説明

ハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法および装置

【課題】 電極からの放電をレーザー光を利用して導電体へと誘導する場合に放電誘導の性能をさらに向上させる。
【解決手段】 雷雲(電極)2からの放電をレーザー光Lを利用して避雷針(導電体)3へと誘導する場合、超短パルスレーザー光Lを避雷針3の先端に向けて照射し、当該超短パルスレーザー光Lを短焦点で集光することにより生成する高密度プラズマを用いて避雷針3から雷雲2へ向けて延びるリーダーを誘起するとともに、他の超短パルスレーザー光Lを雷雲2に向けて照射し、当該他の超短パルスレーザー光Lを長焦点で集光することにより生成するフィラメントを用いてリーダーを長距離誘導する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法および装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、レーザー光で空気中に生成したプラズマチャネルにより雷を避雷針へと誘導するいわゆるレーザー誘雷、あるいはレーザーギャップスイッチを実施するのに好適な放電誘導技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザーによる放電誘導方法および放電誘導装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、雷を安全な場所に誘導する手法として、レーザーを用いて特定の避雷針に誘導するという技術が提案されている。この方法は、レーザーを用いてプラズマチャネルを生成し、雷雲が接近した時に避雷針先端から上向きリーダー(前駆放電)を生じさせ、目的とする避雷針へと雷を安全に誘導するというものである(特許文献2参照)。このような誘雷を実施するために用いるレーザーとして、CO2レーザー、エキシマレーザー、ガラスレーザー等が提案されており、基礎実験が行われているが、連続なプラズマチャネルができない、長尺のプラズマチャネルができない等の問題がある。
【0003】
一方、連続でかつ長尺なプラズマチャンネルを生成することが可能なレーザーとして超短パルスレーザーがある。超短パルスレーザーとはパルス幅がピコ秒以下のパルスレーザーのことであり、パルス幅を小さくすることにより、1パルス当りのエネルギが小さくても瞬間的に高出力のレーザー光を発生することができる。例えば、パルス幅が50フェムト秒のレーザーの場合、1パルス当りのエネルギが50mJであれば、瞬間的な出力は1テラワットとなる。このような超短パルスレーザーをレーザー誘雷に用いる方法としては、次の二つが提案されている。一つはレーザー光を短焦点で集光して生成する集光プラズマを利用する方法である。この方法では、電極間中央にレーザー光を集光して放電誘導を行った結果が報告されている。もう一つの方法は、長焦点で集光もしくは平行に照射して生成するフィラメントを利用する方法である。フィラメントとは集光したまま長距離伝播する光のことであり、超短パルスレーザーを用いることにより、数百m〜数kmに渡りフィラメントを生成したとの報告もある。さらには、電極間全体にフィラメントを生成し、フィラメント中に生じるプラズマチャネルを用いて電極間長3.8mの放電誘導を行った例も報告されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−142190号公報
【特許文献2】特開平8−064385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、超短パルスレーザー光を短焦点で集光した際に生成するプラズマチャネルは太くて高密度ではあるものの、長さは数mと短いため放電を長距離に渡ってガイドするのは困難だという点がある。その一方で、超短パルスレーザー光を長焦点で集光もしくは平行に照射することにより生じるフィラメントは数百m以上に渡って生成が可能であるが、太さは1mm以下と短くプラズマ密度も比較的小さいため、放電のトリガーとなる(リーダーを生成する)ことが困難である。特に自然誘雷は通常直流的な振舞いをし、雷雲は負極性に帯電している。したがって、雷を誘導すべき避雷針は直流正極性である。通常、直流正極性の電極からリーダーを生じさせるのは困難であり、このような直流正極性の避雷針からフィラメントを用いて上向きリーダーを生じさせるのは難しいことだと考えられる。
【0006】
そこで本発明は、電極からの放電をレーザー光を利用して導電体へと誘導する場合に放電誘導の性能をさらに向上させることが可能な放電誘導方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明者は種々の検討を繰り返し、その結果としてある知見を得た。すなわち、超短パルスレーザーを短焦点で集光することにより生じる集光プラズマと、長焦点で集光するかあるいは平行に照射することにより生じるフィラメントを組み合わせ、レーザー誘雷やレーザーギャップスイッチ等の性能を向上させるというものである。別の表現をすれば、フィラメントとリーダーとを混成していわば「ハイブリッドレーザー」を形成して放電誘導し、これによって放電誘導の特性を向上させるという新規な技術について想到するに至ったものである。
【0008】
本発明はこのような知見に基づくもので、まず請求項1に記載の発明は、電極からの放電をレーザー光を利用して導電体へと誘導するためのレーザーを利用した放電誘導方法において、超短パルスレーザー光を導電体の先端に向けて照射し、当該超短パルスレーザー光を短焦点で集光することにより生成する高密度プラズマを用いて導電体から電極へ向けて延びるリーダーを誘起するとともに、他の超短パルスレーザー光を電極に向けて照射し、当該他の超短パルスレーザー光を長焦点で集光することにより生成するフィラメントを用いてリーダーを長距離誘導するというものである。
【0009】
このハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法は、超短パルスレーザー光を短焦点で集光することにより生じる集光プラズマと、長焦点で集光もしくは平行に照射することにより生じるフィラメントとを組み合わせてレーザー誘雷やレーザーギャップスイッチ等の性能を向上させる。すなわち、集光プラズマとフィラメントを同時に導電体(例えば避雷針)の先端に照射し、放電のトリガーとなる集光プラズマによりリーダーを生じさせ、その生じたリーダーをフィラメントにより長距離ガイドするという方法である。この方法を用いれば、導電体先端から生じるリーダーを数十m以上ガイドすることが可能であるため、レーザー誘雷の性能が格段に向上する。
【0010】
なお、ここでのフィラメントは、超短パルスレーザー光を長焦点で集光した場合、あるいは超短パルスレーザー光を平行に照射した場合のいずれにおいても生成し得るものである。別の言い方をすれば、焦点距離を∞(無限大)とした場合にも本発明におけるフィラメントを生成することができるから、本発明における長焦点は広義には焦点距離∞(無限大)を含む概念だということができる。
【0011】
また、上記のごとく放電誘導を実施するにあたっては、請求項2のように、超短パルスレーザー光を集光する反射ミラーとして部分的に焦点距離を異ならせる多重焦点反射ミラーを用いることにより、超短パルスレーザー光の一部を短焦点で集光するとともに残りを長焦点で集光することが好ましい。あるいは、請求項3のように、超短パルスレーザー光を集光する反射ミラーとして焦点距離の短いミラーと焦点距離の長いミラーとを別々に用い、超短パルスレーザー光の一部を一方の反射ミラーにて短焦点で集光するとともに残りを他方の反射ミラーにて長焦点で集光することも好ましい。いずれの場合においても、短焦点で集光する超短パルスレーザー光とこれとは別に長焦点で集光する超短パルスレーザー光という2種類の態様で超短パルスレーザー光が照射される。こうした場合、短焦点で集光する超短パルスレーザー光によって集光プラズマが生じ、長焦点で集光(反射)する超短パルスレーザー光によってフィラメントが生じることになる。
【0012】
さらに、上記の請求項2または3のごとく放電誘導を実施する場合の反射ミラーは請求項4のように局部的な凸部または凹部を有するものであり、この反射ミラーを用いてフィラメントを生成しかつ制御することが好ましい。局部的な凸部または凹部を有する反射ミラーに照射された超短パルスレーザービームは、反射の際にミラー表面の局部的な凸部または凹部に応じた局所的な空間変調がビームの波面に与えられ、これが起点(種)となってフィラメントをビーム伝播の過程で形成する。このフィラメントは、反射ミラーの表面の局部的な凸部または凹部の存在により安定して生成されることから、局部的な凸部または凹部を任意の位置に形成することで、ビーム断面の任意の位置に一意的に連続して形成される。
【0013】
あるいは、請求項5のように、反射ミラーは、局部的な凸部または凹部に比して大域的である大域的凹部を当該局部的な凸部または凹部の周りに備えているものであり、この反射ミラーを用いてフィラメントを生成しかつ制御することも好ましい。局部的凸部または凹部により反射したビーム断面の任意の位置に形成された強度斑の周りに、大域的な凹部により反射した超短パルスレーザー光のエネルギあるいは周辺の強度斑を集合させることができる。
【0014】
さらには、請求項6のように、反射ミラーとして、表面形状を変化させることができる表面形状可変反射ミラーを用いることも好ましい。表面形状を変化させることによっても局所的な凸部または凹部の分布を変化させることが可能となる。
【0015】
請求項7に記載の発明も上述の知見に基づくもので、電極からの放電をレーザー光を利用して導電体へと誘導するためのレーザーを利用した放電誘導装置において、レーザー光として超短パルスレーザー光を用いこの超短パルスレーザー光を導電体の先端に向けて照射し、当該超短パルスレーザー光を短焦点で集光することにより生成する高密度プラズマを用いて導電体から電極へ向けて延びる上向きリーダーを誘起するとともに、他の超短パルスレーザー光を電極に向けて照射し、当該他の超短パルスレーザー光を長焦点で集光することにより生成するフィラメントを用いてリーダーを長距離誘導するレーザー発振器を備えることを特徴とするものである。
【0016】
このハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置は、超短パルスレーザー光を短焦点で集光することにより生じる集光プラズマと、長焦点で集光もしくは平行に照射することにより生じるフィラメントとを組み合わせてレーザー誘雷やレーザーギャップスイッチ等の性能を向上させる。すなわち、集光プラズマとフィラメントを同時に導電体(例えば避雷針)の先端に照射し、放電のトリガーとなる集光プラズマにより上向きリーダーを生じさせ、その生じたリーダーをフィラメントにより長距離ガイドするというものである。これによれば、導電体先端から生じる上向きリーダーを数十m以上ガイドすることが可能であるため、レーザー誘雷の性能が格段に向上する。
【0017】
上記のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置は、請求項8のように、レーザー光を反射して当該レーザー光の経路を変えるミラーであって部分的に焦点距離の異なる多重焦点型の反射ミラーを備え、レーザー発振器から照射される超短パルスレーザー光の一部を反射ミラーのうち焦点距離の短いミラー部分で反射・集光するとともに、超短パルスレーザー光の残りを反射ミラーのうち焦点距離の長いミラー部分で反射することが好ましい。あるいは、請求項9のように、レーザー光を反射して当該レーザー光の経路を変える短焦点の反射ミラーと長焦点の反射ミラーとを備え、レーザー発振器から照射される超短パルスレーザー光を短焦点の反射ミラーで反射・集光するとともに、他の超短パルスレーザー光を長焦点の反射ミラーで反射することも好ましい。いずれの場合においても、短焦点で集光する超短パルスレーザー光とこれとは別に長焦点で集光する超短パルスレーザー光という2種類の態様で超短パルスレーザー光が照射される。こうした場合、短焦点で集光する超短パルスレーザー光によって集光プラズマが生じ、長焦点で集光(反射)する超短パルスレーザー光によってフィラメントが生じることになる。
【0018】
請求項8と請求項9のいずれの場合においても、短焦点で集光する超短パルスレーザー光とこれとは別に長焦点で集光する超短パルスレーザー光という2種類の態様で超短パルスレーザー光が照射される。こうした場合、短焦点で集光する超短パルスレーザー光によって集光プラズマが生じ、長焦点で集光(反射)する超短パルスレーザー光によってフィラメントが生じることになる。
【0019】
さらに、上記の請求項8または9のごとく放電誘導を実施する場合の反射ミラーは請求項10のように局部的な凸部または凹部を有していて、この反射ミラーを用いることによってフィラメントを生成しかつ制御することが可能なものであることが好ましい。局部的な凸部または凹部を有する反射ミラーに照射された超短パルスレーザービームは、反射の際にミラー表面の局部的な凸部または凹部に応じた局所的な空間変調がビームの波面に与えられ、これが起点(種)となってフィラメントをビーム伝播の過程で形成する。このフィラメントは、反射ミラーの表面の局部的な凸部または凹部の存在により安定して生成されることから、局部的な凸部または凹部を任意の位置に形成することで、ビーム断面の任意の位置に一意的に連続して形成される。
【0020】
あるいは、請求項11のように、反射ミラーは、局部的な凸部または凹部に比して大域的である大域的凹部を当該局部的な凸部または凹部の周りに備えていて、この反射ミラーを用いることによってフィラメントを生成しかつ制御することが可能なものであることも好ましい。局部的凸部または凹部により反射したビーム断面の任意の位置に形成された強度斑の周りに、大域的な凹部により反射した超短パルスレーザー光のエネルギあるいは周辺の強度斑を集合させることができる。
【0021】
さらには、請求項12のように、反射ミラーは、その表面形状を変化させることができる表面形状可変反射ミラーであることも好ましい。表面形状を変化させることによっても局所的な凸部または凹部の分布を変化させることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法によると、「ハイブリッドレーザー」によってフィラメントと集光プラズマの両方を同時に形成することにより、放電誘導の性能を格段に向上させることが可能となる。したがってこのハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法によれば、上記した第二の問題、つまり、超短パルスレーザー光を短焦点で集光した場合と長焦点で集光(もしくは平行照射)した場合にはそれぞれ一長一短があるという問題を容易に解決することができる。すなわち、短焦点で集光した超短パルスレーザー光が集光プラズマを生じさせ、これと同時に、長焦点で集光(もしくは平行照射)した超短パルスレーザー光がフィラメントを生じさせるから、導電体先端から生じるリーダーを数十m以上ガイドすることが可能となり、このような本発明によれば、放電誘導しやすい状況を形成してレーザー誘雷等の性能を格段に向上させることができる。
【0023】
請求項2のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法によると、短焦点で集光する超短パルスレーザー光とこれとは別に長焦点で集光(もしくは平行照射)する超短パルスレーザー光という2種類の態様で超短パルスレーザー光が照射されるから、短焦点で集光する超短パルスレーザー光によって集光プラズマを生じさせ、長焦点で集光(もしくは平行照射)する超短パルスレーザー光によってフィラメントを生じさせ、放電誘導しやすい状況を形成することができる。
【0024】
請求項3のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法によると、短焦点ミラーと長焦点ミラーとを別々に用い、短焦点で集光する超短パルスレーザー光とこれとは別に長焦点で集光(もしくは平行照射)する超短パルスレーザー光という2種類の態様で超短パルスレーザー光が照射されるから、短焦点で集光する超短パルスレーザー光によって集光プラズマを生じさせ、長焦点で集光(もしくは平行照射)する超短パルスレーザー光によってフィラメントを生じさせ、放電誘導しやすい状況を形成することができる。
【0025】
請求項4のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法によると、局部的な凸部または凹部を有する反射ミラーを用いてフィラメントを生成しかつ制御することから、このような局部的な凸部または凹部を任意の位置に形成することで、ビーム断面の任意の位置にフィラメントを一意的に連続して形成することができる。また、反射ミラーの表面に形成される局部的な凸部または凹部の位置を反射面の任意の位置に形成できるようにすれば、フィラメント生成の起点となる強度斑の位置を変えてフィラメントの数、長さおよび生成位置を制御することが可能となる。
【0026】
請求項5のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法によると、局部的凸部または凹部により反射したビーム断面の任意の位置に形成された強度斑の周りに、大域的な凹部により反射した超短パルスレーザー光のエネルギあるいは周辺の強度斑を集合させて任意の位置の強度斑の電界強度をさらに強くすることができる。
【0027】
そして、請求項6のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法によると、反射ミラーの表面形状を変化させることによって局所的な凸部または凹部の分布を変化させ、これによってフィラメント生成の起点となる強度斑の位置を変えて当該フィラメントの生成状況をさらに制御することが可能となる。
【0028】
また、請求項7のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置によると、「ハイブリッドレーザー」によってフィラメントとリーダーの両方を同時に生成することにより、放電誘導の性能を格段に向上させることが可能となる。したがってこのハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置によれば、上記した第二の問題、つまり、超短パルスレーザー光を短焦点で集光した場合と長焦点で集光(もしくは平行照射)した場合にはそれぞれ一長一短があるという問題を容易に解決することができる。すなわち、短焦点で集光した超短パルスレーザー光が集光プラズマを生じさせ、これと同時に、長焦点で集光(もしくは平行照射)した超短パルスレーザー光がフィラメントを生じさせるから、導電体先端から生じる上向きリーダーを数十m以上ガイドすることが可能となり、このような本発明によれば、放電誘導しやすい状況を形成してレーザー誘雷等の性能を格段に向上させることができる。
【0029】
請求項8のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置によると、短焦点で集光する超短パルスレーザー光とこれとは別に長焦点で集光(もしくは平行照射)する超短パルスレーザー光という2種類の態様で超短パルスレーザー光が照射されるから、短焦点で集光する超短パルスレーザー光によって集光プラズマを生じさせ、長焦点で集光(もしくは平行照射)する超短パルスレーザー光によってフィラメントを生じさせ、放電誘導しやすい状況を形成することができる。
【0030】
さらに請求項9のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置によると、短焦点ミラーと長焦点ミラーとを別々に用い、短焦点で集光する超短パルスレーザー光とこれとは別に長焦点で集光(もしくは平行照射)する超短パルスレーザー光という2種類の態様で超短パルスレーザー光が照射されるから、短焦点で集光する超短パルスレーザー光によって集光プラズマを生じさせ、長焦点で集光(もしくは平行照射)する超短パルスレーザー光によってフィラメントを生じさせ、放電誘導しやすい状況を形成することができる。
【0031】
請求項10のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置によると、反射ミラーの局部的な凸部または凹部を任意の位置に形成することで、ビーム断面の任意の位置にフィラメントを一意的に連続して形成することができる。また、反射ミラーの表面に形成される局部的な凸部または凹部の位置を反射面の任意の位置に形成できるようにすれば、フィラメント生成の起点となる強度斑の位置を変えてフィラメントの数、長さおよび生成位置を制御することが可能となる。
【0032】
請求項11のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置によると、局部的凸部または凹部により反射したビーム断面の任意の位置に形成された強度斑の周りに、大域的な凹部により反射した超短パルスレーザー光のエネルギあるいは周辺の強度斑を集合させて任意の位置の強度斑の電界強度をさらに強くすることができる。
【0033】
そして、請求項12のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置によると、反射ミラーの表面形状を変化させることによって局所的な凸部または凹部の分布を変化させ、これによってフィラメント生成の起点となる強度斑の位置を変えて当該フィラメントの生成状況をさらに制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0035】
図1に本発明の一実施形態を示す。本発明にかかるハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置1は電極2からの放電をレーザー光Lを利用して導電体3へと誘導するための装置である。本実施形態におけるいわばハイブリッド型の放電誘導装置1はレーザー発振器4と反射ミラー5とを備えた装置であり、フィラメントとリーダーとを混成していわば「ハイブリッドレーザー」を形成して放電誘導し、これによって放電誘導の特性を向上させるというものである。以下に示す実施形態では、この放電誘導装置1をレーザー誘雷に適用する場合について説明する(図1等参照)。この場合、電極2に該当するのが雷雲となり(以下、符号2を付して雷雲2と称する)、導電体3に該当するのが避雷針となる(以下、符号3を付して避雷針3と称する)。避雷針3は落雷被害を防止するための装置で、例えば先端に金属製の棒が立てられた鉄塔(避雷塔)などからなる。
【0036】
ここで、まずは本実施形態で行うレーザー誘雷について簡単に説明しておく。避雷針3などを使って雷を安全な場所へと人為的に導くのが誘雷と呼ばれるものであり、このうち、レーザー光Lを利用して誘雷させることはレーザー誘雷と呼ばれている。つまり、図1に示すように雷雲2へ向けてレーザー光Lを照射し、避雷針3に雷を誘導することにより落雷被害を回避する技術がレーザー誘雷である。このレーザー誘雷は、高密度・長尺のプラズマチャネルを地上と雷雲2との間にレーザー光Lを使って生成して行うもので、この場合に生じるプラズマが高い電気伝導度を有していることから、これにより雷放電路をガイドして安全な場所へと誘導する。つまりは、レーザー光Lのエネルギを高密度にして空気中に導電性のよいプラズマを生成し、これによって雷の通りやすい経路を形成するというものである。
【0037】
本実施形態におけるハイブリッド型の放電誘導装置1は、レーザー発振器4と反射ミラー5とを備えた装置となっている。このうち、レーザー発振器4はレーザー光Lとして超短パルスレーザー光Lを用いるもので、この超短パルスレーザー光Lを避雷針3の先端に向かうように照射する。この場合、当該超短パルスレーザー光Lを短焦点で集光することにより生成する高密度プラズマを用いて避雷針3から雷雲2へ向けて延びる上向きリーダーを誘起するとともに、他の超短パルスレーザー光Lを雷雲2に向けて照射し、当該他の超短パルスレーザー光Lを長焦点で集光することにより生成するフィラメントを用いて上向きリーダーを長距離誘導する(図1参照)。
【0038】
また、この放電誘導装置1における反射ミラー5は、超短パルスレーザー光Lを反射して当該レーザー光Lの経路を変えるミラーであって、部分的に焦点距離の異なる多重焦点型のミラー(多重焦点鏡)である。すなわち、この反射ミラー5は、レーザー発振器4から照射される超短パルスレーザー光Lの一部を焦点距離の短いミラー部分で反射・集光するとともに、超短パルスレーザー光Lの残りを焦点距離の長いミラー部分で反射するものである。焦点距離の短いミラー部分で反射された超短パルスレーザー光Lは避雷針3の先端に向かい、高密度プラズマを生成させ、雷雲2へ向けて延びる上向きリーダーを誘起する。一方、焦点距離の長いミラー部分で反射された超短パルスレーザー光Lは長焦点で集光(もしくは平行照射)し、大気中に多くのフィラメントを生成させる(本明細書ではこのように大気中にて多数生成したフィラメントのことを「マルチフィラメント」という)。
【0039】
以下、上述した放電誘導装置1を用いて誘雷する場合の一形態を説明する。まず、レーザー発振器4から発生したレーザー光Lを反射ミラー(多重焦点鏡)5に照射する。上述したとおり、本実施形態の反射ミラー5は二つの焦点距離を有していて、一例を示せば一方は焦点距離10mであり、もう一方は焦点距離30mである。焦点距離10mの部分で集光されたレーザー光Lを避雷針3の先端に集光し、当該避雷針3の先端に高密度な集光プラズマを生成する(図1参照)。同時に焦点距離30mの部分から反射されるレーザー光Lによりフィラメントを生成する。この時、フィラメントの生成は避雷針3の先端より前から生成するように反射ミラー5の焦点距離を調整しておくのが望ましい。こうした場合、焦点距離10mの集光により生じた高密度な集光プラズマにより上向きリーダーを生成し、そのリーダーを焦点距離30mの集光により生じたフィラメントによりガイドすることが可能となる。上向きリーダーを数10mガイドすれば、あとは自然と雷雲2まで達するため、その後の後続雷撃を確実に目的とする避雷針3に誘導することが可能となる(図1参照)。
【0040】
なお、ここでは反射ミラー(集光ミラー)5の一例として多重焦点鏡を使用する場合について説明したが、これに限らず、焦点距離の短い反射ミラー5と焦点距離の長い反射ミラー5という別々のミラーを組み合わせることとしてもよい。この場合、システムは若干複雑になるが、多重焦点鏡のような特殊なミラーを用いないため、コストを下げることが可能だという利点がある。また、気象条件等の影響によりフィラメントの生成状況が異なることが考えられるが、焦点距離の異なる別々の反射ミラー5を用いれば、気象条件等の変化に応じて例えば焦点距離の長い反射ミラー5のみを交換するだけで対応が可能になるという利点もある。
【0041】
ここで、フィラメントを生成かつ制御する方法として、局部的な凸部または凹部を有する反射ミラー5を使用すれば、予め設計された任意の位置にフィラメントを生成することが可能になるという点で好ましい。また、フィラメントを生成かつ制御する方法として、局部的な凸部または凹部に、この局部的な凸部または凹部に比して大域的な凹部を加えた反射ミラー5を使用すれば、任意の位置にレーザー光強度を集中することが可能になるという点でやはり好ましい。こうした場合には、局部的凸部または凹部により反射したビーム断面の任意の位置に形成された強度斑の周りに、大域的な凹部により反射した超短パルスレーザー光のエネルギあるいは周辺の強度斑を集合させて任意の位置の強度斑の電界強度をさらに強くし、ビーム伝播中のフィラメント生成をより確実なものとすることができる。さらに、フィラメントを生成かつ制御する方法として、局部的な凸部または凹部に、この局部的な凸部または凹部に比して大域的な凹部を加えた表面形状可変反射ミラー5を使用することとした場合には、大域的凹部の形成位置を制御することによってリアルタイムでビーム断面上におけるフィラメントの発生位置を制御することができる。これにより、気象条件の変化等によりフィラメントの生成条件が変化した場合でも、最適な位置にフィラメントを生成することが可能となる。
【0042】
本実施形態における反射ミラー5は、上述したような局部的な凸部または凹部を有し、レーザー光Lを反射して当該レーザー光Lの経路を変えるミラーとなっている。そして、このような反射ミラー5を使用してマルチフィラメントを生成し尚かつ制御することとしている。以下においては、このようなレーザー発振器4および反射ミラー5を用いて大気中にフィラメントを生成させる場合の好適な形態について説明しておく(図2〜図14参照)。ここでは、局部的な凸部または凹部9を有する反射ミラー5に超短パルスレーザー光(以下、「超短パルスレーザービーム」ともいう)Lを照射し、局部的凸部または凹部9により反射したビーム断面の任意の部位に強度斑を作ることでフィラメント発生の起点とする。
【0043】
即ち、局部的な凸部または凹部9を有する反射ミラー5を超短パルスレーザービームLの光路上へ介装することにより、超短パルスレーザービームLが反射する際に、ミラー表面の局部的な凸部または凹部9に応じた局所的な空間変調がビームの波面に与えられ、これが起点(種)となってフィラメントをビーム伝播の過程で形成する。このフィラメントは、反射ミラー5の表面の局部的な凸部または凹部9の存在により安定して生成されることから、局部的な凸部または凹部9を任意の位置に形成することで、ビーム断面の任意の位置に一意的に連続して形成される。尚、局部的な凸部または凹部9は、反射ミラー5の表面・反射面のビームが照射される領域内の任意の位置に少なくとも1つは設けられるが、必要に応じて2カ所以上設けることも可能である。
【0044】
また、局部的な凸部または凹部9を有する反射ミラー5は、このような局部的な凸部または凹部9に加え、当該局部的な凸部または凹部9よりも大きな大域的凹部(図4において符号10を付けて表示)を備えたものであることが好ましい。すなわち、局部的凸部または凹部により強度斑を作る工程と同時にあるいは前後して、局部的凸部または凹部9に比して大域的な凹部10を有する反射ミラー5で超短パルスレーザービームLを反射させることにより、超短パルスレーザービームLのエネルギあるいは周辺の強度斑を大域的凹部10の中心に向けて集合させるようにすれば、フィラメント生成の起点となる強度斑の電界強度をより強くしてビーム伝播中のフィラメント生成をより確実なものとできる。より具体的には、局部的凸部または凹部9の周りあるいはビーム断面の局部的な凸部または凹部9の周りに相当する位置に、局部的凸部または凹部9に比して大域的凹部10を有する反射ミラー5で超短パルスレーザービームLを反射させることにより、反射ビームのエネルギあるいは周辺の強度斑を中心となる強度斑の周りに集合させて、フィラメント生成の起点となる強度斑の電界強度をより強くしてビーム伝播中のフィラメント生成をより確実なものにすると共に反射ビーム断面の任意の部位に任意の密度のフィラメントを生成させることを可能とする。
【0045】
また、大域的凹部10の形成位置を制御することで、ビーム断面上におけるフィラメントの発生位置を制御できる。即ち、反射ミラー5の反射面に予め形成されている局部的な凸部または凹部9により、ビーム伝播の過程でビームの波面にフィラメントを形成する起点(種)となる局所的な空間変調がビームが照射される領域内の局部的な凸部または凹部9の数だけ与えられて反射ビームに形成されるが、その内の一部の強度斑について超短パルスレーザービームLのエネルギあるいは周辺の強度斑が集合するように大域的凹部10を反射面に形成すれば、大域的凹部10の中心にある強度斑の電界強度がより強くされることによって、さらには周辺の強度斑が集合ないし合流することによって、ビーム断面中の大域的凹部10の中心に位置する場所に確実により密度の高いあるいは強いフィラメントが生成される。そこで、大域的な凹部10の形成位置を制御することで、ビーム断面上の任意位置に任意密度あるいは数のフィラメントを発生させるように制御できる。これによれば、大気中に多数のフィラメントからなるマルチフィラメントを積極的に生成させることも可能となる。
【0046】
上述のフィラメント発生起点の生成工程と超短パルスレーザービームLのエネルギあるいは周辺の強度斑を強度斑の周りに集合させる工程とは、同時に実施する場合ばかりでなく、いずれかを先に実施しても良い。しかし、同時あるいは超短パルスレーザービームLのエネルギあるいは周辺の強度斑を強度斑の周りに集合させる工程を後で実施する場合の方が、幾つか発生しているフィラメント発生起点のうちの1つあるいは複数の強度斑の電界強度をさらに強くしてフィラメントの生成を促すことが容易である。
【0047】
ここで、フィラメント発生の起点となる強度斑を生成する工程と超短パルスレーザービームLのエネルギを上記の強度斑の周りに集合させる工程とを同時に実施するフィラメント形成方法としては、例えば反射面に局部的な凸部または凹部9を有しかつこの局部的な凸部または凹部9の周りに局部的凸部または凹部9に比して大域的な凹部10を形成するように任意に変形可能な可変形反射ミラー5の採用である。この場合には、局部的凸部または凹部9により形成される強度斑の生成位置と大域的凹部10により起こる超短パルスレーザービームLのエネルギあるいは周辺の強度斑の集合位置とが予め関連づけられており、ビーム断面の任意位置の強度斑の電界強度をより確実にさらに強くする。
【0048】
また、フィラメント発生の起点を生成する工程と超短パルスレーザービームLのエネルギを強度斑の周りに集合させる工程とを連続的に実施するフィラメント形成方法としては、例えば局部的な凸部または凹部9を有する反射ミラー5と局部的凸部または凹部9に比して大域的な凹部10をビーム断面の局部的な凸部または凹部9の周りに相当する位置に形成する反射ミラー5との別々の反射ミラー5で順番に反射させることがある。この場合には、局部的凸部または凹部9により反射後のビーム断面の任意の位置に一意的に形成される強度斑とは独立して大域的凹部10により起こる超短パルスレーザービームLのエネルギあるいは周辺の強度斑の集合が制御される。
【0049】
尚、独立制御可能な複数のアクチュエータを備えることによって反射面が任意に変形可能な可変形反射ミラー5を用いる場合には、少なくとも搭載されたアクチュエータの数の大域的凹部10が反射面に形成されることから、各大域的凹部10の中心に相当する位置ごとに、あるいはその周辺に局部的な凸部または凹部9を設けることが好ましい。
【0050】
以上のようにミラー表面の局部的な凸部または凹部9に応じた局所的な空間変調を超短パルスレーザービームLに与えてフィラメントを形成することができるフィラメント形成装置の一例を図2および図3に示す。このフィラメント形成装置は、独立制御可能な複数のアクチュエータを備える可変形反射ミラー5を用いたものであり、反射面が任意に変形可能な反射ミラー(以下、可変形ミラーとも呼ぶ)5と、該可変形ミラー5の背面側に連結されて可変形ミラー5に対して変位を与えるアクチュエータ6とを備え、アクチュエータ6の駆動によって可変形ミラー5を大域的に変形可能としたものである。
【0051】
ここで、可変形ミラー5としては、独立して制御可能な複数本のアクチュエータ6の駆動により反射面が任意に変形可能な薄肉の平面ミラーが採用されている。本実施形態の場合、アクチュエータ6の駆動により所望の大域的凹部10を容易に形成できる程度の剛性を有するものであり、例えば縦横寸法が100×100(mm)程度の正方形状のミラーにおいては厚さ3mm程度の薄肉の平面鏡の使用が好ましい。
【0052】
反射ミラー5の背面はアクチュエータ6に連結され、アクチュエータ6を介してフレーム11に支持されている。本実施形態では、13本のアクチュエータ6が可変形ミラー5の裏面全域にほぼ均等な間隔で縦横並びに対角線上に配置されているが、この本数に特に限られるものではない。
【0053】
アクチュエータ6は、反射ミラー5の背面に固着されているロッド13を含み、該ロッド13が当該アクチュエータ6の可動部(本実施形態ではロッドホルダ14)に対して切り離し可能に連結されている。例えば、アクチュエータ6は、駆動素子16の先端に固定されているロッドホルダ14の少なくともロッド13を固定する端部側にロッド13を嵌め込む孔を設け、ロッド13の後端側を嵌め込んだ状態でロッド13をねじ15で締め付けることによって着脱可能に固定されている。本実施形態では、ロッドホルダ14のねじ孔に螺合されたねじ15の先端でロッド13の外周面を押しつけることによって摩擦力でロッド13を固定するようにしているが、場合によってはピンなどで着脱可能に連結しても良い。ロッド13を簡単に着脱できる構造とすることによって、可変形ミラー5の反射特性が劣化した場合など、可変形ミラー5の交換が必要となったときには、ねじ5を弛めてロッドホルダ14からロッド13を取り外すことで、劣化した可変形ミラー5(裏面に接着されたロッド13を含む)だけを交換することができる。即ち、ロッドホルダ14、アクチュエータ6及び支持フレーム11はそのまま再利用できるので経済的である。
【0054】
アクチュエータ6と可変形ミラー5との連結は、本実施形態の場合、エポキシ樹脂系接着剤17を使い、ロッド13の先端と可変形ミラー5の背面とを接着することによってお行っている。この場合、厚さ3mmという薄肉の可変形ミラー5では、接着剤17が硬化するときの応力変化の影響がミラー表面に現れやすく、アクチュエータ6が接着された部分の可変形ミラー5の表面側(反射面側)が僅かに隆起する場合がある。例えば、エポキシ樹脂系接着剤17でロッド13を接着させた一実施例においては、0.4μmの凸部(隆起)9が形成された(図3参照)。ここで、接着剤17の硬化または固化により形成される凸部(または凹部)9が局部的であれば、超短パルスレーザービームLが反射したときに生ずるビームの波面に与えられる局所的な空間変調は、フィラメントを形成する起点となるのに十分なものとなる。また、接着剤17を利用して生じさせた高さ0.4μm程度の隆起や窪みであれば、可変形ミラー5の鏡面を蒸着形成して製作する時、予め蒸着面手前に穴開きマスクをセットし、蒸着工程時に鏡面蒸着の膜厚を局部的にコントロールすることで局部的凸部(または凹部)9を形成することも可能である。
【0055】
ここで、可変形ミラー5の厚みが大域的な凹部10が形成できる程度の可撓性を有する厚さであっても、接着剤17によってロッド13を直付けすることにより局部的な凸部または凹部9が形成されないことがある。例えば、厚さ3mmの可変形ミラー5の表面形状を図8に示す。この場合には、点状の局部的な隆起(凸部)あるいは窪み(凹部)が発生している。他方、図7には厚さ6mmの可変形ミラー5の表面形状を示す。この場合には、図8の可変形ミラー5とは異なって、点状の局部的な隆起(凸部)あるいは窪み(凹部)が発生していない。これは、可変形ミラー5が厚過ぎるので、接着剤17の硬化時または固化時の収縮やストレスでは局部的隆起あるいは窪みが起きないものと思われる。このことから、ロッド13の接着によってミラー表面に局部的凸部(または凹部)9を形成する場合には、厚さ2〜3mm程度のミラーを使用することが好ましい。勿論、可変形ミラー5の裏面とアクチュエータ6の接着剤17による直付けによって局部的な凸部(または凹部)9を形成しないのであれば、例えば蒸着膜の制御などで局部的な凸部(または凹部)9を形成するのであれば、アクチュエータ6の駆動によって大域的な凹部10が形成できる程度の可撓性を有する厚さであれば実施可能である。
【0056】
また、駆動素子16としては、圧電素子(PZT:Pb−Zr−Ti)または電歪素子(PMN:Pb−Mg−Nb)などの、可変形ミラー5の微小変位を可能とする駆動源が用いられている。電歪素子などの駆動素子の場合、印加電圧の大きさや方向を切り替えることで、駆動素子16の変位方向・量を容易に制御できるので使用が好ましいが、これに限られるものではない。駆動素子16はフレーム11の土台に対して垂直に配置されている壁11bに固定され、可動部となるロッドホルダ14は貫通孔を有する壁11aを通して前後方向(図上左右)へ進退動可能に支持されている(図2参照)。可変形ミラー5は互いに平行に配置された複数のアクチュエータ6の駆動を適宜制御することによって、即ちロッド13を前方に押し出すアクチュエータ6と後方へ引き戻すアクチュエータ6あるいは駆動させないアクチュエータ6とを組み合わせることによって、可変形ミラー5の所望の領域に大域的凹部10を形成するように変形させられる。
【0057】
以上のように構成されたフィラメント形成装置に超短パルスレーザービームLを入射し、その反射光を大気中伝播させたときにフィラメントが生成されることを以下に説明する。尚、説明を簡単にするため、一辺100mmのミラーに対して超短パルスレーザービームLの直径を50√2mmとすることで、13本のアクチュエータ6のうちの、中心付近の5本(符号E,J,K,L,M)について注目することとした(図3等参照)。
【0058】
まず、反射面に局部的な凸部(または凹部)9を有する反射ミラー5のみを使ってフィラメントを形成する方法について説明する。図8に示したような点状の局部的な隆起(凸部)あるいは窪み(凹部)が発生している反射ミラー5を超短パルスレーザービームLの光路上へ介装することによって、波面が整った超短パルスレーザービームLであっても(図5(A)参照)、反射ビーム中には、ミラー表面の局部的な凸部(または凹部)9に応じた局所的な空間変調がビームの波面に与えられ(図4(B)参照)、ビームの伝播の過程で前述のビームの波面に与えられる局所的な空間変調がさらに顕著となり(図4(C)、図4(D)参照)、これが起点(種)となってフィラメントをビーム伝播の過程で形成する。このフィラメントは、反射ミラー5の表面の局部的な凸部(または凹部)9の存在により安定して生成されることから、局部的な凸部(または凹部)9を任意の位置に形成することで、ビーム断面の任意の位置に一意的に連続して形成される。図11は近距離における反射ビーム(図11等において符号19で表示)の断面強度分布を示し、図12は遠距離における反射ビーム19の断面強度分布を示す。このように、ミラー中央部に作られた局部的凸部(または凹部)9によって単一のフィラメント(図11等において符号20で表示)が優先的に生成されていることが分かる。超短パルスレーザービームLを反射させて大気中伝播させた場合、反射したビーム19の断面には、強度斑によってフィラメントの起点(図8において符号8で表示)が生成され、さらに伝播が進む中でフィラメント20が成長することが判明した。
【0059】
次に、局部的凸部(または凹部)9とそれよりも大きな大域的な凹部10を有する反射ミラー5を使ってフィラメントを形成する方法について説明する。図10に示すように、符号E,J,K,L,Mの5個のアクチュエータ6を駆動させ、可変形ミラー5を裏面側から引っ張って、可変形ミラー5の表面側を大域的に窪ませて変形させる。この状態においても、図4に示すように、アクチュエータ6によってミラー表面形状が大域的な凹部10に形成され尚かつ局部的凸部(または凹部)9が存在する特殊な表面形状が実現されている(図11参照)。これによって、局部的凸部(または凹部)9の周りあるいはビーム断面の局部的な凸部(または凹部)9の周りに相当する位置に、反射ビームのエネルギあるいは周辺の強度斑を中心となる強度斑の周りに集合させて、フィラメント生成の起点となる強度斑の電界強度をより強くしてビーム伝播中のフィラメント生成をより確実なものにする。図13に可変形ミラー5の中央部を引っ張ったときのビーム断面の状態を示す。ビーム中央部に相当するミラー中央部のアクチュエータ(E)を引っ張ってミラー中央部に大域的凹部10を形成した場合、周辺の強度斑がビーム中央に集合し高密度のフィラメント20が形成された(図13参照)。
【0060】
さらに、ビーム断面上における大域的凹部10の形成位置を制御することによって、フィラメント20が生成される位置を制御できる。例えば、ビーム中央部に相当するミラー中央部のアクチュエータ(E)を引っ張ってミラー中央部に大域的凹部10を形成した場合、周辺の強度斑がビーム中央に集合し高密度のフィラメント20が形成された(図13参照)。他方、反射ミラー5のビームが照射される領域(図7等において符号18を付けて表示)内のミラー周辺部(ビーム周辺部)に相当するアクチュエータ(M)を引っ張ってミラー周辺部に大域的凹部10を形成した場合、強度斑もビーム周辺部に片寄り、周辺部の方がフィラメントの形成が顕著となって高密度のフィラメント20が形成された(図14参照)。このことから、反射ミラー5の表面のフィラメント生成の起点となる局部的な凸部(または凹部)9の位置を変更しなくとも、反射ミラー5の表面に形成される大域的凹部10の形成位置を制御することでフィラメントが顕著に形成される位置、高密度のフィラメントが形成される位置を制御できることが明らかになった。
【0061】
したがって、このフィラメントは、例えば放電経路のコントロールに応用することができる。また、フィラメントを用いた伝播は屈折率の非線形効果を伴うために多波長でかつ連続なスペクトルとなり、大気環境計測などにおいて多種多様な測定種に対し同時計測にも応用できる。また、高密度のガス中で超短パルスレーザービームLを伝播させる場合、大気中で伝播させる場合と比べてプラズマの発生がより顕著である。フィラメントには超高強度のレーザー電場が局在しているため、発生したプラズマとレーザー電場との相互作用により電子を加速させることが可能となる。また、発生したプラズマを光増幅媒質とした場合は誘電放出が可能となり、長尺で連続したフィラメントを用いれば増幅効率が向上する。さらに、ガラスなどの固体媒質中に超短パルス高強度レーザーを伝播させる場合でもフィラメントの発生が顕著である。その伝播の際、媒質の組成が変化するために局部的に屈折率や透過率を変化させるなどして微細な加工や改質が可能であり、長尺で連続したフィラメントを用いれば導波路などの加工も容易になると考えられる。
【0062】
このことから、前述のレーザー誘雷技術の他、多種同時計測による大気環境計測や、フィラメントを光増幅媒質にして誘導放出させる光増幅、電子を加速させる粒子加速、そして媒質の組成を変化させるレーザー加工などに応用可能である。
【0063】
本実施形態の放電誘導装置1によれば、上述のようなレーザー発振器4と反射ミラー5を使い、超短パルスレーザー光Lを短焦点で集光することにより生じる集光プラズマと、長焦点で集光もしくは平行に照射することにより生じるフィラメントを組み合わせて、レーザー誘雷やレーザーギャップスイッチ等の性能を向上させることができる。より具体的には、集光プラズマとフィラメントとが同時に形成された状態とし、集光プラズマによって放電のトリガーとなる上向きリーダーを生じさせ、その生じた上向きリーダーをフィラメントにより長距離ガイドすることができる。この誘雷手法によれば、避雷針3の先端から生じる上向きリーダーを数十m以上ガイドすることが可能となるためにレーザー誘雷の性能ないしは特性がさらに向上することとなる。
【0064】
ここで、本明細書で何度か登場する「長距離誘導」(または「長距離ガイド」)について補足的に説明を加えておくと以下のとおりである(図16〜図19参照)。すなわち、プラズマチャネルから上向きリーダーが開始して雷雲2まで進展する場合において、ここでいうリーダーとは放電の前駆現象で、後から生じる放電(レーザー誘雷の場合であれば、図19にある後続雷撃)の道(放電路)を作る働きをする。ちなみに、レーザー誘雷では上向きにリーダーが進展するので「上向きリーダー」と呼ばれている。このリーダーがもう一方の電極(レーザー誘雷の場合であれば雷雲2)に達することが重要で、大まかな計算によると、30〜40m程度リーダーを誘導すれば、あとはかってにリーダーが進展し、雷雲2に達すると考えられている。つまり、まずは避雷針(導電体)3からリーダーを生成させることが重要で、このために集光プラズマを用いている。そして、一旦発生したリーダーを数10m進展させる(誘導する)ためにフィラメントが使えると本発明者は考えている。以上の考えのもと、必要量(例えば30〜40m程度)リーダーを誘導することが本明細書でいう「長距離誘導」である。
【0065】
また、本明細書でいう「超短パルスレーザー光」は現時点で定義が明らかでない部分もあるが、大気中において十分に長いフィラメントを生成するに足る程度にパルスが短いレーザー光がおよそ該当する。このような超短パルスレーザー光としては、特に超短パルス高強度レーザー光が望ましい。この超短パルス高強度レーザー光とは、通常、ピコ秒以下のパルス幅でテラワット以上のピーク(瞬時)出力を有するレーザーのことである。この場合には、レーザー媒質としてチタンサファイアレーザーやガラスレーザーを使い、チャープパルス増幅という手法を使ってパルスエネルギを増幅することがある。
【0066】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では新規な放電誘導技術をレーザー誘雷に適用する場合を例に説明したが、同様の放電誘導手法は例えば長ギャップ放電スイッチ、レーザートリガー式ギャップスイッチ等にも適用可能である。ちなみに、レーザー誘雷に適用した本実施形態においては放電を生じる電極2の具体例が雷雲であり、導電体3の具体例が避雷針だったわけであるが、適用例に応じてこれら電極2や導電体3の具体例が種々のものとなり得ることはいうまでもない。
【0067】
また、上述した実施形態では図2〜図14を用いて大気中にフィラメントを生成させる場合の好適な形態を説明した。ここでは、図6(A)に示すような1枚の薄肉反射鏡による可変形ミラー5を用いて局部的凸部(または凹部)9と大域的凹部10とを形成しフィラメント発生の起点を生成する工程と、超短パルスレーザービームLのエネルギあるいは周辺の強度斑を中心の強度斑の周りに集合させる工程とを同時に実施させる例を挙げて主に説明したが、局部的凸部(または凹部)9を有する第1のミラー5’と大域的凹部10を有する第2のミラー5”との少なくとも2枚のミラーを光路上で組み合わせ、上述の2つの工程を別々の反射ミラー5で前後させて実施することも可能である(図6(B)参照)。これによっても、反射ビーム断面の任意の部位に任意の密度のフィラメントを生成させたり、あるいは大域的凹部10の形成位置を制御することによりフィラメントの生成位置を任意に制御することも可能である。
【0068】
また、上記のように局部的凸部(または凹部)9を有する第1のミラー5’と大域的凹部10を形成する第2のミラー5”とを組み合わせてフィラメントを形成する装置の場合、第1のミラー5’の局部的凸部(または凹部)9と第2のミラー5”の大域的凹部10は共に変位または変形しない固定的構成としても良いが、それぞれ可動的な構成としても良い。例えば、図15に示すように、超短パルスレーザービームLの光路上に局部的凸部9を有する第1の反射ミラー5’とビーム断面の局部的凸部9の周りに相当する位置に大域的な凹部10を形成する可変形ミラーから成る第2の反射ミラー5”を配置し、超短パルスレーザービームLがこれら第1及び第2のミラー5’,5”間を経由して反射する間に、ビーム断面の任意の部位に強度斑を作ってその周りあるいは複数形成された強度斑のうちの任意の1つあるいは複数の強度斑の周りに超短パルスレーザービームLのエネルギあるいは周辺の強度斑を集合させるようにすることも可能である。ここで、第1の反射ミラー5’と第2の反射ミラー5”とは独立して制御可能とできるので、第1の反射ミラー5’をX−Y方向に制御可能とすることにより反射面に形成した局部的凸部9のビーム断面上における位置を変更することができる。また、可変形ミラーから成る第2の反射ミラー5”は、可変形ミラーの背面側にそれぞれ独立制御可能な複数のアクチュエータ6を備えているので、アクチュエータ6の駆動により反射面を任意の曲率の大域的凹部10としたり、あるいは大域的凹部10の曲率中心位置、形状などを制御して、ビーム断面におけるフィラメントの形成位置、強度、密度などを自在に制御できる。また、第1の反射ミラー5’は、場合によっては局部的凸部9が異なる位置に形成された別のミラーを用意しておき、これを交換することによって局部的凸部(あるいは凹部)9の位置を変更可能とすることもある。
【0069】
また、上記実施形態においては可変形ミラー5の裏面にロッド13を接着剤17で直に接着した構造が示されたが、アクチュエータ6の駆動素子そのものあるいは駆動素子に固着された部材の先端部を直にミラー裏面に接着し、可変形ミラー5をアクチュエータ6で直接担持することもできる。
【実施例1】
【0070】
以上、ここまで説明したのが大気中に生成したフィラメントと高密度プラズマとを用いたいわばハイブリッド型の誘雷を行う場合についてである。この誘雷技術につき、本発明者は特性を確認すべく誘雷実験を行った。以下にこのハイブリッド型の誘雷実験の様子を実施例として説明しておく(図20〜図23参照)。
【0071】
図20に、本発明に関連して本発明者が行った実験結果の一例を示す。この時、間隔1mの電極間に直流電圧400kVを印加し、パルス幅約70フェムト秒、パルスエネルギ約200mJのレーザー光を、焦点距離10mの凹面ミラーを用いて集光した。この時、レーザー光の焦点位置は図中向かって左側に見える高電圧電極のほぼ先端であり、高電圧電極位置におけるレーザービームプロファイルを観察すると直径3mm程度に集光されており、フィラメントは観察されなかった。一方、図中向かって右側にある接地電極の先端付近においてはビーム中に複数のフィラメントが観察された。なお、図20に示した放電の写真撮影は露光時間を数秒以上かけて撮っており、その間直流電圧は印加された状態であるため、絶縁破壊後の放電が動き、写真に見られるように放電が上下に波打つように観察されている。従って実際の絶縁破壊は、放電の上側または下側に観察される直線状の部分と考えられる。この直線状の部分を観察すると、一直線ではなく階段状になっていることが分かる。これより、最初の放電進展は複数のフィラメントの間をホップするように進んだと考えられる。この場合の放電の極性は正極性であり、上述のように、放電誘導の難しい直流正極性の放電誘導に成功した。この実験において、レーザー光の集光ミラー(反射ミラー)の位置を動かしてレーザー光の焦点位置をずらした場合、放電誘導特性は極端に低下した。また、焦点距離20mの集光ミラーを用いた場合、電極に対するレーザー光の焦点位置をどこに設定しても全く放電誘導しなかった。一般に集光ミラーの焦点距離を長くすると集光点におけるビーム径は大きくなる。従って、焦点距離20mの集光ミラーを用いた場合、焦点距離10mの集光ミラーを用いた場合に比べて集光点におけるビーム径が大きくなり、それによりプラズマ密度が小さくなり、放電をトリガーしなかったと考えられる。以上の結果より、直流正極性の放電誘導を行うためには、本実験条件では、焦点距離10m以下の短焦点のミラーを用いて、電極付近にレーザー光を集光することが重要であるという結論に至った。
【0072】
以上の結果より本実験においては、焦点距離10mのミラーを用いて生成された集光プラズマにより直流正極性電極から放電がトリガーされ、生成したリーダーが集光前に生成しているフィラメントに沿って伝播して負極性電極に達し、最終的に絶縁破壊に至ったと考えられる。
【0073】
しかし、焦点距離10mのミラーで集光した場合フィラメントの生成する距離は短かった。超短パルスレーザーを集光した時の放電誘導に寄与するプラズマ長を測定した実験に関して、図21〜図23を用いて説明する。
【0074】
本発明者らは、フィラメントの伝播経路に沿った直流放電誘導特性の変化を測定し、集光焦点距離や伝播距離との関係を調べた。実験系を図21に示す。パルス幅70フェムト秒、パルスエネルギ約240mJの超短パルスレーザー光を焦点距離10mおよび20mmの凹面鏡(図21において符号5で示している)で集光してフィラメントを生成した。直径5cm、ギャップ長4cmの球−球電極間にレーザー光を伝播させて直流電界を加え、レーザー光に沿った絶縁破壊電圧の変化を測定した。
【0075】
図22に、凹面鏡からのレーザー光伝播距離に対するレーザー照射による絶縁破壊電圧の低下の変化を示す。絶縁破壊電圧の低下は、レーザーを照射しない時の絶縁破壊電圧(V0)に対するレーザー照射時の絶縁破壊電圧(VL)の比から求めた。集光前のレーザー光は若干発散しており、焦点距離20mの凹面鏡を用いて集光した時、凹面鏡から13.5m伝播した地点よりレーザー照射による絶縁破壊電圧の低下が観測された。その後、凹面鏡からの伝播距離15.5m〜21.5mの間で約6mに渡って絶縁破壊電圧の低下は約20%であった。レーザー光が21.5m伝播後、レーザー照射による絶縁破壊電圧の低下は小さくなり、25.5m地点では約10%となった。以上の結果は、10m以上に渡り放電誘導効果を有するプラズマチャネルが生成していることを示している。
【0076】
図23に、凹面鏡からのレーザー光伝播距離に対するレーザービームプロファイルの変化を示す。ビームプロファイル中に観測される明るく見える点がフィラメントである。レーザー照射による絶縁破壊電圧の低下がない伝播距離11.5mの地点ではフィラメントは観測されず、絶縁破壊電圧が低下する15.5m以降の地点においてマルチフィラメントが観測された。また、焦点距離10mの凹面鏡を用いて集光した場合、焦点距離20mの凹面鏡を用いた場合と同様絶縁破壊電圧の低下は最大約20%であった。しかし、図22から分かるように、焦点距離10mの凹面鏡を用いた場合放電誘導に寄与するプラズマ長は焦点距離20mの凹面鏡を用いる場合に比べ、半分以下になっていた。
【0077】
以上の実験結果より、放電誘導特性を向上するためには、超短パルスレーザー光を、短焦点の集光ミラーを用いて集光して高密度の集光プラズマを生成し、これを用いて放電をトリガーし、長焦点で集光するかまたは平行に照射することにより生成する長尺のフィラメントを用いて放電をガイドする方法が効果的であると考えるに至った。ただし、10m程度のギャップ長の放電誘導においては、上述の実験結果のように、単に焦点距離10m程度のミラー一つを用いて上述の実験配置に設定することにより、簡便に効果的な放電誘導が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明にかかるハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法および装置をレーザー誘雷に適用した場合の一実施形態を説明する図である。
【図2】超短パルスレーザービームのフィラメント制御装置の形態を示す概略説明図である。
【図3】本実施形態の可変形ミラーの正面図(反射面側)である。
【図4】ミラーの反射面における局部的凸部と大域的凹部との関係を示す原理図である。
【図5】超短パルスレーザービームの反射の前後における波面の変化を示す説明図であり、(A)は入射するビーム波面、(B)〜(D)は局部的凸部を有する反射面で反射したビーム波面の経時変化を示す。
【図6】フィラメント形成方法を実施する例を示す原理図であり、(A)は1枚のミラーで局部的凸部と大域的凹部を実現する例、(B)は2枚の反射ミラーを組み合わせて局部的凸部と大域的凹部を実現する例をそれぞれ示す。
【図7】厚さ6mmの可変形ミラーの表面形状を示す説明図である。
【図8】厚さ3mmの可変形ミラーの表面形状を示す説明図である。
【図9】可変形ミラーをアクチュエータでミラー表面側へ押して隆起変形させた場合の表面形状を示す説明図である。
【図10】実施形態の可変形ミラーをアクチュエータでミラー裏面側へ引っ張って窪み変形させた場合の表面形状を示す説明図である。
【図11】近距離のビーム断面強度を示す説明図である。
【図12】遠距離のビーム断面強度を示す説明図である。
【図13】可変形ミラーをアクチュエータでミラー中央部を引っ張って窪み変形させた場合のビーム断面強度を示す説明図である。
【図14】実施形態の可変形ミラーをアクチュエータでミラー周辺部を引っ張って窪み変形させた場合のビーム断面強度を示す説明図である。
【図15】2枚の反射ミラーを組み合わせて局部的凸部と大域的凹部を実現する例の原理図である。
【図16】レーザー誘雷を行う場合の概念を示す図の一つで、雷雲が発生して接近し、避雷針の先端においてコロナ放電が生じる様子を表したものである。
【図17】レーザー誘雷を行う場合の概念を示す図の一つで、レーザー発振器から照射したレーザー光が反射ミラーからなる光学系を経由し、これに伴って避雷針の先端から上空へ向かってプラズマが生じている様子を表したものである。
【図18】レーザー誘雷を行う場合の概念を示す図の一つで、プラズマチャネルから上向きのリーダーが生じて雷雲まで進展した様子を表したものである。
【図19】レーザー誘雷を行う場合の概念を示す図の一つで、雷雲中の電荷が避雷針を伝って地上に流れる様子を表したものである。
【図20】ハイブリッドレーザーを用いた誘雷の模擬実験の様子を示す画像である。
【図21】実施例におけるフィラメント伝播特性実験系を示す図である。
【図22】実施例において、凹面鏡からのレーザー光伝播距離に対する、レーザーを照射しない時の絶縁破壊電圧(V0)に対するレーザー照射時の絶縁破壊電圧(VL)の比およびフィラメントからの音波強度の変化を示すグラフである。
【図23】レーザー光伝播時におけるレーザービームプロファイルの変化を示す画像であり、それぞれ、凹面鏡からの伝播距離が(a)11.5m、(b)15.5m、(c)19.5m、(d)23.5mの場合である。
【符号の説明】
【0079】
1 放電誘導装置
2 雷雲(電極)
3 避雷針(導電体)
4 レーザー発振器
5 反射ミラー
9 局部的な凸部または凹部
10 大域的凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極からの放電をレーザー光を利用して導電体へと誘導するためのレーザーを利用した放電誘導方法において、超短パルスレーザー光を前記導電体の先端に向けて照射し、当該超短パルスレーザー光を短焦点で集光することにより生成する高密度プラズマを用いて前記導電体から前記電極へ向けて延びるリーダーを誘起するとともに、他の超短パルスレーザー光を前記電極に向けて照射し、当該他の超短パルスレーザー光を長焦点で集光することにより生成するフィラメントを用いて前記リーダーを長距離誘導することを特徴とするハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法。
【請求項2】
前記超短パルスレーザー光を集光する反射ミラーとして部分的に焦点距離を異ならせる多重焦点反射ミラーを用いることにより、前記超短パルスレーザー光の一部を短焦点で集光するとともに残りを長焦点で集光することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法。
【請求項3】
前記超短パルスレーザー光を集光する反射ミラーとして焦点距離の短いミラーと焦点距離の長いミラーとを別々に用い、前記超短パルスレーザー光の一部を前記一方の反射ミラーにて短焦点で集光するとともに残りを前記他方の反射ミラーにて長焦点で集光することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法。
【請求項4】
前記反射ミラーは局部的な凸部または凹部を有するものであり、この反射ミラーを用いて前記フィラメントを生成しかつ制御することを特徴とする請求項2または3に記載のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法。
【請求項5】
前記反射ミラーは、前記局部的な凸部または凹部に比して大域的である大域的凹部を当該局部的な凸部または凹部の周りに備えているものであり、この反射ミラーを用いて前記フィラメントを生成しかつ制御することを特徴とする請求項4に記載のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法。
【請求項6】
前記反射ミラーとして、表面形状を変化させることができる表面形状可変反射ミラーを用いることを特徴とする請求項4または5に記載のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導方法。
【請求項7】
電極からの放電をレーザー光を利用して導電体へと誘導するためのレーザーを利用した放電誘導装置において、前記レーザー光として超短パルスレーザー光を用いこの超短パルスレーザー光を前記導電体の先端に向けて照射し、当該超短パルスレーザー光を短焦点で集光することにより生成する高密度プラズマを用いて前記導電体から前記電極へ向けて延びるリーダーを誘起するとともに、他の超短パルスレーザー光を前記電極に向けて照射し、当該他の超短パルスレーザー光を長焦点で集光することにより生成するフィラメントを用いて前記リーダーを長距離誘導するレーザー発振器を備えることを特徴とするハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置。
【請求項8】
前記レーザー光を反射して当該レーザー光の経路を変えるミラーであって部分的に焦点距離の異なる多重焦点型の反射ミラーを備え、前記レーザー発振器から照射される超短パルスレーザー光の一部を前記反射ミラーのうち焦点距離の短いミラー部分で反射・集光するとともに、前記超短パルスレーザー光の残りを前記反射ミラーのうち焦点距離の長いミラー部分で反射することを特徴とする請求項7に記載のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置。
【請求項9】
前記レーザー光を反射して当該レーザー光の経路を変える短焦点の反射ミラーと長焦点の反射ミラーとを備え、前記レーザー発振器から照射される超短パルスレーザー光を前記短焦点の反射ミラーで反射・集光するとともに、他の超短パルスレーザー光を前記長焦点の反射ミラーで反射することを特徴とする請求項7に記載のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置。
【請求項10】
前記反射ミラーは局部的な凸部または凹部を有していて、この反射ミラーを用いることによって前記フィラメントを生成しかつ制御することが可能なものであることを特徴とする請求項8または9に記載のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置。
【請求項11】
前記反射ミラーは、前記局部的な凸部または凹部に比して大域的である大域的凹部を当該局部的な凸部または凹部の周りに備えていて、この反射ミラーを用いることによって前記フィラメントを生成しかつ制御することが可能なものであることを特徴とする請求項10に記載のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置。
【請求項12】
前記反射ミラーは、その表面形状を変化させることができる表面形状可変反射ミラーであることを特徴とする請求項10または11に記載のハイブリッドレーザーを利用した放電誘導装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【図22】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図20】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−331748(P2006−331748A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151566(P2005−151566)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】