説明

パイロット型電磁弁

【課題】部品点数、工数、コストの増加を招くことなく、主弁体の不戻りを確実に防止できるパイロット型電磁弁を提供する。
【解決手段】電磁式アクチュエータ20によりパイロット弁体35を開閉駆動し、このパイロット弁体35に応動して主弁体15を開閉するようにされたパイロット型電磁弁1Aであって、前記主弁体15の開弁方向の移動規制を行うストッパ32bが設けられるとともに、前記主弁体15の前記ストッパに衝接する端面部15aに、内周側から外周側へ向かう溝15Cが形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電励磁用のコイル、該コイルの内周側に配在された吸引子、及び吸引子に対向配置されたプランジャからなる電磁式アクチュエータによりパイロット弁体を開閉駆動し、このパイロット弁体に応動して主弁体を開閉するようにされたパイロット型電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のパイロット型電磁弁の従来例を図6に示す(下記特許文献1等も参照)。図示例のパイロット型電磁弁1’は、例えばエアコン等の冷凍サイクルに使用されるもので、主弁座(弁口)14を有する主弁室13が設けられた弁本体10と、この弁本体10の主弁室13に接続された入口継手(流入口)11及び弁本体10における主弁座14より下流に接続された出口継手(流出口)12と、弁本体10に摺動自在に嵌挿されて前記主弁座14に接離する主弁体15と、電磁式アクチュエータ20とを備える。
【0003】
電磁式アクチュエータ20は、通電励磁用のコイル22、このコイル22の外周を覆うように配在されたハウジング21、コイル22の上部内周側に配在されてボルト28によりハウジング21に固定された有底円筒状ないし円柱状の吸引子25、この吸引子25に対向配置されたプランジャ30を備えている。プランジャ30の先端には、保持穴31が設けられ、この保持穴31にボールからなるパイロット弁体35が、その下面の一部を露出させた状態で収納されてかしめ固定(かしめ部31a)されている。プランジャ30の上部には、コイルばねからなる閉弁ばね26が挿入係止される縦穴(ばね室)30aと横穴(均圧穴)30bが形成されている。
【0004】
プランジャ30は、コイル22と吸引子25との間にその上部が配在されたガイドパイプ32に摺動自在に嵌挿されている。ガイドパイプ32の上端32aは、吸引子25の外周段差部に溶接等の方法によって固定され、その下端鍔状部32bの外周部分が、弁本体10の上部内周段差部16に載せられている。ガイドパイプ32の下端鍔状部32bは、弁本体10の上部内周段差部16に設けられたかしめ部16aにより、間にリング状部材17を挟んでかしめ固定され、さらに、前記かしめ部16aとリング状部材17及びガイドパイプ32とがろう付け(ろう付け部18)固定されている。
【0005】
主弁体15は、真鍮製の外周部材15Bとそれに内嵌されてかしめ固定(かしめ部15c)された断面凸形状のテフロン製の内周部材15Aとからなる短円柱状体とされ、その中央部を貫通するように、前記パイロット弁体35により開閉されるパイロット通路37が形成されている。主弁体15の外周部材15Bには、中心から外れた位置にて内周部材15Aに接するように均圧穴19が形成されている。
【0006】
また、主弁室13には、主弁体15を開弁方向に付勢するコイルばねからなる開弁ばね33が縮装されている。
【0007】
プランジャ30と主弁体15との間は背圧室40となっており、主弁体15が閉弁しているとき、入口継手(流入口)11から主弁室13に導入された流体は、主弁体15の外周面と弁本体10の内周面との間(摺動面間)を通って背圧室40に導入され、この背圧室40からプランジャ30の外周面とガイドパイプ32の内周面との間(摺動面間)及び横穴30b、縦穴30aを通って、吸引子25の下端面とプランジャ30との間に形成される間隙空間Sにも導かれる。
【0008】
上記構成に加え、図示例のパイロット型電磁弁1’では、前記ガイドパイプ32の下端鍔状部32bの下面内周側(平坦面)が、主弁体15の開弁方向(上方)の移動規制を行うストッパ面部となっている。
【0009】
このような構成とされたパイロット型電磁弁1’においては、コイル22が通電されると、吸引子25にプランジャ30が引き寄せられて吸着し、これに伴い、パイロット弁体35が開弁方向(上方)に移動(リフト)せしめられる。これにより、パイロット通路37が開かれ、背圧室40の流体が一挙にパイロット通路37を通じて出口継手(流出口)12に排出される。このため、背圧室40が減圧され、主弁体15が開弁ばね33の付勢力によりリフトせしめられ、開弁する。この場合、主弁体15は、その上端面が前記ストッパ面部(ガイドパイプ32の下端鍔状部の内周側部分)32bに衝接せしめられるまでリフトされ、そのストッパ面部32b(環状平坦面)に面接触して停止せしめられる。
【0010】
【特許文献1】特開平10−103556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記した如くの従来例のパイロット型電磁弁では、ストッパ面部(環状平坦面)に主弁体の上端面(環状平坦面)全面が面接触するようにされているので、ストッパ面部や主弁体に付着している流体(冷媒)や潤滑油の表面張力(吸盤作用)により、パイロット弁体35が閉弁方向(下方)に戻ろうとしても、主弁体がストッパ面部に吸着して離れなくなり、閉弁状態に戻らなくなることがあった。
【0012】
このような主弁体の不戻りを防止するためには、特殊形状のストッパを別途に設けたり、主弁体に特別の加工を施したりする必要があり、部品点数や工数が増加してコスト高になる嫌いがあった。
【0013】
また、前記従来例のパイロット型電磁弁では、均圧穴19が中心から外れた位置に設けられていて、前記背圧室40で圧縮された流体、潤滑油等を均圧穴19から内周部材15Aと外周部材15Bとの間(かしめ部15c部分)を通って排出(均圧)する構成になっているが、かかる構成では加工コストが高くつきやすいという問題もあった。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、部品点数、工数、コストの増加を招くことなく、主弁体の不戻りを確実に防止できるパイロット型電磁弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成すべく、本発明に係るパイロット型電磁弁は、基本的には、電磁式アクチュエータによりパイロット弁体を開閉駆動し、このパイロット弁体に応動して主弁体を開閉するようにされたもので、前記主弁体の開弁方向の移動規制を行うストッパが設けられるとともに、前記主弁体の前記ストッパに衝接する端面部に、内周側から外周側へ向かう溝が形成されていることを特徴としている。
【0016】
より具体的には、主弁座を有する主弁室が設けられた弁本体と、前記主弁座に接離する主弁体と、前記主弁座より上流側に設けられた流入口と、前記主弁座より下流側に設けられた流出口と、前記主弁体を開弁方向に付勢する開弁ばねと、前記パイロット弁体を閉弁方向に付勢する閉弁ばねと、通電励磁用のコイルと、該コイルの内周側に配在された吸引子と、該吸引子に対向配置されたプランジャと、該プランジャと一体的に移動するようにされたパイロット弁体と、前記プランジャと前記主弁体との間に形成された背圧室と、該背圧室と前記流出口とを連通するパイロット通路と、を備え、前記パイロット弁体により前記パイロット通路を開閉するようにされ、前記主弁体の開弁方向の移動規制を行うストッパが設けられるとともに、前記主弁体の前記ストッパに衝接する端面部に、内周側から外周側へ向かう溝が形成される。
【0017】
前記主弁体は、好ましくは、真鍮等の金属製の外周部材とそれに内嵌されてかしめ固定されたテフロン等の合成樹脂製の内周部材とからなる短円柱状体とされる。
【0018】
前記パイロット通路は、好ましくは、前記主弁体に形成される。
好ましい態様では、前記プランジャが摺動自在に嵌挿されるガイドパイプを備え、該ガイドパイプの下端に設けられた鍔状部が、前記主弁体の開弁方向の移動規制を行うストッパとなっている。
好ましい態様では、前記主弁体の端面部に、前記溝が放射状に複数本設けられている。
他の好ましい態様では、前記主弁体の端面部に、前記溝が渦巻き状に設けられている。
前記パイロット弁体は、好ましくは、ボールからなっている。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るパイロット型電磁弁では、主弁体のストッパに衝接する端面部に、内周側から外周側へ向かうように、例えば放射状あるいは螺旋状に溝が設けられているので、この溝が「逃げ」となり、従来のもののようにストッパ面部に主弁体の端面部全面が面接触することはない(溝部分は接触しない)ので、表面張力による吸着力が弱くなる。そのため、主弁体の不戻りを確実に防止できる。しかも、本発明では、主弁体にポンチやノッチで溝加工を施すだけでよいので、部品点数、工数等の増加を招かずに済み、コストを低く抑えることができる。
【0020】
また、背圧室で圧縮された流体、潤滑油等を前記溝から主弁体外周面と弁本体内周面との間を通して排出(均圧)することができ、これにより、別途に均圧穴を設けなくて済み、その分コストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のパイロット型電磁弁の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るパイロット型電磁弁の一実施形態を示す縦断面図である。
図示実施形態のパイロット型電磁弁1Aにおいて、前述した図6に示される従来例のパイロット型電磁弁1’の各部と同一構成ないし同一機能を有する部分には、共通の符号を付して、重複説明を省略し、以下においては相違点を重点的に説明する。
【0022】
本実施形態のパイロット型電磁弁1Aも、例えばエアコン等の冷凍サイクルに使用されるもので、前述した従来例とは、主弁体15の構成が異なる。
【0023】
すなわち、本実施形態の主弁体15には、図2、図3に示される如くに、従来例の均圧穴19は設けられておらず、その上端面部15aに、内周側から外周側へ向かうように、90°間隔で放射状に4本の断面逆台形状の溝15Cが設けられている。
【0024】
このような構成とされた本実施形態のパイロット型電磁弁1Aでは、主弁体15のストッパ面部32bに衝接する上端面部15aに、内周側から外周側へ向かうように、放射状に溝15Cが設けられているので、この溝15Cが「逃げ」となり、従来のもののようにストッパ面部32bに主弁体15の端面部15a全面が面接触することはない(溝15C部分は接触しない)ので、表面張力による吸着力が弱くなる。そのため、主弁体の不戻りを確実に防止できる。しかも、主弁体にポンチやノッチで溝加工を施すだけでよいので、部品点数、工数等の増加を招かずに済み、コストを低く抑えることができる。
【0025】
また、背圧室40で圧縮された流体、潤滑油等を前記溝15Cから主弁体外周面と弁本体内周面との間を通して排出(均圧)することができ、これにより、別途に均圧穴を設けなくて済み、その分コストを抑えることができる。
【0026】
図4、図5は、本発明に係るパイロット型電磁弁の他の実施形態を示している。この実施形態のパイロット型電磁弁1Bでは、主弁体15の上端面部15aに、渦巻き状に、断面三角形状の溝15Dを設けている。このように溝を渦巻き状に設けても前記実施形態と略同様な作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るパイロット型電磁弁の一実施形態を示す縦断面図。
【図2】図1に示されるパイロット型電磁弁の要部拡大図。
【図3】(A)は図2に示される主弁体の平面図、(B)は溝の断面形状を示す図。
【図4】本発明に係るパイロット型電磁弁の他の実施形態の要部拡大断面図。
【図5】(A)は図4に示される主弁体の平面図、(B)は溝の断面形状を示す図。
【図6】パイロット型電磁弁の従来例を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0028】
1A、1B パイロット型電磁弁
10 弁本体
11 入口継手(流入口)
12 出口継手(流出口)
13 主弁室
14 主弁座
15 主弁体
15A 内周部材
15B 外周部材
15C、15D 溝
20 電磁式アクチュエータ
25 吸引子
26 閉弁ばね
30 プランジャ
32 ガイドパイプ
32b 鍔状部(ストッパ面部)
33 開弁ばね
35 パイロット弁体
37 パイロット通路
40 背圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁式アクチュエータによりパイロット弁体を開閉駆動し、このパイロット弁体に応動して主弁体を開閉するようにされたパイロット型電磁弁であって、前記主弁体の開弁方向の移動規制を行うストッパが設けられるとともに、前記主弁体の前記ストッパに衝接する端面部に、内周側から外周側へ向かう溝が形成されていることを特徴とするパイロット型電磁弁。
【請求項2】
主弁座を有する主弁室が設けられた弁本体と、前記主弁座に接離する主弁体と、前記主弁座より上流側に設けられた流入口と、前記主弁座より下流側に設けられた流出口と、前記主弁体を開弁方向に付勢する開弁ばねと、前記パイロット弁体を閉弁方向に付勢する閉弁ばねと、通電励磁用のコイルと、該コイルの内周側に配在された吸引子と、該吸引子に対向配置されたプランジャと、該プランジャと一体的に移動するようにされたパイロット弁体と、前記プランジャと前記主弁体との間に形成された背圧室と、該背圧室と前記流出口とを連通するパイロット通路と、を備え、前記パイロット弁体により前記パイロット通路を開閉するようにされたパイロット型電磁弁であって、
前記主弁体の開弁方向の移動規制を行うストッパが設けられるとともに、前記主弁体の前記ストッパに衝接する端面部に、内周側から外周側へ向かう溝が形成されていることを特徴とするパイロット型電磁弁。
【請求項3】
前記主弁体は、真鍮等の金属製の外周部材とそれに内嵌されてかしめ固定されたテフロン等の合成樹脂製の内周部材とからなる短円柱状体とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載のパイロット型電磁弁。
【請求項4】
前記パイロット通路は、前記主弁体に形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のパイロット型電磁弁。
【請求項5】
前記プランジャが摺動自在に嵌挿されるガイドパイプを備え、該ガイドパイプの下端に設けられた鍔状部が、前記主弁体の開弁方向の移動規制を行うストッパとなっていることを特徴とする請求項1又は2に記載のパイロット型電磁弁。
【請求項6】
前記主弁体の端面部に、前記溝が放射状に複数本設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のパイロット型電磁弁。
【請求項7】
前記主弁体の端面部に、前記溝が渦巻き状に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のパイロット型電磁弁。
【請求項8】
前記パイロット弁体は、ボールからなっていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のパイロット型電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−92826(P2007−92826A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281101(P2005−281101)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(391002166)株式会社不二工機 (451)
【Fターム(参考)】