説明

ピストン形シリンダの密封装置

【課題】 水を作動媒体とし、例えば14MPaといった高圧下で円滑に、かつ十分な耐久性を備えて、摺動する水圧シリンダの密封に好適に使用できるピストン形シリンダの密封装置を提供する。
【解決手段】 シリンダ3に収容されるピストン4a及びピストンロッド4bを有し、水を作動媒体とするピストン形シリンダ5の密封装置1である。超高分子量ポリエチレンからなるシール部材11及び支持部材12からなり、ピストン4aの外面に装着される第一の密封部材6と、超高分子量ポリエチレンからなるシール部材11及び支持部材12からなり、シリンダ3の内面3aに装着される第二の密封部材7と、ピストンロッド4bの外面に接触する凸部8bを形成されたリップ8aを有するゴム製のパッキンであって、シリンダ3の内面3aに装着される第三の密封部材8と、ピストンロッド4bの外面に接触するようにシリンダ3の内面3aに装着されてダストの侵入を防止する樹脂製の第四の密封部材9とを組み合わせて備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン形シリンダの密封装置、特に水を作動媒体とし、高圧下で円滑に摺動する水圧シリンダの密封に好適に用いることができるピストン形シリンダの密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体作動機器の作動媒体として、油を代表として、空気や水等が利用される。これらの流体作動機器では、その作動媒体に応じて、様々な密封装置が適宜使用されている。例えば、油圧用としてはシール部材にいわゆるリップを設けて気密性を高めたり、空気圧用としてはシール部材の先端にR部を設けて円滑な摺動を確保している。
【0003】
作動媒体として油を従来から使用してきた流体作動機器において、作動媒体を水に変更することにより、廃油の処理や、この流体作動機器の廃棄や事故等の解体・分解時における、作動媒体の外部への流出による環境汚染や火災発生等を事実上解消でき、環境保護に配慮した流体作動機器を提供できる。また、作動媒体として水を考慮した場合、一般的な鉱物油と比較すると、剛性が高くかつ気泡が抜けやすいために機器の作動遅れが事実上ない(体積弾性係数:鉱物油1000〜1600MPa、水2000〜2300MPa)とともに、温度変化による粘度変化が少なく低温時にも作動の変化が少ないことから流体作動機器の性能を向上できること、さらには、低温でも粘度が低くかつ粘度変化も少ないために配管等における圧力損失が少なく、熱容量が大きいため(鉱物油1890J/kg・K、水4200J/kg・K)にタンク容量を小さくでき、さらには水は入手性や価格の面で油よりも優れることから、経済性も有利である。
【0004】
しかしながら、これまで用いられてきた油圧機器の作動媒体を水に代えて水圧機器とするためには、例えば水圧シリンダでは、油圧シリンダの使用圧力である、例えば14MPaといったような高圧力に耐えることができる必要がある。なお、以降の説明では、水圧機器が水圧シリンダである場合を例にとる。
【0005】
水圧シリンダは、構造用部材として水に対する腐食性や機械的強度を満足する必要性から、ステンレス鋼を用いることが考えられ、この水圧シリンダの密封部材や摺動部材(以下、「密封部材等」と総称する)には、水環境下でステンレス鋼と相性が良い樹脂やセラミックス材を用いることが考えられる。すなわち、水圧シリンダに、油圧シリンダ等では慣用されるゴム製の密封部材等を用いようとすると、錆が早期に発生すること、密封部材等の剛性が小さいために耐圧性が不足すること、密封部材等の摩擦係数が大きく摺動抵抗が大きいために摩耗して漏れ易いとともにシリンダの摩擦損失が大きくなること、さらには、摺動抵抗の変化量が大きいためにシリンダの制御が難しくなることといった問題が想定されるからである。なお、水の表面張力が大きいために相手面に対する濡れ性が悪いこと、潤滑性が乏しいこと、氷点下の周囲温度では凍るために凍結防止対策を講じる必要があること、さらには水は使用に伴って変色、ぬめり、菌等の発生を生じて劣化することといった問題もある。さらに、水圧システムの需要が少ないために、設備費が割高になってしまうという問題もある。
【0006】
一方、樹脂製の密封部材等に関しても、弾性が乏しいために密封性が劣るとともに、水圧シリンダの潤滑条件が油圧シリンダの潤滑条件に比較するとかなり厳しいものであるために負担が大きい密封部材等の摩耗が促進されてしまう傾向にある。
【0007】
そこで、特許文献1には、水圧シリンダのシリンダチューブをポリオレフィン樹脂製とすることによってさらなる円滑な摺動性を確保する発明が開示されている。
また、特許文献2には、水圧シリンダのシリンダチューブ全体を樹脂製とするともにシリンダチューブの内側に金属製の筒体を嵌合することによって軽量化、小型化さらには耐食性を確保する発明が開示されている。
【0008】
さらに、本出願人は、先に特許文献3により、特に油圧シリンダあるいは空気圧シリンダ等の流体圧機器の密封装置として、過酸化物加硫剤で架橋することが可能なゴムからなるシール本体と、このシール本体の摺動面側に、分子量が一般的に100万以上と極めて大きく、耐摩耗性や自己潤滑性、低温での耐衝撃特性等が優れていることで知られる超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)からなる被覆層を接着剤なしで複合化した密封装置を開示した。
【0009】
【特許文献1】特開2001−12415号公報
【特許文献2】特開2003−4008号公報
【特許文献3】特開平11−325255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3により開示された従来の技術によれば、目標とする水圧シリンダそれ自体を改善することができ、流体作動機器における油圧シリンダを水圧シリンダに置換する際の技術的課題が改善される。
【0011】
しかしながら、これら従来の技術においても、水圧シリンダを構成するピストン及びシリンダ間の密封構造それ自体は、殆ど考慮されることはなく、油圧シリンダ又は空気圧シリンダの密封構造をそのまま流用しているに過ぎないものである。
【0012】
このため、上述したように、1MPa以上の圧力下、とりわけ例えば14MPaといったような高圧力下で使用される水圧シリンダを提供しようとすると、水圧シリンダの密封部材等の耐久性や摺動特性が不足するおそれが高い。このため、水圧シリンダの密封部材等として好適な密封装置を提供する必要がある。
【0013】
すなわち、作動媒体として油を使用してきた流体作動機器の作動媒体を水に変更する際の課題は、作動媒体である水が低粘度であるために漏れ易く水膜を形成し難いとともに、また潤滑液膜を形成することが難しく潤滑性が乏しいために密封部材であるパッキンの摩耗が促進されてしまうことから、水を作動媒体とする流体作動機器を現に提供することができない点である。
【0014】
本発明の目的は、ピストン形シリンダの密封装置を提供することであり、具体的に説明すると、特に水を作動媒体とし、1MPa以上の圧力下、とりわけ例えば14MPaといったような高圧力下で円滑に、かつ十分な耐久性を備えて、摺動する水圧シリンダの密封に好適に使用することができるピストン形シリンダの密封装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述した課題を解決することができるピストン型シリンダの密封装置について、密封部材の材料及び形状について検討した。
密封部材は、吸水や膨潤等により性状及び寸法変化を生じないとともに水膜の形成が期待できないために自己潤滑性を有する材料からなることが必要である。このような材料としては、充填材入り4弗化エチレン樹脂(PTFE)、超高分子量ポリエチレン樹脂(UHMWPE)さらには自己潤滑性を有するゴム等が挙げられるが、水を作動媒体とする場合には超高分子量ポリエチレン樹脂(UHMWPE)を用いることが望ましい。
【0016】
一般的にシールシステムにおいて一次シールは、作動媒体を密封し圧力を確実に遮断することにより、シリンダを確実に作動させることを第一の目的とするが、水膜(油膜)程度の微小な漏れであってもシリンダの作動には殆ど影響しない。
【0017】
一次シールのピストン用は圧力側及び非圧力側の両側に、ピストンロッド用は圧力側において、密封部材の周囲は作動媒体である水により囲まれていることから、比較的水膜を維持し易いものの、水は油に比較して潤滑が乏しいためにスティックスリップ現象(水の圧縮性とパッキン・摺動部の摩擦力変化等により生じる自励振動によるびびり)が発生しやすくなることを考慮し、シール部材と支持部材とからなる密封部材(本明細書では後述するように「STNシール」ともいう)を用いる。
【0018】
一方、二次シールの密封部材は、水膜が外部に曝されるために水膜が厚いと当然水漏れになるが、薄くても水が蒸発し、さらに潤滑状態が悪化するため、ロッド表面の水膜維持は難しい。二次シールとして上述したSTNシールだけを用いたのでは密封性が不足するので、水膜をコントロールすること、すなわち外部への水漏れを防止することが難しい。そこで、二次シールを、上述したSTNシールとともに、リップ先端形状が丸みを持った複数の環状突起により、ロッド外周面になだらかな接触面圧を形成することができるとともに凹部にグリース又は水を保持することによって潤滑性を保持することができる空気圧用シール(「GLYパッキン」ともいう)を用いて行うことにより、水膜を厚くして潤滑状態を改善することが可能となる。
【0019】
また、外部からの塵埃等を防止してシリンダ内部にあるパッキンや軸受けを保護するために、三次シールとしてダストシールを用いる。
本発明者らは以上の知見に基づいて鋭意検討を重ねた結果、シリンダに収容されるピストン及びピストンロッドを有するとともに水を作動媒体とするピストン形シリンダに複数の密封部材を設けるとともに、これら複数の密封部材の設置位置、材質さらには構造を具体的に特定することによって、例えば14MPaといった高圧下でも、円滑にかつ十分な耐久性を備えて摺動する水圧シリンダの密封に好適に使用することができるピストン形シリンダの密封装置を提供できることを知見して、本発明を完成した。
【0020】
本発明は、シリンダに収容されるピストン及びピストンロッドを有し、水を作動媒体とするピストン形シリンダの密封装置であって、超高分子量ポリエチレンからなるシール部材、及びシール部材をシリンダの内面へ向けて付勢する支持部材からなり、ピストンの外面に装着される第一の密封部材と、超高分子量ポリエチレンからなるシール部材、及びシール部材をピストンロッドの外面へ向けて付勢する支持部材からなり、シリンダの内面に装着される第二の密封部材と、ピストンロッドの外面に接触する凸部を形成されたリップを有するゴム製のパッキンであって、シリンダの内面に装着される第三の密封部材と、ピストンロッドの外面に接触するようにシリンダの内面に装着されてダストの侵入を防止する樹脂製の第四の密封部材とを組み合わせて備えることを特徴とするピストン形シリンダの密封装置である。
【0021】
この本発明に係るピストン形シリンダの密封装置では、第一の密封部材、第二の密封部材、第三の密封部材及び第四の密封部材を、ピストンからピストンロッドへ向かう方向にこの順で備えることが望ましい。
【0022】
なお、本出願人が上述した特許文献3により開示したように、ゴム製のシール部材の摺動面側に超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)からなる被覆層を接着剤なしで複合化した、流体圧機器の密封装置は既に公知である。しかしながら、特許文献3のみならず特許文献1、2においても、例えば14MPaといった高圧下で水を作動媒体とするピストン形シリンダに設けられた複数の密封部材の設置位置、材質さらには構造は、何ら示唆されていない。本発明の意義は、これを明らかにすることによって、このような高圧下においても円滑に、かつ十分な耐久性を備えて、摺動する水圧シリンダの密封に好適に使用することができるピストン形シリンダの密封装置を現に提供することができる点にある。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、特に水を作動媒体とし、1MPa以上の圧力下、とりわけ例えば14MPaといったような高圧力下で円滑に摺動する水圧シリンダの密封に好適に使用することができるピストン形シリンダの密封装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係るピストン形シリンダの密封装置を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係るピストン形シリンダの密封装置1の構造の一例を示す縦断面図である。図1では、ピストンの中心線lよりも下半分は省略してある。
【0025】
図1に示す密封装置1は、水を作動媒体とするピストン形シリンダ5の密封装置1である。ピストン形シリンダ5は、周知慣用のものであり、本例においてもシリンダ3に収容されてシリンダ3の対向摺動面を構成するピストン4a及び外部へ露出するピストンロッド4bを有している。
【0026】
そして、この密封装置1は、第一の密封部材6、第二の密封部材7、第三の密封部材8及び第四の密封部材9を、ピストン4aからピストンロッド4bへ向かう方向(図1における右から左へ向かう方向)にこの順に備える。そこで、密封装置1の構成要素である密封部材6〜9を、以下に順次説明する。
【0027】
[第一の密封部材6]
図2は、第一の密封部材6及び後述する第二の密封部材7を抽出して示す説明図である。
【0028】
図1及び図2に示すように、第一の密封部材6は、ピストン4aの外周面に環状に刻設された溝部10に適宜手段によって装着されて収容される。この第一の密封部材6は、シール部材11と支持部材(バックリング)12とにより構成され、ピストンシールをなすものである。なお、本明細書では、シール部材11及び支持部材12により構成される第一の密封部材6を、「STNシール」ともいう。
【0029】
シール部材11は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)により構成される。ここで、「超高分子量ポリエチレン」とは、分子量が一般的に100万以上と極めて高く、耐摩耗性や自己潤滑性、さらには低温での耐衝撃性等が優れるものである。超高分子量ポリエチレンは通常の販路で市販されており、例えば三井石油化学工業(株)製のハイゼックスミリオン240M(商品名)を用いることができる。
【0030】
上述したように、水を作動媒体とするピストン形シリンダ5の密封装置1のシール部材11の材料には、(a)吸水、潤滑等によっても性状及び寸法がいずれも変化しないこと、及び(b)水膜形成が期待できないので、自己潤滑性を有するものであることがある。このような材料としては、充填材入り4弗化エチレン樹脂(PTFE)、超高分子量ポリエチレン樹脂(UHMWPE)さらには自己潤滑性を有するゴム等を挙げることができるが、本発明では水を作動媒体とするため、水との相性が最もよい超高分子量ポリエチレン樹脂(UHMWPE)を用いる。
【0031】
また、このシール部材11は、横断面が矩形であって円環状をなす形状に形成されている。形成手段等は公知の手段によればよく、特定の手段には限定されない。シール部材11の外周面が接触面11aとしてシリンダ3の内周面3aに接触することにより、ピストン4aとシリンダ3とを密封する。
【0032】
なお、本例とは異なり、シール部材11を、シール部材11の接触面11aのみを超高分子量ポリエチレンにより構成する複合化シールとしてもよい。
一方、支持部材12は、例えばゴム等の弾性を有する材料(本例ではNBR)により、横断面が円形であって円環状をなす形状に形成されている。そして、支持部材12は、シール部材11の内面側の面(接触面11aに対向する位置に形成された面)を支持することにより、シール部材11をシリンダ3の内面3a側へ向けて付勢する。これにより、シール部材11の外周面がシリンダ3の内面3aに面接触し、シリンダ3とピストン4aとが密封される。
【0033】
すなわち、シール部材11及び支持部材12により構成される第一の密封部材6の周囲は、水で囲まれることとなるために比較的水膜を維持し易いものの、油に比較すると潤滑性が乏しいために、スティックスリップ現象が発生し易いことを考慮し、STNシールを用いた。
本実施の形態における第一の密封部材6は、以上のように構成される。
【0034】
[第二の密封部材7]
図1及び図2に示すように、第二の密封部材7は、シリンダ3の内面に環状に刻設された溝部3bに装着されて収容される。すなわち、第二の密封部材7は、後述する第3の密封部材8及び第4の密封部材9とともに、ロッド用パッキンを構成する。しかし、ロッド用パッキンは、水膜が外部に曝されるため、水膜が厚いと当然水漏れを生じるが、薄い場合にも水が蒸発し、さらに潤滑状態が悪化する。このため、ロッド表面の水膜の維持は難しい。このため、この第二の密封部材7だけでは、充分な密封性を確保することが難しく、水膜をコントロールすること、つまり外部への水漏れを防止することができない。
【0035】
そこで、本発明では、この第二の密封部材7によって、多少の水漏れは許容しても、シリンダ5の内部の圧力を確実に遮断するとともに、後述する第3の密封部材8により水膜を確実にコントロールして水漏れを防止する。
【0036】
第二の密封部材7も、第1の密封部材6と同様に、シール部材11及び支持部材12からなる「STNシール」により構成される。支持部材12が、シール部材11の外面側を支持することにより、シール部材11をピストンロッド4bの外面側へ向けて付勢する。これにより、シール部材11の内周面がピストンロッド4bの外面に面接触する。これにより、第二の密封部材7は、後述する第三の密封部材8とともに、シリンダ3に対するピストン4aの密封性を確保する。
【0037】
本実施の形態における第二の密封部材7は、以上のように構成される。
図3、4は、いずれも、上述した第一の密封部材6及び第二の密封部材7の変形例6−1、6−2、7−1、7−2を示す説明図である。
【0038】
図3に示す変形例6−1、7−1は、シール部材11の接触面11aに環状に突起13を二本形成したものである。これにより、接触面圧を高めることができるため、密封性を向上することができる。また、突起13に方向性を設けることにより、圧力側から非圧力側(第二の密封部材7と第三の密封部材8との間)へさらに水膜を薄く形成することができるとともに、非圧力側へ漏れ出た水膜を圧力側に容易に引き込むことができる。本明細書では、変形例6−1、7−1を「SMJシール」ともいう。
【0039】
一方、図4に示す変形例6−2、7−2では、支持部材12として横断面が矩形であってあって環状に形成されたものを用いるとともに、シール部材11として横断面が円形であって環状に形成されたものを用いた。これにより、なだらかな接面応力分布を得ることができる。本明細書では、「STシール」ともいう。
【0040】
なお、作動媒体の外部への漏れを特に防止する必要がある場合には、第一の密封部材6及び第二の密封部材7として、シール部材11及び支持部材12を組み合わせたSTNシール、SMJシール又はSTシールとともに、公知のゴム製の各種シールを併用することとしてもよい。これにより、シリンダ3に対するピストン4aの密封性をさらに高めることができ、作動媒体である水が外部へ漏洩することを確実に防止できる。
【0041】
本実施の形態における第二の密封部材7は、以上のように構成される。
[第三の密封部材8]
図5は、本実施の形態における第三の密封部材8を示す説明図である。
【0042】
図1、5に示すように、第三の密封部材8は、シリンダ3の内面に環状に刻設された溝部3cに装着されて収容される。この第三の密封部材8は、ピストンロッド4bの外面に接触する凸部8bを形成されたリップ8aを有するパッキンであり、空気圧用パッキンとして周知慣用のものである。本明細書では「GLYパッキン」ともいう。
【0043】
リップ8aの先端8dは、面取りした曲面形状又はストレートな平面形状となっており、これにより、ピストンロッド4bの外周面になだらかに小さな接面応力分布を形成できる。また、GLYパッキン8は、凹部8cにグリース又は水を保持することができるため、潤滑性を確保することができる。
【0044】
また、第三の密封部材8の材質としては、一般的に1MPa以下で使用されることから、硬さHsが70のものを用いることが望ましい。GLYパッキンでは、Hs73であることから、さらに材料自体に自己潤滑作用のある特殊配合のゴムを用いている。これにより、潤滑性及び摺動性を充分に確保することができる。
【0045】
本発明者らの知見によると、この第三の密封部材8として、リップ先端がシャープな形状を有するために水膜を掻き出し易く外部漏れを生じ難い、NBRからなる油圧用のSNYパッキンを用いると、潤滑状態が悪いことに起因して、このSNYパッキンの摩耗が促進され、所望の耐久性が得られない。
【0046】
そこで、本発明では、第三の密封部材8として、このSNYパッキンにより形成される水膜よりは厚さが大きい水膜を形成することができるとともに外部漏れを確実に防止するために、GLYパッキンを用いている。
【0047】
第三の密封部材8は、第二の密封部材7とともに、シリンダ3に対するピストン4aの密封性を確保する。
本実施の形態における第三の密封部材8は、以上のように構成される。
【0048】
[第四の密封部材9]
図6は、第四の密封部材9の構造を示す説明図である。
第四の密封部材9は、シール部材13及び支持部材(バックリング)14により構成される。なお、本明細書ではこの第四の密封部材9を、「SDRスクレーパ」ともいう。
【0049】
シール部材13は超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)であり、支持部材14はNBRからなるOリングである。シール部材13にはPTFEを用いることも可能であるが、UHMWPEのほうが水との相性がよい。また、SMDスクレーパ9は、平面状の接触面を有する二つの接触部13a,13bが突設されたシール部材13を有するため、なだらかな接面応力分布を示す。
【0050】
これにより、SMDスクレーパからなる第四の密封部材9は、図1及び図6に示すように、ピストンロッド4bの外面に接触するようにシリンダ3の内面に装着されてダストの侵入を防止する。
【0051】
図7は、リップ9a、9bを有するゴム製のシール部材であるSDRシール9−1の構造を示す説明図である。このSDRシール9−1は、一般油圧用シリンダでは慣用されるNBR製のダストシールであり、リップ9aにより塵埃の侵入を防止し、リップ9bによりオイルシールを行うものである。
【0052】
本発明者らの知見によると、SDRシール9−1を第4の密封部材9として用いると、リップ9aがシャープエッジとなっているため、潤滑性が悪化して著しく摩耗してしまい、所望の耐久性を確保できない。
【0053】
このため、本実施の形態では、ゴム単体からなるSDRシール9−1を用いたダストシールは困難であると判断し、上述したように、シール部材13及び支持部材(バックリング)14により構成されるSMDスクレーパ9を用いた。
【0054】
このSMDスクレーパ9により、充分な耐久性を維持しながら、大気側のエッジ13cにより塵埃等の侵入を防止できるとともに、パッキン側のエッジ13dにより薄い水膜を形成でき、外部への水漏れを防止できる。
【0055】
第四の密封部材9は、外部からの塵埃等を防止して、シリンダ内部にあるパッキンや軸受を保護する。
本実施の形態における第四の密封部材9は、以上のように構成される。
【0056】
なお、図1における符号16〜19は軸受を示す。軸受16〜19は、ピストンロッド4bの荷重を受けて偏心を防止するためのもので、一般的には布入りのフェノール樹脂や、ポリアミド樹脂、金属(金属にPTFEを焼き付けたタイプ;例えば大同メタル工業(株)のDUブッシュ)が用いられるが、布入りフェノール樹脂やポリアミド樹脂は吸水性が大きいために使用できない。そこで、軸受16〜19も超高分子ポリエチレンUHMWPEからなるリングを用いることが望ましい。ただし、樹脂製の軸受では寸法精度の関係から、ガタが大きくシール性に影響があることがあるため、軸受の数を増やすとともに、水圧側には防錆処理または対策された金属製の軸受(DUブッシュ)を用いることが望ましい。
【0057】
また、符号21は、水のドレンポートを示す。ドレンポート21は、第三の密封部材8がシール水を排水するためのものであり、これにより、第二の密封部材7と第三の密封部材8との間で圧力が高まり、第三の密封部材8に圧力がかかって耐久性が損なわれることを防止する。但し、第二の密封部材7を「SMJシール」のような非圧力側へ漏れ出た水膜を圧力側へ容易に引き込むことができるシールを使用すればドレンポートを設置してもしなくても良い。
【0058】
このように、本実施の形態の密封装置1では、密封部材6、7のシール部材11を、ゴムよりも摩擦係数が小さい超高分子量ポリエチレンにより構成したため、第一、二の密封部材6、7の摺動抵抗を小さくできた。
【0059】
また、本実施の形態の密封装置1では、超高分子量ポリエチレンからなるシール部材11及びゴムからなる支持部材12を備えるSTNシールを用いたため、摺動抵抗の変化量を小さく、かつ安定した状態を維持できる。
【0060】
さらに、本実施の形態の密封装置1では、超高分子量ポリエチレンからなるシール部材11及びゴムからなる支持部材12を備えるSTNシールを用いたため、密封部材6、7の耐久性を向上させるとともに密封性を改善することができる。
【0061】
これにより、本実施の形態によれば、水を作動媒体とし、例えば14MPaといった高圧下で円滑に、かつ十分な耐久性を備えて、摺動する水圧シリンダ5の密封に好適に使用することができるピストン形シリンダの密封装置1を提供できた。
【実施例】
【0062】
さらに、本発明を実施例を参照しながら説明する。
図1〜6に示す本発明に係る密封装置1において、第三の密封部材8及び第四の密封部材9を適宜変更して、作動媒体として14MPaの水圧をかけた状態で耐久試験を行った。最低作動圧力は、片方のポートから水をシリンダ3内に供給して、ピストン4aが作動した時の圧力として、計測した。密封装置1の諸元を、計測条件とともに以下に列記する。
【0063】
シリンダ3の寸法:シリンダチューブ径50mm、ピストンロッド径28mm、シリンダストローク300mm
圧力:14MPa
シリンダ速度:150mm/sec
水温:37.5〜40℃
【0064】
図8は、第3の密封部材8を置換した、ゴム製の油圧用パッキン20(SNYパッキンという)を示す説明図である。最低作動圧力の計測結果を、試験条件とともに表1にまとめて示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示す結果からも分かるように、第四の密封部材はゴム製のSDRスクレーパのほうが樹脂製のSMDスクレーパよりも、摺動抵抗が小さくなり、有利であった。
【0067】
このように、摺動抵抗を低減するためには、第四の密封部材としてゴム製のSDRスクレーパが有利であるが、耐久性を考慮して耐久試験は表1におけるA、Bのみについて行った。結果を表2にまとめて示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示す結果からも分かるように、第三の密封部材8をGLYパッキンとするとともに第四の密封部材9をSMDスクレーパとした本発明に係るピストン形シリンダの密封装置1によれば、その耐久性を極めて顕著に向上できたことがわかる。
【0070】
したがって、本発明によれば、水を作動媒体とし、1MPa以上の圧力下、とりわけ例えば14MPaといったような高圧力下で円滑に、かつ十分な耐久性を備えて、摺動する水圧シリンダの密封に好適に使用することができるピストン形シリンダの密封装置1を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施の形態に係るピストン形シリンダの密封装置の構造の一例を示す縦断面図である。
【図2】第一の密封部材及び後述する第二の密封部材を抽出して示す説明図である。
【図3】第一の密封部材及び第二の密封部材の変形例を示す説明図である。
【図4】第一の密封部材及び第二の密封部材の変形例を示す説明図である。
【図5】実施の形態における第三の密封部材を示す説明図である。
【図6】第四の密封部材を示す説明図である。
【図7】図2に示す密封装置における第四の密封部材の構造を示す説明図である。
【図8】第3の密封部材を置換したゴム製のSNYパッキンを示す説明図である。
【符号の説明】
【0072】
1 密封装置
3 シリンダ
3a 内面
3b、3c 溝部
4a ピストン
4b ピストンロッド
5 ピストン形シリンダ
6、6−1、6−2 第一の密封部材
7、7−1、7−2 第二の密封部材
8 第三の密封部材
8a リップ
8b 凸部
8c 凹部
8d 先端
9 第四の密封部材
9a、9b リップ
9−1 SDRシール
10 溝部
11 シール部材
11a 接触面
12 支持部材
13 シール部材
13a,13b 接触部
13c エッジ
13d エッジ
14 支持部材
16〜19 軸受
20 油圧用パッキン
21 ドレンポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダに収容されるピストン及びピストンロッドを有し、水を作動媒体とするピストン形シリンダの密封装置であって、
超高分子量ポリエチレンからなるシール部材、及び該シール部材を前記シリンダの内面へ向けて付勢する支持部材からなり、前記ピストンの外面に装着される第一の密封部材と、
超高分子量ポリエチレンからなるシール部材、及び該シール部材を前記ピストンロッドの外面へ向けて付勢する支持部材からなり、前記シリンダの内面に装着される第二の密封部材と、
前記ピストンロッドの外面に接触する凸部を形成されたリップを有するゴム製のパッキンであって、前記シリンダの内面に装着される第三の密封部材と、
前記ピストンロッドの外面に接触するように前記シリンダの内面に装着されてダストの侵入を防止する樹脂製の第四の密封部材と
を組み合わせて備えることを特徴とするピストン形シリンダの密封装置。
【請求項2】
前記第一の密封部材、前記第二の密封部材、前記第三の密封部材及び前記第四の密封部材を、前記ピストンから前記ピストンロッドへ向かう方向にこの順で備える請求項1に記載されたピストン形シリンダの密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−132660(P2006−132660A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322267(P2004−322267)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000143891)株式会社阪上製作所 (8)
【出願人】(595107173)株式会社村上製作所 (2)
【Fターム(参考)】