ピストン
【課題】 リング本体の端部リップにおける加圧成形時に発生する残留応力を減少させ、これによりシリンダ中で長期間放置後の締代変化を小さくし、スムースな伸縮作動を長期間安定して達成できるピストンを提供することである。
【解決手段】 ピストン本体1と、ピストン本体の外周に嵌合させたリング2とからなり、ピストン本体は外周に軸方向に沿う複数の環状溝1a,1b,1c,1d,1e,1fを備え、上記リング円盤状の合成樹脂母材Aをピストン本体の外周に加圧して押し込みながら加熱軟化させて形成したピストン本体の外周に沿うリング本体2aと、上記各環状溝内に流動して嵌合した内周側環状突起2cとで構成されているピストンPにおいて、リング本体2aの端部リップ2b外周側コーナを切除して加圧時に発生する当該端部リップ2bの残留応力を減少させたことを特徴とするピストン。
【解決手段】 ピストン本体1と、ピストン本体の外周に嵌合させたリング2とからなり、ピストン本体は外周に軸方向に沿う複数の環状溝1a,1b,1c,1d,1e,1fを備え、上記リング円盤状の合成樹脂母材Aをピストン本体の外周に加圧して押し込みながら加熱軟化させて形成したピストン本体の外周に沿うリング本体2aと、上記各環状溝内に流動して嵌合した内周側環状突起2cとで構成されているピストンPにおいて、リング本体2aの端部リップ2b外周側コーナを切除して加圧時に発生する当該端部リップ2bの残留応力を減少させたことを特徴とするピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダや油圧緩衝器に使用されるピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧シリンダや油圧緩衝器は、シリンダ内にピストンを介してピストンロッドが移動自在に挿入され、ピストンは、ピストン本体とピストン本体の外周に嵌合した合成樹脂リングとからなり、上記ピストンがリングを介してシリンダの内周を摺接するようになっている。
【0003】
そして、この種の油圧シリンダや油圧緩衝器に使用されるピストンとしては、例えば、特開2002-295677号公報(特許文献1参照)に開示されたものが開発されている。
【0004】
このピストンPは、図10に示すように、ピストンロッド3に結合したピストン本体1と、ピストン本体1の外周に嵌合した合成樹脂製リング2とからなり、ピストン本体1は、外周に軸方向に沿う複数の環状溝1a,1b,1c,1d,1e,1fを備え、リング2は、ピストン本体1の外周に沿うリング本体2aと、リング本体2aの内周側に形成されて上記の各環状溝1a〜1eに嵌合した複数の内周側環状突起2c,2dと、リング本体1の端部に形成されて外方に反り返る端部リップ2bとで構成され、ピストンPをシリンダ内に挿入した時端部リップ2bがシリンダ内周に当接するようになっている。
【0005】
上記のピストンPの成形方法は、特開2002-295679号公報(特許文献2参照)に開示したものが開発されている。
【0006】
即ち、このピストンPの成形方法は、図11(a),(b)に示すように、外周に軸方向に沿う複数の環状溝1d,1c等を備えたピストン本体1と、ピストン本体1の外周に嵌合されたリング本体2aと、各環状溝1d,1c等に嵌合された内周側環状突起2cとからなるリング2とで構成されているピストンにおいて、円盤状の合成樹脂製リング母材Aの内周端をピストン本体1の端面側環状溝に嵌合させ、次いで、ピストン本体1を固定治具7,8で固定しながらダイス9によって上記のリング母材Aをピストン本体1の外周に加圧して押し込み、更に、この押し込み工程中にリング母材Aを加熱軟化させてピストン本体1の外周に沿うリング本体2aと上記各環状溝2c内に流動させた内周側環状突起とを成形するものである。
【特許文献1】特開2002-295677号公報(図1)
【特許文献2】特開2002-295679号公報(図面)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のピストンPでは機能上特に欠陥があるわけではないが、次のような不具合の改善が望まれている。
【0008】
即ち、図12のようにダイス9でリング2の端部リップ2bを加圧してピストン本体1側に押圧した時矢印で示すような外周側では引張りの残留応力X1、X2が発生し、同じく内周側には圧縮の残留応力Y1、Y2が発生する。
【0009】
その結果、図13で示すように、端部リップ2bはダイス9の押圧時位置Z1に対して、ダイス9を取り外した直後では上記の残留応力X1、X2およびY1、Y2によってリング2に力の作用が無い状態で位置Z2まで反り返り、更にこれを長期間放置すると位置Z3まで大きく反り返る。
【0010】
この為、図2 に示すように、ピストンPをシリンダ内(図示せず)に挿入しようとした時シリンダ内径はリング2の外形とほぼ等しいことから、位置Z3まで端部リップ2bが反り返っていると、締代S1が大きくなる。その為、端部リップ2bの上端部がシリンダの内周面に圧接され、端部リップ2bとシリンダ間の面圧を増大させてフリクションを増大させる。
【0011】
このことは、油圧シリンダや油圧緩衝器のピストンロッド伸縮作動時に摺動抵抗が大きくなり、スムースな動きを達成できないおそれがあるから車両の乗り心地や操安性の長期的安定性を低下させる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、リング本体の端部リップにおける加圧成形時に発生する残留応力を減少させ、これによりシリンダ中で長期間放置後の締代変化を小さくし、スムースな伸縮作動を長期間安定して達成できるピストンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明に係るピストンは、ピストン本体と、ピストン本体の外周に嵌合させたリングとからなり、ピストン本体は外周に軸方向に沿う複数の環状溝を備え、上記リングが円盤状の合成樹脂母材をピストン本体の外周に加圧して押し込みながら加熱軟化させて形成したピストン本体の外周に沿うリング本体と上記各環状溝内に流動して嵌合した内周側環状突起とで構成されているピストンにおいて、リング本体の端部における端部リップ外周側コーナを切除して加圧時に発生する当該端部リップの残留応力を減少させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
端部リップの外周側コーナを切削しているから、切除した分加圧成形時に発生した端部リップの残留応力が減少し、端部リップが徐々に反り返る作用が少ない。
【0015】
この為、シリンダに挿入されて使用されているとき、端部リップとシリンダとのフリクションを増大させることが少ない。
【0016】
また、仮に端部リップが反り返っても締代そのものを小さくでき、これに対応して長期間放置後の端部リップのシリンダに対する締代変化が小さくなるから、ピストンのシリンダに対する摺動抵抗が長期間安定して小さくなり、ピストンの伸縮作動がスムースとなる。従って車両の乗り心地の向上や操安性の安定化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図8に基づいて説明するが、本発明に係るピストンは、油圧シリンダあるいは油圧緩衝器などに利用されるもので、その基本的な構造は、図10の従来技術と同じである。
【0018】
即ち、本発明に係るピストンPは、図1に示すように、従来と同じくピストン本体1と、ピストン本体1の外周に嵌合させたリング2とからなり、ピストン本体1は外周に軸方向に沿う複数の環状溝1a,1b,1c,1d,1e,1fを備え、上記リング2が従来の図11と同じ円盤状の合成樹脂母材Aをピストン本体1の外周に加圧して押し込みながら加熱軟化させて形成したピストン本体1の外周に沿うリング本体2aと、上記各環状溝1a〜1f内に流動して嵌合した複数の内周側環状突起2cとで構成されているものである。
【0019】
そして、本発明では、特に、図2に示すように、ダイス9を取り外した直後では残留応力で位置Z4まで端部リップ2bが反り返っているので、この状態の位置で端部リップ2bの外周側コーナを切除して加圧成形時に発生した当該端部リップ2bの残留応力を減少させている。
【0020】
この場合、端部リップ2bのコーナを切除するパターンはいろいろある。代表的な切除形態としては、例えば、図2に示すように、端部リップ2bの左側端面方向に向けて勾配を縮径する円錐台状の環状の傾斜面10を形成している。
【0021】
即ち、図2に示すようにリング2をダイス9でピストン本体1に押圧して成形した後にカッター等で線11に沿って端部リップ2bの外周側コーナを切除して傾斜面10を成形している。
【0022】
この場合、端部リップ2bの最端部たる左側端面の直径は、リング本体2aの直径より小さくなり、これにより端部リップ2bの加圧成形時に発生した残留応力を切除した分減少出来る。
【0023】
しかも、シリンダに対する締代S2が従来の締代S1に比べて小さくなり、ピストン2のシリンダに対する摺動抵抗が小さくなる。
【0024】
前記したように、本発明では、端部リップ2bの外周側コーナを切除して傾斜面10を成形しているので当該端部リップ2bの残留応力が切除した分減少し、併せて長期間放置後の端部リップ2bが最大に反り返ったとしても、その最端部たる左側端面の仮想位置は端部リップ2bの外周コーナを切除しない場合の位置Z3に比べて締代位置が小径となる。
【0025】
このことから、本発明によれば、シリンダ内周面に対する端部リップ2bの締代を小さくできると同時に締代の長期安定化を図ることができ、しいてはシリンダ内におけるピストンのスムースな伸縮作動を長期間に亘って実現できる。
【0026】
更に、上記のように傾斜面10を形成した場合、端部リップ2bがシリンダに挿入した時このシリンダの内周面に当接するのは切除始点Bであり、この切除始点Bの角度θは鈍角で比較的ゆるやかであるから、シリンダ内を摺動する場合でもシリンダ内周面に対する面圧の増加が起こらず、シリンダ内周の油膜を切らず、スティックスリップの発生も防止できる。
【0027】
本発明のピストンPの成形工程は、図11と同じである。尚、図9に示すように、環状溝1b〜1eの内周面、例えば、側面に波形又は鋸歯状等の粗面1Aを形成してリング2が矢印B方向に抜けるのを防止するのが好ましい。
【0028】
図3は、本発明の他の実施形態を示すが、これは、リング本体2aの外周面と端部リップ2b側の傾斜面10との連なる部位を後加工又は同時加工で滑らかな面、例えば、凸状の湾曲面12とし、シリンダに対する摺動抵抗をより小さくしたものである。他の構成、作用効果は、図1の場合と同じである。
【0029】
図4乃至図8は、本発明の他の実施形態を示し、これらは、端部リップ2bの外周側コーナを切除した時のいろいろな形状パターンを示すものである。
【0030】
図4は、端部リップ2bの外周側コーナを切除して傾斜面10Aを形成した点は同じであるが、これは、切除位置をよりコーナの外側寄りに近づけたものである。
【0031】
図5は、切除して形成した面を曲面10Bとしたものである。
【0032】
図6は、図5の場合と同じく曲面を形成するにあたり、図5の曲面10Bより曲率を大きくした曲面10Cとしたものである。
【0033】
図7は、端部リップ2bの外周側コーナを図2と同じように切除して傾斜面10Dとしたものであるが、この場合の切除始点は図2の切除始点Bより更にリング本体2aの外面寄りにしたもので、残留応力の残留によりリング2が径方向に変形して反り返っている部分をすべて切除せている。
【0034】
この為、締代がゼロ又はゼロ近くになり、長期間放置後でも他の実施形態のものに比べてより摺動抵抗の小さいピストンを実現できる。
【0035】
図8は、端部リップ2bの外周コーナを直角又はやや直角に切除した切取り断面を矩形面10Eとしたものである。
【0036】
上記の各実施の形態の作用効果は、図1,図2の形態の場合と同じであり、切除形態は、図示のものに限定されるものではなく、例えば、端部リップ2bの反り返っている部分をリング本体2aに沿って水平に切除しても良く、要は、端部リップ2bの外側コーナを切除して残留応力を減少させる態様であれば全て使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るピストンの一部切欠き縦断側面図である。
【図2】図1の端部リップ部分の拡大断面図である。
【図3】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図4】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図5】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図6】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図7】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図8】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図9】図1の環状溝の拡大断面図である。
【図10】従来のピストンの一部切欠き縦断側面図である。
【図11】(a),(b)は従来のピストンを成形する工程を示すピストン本体とリング母材とダイスの断面図である。
【図12】従来のピストン成形時の残留応力を示す拡大断面図である。
【図13】従来のピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ピストン本体
1a,1b,1c,1d,1e,1f 環状溝
2 リング
2a リング本体
2b 端部リップ
P ピストン
10 傾斜面
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダや油圧緩衝器に使用されるピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧シリンダや油圧緩衝器は、シリンダ内にピストンを介してピストンロッドが移動自在に挿入され、ピストンは、ピストン本体とピストン本体の外周に嵌合した合成樹脂リングとからなり、上記ピストンがリングを介してシリンダの内周を摺接するようになっている。
【0003】
そして、この種の油圧シリンダや油圧緩衝器に使用されるピストンとしては、例えば、特開2002-295677号公報(特許文献1参照)に開示されたものが開発されている。
【0004】
このピストンPは、図10に示すように、ピストンロッド3に結合したピストン本体1と、ピストン本体1の外周に嵌合した合成樹脂製リング2とからなり、ピストン本体1は、外周に軸方向に沿う複数の環状溝1a,1b,1c,1d,1e,1fを備え、リング2は、ピストン本体1の外周に沿うリング本体2aと、リング本体2aの内周側に形成されて上記の各環状溝1a〜1eに嵌合した複数の内周側環状突起2c,2dと、リング本体1の端部に形成されて外方に反り返る端部リップ2bとで構成され、ピストンPをシリンダ内に挿入した時端部リップ2bがシリンダ内周に当接するようになっている。
【0005】
上記のピストンPの成形方法は、特開2002-295679号公報(特許文献2参照)に開示したものが開発されている。
【0006】
即ち、このピストンPの成形方法は、図11(a),(b)に示すように、外周に軸方向に沿う複数の環状溝1d,1c等を備えたピストン本体1と、ピストン本体1の外周に嵌合されたリング本体2aと、各環状溝1d,1c等に嵌合された内周側環状突起2cとからなるリング2とで構成されているピストンにおいて、円盤状の合成樹脂製リング母材Aの内周端をピストン本体1の端面側環状溝に嵌合させ、次いで、ピストン本体1を固定治具7,8で固定しながらダイス9によって上記のリング母材Aをピストン本体1の外周に加圧して押し込み、更に、この押し込み工程中にリング母材Aを加熱軟化させてピストン本体1の外周に沿うリング本体2aと上記各環状溝2c内に流動させた内周側環状突起とを成形するものである。
【特許文献1】特開2002-295677号公報(図1)
【特許文献2】特開2002-295679号公報(図面)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のピストンPでは機能上特に欠陥があるわけではないが、次のような不具合の改善が望まれている。
【0008】
即ち、図12のようにダイス9でリング2の端部リップ2bを加圧してピストン本体1側に押圧した時矢印で示すような外周側では引張りの残留応力X1、X2が発生し、同じく内周側には圧縮の残留応力Y1、Y2が発生する。
【0009】
その結果、図13で示すように、端部リップ2bはダイス9の押圧時位置Z1に対して、ダイス9を取り外した直後では上記の残留応力X1、X2およびY1、Y2によってリング2に力の作用が無い状態で位置Z2まで反り返り、更にこれを長期間放置すると位置Z3まで大きく反り返る。
【0010】
この為、図2 に示すように、ピストンPをシリンダ内(図示せず)に挿入しようとした時シリンダ内径はリング2の外形とほぼ等しいことから、位置Z3まで端部リップ2bが反り返っていると、締代S1が大きくなる。その為、端部リップ2bの上端部がシリンダの内周面に圧接され、端部リップ2bとシリンダ間の面圧を増大させてフリクションを増大させる。
【0011】
このことは、油圧シリンダや油圧緩衝器のピストンロッド伸縮作動時に摺動抵抗が大きくなり、スムースな動きを達成できないおそれがあるから車両の乗り心地や操安性の長期的安定性を低下させる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、リング本体の端部リップにおける加圧成形時に発生する残留応力を減少させ、これによりシリンダ中で長期間放置後の締代変化を小さくし、スムースな伸縮作動を長期間安定して達成できるピストンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明に係るピストンは、ピストン本体と、ピストン本体の外周に嵌合させたリングとからなり、ピストン本体は外周に軸方向に沿う複数の環状溝を備え、上記リングが円盤状の合成樹脂母材をピストン本体の外周に加圧して押し込みながら加熱軟化させて形成したピストン本体の外周に沿うリング本体と上記各環状溝内に流動して嵌合した内周側環状突起とで構成されているピストンにおいて、リング本体の端部における端部リップ外周側コーナを切除して加圧時に発生する当該端部リップの残留応力を減少させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
端部リップの外周側コーナを切削しているから、切除した分加圧成形時に発生した端部リップの残留応力が減少し、端部リップが徐々に反り返る作用が少ない。
【0015】
この為、シリンダに挿入されて使用されているとき、端部リップとシリンダとのフリクションを増大させることが少ない。
【0016】
また、仮に端部リップが反り返っても締代そのものを小さくでき、これに対応して長期間放置後の端部リップのシリンダに対する締代変化が小さくなるから、ピストンのシリンダに対する摺動抵抗が長期間安定して小さくなり、ピストンの伸縮作動がスムースとなる。従って車両の乗り心地の向上や操安性の安定化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図8に基づいて説明するが、本発明に係るピストンは、油圧シリンダあるいは油圧緩衝器などに利用されるもので、その基本的な構造は、図10の従来技術と同じである。
【0018】
即ち、本発明に係るピストンPは、図1に示すように、従来と同じくピストン本体1と、ピストン本体1の外周に嵌合させたリング2とからなり、ピストン本体1は外周に軸方向に沿う複数の環状溝1a,1b,1c,1d,1e,1fを備え、上記リング2が従来の図11と同じ円盤状の合成樹脂母材Aをピストン本体1の外周に加圧して押し込みながら加熱軟化させて形成したピストン本体1の外周に沿うリング本体2aと、上記各環状溝1a〜1f内に流動して嵌合した複数の内周側環状突起2cとで構成されているものである。
【0019】
そして、本発明では、特に、図2に示すように、ダイス9を取り外した直後では残留応力で位置Z4まで端部リップ2bが反り返っているので、この状態の位置で端部リップ2bの外周側コーナを切除して加圧成形時に発生した当該端部リップ2bの残留応力を減少させている。
【0020】
この場合、端部リップ2bのコーナを切除するパターンはいろいろある。代表的な切除形態としては、例えば、図2に示すように、端部リップ2bの左側端面方向に向けて勾配を縮径する円錐台状の環状の傾斜面10を形成している。
【0021】
即ち、図2に示すようにリング2をダイス9でピストン本体1に押圧して成形した後にカッター等で線11に沿って端部リップ2bの外周側コーナを切除して傾斜面10を成形している。
【0022】
この場合、端部リップ2bの最端部たる左側端面の直径は、リング本体2aの直径より小さくなり、これにより端部リップ2bの加圧成形時に発生した残留応力を切除した分減少出来る。
【0023】
しかも、シリンダに対する締代S2が従来の締代S1に比べて小さくなり、ピストン2のシリンダに対する摺動抵抗が小さくなる。
【0024】
前記したように、本発明では、端部リップ2bの外周側コーナを切除して傾斜面10を成形しているので当該端部リップ2bの残留応力が切除した分減少し、併せて長期間放置後の端部リップ2bが最大に反り返ったとしても、その最端部たる左側端面の仮想位置は端部リップ2bの外周コーナを切除しない場合の位置Z3に比べて締代位置が小径となる。
【0025】
このことから、本発明によれば、シリンダ内周面に対する端部リップ2bの締代を小さくできると同時に締代の長期安定化を図ることができ、しいてはシリンダ内におけるピストンのスムースな伸縮作動を長期間に亘って実現できる。
【0026】
更に、上記のように傾斜面10を形成した場合、端部リップ2bがシリンダに挿入した時このシリンダの内周面に当接するのは切除始点Bであり、この切除始点Bの角度θは鈍角で比較的ゆるやかであるから、シリンダ内を摺動する場合でもシリンダ内周面に対する面圧の増加が起こらず、シリンダ内周の油膜を切らず、スティックスリップの発生も防止できる。
【0027】
本発明のピストンPの成形工程は、図11と同じである。尚、図9に示すように、環状溝1b〜1eの内周面、例えば、側面に波形又は鋸歯状等の粗面1Aを形成してリング2が矢印B方向に抜けるのを防止するのが好ましい。
【0028】
図3は、本発明の他の実施形態を示すが、これは、リング本体2aの外周面と端部リップ2b側の傾斜面10との連なる部位を後加工又は同時加工で滑らかな面、例えば、凸状の湾曲面12とし、シリンダに対する摺動抵抗をより小さくしたものである。他の構成、作用効果は、図1の場合と同じである。
【0029】
図4乃至図8は、本発明の他の実施形態を示し、これらは、端部リップ2bの外周側コーナを切除した時のいろいろな形状パターンを示すものである。
【0030】
図4は、端部リップ2bの外周側コーナを切除して傾斜面10Aを形成した点は同じであるが、これは、切除位置をよりコーナの外側寄りに近づけたものである。
【0031】
図5は、切除して形成した面を曲面10Bとしたものである。
【0032】
図6は、図5の場合と同じく曲面を形成するにあたり、図5の曲面10Bより曲率を大きくした曲面10Cとしたものである。
【0033】
図7は、端部リップ2bの外周側コーナを図2と同じように切除して傾斜面10Dとしたものであるが、この場合の切除始点は図2の切除始点Bより更にリング本体2aの外面寄りにしたもので、残留応力の残留によりリング2が径方向に変形して反り返っている部分をすべて切除せている。
【0034】
この為、締代がゼロ又はゼロ近くになり、長期間放置後でも他の実施形態のものに比べてより摺動抵抗の小さいピストンを実現できる。
【0035】
図8は、端部リップ2bの外周コーナを直角又はやや直角に切除した切取り断面を矩形面10Eとしたものである。
【0036】
上記の各実施の形態の作用効果は、図1,図2の形態の場合と同じであり、切除形態は、図示のものに限定されるものではなく、例えば、端部リップ2bの反り返っている部分をリング本体2aに沿って水平に切除しても良く、要は、端部リップ2bの外側コーナを切除して残留応力を減少させる態様であれば全て使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るピストンの一部切欠き縦断側面図である。
【図2】図1の端部リップ部分の拡大断面図である。
【図3】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図4】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図5】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図6】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図7】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図8】他の実施の形態に係るピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【図9】図1の環状溝の拡大断面図である。
【図10】従来のピストンの一部切欠き縦断側面図である。
【図11】(a),(b)は従来のピストンを成形する工程を示すピストン本体とリング母材とダイスの断面図である。
【図12】従来のピストン成形時の残留応力を示す拡大断面図である。
【図13】従来のピストンの端部リップ部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ピストン本体
1a,1b,1c,1d,1e,1f 環状溝
2 リング
2a リング本体
2b 端部リップ
P ピストン
10 傾斜面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン本体と、ピストン本体の外周に嵌合させたリングとからなり、ピストン本体は外周に軸方向に沿う複数の環状溝を備え、上記リングが円盤状の合成樹脂母材をピストン本体の外周に加圧して押し込みながら加熱軟化させて形成したピストン本体の外周に沿うリング本体と、上記各環状溝内に流動して嵌合した内周側環状突起とで構成されているピストンにおいて、リング本体の端部リップ外周側コーナを切除して加圧時に発生する当該端部リップの残留応力を減少させたことを特徴とするピストン。
【請求項2】
端部リップ外周側コーナを切除した時当該端部リップの最端部直径をリング本体の直径より小さくした請求項1のピストン
【請求項3】
端部リップ外周側コーナを切除して勾配が端部リップの端面方向に向けて縮径する環状の傾斜面を形成させている請求項1のピストン
【請求項4】
リング本体の外周面と端部リップの傾斜面との連なる部位を滑らかな面に成形した請求項3のピストン。
【請求項1】
ピストン本体と、ピストン本体の外周に嵌合させたリングとからなり、ピストン本体は外周に軸方向に沿う複数の環状溝を備え、上記リングが円盤状の合成樹脂母材をピストン本体の外周に加圧して押し込みながら加熱軟化させて形成したピストン本体の外周に沿うリング本体と、上記各環状溝内に流動して嵌合した内周側環状突起とで構成されているピストンにおいて、リング本体の端部リップ外周側コーナを切除して加圧時に発生する当該端部リップの残留応力を減少させたことを特徴とするピストン。
【請求項2】
端部リップ外周側コーナを切除した時当該端部リップの最端部直径をリング本体の直径より小さくした請求項1のピストン
【請求項3】
端部リップ外周側コーナを切除して勾配が端部リップの端面方向に向けて縮径する環状の傾斜面を形成させている請求項1のピストン
【請求項4】
リング本体の外周面と端部リップの傾斜面との連なる部位を滑らかな面に成形した請求項3のピストン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−17233(P2006−17233A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196264(P2004−196264)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】
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