説明

フォトクロミック硬化性組成物

【課題】ジエチレングリコールビスアリルカーボネートを用いて安価、簡便にフォトクロミック眼鏡レンズを製造できるフォトクロミック硬化性組成物を提供する。
【解決手段】ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、及び/またはそのオリゴマーを10質量%以上含有するラジカル重合性単量体100質量部に対して、下記(A)および(B)のラジカル重合開始剤を合計0.1〜10質量部((A)10時間半減期温度が50℃以上のパーオキシエステル系ラジカル重合開始剤、(B)10時間半減期温度が80℃以上のパーオキシケタール系ラジカル重合開始剤)、フォトクロミック化合物部0.001〜10質量部、を含有してなるフォトクロミック硬化性組成物は、歩留まりよくフォトクロミック眼鏡レンズが製造できる。また得られる硬化体は、機械的、光学的物性が優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック作用の優れたフォトクロミック硬化体の製造に好適に使用しうる硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミズムとは、ある化合物に太陽光あるいは水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると速やかに色が変わり、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻る可逆作用のことであり、様々な用途に応用されている。
【0003】
例えば、眼鏡レンズの分野においてもフォトクロミズムが応用されており、上記のような性質を有する各種フォトクロミック化合物を添加した重合性単量体を硬化させることによりフォトクロミック性を有するプラスチックレンズが得られている。フォトクロミック化合物としては、このような用途に好適に使用できるフルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等が見い出されている。
【0004】
またフォトクロミック眼鏡とは、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外ではレンズが速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能する眼鏡であり、近年その需要は増大している。
【0005】
フォトクロミック眼鏡レンズに関しては、軽量性や安全性の観点から特にプラスチック製のものが好まれており、このようなプラスチックレンズへのフォトクロミック性の付与は一般に有機系のフォトクロミック化合物と複合化することにより行なわれている。複合化方法としては、フォトクロミック性を有しないレンズの表面にフォトクロミック化合物を含浸させる方法(以下、含浸法という)、あるいはモノマーにフォトクロミック化合物を溶解させ、それを重合させることにより直接フォトクロミックレンズを得る方法(以下、練り込み法という)が知られている。これら含浸法の技術(特許文献1〜3参照)および練り込み法の技術(特許文献4〜5参照)は、種々の技術が提案されている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5739243号明細書
【特許文献2】米国特許第5973093号明細書
【特許文献3】国際公開第95/10790号パンフレット
【特許文献4】特開平5−306392号公報
【特許文献5】特開平8−320534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらのフォトクロミック化合物及びそれらを含むフォトクロミック性を有するプラスチックは、一般に優れたフォトクロミック特性を示す。しかしながら、これらのフォトクロミック複合体を各種の用途、特にフォトクロミック眼鏡レンズに使用するためには、良好なフォトクロミック作用を示すだけではなく、簡便、安価に製造でき、且つフォトクロミック眼鏡レンズとして、機械的または光学的物性に優れていることが要求される。
【0008】
上記含浸法で例示した、フォトクロミックプラスチックを眼鏡用途に用いる場合、基材を別に作成し、得られた基材にフォトクロミック化合物を含浸させるため、製造法が煩雑であるばかりでなく、含浸性を向上させるために、基材のガラス転移温度(Tg)を下げる必要があるため、基材の柔軟性があまりにも高くなり、その結果、基材の硬度の低下、耐熱性の低下がおこり、光学歪みが多く存在するなどといった新たな問題を生じている。
【0009】
また、上記練り込み法で例示した特許文献4および5(特開平5−306392号公報および特開平8−320534号公報)では、高反応性のジ(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体を使用しているため、重合の制御が難しく、35℃以下の温度で厳密な温度管理ができる重合オーブンを用いてしか歪のないフォトクロミック眼鏡レンズを作成することが出来ず、成型性に特殊な設備を必要とする点と、特殊なアクリレート系の材料を用いるため、安価に製造することが出来ないといった点で改善の余地があった。
【0010】
また、眼鏡レンズの汎用材料として用いられている屈折率1.50の硬化体が得られるジエチレングリコールビスアリルカーボネート(以下、通称である‘CR-39‘と略す場合もある。)をラジカル重合性単量体として用いて、練り込み法でフォトクロミック眼鏡レンズを製造する方法が種々試みられている。しかしながら、該単量体が、低反応性であるために、酸化作用の高い、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(以下、通称’IPP‘と略す場合もある。)をフォトクロミック化合物と共存させ重合させた場合、IPPがフォトクロミック化合物を酸化するため、十分なフォトクロミック特性を示すフォトクロミック眼鏡レンズが得られていないといった問題点を有している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは、上記したフォトクロミック化合物を重合性単量体と混合して重合を行い、フォトクロミック眼鏡レンズに代表されるフォトクロミック硬化体を、練り込み法で安価/簡便に製造できる硬化性組成物について鋭意研究を続けた。その結果、眼鏡レンズ用途で、汎用/安価な材料として用いられているジエチレングリコールビスアリルカーボネート及び/またはそのオリゴマーと特定のラジカル重合開始剤を含んでなるフォトクロミック硬化性組成物が、厳密な温度制御を必要としない設備で歩留まりよくフォトクロミック硬化体を製造でき、且つ得られるフォトクロミック硬化体のフォトクロミック特性が優れているばかりでなく、機械的および光学的物性にも優れていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、
[1]ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、及び/またはそのオリゴマーを10質量%以上含有するラジカル重合性単量体100質量部に対して、
[2]下記(A)および(B)のラジカル重合開始剤を合計0.1〜10質量部、
(A)10時間半減期温度が50℃以上のパーオキシエステル系ラジカル重合開始剤、
(B)10時間半減期温度が80℃以上のパーオキシケタール系ラジカル重合開始剤、
[3]フォトクロミック化合物部0.001〜10質量部、
を含有してなることを特徴とするフォトクロミック硬化性組成物であり、また
該フォトクロミック硬化性組成物からなる硬化体であって、20℃、589.3nmの波長における屈折率が1.49−1.51の範囲となることを特徴とするフォトクロミック硬化体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフォトクロミック硬化性組成物を重合して得られる硬化体は、フォトクロミック特性に優れるばかりでなく、成形性が優れ、厳密な温度制御を必要としない設備で歩留まりよく製造でき、且つ機械的、光学的物性が優れている。したがって、本発明のフォトクロミック硬化性組成物を重合して得られる硬化体は、フォトクロミック性を有する有機ガラスとして有用であり、例えば、フォトクロミック眼鏡レンズ等の用途に好適に使用することができる。また、特に下記1〜3示す利点を有する。
1.汎用樹脂である、CR−39のモールドを用いて成型でき、同じ度数を与えるフォトクロミック眼鏡レンズを製造することで、生産コストを抑制することが出来る。
2.パーオキシジカーボネート(IPP)を使用しないことで、フォトクロミック化合物の重合中の劣化を抑制でき、フォトクロミック特性に優れた眼鏡レンズを得ることができる。
3.CR−39(低反応性の単量体)を使用することおよび、高温型の開始剤を使用することで、従来のアクリル系(高反応性)の練り込みフォトクロミック硬化体の重合で必要であった室温付近の厳密な温度制御が必要なく成形性が良好なため、特殊な設備を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、[1]ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、及び/またはそのオリゴマーを10質量%以上含有するラジカル重合性単量体、[2]特定のラジカル重合開始剤、および[3]フォトクロミック化合物を含有してなることを特徴とするフォトクロミック硬化性組成物である。
【0015】
先ず、前記[1]のラジカル重合性単量体について説明する。本発明において、前記[1]の成分であるジエチレングリコールビスアリルカーボネート、及び/またはそのオリゴマーは、市販の材料を入手して用いることができる。該材料として市販されているものとしては、PPG社、GREAT LAKE社の市販材料を用いればよい。また、そのオリゴマーとしては、公知のものを用いることができるが、公知のプレポリマー化法により、アリル部分を重合し、オリゴマー化したものを用いることができる。プレポリマー化法としては、ラジカル重合開始剤として、IPPを0.01部から0.5部用いて50〜80℃で2〜5時間重合する方法が挙げられる。ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単量体を、予めオリゴマー化することで、硬化時の重合収縮率が低下し、歩留まりを向上させることが可能となる。
【0016】
また、前記[1]のラジカル重合性単量体において、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、及び/またはそのオリゴマー以外の他のラジカル重合性単量体としては、アリル単量体、(メタ)アクリル単量体、多価カルボン酸誘導体、マレイミド誘導体等を好適に用いることができる。これらラジカル重合性単量体を具体的に例示すれば、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルオルソフタレート、安息香酸アリル、シクロヘキサンカルボン酸アリル、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、アリルジグリコールカーボネートの如き多価アリル化合物、ジベンジルマレート、スチレン、クロルスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、イソプロペニルナフタレン、ビスフェノールAジメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、N−シクロヘキシルマレイミド、無水マレイン酸、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジアリル等が挙げられる。また該ラジカル重合性単量体の中でも、得られる硬化体の屈折率を1.49〜1.51に調整すること、およびフォトクロミック特性の観点を考慮すると、特に、下記の(メタ)アクリレート誘導体が好ましい。具体的には、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、分子量2,500〜3,500の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB80等)、分子量6,000〜8,000の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB450等)、分子量45,000〜55,000の6官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB1830等)、分子量10,000の4官能ポリエステルオリゴマー(第一工業製薬社、GX8488B等)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエトキシシクロヘキシル)プロパン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,9−ノニレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン、平均分子量526のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量360のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量1,000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量375のポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量430のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量622のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量620のメチルエーテルポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量566のポリテトラメチレングリコールメタアクリレート、平均分子量2,034のオクチルフェニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、ノニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量640のメチルエーテルポリエチレンチオグリコールメタクリレート、平均分子量498のパーフルオロヘプチルエチレングリコールメタクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタアクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、平均分子量1,400のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸の如き不飽和カルボン酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸ビフェニルの如きアクリル酸およびメタクリル酸エステル化合物;フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニルの如きフマル酸エステル化合物を例示することができ、この中でも特に、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート等のポリアルキレングリコール誘導体が、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと相溶性の点、フォトクロミック性の点で好ましい。
【0017】
また、本発明においては、分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するラジカル重合性単量体(以下、エポキシ単量体という)を配合することにより、得られる硬化体において、前記[3]のフォトクロミック化合物の可逆的な耐久性を向上させることが出来るため、これらエポキシ単量体を好適に用いることができる。このエポキシ単量体は、公知の化合物を何ら制限なく採用される。例えば、一価、二価、三価アルコール等のアルコール性水酸基含有化合物、またはフェノール、ハイドロキノン等のフェノール性水酸基含有化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物、或は安息香酸、テレフタル酸等のカルボン酸とエピクロロヒドリンとの反応生成物などを挙げることができる。エポキシ単量体は、分子中に更に少なくとも1個の不飽和二重結合基をも有するものであっても良い。不飽和二重結合基としては、一般には、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等をあげることができるが、良好なフォトクロミック物性を得るためにはアクリロイル基またはメタクリロイル基が好ましい。分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するが不飽和二重結合を有しないエポキシ単量体としては、例えば、エチレングリコールグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAまたは水素化ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物、テレフタル酸ジグリシジルエステル、スピログリコールジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル等を挙げることができる。また、分子中に少なくとも1個の不飽和二重結合基と少なくとも1個のエポキシ基とを有するエポキシ単量体としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルアクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA−モノグリシジルエーテル−メタクリレート、4−グリシジルオキシブチルメタクリレート、3−(グリシジル−2−オキシエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(グリシジルオキシ−1−イソプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−(グリシジルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート等のメタクリレート化合物またはアクリレート化合物を挙げることができる。
【0018】
また、本発明においては、得られる硬化体の屈折率(20℃、589.3nmの波長における屈折率)を1.49から1.51に調整する目的で、20℃、589.3nmの波長における硬化体の屈折率が1.48〜1.525の範囲となる、2官能以上の(メタ)アクリル重合性単量体を使用することもできる。この2官能以上の(メタ)アクリル重合性単量体を使用することにより、フォトクロミック特性も向上させことができる。また、更には、屈折率を調整する点において、硬化体の屈折率が高くなる単量体と組み合わせる時は、特に、炭素含有量が高く、硬化体の屈折率が1.50以下となる2官能以上の(メタ)アクリル重合性単量体が好適に用いられる。なお、これらラジカル重合性単量体の硬化体の屈折率は、一般的に単量体中の90%以上の官能基を重合したときに得られる屈折率であり、公知の方法を用いて重合し測定することが可能である。
【0019】
本発明において、[1]のラジカル重合性単量体は、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、及び/またはそのオリゴマー10質量%以上であり、好適な配合量としては、フォトクロミック特性の観点より、(I)ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、及び/またはそのオリゴマー10〜90質量%、(II)その他のラジカル重合性単量体90〜10質量%となることが好ましい。その中でも、特に、(II)その他のラジカル重合性単量体としては、20℃、589.3nmの波長における硬化体の屈折率が1.48〜1.525の範囲となる2官能以上の(メタ)アクリル重合性単量体90〜10質量%、及び/または硬化体の屈折率が1.48〜1.525の範囲となるエポキシ単量体を90〜10質量%を添加する配合が好ましい。また、更に好適には、前記(I)と(II)の配合割合を(I)10〜50質量%、(II)90〜50質量%とすることが、フォトクロミック性の点でより好適である。また、[1]のラジカル重合性単量体には、重合調整剤として、無水マレイン酸、マレイン酸ジアリル、α−メチルスチレンダイマー、α−メチルスチレンを少量の重合調製剤として添加するのが好適である。その添加量は、ラジカル重合性単量体100質量部中、0.1〜10質量%添加するのが好適であり、無水マレイン酸、マレイン酸ジアリル、α−メチルスチレンダイマーは、硬化体の硬度を高くする観点より、0.1〜3質量%とすることが好ましい。またα−メチルスチレンダイマーは、その働きはα−メチルスチレンダイマーの連鎖移動作用により、硬化中の急激な重合、硬化を防止し、ゆるやかに重合、硬化を進行させることができるため、硬化体の重合による歪みを生じにくく、重合歩留まりを向上させるため特に好ましい。
【0020】
次に本発明の前記[2]のラジカル重合開始剤について説明する。本発明のラジカル重合開始剤としては、(A)10時間半減期温度が50℃以上のパーオキシエステル系ラジカル重合開始剤、(B)10時間半減期温度が80℃以上のパーオキシケタール系ラジカル重合開始剤を併用することが必要である。該2種の特定の分解温度の開始剤を用いることで、フォトクロミック化合物を劣化させることなく、機械的強度に優れたフォトクロミック硬化体を与えることができる。
【0021】
(A)のパーオキシエステル系ラジカル開始剤{()内は、10時間半減期温度を示す。}を具体的に例示すると、t−ヘキシル パーオキシピヴァレート(53℃)、t−ブチル パーオキシピヴァレート(55℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチル パーオキシ 2−エチルヘキサネート(65℃)、t−ブチル パーオキシ −2−エチルヘキサネート(72℃)、t−ブチルパーオキシイソブチレート(77℃)を挙げることが出来る。
【0022】
(B)のパーオキシケタール系ラジカル開始剤{()内は、10時間半減期温度を示す。}を具体的に例示すると、1,1−ビス(t−ブチル パーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(83℃)、1,1−ビス(t−ヘキシル パーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(90℃)、4t−ブチルー,4――ビス(t−ブチル パーオキシ)ビヴァレート(105℃)を挙げることが出来る。また2,2‘−アゾビスイーソブチロニトリル(95℃)、2,2‘−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(98℃)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルヴァレロニトリル)(82℃)を併用しても良い。
【0023】
本発明において、該ラジカル重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、前記の単量体の組成によって異なり、一概に限定できないが、前記[1]のラジカル重合性単量体100質量部に対して、(A)10時間半減期温度が50℃以上のパーオキシエステル系ラジカル重合開始剤、(B)10時間半減期温度が80℃以上のパーオキシケタール系ラジカル重合開始剤の(A)及び(B)の合計量が合計0.1〜10質量部であり、かつ、[2]のラジカル重合開始剤において、(A)10時間半減期温度が50℃以上のパーオキシエステル系ラジカル重合開始剤50〜90質量%、(B)10時間半減期温度が80℃以上のパーオキシケタール系ラジカル重合開始剤50〜10質量%の割合であるあることが、硬化物の硬度を効率的に上げることができるため好ましい。
【0024】
また、本発明のフォトクロミック硬化性組成物を重合させる際、重合条件のうち、特に温度は得られるフォトクロミック硬化体の性状に影響を与える。この温度条件は、ラジカル重合開始剤の種類と量や単量体の種類によって影響を受けるので一概に限定はできないが、一般的に比較的低温で重合を開始し、ゆっくりと温度を上げていき、重合終了時に高温下に硬化させる所謂テーパ型重合を行うのが好適である。重合時間も温度と同様に各種の要因によって異なるので、予めこれらの条件に応じた最適の時間を決定するのが好適であるが、一般に2〜24時間で重合が完結するように条件を選ぶのが好ましい。また、本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、35℃以下の厳密な制御は必要なく、40℃以上から開始するパターンでも硬化が可能であり、成型が容易なため、歩留まりが高い。
【0025】
次に、本発明における[3]のフォトクロミック化合物について説明する。このフォトクロミック化合物は、フォトクロミック作用を示す化合物を何ら制限なく採用することができる。例えば、フルギド化合物、クロメン化合物及びスピロオキサジン化合物等のフォトクロミック化合物がよく知られており、本発明においてはこれらのフォトクロミック化合物を使用することができる。上記のフルギド化合物及びクロメン化合物は、USP4,882,438、USP4,960,678、USP5,130,058、USP5,106,998等で公知の化合物を好適に使用できる。
【0026】
また、優れたフォトクロミック性を有する化合物として本発明者等が新たに見出した化合物、例えば特開2001−114775号、特開2001−031670号、特開2001−011067号、特開2001−011066号、特開2000−347346号、特開2000−344762号、特開2000−344761号、特開2000−327676号、特開2000−327675号、特開2000−256347号、特開2000−229976号、特開2000−229975号、特開2000−229974号、特開2000−229973号、特開2000−229972号、特開2000−219687号、特開2000−219686号、特開2000−219685号、特開平11−322739号、特開平11−286484号、特開平11−279171号、特開平10−298176号、特開平09−218301号、特開平09−124645号、特開平08−295690号、特開平08−176139号、特開平08−157467号等に開示された化合物も好適に使用することができる。これらの中でも、国際公開第01/60811号パンフレット、米国特許4913544号公報、及び米国特許5623005号公報に開示されているフォトクロミック化合物が好適に使用できる。これらフォトクロミック化合物の中でも、クロメン系フォトクロミック化合物は、フォトクロミック特性の耐久性が他のフォトクロミック化合物に比べ高く、さらに本発明によるフォトクロミック特性の発色濃度および退色速度の向上が他のフォトクロミック化合物に比べて特に大きいため特に好適に使用することができる。さらにこれらクロメン系フォトクロミック化合物中でもその分子量が540以上の化合物は、本発明によるフォトクロミック特性の発色濃度および退色速度の向上が他のクロメン系フォトクロミック化合物に比べて特に大きいため好適に使用することができる。これらクロメン化合物の中でも、下記構造のクロメン化合物が特に好ましい。
【0027】
【化1】

【0028】
本発明において、[3]のフォトクロミック化合物の配合比は、あまりに多いときにはフォトクロミック化合物の凝集が起き、耐久性が急激に低下する。このため、ラジカル重合性単量体100質量部に対して、フォトクロミック化合物は、通常、0.001〜10質量部の範囲で用いられ、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部の範囲で用いられ、この範囲において最も良好なフォトクロミック性能が得られる。
【0029】
本発明のフォトクロミック硬化性組成物には、更に離型剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料等の各種安定剤、添加剤を必要に応じて混合して使用することができる。
【0030】
上記した紫外線安定剤を混合して使用するとフォトクロミック化合物の耐久性をさらに向上させることができるために好適である。紫外線安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止、イオウ系酸化防止剤を好適に使用することができる。
【0031】
この紫外線安定剤の使用量は特に制限されるものではないが、通常は、ラジカル重合性単量体100質量部に対して各紫外線安定剤の配合量が0.001〜10質量部、さらに0.01〜1質量部の範囲であることが好適である。またヒンダードフェノール酸化防止剤は、本発明の重合調整剤としても作用するため好ましい。ヒンダードフェノール酸化防止剤としては、特開2005−23238号公報に開示されているような化合物、具体的には、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチル-フェノール、2,6−エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製のIRGANOX 1010、1035、1075、1098、1135、1141、1222、1330、1425、1520、259、3114、3790、5057、565を用いることができる。その中でも、フォトクロミック耐久性向上及び溶解性の観点から、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネートを使用するのが好ましい。
【0032】
本発明のフォトクロミック硬化体組成物から硬化体を得る重合方法は特に限定的でなく、公知のラジカル重合方法を採用できる。重合開始手段は、種々の過酸化物やアゾ化合物などのラジカル重合開始剤の使用、又は、紫外線、α線、β線、γ線等の照射あるいは両者の併用によって行うことができる。代表的な重合方法を例示すると、エラストマーガスケット又はスペーサーで保持されているモールド間に、ラジカル重合開始剤を混合した本発明のフォトクロミック硬化体組成物を注入し、空気炉中で酸化させた後、取り外す注型重合が採用される。
【0033】
さらに、上記の方法で得られるフォトクロミック硬化体は、その用途に応じて以下のような処理を施すこともできる。即ち、分散染料などの染料を用いる染色、シランカップリング剤やケイ素、ジルコニウム、アンチモン、アルミニウム、スズ、タングステン等のゾルを主成分とするハードコート剤や、SiO2、TiO2、ZrO2等の金属酸化物の薄膜の蒸着や有機高分子の薄膜の塗布による反射防止処理、帯電防止処理等の加工および2次処理を施すことも可能である。
【0034】
本発明のフォトクロミック硬化性組成物よりなる硬化体は、前記の[1]ラジカル重合性単量体、[2]ラジカル重合開始剤、および[3]フォトクロミック化合物からなるため、製造が容易になるとともに、優れたフォトクロミック特性を発揮しながら、20℃、589.3nmの波長における屈折率が1.49〜1.51の範囲とすることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例を掲げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1〜3、比較例1〜2
表1の実施例1〜3、比較例1〜2に示した、[1]ラジカル重合性単量体、[2]ラジカル重合開始剤およびその他の添加剤成分を十分に混合した。この混合液中に、下記[3]フォトクロミック化合物(PC1)を加え、溶解するまで室温で混合した。これら配合割合は表1に示した。
【0037】
【化2】

【0038】
このフォトクロミック化合物を含んだ混合液を、ガラス板とポリオレフィン樹脂からなるガスケットで構成された鋳型の中へ注入し、注型重合を行った。重合は空気炉を用い、40℃から110℃で15時間かけ、徐々に温度を上げていき、110℃に2時間保持した。重合終了後、鋳型を空気炉から取り外し、放冷後、硬化体を鋳型のガラス型から取り外した。
【0039】
得られたフォトクロミック硬化体のフォトクロミック特性、硬化体の物性及び重合歩留まりを以下の方法で試験した。結果を表2に示した。
【0040】
(1)初期着色
目視により判定した。
【0041】
(2)初期着色及び発色濃度
得られたフォトクロミック硬化体(厚み2mm)に浜松ホトニクス製のキセノンランプL−2480(300W)SHL−100を、エアロマスフィルター(コーニング社製)を介して23℃±1℃、フォトクロミック硬化体表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm2、245nm=24μW/cm2で120秒間照射して発色させた。また、ε(120秒)−ε(0秒)の値を求め、発色濃度とした。但し、ε(120秒)は、最大吸収波長におけるフォトクロミック硬化体の上記条件下での光照射120秒間の後の吸光度であり、ε(0秒)は、光照射時の最大吸収波長における未照射硬化体の吸光度である。 また420nmのε(0秒)を求め、初期着色を評価した。
【0042】
(3)離型クラック
硬化体を 放冷後鋳型のガラス型から取り外した時、割れたものを×、割れなかったものを○とした。
【0043】
(4)光学歪み
硬化体を、偏光板を通して光学検査を行い、歪のないものを○、歪のあるもの×とした。
【0044】
(5)重合剥れ(ガラス型からの剥れの評価)
放冷前に硬化体が鋳型のガラス型から剥がれ、剥がれ跡がついていたものを×、放冷後も剥がれておらず、剥がれ跡がないものを○とした。
【0045】
(6)硬度
ロックウエル硬度計を用い、厚さ2mmの硬化体についてL−スケールでの値を測定した。
【0046】
(7)落下試験
中心厚2mmのレンズを1mの高さからコンクリート床に落下させた際に、レンズが破損またはヒビが入ったものを○、変化しなかったものを○とした。
【0047】
(8)アタゴ製アッベ屈折率計にて、589.3nmの波長の20℃における硬化体の屈折率を測定した。なお、実施例1〜3、比較例1〜2のすべの硬化体が、屈折率1.500±0.003であった。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
[1]ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、及び/またはそのオリゴマーを10質量%以上含有するラジカル重合性単量体100質量部に対して、
[2]下記(A)および(B)のラジカル重合開始剤を合計0.1〜10質量部、
(A)10時間半減期温度が50℃以上のパーオキシエステル系ラジカル重合開始剤、
(B)10時間半減期温度が80℃以上のパーオキシケタール系ラジカル重合開始剤、
[3]フォトクロミック化合物0.001〜10質量部、
を含有してなることを特徴とするフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項2】
前記[2]のラジカル重合開始剤が、
(A)10時間半減期温度が50℃以上のパーオキシエステル系ラジカル重合開始剤50〜90質量%、
(B)10時間半減期温度が80℃以上のパーオキシケタール系ラジカル重合開始剤50〜10質量%、
を含有してなることを特徴とする請求項1記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項3】
前記[1]のラジカル重合性単量体が、
(I)ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、及び/またはそのオリゴマー10〜90質量%、
(II)20℃、589.3nmの波長における硬化体の屈折率が1.48〜1.525の範囲となる、2官能以上の(メタ)アクリル重合性単量体90〜10質量%、
を含有してなることを特徴とする請求項1または2の何れかに記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のフォトクロミック硬化性組成物からなる硬化体であって、20℃、589.3nmの波長における屈折率が1.49〜1.51の範囲となることを特徴とするフォトクロミック硬化体。

【公開番号】特開2009−19157(P2009−19157A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184214(P2007−184214)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】