説明

ヒータ及びこれを用いた画像加熱装置

【課題】 従来のPTC素子を用いたヒータは、長方形状のPTC素子群が間隔を空けて配列されている。そのため、隣り合うPTC素子間の領域では素子が存在しないため、隣り合うPTC素子間の領域とPTC素子が存在する領域とで温度差が大きくなってしまった。このような大きな温度差は画像の光沢ムラを引き起こすこととなった。
【解決手段】 PTC素子の形状を平行四辺形とし、隣り合うPTC素子による発熱領域の一部が互いにオーバーラップするように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録材上の画像を加熱するためのヒータ、及びこれを用いた画像加熱装置に関する。この画像加熱装置としては、記録材上の未定着画像を定着する定着装置や、記録材上に定着された画像を加熱することにより画像の光沢度を向上させる光沢向上装置を挙げることができる。また、このような画像加熱装置は、例えば、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子写真画像形成装置の定着装置では、記録材に形成されたトナー像を加熱することにより定着する手法が採用されている。このような定着のためのヒータとして正特性サーミスタ素子(PTC素子)を用いることが提案されている(特許文献1)。このヒータは、基板上に長方形状のPTC素子を直線状に複数配列することにより構成されている。また、これらPTC素子群は熱膨張による接触を防止すべく間隔を空けて配列されている。
【0003】
このPTC素子は温度上昇に伴いその電気抵抗が急激に上昇する特性(自己温調特性)を備えており、この電気抵抗が急激に上昇する温度を定着温度に設定することにより次のような効果を期待することができる。
【0004】
つまり、幅の狭い記録材に対して定着処理を施す際、記録材が通過しない領域が定着温度を超えて過昇温してしまう現象を自己温調特性により抑制することができるといった利点がある。従って、PTC素子を用いることにより、このような幅の狭い記録材に対するプリントスピード(生産性)を従来の熱源に比して向上させることができる。
【特許文献1】特開平04−258982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のヒータでは、長方形状とされたPTC素子群が間隔を空けて配列されているため、以下のような課題がある。
【0006】
つまり、隣り合うPTC素子間の領域では発熱素子が存在しないため、隣り合うPTC素子間の領域とPTC素子が存在する領域とで温度差が大きくなってしまった。このような大きな温度差は画像の光沢ムラを引き起こすこととなり近年の高画質化の要求に応えることができない。
【0007】
そこで、本発明はこのような課題を解決せんとしようとするものである。
【0008】
つまり、本発明の目的は温度ムラを抑制することができるヒータ並びにこれを用いた画像加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、記録材上の画像を加熱するためのヒータであって、記録材の幅方向に沿って間隔を空けて配列された発熱素子群を有するヒータにおいて、
発熱素子群は、隣り合う発熱領域の一部が記録材の搬送方向から見て互いにオーバーラップするように、且つ、記録材の幅方向から見て実質的に直線状となるように配置されていることを特徴とするものである。
【0010】
第2の発明は、記録材上の画像を加熱するためのヒータであって、記録材の幅方向に沿って間隔を空けて配列された発熱素子群を有するヒータにおいて、
前記発熱素子の形状を記録材の幅方向に対し傾斜したエッジ部を備えた対称形としたことを特徴とするものである。
【0011】
第3の発明は、記録材上の画像を加熱する画像加熱部材と、記録材の幅方向に沿って間隔を空けて配列された発熱素子群を備え画像加熱部材を加熱するヒータと、を有する画像加熱装置において、
発熱素子群は、隣り合う発熱領域の一部が記録材の搬送方向から見て互いにオーバーラップするように、且つ、記録材の幅方向から見て実質的に直線状となるように配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば温度ムラが生じるのを抑制することが可能となる。従って、画像加熱不良に起因する画質の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施例を例示的に説明する。但し、以下の実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特段の記載がない限りは、それらのみに限定する趣旨のものではない。つまり、本発明の思想の範囲内において他の公知の構成への置き換えが可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0014】
図1は本発明に係る画像加熱装置が搭載された画像形成装置(フルカラープリンタ)の一例を示す正面概略構成図である。まず、画像形成装置の画像形成部について説明する。
【0015】
(画像形成部)
この画像形成装置には4つの画像形成ステーション1Y,1M,1C,1Bkが一定の間隔を空けて一列に配置されている。1Yはイエロー色のトナー画像を形成する画像形成ステーションである。同様に、1Mはマゼンタ色のトナー画像を形成する画像形成ステーション、1Cはシアン色のトナー画像を形成する画像形成ステーション、1Bkはブラック色のトナー画像を形成する画像形成ステーションである。
【0016】
次に各画像形成ステーションについて詳しく説明する。なお、各画像形成ステーションはほぼ同様の構成とされている。
【0017】
これら各画像形成ステーション1Y〜1Bkには、それぞれ像担持体としての電子写真感光体(以下、感光ドラムという)2a〜2dが設置されている。これら各感光ドラム2a〜2dの周囲には、帯電手段としての帯電器3a〜3d、現像手段としての現像器4a〜4d、1次転写手段としての1次転写ローラ5a〜5d、クリーニング手段としてのクリーナ6a〜6dがそれぞれ設置されている。また、帯電器3a〜3dと現像器4a〜4dにおいて画像露光を行う露光装置7が装置の下方に設置されている。
【0018】
上述した感光ドラム2a〜2dは負帯電性の有機感光体とされ、アルミニウム製の中空円筒上に光導電層が形成されている。また、感光ドラム2a〜2dは駆動装置(不図示)によって矢印方向(時計回り方向)に所定のプロセススピードで回転駆動される。
【0019】
帯電器3a〜3dは、帯電バイアス電源(不図示)から印加される帯電バイアスによって各感光ドラム2a〜2dの表面を負極性の所定電位に均一に帯電する。
【0020】
露光装置7は、LANケーブルを通じてホストコンピュータから入力された画像情報に基づきレーザ光を出射するレーザ発光手段、ポリゴンミラー、反射ミラー等で構成されている。この露光装置7は、帯電器3a〜3dによりそれぞれ帯電された各感光ドラム2a〜2d表面を露光することによって、入力画像情報に応じた静電潜像を形成する。
【0021】
現像器4a〜4dは、それぞれイエロートナー、シアントナー、マゼンタトナー、ブラックトナーを収納し、各感光ドラム2a〜2d上に形成された静電潜像をトナーにより現像(可視像化)する。
【0022】
1次転写ローラ5a〜5dは、1次転写部32a〜32dにおいて、感光ドラム2a〜2dとの間で中間転写体としての中間転写ベルト8を挟み込むように設置されている。そして、1次転写ローラ5a〜5dには、感光ドラム2a〜2d上に形成されたトナー像を中間転写ベルト8上に順次重ね転写すべく1次転写バイアスが印加される。
【0023】
クリーナ6a〜6dにはクリーニングブレードが設置されており、このクリーニングブレードが感光ドラム2a〜2d上に残留した転写残トナーを掻き落とし、そして回収することにより感光ドラム2a〜2dの表面をクリーニングする。
【0024】
中間転写ベルト8は、感光ドラム2a〜2dの上面側に設置されており、2次転写対向ローラ10とテンションローラ11間に張架されている。2次転写対向ローラ10は、2次転写部34において、2次転写ローラ12との間で中間転写ベルト8を挟み込むように設置されている。また、中間転写ベルト8は、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、ポリフッ化ビニリデン樹脂フィルムなどの樹脂により構成されている。2次転写ローラ12は、2次転写部34において、中間転写ベルト上に転写されたフルカラートナー画像を給紙ユニット17から搬送されてきた記録材に一括して転写すべく2次転写バイアスが印加される。また、中間転写ベルト8の周囲には、テンションローラ11の近傍に、中間転写ベルト8に残留した転写残トナーを除去して回収する不図示のベルトクリーナが設置されている。
【0025】
装置の下方には、記録材Pを収納したカセット17、カセット内の記録材Pを一枚ずつ送り出す為のピックアップローラ、が設置されている。また、装置の側方には手差しトレイ20、この手差しトレイにある記録材Pを1枚ずつ送り出す為のピックアップローラが設置されている。
【0026】
これらピックアップローラと2次転写部との間には、記録材の搬送をガイドする給紙ガイド18が設置されている。また、これらピックアップローラから送り出された記録材Pを中間転写ベルト上のトナー像と同期するように2次転写部に向けて搬送するレジストローラ19が設置されている。
【0027】
画像加熱装置としての定着装置16には、画像加熱部材としての定着フィルム702と、この定着フィルムとの間でニップ部31を形成する加圧ローラ703が設置されている。そして、定着フィルム内にはヒータ701が設置されている。
【0028】
なお、加圧ローラを加熱する専用の熱源を設ける構成としても構わない。
【0029】
また、定着装置16よりも記録材の搬送方向上流側には、ニップ部31に向けて記録材Pを導く為のガイド34が設置されている。また、定着装置16よりも記録材の搬送方向下流側には、記録材Pを装置の外部へ排出するための排紙ローラ21が設置されている。
【0030】
さらに、記録材の両面に画像を形成する場合には、1面目に形成された画像が定着された記録材は両面反転パスを介して2次転写部〜定着部へと再搬送される構成となっている。
【0031】
(画像形成部による画像形成動作)
次に上述した画像形成部の画像形成動作について説明を行う。
【0032】
画像形成装置にLANケーブルにて接続されたホストコンピュータ(PC)などから画像形成開始信号が入力されると、選択されたカセット17もしくは手差しトレイ20から給紙動作を開始する。例えば、カセット17から給紙された場合について説明する。
【0033】
まず、ピックアップローラにより、カセット17から記録材Pが一枚ずつ送り出される。そして記録材Pが給紙ガイド18の間を案内されてレジストローラ19まで搬送される。このとき、レジストローラは回転が停止されており、記録材の先端はレジストローラ19のニップ部に突き当たる。
【0034】
その後、画像形成ステーションが画像形成を開始するタイミング信号に基づいてレジストローラは回転を始める。この回転時期は、記録材Pと中間転写ベルト8上に1次転写されたトナー画像とが2次転写部においてちょうど一致するようにそのタイミングが設定されている。
【0035】
一方、各画像形成ステーションでは入力された画像情報に基づき各感光ドラム上に静電潜像が形成される。
【0036】
そして、感光ドラム2a〜2d上に形成された各色トナー像は1次転写ローラ5a〜5dによって中間転写ベルト8上に順次重ねて一次転写される。
【0037】
そして、中間転写ベルト8上に1次転写された4色のトナー像は2次転写部へと搬送される。その後、記録材Pは2次転写部へと進入し中間転写ベルト8に接触すると、記録材Pの通過タイミングに合わせて2次転写ローラ12に高電圧を印加する。このようなプロセスにより中間転写ベルト上に形成された4色のトナー画像が記録材Pの表面に一括して2次転写される。
【0038】
2次転写後、記録材Pは搬送ガイド34によってニップ部まで案内される。そして、ニップ部において、トナー像が熱及び圧力を受けて記録材に定着される。
【0039】
その後、記録材Pは排紙ローラ21により機外に排出され、一連の画像形成動作が終了する。
【0040】
本例では、中間転写ベルトの移動方向において上流側からイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック用の画像形成ステーションが順に配置されているが、この配置順はこのような例に限るものではなく任意に設定可能である。
【0041】
(定着装置)
次に、図2を用いて画像加熱装置としての定着装置について詳細に説明する。
【0042】
図2は、図1における定着装置16を拡大した概略断面図である。
【0043】
701はヒータ、702は画像加熱部材としての定着フィルム、703はニップ形成手段としての加圧ローラ、711はコの字状の板金、712は温度検知用サーミスタ、713は保持手段としてのヒータホルダ、714はセルフバイアス回路である。
【0044】
定着フィルム702は、金属製の基材と、その上に300μmほどのゴム層、さらにフッ素樹脂層が積層された構成とされ、熱容量が極めて小さくされている。加圧ローラ703は硬度が60°程度とされ、定着フィルム702を従動回転させる機能を有している。コの字状の板金711は定着フィルム702を内側から加圧ローラ703に向けて加圧する機能を有し、加圧力は180N程度に設定されている。温度検知用サーミスタ712はヒータの長手方向の略中央部の温度を検出する構成とされている。
【0045】
図3は、図2におけるヒータ701を拡大した概略断面図である。図3の(A)において503は発熱素子としてのPTC素子を示しており、紙面に垂直方向(記録材の幅方向)に複数個配列されている。501は基板としての基材でありPTC素子群が設置されている。また、基材501は、熱源であるPTC素子503からの熱を受け、定着フィルム702を加熱する機能を果たしている。つまり、ヒータからの熱が定着フィルムを介して定着ニップに進入してきた記録材に伝わる構成となっている。このため本例では、基材501の素材として熱伝導率の高い窒化アルミより構成している。
【0046】
また、基材501の定着フィルム702と摺動する部分には、低摺動性の材料がコーティングされている。
【0047】
さらに、PTC素子503の短手方向両端を挟み込むように電極509a、509bが設置されている。これらの電極には給電部が設けられており、この給電部を介してPTC素子503に通電が施される。この給電部は電源と接続されており、給電部への通電は制御手段としてのCPU100により制御される構成となっている。このCPU100は、サーミスタ712にて検出された温度情報が入力される構成となっており、この検出温度が定着温度となるように給電部への通電を制御している。
【0048】
なお、図3の(A)のような構成に限らず、図3の(B)に示すような、PTC素子503の上下面を挟み込むように電極509a、509bを設置する構成としても構わない。この例では、PTC素子503と基材501は、電極509aを介して設置されている。
【0049】
次にPTC素子(自己温調加熱素子とも言う)503について説明する。
【0050】
このPTC素子503は、正特性温度係数(PTC:Positive Temperature Coefficient)を有する素材により形成されている。従って、このPTC素子503は、室温からキュリー温度(飽和温度)Tcまでは電気抵抗値が低く、キュリー温度Tcを超えると急峻に電気抵抗値が増大する特性を有する感熱素子(非線形抵抗素子)である。本例では、チタン酸バリウムを主原料としたセラミックス半導体粉末を所定の成型金型を用いて焼成して形成されたPTC素子を用いている。
【0051】
このようなPTC素子503は通電当初の消費電力が大きいため急激に温度が上昇し、このまま通電を続けても温度がキュリー温度を超えると抵抗値が増大することになり消費電力が大幅に低下する。従って、PTC素子503はキュリー温度以上には上昇せず、PTC素子への通電のオン/オフをコントロールせずとも一定の温度を保つこととなる。つまり、PTC素子は自己温調機能を備えた加熱素子と言うことができる。そこで、本例では、PTC素子のキュリー温度を定着温度(例えば、190度)となるように設定し、PTC素子にはその温度が少なくとも定着温度を維持することができる程度の電力がCPU100の指示により供給される構成となっている。
【0052】
このため、図4のように、記録材の幅方向Y(記録材の搬送方向X(図2)に直交する方向)に配列されたPTC素子503群による加熱領域よりも幅の狭い記録材に定着処理を施す場合に従来課題とされていた現象を解決することができる。つまり、幅の狭い記録材によって熱を奪われない定着フィルムの領域(記録材が通過しない領域)が過昇温してしまうのを抑制することができる。
【0053】
このため、従来は、幅の狭い記録材に連続して定着処理を施す際には記録材の搬送間隔を通常よりも長くすることにより対処しているが、本例ではこのような方策を採用せずとも解決することができる。つまり、幅の狭い記録材の際のプリントスピード(生産性)を向上することができる。また、過昇温した領域を冷却するといった手段(冷却ファン等)の追加によるコストアップを招かずに、幅の狭い記録材への連続定着を適正に行うことが可能となる。
【0054】
図4は複数のPTC素子503が配列された状態を示す斜視図である。
【0055】
図4において、PTC素子503群はヒータホルダ713上に実質的に直線状に配設されており、この図では、説明のため、前述のフィルム、基材、電極等は省略されている。
【0056】
PTC素子503群は記録材の幅方向Y(記録材の搬送方向Xと直交する方向)に沿って所定の間隔を空けて配列されている。
【0057】
PTC素子503の形状は対称形とされ、約30mm×約8mmの斜辺(エッジ部)を持つ平行四辺形とされている。このPTC素子の形状は、後述するように、隣り合うPTC素子間の非発熱領域を可能な限り小さくすることに寄与している。
【0058】
また、本例では、PTC素子503のそれぞれが同一形状(平行四辺形)とされ、小型化により焼成成型性上の問題が低減されコストアップしてしまうのを防止している。また、全てのPTC素子が同一形状であるため、組立性も良く、組立費削減による装置全体のコストダウンに繋がる。同時に、量産効果による、PTC素子503自体の単品コストの低減にも寄与することができる。なお、ヒータの長手方向両端に設置されたPTC素子については他のPTC素子とは異形状としても構わない。例えば、これら両端のPTC素子の記録材の幅方向端部側の形状を記録材搬送方向に沿った直線状としても構わない。つまり、これら両端のPTC素子の形状は非対称形となる。
【0059】
なお、上述したように、隣り合うPTC素子間には一定の空間が設けられており(図4の円内の拡大図)、この空間により、量産上の寸法バラツキを吸収することができる。さらに、室温から定着温度(190度)に至る広範な温度範囲で使用されるPTC素子の熱膨張による寸法変化にも十分に対応することができる。従って、PTC素子が割れるなどの破損を回避することができる。
【0060】
また、この隣り合うPTC素子間の空間は、PTC素子503の形状を平行四辺形としたことで、記録材の搬送方向と交差する方向に延びている。すなわち、記録材の搬送方向Xから見て、隣り合うPTC素子による発熱領域の一部が互いにオーバーラップする構成となっている。さらに、PTC素子群は記録材の幅方向Yから見たとき凸凹することなく実質的に直線的となるように配列されている。つまり、PTC素子のX方向両端のエッジ部がそれぞれの素子について揃うように配列されており、ヒータのX方向に測った発熱領域の長さがY方向においてほぼ一様となるように構成されている。その結果、記録材の幅方向の位置に応じてX方向に測った発熱領域の長さが大きく異なることがない。
【0061】
このように、隣り合うPTC素子間の領域において発熱領域の一部がオーバーラップするように構成したため、この領域(図5の□A)とPTC素子が単独に存在する領域(図5の□B)とで大きな温度差が生じてしまうのを防止することができる。
【0062】
従って、定着フィルムのY方向における温度分布もほぼ一様とすることができ、定着不良が発生するのを防止することができる。つまり、ヒータの発熱領域の形状が概略長方形状となる。この結果、画像形成開始信号が入力されてから定着処理が可能となるまでのウエイトタイムを延ばすことなく、画像の光沢ムラなどの画像不良を発生させず、高画質化を達成することが可能となる。
【0063】
図5は隣り合うPTC素子間の領域を拡大して示す図である。
【0064】
この図5では、隣り合うPTC素子の一方を503a、他方を503bとして示している。上述したようにPTC素子間には熱膨張などを考慮した空間△Lが設けられている。
【0065】
PTC素子503aと503bは、前述したように、記録材の搬送方向Xから見て互いがオーバーラップするように配置されている。
【0066】
ここで、2点鎖線で区切られた領域□Aと□Bを図5を用いて説明する。この領域□Aと領域□Bは以下の条件下で予め定めた設定領域である。
【0067】
具体的には、領域□Aと領域□Bは、X方向の設定長さがX1でY方向の設定長さがY1の長方形とされ、いずれの領域も設定面積(切り取り面積)は同じである。なお、Y方向の設定長さ(切り取り長さ)Y1は、隣り合う発熱領域がオーバーラップしている最大長さαよりも短い関係にある。
【0068】
このように、領域□Aは隣り合う発熱素子による発熱領域がオーバーラップした領域であり発熱領域と非発熱領域が混在している。一方、領域□Bは発熱素子による発熱領域のみが存在し非発熱領域の無い領域である。
【0069】
図5を見れば分かるように、PTC素子503aと503b間をまたぐ領域□Aは、面積S2分だけ発熱面積が領域□Bに対して少ない。ここで、画像不良となる光沢ムラが目視可能となるのは、10度以上の温度差が生じた場合であり、本発明者の検証実験によると、以下の関係を満足するのが好ましいことが判明した。
【0070】
つまり、領域□Aのうち、発熱領域となっている面積はS1aとS1bを加算したものになる。一方、領域□Aのうち、非発熱領域となっている面積はS2である。言い換えると、領域□Bの面積は(S1a+S1b)+S2となる。このようにS1a、S1b、S2を定義したとき、
0.8≦S2/{(S1a+S1b)+S2}・・・・(1)
を満たすのが好ましい。
【0071】
ここで、(S1a+S1b)=S1であるので、
0.8≦S2/(S1+S2)・・・・(2)
と言い替えることができる。
【0072】
つまり、隣り合う発熱素子による発熱領域がオーバーラップしている領域□Aは発熱領域の面積S1と非発熱領域S2とを足し合わせた領域となり、この領域□Aにおいて、上述の式(2)を満たしていることが望ましい。
【0073】
本例の場合、熱膨張を考慮した空間△Lは、0.5〜1.0mm程度確保するのが好ましい。従って、図5の角度θ(平行四辺形の内角(鋭角))は60°以下に設定するのが好ましい。このように、△L、角度θを設定すれば、上記式(1)、(2)を満足することができる。
【0074】
また、角度θが小さいほど、上記式の右辺の値は大きくなるが、その結果、PTC素子503の頂点部(θ部)は鋭角になるため、PTC素子の焼成成型時の欠けが発生する懸念がある。そこで、このような点を考慮して、PTC素子503の形状(θ)や、△Lを設定するのが好ましい。
【0075】
なお、本例では、PTC素子のY方向両端のエッジ形状は直線状である例を示したが、エッジ形状が曲線状であっても何ら構わない。
【0076】
また、本例では、本発明の適用例として定着装置について説明したが、例えば、記録材上に定着された画像を再度加熱することにより画像の光沢度を向上させる光沢向上装置にも適用することが可能である。
【0077】
(変形例)
次の本発明の変形例について、図6、図7を用いて説明する。
【0078】
図6、図7は、PTC素子503の形状が上記実施例と異なり、PTC素子群の配列状況を示した斜視図である。
【0079】
図6に示すPTC素子503の形状は台形状を為している。この図6に示す例でも、上記実施例と同様に、隣り合うPTC素子による発熱領域の一部が記録材の搬送方向から見て互いにオーバーラップする構成となっている。
【0080】
図7に示すPTC素子503の形状は二等辺三角形状を為している。この図7に示す例でも、上記実施例と同様に、隣り合うPTC素子による発熱領域の一部が記録材の搬送方向から見て互いにオーバーラップする構成となっている。
【0081】
このように、PTC素子503の形状を台形(図6)や二等辺三角形(図7)のような対称形状であれば、上記実施例と同様に、温度ムラを抑制することが可能である。
【0082】
なお、PTC素子503の基本形状を台形や二等辺三角形としつつ、Y方向端部のエッジ部の形状を曲線状とする構成としても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】画像形成装置の正面概略図。
【図2】定着装置の概略断面構成図。
【図3】ヒータの概略断面構成図。
【図4】PTC素子群の配列状態を示す概略斜視図。
【図5】隣り合うPTC素子間の領域を示す拡大図。
【図6】ヒータの変形例を示す概略斜視図。
【図7】ヒータの変形例を示す概略斜視図。
【符号の説明】
【0084】
1Y、1M、1C、1Bk 画像形成ステーション
2a、2b、2c、2d 感光ドラム
3a、3b、3c、3d 帯電器
4a、4b、4c、4d 現像器
5a、5b、5c、5d 1次転写ローラ
6a、6b、6c、6d クリーナ
7 露光装置
8 中間転写ベルト
10 2次転写対向ローラ
11 テンションローラ
12 2次転写ローラ
16 定着装置
17 給紙カセット
18 搬送パス
21 排紙ローラ
22 排紙トレイ
31 定着ニップ
342 次転写部
501 基材
503、503a、503b PTC素子
509a、509b 電極
701 ヒータ
702 定着フィルム
703 加圧ローラ
711 板金
712 サーミスタ
713 ヒータホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材上の画像を加熱するためのヒータであって、記録材の幅方向に沿って間隔を空けて配列された発熱素子群を有するヒータにおいて、
発熱素子群は、隣り合う発熱領域の一部が記録材の搬送方向から見て互いにオーバーラップするように、且つ、記録材の幅方向から見て実質的に直線状となるように配置されていることを特徴とするヒータ。
【請求項2】
発熱領域がオーバーラップしている設定領域のうち、発熱領域の面積をS1、非発熱領域の面積をS2としたとき、
0.8≦S1/(S1+S2)
を満たすことを特徴とする請求項1のヒータ。
【請求項3】
前記発熱素子の形状は記録材の幅方向に対し傾斜したエッジ部を備えた対称形であることを特徴とする請求項1又は2のヒータ。
【請求項4】
前記発熱素子の形状は、三角形、平行四辺形、台形のいずれかであることを特徴とする請求項3のヒータ。
【請求項5】
前記発熱素子のエッジ部は曲線的に傾斜していることを特徴とする請求項3のヒータ。
【請求項6】
前記発熱素子は温度上昇に伴い電気抵抗が増大する感熱素子であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかのヒータ。
【請求項7】
記録材上の画像を加熱するためのヒータであって、記録材の幅方向に沿って間隔を空けて配列された発熱素子群を有するヒータにおいて、
前記発熱素子の形状を記録材の幅方向に対し傾斜したエッジ部を備えた対称形としたことを特徴とするヒータ。
【請求項8】
記録材上の画像を加熱する画像加熱部材と、記録材の幅方向に沿って間隔を空けて配列された発熱素子群を備え画像加熱部材を加熱するヒータと、を有する画像加熱装置において、
発熱素子群は、隣り合う発熱領域の一部が記録材の搬送方向から見て互いにオーバーラップするように、且つ、記録材の幅方向から見て実質的に直線状となるように配置されていることを特徴とする画像加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−3148(P2008−3148A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170249(P2006−170249)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】