説明

ネガ型化学増幅レジスト組成物、並びに、それを用いたレジスト膜、レジスト塗布マスクブランクス、レジストパターン形成方法、及び、フォトマスク

【課題】高感度、高解像性(例えば、高い解像力、優れたパターン形状、小さいラインエッジラフネス、スカムの低減、及び、良好なドライエッチング耐性を同時に満足したパターンを形成できるネガ型化学増幅レジスト組成物、並びに、それを用いたレジスト膜、レジスト塗布マスクブランクス、レジストパターン形成方法、及び、フォトマスクの提供。
【解決手段】(A)酸及びアルカリに安定な下記一般式(I)で表される繰り返し単位(P)、及び、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q)を有する高分子化合物、(B)活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物、並びに、(C)架橋剤を含有する、ネガ型化学増幅レジスト組成物。


一般式(I)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Lは、酸素原子又は−NH−を表す。Lは、単結合又はアルキレン基を表す。Aは、多環炭化水素基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超LSIや高容量マイクロチップの製造などの超マイクロリソグラフィプロセスやその他のファブリケーションプロセスに好適に用いられる、電子線や極紫外線を使用して高精細化したパターンを形成しうるネガ型化学増幅レジスト組成物、並びに、それを用いたレジスト膜、レジスト塗布マスクブランクス、レジストパターン形成方法、及び、フォトマスクに関するものである。特に特定の下地膜を有する基板を使用するプロセスに用いられるネガ型化学増幅レジスト組成物、並びに、それを用いたレジスト膜、レジスト塗布マスクブランクス、レジストパターン形成方法、及び、フォトマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
レジスト組成物を用いた微細加工では、集積回路の高集積化に伴って、超微細パターンの形成が要求されている。それゆえ、露光波長にもg線からi線に、更にエキシマレーザー光にというように短波長化の傾向が見られ、現在では例えば、電子線を用いたリソグラフィー技術の開発が進んでいる。またKrFエキシマレーザー等のエキシマレーザー光の露光に供される樹脂としては、フェノール性水酸基の水素原子が、脂肪族炭化水素残基を有する基で置換された構造を有する樹脂、アリール基を有する基で置換された構造を有する樹脂、及びアルキル基で置換された構造を有する樹脂がそれぞれ特許文献1〜3に記載されている。
【0003】
超微細パターンを形成するためにはレジストの薄膜化が必要であるが、薄膜化するとドライエッチング耐性が低下する。また、電子線リソグラフィーでは、近年、電子線(EB)の加速電圧を増大させてレジスト膜中での電子散乱(前方散乱)の影響を小さくさせている。しかし、そうするとレジスト膜の電子エネルギー捕捉率が低下し、感度が低下するし、レジスト基板において反射した電子の散乱(後方散乱)の影響が増大する。
また、レジスト組成物による微細加工は、直接に集積回路の製造に用いられるだけでなく、近年ではいわゆるインプリント用モールド構造体の作製等にも適用されている(例えば、特許文献4及び非特許文献1)。そのため、高感度、高解像性(例えば、高い解像力、優れたパターン形状、小さいラインエッジラフネス(LER))、及び、良好なドライエッチング耐性を同時に満足させることが重要な課題となっており、これらの解決が必要である。
またフォトマスク基板に成型された金属酸化膜上でレジスト組成物を用いてマスクパターンを形成する場合、金属酸化膜上にスカムが発生しやすい。従って、基板の種類に依存せず、スカムの発生しないレジスト組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−29220号公報
【特許文献2】特許第3546687号公報
【特許文献3】特開平7−295220号公報
【特許文献4】特開2008−162101号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ナノインプリントの基礎と技術開発・応用展開−ナノインプリントの基板技術と最新の技術展開―編集:平井義彦 フロンティア出版(2006年6月発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高感度、高解像性(例えば、高い解像力、優れたパターン形状、小さいラインエッジラフネス(LER))、スカムの低減、及び、良好なドライエッチング耐性を同時に満足したパターンを形成できるネガ型化学増幅レジスト組成物、並びに、それを用いたレジスト膜、レジスト塗布マスクブランクス、レジストパターン形成方法、及び、フォトマスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定構造の繰り返し単位を有する高分子化合物を含有するネガ型化学増幅レジスト組成物によって上記目的が達成されることを見出した。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0008】
〔1〕
(A)酸及びアルカリに安定な下記一般式(I)で表される繰り返し単位(P)、及び、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q)を有する高分子化合物、(B)活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物、並びに、(C)架橋剤を含有する、ネガ型化学増幅レジスト組成物。
【化1】


一般式(I)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
は、酸素原子又は−NH−を表す。
は、単結合又はアルキレン基を表す。
Aは、多環炭化水素基を表す。
〔2〕
前記一般式(I)中、Aは、脂環式多環炭化水素基を表す、上記〔1〕に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
〔3〕
電子線又は極紫外線露光用である、上記〔1〕又は〔2〕に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
〔4〕
前記フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q)が、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
【化2】


一般式(IV)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
Arは、芳香族環を表す。
〔5〕
前記一般式(I)で表される繰り返し単位(P)が、下記一般式(II)で表される繰り返し単位である、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
【化3】


一般式(II)中、R及びAは、前記一般式(I)におけるR及びAと同義である。
〔6〕
前記架橋剤(C)が、ヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基を分子内に2個以上有する化合物である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
〔7〕
活性光線又は放射線の照射により前記化合物(B)より発生した酸が、体積130Å以上の大きさの酸である、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
〔8〕
上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物により形成されたレジスト膜。
〔9〕
上記〔8〕に記載のレジスト膜を塗布した、レジスト塗布マスクブランクス。
〔10〕
上記〔8〕に記載のレジスト膜を露光すること、及び、前記露光された膜を現像することを含む、レジストパターン形成方法。
〔11〕
上記〔9〕に記載のレジスト塗布マスクブランクスを露光すること、及び、前記露光されたマスクブランクスを現像することを含む、レジストパターン形成方法。
〔12〕
前記露光が、電子線又は極紫外線を用いて行われる、上記〔10〕又は〔11〕に記載のレジストパターン形成方法。
〔13〕
上記〔9〕に記載のレジスト塗布マスクブランクスを、露光及び現像して得られるフォトマスク。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高感度、高解像性(例えば、高い解像力、優れたパターン形状、小さいラインエッジラフネス(LER))、スカムの低減、及び、良好なドライエッチング耐性を同時に満足したパターンを形成できるネガ型化学増幅レジスト組成物、並びに、それを用いたレジスト膜、レジスト塗布マスクブランクス、レジストパターン形成方法、及び、フォトマスクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書に於ける基(原子団)の表記において、置換又は無置換を記していない表記は、置換基を有していないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本発明において「活性光線」又は「放射線」とは、例えば、水銀灯の輝線スペクトル、エキシマレーザーに代表される遠紫外線、極紫外線(EUV光)、X線、電子線等を意味する。また、本発明において「光」とは、活性光線又は放射線を意味する。本明細書中における「露光」とは、特に断らない限り、水銀灯、エキシマレーザーに代表される遠紫外線、X線、EUV光等による露光のみならず、電子線及びイオンビーム等の粒子線による描画も露光に含める。
【0011】
本発明に係るネガ型化学増幅レジスト組成物は、(A)酸及びアルカリに安定な後述の一般式(I)で表される繰り返し単位(P)、及び、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q)を有する高分子化合物、(B)活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物、並びに、(C)架橋剤を含有する。
【0012】
本発明に係るネガ型化学増幅レジスト組成物は、電子線又は極紫外線露光用であることが好ましい。
以下、本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物について詳細に説明する。
【0013】
〔1〕 (A)高分子化合物
本発明に係るネガ型化学増幅レジスト組成物は、(A)酸及びアルカリに安定な後述の一般式(I)で表される繰り返し単位(P)、及び、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q)を有する高分子化合物を含有している。
本発明では、繰り返し単位(P)及び(Q)を有する高分子化合物(A)を使用することで、高分子化合物(A)のガラス転移温度(Tg)が高くなり、非常に硬いレジスト膜を形成することができ、酸の拡散性やドライエッチング耐性を制御することができる。従って、電子線や極紫外線等の活性光線又は放射線の露光部における酸の拡散性が非常に抑制されるため、微細なパターンでの解像力、パターン形状及びLERが優れる。また、高分子化合物(A)における繰り返し単位(P)が多環炭化水素基を有することが、高いドライエッチング耐性に寄与するものと考えられる。更に、詳細は不明だが、多環炭化水素基は水素ラジカルの供与性が高く、光酸発生剤である後述の(B)活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物の分解時の水素源となり、光酸発生剤の分解効率が向上し、酸発生効率が高くなっていると推定され、これが優れた感度に寄与するものと考えられる。
本発明に係る高分子化合物(A)が有する繰り返し単位(P)は、高分子化合物(A)の主鎖に連結するカルボニル基と、多環炭化水素基とが、後述の一般式(I)中の−L−L−で表される連結基を介して連結している。前述のように、繰り返し単位(P)は高いドライエッチング耐性に寄与するだけでなく、高分子化合物(A)のガラス転移温度(Tg)を上げることができ、これらの組み合わせの効果により解像力、特に、電子線や極紫外線を使用した露光による微細なパターンの形成において高い解像力が提供されるものと推定される。
更に、後述の一般式(I)中の−C(=O)−L−(Lは酸素原子又は−NH−)で表される部位は親水的であるため、未露光部におけるレジスト膜の親水性が良好となり、現像後のスカムの低減に優れるものと考えられる。
【0014】
繰り返し単位(P)は、酸及びアルカリに安定な繰り返し単位である。酸及びアルカリに安定な繰り返し単位とは、酸分解性及びアルカリ分解性を示さない繰り返し単位を意味する。ここで酸分解性とは、後述の(B)活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物が発生する酸の作用により分解反応を起こす性質を意味し、酸分解性を示す繰り返し単位としてはポジ型の化学増幅レジスト組成物において主成分として使用される樹脂中に含まれる、従来公知の酸の作用により分解してアルカリ可溶性基を発生する基を有する繰り返し単位が挙げられる。
またアルカリ分解性とは、アルカリ現像液の作用により分解反応を起こす性質を意味し、アルカリ分解性を示す繰り返し単位としてはポジ型の化学増幅レジスト組成物において好適に使用される樹脂中に含まれる、従来公知のアルカリ現像液の作用で分解しアルカリ現像液中への溶解速度が増大する基(例えばラクトン構造を有する基など)を有する繰り返し単位が挙げられる。
本願におけるフェノール性水酸基とは、芳香環基の水素原子を水酸基で置換してなる基である。該芳香環基の芳香環は単環又は多環の芳香環であり、ベンゼン環やナフタレン環等が挙げられる。
以下に、繰り返し単位(P)及び(Q)について説明する。
【0015】
(酸及びアルカリに安定な一般式(I)で表される繰り返し単位(P))
【0016】
【化4】

【0017】
一般式(I)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
は、酸素原子又は−NH−を表す。
は、単結合又はアルキレン基を表す。
Aは、多環炭化水素基を表す。
【0018】
は、水素原子又はメチル基を表し、高分子化合物(A)のTgが向上することから、メチル基であることが好ましい。
は、酸素原子(−O−)又は−NH−を表し、感度の観点から、酸素原子(−O−)であることが好ましい。
【0019】
は、単結合又はアルキレン基を表す。Lで表されるアルキレン基としては、直鎖状のアルキレン基が好ましい。Lで表されるアルキレン基の炭素数は好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜5であり、メチレン基が最も好ましい。
は、単結合を表すことが、高分子化合物(A)のTgが向上することから好ましい。
【0020】
Aは、多環炭化水素基を表す。Aで表される多環炭化水素基は、総炭素数が5〜40であることが好ましく、7〜30であることがより好ましい。Aで表される多環炭化水素基は、脂環式多環炭化水素基であることがドライエッチング耐性の点で好ましい。なお脂環式多環炭化水素基とは、該多環炭化水素基を構成する環が全て脂環式炭化水素環であることを意味する。
【0021】
本発明において、多環炭化水素基は、単環型の炭化水素基を複数有する基、又は、多環型の炭化水素環基を意味し、有橋環式であってもよい。
単環型の炭化水素基としては、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜8のアリール基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロブチル基、シクロオクチル基、フェニル基等を挙げることができ、単環型の炭化水素基を複数有する基はこれらの基を複数有する。単環型の炭化水素基を複数有する基は、単環型の炭化水素基を2〜4個有することが好ましく、2個有することが特に好ましい。
【0022】
多環型の炭化水素基は、2つ以上の炭化水素環が縮環してなる基、又は、3つ以上の炭化水素環からなる有橋環式の炭化水素基であり、3つ以上の炭化水素環が縮環してなる基、又は、4つ以上の炭化水素環からなる有橋環式の炭化水素基であることがドライエッチング耐性の点で好ましい。また炭化水素環は、脂環式の炭化水素環であることがドライエッチング耐性の点で好ましく、脂環式の炭化水素環としては炭素数3〜8のシクロアルカンが好ましい。多環型の炭化水素基は、一般的に10個以下の炭化水素環からなる基であり、好ましく6個以下の炭化水素環からなる基である。なお多環型の炭化水素基における炭化水素環の個数とは、多環型の炭化水素基に含まれる単環型の炭化水素環の数を意味し、例えば、ナフチル基は2個、アントラセニル基は3個、アダマンチル基は4個、テトラヒドロジシクロペンタジエニル基は4個の炭化水素環をそれぞれ有する。
【0023】
多環型の炭化水素環基における多環型の炭化水素環構造としては、炭素数5以上のビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ構造等を挙げることができ、炭素数6〜30の多環シクロ構造や多環芳香族構造が好ましい。多環型の炭化水素環基として、例えば、アダマンチル基、デカリノ基、ノルボルニル基、イソボロニル基、カンファニル基、α−ピネル基、アンドロスタニル基、ヒキサヒドロインダニル基、テトラヒドロジシクロペンタジエニル基、インダニル基、フルオレニル基、インデニル基、アセナフタレニル基、ナフチル基、アントラセニル基を挙げることができる。
【0024】
上記の多環炭化水素基としては、アダマンチル基、テトラヒドロジシクロペンタジエニル基がドライエッチング耐性の観点で好ましく、アダマンチル基が最も好ましい。これら多環炭化水素基における多環炭化水素構造の化学式を以下に示す。なおAで表される多環炭化水素基としては、以下に示す多環炭化水素構造の任意の一つの水素原子を結合手にしてなる一価の基が挙げられる。
【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
上記環構造は置換基を有してもよく、置換基としては例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜6)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3〜10)、アリール基(好ましくは炭素数6〜15)、ハロゲン原子(好ましくはフッ素原子)、水酸基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜15)、カルボキシル基、カルボニル基、チオカルボニル基、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜7)、及びこれら基を組み合わせてなる基(好ましくは総炭素数1〜30、より好ましくは総炭素数1〜15)が挙げられる。
【0028】
Aで表される多環炭化水素基における多環炭化水素構造としては、上記式(6)、(7)、(23)、(36)、(37)、(40)、(51)〜(55)、(60)、(64)及び(65)のいずれかで表される構造が好ましく、上記式(36)、(40)、(53)、(55)及び(60)のいずれかで表される構造がより好ましく、上記式(36)及び(40)のいずれかで表される構造が特に好ましく、上記式(40)で表される構造が最も好ましい。
【0029】
前記一般式(I)で表される繰り返し単位(P)は、下記一般式(II)で表される繰り返し単位であることが、現像性向上の理由から好ましい。
【0030】
【化7】

【0031】
一般式(II)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
Aは、多環炭化水素基を表す。
一般式(II)におけるR及びAは、前記一般式(I)におけるR及びAと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0032】
一般式(I)で表される繰り返し単位の具体例としては、下記構造が挙げられる。
【0033】
【化8】

【0034】
一般式(I)で表される繰り返し単位に対応するモノマーは、例えば、多環炭化水素構造を有するアルコールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合反応、又は、多環炭化水素構造を有するアルコールと(メタ)アクリル酸ハライド、若しくは、(メタ)アクリル酸無水物、とのエステル化反応等によって合成することができる。
【0035】
本発明の高分子化合物(A)は、繰り返し単位(P)として、一般式(I)で表される繰り返し単位を一種のみ有していてもよいし、一般式(I)で表される繰り返し単位を二種以上有していてもよい。
【0036】
本発明の高分子化合物(A)における、一般式(I)で表される繰り返し単位の含有量(複数種存在する場合にはその合計量)は、高分子化合物(A)の全繰り返し単位に対して、2〜50モル%の範囲が好ましく、3〜40モル%の範囲がより好ましく、5〜30モル%の範囲が特に好ましい。
【0037】
(フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q))
フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q)としては、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位である限り特に限定されないが、下記一般式(III)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0038】
【化9】

【0039】
一般式(III)中、Rは水素原子、置換基を有していてもよいメチル基、又はハロゲン原子を表す。
Bは、単結合又は2価の連結基を表す。
Arは、芳香族環を表す。
mは、1以上の整数を表す。
【0040】
における置換基を有していてもよいメチル基としては、トリフルオロメチル基や、ヒドロキシメチル基等を挙げることができる。
は、水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることが現像性の理由から好ましい。
【0041】
Bの2価の連結基としては、カルボニル基、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5)、スルホニル基(−S(=O)−)、−O−、−NH−又はこれらを組合せた2価の連結基が好ましい。
Bは、単結合、カルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)又は−C(=O)−NH−を表すことが好ましく、単結合又はカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)を表すことがより好ましく、単結合であることがドライエッチング耐性向上の観点で特に好ましい。
【0042】
Arの芳香族環は、単環又は多環の芳香族環であり、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フルオレン環、フェナントレン環などの炭素数6〜18の置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、又は、例えば、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、ベンゾピロール環、トリアジン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、トリアゾール環、チアジアゾール環、チアゾール環等のヘテロ環を含む芳香環ヘテロ環を挙げることができる。中でも、ベンゼン環、ナフタレン環が解像性の観点で好ましく、ベンゼン環が感度の観点で最も好ましい。
mは1〜5の整数であることが好ましく、1が最も好ましい。mが1でArがベンゼン環の時、―OHの置換位置はベンゼン環のB(Bが単結合である場合にはポリマー主鎖)との結合位置に対して、パラ位でもメタ位でもオルト位でもよいが、架橋反応性の観点から、パラ位、メタ位が好ましく、パラ位がより好ましい。
【0043】
Arの芳香族環は、上記−OHで表される基以外にも置換基を有していてもよく、置換基としては例えば、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールカルボニル基が挙げられる。
【0044】
フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q)は、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位であることが架橋反応性、現像性、ドライエッチング耐性の理由でより好ましい。
【0045】
【化10】

【0046】
一般式(IV)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
Arは、芳香族環を表す。
【0047】
は、水素原子又はメチル基を表し、水素原子であることが現像性の理由から好ましい。
一般式(IV)におけるArは、一般式(III)におけるArと同義であり、好ましい範囲も同様である。一般式(IV)で表される繰り返し単位は、ヒドロキシスチレンから誘導される繰り返し単位(すなわち、一般式(IV)においてRが水素原子であり、Arがベンゼン環である繰り返し単位)であることが感度の観点から好ましい。
【0048】
フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q)の含有量は、高分子化合物(A)の全繰り返し単位に対して、10〜98モル%であることが好ましく、30〜97モル%であることがより好ましく、40〜95モル%であることが更に好ましい。これにより、特に、レジスト膜が薄膜である場合(例えば、レジスト膜の厚みが、10〜150nmである場合)、高分子化合物(A)を用いて形成された本発明のレジスト膜における露光部のアルカリ現像液に対する溶解速度をより確実に低減できる(即ち、高分子化合物(A)を用いたレジスト膜の溶解速度を、より確実に最適なものに制御できる)。その結果、感度をより確実に向上させることができる。
【0049】
以下、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q)の例を記載するが、これに限定されるものではない。
【0050】
【化11】

【0051】
本発明で用いられる高分子化合物(A)は、上記繰り返し単位以外の繰り返し単位として、下記のような繰り返し単位(以下、「他の繰り返し単位」ともいう)を更に有することも好ましい。
【0052】
これら他の繰り返し単位を形成するための重合性モノマーの例としてはスチレン、アルキル置換スチレン、アルコキシ置換スチレン、O−アルキル化スチレン、O−アシル化スチレン、水素化ヒドロキシスチレン、無水マレイン酸、アクリル酸誘導体(アクリル酸、アクリル酸エステル等)、メタクリル酸誘導体(メタクリル酸、メタクリル酸エステル等)、N−置換マレイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、置換基を有しても良いインデン、等を挙げることができる。
高分子化合物(A)は、これら他の繰り返し単位を含有してもしなくても良いが、含有する場合、これら他の繰り返し単位の高分子化合物(A)中の含有量は、高分子化合物(A)を構成する全繰り返し単位に対して、一般的に1〜20モル%、好ましくは2〜10モル%である。
【0053】
また、上記繰り返し単位以外の繰り返し単位として、アルカリ現像液の作用で分解しアルカリ現像液中への溶解速度が増大する基を有する繰り返し単位や、光酸発生基を有する繰り返し単位を更に有することも好ましい。
アルカリ現像液の作用で分解しアルカリ現像液中への溶解速度が増大する基を有する繰り返し単位としては、例えば、ラクトン構造、フェニルエステル構造を有する繰り返し単位などがあげられ、好ましくは5〜7員環ラクトン構造を有する繰り返し単位であり、5〜7員環ラクトン構造にビシクロ構造、スピロ構造を形成する形で他の環構造が縮環した構造を有する繰り返し単位がより好ましい。以下に、アルカリ現像液の作用で分解しアルカリ現像液中への溶解速度が増大する基を有する繰り返し単位の具体例を示す。式中、Rxは、H,CH,CHOH,又はCFを表す。
【0054】
【化12】

【0055】
【化13】

【0056】
高分子化合物(A)は、アルカリ現像液の作用で分解しアルカリ現像液中への溶解速度が増大する基を有する繰り返し単位を含有してもしなくてもよいが、含有する場合、アルカリ現像液の作用で分解しアルカリ現像液中への溶解速度が増大する基を有する繰り返し単位の含有量は、高分子化合物(A)中の全繰り返し単位に対し、1〜20モル%が好ましく、より好ましくは2〜10モル%、更に好ましくは3〜5モル%である。
【0057】
本発明においては、上記以外の繰り返し単位として、更に光酸発生基を有する繰り返し単位を含むことができる。そのような単位として例えば、特開平9−325497号公報〔0028〕に記載された繰り返し単位や、特開2009−93137号公報〔0038〕〜〔0041〕に記載された繰り返し単位があげられる。そして、この場合、この光酸発生基を有する繰り返し単位が本発明の活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物(B)にあたると考えることができる。
以下に、光酸発生基を有する繰り返し単位に対応するモノマーの具体例(EB又はEUV露光により発生した酸の構造として示す)を示す。
【0058】
【化14】

【0059】
高分子化合物が光酸発生基を有する繰り返し単位を含有する場合、光酸発生基を有する繰り返し単位の含有量は、高分子化合物(A)中の全繰り返し単位に対し、1〜40モル%が好ましく、より好ましくは5〜35モル%、更に好ましくは5〜30モル%である。
【0060】
高分子化合物(A)は、公知のラジカル重合法やアニオン重合法やリビングラジカル重合法(イニファーター法等)により合成することができる。例えば、アニオン重合法では、ビニルモノマーを適当な有機溶媒に溶解し、金属化合物(ブチルリチウム等)を開始剤として、通常、冷却条件化で反応させて重合体を得ることができる。
高分子化合物(A)としては、芳香族ケトン又は芳香族アルデヒド、及び1〜3個のフェノール性水酸基を含有する化合物の縮合反応により製造されたポリフェノール化合物(例えば、特開2008−145539)、カリックスアレーン誘導体(例えば特開2004−18421)、Noria誘導体(例えば特開2009−222920)、ポリフェノール誘導体(例えば特開2008−94782)も適用でき、高分子反応で修飾して合成しても良い。
また、高分子化合物(A)は、ラジカル重合法やアニオン重合法で合成したポリマーに高分子反応で修飾して合成することが好ましい。
高分子化合物(A)の重量平均分子量は、好ましくは1000〜200000であり、更に好ましくは2000〜50000であり、更により好ましくは2000〜10000である。
高分子化合物(A)の分散度(分子量分布)(Mw/Mn)は、好ましくは2.0以下であり、感度及び解像性の向上の観点でより好ましくは1.0〜1.80であり、1.0〜1.60が最も好ましい。リビングアニオン重合等のリビング重合を用いることで、得られる高分子化合物の分散度(分子量分布)が均一となり、好ましい。高分子化合物(A)の重量平均分子量及び分散度は、GPC測定によるポリスチレン換算値として定義される。
なお高分子化合物(A)は、上述のような特定の繰り返し単位に対応するモノマーを高分子重合して得られる化合物のみに限定されず、多環炭化水素基を含む、一般式(I)中の−C(=O)−L−L−Aで表される構造を有する限り、分子レジストのような比較的低分子の化合物も用いることが出来る。
本発明の化学増幅型レジスト組成物に対する高分子化合物(A)の添加量は組成物の全固形分に対して、好ましくは30〜95質量%、より好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜85質量%で用いられる。
【0061】
高分子化合物(A)の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
【化15】

【0063】
【化16】

【0064】
〔2〕 (B)活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物
本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物は、活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物(B)(以下、適宜、これらの化合物を「酸発生剤(B)」と略称する)を含有する。
酸発生剤(B)の好ましい形態として、オニウム化合物を挙げることができる。そのようなオニウム化合物としては、例えば、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩などを挙げることができる。
また、酸発生剤(B)の別の好ましい形態として、活性光線又は放射線の照射により、スルホン酸、イミド酸又はメチド酸を発生する化合物を挙げることができる。その形態における酸発生剤は、例えば、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、オキシムスルホネート、イミドスルホネートなどを挙げることができる。
【0065】
本発明に用いる酸発生剤(B)としては、低分子化合物に限らず、活性光線又は放射線の照射により酸を発生する基を高分子化合物の主鎖又は側鎖に導入した化合物も用いることができる。更に前述したように、活性光線又は放射線の照射により酸を発生する基が、本発明に用いる高分子化合物(A)の共重合成分となっている繰り返し単位中に存在する場合は、本発明の高分子化合物とは別分子の酸発生剤(B)はなくてもかまわない。
【0066】
酸発生剤(B)は、電子線又は極紫外線の照射により酸を発生する化合物であることが好ましい。
【0067】
好ましいオニウム化合物として、下記一般式(1)で表されるスルホニウム化合物、若しくは一般式(2)で表されるヨードニウム化合物を挙げることができる。
【0068】
【化17】

【0069】
一般式(1)及び(2)において、
a1、Ra2、Ra3、Ra4及びRa5は、各々独立に、有機基を表す。
は、有機アニオンを表す。
以下、一般式(1)で表されるスルホニウム化合物及び一般式(2)で表されるヨードニウム化合物を更に詳述する。
【0070】
上記一般式(1)のRa1〜Ra3、並びに、上記一般式(2)のRa4及びRa5は、各々独立に有機基を表すが、好ましくはRa1〜Ra3の少なくとも1つ、並びに、Ra4及びRa5の少なくとも1つがそれぞれアリール基である。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基が好ましく、更に好ましくはフェニル基である。
上記一般式(1)及び(2)におけるXの有機アニオンは、例えばスルホン酸アニオン、カルボン酸アニオン、ビス(アルキルスルホニル)アミドアニオン、トリス(アルキルスルホニル)メチドアニオンなどが挙げられ、好ましくは、下記一般式(3)、(4)又は(5)で表される有機アニオンであり、より好ましくは下記一般式(3)で表される有機アニオンである。
【0071】
【化18】

【0072】
上記一般式(3)、(4)及び(5)に於いて、Rc、Rc、Rc及びRcは、それぞれ、有機基を表す。
【0073】
上記Xの有機アニオンが、電子線や極紫外線などの活性光線又は放射線の照射により発生する酸であるスルホン酸、イミド酸、メチド酸などに対応する。
上記Rc1〜Rc4の有機基としては、例えばアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はこれらの複数が連結された基を挙げることができる。これら有機基のうちより好ましくは1位がフッ素原子又はフロロアルキル基で置換されたアルキル基、フッ素原子又はフロロアルキル基で置換されたシクロアルキル基、フッ素原子又はフロロアルキル基で置換されたフェニル基である。上記Rc2〜Rc4の有機基の複数が互いに連結して環を形成していてもよく、これら複数の有機基が連結された基としては、フッ素原子又はフロロアルキル基で置換されたアルキレン基が好ましい。フッ素原子又はフロロアルキル基を有することにより、光照射によって発生した酸の酸性度が上がり、感度が向上する。ただし、末端基は置換基としてフッ素原子を含有しないことが好ましい。
【0074】
そして、前記酸を発生する化合物(B)は、露光で発生した酸の非露光部への拡散を抑制し解像性やパターン形状を良好にする観点から、体積130Å以上の大きさの酸(より好ましくはスルホン酸)を発生する化合物であることが好ましく、体積190Å以上の大きさの酸(より好ましくはスルホン酸)を発生する化合物であることがより好ましく、体積230Å以上の大きさの酸(より好ましくはスルホン酸)を発生する化合物であることが更により好ましく、体積270Å以上の大きさの酸(より好ましくはスルホン酸)を発生する化合物であることが特に好ましく、体積400Å以上の大きさの酸(より好ましくはスルホン酸)を発生する化合物であることがとりわけ好ましい。ただし、感度や塗布溶剤溶解性の観点から、上記体積は、2000Å以下であることが好ましく、1500Å以下であることが更に好ましい。上記体積の値は、富士通株式会社製の「WinMOPAC」を用いて求めた。すなわち、まず、各例に係る酸の化学構造を入力し、次に、この構造を初期構造としてMM3法を用いた分子力場計算により、各酸の最安定立体配座を決定し、その後、これら最安定立体配座についてPM3法を用いた分子軌道計算を行うことにより、各酸の「accessible volume」を計算することができる。
以下に、特に好ましい酸発生剤(B)を以下に例示する。なお、例の一部には、体積の計算値を付記している(単位Å)。なお、ここで求めた計算値は、アニオン部にプロトンが結合した酸の体積値である。
【0075】
【化19】

【0076】
【化20】

【0077】
【化21】

【0078】
【化22】

【0079】
また、本発明に用いる酸発生剤(好ましくはオニウム化合物)としては、活性光線又は放射線の照射により酸を発生する基(光酸発生基)を高分子化合物の主鎖又は側鎖に導入した高分子型酸発生剤も用いることができ、前述の高分子化合物(A)の記載中に、光酸発生基を有する繰り返し単位として記載した。
【0080】
酸発生剤(B)の組成物中の含有量は、組成物の全固形分を基準として、好ましくは0.1〜40質量%であり、より好ましくは0.5〜30質量%であり、更に好ましくは1〜25質量%である。
酸発生剤(B)は、1種単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0081】
〔3〕 (C)架橋剤
本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物は、架橋剤(C)を含有する。本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物は、架橋剤(C)として、酸の作用により高分子化合物(A)を架橋する化合物(以下、適宜、酸架橋剤又は単に架橋剤と称する)を含有することが好ましい。
架橋剤(C)は、架橋性基としてヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基を分子内に2個以上有する化合物であることが好ましい。
【0082】
好ましい架橋剤としては、ヒドロキシメチル化又はアルコキシメチル化系フェノール化合物、アルコキシメチル化メラミン系化合物、アルコキシメチルグリコールウリル系化合物類及びアルコキシメチル化ウレア系化合物が挙げられ、ヒドロキシメチル化又はアルコキシメチル化系フェノール化合物、アルコキシメチル化メラミン系化合物、アルコキシメチルグリコールウリル系化合物類がより好ましく、ヒドロキシメチル化又はアルコキシメチル化系フェノール化合物がパターン形状の観点から最も好ましい。
特に好ましい架橋剤(C)としては、分子内にベンゼン環を3〜5個含み、更にヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基を合わせて2個以上有し、分子量が1200以下のフェノール誘導体や、少なくとも2個の遊離N−アルコキシメチル基を有するメラミン−ホルムアルデヒド誘導体やアルコキシメチルグリコールウリル誘導体が挙げられる。
アルコキシメチル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基が好ましい。
【0083】
上記架橋剤のうち、ヒドロキシメチル基を有するフェノール誘導体は、対応するヒドロキシメチル基を有さないフェノール化合物とホルムアルデヒドを塩基触媒下で反応させることによって得ることができる。また、アルコキシメチル基を有するフェノール誘導体は、対応するヒドロキシメチル基を有するフェノール誘導体とアルコールを酸触媒下で反応させることによって得ることができる。
このようにして合成されたフェノール誘導体のうち、アルコキシメチル基を有するフェノール誘導体が感度、保存安定性、パターン形状の点から特に好ましい。
【0084】
別の好ましい架橋剤の例として、更にアルコキシメチル化メラミン系化合物、アルコキシメチルグリコールウリル系化合物類及びアルコキシメチル化ウレア系化合物のようなN−ヒドロキシメチル基又はN−アルコキシメチル基を有する化合物を挙げることができる。
【0085】
このような化合物としては、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、テトラメトキシメチルグリコールウリル、1,3−ビスメトキシメチル−4,5−ビスメトキシエチレンウレア、ビスメトキシメチルウレア等が挙げられ、EP0,133,216A、西独特許第3,634,671号、同第3,711,264号、EP0,212,482A号に開示されている。
これら架橋剤の中で特に好ましいものを以下に挙げる。
【0086】
【化23】

【0087】
式中、L〜Lは、各々独立に、水素原子、ヒドロキシメチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【0088】
本発明においてネガ型化学増幅レジスト組成物が架橋剤を含有する場合、架橋剤は、ネガ型化学増幅レジスト組成物の固形分中、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%の添加量で用いられる。架橋剤の添加量を3〜40質量%とすることにより、残膜率及び解像力が低下することを防止するとともに、レジスト液の保存時の安定性を良好に保つことができる。
【0089】
本発明において、架橋剤は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよく、パターン形状の観点から2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
例えば、上記のフェノール誘導体に加え、他の架橋剤、例えば上述のN−アルコキシメチル基を有する化合物等を併用する場合、上記のフェノール誘導体と他の架橋剤の比率は、モル比で100/0〜20/80、好ましくは90/10〜40/60、更に好ましくは80/20〜50/50である。
また異なる2種以上のフェノール誘導体を組み合わせて用いることも好ましく、ヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基を有するフェノール誘導体を2種以上組み合わせて用いることで、適度な溶解速度に調整することが可能となり、スカムの低減の観点から好ましい。更に、4官能以上のアルコキシメチル基を有するフェノール誘導体と、2官能以上のアルコキシメチル基を有するフェノール誘導体とを少なくとも含む、2種以上のフェノール誘導体の組み合わせがスカムの低減の観点で最も好ましい。
【0090】
〔4〕塩基性化合物
本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物には、前記成分の他に、塩基性化合物を酸補足剤として含有することが好ましい。塩基性化合物を用いることにより、露光から後加熱までの経時による性能変化を小さくすることできる。このような塩基性化合物としては、有機塩基性化合物であることが好ましく、より具体的には、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、複素環アミン類、カルボキシル基を有する含窒素化合物、スルホニル基を有する含窒素化合物、ヒドロキシ基を有する含窒素化合物、ヒドロキシフェニル基を有する含窒素化合物、アルコール性含窒素化合物、アミド誘導体、イミド誘導体等が挙げられる。アミンオキサイド化合物(メチレンオキシ単位及び/又はエチレンオキシ単位を有するものが好ましく、例えば特開2008−102383に記載の化合物が挙げられる。)、アンモニウム塩(好ましくはヒドロキシド又はカルボキシレートである。より具体的にはテトラブチルアンモニウムヒドロキシドに代表されるテトラアルキルアンモニウムヒドロキシドがLERの観点で好ましい。)も適宜用いられる。
更に、酸の作用により塩基性が増大する化合物も、塩基性化合物の1種として用いることができる。
アミン類の具体例としては、トリ−n−ブチルアミン、トリ−n−ペンチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−デシルアミン、トリイソデシルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ジデシルアミン、メチルオクタデシルアミン、ジメチルウンデシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、メチルジオクタデシルアミン、N,N−ジブチルアニリン、N,N−ジヘキシルアニリン、2,6−ジイソプロピルアニリン、2,4,6−トリ(t−ブチル)アニリン、トリエタノールアミン、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、トリス(メトキシエトキシエチル)アミンや、米国特許第6040112号明細書のカラム3、60行目以降に例示の化合物、2−[2−{2―(2,2―ジメトキシ−フェノキシエトキシ)エチル}−ビス−(2−メトキシエチル)]−アミンや、米国特許出願公開第2007/0224539A1号明細書の段落[0066]に例示されている化合物(C1−1)〜(C3−3)などが挙げられる。含窒素複素環構造を有する化合物としては、2−フェニルベンゾイミダゾール、2,4,5−トリフェニルイミダゾール、N−ヒドロキシエチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、4−ジメチルアミノピリジン、アンチピリン、ヒドロキシアンチピリン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕−ウンデカ−7−エン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられる。
また、光分解性塩基性化合物(当初は塩基性窒素原子が塩基として作用して塩基性を示すが、活性光線あるいは放射線の照射により分解されて、塩基性窒素原子と有機酸部位とを有する両性イオン化合物を発生し、これらが分子内で中和することによって、塩基性が減少又は消失する化合物。例えば、特許3577743、特開2001−215689号、特開2001−166476、特開2008−102383に記載のオニウム塩)、光塩基発生剤(例えば、特開2010−243773に記載の化合物)も適宜用いられる。
これら塩基性化合物の中でもLERの観点でアンモニウム塩又は光分解性塩基性化合物が好ましい。
本発明において、塩基性化合物は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
本発明で使用される塩基性化合物の含有量は、ネガ型化学増幅レジスト組成物の全固形分に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.03〜5質量%がより好ましく、0.05〜3質量%が特に好ましい。
【0091】
〔5〕界面活性剤
本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物は、更に、塗布性を向上させるため界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤の例としては、特に限定されるものではないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤、メガファックF171(大日本インキ化学工業製)やフロラードFC430(住友スリーエム製)やサーフィノールE1004(旭硝子製)、OMNOVA社製のPF656及びPF6320、等のフッ素系界面活性剤、オルガノシロキサンポリマーが挙げられる。
ネガ型化学増幅レジスト組成物が界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の使用量は、組成物の全量(溶剤を除く)に対して、好ましくは0.0001〜2質量%、より好ましくは0.0005〜1質量%である。
【0092】
〔6〕有機カルボン酸
本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物には、前記成分の他に、有機カルボン酸を含有することが好ましい。このような有機カルボン酸化合物として、脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ケトカルボン酸、安息香酸誘導体、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸などを挙げることができるが、電子線露光を真空化で行なう際にはレジスト膜表面より揮発して描画チャンバー内を汚染してしまう恐れがあるので、好ましい化合物としては、芳香族有機カルボン酸、その中でも例えば安息香酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸が好適である。
有機カルボン酸の配合量としては、高分子化合物(A)100質量部に対し、0.01〜10質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは0.01〜5質量部、更により好ましくは0.01〜3質量部である。
【0093】
本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物は、必要に応じて、更に、染料、可塑剤、酸増殖剤(国際公開第95/29968号公報、国際公開第98/24000号公報、特開平8−305262号公報、特開平9−34106号公報、特開平8−248561号公報、特表平8−503082号公報、米国特許第5,445,917号明細書、特表平8−503081号公報、米国特許第5,534,393号明細書、米国特許第5,395,736号明細書、米国特許第5,741,630号明細書、米国特許第5,334,489号明細書、米国特許第5,582,956号明細書、米国特許第5,578,424号明細書、米国特許第5,453,345号明細書、米国特許第5,445,917号明細書、欧州特許第665,960号明細書、欧州特許第757,628号明細書、欧州特許第665,961号明細書、米国特許第5,667,943号明細書、特開平10−1508号公報、特開平10−282642号公報、特開平9−512498号公報、特開2000−62337号公報、特開2005−17730号公報、特開2008−209889号公報等に記載)等を含有してもよい。これらの化合物については、いずれも特開2008−268935号に記載のそれぞれの化合物を挙げることができる。
【0094】
〔カルボン酸オニウム塩〕
本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物は、カルボン酸オニウム塩を含有してもよい。カルボン酸オニウム塩としては、カルボン酸スルホニウム塩、カルボン酸ヨードニウム塩、カルボン酸アンモニウム塩などを挙げることができる。特に、カルボン酸オニウム塩としては、カルボン酸ヨードニウム塩、カルボン酸スルホニウム塩が好ましい。更に、本発明においては、カルボン酸オニウム塩のカルボキシレート残基が芳香族基、炭素−炭素2重結合を含有しないことが好ましい。特に好ましいアニオン部としては、炭素数1〜30の直鎖、分岐、単環若しくは多環環状アルキルカルボン酸アニオンが好ましい。更に好ましくはこれらのアルキル基の一部又は全てがフッ素置換されたカルボン酸のアニオンが好ましい。またアルキル鎖中に酸素原子を含んでいても良い。これにより220nm以下の光に対する透明性が確保され、感度、解像力が向上し、疎密依存性、露光マージンが改良される。
【0095】
本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物に使用される溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME、別名1−メトキシ−2−プロパノール)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA、別名1−メトキシ−2−アセトキシプロパン)、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、トルエン、キシレン、酢酸シクロヘキシル、ジアセトンアルコール、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどが好ましい。これらの溶剤は単独若しくは組合せて用いられる。
ネガ型化学増幅レジスト組成物の固形分は、上記溶剤に溶解し、固形分濃度として、1〜30質量%で溶解することが好ましい。より好ましくは1〜20質量%、更に好ましくは3〜15質量%である。
【0096】
本発明は、本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物により形成されたレジスト膜にも関し、このようなレジスト膜は、例えば、該ネガ型化学増幅レジスト組成物が基板等の支持体上に塗布されることにより形成される。このレジスト膜の厚みは、10〜150nmであることが好ましく、10〜120nmであることがより好ましい。基板上に塗布する方法としては、スピンコート、ロールコート、フローコート、ディップコート、スプレーコート、ドクターコート等の適当な塗布方法により基板上に塗布されるが、スピン塗布が好ましく、その回転数は1000〜3000rpmが好ましい。塗布膜は60〜150℃で1〜20分間、好ましくは80〜120℃で1〜10分間プリベークして薄膜を形成する。
【0097】
被加工基板及びその最表層を構成する材料は、例えば半導体用ウエハの場合、シリコンウエハを用いることができ、最表層となる材料の例としては、Si,SiO,SiN,SiON,TiN,WSi,BPSG,SOG,有機反射防止膜等が挙げられる。
【0098】
また、本発明は、上記のようにして得られるレジスト膜を塗布した、レジスト塗布マスクブランクスにも関する。このようなレジスト塗布マスクブランクスを得るために、フォトマスク作製用のフォトマスクブランクス上にレジストパターンを形成する場合、使用される透明基板としては、石英、フッ化カルシウム等の透明基板を挙げることができる。一般には、該基板上に、遮光膜、反射防止膜、更に位相シフト膜、追加的にはエッチングストッパー膜、エッチングマスク膜といった機能性膜の必要なものを積層する。機能性膜の材料としては、ケイ素、又はクロム、モリブデン、ジルコニウム、タンタル、タングステン、チタン、ニオブ等の遷移金属を含有する膜が積層される。また、最表層に用いられる材料としては、ケイ素又はケイ素に酸素及び/又は窒素を含有する材料を主構成材料とするもの、更にそれらに遷移金属を含有する材料を主構成材料とするケイ素化合物材料や、遷移金属、特にクロム、モリブデン、ジルコニウム、タンタル、タングステン、チタン、ニオブ等より選ばれる1種以上、又は更にそれらに酸素、窒素、炭素より選ばれる元素を1以上含む材料を主構成材料とする遷移金属化合物材料が例示される。
遮光膜は単層でも良いが、複数の材料を塗り重ねた複層構造であることがより好ましい。複層構造の場合、1層当たりの膜の厚みは、特に限定されないが、5nm〜100nmであることが好ましく、10nm〜80nmであることがより好ましい。遮光膜全体の厚みとしては、特に限定されないが、5nm〜200nmであることが好ましく、10nm〜150nmであることがより好ましい。
【0099】
これらの材料のうち、一般にクロムに酸素や窒素を含有する材料を最表層に持つフォトマスクブランク上でネガ型化学増幅レジスト組成物を用いてパターン形成を行った場合、基板付近でくびれ形状が形成される、いわゆるアンダーカット形状となりやすいが、本発明を用いた場合、従来のものに比べてアンダーカット問題を改善することができる。
次いで、このレジスト膜には活性光線又は放射線(電子線等)を照射し、好ましくはベーク(通常80〜150℃、より好ましくは90〜130℃で、通常1〜20分間、好ましくは1〜10分間)を行った後、現像する。これにより良好なパターンを得ることができる。そして、このパターンをマスクとして用いて、適宜エッチング処理及びイオン注入などを行い、半導体微細回路及びインプリント用モールド構造体やフォトマスク等を作成する。
なお、本発明の組成物を用いてインプリント用モールドを作成する場合のプロセスについては、例えば、特許第4109085号公報、特開2008−162101号公報、及び「ナノインプリントの基礎と技術開発・応用展開―ナノインプリントの基板技術と最新の技術展開―編集:平井義彦(フロンティア出版)」に記載されている。
【0100】
本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物の使用形態及びレジストパターン形成方法を次に説明する。
本発明は、上記レジスト膜又はレジスト塗布マスクブランクスを露光すること、及び、該露光されたレジスト膜又はレジスト塗布マスクブランクスを現像することを含む、レジストパターン形成方法にも関する。本発明において、前記露光が電子線又は極紫外線を用いて行われることが好ましい。
精密集積回路素子の製造などにおいてレジスト膜上への露光(パターン形成工程)は、まず本発明のレジスト膜にパターン状に電子線又は極紫外線(EUV)照射を行うことが好ましい。露光量は電子線の場合0.1〜20μC/cm程度、好ましくは3〜15μC/cm程度、極紫外線の場合0.1〜20mJ/cm程度、好ましくは3〜15mJ/cm程度となるように露光する。次いで、ホットプレート上で60〜150℃で1〜20分間、好ましくは80〜120℃で1〜10分間、露光後加熱(ポストエクスポージャベーク)を行い、ついで現像、リンス、乾燥することによりレジストパターンを形成する。現像液は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)等の好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは2〜3質量%アルカリ水溶液で、好ましくは0.1〜3分間、より好ましくは0.5〜2分間、浸漬(dip)法、パドル(puddle)法、スプレー(spray)法等の常法により現像する。アルカリ現像液には、アルコール類及び/又は界面活性剤を、適当量添加してもよい。アルカリ現像液のpHは、通常10.0〜15.0である。特に、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの2.38%質量の水溶液が望ましい。
【0101】
現像液には、必要に応じてアルコール類及び/又は界面活性剤を適当量添加することができる。
界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、イオン性や非イオン性のフッ素系及び/又はシリコン系界面活性剤等を用いることができる。これらのフッ素及び/又はシリコン系界面活性剤として、例えば特開昭62−36663号公報、特開昭61−226746号公報、特開昭61−226745号公報、特開昭62−170950号公報、特開昭63−34540号公報、特開平7−230165号公報、特開平8−62834号公報、特開平9−54432号公報、特開平9−5988号公報、米国特許第5405720号明細書、同5360692号明細書、同5529881号明細書、同5296330号明細書、同5436098号明細書、同5576143号明細書、同5294511号明細書、同5824451号明細書記載の界面活性剤を挙げることができ、好ましくは、非イオン性の界面活性剤である。非イオン性の界面活性剤としては特に限定されないが、フッ素系界面活性剤又はシリコン系界面活性剤を用いることが更に好ましい。
界面活性剤の使用量は現像液の全量に対して、通常0.001〜5質量%、好ましくは0.005〜2質量%、更に好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【0102】
現像方法としては、たとえば、現像液が満たされた槽中に基板を一定時間浸漬する方法(ディップ法)、基板表面に現像液を表面張力によって盛り上げて一定時間静止することで現像する方法(パドル法)、基板表面に現像液を噴霧する方法(スプレー法)、一定速度で回転している基板上に一定速度で現像液吐出ノズルをスキャンしながら現像液を吐出しつづける方法(ダイナミックディスペンス法)などを適用することができる。
上記各種の現像方法が、現像装置の現像ノズルから現像液をレジスト膜に向けて吐出する工程を含む場合、吐出される現像液の吐出圧(吐出される現像液の単位面積あたりの流速)は好ましくは2mL/sec/mm以下、より好ましくは1.5mL/sec/mm以下、更に好ましくは1mL/sec/mm以下である。流速の下限は特に無いが、スループットを考慮すると0.2mL/sec/mm以上が好ましい。
吐出される現像液の吐出圧を上記の範囲とすることにより、現像後のレジスト残渣に由来するパターンの欠陥を著しく低減することができる。
このメカニズムの詳細は定かではないが、恐らくは、吐出圧を上記範囲とすることで、現像液がレジスト膜に与える圧力が小さくなり、レジスト膜・レジストパターンが不用意に削られたり崩れたりすることが抑制されるためと考えられる。
なお、現像液の吐出圧(mL/sec/mm)は、現像装置中の現像ノズル出口における値である。
【0103】
現像液の吐出圧を調整する方法としては、例えば、ポンプなどで吐出圧を調整する方法や、加圧タンクからの供給で圧力を調整することで変える方法などを挙げることができる。
【0104】
また、現像液を用いて現像する工程の後に、他の溶媒に置換しながら、現像を停止する工程を実施してもよい。
【0105】
アルカリ現像の後に行うリンス処理におけるリンス液としては、純水を使用し、界面活性剤を適当量添加して使用することもできる。
【0106】
こうして、本発明のネガ型化学増幅レジスト組成物から形成されるレジスト膜について、未露光部分のレジスト膜は溶解し、露光された部分は高分子化合物が架橋しているので現像液に溶解され難く、基板上に目的のパターンが形成される。
【0107】
また本発明は、レジスト塗布マスクブランクスを、露光及び現像して得られるフォトマスクにも関する。露光及び現像としては、上記に記載の工程が適用される。該フォトマスクは半導体製造用として好適に使用される。
本発明におけるフォトマスクは、ArFエキシマレーザー等で用いられる光透過型マスクであっても、EUV光を光源とする反射系リソグラフィーで用いられる光反射型マスクであっても良い。
【0108】
また、本発明は、上記した本発明のレジストパターン形成方法を含む、半導体デバイスの製造方法、及び、この製造方法により製造された半導体デバイスにも関する。
本発明の半導体デバイスは、電気電子機器(家電、OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)に、好適に、搭載されるものである。
【実施例】
【0109】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定はされない。以下の合成例、実施例において、化合物の構造はH−NMR測定で確認した。
【0110】
(I)ネガ型化学増幅レジストとしての例(電子線、アルカリ現像)
1.高分子化合物(A)((A)成分)の合成例
<合成例1:高分子化合物(A1)の合成>
25.95質量部の4−アセトキシスチレンと、8.81質量部の下記モノマー(M−1)と、83.4質量部の1−メトキシ−2−プロパノールと、2.30質量部のDimethyl 2,2’−azobis(2−methylpropionate〔V−601;和光純薬工業(株)製〕との混合溶液を調製した。
20.9質量部の1−メトキシ−2−プロパノールを、窒素気流下、80℃に加熱した。その後、この液を攪拌しながら、上記の混合溶液を、2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で更に2時間攪拌した。次いで、85℃に加熱し更に2時間攪拌した。
反応液を放冷した後、0.60gのナトリウムメトキシドの28wt%メタノール溶液を加え、2時間反応させた後、1N−HCl水溶液で中和し、蒸留水を加えた後、有機層を酢酸エチルで抽出した。抽出液を多量のヘキサン/酢酸エチルを用いて再沈殿させた。その後、これを真空乾燥に供して、27.0質量部の高分子化合物(A1)を得た。
【0111】
【化24】

【0112】
また、高分子化合物(A1)と同様にして、他の高分子化合物を合成した。
得られた高分子化合物につき、H−NMR測定により、高分子化合物の組成比(モル比)を算出した。また、GPC(溶媒:THF)測定により、高分子化合物の重量平均分子量(Mw:ポリスチレン換算)、数平均分子量(Mn:ポリスチレン換算)及び分散度(Mw/Mn)を算出した。重量平均分子量及び分散度について、以下の表中に、高分子化合物の化学式及び組成比とともに示す。
また比較用の高分子化合物として、下記表1に示す構造、組成比、重量平均分子量(Mw)及び分散度(Mw/Mn)を有する比較高分子化合物(A1)〜(A3)を用意した。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
2.実施例
〔実施例1E〕
(1)支持体の準備
酸化Cr蒸着した6インチウェハー(通常のフォトマスクブランクスに使用する遮蔽膜処理を施した物)を準備した。
(2)レジスト塗布液の準備
(ネガ型レジスト組成物N1の塗布液組成)
高分子化合物(A1) 0.72g
光酸発生剤(z61)(構造式は下記) 0.12g
架橋剤CL−1(構造式は下記) 0.08g
架橋剤CL−4(構造式は下記) 0.04g
テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(塩基性化合物) 0.002g
2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸(有機カルボン酸) 0.012g
界面活性剤PF6320(OMNOVA(株)製) 0.001g
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶剤) 4.0g
プロピレングリコールモノメチルエーテル(溶剤) 5.0g
【0116】
【化25】

【0117】
上記組成物溶液を0.04μmの孔径を有するポリテトラフルオロエチレンフィルターで精密ろ過して、レジスト塗布溶液を得た。
【0118】
(3)レジスト膜の作成
上記6インチウェハー上に東京エレクトロン製スピンコーターMark8を用いてレジスト塗布溶液を塗布し、110℃、90秒間ホットプレート上で乾燥して、膜厚100nmのレジスト膜を得た。すなわち、レジスト塗布マスクブランクスを得た。
【0119】
(4)ネガ型レジストパターンの作製
このレジスト膜に、電子線描画装置((株)エリオニクス社製;ELS−7500、加速電圧50KeV)を用いて、パターン照射を行った。照射後に、120℃、90秒ホットプレート上で加熱し、2.38質量%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液を用いて60秒間浸漬した後、30秒間、水でリンスして乾燥した。
【0120】
(5)レジストパタ−ンの評価
得られたパターンを下記の方法で、感度、解像力、スカム、パタ−ン形状、ラインエッジラフネス(LER)及びドライエッチング耐性について評価した。
【0121】
〔感度〕
得られたパターンの断面形状を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製S−4300)を用いて観察した。線幅100nm(ライン:スペース=1:1)のレジストパターンを解像するときの露光量(電子線照射量)を感度とした。この値が小さいほど、感度が高い。
【0122】
〔解像力〕
上記の感度を示す露光量(電子線照射量)における限界解像力(ラインとスペース(ライン:スペース=1:1)が分離解像する最小の線幅)を解像力(nm)とした。
【0123】
〔パタ−ン形状〕
上記の感度を示す露光量(電子線照射量)における線幅100nmのラインパターン(L/S=1/1)の断面形状を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製S−4300)を用いて観察した。ラインパターンの断面形状において、[ラインパターンのトップ部(表面部)における線幅/ラインパターンの中部(ラインパターンの高さの半分の高さ位置)における線幅]で表される比率が1.5以上のものを「逆テーパー」とし、該比率が1.2以上1.5未満のものを「やや逆テーパー」とし、該比率が1.2未満のものを「矩形」として、評価を行った。
【0124】
〔スカム評価〕
上記〔パターン形状〕と同様の方法でラインパターンを形成した。その後、走査型電子顕微鏡S4800(日立ハイテク社(株)製)により断面SEMを取得し、スペース部分の残渣を観察して以下のように評価した。
×:スカムが見られ、パターン間が一部つながっている。
○:スカムが見られるがパターン間はつながっていない。
◎:スカムは見られない。
【0125】
〔ラインエッジラフネス(LER)〕
上記の感度を示す照射量(電子線照射量)で、線幅100nmのラインパターン(L/S=1/1)を形成した。そして、その長さ方向50μmに含まれる任意の30点について、走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製S−9220)を用いて、エッジがあるべき基準線からの距離を測定した。そして、この距離の標準偏差を求め、3σを算出した。値が小さいほど良好な性能であることを示す。
【0126】
〔ドライエッチング耐性〕
上記の感度を示す照射量(電子線照射量)で線幅100nm(ライン:スペース=1:1)のレジストパターンを形成したレジスト膜を、HITACHI U−621でAr/C/Oガス(体積比率100/4/2の混合ガス)を用いて30秒間ドライエッチングを行った。その後レジスト残膜率を測定し、ドライエッチング耐性の指標とした。
非常に良好:残膜率95%以上
良好:95%未満90%以上
不良:90%未満
【0127】
〔実施例2E〕〜〔実施例24E〕、〔比較例1E〕〜〔比較例3E〕
レジスト液処方で、下表2に記載の成分以外は実施例1Eと同様にしてレジスト溶液(ネガ型レジスト組成物N2〜N24、ネガ型レジスト比較組成物N1〜N3)の調製、ネガ型パターン形成及びその評価を行った。
【0128】
【表3】

【0129】
【表4】

【0130】
上記及び下記実施例/比較例で用いた前掲以外の素材の略称を以下に記載する。
【0131】
〔酸発生剤(B)〕
【0132】
【化26】

【0133】
〔架橋剤(C)〕
【0134】
【化27】

【0135】
〔塩基性化合物〕
B1:テトラブチルアンモニウムヒドロキシド
B2:トリ(n−オクチル)アミン
B3:2,4,5−トリフェニルイミダゾール
【0136】
【化28】

【0137】
〔溶剤〕
S1:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(1−メトキシ−2−アセトキシプロパン)
S2:プロピレングリコールモノメチルエーテル(1−メトキシ−2−プロパノール)
S3:2−ヘプタノン
S4:乳酸エチル
S5:シクロヘキサノン
S6:γ−ブチロラクトン
S7:プロピレンカーボネート
【0138】
評価結果を表3に示す。
【0139】
【表5】

【0140】
表3に示す結果から、本発明に係る組成物は、感度、解像力、スカムの低減、パターン形状、ラインエッジラフネス(LER)及びドライエッチング耐性に優れることが分かる。
【0141】
(II)ネガ型化学増幅レジストとしての例(EUV、アルカリ現像)
〔実施例1F〜6F及び比較例1F〜3F〕
(レジスト溶液の調製)
下記表4に示したネガ型レジスト組成物をポアサイズ0.04μmのポリテトラフルオロエチレンフィルターによりろ過して、ネガ型レジスト溶液を調製した。
【0142】
(レジスト評価)
調製したネガ型レジスト溶液を、スピンコーターを用いて、ヘキサメチルジシラザン処理を施したシリコン基板上に均一に塗布し、100℃で60秒間ホットプレート上で加熱乾燥を行って、0.05μmの膜厚を有したレジスト膜を形成させた。
得られたレジスト膜に関し、下記の方法で、感度、解像力、スカム、パタ−ン形状、ラインエッジラフネス(LER)及びドライエッチング耐性について評価した。
【0143】
〔感度〕
得られたレジスト膜に、EUV光(波長13nm)を用いて、露光量を0〜20.0mJ/cmの範囲で0.1mJ/cmずつ変えながら、線幅100nmの1:1ラインアンドスペースパターンの反射型マスクを介して、露光を行った後、110℃で90秒間ベークした。その後、2.38質量%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液を用いて現像した。
線幅100nmのラインアンドスペース(L/S=1/1)のマスクパターンを再現する露光量を感度とした。この値が小さいほど、感度が高い。
【0144】
〔解像力〕
上記の感度を示す露光量における限界解像力(ラインとスペース(ライン:スペース=1:1)とが分離解像する最小の線幅)を解像力(nm)とした。
【0145】
〔パターン形状〕
上記の感度を示す露光量における線幅100nmのラインパターン(L/S=1/1)の断面形状を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製S−4300)を用いて観察した。ラインパターンの断面形状において、[ラインパターンのトップ部(表面部)における線幅/ラインパターンの中部(ラインパターンの高さの半分の高さ位置)における線幅]で表される比率が1.5以上のものを「逆テーパー」とし、該比率が1.2以上1.5未満のものを「やや逆テーパー」とし、該比率が1.2未満のものを「矩形」として、評価を行った。
【0146】
〔スカム評価〕
上記〔パターン形状〕と同様の方法でラインパターンを形成した。その後、走査型電子顕微鏡S4800(日立ハイテク社(株)製)により断面SEMを取得し、スペース部分の残渣を観察して以下のように評価した。
×:スカムが見られ、パターン間が一部つながっている。
○:スカムが見られるがパターン間はつながっていない。
◎:スカムは見られない。
【0147】
〔ラインエッジラフネス(LER)〕
上記の感度を示す露光量で、線幅100nmのラインパターン(L/S=1/1)を形成した。そして、その長さ方向50μmにおける任意の30点について、走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製S−9220)を用いて、エッジがあるべき基準線からの距離を測定した。そして、この距離の標準偏差を求め、3σを算出した。値が小さいほど良好な性能であることを示す。
【0148】
〔ドライエッチング耐性〕
上記の感度を示す露光量で線幅100nm(ライン:スペース=1:1)のレジストパターンを形成したレジスト膜を、HITACHI U−621でAr/C/Oガス(体積比率100/4/2の混合ガス)を用いて15秒間ドライエッチングを行った。その後レジスト残膜率を測定し、ドライエッチング耐性の指標とした。
非常に良好:残膜率95%以上
良好:95%未満90%以上
不良:90%未満
【0149】
以上の評価結果を表4に示す。
【0150】
【表6】

【0151】
表4に示す結果から、本発明に係る組成物はEUV露光においても、感度、解像力、スカムの低減、パターン形状、ラインエッジラフネス(LER)及びドライエッチング耐性に優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸及びアルカリに安定な下記一般式(I)で表される繰り返し単位(P)、及び、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q)を有する高分子化合物、(B)活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物、並びに、(C)架橋剤を含有する、ネガ型化学増幅レジスト組成物。
【化1】


一般式(I)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
は、酸素原子又は−NH−を表す。
は、単結合又はアルキレン基を表す。
Aは、多環炭化水素基を表す。
【請求項2】
前記一般式(I)中、Aは、脂環式多環炭化水素基を表す、請求項1に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
【請求項3】
電子線又は極紫外線露光用である、請求項1又は2に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
【請求項4】
前記フェノール性水酸基を有する繰り返し単位(Q)が、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
【化2】


一般式(IV)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
Arは、芳香族環を表す。
【請求項5】
前記一般式(I)で表される繰り返し単位(P)が、下記一般式(II)で表される繰り返し単位である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
【化3】


一般式(II)中、R及びAは、前記一般式(I)におけるR及びAと同義である。
【請求項6】
前記架橋剤(C)が、ヒドロキシメチル基又はアルコキシメチル基を分子内に2個以上有する化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
【請求項7】
活性光線又は放射線の照射により前記化合物(B)より発生した酸が、体積130Å以上の大きさの酸である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のネガ型化学増幅レジスト組成物により形成されたレジスト膜。
【請求項9】
請求項8に記載のレジスト膜を塗布した、レジスト塗布マスクブランクス。
【請求項10】
請求項8に記載のレジスト膜を露光すること、及び、前記露光された膜を現像することを含む、レジストパターン形成方法。
【請求項11】
請求項9に記載のレジスト塗布マスクブランクスを露光すること、及び、前記露光されたマスクブランクスを現像することを含む、レジストパターン形成方法。
【請求項12】
前記露光が、電子線又は極紫外線を用いて行われる、請求項10又は11に記載のレジストパターン形成方法。
【請求項13】
請求項9に記載のレジスト塗布マスクブランクスを、露光及び現像して得られるフォトマスク。

【公開番号】特開2013−80061(P2013−80061A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219472(P2011−219472)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】