説明

トリメリット酸又はピロメリット酸の製造方法

【課題】ポリアルキルベンゼンまたはポリアルキル置換芳香族アルデヒドを液相酸化してトリメリット酸またはピロメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸を製造する方法において、二酸化炭素排出を削減する中で、高い品質の芳香族ポリカルボン酸を製品として得る。
【解決手段】ポリアルキルベンゼンまたはポリアルキル置換芳香族アルデヒドを水溶媒中、臭化水素酸、臭化マンガンを含有する触媒成分の存在下、液相酸化してトリメリット酸またはピロメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアルキルベンゼン又はポリアルキル置換芳香族アルデヒドからトリメリット酸又はピロメリット酸を液相酸化にて製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリメリット酸とピロメリット酸は工業的に重要な化合物である。トリメリット酸は、アルキッド樹脂、高級可塑剤、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステルの原料として広く使用されているし、ピロメリット酸は、発泡ポリエステル用架橋剤、特殊可塑剤、ポリイミド、粉体塗料の原料として有用である。しかし、これらの原料として使用されるには、高純度のものが要求される。そのためにいろいろな製造方法が提案されている。
【0003】
芳香族ポリカルボン酸の一種であるトリメリット酸(ベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸)(以下、TMAという)の工業的な製造方法は、
(1)プソイドキュメン(1,2,4-トリメチルベンゼン)を原料として酢酸溶媒中でコバルト-マンガン-臭素系の触媒を用いて得る方法、
(2)2,4−ジメチルベンズアルデヒド、2,5−ジメチルベンズアルデヒドおよび3,4−ジメチルベンズアルデヒドまたはその酸化誘導体である2,4−ジメチル安息香酸、2,5−ジメチル安息香酸、および3,4−ジメチル安息香酸を原料として水溶媒中で臭素およびマンガンまたはセリウム触媒を用い空気酸化して得る方法が知られている。
【0004】
一方、芳香族ポリカルボン酸であるピロメリット酸(ベンゼン-1,2,3,5-テトラカルボン酸)は
(1)ジュレン(1,2,3,5-テトラメチルベンゼン)を原料として酢酸溶媒中でコバルト-マンガン-臭素系の触媒を用いて酸化反応により製造する方法、
(2)2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドまたはその誘導体である2,4,5−トリメチル安息香酸を原料として水溶媒中で臭素、マンガンおよび鉄触媒を用いて得る方法が知られている。
【0005】
これらの方法は、いずれも酸化反応に寄与する分子状酸素含有ガスとして、空気中の酸素で液相酸化反応するのが一般的である。
【0006】
アルキルベンゼンから芳香族ポリカルボン酸への酸化は、メチル基の置換位置によってその反応性は大きく異なる。例えば、プソイドキュメン(1,2,4-トリメチルベンゼン)またはジュレン(1,2,3,5-テトラメチルベンゼン)などの場合、反応生成物の二つのカルボキシル基がオルト位にある構造のため、反応産物であるトリメリット酸やピロメリット酸が触媒活性を低下させ酸化収率が低下するとされている(特許文献1の3頁)。
【0007】
このため触媒系に対するいろいろな改良が提案されており、例えば、特許文献1では、ジュレンを液相酸化してピロメリット酸を製造する方法として、コバルト-マンガン-臭素触媒の存在下で酸化するに際し、触媒の添加量、水の添加量、反応温度を徐々に増大させる方法が開示されている(実施例60〜69、表4)。これにより、ピロメリット酸の収率が増大するとされている(11頁の左下欄〜右下欄)。
【0008】
しかし、この方法は、触媒系に対する改良提案であって、触媒、水の添加量を徐々に増大させる操作を伴い、反応方式として複雑である。
【0009】
また、特許文献2には、2,4−ジメチルベンツアルデヒド等をコバルト、マンガン及び臭素を触媒として、空気で液相酸化してトリメリット酸又はピロメリット酸を製造する方法が開示されている。表1を見ると、反応温度は220℃、溶媒は水と酢酸の混合液が使用されている。
【0010】
また、特許文献3には、2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドを鉄、マンガン及び臭素を触媒として、空気で液相酸化してピロメリット酸を製造する方法が開示されている。実施例の記載を見ると、反応温度は240℃、溶媒は水が使用されている。
【0011】
一般的に、フタル酸やトリメライド(ジカルボキシベンズアルデヒド)含有量が低く、溶融色が、ハーゼン色で150以下の高品質のトリメリット酸を製造するためには、上述の特許文献2や3のように反応温度を上げるか、特許文献1のように触媒濃度を上げるなど、酸化反応条件を厳しくする必要がある。しかし、このような酸化反応の方法では、反応生成液中のピロメリット酸やトリメリット酸や酢酸溶媒が燃焼して収率低下を招くし、爆発の危険性が問題となる。
【0012】
また、原料のポリアルキルベンゼンまたはポリアルキル置換芳香族アルデヒドおよびその酸化誘導体(反応中間体)の分解等による損失を防ぐために、酸化反応の反応温度を低くする方策が採られるが、このような場合には、反応特異性が低下してしまう。例えばプソイドキュメンまたは2,4−ジメチルベンズアルデヒド(DBAL)の液相酸化反応の場合であれば、得られたトリメリット酸中に不純物としてトリメライドの含有量が多く、また溶融色も悪く、目的とする高品質のトリメリット酸は得られない。
【0013】
以上のような方法での、ポリアルキルベンゼンやアルキル芳香族アルデヒドの液相酸化反応によるトリメリット酸やピロメリット酸の製造方法が公知である。しかし、これらはいずれも触媒組成や触媒添加方法に基づいた改良法であり、分子状濃縮酸素ガスとして空気が用いられ、濃縮酸素を用いた液相酸化法ではない。また、公知文献を見ても200℃以下の温度域でのトリメリット酸やピロメリット酸の製造に濃縮酸素が適用された反応例は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平2−184652号
【特許文献2】特開昭57−38745号
【特許文献3】特公平7−116097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来のトリメリット酸又はピロメリット酸の製造における上記問題点を解決するためになされたものであって、酸化反応系で余分な副反応など誘発させることなく、高品質、高純度のトリメリット酸又はピロメリット酸を安全に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記実状に鑑み、低コストで品質の優れた芳香族ポリカルボン酸を製造するに当たり、鋭意検討した結果、分子状酸素含有ガスとして、空気より高い濃度の酸素を用いて液相酸化反応を行なえば、反応温度を下げても、色相、溶融色がよく、かつアルカリ水溶液に溶解したときの光線透過率のよい品質の優れた芳香族ポリカルボン酸を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明はポリアルキルベンゼン又はポリアルキル置換芳香族アルデヒドを臭化水素酸及び臭化マンガンからなる触媒成分を添加した水溶媒に添加して、分子状酸素ガスにより液相酸化してトリメリット酸またはピロメリット酸を製造する方法において、
(1)分子状酸素ガスとして空気より高い濃度の酸素を用い、
(2)反応温度を160〜240℃としたことを特徴とするトリメリット酸又はピロメリット酸の製造方法である。
【0018】
酸化反応温度は上述の通り160〜240℃で、好ましくは、190〜230℃である。これは酸化反応温度が上記の範囲を超えると、ポリアルキルベンゼン等の反応基質が熱分解したり、爆発するおそれが高まるからである。逆に反応温度が上記範囲を下回ると、反応速度の低下や副反応を誘発して反応効率が低下してしまう。このときの圧力は少なくとも反応温度において反応混合物が液相(液体として)保持できる圧力以上とすればよい。逆に、圧力が過大となると装置の耐圧対策が問題となるので、2.5〜3.9MPaの範囲が好適である。また反応時間は装置の大きさによって若干異なるが、平均滞留時間として、30〜200分程度とするとよい。
【0019】
本発明において、液相酸化の溶媒は水が用いられる。反応基質(ポリアルキルベンゼン又はポリアルキル置換芳香族アルデヒド)に対する水の比率(SR比)は3〜10倍量で、好ましくは6〜7倍量である。水の比率が上記の範囲を上回ると反応系における反応基質の濃度が低くなり、反応速度が小さくなるので好ましくない。一方、水の比率が上記の範囲を下回ると反応基質の濃度が高まり、ポリアルキルベンゼンによる爆発のおそれが高まるので好ましくない。反応缶を2基使用して追酸化を行う場合は、1基目の反応缶でのSR比を上記範囲とすることが好ましい。
【0020】
触媒としては、マンガン、臭素、銅、コバルト等を含有するものが使用可能である。これらの具体例としては、臭化水素(HBr)、臭化マンガン(MnBr)、臭化ナトリウム、臭化コバルト、酢酸コバルト、ナフテン酸銅、ナフテン酸マンガンなどが例示される。
【0021】
高濃度酸素含有ガス(本明細書では空気より酸素分圧が高いガスのことをいう)としては、酸素濃度が22〜100容量%のガスを使用することが好ましく、より好ましくは60〜95容量%のガスを使用することが好ましい。この高濃度酸素含有ガスを、分子状酸素が当該のポリアルキルベンゼンまたはポリアルキル置換芳香族アルデヒドの酸化反応に必要な反応当量より過剰になるように供給する。例えば、2,4-ジベンズアルデヒドを酸化して、トリメリット酸を製造する場合であれば、2,4-ジベンズアルデヒドが7.46×10−3mol(1kg)に対して0.1〜4Nm(0℃、1気圧としたときの換算値、つまり標準状態での体積)が供給されるように高濃度酸素含有ガスを水溶媒を満たした反応缶の底部より直接、吹き込めばよい。
【0022】
高濃度酸素含有ガスの製造は公知の酸素濃縮装置を使用する。PSA方式、酸素富化膜方式、中空糸膜方式のいずれを使用してもよいが、操作性及びコスト面からPSA方式が好適に使用される。製造された高濃度酸素含有ガスはコンプレッサーを介し、所定圧まで蓄圧して、第一反応缶及び第二反応缶の底部から所定量を吹き込み、これを酸素源として用いる。
【0023】
原料のポリアルキルベンゼンまたはポリアルキル置換芳香族アルデヒドと高濃度酸素含有ガスとの接触は水溶液中で行なう。これによって低級カルボン酸、例えば酢酸を溶媒に用いたときのように溶媒が燃焼ロスすることがなくなる。また、水溶媒ゆえに高濃度酸素含有ガスを用いても排ガス中の酸素濃度を後述の所定範囲内に収まるようにすれば爆発のおそれを極小とすることができる。また、反応生成水を蒸留等で分離する必要がないなどの利点を有する。
【0024】
本発明では、分子状酸素含有ガスとして、空気より高い濃度の酸素(高濃度酸素含有ガスと称する)を用いて、液相酸化反応を行なう。このガスを高濃度酸素含有ガスの供給口から反応缶に供給しつつ、排ガスをガス循環用の配管から反応缶の液相部に循環して再利用してもよい。これにより、反応缶の中の酸素濃度が過度に高くなることを抑制することができる。この方法では、反応缶より蒸気を抜き出し、この蒸気をコンデンサー(熱交換器)で冷却し、蒸気中の凝縮性成分を凝縮させ、気液分離器(デカンター)で凝縮液と排ガスとに分離する。ここで得られた凝縮液は反応缶に循環するが、このときその一部を系外に排出し、この排出量によって反応缶中の溶媒とする水の比率を調整してもよい。
【0025】
凝縮性成分を除いた排ガスの一部は循環ガスとして反応缶の液相部に循環する場合、循環するガスの量は、反応缶に導入する高濃度酸素含有ガスの量、酸素濃度等によって異なるが、系外へ排出するガス量に対して、0.05〜400容量倍、好ましくは0.08〜150倍量とすると、上述したように爆発のおそれを減じることができる。ただし、上記範囲を超えて排ガスを反応缶にもどすと、酸素濃度が低くなり本発明の効果が失われてしまう。実際の反応制御方法としては、排ガス中の酸素濃度が1.8〜4.0容量%に保たれるように流量制御する。
【0026】
本発明の液相酸化の原料として、ポリアルキルベンゼンまたはポリアルキル置換芳香族アルデヒドまたはその酸化誘導体を使用する。具体的には、ポリアルキルベンゼンとしては、プソイドクメン(1,2,4-トリメチルベンゼン)、メシチレン(1,3,5-トリメチルベンゼン)、ジュレン(1,2,3,5-テトラメチルベンゼン)、イソジュレン(1,2,3,4-テトラメチルベンゼン)等が挙げられる。ポリアルキル置換芳香族アルデヒドとしてはジメチルベンズアルデヒド、トリベンズアルデヒドに属するトルアルデヒド、2,4-ジメチルベンズアルデヒド、2,5-ジメチルベンズアルデヒド及び3,4-ジメチルベンズアルデヒド、2,4,5-トリメチルベンズアルデヒド及びその酸化誘導体等が挙げられる。
【0027】
本発明のトリメリット酸の製造における酸化誘導体としては、メチルフタル酸、1-カルボキシ-3,4-フタリド、ジメチル安息香酸であり、ピロメリット酸製造における該酸化誘導体としては、メチルトリメリット酸、2,4,5-トリメチル安息香酸、1,2-ジカルボキシ-4,5-フタリド等が挙げられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明においては、空気よりも分子状酸素の濃度が高い高濃度酸素含有ガスを用いる。反応液に高濃度酸素含有ガスを吹き込んだ際に生じる気泡内の酸素濃度は空気を用いた場合よりも高く、気相から液相(反応液)への分子状酸素の移動速度は空気を用いた場合よりも数段速くなる。このため、酸素供給不足のときに、生じる副産物の生成量を低減することができる。これによって高品質、特に製品粉体の色相やアルカリ水溶液に溶解したときの光線透過率のよい芳香族ポリカルボン酸を製造することができる。
【0029】
溶媒に水を使用するので、低級脂肪酸カルボン酸、例えば酢酸等を溶媒に用いた場合とは異なり、その一部が反応中に炭酸ガス、一酸化炭素、その他の副生物に変化することがない。また、従来よりも反応温度と触媒濃度とを低く設定しても、純度の高いピロメリット酸又はトリメリット酸を製造することができる。
【0030】
酸化反応の系内に導入する高濃度酸素含有ガスの量や酸素濃度、および循環ガスの循環量を調整することによって、反応缶内の気相部の酸素分圧を容易に調整できるので、爆発等の危険を回避して容易に運転制御が可能である。また排ガスの一部を反応缶液相部(反応液中)に循環することによって、排ガス中に含まれる酸素を再利用することができる。また、反応缶から排ガス路およびそこに至る部分での酸素濃度を適正値に抑えることができる。
【0031】
本発明によれば、余分な副反応を最低限に抑えることが可能となる。これにより消費電力の節減、ひいては二酸化炭素(CO)の発生を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は本発明の実施例で用いた芳香族ポリカルボン酸の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は実施例で用いた芳香族ポリカルボン酸の製造装置の概略図である。同製造装置は内部に撹拌子11,21と、邪魔板12,22を備えた反応缶1,2を2基有する。これを説明の便宜上、第一反応缶1及び第二反応缶2とする。この第一反応缶1と第二反応缶2の底部には高濃度酸素含有ガスの供給口13,23がそれぞれ設けられている。空気の取込口32から取り込まれた空気を酸素濃縮装置31で濃縮し、吐出された高濃度酸素含有ガスを溶解槽33にて水路106から供給された水と気液混合する。この酸素を富化した水を第一反応缶1及び第二反応缶2の供給口13,23から吹き込む。
【0034】
また第一反応缶1の頂部には蒸気取出用の配管14を設け、中間部には原料供給用の配管15とガス循環用の配管16が接続される。攪拌子11は攪拌軸が中間の2箇所および底部で支持され横ブレを防止する構造となっている。
【0035】
また、第一反応缶1及び第二反応缶2はジルコニウム製の耐圧反応缶(オートクレーブ)とした。内容積は8.5kLである。第一反応缶1には蒸気取出用の配管14を介してコンデンサー17(熱媒体の凝縮用熱交換器)とデカンター18を接続し、ここで気液が分離される。凝縮成分が除去された排ガスはガス循環用の配管16からコンプレッサー19を経て、第一反応缶1の液相部に循環されるように構成される。デカンター18の頂部には排ガス管101が接続され、余剰となった気体成分を排出する。デカンター18の底部には凝縮液循環用の配管102が接続され、循環ポンプ103を経由して、溶解槽33に凝縮成分を循環させる。また、凝縮液循環用の配管102から凝縮液排出用の配管104が分岐し、この配管104を経由して余剰の凝縮成分を系外に排出する。
【0036】
さらに第一反応缶1の底部に設置した反応生成液取出用の配管105を経由して反応液を追酸化を目的とする第二反応缶2に送り込む。第二反応缶2の構成は、先の第一反応缶1と基本的には同じで、攪拌子21、邪魔板22、コンデンサー27、デカンター28、循環ポンプ203、コンプレッサー29を有し、これらを蒸気取出用の配管24、凝縮液循環用の配管202、ガス循環用の配管26、排ガス用の配管201、反応生成物取出用の配管205で接続している。
【0037】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0038】
〔実施例1〕
図1の装置を用いてトリメリット酸(TMA)を製造した。酸素濃縮装置31としてPSA方式のワイビーエム社製YO−020NCを用いた。製造方法は、まず第一反応缶1に水1450kgと、100%臭化水素17kg及び臭化マンガン(4水塩)10kgを混合した触媒調製液を投入した(臭素イオン濃度1.8重量%、マンガンイオン濃度0.31重量%)。第二反応缶2にも第一反応缶1と同じ組成の触媒調整液を同じ濃度となるように投入し1000kgの水溶媒とした。
【0039】
次に、それぞれの反応缶1,2に窒素ガス供給管107,207から圧力1.5MPaになるまで窒素ガスを送入し、第一反応缶1及び第二反応缶2の加熱ジャケットに高圧スチームを通して反応缶内を200℃まで昇温した。
【0040】
次いで、第一反応缶1に原料の2,4−ジメチルベンズアルデヒドを1,150kg/hr(容量換算で1,812L/hr)で投入し、さらに第一反応缶1の底部に高濃度酸素含有ガスの供給口13から90%濃縮酸素を875NM/hrにて送り込みながらセミバッチ(半連続)方式で90分間反応させた。その後、追酸化反応を行なうために第一反応缶1の反応生成液を第二反応缶2へ移送しながら、底部に設置した高濃度酸素含有ガスの供給口23から90%濃縮酸素を35NM/hrの流速で供給した。
【0041】
第一反応缶1の反応生成液を第二反応缶2へと移送するのに伴って、水溶媒と触媒調整液が不足するため流速8,154kg/hr、27kg/hrにて水溶媒と上記と同じ組成の触媒調整液をそれぞれ第一反応缶1に供給した。原料の2,4−ジメチルベンズアルデヒドと、90%濃縮酸素の供給量は引き続き、1,150kg/hr(容量換算で1,812L/hr)、875NM/hrとした。このときの第一反応缶1のSR比は4.5であった(水8,154L/基質1,812L=4.5)。
【0042】
第一反応缶1からの排ガスの酸素濃度が2容量%、第二反応缶2からの排ガスの酸素濃度が2.8容量%になるようにガス循環用の配管16,26による排ガスの循環と排出比を制御した。また、反応中の液面を一定に保つように反応生成物を配管205から連続的に抜き出した。この間、第一反応缶1内および第二反応缶2の液温はそれぞれ205℃、203℃とし、圧力はそれぞれ2.9MPa、2.6MPaを保つようにした。
【0043】
次に、第二反応缶2から取り出した反応生成液を、常圧下、105〜110℃で脱酸素を行った。さらにトリメリット酸とその他の未反応物、副反応生成物との分離を容易にするために、ナフテン酸コバルト触媒下、温度150℃、圧力0.75MPaにて、水素(H)18NM/hrを添加しながら水素還元反応を連続的に行なった。
【0044】
次に、常圧、100℃にて晶析を行い、さらに減圧(52Torr)、45℃にて晶析を行った後、真空ろ過して結晶化(ケーキ化)したトリメリット酸を得た。この真空ろ過工程では水1,700kg/hrをリンス液として用い、ケーキを洗浄し精製した。ここで得た母液の内85%を第一反応缶1に水溶媒として戻した(母液循環)。
【0045】
一方、真空ろ過工程で得たケーキを、常圧、245℃(平均滞留時間は2hr)で無水化した。更に、減圧(10Torr)、255℃の条件で、真空蒸留を行って無水トリメリット酸を得た。上記製造条件下で10日間連続製造した。結果を表1に示す。
【0046】
〔比較例1〕
実施例1において、濃縮酸素(90%)の代わりに空気を用いた以外は、実施例1と同様にしてトリメリット酸を連続的に製造した。結果を表1に示す。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1と同様に、図1の装置を用いてピロメット酸(PMA)を製造した。製造方法は、実施例1と同様に、第一反応缶1に水1,450kgと、100%臭化水素17kg及び臭化マンガン(4水塩)10kgを混合した触媒調製液を投入した(臭素イオン濃度1.8重量%、マンガンイオン濃度0.31重量%)。第二反応缶2にも第一反応缶1と同じ組成の触媒調整液を同じ濃度となるように投入し1,200kgの水溶媒とした。
【0048】
次に、それぞれの反応缶1,2に窒素ガス供給管107,207から圧力1.5MPaになるまで窒素ガスを送入し、第一反応缶1及び第二反応缶2の加熱ジャケットに高圧スチームを通して反応缶内を200℃まで昇温した。
【0049】
次いで、第一反応缶1に原料の2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドを560kg/hrで投入し、さらに第一反応缶1の底部に高濃度酸素含有ガスの供給口13から90%濃縮酸素を550NM/hrにて送り込みながらセミバッチ(半連続)方式で90分間反応させた。その後、追酸化反応を行なうために第一反応缶1の反応生成液を第二反応缶2へ移送しながら、底部に設置した高濃度酸素含有ガスの供給口23から90%濃縮酸素を35NM/hrの流速で供給した。
【0050】
第一反応缶1の反応生成液を第二反応缶2へと移送するのに伴って、水溶媒と触媒調整液が不足するため流速6,750kg/hr、28kg/hrにて水溶媒と上記と同じ組成の触媒調整液をそれぞれ第一反応缶1に供給した。原料の2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドと、90%濃縮酸素の供給量は引き続き、560kg/hr(容量換算で683L/hr)、550NM/hrとした。
【0051】
第一反応缶1からの排ガスの酸素濃度が2.5容量%、第二反応缶2からの排ガスの酸素濃度が4.0容量%になるようにガス循環用の配管16,26による排ガスの循環と排出比を制御した。また、反応中の液面を一定に保つように反応生成物を配管205から連続的に抜き出した。この間、第一反応缶1内および第二反応缶2の液温はそれぞれ205℃、203℃とし、圧力はそれぞれ2.9MPa、2.6MPaを保つようにした。また、反応中の液面を一定に保つように反応生成物を配管205から連続的に抜き出した。この間、第一反応缶1内および第二反応缶2の液温はそれぞれ215℃、220℃とし、圧力はそれぞれ3.3MPa、3.5MPaを保つようにした。
【0052】
次に、実施例1と同様の方法にて脱酸素(常圧下、101〜103℃)、水素化(ナフテン酸コバルト触媒、温度150℃、圧力0.75MPa、水素(H)16NM/hr)、2回の晶析(常圧、100℃にて一回、70Torr、45℃にて一回)、真空濾過及び真空蒸留(180Torr、240℃)を行い結晶化した無水ピロメリット酸を得た。真空ろ過では水1,200kg/hrをリンス液として用い、実施例1と同様に母液を第一反応缶1へと戻した。
【0053】
上記製造条件で8日間にわたって無水ピロメリット酸を連続的に製造した。結果を表1に示す。
【0054】
〔比較例2〕
実施例2において、濃縮酸素(90%)の代わりに空気を用いた以外は、実施例2と同様にして無水ピロメリット酸を連続的に製造した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
原料にジュレンを用いて、図1の装置によってピロメリット酸(PMA)を製造した。製造方法は、第一反応缶1に水1,250kgと、酢酸コバルト(4水塩)とナフテン酸銅(Cu)とナフテン酸マンガン(Mn)からなる触媒調整液をコバルトイオン濃度0.05重量%、銅イオン濃度0.006重量%、マンガンイオン濃度0.02重量%となるように各成分を混合して投入した。第二反応缶2にも800kgの水溶媒を投入し、そこに第一反応缶1と同じ組成の触媒調整液を同じ濃度となるように投入した。
【0056】
次に、それぞれの反応缶1,2に窒素ガス供給管107,207から圧力0.7MPaになるまで窒素ガスを送入し、第一反応缶1及び第二反応缶2の加熱ジャケットに高圧スチームを通して反応缶内を120℃まで昇温した。
【0057】
次いで、第一反応缶1に原料のジュレンを560Kg/hr(容量換算で571L/hr)で投入し、さらに第一反応缶1の底部に高濃度酸素含有ガスの供給口13から90%濃縮酸素を510NM/hrにて送り込みながらセミバッチ(半連続)方式で90分間反応させた。その後、追酸化反応を行なうために第一反応缶1の反応生成液を第二反応缶2へ移送しながら、底部に設置した高濃度酸素含有ガスの供給口23から90%濃縮酸素を35NM/hrの流速で供給した。
【0058】
第一反応缶1の反応生成液を第二反応缶2へと移送するのに伴って、水溶媒と触媒調整液が不足するため流速4,568kg/hr、28kg/hrにて水溶媒と上記と同じ組成の触媒調整液をそれぞれ第一反応缶1に供給した。原料のジュレンと、90%濃縮酸素の供給量は引き続き、560kg/hr(容量換算で683L/hr)、510NM/hrとした。このときの第一反応缶1のSR比は8.0であった(水4,568L/基質571L=8.0)。
【0059】
第一反応缶1からの排ガスの酸素濃度が2.6容量%、第二反応缶2からの排ガスの酸素濃度が3.4容量%になるようにガス循環用の配管16,26による排ガスの循環と排出比を制御した。また、反応中の液面を一定に保つように反応生成物を配管205から連続的に抜き出した。この間、第一反応缶1内および第二反応缶2の液温はそれぞれ210℃、220℃とし、圧力はそれぞれ3.0MPa、3.2MPaを保つようにした。
【0060】
次に、実施例1と同様の方法にて脱酸素(常圧下、101〜103℃)、水素化(ナフテン酸コバルト触媒、温度150℃、圧力0.75MPa、水素(H)16NM/hr)、2回の晶析(常圧、100℃にて一回、70Torr、45℃にて一回)、真空濾過及び真空蒸留(180Torr、240℃)を行い結晶化した無水ピロメリット酸を得た。真空ろ過では水1,300kg/hrをリンス液として用い、実施例1と同様に母液を第一反応缶1へと戻した。
【0061】
上記製造条件で8日間にわたって無水ピロメリット酸を連続的に製造した。結果を表2に示す。
【0062】
〔比較例3〕
実施例3において、濃縮酸素(90%)の代わりに空気を用いた以外は、実施例3と同様にして無水ピロメリット酸を連続的に製造した。結果を表1に示す。結果を表2に示す。
【0063】
〔実施例4〕、〔実施例5〕
実施例1の条件で、濃縮酸素濃度を45容量%、60容量%として無水ピロメリット酸を製造した。結果を表1に示す。
【0064】
〔実施例6〕
実施例1の条件で、原料を2,4−ジメチルベンズアルデヒドの代わりにプソイドキュメンにし、第一反応缶1及び第二反応缶2の反応温度を168℃にし、また濃縮酸素濃度を60容量%として無水トリメット酸を製造した。結果を表1に示す。
【0065】
〔実施例7〕、〔実施例8〕
実施例2の条件で、濃縮酸素濃度を45容量%、60容量%として無水ピロメリット酸を製造した。結果を表1に示す。
【0066】
〔比較例4〕
実施例3において、濃縮酸素(90%)の代わりに空気を用いた以外は、実施例3と同様にして無水ピロメリット酸を連続的に製造した。結果を表2に示す。
【0067】
[比較例5]
図1に示した装置から、溶解槽33を省略した装置を用いて無水トリメリット酸の製造を行った。原料や反応温度は実施例1と同等にした。結果を表1に示す。
【0068】
[比較例6]
図1に示した装置から、溶解槽33を省略した装置を用いて無水ピロメリット酸の製造を行った。原料や反応温度は実施例2と同等にした。結果を表2に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
表中の「酸素濃度」とは溶解槽33に供給した分子状酸素含有ガスの酸素濃度を示す。光線透過率は得られた無水ピロメリット酸又は無水トリメリット酸を大気圧下、190℃にて溶融したものをAPHA(American Public Healthy Association)によるヘイズンカラーによりHzで測定した数値を示す。光線透過率は2N水酸化カリウム溶液50mlにピロメリット酸5gを溶解し、光源340nm、光路10mmのときの光線透過率を示した。トリメライドはジカルボキシベンズアルデヒドのことを、ピロメライドは2,4,5‐トリカルボキシベンズアルデヒドの慣用名であり、代表的な副産物である。
【0072】
表1及び表2の結果から、実施例を対応する比較例と比べたとき、明らかに高濃度酸素を用いた実施例の方が、収率、品質(色相、不純物量など)共に優れていることがわかる。また、実施例1と比較例5の対比及び実施例2と比較例6の対比から明らかなように、溶解槽33にて水と高濃度酸素含有ガスを予め混合した方が、収率、品質(色相、副産物の生成量)の点で優れていることがわかる。
【0073】
実施例からも明らかなように、本発明によれば、ピロメリット酸やトリメリット酸の収率を向上させ、高品位の製品が得ることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 第一反応缶
11 攪拌子
12 邪魔板
13 供給口
14 蒸気取出用の配管
15 原料供給用の配管
16 ガス循環用の配管
17 コンデンサー
18 デカンター
19 コンプレッサー
101 排ガス管
102 凝縮液循環用の配管
103 循環ポンプ
104 凝縮液排出用の配管
105 反応生成液取出用の配管
106 水路
107 窒素ガス供給管
2 第二反応缶
21 撹拌子
22 邪魔板
23 供給口
24 蒸気取出用の配管
26 ガス循環用の配管
27 コンデンサー
28 デカンター
29 コンプレッサー
201 排ガス管
202 凝縮液循環用の配管
203 循環ポンプ
204 凝縮液排出用の配管
205 反応生成液取出用の配管
207 窒素ガス供給管
31 酸素濃縮装置
32 空気の取込口
33 溶解槽
34 コンプレッサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキルベンゼン又はポリアルキル置換芳香族アルデヒドを触媒成分の存在下で、分子状酸素ガスにより液相酸化してトリメリット酸又はピロメリット酸を製造する方法において、
(1)分子状酸素含有ガスとして空気より高い濃度の酸素を用い、
(2)反応温度を160〜240℃としたことを特徴とするトリメリット酸又はピロメリット酸の製造方法。
【請求項2】
ポリアルキルベンゼン又はポリアルキル置換アルデヒドは反応缶において液相酸化され、分子状酸素ガスは反応缶に導入される前に溶解槽にて水溶媒と気液混合される請求項1に記載のトリメリット酸又はピロメリット酸の製造方法。
【請求項3】
ポリアルキルベンゼンは、プソイドキュメン、メシチレン、ジュレン又はイソジュレンであって、ポリアルキル置換芳香族アルデヒドは、ジメチルベンズアルデヒド又はトリメチルベンズアルデヒドである請求項1のトリメリット酸又はピロメリット酸の製造方法。
【請求項4】
ポリアルキルベンゼン又はポリアルキル置換芳香族アルデヒドに対する水溶媒の比率(SR)が4〜10である請求項1〜3のいずれかに記載のトリメリット酸又はピロメリット酸の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか記載の方法で得られた反応混合物を175〜220℃の温度を保持し、水溶媒を満たした第二反応缶において、ポリアルキルベンゼン及びポリアルキル置換芳香族アルデヒドを供給することなく、分子状濃縮酸素ガスにより追酸化するトリメリット酸又はピロメリット酸の製造方法。
【請求項6】
分子状酸素含有ガスは酸素濃度が、22〜100容量%である請求項1〜5のいずれかに記載のトリメリット酸又はピロメリット酸の製造方法。
【請求項7】
反応缶より抜き出した排ガスから凝縮性成分を除去して得た気体の一部を反応缶の液相部に循環する請求項1〜6のいずれかに記載のトリメリット酸又はピロメリット酸の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−98938(P2011−98938A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255900(P2009−255900)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(596078533)山陽施設工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】