説明

トロリ線データ比較装置

【課題】過去のトロリ線データと現在のトロリ線データとで走行位置を正確に一致させることを可能としたトロリ線データ比較装置を提供する。
【解決手段】車両の屋根上に配置されて鉛直上方のトロリ線を撮影するラインセンサカメラ2と、ラインセンサカメラ2から入力される映像信号を収録する画像録画部と、画像録画部から現在のトロリ線画像を入力するラインセンサ画像入力部5a、現在のトロリ線画像からトロリ線の摩耗及び偏位を抽出する摩耗・偏位抽出部5b、過去のトロリ線画像と現在のトロリ線画像とから車両の偏位の位置ずれ量を検出する偏位位置ずれ検出部5c、及び位置ずれ量を現在のトロリ線画像に反映し、過去のトロリ線画像と比較する摩耗量比較部5dを備える画像処理部とから構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリ線データ比較装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電車線設備のトロリ線は、通過する電車のパンタグラフと接触して摩耗する。鉄道事業においては、このようなトロリ線の摩耗の進行度合い(経年変化)を把握するために、架線検測装置によりトロリ線の摩耗量の時系列的変化やトロリ線のパンタグラフに対する接触力の時系列的変化を比較することが行われている。より具体的には、トロリ線の同一地点における摩耗量を過去と現在とで比較することで、トロリ線の健全性の確認を行っている。
【0003】
このような装置において、過去のデータと現在のデータとの比較は、相互の測定位置(すなわち車両の走行位置)を同期させることにより行われる。
【0004】
従来、車両の走行位置を検出する装置として、予め走行中に収録したGPS(Global Positioning System)データをレールの曲率に変換し、このGPSデータを走行位置と関連付けて記録し、次いで走行中の線路曲率値と対照させて、走行位置を取得する技術が開示されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0005】
また、パンタグラフのある箇所とない箇所とでトロリ線の高さを測定し、双方のトロリ線の高さの差分を取ってパンタグラフがトロリ線を押し上げる押し上げ量を求めるトロリ線の位置測定装置において、車軸パルス信号を用いて取得した走行位置と高さとを同期して収録する際、車軸パルス信号の誤差によって生じた走行位置のずれを相互相関によって補正する技術も開示されている(例えば、下記特許文献2参照)。
【0006】
また、トロリ線の摩耗と偏位を同時に測定し、測定した摩耗及び偏位のデータを横軸が測定位置、縦軸が偏位、縦幅が摩耗を示すグラフにして過去から現在までの複数のグラフを比較するようにしたものもある(例えば、下記特許文献3参照)。
なお、ここでいう偏位とは、トロリ線がパンタグラフに接触する際の、パンタグラフ上の横方向の位置で、パンタグラフ中心からの距離である。換言すると、パンタグラフ中心からトロリ線までの枕木方向の距離である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−271255号公報
【特許文献2】特開2006−284535号公報
【特許文献3】特開2010−127746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された発明においては、直線区間は曲率に変化がないため、この直線区間における走行位置の補正が難しいという問題があった。
【0009】
また、上述した特許文献2に記載された発明においては、同時に収録した二つのデータ間で位置補正を行うのみであり、測定する同一区間の二つのデータを同時に収録する必要があるという問題、異なる時期に収録された過去のデータと現在のデータとを比較することが困難であるという問題があった。
【0010】
また、特許文献3に記載された発明においては、過去から現在までに測定した複数の摩耗データをグラフにしており、これら複数の摩耗グラフを比較することで摩耗の進行度合いや経年変化を管理することができる。しかし、各々の摩耗データにおいて測定位置(車両の走行位置)の情報に誤差があると、位置ずれが生じた状態で複数の摩耗グラフを比較することとなり、正確な比較ができないという問題があった。
【0011】
このように、摩耗量の測定位置が過去と現在とで一致しない場合、過去と現在の摩耗量を正確に比較することができないおそれがあった。
【0012】
このようなことから本発明は、過去のトロリ線データと現在のトロリ線データとの測定位置のずれを修正し高精度にトロリ線の測定を行うことを可能としたトロリ線データ比較装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための第1の発明に係るトロリ線データ比較装置は、車両の屋根上に配置されて鉛直上方のトロリ線を撮影するラインセンサカメラと、前記車両の走行位置情報を取得する車両位置情報取得手段と、前記ラインセンサカメラから入力される映像信号を収録する画像録画手段と、前記画像録画手段から取得した前記映像信号に基づいてトロリ線の過去の摩耗量と現在の摩耗量とを比較する画像処理手段とを備えるトロリ線データ比較装置において、前記ラインセンサカメラの走査線方向が前記車両の進行方向に直交し、前記画像処理手段が、前記映像信号と前記走行位置情報とから前記トロリ線の摩耗量及び偏位と走行位置とを関連付けてなるトロリ線偏位画像を作成するラインセンサ画像入力手段と、前記トロリ線偏位画像から画像処理により前記トロリ線の摩耗量及び偏位を抽出する摩耗・偏位抽出手段と、前記トロリ線偏位画像及び過去に取得した他のトロリ線偏位画像の偏位と走行位置との関係のずれを位置ずれ量として検出する偏位位置ずれ検出手段と、前記摩耗・偏位抽出手段において抽出した前記トロリ線の摩耗量及び偏位を前記位置ずれ量を前記トロリ線偏位画像に反映した上で前記他のトロリ線偏位画像と比較する摩耗量比較手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記の課題を解決するための第2の発明に係るトロリ線データ比較装置は、第1の発明に係るトロリ線データ比較装置において、前記車両の屋根上に設置され前記ラインセンサカメラと同期して前記車両のパンタグラフを撮影する他のラインセンサカメラを備え、前記画像録画手段が前記他のラインセンサカメラから入力される他の映像信号を収録し、前記画像処理手段が、前記他の映像信号と前記走行位置情報とから前記パンタグラフの高さ、硬点、及び接触力と走行位置とを関連付けてなるパンタグラフ高さ画像を作成する他のラインセンサ画像入力手段と、前記パンタグラフ高さ画像から前記トロリ線の高さ、硬点及び接触力を抽出する高さ・硬点・接触力抽出手段と、前記高さ・硬点・接触力抽出手段において抽出した前記トロリ線の高さ、硬点、及び接触力を前記位置ずれ量を前記パンタグラフ高さ画像に反映した上で過去の他のパンタグラフ高さ画像と比較する高さ・硬点・接触力比較手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
上記の課題を解決するための第3の発明に係るトロリ線データ比較装置は、第1又は第2の発明に係るトロリ線データ比較装置において、前記偏位位置ずれ検出手段が、相互相関を利用して前記トロリ線画像と前記他のトロリ線画像との位置ずれ量を検出することを特徴とする請求項1または請求項2記載のトロリ線データ比較装置。
【発明の効果】
【0016】
上述した第1の発明に係るトロリ線データ比較装置によれば、ラインセンサカメラによってトロリ線を撮影した画像、すなわち、トロリ線の摩耗量と偏位とが同時に映った画像を取得し、この画像を解析してトロリ線偏位画像を過去のトロリ線偏位画像と同期させることにより実際の測定位置と走行位置情報とのずれを修正することができるので、過去と現在のトロリ線の摩耗量を高精度に比較することが可能となる。
【0017】
また、第2の発明に係るトロリ線データ比較装置によれば、上述した第1の発明に係るトロリ線データ比較装置による効果に加えて、パンタグラフ高さ画像における実際の測定位置と走行位置情報とのずれを修正することができるので、過去と現在のトロリ線の高さ、硬点、及び接触力をそれぞれ高精度に比較することが可能となる。
【0018】
また、第3の発明に係るトロリ線データ比較装置によれば、上述した第1又は第2の発明に係るトロリ線データ比較装置による効果に加えて、位置ずれ量を高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1に係るトロリ線データ比較装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施例1に係るトロリ線データ比較装置の画像処理部の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例1に係るトロリ線データ比較装置の画像処理部における処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図4(a)は過去のトロリ線偏位画像を示す模式図、図4(b)は本発明の実施例1に係るトロリ線データ比較装置によって取得した現在のトロリ線偏位画像を示す模式図である。
【図5】トロリ線の偏位を説明する説明図である。
【図6】本発明の実施例2に係るトロリ線データ比較装置の概略構成図である。
【図7】本発明の実施例2に係るトロリ線データ比較装置の画像処理部の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施例2に係るトロリ線データ比較装置の画像処理部における処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】パンタグラフ高さ画像を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るトロリ線データ比較装置について説明する。
【実施例1】
【0021】
(偏位測定値を相互相関で位置補正し、現在と過去の摩耗測定値を比較)
図1ないし図5を用いて本発明の第1の実施例に係るトロリ線データ比較装置について説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施例に係るトロリ線データ比較装置は、車両1の屋根上に設置されてトロリ線6の撮像を行うラインセンサカメラ2と、車両1の位置情報を取得する車両位置情報取得手段としての車両位置情報取得部3と、車両1の車室内に設置されてラインセンサカメラ2によって撮像した画像を収録する画像録画手段としての画像録画部4と、車両1の車室内に設置されて画像処理部4に収録された画像の解析を行う画像処理手段としての画像処理部5とから構成されている。
【0023】
ラインセンサカメラ2は鉛直上方を撮影するように、且つ、その走査線方向が車両1の進行方向に対して直交するように設置されてトロリ線6を撮像する。これにより、トロリ線6の摩耗量と偏位とを同時に撮影することができる。ラインセンサカメラ2から出力される映像信号(輝度信号)Iは画像録画部4に入力される。
【0024】
車両位置情報取得部3は車両1の位置情報(以下、「車両位置情報」という)Pを既知の手法により取得する。車両位置情報Pは画像処理部5に入力される。
画像録画部4は、ラインセンサカメラ2から入力された映像信号Iを収録する。
【0025】
画像処理部5は、車両位置情報取得部3から入力される車両位置情報Pおよび画像録画部4によって取得した映像信号Iに基づいてトロリ線6の摩耗量および偏位を求めるものであって、図2に示すようにラインセンサ画像入力手段としてのラインセンサ画像入力部5a、摩耗・偏位抽出手段としての摩耗・偏位抽出部5b、偏位位置ずれ検出手段としての偏位位置ずれ検出部5c、摩耗量比較手段としての摩耗量比較部5d、及び処理メモリ5eを備えている。
【0026】
以下、図3および図4を用いて画像処理部5における処理の流れを説明する。
図3に示すように、画像処理部5では、まずラインセンサ画像入力部5aにおいてラインセンサカメラ2から出力される映像信号Iを画像録画部4を介して入力する。そして、映像信号Iを時系列的に並べてなるラインセンサ画像(以下、「トロリ線画像」という)と車両位置情報取得部3から入力される車両位置情報Pとから図4(b)に示すような現在のトロリ線偏位画像8を作成する(ステップP11)。具体的には、トロリ線画像は横軸が時刻の画像なので、同時に収録する車両位置情報Pと関連付けることによりトロリ線画像の横軸を位置pに変換する処理を行う。
【0027】
なお、図4(b)に示すトロリ線偏位画像8中の8aはトロリ線の軌跡(以下、「トロリ線軌跡」という)であり、横軸は車両位置情報Pに基づいて関連付けられた位置p、縦軸はトロリ線の偏位x2、トロリ線軌跡8aの幅w2はトロリ線6の摩耗量(摩耗幅)に対応する。また、ALは直線区間、ACは曲線区間、x0はパンタグラフ9の中心位置に対応している。これは図4(a)に示し後述する過去のトロリ線偏位画像7においても同様である。
【0028】
ステップP11に続いては、摩耗・偏位抽出部5bにおいて、現在のトロリ線偏位画像8中から二値化処理によりトロリ線6の摩耗量w2および偏位x2を抽出する(ステップP12)。
ここで、「トロリ線の偏位」とは、図5に示すように、パンタグラフ9中心からトロリ線6がパンタグラフ9に接触する箇所までの距離である。換言すると、パンタグラフ9中心からトロリ線6までの枕木方向の距離である。
【0029】
ステップP12に続いては、偏位位置ずれ検出部5cにおいて図4(a)に示す過去のトロリ線6の偏位x1と図4(b)に示す現在のトロリ線6の偏位x2の相互相関を行い、現在のトロリ線6の偏位x2に対する位置pと過去のトロリ線6の偏位x1に対する位置pとのずれ、すなわち、実際の測定位置と車両位置情報Pとのずれを位置ずれ量τとして求める(ステップP13)。
具体的に説明すると、位置pにおける過去と現在のトロリ線6の偏位をそれぞれx1(p)、x2(p)とすると、過去と現在のトロリ線6の偏位x1(p)、x2(p)の相互相関Cx1x2は下式(1)で求められる。下式(1)において相互相関Cx1x2が1に最も近くなるτを求めることで、現在のトロリ線軌跡8aと過去のトロリ線軌跡7aとの一致度が最も高くなる位置ずれ量τを得る。
【0030】
【数1】

【0031】
図4に示すように、トロリ線6の軌跡7a,8aは、直線区間ALの場合電柱通過の箇所がとがった三角波の形状になり、曲線区間ACでも、電柱通過の箇所が尖った正弦波の半分のような形状になる。このようにトロリ線偏位画像7,8においてトロリ線軌跡7a,8aは直線区間ALでも曲線区間ACでも特徴的な形状になるので、二つのトロリ線偏位画像7,8間で相互相関を行いやすく、容易且つ高精度に位置ずれ量τを求めることができる。
【0032】
ステップP13に続いては、摩耗量比較部5dにおいて過去のトロリ線軌跡7aと偏位位置ずれ検出部5cで得られた位置ずれ量τを反映して得られる現在の実際の測定位置(p−τ)におけるトロリ線軌跡8bとの比較を行う(ステップP14)。すなわち、位置pにおける過去と現在のトロリ線6の摩耗量をそれぞれw1(p)、w2(p)としたときのトロリ線偏位画像7上の摩耗量w1(p)とトロリ線偏位画像8上の位置ずれ補正後の摩耗量w2(p−τ)との比較を行う。比較結果は偏位と摩耗の比較チャートとして処理メモリ5eを経て出力される。
【0033】
続いて、ラインセンサカメラ2からの画像の入力が終了したか否かを判断し、画像の入力が終了していない場合(No)はステップP11の処理に戻る一方、画像の入力が終了している場合(Yes)は処理を終了する(ステップP15)。
【0034】
以上に説明した本実施例に係るトロリ線データ比較装置によれば、ラインセンサカメラ2によってトロリ線6を撮影し、トロリ線6の摩耗量w2および偏位x2が同時に撮像された現在のトロリ線偏位画像8を取得して過去に撮影したトロリ線偏位画像7と現在のトロリ線偏位画像8との相互相関を取り、トロリ線の実際の測定位置と車両位置情報Pとの位置ずれ量を過去のトロリ線偏位画像7に対する現在のトロリ線偏位画像8の位置ずれ量τとして求めることにより、過去のトロリ線偏位画像7と現在のトロリ線偏位画像8とを同期させることができるため、トロリ線の摩耗量w1,w2を高精度に比較することが可能となる。
【0035】
しかも、トロリ線偏位画像7,8は、直線区間ALでも曲線区間ACでも特徴のある形状となる。これは電車線の構造上の理由によるもので、図4に示すような波形を描く。このように、直線区間ALであっても曲線区間ACであっても測定位置の位置ずれを容易に且つ高精度に求めることができるため、過去のトロリ線偏位画像7と現在のトロリ線偏位画像8との位置合わせを高精度に行うことができる。
【0036】
このように、本実施例に係るトロリ線データ比較装置は、車軸のパルス信号やATC信号を重視して過去のデータと現在のデータを比較するのではなく、トロリ線6の摩耗量w1,w2や偏位x1,x2のデータが有する特徴に着目し、データを相互相関計算して位置ずれ量τを補正し、過去のトロリ線摩耗量w1と現在のトロリ線摩耗量w2との比較を高精度に行うことを特徴としている。
【実施例2】
【0037】
(偏位測定値を相互相関で位置補正し、現在と過去の接触力測定値を比較)
図6ないし図9を用いて本発明の第2の実施例に係るトロリ線データ比較装置について説明する。
【0038】
図6に示すように、本実施例に係るトロリ線データ比較装置は、車両1の屋根上に設置される第一ラインセンサカメラ12Aおよび第二ラインセンサカメラ12Bと、車両の位置情報を取得する車両位置情報取得手段としての車両位置情報取得部13と、車両1の車室内に設置される画像録画手段としての画像録画部14及び画像処理手段としての画像処理部15とから構成されている。
【0039】
第一ラインセンサカメラ12Aは図1に示し実施例1において説明したラインセンサカメラ2と同様に、鉛直上方を撮影するように、且つ、その走査線方向が車両1の進行方向に対して垂直且つ水平となるように設置されてトロリ線6の摩耗と偏位を同一画像上に撮影する。これにより、第一ラインセンサカメラ12Aは、走査線がトロリ線6と交差した状態でトロリ線6を撮像するようになっている。この第一ラインセンサカメラ12Aから出力される映像信号(輝度信号)IAは画像録画部14に入力される。
【0040】
また、第二ラインセンサカメラ12Bは、その走査線方向がパンタグラフ9と直交するように、且つ、第一ラインセンサカメラ12Aと同期してパンタグラフ9を撮影するように設置されている。この第二ラインセンサカメラ12Bから出力される映像信号(輝度信号)IBは画像録画部14に入力される。
【0041】
車両位置情報取得部13は車両位置情報Pを取得する。車両位置情報Pは画像処理部15に入力される。
画像録画部14は、ラインセンサカメラ12A,12Bに対して同期信号Sを出力するとともに、ラインセンサカメラ12A,12Bから入力された映像信号IA,IBをそれぞれラインセンサ画像(以下、それぞれ「トロリ線画像」、「パンタグラフ画像」という)として収録する。
【0042】
画像処理部15は、車両位置情報取得部13から入力される車両の位置情報Pおよび画像録画部14によって取得した映像信号IA,IBに基づいてトロリ線6の摩耗量、偏位、高さ、硬点、および接触力を求めるものであり、図7に示すようにラインセンサ画像入力手段としての第一ラインセンサ画像入力部15a、摩耗・偏位抽出手段としての摩耗・偏位抽出部15b、偏位位置ずれ検出手段としての偏位位置ずれ検出部15c、摩耗量比較手段としての摩耗量比較部15d、他のラインセンサ画像入力手段としての第二ラインセンサ画像入力部15f、高さ・硬点・接触力抽出手段としての高さ・硬点・接触力抽出部15g、高さ・硬点・接触力比較手段としての高さ・硬点・接触力比較部15h及び処理メモリ15eを備えている。
【0043】
以下、図8及び図9を用いて画像処理部15における処理の流れを説明する。なお、以下に説明するステップP21〜P24の処理については図3ないし図5に示し上述した実施例1のステップP11〜P14の処理とおおむね同様であり、同一の処理については重複する説明を適宜省略し、異なる点を中心に説明する。
【0044】
図8に示すように、画像処理部15では、まず第一ラインセンサ画像入力部15aにおいてラインセンサカメラ12Aから入力される映像信号IAをそれぞれ画像録画部14を介して入力し、これを時系列的に並べてなるトロリ線画像と車両位置情報取得部3から入力される車両位置情報Pとから図4(b)に示すような現在のトロリ線偏位画像8を作成する(ステップP21)。
【0045】
続いて、摩耗・偏位抽出部15bにおいて、現在のトロリ線偏位画像8中から二値化処理によりトロリ線6の摩耗量w2および偏位x2を抽出する(ステップP22)。
【0046】
ステップP22に続いては、偏位位置ずれ検出部15cにおいて図4(a)に示す過去のトロリ線6の偏位x1と図4(b)に示す現在のトロリ線6の偏位x2の相互相関を行い、現在のトロリ線6の偏位x2に対する位置pと過去のトロリ線6の偏位x1に対する位置pとの位置ずれ量τを求める(ステップP23)。
【0047】
ステップP23に続いては、摩耗量比較部15dにおいて過去のトロリ線軌跡7aと偏位位置ずれ検出部15cで得られた位置ずれ量τを反映して得られる現在のトロリ線軌跡8bとの比較を行う(ステップP24)。
【0048】
ステップP24に続いては、第二ラインセンサ画像入力部15fにおいて第二ラインセンサカメラ12Bから入力される映像信号IBを画像録画部14を介して入力し、これを時系列的に並べてなるパンタグラフ画像と車両位置情報取得部13から入力される車両位置情報Pとから図9に示すようなパンタグラフ高さ画像10を作成する(ステップP25)。具体的には、パンタグラフ画像は横軸が時刻の画像なので、同時に収録する車両位置情報Pと関連付けることによりパンタグラフ画像の横軸を位置pに変換する処理を行う。
【0049】
続いて、高さ・硬点・接触力抽出部15gにおいて、パンタグラフ高さ画像10中から二値化処理又はパターンマッチングによりパンタグラフ9の高さをトロリ線の高さHとして抽出し、この高さHを二回微分することで硬点(加速度)を算出し、この加速度と質量を乗算して得た力とばね係数と高さの変位を乗算して得た力とを加算して得られる接触力を算出する(ステップP26)。ここで、硬点は、一定値以上の加速度となる点はトロリ線のしなやかさが無い点であることを利用して検出する。
【0050】
ここで、電気鉄道設備においては、検査項目の一つとしてトロリ線の硬点の計測が挙げられる。例えば、トロリ線はちょう架線にハンガで吊り下げられた状態になっている。このハンガが設置されている箇所や、その他、トロリ線の接続箇所や曲線引がある部分などは他の部分に比べトロリ線の重量が部分的に増加しており、「トロリ線の硬点」と呼ばれる。
【0051】
また、図9に示すパンタグラフ高さ画像10について詳しく説明すると、図9に示すパンタグラフ高さ画像10中の10aはパンタグラフ9の軌跡(以下、「パンタグラフ軌跡」という)であり、横軸は車両位置情報Pに基づいて関連付けられた位置p、縦軸はトロリ線6の高さH、H0はパンタグラフ9の中心位置を示している。
【0052】
ステップP26続いては、高さ・硬点・接触力比較部15hにおいて偏位位置ズレ検出部15cで得られた位置ずれ量τを、トロリ線の高さ、硬点、接触力に反映し、過去のトロリ線の高さ、硬点、接触力のデータと比較する。
具体的には、過去のトロリ線6の高さおよび現在のトロリ線6の高さをそれぞれH1(p)、H2(p)、過去の硬点および現在の硬点をそれぞれa1(p),a2(p)、過去の接触力および現在の接触力をそれぞれF1(p),F2(p)としたときのH1(p)とH2(p−τ)、a1(p)とa2(p−τ)、F1(p)とF2(p−τ)を比較する(ステップP27)。
【0053】
続いて、画像の入力が終了したか否かを判断し、画像の入力が終了していない場合(No)はステップP21の処理に戻り、画像の入力が終了している場合(Yes)は処理を終了する(ステップP28)。
以上が、本実施例に係る画像処理部15における処理である。
【0054】
上述した本実施例に係るトロリ線データ比較装置によれば、実施例1に係るトロリ線データ比較装置による効果に加えて、第一ラインセンサカメラ12Aと同期して撮影を行う第二ラインセンサカメラ12Bによってパンタグラフ9を撮影し、トロリ線6の偏位に基づいて求めた位置ずれ量τを利用して現在のパンタグラフ高さ画像10の実際の測定位置と車両位置情報Pとの位置ずれ量τを補正することができるので、過去と現在のそれぞれトロリ線6の高さH1,H2・硬点a1,a2・接触力F1,F2を高精度に比較することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、通過する電車のパンタグラフと接触して摩耗する電車線設備のトロリ線の摩耗の進行度合いを把握するためにデータの時系列的変化や接触力の時系列的変化を比較する手段を備えたトロリ線データ比較装置に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0056】
1 車両
2,12A,12B ラインセンサカメラ
3,13 車両位置情報取得部
4,14 画像録画部
5,15 画像処理部
5a ラインセンサ画像入力部
5b,15b 摩耗・偏位抽出部
5c,15c 偏位位置ずれ検出部
5d,15d 摩耗量比較部
5e,15e 処理メモリ
15a 第一ラインセンサ画像入力部
15f 第二ラインセンサ画像入力部
15g 高さ・硬点・接触力抽出部
15h 高さ・硬点・接触力比較部
6 トロリ線
7 過去のトロリ線偏位画像
7a 過去のトロリ線軌跡
8 現在のトロリ線偏位画像
8a,8b 現在のトロリ線軌跡
9 パンタグラフ
10 現在のパンタグラフ高さ画像
10a 現在のパンタグラフ軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の屋根上に配置されて鉛直上方のトロリ線を撮影するラインセンサカメラと、前記車両の走行位置情報を取得する車両位置情報取得手段と、前記ラインセンサカメラから入力される映像信号を収録する画像録画手段と、前記画像録画手段から取得した前記映像信号に基づいてトロリ線の過去の摩耗量と現在の摩耗量とを比較する画像処理手段とを備えるトロリ線データ比較装置において、
前記ラインセンサカメラの走査線方向が前記車両の進行方向に直交し、
前記画像処理手段が、
前記映像信号と前記走行位置情報とから前記トロリ線の摩耗量及び偏位と走行位置とを関連付けてなるトロリ線偏位画像を作成するラインセンサ画像入力手段と、
前記トロリ線偏位画像から画像処理により前記トロリ線の摩耗量及び偏位を抽出する摩耗・偏位抽出手段と、
前記トロリ線偏位画像及び過去に取得した他のトロリ線偏位画像の偏位と走行位置との関係のずれを位置ずれ量として検出する偏位位置ずれ検出手段と、
前記摩耗・偏位抽出手段において抽出した前記トロリ線の摩耗量及び偏位を前記位置ずれ量を前記トロリ線偏位画像に反映した上で前記他のトロリ線偏位画像と比較する摩耗量比較手段と
を備える
ことを特徴とするトロリ線データ比較装置。
【請求項2】
前記車両の屋根上に設置され前記ラインセンサカメラと同期して前記車両のパンタグラフを撮影する他のラインセンサカメラを備え、
前記画像録画手段が前記他のラインセンサカメラから入力される他の映像信号を収録し、
前記画像処理手段が、
前記他の映像信号と前記走行位置情報とから前記パンタグラフの高さ、硬点、及び接触力と走行位置とを関連付けてなるパンタグラフ高さ画像を作成する他のラインセンサ画像入力手段と、
前記パンタグラフ高さ画像から前記トロリ線の高さ、硬点及び接触力を抽出する高さ・硬点・接触力抽出手段と、
前記高さ・硬点・接触力抽出手段において抽出した前記トロリ線の高さ、硬点、及び接触力を前記位置ずれ量を前記パンタグラフ高さ画像に反映した上で過去の他のパンタグラフ高さ画像と比較する高さ・硬点・接触力比較手段と
を備える
ことを特徴とする請求項1記載のトロリ線データ比較装置。
【請求項3】
前記偏位位置ずれ検出手段が、相互相関を利用して前記トロリ線画像と前記他のトロリ線画像との位置ずれ量を検出する
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載のトロリ線データ比較装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−44694(P2013−44694A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184366(P2011−184366)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】