説明

フラワーペースト

【課題】口溶けがよくて好ましい風味を有し、しかも、パン生地に包み込んだりトッピングしたりして焼成する等しても型崩れ等が生じ難い優れた保形性を有するフラワーペーストを提供する。
【解決手段】食用油脂及びホスホリパーゼA処理卵黄、並びに、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びカゼイン塩から選ばれる1種又は2種以上を含有し、100℃を超える温度に加熱処理してなるフラワーペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口溶けがよくて好ましい風味を有し、しかも、パン生地に包み込んだりトッピングしたりして焼成する等しても型崩れ等が生じ難い優れた保形性を有するフラワーペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
フラワーペーストは、澱粉質原料に清水、糖類、食用油脂等を加えて加熱糊化して製したもので、クリームパン等の菓子パンのフィリング材やトッピング材等として用いられている。しかしながら、フラワーペーストは、加熱糊化した澱粉により保形性のある粘性の高い状態とされているため、澱粉特有の糊状の食感を有して口溶けが悪いという問題がある。
【0003】
近年、より美味しくて口溶けがよいフラワーペーストが望まれるようになっており、このようなフラワーペーストを得るための種々の方法が提案されている。例えば、特定の澱粉を用いることによりフラワーペーストの口溶けを改良する方法が、特開平9−154492号公報(特許文献1)及び特開平10−84874号公報(特許文献2)等に提案されているが、これらの方法では依然として、糊状の食感を充分に改良することができない。
【0004】
また、フラワーペーストの口溶けを改良する方法としては、食用油脂の含有量を増やすことが従来行われている。しかしながら、この方法は、口溶けを改良する効果が得られるものの、食用油脂含有量を増やすにつれて保形性が悪くなり、フィリング材としてパン生地に包み込んだりパン生地にトッピングしたりして焼成すると、フラワーペーストが型崩れしたり油が分離したりし易いという問題があった。このような問題を解決する方法としては、例えば、特開昭58−94336号公報(特許文献3)には、食用油脂を高配合したフラワーペーストの耐熱性を向上するために大豆蛋白を配合する方法が提案されているが、この方法では、依然として焼成時の型崩れや油分離を充分に防止できず、また、大豆蛋白特有の風味を有して好ましいものではなかった。
【0005】
更に、特開平6−30706号公報(特許文献4)には、フラワーペーストの食用油脂の含有量を増やして口溶けを改良することに加えて、卵黄を配合してカスタード風味を付与したフラワーペーストにおいて、食用油脂及び卵黄が引き起こす加熱時の油分離や型崩れ等を防止するため、大豆蛋白とラクトアルブミンを配合することが提案されている。しかしながら、この方法によっても、食用油脂の配合量が多い場合等において、焼成時の型崩れや油分離を充分に防止することができず、また、大豆蛋白を用いていることから風味の点からも好ましくなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平9−154492号公報
【特許文献2】特開平10−84874号公報
【特許文献3】特開昭58−94336号公報
【特許文献4】特開平6−30706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、口溶けがよくて好ましい風味を有し、しかも、パン生地に包み込んだりトッピングしたりして焼成する等しても型崩れ等が生じ難い優れた保形性を有するフラワーペーストを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を行ったところ、食用油脂を配合した場合であっても、酵素処理卵黄を配合して100℃を超える温度に加熱処理して製造するならば、得られたフラワーペーストに食感を損なわずに良好な保形性を付与できることを見出した。しかしながら、このように100℃を超える温度に加熱処理すると、食用油脂配合量が多い場合等において油分離が生じる場合があった。
【0009】
そこで、本発明者等は、更に鋭意研究を重ねた結果、上述した酵素処理卵黄に加えて、特定の乳化剤を配合するならば、100℃を超える温度に加熱処理しても油分離が生じることがなく、得られたフラワーペーストは口溶けがよくて好ましい風味を有し、更に、パン生地に包み込んだりトッピングしたりして焼成しても型崩れ等が生じ難いことを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0010】
つまり、本発明は、
(1) 食用油脂及びホスホリパーゼA処理卵黄、並びに、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びカゼイン塩から選ばれる1種又は2種以上を含有し、100℃を超える温度に加熱処理してなるフラワーペースト、
(2) 前記ホスホリパーゼA処理卵黄がリゾ化率10%以上である(1)記載のフラワーペースト、
(3) 前記ホスホリパーゼA処理卵黄の含有量が全体に対して生卵黄換算で0.5〜15%である(1)又は(2)記載のフラワーペースト、
(4) 前記ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びカゼイン塩の合計含有量が全体に対して0.01〜5%である(1)乃至(3)のいずれかに記載のフラワーペースト、
(5) 前記食用油脂の含有量が全体に対して5〜50%である(1)乃至(4)のいずれかに記載のフラワーペースト、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、口溶けがよくて好ましい風味を有し、しかも、パン生地に包み込んだりトッピングしたりして焼成する等しても型崩れ等が生じ難い優れた保形性を有するフラワーペーストを提供できる。したがって、本発明のフラワーペーストを、パンのフィリング材やトッピング材等として用いることで、これらの商品価値を高めることができ、これらの新たな需要を拡大できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のフラワーペーストを詳述する。なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0013】
本発明において、フラワーペーストとは、澱粉質原料を主要原料とし、これに清水、糖類等を加えて加熱糊化して製したものであり、パンに充填又は塗布して用いるものをいう。前記パンとしては、具体的には、例えば、クリームパン等の菓子パンやパイ等が挙げられる。
【0014】
本発明のフラワーペーストは、まず、食用油脂を含有することを特徴とする。フラワーペーストは、澱粉質原料を主要原料として加熱糊化して製するものであるため、澱粉特有の糊状の食感を有して口溶けが悪くなり易いが、本発明のフラワーペーストは、食用油脂を含有することから、口溶けの良い食感とすることができる。これに対して、後述の試験例に示すように、食用油脂を含有しない場合は、口溶けの良い食感のフラワーペーストが得られらない。
【0015】
食用油脂としては、植物性油脂や動物性油脂のいずれも用いることができるが、口溶けのよい食感が得られやすいことから植物性油脂を用いることが好ましい。このような植物性油脂としては、例えば、菜種油、コーン油、オリーブ油、サフラワー油、綿実油、大豆油、米油、ヒマワリ油、ゴマ油、パーム油、これらを精製したサラダ油等、更に、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド等のように化学的あるいは酵素的処理を施して得られる植物性油脂等が挙げられる。
【0016】
前記食用油脂の含有量は、全体に対して好ましくは5〜50%、より好ましくは10〜40%である。含有量が前記範囲よりも少ないと口溶けのよい食感とし難く、一方、前記範囲よりも多いとフラワーペーストの粘性が低下して保形性が悪くなり易い。
【0017】
次に、本発明のフラワーペーストは、上述のように口溶けを改良するために食用油脂を含有することに加えて、酵素処理卵黄を含有し、100℃を超える温度に加熱処理してなることを特徴とする。これにより、本発明のフラワーペーストは、食用油脂を含有するにも拘らず保形性が良くなり、フィリング材としてパン生地に包み込んだりパン生地にトッピングしたりして焼成しても型崩れし難くなる。更に、酵素処理卵黄を含有することから、卵黄に由来するコク味が付与され風味の点からも好ましいものとなる。これに対して、後述の試験例に示すように、ホスホリパーゼA処理卵黄を含有せずに100℃を超える温度に加熱処理した場合や、ホスホリパーゼA処理卵黄を含有していても100℃を越える温度に加熱処理していない場合は、焼成した際の型崩れが生じ難い好ましいフラワーペーストが得られない。
【0018】
前記ホスホリパーゼA処理卵黄とは、卵黄の主成分である卵黄リポ蛋白質(卵黄リン脂質、卵黄油及びコレステロール等の卵黄脂質と卵黄蛋白の複合体)の構成リン脂質にリン脂質分解酵素であるホスホリパーゼAを作用させリン脂質の1位あるいは2位の脂肪酸残基を加水分解してリゾリン脂質とした卵黄をいう。そして、本発明に用いるホスホリパーゼA処理卵黄は、パン等のフィリング材等として用いて焼成した際に型崩れし難く、また食味の点で問題とならないようにするために、処理後におけるリゾホスファチジルコリンとホスファチジルコリンの合計量に対するリゾホスファチジルコリンの割合(本発明の「リゾ化率」)がイヤトロスキャン法(TLC−FID法)で分析した場合、10%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。リゾ化率が10%より低いと、パン等のフィリング等として用いて焼成した際に型崩れを防止する効果が得られ難い。
【0019】
なお、本発明に用いるホスホリパーゼA処理卵黄は、単に生卵黄をホスホリパーゼAで処理したものだけでなく、更にその他の処理、例えば、ショ糖等の糖類あるいは食塩等の塩類の添加、脱糖処理、超臨界二酸化炭素あるいは亜臨界二酸化炭素処理によるトリグリセライド及ぶコレステロールの除去処理、噴霧乾燥や凍結乾燥による乾燥処理、酵素失活処理等の処理を施したものも含まれる。
【0020】
前記ホスホリパーゼA処理卵黄の含有量は、全体に対し生卵黄換算で0.5〜15%が好ましく、1〜12%がさらに好ましい。含有量が前記範囲より少ないと、パン等のフィリング材等として用いて焼成した際に型崩れを防止する効果が得られ難く、一方、前記範囲より多くしたとしても本発明の効果は変わらないので経済的でなく好ましくない。ここで、生卵黄換算による含有量とは、生卵黄には約50%の固形分(水分以外の成分)を含有しており、ホスホリパーゼA処理卵黄中の水分以外の卵黄由来成分を50%としたときの含有量を意味する。
【0021】
また、前記100℃を超える温度となるように行う加熱処理、つまり、品温が100℃を超える温度に達温するように行う加熱処理は、澱粉質原料を加熱糊化するための加熱処理と同時に行ってもよく、また、澱粉質原料を加熱糊化するための加熱処理を行った後、これとは別に、100℃を超える温度に行う加熱処理を行ってもよい。加熱処理方法としては、特に制限は無く、例えば、バッチ式の加圧加熱殺菌機やオンレーター等の連続式加熱処理装置等を用い、フラワーペーストが100℃を超える温度に達温するように、常法により加熱処理条件を調節して行えばよい。なお、加熱処理温度はあまり高すぎても卵黄が加熱変性する等してざらついた食感となり易いことから、品温が120℃を越えないように加熱処理することが好ましい。
【0022】
更に、本発明のフラワーペーストは、特定の乳化剤、つまり、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びカゼイン塩から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする。上述のように、酵素処理卵黄を含有して、100℃を超える温度に加熱処理してなるフラワーペーストは、食用油脂を含有していても保形性がよいものとなるが、このように100℃を超える温度に加熱処理する際には、フラワーペーストから油が分離する場合がある。そこで、本発明においては、前記特定の乳化剤を含有させることにより、油分離を防止するものである。
【0023】
前記本発明で用いるショ糖脂肪酸エステルとは、ショ糖中の1個あるいは2個以上の水酸基と飽和あるいは不飽和の脂肪酸とがエステル結合したものであり、市販されているものであれば何れでも良いが、油分離を防止する効果が得られ易いことから、HLB(親水性親油性バランス)が6〜16のものが好ましい。
【0024】
前記グリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンに脂肪酸をエステル結合させたものである。市販されているものとしては、グリセリンの重合度、脂肪酸の種類、そのエステル化の度合いにより非常に多くの種類があり、例えば、モノグリセリド、ポリグリセリド等何れでも良いが、油分離を防止する効果が得られ易いことから、モノグリセリドを用いることが好ましい。
【0025】
また、前記カゼイン塩とは、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインマグネシウム等のカゼインの塩である。これらは、市販されているものであれば何れも用いることができる。具体的には、例えば、カゼインナトリウムとしては、乳原料に酸を加えて沈殿して得られたカゼインを水酸化ナトリウム、もしくは炭酸水素ナトリウムと反応させる等して製造されたもの等が市販されているのでこれらを用いればよい。
【0026】
前記ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びカゼイン塩の合計含有量は、全体に対して好ましくは0.01〜5%、より好ましくは0.01〜3%、特に好ましくは0.05〜2%である。前記範囲より少ないと、油分離を防止する効果が得られ易く、一方、前記範囲より多くしたとしても、油分離を抑える効果は変わらないので経済的でないばかりか、乳化剤独特の味を呈するので好ましくない。
【0027】
また、本発明のフラワーペーストに用いる澱粉質原料としては、特に制限は無く、例えば、小麦粉、米粉等の穀粉、小麦粉澱粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉等の生澱粉、これらを原料として常法により架橋処理、エステル化処理、エーテル化処理、酸化処理等の化学的処理の一種又は二種以上を行った架橋澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉等の化工澱粉、更に、常法によりα化処理、湿熱処理等の物理的処理を行った加工澱粉等を用いることができる。澱粉質原料の含有量は、あまり少なすぎても粘性を付与して保形性のよい物性とし難く、一方、あまり多すぎても糊状の口溶けの食感となり口溶けが悪くなり易いことから、全体に対して好ましくは1〜10%、より好ましくは2〜8%である。
【0028】
本発明のフラワーペーストに用いる糖類としては、グルコース、ソルビトール、シュクロース、トレハロース等の他に、澱粉を加水分解して作製したデキストリンや、その還元物である還元デキストリン等が挙げられる。糖類の含有量は、好ましい風味を得る点から、全体に対して好ましくは5〜30%、より好ましくは10〜25%である。
【0029】
本発明のフラワーペーストには、上述した原料の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、フラワーペーストに一般的に使用されている原料を用いることができる。このような原料としては、例えば、風味原料として、牛乳、生クリーム、全粉乳、脱脂粉乳等の乳原料、ピーナッツ等のナッツ類、果汁、果肉、ドライフルーツ等の果物類、野菜ペースト、乾燥野菜等の野菜類、チョコレート、ココア、コーヒー等が挙げられる。更に、フルーツフレーバー、バニラフレーバー等の香料、クチナシ色素等の着色料、増粘多糖類、pH調整剤、保存料、酸化防止剤、食物繊維、ビタミン、ミネラル等が挙げられる。
【0030】
本発明のフラワーペーストの製造方法は、特に限定するものではないが、例えば、以下のように製造することができる。まず、原料として、澱粉質原料、糖類、食用油脂、ホスホリパーゼA処理卵黄、並びに、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びカゼイン塩から選ばれる1種又は2種以上、更に、乳原料や風味原料等のその他の原料を用意する。次に、用意した原料を常法によりホモゲナイザー等の乳化処理装置を用いて乳化処理する。なお、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びカゼイン塩は、乳化処理前に、予め原料の清水と食用油脂の一部に加熱溶解・分散し、その後、その他の原料を加えて乳化処理することが好ましい。
【0031】
続いて、乳化処理した原料を好ましくは60℃以上に加熱処理して澱粉質原料の澱粉成分を加熱糊化する。ここで、本発明のフラワーペーストは100℃を超える温度に加熱処理するものであるが、この100℃を超える温度に行う加熱処理は、澱粉質原料を加熱糊化するための加熱処理と同時に行ってもよく、また、澱粉質原料を加熱糊化するための加熱処理を行った後に、これとは別に、100℃を超える温度に加熱処理してもよい。具体的には、例えば、前者の方法としては、乳化処理した原料をニーダー等の加熱処理装置で攪拌しながら好ましくは60℃以上に加熱して澱粉成分を糊化してフラワーペーストを製した後、このフラワーペーストをオンレーター等の連続式加熱処理装置等で、あるいは、フラワーペーストを耐熱性容器に充填密封後にバッチ式の加圧加熱殺菌機等で、100℃を超える温度に加熱処理する方法等が挙げられる。また、後者の方法としては、乳化処理した原料をオンレーター等の連続式加熱処理装置等で澱粉成分を糊化しながら100℃以上に加熱処理する方法等が挙げられる。なお、100℃を超える温度に加熱処理する際には、充分に加熱してより保形性のよいフラワーペーストが得る点から、フラワーペーストが100℃を超える温度に達温後、3分間以上保持するとより好ましい。
【0032】
以上のようにして得られた本発明のフラワーペーストは、口溶けがよくて好ましい風味を有し、しかも、フィリング材としてパン生地に充填(包み込んだり)、あるいは、トッピング材として、パン生地に塗布(トッピング)したりして焼成する等しても、型崩れ等が生じ難い優れた保形性を有するものとなる。
【0033】
本発明のフラワーペーストが口溶けがよくて保形性のよいものとなる理由は定かではないが、澱粉質原料を主要原料として、清水、糖類、食用油脂等を加えて加熱糊化して製するフラワーペーストにおいては、100℃を超える温度に加熱処理されたホスホリパーゼA処理卵黄の加熱変性物が食感を損なわずにフラワーペーストに良好な粘性を付与するためではないかと推察される。そして、前記特定の乳化剤を含有することから、100℃を超える温度に加熱処理されても油分離が生じたりすることがないと推察される。
【0034】
以下、本発明のフラワーペーストについて、実施例、比較例及び試験例に基き具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例、比較例及び試験例に限定するものではない。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
調合タンクに70℃に加熱した清水12部及び菜種油3部を入れ、ホモゲナイザー(プライミクス(株)製、T.K.ロボミックス)で攪拌混合しながら、まず、リゾ化率50%のホスホリパーゼA処理卵黄2.5部(生卵黄換算で約2.5部)及びショ糖脂肪酸エステル(HLB15)0.3部を加え、続いて、70℃に加温した菜種油21部を徐々に加えて乳化させた。更に、この調合タンクに、コーンスターチ3.5部、砂糖15部及び全粉乳4.5部を70℃の清水38.2部に溶解したものを加えホモゲナイザーで充分に攪拌混合して乳化処理し調合液を得た。次に、得られた調合液を攪拌装置付きの蒸気式ニーダーで品温が85℃に達温するまで攪拌しながら加熱して澱粉を糊化させてフラワーペーストを得た。続いて、得られたフラワーペーストをレトルトパウチに充填密封した後、品温が105℃に達温するまでバッチ式の加圧加熱殺菌機で常法により加熱処理した後冷却してフラワーペーストを得た。
【0036】
[実施例2]
実施例1において、ショ糖脂肪酸エステルに代えてカゼインナトリウム0.7部を用いた他は、実施例1と同じ配合と製法でフラワーペーストを得た。
【0037】
[実施例3]
実施例1において、ショ糖脂肪酸エステルに代えてカゼインカルシウム1.4部を用いた他は、実施例1と同じ配合と製法でフラワーペーストを得た。
【0038】
[実施例4]
実施例1において、ショ糖脂肪酸エステルに代えてグリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリド、HLB4)を用いた他は、実施例1と同じ配合と製法でフラワーペーストを得た。
【0039】
[実施例5]
実施例1において、菜種油の含有量を24部から5部に減らした他は、実施例1と同じ配合と製法でフラワーペーストを製した。つまり、調合タンクに70℃に加熱した清水12部及び菜種油3部を入れ、ホモゲナイザーで攪拌混合しながら、まず、ホスホリパーゼA処理卵黄2.5部及びショ糖脂肪酸エステル0.3部を加え、続いて、70℃に加温した菜種油2部を徐々に加えて乳化させた。更に、この調合タンクに、コーンスターチ3.5部、砂糖15部及び全粉乳4.5部を70℃の清水38.2部に溶解したものを加えホモゲナイザーで充分に攪拌混合して調合液を得た。この調合液を用いて実施例1と同様にしてフラワーペーストを得た。
【0040】
[比較例1]
実施例1において、ショ糖脂肪酸エステルに代えてソルビタン脂肪酸エステル(HLB7)を配合した他は、実施例1と同じ配合と製法でフラワーペーストを得た。
【0041】
[比較例2]
実施例1において、ショ糖脂肪酸エステルを配合しない他は、実施例1と同じ配合と製法でフラワーペーストを得た。
【0042】
[比較例3]
実施例1において、酵素処理卵黄を配合しない他は、実施例1と同じ配合と製法でフラワーペーストを得た。
【0043】
[比較例4]
実施例1において、酵素処理卵黄に代えて生卵黄を配合した他は、実施例1と同じ配合と製法でフラワーペーストを得た。
【0044】
[比較例5]
実施例1において、加圧加熱殺菌機による加熱を行わない他は、実施例1と同じ配合と製法でフラワーペーストを得た。つまり、調合液を蒸気式ニーダーで品温が85℃に達温するまで攪拌しながら加熱して澱粉を糊化させてフラワーペーストを得た後、冷却しフラワーペーストを得た。
【0045】
[比較例6]
実施例1において、菜種油を配合しない他は、実施例1と同じ配合と製法でフラワーペーストを製した。つまり、調合タンクに70℃に加熱した清水12部を入れ、ホモゲナイザーで攪拌混合しながら、まず、ホスホリパーゼA処理卵黄2.5部及びショ糖脂肪酸エステル0.3部を加えた。更に、この調合タンクに、コーンスターチ3.5部、砂糖15部及び全粉乳4.5部を70℃の清水38.2部に溶解したものを加えホモゲナイザーで充分に攪拌混合して調合液を得た。この調合液を用いて実施例1と同様にしてフラワーペーストを得た。
【0046】
[試験例1]
まず、実施例1〜5及び比較例1〜6で製造したフラワーペーストの保形性及び油分離を評価した。保形性は、製造したフラワーペースト(品温20℃)をそれぞれ星型の口金(口径12mm、8切)の絞り袋で皿上に50gずつ絞り出して成型した後、これらを室温(20℃)に10分間保存し、保存前後の状態変化を観察することにより評価した。また、油分離は、これら保存後の状態を観察することにより行った。次に、油分離の評価結果がS又はAであったフラワーペーストについては、試食して風味と口溶けを評価した後、更に、パン生地に包み込んだりトッピングしたりして焼成される際の影響を調べるための加熱試験を行った。加熱試験は、フラワーペースト(品温20℃)をそれぞれ星型の口金(口径12mm、8切)の絞り袋で皿上に50gずつ絞り出して成型した後、これらをスチーマーで80℃×10分間加熱し、加熱前後の状態変化を観察することにより保形性を評価し、加熱後の状態を観察することにより油分離を評価した。また、加熱後の油分離の評価結果がS又はAであったフラワーペーストについては、試食して風味と口溶けを評価した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表中の評価記号
<保形性の評価>
S:絞り出した形状がほぼ維持されている。
A:だれが観察され、絞り出した形状がやや崩れているが問題の無い程度である。
B:だれが観察され、絞り出した形状がやや崩れている。
C:全体がだれて、絞り出した形状が完全に崩れて広がっている。
<油分離の評価>
S:油分離が生じていない。
A:表面に分離した油が滲んでいるが問題の無い程度である。
B:表面に分離した油が滲んでいる。
C:分離した油が流れ出している。
<風味の評価>
S:コクがあり大変好ましい風味である。
A:コクがあり好ましい風味である。
B:コクがあまりない。
C:コクがない。
<口溶けの評価>
S:口溶けが大変よい。
A:口溶けがよい。
B:やや口溶けが悪い。
C:口溶けが悪い。
【0049】
表1より、食用油脂及びホスホリパーゼA処理卵黄、並びに、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びカゼイン塩から選ばれる1種又は2種以上を含有し、100℃を超える温度に加熱処理してなる実施例1〜5で製造されたフラワーペーストは、口溶けがよくて好ましい風味を有し、しかも、優れた保形性を有することが理解できる。特に、カゼイン塩を含有した実施例2及び3のフラワーペーストは、加熱試験によっても特に型崩れし難くて好ましかった。なお、食用油脂含有量が10%以上である実施例1〜4のフラワーペーストは、食用油脂含有量が10%よりも少ない実施例5に比べてより口溶けがよくて大変好ましかった。
【0050】
一方、食用油脂を含有していない比較例6の場合は、口溶けが悪くて好ましくなかった。また、100℃を超える温度に加熱処理されていても、ホスホリパーゼA処理卵黄を含有していない比較例3〜4の場合や、ホスホリパーゼA処理卵黄を含有していても100℃を越える温度に加熱処理されていない比較例5の場合は、型崩れや油分離が生じてしまい好ましくなかった。更に、ホスホリパーゼA処理卵黄を含有しているが前記特定の乳化剤を含有せずに100℃を超える温度に加熱処理された比較例1〜2の場合は、油分離が生じてしまい好ましくなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂及びホスホリパーゼA処理卵黄、並びに、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びカゼイン塩から選ばれる1種又は2種以上を含有し、100℃を超える温度に加熱処理してなることを特徴とするフラワーペースト。
【請求項2】
前記ホスホリパーゼA処理卵黄がリゾ化率10%以上である請求項1記載のフラワーペースト。
【請求項3】
前記ホスホリパーゼA処理卵黄の含有量が全体に対して生卵黄換算で0.5〜15%である請求項1又は2記載のフラワーペースト。
【請求項4】
前記ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びカゼイン塩の合計含有量が全体に対して0.01〜5%である請求項1乃至3のいずれかに記載のフラワーペースト。
【請求項5】
前記食用油脂の含有量が全体に対して5〜50%である請求項1乃至4のいずれかに記載のフラワーペースト。

【公開番号】特開2008−61504(P2008−61504A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239304(P2006−239304)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】