説明

パルプの評価方法及び紙の製造方法

【課題】本発明は、抄紙機の生産性の指標として最適なパルプの評価方法を提供することを目的とする。また、生産性の向上が可能と寸法安定性の改良を図ることができる紙の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ワイヤーメッシュ上でパルプスラリーを吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該パルプを抄紙したときの抄紙機のドライヤー乾燥負荷を推定するパルプの評価方法。ワイヤーメッシュ上でパルプスラリーを吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該水分が最も低くなるようにパルプの叩解度を調整し、該パルプを用いて抄紙する紙の製造方法。ワイヤーメッシュ上でパルプスラリーを吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該水分に基づき抄造状態を監視しながら抄造を行う紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルプの評価方法及び、生産性の向上が可能な紙の製造方法、さらには寸法安定性の改良された紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機で紙の生産性を向上させる方法の一つに、抄速を上げることがある。抄紙機は、水に分散させたパルプを網の上で均一なシート状にし、水分を除去する工程である。抄紙機で水分を除去する工程は、順に、ワイヤーパートでの脱水、プレスパートでの搾水、ドライヤーパートでの乾燥に分けて考えることができる。
ワイヤーパートでの脱水は、ワイヤーパートの初期段階において、濃度約1%のパルプスラリーを、走行するワイヤーと呼ばれるプラスチック製の網の上に噴出し、フォイルと呼ばれるブレードで発生する真空や、サクションボックス等により水分を除去している。ワイヤーパートの出口のシート水分は75〜85%程度となる。
ワイヤーパートの後段に配置されたプレスパートでは、搾水が行われる。プレスパートでは、プレスロール間で機械的にシートをプレスし、水分除去が行われる。フェルトと呼ばれる毛布をプレスロールとシートの間に噛ませて、水分を除去する。また、プレスロール表面に溝を設けたり、プレスロール内部に真空装置を設けたり、シュープレスを設置したりして水分除去の効率を向上させている。プレスパートの出口のシート水分は50〜60%程度となる。
【0003】
プレスパートの後段に配置されたドライヤーパートは、プレドライヤー、アフタードライヤーなどから構成されており、ここでは、蒸気により加熱された複数のドライヤーシリンダーにシートを接触、通過させることによって、シートの熱乾燥が行われる。通常、プレドライヤーとアフタードライヤーの間には塗工液の塗工装置が設置されている。
ドライヤーパートの後、カレンダーによる平滑化処理が行われ、リールに巻き取られる紙の水分は5〜10%程度とされる。
抄紙機のリール巻き取り時の紙の水分は、品種によって決まっており、抄速は水分除去の最終工程であるドライヤーの乾燥能力によっても制約を受けることになる。そのため、ドライヤー入口水分が低いほうがドライヤー乾燥負荷が小さくなり、抄速を上げるという点で好ましい。ドライヤー入口水分は、プレスパートでの搾水性、さらには、ワイヤーパートでの脱水性に影響を受ける。
【0004】
ワイヤーパートでの脱水性には、パルプスラリーの濃度、温度、粘度、平均ろ過比抵抗(パルプのろ過比抵抗とは脱水されたパルプがもつ単位ろ過面積当たりの乾燥固形の単位質量当たりのろ過抵抗である。ろ過比抵抗はパルプのような圧縮性の物質の場合、ワイヤー上で堆積・圧縮の作用を受け時々刻々変化するため、その平均値が重要となる。)、あるいは、ワイヤー自体のろ過抵抗、さらには、ワイヤーパートのフォイルアレンジやサクションボックスによる真空圧等の多くの要素が相互に関係している。
これらのうち、脱水性をコントロールすることができる要素は少ない。例えばパルプスラリーの濃度を変更することは、紙の坪量や地合に影響を与えることになる。同様にパルプスラリーの温度を変更することは、パルプスラリーの濃度は1%程度と低いので、量的に膨大となるため、短時間で温度をコントロールすることができない等の問題がある。
現実的に脱水性をコントロールするには、パルプの平均ろ過比抵抗を調整し最適化することになる。他方、パルプの平均ろ過比抵抗の測定は煩雑であるため、どのような指標をもって調整するかという問題点がある。
【0005】
通常、パルプスラリーのろ過比抵抗の測定には、試験が簡単で再現性の良いカナダ標準ろ水度(JISP8121:1995に規定されている)が使用されている。ところが、パルプのカナダ標準ろ水度の大小と、ドライヤーの乾燥負荷に必ずしも相関がないことがあった。すなわち、カナダ標準ろ水度の数値を高くすると、ワイヤーパートでの脱水性が良くなり、ドライヤーの乾燥負荷が小さくなって、抄速を高くできると予想されるが、これとは逆にドライヤーの乾燥負荷が大きくなり抄速を低くしなければならない場合があった。
【0006】
カナダ標準ろ水度はカナダ標準ろ水度試験器を用いて、容積1000ml、濃度0.3%、水温20℃のパルプスラリーが多数の小穴の開いた金属製のふるい板上で重力により流下させたときの受け側の計測漏斗にある側管から出た排水量を読み取ることによるものである。従って、本質的にパルプの初期ろ過比抵抗を示すもの、換言するとパルプのろ水性のうち初期に関わる脱水性を示すものでしかない。
一方、抄紙機のワイヤーパートでの脱水は、カナダ標準ろ水度でいう初期脱水とは異なる。ワイヤーパートでの脱水は比較的初期は重力による脱水が主であり、この後にはワイヤー上でフォイルやサクションボックス等による強制吸引脱水が主となるものである。この脱水性の指標としては、時間変化を鑑みた値即ち平均ろ過比抵抗等が適切であり初期脱水性だけでは適正性に欠くことになる。更に近年の高速化された抄紙機では、重力による脱水よりも強制吸引脱水の傾向がより強くなっているので、初期脱水のみを考慮したのではより適切性を欠いているといえる。また、測定に用いるパルプ濃度においてもカナダ標準ろ水度は0.3%を用い、実際の抄造で用いられる濃度である約1%とはかなり異なる。
【0007】
なお、パルプスラリーを脱水する試験に関しては、パルプの保水度というものがあり、J.Tappi「紙パルプ試験方法」No.26:2000に規定されているが、これは、パルプの膨潤性を示す指標で、繊維間結合能力の尺度として知られているが、測定はパルプの吸引脱水に重力の3000倍以上の遠心力を加え脱水を行ったもので、抄紙機の脱水機構とは異なっている。
【0008】
パルプのろ水性を測定する方法としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載のものが知られている。これらの公報に記載のろ水度の測定方法は、抄紙工程からスラリーを一定時間毎に一定量取り出し、これを予め計量してあった清水中に取り入れ、空気を吹き込んで分散させた後、一定の空気圧で加圧しろ過スクリーンを通してろ過し、ろ液量を計量してろ水度を測定することからなる。
しかし、この方法は加圧ろ過におけるろ液を計量してろ水度を測定するもので、パルプシートの水分を測定するものではなく、また抄紙機での乾燥負荷まで言及したものでもない。
【0009】
特許文献3では、抄紙中の抄造状態に異常が発生したか否かを監視することを目的に、ろ過圧力の測定手段と、ろ液量の測定手段と、これらに基づき圧縮指数を算出する手段を備えたパルプの圧縮指数の測定装置が出願されている。しかし圧縮指数やろ水度を測定するものであり、パルプシートの水分を測定するものではなく、また抄紙機での乾燥負荷まで言及したものでもない。また、紙の寸法安定性の不足に起因するカールや波打ちのトラブルを解決するために、いくつかの提案がなされている。例えば、紙の製造段階における乾燥工程での収縮を抑えることを目的に、紙の拘束力を強めることにより寸法安定性を改善する方法として、ヤンキードライヤーを使用したり、抄紙機の操業条件を調整し紙の異方性を少なくし、縦横のバランスを取るなどの方法が知られている。これは単に縦横のバランスをとるだけで、根本的な解決にはなっていない。また、原料に填料を添加する方法もあるが、強度低下など他の紙質に与える影響もあるので添加量に限界があり、寸法安定性の大きな改善は見込めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭51−123301号公報
【特許文献2】特開昭54−46902号公報
【特許文献3】特開2002−31633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、抄紙機の生産性の指標となるパルプの評価方法に関する。また、該パルプの評価方法を用いることにより生産性の向上と寸法安定性の改良を図ることができる紙の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決したものであって、以下の発明を包含する。
(1)ワイヤーメッシュ上でパルプスラリーを吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該パルプを抄紙したときの抄紙機のドライヤー乾燥負荷を推定するパルプの評価方法。
(2)ワイヤーメッシュ上でパルプスラリーを吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該水分が最も低くなるようにパルプの叩解度を調整し、該パルプを用いて抄紙する紙の製造方法。
(3)ワイヤーメッシュ上でパルプスラリーを吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該水分が最も低くなるようにパルプの叩解度を調整し、該パルプを用いて抄紙する電子写真転写用紙の製造方法。
(4)抄紙機のプレスパートで少なくとも1基のシュープレスを使用することを特徴とする(3)に記載の電子写真転写用紙の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のパルプの評価方法によれば、紙の生産性の向上に活用することができる。また、本発明の紙の製造方法によれば、生産性の向上された紙の製造方法を提供することができる。さらには、寸法安定性の改良された紙の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、パルプの評価方法およびその評価方法を活用した紙の製造方法について、鋭意研究した結果、本発明を完成させた。
【0015】
本発明のパルプの評価方法は、ワイヤーメッシュ上でパルプスラリーを吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該パルプを抄紙したときの抄紙機のドライヤー乾燥負荷を推定することを特徴とする。
ここで、ワイヤーメッシュは想定される抄紙機のワイヤーと同じものを使用するのが好ましい。また吸引ろ過に使用する器具としては、ブフナ漏斗と吸引フラスコを用い、吸引フラスコは真空ポンプで吸引し、圧力計により真空度が測定できるようにしている。ブフナ漏斗は、直径90〜150mmのものを用いるとよい。ワイヤーメッシュはブフナ漏斗の大きさに合わせて切り抜いたものを使用する。
【0016】
本発明のパルプの評価方法について、測定手順の一例を次に挙げる。
(1)パルプ濃度1.0±0.1%に調製した試料500mlを作製し、試料の温度を20.0±0.5℃にする。
(2)ワイヤーメッシュをセットしたブフナ漏斗(直径150mm)へ試料を移し、ただちに吸引を開始する。(ワイヤーメッシュ:日本フィルコン株式会社製、2.5重織、品名LL40E、真空ポンプ:佐藤真空機械工業株式会社製 油回転真空ポンプ、SW100型、真空度0.1Pa、排気速度100リットル/分、吸引圧力:リークバルブにより試料を吸引しない状態で −0.012MPaに設定しておく)
(3)ワイヤーメッシュ上の水が引き、パルプシートが白くなった後、5秒間吸引を続け、吸引を止めるが、これは5秒以上行なっても脱水量は増加しなかったためである。
(4)ワイヤーメッシュからパルプシートをはがして、パルプシートの質量を測定する。
(5)パルプシートを熱風乾燥機(105±2℃)で乾燥し、デシケーター内で放冷後、パルプシートの乾燥質量を測定する。
(6)パルプシートの水分測定は、JISP8127:1998に準じ次式により求める。
X=(m1−m2)/m1×100
ここに、X:パルプシート水分(%)、m1:乾燥前のパルプシートの質量、
m2:乾燥後のパルプシートの質量
【0017】
前記測定方法について、さらに詳しく説明する。
(試料の測定濃度)
上記測定手順では、試料の測定濃度を抄紙機のワイヤーに供給される濃度に近い1.0%としているが、これに限定されるものではない。ただし、濃度は1%以下が好ましい。1%より高いと、吸引ろ過時のパルプの分散が悪くなり、パルプシートの厚みが均一にならず、結果に影響を与えるおそれがある。
(試料の濃度調製)
試料の濃度調製方法は、サンプリングしたパルプの濃度を測定しておき、測定濃度まで希釈すればよい。この場合、測定濃度をサンプリングしたパルプ濃度より低く設定しておく。希釈には、工業用水を用いてもよいが、実際の抄紙機でパルプを希釈する工程水(白水)を用いてもよい。
(試料の温度)
試料の温度は一定にする必要があり、抄紙機のインレット内のパルプスラリーの温度と同じに設定することもできる。
(吸引圧力)
吸引圧力は、測定を開始する前に予めリークバルブにより、一定値に設定する。この吸引圧力は、抄紙機のワイヤーパートのサクションボックスの吸引圧力を参考に設定するのが好ましい。
(測定回数)
測定回数は3回以上とするのが好ましく。結果はその平均値とする。
【0018】
このパルプシート水分測定結果により、抄紙機のドライヤー乾燥負荷を予想する。本発明によれば、予め抄紙機のドライヤー乾燥負荷を推定することができる。
【0019】
次に、本発明は、ワイヤーメッシュ上でパルプスラリーを吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該水分が最も低くなるようにパルプの叩解度を調整し、該パルプを用いて抄紙する紙の製造方法である。
パルプの叩解度を、前述した測定方法により測定した水分が最も低くなるように調整して、抄紙することにより、ドライヤー乾燥負荷を低くすることができるので、抄速アップにより生産性を向上させることができる。
パルプの特性は、クラフトパルプの場合、原料のチップの種類、蒸解条件、漂白条件などによって影響を受ける。また、機械パルプの場合、原料の原木やチップの種類、叩解条件など、古紙パルプの場合、使用する古紙の種類や保管温度などによっても影響を受ける。このような変化があった場合でも、予め、本発明の評価方法によりパルプの叩解度を調整することにより、ドライヤー乾燥負荷を低くすることができる。
【0020】
また、本発明は、抄紙機のインレットに供給するパルプスラリーをワイヤーメッシュ上で吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該水分に基づき抄紙機の抄造状態を監視しながら抄造を行う紙の製造方法である。
抄速は、さまざまな条件により決まってくる。例えば、坪量の大きい紙では、ドライヤー乾燥負荷が大きくなり、抄速が低くなる。また、パルプの種類、叩解度にも影響されるほか、同種類のパルプでもリサイクルの有無によっても異なり、古紙パルプの方が乾燥性がよく乾燥負荷が小さくなることが知られている。さらに、白水温度や、気温、湿度などにも影響され、同一品種の紙でもこれらの条件によりドライヤー乾燥負荷が異なり、抄速が変わってくる場合がある。
本発明のパルプシートの水分に基づき抄紙機の抄造状態を監視しながら抄造を行うことで、抄紙機の生産性の変動要因のひとつが明らかになるので、生産性に影響するパルプの種類、叩解度、白水温度や、気温、湿度などのうちどれが影響しているかを絞り込み、抄造条件を最適化することが容易となる。
【0021】
さらに、この評価方法を使用すると紙の寸法安定性を改良することができる。前述したように、本発明の測定方法による水分を低くすることで、抄紙機でのドライヤー乾燥負荷を低くすることができる。その結果、ドライヤーで除去される水分が少なくなり、ドライヤーでの紙の収縮が小さくなるためである。特に、寸法安定性が不足するとコピー後カールの問題を起こしやすい電子写真転写用紙に適用すると顕著な効果が得られる。
【0022】
ここで、電子写真転写用紙に使用するパルプはドライパルプを含むことが好ましい。ドライパルプとはスラッシュパルプ(パルプ製造工程から直接得られる湿潤状態のパルプ)を一旦乾燥して、水分を25〜3%程度までにしたものを指す。一旦乾燥させたドライパルプは水分を含みにくく、一度も乾燥したことのないスラッシュパルプと比較した場合、ドライパルプを使用した電子写真転写用紙は、ドライヤー入口水分を低くすることができ、抄紙機でのドライヤー負荷を低くすることができる。その結果、ドライヤーで除去される水分が少なくなり、ドライヤーでの紙の収縮を小さくすることができる。また、製造後も吸湿が少ないので、水分変化が少なく、カールの発生が少ないものとなる。
【0023】
電子写真転写用紙を製造する抄紙機は、プレスパートでシュープレスを使用することが好ましい。シュープレスとは、プレスベルトの周外部に位置する外部加圧手段としてのプレスロールと、プレスベルトの周内部に位置する内部加圧手段としての加圧シューとの間で、プレスベルトの外周面上に載せたプレス対象物(湿紙)にベルトを介して面圧力をかけ、加圧処理(脱水処理)する方法である。従来の2本のロールでプレスを行なうロールプレスはプレス対象物に線圧力を加えるのに対し、シュープレスでは走行方向に所定の幅を持つ加圧シューを用いることにより、プレス対象物に面圧力を加えることができる。このため、シュープレスによって脱水プレスを行なった場合、ニップ幅を大きくすることができる。高い圧力で加圧することができる。
シュープレスによれば、ドライヤー入口水分を低くすることができ、ドライヤー乾燥負荷、すなわち、ドライヤーで乾燥されて除去される水分をより少なくすることができ、その結果、ドライヤーでの紙の収縮を小さくすることができる。プレスパートにおけるシュープレスは1基でもよいし、2基以上設置されていてもよい。
【0024】
(実験例)
以下実験例により、本発明の実施形態を具体的に表わす。
実験例1〜8は、パルプ原料として叩解度の異なるLBKPを製造し、長網抄紙機を用いて抄紙する実験を行ったものである。抄紙機の種箱のパルプ原料をサンプリングし、フリーネス、本発明のパルプ評価方法によるパルプシート水分を測定した。また、それぞれ、LBKP100%を使用して抄紙し、抄紙機のプレス出口水分を測定した結果を表1に示す。実験例におけるその他の抄紙薬品添加条件、および評価方法は次のとおりである。
【0025】
(抄紙薬品添加条件)以下の薬品をパルプ当たりの絶乾表示で添加した。なお、重量%は固形分で表示している。
硫酸バンド(株式会社丸住興産製)3重量%、カチオン化澱粉(松谷化学工業株式会社製、商品名:アミロファックスT2200)0.5重量%、内添サイズ剤(荒川化学工業株式会社製、商品名:SPN−811M)0.30重量%
(フリーネス)カナダ標準ろ水度(JISP8121:1995)
(パルプシート水分)パルプシート水分は以下手順により測定した。測定は同一サンプルで3回行い平均値をとった。
(1)種箱パルプをサンプリングし、工業用水で濃度1.0±0.1%に希釈した試料500mlを作製し、恒温槽で試料の温度を20.0±0.5℃とする。
(2)ワイヤーメッシュをセットしたブフナ漏斗(直径150mm)へ試料を移し、ただちに吸引を開始する。(ワイヤーメッシュ:日本フィルコン株式会社製、2.5重織、品名LL40E、真空ポンプ:佐藤真空機械工業株式会社製 油回転真空ポンプ、SW100型、真空度0.1Pa、排気速度100リットル/分、吸引圧力:リークバルブにより試料を吸引しない状態で −0.012MPaに設定しておく)
(3)ワイヤーメッシュ上の水が引き、パルプシートが白くなった後に5秒間吸引を続け、吸引を止めるが、これは5秒以上行なっても脱水量は増加しなかったためである。
(4)ワイヤーメッシュからパルプシートをはがして、パルプシートの質量を測定する。
(5)パルプシートを熱風乾燥機(105±2℃)で乾燥し、デシケーター内で放冷後、パルプシートの乾燥質量を測定する。
(6)パルプシートの水分測定は、JISP8127:1998に準じ次式により求める。
X=(m1−m2)/m1×100
ここに、X:パルプシート水分(%)、m1:乾燥前のパルプシートの質量、m2:乾燥後のパルプシートの質量
(プレス出口水分)
プレスパートの出口水分を5回測定し、その平均値をプレス出口水分とした。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示した結果において、フリーネスとパルプシート水分は一次関数的な関係でなく、パルプシート水分が極小となるフリーネスが存在すること、また、このパルプシート水分は抄紙におけるプレス出口水分と傾向が似ており、フリーネスの値よりもドライヤーの乾燥負荷の傾向をより相関よく示している。
【0028】
次に、本発明の電子写真転写用紙の製造方法による製造例を示す。
(製造例)
パルプ原料として、ドライパルプの広葉樹晒クラフトパルプとスラッシュパルプの広葉樹晒クラフトパルプを用いて、表2に示したように、パルプの種類やろ水度を変えたものを原料に使用して、電子写真転写用紙を製造した。製造に使用した抄紙機はオントップフォーマーで、プレスパートは4つのプレスからなり、3番目のプレスがシュープレスで構成されている。パルプ原料には、以下の薬品をパルプ当たりの絶乾表示で添加した。なお、重量%は固形分で表示している。
軽質炭酸カルシウム (奥多摩工業株式会社製、商品名:タマパール121−6S)3重量%、硫酸バンド(株式会社丸住興産製)3重量%、カチオン化澱粉(松谷化学工業株式会社製、商品名:アミロファックスT2200)0.45重量%、内添サイズ剤(荒川化学工業株式会社製、商品名:SPN−811M)0.30重量%
これらの原料を抄紙し、ゲートロールコーターで澱粉(王子コーンスターチ株式会社製、商品名:王子エースA)に対し表面サイズ剤(荒川化学工業株式会社製、商品名:ポリマロンM20)を5.0重量%加えた塗布液を、表裏合計で1.2g/m塗布し、カレンダーを通して、坪量64.0g/m、リール水分5.0%の電子写真転写用紙を製造した。
【0029】
それぞれの製造例において、抄紙機の種箱のパルプ原料をサンプリングし、フリーネス、本発明のパルプ評価方法によるパルプシート水分を測定した。また、抄紙機のプレス出口水分を測定した。これらの測定方法と評価方法は、前述した実験例と同じ方法で行った。
製造した電子写真転写用紙をコピー機にかけ、コピー後カールを以下の方法で評価した。これらの結果を表2に示す。
(コピー後カール評価方法)
コピー後のサンプル100枚についてカールの状態を目視評価した。
◎:カールしない。
○:少しカールするが実用上問題ないレベルである。
△:かなりカールする。
×:カールがひどく、場合によっては円筒状になる。
【0030】
【表2】

※ドライパルプは水分10%まで乾燥させたパルプを使用した。
※製造例2-1と3-1は、使用した抄紙機はオントップフォーマーで、プレスパート
は4つのプレスからなり、4つのプレスはすべてロールプレスで構成されている。
【0031】
表2から明らかなように、製造例1〜5をみると、本発明のパルプの評価方法によるパルプシート水分が低かった製造例2、3、4は、パルプシート水分が高い製造例1、製造例5に比べ、プレス出口水分が低く、生産性を向上できることが予想される。しかもカール評価が良くなっている。
一方、製造例2−1は、製造例2と比較すると、使用したパルプ原料は同じであるが、プレスパートにシュープレスはなく、すべてロールプレスを用いたものであり、プレス出口水分がやや高くなり、生産性が低くなることが予想され、カール評価が悪くなっている。
製造例3−1は、製造例3と比較すると、使用したパルプ原料は同じで、プレスパートにシュープレスはなく、すべてロールプレスを用いたものである。製造例3と比較するとプレス出口水分がやや高くなっているものの、他の製造例と比較すると、本発明のパルプの評価方法によるパルプシート水分が低く、カール評価は問題のないレベルとなっている。
製造例2−2は、製造例2と比較すると、ドライパルプを使用せず、スラッシュパルプを100%使用しているため、本発明のパルプ評価方法によるパルプシート水分が高く、プレス出口水分もやや高くなり、カール評価が悪くなっている。
【0032】
以上のように、本発明のパルプの評価方法によれば、紙の生産性の向上に活用することができる。また、本発明の紙の製造方法によれば、生産性の向上された紙の製造方法を提供することができる。さらには、寸法安定性の改良された紙の製造方法を提供することができる。特に電子写真転写用紙の製造方法に適用すればコピー後カールの発生を防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーメッシュ上でパルプスラリーを吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該パルプを抄紙したときの抄紙機のドライヤー乾燥負荷を推定するパルプの評価方法。
【請求項2】
ワイヤーメッシュ上でパルプスラリーを吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該水分が最も低くなるようにパルプの叩解度を調整し、該パルプを用いて抄紙する紙の製造方法。
【請求項3】
ワイヤーメッシュ上でパルプスラリーを吸引ろ過し、ろ過後のパルプシートの水分を測定して、該水分が最も低くなるようにパルプの叩解度を調整し、該パルプを用いて抄紙する電子写真転写用紙の製造方法。
【請求項4】
抄紙機のプレスパートで少なくとも1基のシュープレスを使用することを特徴とする請求項3に記載の電子写真転写用紙の製造方法。

【公開番号】特開2010−181357(P2010−181357A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26909(P2009−26909)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(304040072)丸住製紙株式会社 (51)
【Fターム(参考)】