説明

ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法

【課題】付加反応が高選択的、かつ触媒由来の固形物の反応液に対する溶解性が良好で、付加反応中の触媒由来の固形物の析出および精製時の触媒由来の固形物の固化現象を回避した、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法を提供することである。
【解決手段】アルキレンオキサイドと(メタ)アクリル酸とを付加反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法であって、該付加反応の触媒として遷移金属塩、4級アンモニウム塩およびアミン化合物を使用する、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。また、前記遷移金属塩が(メタ)アクリル酸の鉄塩である前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの合成方法はいくつか提案されているが、その方法の殆どが、アルキレンオキサイドと(メタ)アクリル酸との付加反応による合成方法である。これらの合成方法は、加熱攪拌しながら(メタ)アクリル酸および触媒の混合溶液中にアルキレンオキサイドを滴下し、反応を進行させる方法が一般的であり、さらに反応条件や触媒等を改良した合成方法が種々提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
前記触媒としては、遷移金属化合物、アミン化合物およびアンモニア化合物が知られており、また遷移金属化合物とアミン化合物を併用することも知られている(特許文献3〜5)。
【0004】
特許文献3では、触媒として遷移金属化合物およびアミン化合物を組み合わせて用いることが開示されており、遷移金属種としては鉄またはクロムを使用している。また、併用するアミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N−メチルモルフォリン、ベンジルジメチルアミン、ピリジン、およびアミノ基などの官能基を含有する塩基性イオン交換樹脂等が挙げられている。
【0005】
特許文献4には、主触媒に3価の鉄化合物を、助触媒にクロム化合物を使用し、さらに添加剤として無機のアルカリ金属化合物、4級アンモニウム塩などのアンモニア化合物、およびアミン化合物などの少なくとも1種類を添加することが開示されている。
【0006】
特許文献5には、主触媒にクロム化合物および鉄化合物の少なくとも1種類と、イットリウム化合物およびセリウム化合物などの少なくとも1種類とを併用し、さらにアミン化合物を併用することが開示されている。
【0007】
また、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法において、これまで遷移金属塩、4級アンモニウム塩およびアミン化合物の3種類を併用した実例は報告されておらず、さらに、アルキレンオキサイドと(メタ)アクリル酸との付加反応の反応途中で反応温度を下げる操作に関する報告もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭43−26606号公報
【特許文献2】特公昭46−37805号公報
【特許文献3】米国特許第4069242号明細書
【特許文献4】特公昭45−8970号公報
【特許文献5】特開2003−40838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法では、触媒由来の固形物の反応液に対する溶解性が悪い場合があり、そのために触媒由来の固形物が反応液から析出し、後工程のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの蒸留精製時に触媒由来の固形物が固化するなどの現象が生じることがあった。
【0010】
触媒として鉄化合物単独または鉄化合物とアミン化合物の2つの組み合わせを用いると、各化合物の種類や添加量により、触媒の鉄化合物由来の固形物が反応中に析出することがあった。
【0011】
なお、反応液から析出および精製時に固化する触媒由来の固形物は、触媒として鉄化合物を用いた際には、鉄触媒が変性したものと考えられるが、鉄触媒または鉄触媒とアミン化合物の組み合わせに、さらに4級アンモニウム塩とを組み合わせることにより、固形物の生成を抑制したり、溶解性を向上したりしていると推定される。
【0012】
また、触媒の組み合わせによっては、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの生成量が多くなるという付加反応の選択性の課題があった。
【0013】
鉄触媒単独では副生物量が増加することが知られており、鉄触媒とアミン化合物とを組み合わせて用いると、触媒の酸性度を制御し、副生物を抑制し、付加反応の反応選択性を向上させることができると考えられる。
【0014】
すなわち、主触媒である鉄化合物に、反応選択性を改善するアミン化合物と、触媒由来の固形物の析出を抑制する4級アンモニウム塩の2種類を組み合わせた、3種類の化合物を組み合わせることで、触媒の溶解性と選択性のバランスが良好な触媒系とすることが可能となる。
【0015】
本発明の目的は、付加反応が高選択的、かつ触媒由来の固形物の反応液に対する溶解性が良好で、付加反応中の触媒由来の固形物の析出および精製時の触媒由来の固形物の固化現象を回避した、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明により、アルキレンオキサイドと(メタ)アクリル酸とを付加反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法であって、
該付加反応の触媒として遷移金属塩、4級アンモニウム塩およびアミン化合物を使用する、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法が提供される。
【0017】
また本発明により、
(1)前記アルキレンオキサイドを前記(メタ)アクリル酸に滴下して該付加反応を行う工程と、
(2)工程(1)の後に、該工程(1)終了時の反応温度に対して3℃以上30℃以下温度を下げて該付加反応を行う工程と、
を有する前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法が提供される。この方法において、(3)工程(2)の後に、残存アルキレンオキサイドを脱気操作により除去する工程を有することができる。
【0018】
さらに、本発明により、前記遷移金属塩が(メタ)アクリル酸の鉄塩である上述したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法のいずれかの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、付加反応が高選択的、かつ触媒由来の固形物の反応液に対する溶解性が良好で、付加反応中の触媒由来の固形物の析出および精製時の触媒由来の固形物の固化現象を回避した、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、触媒として遷移金属塩、4級アンモニウム塩およびアミン化合物を使用することを特徴とするヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法である。
【0021】
本発明者らは、アルキレンオキサイドと(メタ)アクリル酸とを付加反応する際に、触媒として遷移金属塩、4級アンモニウム塩およびアミン化合物の3種類を使用することにより、触媒由来の固形物の反応液に対する溶解性が良好となり、さらに付加反応の反応選択性が良好となることを見出した。さらに、反応温度を反応の途中で3℃以上30℃以下、下げることにより、副生成物であるアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの生成を効果的に抑制でき、付加反応の反応選択性が良好となることを見出した。
【0022】
<ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート>
本発明のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは特に限定されないが、具体例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
一般的に、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドの付加反応で製造される。本発明では、触媒および重合防止剤の存在下、原料の、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドとを付加反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを合成することができる。原料の(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸を意味し、その製造方法は特には限定されず、C3またはC4酸化法、ACH法あるいはAN加水分解等の公知の製造法を用いることができる。また、原料のアルキレンオキサイドの具体例としては、酸化エチレンおよび酸化プロピレン等が挙げられる。さらに、アルキレンオキサイドの製造法も特には限定されず、ハロヒドリンの閉環反応あるいはオレフィンの酸化反応等の公知の製造方法を用いることができる。
【0024】
また、原料の仕込み比率は特に限定は無いが、生産性の観点から、原料のアルキレンオキサイドの使用量(mol)に対する(メタ)アクリル酸の使用量(mol)のモル比((メタ)アクリル酸の使用量(mol)/アルキレンオキサイドの使用量(mol))の下限は0.1以上が好ましく0.5以上がより好ましい。また同様に生産性の観点から上限は10以下が好ましく2以下がより好ましい。
【0025】
<触媒>
本発明のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法に使用する触媒は、遷移金属塩、4級アンモニウム塩およびアミン化合物を併用することができる。また特に、触媒として、遷移金属塩、4級アンモニウム塩およびアミン化合物のみを用いることができる。
【0026】
・遷移金属塩
従来、触媒として遷移金属塩のみ、または、遷移金属塩およびアミン化合物を用いた場合、溶解性の問題より反応液から触媒由来の固形物が析出する場合が多々あった。しかし、上記遷移金属塩、4級アンモニウム塩およびアミン化合物の3種類を併用することで触媒由来の固形物の反応液に対する溶解性が格段に向上し、触媒由来の固体の析出現象を防ぐことができることが判明した。
【0027】
上記遷移金属塩の具体例としては、鉄塩、クロム塩およびアルミニウム塩などが挙げられる。遷移金属塩としては、高活性な遷移金属塩が好ましく、その中でも遷移金属種としてクロムまたは鉄を有する化合物が活性の観点から好ましく、さらに3価の鉄塩またはクロム塩がより好ましい。また経済性や環境負荷の観点からは3価の鉄塩がより好ましい。
【0028】
また遷移金属塩における、鉄およびクロムなどの遷移金属種の対アニオンの具体例としては、(メタ)アクリル酸などの有機酸およびハロゲンなどが挙げられる。この中でも、対アニオン由来の副生成物を抑制するという観点から、対アニオンとしては原料で使用する(メタ)アクリル酸が好ましい。このため、上記遷移金属塩は、(メタ)アクリル酸(アニオン)と、鉄またはクロム(カチオン)との塩が好ましい。
【0029】
・4級アンモニウム塩
上記4級アンモニウム塩の具体例としては、テトラアルキルアンモニウム塩およびテトラフェニルアンモニウム塩などが挙げられる。アルキル鎖は直鎖でも分岐していてもよく、ヒドロキシル基やフェニル基などの置換基がアルキル基にさらに付いていても良い。それらを(式α)で例示する。
+(R11)(R22)(R33)(R44)X- (式α)
(R1〜R4はそれぞれ独立して直鎖もしくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表し、L1〜L4はそれぞれ独立して水素、水酸基又はフェニル基を表し、Xはハロゲン又は水酸基を表す。)
また、この4級アンモニウム塩の種類はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの蒸留精製時の残渣性状や留出液の着色低減の観点から、テトラアルキルアンモニウム塩が好ましい。またそのテトラアルキルアンモニウム塩の具体例としては、テトラメチルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩、フェニルトリメチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩およびコリン塩等が挙げられる。また、テトラアルキルアンモニウムのアルキル基は、触媒活性向上の観点から、炭素数が大きくアルキル鎖が長いほど好ましく、その中でも、アルキル鎖の炭素数は2〜10が好ましく、経済性の観点から、炭素数4のブチル基が好ましい。
【0030】
・アミン化合物
上記アミン化合物は、(式β)に示すような3級アミンが好ましい。3級アミンのアルキル鎖は直鎖でも分岐していてもよく、ヒドロキシル基やフェニル基などの置換基がアルキル基にさらに付いていても良い。
N(R55)(R66)(R77) (式β)
(R5〜R7はそれぞれ独立して直鎖もしくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表し、L5〜L7はそれぞれ独立して水素、水酸基又はフェニル基を表す。)
3級アミンの具体例としては、トリアルキルアミンおよびトリフェニルアミンが挙げられるが、その中でも安定性と価格の観点からトリアルキルアミンがより好ましい。トリアルキルアミンの具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。アルキル基の炭素数は、長すぎると触媒の溶解性を損なうため1〜10が好ましく、経済性の観点から炭素数2〜4がより好ましい。
【0031】
また、アミン化合物の添加は、副生成物であるアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートやジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの生成抑制にも効果があるため、この観点からも添加することが好ましい。
【0032】
・触媒の使用量
上記遷移金属塩の触媒量は特に限定されないが、反応速度の観点から、原料の(メタ)アクリル酸およびアルキレンオキサイドのうちの使用量(mol)の少ない方の原料に対する遷移金属塩の使用量(mol)のモル%((遷移金属塩の使用量(mol)×100)/使用量の少ない方の原料(mol))の下限は0.01モル%以上が好ましく0.1モル%以上がより好ましい。また経済性の観点から、上限は10モル%以下が好ましく5モル%以下がより好ましい。
【0033】
また、上記遷移金属塩の使用量(mol)に対する上記4級アンモニウム塩の添加量(mol)のモル比(4級アンモニウム塩の使用量(mol)/遷移金属塩の使用量(mol))は、触媒活性の観点から、下限は0.1以上が好ましく0.5以上がより好ましい。また、触媒溶解性、反応選択性と経済性の観点から上限は2以下が好ましい。
【0034】
上記アミン化合物の添加量は特に限定されないが、付加反応の選択性向上の観点から、上記遷移金属塩の使用量(mol)に対するアミン化合物の使用量(mol)のモル比(アミン化合物の使用量(mol)/遷移金属塩の使用量(mol))の下限は0.1以上が好ましく0.5以上がより好ましい。また経済性の観点から上限は10以下が好ましく5以下がより好ましい。
【0035】
また、付加反応の選択性の観点から、遷移金属塩の使用量(mol)に対する、上記4級アンモニウム塩およびアミン化合物の使用量の合計(mol)のモル比((4級アンモニウムの使用量(mol)+アミン化合物の使用量(mol))/遷移金属塩の使用量(mol))が、1以上3以下であることが好ましい。
【0036】
<重合防止剤>
(メタ)アクリル酸およびアルキレンオキサイドの付加反応は重合防止剤の共存下で行うことが好ましく、使用する重合防止剤は公知のものを用いることができる。重合防止剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。重合防止剤としては、例えば、ハイドロキノンおよびパラメトキシフェノール等のフェノール系化合物、
N,N’−ジイソプロピルパラフェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチルパラフェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)パラフェニレンジアミンおよびフェノチアジン等のアミン系化合物、
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(HO−TEMPO)、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(HO−TEMPOのベンゾイルエステル体)等のN−オキシル系化合物、
あるいは、下記の式1で例示されるN−オキシル系化合物等が挙げられる。
【0037】
【化1】

【0038】
(nは1以上18以下の整数を表し、R11およびR12は水素原子(H)、あるいは、R11およびR12のいずれか一方が水素原子、もう一方がメチル基、を表す。また、R13、R14、R15およびR16はそれぞれ独立して、直鎖状または分岐状のアルキル基を表す。さらに、R17は水素原子または(メタ)アクリロイル基を表す。)
重合防止剤の添加量は特に限定されないが、重合防止効果の観点で反応液全量に対して、0.1ppm以上10000ppm以下が好ましく、経済性と重合防止効果より1ppm以上5000ppm以下がさらに好ましい。
【0039】
<ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法>
本発明の製造方法は、以下の工程を有することができる。
工程(1)前記アルキレンオキサイドを前記(メタ)アクリル酸に滴下して該付加反応を行う工程、
工程(2)工程(1)の後に、該工程(1)終了時の反応温度に対して3℃以上30℃以下温度を下げて該付加反応を行う工程。
さらに、工程(2)の後に、残存アルキレンオキサイドを脱気操作により除去する工程(3)を有することもできる。
【0040】
また、反応速度の観点から、付加反応の反応温度の下限は0℃以上が好ましく30℃以上がより好ましい。また、副反応抑制の観点から、付加反応の反応温度の上限は150℃以下が好ましく100℃以下がより好ましい。なお、上記付加反応の反応温度とは、アルキレンオキサイドの滴下開始以降(滴下開始時点も含む)、残存したアルキレンオキサイドを除去するための脱気操作を開始する前まで(脱気操作開始時点は含まない)の温度を指す。
【0041】
以下に各工程を説明する。
【0042】
・工程(1)について
工程(1)は、(メタ)アクリル酸にアルキレンオキサイドを滴下して該付加反応を行う工程である。アルキレンオキサイドの滴下は、一括でも分割でも良い。また、アルキレンオキサイドを分割して添加する場合の量(比率)は特に限定されず、また、アルキレンオキサイド滴下時の(反応)温度は、上述した付加反応の反応温度の温度範囲内(0℃以上150℃以下)であることが好ましいが、特に限定されない。
【0043】
また、工程(1)は、アルキレンオキサイドの滴下終了時点で終了してもよいし、工程(1)において、アルキレンオキサイドの滴下終了後に、反応を引き続き継続してもよい。この反応の継続操作のことを、「熟成」と呼ぶこととする。また、アルキレンオキサイドの滴下終了時点の反応温度と、熟成の反応温度は、同じ温度でも、変化させて異なる温度としても良い。しかし反応温度を変化させて、アルキレンオキサイドの滴下終了時点の温度より高温で熟成させると副反応が進行しやすくなることがあり、アルキレンオキサイドの滴下終了時点の温度より低温で熟成させると反応時間がかかるため、アルキレンオキサイドの滴下終了時点と同じ温度で一定にすることがより好ましい。
【0044】
なお、アルキレンオキサイド滴下終了時点の反応温度から、温度を変化させて熟成する場合には、熟成の反応温度は、アルキレンオキサイド滴下終了時点の反応温度より3℃以上低くならないようにする。また、この温度範囲であれば、熟成の反応温度は、変化させて良い。
【0045】
・工程(2)について
工程(2)は、工程(1)の後に、該工程(1)終了時の反応温度に対して3℃以上30℃以下温度を下げて該付加反応を行う工程である。工程(2)は、工程(1)に引き続いて行うことができる。なお、上記「工程(1)終了時の反応温度」とは、熟成しない場合には、アルキレンオキサイドの滴下終了時点の反応温度を意味し、熟成した場合には、熟成終了時点の反応温度を意味する。
本発明者らは、付加反応の副生成物であるアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびジアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの生成を効果的に抑制し、反応選択性を良好にするには、工程(1)終了時の反応温度に対して、反応温度を下げて、反応させることが有効であることを見出した。工程(1)の反応温度に対する、工程(2)の反応温度の下げ幅の下限は、副反応の抑制に対する顕著な効果を生じるために、3℃以上が好ましく、また反応が遅くなることを防ぐために、温度の下げ幅の上限は30℃以下が好ましい。なお、上記工程(2)の反応温度は、工程(1)終了時の反応温度から3℃以上30℃以下低い温度に降温した後の温度を指す。降温した後の温度は、一定でも変化しても良いが、変化した場合は、工程(1)終了時の反応温度から、3℃低い温度を超える高温域にはせず、工程(1)終了時の反応温度から、30℃低い温度より低温域にはしない。すなわち、降温した後の温度を変化させる場合には、工程(1)の終了時の反応温度から3℃以上30℃以下低い温度の範囲内で変化させることができる。
ゆえに、工程(1)終了時と工程(2)の反応温度の差(工程(1)終了時の反応温度に対する、工程(2)の反応温度の下げ幅)は、工程(1)終了時点の温度と、降温した後の温度との差(下げ幅)を指す。また、工程(1)(アルキレンオキサイドを滴下して該付加反応を行う工程)、ならびに、工程(2)(反応温度を下げて、付加反応を行う工程)のそれぞれの反応時間は適宜設定できるが、降温による付加反応の選択性向上の効果が優れて発揮されるためには、工程(1)ならびに工程(2)のそれぞれの反応時間は30分以上であることが好ましい。
【0046】
また、遷移金属塩などの触媒は、アルキレンオキサイドを滴下する前に予め仕込んでおくことが好ましい。(メタ)アクリル酸や重合防止剤と同時に一括で仕込んでかまわない。
【0047】
・工程(3)について
工程(3)は、残存アルキレンオキサイドを脱気操作により除去する工程であり、工程(2)に引き続いて行うことができる。
【0048】
残存したアルキレンオキサイドを減圧により脱気する。この場合の温度や圧は特に限定されないが、脱気の効率から0℃以上が好ましく、さらに好ましくは20℃以上である。また製品の留出ロスを防ぐために、100℃以下が好ましく、さらに好ましくは80℃以下である。圧は、脱気効率の観点から13.3kPa以下が好ましく、さらに好ましくは6.7kPa以下である。なお、アルキレンオキサイドが(メタ)アクリル酸と比較して少ない仕込み量の場合は、工程(3)は省略可能である。
【0049】
<精製方法>
本発明のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法は、付加反応後(上記工程(2)または(3)の後)、生成物のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを精製することができる。その精製方法は特に限定されないが、具体例としては、蒸留、薄膜蒸留等の方法が挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例および比較例の分析には、ガスクロマトグラフィー(GC)分析を用いた。
【0051】
(合成例)
各例に用いるメタクリル酸鉄の調製方法を以下に示す。
まず、以下の(A)および(B)に示す水溶液を調製した。
(A)メタクリル酸ソーダ18質量%水溶液
水650.1gにメタクリル酸129.1g(1.50mol)を入れ、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を131.3g(1.58mol)加えて、メタクリル酸Na18質量%水溶液(A液)を調製した。
(B)塩化鉄(III)40質量%水溶液
水67.7gに塩化鉄(III)6水和物135.2g(0.50mol)を加えて、塩化鉄(III)40質量%水溶液(B液)を調製した。
【0052】
続いて、攪拌機、冷却管を備えたフラスコにA液を仕込み、70℃で加熱攪拌した。それに、B液を滴下ロートより滴下し、滴下後3時間、70℃で加熱攪拌した。その後、この反応液を冷却し、析出した固体を吸引ろ過し、乾燥機を用いて100℃で減圧乾燥した。これにより、黄色の固体として、メタクリル酸鉄117.6gを得た。
【0053】
(実施例1)
メタクリル酸513g(5.965mol)、
触媒の遷移金属塩として、メタクリル酸鉄(III)6.22g(0.02mol)、
触媒のアミン化合物として、トリエタノールアミン1.492g(0.01mol)、
触媒の4級アンモニウム塩として、テトラブチルアンモニウムクロリド2.779g(0.01mol)、
重合防止剤として、HO−TEMPOのベンゾイルエステル体を0.053g、
を1LのSUS(ステンレス鋼)製オートクレーブ中に加えた。
【0054】
工程(1):30℃にて、アルキレンオキサイドとしての酸化エチレン29.3g(0.665mol)を7分かけて滴下した。続いて66℃で、さらに酸化エチレン305.7g(6.940mol)を120分かけて滴下した。
【0055】
熟成:続いて、66℃で3時間熟成した。
【0056】
工程(2):反応温度を66℃から51℃(温度の下げ幅:15℃)に冷却し1時間反応を続けた。
【0057】
工程(3):続いて、反応液に残存する酸化エチレンを51℃、11.325kPaで1.5時間減圧除去した。
【0058】
反応液をGC分析したところ、生成物のヒドロキシエチルメタクリレートの反応収率は91.8%(原料のメタクリル酸(mol)基準)であった。また、反応液中の残存メタクリル酸量は0.45質量%、付加反応の副生成物のエチレングリコールジメタクリレートの量は0.12質量%であり、副生成物のジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートの量は4.14質量%であった。また、反応液からの固形物の析出は全く無かった。評価結果を表1に示す。なお、表中では、メタクリル酸はMAAと略記する。
また、反応成績中の項目で、残存MAA量は1質量%以下、ジエチレングリコールモノメタクリレート量は5質量%以下、固体析出は目視にてにごりの無いことを、良好であるかどうかの判断基準とした。
【0059】
【表1】

【0060】
(実施例2〜9、比較例1〜6)
触媒の種類、使用量および反応温度の条件を変えた以外は、実施例1と同様にして、付加反応を実施しヒドロキシエチルメタクリレートを合成した。評価結果を表1に示す。なお、固形物とは触媒の鉄塩が変性したものを指す。
【0061】
本発明の方法を用いることにより、精製時の固化現象を回避しつつ、付加反応の反応選択性良く、安価に高品質なヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を製造することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の方法で製造されたヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、各種塗料、接着剤、粘着剤、コンタクトレンズ等の光学材料、各種反応性モノマー等に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンオキサイドと(メタ)アクリル酸とを付加反応させてヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法であって、
該付加反応の触媒として遷移金属塩、4級アンモニウム塩およびアミン化合物を使用する、
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項2】
(1)前記アルキレンオキサイドを前記(メタ)アクリル酸に滴下して該付加反応を行う工程と、
(2)工程(1)の後に、該工程(1)終了時の反応温度に対して3℃以上30℃以下温度を下げて該付加反応を行う工程と、
を有する請求項1記載のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項3】
さらに、
(3)前記工程(2)の後に、残存アルキレンオキサイドを脱気操作により除去する工程
を有する請求項2記載のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属塩が(メタ)アクリル酸の鉄塩である請求項1〜3のいずれか一項記載のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの製造方法。

【公開番号】特開2011−6387(P2011−6387A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114258(P2010−114258)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】