説明

パン粉の吸油性を低下させる方法

【課題】 低吸油でありながら良好な食感を有するパン粉の提供。
【解決手段】 パン粉用パンの製造において、オキアミの殻および/またはオキアミ成分をパン生地原料に添加して用いることを特徴とするパン粉の吸油性を低下させる方法。 パン生地原料にさらに食物繊維を添加して用いることを特徴とする。食物繊維がポリデキストロースである。(一定面積当たりのパン断面に存在する検出可能サイズ以上の気泡の数)/(検出した気泡の断面積の総和)で定義される気泡数が185個/cm以上であり、かつ、平均気泡断面積が0.5mm以下になるようにパンを製造することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン粉の吸油性を低下させる方法に関する。
本発明の方法により得られたパン粉は、低吸油性でありながら良好な食感を有するパン粉である。
【背景技術】
【0002】
トンカツ、コロッケ、えびフライ、牡蠣フライ、白身魚フライ等に代表されるフライ食品はパン粉と油脂独特の食感の良さ、香りの良さから家庭内においてはもちろん、外食産業にも幅広く受け入れられている食品である。
種々の素材にパン粉を衣付けして油ちょうするフライ食品の衣の役割として(1)油脂の高温が直接材料に伝わらないように温度の緩衝作用をおこなう、(2)うまみ成分やビタミン類などの食品成分の損失を防ぐ、(3)高温短時間加熱、かつ油脂を含む食品のために、独特の食感を有する層を形成する、(4)衣自体が適度にこげて、吸油し、独特の香りを生じ、食欲をそそる、などが挙げられる。しかし、近年のヘルシー志向の強まりにより油脂からのカロリーの過剰摂取が問題にされ、フライ食品のような高い油脂含量の食品は敬遠される傾向がある。確かに、油脂分を多く摂取すると血液中にコレステロールや中性脂肪が多くなって動脈硬化を引き起こす要因となり、さらに動脈硬化が進むと、狭心症や心筋梗塞が心配されるという欠点がある。上述のような利点、欠点を考えると、フライ食品、中でも白身魚やエビなどの水産物のフライ食品は中種の素材の栄養、ヘルシーさと衣の吸油による油脂の摂取といったジレンマをあわせ持つ食品であるといえる。
【0003】
そのような背景の下、パン粉及び製粉業界では上記のフライ衣の吸油という問題点を打破するために種々の油ちょう時の吸油量が少ない、いわゆる低吸油パン粉の開発がなされてきた。例を挙げると、トウモロコシから調製された食物繊維及び大豆から調製されたタンパクの添加を特徴とする低吸油性フライ用パン粉、およびその製造方法(特許文献1)、主原料として大豆粉および加工澱粉を添加した穀物類を用い、かつ焼成されるパン比容積を2.8〜3.6ml/gになるように醗酵を抑制して焼成する特徴とする吸油の少ないパン粉の製造方法(特許文献2)、大豆から抽出した食物繊維を配合することを特徴とする吸油率の低いパン粉及びその製造方法(特許文献3)、定法によって得られるパンブロックを圧延した後、粉砕することを特徴とするパン粉の製造方法(特許文献4)などがある。
【0004】
しかし、これらの食物繊維及びタンパクが低吸油衣としての効果を十分に発揮するにはかなりの量を添加しなくてはならず、添加量の増加に伴って、パン粉は大変硬くなり、食味が低下する。また、パン比容積の抑制やパンブロックの圧延といった方法に関しても、パンのメを詰まらせることによりパン粉は硬くなり、食味低下は避けられない。
最近のパン粉利用の傾向として、食感の硬いドライタイプから生のソフトタイプへ移行している点などを考慮すると、フライ衣は食感が軽い方が好ましい。すなわち、従来の低吸油フライ衣の技術ではフライ時の吸油量は低下するものの、食感が硬くなるという嗜好面での問題を残しており、そのため、それらのパン粉は広く普及していないのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開平7−246072号公報
【特許文献2】特開平7−250641号公報
【特許文献3】特許第2042263号公報
【特許文献4】特開平8−131108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでにパン粉の吸油量を抑制する方法として、パン生地原料に各種の食物繊維やタンパクを添加する、もしくは生地の醗酵を抑制してパン比容積を減少させること等が提案されてきた。しかしながら、各種食物繊維やタンパクの添加、生地の発酵などを抑制して作製されたパンから調製されたパン粉は食感が硬くなり、油ちょう後の食味は著しく低下するなどの不具合が生じる。
本発明者らのこれまでの研究からパン粉において食感、吸油量、パン比容積の間の関係には明確な比例関係があることがわかっている。その比例関係とはパン比容積が大きい場合、それから調製されたパン粉は吸油量は多いが、食感は軽く食味は良好であり、言いかえると、パン比容積が小さい場合は吸油量は抑制されるものの食感が硬く食味が悪いという関係である。
従来の低吸油パン粉の製造技術はこの延長線にあり、低吸油でありながら軽い食感を持つといったものは無かった。
【0007】
そこで、本発明は、食感を変化させずに、すなわち食味を損なわずに油ちょう時の油の吸収を抑制することができるパン粉を提供することを目的としている。
すなわち、本発明は、低吸油でありながら良好な食感を有するパン、そのパンを用いて製造した食味を損なわずに油ちょう時の油の吸収を抑制することができるパン粉、ならびにそれをパン用いたフライ類を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、パン粉用パンの製造において、オキアミの殻および/またはオキアミ成分をパン生地原料に添加して用いることを特徴とするパン粉の吸油性を低下させる方法を要旨としている。
【0009】
パン生地原料にさらに食物繊維、好ましくはポリデキストロースを添加して用いることを特徴としており、その場合、本発明は、パン粉用パンの製造において、オキアミの殻および/またはオキアミ成分、さらに食物繊維、好ましくはポリデキストロースをパン生地原料に添加して用いることを特徴とするパン粉の吸油性を低下させる方法である。
【0010】
(一定面積当たりのパン断面に存在する検出可能サイズ以上の気泡の数)/(検出した気泡の断面積の総和)で定義される気泡数が185個/cm以上であり、かつ、平均気泡断面積が0.5mm以下になるようにパンを製造することを特徴としており、その場合、本発明は、パン粉用パンの製造において、オキアミの殻および/またはオキアミ成分、必要に応じさらに食物繊維、好ましくはポリデキストロースをパン生地原料に添加して用い、(一定面積当たりのパン断面に存在する検出可能サイズ以上の気泡の数)/(検出した気泡の断面積の総和)で定義される気泡数が185個/cm以上であり、かつ、平均気泡断面積が0.5mm以下になるようにパンを製造することを特徴とするパン粉の吸油性を低下させる方法である。
【発明の効果】
【0011】
低吸油性でありながら良好な食感を有するパンを提供することができる。また、食感を変化させずに、すなわち食味を損なわずに油ちょう時の油の吸収を抑制することができるパン粉、それを使用した食低吸油フライ類を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、発酵時に気泡内のガスを増大させて気泡を大きくすることなく断面積の小さい気泡数を増加させる成分と焼成後のパン比容積を小さくする成分を併用して焼成したパンより調製されたパン粉が油ちょう後の吸油量が少なく、かつ軽い食感を併せ持つことを見いだした。また、本発明者らは、前記のパン粉をフライなどのチルドまたは冷凍食品に使用すると、通常認められる加熱調理、特に電子レンジ加熱による衣の食感の軟化、サクサク感の消失、食味の悪化が改善することを見いだした。
【0013】
本発明においては、気泡数を増加すること、ならびに、各気泡の断面積を小さくすることを制御することでパンを改質することができる、すなわち、パンあるいはパン粉の食感を良好に維持し、かつ、吸油性、吸湿性などを低下させることができる。
パンの気泡数の増加は、パンを切断した後に断面を観察、解析することにより容易に確認できる。
改質ための手段は特に制限されないが、パン生地原料に気泡数を増加すること、ならびに、各気泡の断面積を小さくすることを制御することができる原料成分を選択し添加することが実用的である。その目的でパン生地原料に添加する原料成分としては、甲殻類を用いることができる。甲殻類は、特に制限はないが、例えば真軟甲亜網に属するエビ類、アミ類および/またはオキアミ類があげられる。上述の効果を有する真軟甲亜網に属するものとしては特にアミ類が好ましい。アミ類としては未利用資源として有望なオキアミ(軟甲亜綱ホンエビ上目オキアミ目)、近海アミ(軟甲亜綱フクロエビ上目アミ目)を使用することができる。上記オキアミとしては、南極オキアミが好ましいが、これに限定されない。これらのアミ類は好ましくは(実際の製造を考えた場合)乾燥アミの形態で利用される。乾燥されたアミであれば何でもよいが、アミ由来の酵素をさける意味でも加熱し酵素失活されたアミ乾燥粉粒体がよい。更に殻のみを使用することによりパンへの着色や臭いの付着を防止することが可能となる。
【0014】
乾燥オキアミ類は、例えば、以下のような製法で製造できる。
漁獲したオキアミの体表に付着している海水などを除去するためにオキアミまたはオキアミの殻を脱水機に供する。脱水されたオキアミまたはオキアミの殻は加熱乾燥に際して熱効率を改善するために粉砕処理に供する。粉砕されたオキアミまたはオキアミの殻は加熱乾燥に供する。例えば蒸気式ディスクドライヤー等の公知の加熱乾燥機を使用する。乾燥後のオキアミまたはオキアミの殻は粉砕機により任意の粒度に容易に粉砕可能である。
【0015】
(殻と剥き身部分の製造方法)
殻部分の製造方法としては、例えば、手作業もしくは機械を用いた脱殻処理(特開昭53−54596)、(特開昭54−49900)をおこなって殻部分を取り除き、洗浄して公知の加熱乾燥機に供する。乾燥後のオキアミの殻部分は粉砕機により任意の粒度に容易に粉砕可能である。または、オキアミを粉砕機に供した後、加温処理する。たとえば50℃で1時間保持などが好ましい。加温処理したオキアミはタンパク質が液状化するため、加温処理後に公知の遠心分離機にて固液分離に供する。そうして得られた固形部分を洗浄し、公知の加熱乾燥機に供する。乾燥後のオキアミの殻部分は粉砕機により任意の粒度に容易に粉砕可能である。
剥き身部分については手作業もしくは機械を用いた脱殻処理に供し、公知の加熱乾燥機に供する。乾燥後のオキアミの剥き身部分は粉砕機により任意の粒度に容易に粉砕可能である。
殻、剥き身はいずれも60メッシュ以下に粉砕することが好ましい。
【0016】
(オキアミ類のパンへの添加)
これまでの研究からパン生地原料である小麦粉、澱粉などの主原料組成物100に対してオキアミの乾燥粉末、殻部分あるいは剥き身部分の乾燥粉末を0.1〜5重量部程度添加するとパンの気泡数を増加させ、パン比容積を大きくすることがわかっている。例えばオキアミの乾燥粉末を小麦粉、澱粉などの主原料組成物100に対して3重量部添加し、パンを作製すると無添加のパンに対してパン比容積を25%程度増加させることができる。それはオキアミの乾燥粉末に限ったことでなく、オキアミの殻部分の乾燥粉末または剥き身部分の乾燥粉末を小麦粉、澱粉などの主原料組成物100に対して3重量部添加しても無添加のパンに対してパン比容積を20%程度増加させることができる。その他、オキアミ類の成分としてオキアミ類、殻などを脱脂、脱灰した場合やキチンまで精製した場合についても効果に大小はあるものの、パン比容積を大きくする効果が認められている。具体的には、殻を脱脂しても効果に変化は認められないが、脱灰することにより小さくなる。なお、添加量が多くなるにつれてパン生地の醗酵に時間を要するので、イースト添加量を増やす、製パン工程における醗酵時間を長くするなどして調節するとよい。
【0017】
パンの気泡数の増加は、パンを切断した後に断面を観察、解析することにより容易に確認できる。パンまたはそれから製造したパン粉の気泡数は、(一定面積当たりのパン断面に存在する検出可能サイズ以上の気泡の数)/(検出した気泡の断面積の総和)で定義される。本発明の成分を添加したパンは無添加のパンと比較してパン中のセル(気泡)が大変小さく、かつ気泡数も多いことが目視およびパン断面図を画像解析により確認可能である(例:画像解析・計測ソフト「Image-Pro-Plus Ver4.0」(株)プラネトロン)。
平均気泡断面積とはパン断面の任意の一定面積に存在する気泡断面積の合計を該一定面積に存在する気泡数で割って算出された値である。(一定面積中の検出された気泡断面積の合計)/(検出された気泡数)で算出した。本発明においてはパン断面をスキャナーで取り込み、画像解析・計測ソフトImage−Pro-Plus Ver.4.0 (株)プラネトロンを用いて、一定面積(4cm×3cm)中の直径0.13mm以上の気泡を検出している。気泡数は断面積と同様の方法で、直径0.13mm以上の気泡について、(一定面積当たりのパン断面に存在する検出可能サイズ以上の気泡の数)/(検出した気泡の断面積の総和)で算出した。
【0018】
通常、パン比容積が大きくなるにつれ、パン中の気泡の大きさは大きくなる傾向にあるが、真軟甲亜網に属するエビ類、アミ類および/またはオキアミ類の殻を添加したパンは、同じパン比容積の無添加のパン中の気泡断面の大きさと比較して直径が小さく、その特性はオキアミの殻を使用した際に顕著であることがわかった。
ところで、真軟甲亜網に属するエビ類、アミ類および/またはオキアミ類の殻を添加していない通常のパンについて、イーストの添加量を増減する、および製パン工程における醗酵時間を短くするなどして意図的にパン比容積を小さく調節した場合、パン中の気泡の直径は通常のパンのものよりも小さくすることもできるが、気泡数が少ないため硬い食感のパンあるいはパン粉となり、パン粉の場合は油ちょう後も硬くガリガリとした食感となる。
【0019】
甲殻類の殻の成分を添加し、パン比容積が増大したパンから調製されたパン粉の食感は、上述の食感−パン比容積の関係からパン粉の食感は軟らかく、軽い。また、本発明パン粉はパン比容積を小さくしても、パン粉が硬くなりにくい上に低吸油であった。このことは、本発明が食感、吸油量、パン比容積の間の関係をこれまでとは異なった関係を持ち、各種条件を制御することにより食感と吸油量を調整できることを意味する。
【0020】
甲殻類の殻を添加しないパンと比較して、甲殻類の殻を添加したパンから調製されたパン粉の油ちょう時の吸油量は、パン比容積が同じ場合、無添加もパン粉よりも抑えられていた。すなわち吸油量は気泡の大きさに依存していると思われる。このことから、食感良好でかつ低吸油のパン粉を作製するにはパン中のセルを細かくすることが重要であることが示唆された。
なお、パンの比容積とは、1gあたりのパンの体積を示しており、焼成後のパンの大きさを表現する単位として一般的に使用されており、パンの重量(g)とパンの体積(cm)を測定し、(パンの体積cm)/(パンの重量g)で算出される。
しかしながら、甲殻類の殻の成分を添加しただけではパン比容積が大きくなることから低吸油性には眼界があり、それ以上の効果を要求する場合には、各種食物繊維や動・植物タンパク質、乳化剤などの焼成後のパン比容積を小さくする成分との併用が必要となる。この際、食物繊維が味、色、臭いの点で好ましく、特にポリデキストロースが有効であった。
【0021】
ところで、本発明以外で甲殻類の甲殻の微粉末、脱蛋白した甲殻類の甲殻の微粉末、脱蛋白および脱灰処理した甲殻類の甲殻の微粉末をパン粉に利用した例がある(特開平10−127241号)、(特開平10−127242号)、(特開平10−127243号)。甲殻類の甲殻の微粉末、脱蛋白した甲殻類の甲殻の微粉末、脱蛋白および脱灰処理した甲殻類の甲殻の微粉末をパン主原料組成物である穀粉100に対して0.1〜3.0%(重量比)分散混入させて作製したパン粉および小麦粉、澱粉など主原料組成物100に対して0.1〜10%(重量比)分散混入させて作製したバッター液を利用した揚げ物用衣材は電子レンジ再加熱用揚げ物(冷凍食品)とした場合に長時間クリスピーな食感を維持する効果があるというものである。理由として、微粉末甲殻類中に含まれるキチンの難水和性やカルシウム、キチンカルシウムコンプレックスがグルテン組織を強化すること、甲殻類の甲殻組織構造がパン粉やバッター液などの気泡構造を良好にすることなどを挙げている。
【0022】
本発明と明確に異なる点は、本発明はパン粉の油ちょう時の低吸油性を主目的としたものであり、クリスピーな食感の維持を狙ったものではない。甲殻類の甲殻の微粉末、脱蛋白した甲殻類の甲殻の微粉末、脱蛋白および脱灰処理した甲殻類の甲殻の微粉末を添加した場合、パン比容積が大きくなることから、パン比容積が増加にともなって、クリスピーな食感が増加し、食味良好となるものの、パン粉の吸油量も増加傾向にある。そのため、本発明のような低吸油性を追求する場合には不都合が生じる。
【0023】
(オキアミ類と焼成後のパン比容積を小さくする成分の併用添加)
通常、各種食物繊維や動・植物タンパク質、乳化剤などをパン生地原料に添加した場合、無添加のパンと比較してパン比容積が減少するため硬い食感のパンあるいはパン粉となる。例を挙げると、乾燥卵白(キューピー株式会社製 乾燥卵白Wタイプ)を小麦粉、澱粉など主原料組成物100に対して5%(重量比)添加してパンを作製すると、パン比容積は無添加のパンと比較して13%減少した。また、ペースト状大豆(不二製油株式会社製、プロプラス−SY)を小麦粉、澱粉など主原料組成物100に対して20%(重量比)添加してパンを作製すると、パン比容積は無添加のパンと比較して5%減少した。
【0024】
食感、吸油量、パン比容積の間の関係より上記の例を含む比容積の小さなパンから調製されたパン粉は低吸油ではあったものの、食感は大変硬いものであった。上記以外にも各種繊維や動・植物タンパクをパンに添加量を変化させて検討を行ったが、パン比容積の減少に伴い、食感も低下した。
【0025】
本発明により、甲殻類の殻(最も好ましくはオキアミの殻)と食物繊維(最も好ましくはポリデキストロース)を併用添加することで従来にないレベルの低吸油量を示し、かつ食感良好なパン粉を提供することが可能となった。
【0026】
前述のように、本発明に用いられる食物繊維としては特にポリデキストロースが好ましく、重合度、製法に特に限定されない。オキアミ類と併用添加する量は3〜20重量%(対小麦粉乾燥重量)で、でき上がりのパンもしくはパン粉の吸油量および食感の好みに応じて増減するとよい。
【0027】
ポリデキストロースも単独でパン生地原料に添加するとパン比容積は減少し、硬いパン粉ができる。例えば、小麦粉、澱粉など主原料組成物に100に対して5%(重量比)添加してパンを作製すると、パン比容積は無添加のパンと比較して15%も減少する。
【0028】
しかしながら、甲殻類の殻、例えばオキアミの殻と焼成後の比容積を小さくする成分を併用添加した場合、パン比容積の減少は8%に抑えられており、パン断面を観察すると大変細かな気泡が多数存在していた。食感についてはポリデキストロースのみを添加したものよりも格段にソフトであり、これまでの食感、吸油量、パン比容積の間の関係に適応されない。
【0029】
本発明のパンまたはそれから製造したパン粉の好ましい態様は、気泡数が185個/cm以上であり、かつ、平均気泡断面積が0.5mm以下のものである。すなわち、本発明による好ましいパン粉はパン比容積が4.4cm/g以下から調製されたものであり、この際の吸油量は1.4g/g以下である。さらに好ましくはパン比容積が3.5cm/g以下、吸油量は1.2g/g以下である。そして、パン断面の気泡を観察した際に、気泡断面1個あたりの平均面積が0.5mm以下、直径0.13mm以上を気泡として計測した場合に、パン断面1cmあたりに属する気泡数が185個以上である。ここで表現されるパン中の気泡とは通称でパンのキメ、セルの大きさとも呼ばれているものを指している。
【0030】
(パン粉の製造方法)
パン粉は、例えば、以下のような製法で製造できる。
本発明のパン粉は直捏法や中種法などの従来の製パン方法に準じて製パンした後、粉砕、乾燥してパン粉を製造するものである。焼成方法についても焙焼式、通電式何れの方法でも適用できる。
【0031】
パンもしくはパン粉を製造する際、主原料である小麦粉にはタンパク含量11%程度もしくはそれ以上の強力粉が望ましいが、強力粉に薄力粉、もしくは中力粉を混合してトータルのタンパク含量を11%程度にしても構わない。
【0032】
本発明においては甲殻類の殻や食物繊維等の原料の他に、通常の製パンに用いられる酵母、イーストフード、乳化剤、食塩、ショートニング等の副原料が適宜使用される。
【0033】
従来の製パン方法に準じて製パンした後、粉砕、乾燥してパン粉を製造する。また、イースト量、イーストフード量の添加量、もしくは醗酵時間や醗酵工程の工夫によって醗酵を抑え、パン比容積を減少させたパンから調製されたパン粉を製造することができる。
【0034】
パン粉の水分は10〜40重量%である。
[作用]
本発明に係る、オキアミの殻のようにパン中の気泡数を増加させ、かつ気泡容積を小さくさせる成分と小麦粉などとの作用の本質は明らかでないが、特にオキアミの殻の添加がパン比容積を増加させるとともにパン中の気泡数を増加させ、かつ気泡容積を小さくする作用があることが判明した。その結果、フライ時の吸油量が少なく、かつ優れた食感を有するパン粉を提供できた。さらにポリデキストロースなどの食物繊維を併用添加することにより、ポリデキストロースのみを添加した際に認められるパン比容積の減少が軽減され、吸油量も少なく、かつサクサク感の強い、軽い食感を持たせることができた。
パン生地原料にオキアミ類を添加したパン中の気泡は大変細かく、そこから調製されるパン粉は無添加のものと比較すると同じパン比容積でも低吸油であり、軽い食感に優れる。また、各種食物繊維、タンパク質、乳化剤などの低吸油素材を併用した際にも、各種食物繊維、タンパク質、乳化剤などのみを添加した際に認められるパン比容積の減少による食感の低下が軽減され、食感良好で、より低吸油なパン粉の提供を可能とした。
【0035】
本発明は、パンの気泡数を増加すること、ならびに、各気泡の断面積を小さくすることを制御する物質、好ましくは気泡数をパン断面1cmあたり185個以上に増加し、かつ、平均気泡断面積を0.5mm以下に小さくする物質、を含有するパン改質組成物を提供することができる。より具体的には、本発明は、パンの気泡数を増加すること、ならびに、各気泡の断面積を小さくすることを制御する物質として、甲殻類の殻、好ましくはエビ類またはアミ類の殻、さらに好ましくはオキアミの殻、またはオキアミの成分を含有するパン改質組成物を提供することができる。
また、本発明は、パンの気泡数を増加すること、ならびに、各気泡の断面積を小さくすることを制御する物質と、焼成後のパン比容積を小さくする物質とを含有するパン改質組成物を提供することができる。より具体的には、本発明は、上記のパンの気泡数を増加すること、ならびに、各気泡の断面積を小さくすることを制御する物質とともに、焼成後のパン比容積を小さくする物質として食物繊維および/またはポリデキストロースを併用するパン改質組成物を提供することができる。
【0036】
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0037】
下記に本実施例で使用した原料、製造方法、パン比容積の測定方法、パン粉の吸油量測定の方法、官能評価方法について示した。
(テーブルテストによるパンおよびパン粉の作製方法)
(a)原料
小麦粉には日清製粉(株)のカメリアを、またイーストにはオリエンタル酵母工業(株)のN・BMを使用した。ポリデキストロースとしてはA.E.STALEY MANUFACTURING COMPANY製(商品名:スターライト3)を使用した。
(b)パンの作製
パンの作製はAACC法(American of Cereal Chemists.1995.approved method of the AACC,9th ed)に準じて行った。なお、ミキシングおよび第1醗酵にはナショナル社のナショナルホームベーカリーSD・BT100を用いた。なお、加水量についてはファリノグラフで小麦粉の吸水率を測定し、算出した値を参考に、目的の比容積となるよう増減した。
(C)パン粉の作製
製パンして、得られたパンを5℃冷蔵室で強制老化し、粉砕・乾燥をおこなった。得られたパン粉は目開き5.6mmのふるいと目開き4.0mmのふるいにかけ、目開き4.0mmのふるい上に残ったパン粉を使用した。
【0038】
(ラージスケールにおけるパン粉の作製)
(a)パン粉の作製方法(通電式ストレート法)
原料ミキシングL4H3.5→1次醗酵(90分、28℃、湿度80%〜82%)→分割(540g×6本)→プルファー(17分、湿度80%〜82%)→モルダー→2次醗酵(60分、38℃、RH80%〜82%)→通電式にて焼成→老化(5℃、一晩)→粉砕→乾燥。加水量の調整はテーブルテストと同様とした。
(パン比容積測定方法)
パン比容積の測定方法にはAACC法に準じ、なたね置換法を用いて測定した。
(パン粉の吸油量測定方法)
パン粉を任意の量(約4g)秤量し、目開き0.5mm以下(パン粉がふるいから落ちない程度)のふるいに入れ、大豆白絞油175℃中で2分間油ちょうした。油ちょう後、パン粉を残らず濾紙上に移した。濾紙上で2分間油切りをし、濾紙を取り替えて再び油切りをおこない、パン粉の重さを測定した(n=3)。
(固形物換算重量あたりの吸油量の算出方法)
下記にパン粉固形物換算重量当たりの吸油量等を定義し、下記式に従って算出した。

パン粉固形物換算重量(g):
秤量したパン粉の重さ(g)×(100−パン粉水分含量(%))/100

吸油量(g):
油ちょう後のパン粉の重量(g)−
油ちょう前のパン粉の固形物換算重量(g)
固形物換算重量当たりの吸油量(g/g):
吸油量(g)/パン粉の固形物換算重量(g)

なお、油ちょう後のパン粉の水分率は0.1%以下であったため0%とした。 (官能評価サンプルの作製方法)
フィッシュブロック(スケソウダラ6×5.4×1cm)に打ち粉を付着させ、バッター液(バッター組成:小麦粉150重量部、油脂200重量部、澱粉20重量部、塩2.5重量部、水500重量部)に浸漬して1次パン粉を均一にまぶし、これをさらにバッター液に浸漬し、2次パン粉をパン粉付けした。調製されたサンプルは−25℃で保存し、官能評価当日175〜180℃で4.5分間油ちょうした。油ちょう後1時間〜2時間の間に白身魚フライの衣部分について『硬さ』『さくさく感』等の官能評価をおこなった(熟練したパネル10名)。官能評価結果は各評価項目について平均値を計算し、標準偏差とともに示した。なお、評価は絶対評価を用い、下記の評価基準に基づいて評価した。
◎評価基準:『さくさく感』『軽さ』『硬さ』
4:非常に感じる
3:かなり感じる
2:感じる
1:やや感じる
0:感じない
◎評価基準:『食感の好み』
3:非常に好き
2:好き
1:やや好き
0:どちらとも
−1:やや嫌い
−2:嫌い
−3:非常に嫌い
【実施例1】
【0039】
表1に実施例1の配合を示した。
表1の原料についてミキシング→第一次発酵(ナショナルホームベーカリー使用)→分割(120g)→プルファー(17分)→モルダー→成型→第二次発酵(湿度80%、38℃ 30分)→焼成(210℃ 30分)→型から出す→老化→粉砕の工程でパン粉を調製した。
【0040】
【表1】

【0041】
表2に焼成後のパンの断面の気泡数、気泡面積について画像解析・計測ソフトImage-Pro-Plus Ver.4.0((株)プラネトロン:直径0.13mm以上の気泡を検出)を用いて解析した結果とパン粉にした際の固形物あたりの吸油量、パン比容積等について分析した結果を示した。
「オキアミ殻乾燥粉末品」を添加したものは「コントロール品」と比較してパン比容積が大きいにもかかわらず、気泡断面一つあたりの面積が小さくなっており、これにより吸油量が同等以下に低下した。また気泡数も多く、軽い食感を有していた。
「オキアミ殻乾燥粉末とポリデキストロースの併用添加品」、比較の「ポリデキストロース品」は同じパン比容積でありながら「オキアミ殻乾燥粉末とポリデキストロースの併用添加品」の方が気泡断面一つあたりの面積が小さく、吸油量も低下した。また気泡数も多く、コントロールと同程度の軽い食感を示した。
【0042】
【表2】


※測定面積あたりの気泡断面直径0.13mm以上の気泡数をカウントし、(一定面積当たりのパン断面に存在する直径0.13mm以上の気泡の数)/(検出した気泡の断面積の総和)で算出した。
【実施例2】
【0043】
表3に実施例2の配合を示した。
【0044】
【表3】

【0045】
表4に表3の配合を用いて実施例1の方法にしたがって製パンし、パン粉を調製した。表4よりポリデキストロースと各種殻を併用添加した場合、いずれも吸油量が低下した。中でも、オキアミの殻を使用した区が最も吸油量が低下し、かつ食感はパン比容積が小さいにもかかわらず、無添加と同等の硬さであった。
【0046】
【表4】

【実施例3】
【0047】
「コントロール」及び本発明実施例品の「パン粉B−1」および「パン粉B−2」、比較例品の「パン粉C」について評価をおこなった。
表5に実施例3の配合を示した。
【0048】
【表5】

【0049】
表6に示すように、「パン粉B−1」は「パン粉C」のポリデキストロース添加時と比較してパン比容積の減少が抑えられていることが示された。また、イースト、イーストフード量を調整し、意図的にパン比容積を減少させた「パン粉B−2」は同じパン比容積の「パン粉C」と比較してより低吸油であった。
図1に官能評価結果について示した。図1より、「パン粉B−2」はパン比容積の減少による食感低下が抑制され、低吸油でありながら、ソフトな食感を持つことが示された。
なお、「パン粉C」の添加物としてポリデキストロース以外にも大豆繊維、大豆蛋白、卵白カルシウム等の素材についても試したが、吸油量及び官能評価においてポリデキストロースを入れたパン粉が最も優れていた。
【0050】
【表6】

【実施例4】
【0051】
表7の原料について、ラージスケールの方法に基づいて、工場ラインを使用して製パンをおこない、パン粉を調製した。実施例4ではオキアミ乾燥粉末とポリデキストロースとを併用で添加し、パン原料中のイースト、イーストフード量、加水量を調整することで意図的にパン比容積を減少させたもの(パン粉1〜5)とオキアミ乾燥粉末及びポリデキストロース無添加でパン比容積を意図的減少させたもの(コントロール1〜3)について各々のパン比容積及び調製されたパン粉の固形物換算重量あたりの吸油量、官能評価(絶対評価)での『硬さ』について比較評価した。
実施例4の原料配合を示した。
【0052】
【表7】

【0053】
表8にコントロール1〜3及び本発明パン粉1〜5についてパン比容積と調製されたパン粉の固形物換算あたりの吸油量について結果を示した。また、図2にそれをグラフ化したものを示した。図2より、どのパン比容積においても、本発明パン粉の方が低吸油であることが示された。
図3にはおのおのの調製されたパン粉を使用して白身魚フライサンプルを作製し、官能評価を行った。ここでは特に衣部分の『硬さ』に着目し、パン比容積との関係についてその結果を示した。図3より、パン比容積の減少にともない、食感の『硬さ』は増加するものの、コントロール1〜3と比較して『硬さ』が抑えられる傾向にあった。
図2、3より本発明パン粉は無添加のものと比較して低吸油でありながら『硬く』なりにくいことが示された。
本発明パン粉はオキアミ乾燥粉末のみを添加した場合でもコントロールと比較して低吸油であったが、低吸油なパン粉としての機能をより求める場合にはポリデキストロースなどの水溶性繊維や他の食物繊維を併用させた方がよい。なお、実施例3のパンおよびパン粉の調製方法をもちいて食感良好な低吸油パン粉を作製する場合、パン比容積としては3.0cm/g〜4.5cm/gが特に望ましいが、食感の好みや吸油量、中種との相性を考慮して決めるとよいことが示された。
【0054】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例4の白身魚フライ衣部分の官能評価の結果を表す図面である。
【図2】実施例4の パン比容積と調製されたパン粉の固形物換算重量あたりの吸油量の関係を表す図面である。
【図3】実施例4の パン比容積と官能評価『硬さ』の関係 を表す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン粉用パンの製造において、オキアミの殻および/またはオキアミ成分をパン生地原料に添加して用いることを特徴とするパン粉の吸油性を低下させる方法。
【請求項2】
パン生地原料にさらに食物繊維を添加して用いることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
食物繊維がポリデキストロースである請求項2の方法。
【請求項4】
(一定面積当たりのパン断面に存在する検出可能サイズ以上の気泡の数)/(検出した気泡の断面積の総和)で定義される気泡数が185個/cm以上であり、かつ、平均気泡断面積が0.5mm以下になるようにパンを製造することを特徴とする請求項1ないし3いずれかの方法。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−11864(P2008−11864A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259650(P2007−259650)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【分割の表示】特願2002−96746(P2002−96746)の分割
【原出願日】平成14年3月29日(2002.3.29)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】