説明

バイト工具の取付角度調整治具

【課題】バイト工具のシャンクに対する固定角度を調整可能なバイト工具の取付角度調整治具を提供する。
【解決手段】取付角度調整治具70は、該シャンク50を固定するV溝74を有する固定部72と、該V溝が延在する方向と平行方向に該固定部の両端から張り出した第1及び第2のアーム部76,78とからなり、該第1のアーム部は、該固定部の該V溝中に該シャンクを固定した状態で、バイト工具60をシャンクに固定するねじ68を回転軸にして揺動させた該バイト工具の側面を突き当てることで該バイト工具を該シャンクに対して第1の所定角度に調整可能な第1突き当て面77を有し、該第2のアーム部は、該固定部の該V溝中に該シャンクを固定した状態で、該ねじを回転軸にして揺動させた該バイト工具の側面を突き当てることで該バイト工具を該シャンクに対して第2の所定角度に調整可能な第2突き当て面79を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に切削用の切刃(チップ)が固定されたバイト工具をシャンクに固定する際に用いるバイト工具の取付角度調整治具に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの軽薄短小化を実現するための技術には様々なものがある。一例として、半導体ウエーハに形成されたデバイス表面に10〜100μm程度の高さのバンプと呼ばれる金属突起物を複数形成し、これらのバンプを配線基板に形成された電極に相対させて直接接合するフリップチップボンディングと呼ばれる実装技術が実用化されている。
【0003】
半導体ウエーハのデバイス表面に形成されるバンプは、メッキやスタッドバンプといった方法により形成される。このため個々のバンプの高さは不均一であり、そのままでは複数のバンプを配線基板の電極に全て一様に接合するのは困難である。半導体ウエーハのデバイス表面に形成されたバンプは一般的に樹脂封止される。
【0004】
また、高密度配線を実現するために、バンプと配線基板との間に異方性導電性フィルム(ACF)を挟んで接合する集積回路実装技術がある。この実装技術の場合には、バンプの高さが不足すると接合不良を招くため、一定以上のバンプ高さが必要となる。
【0005】
更に、WL−CSP(Wafer−Level Chip Size Package)では、ウエーハの状態で再配線層やバンプ(金属ポスト)を形成後、表面側を樹脂で封止している。
【0006】
WL−CSPウエーハを切削ブレード等で各パッケージに分割すると、ウエーハを個片化したパッケージの大きさが半導体デバイスチップの大きさになるため、小型化及び軽量化の観点からも広く採用されている。
【0007】
そこで、半導体ウエーハの表面に形成された複数のバンプを所望の高さへ揃えることが望まれている。バンプを所望の高さへ揃える方法として、一般的には研磨加工が採用されているが、作業時間が長いという問題があった。
【0008】
この問題を解決する技術として、研削装置の研削ホイールのように高速回転するバイトホイールを用いてバンプを削り取り、バンプの高さを揃えるバイト切削装置が例えば特開2004−319697号公報で提案されている。
【0009】
特開2004−319697号公報には、バイト工具の先端に固定された切刃(チップ)の偏磨耗を解消するために、一方向にしか移動させていなかった切削動作を往復動作させるといった方法が記載されている。この方法では、切刃先端の刃先の被加工物への接触部分は一定であるため、往復動作によって異なる接触部分が均等に磨耗するといった効果が得られる。
【0010】
ところが、被加工物への接触部分に欠けが発生すると使用不能となってバイト工具の交換を余儀なくされる。このように切刃の一箇所に欠けが発生するだけでバイト工具を交換することは不経済である。
【0011】
このため、実際使用される刃先が一部分であることを利用して、ある程度の長さの刃先を有する切刃(チップ)の角度を変更して被加工物の接触部分を変えることで、切刃を有効に利用する方法が提案されている(特開2009−12105号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−7135号公報
【特許文献2】特開2004−319697号公報
【特許文献3】特開2009−12105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献3で提案されている構造はシャンクの形状が複雑であるため製造コストが上昇することと、これまでバイト切削装置で使用してきたシャンクより太くなってしまうので、従来の装置で使用することができなくなり、バイト切削装置の改造も必要になるという問題がある。
【0014】
また、従来のバイト切削装置で使用していたシャンクとバイト工具とでは3点の角度を固定する際、適当に中心、左右とバイト工具を回動させてバイト工具をシャンクに固定していたので、作業者によって固定角度にばらつきが発生し、切削結果が異なるという問題が発生していた。
【0015】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な構造でバイト工具のシャンクに対する固定角度を所定の角度に調整可能なバイト工具の取付角度調整治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によると、直方体を呈し一方の端部の角が切り欠かれて平坦面が形成されるとともに該平坦面に対して垂直にねじ穴が形成されたシャンクと、互いに平行な側面と上面から裏面に貫通して形成された取付穴と先端部に固着された切刃とを有し、該取付穴にねじを挿入して該平端部に形成されたねじ穴に螺合することにより該平端部に取り付けられたバイト工具と、からなるバイトユニットにおける該シャンクに対する該バイト工具の取付角度を調整するバイト工具の取付角度調整治具であって、該取付角度調整治具は、該シャンクの長手方向に伸長する該シャンクの前記角と嵌合して該シャンクを固定するV溝を有する固定部と、該V溝が延在する方向と平行方向に該固定部の両端から張り出した第1及び第2のアーム部とからなり、該第1のアーム部は、該固定部の該V溝中に該シャンクを固定した状態で、該ねじを回転軸にして揺動させた該バイト工具の側面を突き当てることで該バイト工具を該シャンクに対して第1の所定角度に調整可能な第1突き当て面を有し、該第2のアーム部は、該固定部の該V溝中に該シャンクを固定した状態で、該ねじを回転軸にして揺動させた該バイト工具の側面を突き当てることで該バイト工具を該シャンクに対して第2の所定角度に調整可能な第2突き当て面を有し、該第1突き当て面と該第2突き当て面が調整する角度が異なることを特徴とするバイト工具の取付角度調整治具が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明のバイト工具の取付角度調整治具によると、従来使用してきたシャンクとバイト工具を用いてシャンクに対するバイト工具の取付を所定の角度に容易に調整可能である。また、取付角度調整治具はシャンクの角がはまるV溝を備えた固定部を有しているので、ねじ締結時に動き易い回動方向への揺動が確実に押さえられ、ねじ締め作業時にシャンクの角で手を切ったりする危険を取り除くことができる。
【0018】
更には、バイト工具を取付角度調整治具の突き当て面に突き当ててバイト工具をシャンクに固定するので、取付角度を常に一定の角度に容易に調整することができる。また、一つの取付角度調整治具で二つ以上の角度の調整が可能なので、治具を調整する角度の数だけ用意する必要がないという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】バイト切削装置で切削するのに適した半導体ウエーハの斜視図である。
【図2】バイト切削装置の斜視図である。
【図3】バイト切削装置でのウエーハの切削加工工程を示す模式図である。
【図4】図4(A)は本発明実施形態に係るバイトユニットの分解斜視図、図4(B)はバイトユニットの斜視図である。
【図5】図5(A)は図4(A)の5A−5A線断面図、図5(B)は図4(A)の5B−5Bの断面図である。
【図6】バイトユニットのシャンクを固定した状態の本発明第1実施形態の取付角度調整治具の斜視図である。
【図7】バイトユニットのシャンクを固定した状態の本発明第2実施形態の取付角度調整治具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1を参照すると、バイト切削装置で切削するのに適した半導体ウエーハWの斜視図が示されている。半導体ウエーハWの表面においては、第1のストリートS1と第2のストリートS2とが直交して形成されており、第1のストリートS1と第2のストリートS2とによって区画された各領域にそれぞれデバイス(チップ)Dが形成されている。
【0021】
図1の拡大図に示すように、各デバイスDの4辺には複数の突起状のバンプ5が形成されている。これらのバンプ5は、エポキシ樹脂やベンソシクロブテン(BCB)等の図示しないアンダーフィル材内に埋設されている。
【0022】
図2を参照すると、バイト切削装置2の斜視図が示されている。4はバイト切削装置2のベース(ハウジング)であり、ベース4の後方にはコラム6が立設されている。コラム6には、上下方向に伸びる一対のガイドレール(一本のみ図示)8が固定されている。
【0023】
この一対のガイドレール8に沿ってバイト切削ユニット10が上下方向に移動可能に装着されている。バイト切削ユニット10は、そのハウジング20が一対のガイドレール8に沿って上下方向に移動する移動基台12に取り付けられている。
【0024】
バイト切削ユニット10は、ハウジング20と、ハウジング20中に回転可能に収容されたスピンドル22(図3参照)と、スピンドル22の先端に固定されたマウント24と、マウント24に着脱可能に装着されたバイトホイール25とを含んでいる。バイトホイール25にはバイトユニット26が着脱可能に取り付けられている。
【0025】
バイト切削ユニット10は、バイト切削ユニット10を一対の案内レール8に沿って上下方向に移動するボールねじ14とパルスモータ16とから構成されるバイト切削ユニット送り機構18を備えている。パルスモータ16をパルス駆動すると、ボールねじ14が回転し、移動基台12が上下方向に移動される。
【0026】
ベース4の中間部分にはチャックテーブル30を有するチャックテーブル機構28が配設されており、チャックテーブル機構28は図示しないチャックテーブル移動機構によりY軸方向に移動される。33は蛇腹であり、チャックテーブル機構28をカバーする。
【0027】
ベース4の前側部分には、第1のウエーハカセット32と、第2のウエーハカセット34と、ウエーハ搬送用ロボット36と、複数の位置決めピン40を有する位置決め機構38と、ウエーハ搬入機構(ローディングアーム)42と、ウエーハ搬出機構(アンローディングアーム)44と、スピンナ洗浄ユニット46が配設されている。
【0028】
また、ベース4の概略中央部には、チャックテーブル30を洗浄する洗浄水噴射ノズル48が設けられている。この洗浄水噴射ノズル48は、チャックテーブル30が装置手前側のウエーハ搬入・搬出領域に位置づけられた状態において、チャックテーブル30に向かって洗浄水を噴射する。
【0029】
図3に示すように、バイトユニット26はバイトホイール25に着脱可能に装着される。即ち、バイトホイール25に形成した装着穴中にバイトユニット26のシャンクを挿入して、ねじ締結することによりバイトユニット26が着脱可能にバイトホイール25に装着される。
【0030】
半導体ウエーハWのバンプ5の切削に際しては、スピンドル22を約2000rpmで回転させつつ、バイトホイール送り機構18を駆動してバイトユニット26の切刃をアンダーフィル材に所定深さ切り込ませ、チャックテーブル30を矢印Y方向に1mm/sの送り速度で移動させながら、アンダーフィル材とともにバンプ5をバイト工具で切削する。この切削加工時には、チャックテーブル30は回転させずにY軸方向に加工送りする。
【0031】
次に、図4を参照して、本発明の実施形態に係るバイトユニット26について説明する。図4(A)はバイトユニット26の分解斜視図、図4(B)はその斜視図である。バイトユニット26は直方体形状のシャンク50と、シャンク50に取り付けられたバイト工具60とから構成される。
【0032】
図4(A)の5A−5A線断面図である図5(A)に示すように、シャンク50はその横断面が正方形をなした直方体である。シャンク50は互いに等しい4面50a〜50dを有しており、一方の端部の面50aと面50bとで画成された角が切り欠かれて平坦面52が形成されている。
【0033】
54は垂直面であり、平坦面52とシャンク50の面50a又は面50bとのなす角θは45度であり、シャンク50は45度タイプのシャンクと称される。平坦面52には、平坦面52に対して垂直にねじ穴56が形成されている。
【0034】
60はバイト工具であり、バイト工具本体62と、バイト工具本体62の先端部62eに固着された切刃(チップ)64とから構成される。バイト工具本体62は、互いに平行な側面62c,62dと、上面62aから裏面62bに貫通して形成された取付穴66を有している。
【0035】
バイト工具60の取付穴66中にねじ68を挿入してシャンク50の平坦面52に形成されたねじ穴56に螺合することにより、バイト工具60がシャンク50の平坦面52に取り付けられてバイトユニット26が完成する。バイト工具60は、ねじ68を回転軸にして矢印A方向に回動することによりシャンク50に対する取付角度が調整される。
【0036】
本実施形態のバイトユニット26では、シャンク50の横断面が正方形であるため、バイトホイール25に形成された取付穴も正方形であり、バイトユニット26のシャンク50の取付方向を間違わないために、バイトホイール25の取付穴近傍及びシャンク50に位置合わせ用のマークが形成されており、このマークを合わせてシャンク50をバイトホイール25に取り付けることにより、バイト工具60はバイトホイール25に対して常に同一方向に取り付けられる。
【0037】
図6を参照すると、本発明第1実施形態の取付角度調整治具70の斜視図が示されている。取付角度調整治具70は、シャンク50の長手方向に伸長するシャンク50の面50aと50bとで画成される角と嵌合してシャンク50を固定するV溝74を有する固定部72と、V溝74が延在する方向と平行方向に固定部72の両端から張り出した第1のアーム部76と第2のアーム部78とから構成される。
【0038】
第1のアーム部76は、固定部72のV溝74中にシャンク50を固定した状態で、ねじ68を回転軸にして揺動させたバイト工具60の側面62cを突き当てることで、バイト工具60をシャンク50に対して第1の所定角度に調整可能な第1突き当て面77を有している。
【0039】
第2のアーム部78は、固定部72のV溝74中にシャンク50を固定した状態で、ねじ68を回転軸にして揺動させたバイト工具60の側面62dを突き当てることで、バイト工具60をシャンク50に対して第2の所定角度に調整可能な第2突き当て面79を有している。
【0040】
第1突き当て面77と第2突き当て面79とで調整する調整角度は相違しており、例えば第1突き当て面77で調整する角度は1度、第2突き当て面79で調整する角度は−1度に設定される。
【0041】
図6に示すように、固定部72のV溝74中にシャンク50を固定し、ねじ68を回転軸にして揺動させたバイト工具60の側面60cを第1突き当て面77に突き当てた状態でねじ68を締め付けることにより、バイト工具60は第1の所定角度に調整されてシャンク50に固定される。シャンク50の角部がV溝74中に嵌合しているため、ねじ締結時のシャンク50の揺動を確実に抑えることができる。
【0042】
図7を参照すると、本発明第2実施形態の取付角度調整治具70Aの斜視図が示されている。取付角度調整治具70Aは、固定部72に互いに対向する同一形状の第1のV溝74aと第2のV溝74bを有している。
【0043】
そして、第1のアーム部76はバイト工具60をシャンク50に対して第1の所定角度に調整可能な第1突き当て面77aと、第2の所定角度に調整可能な第2突き当て面77bを有している。
【0044】
同様に、第2のアーム部78はバイト工具60をシャンク50に対して第3の所定角度に調整可能な第3突き当て面79aと、第4の所定角度に調整可能な第4突き当て面79bを有している。
【0045】
第1の所定角度から第4の所定角度を異なる角度に設定することにより、本実施形態の取付角度調整治具70Aによると、バイト工具60のシャンク50に対する取付角度を4段階に容易に調整することができる。
【0046】
上述した実施形態では、本発明の取付角度調整治具70,70Aを45度タイプのシャンク50に適用した例について説明したが、取付角度調整治具70,70Aはシャンクに形成される平坦面が45度と異なる角度に設定された15度タイプのシャンク、35度タイプのシャンク等にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
2 バイト切削装置
25 バイトホイール
26 バイトユニット
50 シャンク
52 平坦面
60 バイト工具
62 バイト工具本体
64 切刃(チップ)
70,70A 取付角度調整治具
72 固定部
74,74a,74b V溝
76 第1のアーム部
77 第1突き当て面
78 第2のアーム部
79 第2突き当て面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体を呈し一方の端部の角が切り欠かれて平坦面が形成されるとともに該平坦面に対して垂直にねじ穴が形成されたシャンクと、互いに平行な側面と上面から裏面に貫通して形成された取付穴と先端部に固着された切刃とを有し、該取付穴にねじを挿入して該平端部に形成されたねじ穴に螺合することにより該平端部に取り付けられたバイト工具と、からなるバイトユニットにおける該シャンクに対する該バイト工具の取付角度を調整するバイト工具の取付角度調整治具であって、
該取付角度調整治具は、該シャンクの長手方向に伸長する該シャンクの前記角と嵌合して該シャンクを固定するV溝を有する固定部と、該V溝が延在する方向と平行方向に該固定部の両端から張り出した第1及び第2のアーム部とからなり、
該第1のアーム部は、該固定部の該V溝中に該シャンクを固定した状態で、該ねじを回転軸にして揺動させた該バイト工具の側面を突き当てることで該バイト工具を該シャンクに対して第1の所定角度に調整可能な第1突き当て面を有し、
該第2のアーム部は、該固定部の該V溝中に該シャンクを固定した状態で、該ねじを回転軸にして揺動させた該バイト工具の側面を突き当てることで該バイト工具を該シャンクに対して第2の所定角度に調整可能な第2突き当て面を有し、
該第1突き当て面と該第2突き当て面が調整する角度が異なることを特徴とするバイト工具の取付角度調整治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−31893(P2013−31893A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168879(P2011−168879)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】