と左右一対のロアーリンク14とで成る3点式のリンク機構を介して車体Aの後端に連結している。左右のロアーリンク14と、左右のリフトアーム12とがリフトロッド15によって連結され、左右のリフトロッド15のうちの一方には複動型のローリングシリンダ15Cが介装され、これと平行する位置にローリングシリンダ15Cの伸縮量を計測するストロークセンサ15Sが備えられている。
【0021】
ロータリ耕耘装置Rは、前述したPTO軸3からの駆動力がユニバーサルジョイントを有した伝動軸16を介して伝えられる横フレーム17と、この横フレーム17から動力が伝えられる伝動ケース18と、この伝動ケース18から動力が伝えられ横向き姿勢の駆動軸芯周りで回転するロータリ軸19とを備えている。このロータリ軸19には多数の耕起爪20が備えられ、ロータリ耕耘装置Rの上部カバー21の後部位置には横向きの揺動軸芯周りで揺動自在に支持された後部カバー22が備えられている。
【0022】
上部カバー21には、後部カバー22の揺動量から耕深を検出する耕深検出手段としてのカバーセンサ23を備えている。また、車体Aの後端位置には車体Aのローリング角を検出するローリング角センサ24を備えている。
【0023】
図1及び図3に示すように、運転部Acは、側面のガラス壁と、上部のルーフとを有するキャビン30を備え、このキャビン30の内部に作業者が着座する運転座席31を備えている。運転座席31の前方位置には、前車輪1を操向操作するステアリングホイール32と、エンジンEの回転数を設定するアクセル操作具としてのアクセルレバー33と、ロータリ耕耘装置Rの強制的な昇降を行う強制昇降レバー34とが配置され、この下方位置にアクセル操作具としてのアクセルペダル35が配置されている。運転座席31の側方位置には、走行速度を設定する変速操作具としての主変速レバー36と、ロータリ耕耘装置Rの昇降制御を行うポジションレバー37とを備えると共に、ロータリ耕耘装置Rの自動耕深制御時の耕深を設定する耕深設定ダイヤル38と、強制上昇時におけるロータリ耕耘装置Rの目標上限(上昇位置)を設定する上限設定ダイヤル39と、ロータリ耕耘装置Rの目標ローリング角を設定するローリング角設定ダイヤル40と、エンジンEに供給する燃料の上限値を任意に設定する人為操作具としての燃料供給量設定ダイヤル41とを備えている。
【0024】
アクセルレバー33は、手動操作によりエンジンEの回転速度を任意に設定して保持するように摩擦保持構造を有し、アクセルペダル35は、踏み込み操作によりエンジンEの回転速度を任意に設定し、非操作時には低速回転側に復帰するようにバネ付勢構造を有している。
【0025】
ポジションレバー37は、揺動操作型で任意の操作位置に摩擦式に保持できる構造を有しており、車体後方側への操作でロータリ耕耘装置Rを上昇(リフトアーム12の揺動端を上昇)させ、車体後方側への操作でロータリ耕耘装置Rを下降(リフトアーム12の揺動端を下降)させ、その揺動位置に対応した対車体高さにロータリ耕耘装置Rの高さを設定するポジション制御を実現する。特に、ポジションレバー37を前方側の操作端(最下降側)に操作することで自動耕深制御への移行が実現する。
【0026】
強制昇降レバー34は、中立位置を基準にして上側の上昇操作位置と、中立位置を基準にして下側の下降操作位置とに操作自在で、非操作状態で中立位置に保持されるようにバネ付勢されている。この強制昇降レバー34は、自動耕深制御時に作業者によって上昇操作位置に短時間でも操作された場合に、自動耕深制御に優先してロータリ耕耘装置Rを上限設定ダイヤル39で設定される目標上限まで上昇させて停止させる強制上昇制御を実現する。更に、この上昇状態において作業者によって下降操作位置に短時間でも操作された場合にはロータリ耕耘装置Rを下降させて自動耕深制御へ移行させる制御を実現する。
【0027】
耕深設定ダイヤル38は、回転操作により自動耕深制御における目標耕深を任意に設定するものであり、自動耕深制御では、この耕深設定ダイヤル38で設定される目標耕深に、カバーセンサ23で検出されるロータリ耕耘装置Rの耕深が維持されるようにリフトシリンダ11の制御が行われる。
【0028】
ローリング角設定ダイヤル40は、回転操作によりローリング制御における目標ローリング角を任意に設定するものであり、ローリング制御では、ストロークセンサ15Sの計測結果とローリング角センサ24の計測結果とに基づいてロータリ耕耘装置Rの対地ローリング角が演算され、このように演算された対地ローリング角が、目標ローリング角に維持されるようにローリングシリンダ15Cを伸縮作動させる制御が行われる。
【0029】
燃料供給量設定ダイヤル41は、回転操作によりアクセルレバー33やアクセルペダル35の設定に優先してエンジンEに供給する燃料の上限値を任意に設定すると共に、上限値に設定と解除との選択を行えるように、図4、図5に示す如くOFF領域と、これに隣接する設定領域とに操作可能である。この燃料供給量設定ダイヤル41が設定領域に操作されることで上限値が設定され、この上限値未満の領域においてアクセルレバー33やアクセルペダル35の設定に対応した燃料の供給を可能にし、OFF領域に設定されることにより上限値が解除される(上限値を非設定にする)。尚、設定領域ではOFF領域に近い領域で燃料の制限量(制限率)が低く、OFF領域から離間する領域ほど燃料の制限量(制限率)が高くなり最大制限位置で制限量が最大となる。
【0030】
主変速レバー36は、揺動操作型に構成され任意の変速位置に保持可能であり、この変速位置に対応して変速装置Mtのシフトシリンダと油圧クラッチとを制御することで変速位置に対応した変速段(変速状態)が作り出される。
【0031】
このように、このトラクタではポジション制御と、自動耕深制御と、ローリング制御とが可能であり、また、主変速レバー36の操作に対応した変速制御が可能である。
【0032】
特に、このトラクタは、燃料供給量設定ダイヤル41の設定に基づいて燃料の供給量の上限値を電気的に設定する制御で実現する制御系を備えており、この制御系の構成と制御形態とを以下に説明する。
【0033】
〔制御構成〕
図4に示すように、このトラクタにはエンジンEを制御するようにマイクロプロセッサやメモリ等を有したエンジンECU50と、ロータリ耕耘装置Rの昇降やローリングを制御し、変速装置Mtの変速制御を行うようにマイクロプロセッサやメモリ等を有したメインECU60とを備えており、このエンジンECU50とメインECU60との間ではCAN(Controller Area Network)通信などの車内通信により相互に情報のアクセスを行う信号系が構成されている。
【0034】
エンジンECU50には、エンジンEの回転速度をアクセルレバー33又はアクセルペダル35で設定される目標回転速度に対応した量の燃料を供給する燃料供給制御手段51と、この燃料供給制御手段51による燃料の供給に優先して燃料供給量設定ダイヤル41によって設定されている上限値未満の量の燃料の供給を許す燃料制限制御手段52と、燃料制限制御手段52の燃料供給の制限に優先して燃料の供給量の増大を許す燃料強制供給手段53とを備えている。尚、アクセルレバー33とアクセルペダル35とが同時に操作された場合には、燃料を多く供給する側(高速側)の設定が目標回転速度として取得される。
【0035】
メインECU60は、ポジション制御を実現するポジション制御手段61と、自動耕深制御を実現する自動耕深制御手段62と、ロータリ耕耘装置Rの強制上昇制御及び強制下降制御を実現する強制昇降制御手段63と、ロータリ耕耘装置Rのローリング制御を実現するローリング制御手段64と、変速装置Mtの変速を実現する変速制御手段65とを備えている。
【0036】
前述した燃料供給制御手段51と、燃料制限制御手段52と、燃料強制供給手段53と、ポジション制御手段61と、自動耕深制御手段62と、強制昇降制御手段63と、ローリング制御手段64と、変速制御手段65とはソフトウエアで構成されるものであるが、これらをソフトウエアとハードウエアとの組み合わせによって構成して良く、また、これらをハードウエアのみによって構成しても良い。
【0037】
エンジンECU50は、アクセルレバー33によるアクセル設定位置を検出するポテンショメータ型等のレバーセンサ33Sと、アクセルペダル35によるアクセル設定位置を検出するポテンショメータ型等のペダルセンサ35Sと、エンジンEの回転速度を計測するピックアップ型等の回転センサ10と、前述したコモンレール7の内圧を検出する圧力センサ9と、燃料供給量設定ダイヤル41の設定位置を検出するポテンショメータ型のダイヤルセンサ41Sとからの信号が入力する。
【0038】
メインECU60は、強制昇降レバー34の操作を検出する昇降スイッチ34Sと、ポジションレバー37の操作位置を検出するポテンショメータ型等のポジションセンサ37Sと、主変速レバー36の設定位置を検出するポテンショメータ型やロータリスイッチ型等の変速位置センサ36Sと、耕深設定ダイヤル38の設定位置を検出するポテンショメータ型等の耕深設定器38Sと、上限設定ダイヤル39の操作位置を検出するポテンショメータ型等の上限設定器39Sと、ローリング角設定ダイヤル40の操作位置を検出するポテンショメータ型等のローリング角設定器40Sと、ポテンショメータ型等のリフトアームセンサ12Sと、ポテンショメータ型等のストロークセンサ15Sと、ポテンショメータ型等のカバーセンサ23とからの信号が入力する。
【0039】
更に、このメインECU60は、リフトシリンダ11への作動油の給排を行う電磁式の昇降制御弁11Vと、ローリングシリンダ15Cへの作動油の給排を行う電磁式のローリング制御弁15Vと、変速装置Mtとに制御信号を出力する。
【0040】
エンジンECU50では、アクセルレバー33の設定位置をレバーセンサ33Sの信号から取得し、また、アクセルペダル35の操作位置をペダルセンサ35Sの信号から取得し、燃料供給制御手段51が、アイソクロナス制御やドループ制御に対応して燃料噴射量や噴射タイミングを制御して目標とする回転速度に設定する制御を行う。尚、アクセルレバー33を任意の位置に設定した状態で、アクセルペダル35を踏み込み操作した場合には、アクセルレバー33の設定位置を超える場合にのみ、エンジンEの回転速度を高める制御が行われる。
【0041】
メインECU60において、ポジション制御手段61がポジション制御を実行する際には、ポジションレバー37の操作位置をポジションセンサ37Sで取得し、このように取得した位置を目標高さに設定し、リフトアームセンサ12Sでロータリ耕耘装置Rの対車体高さを検出し、この対車体高さを目標高さに合致させるように昇降制御弁11Vを操作してリフトアーム12を作動させる制御が行われる。
【0042】
また、自動耕深制御手段62が自動耕深制御を実行する際には、耕深設定ダイヤル38の設定位置を耕深設定器38Sで取得し、このように取得した位置を目標耕深に設定し、カバーセンサ23の検出情報からロータリ耕耘装置Rの耕深(実耕深)を取得し、この耕深(実耕深)を目標耕深に合致させるように昇降制御弁11Vを操作してリフトアーム12を作動させる制御が行われる。
【0043】
また、ローリング制御手段64がローリング制御を実行する際には、ローリング角設定ダイヤル40の設定位置をローリング角設定器40Sで取得して目標ローリング角に設定し、ストロークセンサ15Sの計測結果とローリング角センサ24の計測結果とに基づいてロータリ耕耘装置Rの対地ローリング角を演算によって取得し、この対地ローリング角を目標ローリング角に合致させるようにローリング制御弁15Vを操作してローリングシリンダ15Cを作動させる制御が行われる。
【0044】
更に、自動耕深制御の実行時に強制昇降レバー34が強制上昇位置に操作されたことを昇降スイッチ34Sが取得した場合には、強制昇降制御手段63が上限設定ダイヤル39の設定位置を上限設定器39Sで取得して目標上限に設定し、リフトアームセンサ12Sで検出される対車体高さを目標上限に合致させるように昇降制御弁11Vを操作してリフトアーム12を作動させる形態となる強制上昇制御が行われる。
【0045】
このように強制上昇制御によってロータリ耕耘装置Rが上昇位置(目標上限)にある状態で強制昇降レバー34が強制下降位置に操作された場合には、強制昇降制御手段63がリフトアームセンサ12Sで検出される対車体高さを下限まで下降させ、自動耕深制御に移行させて昇降制御弁11Vを操作する強制下降制御が行われる。
【0046】
尚、強制下降制御を開始するタイミングでは後部カバー22の後端が垂れ下がる姿勢にあるので、この時点で自動耕深制御に移行することでロータリ耕耘装置Rが下降する制御が行われるため、強制昇降レバー34が強制下降位置に操作されたタイミングで自動耕深制御に移行して強制下降制御を実現しても良い。
【0047】
〔制御形態〕
この制御形態を図6のフローチャートに示しており、この制御における情報の流れを図5に示し、また、図7には制御時のエンジンEに対する燃料の供給量(燃料噴射量・トルク)とエンジン回転数(回転速度)との関係をグラフ化した図を示している。
【0048】
この制御では、燃料供給量設定ダイヤル41がOFF領域にある場合には、燃料供給制御手段51がアクセルレバー33とアクセルペダル35との設定位置のうち高速側をアクセル設定位置として取得すると共に、この燃料供給制御手段51がインジェクタ8による燃料の噴出量を制御することでアクセル位置に対応した燃料をエンジンEに供給する制御が行われる(#101、#102ステップ)。
【0049】
また、燃料供給量設定ダイヤル41がOFF領域にない場合には、燃料制限制御手段52が燃料供給量設定ダイヤル41の設定位置を上限位置としてダイヤルセンサ41Sから取得すると共に、燃料供給制御手段51がアクセルレバー33の設定位置をレバーセンサ33Sから取得し、アクセルペダル35の設定位置をペダルセンサ35Sから取得する(#101、#103、#104ステップ)。
【0050】
次に、アクセル設定位置が上限値を超えていない場合には、アクセル設定位置に対応した量の燃料の供給を行うようにインジェクタ8による燃料の噴射量を設定する(#105、#102ステップ)。また、アクセル設定位置が上限値を超えている場合には、燃料強制供給手段53がエンジン負荷を取得し、この燃料強制供給手段53がエンジン負荷が設定値未満であることを判別した場合にはインジェクタ8による燃料の噴射量を上限値に維持する(#105〜#108ステップ)。
【0051】
更に、アクセル設定位置が上限値を超えている場合でエンジン負荷が設定値を超えることを判別した場合には、アクセル設定位置に対応した燃料の供給を行うようにインジェクタ8による燃料の噴射量を設定する(#105〜#108ステップ・#102ステップ)。尚、エンジン負荷の設定値とは、エンジンストールに至る値に近い負荷が設定され、このエンジン負荷の設定値に達した際に燃料の噴射量の制限を解除することでエンジンストールを回避できるようにしている。
【0052】
エンジン負荷は、燃料強制供給手段53がアクセル設定位置と回転センサ10とからの信号に基づいて判別する。このエンジン負荷を判別するために燃料強制供給手段53は、アクセル設定位置とエンジン回転数(回転速度)との関係から負荷を求めるテーブルを備えることや、アクセル設定位置とエンジン回転数(回転速度)との関係から負荷を求めるための演算式を予め備えている。尚、エンジン負荷を計測するためのトルクセンサ等を備えても良い。
【0053】
この燃料強制供給手段53の処理形態として、予め設定されたエンジン負荷を超えた場合に、アクセル操作位置に対応した燃料の供給を許しているが、これに代えて、例えば、エンジンストールを解消できる程度の量の燃料の増大を許すように制御形態を設定しても良い。
【0054】
図7に示すように、アクセルレバー33とアクセルペダル35との何れかを最大となるアクセル設定位置に設定した場合には、全負荷曲線Xに沿う形態の特性のグラフYに従うトルク(燃料噴射量)と回転数との関係が得られる。そして、燃料供給量設定ダイヤル41によって上限値を50%に設定した場合には、同図においてグラフZに従うトルク(燃料噴射量)と回転数との関係が得られる。
【0055】
燃料供給量設定ダイヤル41を、設定領域における最大制限位置に設定した際の上限値(供給可能な燃料の供給率)は特定の値でなくても良いが、例えば、アクセルレバー33とアクセルペダル35とで設定可能な最大値の50%に設定する等任意に設定できる。
【0056】
〔実施の形態の作用・効果〕
このように本発明の作業機では、車体Aを単に移動させる場合や、播種作業や肥料散布のような軽負荷の作業を行う場合には燃料供給量設定ダイヤル41によって燃料供給の上限値を作業に対応した値に設定しておくことにより、その作業において、例えば、アクセルペダル35を大きく踏み込んだ場合にも、燃料供給が制限されることによりエンジンEが不必要に高速回転することがなく燃料の無駄を抑制できる。つまり、燃料供給量設定ダイヤル41によって燃料の供給量の上限を任意に設定できる。
【0057】
また、車体Aを移動させるだけの軽負荷の作業であっても、例えば、作業者が想定していない傾斜地を登る場合のように負荷が増大してエンジンストールに繋がる状況に陥っても、アクセル設定位置に対応した燃料の供給を許すことでエンジンストールを自動的に回避することも可能にしている。
【0058】
〔別実施の形態〕
本発明は、上記した実施の形態以外に以下のように構成しても良い。
【0059】
(a)車体に備えられる作業装置に対応してエンジンEに供給する燃料の上限値を自動的に設定するようにエンジンECU50を構成する。具体的には、前述した実施の形態において説明した燃料供給量設定ダイヤル41に代えて、図8に示すように作業装置判別手段45を備える構成となる。作業装置判別手段45は、車体Aに備えられた作業装置の種類を特定し、作業装置を特定し得る情報をエンジンECU50に出力する。
【0060】
このエンジンECU50では作業装置を識別し得る情報に基づいて、燃料制限制御手段52が、作業装置に対応した上限値を設定し、アクセル設定位置が上限位置を超えた場合でもインジェクタ8による燃料の噴射量を上限値に維持する制御を行うと共に、エンジンEに作用する負荷が設定値を超えたことを判別した場合にのみ、アクセル設定位置に対応した燃料の供給を行う。尚、自動的に設定される上限値として、ロータリ耕耘装置に設定される上限値よりプラウに設定される上限荷が高く設定されると共に、作業装置を備えない場合に上限値が最も低く設定される。この別実施の形態では、上限値を自動的に設定する処理以外の処理は、前述した実施の形態と共通するものであるため制御形態の具体的な説明は省略する。
【0061】
尚、作業装置としてロータリ耕耘装置、プラウ、播種装置等が想定され、作業装置判別手段45が作業装置を特定する処理としては、各作業装置の作業時に使用されるセンサ類からの信号値に基づいて作業装置を特定することや、作業装置の連結部位に備えたスイッチからの信号に基づいて作業装置を特定するもののように自動的な処理によって作業装置を特定するものが考えられている。これとは異なるものであるが、作業時には作業装置に対応したスイッチ類を作業者が操作することから、このようなスイッチ類の操作に基づいて作業装置を特定するものでも良い。更に、作業装置を特定するためのスイッチを人為的に操作し、この操作に基づいて作業装置を直接的に特定するものでも良い。
【0062】
(b)燃料の供給量の上限値を設定する人為操作具として、押し操作型のスイッチを備えても良い。具体的には、複数の押し操作型のスイッチを備え、複数のスイッチの何れかを選択的に操作することにより、選択したスイッチに対応した上限値を設定することを可能としても良い。これとは異なるものとして、1つの押し操作型のスイッチを備え、スイッチの押し操作の回数によって上限値を変更できるように構成したものでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、トラクタ以外にエンジン回転を電気的に制御する作業車全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
33 アクセル操作具(アクセルレバー)
35 アクセル操作具(アクセルペダル)
41 人為操作具(燃料供給量設定ダイヤル)
45 作業装置判別手段
51 燃料供給制御手段
52 燃料制限制御手段
53 燃料強制供給手段
A 車体
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル操作具の操作位置に対応した燃料をエンジンに供給する燃料供給制御手段が備えられているトラクタであって、
前記燃料供給制御手段によって供給可能な燃料の上限値を設定すると共に、前記アクセル操作具が前記上限値を超える量の燃料供給を設定する位置に操作された場合には前記上限値の燃料を前記エンジンに供給する燃料制限制御手段が備えられ、
前記燃料制限制御手段によって燃料の供給量が制限されている状況下で、エンジン負荷が設定値を超えた際に、前記燃料制限制御手段の制限に優先して燃料の供給量の増大を許す燃料強制供給手段が備えられているトラクタ。
【請求項2】
前記燃料制限制御手段は、人為操作具の設定位置に対応して前記上限値を任意に設定できると共に、この人為操作具の操作によって上限値の設定と解除との選択を行える請求項1記載のトラクタ。
【請求項3】
車体に備えられる作業装置の種類を判別する作業装置判別手段を備え、前記燃料制限制御手段は、前記作業装置判別手段で判別される作業装置に対応して上限値を設定する請求項1又は2記載のトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−127573(P2011−127573A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289275(P2009−289275)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】