説明

ファルネソールを含有していないか又はファルネソールの含有量が少ないビサボロールの製造方法

本発明は、ファルネソールを選択的にエステル化した後、蒸留により分離させることによってビサボロールとファルネソールを含んでいる混合物を分離させることにより、純粋な又は高濃度のビサボロールを製造する方法に関する。本発明は、特に、ホルミル-ビサボロールとホルミル-ファルネソールを含んでいる混合物を選択的エステル交換反応に付した後、蒸留により分離させることからなる、上記方法に関する。本発明は、さらに、ファルネソールエステルを製造する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビサボロールとファルネソールを含んでいる混合物を分離させることによりファルネソールを含有していないか又はファルネソールの含有量が少ないビサボロールを製造する方法に関し、ここで、該方法は、ファルネソールを選択的にエステル化した後、蒸留により分離させることによる。本発明は、特に、ホルミル-ビサボロールとホルミル-ファルネソールを含んでいる混合物を選択的エステル交換反応に付した後、蒸留により分離させることを含む、上記方法に関する。本発明は、さらに、ファルネソールエステルを製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
α-ビサボロールは、化粧品及び製薬の観点から考えて有益なカモミール油の最も重要な成分のうちの1つである。それは、皮膚の保護及びスキンケアのためのクリーム、軟膏及びローションにおいて使用される、人気のある活性成分である。さらに、それは、日焼け止め剤、アフターサン化粧品、乳幼児ケア用組成物、アフターシェーブ製品及びオーラルケア剤においても使用される。
【0003】
「再生可能な原材料(renewable raw materials)」及び天然の有効成分に対して増大する需要のために、薬用植物を体系的に栽培することは引き続き重要性を増しているが、天然資源は限られていることから、同時に、合成製品を得る方法の探索及び開発も成されてきた。
【0004】
合成「α-ビサボロール」は、通常、等量の(+/-)-α-ビサボロールと(+/-)-エピ-α-ビサボロールのジアステレオマーラセミ化合物である。4種類のエナンチオマーは全て自然界で見いだされている。
【0005】
記述されているその効果のために、(+)-α-ビサボロール、(-)-α-ビサボロール及び(+/-)-α-ビサボロール、並びに/又は、(+)-エピ-α-ビサボロール、(-)-エピ-α-ビサボロール及び(+/-)-エピ-α-ビサボロール、即ち、式(Ia)
【化1】

[式中、波線は、いずれの場合にも、互いに独立して、それが属している炭素原子においてS配置又はR配置である]
で表される化合物が、常に必要とされている。例えば、ネロリドールから出発してビサボロールを製造するための多くの方法及びプロセスが、これまでに記述されている。
【0006】
主として化粧品で使用されるl-α-ビサボロールとd-α-ビサボロールのラセミ混合物は、多くの場合、とりわけDE 10246038にも記載れているように、式(II)
【化2】

で表されるファルネソール及び式(VII)
【化3】

で表されるネロリドールを酸が触媒する環化に付すことによってよって、工業的に製造される。
【0007】
式(I)で表されるα-ビサボロールを得るために式(II)又は式(VII)で表される上記化合物の環化でしばしば使用される触媒は、ギ酸である。「Tetrahedron 24, 859」に記載されているように、ネロリドールは、変換率が高く反応速度が速いという理由で、上記プロセスにより適している。この場合に得られる主要な生成物は、式(V)
【化4】

で表されるギ酸α-ビサボロールであり、アリル転位の結果として、式(VI)
【化5】

[式中、波線は、この場合、個々のエチレン性二重結合における配置に関連する異性体(E異性体/Z異性体)を示している]
で表されるギ酸ファルネソールが副産物として生じる。
【0008】
第2ステップにおいて、これらのギ酸エステルは、通常、鹸化されて対応するアルコールを生成する。この方法で得られた混合物は、ビサボレン類(脱水生成物として)に加えて、α-ビサボロール及びファルネソールを主成分として含んでいる。純粋な生成物を得るために、二次成分であるファルネソールは、蒸留によって分離させなければならない。この2種類の成分は沸点が近いので(1ミリバールにおける沸点:ビサボロール:110℃;ファルネソール:117℃)、上記分離は、技術的に非常に複雑である。さらに、当該ビサボロールのプロセスに再利用が可能となるようなグレードでファルネソールのフラクションをカットすることは、実際には不可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、α-ビサボロールとファルネソールを含んでいる混合物から、経済的に有利な処理方法で、ファルネソールを含有していないか又はファルネソールの含有量が少ないα-ビサボロールを提供することを可能とする調製方法を開発することであった。
【0010】
ファルネソール及びその誘導体も、同様に、価値のある望ましい物質である。本発明に関連して、ファルネソールの誘導体は、基の定義が下記で与えられている式(IX)のエステルを意味するものと理解される。かくして、式(IX)[式中、R3はCH3である]で表される酢酸ファルネソールは、ネイチャーアイデンティカルの(nature-identical)生成物であり、多くの種類の精油中で検出されている。それは、香料及び芳香産業において望まれる特製品であり、多くの組成物中で、特に、緑色の薬草組成物や、さらには、カストリウム及びバラの香りのする配合物において、使用されている。最も重要なグリーン-フローラル-バラ様の香りは、香料工業において非常に望ましい。ここで、酢酸ファルネソールは、1%〜25%の範囲、特に、3%〜8%の範囲で使用され得る。
【0011】
従来技術によれば、酢酸ファルネソールは、式(II)のファルネソールのアセチル化によって調製される(とりわけ、以下のものを参照されたい:Tetrahedron 1987, 5499;Chem. Commun. 2003, 1546;J. Org. Chem. USSR (Engl. Transl.) 1992, 1057;Synth. Commun. 1998, 2001)。他の方法では、式(XIII)で表される(3-メチルブタ-2-エニル)マグネシウムクロリドを用いて式(XI)又は式(XII)で表される構造を有する前駆物質をプレニル化することによって式(XIV)の酢酸ファルネソール生成させる(Synthesis 1991, 1130)。
【化6】

【0012】
上記調製方法では、それ自体が多段階的な方法で調製されることを要する出発物質が必要である。
【0013】
従って、本発明の目的は、さらにまた、副産物として形成されるファルネソール(適宜、誘導体化された形態にあるファルネソール)を商業的に利用することであった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、式(I)
【化7】

で表されるビサボロールと式(II)
【化8】

で表されるファルネソールを含んでいる混合物を処理することによる、ファルネソールを含有していないか又はファルネソールの含有量が少ない式(I)のビサボロール製造をする方法であって、
(a) 前記混合物を、触媒量の1〜6個の炭素原子を有するアルカリ金属アルコキシド及び/又はアルカリ土類金属アルコキシドの存在下で、用いる式(II)のファルネソールの量に基づいて少なくとも等モル量の式(III)
【化9】

[式中、
R1は、直鎖、分枝鎖、又は、完全に若しくは部分的に環状の、飽和、又は、完全に若しくは部分的に不飽和の、及び/又は、芳香族の、1〜12個の炭素原子を有する場合により置換されていてもよい炭化水素基であり、及び、
R2は、C1-C6-アルキル基である]
で表されるエステルと反応させて、式(IV)
【化10】

で表されるファルネソールエステル及び式R2OHで表されるアルコールを選択的に形成させ、形成された式R2OHのアルコールを蒸留により分離させ、また、適宜、過剰に使用した式(III)のエステルを蒸留により分離させるステップ;
及び、
(b) 用いたビサボロールを、ステップ(a)で形成された式(IV)のエステルから蒸留により分離させるステップ;
を含む、前記方法を提供することによって達成された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明による方法は、ファルネソールを含有していないか又はファルネソールの含有量が少ない、式(I)
【化11】

のビサボロールを製造するのに適している。ここで、該ビサボロールは、通常、ラセミ形態にある分子の2つの立体中心(stereogenic center)に関して上記式(Ia)で表されるジアステレオマー混合物の形態で製造される。用語「ファルネソールを含有していないビサボロール」は、本明細書においては、ビサボロール又はビサボロール含有混合物において、該ビサボロールが、存在している他の任意のさらなる成分又は不純物の他には、ビサボロール又はビサボロール含有混合物の総量に基づいて、ファルネソールを約0.2重量%以下(好ましくは、約0.1重量%以下)しか含んでいないビサボロール又はビサボロール含有混合物を意味するものと理解される。用語「ファルネソールの含有量が少ないビサボロール」は、本明細書においては、ビサボロール又はビサボロール含有混合物において、該ビサボロールが、存在している他の任意のさらなる成分又は不純物の他に、ビサボロール又はビサボロール含有混合物の総量に基づいて、約0.2〜約10重量%(好ましくは、約0.2〜約5重量、特に好ましくは、約0.2〜約3重量%、極めて特に好ましくは、約0.2〜約1重量%)のファルネソールを含んでいるビサボロール又はビサボロール含有混合物を意味するものと理解される。
【0016】
本発明によって製造され得る式(I)のビサボロールは、本発明の方法の過程において、通常は、ファルネソール以外の不純物及び/又さらなる成分に関しても、精製された形態で、多くの場合、容易に分離除去可能な低沸点成分によってのみ汚染されている形態で製造される。
【0017】
本発明の方法を実施するための適切な出発物質は、式(I)で表されるビサボロールと式(II)
【化12】

[式中、波線は、いずれの場合も、エチレン性二重結合に関連するE/Z混合物を示している]
で表されるファルネソールを含んでいる混合物である。出発物質として使用するのが好ましい混合物は、2種類の主要成分としての約70〜約99.9重量%(好ましくは、約80〜約99重量%)のビサボロールとファルネソールからなる混合物である。存在し得るさらなる成分は、例えば、特定の出発物質の調製に由来する副産物又は溶媒などであり得る。
【0018】
本発明の方法は、一実施形態の範囲内において、ステップ(a)とステップ(b)を含んでおり、ここで、ステップ(a)においては、使用する混合物を、その中に存在していて用いられる式(II)のファルネソールの量に基づいて少なくとも等モル量の式(III)
【化13】

で表されるエステルと反応させる。
【0019】
本発明においては、基R1は、直鎖、分枝鎖、又は、完全に若しくは部分的に環状の、飽和、又は、完全に若しくは部分的に不飽和の、及び/又は、芳香族の、1〜12個の炭素原子を有する場合により置換されていてもよい炭化水素基である。好ましくは、R1は、C6-C10-アリール基、例えば、フェニル又はナフチル(好ましくは、フェニル)であり、ここで、これは、置換されていなくてもよいか、又は、C1-C6-アルキル置換基、ハロゲン置換基及びC1-C6-アルコキシ置換基からなる群から選択される1以上(一般に、1〜3)の同一であるか又は異なっている置換基を有することができる。基R1は、特に好ましくは、フェニル、オルト-メチルフェニル、パラ-メチルフェニル、オルト-パラ-ジメチルフェニル、オルト-オルト-パラ-トリメチルフェニル、オルト-メトキシフェニル又はパラ-メトキシフェニルである。
【0020】
基R1は、直鎖又は分枝鎖又は完全に若しくは部分的に環状のC1-C12-アルキル基であることもでき、ここで、これも、1以上(一般に、1〜3)の同一であるか又は異なっている上記置換基及び/又はC6-C10-アリール置換基を有することができる。ここで、C1-C12-アルキルは、下記C1-C6-アルキルを意味し、さらに、例えば、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル又はドデシルなども意味する。基R1の好ましい意味は、例えば、ベンジル、直鎖若しくは分枝鎖のデシル、例えば、ネオデカン酸の対応する基、又は、商品名「Versatic(登録商標) Acid」で知られている酸の基である。
【0021】
基R2は、C1-C6-アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、ペンチル、シクロペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、ヘキシル、シクロヘキシル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1-エチルブチル、2-エチルブチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1-エチル-1-メチルプロピル及び1-エチル-2-メチルプロピルなどである。好ましくは、基R2は、C1-C3-アルキル、例えば、メチル、エチル又はプロピルなどであり、特に好ましくは、メチルである。
【0022】
用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素、好ましくは、フッ素、塩素又は臭素を意味するものと理解される。
【0023】
本発明において好ましい式(III)のエステルは、場合により置換されていてもよい安息香酸エステルであり、好ましくは、安息香酸C1-C3-アルキルエステルである。本発明において特に好ましい式(III)のエステルは、安息香酸メチルである。
【0024】
式(III)で表される選択されたエステルは、使用する混合物中に存在している式(II)のファルネソールの量に基づいて、少なくとも等モル量で、通常は、1〜約3当量で、好ましくは、1〜約2当量で、特に好ましくは、約1.05〜約1.7当量で用いられる。
【0025】
対応のアルコールR2OH又は用いられるC1-C6-アルカノールよりも高い沸点を有する式(III)のエステルを使用するのが有利であるということが分かった。
【0026】
ステップ(a)による反応は、触媒量の1〜6個の炭素原子を有するアルカリ金属アルコキシド及び/又はアルカリ土類金属アルコキシドの存在下で実施して、式(IV)
【化14】

で表されるファルネソールエステル及び式R2OHで表されるアルコールを選択的に形成させる(ここで、基R1及び基R2は、式(III)におけるのと同じ意味を有する)。使用するのが好ましいここで挙げ得るアルコキシドは、メタノール、エタノール又はn-プロパノールのリチウムアルコキシド、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド又はカルシウムアルコキシドである。本発明において好ましいアルコキシドは、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド及びナトリウムプロポキシドであり、ナトリウムメトキシドが特に好ましい。
【0027】
用語「触媒量」は、使用するファルネソールの量に基づいて、約0.05〜約10mol%の量の選択されたアルコキシドを意味するものと理解される。好ましいアルコキシドとして使用されるナトリウムメトキシドは、好ましくは、使用するファルネソールの量に基づいて、約0.5〜約10mol%(好ましくは、約1.5〜約7mol%)の量で用いる。実際上の理由で、ナトリウムメトキシドは、好ましくは、メタノール溶液の形態で使用する。
【0028】
本発明の方法のこの実施形態におけるステップ(a)による反応の間は、エステル交換反応によって形成された式R2OHのアルコール及び適宜過剰に使用した式(III)のエステルは、その反応混合物から蒸留によって分離除去する。
【0029】
メチルエステルの場合、加熱は、実際には、底部の温度が約70℃〜約140℃になるまで、好ましくは、約80℃〜約100℃になるまで実施する。これに関連して、約5mbarまでの真空を適用すること、不活性なストリッピングガス(好ましくは、窒素)を通すこと、及び/又は、不活性な添加溶剤(例えば、ヘプタン、トルエン又はキシレン)を添加することによって、当該アルコールの蒸留除去を補助することは、有利ではあるが、本発明による方法の必須部分ではない。これにより、ファルネソールは、理論値の99%を超える式(IV)の対応するエステル(好ましくは、安息香酸ファルネソール)に変換される。
【0030】
本発明の方法のこの実施形態におけるステップ(b)では、用いたビサボロールを、ステップ(a)で形成された式(IV)のエステルから、蒸留により、ファルネソールを含有していないか又はファルネソールの含有量が少ない形態で分離させる。その蒸留は、有利には、高真空下で、即ち、1mbar以下の圧力下で実施し、その場合、存在している場合がある高沸点不純物を抽出した後、ビサボロールは、所望のグレードで得られる。
【0031】
本発明の方法のさらなる実施形態では、使用する出発物質は、式(V)
【化15】

で表されるギ酸ビサボロールと式(VI)
【化16】

で表されるギ酸ファルネソールを含んでいる混合物である。
【0032】
このタイプの混合物は、好ましくは、2種類の主要成分としての約70〜約99.9重量%(好ましくは、約80〜約99重量%)の式(V)のギ酸ビサボロールと式(VI)のギ酸ファルネソールからなる混合物である。存在し得るさらなる成分は、例えば、特定の出発物質の調製に由来する副産物又は溶媒などであり得る。
【0033】
第1に、追加のステップにより、式(I)及び式(II)で表される遊離アルコールを当該ギ酸エステルの混合物から遊離させる。
【0034】
本発明の方法のこの実施形態の上記追加ステップでは、式(V)及び式(VI)のギ酸エステルを含んでいる混合物を、触媒量の1〜6個の炭素原子を有するアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドの存在下で、用いるギ酸エステルの総量に基づいて少なくとも等モル量のC1-C6-アルカノールと反応させて、式(I)及び式(II)の化合物並びにギ酸C1-C6-アルキルエステルを形成させる。その間に、形成されたギ酸C1-C6-アルキルエステル、及び、さらに、適宜過剰に使用したC1-C6-アルカノールも、その形成された反応混合物から蒸留により除去して、式(I)のビサボロールと式(II)のファルネソールを含んでいる混合物を生成させる。
【0035】
選択されたC1-C6-アルカノール(好ましくは、メタノール)は、使用するギ酸エステルの総量に基づいて、少なくとも等モル量で、通常は、約1.05〜約1.5当量(好ましくは、約1.05〜約1.3当量)の過剰量で、出発物質の混合物中で使用する。使用する上記触媒量のアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシド(好ましくは、この段階で使用するC1-C6-アルカノールのアルコキシド、特に好ましくは、ナトリウムメトキシド)の作用下で、エステル交換反応によって、式(I)及び式(II)で表される遊離アルコールが生成され、さらに、それぞれのギ酸C1-C6-アルキルエステル(好ましくは、ギ酸メチル)も生成される。該反応は、有利には、約60℃〜約90℃の温度で実施し、ここで、形成されたギ酸C1-C6-アルキルエステル(好ましくは、形成されたギ酸メチル)、及び、適宜過剰に使用したC1-C6-アルカノールは、得られた反応混合物から留去される。
【0036】
これに必要とされる温度は、その特定のギ酸エステルの沸点に左右される。ギ酸メチルの場合、有利には、大気圧下で、約60℃〜約90℃(好ましくは、約70℃〜約80℃)まで加熱する。長鎖アルコールの場合、真空を適用するか又は不活性ガス(好ましくは、窒素)を用いたストリッピングに付すことによって、ギ酸の留去を補助することもできる。
【0037】
これによって、残渣として、式(I)のビサボロール及び式(II)のファルネソールを含んでいる混合物が得られる。得られた式(I)のビサボロールと式(II)のファルネソールの混合物は、本発明による方法の最初に記載した実施形態の段階(a)及び段階(b)に従って、さらに反応させることができる。
【0038】
好ましい実施形態の範囲内において、式(V)のギ酸ビサボロールと式(VI)のギ酸ファルネソールを含んでいる混合物から出発してファルネソールを含有していないか又はファルネソールの含有量が少ないビサボロールを製造するための本発明の方法は、有利には、上記反応ステップの過程で通過した反応物が、一段階で通過するように実施することも可能であり、この場合、塩基が触媒するエステル交換反応(該エステル交換反応は、平衡状態にある)は互いに平行して進行する。
【0039】
従って、本発明は、さらにまた、式(V)
【化17】

で表されるギ酸ビサボロールと式(VI)
【化18】

で表されるギ酸ファルネソールを含んでいる混合物から出発して、ファルネソールを含有していないか又はファルネソールの含有量が少ない式(I)のビサボロールを製造する方法にも関し、ここで、該方法は、
(i) 式(V)及び式(VI)のギ酸エステルを含んでいる混合物を、触媒量の1〜6個の炭素原子を有するアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドの存在下で、用いる式(V)のギ酸エステルの量に基づいて少なくとも等モル量のC1-C6-アルカノール及び用いる式(VI)のギ酸エステルの量に基づいて少なくとも等モル量の式(III)[式中、基R1及びR2は上記で与えられている意味を有し得る]のエステルと反応させて、式(I)のビサボロール、式(IV)のエステル及びギ酸C1-C6-アルキルエステルを形成させ、適宜、過剰に使用したC1-C6-アルカノールを蒸留により分離させ、また、形成されたギ酸C1-C6-アルキルエステルを蒸留により分離させるステップ;
及び、
(ii) ステップ(i)で形成された式(I)のビサボロールを、式(IV)のエステルから蒸留により分離させるステップ;
を含む。
【0040】
本発明のこの実施形態のステップ(i)では、式(V)及び式(VI)のギ酸エステルを含んでいる混合物を、触媒量のアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドの存在下で、用いる式(V)のギ酸ビサボロールの量に基づいて少なくとも等モル量のC1-C6-アルカノール及び用いる式(VI)のギ酸エステルの量に基づいて少なくとも等モル量の式(III)[式中、基R1及びR2は上記意味を有し得る]のエステルと反応させて、式(I)のビサボロール、式(IV)のエステル及びギ酸C1-C6-アルキルエステルを形成させる。
【0041】
選択されたC1-C6-アルカノールは、ここでは、好ましくは、用いる式(III)のエステルのアルコール基R2に対応し、そして、好ましくは、メタノールである。いずれの場合も、選択されたアルコールは、出発混合物中に存在している用いる式(V)のギ酸ビサボロールの量に基づいて少なくとも等モル量で使用する。好ましくは、それぞれのアルコールは、1.05〜約1.5当量の量で使用する。
【0042】
選択された式(III)のエステル(好ましくは、安息香酸メチル)は、出発混合物中に存在している用いる式(VI)のギ酸ファルネソールの量に基づいて少なくとも等モル量で使用する。好ましくは、それぞれのエステルは、1.05〜約2当量(特に好ましくは、約1.05〜約1.7当量)の量で使用する。
【0043】
さらに、当該反応に、上記で記載したような触媒量の1〜6個の炭素原子を有するアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドを添加する。この実施形態の目的のために、用語「触媒量」は、使用する式(V)及び式(VI)のギ酸エステルの量に基づいて、約0.05〜約5mol%の量の選択されたアルコキシドを意味するものと理解される。好ましいアルコキシドとして使用されるナトリウムメトキシドは、好ましくは、使用する式(V)及び式(VI)のギ酸エステルの量に基づいて、約0.5〜約3mol%(特に好ましくは、約1.5〜約5mol%)の量で用いる。実際上の理由で、ナトリウムメトキシドは、好ましくは、メタノール溶液の形態で使用する。
【0044】
この実施形態の過程において、使用する特定のC1-C6-アルカノール(特に、メタノール)及び、さらに、形成されたギ酸C1-C6-アルキルエステル(特に、ギ酸メチル)は、結果として得られた反応混合物から留去する。これに必要とされる温度は、その特定のギ酸エステルの沸点に左右される。ギ酸メチルの場合、有利には、大気圧下で、約60℃〜約90℃(好ましくは、約70℃〜約80℃)まで加熱する。長鎖アルコールの場合、真空を適用するか又は不活性ガス(好ましくは、窒素)を用いたストリッピングに付すことによって、ギ酸エステルの留去を補助することもできる。蒸留操作を補助するために、適切な時点において上記で示した手段を講じることが推奨される。
【0045】
ステップ(i)で得られた残渣から、次いで、形成された式(I)のビサボロールを、ステップ(ii)に従って式(IV)のエステルから蒸留によって分離させて、所望のファルネソールを含有していないか又はファルネソールの含有量が少ない形態で得る。
【0046】
このエステル交換反応カスケードは反応速度が速いので、ビサボロールの蒸留を含むプロセス全体を、必要に応じて、例えば蒸発装置又はカラム内で、連続的に実施することも可能である。
【0047】
蒸留塔底液(distillation bottom)に残っている式(IV)のファルネソールエステルは、当業者には自体公知の標準的な方法により水性アルカリ性条件下で鹸化することが可能であり、そして、そのようにして回収されたファルネソールは再利用可能である。あるいは、形成された式(IV)のエステルは、式(I)のビサボロールを分離した後、例えば酸又は塩基が触媒する条件下、アルコールR2OHの存在下におけるエステル交換反応に付すことが可能であり、そして、このプロセスにおいて形成された式(III)のエステルは、本発明の方法に戻すことができる。
【0048】
プロセスステップ(b)又は(ii)の蒸留塔底液には、通常、約70〜90重量%の式(IV)のエステルが含まれている。それは、本発明による以下の方法に付すことができる:(α)形成された式(IV)のエステルを、式(I)のビサボロールの分離後、触媒量のアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドの存在下で、式(VIII)
【化19】

で表されるエステルと反応させる。
【0049】
上記反応の終了後、(β)少なくとも等モル量の弱酸を添加することにより、上記触媒を中和することが可能である。必要に応じて、(γ)式(IX)のエステルを精製することができる。
【0050】
好ましくは、本発明の方法に、プロセスステップα、β及びγを含ませる。
【0051】
ここで、基は、式(IX)のエステルが式(IV)のエステルよりも低い沸点を有するように選択することができる。好ましくは、式(IX)のエステルの沸点は、式(IV)のエステルの沸点よりも低い。
【0052】
下記反応方程式は、当該反応を図式的に表している。記載されている化合物の他に、適宜、当該反応混合物中に別の化合物(特に、別のエステル)も存在させ得る。
【化20】

【0053】
使用するのが好ましい、ここで挙げることができるアルコキシドは、メタノール、エタノール又はn-プロパノールの、リチウムアルコキシド、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド又はカルシウムアルコキシドである。本発明において好ましいアルコキシドは、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド及びナトリウムプロポキシドであり、ナトリウムメトキシドが特に好ましい。
【0054】
当該アルコキシドは、好ましくは、対応するアルコール中の溶液の形態で使用する。例えば、ナトリウムメトキシドは、メタノール中の30%濃度の溶液の形態で使用することができる。
【0055】
用語「触媒量」は、使用する式(IV)のエステルの量に基づいて、0.05〜7mol%(好ましくは、1〜5mol%)の量の選択されたアルコキシドを意味するものと理解される。好ましいアルコキシドとして使用されるナトリウムメトキシドは、好ましくは、使用する式(IV)のエステルの量に基づいて、0.05〜7mol%(特に好ましくは、1.5〜7mol%)の量で用いる。実際上の理由で、ナトリウムメトキシドは、好ましくは、メタノール溶液の形態で使用する。
【0056】
本発明によれば、使用するエステル交換反応試薬は、式(VIII)
【化21】

で表されるエステルである。
【0057】
ここで、基R3の定義はR1の定義と同一であり、基R4の定義はR2と同一であるが、但し、R1とR3は異なっている。R4は、R2と同一であるように選択することができる。しかしながら、R4をR2とは同一ではないように選択することも可能である。
【0058】
好ましくは、R3は、結果として得られる式(IX)のエステルがネイチャーアイデンティカルの化合物であるように選択する。かくして、例えば、式(IX)[式中、R3は、CH3、CH2CH3、(CH2)2CH3、CH2CH(CH3)CH3、(CH2)4CH3、(CH2)5CH3、(CH2)6CH3、(CH2)7CH3又は(CH2)8CH3である]で表されるエステルは、フェロモンとして知られている(J. Appl. Entomol. 1996, 120, 463-466)。
【0059】
用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素、好ましくは、フッ素、塩素又は臭素を意味するものと理解される。
【0060】
本発明において好ましい式(VIII)のエステルは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル及び酢酸イソプロピルである。酢酸メチルが特に好ましい。
【0061】
選択された式(VIII)のエステルは、好ましくは、使用する当該混合物中に存在している式(IV)のエステルの量に基づいて、少なくとも等モル量、通常は、1〜30当量(好ましくは、5〜20当量、特に好ましくは、10〜15当量)の量で使用する。
【0062】
式(VIII)で表される過剰なエステル及び結果として生じる式(X)のエステルは、好ましくは、式(IX)のエステルから分離除去するので、式(VIII)のエステル及び式(X)のエステルの沸点が式(IX)のエステルの沸点よりも低くなるように基を選択することは、道理にかなっている。ここで、式(VIII)のエステルは、式(X)のエステルの沸点より高い沸点若しくは低い沸点を有することが可能であり、又は、同じ沸点を有することが可能である。好ましくは、エステル(VIII)の沸点は、エステル(X)の沸点よりも低い。
【0063】
さらに、蒸留による精製に際してそれぞれのエステルを純粋な形態で得ることが可能となるように、式(VIII)のエステル、式(X)のエステル及び式(IX)のエステルの沸点は、好ましくは、充分に離れている。
【0064】
本出願に関連して、化合物の沸点を互いに比較する場合、同じ圧力下で測定された純粋な物質の沸点を比較する。この圧力は、通常は大気圧であるが、それよりも高くても又は低くてもよい。分解し得る物質の場合、その沸点は、通常、大気圧より低い圧力下で測定する。
【0065】
ステップ(α)による反応を行うと、式(IX)
【化22】

で表されるファルネソールエステル、及び、式(X)
【化23】

で表されるエステルが形成される(ここで、基R1は式(III)におけるのと同じ意味を有し、基R3及び基R4は式(VIII)におけるのと同じ意味を有する)。
【0066】
使用する式(IV)のエステルは、E/Z異性体の所望の任意の混合物である。しかしながら、式(IV)のエステルは、異性体的に純粋な形態で使用することも可能である。
【0067】
好ましくは、式(IV)の上記異性体混合物により、本発明による反応を介して、式(IX)のエステルが、対応する異性体組成を有する混合物として得られる。
【0068】
該基は、好ましくは、式(IX)のエステルの沸点が式(IV)のエステルよりも低くなるように選択する。
【0069】
ビサボロールの蒸留に際して生成される塔底液は、式(IV)のエステルの他に、さらに、特定できない二次的な成分も含んでいるので、その塔底液から非常に簡単な方法で式(IX)のエステルを良好な収率及び良好な純度で得ることができるということは、驚くべきことである。
【0070】
プロセスステップ(b)又は(ii)の蒸留塔底液は、必ずしも出発物質として使わなくてはならないということはない。代わりに、式(IV)のエステルを含んでいる混合物を一般に使うことができる。プロセスステップ(b)又は(ii)の蒸留塔底液ではない式(IV)のエステルを含んでいる混合物を使用する場合、当該方法には、好ましくは、プロセスステップα、β及びγを含ませる。
【0071】
該反応は、一般に、平衡が式(IX)のエステルの方に可能な限り完全にシフトするような温度下及び圧力下で実施する。
【0072】
該反応は、好ましくは、周囲温度からその反応混合物の環流までの反応温度で実施することが可能である。好ましくは、約40〜80℃(特に好ましくは、約50〜60℃)の範囲内の僅かに高められた温度で実施する。当該反応の進行は、例えば薄層クロマトグラフィー又はガスクロマトグラフィーを用いて、モニターすることができる。
【0073】
該反応が完結したら、用いた触媒の量に基づいて少なくとも等モル量の弱酸を加えて、触媒を中和する。好ましくは、該触媒は、用いた触媒の量に基づいて少なくとも2倍モル量の弱酸を加えて中和する。
【0074】
本発明によれば、弱酸のpKaは、2以上であり、好ましくは、3以上、特に好ましくは、4以上である。pKaは、水中で測定した酸定数の10を底とする対数に負号をつけたものである。
【0075】
適切な酸は、特に、有機酸、好ましくは、アルカンカルボン酸であり、特に好ましくは、酢酸である。僅かに過剰な量のこの酸(又は、触媒)を加えることによって、pHが約5のバッファーが得られる(水性抽出液中)。この「クエンチされた」反応混合物は、水性の後処理を行うことなく、分別蒸留して価値のある生成物を単離することができる。これに関連して、過剰に使用されるエステル交換反応試薬は、純粋な形態で得ることが可能であり、そして、当該プロセスに戻すことができる。
【0076】
好ましくは、プロセスステップ(γ)における精製は、分別蒸留によって行う。その分別蒸留は、精留として実施することができる。しかしながら、本発明においては、当業者には既知の別の精製方法、例えば、溶解及び沈澱、吸着法並びにクロマトグラフィー法、電気泳動、融解(特に、帯域融解)法、凍結、標準凝固、結晶化、昇華、成長法、又は、別の輸送反応を用いることも可能である。
【0077】
本発明の方法の一実施形態によれば、プロセスステップ(γ)において、
1) 式(VIII)で表される、適宜過剰量の、エステル;
2) 式(X)で表されるエステル;
3) 式(IX)で表されるエステル;
を、分別蒸留する。
【0078】
ここで、式(VIII)のエステルの基、式(X)のエステルの基及び式(IX)のエステルの基は、好ましくは、分離しようとする個々の化合物の沸点が充分に異なっているように選択する。
【0079】
本発明により分離させる混合物中に、例えば、蒸留の開始時に、式(VIII)[式中、R4はCH3である]で表されるメチルエステル、式(X)[式中、R1はフェニルである]で表される安息香酸エステル及び式(IX)[式中、R3はCH3である]で表されるエステルを、互いに一緒に存在させることができる。
【0080】
好ましくは、蒸留留分(distillation cut)は、当該化合物が純粋な形態で生成されるように、即ち、当該化合物が好ましくは90%GC以上(特に好ましくは、95%GC以上)の純度を有するように、選択する。
【0081】
蒸留中に圧力を低下させるのは、有利であり得る。ここで、開始時の圧力は、例えば、周囲圧力であり得る。ここで、該圧力は、当業者には既知の手段によって、例えば、真空を適用することによって、低減させることができる。
【0082】
圧力及び温度は、当該化合物の分別分離を行うことができるように、蒸留中に調節する。
【0083】
適宜、該蒸留は、不活性なストリッピングガス(好ましくは、窒素)を強制的に通すことにより、及び/又は、不活性な添加溶剤(例えば、ヘプタン、トルエン又はキシレン)を添加することにより、さらに補助する。
【0084】
留去された式(VIII)のエステルは、適切な時点で、例えば、プロセスステップ(α)において、当該プロセスに戻すことができる。
【0085】
留去された式(X)のエステルは、式(III)のエステルについて規定されている基準を満たしている場合は、適切な時点で、例えば、プロセスステップ(a)又は(i)において、当該プロセスに戻すことができる。これに関連して、戻された式(X)のエステルと当該プロセスで使用する式(III)のエステルは、必ずしも同一である必要はない(即ち、基R2と基R4は、異なっていてもよい)。
【0086】
好ましい実施形態では、式(X)のエステルと式(III)のエステルは同一であり、特に好ましくは、式(X)のエステルと式(III)のエステルは両方とも安息香酸メチルであり、式(X)のエステルは、式(III)のエステルとして当該プロセスに戻される。
【0087】
本発明の方法によって、容易に入手可能なギ酸ビサボロールとギ酸ファルネソールの混合物から出発して純粋なビサボロール又は高濃度のビサボロールを得るための、経済的観点及び製法的観点から特に有利な手段の利用が可能となる。驚くべきことに、ここで、1つのプロセスステップのみで、使用されるギ酸エステルを切断して遊離アルコールを生成させること及びファルネソールを完全に選択的に式(IV)の高沸点エステルに変換することが可能である。結果として、使用したギ酸エステルについてこれまでずっと必要とされてきた鹸化(これには、相分離を含む水性の後処理が包含される)を省くことができる。処理の点から見て特に簡単な蒸留によって、ビサボロールを反応混合物から分離することが可能であり、さらなる後処理ステップは必要ではない。さらに、蒸留塔底液中に残っているファルネソールエステルは、上記で説明した単純なエステルの鹸化により切断してファルネソールを生成させることができるか、又は、エステル交換反応によってファルネソール誘導体に変換することができる。このファルネソールは、次には、従来技術に従ってビサボロールに変換することができる。これにより、調製方法全体は非常に経済的で資源を節約するものとなる。
【実施例】
【0088】
実施例:
以下の実験例により、本発明の方法を例証するが、決して本発明を限定するものではない。
【0089】
GC法:分離カラム 30m DB-WAX / 内径 0.25 mm; 膜厚 0.25マイクロメーター; 開始時の温度 120℃; 終了時の温度 250℃; 加熱速度 5 K/分; 検出:FID。
【0090】
実施例1
46.0%のギ酸ビサボロール(V)と37.6%のギ酸ファルネソール(VI)(含有量は、いずれの場合も、GC面積%を用いて測定)から構成される未精製のギ酸エステル(V)と(VI)の混合物(192g)を、20gのメタノールと混合させた。次いで、2.8gの30重量%濃度のナトリウムメトキシドメタノール溶液を添加した。それを、周囲温度で30分間、後撹拌した(after-stirred)。次いで、その反応混合物を80℃まで加熱し、その加熱の間に、形成されたギ酸メチルは蒸留ブリッジで留去した。次いで、底部の温度80℃で、50.1gの安息香酸メチルを添加した。次いで、その反応混合物にガス注入管を用いて穏やかな窒素流を通した。4時間経過した後、GCサンプルは、当該反応混合物の組成が40.6%のビサボロール及び42.1%の安息香酸ファルネソールであることを示した(いずれの場合も、GC面積%)。遊離ファルネソールは検出されなかった。
【0091】
高真空下(1mbar以下)、単純な蒸留ブリッジ上での119℃転位までの反応混合物の直接蒸留により、70.1%のビサボロール(これは、ギ酸ビサボロールに基づいて94.2%の収率に相当する)を含んでいる105.3gの留出物が通過した。該留出物は、0.3%のファルネソールを含んでいた。122.3gの塔底残留物は、76.2%の安息香酸ファルネソールを含んでいた。
【0092】
実施例2
実施例1からの安息香酸ファルネソール残留物(122g; 76.2%濃度)を、室温で、180gの10重量%濃度の水酸化カリウムメタノール溶液と混合させた。その混合物を環流温度まで加熱した。1時間環流下で後撹拌(after-stirring)した後、後処理のために、300mLの水及び100mLのトルエンを添加した。下部の水相を分離除去し、有機相を、いずれの場合も中性になるまで150mLの水で4回洗浄した。次いで、その有機相を、60℃、15mbar以下で、ロータリーエバポレーターで濃縮した。これにより、蒸発残留物として、86.4gのファルネソールがE/Z異性体混合物として純度72.2%で得られた。
【0093】
実施例3
46.0%のギ酸ビサボロール(V)と37.6%のギ酸ファルネソール(VI)(GC面積%による)から構成される未精製のギ酸エステル(V)と(VI)の混合物(192g)を、60℃で、最初に導入した。次いで、50.1gの安息香酸メチル、13gのメタノール及び2.8gの30重量%濃度のナトリウムメトキシド溶液を添加した。ガス注入管を用いて穏やかな窒素流を導入しながら、反応混合物の温度を120℃まで加熱した。GC分析によれば、その混合物は、41.94%のビサボロール、0.38%のファルネソール及び43.1%の安息香酸ファルネソールから構成されていた。真空下での蒸留(1mbar以下で134℃転位まで)によって、ビサボロール及び他の容易に沸騰する二次成分を留去した。留出物として、69.0%のビサボロールと0.87%のファルネソールを含んでいる103.5gが集められた。これは、用いたギ酸ビサボロールに基づいて、ビサボロールの収率91.1%に相当する。蒸留塔底液中には、110gの安息香酸ファルネソール(GCによる含有量85.2%)が残っていた。
【0094】
実施例4
150gの式(IV)[式中、R1はフェニルである]で表される安息香酸ファルネソール(78.1%濃度;= 0.36mol)を、周囲温度で、970mg(18mmol)のナトリウムメトキシドと混合させた。その混合物を+50℃まで加熱し、340g(4.60mol)の式(VIII)[式中、R3もR4もCH3である]で表される酢酸メチルを流し込んだ。その混合物を+50℃で3時間撹拌し、周囲温度まで冷却し、そして、2.16g(36mmol)の酢酸を添加した。次いで、その混合物を蒸留した。先の操作(afore running)では、大気圧から100mbarまでで、281gの過剰の酢酸メチル(GCによる純度 99%超)が通過した。中間の操作(middle running)(1mbar/41-43℃転位温度)では、44.4gの式(X)[式中、R1はフェニルであり、R4はCH3である]で表される安息香酸メチル(純度 99.0%)が得られた。主要なフラクションの価値ある生成物である式(IX)[式中、R3はCH3である]の酢酸ファルネソールを、0.5-1mbar及び転位温度112-119℃で蒸留した。
【0095】
71.3gの酢酸ファルネソールが純度96.7%(GCによる)で得られた(これは、理論値の75%の収率に相当する)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

で表されるビサボロールと式(II)
【化2】

で表されるファルネソールを含んでいる混合物を処理することによる、ファルネソールを含有していないか又はファルネソールの含有量が少ない式(I)のビサボロールを製造する方法であって、
(a) 前記混合物を、触媒量の1〜6個の炭素原子を有するアルカリ金属アルコキシド及び/又はアルカリ土類金属アルコキシドの存在下で、用いる式(II)のファルネソールの量に基づいて少なくとも等モル量の式(III)
【化3】

[式中、
R1は、直鎖、分枝鎖、又は、完全に若しくは部分的に環状の、飽和、又は、完全に若しくは部分的に不飽和の、及び/又は、芳香族の、1〜12個の炭素原子を有する場合により置換されていてもよい炭化水素基であり、及び、
R2は、C1-C6-アルキル基である]
で表されるエステルと反応させて、式(IV)
【化4】

で表されるファルネソールエステル及び式R2OHで表されるアルコールを選択的に形成させ、形成された式R2OHのアルコールを蒸留により分離させ、また、適宜、過剰に使用した式(III)のエステルを蒸留により分離させるステップ;
及び、
(b) 用いたビサボロールを、ステップ(a)で形成された式(IV)のエステルから蒸留により分離させるステップ;
を含む、前記方法。
【請求項2】
式(V)
【化5】

で表されるギ酸ビサボロールと式(VI)
【化6】

で表されるギ酸ファルネソールを含んでいる混合物から出発し、
式(V)及び式(VI)のギ酸エステルを含んでいる混合物を、触媒量の1〜6個の炭素原子を有するアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドの存在下で、用いるギ酸エステルの総量に基づいて少なくとも等モル量のC1-C6-アルカノールと反応させて、式(I)及び式(II)の化合物並びにギ酸C1-C6-アルキルエステルを形成させ、形成されたギ酸C1-C6-アルキルエステルを蒸留により除去し、また、適宜、過剰に使用したC1-C6-アルカノールも蒸留により除去して、式(I)のビサボロールと式(II)のファルネソールを含んでいる混合物を生成させること、
をさらに含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(V)
【化7】

で表されるギ酸ビサボロールと式(VI)
【化8】

で表されるギ酸ファルネソールを含んでいる混合物から出発して、ファルネソールを含有していないか又はファルネソールの含有量が少ない式(I)のビサボロールを製造する方法であって、
(i) 式(V)及び式(VI)のギ酸エステルを含んでいる混合物を、触媒量の1〜6個の炭素原子を有するアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドの存在下で、用いる式(V)のギ酸エステルの量に基づいて少なくとも等モル量のC1-C6-アルカノール及び用いる式(VI)のギ酸エステルの量に基づいて少なくとも等モル量の式(III)[式中、基R1及びR2は上記で与えられている意味を有し得る]のエステルと反応させて、式(I)のビサボロール、式(IV)のエステル及びギ酸C1-C6-アルキルエステルを形成させ、適宜、過剰に使用したC1-C6-アルカノールを蒸留により分離させ、また、形成されたギ酸C1-C6-アルキルエステルを蒸留により分離させるステップ;
及び、
(ii) ステップ(i)で形成された式(I)のビサボロールを、式(IV)のエステルから蒸留により分離させるステップ;
を含む、前記方法。
【請求項4】
対応のアルコールR2OH又は用いられるC1-C6-アルカノールよりも高い沸点を有する式(III)のエステルを使用する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
用いられる式(III)のエステルが、場合により置換されていてもよい安息香酸エステルである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
用いられる式(III)のエステルが、安息香酸メチルである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
用いられるアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドが、ナトリウムメトキシドである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記C1-C6-アルカノールが、メタノールである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
形成された式(IV)のエステルを、式(I)ビサボロールを除去した後、酸性条件下又は塩基性条件下で鹸化して、式(II)のファルネソールを生成させる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
形成された式(IV)のエステルを、式(I)ビサボロールを除去した後、アルコールR2OHの存在下でエステル交換反応に付し、当該プロセス中で形成された式(III)のエステルを本発明の方法に戻す、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
式(IX)
【化9】

で表されるファルネソールエステルを製造する方法であって、
(α) 式(IV)のエステルを含んでいる混合物を、触媒量のアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドの存在下で、式(VIII)
【化10】

[式中、R3に関しては、基の定義は請求項1におけるR1についての定義と同一であり、R4に関しては、基の定義は請求項1におけるR2についての定義と同一であるが、但し、R1とR3は互いに異なっている]
で表されるエステルと反応させ;
(β) 少なくとも等モル量の弱酸を添加することにより、前記アルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドを中和し;
及び、
(γ) 式(IX)のエステルを精製する;
前記方法。
【請求項12】
その後に続くプロセスステップを含み、ここで、該プロセスステップでは、形成された式(IV)のエステルを、式(I)のビサボロールを分離させた後、触媒量のアルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドの存在下で、式(VIII)
【化11】

[式中、R3に関しては、基の定義は請求項1におけるR1についての定義と同一であり、R4に関しては、基の定義は請求項1におけるR2についての定義と同一であるが、但し、R1とR3は互いに異なっている]
で表されるエステルと反応させて、式(IX)
【化12】

で表されるファルネソールエステルを形成させる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応の後で、
(β) 少なくとも等モル量の弱酸を添加することにより、前記アルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドを中和し;
及び、
(γ) 式(IX)のエステルを精製する;
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
式(VIII)のエステルが、酢酸メチルである、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−523716(P2009−523716A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549880(P2008−549880)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050297
【国際公開番号】WO2007/082847
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】