説明

ナノインプリント装置及び該装置を用いた記憶媒体の製造方法

【課題】ナノインプリント装置におけるインプリント時のレジスト層の残渣を無くして、微細なパターンの形成、高密度なビットパターンド媒体を製作する。
【解決手段】レジストの表面に微小な凹凸パターンを有するモールド41を押し当てることによって、モールド41上の突起部47で凹凸をレジストの表面に転写するナノインプリント装置において、モールド41の突起部47の頂面に連続する溝部48を設けておき、モールド41をレジストに押し当てる時に、レジストの一部がこの溝部48内に収容されるようにして、レジスタの残渣が少なくなるようにしたナノインプリント装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、微細なパターンを樹脂によって形成するナノインプリント装置に関する。特に、インプリント時にレジストの残渣が発生しないモールドを使用するナノインプリント装置の構造、及びこのナノインプリント装置を用いて製作した、ハードディスク装置などの情報記録再生装置で使用する記憶媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録再生装置(HDD)の小型・大容量化は急速に進んでいる。本出願の1年前の時点では、市場に供給されているHDDの磁気記憶媒体は、スパッタ法等により、ガラスもしくは、アルミ合金基板に磁性材料が積層された構造をとっていた。記録磁性材料は、磁性粒子を小さくするためにさまざまな工夫がなされ、磁気粒子単位は、大凡8nm程度まで小さくなっている。この磁気粒子の微細化は、記憶媒体の低ノイズ化に寄与するところが大きい。ところが、この微細化にも製膜プロセスや熱揺らぎの観点から限界がある。この打開策として、所謂ディスクリートトラック媒体、ビットパターンド媒体と呼ばれる媒体が考えられている。これらの媒体は、記録磁性材料の膜をパターンニングすることが特徴である。ディスクリートトラック媒体の場合は、半径方向のトラックがパターンニングされている。また、ビットパターンド媒体は、円周方向、径方向ともにパターンニングされている(特許文献1参照)。
【0003】
このようなビットパターンド媒体の製造は、半導体のリソグラフィ技術を記憶媒体に適用することにより製造される。ビットパターンド媒体の量産手法のひとつに、ナノインプリントと呼ばれる手法がある(非特許文献1参照)。これは、微細な押し型を媒体に塗布した被転写成型材である樹脂に転写し、その樹脂をマスクとして、磁性材料を削る手法である。ナノインプリント装置の押し型は、一般に、モールド、原盤、テンプレートなどと呼ばれ、紫外線硬化型(UV硬化型)の樹脂を用いる場合は、ガラスの押し型になる。また、熱硬化型樹脂を用いる場合もある。一般的に、UV硬化型の樹脂を用いるほうが、熱膨張によるパターンへの影響を無視できるため、微細なパターンに適している。
【0004】
【特許文献1】特開平3−022211号公報(第1図)
【0005】
【非特許文献1】論文 S. Y. Chou, et all. Appl.Phys. Vol.76,6673(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、UV硬化型の樹脂によりナノインプリントしたパターンには、押し型のために樹脂に必ず「押し残り」が存在する。この「押し残り」はレジスト残渣と呼ばれる。レジスト残渣は、レジスト直下の材料をエッチングする場合に邪魔になる。そこで一般的には、パターンニングの前に、残渣抜き、底出し等と呼ばれる、残渣を取り去るプロセスが行われるが、このプロセスが製造プロセスの工程、コスト、環境負荷等の増大を招くという課題があった。
【0007】
そこでこの出願は、UV硬化型の樹脂によりナノインプリントしたパターンに残渣を無くす、或いは残渣を限りなく無くすことにより、ナノインプリント装置における残渣を取り去るプロセスを省略して製造プロセスの工程の削減、コストの削減、環境負荷の低減を図ることを目的としている。
更に、この出願は、UV硬化型の樹脂によりナノインプリントしたパターンに残渣を無くす、或いは残渣を限りなく無くすことによるレジストパターンの変形(エッジの丸み)を小さくし、忠実な転写を行い、高密度化も図ることも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するこの出願のナノインプリント装置は、被転写成型材の表面に微小な凹凸パターンを有するモールドを押し当てることによって、モールド上の凹凸を被転写成型材の表面に転写するナノインプリント装置において、モールドの凸部の頂面に、モールドの被転写成型材への押し当て時に、被転写成型材の一部を収容可能な溝部を設けたことを特徴としている。
【0009】
また、前記目的を達成するナノインプリント装置を用いた記憶媒体の製造方法は、ディスク状の基板の両面に、軟磁性裏打ち層、中間層、磁性層、下地層、及び被転写成型材を積層してディスク媒体を製造し、ナノインプリント装置に備えられた微小な凹凸パターンを有するモールドを、紫外線透過部材で構成すると共に、その凸部の頂面に被転写成型材の一部を収容可能な溝部を設け、各ディスク媒体の両面にモールドを押し当てることによって、モールド上の凹凸を被転写成型材の表面に転写すると共に、溝部に凸部によって押し退けられた被転写成型材の一部を収容し、モールドの裏面側から紫外線を照射して被転写成型材を硬化させ、モールドを取り外した後のディスク状媒体に対して、酸素ガスを導入したアッシングを行って、溝部によって形成されたダミーパターンを除去すると共に、被転写成型材と下地層を除去して磁性層にモールド上の凹部のパターンを形成して記憶媒体を製造することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
この出願によれば、UV硬化型の樹脂によりナノインプリントしたパターンに残渣が無くなる、或いは殆ど無くなるので、残渣を取り去るプロセスを省略して製造プロセスの工程の削減、コストの削減、環境負荷の低減を図ることができる。また、UV硬化型の樹脂によりナノインプリントしたパターンの残渣を無くすことにより、レジストパターンの変形(エッジの丸み)を小さくでき、忠実な転写、高密度化も図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を用いてこの出願の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、その前に、従来技術の問題点について図を用いて説明する。
【0012】
図1(a)は、従来のビットパターンド媒体1(以後、ディスク1と言う)の外形と、そのビットパターンの一例を拡大して示すものである。ディスク1を構成する非磁性基板(ディスク基板)2の上には、磁性体から構成される単磁区微粒子(ドット)が円周方向に並んでトラック数だけ設けられている。このようなディスク1は、図1(b)から(d)に示すような工程で製造される。
【0013】
図1(b)はビットパターンが形成される前のディスク1と、ディスク1にビットパターンを形成する押し型である従来のモールド9の構成を示すものであるが、ディスク1の構成は簡略化して記載してある。この例では、磁性層5の上面にレジスト層7が設けられた構成を示している。一方、モールド9は局部断面を示してあるが、実際には略格子状の突起部47がモールド9には形成されている。
【0014】
図1(c)は、図1(b)の状態からモールド9をレジストに押し付けた後に、元の位置に戻した状態を示すものである。モールド9の突起部47により押された部分のレジスト7には溝部57が形成されるが、モールド9の突起部47の先端部は磁性層5まで届かないので、ディスク1の上にはレジスト7の押し残り17が発生する。この押し残り17はレジスト残渣と呼ばれる。このレジスト残渣は、レジスト直下の磁性層5をエッチングする際に邪魔になるため、磁性層5のパターニング前に残渣抜きと呼ばれる処理が施される。
【0015】
図1(d)は、磁性層5のパターニング前に残渣抜き処理が施された状態を示すものである。残渣抜き処理が行われると、レジスト7の頂面のエッジが垂直に切り立たず、エッジに丸みが生じてしまい、この後に行われる磁性層5のパターニングにおいて、磁性層5のパターンのエッジ部が鈍り、高密度化が図れなくなる虞があった。この出願は、このような課題を解消するためになされたものである。
【0016】
図2は、この出願に係るナノインプリント装置10の概略構成を示すものである。ナノインプリント装置10には洗浄部12、検査部14、密着層形成部16、樹脂部形成部18、インプリント部20、及び制御部22がある。24は、後にその構造を詳述するディスクホルダであり、複数枚のディスク1、例えば20数枚のディスク1を保持できるようになっている。ナノインプリント装置10は、ディスクホルダ24に保持された複数枚のディスク1を入口部11から受け入れ、洗浄からインプリントまでインライン式に処理して出口部13から排出する。
【0017】
洗浄部12では、ディスクホルダ24に保持されたディスク1に、インプリント部20で欠陥が生じないようにゴミの除去を行う。ディスクの洗浄にはドライ方式とウェット方式があるが、どちらの方式でなければならないということはない。検査部14では、パーティクルの検査を光学的に行う。密着層形成部16では、ディスク基板と紫外線硬化型レジストの密着性を向上させる密着層の形成処理を行う。そして、樹脂部形成部18では、ディスク基板に紫外線硬化型レジストを塗布する処理を行う。
【0018】
図3(a)は、図2に示したナノインプリント装置10のインプリント部20の構造の一例を示すものである。インプリント部20には、制御装置21、ホルダ移動機構22、昇降ロッド25を備えたディスクリフタ23、ディスクホルダ24、2台の紫外線照射装置26、真空吸引装置27、2つのモールド装置30L,30Rがある。制御装置21はホルダ移動機構22、ディスクリフタ23、ディスクホルダ24、紫外線照射装置26、真空吸引装置27、及びモールド装置30L,30Rの動作を制御する。制御装置21はこの実施例のようにインプリント部20内に設けてもよいが、図2に示した制御部22が制御装置21の代わりをすることも可能である。
【0019】
ホルダ移動機構22は、複数枚のディスク1を保持するディスクホルダ24を移動させるものであり、ディスクホルダ24に保持されたディスク1を順番にディスクリフタ23の真上に位置させる。ディスクリフタ23は、昇降ロッド25を上昇させてディスクホルダ24に保持されたディスク1を1枚ずつモールド装置30L,30Rの間の空間まで押し上げてインプリント処理を行わせる。また、ディスクリフタ23は、インプリント処理の終了したディスクをディスクホルダ24に戻す動作も行う。モールド装置30L,30Rは、ディスク1の両面に後述するモールドを用いてインプリント処理を施す。モールドは紫外線を透過する部材から構成されており、紫外線照射装置26はモールドを透過させて紫外線をディスク1の両面に照射することにより、ディスク基板に塗布されたレジストを硬化させる。真空吸引装置27は、モールド装置30L,30Rの動作時に発生する余分なレジストを吸引して余分なレジストをなくす。
【0020】
図3(b)は(a)のモールド装置30L,30Rの一方の構成の一実施例を示すものである。モールド装置30L,30Rの構造は同じであるので、1つのモールド装置30の構成について説明する。モールド装置30は、円筒状の本体31の先端部に円筒状のピエゾ素子32が取り付けられており、本体31の後端部にはモータ36の回転軸37に取り付けられた制御弁38が設けられている。本体31の回転軸37が取り付けられる部位は、金属筒とすることができる。本体31の後端部は、制御弁38を介して図示しない管路で真空吸引装置27の真空ポンプ27Pに接続されている。
【0021】
制御弁38は制御装置21からの開閉信号VSによって開閉し、制御弁38が開いた時にビエゾ素子32側が吸引される。ピエゾ素子32の両端部には電極33,34があり、一方の電極は接地されているが、他方の電極34はスイッチ35を介して電源+Bに接続されている。そして、制御装置21からの信号Sによってスイッチ35が閉じると、ピエゾ素子32の両端部に印加された電圧によってビエゾ素子32が伸張し、例えば図の破線の位置までピエゾ素子32の先端部が移動する。ピエゾ素子32の先端部の移動距離は、例えば0.4mm程度である。
【0022】
図4(a)は、図2に示したナノインプリント装置10のインプリント部20で使用する第1の実施例のモールド41の構成を示す部分的に拡大して示すものであり、(b)は(a)のA‐A線における局部断面を示すものである。第1の実施例のモールド41は、ベース板46と、このベース板46の上に格子壁状に突設された突起部47、及び突起部47の頂面に設けられた溝部48とから構成される。溝部48はこの実施例では、断面が矩形であり、突起部47の頂面に連続して設けられているが、溝部48は不連続でも構わない。
【0023】
なお、図4(a)では、ベース板46の上に突設された突起部47の形状を格子壁状として説明したが、実際にはディスクの半径方向の突起部47は放射状に延伸されており、ディスクの円周方向の突起部は47は、円弧状に延伸されている。
【0024】
溝部48は、後述するレジストの余分な部分が全てこの溝部48に収容されるようにするものである。溝部48の深さは突起部47のベース板46からの高さよりも小さく、溝部48に入り込んだレジストによって残るパターンが、本来のパターニングの妨げにならないようにする。例えば、ディスク基板/軟磁性裏打ち層/中間層/磁性膜/カーボン層(下地層)/紫外線硬化レジスト層の構造のディスクに、紫外線レジスト層とカーボン層の2層マスクにより磁性膜をパターンニングする場合を考える。この場合は、紫外線レジスト層とカーボン層の選択比を、カーボン層を1としたときにレジスト層を1.2にした場合、カーボン層よりレジスト層の方が早く削れるため、溝部48の深さはカーボンの厚さと同じにしておけば良い。また、溝部48の配置は突起部47の中央の位置に配置しておくことが望ましい。
【0025】
なお、磁性層をエッチングする際に、レジストマスクのみで行うか、もしくはメタルマスクを用いるかで下地層の構成が異なる。前述のカーボンは、レジストマスクのみで行う場合に、ダミー高さを吸収する目的で用いられるものである。なお、後述する実施例ではメタルマスクのプロセスが記載されるので、下地層としてクロムが記載される。
【0026】
また、突起部47の頂面には、図4(c)に示す第2の実施例のモールド42のように、断面が半円のような溝部48Aを設けるようにしても良い。なお、第1、第2の実施例のモールド41,42は、紫外線を透過する材料、例えばガラスから構成されており、この場合には、その厚さは200μm程度で良い。また、第1、第2の実施例のモールド41,42は、ビットパターンを形成するので格子状の突起部47を備えているが、ディスクリートトラック媒体の場合は、突起部47の形状は同心円状になる。
【0027】
図5(a)は、図2に示したナノインプリント装置10のインプリント部20で使用する第3の実施例のモールド43の構成を示す部分的に拡大して示すものであり、構造を分かり易くするために、一部を切り欠いてある。また、(b)は(a)のB‐B線における局部断面を示すものである。第3の実施例のモールド43は第1の実施例のモールド41と同様に、ベース板46と、このベース板46の上に格子壁状に突設された突起部47、及び突起部47の頂面に設けられた溝部48とから構成される。
【0028】
第3の実施例のモールド43が第1の実施例のモールド41と異なる点は、溝部48の底面に、ベース板46を貫通する貫通孔49が設けられている点である。貫通孔49は溝部48の底面全面に設ける必要はなく、例えば所定間隔毎に設ければ良い。この貫通孔49は、溝48に侵入したレジストをベース板46の裏面側に逃がす働きをする。ベース板46の裏面側に逃げたレジストは、図3で説明した真空吸引装置27で吸引される。また、貫通孔49、溝部48内のレジストも真空吸引装置27で吸引されるので、第3の実施例では、モールド43を外した後にダミーパターンが発生しない。
【0029】
図6は、図3(b)に示したモールド装置30のピエゾ素子32の先端部に、図4に示した第1の実施例のモールド41を取り付ける構成を示すものである。モールド装置30には、前述した円筒状の本体31、その先端部に取り付けられたピエゾ素子32、後端部に設けられた制御弁38に加えて、モールド40がピエゾ素子32の端部に設けられている。本体31の後端部は、制御弁38を介して図示しない管路で真空吸引装置27の真空ポンプ27Pに接続されている。
【0030】
この実施例のモールド40には、ピエゾ素子32の端面に取り付けるためのフランジ部40Fがある。このフランジ部40Fの直径はピエゾ素子32の外径よりも小さく、このフランジ部40Fがリング状のモールド抑え39によってピエゾ素子32の端面に固定される。この図にはピエゾ素子32の電極の図示は省略してある。また、この実施例のモールド40の直径は、ディスク1の直径と略同じであり、モールド抑え39に設けられた孔39Aの内径はディスク1とモールド40を収容できる大きさである。
【0031】
ここで、以上のように構成されたナノインプリント装置10のインプリント部20の動作を、図7及び図8を用いて説明する。
【0032】
図7(a)は、図3(a)に示したディスクホルダ24の構造の一例を示しており、ディスクホルダ24の長手方向の断面図である。また、図7(b)は(a)に示したディスクホルダ24の短手方向の断面図である。ディスクホルダ24には複数枚のディスク1を立てた状態で保持する保持溝24Bが設けられており、ディスク1はこの保持溝24Bに保持されており、保持溝24Bの下部には貫通孔24Aが設けられている。ここでは説明を簡単にするために、ディスク1にはディスク基板2の上にレジスト層7が形成されたものを図示してある。ディスクホルダ24は、図3(a)で説明したホルダ移動機構22により、貫通孔24Aがディスクリフタ23の昇降ロッド25の真上に来るように、インプリント部内で移動させられる。昇降ロッド25の先端部には、ディスク1を保持するための保持部25Aが設けられている。
【0033】
図7(c)は、昇降ロッド25が上昇して、ディスクホルダ24内のディスク1をインプリント位置まで引き上げる様子を示すものである。そして、インプリント位置まで引き上げられたディスク1は、図7(d)に示すように、両側からモールド装置30L,30Rによって挟まれる。このとき、図3(b)で説明した制御弁38は半開状態(開度約20%)となっている。これは、レジストの揮発を促進するために、制御弁38は常時少しだけ(開度20%)開けてあり、真空引きを行っているからである。モールド装置30L,30Rのモールド40は、上側からディスク1に接触してゆき、ディスク1は図6で説明したリング状のモールド抑え39の孔39Aにはめ込まれる。
【0034】
図8(a)は、ディスク1が両側からモールド装置30L,30Rのモールド40によって完全に挟まれた状態を示すものである。この状態で、図3(b)で説明したスイッチ35がオンにされるのでピエゾ素子32が伸張し、モールド40によってディスク1のレジスト層がインプリントされる。この時、ドットにならないレジスト層のレジストは、モールド40の溝部に収容される。レジストが完全にパターン化されるために、この状態は一定時間保持され、この時制御弁38は全開状態になり、残渣が吸引される。制御弁38は、レジストを広げる時間と同じ時間全開として残渣を吸引するのである。
【0035】
この後、制御弁38が半開状態(開度約20%)にされ、紫外線照射装置26から紫外線照射が行われ、紫外線(UV光)がモールド40を透過してレジスト層に当たり、レジストが硬化する。UV光の照射時間は、例えば5秒程度である。この結果、ディスク1のレジスト層に、モールド40による凹凸パターンが形成される。
【0036】
ディスク1のレジスト層に凹凸パターンが形成されると、図8(b)に示すように、モールド装置30L,30Rのモールド40がディスク1を下側から開放し、ディスク1は再び昇降ロッド25に保持される。この後、昇降ロッド25は降下し、ディスクホルダ24の保持溝24Bに凹凸パターンの形成されたディスク1を戻す。ディスク1がディスクホルダ24に戻ると、ホルダ移動機構22(図3(a)参照)によりディスクホルダ24が移動し、隣のディスク1がディスクリフタ25の真上に位置するようになる。
【0037】
図8(c)に示される状態は、図7(a)に示した状態からディスク1が1枚分ずれた状態と同じであり、この後、次のディスク1に対して、図7(c)、(d)、図8(a)〜(c)で説明した動作が繰り返し実行される。この動作は、ディスクホルダ24に保持された全てのディスク1に対して行われ、全てのディスク1に凹凸パターンが形成されると、ディスクホルダ24がインプリント部20から排出される。
【0038】
以上、インプリント部20におけるホルダ移動機構22、ディスクリフタ23、ディスクホルダ24、モールド装置30L,30R、及び紫外線照射装置26の動作について説明した。次に、以上説明したディスク1に凹凸パターンを形成するディスクの製造工程を、ディスク1側から見た処理として、図9及び図10を用いて説明する。
【0039】
図9(a)はディスク1が、図4(a)、(b)で説明した第1の実施例のモールド41によって押される前の状態を示すものである。ディスク1は、内径20mm、外径65mm、厚さ0.7mmのガラスで構成されたディスク基板2を備える。ガラス基板2の上には下から順に、軟磁性裏打ち葬3、中間層4、磁性層5、エッチングのマスク層のクロム(又はカーボン)6、レジスト層7が、図示しないスパッタ装置を用いて成膜されている。そして、成膜したディスク1に、第1の実施例のモールド41によってインプリントを行う。
【0040】
第1の実施例のモールド41は、ディスク1のデータトラックが、例えば100nmピッチで形成されている場合に、データトラックに対応する突起部47と突起部47の間の距離Tが70nm、磁性体をエッチングする突起部47の幅Eが30nmとすれば良い。また、インプリントした際の残渣を収容するモールド41の溝部48の深さは、クロム6の厚さと同程度にしておけば良い。これは、レジスト層7とカーボン6の選択比を、カーボンを1、レジスト層を1.2とした場合、カーボン6よりレジスト層7の方が早く削れるためである。カーボン6よりレジスト層7の方が早く削れると、溝部48によって形成された残渣パターン(ダミーのパターン)が先になくなり、カーボン6のエッチングに影響を与えない。
【0041】
図9(b)は、(a)の状態からモールド41をレジスト層7に押し付けた状態を示すものである。この時、モールド41の突起部47に押されたレジスト層7のレジストは、モールド41の溝部48に収容される。この状態で、モールド41の背面から前述のように紫外線照射が行われ、モールド層7が硬化する。この後、モールド41をディスク1から引き離せば、図9(c)に示す状態になる。レジスト層7には溝部57が形成され、溝部57の中にモールド41によってインプリントされたダミーパターン58が残る。なお、前述の第3の実施例のモールド43を使用した場合には、ダミーパターン58は発生しない。
【0042】
酸素ガスに対する下層のクロム6は、酸素で削られない。よって、図9(c)の状態から酸素ガスを導入したアッシングを行うと、図10(a)に示すように、ダミーパターン58は消失し、アッシングを続けることにより、図10(b)に示すようにレジスト層7が剥離されて磁性層5とクロム6からなるドットパターンが形成される。
【0043】
なお、以上説明した実施例では、ダミーパターンをトラック間に配置したが、ハードディスク装置では、ディスクが区画に分けられているので、モールドによってその区画毎にダミーパターンを配置するようにしても良い。また、ダミーパターンは、ハードディスク装置のディスクの最外周部、及び最内周部に配置することもできる。
【0044】
更に、以上説明した実施例において残ったダミーパターンは、揮発性であり、その後のプロセスで特に意識しなくてもなくなる。一方、図3(a)、(b)に示したインプリント部20の構成のように、インプリント直後にモールドに収容されたレジストを、真空吸引装置で真空吸引することにより、気化させてなくすこともできる。よって、モールドによって形成されたダミーパターンが、インプリントされることはない。真空吸引により気化しきれなかったレジストは裏面に吸い出されるが、この時に、窒素ガスによるブローを行うことにより、レジストを完全に気化させることができる。
【0045】
以上のようなディスクの製造方法により、レジスト残渣は極力薄くすることができるので、ディスク製造工程の負荷が減る。また、レジスト残渣によるレジストパターンの形状の変形(エッジの丸み)も少なくすることができる。更に、モールドとして第3の実施例のモールド43を使用し、モールド43の裏面から真空吸引することにより、モールドの裏面に染みだした余分なレジストを吸引することができる。こうすることで、ダミーパターンを設けなくても、残渣をなくすことができる。また、モールドの裏面に染みだした余分なレジストは、窒素ガスのブローによっても揮発させることができる。
【0046】
図11(a)は、図2に示したナノインプリント装置10のインプリント部20で使用する、従来の別の構成のモールド19と、モールドされたレジスト7の形状を示すものである。この例のモールド19に設けられる凹部51と突起部53のピッチは大きい。このような場合、この出願では、隣接する凹部51の間のモールド19の部分に、図11(b)に示す第4の実施例のように、レジスト溜り52を形成してモールド44とする。第4の実施例のモールド44では、インプリント時に余分なレジストをレジスト溜り52に引き込むことができるので、インプリント時にレジスト残渣が発生しない。
【0047】
図11(c)は、(b)に示した第4の実施例のモールド44の変形実施例である、この出願の第5の実施例のモールド45の構成を示すものである。第5の実施例のモールド45が第4の実施例のモールド44と異なる点は、突起部53の先端部に、第1の実施例と同様の溝部54が形成されている点である。第5の実施例のモールド45では、インプリント時に余分なレジストをレジスト溜り52に引き込むことができると共に、溝部54によってダミーパターン58をディスク基板2の上に形成することができる。ダミーパターン58の除去方法は、第1の実施例と同じである。
【0048】
本出願のモールド、及びこのモールドを用いたディスクの製造方法では、インプリントしてパターンニングした際の残渣を限りなく少なくすることができ、パターンの高精度・微細化が可能になるだけでなく、工程への負荷が減ることによるコストダウンの効果も期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上、この出願のナノインプリント装置を、HDDに使用するパターンドメディアの製造について説明した。一方、この出願のナノインプリント装置におけるナノインプリント技術は、バイオチップにおける抽出する分子の寸法に合わせた柱の形成や、LSIのゲート寸法の決定にも応用することができる。
【0050】
以上、本出願を特にその好ましい実施の形態を参照して詳細に説明した。本出願の容易な理解のために、本出願の具体的な形態を以下に付記する。
【0051】
(付記1) 被転写成型材の表面に微小な凹凸パターンを有するモールドを押し当てることによって、前記モールド上の凹凸を前記被転写成型材の表面に転写するナノインプリント装置において、
前記モールドの凸部の頂面に、前記モールドの前記被転写成型材への押し当て時に、前記被転写成型材の一部を収容可能な溝部を設けたことを特徴とするナノインプリント装置。
(付記2) 前記モールドの凸部が格子状をしていることを特徴とする付記1に記載のナノインプリント装置。
(付記3) 前記モールドの凸部が同心円状をしていることを特徴とする付記1に記載のナノインプリント装置。
(付記4) 前記溝部が、前記凸部の頂面に連続して設けられていることを特徴とする付記1から3の何れかに記載のナノインプリント装置。
(付記5) 前記溝部が、前記凸部の頂面に断続して設けられていることを特徴とする付記1から3の何れかに記載のナノインプリント装置。
【0052】
(付記6) 前記溝部の底面の所定位置に、前記モールドの裏面側に連通する貫通孔が設けられていることを特徴とする付記1から5の何れかに記載のナノインプリント装置。
(付記7) 前記モールドが紫外線透過部材から構成されており、前記モールドの裏面側に、紫外線照射装置が設けられていることを特徴とする付記1から6の何れかに記載のナノインプリント装置。
(付記8) 前記モールドの裏面側を吸引手段に接続し、前記モールドの前記被転写成型材への押し当て時に、前記モールドによって押し出された前記被転写成型材を、前記吸引手段によって吸引するようにしたことを特徴とする付記6に記載のナノインプリント装置。
(付記9) 前記ナノインプリント装置が、ディスク状の基板の上に、軟磁性裏打ち層、中間層、磁性層、下地層、及び前記被転写成型材が積層されたディスク媒体に対して転写を行うように構成されていることを特徴とする付記1から8の何れかに記載のナノインプリント装置。
(付記10) 前記前記溝部の深さが、前記下地層の厚さとほぼ等しいことを特徴とする付記9に記載のナノインプリント装置。
【0053】
(付記11) 前記モールドの凸部の割合が凹部に対して大きい場合に、前記溝部を、前記凹部よりも容積が大きく転写パターンに関与しない大型の溝部としたことを特徴とする付記1に記載のナノインプリント装置。
(付記12) 前記ナノインプリント装置が、ディスク状の基板の上に、軟磁性裏打ち層、中間層、磁性層、下地層、及び前記被転写成型材が積層されたディスク媒体に対して転写を行うように構成されていることを特徴とする付記11に記載のナノインプリント装置。
(付記13) 被転写成型材の表面に微小な凹凸パターンを有するモールドを押し当てることによって、前記モールド上の凹凸を前記被転写成型材の表面に転写するナノインプリント装置に使用するモールドであって、
前記モールドの凸部の頂面に、前記モールドの前記被転写成型材への押し当て時に、前記被転写成型材の一部を収容可能な溝部を設けたことを特徴とするモールド。
(付記14) 前記モールドの凸部が格子状をしていることを特徴とする付記13に記載のモールド。
(付記15) 前記モールドの凸部が同心円状をしていることを特徴とする付記13に記載のモールド装置。
【0054】
(付記16) 前記溝部が、前記凸部の頂面に連続して設けられていることを特徴とする付記13から15の何れかに記載のモールド。
(付記17) 前記溝部が、前記凸部の頂面に断続して設けられていることを特徴とする付記13から15の何れかに記載のモールド。
(付記18) 前記溝部の底面の所定位置に、前記モールドの裏面側に連通する貫通孔が設けられていることを特徴とする付記13ら17の何れかに記載のモールド。
(付記19) 前記モールドが紫外線透過部材から構成されていることを特徴とする付記13ら18の何れかに記載のモールド。
(付記20) ナノインプリント装置を用いた記憶媒体の製造方法であって、
ディスク状の基板の両面に、軟磁性裏打ち層、中間層、磁性層、下地層、及び前記被転写成型材を積層してディスク媒体を製造し、
前記ナノインプリント装置に備えられた微小な凹凸パターンを有するモールドを、紫外線透過部材で構成すると共に、その凸部の頂面に前記被転写成型材の一部を収容可能な溝部を設け、
各ディスク媒体の両面に前記モールドを押し当てることによって、前記モールド上の凹凸を前記被転写成型材の表面に転写すると共に、前記溝部に前記凸部によって押し退けられた前記被転写成型材の一部を収容し、
前記モールドの裏面側から紫外線を照射して前記被転写成型材を硬化させ、
前記モールドを取り外した後の前記ディスク状媒体に対して、アッシングを行って、前記溝部によって形成されたダミーパターンを除去すると共に、前記被転写成型材と下地層を除去して前記磁性層に前記モールド上の凹部のパターンを形成して記憶媒体を製造することを特徴とする記憶媒体の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(a)は従来のビットパターン媒体の外形とそのビットパターンの一例を示す斜視図、(b)から(d)は従来のビットパターンド媒体の作成方法の初期段階を示す工程図である。
【図2】この出願に係るナノインプリント装置の概略構成を示すブロック構成図である。
【図3】(a)は図2に示したナノインプリント装置のインプリント部の構造の一例を示すブロック構成図、(b)は(a)のモールド装置の内部構成の一例を示す構成図である。
【図4】(a)は図2に示したナノインプリント装置のインプリント部で使用するモールドの第1の実施例の構成を示す部分拡大斜視図、(b)は(a)のA‐A線における局部断面図、(c)は図2に示したナノインプリント装置のインプリント部で使用するモールドの第2の実施例の、図3(b)と同じ部位の局部断面図である。
【図5】(a)は図2に示したナノインプリント装置のインプリント部で使用するモールドの第3の実施例の構成を示す部分拡大斜視図、(b)は(a)のB‐B線における局部断面図である。
【図6】図3(b)に示したモールド装置に、図4に示した第1の実施例のモールドを取り付ける構成を示す組立斜視図である。
【図7】(a)は図3(a)に示したカセットの構造の一例を示すディスクホルダの長手方向の断面図、(b)は(a)に示したディスクホルダの短手方向の断面図、(c)は図3(a)に示した昇降ロッドがディスクホルダから1枚のディスクをリフトする状態を示す断面図、(d)はリフトされたディスクが両側からモールド装置によって挟まれる状態を説明する図である。
【図8】(a)はリフトされたディスクが両側からモールド装置によって挟まれてモールドされ、紫外線がモールドの裏面側から照射される状態を示す図、(b)は(a)の状態からモールド装置がディスクを開放する状態を示す図、(c)はカセット移動機構によってカセットが次のディスクをディスクリフタの動作位置に移動させる状態を示す図である。
【図9】ディスク媒体の製造工程を示すものであり、(a)はディスク媒体がモールドによって押される前の状態を示す図、(b)はディスク媒体がモールドによって成型されている状態を示す図、(c)はモールドが元の位置に戻った状態を示す図である。
【図10】ディスク媒体の製造工程を示すものであり、(a)は図9(c)の状態からアッシングによってレジストが剥離されていく状態を示す図、(b)はレジストが薄利されてドットパターンが形成された状態を示す図である。
【図11】(a)は図2に示したナノインプリント装置のインプリント部で使用するモールドの従来の構成とモールドされたレジストの形状を示す断面図、(b)は図2に示したナノインプリント装置のインプリント部で使用するモールドのこの出願の第4の実施例の構成とモールドされたレジストの形状を示す断面図、(c)は図2に示したナノインプリント装置のインプリント部で使用するモールドのこの出願の第5の実施例の構成とモールドされたレジストの形状を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 ビットパターンド媒体
2 ディスク基板
3 裏打ち層
7 レジスト層
9 従来のモールド
10 ナノインプリント装置
20 インプリント部
21 制御装置
22 ホルダ移動機構
23 ディスクリフタ
24 ディスクホルダ
25 昇降ロッド
26 紫外線照射装置
27 真空吸引装置
30 モールド装置
32 ピエゾ素子
33,34 電極
38 制御弁
40 モールド
41 第1実施例のモールド
42 第2実施例のモールド
43 第3実施例のモールド
44 第4実施例のモールド
45 第5実施例のモールド
47、53 突起部
48、54,57 溝部
49 貫通孔
51 凹部
58 ダミーパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被転写成型材の表面に微小な凹凸パターンを有するモールドを押し当てることによって、前記モールド上の凹凸を前記被転写成型材の表面に転写するナノインプリント装置において、
前記モールドの凸部の頂面に、前記モールドの前記被転写成型材への押し当て時に、前記被転写成型材の一部を収容可能な溝部を設けたことを特徴とするナノインプリント装置。
【請求項2】
前記溝部が、前記凸部の頂面に連続して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のナノインプリント装置。
【請求項3】
前記モールドの裏面側を吸引手段に接続し、前記モールドの前記被転写成型材への押し当て時に、前記モールドによって押し出された前記被転写成型材を、前記吸引手段によって吸引するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のナノインプリント装置。
【請求項4】
前記ナノインプリント装置が、ディスク状の基板の上に、軟磁性裏打ち層、中間層、磁性層、下地層、及び前記被転写成型材が積層されたディスク媒体に対して転写を行うように構成されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のナノインプリント装置。
【請求項5】
ナノインプリント装置を用いた記憶媒体の製造方法であって、
ディスク状の基板の両面に、軟磁性裏打ち層、中間層、磁性層、下地層、及び前記被転写成型材を積層してディスク媒体を製造し、
前記ナノインプリント装置に備えられた微小な凹凸パターンを有するモールドを、紫外線透過部材で構成すると共に、その凸部の頂面に前記被転写成型材の一部を収容可能な溝部を設け、
各ディスク媒体の両面に前記モールドを押し当てることによって、前記モールド上の凹凸を前記被転写成型材の表面に転写すると共に、前記溝部に前記凸部によって押し退けられた前記被転写成型材の一部を収容し、
前記モールドの裏面側から紫外線を照射して前記被転写成型材を硬化させ、
前記モールドを取り外した後の前記ディスク状媒体に対して、アッシングを行って、前記溝部によって形成されたダミーパターンを除去すると共に、前記被転写成型材と下地層を除去して前記磁性層に前記モールド上の凹部のパターンを形成して記憶媒体を製造することを特徴とする記憶媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−147435(P2010−147435A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326367(P2008−326367)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】