説明

バッチ式プラントの運転管理システム

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、化学プラントにおいて、特に、工程管理、作業指示及び工程進捗管理を行うバッチ式プラントの運転管理システムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、多品種変量型かつ多工程のバッチ操作を主とするプラントにおいては、例えば、各種の原料を投入する場合、それぞれ多くの配管を介して行われている。このような状態において、各種原料を投入するときの順序等は、多くは人間の記憶あるいは手順書によって行っていた。しかし、配管が複雑になることに伴い、また、製造工程が多技にわたるに従い、人間の記憶あるいは手順書では限界があり、困難になってきた。そこで、図4に示すような多品種変量生産用設備に多数の自動バルブを設け、図5に示すような制御コンピュータからなる管理システムを構成して制御することになる。ここで、図4は、既設の多品種変量生産用設備の計装の一例であり、Tはタンク、Pはパイプ、S、Snはシンク、A、A、〜Anは各種原料の中間槽、B、B、〜Bnは同じく各種原料の中間槽、C11、C12、〜CnおよびCn、Cn、〜Cnnはコントローラ、F、F、〜Fnは補償用コントローラ、V11、V12、〜Vn,Vn、Vn、〜Vnnおよびv、v、〜vnは自動バルブ、p11、p12、〜pnおよびpn、pn、〜pnnは配管をそれぞれ示す。図中、各配管に挿入された各自動バルブは、各コントローラによってそれぞれ開閉制御され、各種原料は、この各自動バルブを経てシンクS、Snに供給され、パイプPを介して反応タンクTに投入される。なお、流量補償は、補償用コントローラF、F、〜Fnおよび自動バルブv、v、〜vnによって行われる。
【0003】また、図5は、従来の運転作業管理システムの一例を示し、1は制御コンピュータ、2は操作端末、3は制御装置A、4は制御装置B、6は通信回線、7は信号変換器A、8は信号変換器B、10はモーター制御回路、17は作業員、18は原料、19は搬送装置、20はモーター、21は入出庫ステーション、22はバルブ、23はプロセス計装、24は搬送装置制御装置、25はモーター操作スイッチ、26は搬送制御スイッチ、27はバルブ動作指令用ケーブル、28はリミットスイッチ用ケーブル、29は搬送制御スイッチ用ケーブル、30はモータースイッチ用ケーブル、31はリミットスイッチ、32は反応釜をそれぞれ示す。図中、反応釜32に原料18を搬送投入し、モーター20により撹拌し、バルブ22を開いて加熱する製造工程を示し、作業員17は、記憶または手順書に基づいて、次の作業を行なう。まず、作業員17が搬送制御スイッチ26をオンすると、このオン信号は、搬送制御スイッチ用ケーブル29を伝送し、信号変換器B8および制御装置B4においてそれぞれ処理され、通信回線6を介して制御コンピュータ1に入力される。制御コンピュータ1では、信号処理して、搬送装置19に対する指令を、制御装置A3および信号変換器A7を通じ、搬送装置制御装置24に伝達し、搬送装置制御装置24は、この指令に基づいて搬送装置19に、原料18を入出庫ステーションから搬送させ、反応釜32の近傍に停止させ、原料18を投入させる。次いで、作業員17がモーター操作スイッチ25をオンすると、このオン信号は、モータースイッチ用ケーブル30を伝送し、同様の経路を経て、信号処理された後、モーター20に対する指令をモーター制御回路10に伝達し、モーター制御回路10は、この指令に基づいてモーター20を作動し、反応釜32の原料を撹拌する。続いて、作業員17がバルブ22の開動作を指令すると、この指令は、バルブ動作指令用ケーブル27を伝送し、同様の経路を経て、信号処理されるとともに、バルブ22は開き、熱媒が反応釜32に送られ、反応釜32を加熱する。なお、リミットスイッチ用ケーブル28は、バルブ22のリミットスイッチ31信号を伝送し、バルブ22の動作リミット位置を制御コンピュータ1に入力する。また、プロセス計装23には、信号変換器B8を介し、動作表示される。このように、従来のシステムにおいては、作業上および管理上の手順は、作業員の記憶または手順書により行い、また、作業の実績記録や管理上の重要なポイントの引継ぎは、書類による伝達または作業員の口伝によつてなされ、あるいは、この引継ぎがないときには、属人的なノウハウに頼らなければならない。このため、予期しない操作ミスまたは事故を惹起する、という問題がある。また、図4のように配管が複雑かつ多くなると、自動バルブをそれに対応して数多く設けることとなり、一方、自動バルブを設けた以上、少なくとも開閉指令の伝達と、その動作の確認を必要とする。このため、図4における自動バルブ1個に対して、実際には図5に示すようなバルブ動作指令用ケーブル27、リミットスイッチ用ケーブル28および図示しないバルブ作動用電源ラインが必要となり、また、モーターの起動停止のためには、モーター操作ステッチ25とモータースイッチ用ケーブル30が、さらに、搬送装置制御のためには、搬送制御スイッチ26と搬送制御スイッチ用ケーブル29がそれぞれ必要となる。これは、設備費が膨大になり、さらに、点検および修繕が不可避であるから、保守費が増大し、また、これらのスイッチ類を物理的に配置することのみを取り上げてみても、スペースを必要とし、設計上の大きな制約になる、という問題点を有している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記事情に鑑み、化学プラントにおける工程管理、作業指示および工程進捗管理を確実にかつ効率的および経済的に行うに適するバッチ式プラントの運転管理システムを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の目的は、原料または中間製品を移送容器を用いて製造工程ごとに移送し、製品化するバツチ式プラントにおいて、移送容器およびプロセス機器の制御情報を符号化したバーコードと、統括制御手段から対象とする製造工程を指定すると、製造工程の作業内容と順序を表示および/または音声出力によってメッセージする手段と、このメッセージに従ってバーコードを照査し、移送容器およびプロセス機器の制御情報を統括制御手段に遠隔通信する手段を設け、制御情報に基づいて移送容器またはプロセス機器を制御することによって、達成される。また、製品化するためのプロセス機器を操作する手段を有するとき、プロセス機器の動作確認用のバーコードを設け、プロセス機器の誤入力となる動作確認用のバーコードをプロセス機器を操作する手段によって遮蔽し、前記誤入力となる制御情報の照査を不可とすることによって、達成される。
【0006】
【作用】最初に、統括制御手段から対象とする製造工程を指定すると、製造工程における作業内容と順序を表示および/または音声出力する手段にメッセージし、次いで、作業員は、このメッセージに従ってバーコードを照査し、遠隔通信手段を用いて移送容器およびプロセス機器の制御情報を統括制御手段に遠隔通信する。統括制御手段は、情報処理した後、制御内容を搬送制御手段またはプロセス制御手段に指令し、移送容器またはプロセス機器を制御する。このようにして、化学プラントにおける工程管理、作業指示及び工程進捗管理を確実にかつ効率的および経済的に行うことができる。
【0007】
【実施例】以下、本発明の実施例を、図面により、詳細に説明する。図1は、本発明の実施例であり、システムの全体構成を示す。図1において、5は制御装置C、9は信号変換器C、11は通信制御装置、12は表示盤制御装置、13は通信装置、14は通信装置、15は音声制御装置、16は制御情報を符号化したバーコードa,b,c,d,eを照査するバーコードリーダ、33はスピーカ、34は表示盤をそれぞれ示す。制御コンピュータ1には、製造品目の各工程における作業員のなすべき作業を予め分析して、記憶しておく。ここで、バーコードaは搬送物(原料)に、バーコードbは入出庫ステーション21に、バーコードcはモーターに、バーコードdは反応釜32に、バーコードeはバルブ22にそれぞれ貼付したバーコードを示す。なお、対象とする製造工程は図5と同一であり、図5と同一番号は同じものを示す。つぎに、本実施例の動作を説明する。最初に、操作端末2から対象とする製造工程を指定すると、制御コンピュータ1に予め記憶されている製造工程の作業は、制御装置C5、信号変換器C9、表示盤制御装置12を通じ、表示盤34に一括または所定のタイミングによりメッセージ(図2に詳述)される。このとき、作業員17に注意を促したり、作業のタイミングを知らせたりするために、音声制御装置15を介してスピーカ33による音声が出力される。そこで、作業員17は、表示盤34のメッセージに従い、まず、バーコードリーダ16を用いて、搬送物(原料)18に貼付されたバーコードaを照査する。このバーコードaの信号は、通信装置14から通信装置13に無線伝送され、通信制御装置11を経て、信号変換器C9により信号変換され、制御装置C5、通信回線6を介して制御コンピュータ1に入力される。制御コンピュータ1では、搬送物18の確認や搬送実績のデータとして収納する。次いで、作業員17は、表示盤34のメッセージに従い、バーコードリーダ16を用いて、入出庫ステーション21に貼付されたバーコードbを照査すると、このバーコードbの信号を無線伝送し、同様の通信経路を介して制御コンピュータ1に入力し、制御コンピュータ1では、信号処理して、搬送装置19に対する指令を、制御装置A3および信号変換器A7を通じ、搬送装置制御装置24に伝達する。搬送装置制御装置24は、この指令に基づいて搬送装置19に、搬送物18を入出庫ステーションから搬送させ、反応釜32の近傍に停止させ、搬送物18を投入させる。続いて、表示盤34のメッセージに従い、作業員17がバーコードリーダ16を用いて、モーター20に貼付されたバーコードcを照査すると、このバーコードcの信号は、通信装置14から通信装置13に無線伝送され、前述と同様の経路を経て、信号処理された後、制御コンピュータ1は、モーター20に対する指令をモーター制御回路10に伝達する。モーター制御回路10は、この指令に基づいてモーター20を作動し、反応釜32の原料を撹拌する。また、ここで、バーコードリーダ16を用いて、反応釜32に貼付されたバーコードdを照査し、このバーコードdの信号を無線伝送し、同様の通信経路を介して制御コンピュータ1に入力し、反応釜32の確認やデータを収集する。次の表示盤34のメッセージに従い、作業員17がバーコードリーダ16を用いて、バルブ22に貼付されたバーコードeを照査すると、このバーコードeの信号は、通信装置14から通信装置13に無線伝送され、同様の経路を経て、信号処理されるとともに、バルブ22の開動作指令により、バルブ22は開き、熱媒が反応釜32に送られ、反応釜32を加熱する。本実施例では、表示盤34のメッセージに従い、各制御機器に貼付したバーコードをバーコードリーダにより照査するのみで、かつ、この照査情報を無線伝送することにより、化学プラントにおける工程管理、作業指示及び工程進捗管理を確実にかつ効率的および経済的に行うことができる。なお、本実施例の照査情報を無線伝送することに替えて、有線による通信でも同様の機能を発揮する。
【0008】図2は、表示盤34に表示される製造工程の作業順序の例であり、その(イ)に一括表示、(ロ)にタイミング表示を示す。例えば、表示盤34上に、(イ)の銘柄1について、工程1−「冷却ライン構成」、工程2−「真空ライン構成」、工程3−「冷却開始」、工程4−「真空ポンプ起動」、工程5−「時間待ち」の順序が表示され、また、銘柄2について、工程1−「加熱ライン構成(HS)」、工程2−「窒素ライン構成」、工程3−「凝縮器ライン構成」、工程4−「窒素流入開始」、工程5−「加熱開始(HS)」の順序が表示される。次に、(ロ)の■は、表示盤34の1段目に最初の作業メッセージ「冷却ライン構成」を表示し、所定のタイミング後、(ロ)の■は、表示盤34の1段目に次の作業メッセージ「加熱ライン構成(HS)」を表示し、最初の作業メッセージ「冷却ライン構成」を2段目に繰下げ、さらに所定のタイミング後、(ロ)の■は、表示盤34の1段目に3番目の作業メッセージ「加熱ライン構成(LS)」を表示し、最初と次の作業メッセージをそれぞれ2段目、3段目に繰下げる。(ロ)の■、■に示す”あふれ”は、表示盤34の表示枠または表示領域からあふれること、つまり、表示盤34に表示されないことを意味し、■は、表示盤34の1段目に4番目の作業メッセージ「加熱ライン構成(MS)」を表示したとき、最初の作業メッセージがあふれる。■は、表示盤34の1段目に5番目の作業メッセージ「冷却ライン構成」を表示したとき、最初と次の作業メッセージがあふれる。このように、表示盤34上の表示枠または領域により、適宜表示の仕方を変更できる。
【0009】図3は、本発明におけるバーコードの他の実施例として動作確認用のバーコードを示す。図中、Vはバルブ、Hはハンドル、Bはバルブの動作確認用のバーコードを示す。ここでは、バーコードBはバルブ閉を内容とするバーコードである。本実施例では、バーコードBをハンドルHの開位置に貼付する。このバルブVの開閉動作は、ハンドルHが閉位置にあるとき、バルブVは閉じ、ハンドルHが開位置にあるとき、バルブVは開く。このようなバルブVの開閉の場合に、バルブVが閉にあることをバーコードリーダにより確認することを目的としたとき、ハンドルHは図示の実線のように閉位置にあるので、バーコードBをバーコードリーダにより照査すると、バルブVの閉を確認することができる。また、ハンドルHが図示の点線のように開位置にあるとき、バーコードBは、ハンドルHにより物理的に遮蔽されるので、バーコードリーダにより照査することができない。このため、バーコードリーダによる誤った応答まりバルブ閉の応答を返すおそれはない。ところが、バーコードBをハンドルHの点線で示す開位置以外の場所に貼付すると、バルブVの開閉に関係なく、バーコードBをバーコードリーダにより照査することが可能となり、誤った応答を返すおそれが生ずる。すなわち、ハンドルHが点線で示す開位置にあり、バルブVが開であるにも拘らず、誤ってバーコードリーダによりバーコードBを照査すると、バルブVが閉であるとの誤った応答をすることになる。本実施例では、バルブのバーコードの貼付位置により、バーコードリーダによる誤った照査を物理的に防護することができる。
【0010】
【発明の効果】本発明によれば、工程の進捗状況および作業指示が表示盤に表示され、バーコードおよび無線式バーコードリーダの採用により、データの取り込みが自動化されるので、管理者および作業員の負担軽減と操作ミスの防止に寄与でき、この結果、工程管理が正確になり、作業指示および工程進捗管理を確実かつ効率的および経済的に行うことができる。また、バーコードおよび無線式バーコードリーダの採用によって、データ記載および転記の労力を軽減することができ、効果的な管理が可能となる。また、各制御機器を操作する手段を有するとき、各制御機器の動作確認用のバーコードを採用すると共に、このバーコードの貼付位置により、バーコードリーダによる誤った照査を物理的に未然に防止することができ、正確な工程管理を行うことが可能になる
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例
【図2】表示盤の表示例
【図3】本発明におけるバルブのバーコードの他の実施例
【図4】既設の多品種変量生産用設備の計装の一例
【図5】従来の運転作業管理システムの一例
【符号の説明】
1 制御コンピータ
2 操作端末
10 モーター制御回路
11 通信制御装置
12 表示盤制御装置
13 通信装置
14 通信装置
15 音声制御装置
16 バーコードリーダ
17 作業員
18 搬送物
19 搬送装置
20 モーター
21 入出庫ステーション
22 バルブ
24 搬送装置制御装置
32 反応釜
33 スピーカ
34 表示盤
a、b、c、d、e バーコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】 原料または中間製品を移送容器を用いて製造工程ごとに移送し、製品化するバツチ式プラントにおいて、前記移送容器の移動を制御する搬送制御手段と、前記製品化するためのプロセス機器を制御するプロセス制御手段と、これらの手段を統括し、前記各製造工程における作業を予め分析記憶している統括制御手段具備すると共に、前記移送容器および前記プロセス機器の制御情報を符号化したバーコードと、前記統括制御手段から対象とする製造工程を指定すると、前記製造工程の作業内容と順序を表示および/または音声出力によってメッセージする手段と、前記メッセージに従って前記バーコードを照査し、前記移送容器および前記プロセス機器の制御情報を前記統括制御手段に遠隔通信する手段を設け、前記制御情報に基づいて前記移送容器または前記プロセス機器を制御することを特徴とするバッチ式プラントの運転管理システム。
【請求項2】 請求項1において、製品化するためのプロセス機器を操作する手段を有するとき、前記プロセス機器の動作確認用のバーコードを設け、前記プロセス機器の誤入力となる動作確認用のバーコードを前記プロセス機器を操作する手段によって遮蔽し、前記誤入力となる制御情報の照査を不可とすることを特徴とするバッチ式プラントの運転管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】第2589623号
【登録日】平成8年(1996)12月5日
【発行日】平成9年(1997)3月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−85984
【出願日】平成4年(1992)3月9日
【公開番号】特開平5−250010
【公開日】平成5年(1993)9月28日
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【参考文献】
【文献】特開 平2−212901(JP,A)