説明

フィラー含有樹脂層付金属箔及びフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法

【課題】本件発明の目的は、表面が平滑で、且つ、薄い絶縁層を備える絶縁層付金属箔としてのフィラー含有樹脂層付金属箔を提供するとともに、このようなフィラー含有樹脂層付金属箔を再現性よく、且つ、広面積に製造可能なフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法を提供することである。
【解決手段】上記目的を達成するため、その表面の光沢度が400より大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が10nm以下の平滑表面を備える金属箔の当該平滑表面に、厚さが0.1μm〜3.0μmであり、当該フィラー含有樹脂層表面の光沢度が200より大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が25nmより小さいフィラー含有樹脂層を積層した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、フィラー含有樹脂層付金属箔及びフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法に関する。特に、プリント配線基板又は半導体基板等に各種電子回路を形成するための電子回路形成材料、或いは、各種電子部品を形成するための電子部品形成材料等として好適に使用することのできるフィラー含有樹脂層付金属箔及び当該フィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁層又は誘電層(以下、単に「絶縁層等」と称する。)を備える金属箔(以下、単に「絶縁層付金属箔」と称する。)は、プリント配線基板又は半導体基板等に各種電子回路等を含む各種電子回路を形成するための電子回路形成材料、或いは、各種電子部品を形成するための電子部品形成材料等として使用されている。
【0003】
このような絶縁層付金属箔は、例えば、セラミック粒子(絶縁フィラー)と樹脂成分とを混合して調製した塗布液を金属箔の表面に塗布し、乾燥、熱処理等により樹脂成分を硬化させることにより得ることができる。当該方法により形成される絶縁層等は、無機材料と有機材料とを用いて構成されることから、一般に、コンポジットタイプと称される。
【0004】
ところで、このような電子回路形成材料、或いは電子部品形成材料として用いられる絶縁層付金属箔において、絶縁層の薄層化、絶縁層表面の平坦化が求められる。しかしながら、コンポジットタイプの絶縁層を形成するに際して、当該絶縁層の薄層化を図ると、絶縁フィラーの粒子が表面に不均一に突出し、その表面が粗くなる場合がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、絶縁層の表面を平滑にするために、基材の表面に塗布液を塗布した後、「モールド」と称する表面平滑化手段によりその表面を押圧して、塗布膜から突出したセラミック粒子を塗布膜の内側に戻して、最終的に得られる絶縁層の表面を平滑化する技術が開示されている。なお、本件明細書において、塗布膜とは、塗布液を塗布することにより、基材(金属箔を含む)の表面に形成された膜を指す。また、当該塗布膜を乾燥し、熱処理により半硬化若しくは硬化することにより、上記絶縁層が形成されるものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−140786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、表面の平坦な絶縁層を得るには、当該絶縁層の表面面積と同面積を有するモールドを用意し、且つ、絶縁層の表面を均一に押圧する必要がある。従って、絶縁層の表面を均一に押圧可能なモールドの大きさには限界があることから、金属箔上に形成可能な絶縁層の大きさには限界があった。
【0008】
以上のことから、本件発明の目的は、表面が平滑で、且つ、薄い絶縁層を備える絶縁層付金属箔としてのフィラー含有樹脂層付金属箔を提供するとともに、このようなフィラー含有樹脂層付金属箔を再現性よく、且つ、広面積に製造可能なフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者等は、鋭意研究を行った結果、表面が平滑で、且つ、薄い絶縁層を備える以下のフィラー含有樹脂層付金属箔及び、当該フィラー含有樹脂層付金属箔を再現性良く、且つ、広面積に製造可能な以下のフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法に想到し、上記目的を達成するに到った。
【0010】
本件発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔は、金属箔と、絶縁フィラー及びバインダ樹脂を含むフィラー含有樹脂層とが積層したフィラー含有樹脂層付金属箔であって、当該金属箔は、その表面の光沢度が400より大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が10nm以下の平滑表面を備え、当該平滑表面に配置するフィラー含有樹脂層は、厚さが0.1μm〜3.0μmであり、当該フィラー含有樹脂層表面の光沢度が200より大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が25nmより小さいことを特徴とする。
【0011】
本件発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法は、上記フィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法であって、バインダ樹脂成分と溶剤とを含むワニスに絶縁フィラーを分散させた塗布液を調製する塗布液調製工程と、前記塗布液調製工程において調製した塗布液を金属箔の平滑表面に塗布して塗布膜を形成する塗工工程と、前記塗工工程の終了後、前記塗布膜中の揮発成分を除去する乾燥工程と、前記乾燥工程の終了後の塗布膜に熱処理を施して、前記フィラー含有樹脂層を得る熱処理工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本件発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔によれば、フィラー含有樹脂層は絶縁フィラー及びバインダ樹脂とを含み、絶縁特性或いは誘電特性を利用して、各種電子回路或いは各種電子部品を形成する際に絶縁層或いは誘電層として用いられる。ここで、当該フィラー含有樹脂層は、金属箔の平滑表面に配置されている。当該金属箔の平滑表面の光沢度が400よりも大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が10nm以下であり、平滑性が高い。従って、この平滑表面上に0.1μm〜3.0μmの厚さの極薄いフィラー含有樹脂層を配置した場合も、金属箔側の粗さの影響がフィラー含有樹脂層側に現れるのを防止することができる。そして、フィラー含有樹脂層表面の光沢度が200より大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が25nmより小さく、極めて平滑性の高い絶縁層若しくは誘電層を提供することができる。このように、絶縁層若しくは誘電層として用いられるフィラー含有樹脂層の表面が平滑であるため、リーク電流の発生も低減し、各種電子回路或いは電子部品を形成した際の当該電子回路或いは電子部品の動作安定性における信頼性を向上することができる。したがって、本件発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔によれば、表面が平滑で、且つ、薄い絶縁層を備える絶縁層付金属箔を提供することができる。
【0013】
また、本件発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法によれば、絶縁フィラーの分散が極めて良好で、且つ、薄く、表面の平滑な絶縁層を形成することができる。また、このような絶縁層を、再現性良く、金属箔の表面に広面積に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】絶縁フィラーを撮影した倍率20万倍のSEM写真であり、絶縁フィラーの平均粒径(DIA)の測定方法を説明するための図である。但し、当該写真に基づいて得られた平均粒径(DIA)は約68nmであり、その変動係数(CV)は32%であった。
【図2】絶縁フィラーとバインダ樹脂量との合計を100wt%としたときの、絶縁フィラーの含有率(充填率)に対する理論誘電率を示す図である。
【図3】絶縁フィラーの分散前後における塗布液の粘度を示す図である。但し、図3における塗布液は、実施例1で調製した塗布液と同じものを用いており、(a)は絶縁フィラー分散後の塗布液の粘度、(b)は絶縁フィラー分散前の塗布液の粘度を示している。
【図4】絶縁フィラーの分散特性を示す図である。但し、図4(a)は、実施例1で調製した塗布液と同じものであり、バインダ樹脂はポリイミド樹脂としている。図4(b)は、バインダ樹脂としてエポキシ樹脂を採用した塗布液における絶縁フィラーの分散特性を示している。
【図5】絶縁フィラーの分散時間と、フィラー含有樹脂層の表面の光沢度との関係を表す図である。但し、図5における塗布液は、実施例1で調製した塗布液と同じものを用いている。
【図6】乾燥温度と乾燥速度との関係を示す図である。但し、図6において、実施例1で調製した塗布液と同じものを用いて乾燥速度を求めた。
【図7】実施例1で得た試料1のフィラー含有樹脂層の表面を示すSEM写真である。
【図8】実施例1で得た試料2のフィラー含有樹脂層の表面を示すSEM写真である。
【図9】比較例1で得た比較試料1のフィラー含有樹脂層の表面を示すSEM写真である。
【図10】平均粒径(DIA)は約66nmであり、その変動係数(CV)が45%の絶縁フィラーの二次凝集状態を示すSEM写真である。
【図11】バインダ樹脂としてエポキシ樹脂を採用したフィラー含有樹脂層の表面を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔及びフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法の好ましい実施の形態を説明する。本件発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔は、プリント配線基板又は半導体基板等に、キャパシタ回路、トランジスタ回路等の導電層と絶縁層との積層構造を有する各種電子回路を形成するための電子回路形成材料、或いは、キャパシタ、トランジスタ等の導電層と絶縁層との積層構造を有する各種電子部品を形成するための電子部品形成材料等として好適に使用することができるものである。以下、フィラー含有樹脂層付金属箔について説明した上で、当該フィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法について説明する。
【0016】
1.フィラー含有樹脂層付金属箔
本件発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔は、金属箔と、絶縁フィラー及びバインダ樹脂を含むフィラー含有樹脂層とが積層されたものである。まず、金属箔について述べる。
【0017】
〈金属箔〉
本件発明に係る金属箔は、例えば、上記電子回路或いは電子部品において、導電層、電極層等として用いられる層である。このような金属箔として、圧延法又は電解法で得られた金属箔を用いることができる。また、当該金属箔としては、銅箔、ニッケル箔、銅合金箔(真鍮箔、コルソン合金箔等)、ニッケル合金箔(ニッケル−リン合金箔、ニッケル−コバルト合金箔等)等の如何なる金属箔を用いてもよい。但し、当該フィラー含有樹脂層付金属箔を用いて、エッチング加工等により、電子回路形成等を行うことを考慮すると、微細な導電パターン、或いは、微細な電極パターン等を良好に形成するという観点から、単一組成の金属箔を用いることが好ましい。また、当該金属箔が導電層として用いられることを考慮すると、当該金属箔は、ニッケルに比して電気抵抗率が低く、且つ、非磁性体である銅又は銅合金から成ることが好ましい。また、銅は、ニッケル等と比較して、入手が容易である。また銅箔は、エッチング等の加工が容易であり、さらに安価であることから、金属箔として銅箔を採用することにより加工性に優れ、且つ、製造コストを低く抑えることができるという利点がある。
【0018】
平滑表面: 上記金属箔は、その表面の光沢度が400より大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が10nm以下の平滑表面を備えることが好ましい。このように極めて平坦な金属箔の平滑表面に、0.1μm〜3.0μmという極薄いフィラー含有樹脂層を配置することにより、当該フィラー含有樹脂層の厚さを均一に保持することが可能になる。また、金属箔の表面の粗さの影響がフィラー含有樹脂層の表面に現れるのを防止することができる。
【0019】
ここで、上記光沢度は、Gs(60°)を採用した鏡面光沢度を示しており、被検体である金属箔の平滑表面に入射角60°で測定光を照射し、反射角60°で跳ね返った光の強度を測定したものである。当該光沢度の測定には、JIS Z 8741−1997に基づき、日本電色工業株式会社製光沢計VG−2000を用いた。また、表面粗さは、上述の通り、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した算術平均値(Ra)を指す。但し、表面粗さの測定においては、日本ビーコ株式会社製の原子間力顕微鏡:NanoscopeV for Dimension seriesを用いて、タッピングモードにおいて測定し、且つ、平坦化処理なしという条件下において得た値を指す。
【0020】
一般に、表面の光沢度と、金属箔の平坦性との間には、一定の相関関係が存在し、光沢度が高い程、当該金属箔の平坦性が良好である場合が多い。また、表面粗さ(Ra)の値が10nm以下の場合、光沢度は概ね300以上である場合が多い。さらに、光沢度が高い程、表面のうねりがなく、また、表面の粗さが均一であると言える。従って、当該範囲の光沢度及び表面粗さ(Ra)の平滑表面を備える金属箔を用いることにより、上述の効果が得られる。一方、光沢度又は表面粗さのいずれか一方が、上記範囲外の値を示す場合、金属箔の表面の粗さの影響が、フィラー含有樹脂層の表面に現れて好ましくない。また、当該表面に上述の如く極薄いフィラー含有樹脂層を設ける構成としているため、当該フィラー含有樹脂層の層厚が不均一なものとなり、好ましくない。
【0021】
〈フィラー含有樹脂層〉
次に、フィラー含有樹脂層について説明する。本件発明において、フィラー含有樹脂層は上記金属箔の平滑表面に積層される。当該フィラー含有樹脂層は、絶縁フィラーと、バインダ樹脂とを含む。絶縁フィラー及びバインダ樹脂は共に絶縁体であり、当該フィラー含有樹脂層は、その絶縁特性又は誘電特性を利用して、トランジスタ回路のゲート絶縁層等の各種絶縁層、又は、キャパシタ回路等の誘電層として用いられる層である。当該フィラー含有樹脂層を金属箔の平滑表面に設けることにより、上述の通り、金属箔の表面の粗さに起因して、当該フィラー含有樹脂層の厚さが不均一になったり、当該フィラー含有樹脂層の表面が粗くなるのを防止することができる。
【0022】
層厚: 本件発明において、当該フィラー含有樹脂層は、その層厚が0.1μm〜3.0μmであることを特徴としている。このように層厚が0.1μm〜3.0μmと薄く、上述の如く、微細な配線パターン等の形成が良好であることから、各種電子回路或いは各種電子部品の軽薄短小化に寄与することができる。
【0023】
表面平滑性: また、本件発明に係るフィラー含有樹脂層は、その表面の光沢度が200より大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定したときの表面粗さ(Ra)が25nmより小さいことを特徴とする。このように表面平滑性に優れているため、リーク電流の発生も低減することができ、信頼性の高い電子回路、或いは、電子部品を形成することができる。また、このように表面平滑性に優れるのは、当該フィラー含有樹脂層の表面に不均一に絶縁フィラーが突出しておらず、層内に絶縁フィラーが均一に分散しているものと判断できる。従って、本件発明に係るフィラー含有樹脂層は、バインダ樹脂中への絶縁フィラーの分散が良好であり、均質な絶縁特性或いは誘電特性を有するといえる。
【0024】
ここで、表面の光沢度は、上記金属箔の表面の光沢度と同様の手法により測定することができる。また、表面粗さについても、上記金属箔の表面粗さと同様の手法により測定することができる。表面の光沢度と、表面粗さとの関係は上述の通りである。表面の光沢度が200未満であると、原子力間顕微鏡で測定したときの表面粗さ(Ra)が25nmよりも小さい場合でも、フィラー含有樹脂層の表面が局所的に粗い場合があり、上記目的とする効果を得ることができない場合がある。また、フィラー含有樹脂層の表面の光沢度が200より大きく、表面の粗さが均一で、且つ、表面の光沢が一様である場合であっても、フィラー含有樹脂層の表面粗さ(Ra)が25nmよりも大きい場合は、表面粗さ(Ra)自体が目的とする範囲に達しておらず、上記目的とする効果を得ることができない。
【0025】
バインダ樹脂: 次に、バインダ樹脂について説明する。本件発明に係るバインダ樹脂は、電子回路材料の絶縁基材或いはプリント配線基板の絶縁層を形成する際に用いる樹脂材料を好適に用いることができる。例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン、シアノエチルプルラン、ベンゾシクロブテン、ポリノルボルネン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリレート等を採用することができる。これら列挙した樹脂は、いずれか一の樹脂のみを用いてもよいし、複数種類の樹脂を混合して用いてもよい。本件発明では、バインダ樹脂として上記列挙した樹脂のうち、エポキシ樹脂及びポリイミド樹脂を好適に用いることができる。エポキシ樹脂及びポリイミド樹脂は、それぞれ、絶縁層形成用の材料として広く用いられており、且つ、絶縁特性についての信頼性が高いためである。
【0026】
また、本件発明において、エポキシ樹脂及びポリイミド樹脂は、いずれもバインダ樹脂として好適に用いることができるが、特に、ポリイミド樹脂を用いることが好ましい。ポリイミド樹脂は、エポキシ樹脂に比して耐熱性が高く、また、絶縁性も高いからである。具体的に説明すると、一般的に、エポキシ樹脂の分解温度は250℃程度であるのに対して、ポリイミド樹脂の分解温度は450℃程度であり、ポリイミド樹脂はエポキシ樹脂に対して耐熱性が高い。また、エポキシ樹脂の体積抵抗率は、1.0×1014Ω・cm、絶縁破壊電圧40kV/mm程度であるのに対して、ポリイミド樹脂の体積抵抗率は1.5×1016Ω・cm、絶縁破壊電圧は150kV/mmであり、ポリイミド樹脂はエポキシ樹脂に比して絶縁性に優れている。従って、ポリイミド樹脂を採用することにより、より耐熱性が高く、また、絶縁性に優れたフィラー含有樹脂層を得ることができる。
【0027】
絶縁フィラー: 次に、絶縁フィラーについて説明する。絶縁フィラーは、絶縁層としてのフィラー含有樹脂層内に分散して存在させるものであり、当該フィラー含有樹脂層の絶縁特性の向上、或いは、誘電特性の向上のために用いられる成分である。この絶縁フィラーとして、無機酸化物粒子を好適に用いることができる。当該フィラー含有樹脂層の用途に応じて、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタネート粒子等の無機酸化物粒子を選択的に用いることができる。そして、当該フィラー含有樹脂層に誘電特性を付与する場合には、特に、無機酸化物粒子として、ペロブスカイト型の誘電体粒子を用いることが好ましい。ペロブスカイト型の誘電体粒子として、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコン酸ストロンチウム、ジルコン酸ビスマス等の基本組成を備える誘電体粒子を挙げることができる。中でも、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムストロンチウムのいずれかの組成を基本組成とする誘電体粒子を用いることが好ましい。これらは、強誘電体であり、当該組成を有する誘電体粒子を絶縁フィラーとして用いることにより、当該フィラー含有樹脂層を比誘電率の高い誘電層として用いることができるからである。これにより、例えば、当該フィラー含有樹脂層をキャパシタ回路の誘電層として好適に用いることができる。すなわち、金属箔を例えば、下部電極層として用い、フィラー含有樹脂層の表面に上部電極層又は上部電極パターンを形成することにより、当該フィラー含有樹脂層をキャパシタ回路の誘電層として好適に用いることができる。
【0028】
粒径: 当該絶縁フィラーの平均粒径(DIA)は、5nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜100nmであることがより好ましい。本件発明では、非常に粒径の小さい絶縁フィラー微粒子を採用しているため、粒子同士がある一定の二次凝集状態を形成している。このため、レーザー回析散乱式粒度分布測定法等の測定値から平均粒径を推測するような間接測定では、絶縁フィラーの粒径を精度よく測定することができない。そこで、本件発明では、当該絶縁フィラーを走査型電子顕微鏡(SEM)で直接観察し、そのSEM像を画像解析して得られる二次粒子の平均粒径を指標とする。
【0029】
本件発明では、当該平均粒径(DIA)が5nm〜150nmの範囲内である絶縁フィラー微粒子を用いることにより、塗布液を調製する際に絶縁フィラーを解砕しながら、塗布液中に良好に分散させることができる。このため、0.1μm〜3μmという極薄いフィラー含有樹脂層内により微細な一次粒子の状態で絶縁フィラーを均一に分散させることができ、上記範囲内の表面光沢度及び表面粗さを達成することができる。そして、このような極薄いフィラー含有樹脂層内に絶縁フィラーを均一に分散させることができるため、絶縁特性或いは誘電特性が均一であり、また、面バラツキのない絶縁層或いは誘電層を形成することができる。また、粒径が上記範囲内である絶縁フィラー微粒子を用いることにより、表面の平滑性を維持した上で、フィラー含有樹脂層内における絶縁フィラーの充填比率を高めることができ、絶縁特性の高い絶縁層を形成することができる。
【0030】
ここで、上述した通り、当該絶縁フィラーの平均粒径(DIA)はSEM像の画像解析によって得られたものを指すが、具体的には次の手順で求めた値を指す。
【0031】
まず、JEOL社製のSEM(JSM−700IF)を用いて、倍率20万倍で試料(絶縁フィラー)を撮影して、SEM写真を得た。このときの試料の撮影対象位置は任意の位置とした。そして、撮影対象位置を変えて、試料の撮影を複数回行い、撮影対象位置の異なるSEM写真を複数枚得た。次に、これらの複数枚のSEM写真のうち、絶縁フィラー粒子の重なりが少なく、凝集状態にある絶縁フィラー粒子の輪郭を識別しやすいものを1枚選定した(図1参照)。そして、当該SEM写真の視野中に存在する絶縁フィラー粒子のうち、他の絶縁フィラー粒子と輪郭を識別可能なものを全て選定し、各絶縁フィラー粒子の輪郭を丸で囲んで、その長径を当該絶縁フィラー粒子の粒径(二次粒径)として測定した。このようにして測定した各絶縁フィラー粒子の粒径の平均値を上記平均粒径(DIA)とした。
【0032】
但し、上記平均粒径(DIA)を画像処理により求めることもできる。この場合、例えば、旭エンジニアリング株式会社製のIP−1000PCを用いて、上記と同様の手順で取得したSEM画像に対して、円度しきい値10、重なり度20として円形粒子回析を行うことにより、上記平均粒径(DIA)を求めることもできる。
【0033】
粒径のバラツキ: 本件発明において、表面の光沢に優れ、より平坦なフィラー含有樹脂層を形成するという観点から、絶縁フィラーの粒径のバラツキは小さい方がよい。例えば、上記の手法で、SEM写真の視野中に存在する絶縁フィラー粒子についての粒径を全て測定し、その標準偏差(stdev)と平均値(DIA)(ave)を求めたときに、下記式で表される変動係数(CV)が40%以下となる絶縁フィラーを用いることが好ましい。
CV(%)=標準偏差(stdev)/平均値(ave)×100・・・(式)
【0034】
上記式により表される変動係数(CV)が40%以下の粒度分布がシャープな絶縁フィラーを用いることにより、塗布液中の絶縁フィラーの分散が良好になる。その結果、フィラー含有樹脂層中の絶縁フィラーの充填率が向上し、且つ、フィラー含有樹脂層の表面の平滑性をより向上させることができる。
【0035】
絶縁フィラーの充填率: 当該フィラー含有樹脂層において、絶縁フィラーとバインダ樹脂量との合計を100wt%としたとき、上記絶縁フィラーを50wt%〜90wt%含有することが好ましい。フィラー含有樹脂層内において、絶縁フィラーとバインダ樹脂量との合計を100wt%としたときに、絶縁フィラーを50wt%〜90wt%含有することにより、絶縁フィラーの充填率が高く、絶縁特性或いは誘電特性の高い層を得ることができる。一方、絶縁フィラーの含有率が50wt%未満である場合は、当該フィラー含有樹脂層の層厚を厚くした場合でも、絶縁フィラーの充填率が低く、市場で求められるレベルの誘電特性を得ることが困難になる。また、絶縁フィラーの含有率が90wt%を超えると、バインダ樹脂の含有率が10wt%未満となり、絶縁フィラー樹脂層と、金属箔との密着性が損なわれるため、好ましくない。
【0036】
ここで、図2に、絶縁フィラーとバインダ樹脂量との合計を100wt%としたときの、絶縁フィラーの含有率(充填率)に対する理論誘電率を示す。但し、図2は、絶縁フィラーとしてBaTiOを採用し、バインダ樹脂成分としてポリイミドを採用した際のフィラー含有樹脂層の対数混合則に基づく理論誘電率を示したものである。ここで、ポリイミドの比誘電率は3.2であり、BaTiOの比誘電率は100である。また、ポリイミドの比重は1.43g/cmであり、BaTiOの比重は5.5g/cmである。図2に示すように、絶縁フィラーの含有率が50wt%である場合、対数混合則に基づく当該フィラー含有樹脂層の理論誘電率は6.5になる。また、絶縁フィラーの含有率が90wt%である場合、当該理論誘電率は35.7になる。図2に示すように、バインダ樹脂成分であるポリイミドに対して、強誘電体であるBaTiOは、その比誘電率が極めて高い。当然の如く、BaTiOの含有割合が高くなるにつれて、当該フィラー含有樹脂層の理論誘電率も高くなる。特に、絶縁フィラーの含有率が70wt%を超えると、当該フィラー含有樹脂層の理論誘電率は、11.7になる。従って、当該フィラー含有樹脂層に誘電特性を付与する場合、比誘電率が高くなるという観点から、絶縁フィラーの含有率が高いほど好ましく、例えば、絶縁フィラーの含有率が70wt%以上であると好ましい。
【0037】
2.フィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法
次に、本件発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法について説明する。本件発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法は、上述の本件発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔を製造するための方法であり、2−1塗布液調製工程と、2−2塗工工程と、2−3乾燥工程と、2−4熱処理工程とを備えている。以下、各工程毎に説明する。
【0038】
2−1 塗布液調製工程
本件発明に係る塗布液調製工程は、バインダ樹脂成分と溶剤とを含むワニスに絶縁フィラーを分散させた塗布液を調製する工程である。まず、ワニスと、塗布液について説明した上で、塗布液の粘度、各塗布液成分の濃度等について説明する。
【0039】
〈ワニス〉
まず、ワニスの調製について説明する。本件発明では、絶縁フィラーが添加される前のバインダ樹脂成分と溶剤とを含む溶液をワニスと称する。
【0040】
バインダ樹脂成分: ここで、バインダ樹脂成分とは、バインダ樹脂の前駆体を指す。バインダ樹脂の前駆体とは、例えば、縮合重合、或いは架橋反応等により目的とするバインダ樹脂を構成するモノマー、オリゴマー、縮重合前或いは架橋前等のプレポリマー等を指す。また、バインダ樹脂成分には、必要に応じて、重合開始剤、架橋剤、硬化剤等の成分を含めることができる。本件発明では、塗布液調製工程において、例えば、上記において列挙した樹脂のうち、バインダ樹脂としてポリイミド樹脂を採用した場合、バインダ樹脂成分としてはポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を採用することができる。また、バインダ樹脂として、エポキシ樹脂を採用した場合、バインダ樹脂成分としては、架橋前のエポキシ樹脂と、架橋剤若しくは硬化剤等を指す。
【0041】
溶剤: 一方、溶剤は、上記バインダ樹脂成分を溶解可能な有機溶剤が選択される。また、後の乾燥工程において当該溶剤を所定量まで揮発除去する点を考慮すると、揮発性の高い有機溶剤を用いることが好ましい。溶剤は、バインダ樹脂成分の種類に応じて、適宜、適切なものを選択することが好ましい。例えば、バインダ樹脂としてポリイミド樹脂を採用した場合、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸或いは、ポリアミック酸を得るための単量体であるビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びパラフェニレンジアミンを溶解可能な溶剤が選択される。この場合、溶剤として、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンを採用することができる。また、例えば、バインダ樹脂として、エポキシ樹脂を採用する場合、溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン又はシクロペンタノン及びこれらの混合溶剤を用いることができる。但し、これらの溶剤に限定する趣旨ではなく、上記バインダ樹脂成分を溶解可能であり、且つ、揮発性の高い溶剤であれば、他の溶剤についても適宜用いることができる。
【0042】
以上のワニスは、溶剤とバインダ樹脂とを自ら混合して調製してもよいし、上記成分を所定の濃度で含む市販のワニスを利用してもよい。また、市販のワニスを利用する場合、溶剤により適宜希釈して、好ましい濃度に調製して利用することもできる。なお、ワニスを調製する際のバインダ樹脂成分の好ましい濃度範囲については、後述する。
【0043】
〈塗布液〉
次に、塗布液について説明する。以上のように調製されたワニスに絶縁フィラーを添加して、ワニス中に当該絶縁フィラーを分散させることにより、本件発明に係る塗布液を調製する。このとき、絶縁フィラーの分散を良好にするために、界面活性剤等からなる分散剤を適宜添加してもよい。絶縁フィラーは、上述した理由の通り、凝集状態にある二次粒子の平均粒径(DIA)が5nm〜150nmの絶縁フィラーを用いることができ、平均粒径(DIA)が20nm〜100nmの絶縁フィラーを用いることがより好ましい。また、絶縁フィラーの粒径のバラツキは、その変動係数(CV)が40%以下のものを用いることが好ましい。但し、絶縁フィラーについては、上述の説明と重複するため、ここでは説明を省略する。
【0044】
〈塗布液中の各種成分の濃度〉
塗布液の粘度: 次に、塗布液を調製する際の各種成分の濃度について説明する。本件発明では、塗布液を調製する際に、塗布液の粘度が300mPa・s以下になるように塗布液中の各成分の濃度が調整される。塗布液の粘度を300mPa・s以下に調製することにより、塗布液の塗工性を維持し、金属箔の平滑表面に塗布液を均一に塗布することができ、表面の平坦な塗布膜を形成することができるためである。その結果、乾燥工程及び熱処理工程を経て得られるフィラー含有樹脂層の表面の光沢度及び表面粗さを上記範囲のものとすることができる。ここで、塗布液の粘度を100mPa・s以下に調製することがより好ましい。塗布液の粘度を100mPa以下であると、塗布液の塗工性が更に向上し、厚みが均一で、表面の平坦な塗布膜を形成することがより容易になるためである。但し、当該粘度は、25℃±5℃において、音叉型振動式測定法により測定した値とする。また、粘度の測定に際して、例えば、株式会社エー・アンド・デイ製の音叉型振動式粘度計SV−10を用いて測定することができる。
【0045】
絶縁フィラー及びバインダ樹脂成分の配合比: また、本件発明では、塗布液を調製する際に、塗布液に含まれる絶縁フィラーと、バインダ樹脂成分から得られるバインダ樹脂量(樹脂固形分)とを合計した、全固形分を100wt%としたときに、絶縁フィラーを50wt%〜90wt%含むように、絶縁フィラーとバインダ樹脂成分との配合比が決定される。ここで、樹脂固形分とは、ワニス中に含まれるバインダ樹脂成分を用いて最終的に得られるバインダ樹脂の重量を指す。塗布液中の絶縁フィラー及びバインダ樹脂成分の配合比が、当該範囲を満たすことにより、最終的に得られるフィラー含有樹脂層における絶縁フィラーの充填率を上述の好ましい範囲にすることができる。本件発明では、ワニスを調製した上で、絶縁フィラーを添加する方法を採用しているため、ワニス中のバインダ樹脂濃度に応じて、絶縁フィラーの添加量が決定される。
【0046】
ワニス中のバインダ樹脂濃度: 塗布液の粘度は、ワニス中のバインダ樹脂濃度に応じて変化する。ここで、本件発明において、バインダ樹脂濃度とは、ワニス中に含まれるバインダ樹脂成分を用いて、最終的に得られるバインダ樹脂の量を換算したときのバインダ樹脂濃度を指す。すなわち、ここでいうバインダ樹脂濃度とは、いわゆる樹脂固形分濃度を指す。本件発明では、塗布液の粘度を300mPa・s以下、好ましくは100mPa・s以下に調製することを考慮した上で、ワニス中のバインダ樹脂濃度が決定される。ここで、ワニス中のバインダ樹脂濃度(樹脂固形分濃度)が低い方が、塗布液の粘度が低下する。従って、塗工性のみを考慮した場合は、ワニス中のバインダ樹脂濃度が低い方が好ましい。しかしながら、ワニス中のバインダ樹脂濃度が低いと、乾燥工程において揮発すべき溶剤量(揮発成分量)が多くなるため、塗布膜乾燥時に膜内に微細な気孔(ボイド)が生じたり、乾燥時の塗布膜の体積収縮が大きくなる。その結果、乾燥工程において塗布膜の表面が荒れ、最終的に得られるフィラー含有樹脂層の表面も荒れる恐れが高くなる。したがって、塗布膜内にボイドが発生するのを抑制し、乾燥時の塗布膜の体積収縮を抑制するという観点からは、塗布液の粘度を考慮した上で、ワニス中のバインダ樹脂濃度を可能な限り高くして、揮発すべき溶剤量を少なくすることが好ましい。なお、ワニスを調製する際に、塗布液の粘度が300mPa・s以下になるようにバインダ樹脂濃度を決定する必要があるが、ワニス自体の粘度は300mPa・sを超えてもよい。
【0047】
全固形分濃度: ワニス中のバインダ樹脂濃度と同様の観点から、塗布液において、当該絶縁フィラーと上述のバインダ樹脂成分から得られるバインダ樹脂量とを合計した全固形分の濃度は、塗布液の粘度が300mPa・s以下、好ましくは100mPa・s以下を維持する範囲で可能な限り高くすることが好ましい。塗布液中の全固形分濃度を高くすることにより、揮発成分である溶剤の量を低減して、乾燥工程において溶剤が揮発する過程で、塗布膜内にボイドが発生するのを防止し、厚みが均一で、表面の平滑なフィラー含有樹脂層を形成することが可能になるからである。
【0048】
この全固形分濃度を決定する際に、絶縁フィラーの分散による塗布液の粘度の低下を考慮した上で、可能な限り全固形分濃度を高くすることが好ましい。ワニスに対して絶縁フィラーを添加した直後の塗布液の粘度が300mPa・sを超える場合であっても、絶縁フィラーを分散させることにより塗布液の粘度が低下するためである。例えば、図3(a)は、絶縁フィラーを分散する前の塗布液の粘度を示しており、図3(b)絶縁フィラーを分散した後の塗布液の粘度を示している。図3で測定の対象とした塗布液は、バインダ樹脂としてポリイミド樹脂を採用し、溶剤をN−メチル−2−ピロリドンとしたものである。また、絶縁フィラーは、平均粒径(DIA)が約68nmのBST粒子を採用し、分散剤は添加していない。また、絶縁フィラーは、ピコミル分散機(湿式微粉砕・分散機)によりジルコニアから成るビーズ径が0.3mmの微小メディアを用いて1時間分散したのち、同じくジルコニアから成るビーズ径が0.1mmの微小メディアを用いて1時間分散した。
【0049】
図3(a)(b)に示すように、塗布液中の固形分濃度が同じ場合でも、絶縁フィラーを分散することにより、塗布液の粘度が低下することが分かる。従って、上述したように、ワニスの粘度が300mPa・sを超える場合であっても、絶縁フィラーの分散を適切に行うことにより塗布液の粘度を300mPa・s以下に低減することができる。よって、絶縁フィラーの分散に伴い、塗布液の粘度が低減可能であることを考慮した上で、塗布液中の固形分濃度を決定することが好ましい。
【0050】
絶縁フィラー濃度: 塗布液中の絶縁フィラー濃度についても、塗布液の粘度を上述の範囲内とした上で、可能な限り高い方が好ましい。絶縁フィラー濃度を高くすることにより、最終的に得られるフィラー含有樹脂層における絶縁フィラーの充填率を高くすることができ、上述した通り、フィラー含有樹脂層の絶縁特性や誘電特性の向上を図ることができる。
【0051】
絶縁フィラーの分散特性: ここで、図4に絶縁フィラーの分散特性を示す。図4(a)(b)はそれぞれ分散時間に対する塗布液の粘度の変化を示している。図4(a)は、バインダ樹脂としてポリイミド樹脂を採用した場合の塗布液の粘度の変化を示し、図4(b)は、バインダ樹脂としてエポキシ樹脂を採用した場合の塗布液の粘度の変化を示している。また、図4(a)に示す塗布液は分散剤を特に添加せずに調製したものであり、図4(b)に示す塗布液は分散剤を添加して調製したものである。
【0052】
図4(a)(b)に示すように、ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂のいずれをバインダ樹脂として採用した場合であっても、絶縁フィラーの分散を適切に行うことにより、塗布液の粘度が低下することが分かる。しかしながら、図4(a)、(b)を比較すると、ポリイミド樹脂に比して、エポキシ樹脂を採用した場合の方が、絶縁フィラーの分散に伴う塗布液の粘度の低下の度合いが大きいことが分かる。このように、バインダ樹脂として採用する樹脂の種類によって、ワニス調製時の粘度(絶縁フィラー分散前の塗布液の粘度)と、絶縁フィラー分散後の塗布液の粘度との間に差が生じる。従って、バインダ樹脂として採用する樹脂の種類に応じて、上記ワニス中のバインダ樹脂濃度、塗布液中の固形分濃度、絶縁フィラー濃度をそれぞれ適切な濃度に調整することが好ましい。また、塗布液調製時において、適切な分散剤が存在する場合には、当該分散剤を適宜添加することが好ましい。エポキシ樹脂の場合は、分散剤として、例えば、ビックケミー社のBYK−111等を用いることができる。この分散剤を絶縁フィラーの表面積1m当たり、2mg程度配合することにより、絶縁フィラーの分散状態、塗布液の粘度の低下に対して著しい効果が得られる。従って、適切な分散剤を用いることにより、塗布液の粘度を上述の範囲内に調整するとともに、分散剤を用いない場合に比して、ワニス中のバインダ樹脂濃度を高くすることができ、且つ、塗布液中の固形分濃度及び絶縁フィラー濃度を高くすることができる。
【0053】
以下、固形分濃度を比較的高濃度とした場合であっても、樹脂の粘度或いは分散剤の存在等により、塗布液の粘度を低く抑えることのできるバインダ樹脂の代表的な具体例として、エポキシ樹脂を例に挙げて、塗布液中の固形分濃度及び絶縁フィラー濃度の好ましい範囲、ワニス中のバインダ樹脂濃度の好ましい範囲を例示する。一方、絶縁フィラーを分散させた場合にエポキシ樹脂ほどの粘度の低減効果が得られないバインダ樹脂の代表的な具体例として、ポリイミド樹脂を例に挙げて、上記各濃度の好ましい範囲を例示する。
【0054】
ポリイミド樹脂: まず、ポリイミド樹脂について説明する。バインダ樹脂として、ポリイミド樹脂を採用した場合、塗布液中の全固形分濃度は20.5wt%〜55.5wt%であることが好ましく、20.5wt%〜33.1wt%であることがより好ましい。また、塗布液中の絶縁フィラー濃度は、14.4wt%〜44.4wt%であることが好ましく、14.4wt%〜26.5wt%であることがより好ましい。さらに、ワニス中のバインダ樹脂濃度は、7.2wt%〜20wt%であることが好ましく、7.2wt%〜9wt%の範囲であることがより好ましい。当該範囲内に調整することにより、塗布液の粘度を300mPa・s以下になるように調整することができる。また、図3(a)、図4(a)に示すように分散時間を調整することにより、塗布液の粘度を100mPa・s以下に下げることができる。また、当該範囲内に調整することにより、厚みが均一で、表面の平滑なフィラー含有樹脂層を形成することができる。また、各成分の濃度をより好ましい範囲に調整することにより、より厚みが均一で、より表面の平滑なフィラー含有樹脂層を再現性良く形成することができる。また、最終的に得られるフィラー含有樹脂層の絶縁特性や誘電特性等のバラツキを防止することができる。現時点では、絶縁フィラーの分散状態を良好にすることができ、且つ、塗布液の粘度を低減するために適切な分散剤は見出されていない。しかしながら、このような分散剤が見出された場合には、塗布液中の全固形分濃度及び絶縁フィラー濃度、ワニス中のバインダ樹脂濃度を上述した範囲よりも高くすることができる。
【0055】
エポキシ樹脂: バインダ樹脂として、エポキシ樹脂を採用した場合、塗布液中の全固形分濃度は60wt%〜90wt%であることが好ましく、70wt%〜80wt%であることがより好ましい。また、塗布液中の絶縁フィラー濃度は、48wt%〜72wt%であることが好ましく、56wt%〜64wt%であることがより好ましい。さらに、ワニス中のバインダ樹脂濃度は、10.3wt%〜15.4wt%であることが好ましく、12.0wt%〜13.7wt%であることがより好ましい。各成分の配合量を当該範囲内に調整することにより、上述した観点から、厚みが均一で、表面の平滑なフィラー含有樹脂層を形成することができる。
【0056】
また、バインダ樹脂としてエポキシ樹脂を採用した場合、分散剤を、塗布液中に1.7wt%〜2.3wt%の割合で配合することが好ましい。図4(b)に示したとおり、分散剤を添加することによって、塗布液の粘度を著しく低下することができるためである。このため、ポリイミド樹脂に比して、塗布液中の全固形分濃度及び絶縁フィラー濃度を高くすることができ、ワニス中のバインダ樹脂濃度を高くすることができる。すなわち、塗布液の全固形分濃度を高くした場合であっても、塗布液の粘度を300mPa・s以下に調製することが比較的容易であるため、バインダ樹脂としてエポキシ樹脂を採用した場合、ポリイミド樹脂を採用した場合に比して、表面の平滑なフィラー含有樹脂層を形成するのが容易である。
【0057】
但し、上記においては、バインダ樹脂として、ポリイミド樹脂と、エポキシ樹脂とを例に挙げて、各濃度の好ましい範囲を具体的に例示して説明したが、本件発明に係るバインダ樹脂はこれらの樹脂に限定する趣旨ではなく、上記列挙した各種の樹脂を適用することができる。他の樹脂を用いる場合には、バインダ樹脂の種類、適切な分散剤の有無、ワニスに対する絶縁フィラーの分散特性等を考慮して、上述した各種の観点から、適宜、適切な濃度のワニス、塗布液を調製することが好ましい。
【0058】
分散時間: 次に、絶縁フィラーの分散時間について説明する。上述の通り、絶縁フィラーを分散させることにより、塗布液の粘度はワニスの粘度より低下する。図4に示したように、塗布液の粘度を低下させるという観点からは、分散時間は20分以上であることが好ましい。絶縁フィラーの分散時間を20分以上とすることにより、分散前の塗布液の粘度に比して、分散後の塗布液の粘度を著しく低下することができるためである。
【0059】
図4を参照すると分散時間を長くしても塗布液の粘度が示す値が大きく変化する訳ではない。しかしながら、分散時間を長くしたときと、分散時間が短いときとでは、塗布液の粘度に大差のない場合であっても、絶縁フィラーの分散時間は長い方がより好ましい。絶縁フィラーの分散時間を長くとり、凝集状態にある絶縁フィラーを解砕して、より微粒子の状態で溶剤内により均一に分散させることにより、表面の光沢度がより高く、且つ、表面の平坦なフィラー含有樹脂層を形成することができるためである。絶縁フィラーの粒径や、絶縁フィラーの溶剤に対する濡れ性、バインダ樹脂として採用する樹脂の種類等によって絶縁フィラーの分散状態を良好にするために要する時間は異なる。このため、分散時間の好ましい範囲を一概に規定することはできない。敢えていうならば、採用する絶縁フィラーの粒径が小さいほど、分散時間を長くとることが好ましく、分散に伴う塗布液の粘度の低下の度合いが低いほど、分散時間を長くとることが好ましい。具体的にいえば、エポキシ樹脂に比して、ポリイミド樹脂の方が分散に伴う塗布液の粘度の低下の度合いが低い。従って、ポリイミド樹脂をバインダ樹脂として採用した場合、絶縁フィラーの分散時間をより長くとることにより、絶縁フィラーの分散状態をより良好なものにすることができる。
【0060】
例えば、図5に絶縁フィラーの分散時間に応じた塗布液の粘度と、最終的に得られたフィラー含有樹脂層の表面の光沢度との関係を表したグラフを示す。但し、図5に示す塗布液は、図3に示す塗布液と同じものを用いている。図5に示すように、絶縁フィラーの分散時間を長くした方が、最終的に得られるフィラー含有樹脂層の表面の光沢度が向上し、より表面の平滑なフィラー含有樹脂層が形成可能であることが分かる。また、図3及び図4に示すように、例えば、絶縁フィラーの分散時間が長くなればなるほど、塗布液の粘度が低下するのではなく、絶縁フィラーの分散状態によって塗布液の粘度が変化することが分かる。また、図5に示すように、分散時間が60分の塗布液と、分散時間が80分の塗布液では、分散時間が60分の塗布液の方がその粘度は低い。しかしながら、分散時間が60分の塗布液を用いて形成したフィラー含有樹脂層の表面の光沢度は、分散時間が80分の塗布液を用いて形成したフィラー含有樹脂層の表面の光沢度より低い。このように、分散時間を長くすることにより、塗布液の粘度が上昇する場合であっても、凝集状態にある絶縁フィラーを十分に解砕し、絶縁フィラーを一次粒子の状態で溶剤に均一に分散させた方が、表面のより平滑なフィラー含有樹脂層を形成することができる。例えば、上述した粒径範囲の無機酸化物粒子を絶縁フィラーとして採用する場合、図5に示す結果を考慮すると、バインダ樹脂としてポリイミド樹脂を採用し、平均粒径(DIA)が約68nmの絶縁フィラー(BST)を採用した場合は、表面の光沢度が200以上である表面の平滑なフィラー含有樹脂層を形成するという観点から、絶縁フィラーを分散させる時間は、60分以上であることが好ましく、80分以上であることがより好ましい。
【0061】
分散機: 絶縁フィラーの分散に際して、メディア分散機、高速剪断分散機、高圧分散機等種々の分散機を用いることができる。例えば、メディア分散機としては、例えば、上述した浅田鉄工株式会社製のピコミル:PCM−LRを用いることができる。その他、寿工業株式会社製のスーパーアスペックミル、アシザワ・ファインテック株式会社製のビーズミル:スターミルナノゲッター等を用いることができる。分散メディアは、絶縁フィラーの分散を良好にするという観点から、ビーズ径が0.3mm〜0.03mmの微小メディアを用いることが好ましい。微小メディアを用いるのは次の理由による。上述した通り、絶縁フィラーの分散時間は長い方が好ましい。しかしながら、単に、絶縁フィラーの分散時間を長くしたのでは、絶縁フィラーの結晶性低下や再凝集といった「過分散」という問題が生じる。そこで、本件発明では、ビーズ径がより微小なメディアを用いて分散を行うことにより、絶縁フィラー粒子に一度に与えるエネルギーを小さくして、絶縁フィラーの過分散を防止している。それにより、分散時間を長く設定した場合でも絶縁性フィラーの過分散を防止した上で、絶縁フィラーを溶剤中により良好に分散させることを可能とした。
【0062】
一方、高速剪断機として、例えば、プライミクス株式会社製のTKフィルミクスを用いることができる。また、高圧分散機としては、吉田機械興業株式会社製のナノマイザー等を使用することができる。メディアを用いない場合でも、これらの高速剪断機や高圧分散機を用いることにより、過分散を防止した上で、二次凝集状態にある絶縁フィラーを「ほぐす」ようなイメージで、二次粒子の周囲から徐々に解砕しながら、絶縁フィラーを一次粒子の状態で溶剤中に良好に分散させることができる。
【0063】
2−2塗工工程
次に、塗工工程について説明する。塗工工程は、上記塗布液調製工程において調製した塗布液を金属箔の平滑表面に塗布して塗布膜を形成する工程である。
【0064】
金属箔: 当該工程で用いる金属箔は、その表面の光沢度が400より大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が10nm以下の平滑表面を備えることを特徴としている。当該金属箔については、上記において説明した金属箔と同じものを使用することができるため、ここでは説明を省略する。但し、上記と同様の理由から、銅箔を用いることが好ましい。この点についても、上記において説明した理由と同様の理由を根拠とするため、ここでは説明を省略する。
【0065】
塗布方法: 塗布液を上記金属箔の平滑表面に塗布する際には、従来既知の方法を採用することができる。例えば、グラビアコータ、リバースグラビアコータ、リバースキスグラビアコータ、ダイコータ、バーコータ、コンマコータ、ブレードコータ、リップコータ、ロッドコータ、スクイズコータ、リバースロールコータ、トランスファロールコータ等を使用して、塗布液を金属箔の平滑表面に塗布することができる。特に、本件発明では、塗布膜を薄く、且つ、均一に塗布するといいう観点から、このような薄膜形成に好適なグラビアコータ、リバースグラビアコータ、リバースキスグラビアコータを用いることが好ましく、特に、リバースキスグラビアコータを用いることが好ましい。
【0066】
2−3 乾燥工程
次に、乾燥工程について説明する。乾燥工程は、上記塗工工程の終了後、金属箔の平滑表面に形成された塗布膜を乾燥させて、塗布膜中の揮発成分(溶剤)を揮発させて除去する工程である。本件発明では、塗布液の粘度を塗工時に適切な値になるように調整した上で、樹脂固形分濃度を可能な限り高くし、乾燥工程において塗布膜中の揮発成分を除去する速度(以下、「乾燥速度」という)を以下の通り制御することにより、本件発明に係る表面の平滑な上述のフィラー含有樹脂層を再現性よく、且つ、歩留まりよく得ることができる。
【0067】
乾燥速度: 本件発明では、当該乾燥工程において、塗布膜中の揮発成分を0.001mg/min・cm〜0.250mg/min・cmの割合で揮発させることを特徴としている。すなわち、金属箔1cm当たり、0.001mg/min〜2mg/minの割合で塗布膜中の揮発成分を揮発させるように、乾燥条件を制御することが好ましい。また、乾燥工程において、当該乾燥速度を一定に保ち、上記の割合で塗布膜中の揮発成分を緩やかに揮発させることが好ましい。塗布膜が乾燥する過程において、塗布液は、重力によりその厚みが水平になるように自己流動する。本件発明では、塗布液の粘度が高いため、その流動が緩慢であり、塗布膜の表面が水平になるまでに時間を要する。すなわち、いわゆるレベリング時間を要する。したがって、本件発明では、塗布液の自己流動を妨げないようにして、当該レベリング時間を確保しながら、溶剤を緩やかに揮発させることにより、塗布膜の厚みが均一で、且つ、表面が平滑なフィラー含有樹脂層を形成することを可能としている。溶剤の揮発性や、塗布液の粘度によって、乾燥速度を適宜適切な値に設定することが好ましいが、本件発明者の鋭意研究により、乾燥速度が上述の範囲となるような乾燥条件で塗布膜を乾燥させることにより、次に説明する熱処理工程を経て得られるフィラー含有樹脂層の表面の光沢度及び表面粗さが上述の範囲のものとなる。上述のように、塗布液中の全固形分濃度を上述の範囲とし、塗布液中の絶縁フィラーの濃度を高くしたときに、単に乾燥させたのでは、レベリング時間が足りず、本件発明に係るフィラー含有樹脂層を得ることができない。本件発明者の鋭意研究に基づき、上記乾燥速度において塗布膜を乾燥させることにより、極めて平滑なフィラー含有樹脂層を再現性よく得ることが実現可能になった。
【0068】
ここで、乾燥速度の上限値を1mg/min・cm以下とすることがより好ましい。1mg/min・cm以下で、塗布膜中の揮発成分を除去することにより、塗布液の粘度が高い場合でも、塗布液の流動を妨げることなく、レベリング時間を確保した上で、より平滑な表面のフィラー含有樹脂層を再現性よく形成することができる。
【0069】
また、本件発明において、乾燥速度は、次のようにして求めた速度を指す。まず、底面が平らな容器内に十分な量の塗布液を流入する。このときの塗布液重量を容器重量と共に測定する。次に、密閉空間内で乾燥を開始してから予め定めた所定時間経過した時点の塗布液重量を容器重量と共に測定する。そして、乾燥開始前後の容器内の塗布液重量の差に基づき、所定時間経過するまでの間に揮発した溶剤量を求める。そして、揮発した溶剤量を容器の底面面積と、上記所定時間で除すことにより、上記乾燥速度が求められる。本件発明では、上記所定時間を10分として、当該乾燥速度を求めた。また、本件発明において、乾燥条件とは、乾燥温度、雰囲気湿度、雰囲気圧力等を指す。乾燥条件を変えて、各乾燥条件毎に当該乾燥速度を算出し、乾燥条件と乾燥速度との相関関係を予め求めた。そして、実際の乾燥工程においては、このようにして求めた乾燥速度と乾燥条件との関係に基づき、上記範囲の乾燥速度を満たすような乾燥条件において、塗布膜の乾燥を行った。
【0070】
ここで、塗布液の乾燥速度が0.001mg/min・cm未満の場合、塗布液の揮発が緩慢であり、工業的生産効率に見合わない。また、塗布液の乾燥速度が0.001mg/min・cm未満になると、雰囲気湿度によっては塗布膜が吸湿する恐れが生じる。塗布膜が吸湿した場合、乾燥時に吸湿した水分が蒸発して、塗布膜の表面に凹凸が生じやすくなり、上述した範囲の表面の光沢度及び表面粗さ(Ra)を有するフィラー含有樹脂層を形成することが困難になる。
【0071】
一方、当該工程における乾燥速度が2mg/min・cmを超える場合、上記レベリング時間が足りずに、塗布膜の表面に凹凸が生じやすくなり、上述した範囲の表面の光沢度と表面粗さ(Ra)とを有する表面の平滑なフィラー含有樹脂層を形成することが困難になる。すなわち、上述した範囲の表面の光沢度と、表面粗さ(Ra)とを有するフィラー含有樹脂層を形成するには、塗布膜の吸湿を防止し、且つ、溶剤を緩やかに揮発させることが重要である。
【0072】
雰囲気湿度: 上述した様に、塗布膜が吸湿した場合、乾燥速度は上述の範囲から外れ、上述した範囲の表面の光沢度と表面粗さ(Ra)とを有する表面の平滑なフィラー含有樹脂層を形成することが困難になる。したがって、乾燥工程においては、塗布膜の吸湿を防止した状態で、上述の乾燥速度を満たすように塗布膜を乾燥させることが好ましい。また、乾燥工程開始前に吸湿により塗布膜重量が増加すると、上述した理由と同様の理由から表面の平滑なフィラー含有樹脂層を形成することが困難になる。具体的には、塗布膜形成後の塗布膜重量の増加は、フィラー含有樹脂層の層厚が1μmになるように塗布液を調製した場合、塗布液の調製に用いた溶剤重量の5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。勿論、塗布膜の吸湿を避けることが最も好ましい。従って、乾燥工程開始前においては、塗布膜の吸湿を防止すべく、例えば、相対湿度25%以下の調湿された雰囲気下において塗布膜を保存することが好ましい。相対湿度が20%以下の雰囲気中では塗布膜の吸湿は認められない。一方、相対湿度が25%を超えると、雰囲気温度や雰囲気湿度によっては塗布膜の吸湿が見られる場合がある。
【0073】
乾燥温度: ここで、参考までに、図6に、20℃に換算したときの相対湿度が30%(絶対湿度0.0055kg/kg)になるように湿度を調整した密閉空間内で、塗布膜を乾燥させたときにおける乾燥温度と乾燥速度との関係を示す。図6に示すように、当該調湿雰囲気中において、乾燥温度を20℃とした場合、単位面積当たりの乾燥速度は、−0.035mg/min・cmであった。すなわち、塗布膜重量の増加が見られた。当該調湿雰囲気中において、乾燥温度を高くして塗布膜を乾燥させると、乾燥温度が高くなるにつれて、当然の如く、単位面積当たりの乾燥速度も速くなることが確認された。また、乾燥温度が40℃の場合、乾燥速度は0.227mg/min・cmであった。このときの相対湿度を計算により求めると9.5%である。さらに、乾燥温度を60℃にした場合、乾燥速度は0.716mg/min・cmであった。このときの相対湿度を計算により求めると、3.5%である。このとき、乾燥温度を40℃とした場合と、乾燥温度を60℃とした場合では、最終的に得られたフィラー含有樹脂層の表面光沢度及び表面粗さは同程度になった。一方、乾燥温度を80℃とした場合であっても、最終的に得られるフィラー含有樹脂層の表面の光沢度は200より大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が25nmより小さいものが得られた。しかしながら、乾燥温度を40℃又は60℃で塗布膜を乾燥したものと比較すると、表面の光沢度が低く、表面粗さも粗くなった。このことからも、上述した通り、より表面の光沢に優れ、表面粗さの小さいフィラー含有樹脂層を再現性よく形成することができるという観点から、上記乾燥速度の上限値は、1mg/min・cm以下とすることがより好ましい。
【0074】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0075】
〈フィラー含有樹脂層付金属箔の製造〉
塗布液調製工程: 本実施例では、市販のワニスを用いて用いて塗布液の調製を行った。塗布液の調製に用いた、各塗布液成分の配合量を表1に示す。本実施例では、塗布液の調製に際して、市販のワニスを用いたためワニス中の樹脂固形分濃度を調製するために、別途溶剤を用いて、樹脂固形分濃度を調整すると共に粘度の調整を行った。
【0076】
バインダ樹脂: 本実施例では、バインダ樹脂としてポリイミド樹脂を採用した。ワニスとしては、表1に示す通り、宇部興産株式会社製のU−ワニス−Sを300g用いた。当該ワニスは、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解した20wt%のポリアミック酸溶液である。ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミンとを原料として得ることができる。当該ポリアミック酸溶液では、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとから得られたものを採用している。ポリアミック酸を熱処理することにより、脱水反応が起こり、ポリアミック酸が縮重合してポリイミド樹脂になる。得られるポリイミド樹脂の重量は、ポリアミック酸の重量の10wt%減となる。従って、当該ワニス中の樹脂固形分濃度は、18wt%である。当該ワニス300g中に含まれる上記樹脂固形分は、54gであり、溶剤量は240gである。
【0077】
溶剤: 本実施例では、溶剤として、上記ワニスに含まれる溶剤と同じN−メチル−2−ピロリドンを採用した。上述した様に、ワニス中にN−メチル−2−ピロリドンが約240g含まれている。従って、塗布液全体において、溶剤は690g用いた。
【0078】
絶縁フィラー: 本実施例では、絶縁フィラーとしてチタン酸バリウムストロンチウムの粉体を126g用いた。当該チタン酸バリウムストロンチウムにおいて、バリウムとストロンチウムの比率は9である。また、粉体の密度は5.5g/cmであり、当該絶縁フィラーの平均二次粒子径(DIA)は約68nmであった。但し、当該平均二次粒子径(DIA)は、上述した通り、SEM写真に基づいて求めた値である。当該絶縁フィラーを写したSEM写真は図1に示すものである。
【0079】
【表1】

【0080】
上述の塗布液成分を用いて、まず、上記ワニス300gを溶剤450gにより希釈して、樹脂固形分濃度が7.2wt%のワニスを調製した。その後、上記チタン酸バリウム126gをワニスに添加して、ピコミル分散機を用いて、ビーズ径が0.05mmの微小メディアを用いて80分間分散し、本実施例における塗布液を調製した。塗布液における絶縁フィラーの重量濃度は、15.3wt%である。また、当該塗布液における絶縁フィラーとバインダ樹脂(樹脂固形分)とを合計した全固形分の重量濃度は、21.8wt%である。当該塗布液の各成分の配合量は、熱処理によって得られる最終的なフィラー含有樹脂層における絶縁フィラーと樹脂固形分との合計重量を100wt%としたとき、絶縁フィラーは70wt%含まれるように調整されたものである。
【0081】
塗工工程: 塗工工程では、表面積が10cmで、層厚が18μmの銅箔を2枚用いて、当該銅箔の平滑表面に上記塗布液をバーコータを用いてそれぞれ塗布した。このとき、最終的に得られるフィラー含有樹脂層の厚みが1μmになるように、塗布液を銅箔の平滑表面に塗布した。但し、当該銅箔の平滑表面の光沢度は、538であり、その表面粗さ(Ra)は、5.7nmであった。
【0082】
乾燥工程: 塗工工程の終了後、塗布膜を乾燥させ金属箔の平滑表面に半硬化状態のフィラー含有樹脂層を形成した。当該乾燥工程では、上述の塗工工程において作製した2枚の塗布膜付銅箔の乾燥条件を変えて塗布膜の乾燥を行った。
【0083】
試料1: この2枚の塗布膜付銅箔のうち、一方の塗布膜付銅箔は、単位面積当たりの乾燥速度が、0.227mg/min・cmとなるように乾燥した。このときの実際の乾燥条件は、乾燥温度40℃、常圧であった。このときの相対湿度は12%であった。当該乾燥条件の下、塗布膜を60分間乾燥した。但し、実際には、塗布膜は約30分程度で乾燥した。当該乾燥条件により得られたフィラー含有樹脂層付銅箔を試料1とする。
【0084】
試料2: 他方の塗布膜付銅箔は、単位面積当たりの乾燥速度が、0.002mg/min・cmとなるように乾燥した。このときの実際の乾燥条件は、乾燥温度25℃、窒素置換雰囲気下、常圧であった。このとき、塗布膜の乾燥には、5日間要した。当該乾燥条件により得られたフィラー含有樹脂層付銅箔を試料2とする。
【比較例】
【0085】
次に、比較例について説明する。まず、比較例では、単位面積当たりの乾燥速度を5.882mg/min・cmとなるように乾燥した以外は、試料1と同様にして比較試料1を作製した。このときの実際の乾燥条件は、乾燥温度を120℃、常圧であった。
【0086】
〈評価〉
以上の実施例及び比較例において得られた試料1、試料2及び比較試料1について、フィラー含有樹脂層の表面状態を評価した。図7〜図9は、それぞれ試料1、試料2及び比較試料1のフィラー含有樹脂層の表面を示すSEM写真(但し、倍率20,000倍)である。なお、当該SEM写真の撮影には、JEOL社製のSEM(JSM−700IF)を用いた。図7〜図9を参照すると、図9に示す比較試料1のフィラー含有樹脂層の表面と比較すると、図7及び図8に示す試料1及び試料2のフィラー含有樹脂層の表面が平滑であることが分かる。また、試料1と試料2とを比較すると、試料1に対して乾燥速度が著しく遅い試料2の方が、そのフィラー含有樹脂層の表面が平滑であることが分かる。
【0087】
次に、試料1、試料2及び比較試料1のフィラー含有樹脂層の表面の光沢度及び表面粗さ(Ra)を測定した。当該光沢度は、JIS Z 8741−1997に基づき、日本電色工業株式会社製光沢計VG−2000を用いて測定した値である。また、表面粗さは、日本ビーコ株式会社製の原子間力顕微鏡:NanoscopeV for Dimension seriesを用いて、タッピングモードにおいて測定し、且つ、平坦化処理なしという条件下において得た値とした。結果を表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2に示すように、試料1及び試料2については、表面の光沢度が260、314であった。これに対して、比較試料1は、その表面の光沢度が150であり、図9に示した通り、表面は試料1及び試料2に比して粗かった。また、表面粗さ(Ra)についても、試料1及び試料2については、それぞれ約25nm、20nmであるのに対して、比較試料1では約33nmであった。このように、塗布液中の各成分の配合量や分散時間等を揃えても、乾燥条件が異なることにより、最終的に得られるフィラー含有樹脂層の表面の平滑性が異なることが分かる。
【0090】
また、図5に示したように、塗布液調製時の分散時間を変化させることにより、塗布液中に含まれる各種成分の配合量が同じであっても、最終的に得られるフィラー含有樹脂層の表面の光沢度は異なる。
【0091】
このように、塗布液中の各成分の配合量を調整して、最終的に得られるフィラー含有樹脂層の各成分の配合比率を調整した場合でも、塗布液の分散時間や塗布膜の乾燥条件によって、表面の平滑性が異なることが分かる。換言すれば、フィラー含有樹脂層中に含まれるバインダ樹脂と絶縁フィラーの含有率が同じであっても、製造工程において分散条件や乾燥条件が異なれば、その表面の光沢度や表面粗さ(Ra)が異なり、再現性良く表面の平滑な絶縁層を得ることが困難であることが分かる。従って、本件発明によれば、塗布液の分散時間や塗布膜の乾燥条件を厳密に制御することにより、最終的に得られるフィラー含有樹脂層の表面の平滑性を一定のものにすることができることが確認された。
【0092】
本件発明では、分散条件や乾燥条件を整えることにより、光沢度が200以上であり、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が25nmより小さいフィラー含有樹脂層を得ている。このように、フィラー含有樹脂層の表面を平滑にするための付加的な工程や、平滑化手段等を要しないため、簡易に、且つ、再現性よく、フィラー含有樹脂層を広面積に製造することができる。
【0093】
また、粒径のバラツキの影響についても検討した。図10に示す平均粒径(DIA)=約66nm、変動係数(CV)が45%の絶縁フィラーを用いたこと以外は、実施例1の試料1と同様にして参考試料を作製した。塗布液調製時の粘度等には大きな差は見られなかったが、最終的に得られたフィラー含有樹脂層の表面の光沢度は、変動係数(CV)が38%の試料1と比べると、変動係数(CV)が45%の絶縁フィラーを用いた参考試料は試料1よりも約20%程度低くなった。このことから、変動係数(CV)がより低い、すなわち、粒径のバラツキの小さい絶縁フィラーを用いることにより、表面がより平滑なフィラー含有樹脂層を再現性よく得られると判断できる。
【0094】
さらに、図11に、バインダ樹脂として、エポキシ樹脂を採用して作製したフィラー含有樹脂層の表面写真を示す。但し、当該SEM写真の撮影は、試料1等と同様にして行ったものである。図11に示すフィラー含有樹脂層付銅箔では、バインダ樹脂濃度が13.7wt%のワニスに絶縁フィラーを添加し、分散剤(BYK−111;ビックケミ−社製)を2.3wt%の濃度で用いて、塗布液中の絶縁フィラー濃度を65wt%、塗布液中の全固形分濃度を80wt%となるように塗布液を調製した。このときの塗布液の粘度は63.6mPa・sであった。一方、実施例1で調製した塗布液の粘度は95.8mPa・sであった。このように、バインダ樹脂としてエポキシ樹脂を採用した場合には、図4にも示したように、分散剤を添加することにより塗布液の粘度を大きく低減することができる。従って、バインダ樹脂として、ポリイミド樹脂を採用した場合に比して、塗布液中の全固形分濃度等を高くすることができる。従って、ポリイミド樹脂に比して、エポキシ樹脂の方が、表面の平滑なフィラー含有樹脂層を再現性良く、且つ、比較的容易に形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本件発明に係るフィラー含有樹脂層付金属箔は、プリント配線基板又は半導体基板等に各種電子回路を形成するための電子回路形成材料、或いは、各種電子部品を形成するための電子部品形成材料等として好適に使用することができる。特に、当該フィラー含有樹脂層は薄膜であり、表面の平滑性に優れるため、信頼性の高い電子回路或いは電子部品を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔と、絶縁フィラー及びバインダ樹脂を含むフィラー含有樹脂層とが積層したフィラー含有樹脂層付金属箔であって、
当該金属箔は、その表面の光沢度が400より大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が10nm以下の平滑表面を備え、
当該平滑表面に配置するフィラー含有樹脂層は、厚さが0.1μm〜3.0μmであり、当該フィラー含有樹脂層表面の光沢度が200より大きく、且つ、測定範囲5μm×5μmにおいて原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が25nmより小さい、
ことを特徴とするフィラー含有樹脂層付金属箔。
【請求項2】
前記絶縁フィラーは、その平均粒径(DIA)が5nm〜150nmである無機酸化物粒子である請求項1に記載のフィラー含有樹脂層付金属箔。
【請求項3】
下記式で表される前記絶縁フィラーの粒径の変動係数(CV)は40%以下である請求項2に記載のフィラー含有樹脂層付金属箔。
CV(%)=標準偏差(stdev)/平均値(ave)×100・・・(式)
【請求項4】
前記絶縁フィラーは、誘電体粒子である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のフィラー含有樹脂層付金属箔。
【請求項5】
前記フィラー含有樹脂層は、絶縁フィラーとバインダ樹脂との合計を100wt%としたとき、絶縁フィラーを50wt%〜90wt%含有する請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のフィラー含有樹脂層付金属箔。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法であって、
バインダ樹脂成分と溶剤とを含むワニスに絶縁フィラーを分散させた塗布液を調製する塗布液調製工程と、
前記塗布液調製工程において調製した塗布液を金属箔の平滑表面に塗布して塗布膜を形成する塗工工程と、
前記塗工工程の終了後、前記塗布膜中の揮発成分を除去する乾燥工程と、
前記乾燥工程の終了後の塗布膜に熱処理を施して、前記フィラー含有樹脂層を得る熱処理工程と、
を備えることを特徴とするフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法。
【請求項7】
前記塗布液に含まれる前記絶縁フィラーと、バインダ樹脂成分から得られるバインダ樹脂とを合計した全固形分を100wt%としたときに、前記塗布液は前記絶縁フィラーを50wt%〜90wt%含む請求項6に記載のフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法。
【請求項8】
前記塗布液の粘度が300mPa・s以下である請求項6又は請求項7に記載のフィラー含有樹脂層付き金属箔の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁フィラーは、その平均粒径(DIA)が5nm〜150nmである無機酸化物粒子である請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載のフィラー含有樹脂層付金属箔。
【請求項10】
下記式で表される前記絶縁フィラーの粒径の変動係数(CV)は40%以下である請求項9に記載のフィラー含有樹脂層付金属箔。
CV(%)=標準偏差(stdev)/平均値(ave)×100・・・(式)
【請求項11】
前記乾燥工程において、前記塗布膜中の揮発成分を0.001mg/min・cm〜2mg/min・cmの割合で揮発させる請求項6〜請求項10のいずれか一項に記載のフィラー含有樹脂層付金属箔の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−35492(P2012−35492A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177120(P2010−177120)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】