トンネル坑口部構造及び緩衝工装置
【課題】比較的小さな断面積でも微気圧波の衝撃音を低減できるトンネル坑口部構造を提供すること。
【解決手段】トンネル10の入口から車両1が突入して発生する急激な圧力変動の微気圧波を低減するトンネル坑口部構造において、トンネル10の入口部に断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成した。
【解決手段】トンネル10の入口から車両1が突入して発生する急激な圧力変動の微気圧波を低減するトンネル坑口部構造において、トンネル10の入口部に断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば新幹線等のように高速で走行する車両が通過するトンネルに適用されるトンネル坑口部構造及び緩衝工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば新幹線や浮上式鉄道等のように高速で走行する車両がトンネル入口に突入する際には、トンネル内において急激な圧力変動が発生する。この圧力変動は、圧縮波としてトンネル内部を伝わってトンネル出口側に至り、微気圧波と呼ばれるパルス状の圧力波となる。このような微気圧波の強さは、トンネル内の圧縮波面の勾配に比例することが報告されている。(たとえば、非特許文献1参照)
微気圧波は衝撃音を伴い、付近住民に対する環境問題となっており、これを解決するため、従来より緩衝工装置と呼ばれるフード状の構造物がトンネルを延長する形でトンネル坑口外部に設けられている。このような緩衝工装置は、通常トンネル断面より大きな一定断面に形成したフード状の構造物であるが、単純な断面積の減少部や途中に開口を設ける等の工夫が施されたものもある。また、微気圧波に伴う衝撃音の低減効果は、緩衝工装置の入口断面形状(断面積)を大きくするほどよいとされる。
【0003】
一方、近年のさらなる車両高速化に伴い、高速車両が外部から緩衝工装置へ、または緩衝工装置からトンネル入口へ突入する際、あるいは、高速車両がトンネルから緩衝工装置へ、または緩衝工装置から外部へ退出する際には、トンネルの出入口で発生し、出入口周辺に直接放射される低周波音のエネルギーも大きくなる。このような低周波音は、トンネル出入口付近の家屋等を振動させる原因となるので、低周波音の低減効果も大きい緩衝工装置が提案されている。この緩衝工装置は、フード状構造物の壁や天井等を一部切り欠いた切欠部もしくは端部側へ断面積を逓増させた開端部を備えたり、あるいは、断面積が逓減する絞り部を備えた構成とされる。(たとえば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開2000−80890号公報(図1ないし図3参照)
【非特許文献1】小沢智,「トンネル出口微気圧波の研究」,鉄道技術研究報告, 日本国有鉄道鉄道技術研究所,1979年,7月24日, No.1121,p.17−18
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の緩衝工装置のように、一定断面や単調な断面積減少等では微気圧波に伴う衝撃音の低減効果が満足できるレベルにないというのが実情である。このため、車両の高速化が今後も促進される状況にあっては、より厳しい条件下で環境問題を解消するため、低減効果をより一層向上させることが望まれる。
また、従来の緩衝工装置は、通常トンネル内より大きい一定断面のフード状構造物であり、しかも、入口の断面積を大きくするほど衝撃音の低減効果も良好であるため、立地条件によってはトンネルの坑口付近に設置することが困難になることも予想される。
このような背景から、トンネルの断面積に近いできるだけ小さな断面積にして、微気圧波に伴う衝撃音の良好な低減効果を得られるトンネル坑口部構造及び緩衝工装置の開発が望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、比較的小さな断面積でも微気圧波に伴う衝撃音を低減できるトンネル坑口部構造及び緩衝工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明のトンネル坑口部構造は、トンネル入口から車両が突入して発生する急激な圧力変動に起因する微気圧波を低減するトンネル坑口部構造において、前記トンネル入口部に断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成したことを特徴とするものである。
【0006】
このような本発明のトンネル坑口部構造によれば、トンネル入口部に断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成したので、高速で走行する車両がトンネル内に突入して発生する圧縮波面の勾配は、断面積の増加により減少する。
【0007】
上記のトンネル坑口部構造において、前記緩衝領域は、断面積の増減を繰り返すことが好ましく、これにより、圧縮波面の勾配は断面積の増減により緩急を繰り返しながら減少する。
また、上記のトンネル坑口部構造において、前記緩衝領域は、断面積の増加割合が減少割合より急激に設定されていることが好ましく、これにより、圧縮波面の勾配は急激に減少する。
【0008】
上記のトンネル坑口部構造において、前記緩衝領域は、トンネル外部に設置される緩衝工装置に形成されていることが好ましく、これにより、衝撃音対策としてトンネル内の断面積を変更する必要はない。
また、上記のトンネル坑口部構造において、前記緩衝領域の少なくとも一部がトンネル内部に形成されていることが好ましく、これにより、トンネルの立地条件により緩衝工装置の設置が困難な場合でも衝撃音対策を実施できる。特に、必要な緩衝領域を全てトンネル内に形成すれば、トンネル入口周辺の立地条件に影響されることはない。
【0009】
本発明の緩衝工装置は、トンネルの坑口部に設置され、車両の突入により発生する急激な圧力変動に起因する微気圧波を低減する緩衝工装置において、断面積が増加する部分を含む緩衝領域を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
このような本発明の緩衝工装置によれば、断面積が増加する部分を含む緩衝領域を備えているので、高速で走行する車両がトンネルの坑口部に設置された緩衝工装置内に突入して発生する圧縮波面の勾配は、断面積の増加により減少する。
【0011】
上記の緩衝工装置において、前記緩衝領域は、断面積の増減を繰り返すことが好ましく、これにより、圧縮波面の勾配は断面積の増減により緩急を繰り返しながら減少する。
また、上記の緩衝工装置において、前記緩衝領域は、断面積の増加割合が減少割合より急激に設定されていることが好ましく、これにより、圧縮波面の勾配は急激に減少する。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明のトンネル坑口部構造によれば、断面積が増加する部分を含む緩衝領域をトンネル入口部に形成したので、高速で走行する車両がトンネル内に突入して発生する圧縮波面の勾配は断面積の増加により減少し、トンネル内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音が低減される。また、断面積の増減を繰り返したり、断面積の増加割合を減少割合より急激に設定したりすることにより、トンネル内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音を低減する効果はより一層向上するので、トンネル出口付近で発生していた衝撃音の環境問題を低減または解決するという顕著な効果が得られる。
さらに、緩衝領域の少なくとも一部をトンネル内部に形成することにより、トンネル入口周辺の立地条件に影響されることなく、トンネルと比較してそれほど大きな断面積とすることなく容易に衝撃音対策を実施することができる。
【0013】
また、上述した本発明の緩衝工装置によれば、断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成したので、高速で走行する車両がトンネルの坑口部に設置された緩衝工装置内に突入して発生する圧縮波面の勾配は断面積の増加により減少する。このため、トンネル内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音が低減され、さらに、断面積の増減を繰り返したり、断面積の増加割合を減少割合より急激に設定したりすることにより、トンネル内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音を低減する効果はより一層向上するので、この緩衝工装置を設置することにより、トンネル出口付近で発生していた衝撃音の環境問題を低減または解決するという顕著な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るトンネル坑口部構造及び緩衝工装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)に示すトンネル10は、たとえば新幹線や超電導磁気浮上式リニアモーターカーのように高速で走行する車両1が通過するもので、両方の坑口部11にはフード状構造物の緩衝工装置20が隙間なく設置されている。この緩衝工装置20は、たとえば鉄骨等で形成したフレームに鋼材等の壁面を取り付けた構成とされる。
【0015】
緩衝工装置20は地上に固定設置され、車両1が走行する空間を覆って外部から遮断するように構成されている。緩衝工装置20の内壁面21は、断面積が増加する部分を含む緩衝領域を備えている。図1に示す緩衝工装置20の場合、断面形状が略半円形状のフード状とされ、軸方向(車両進行方向)に断面積の増減を繰り返すことで鋸歯状の断面形状となる緩衝領域が全長にわたって形成されている。この緩衝領域において、最も断面積の小さい部分は、車両1の通過に支障がないようトンネル10の断面積と同様になる。
緩衝領域に設けた断面積の増減は、図1(b)に示す例では、車両1が進入してくる入口部22の断面積S1を最大とし、トンネル10の内部へ向けて直線的に減少して最小の断面積S2となる。そして、最小の断面積S2から最大の断面積S1に再度増加する領域を形成した後、以下同様の断面積変化(S1→S2→S1→S2・・・)を繰り返し、最終的にトンネル10と同じ断面積となって連結される。この場合、断面積が増加(S2→S1)する割合は、断面積が減少する割合(S1→S2)より急激になるよう設定されている。なお、最小の断面積S2は、トンネル10の断面積と同じになる。
【0016】
ところで、上述した図1の実施形態では、別体の緩衝工装置20に必要長さの緩衝領域を形成してトンネル10の外部に連結する構成としたが、たとえば図2に示すように、立地条件等に応じて緩衝領域の少なくとも一部がトンネル10の内部に形成された構成としてもよい。
具体的には、たとえば地形や用地の問題等により、トンネル10の両側に緩衝工装置20を設置する十分なスペースの確保が困難な場合や、設置は可能であっても工事等に多額のコストを要する場合など、緩衝工装置20の一部または全体をトンネル10の内部に組み込んで設置すればよい。
【0017】
図2(a)に示す第1変形例では、断面積変化を繰り返す緩衝領域の必要長さが、トンネル10の外側に設置した緩衝工装置20と、トンネル10の内面に形成した断面積変化部12とにより確保されている。この場合、トンネル10内の断面積変化部12については、たとえば必要長さとした緩衝工装置20の一部をトンネル10内に埋め込んで形成してもよいし、あるいは、トンネル10の内壁面を直接鋸歯状に形成してもよい。
また、図2(b)に示す第2変形例のように、緩衝領域の全てをトンネル10の坑口部11からトンネル内部へ向けて形成してもよい。この場合、必要長さの緩衝工装置20を全てトンネル10内に埋め込む構成としてもよいし、あるいは、トンネル10の内壁面を必要長さにわたって直接鋸歯状に形成してもよい。
【0018】
ここで、上述した緩衝領域の効果について、図3に示す4種類の解析モデル毎に解析結果を図4ないし図7に示して説明する。なお、図3において、横軸を緩衝工装置20及びトンネル10の軸方向長さXとし、縦軸に断面積Aの変化が示されている。
図3に示す解析モデルは、(1)緩衝工装置なし、(2)基本緩衝工装置、(3)緩衝工装置1及び(4)緩衝工装置2の4種類である。
【0019】
図3に示す解析モデルにおいて、(1)の「緩衝工装置なし」は、緩衝工装置20が全く設けられていない通常のトンネル10のことであり、その模式図が図3に一点鎖線で示されている。すなわち、トンネル10の坑口部11から反対側坑口まで、トンネル内部の断面積変化がない解析モデルである。なお、図3の緩衝工装置部分に示す一点鎖線は、後述する解析モデルにおける断面積変化の基準線(最小面積)としてトンネル10の断面積を延長したものである。
「緩衝工装置なし」の解析モデルについて、その解析結果を図4に示す。この解析結果は、横軸を空間とし、縦軸を時間として、一本の線における高さが各時刻における圧力時間変化(∂p/∂t)の空間分布を示している。
【0020】
図4のグラフにおいて、車両1が走行して先端部が坑口部11からトンネル10内に入ると、トンネル10の断面積が車両1の断面積分だけ減少する。このため、トンネル10の内圧は急激に上昇し、圧力時間変化は急激に大きくなる。すなわち、車両1がトンネル10内に突入することにより、圧縮波(突入波)が発生して圧力時間変化は急増することとなる。この圧力時間変化の急変は、図4のグラフにおいて、各時刻毎の分布を示す線で紙面右側から左側へ延びる平坦な水平線が略垂直に立ち上がる急変部分に表れている。
そして、圧力時間変化の急変後においては、坑口部11から進入する車両1の断面形状が先端部から略一定になるまでの間(以下、「先頭部」と呼ぶ)、車両1の断面積変化やノイズ等により多少の変動を伴うものの、トンネル10内は比較的高い圧力に保たれるため顕著な圧力時間変化は見られない。
【0021】
すなわち、図4においては、上述した圧力時間変化の急増により屹立する壁面状部分で突入波が形成され、この壁面状部分より紙面左側に存在する凹部(圧力が減少する方向に変化する部分)の後には、トンネル10の断面積が一定でかつ車両1の断面積も略一定になるためほとんど圧力時間変化のない状態となる。
このような圧力時間変化の分布を見ると、トンネル10の坑口部11に車両1が進入する際に大きな圧力時間変化を生じた後にはそれほど大きな変化はなく、特に、車両1の断面積が略一定になった後は安定した状態となる。このため、トンネル10の入口部で発生した突入波はトンネル10内を伝播し、反対側の出口で微気圧波の騒音(パルス音)となる。
【0022】
次に、図3に示す解析モデルにおいて、(2)の「基本緩衝工装置」は、トンネル10の断面積より大きな一定断面形状(断面積一定)の緩衝工装置を設置した場合であり、その模式図が図3に二点鎖線で示されている。すなわち、緩衝工装置からトンネル10に入る時点で1回だけ断面形状が変化し、緩衝工装置の断面積からトンネル10の断面積に減少する場合の解析モデルである。
この「基本緩衝工装置」の解析結果は図5に示されており、圧力時間変化の分布傾向は上述した「緩衝工装置なし」と酷似している。但し、圧力時間変化の急増により屹立する壁面状の部分は緩衝工装置の入口より伝播したものであり、この壁面状部分より紙面左側の凹部は緩衝工装置内で移動する車両1の先頭部の軌跡である。なお、壁面状部分及び凹部と交差するように形成された凸状の部分は、緩衝工装置からトンネル10に入る部分で断面積が減少した部分からの圧力波の伝播を示す。
緩衝工装置の入口で発生する圧縮波は、上述した「緩衝工装置なし」の場合と比較して断面積が大きいためやや小さくなるものの、緩衝工装置及びトンネル10内を伝播し、反対側の出口で微気圧波の騒音(パルス音)となる。この場合、緩衝工装置を設けたことにより断面積が増加し、最初の圧縮波面の勾配が小さくなったため反対側出口の騒音が低減される。
【0023】
次に、図3に示す解析モデルにおいて、(3)の「緩衝工装置1」は、本発明の一例として断面積変化を繰り返す緩衝工装置を設置した場合の解析モデルであり、その模式図が図3に破線で示されている。この解析モデルは、断面積の最大値が上述した(2)の基本緩衝工と同じ値とされ、断面積変化の最小値がトンネル10の断面積と一致している。また、この解析モデルでは、緩衝工装置の入口の断面積が上述した(2)の基本緩衝工装置と同じに設定され、最初に比較的緩やかにトンネル10の断面積まで減少させた後、基本緩衝工装置と同じ断面積(断面形状)まで急激に断面積を増加させるという順番で断面積変化を繰り返す。
【0024】
このような断面積の増減により、図6に示す「緩衝工装置1」の解析結果のように、緩衝工装置の入口で発生した圧縮波面の勾配は緩急を繰り返しながら減少した上で、トンネル10の反対側(出口側)へ伝播する。このため、トンネル10の反対側出口で発生する微気圧波の騒音(パルス音)は、上述した「基本緩衝工装置」よりも低減されたものとなる。
【0025】
最後に、図3に示す解析モデルにおいて、(4)の「緩衝工装置2」は、本発明の一例として断面積変化を繰り返す緩衝工装置を設置した場合の解析モデルであり、その模式図が図3に実線で示されている。この解析モデルは、断面積の最大値が上述した(2)の基本緩衝工よりも大きく設定されており、断面積変化の最小値はトンネル10の断面積と一致している。また、この解析モデルでは、緩衝工装置の入口の断面積が最大値に設定され、最初に比較的緩やかにトンネル10の断面積まで減少させた後、最大値まで急激に断面積を増加させるという順序で断面積変化を繰り返す。
【0026】
この「緩衝工装置2」の解析結果は図7に示されており、圧力時間変化の分布傾向は、圧力時間変化の高さを除いて上述した「緩衝工装置1」と略同じ傾向になっている。しかし断面積の増減が緩衝工装置1よりも大きいためトンネル10の反対側出口で発生する微気圧波の騒音(パルス音)は、緩衝工装置1よりも低減されたものとなる。
【0027】
このように、本発明による緩衝工装置20を設置することにより、トンネル10の入口部に断面積が増加する部分を含む緩衝領域が形成されるため、高速で走行する車両1がトンネル10内に突入して発生する圧力波面の勾配は、断面積の増加により減少する。このような緩衝工装置20の構成、すなわち緩衝領域に断面積が増加する部分を含むという構成は、緩衝領域における圧力変動において、断面積の増加による圧縮波面の勾配の減少が断面積の減少による圧縮波面の勾配の増加よりも大きいという本発明者の知見に基づくものである。
また、同様の知見により、上述した緩衝工装置20の緩衝領域は、断面積の増加割合が減少割合より急激に設定されていることが好ましい。
また、上述した緩衝工装置20は、緩衝領域において断面積の増減を繰り返すことが好ましく、このような断面積変化の繰り返しにより、圧縮波面の勾配も緩急を繰り返しながらより大きな減少をする。
【0028】
ところで、緩衝領域の断面積分布については、上述した図1から図3に限定されることはなく、種々の実施形態が可能である。
図8に示す断面積分布は、何れも入口部の断面積が広く、最初に断面積を減少させた後に拡大するという順序の繰り返しパターンである。
図8(a)に示す断面積分布は、入口部から直線的に断面積を減少させた後、略垂直な直線形状で断面積を増すという順序で断面積変化を繰り返す例である。なお、直線状の面積減少部分及び面積増加部分は、何れも曲線であってもよい。
図8(b)に示す断面積分布は、入口部の断面形状が最大となるように始点を設定したサインカーブにより、同じ増減割合で断面積変化を繰り返す例である。なお、サインカーブに代えて、同じ増減割合で直線的な断面積の増減をしてもよい。
【0029】
図8(c)に示す断面積分布は、入口部から曲線により断面積を減少した後、同じく曲線により断面積を増すという順序で断面積変化を繰り返す例である。この場合、外側に凸の曲線を採用し、同じ増減割合としているが、内側に凸の曲線としたり、あるいは増減割合が異なるようにしてもよい。
図8(d)に示す断面積分布は、入口部に水平部分を設けた後、直線的な断面積減少部、水平部及び直線的な断面積増加部の順に断面積変化を繰り返す例である。また、この場合の水平部については、たとえば図8(e)に示すように、傾斜した直線としてもよい。なお、図8(d)、(e)の直線部については、曲線としてもよい。
【0030】
図9に示す断面積分布は、何れも入口部の断面積が狭くトンネル10の入口と同様に設定されており、最初に断面積を増加させた後に減少させるという順序の繰り返しパターンである。
図9(a)に示す断面積分布は、入口部から略垂直な直線形状に断面積を増加させた後、比較的緩やかな直線形状に断面積を減少させるという順序で断面積変化を繰り返す例である。なお、直線状の面積減少部分及び面積増加部分は、何れも曲線であってもよい。
図9(b)に示す断面積分布は、入口部の断面形状が小さくなるように始点を設定した波形の曲線により、比較的緩やかな割合の断面積増加と、比較的急激な断面積の減少とを交互に繰り返す断面積変化の例である。
【0031】
図9(c)に示す断面積分布は、入口部から急激な直線状に断面積を増加した後、比較的緩やかな外側に凸の曲線により断面積を減少させるという順序で断面積変化を繰り返す例である。この場合、直線を曲線に代えたり、あるいは、外側に凸の曲線を内側に凸の曲線に代えるなどの変形例が可能である。
図9(d)に示す断面積分布は、垂直に立ち上がる直線、水平線、垂直に立ち下がる直線及び水平線の順に断面積変化を繰り返す例である。なお、この場合の直線を曲線に代えたり、あるいは、水平線を傾斜する直線や曲線に代えるなどの変形例が可能である。
【0032】
図8及び図9に示した断面積分布は、断面積変化の振幅や波長が一定のパターンで繰り返しを行うものであったが、図10に示す断面積分布は、断面積変化の振幅や波長が変化するものである。
図10(a)は、入口断面積を最大にした状態から直線的に断面積の増減をするが、その振幅は入口側ほど大きく、奥に入るほど小さくなる断面積分布の例である。また、図10(b)は、入口断面積を最小とした状態から曲線により断面積の増減をするが、その振幅は入口側ほど小さく、奥に入るほど大きくなる断面積分布の例である。なお、図10に示した二つのパターンは断面積変化の波長が同じであるが、入口側から奥へ徐々に変化させてもよい。
【0033】
最後に、図11に示す断面積分布は、異種の断面積分布を組み合わせた例である。
図11(a)には直線による不規則な断面積分布の例が示されており、図11(b)には曲線による不規則な断面積分布の例が示されている。なお、図示は省略したが、直線と曲線とを組み合わせた不規則な断面積分布や、図8ないし図10に示したパターンを複数種類組み合わせるなど、異種の断面積分布を組み合わせた種々の変形例が可能になる。
このような緩衝領域の断面積分布については、トンネル10の長さ、走行する車両1の形状や速度、緩衝工装置20を設置する立地条件等により、最適な形状を適宜選択して採用すればよい。
【0034】
このように、本発明のトンネル坑口部構造によれば、緩衝工装置20の設置等により断面積が増加する部分を含む緩衝領域をトンネル入口部に形成したので、高速で走行する車両1が緩衝工装置20またはトンネル10内に突入して発生する圧縮波面の勾配は、緩衝領域における断面積の増加により減少する。また、緩衝工装置20の緩衝領域が断面積の増減を繰り返したり、断面積の増加割合を減少割合より急激に設定したりすることにより、トンネル10の内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音を低減する効果はより一層向上するので、トンネル出口付近で発生していた衝撃音の環境問題を低減または解決することができる。
さらに、緩衝領域の少なくとも一部をトンネル10の内部に形成することにより、トンネル10の入口周辺の立地条件に影響されることなく、トンネル10と比較してそれほど大きな断面積とすることなく容易に衝撃音対策を実施することができる。
【0035】
また、本発明の緩衝工装置20は、断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成するので、高速で走行する車両1がトンネル10の坑口部に設置された緩衝工装置20内に突入して発生する圧縮波面の勾配は断面積の増加により減少する。このため、トンネル10の内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音が低減され、さらに、断面積の増減を繰り返したり、断面積の増加割合を減少割合より急激に設定したりすることにより、この効果はより一層向上する。従って、この緩衝工装置20を設置することにより、トンネル出口付近で発生していた衝撃音の環境問題を低減または解決することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るトンネル坑口部構造及び緩衝工装置の一実施形態を示す図で、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【図2】図1の変形例を示す断面図で、(a)は緩衝工装置(緩衝領域)の一部をトンネル内に設置した第1変形例、(b)は緩衝工装置(緩衝領域)の全てをトンネル内に設置した第2変形例である。
【図3】緩衝領域の効果に係る解析モデルの説明図である。
【図4】図3に示した「緩衝工装置なし」の解析モデルについて、解析結果を示す図である。
【図5】図3に示した「基本緩衝工装置」の解析モデルについて、解析結果を示す図である。
【図6】図3に示した「緩衝工装置1」の解析モデルについて、解析結果を示す図である。
【図7】図3に示した「緩衝工装置2」の解析モデルについて、解析結果を示す図である。
【図8】緩衝領域の断面積分布に係る他の実施形態を示す図で、最初に断面積を減少させた後に増加させるという順序で繰り返すパターン例である。
【図9】緩衝領域の断面積分布に係る他の実施形態を示す図で、最初に断面積を増加させた後に減少させるという順序で繰り返すパターン例である。
【図10】緩衝領域の断面積分布に係る他の実施形態を示す図で、断面積変化の振幅や波長が変化するパターン例である。
【図11】緩衝領域の断面積分布に係る他の実施形態を示す図で、異種の断面積変化を組み合わせたパターン例である。
【符号の説明】
【0037】
10 トンネル
11 坑口部
12 断面積変化部
20 緩衝工装置
21 内壁面
22 入口部
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば新幹線等のように高速で走行する車両が通過するトンネルに適用されるトンネル坑口部構造及び緩衝工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば新幹線や浮上式鉄道等のように高速で走行する車両がトンネル入口に突入する際には、トンネル内において急激な圧力変動が発生する。この圧力変動は、圧縮波としてトンネル内部を伝わってトンネル出口側に至り、微気圧波と呼ばれるパルス状の圧力波となる。このような微気圧波の強さは、トンネル内の圧縮波面の勾配に比例することが報告されている。(たとえば、非特許文献1参照)
微気圧波は衝撃音を伴い、付近住民に対する環境問題となっており、これを解決するため、従来より緩衝工装置と呼ばれるフード状の構造物がトンネルを延長する形でトンネル坑口外部に設けられている。このような緩衝工装置は、通常トンネル断面より大きな一定断面に形成したフード状の構造物であるが、単純な断面積の減少部や途中に開口を設ける等の工夫が施されたものもある。また、微気圧波に伴う衝撃音の低減効果は、緩衝工装置の入口断面形状(断面積)を大きくするほどよいとされる。
【0003】
一方、近年のさらなる車両高速化に伴い、高速車両が外部から緩衝工装置へ、または緩衝工装置からトンネル入口へ突入する際、あるいは、高速車両がトンネルから緩衝工装置へ、または緩衝工装置から外部へ退出する際には、トンネルの出入口で発生し、出入口周辺に直接放射される低周波音のエネルギーも大きくなる。このような低周波音は、トンネル出入口付近の家屋等を振動させる原因となるので、低周波音の低減効果も大きい緩衝工装置が提案されている。この緩衝工装置は、フード状構造物の壁や天井等を一部切り欠いた切欠部もしくは端部側へ断面積を逓増させた開端部を備えたり、あるいは、断面積が逓減する絞り部を備えた構成とされる。(たとえば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開2000−80890号公報(図1ないし図3参照)
【非特許文献1】小沢智,「トンネル出口微気圧波の研究」,鉄道技術研究報告, 日本国有鉄道鉄道技術研究所,1979年,7月24日, No.1121,p.17−18
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の緩衝工装置のように、一定断面や単調な断面積減少等では微気圧波に伴う衝撃音の低減効果が満足できるレベルにないというのが実情である。このため、車両の高速化が今後も促進される状況にあっては、より厳しい条件下で環境問題を解消するため、低減効果をより一層向上させることが望まれる。
また、従来の緩衝工装置は、通常トンネル内より大きい一定断面のフード状構造物であり、しかも、入口の断面積を大きくするほど衝撃音の低減効果も良好であるため、立地条件によってはトンネルの坑口付近に設置することが困難になることも予想される。
このような背景から、トンネルの断面積に近いできるだけ小さな断面積にして、微気圧波に伴う衝撃音の良好な低減効果を得られるトンネル坑口部構造及び緩衝工装置の開発が望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、比較的小さな断面積でも微気圧波に伴う衝撃音を低減できるトンネル坑口部構造及び緩衝工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明のトンネル坑口部構造は、トンネル入口から車両が突入して発生する急激な圧力変動に起因する微気圧波を低減するトンネル坑口部構造において、前記トンネル入口部に断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成したことを特徴とするものである。
【0006】
このような本発明のトンネル坑口部構造によれば、トンネル入口部に断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成したので、高速で走行する車両がトンネル内に突入して発生する圧縮波面の勾配は、断面積の増加により減少する。
【0007】
上記のトンネル坑口部構造において、前記緩衝領域は、断面積の増減を繰り返すことが好ましく、これにより、圧縮波面の勾配は断面積の増減により緩急を繰り返しながら減少する。
また、上記のトンネル坑口部構造において、前記緩衝領域は、断面積の増加割合が減少割合より急激に設定されていることが好ましく、これにより、圧縮波面の勾配は急激に減少する。
【0008】
上記のトンネル坑口部構造において、前記緩衝領域は、トンネル外部に設置される緩衝工装置に形成されていることが好ましく、これにより、衝撃音対策としてトンネル内の断面積を変更する必要はない。
また、上記のトンネル坑口部構造において、前記緩衝領域の少なくとも一部がトンネル内部に形成されていることが好ましく、これにより、トンネルの立地条件により緩衝工装置の設置が困難な場合でも衝撃音対策を実施できる。特に、必要な緩衝領域を全てトンネル内に形成すれば、トンネル入口周辺の立地条件に影響されることはない。
【0009】
本発明の緩衝工装置は、トンネルの坑口部に設置され、車両の突入により発生する急激な圧力変動に起因する微気圧波を低減する緩衝工装置において、断面積が増加する部分を含む緩衝領域を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
このような本発明の緩衝工装置によれば、断面積が増加する部分を含む緩衝領域を備えているので、高速で走行する車両がトンネルの坑口部に設置された緩衝工装置内に突入して発生する圧縮波面の勾配は、断面積の増加により減少する。
【0011】
上記の緩衝工装置において、前記緩衝領域は、断面積の増減を繰り返すことが好ましく、これにより、圧縮波面の勾配は断面積の増減により緩急を繰り返しながら減少する。
また、上記の緩衝工装置において、前記緩衝領域は、断面積の増加割合が減少割合より急激に設定されていることが好ましく、これにより、圧縮波面の勾配は急激に減少する。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明のトンネル坑口部構造によれば、断面積が増加する部分を含む緩衝領域をトンネル入口部に形成したので、高速で走行する車両がトンネル内に突入して発生する圧縮波面の勾配は断面積の増加により減少し、トンネル内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音が低減される。また、断面積の増減を繰り返したり、断面積の増加割合を減少割合より急激に設定したりすることにより、トンネル内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音を低減する効果はより一層向上するので、トンネル出口付近で発生していた衝撃音の環境問題を低減または解決するという顕著な効果が得られる。
さらに、緩衝領域の少なくとも一部をトンネル内部に形成することにより、トンネル入口周辺の立地条件に影響されることなく、トンネルと比較してそれほど大きな断面積とすることなく容易に衝撃音対策を実施することができる。
【0013】
また、上述した本発明の緩衝工装置によれば、断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成したので、高速で走行する車両がトンネルの坑口部に設置された緩衝工装置内に突入して発生する圧縮波面の勾配は断面積の増加により減少する。このため、トンネル内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音が低減され、さらに、断面積の増減を繰り返したり、断面積の増加割合を減少割合より急激に設定したりすることにより、トンネル内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音を低減する効果はより一層向上するので、この緩衝工装置を設置することにより、トンネル出口付近で発生していた衝撃音の環境問題を低減または解決するという顕著な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るトンネル坑口部構造及び緩衝工装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)に示すトンネル10は、たとえば新幹線や超電導磁気浮上式リニアモーターカーのように高速で走行する車両1が通過するもので、両方の坑口部11にはフード状構造物の緩衝工装置20が隙間なく設置されている。この緩衝工装置20は、たとえば鉄骨等で形成したフレームに鋼材等の壁面を取り付けた構成とされる。
【0015】
緩衝工装置20は地上に固定設置され、車両1が走行する空間を覆って外部から遮断するように構成されている。緩衝工装置20の内壁面21は、断面積が増加する部分を含む緩衝領域を備えている。図1に示す緩衝工装置20の場合、断面形状が略半円形状のフード状とされ、軸方向(車両進行方向)に断面積の増減を繰り返すことで鋸歯状の断面形状となる緩衝領域が全長にわたって形成されている。この緩衝領域において、最も断面積の小さい部分は、車両1の通過に支障がないようトンネル10の断面積と同様になる。
緩衝領域に設けた断面積の増減は、図1(b)に示す例では、車両1が進入してくる入口部22の断面積S1を最大とし、トンネル10の内部へ向けて直線的に減少して最小の断面積S2となる。そして、最小の断面積S2から最大の断面積S1に再度増加する領域を形成した後、以下同様の断面積変化(S1→S2→S1→S2・・・)を繰り返し、最終的にトンネル10と同じ断面積となって連結される。この場合、断面積が増加(S2→S1)する割合は、断面積が減少する割合(S1→S2)より急激になるよう設定されている。なお、最小の断面積S2は、トンネル10の断面積と同じになる。
【0016】
ところで、上述した図1の実施形態では、別体の緩衝工装置20に必要長さの緩衝領域を形成してトンネル10の外部に連結する構成としたが、たとえば図2に示すように、立地条件等に応じて緩衝領域の少なくとも一部がトンネル10の内部に形成された構成としてもよい。
具体的には、たとえば地形や用地の問題等により、トンネル10の両側に緩衝工装置20を設置する十分なスペースの確保が困難な場合や、設置は可能であっても工事等に多額のコストを要する場合など、緩衝工装置20の一部または全体をトンネル10の内部に組み込んで設置すればよい。
【0017】
図2(a)に示す第1変形例では、断面積変化を繰り返す緩衝領域の必要長さが、トンネル10の外側に設置した緩衝工装置20と、トンネル10の内面に形成した断面積変化部12とにより確保されている。この場合、トンネル10内の断面積変化部12については、たとえば必要長さとした緩衝工装置20の一部をトンネル10内に埋め込んで形成してもよいし、あるいは、トンネル10の内壁面を直接鋸歯状に形成してもよい。
また、図2(b)に示す第2変形例のように、緩衝領域の全てをトンネル10の坑口部11からトンネル内部へ向けて形成してもよい。この場合、必要長さの緩衝工装置20を全てトンネル10内に埋め込む構成としてもよいし、あるいは、トンネル10の内壁面を必要長さにわたって直接鋸歯状に形成してもよい。
【0018】
ここで、上述した緩衝領域の効果について、図3に示す4種類の解析モデル毎に解析結果を図4ないし図7に示して説明する。なお、図3において、横軸を緩衝工装置20及びトンネル10の軸方向長さXとし、縦軸に断面積Aの変化が示されている。
図3に示す解析モデルは、(1)緩衝工装置なし、(2)基本緩衝工装置、(3)緩衝工装置1及び(4)緩衝工装置2の4種類である。
【0019】
図3に示す解析モデルにおいて、(1)の「緩衝工装置なし」は、緩衝工装置20が全く設けられていない通常のトンネル10のことであり、その模式図が図3に一点鎖線で示されている。すなわち、トンネル10の坑口部11から反対側坑口まで、トンネル内部の断面積変化がない解析モデルである。なお、図3の緩衝工装置部分に示す一点鎖線は、後述する解析モデルにおける断面積変化の基準線(最小面積)としてトンネル10の断面積を延長したものである。
「緩衝工装置なし」の解析モデルについて、その解析結果を図4に示す。この解析結果は、横軸を空間とし、縦軸を時間として、一本の線における高さが各時刻における圧力時間変化(∂p/∂t)の空間分布を示している。
【0020】
図4のグラフにおいて、車両1が走行して先端部が坑口部11からトンネル10内に入ると、トンネル10の断面積が車両1の断面積分だけ減少する。このため、トンネル10の内圧は急激に上昇し、圧力時間変化は急激に大きくなる。すなわち、車両1がトンネル10内に突入することにより、圧縮波(突入波)が発生して圧力時間変化は急増することとなる。この圧力時間変化の急変は、図4のグラフにおいて、各時刻毎の分布を示す線で紙面右側から左側へ延びる平坦な水平線が略垂直に立ち上がる急変部分に表れている。
そして、圧力時間変化の急変後においては、坑口部11から進入する車両1の断面形状が先端部から略一定になるまでの間(以下、「先頭部」と呼ぶ)、車両1の断面積変化やノイズ等により多少の変動を伴うものの、トンネル10内は比較的高い圧力に保たれるため顕著な圧力時間変化は見られない。
【0021】
すなわち、図4においては、上述した圧力時間変化の急増により屹立する壁面状部分で突入波が形成され、この壁面状部分より紙面左側に存在する凹部(圧力が減少する方向に変化する部分)の後には、トンネル10の断面積が一定でかつ車両1の断面積も略一定になるためほとんど圧力時間変化のない状態となる。
このような圧力時間変化の分布を見ると、トンネル10の坑口部11に車両1が進入する際に大きな圧力時間変化を生じた後にはそれほど大きな変化はなく、特に、車両1の断面積が略一定になった後は安定した状態となる。このため、トンネル10の入口部で発生した突入波はトンネル10内を伝播し、反対側の出口で微気圧波の騒音(パルス音)となる。
【0022】
次に、図3に示す解析モデルにおいて、(2)の「基本緩衝工装置」は、トンネル10の断面積より大きな一定断面形状(断面積一定)の緩衝工装置を設置した場合であり、その模式図が図3に二点鎖線で示されている。すなわち、緩衝工装置からトンネル10に入る時点で1回だけ断面形状が変化し、緩衝工装置の断面積からトンネル10の断面積に減少する場合の解析モデルである。
この「基本緩衝工装置」の解析結果は図5に示されており、圧力時間変化の分布傾向は上述した「緩衝工装置なし」と酷似している。但し、圧力時間変化の急増により屹立する壁面状の部分は緩衝工装置の入口より伝播したものであり、この壁面状部分より紙面左側の凹部は緩衝工装置内で移動する車両1の先頭部の軌跡である。なお、壁面状部分及び凹部と交差するように形成された凸状の部分は、緩衝工装置からトンネル10に入る部分で断面積が減少した部分からの圧力波の伝播を示す。
緩衝工装置の入口で発生する圧縮波は、上述した「緩衝工装置なし」の場合と比較して断面積が大きいためやや小さくなるものの、緩衝工装置及びトンネル10内を伝播し、反対側の出口で微気圧波の騒音(パルス音)となる。この場合、緩衝工装置を設けたことにより断面積が増加し、最初の圧縮波面の勾配が小さくなったため反対側出口の騒音が低減される。
【0023】
次に、図3に示す解析モデルにおいて、(3)の「緩衝工装置1」は、本発明の一例として断面積変化を繰り返す緩衝工装置を設置した場合の解析モデルであり、その模式図が図3に破線で示されている。この解析モデルは、断面積の最大値が上述した(2)の基本緩衝工と同じ値とされ、断面積変化の最小値がトンネル10の断面積と一致している。また、この解析モデルでは、緩衝工装置の入口の断面積が上述した(2)の基本緩衝工装置と同じに設定され、最初に比較的緩やかにトンネル10の断面積まで減少させた後、基本緩衝工装置と同じ断面積(断面形状)まで急激に断面積を増加させるという順番で断面積変化を繰り返す。
【0024】
このような断面積の増減により、図6に示す「緩衝工装置1」の解析結果のように、緩衝工装置の入口で発生した圧縮波面の勾配は緩急を繰り返しながら減少した上で、トンネル10の反対側(出口側)へ伝播する。このため、トンネル10の反対側出口で発生する微気圧波の騒音(パルス音)は、上述した「基本緩衝工装置」よりも低減されたものとなる。
【0025】
最後に、図3に示す解析モデルにおいて、(4)の「緩衝工装置2」は、本発明の一例として断面積変化を繰り返す緩衝工装置を設置した場合の解析モデルであり、その模式図が図3に実線で示されている。この解析モデルは、断面積の最大値が上述した(2)の基本緩衝工よりも大きく設定されており、断面積変化の最小値はトンネル10の断面積と一致している。また、この解析モデルでは、緩衝工装置の入口の断面積が最大値に設定され、最初に比較的緩やかにトンネル10の断面積まで減少させた後、最大値まで急激に断面積を増加させるという順序で断面積変化を繰り返す。
【0026】
この「緩衝工装置2」の解析結果は図7に示されており、圧力時間変化の分布傾向は、圧力時間変化の高さを除いて上述した「緩衝工装置1」と略同じ傾向になっている。しかし断面積の増減が緩衝工装置1よりも大きいためトンネル10の反対側出口で発生する微気圧波の騒音(パルス音)は、緩衝工装置1よりも低減されたものとなる。
【0027】
このように、本発明による緩衝工装置20を設置することにより、トンネル10の入口部に断面積が増加する部分を含む緩衝領域が形成されるため、高速で走行する車両1がトンネル10内に突入して発生する圧力波面の勾配は、断面積の増加により減少する。このような緩衝工装置20の構成、すなわち緩衝領域に断面積が増加する部分を含むという構成は、緩衝領域における圧力変動において、断面積の増加による圧縮波面の勾配の減少が断面積の減少による圧縮波面の勾配の増加よりも大きいという本発明者の知見に基づくものである。
また、同様の知見により、上述した緩衝工装置20の緩衝領域は、断面積の増加割合が減少割合より急激に設定されていることが好ましい。
また、上述した緩衝工装置20は、緩衝領域において断面積の増減を繰り返すことが好ましく、このような断面積変化の繰り返しにより、圧縮波面の勾配も緩急を繰り返しながらより大きな減少をする。
【0028】
ところで、緩衝領域の断面積分布については、上述した図1から図3に限定されることはなく、種々の実施形態が可能である。
図8に示す断面積分布は、何れも入口部の断面積が広く、最初に断面積を減少させた後に拡大するという順序の繰り返しパターンである。
図8(a)に示す断面積分布は、入口部から直線的に断面積を減少させた後、略垂直な直線形状で断面積を増すという順序で断面積変化を繰り返す例である。なお、直線状の面積減少部分及び面積増加部分は、何れも曲線であってもよい。
図8(b)に示す断面積分布は、入口部の断面形状が最大となるように始点を設定したサインカーブにより、同じ増減割合で断面積変化を繰り返す例である。なお、サインカーブに代えて、同じ増減割合で直線的な断面積の増減をしてもよい。
【0029】
図8(c)に示す断面積分布は、入口部から曲線により断面積を減少した後、同じく曲線により断面積を増すという順序で断面積変化を繰り返す例である。この場合、外側に凸の曲線を採用し、同じ増減割合としているが、内側に凸の曲線としたり、あるいは増減割合が異なるようにしてもよい。
図8(d)に示す断面積分布は、入口部に水平部分を設けた後、直線的な断面積減少部、水平部及び直線的な断面積増加部の順に断面積変化を繰り返す例である。また、この場合の水平部については、たとえば図8(e)に示すように、傾斜した直線としてもよい。なお、図8(d)、(e)の直線部については、曲線としてもよい。
【0030】
図9に示す断面積分布は、何れも入口部の断面積が狭くトンネル10の入口と同様に設定されており、最初に断面積を増加させた後に減少させるという順序の繰り返しパターンである。
図9(a)に示す断面積分布は、入口部から略垂直な直線形状に断面積を増加させた後、比較的緩やかな直線形状に断面積を減少させるという順序で断面積変化を繰り返す例である。なお、直線状の面積減少部分及び面積増加部分は、何れも曲線であってもよい。
図9(b)に示す断面積分布は、入口部の断面形状が小さくなるように始点を設定した波形の曲線により、比較的緩やかな割合の断面積増加と、比較的急激な断面積の減少とを交互に繰り返す断面積変化の例である。
【0031】
図9(c)に示す断面積分布は、入口部から急激な直線状に断面積を増加した後、比較的緩やかな外側に凸の曲線により断面積を減少させるという順序で断面積変化を繰り返す例である。この場合、直線を曲線に代えたり、あるいは、外側に凸の曲線を内側に凸の曲線に代えるなどの変形例が可能である。
図9(d)に示す断面積分布は、垂直に立ち上がる直線、水平線、垂直に立ち下がる直線及び水平線の順に断面積変化を繰り返す例である。なお、この場合の直線を曲線に代えたり、あるいは、水平線を傾斜する直線や曲線に代えるなどの変形例が可能である。
【0032】
図8及び図9に示した断面積分布は、断面積変化の振幅や波長が一定のパターンで繰り返しを行うものであったが、図10に示す断面積分布は、断面積変化の振幅や波長が変化するものである。
図10(a)は、入口断面積を最大にした状態から直線的に断面積の増減をするが、その振幅は入口側ほど大きく、奥に入るほど小さくなる断面積分布の例である。また、図10(b)は、入口断面積を最小とした状態から曲線により断面積の増減をするが、その振幅は入口側ほど小さく、奥に入るほど大きくなる断面積分布の例である。なお、図10に示した二つのパターンは断面積変化の波長が同じであるが、入口側から奥へ徐々に変化させてもよい。
【0033】
最後に、図11に示す断面積分布は、異種の断面積分布を組み合わせた例である。
図11(a)には直線による不規則な断面積分布の例が示されており、図11(b)には曲線による不規則な断面積分布の例が示されている。なお、図示は省略したが、直線と曲線とを組み合わせた不規則な断面積分布や、図8ないし図10に示したパターンを複数種類組み合わせるなど、異種の断面積分布を組み合わせた種々の変形例が可能になる。
このような緩衝領域の断面積分布については、トンネル10の長さ、走行する車両1の形状や速度、緩衝工装置20を設置する立地条件等により、最適な形状を適宜選択して採用すればよい。
【0034】
このように、本発明のトンネル坑口部構造によれば、緩衝工装置20の設置等により断面積が増加する部分を含む緩衝領域をトンネル入口部に形成したので、高速で走行する車両1が緩衝工装置20またはトンネル10内に突入して発生する圧縮波面の勾配は、緩衝領域における断面積の増加により減少する。また、緩衝工装置20の緩衝領域が断面積の増減を繰り返したり、断面積の増加割合を減少割合より急激に設定したりすることにより、トンネル10の内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音を低減する効果はより一層向上するので、トンネル出口付近で発生していた衝撃音の環境問題を低減または解決することができる。
さらに、緩衝領域の少なくとも一部をトンネル10の内部に形成することにより、トンネル10の入口周辺の立地条件に影響されることなく、トンネル10と比較してそれほど大きな断面積とすることなく容易に衝撃音対策を実施することができる。
【0035】
また、本発明の緩衝工装置20は、断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成するので、高速で走行する車両1がトンネル10の坑口部に設置された緩衝工装置20内に突入して発生する圧縮波面の勾配は断面積の増加により減少する。このため、トンネル10の内部を伝わってトンネル出口側に至る微気圧波に伴う衝撃音が低減され、さらに、断面積の増減を繰り返したり、断面積の増加割合を減少割合より急激に設定したりすることにより、この効果はより一層向上する。従って、この緩衝工装置20を設置することにより、トンネル出口付近で発生していた衝撃音の環境問題を低減または解決することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るトンネル坑口部構造及び緩衝工装置の一実施形態を示す図で、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【図2】図1の変形例を示す断面図で、(a)は緩衝工装置(緩衝領域)の一部をトンネル内に設置した第1変形例、(b)は緩衝工装置(緩衝領域)の全てをトンネル内に設置した第2変形例である。
【図3】緩衝領域の効果に係る解析モデルの説明図である。
【図4】図3に示した「緩衝工装置なし」の解析モデルについて、解析結果を示す図である。
【図5】図3に示した「基本緩衝工装置」の解析モデルについて、解析結果を示す図である。
【図6】図3に示した「緩衝工装置1」の解析モデルについて、解析結果を示す図である。
【図7】図3に示した「緩衝工装置2」の解析モデルについて、解析結果を示す図である。
【図8】緩衝領域の断面積分布に係る他の実施形態を示す図で、最初に断面積を減少させた後に増加させるという順序で繰り返すパターン例である。
【図9】緩衝領域の断面積分布に係る他の実施形態を示す図で、最初に断面積を増加させた後に減少させるという順序で繰り返すパターン例である。
【図10】緩衝領域の断面積分布に係る他の実施形態を示す図で、断面積変化の振幅や波長が変化するパターン例である。
【図11】緩衝領域の断面積分布に係る他の実施形態を示す図で、異種の断面積変化を組み合わせたパターン例である。
【符号の説明】
【0037】
10 トンネル
11 坑口部
12 断面積変化部
20 緩衝工装置
21 内壁面
22 入口部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル入口から車両が突入して発生する急激な圧力変動に起因する微気圧波を低減するトンネル坑口部構造において、
前記トンネル入口部に断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成したことを特徴とするトンネル坑口部構造。
【請求項2】
前記緩衝領域が、断面積の増減を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載のトンネル坑口部構造。
【請求項3】
前記緩衝領域が、断面積の増加割合が減少割合より急激に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のトンネル坑口部構造。
【請求項4】
前記緩衝領域が、トンネル外部に設置される緩衝工装置に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のトンネル坑口部構造。
【請求項5】
前記緩衝領域の少なくとも一部がトンネル内部に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のトンネル坑口部構造。
【請求項6】
トンネルの坑口部に設置され、車両の突入により発生する急激な圧力変動に起因する微気圧波を低減する緩衝工装置において、
断面積が増加する部分を含む緩衝領域を備えていることを特徴とする緩衝工装置。
【請求項7】
前記緩衝領域が、断面積の増減を繰り返すことを特徴とする請求項6に記載の緩衝工装置。
【請求項8】
前記緩衝領域が、断面積の増加割合が減少割合より急激に設定されていることを特徴とする請求項6または7に記載の緩衝工装置。
【請求項1】
トンネル入口から車両が突入して発生する急激な圧力変動に起因する微気圧波を低減するトンネル坑口部構造において、
前記トンネル入口部に断面積が増加する部分を含む緩衝領域を形成したことを特徴とするトンネル坑口部構造。
【請求項2】
前記緩衝領域が、断面積の増減を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載のトンネル坑口部構造。
【請求項3】
前記緩衝領域が、断面積の増加割合が減少割合より急激に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のトンネル坑口部構造。
【請求項4】
前記緩衝領域が、トンネル外部に設置される緩衝工装置に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のトンネル坑口部構造。
【請求項5】
前記緩衝領域の少なくとも一部がトンネル内部に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のトンネル坑口部構造。
【請求項6】
トンネルの坑口部に設置され、車両の突入により発生する急激な圧力変動に起因する微気圧波を低減する緩衝工装置において、
断面積が増加する部分を含む緩衝領域を備えていることを特徴とする緩衝工装置。
【請求項7】
前記緩衝領域が、断面積の増減を繰り返すことを特徴とする請求項6に記載の緩衝工装置。
【請求項8】
前記緩衝領域が、断面積の増加割合が減少割合より急激に設定されていることを特徴とする請求項6または7に記載の緩衝工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−92360(P2007−92360A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282039(P2005−282039)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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