説明

フライホイールを備えたシールレスポンプ

【課題】フライホイールの回転中の摩擦損失を低減することができ、コンパクトで振動が少なく回転バランスが良好なシールレスポンプを提供することを目的とするものである。
【解決手段】高温液体を扱うシールレスポンプであって、高温液体を加圧する羽根車3を備え、高温液体が充満するポンプ部分Pと、羽根車3を回転駆動するモータ11,12を備え、低温液体が充満するモータ部分Mと、液中に設けられた慣性運転維持のためのフライホイール5とを備え、フライホイール5は、高温液体と実質的に同等の温度の液中に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライホイールを備えたシールレスポンプに係り、特に高温の液体を取扱うポンプであって取扱液の漏洩を防止する軸封装置を必要としないシールレスポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、羽根車を支持する主軸にフライホイールを取り付けたポンプが用いられている。ポンプにフライホイールを設ける目的は、停電による電力の喪失のように動力が無くなった場合にポンプの回転を慣性により一定時間維持することにより、ポンプ停止時にその吐出流量が急激に減少することにより生じる、配管の水撃(water hammer)現象やシステム反応系の暴走などを防止することにある。加圧水型原子炉用一次冷却材ポンプのフライホイールは後者を目的として設けてある。普及している加圧水型原子炉用一次冷却材ポンプは、その主軸を軸封装置を介して気中モータで回転させているため、フライホイールも気中のモータ内に配置されている。一方、最新の一部加圧水型原子炉では一次冷却材ポンプとしてシールレスポンプを用いることが想定されているため、そのフライホイールも液中に配置することを求められている。
【0003】
フライホイールを液中に配置する場合、気中と比較して流体摩擦が著しく大きくなるため、必要な慣性回転機能を確保するためには、フライホイールを気中用より大型化しなければならないが、そのことが流体摩擦を増大させ、ポンプ全体効率の低下を招くという弊害がある。そこで、液中フライホイールに必要な慣性モーメントを確保しつつ可能な限り小型化するため、重錘として高密度合金、例えば比重が約19のタングステン等を用いることが効果的である。また、タングステン等の高密度材料を利用したフライホイールはそれ自体では遠心力に耐える強度がないことから、強度保持用の高強度金属円筒内に収納する必要がある。
【0004】
これについて、特許文献1には、シールレスポンプに用いる液中フライホイールの重錘としてセグメント型高密度金属重錘、例えばタングステン合金を利用したフライホイール構造の特徴が記載されている。また、特許文献2には、同様用途のポンプにおいて、高密度金属重錘を利用した液中フライホイールの外周及び側壁をラジアル軸受及びスラスト軸受として利用する方法が記載されている。また、特許文献3には、シールレスポンプの液中フライホイール構造として、大径の高強度金属製保持部材に多数のレンコン状(リボルバーのシリンダ状)の穴を開け、その部分にタングステン等の高密度金属重錘を挿入する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公開第2010−0091931号公報
【特許文献2】米国特許第4886430号公報
【特許文献3】米国特許公開第2007−0025865号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】機械学会論文集38巻312号(昭和47−8) 「内管回転偏心二重管の摩擦モーメントおよび圧力分布」 中林功一、他
【非特許文献2】ターボ機械第27巻第6号(1999年6月) 「浅い放射溝による旋回流の制御」 黒川淳一
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら従来技術においても、何れもフライホイールは、低温となるモータよりも高温になるポンプ羽根車に近い箇所に設置されているが、これはフライホイールの液体中の回転摩擦力は液体の密度、粘性が低いほど小さくなるため、フライホイールの運転中の摩擦損失を大きくしないためだと考えられる。しかしながら、これら従来技術では、ポンプ羽根車とフライホイールとの間に厚みの大きな隔壁状の部材が設けられており、これによってポンプ取扱液とフライホイールとの温度差が大きくなっている。(課題1)
また、タングステンは一般の高強度金属材料に比して熱膨張係数が約1/3〜1/4と小さく、強度保持用の高強度金属円筒等との部材間で大きな熱膨張差が生ずるため、組立体としてのフライホイールの高温回転バランスに狂いが生じる可能性がある。これは、特に、フライホイールが高温液中に設置される場合には大きな問題になりうる。(課題2)
また、回転体系を支持する軸受装置は一般に低温のモータ室内に液中滑り軸受として配置される。大重量のフライホイールがその軸受より羽根車側にオーバーハングするため、振れ回りによる振動を起こしやすくなる。特に、フライホイールを高温液中に配置する場合、低温側との間にサーマルバリア等を設ける必要があり、モータ室内ジャーナル軸受とのオーバハングがさらに長くなりやすく、より振動が生じやすくなってしまう。(課題3)なお、特許文献2では、フライホイールを用いて滑り軸受を構成しているが、動圧軸受であって、低温に維持する必要があり、摩耗が避けられない。
【0008】
即ち、特許文献1乃至3等の公知例では高密度金属重錘を利用したフライホイールをポンププロセス流体温度と同じ高温側に設置する方法、高温のフライホイール外周に振動防止用軸受を設ける方法について具体的記載をした例は見当たらない。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたもので、フライホイールの回転中の摩擦損失を低減することができ、コンパクトで振動が少なく回転バランスが良好なシールレスポンプを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、本発明の第1の態様は、高温液体を扱うシールレスポンプであって、高温液体を加圧する羽根車を備え、高温液体が充満するポンプ部分と、前記羽根車を回転駆動するモータを備え、低温液体が充満するモータ部分と、液中に設けられた慣性運転維持のためのフライホイールとを備え、前記フライホイールは、前記高温液体と実質的に同等の温度の液中に設けられていることを特徴とするものである。
非特許文献1によれば、内管が回転する二重円筒の摩擦トルクMは、
M=Cm・2π・ρ・rm4・ω2
ここで、ρは流体の密度、rmは内管と外管の平均半径、ωは内管の回転角速度である。Cmは実験により定まるトルク係数で、流れが乱流域の場合、
Cm=fm・Rω-0.2=fm・{ν/(rm・ω・δ)}0.2
但し、fmは偏心率により定まる係数で、偏心がない場合fm=0.00631となる。νは流体の動粘性係数、δは内管と外管の半径隙間である。
上記において、摩擦トルクMを流体の温度により変化するρ、νで整理すると、
M∝ρ・ν0.2と表すことができる。
図8は流体が飽和蒸気圧力下における水の場合に回転円筒に作用する摩擦トルクMを、PWR型原子炉用一次冷却材ポンプの運転温度290℃の値を1として正規化して示したグラフである。即ち、回転円筒に作用する摩擦トルクMは水温が0℃から150℃まで指数的に減少し、150℃から325℃までは、ほぼ直線的に減少する傾向にある。従って回転円筒、即ちフライホイールの周囲の水温が65℃の時の摩擦トルクは、水温290℃の摩擦トルクの1.7倍という大きな値となる。
本発明において、高温液体とは、加圧水型原子炉の一次冷却材であれば、280℃以上の液体であり、加圧水型原子炉の一次冷却材は臨界以下の液相で運転され、水の臨界温度は374℃以下であるから、高温液体とは、280℃〜374℃の液体である。そして、高温液体と実質的に同等の温度とは、高温流体の常用流体温度(図8では290℃)における内筒が回転する二重円筒の摩擦トルクMに対する増加率が10%以下の領域(即ち図8では250℃以上)で、上限はプロセス最高温度までとする。また、低温液体とは、摩擦トルクMの温度に対するトルク変化率が線型から外れ、指数関数的に増加する領域、即ち図8では150℃以下の領域を示す。すなわち、低温液体とは、0℃〜150℃の液体である。従って、150℃以上で高温液体と実質的に同等の温度以下の液体(図8では150℃〜250℃の間)を中間温度液体と称することにする。
本発明のシールレスポンプが適用される一例として、加圧水型原子炉の一次冷却材ポンプの場合を説明すると、取扱液である高温液体の温度が290℃(554°F)に対して、高温液体と実質的に同等の温度とは、250℃から325℃(プロセス最高温度である蒸気発生器入口温度)の範囲である。
本発明によれば、慣性運転維持のためのフライホイールは、ポンプ取扱液である高温液体と実質的に同等の温度の液中に設けられているため、フライホイールは低密度および低粘性の液体に取り囲まれることになり、フライホイールの液体中の回転摩擦力が小さくなる。したがって、フライホイールの回転中の摩擦損失を低減することができ、フライホイールの回転に起因するポンプ効率の低下を抑制することができ、また動力損失も低減することができる。
【0011】
本発明の好ましい態様は、前記フライホイールの周囲の高温液体の温度を維持するため、前記ポンプ部分と前記モータ部分の境をなす部分に二重サーマルバリヤ部を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、二重サーマルバリヤ部により、高温液体が充満するポンプ部分を低温液体が充満するモータ部分から仕切ることができるため、フライホイールが配置されるポンプ部分を高温に維持し、モータ巻線やジャーナルおよびスラスト液中軸受が配置されるモータ部分を低温に維持することができる。したがって、フライホイールの回転に起因するポンプ効率の低下を抑制することができ、また動力損失も低減することができ、さらにモータ巻線の絶縁性、ジャーナルおよびスラスト液中軸受の潤滑性を確保することができる。
【0012】
本発明の好ましい態様は、前記二重サーマルバリヤ部は、高温液体と境をなす高温液側サーマルバリヤと低温液体と境をなす低温液側サーマルバリヤからなり、両サーマルバリヤ間に高温液体と低温液体の間の温度の液体層を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、高温液側サーマルバリヤと低温液側サーマルバリヤの2種の熱遮蔽板を配置し、さらに両サーマルバリヤの間に隙間を設けて液体層を形成することにより、フライホイールが配置されるポンプ部分を高温に維持し、モータ巻線やジャーナルおよびスラスト液中軸受が配置されるモータ部分を低温に維持することができる。
【0013】
本発明の好ましい態様は、前記高温液側サーマルバリヤは、前記ポンプ部分の主軸の軸心から半径方向外側の3箇所以上に放射状に配置されたキー部材により、前記低温液側サーマルバリヤと熱膨張可能に同芯固定されることを特徴とする。
高温液側サーマルバリヤと低温液側サーマルバリヤには温度差が生じ、これを通常のインローによる芯出し構造で結合すると、インロー部に隙間が生じるか、逆に無理な変形が生じるが、本発明によれば、高温液側サーマルバリヤと低温液側サーマルバリヤの結合面にはインローを設けず十文字キー等の放射状に配置されたキー部材で結合して半径方向の熱膨張差を吸収しつつ同芯度を維持する構造としてある。このサーマルバリヤによる熱膨張差吸収機構は、ディフューザに固定されている静圧軸受の同芯度を維持するために重要な役割を果たしている。
【0014】
本発明の第2の態様は、高温液体を扱うシールレスポンプであって、高温液体を加圧する羽根車を備え、高温液体が充満するポンプ部分と、前記羽根車を回転駆動するモータを備え、低温液体が充満するモータ部分と、液中に設けられた慣性運転維持のためのフライホイールとを備え、前記フライホイールの外径側に該フライホイールの外周部を支持する静圧軸受を配置したことを特徴とするものである。
本発明によれば、フライホイールの外径側にフライホイールの外周部を支持する静圧軸受を配置したため、フライホイールの半径方向変位を抑制することができる。したがって、フライホイールの振れ回りによる振動を抑制することができる。この場合、動圧軸受では、液体を低温に維持しないと軸受負荷容量を上げることはできないが、本発明の静圧軸受によれば、加圧された液体の圧力により作動する軸受であるため、液体の温度に拘わらず軸受負荷容量を上げることができる。
【0015】
本発明の好ましい態様は、前記静圧軸受は、前記羽根車で加圧された高温液体により作動する静圧軸受であることを特徴とする。
本発明によれば、静圧軸受が羽根車で加圧された高温液体により作動するため、羽根車から吐出された高温液体をフライホイールの外径側にある静圧軸受に導くだけで静圧軸受を作動させることができる。
【0016】
本発明の好ましい態様は、前記羽根車および前記フライホイールを取り付けた主軸を回転可能に支持するすべり軸受を前記低温液体の充満する前記モータ部分に配置し、前記すべり軸受からオーバーハングする前記フライホイールを前記静圧軸受により支持するようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、羽根車およびフライホイールを取り付けた主軸が低温液体の充満するモータ部分に配置されたすべり軸受からオーバーハングするため、オーバーハングの長さが長くなるが、フライホイールを静圧軸受により支持するようにしたため、フライホイールおよび主軸の振れ回りを抑制することができ、フライホイールおよび主軸の振動を抑制することができる。
【0017】
本発明の好ましい態様は、前記静圧軸受は、2列並列ポケットを有するものであることを特徴とする
本発明によれば、静圧軸受が2列並列ポケットを有するため、フライホイールの外周部の軸方向に離間した2箇所でフライホイールを支持することができる。したがって、フライホイールの傾きを抑制することができる。
【0018】
本発明の第3の態様は、高温液体を扱うシールレスポンプであって、高温液体を加圧する羽根車を備え、高温液体が充満するポンプ部分と、前記羽根車を回転駆動するモータを備え、低温液体が充満するモータ部分と、液中に設けられた慣性運転維持のためのフライホイールとを備え、前記フライホイールは、タングステン又はその合金からなる重錘部と、前記重錘部に作用する遠心力をその内径側で保持するリム、フライホイール全体を前記ポンプ部分の主軸に固定するハブとを備え、前記重錘部は全体が円筒状となるよう複数個の扇型セグメント重錘を組み合わせたものであって、前記リム、前記ハブおよび前記重錘部は、前記リムの内径をDr、前記ハブの外径をDh、前記リム、前記重錘部および前記ハブの各材料の常温から使用温度までの平均線膨張係数をそれぞれβr、βw、βhとすると、Dh/Dr=(βr−βw)/(βh−βw)の関係式を満たすように設定されていることを特徴とするものである。
本発明によれば、フライホイールにおけるリム、ハブおよび重錘部の寸法および線膨張係数を上記関係式を満たすように設定することにより、フライホイールにおけるリム、ハブおよび重錘部の温度差による半径方向の隙間は常温から高温の使用温度まで常に零にできる。
【0019】
本発明の好ましい態様は、相隣接する2つの前記扇型セグメント重錘の間の内方側に略三角形断面を有する楔型重錘部材を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、相隣接する扇型セグメント重錘間に周方向隙間が生じても、楔型重錘の遠心力による楔効果で、扇型セグメント重錘がリムに押し付けられるように密着し、扇型セグメント重錘が周方向に動くことはなく、フライホイールの回転バランスに狂いを生じさせることはない。
【0020】
本発明の好ましい態様は、前記フライホイールの両側面を閉止する閉止板と前記扇型セグメント重錘との間に、少なくとも1箇所の廻り止め部材を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、フライホイールの両側面を閉止する閉止板と扇型セグメント重錘とが加減速時等に相対回転をすることがない。
【0021】
本発明の好ましい態様は、前記ポンプ部分を天側に、前記モータ部分を地側に配置したシールレスポンプであって、前記フライホイールの両側面を閉止する閉止板のうち天側の閉止板と前記扇状セグメント型重錘の上面との間の内径側に、略三角形断面を有する第2の楔型重錘部材を設け、この第2の楔型重錘部材と前記扇型セグメント重錘もしくは前記天側の閉止板との接触面は外径側ほど前記第2の楔型重錘部材の厚みが薄くなるテーパ面とし、前記扇型セグメント下面と地側の閉止板との接触面は平行面としたことを特徴とする。
本発明によれば、第2の楔型重錘部材のテーパ面と扇型セグメント重錘の天側の面(内径側)もしくは天側の閉止板のテーパ面との効果で、運転時に第2の楔型重錘部材が遠心力で外径側に寄ることにより、扇型セグメント重錘と天側の閉止板を軸方向に押し広げる方向の分力が発生する。そのため、扇型セグメント重錘がリムと地側の閉止板とに押し付けられるように密着するので、回転バランスに狂いを生じさせる隙間を無くすことができる。
【0022】
本発明の好ましい態様は、前記ポンプ部分を天側に、前記モータ部分を地側に配置したシールレスポンプであって、前記フライホイールの両側面を閉止する閉止板のうち天側の閉止板と前記扇状セグメント型重錘の上面との間に前記扇型セグメント重錘を地側の閉止板に向かって押圧する押圧部材を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、第2の楔型重錘部材に代えて押圧部材を用いることにより、扇型セグメント重錘と閉止板との間の軸方向隙間が生じても、押圧部材の反発力により扇型セグメント重錘が地側の閉止板に押し付けられるように密着するので、回転バランスに狂いを生じさせる隙間を無くすことができる。
本発明の好ましい態様は、前記押圧部材は皿バネからなることを特徴とする。
【0023】
本発明の好ましい態様は、前記フライホイールの一部あるいは全体を保護部材で密封した二重壁構造のフライホイールを具備することを特徴とする。
フライホイールの重錘としてタングステン等の高密度合金を用い、扇型セグメント重錘の遠心力を保持するリムとして高強度のフェライト系ステンレス鋼等を加圧水型原子炉の一次冷却水中で用いると、含有する高濃度ホウ酸水で腐食する可能性があるが、本発明によれば、フライホイール重錘部・リム部を、例えばオーステナイトステンレス鋼など耐食性に優れた金属製の保護部材による二重壁構造で保護する。二重壁構造のフライホイールは、フライホイールがポンプ過回転による遠心力でラプチャー飛散(破裂飛散)した場合にも、保護部材の効果で単重壁フライホイール構造より被害を少なくする効果がある。
【0024】
本発明の好ましい態様は、前記フライホイールの前記リムと前記保護部材とは、前記保護部材の内径の熱膨張量をδcit、前記保護部材の内径の遠心力による膨張量をδciw、前記保護部材の内径の圧力による収縮量をδcip、前記リムの熱膨張量をδrot、前記リムの遠心力による膨張量をδrowとすると、δcit+δciw−δcip≧δrot+δrowの関係式を満たすように設定されていることを特徴とする。
本発明によれば、運転中に、保護部材に内包されるフライホイール部材であるリムの膨張変形が生じても、リムと保護部材とが接触することはない。
【0025】
本発明の好ましい態様は、前記フライホイールの前記リムと前記保護部材の側壁の閉止板とは、前記ポンプ部分の主軸の軸心から半径方向外側の3箇所以上に放射状に配置されたキーにより、半径方向に相対変位可能に同芯固定されることを特徴とする。
本発明においては、フライホイール部材であるリムと保護部材の側壁の閉止板との間に、主軸の軸心から半径方向外側の3箇所以上に放射状に配置されたキーを挿入してリムと閉止板の同芯度を維持しつつ半径方向相対移動を許容するようにしている。
【0026】
本発明の好ましい態様は、前記ポンプ部分を天側に、前記モータ部分を地側に配置したシールレスポンプであって、前記羽根車、前記フライホイールを含む回転体系全体に作用する軸スラストを前記低温液体が充満したモータ部分のモータ室に設けた液中スラスト軸受で支持する構造とし、前記フライホイールの地側と相対する高温液側サーマルバリヤ部分に、複数個の旋回流防止用半径方向溝流路を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、フライホイールと高温液側サーマルバリヤ部分との間に旋回流が発生することを防止できる。これにより、フライホイール重量に起因するスラスト軸受(低温のモータ室に設置する)の負荷を軽減できる。
【0027】
本発明の好ましい態様は、前記シールレスポンプは、原子炉用の一次冷却材ポンプであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、以下に列挙する効果を奏する。
(1)慣性運転維持のためのフライホイールは、ポンプ取扱液である高温液体と実質的に同等の温度の液中に設けられているため、フライホイールは低密度および低粘性の液体に取り囲まれることになり、フライホイールの液体中の回転摩擦力が小さくなる。したがって、フライホイールの回転中の摩擦損失を低減することができ、フライホイールの回転に起因するポンプ効率の低下を抑制することができ、また動力損失も低減することができる。
(2)二重サーマルバリヤ部により、高温液体が充満するポンプ部分を低温液体が充満するモータ部分から仕切ることができるため、フライホイールが配置されるポンプ部分を高温に維持し、モータ巻線やジャーナルおよびスラスト液中軸受が配置されるモータ部分を低温に維持することができる。したがって、フライホイールの回転に起因するポンプ効率の低下を抑制することができ、また動力損失も低減することができ、さらにモータ巻線の絶縁性、ジャーナルおよびスラスト液中軸受の潤滑性を確保することができる。
(3)フライホイールの外径側にフライホイールの外周部を支持する静圧軸受を配置したため、フライホイールの半径方向変位を抑制することができる。したがって、フライホイールの振れ回りによる振動を抑制することができる。この場合、動圧軸受では、液体を低温に維持しないと軸受負荷容量を上げることはできないが、本発明の静圧軸受によれば、加圧された液体の圧力により作動する軸受であるため、液体の温度に拘わらず軸受負荷容量を上げることができる。
(4)フライホイールにおけるリム、ハブおよび重錘部の寸法および線膨張係数を所定の関係式を満たすように設定することにより、フライホイールにおけるリム、ハブおよび重錘部の温度差による半径方向の隙間は常温から高温の使用温度まで常に零にできる。
(5)第2の楔型重錘部材のテーパ面と扇型セグメント重錘の天側の面(内径側)もしくは天側の閉止板のテーパ面との効果で、運転時に第2の楔型重錘部材が遠心力で外径側に寄ることにより、扇型セグメント重錘と天側の閉止板を軸方向に押し広げる方向の分力が発生する。そのため、扇型セグメント重錘がリムと地側の閉止板とに押し付けられるように密着するので、回転バランスに狂いを生じさせる隙間を無くすことができる。なお、第2の楔型重錘部材に代えて皿バネ等の押圧部材を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明のフライホイールを備えたシールレスポンプの全体構成を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明のフライホイールを備えたシールレスポンプの主要部を示す断面図である。
【図3】図3(a),(b),(c)は静圧軸受の構造を示す図であり、図3(a)は静圧軸受の部分断面図、図3(b)は静圧軸受を内径側から見て平面に展開した展開図、図3(c)は図3(a)のIII−III線断面図である。
【図4】図4(a),(b)はフライホイールの構造を示す図であり、図4(a)はフライホイールの半断面図、図4(b)は図4(a)のIV矢視図である。
【図5】図5(a),(b)は、フライホイールが高温・高圧かつ腐食性の液体中で用いられる場合の適用例を示す図であり、図5(a)はフライホイールの半断面図、図5(b)は図5(a)のV矢視図である。
【図6】図6は、フライホイール周りの流体の流れとフライホイールの軸方向スラストバランス機構を示す断面図である。
【図7】図7は、図6のVII−VII線矢視図である。
【図8】図8は、飽和蒸気圧下における水の回転円筒に作用する摩擦トルクMとPWR型原子炉用一次冷却材ポンプの運転温度との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係るフライホイールを備えたシールレスポンプの実施形態について図1乃至図7を参照して詳細に説明する。なお、図1から図7において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図1は、本発明のフライホイールを備えたシールレスポンプの全体構成を示す断面図である。図1では、シールレスポンプの一例としてキャンドモータポンプを図示している。図1に示すように、本発明のフライホイールを備えたシールレスポンプは、ポンプ部分Pが天側に位置し、モータ部分Mが地側に位置するように配置される。
【0031】
図1に示すように、モータ部分Mのモータ室を冷却するためにモータ室冷却用循環水を循環させる循環水配管15が設置されている。循環水配管15はモータ部分Mのモータ胴13の上端部とモータ胴13の下端部に固定されたモータカバー16との間に配置されている。循環水配管15の途中には冷却用熱交換器17が設けられており、冷却用熱交換器17によりモータ室の冷却により昇温したモータ室冷却用循環水を冷却するようになっている。モータ室冷却用循環水は、循環水配管15によってモータカバー16のモータ室冷却用循環水入口16−1からモータ部分Mの内部に流入し、モータ室を冷却した後にモータ室冷却用循環水出口13−1から循環水配管15に戻る。図1には図示はしていないが、モータ室にはモータ室液循環用補助羽根車が設けてあり、モータ室冷却用循環水を外部の冷却用熱交換器17に導くことにより、モータ室液温を常時低温に維持している。
【0032】
図2は、本発明のフライホイールを備えたシールレスポンプの主要部を示す断面図である。図2に示すように、シールレスポンプは、高温液体の充満するポンプケーシング1、低温液体の充満するモータ胴13、ポンプケーシング1の内部に収容される羽根車3、羽根車3を支持する主軸6、主軸6に固定されたフライホイール5、モータ胴13の内部に収容されるとともに主軸6に固定されたモータ回転子11、モータ胴13の内部に収容されるとともにモータ胴13に固定されたモータ巻線12等から構成されている。
【0033】
図2に示すように、羽根車3の半径方向外側には、羽根車3を囲むようにディフューザ2が配置されている。ディフューザ2は、流体の減速および圧力回復を目的として設けられており、ディフューザ固定フランジ2−1と円筒状のディフューザ胴2−2を備えている。フライホイール5は、羽根車3とモータ回転子11の間の主軸6上に固定されており、フライホイール5の外周部はディフューザ胴2−2の内部に収容された静圧軸受4により支持されている。高温液体は、ポンプケーシング1の吸込口1−1から導入され、高速回転する羽根車3で加圧された後、ディフューザ2を経て減速および圧力回復する。そして、ディフューザ2から排出された高温液体の大部分はポンプケーシング1の吐出口1−2から吐出される。羽根車3から吐出された高温液体の一部は、羽根車ウェアリング3−1から漏出し、羽根車バランスホール3−2から吸込口1−1に還流する。また、ディフューザ2から排出された高温液体の一部は、ディフューザ胴2−2の内径側に固定された静圧軸受4に導かれ、フライホイール5の外周部はディフューザ2から供給される液体の圧力で作動する静圧軸受4で支持される。この場合、フライホイール5は、羽根車3から静圧軸受4を介して導かれた高温液体に直接接触するため、その温度はプロセス側と実質的に同等の高温となる。
【0034】
図2には、モータ回転子11、モータ巻線12、モータ巻線室閉止板12−1、モータキャン12−2が図示されている。モータ巻線室閉止板12−1には保持部材14が固定されており、保持部材14の内径側にすべり軸受であるジャーナル軸受10が保持されている。モータ室は巻線の絶縁性、ジャーナルおよびスラスト液中軸受の潤滑性を確保するため低温に維持しなければならない。そこで、フライホイール5を収容するフライホイール室を高温に維持し、隣接するモータ室を低温に維持するため、フライホイール室とモータ室との間に高温液側サーマルバリヤ7、低温液側サーマルバリヤ8の2種の熱遮蔽板を配置し、さらに両サーマルバリヤの中間にサーマルバリヤ中間隙間8−1aを設けてある。また、低温液側サーマルバリヤ8の外径側には、ポンプ側からの高温液体が低温側へ侵入することを防止するためピストンリング9が設けてある。従って、高温液側サーマルバリヤ7と低温液側サーマルバリヤ8には温度差が生じ、これを通常のインローによる芯出し構造で結合すると、インロー部に隙間が生じるか、逆に無理な変形が生じる。そこで、高温液側サーマルバリヤ7と低温液側サーマルバリヤ8の結合面にはインローを設けず、主軸6の軸心から半径方向外側の4箇所に配置された十文字キー7−1で半径方向の熱膨張差を吸収しつつ同芯度を維持する構造としてある。ここでは十文字キーを使用したが、十文字キーに限らず、主軸の軸心から半径方向外側の3箇所以上に放射状に配置されたキー部材を用いてもよい。このサーマルバリヤ7,8による熱膨張差吸収機構は、ディフューザ2に固定されている静圧軸受4の同芯度を維持するために非常に重要な役割を果たしている。高温のディフューザ2と高温液側サーマルバリヤ7との間には温度差が生じないため、両部品はディフューザフランジ2−1の部分で通常のインロー結合により同芯度を維持している。
【0035】
図1において説明したように、モータ室冷却用循環水は、循環水配管15によってモータカバー16のモータ室冷却用循環水入口16−1からモータ室内に流入する。モータ室内に流入したモータ室冷却用循環水は、図2に示すように、モータキャン12−2とモータ回転子11との間隙を通ってモータ回転子11およびモータ巻線12を冷却する。そして、モータ室冷却用循環水は、ジャーナル軸受10と主軸6との間隙を通ってジャーナル軸受10を冷却するとともに保持部材14の連通孔14−1を通って、さらに低温液側サーマルバリヤ8の連通孔8−1を通って、モータ室冷却用循環水出口13−1から循環水配管15に戻る。
【0036】
図3(a),(b),(c)は静圧軸受4の構造を示す図であり、図3(a)は静圧軸受4の部分断面図、図3(b)は静圧軸受4を内径側から見て平面に展開した展開図、図3(c)は図3(a)のIII−III線断面図である。
図3(a)に示すように、静圧軸受4は概略円筒状をなし(図3(a)では下側の部分の図示を省略している)、静圧軸受4には、複数のオリフィス穴4−1、複数のポケット4−2、排液流路4−3がある。ポケット4−2は円周方向に所定間隔で配置されており、各ポケット4−2は円弧状の断面を有する凹部になっている。そして、各ポケット4−2にはオリフィス穴4−1が連通されている。また、各ポケット4−2の間には排液流路4−3が形成されている。
図3(b)および図3(c)に示すように、ポケット4−2は、円周方向に2列並列配置されている。そして、隣接するポケット4−2の間には、溝状の排液流路4−3が形成されている。
【0037】
図3(a),(b),(c)に示すように構成された静圧軸受4において、オリフィス穴4−1から導入された圧力液体がポケット4−2に取り込まれ、フライホイール5の外周を加圧することでフライホイール5の半径方向変位を抑制している。すなわち、フライホイール5が半径方向で一方の側に変位すると、静圧軸受4における軸受隙間が減少する側のポケット圧力が増大し、軸受隙間が増加する側のポケット圧力が減少するので、フライホイール5は中心位置に押し戻される。オリフィス穴4−1のオリフィス径を大きくすると軸受負荷容量は増大するが、漏れ流量も増大するので、通常はポケット圧力が最大差圧、即ちポンプ揚程(Pd−Ps)の0.5以下となるよう設定している。ここで、Pdはポンプ吐出圧力であり、Psはポンプ吸込圧力である。ポケット4−2の個数は、円周4箇所以上で対抗配置とする。図3(a),(b),(c)に示す静圧軸受4は、半径方向の他に、角度方向変位に対するバネ剛性を有するよう2列並列ポケット配置としてある。
【0038】
図4(a),(b)はフライホイール5の構造を示す図であり、図4(a)はフライホイール5の半断面図、図4(b)は図4(a)のIV矢視図である。図4(b)においては、フライホイール5の内部構造を図示するために一部の部材を省略して図示している(後述する)。図4(a)に示すように、フライホイール5の左側が天側、右側が地側である。
図4(a)および図4(b)に示すように、フライホイール5は、リム5−1、複数の扇型セグメント重錘5−2、複数の楔型重錘5−3、リム5−1の両開口端を閉塞する閉止板5−4a、ハブ5−5、複数のバランスホール5−6、複数の扇状楔型重錘部材5−7a、廻り止めピン5−8から構成される。
【0039】
リム5−1はフライホイール5の最外周側に配置された円筒状の部材であり、リム5−1の内側に複数の扇型セグメント重錘5−2が配置されている。各扇型セグメント重錘5−2は、内外周が円弧状に形成された扇型の部材であり、所定数(図4(a)に示す例においては8個)の扇型セグメント重錘5−2の側面が周方向に互いに接触して配置されることにより円筒状重錘が形成される。そして、相隣接する2つの扇型セグメント重錘5−2の間には、楔型重錘5−3が配置されている。ハブ5−5は、扇型セグメント重錘5−2および楔型重錘5−3の内周側に配置された円筒状部材であり、ハブ5−5の内径側が主軸6に固定される。バランスホール5−6はハブ5−5の軸方向に形成された貫通孔である。廻り止め部材5−8は、閉止板5−4aと扇型セグメント重錘5−2との間に設けられており、扇型セグメント重錘5−2とリム5−1,ハブ5−5とが加減速時に相対回転しないよう設けている。廻り止め部材5−8としては、図示のピン以外の構造、例えばキーなどでも良い。
【0040】
扇状楔型重錘部材5−7aは扇型セグメント重錘5−2と閉止板5−4との間に配置された楔型重錘部材である。扇状楔型重錘部材5−7aは、図4(a)に示すように、天側の面が平坦面になっており、地側の面が内周側から外周側にいくにつれて天側に傾斜したテーパ面になっており、概略三角形状の断面を有している。そして、扇型セグメント重錘5−2は、内径側において天側の面が扇状楔型重錘部材5−7aのテーパ面に対応して天側に傾斜したテーパ面になっている。
図4(b)は図4(a)のIV矢視図であるが、図4(a)から閉止板5−4aと廻り止め部材5−8を取り除いてフライホイール5の内部構造を図示している。図4(b)に示すように、扇状楔型重錘部材5−7aは円周方向に所定間隔で配置されており、各扇状楔型重錘部材5−7aは略扇型の側面を有している。
【0041】
フライホイール5の慣性モーメントの大部分を分担する扇型セグメント重錘5−2は、高密度合金であるタングステン合金等で製作する。タングステンは、比重が約19.5であり、通常のステンレス鋼に対して約2.5倍の比重があるが、焼結金属なので強度が弱く単独では遠心力に耐えない。そこで、ステンレス鋼などの高強度金属と組み合わせて使用することになるが、タングステン合金はステンレス鋼と比較して線膨張係数が1/3〜1/4と小さく、常温で部材間の隙間を無くして組み立てても、高温では隙間が開いてしまい回転バランスに狂いが生じる可能性がある。
【0042】
そこで、本発明においては、リム5−1、ハブ5−5およびタングステン製扇型セグメント重錘5−2の寸法と線膨張係数の関係を以下のように設定することで、図4(b)に示す半径方向隙間(扇型セグメント重錘5−2とハブ5−5との隙間)δが温度にかかわらず常に零となるようにする。
2δ=(Dr ×βr −Dh×βh)×ΔT − ( 2 × Fw ×βw)×ΔT・・・(1)
2×Fw ≒Dr−Dh・・・(2)
但し、Dr:リム内径、Dh:ハブ外径、Fw:扇型セグメント重錘半径方向長さ、β:線膨張係数で、添え字r:リム、h:ハブ、w:扇型セグメント重錘
上式(1)でδ=0として、(2)を代入すれば、
Dh/Dr=(βr−βw) / (βh−βw)・・・(3)
たとえば、リム5−1をマルテンサイトステンレス鋼、ハブ5−5をオーステナイトステンレス鋼、扇型セグメント重錘5−2をタングステン合金とすれば、線膨張係数はそれぞれ、
βr=12×10-6、βh=18×10-6、βw=4 ×10-6 (mm/mm・℃)
これらを(3)式に代入すれば、Dh/Dr=0.57となり、ハブ外径をリム内径の57%に設定すれば、線膨張係数が一定範囲で常にδ=0となる。
【0043】
上記のように各部材の線膨張係数と寸法を適切に設定することで、扇型セグメント重錘5−2とハブ5−5、リム5−1の温度差による半径隙間は常温から使用温度まで常に零にできる。しかしながら、扇型セグメント重錘5−2の周方向、軸方向には隙間が生じてしまう。そこで、隣接する扇型セグメント重錘5−2間に周方向隙間が生じても、楔型重錘5−3の遠心力による楔効果で、扇型セグメント重錘5−2がリム5−1に押し付けられるように密着し、扇型セグメント重錘5−2が周方向に動くことはなく、フライホイール5の回転バランスに狂いを生じさせることはない。また、扇型セグメント重錘5−2と閉止板5−4aの間の軸方向隙間については、扇型セグメント重錘5−2の天側の面(内径側)のテーパ面と扇状楔型重錘部材5−7aの地側の面のテーパ面の効果で、運転時に扇状楔型重錘部材5−7aが遠心力で外径側に寄ることにより、扇型セグメント重錘5−2と天側の閉止板5−4aを軸方向に押し広げる方向の分力が発生する。そのため、扇型セグメント重錘5−2がリム5−1と地側の閉止板5−4aとに押し付けられるように密着するので、回転バランスに狂いを生じさせる隙間を無くすことができる。
【0044】
図4(c)は、図4(a)に示す扇状楔型重錘部材5−7aに代えて皿バネ5−7bを用いた例を示す図であり、フライホイール5の半断面図である。図4(c)に示すように、扇型セグメント重錘5−2と閉止板5−4aとの間に皿バネ5−7bが配置されている。図4(c)に示すように、扇状楔型重錘部材5−7aに代えて皿バネ5−7bを用いることにより、扇型セグメント重錘5−2と閉止板5−4aとの間の軸方向隙間が生じても皿バネ5−7bの反発力により扇型セグメント重錘5−2が地側の閉止板5−4aに押し付けられるように密着するので、回転バランスに狂いを生じさせる隙間を無くすことができる。
【0045】
図5(a),(b)は、フライホイールが特に高温・高圧かつ腐食性の液体中で用いられる場合の適用例を示す図であり、図5(a)はフライホイール5の半断面図、図5(b)は図5(a)のV矢視図である。図5(b)においては、フライホイール5の内部構造を図示するために一部の部材を省略して図示している。
フライホイールの重錘5−2としてタングステン等の高密度合金を用い、扇型セグメント重錘5−2の遠心力を保持するリム5−1として高強度のフェライト系ステンレス鋼等を加圧水型原子炉の一次冷却水中で用いると、含有する高濃度ホウ酸水で腐食する可能性がある。そこで、フライホイール重錘部・リム部を、例えばオーステナイトステンレス鋼など耐食性に優れた金属製の外周保護円筒5−9、側壁面保護閉止板5−4b、ハブ5−5からなる密閉構造で保護することが望ましい。ただし、保護部材である側壁面保護閉止板5−4b、ハブ5−5、外周保護円筒5−9の組立体と、リム5−1、扇型セグメント5−2等のフライホイール部材はそれぞれ線膨張係数が著しく異なること、中空の保護部材組立体にポンプ内圧力Pが外圧として作用して収縮すること、保護部材には自身の重量による遠心力が作用して膨張すること、リム5−1には自身の重量による遠心力と重錘の遠心力とが作用して膨張することなどの理由から、リム5−1の外径と外周保護円筒5−9の内径の半径隙間δrc(図5(b)参照)の設定には注意を要する。
即ち、δcit+δciw−δcip≧δrot+δrow・・・(4)
として、保護部材に内包されるフライホイール部材の変形が、保護部材の変形に影響を及ぼさないように設定することが望ましい。
但し、
δcit:外周保護円筒5−9の内径の熱膨張量
δciw:外周保護円筒5−9の内径の遠心力による膨張量
δcip:外周保護円筒5−9の内径の圧力による収縮量
δrot:リム5−1の熱膨張量
δrow:リム5−1の遠心力による膨張量
ここで、それぞれの数値は一般的な解析手法により算出できるため、詳細は記載を省略する。
【0046】
図5において(4)式を満たすようにすれば、フライホイール部材5−1,5−2は保護部材5−4b,5−5,5−9に対して影響を与えることなく膨張変形できるが、ハブ5−5に対する同芯度を維持するため、リム5−1と側壁面保護閉止板5−4bの間に、主軸6の軸心から半径方向外側の4箇所に十文字キー5−10を挿入して同芯度を維持しつつ半径方向相対移動を許容するようにすることが望ましい。また、十文字キーに限らず主軸6の軸心から半径方向外側の3箇所以上に放射状に配置されたキー部材を用いてもよい。
図5に示す二重壁フライホイール構造は、フライホイールがポンプ過回転による遠心力でラプチャー飛散(破裂飛散)した場合にも、外周保護円筒5−9,側壁面保護閉止板5−4b,ハブ5−5による保護部材の効果で図4に示す単重壁フライホイール構造より被害を少なくする効果がある。
【0047】
図6は、フライホイール周りの流体の流れとフライホイールの軸方向スラストバランス機構を示す断面図である。図7は、図6のVII−VII線矢視図である。フライホイール5は、羽根車3から吐出された高温の液体を利用する静圧軸受4により半径方向変位が抑止されている。静圧軸受4の天側の排出液は、羽根車3のバランスホール3−2を経て吸込み側に戻される。静圧軸受4の地側の排出液は、フライホイール5のバランスホール5−6を経て羽根車3のバランスホール3−2から吸込み側に戻される。この場合、フライホイール5の天側の閉止板5−4aと羽根車3で囲まれる部分の流体又はフライホイール5の地側の閉止板5−7aと高温液側サーマルバリヤ7で囲まれる部分の流体は旋回運動しているため、外径側の方が内径側より圧力が高い。フライホイール5に作用する軸スラストは天側と地側の両閉止板の圧力差で定まるが、地側の圧力を天側より高くできれば、フライホイール重量に起因するスラスト軸受(低温のモータ室に設置する)の負荷を軽減できる。
【0048】
ここで、低温のモータ室に設置するスラスト軸受について説明する。図1に示すモータ部分Mのモータカバー16内にスラスト軸受20が配置されている。スラスト軸受20は、ティルティングパッド型スラスト軸受から構成されている。本パッド型スラスト軸受20は、主軸6に固定された軸受ディスク21と、軸受ディスク21を挟むように設けられた上部軸受パッド22と下部軸受パッド23とを備えている。上部軸受パッド22および下部軸受パッド23は、それぞれ複数の軸受パッドからなっている。軸受負荷は、主軸6に固定された軸受ディスク21の回転により上部軸受パッド22及び下部軸受パッド23との間で生じる動圧作用で支持される。なお、軸受ディスク21に孔を開けて前記モータ室液循環用補助羽根車の機能を付与するようにしてもよい。
【0049】
上述の軸スラストに関連して非特許文献2には、羽根車を取り囲む静止壁面に設けた複数の半径方向の浅い溝の旋回流抑制効果で、羽根車に作用する軸方向スラストを制御し得ることが記載されている。即ち、半径方向溝が設けられた側壁側は旋回流が抑制され半径方向に均一な圧力分布となるので、溝のない反対側の壁面方向に軸スラストが作用する。
そこで、本発明においては、図7に示すように、フライホイール5に対して地側の高温液側サーマルバリヤ7に、半径方向溝7−2を設ける。半径方向溝は、個数が多いほど、また幅、深さが大きいほど旋回防止効果は大となるが、ある量を超えると効果はそれ以上増えず逆に流体損失が増える傾向があるため、寸法、個数は実験等により最適値を求める必要がある。通常、溝個数は8〜32箇所、溝深さは数mmで十分は旋回防止効果がある。これにより、フライホイール重量に起因するスラスト軸受20の負荷を軽減できる。
【0050】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0051】
1 ポンプケーシング
1−1 吸込口
1−2 吐出口
2 ディフューザ
2−1 ディフューザ固定フランジ
2−2 ディフューザ胴
3 羽根車
3−1 羽根車ウェアリング
3−2 羽根車バランスホール
4 静圧軸受
4−1 複数のオリフィス穴
4−2 複数のポケット
4−3 排液流路
5 フライホイール
5−1 リム
5−2 扇型セグメント重錘
5−3 楔型重錘
5−4a 閉止板
5−4b 側壁面保護閉止板
5−5 ハブ
5−6 バランスホール
5−7a 扇状楔型重錘部材
5−7b 皿バネ
5−8 廻り止め部材
5−9 外周保護円筒
5−10 十文字キー
6 主軸
7 高温液側サーマルバリヤ
7−1 十文字キー
7−2 半径方向溝
8 低温液側サーマルバリヤ
8−1 連通孔
8−1a サーマルバリヤ中間隙間
9 ピストンリング
10 ジャーナル軸受
11 モータ回転子
12 モータ巻線
12−1 モータ巻線室閉止板
12−2 モータキャン
13 モータ胴
13−1 モータ室冷却用循環水出口
14 保持部材
14−1 連通孔
15 循環水配管
16 モータカバー
16−1 モータ室冷却用循環水入口
17 冷却用熱交換器
20 スラスト軸受
21 軸受ディスク
22 上部軸受パッド
23 下部軸受パッド
M モータ部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温液体を扱うシールレスポンプであって、
高温液体を加圧する羽根車を備え、高温液体が充満するポンプ部分と、
前記羽根車を回転駆動するモータを備え、低温液体が充満するモータ部分と、
液中に設けられた慣性運転維持のためのフライホイールとを備え、
前記フライホイールは、前記高温液体と実質的に同等の温度の液中に設けられていることを特徴とするシールレスポンプ。
【請求項2】
前記フライホイールの周囲の高温液体の温度を維持するため、前記ポンプ部分と前記モータ部分の境をなす部分に二重サーマルバリヤ部を設けたことを特徴とする請求項1記載のシールレスポンプ。
【請求項3】
前記二重サーマルバリヤ部は、高温液体と境をなす高温液側サーマルバリヤと低温液体と境をなす低温液側サーマルバリヤからなり、両サーマルバリヤ間に高温液体と低温液体の間の温度の液体層を設けたことを特徴とする請求項2記載のシールレスポンプ。
【請求項4】
前記高温液側サーマルバリヤは、前記ポンプ部分の主軸の軸心から半径方向外側の3箇所以上に放射状に配置されたキー部材により、前記低温液側サーマルバリヤと熱膨張可能に同芯固定されることを特徴とする請求項3記載のシールレスポンプ。
【請求項5】
高温液体を扱うシールレスポンプであって、
高温液体を加圧する羽根車を備え、高温液体が充満するポンプ部分と、
前記羽根車を回転駆動するモータを備え、低温液体が充満するモータ部分と、
液中に設けられた慣性運転維持のためのフライホイールとを備え、
前記フライホイールの外径側に該フライホイールの外周部を支持する静圧軸受を配置したことを特徴とするシールレスポンプ。
【請求項6】
前記静圧軸受は、前記羽根車で加圧された高温液体により作動する静圧軸受であることを特徴とする請求項5記載のシールレスポンプ。
【請求項7】
前記羽根車および前記フライホイールを取り付けた主軸を回転可能に支持するすべり軸受を前記低温液体の充満する前記モータ部分に配置し、前記すべり軸受からオーバーハングする前記フライホイールを前記静圧軸受により支持するようにしたことを特徴とする請求項5または6記載のシールレスポンプ。
【請求項8】
前記静圧軸受は、2列並列ポケットを有するものであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載のシールレスポンプ。
【請求項9】
高温液体を扱うシールレスポンプであって、
高温液体を加圧する羽根車を備え、高温液体が充満するポンプ部分と、
前記羽根車を回転駆動するモータを備え、低温液体が充満するモータ部分と、
液中に設けられた慣性運転維持のためのフライホイールとを備え、
前記フライホイールは、タングステン又はその合金からなる重錘部と、前記重錘部に作用する遠心力をその内径側で保持するリム、フライホイール全体を前記ポンプ部分の主軸に固定するハブとを備え、前記重錘部は全体が円筒状となるよう複数個の扇型セグメント重錘を組み合わせたものであって、
前記リム、前記ハブおよび前記重錘部は、前記リムの内径をDr、前記ハブの外径をDh、前記リム、前記重錘部および前記ハブの各材料の常温から使用温度までの平均線膨張係数をそれぞれβr、βw、βhとすると、Dh/Dr=(βr−βw)/(βh−βw)の関係式を満たすように設定されていることを特徴とするシールレスポンプ。
【請求項10】
相隣接する2つの前記扇型セグメント重錘の間の内方側に略三角形断面を有する楔型重錘部材を設けたことを特徴とする請求項9記載のシールレスポンプ。
【請求項11】
前記フライホイールの両側面を閉止する閉止板と前記扇型セグメント重錘との間に、少なくとも1箇所の廻り止め部材を設けたことを特徴とする請求項9または10記載のシールレスポンプ。
【請求項12】
前記ポンプ部分を天側に、前記モータ部分を地側に配置したシールレスポンプであって、前記フライホイールの両側面を閉止する閉止板のうち天側の閉止板と前記扇状セグメント型重錘の上面との間の内径側に、略三角形断面を有する第2の楔型重錘部材を設け、この第2の楔型重錘部材と前記扇型セグメント重錘もしくは前記天側の閉止板との接触面は外径側ほど前記第2の楔型重錘部材の厚みが薄くなるテーパ面とし、前記扇型セグメント下面と地側の閉止板との接触面は平行面としたことを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載のシールレスポンプ。
【請求項13】
前記ポンプ部分を天側に、前記モータ部分を地側に配置したシールレスポンプであって、前記フライホイールの両側面を閉止する閉止板のうち天側の閉止板と前記扇状セグメント型重錘の上面との間に前記扇型セグメント重錘を地側の閉止板に向かって押圧する押圧部材を設けたことを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載のシールレスポンプ。
【請求項14】
前記押圧部材は皿バネからなることを特徴とする請求項13記載のシールレスポンプ。
【請求項15】
前記フライホイールの一部あるいは全体を保護部材で密封した二重壁構造のフライホイールを具備することを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載のシールレスポンプ。
【請求項16】
前記フライホイールの前記リムと前記保護部材とは、前記保護部材の内径の熱膨張量をδcit、前記保護部材の内径の遠心力による膨張量をδciw、前記保護部材の内径の圧力による収縮量をδcip、前記リムの熱膨張量をδrot、前記リムの遠心力による膨張量をδrowとすると、δcit+δciw−δcip≧δrot+δrowの関係式を満たすように設定されていることを特徴とする請求項15記載のシールレスポンプ。
【請求項17】
前記フライホイールの前記リムと前記保護部材の側壁の閉止板とは、前記ポンプ部分の主軸の軸心から半径方向外側の3箇所以上に放射状に配置されたキーにより、半径方向に相対変位可能に同芯固定されることを特徴とする請求項16記載のシールレスポンプ。
【請求項18】
前記ポンプ部分を天側に、前記モータ部分を地側に配置したシールレスポンプであって、前記羽根車、前記フライホイールを含む回転体系全体に作用する軸スラストを前記低温液体が充満したモータ部分のモータ室に設けた液中スラスト軸受で支持する構造とし、前記フライホイールの地側と相対する高温液側サーマルバリヤ部分に、複数個の旋回流防止用半径方向溝流路を設けたことを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載のシールレスポンプ。
【請求項19】
前記シールレスポンプは、原子炉用の一次冷却材ポンプであることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか1項に記載のシールレスポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−52425(P2012−52425A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193287(P2010−193287)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】