説明

ハニカムパネルの製造方法

【課題】第1に、コスト面に優れ、第2に、強度面にも優れ、第3に、更に重量面にも優れると共に、第4に、曲面成形が容易であり、取扱いも容易であり、物性付与等も可能な、ハニカムパネルの製造方法を提案する。
【解決手段】この製造方法は、ハニカムコア2の両端面に繊維強化プラスチック製の表面板3が接着されたハニカムパネル1を、RTM工法を適用して製造する。そして、ハニカムコア2のセル空間5に、予めバルーン15が充填されており、このバルーン15が、吸引,減圧工程においてセル空間5内に膨張,充満する。すなわち、準備されるハニカムコア2は、事前にゴム製や樹脂製のバルーン15が、セル空間5内に残余隙間空間16を存しつつ挿入されている。そしてバルーン15は、吸引,減圧を利用して、セル空間5内で球状その他の形状に膨張し、セル空間5の残余隙間空間16をほぼ埋めて充満する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムパネルの製造方法。すなわち、芯材であるハニカムコアの両端面に、繊維強化プラスチック製の表面板が接着された、ハニカムサンドイッチパネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
繊維強化プラスチック(FRP)は、強度と軽量性を兼ね備えており、広く各種用途に使用されている。
そして、繊維強化プラスチックの成形方法としては、RTM(RESIN TRANSFER MOLDING)工法が、知られている。すなわち、繊維基材を密封して内部の空気を吸引,減圧することにより、液状樹脂を注入して含浸,硬化させ、もつて繊維強化プラスチックを成形するRTM工法(RIM工法)が、知られている。
ところで、このRTM工法を、繊維強化プラスチック製表面板のハニカムパネルの製造方法に適用した場合、注入する液状樹脂が、表面板用の繊維基材のみならず、芯材用のハニカムコアのセル空間を充満するほど流入して,溜まり,硬化してしまうことが、多々あった。もって、製造されたハニカムパネルについて、樹脂使用量が多量となり、コスト高となるという指摘や、重量が重くなるという指摘があった。
そこで従来、その対策として多種試みがなされていた。代表的には次のとおり。
【0003】
《従来技術》
(1)まず、ハニカムコアの代替として発泡材を使用する(ハニカムパネルではなく発泡材パネルとする)技術が、考えられていた。
(2)他方、ハニカムコアのセル空間への前記液状樹脂の流入を阻止すべく、ハニカムコアのセル空間に軽量発泡材を事前に挿入,充填しておく技術も、開発されていた。
(3)更に、このように発泡済みの成型品の発泡材を使用するのではなく、現場発泡材(正確には発泡剤)をハニカムコアのセル空間に注入,発泡,硬化させ、もってセル空間への前記液状樹脂の流入を阻止せんとした技術も、考えられていた。
(4)他方、ハニカムコアのセル空間への前記液状樹脂の流入を阻止すべく、事前にフィルム状接着剤等をハニカムコアに接着しておくことも、試みられていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、RTM工法を適用したこの種従来例のハニカムパネルの製造方法については、次のような問題が指摘されていた。
《第1の問題点》
第1に、材料費が嵩み,手間もかかる等、依然としてコスト高である、という問題が指摘されていた。
すなわち、まず前記(1)の発泡材を代替使用するこの種従来例に関しては、ハニカムコアと同等の強度を持つ発泡材は密度が高くなり、コスト高となっていた。前記(2)の発泡材を予め挿入,充填しておくこの種従来例に関しては、発泡材の材料費や、ハニカムコアの厚さとの寸法整合のためのスライス費が嵩むと共に、多数のセル空間への挿入,充填作業に手間がかかり、結局、コスト高となっていた。
前記(3)の発泡材を現場注入,発泡するこの種従来例に関しては、まず、注入,発泡の手間がかかっていた。これと共に、注入量が少ないと発泡材がハニカムコアのセル空間を充満させられず、その隙間に前記液状樹脂が流入,硬化してしまう。逆に注入量が多いと、ハニカムコアのセル空間から余分にはみ出してしまい、その分のカット,除去,廃棄,産廃処理等に手間がかかる。これらの対策としては、過不足ない厳重な適量注入管理を要する等々、結局、コスト高となっていた。
前記(4)の予め接着しておくこの種従来例も、その接着の手間が増すと共に該フィルム状接着剤にあるピンホールにより、セル空間内への前記樹脂の流入,硬化を完全に防ぐことはできなかった。
【0005】
《第2の問題点》
第2に、樹脂フィレットが形成困難であり、強度面に問題が指摘されていた。すなわち、この種のハニカムパネルでは、ハニカムコアのセル壁と表面板とが、硬化樹脂による隅肉状のフィレットで接着されていることが、接着強度上、そしてパネル強度上必要である(後述する図2の(1)図を参照)。
これに対し、特に前記(2),(3)のこの種従来例にあっては、このようなフィレット形成が困難化することが多かった。前記(3)では、発泡材の注入量が多いと、ハニカムコアの端面と発泡,硬化した発泡材端面とが面一となり、フィレット形成スペースが確保されない。前記(2)では、フィレットを形成しようとすると、パネル両面でハニカムコアより発泡材を凹ませる必要があるが、そのコントロールが困難だった。
【0006】
《第3の問題点》
第3に、依然として重量が重い、という問題も指摘されていた。特に、前記(1)のこの種従来例では、ハニカムコア並みの強度の発泡材は高密度となり、ハニカムコアより重量が増加してしまう。
又、前記(2)のこの種従来例では、低密度発泡材の使用が可能だが、使用体積が大きいため、結果的に無視できない重量増となってしまう。
【0007】
《本発明について》
本発明のハニカムパネルの製造方法は、このような実情に鑑み、上記従来例の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、コスト面に優れ、第2に、強度面にも優れ、第3に、更に重量面にも優れると共に、第4に、曲面成形が容易であり、取扱いも容易であり、物性付与等も可能な、ハニカムパネルの製造方法を提案することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
《請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、次のとおりである。まず、請求項1については次のとおり。
請求項1のハニカムパネルの製造方法は、ハニカムコアの両端面に繊維強化プラスチック製の表面板が接着された、ハニカムパネルの製造方法に関する。
そして、該ハニカムコアのセル空間に、予めバルーンが充填されており、充填されていた該バルーンが、セル空間内空気の吸引,減圧工程において、該セル空間内に膨張,充満すること、を特徴とする。
【0009】
請求項2については、次のとおり。請求項2のハニカムパネルの製造方法では、請求項1において、まず、治具と治具の間、又は治具とバギングシートの間に、芯材となる該ハニカムコアと、該表面板となる繊維基材とを、積層して密封する。それから、内部の空気を吸引,減圧することにより、液状樹脂を注入して、該液状樹脂を該繊維基材に含浸,硬化させ、もって、該繊維強化プラスチック製の表面板を得ると同時に、これが該ハニカムコアの両端面に接着された、該ハニカムパネルを製造する。
そして、準備される該ハニカムコアは、事前にゴム製や樹脂製の該バルーンが、その各セル空間内に、それぞれ残余隙間空間を存しつつ挿入されている。
そこで各該バルーンは、上記吸引,減圧を利用して、各該セル空間内で略球状その他の形状に膨張し、もって各該セル空間内の残余隙間空間を、ほぼ埋めて充満すること、を特徴とする。
請求項3については、次のとおり。請求項3のハニカムパネルの製造方法では、請求項2において、該バルーンは、外表面に粘着性が付与されており、該セル空間を形成するセル壁に対し粘着可能となっていること、を特徴とする。
請求項4については、次のとおり。請求項4のハニカムパネルの製造方法では、請求項2おいて、該バルーンは、熱伝導,比誘電率,その他に関する物性を付与可能な気体が、内部充填されている。そして、事後の該ハニカムパネルの使用時において、該物性に応じた機能を発揮可能となっていること、を特徴とする。
【0010】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)この製造方法では、ハニカムコア,繊維基材,液状樹脂等が、準備される。
(2)ハニカムコアは、事前にセル空間にバルーンが、残余隙間空間を存しつつ挿入,充填されている。
(3)そしてまず、治具とバギングシート等の間に、ハニカムコアと繊維基材が積層されて、密封される。
(4)それから、内部の空気を吸引,減圧することにより、セル空間内においてバルーンが、残余隙間空間をほぼ埋めるように膨張,充満する。
(5)次に液状樹脂が注入されて、繊維基材に付着,含浸,混入する。
(6)このバルーンにより、注入される液状樹脂が、セル空間内に流入して溜まり,硬化することは、阻止される。
(7)しかも、バルーン,繊維基材,セル壁等に囲まれたフィレットスペースが確保され、もってフィレットが形成される。
(8)そして事後、液状樹脂が硬化すると、硬化樹脂と繊維基材にて繊維強化プラスチック製の表面板が形成される。同時に、硬化樹脂にて表面板がハニカムコアに接着され、もってハニカムパネルが製造される。
【0011】
(9)さてそこで、この製造方法によると、第1に、バルーンを用いるだけで、液状樹脂がハニカムコアのセル空間内に流入して,溜まり,硬化することは阻止され、もって樹脂使用量が無駄に多量となることも回避される。
第2に、膨張したバルーンは、ハニカムコアのセル壁と表面板間のコーナーにおいて、略アール状,略球面状をなす。そこで、フィレット形成用スペースそして接着強度を確保,保持するフィレットが、確実に形成され、もって、ハニカムコアと表面板間の接着力、そしてパネル強度に優れたハニカムパネルが製造される。。
第3に、ハニカムコアのセル空間は、液状樹脂の流入,硬化が防止されると共に、膨張,充満したバルーンにて空間保持されている。従って、このハニカムパネルは、重量比強度に優れ、軽量性を備えている。
第4に、事前にハニカムコアだけ曲面加工しておくか、又は、ハニカムパネル製造時に全体を曲面加工することによつて、曲面ハニカムパネルも容易に製造可能である。又、膨張前のバルーンは体積が小さく、事前の準備,保管スペースを取らない。更に、バルーンの外表面に粘着性を付与しておくと、ハニカムコアのセル壁に粘着し、製造準備のため持ち運んでも外部落下の虞がない。更に、このハニカムパネルでは、表面板等にピンホールや割れが生じても、周囲を薄い注入樹脂膜で覆われているバルーンが、小さくなることがないため、内部に水等が溜まることが回避される。セル空間内に結露が生じることもなくなる。
又、バルーンに、物性付与可能な気体を充填しておくと、ハニカムパネルが、その物性に応じた機能を発揮可能となる。
(10)さてそこで、本発明のハニカムパネルの製造方法は、次の第1,第2,第3,第4の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0012】
《第1の効果》
第1に、コスト面に優れている。すなわち、本発明のハニカムパネルの製造方法では、バルーンの存在により、RTM工法で注入される液状樹脂が、セル空間内に流入して,溜まり,硬化することは、阻止される。そこで、RTM工法の液状樹脂の使用量が多量となり、コスト高となることも重量増となることも回避される。
更に、前述したこの種従来例(1),(2),(3),(4)に比し、材料費や手間が大きく削減される。
すなわち、(1)製作,加工に手間を要する高密度発泡材は使用されない。(2)発泡材の材料費やスライス費が嵩むこともなく、手間がかかる発泡材のセル空間への挿入,充填作業は行われない。(3)発泡材の現場注入後の発泡材のカット,除去,廃棄,産廃処理もなく、更に過不足のない適量注入管理の必要もない。(4)予め接着しておく手間や、ピンホールによるセル空間内への樹脂流入も回避される。
このように、本発明の製造方法によると、簡単,容易,確実に,コスト面にも優れつつ、樹脂流入のないハニカムパネルを製造可能である。
【0013】
《第2の効果》
第2に、強度面にも優れている。すなわち、本発明のハニカムパネルの製造方法では、バルーンが膨張,充満するものの、セル空間のコーナーには、必ずフィレット形成スペースが確保される。
そこで、フィレットが必ず形成されるようになり、接着強度が向上し、パネル強度も向上する。前述したこの種従来例のように、フィレット形成スペースが確保されないようなことは、回避される。更に、形成されるフィレットの大きさも、バルーンの調整によりコントロール可能であり、必要な接着力を容易に設定可能である。
このように、強度面に優れたハニカムパネルを、製造可能である。
【0014】
《第3の効果》
第3に、更に重量面にも優れている。すなわち、本発明のハニカムパネルの製造方法では、セル空間は膨張,充満したバルーンに置き換わるため、RTM工法で注入される液状樹脂のセル空間への流入が防止される。
そこで、製造されたハニカムパネルでは、ハニカムコアの重量比強度に優れるという特性が、損なわれることなく維持される。又、前述したこの種従来例のように、高密度の発泡材使用により重量が増加することもない。
このように、重量面に優れたハニカムパネルを、製造可能である。
【0015】
《第4の効果》
第4に、曲面成形が容易であり、取扱いも容易であり、物性付与等も可能である。すなわち、本発明のハニカムパネルの製造方法では、まず、事前にハニカムコアだけを曲面加工しておくか、又は、RTM工法実施時に全体的に曲面加工することにより、容易に曲面ハニカムパネルが製造可能である等、必要な形状のハニカムパネルを容易に製造可能である。
又、バルーンは、事前の準備,保管スペースを取らない。更に、外表面に粘着性を付与したバルーンは、ハニカムパネルの製造準備のためハニカムコアと共に持ち運んでも、外部落下することがなく、取扱いが容易である。更に、このハニカムパネルは、バルーンの存在により、使用時に結露することも、ピンホールや割れ等によって内部に水等が溜まるようなことも、防止される。
又、バルーンに、物性付与可能な気体を内部充填しておくと、製造されたハニカムパネルは、その物性に応じた機能を発揮可能となる。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
《図面について》
以下、本発明のハニカムパネルの製造方法を、図面に示した発明を実施するための最良の形態に基づいて、詳細に説明する。図1,図2は、本発明を実施するための最良の形態の説明に供する。
そして、図1の(1)図は、製造装置正面の断面説明図であり、(2)図〜(7)図は、その要部正面の断面説明図である。そして(2)図,(3)図は、バルーンの第1例を示し、(4)図,(5)図は、バルーンの第2例を示し、(6)図,(7)図は、バルーンの第3例を示す。又、(2)図,(4)図,(6)図等は、バルーンの挿入,充填時を示し、(3)図,(5)図,(7)図等は、バルーンの膨張,充満時を示す。
図2の(1)図は、形成されるフィレットの説明に供し、正面の拡大した断面説明図である。(2)図は、曲面ハニカムパネルの説明に供し、正面の断面説明図である(バルーンの図示は省略)。
【0017】
《ハニカムパネル1について》
本発明は、ハニカムパネル1の製造方法に関する。そこで、図2の(2)図を参照し、まず、製造されるハニカムパネル1について、説明しておく。
このハニカムパネル1は、芯材であるハニカムコア2の両端面に、繊維強化プラスチック(FRP)製の表面板3が接着されてなる。
ハニカムコア2は、セル壁4にて区画形成された中空柱状の多数のセル空間5の平面的集合体よりなる。そして、重量比強度に優れ、軽量であると共に、高い剛性,圧縮強度,剪断強度等の特性を備えている。そして、その両開口端面にそれぞれ表面板3が接着され、もってハニカムパネル(ハニカムサンドイッチパネル)として、使用に供されることが多い。この場合には、平面精度,保温性,遮音性等の特性にも優れており、広く各種の構造材等として使用に供される。
ハニカムコア2のセル壁4の母材としては、アルミニウム箔,ステンレス箔,その他の金属箔や、繊維強化プラスチック,合成紙等々が用いられる。
表面板3は、繊維基材6に樹脂7を付着,含浸,混入等により組み合わせた構造の、繊維強化プラスチック(FRP)製よりなる。繊維基材6としては、ガラス繊維,カーボン繊維,ケブラー繊維,アラミド繊維,金属繊維,その他各種の繊維が使用される。樹脂7としては、エポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,その他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が使用される。
ハニカムパネル1の全体形状は、フラットな平面状,平板状の平面パネルが代表的であるが、図示したように2次曲面,3次曲面,その他の所定曲率を備えた、曲面形状の曲面パネルや立体パネルも、用いられている。
ハニカムパネル1は、このようになっている。
【0018】
《フィレット8について》
次に、図2の(1)図を参照して、フィレット8について説明する。この種のハニカムパネル1では、ハニカムコア2のセル壁4と表面板3とが、隅肉状のフィレット8で接着されていることが、接着強度上そしてパネル強度上必要である。すなわち、ハニカムコア2のセル壁4両端部と表面板3間の対応スぺースに、樹脂7にてフィレット8が形成されていることが、必要である。
セル壁4両端部のエッジ端面と、対応する表面板3との間が、樹脂7を接着剤として接着されていることを要すると共に(この樹脂7は、表面板3となる繊維基材6に付着,含浸,混入した樹脂7)、その周囲が、同様に接着剤として機能する樹脂7(この樹脂7は、繊維基材6に付着,含浸,混入すると共に若干セル空間5側に流入した樹脂7)にて、フィレット8として、隅肉状に接着されていることが必要である。
フィレット8は、セル空間5内においてセル壁4の両側端部を、それぞれ中に埋め込むように、縦断面略三角形状,アール状の結合隅肉状よりなり、樹脂7にて硬化,形成される。
フィレット8は、このようになっている。
【0019】
《ハニカムパネル1の製造方法へのRTM工法の適用について》
次に、図1の(1)図を参照して、RTM工法を適用した、ハニカムパネル1の製造方法について、一般的に説明する。
この製造方法では、まず、その製造装置Aの治具と治具の間、又は治具9とバギングシート10の間に、芯材となるハニカムコア2と、表面板3となる繊維基材6とを、積層して密封する。それから、内部の空気を吸引,減圧することにより、液状の樹脂7を注入して、液状の樹脂7を繊維基材6に含浸,硬化させ、もって、繊維強化プラスチック製の表面板3を得ると同時に、これがハニカムコア2の両端面に接着され、もってハニカムパネル1を製造する。
【0020】
このような製造方法について、更に詳述する。この製造方法では、まずその製造装置Aについて、その治具9上に下面側の繊維基材6が、複数枚重ねて戴置される。この複数枚の繊維基材6は、その繊維方向の角度が異なるように、戴置される。
それからハニカムコア2が、開口端面を上下に向けた姿勢で、その上に戴置される。そしてその上に、上面側の繊維基材6が複数枚、下面側と同様に戴置される。更に、表面板3としての表面性状調整,平滑性付与用のピールプライや、空気や注入される液状の樹脂7の拡散,流れを促進する網状のネットシートが、被せられる。
しかる後、密封用のバキュームバッグである樹脂フィルム製等のバギングシート10で、全体が覆われ、その外周縁がシーラントテープ11で、治具9の外周端に密封シールされる。
それから、製造装置Aに付設されたバキュームポンプ12にて、内部の密封空間の空気を吸引,減圧することにより(例えば真空吸引により)、その圧力差を利用して、容器13内の液状の樹脂7が、内部へと注入されて流入する。そして液状の樹脂7は、積み重ねられた繊維基材6を通りつつ、繊維基材6に付着,含浸,混入されて行く。
その際、液状の樹脂7が、繊維基材6とハニカムコア2のセル壁4のエッジ端面との間のコーナーに付着されれば、理想的である。両者間に接着用のフィレット8が、注入された樹脂7にて形成されれば、理想的であり望ましい。しかしながら実際は、前述した背景技術欄中の技術的背景欄で説明したように、(本発明によらないと、)セル空間5には注入された樹脂7が全体的に充満,硬化してしまい、重量増が重大問題化してしまうことになる。
さて樹脂7は、このようにして繊維基材6等に付着,含浸,混入した後、硬化する。もって、このような樹脂7にて、繊維基材6が繊維強化プラスチック製の表面板3となる。なお上述したように、セル壁4両端部のエッジ端面と表面板3間のコーナーにフィレット8が形成されれば、理想的である。図中14は、バルブである
このように、ハニカムコア2と表面板3が一体化された、ハニカムコアパネル1が製造される。RTM工法のハニカムコアパネル1の製造方法への適用については、以上の通り。
【0021】
《バルーン15の概要について》
以下、本発明のバルーン15について、図1の(2)図〜(7)図,図2の(1)図等を参照して、説明する。
本発明の製造方法では、ハニカムコア2のセル空間5に、予めバルーン15が充填されており、充填されていたバルーン15が、上述した製造方法の吸引,減圧工程において、セル空間5内に膨張,充満する。この時、バルーン15は周囲の減圧により膨張するが、その結果、バルーン15内の圧力は負圧となるため、大気圧で押し付けれているバギングシート10を押し上げて、繊維基材6とハニカムコア2のセル壁4とが離れてしまい接着不良となるようなことはない。
すなわち、準備されるハニカムコア2は、事前にゴム製や樹脂製のバルーン15が、その各セル空間5内に、それぞれ残余隙間空間16を存しつつ挿入されている。そして、この各バルーン15は、製造工程の吸引,減圧を利用して、各セル空間5内で略球状その他の形状に膨張し、もって各セル空間5内の残余隙間空間16をほぼ埋めて、各セル空間5内に充満する。
【0022】
このようなバルーン15について、更に詳述する。まずバルーン15は、少なくともセル空間5に挿入,充填可能なサイズよりなり、セル空間5のセルサイズとセル高さ、つまりセル容量を勘案して準備される。バルーン15は、図示のように略球形が代表的であるが、有頂有底の四角筒状や、角筒と上下半球を組み合わせた略カプセル状、その他の各種形状も可能である。
そしてバルーン15は、前述したハニカムパネル1の製造に際し、事前に予め、1個のセル空間5について、残余隙間空間16を存しつつ少なくとも1個を挿入,充填されるが、2個その他複数個を挿入,充填することも可能である(図1の(2)図,(4)図,(6)図等を参照)。バルーン15内には、1気圧の空気が封入,内部充填されているのが代表的である。
そして、ハニカムコア2のセル空間5に挿入,充填されていたバルーン15は、前述したハニカムパネル1の製造工程において、液状の樹脂7を注入するための密封空間内空気の吸引,減圧により、セル空間5内で略球状その他の形状に膨張する。もって、セル空間5にあった残余隙間空間16をほぼ埋め尽くす程度に、各セル空間5内に充満する(図1の(3)図,(5)図、(7)図等を参照)。
バルーン15は、概略このようになっている。
【0023】
《バルーン15の詳細について》
更に、バルーン15の詳細について説明する。バルーン15の設計に際しては、更に、挿入,充填時において事前にバルーン15内に封入,内部充填,内包される空気等の初期内圧と、バルーン15の膜厚とバルーン15の材料に基づくヤング率と、製造工程で実施される減圧値,負圧値,真空値、等が勘案される。
そして、これらを調整することにより、膨張,充満時におけるセル空間5内でのバルーン15の膨張度,大きさ,充満度を、コントロール可能となる。
又これにより、フィレット8形成スペースの大小、そして形成されるフィレット8の大小を、コントロール可能となる。すなわち、膨張したバルーン15がセル空間5内をくまなく埋め尽くすほど、小さなフィレット8形成スペースしか残らず、埋め尽くし度が低下するほど、大きなフィレット8形成用スペースが残って形成される。
【0024】
ところで、バルーン15内には、熱伝導率,比誘電率,その他に関する物性を付与可能な気体を、空気に代え又は空気と共に、内部充填するようにしてもよい。その場合は、事後のハニカムパネル1の使用時において、その物性に応じた機能を発揮可能となる。例えば伝熱性,誘電性等の機能を、ハニカムパネル1に持たせることが可能となる。
又、バルーン15について、その外表面に粘着性が付与しておき、セル空間5を形成するセル壁4に対し、またバルーン15同士で、粘着可能としておくことも考えられる。
すなわち、ハニカムパネル1として製造される前の準備段階のハニカムコア2は、上下端面が開放されており、そのままでは持ち運びに際し、そのセル空間5に挿入,充填されたバルーン15が、外部落下してしまう虞がある。これに対し、バルーン15の外表面に粘着性を付与しておくと、このような外部落下の虞は回避される。
なお、挿入,充填される準備段階のバルーン15について、セル空間5のセルサイズに見合ったサイズ、つまりセル壁4間に十分行き渡るサイズに設定しておくことによっても、このような外部落下は回避可能である。
バルーン15は、このようになっている。
【0025】
《作用等》
本発明のハニカムパネル1の製造方法は、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)この製造方法では、まず、ハニカムコア2,繊維基材6,液状の樹脂7等が準備される。
【0026】
(2)ハニカムコア2は、事前に予めその各セル空間5に、それぞれバルーン15が挿入,充填されている(図1の(2)図、(4)図,(6)図等を参照)。なお、各セル空間5には、バルーン15の他、残余隙間空間16が存している。
【0027】
(3)そして、この製造方法では、RTM工法が実施される(図1の(1)図を参照)。まず、製造装置Aの治具と治具の間、又は、図示のように治具9とバギングシート10の間に、ハニカムコア2と繊維基材6とが、積層され挟まれた後、全体が密封される。
【0028】
(4)それから、内部の空気を吸引,減圧することにより、ハニカムコア2の各セル空間5に挿入,充填されていたバルーン15が、それぞれ各セル空間5内で膨張する。
そして、各セル空間5内において、残余隙間空間16をほぼ埋めるように充満する(図1の(3)図,(5)図,(7)図を参照)。
【0029】
(5)次に、このような吸引,減圧工程において生じたその圧力差に基づき、液状の樹脂7が内部に注入される。もって、内部に流入した液状の樹脂7が、繊維基材6内を拡散して、繊維基材6に付着,含浸,混入する。
【0030】
(6)このように、バルーン15が各セル空間5内で膨張,充満するので、このようなバルーン15の存在により、RTM工法により吸入される液状の樹脂7が、セル空間5内に多量に流入して、溜まり,硬化することは阻止される。フィレット8形成スペース以外の空間は、大部分がバルーン15で占められており、その部分に樹脂7は流入できない。僅かに発生するバルーン隙間空間17には樹脂7が流入するも、そのおかげで、ピンホール,割れ等により、バルーン15周囲の圧力が上昇しても、容易にバルーン15は収縮せず、ハニカムパネル1内部に水等が溜まることが回避される。
【0031】
(7)さて、上述により繊維基材6に付着,含浸,混入した樹脂7が硬化すると、硬化した樹脂7と繊維基材6にて、繊維強化プラスチック製の表面板3が形成される。
これと同時に、硬化したフィレット8の樹脂7にて、このように形成された表面板3が芯材であるハニカムコア2の両端面のセル壁4に接着され、もって、ハニカムパネル1が製造される(図2の(2)図を参照)。
【0032】
(8)さてそこで、このハニカムパネル1の製造方法によると、次の第1,第2,第3,第4のようになる。
第1に、この製造方法では、膨張,充満したバルーン15の存在により、RTM工法で注入される液状の樹脂7が、ハニカムコア2のセル空間5内に多量に流入して,溜まり,硬化することが、確実に阻止される。従って、液状の樹脂7の使用量が無駄に多量となることも、回避される。
更に、この製造方法では、事前にセル空間5にバルーン15を挿入,充填しておくだけで、上述したように、多量の液状の樹脂7のハニカムコア2への流入が阻止される。つまり、バルーン15を用いるという簡単な手段により、容易かつ確実に、樹脂7のハニカムコア2への流入が阻止される。
しかもこれらは、手間がかかることがなく、高額なコストが発生することもなく、実現される。
【0033】
第2に、この製造方法では、バルーン15がハニカムコア2の各セル空間5内で膨張,充満するものの、各セル空間5のハニカムコア2のセル壁4と表面板3との間のコーナーには、フィレット8形成用スペースが必ず形成される(図2の(1)図を参照)。
つまり、膨張したバルーン15は、その大部分が、ハニカムコア2のセル壁4や表面板3に当接して押えられるが、上記コーナーにてこのように当接せず押えられていない部分が、略アール状,略球面状をなす。そこで、これに対応して略アール状,略球面状をなす残った僅かな残余隙間空間16にて、フィレット8形成用スペースが確保される。
そこで、芯材であるハニカムコア2のセル壁4と、表面板3との間に、接着強度を補強,増強するフィレット8が、確実に形成されるようになる。もって製造されたハニカムパネル1は、ハニカムコア2と表面板3間の接着力に優れており、優れたパネル強度を備えるようになる。
【0034】
第3に、この製造方法では、膨張,充満したバルーン15の存在により、RTM工法で注入される液状の樹脂7のセル空間5内への流入,溜まり,硬化等が、確実に防止される。そこで、製造されたハニカムパネル1において、芯材であるハニカムコア2の各セル空間5は、膨張したバルーン15が充満することによって、重層的に空間保持,空洞維持される。
従って、製造されたハニカムパネル1は、ハニカムコア2の重量比強度に優れるという特性が維持され、軽量性が確保される。
【0035】
第4に、この製造方法では、事前にハニカムコア2を曲面成形しておいてから、RTM工法を実施することにより(図1の(1)図を参照)、表面板3も共に曲面加工された曲面ハニカムパネルを、容易に製造可能である。
又、RTM工法を実施する際に同様に、柔軟性を備えたハニカムコア2と表面板3とを、共に曲面成形することによつても、曲面ハニカムパネルを製造可能である。
又、膨張前のバルーン15は、体積が小さく(減圧下で膨張するので、常圧下での体積は小さい)、加圧により更に小さくすることも可能であり、事前の準備,保管スペースを取らない。
更に、外表面に粘着性を付与したバルーン15は、ハニカムコア2の各セル空間5内で、それぞれセル壁4やバルーン15同士で粘着しており、ハニカムパネル1の製造準備のためハニカムコア2と共に挿入状態で持ち運んでも、外部落下してしまう虞もない。
又、バルーン15について、熱伝導率,比誘電率,その他に関する物性を付与可能な気体を、内部充填しておくと、製造されたハニカムパネル1は、使用時において、その物性に応じた機能を発揮可能となる。
更に、このハニカムパネル1は、使用時において、繊維強化プラスチック製の表面板3等に、もしもピンホールや割れが生じるようなことがあっても、膨張,充満したバルーン15の存在により、セル空間5に水等が外部から浸入して溜まるようなことも、防止される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るハニカムパネルの製造方法について、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、(1)図は、製造装置正面の断面説明図であり、(2)図〜(7)図は、その要部正面の断面説明図である。 そして、(2)図,(3)図は、バルーンの第1例を示し、(4)図,(5)図は、バルーンの第2例を示し、(6)図,(7)図は、バルーンの第3例を示す。又、(2)図,(4)図,(6)図等は、バルーンの挿入,充填時を示し、(3)図,(5)図,(7)図等は、バルーンの膨張,充満時を示す。
【図2】同発明を実施するための最良の形態の説明に供し、(1)図は、形成されるフィレットの説明に供し、正面の拡大した断面説明図である。(2)図は、曲面ハニカムパネルの説明に供し、正面の断面説明図である(バルーンの図示は省略)。
【符号の説明】
【0037】
1 ハニカムパネル
2 ハニカムコア
3 表面板
4 セル壁
5 セル空間
6 繊維基材
7 樹脂
8 フィレット
9 治具
10 バギングシート
11 シーラントテープ
12 バキュームポンプ
13 容器
14 バルブ
15 バルーン
16 残余隙間空間
17 バルーン隙間空間
A 製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカムコアの両端面に繊維強化プラスチック製の表面板が接着された、ハニカムパネルの製造方法において、
該ハニカムコアのセル空間に、予めバルーンが充填されており、充填されていた該バルーンが、セル空間内空気の吸引,減圧工程において、該セル空間内に膨張,充満すること、を特徴とするハニカムパネルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載したハニカムパネルの製造方法であって、まず、治具と治具の間、又は治具とバギングシートの間に、芯材となる該ハニカムコアと、該表面板となる繊維基材とを、積層して密封し、それから、内部の空気を吸引,減圧することにより、液状樹脂を注入して、該液状樹脂を該繊維基材に含浸,硬化させ、もって、該繊維強化プラスチック製の表面板を得ると同時に、これが該ハニカムコアの両端面に接着された、該ハニカムパネルを製造する方法において、
準備される該ハニカムコアは、事前にゴム製や樹脂製の該バルーンが、その各セル空間内に、それぞれ残余隙間空間を存しつつ挿入されており、
各該バルーンは、上記吸引,減圧を利用して、各該セル空間内で略球状その他の形状に膨張し、もって各該セル空間内の残余隙間空間を、ほぼ埋めて充満すること、を特徴とするハニカムパネルの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載したハニカムパネルの製造方法において、該バルーンは、外表面に粘着性が付与されており、該セル空間を形成するセル壁に対し粘着可能となっていること。を特徴とするハニカムパネルの製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載したハニカムパネルの製造方法において、該バルーンは、熱伝導率,比誘電率,その他に関する物性を付与可能な気体が、内部充填されており、
事後の該ハニカムパネルの使用時において、該物性に応じた機能を発揮可能となっていること、を特徴とするハニカムパネルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−66784(P2009−66784A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234842(P2007−234842)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000187208)昭和飛行機工業株式会社 (72)
【Fターム(参考)】