説明

ブレーキシューの製造方法および装置

【課題】一層伝熱効率が高く、迅速な硬化が可能とするブレーキシューの製造方法および装置を提供する。
【解決手段】ライニング18をシューリム16の外周面に加熱接着するに際して、常圧過熱水蒸気を用いてそのシューリムを加熱するが、その過熱水蒸気は加熱空気に比較して5倍以上の熱容量を有するとともに常圧で最大500℃程度までの高温とすることが可能である性質であるのに加えて、対流伝熱に加えて放射伝熱および凝縮伝熱によってもシューリムが加熱されるので、高い伝熱効率が得られるとともに、接着剤の迅速な硬化およびシューリム16に対するライニング18の迅速な固着が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキのバッキングプレート上において拡開可能に設けられる円弧状の一対のブレーキシューの製造方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキにおいて、バッキングプレート上に拡開可能に設けられる円弧状の一対のブレーキシューが知られている。このようなブレーキシューは、ブレーキシュー本体のシューリムの外周面に長手帯状のライニングが接着剤によって固着されることにより構成される。この接着剤による固着は、シューリムの外周面とライニングの内周面とに熱硬化性樹脂から成る接着剤が予め塗布され、それらシューリムの外周面とライニングの内周面が対向する状態でシューリムとライニングとが加圧治具を介して相互に加圧され且つ加熱されることによって行われる。
【0003】
特許文献1に記載された加熱接着方法では、輻射ヒータを用いて加圧治具が加熱されることにより加熱接着が行われる。また、特許文献2に記載された加熱接着方法では、シューリムの内側に沿って配設された高周波誘導コイルを用いてそのシューリムが加熱されることにより加熱接着が行われる。
【特許文献1】特許第3592497号公報
【特許文献2】特開昭61−153026号公報
【0004】
上記のような加熱方法によれば、ガスを燃料とする加熱硬化炉内で熱風加熱することによって熱硬化性樹脂製接着剤を硬化させることによりライニングをブレーキシュー本体のシューリムの外周面に固着させる場合に比較して、接着剤付近を効率的に加熱できるので、伝熱効率が比較的高く、比較的迅速な接着剤の硬化およびライニングの固着が可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の加熱方法によれば、伝熱効率が比較的高く、比較的迅速な硬化が可能となると言っても、それらに限界があり、必ずしも十分な伝熱効率や硬化能率が得られている訳ではなく、製造コストを削減するために、さらなる伝熱効率の向上や、迅速な接着剤の硬化およびライニングの固着が望まれる。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、一層伝熱効率が高く、迅速な硬化が可能とするブレーキシューの製造方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、ブレーキシュー本体のシューリムの外周面にライニングが接着されてなるブレーキシューの製造方法であって、前記ライニングを前記シューリムの外周面に加熱接着するに際して、過熱水蒸気を用いてそのシューリムを加熱することを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、前記ブレーキシュー本体を支持するための支持治具の支持面に前記シューリムの内周面を密着状態で支持させ、その支持面に設けられた凹溝に過熱水蒸気を通すことにより、そのシューリムを加熱することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項1または2に係る発明において、(a) 前記ライニングの内周面および前記シューリムの外周面のうちの少なくとも一方に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、(b) 前記シューリムの外周面に前記ライニングの内周面を対向させた状態で相互に積み重ねる積層工程と、(c) 前記シューリムに前記ライニングが積み重ねられた状態で押圧するとともに、そのシューリムをその内周面から過熱水蒸気を用いて加熱する加熱接着工程とを、含むことを特徴とする。
【0010】
また、上記方法発明を好適に実施するための請求項4に係る発明の要旨とするところは、ブレーキシュー本体のシューリムの外周面にライニングを加熱接着することによりブレーキシューを製造するブレーキシューの製造装置であって、(a) 前記シューリムの内周面を密着状態で支持する支持面を備えて前記ブレーキシュー本体を支持する支持治具と、その支持治具の支持面に対向する押圧面を備えた押圧治具とを備え、その支持治具の支持面上に載置された前記ライニングの上から押圧治具をその支持治具の支持面に向かって押圧する押圧装置と、(b) 過熱水蒸気を発生する過熱水蒸気発生装置を備え、前記押圧装置による押圧状態において、その過熱水蒸気を用いて前記シューリムの内周面に導くことによりそのシューリムの外周面に前記ライニングを加熱接着させる加熱装置とを、含むことを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明の要旨とするところは、上記請求項4に係る発明において、前記支持治具の支持面には凹溝が設けられ、前記過熱水蒸気はその凹溝内を通されることにより前記シューリムを加熱することを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に係る発明の要旨とするところは、上記請求項4または5に係る発明において、前記過熱水蒸気発生装置は、前記シューリムの内周面に導かれた過熱水蒸気を回収して再利用するための循環路を有するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明のブレーキシューの製造方法によれば、前記ライニングを前記シューリムの外周面に加熱接着するに際して、過熱水蒸気を用いてそのシューリムを加熱することから、過熱水蒸気は加熱空気に比較して5倍以上の熱容量を有するとともに常圧で最大500℃までの高温とすることが可能である性質であるのに加えて、対流伝熱だけでなく放射伝熱および凝縮伝熱によってもシューリムが加熱されるので、高い伝熱効率が得られるとともに、接着剤の迅速な硬化およびシューリムに対するライニングの迅速な固着が得られる。
【0014】
また、請求項2に係る発明のブレーキシューの製造方法によれば、前記ブレーキシュー本体を支持するための支持治具の支持面に前記シューリムの内周面を密着状態で支持させ、その支持面に設けられた凹溝に過熱水蒸気を通すことによりそのシューリムを加熱することから、過熱水蒸気をシューリムの内周面に直接接触させることができるので、一層、高い伝熱効率が得られるとともに、接着剤の迅速な硬化およびシューリムに対するライニングの迅速な固着が得られる。
【0015】
また、請求項3に係る発明のブレーキシューの製造方法によれば、(a) 前記ライニングの内周面および前記シューリムの外周面のうちの少なくとも一方に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、(b) 前記シューリムの外周面に前記ライニングの内周面を対向させた状態で相互に積み重ねる積層工程と、(c) 前記シューリムに前記ライニングが積み重ねられた状態で押圧するとともに、そのシューリムをその内周面から過熱水蒸気を用いて加熱する加熱接着工程とを、含むことから、過熱水蒸気は加熱空気に比較して5倍以上の熱容量を有するとともに常圧で最大500℃までの高温とすることが可能である性質であるのに加えて、対流伝熱だけでなく放射伝熱および凝縮伝熱によってもシューリムが加熱されるので、高い伝熱効率が得られるとともに、接着剤の迅速な硬化およびシューリムに対するライニングの迅速な固着が得られる。
【0016】
また、請求項4に係る発明のブレーキシューの製造装置によれば、(a) 前記シューリムの内周面を密着状態で支持する支持面を備えて前記ブレーキシュー本体を支持する支持治具と、その支持治具の支持面に対向する押圧面を備えた押圧治具とを備え、その支持治具の支持面上に載置された前記ライニングの上から押圧治具をその支持治具の支持面に向かって押圧する押圧装置と、(b) 過熱水蒸気を発生する過熱水蒸気発生装置を備え、前記押圧装置による押圧状態において、その過熱水蒸気を用いて前記シューリムの内周面に導くことによりそのシューリムの外周面に前記ライニングを加熱接着させる加熱装置とを、含むことから、常圧過熱水蒸気は加熱空気に比較して5倍以上の熱容量を有するとともに常圧で最大500℃までの高温とすることが可能である性質であるのに加えて、対流伝熱だけでなく放射伝熱および凝縮伝熱によってもシューリムが加熱されるので、高い伝熱効率が得られるとともに、接着剤の迅速な硬化およびシューリムに対するライニングの迅速な固着が得られる。
【0017】
また、請求項5に係る発明のブレーキシューの製造装置によれば、前記支持治具の支持面には凹溝が設けられ、前記過熱水蒸気はその凹溝内を通されることにより前記シューリムを加熱することから、過熱水蒸気をシューリムの内周面に直接接触させることができるので、一層、高い伝熱効率が得られるとともに、接着剤の迅速な硬化およびシューリムに対するライニングの迅速な固着が得られる。
【0018】
また、請求項6に係る発明のブレーキシューの製造装置によれば、前記過熱水蒸気発生装置は、前記シューリムの内周面に導かれた過熱水蒸気を回収して再利用するための循環路を有するものであることから、装置全体として、一層高いエネルギ効率が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1のブレーキシュー加熱接着装置10は、図示しないドラムブレーキのバッキングプレート上において拡開可能に装着される一対のブレーキシュー12を製造するために用いられる装置である。図1乃至図4に示すように、上記ブレーキシュー12は、図示しないバッキングプレートの板面と略平行な鋼板であって全体が円弧形状に湾曲した形状に打ち抜かれたシューウェブ14と、円弧状に湾曲させられた帯状の鋼板であって、そのシューウェブ14の円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように溶接等により一体的に固設された円弧形状のシューリム16と、そのシューリム16の外周面に接着剤を用いて固着されたライニング18とを備えてそれぞれ構成されている。
【0021】
上記接着剤としては、通常、衝撃や曲げに強く、剥離に対する強い抵抗力を備えた、フェノール樹脂を主剤とするフェノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂を主剤とするエポキシ樹脂系接着剤などの熱硬化性樹脂接着剤が用いられる。また、上記ライニング18は、たとえば、ガラス繊維、有機繊維、フェノール樹脂結合剤、潤滑剤、および摩擦調整剤の混合物を帯板状に成形して加熱加圧硬化させた非アスベストライニングなどから構成される。
【0022】
上記ブレーキシュー加熱接着装置10は、シューウェブ14とシューリム16とが予め一体化されたブレーキシュー本体20のシューリム16の外周面にライニング18を固着させて、ブレーキシュー12とするものである。このブレーキシュー加熱接着装置10は、図1に示すように、(a) 前記シューリム16の内周面を密着状態で支持する支持面24を備えてブレーキシュー本体20を支持する支持治具26とその支持治具26の支持面24に対向する押圧面28を備えた押圧治具30と押圧治具30を支持治具26に向かって駆動する駆動装置32とを備え、その支持治具26の支持面24上に載置されたライニング18の上から押圧治具30を用いてその支持治具26の支持面24に押圧する押圧装置34と、(b) 過熱水蒸気を発生する過熱水蒸気発生装置36を備え、前記押圧装置34による押圧状態において、その過熱水蒸気を用いてシューリム16の内周面に導くことによりそのシューリム16の外周面にライニング18を加熱接着させる加熱装置38とを、備えている。
【0023】
上記支持治具26は、図2、図3、図4に詳しく示すように、シューリム16の内周面と同様の曲率半径を備えた外周面を上側に有する鋼製の半円柱状の本体40と、シューウェブ14との干渉を避けるためにそれを受け入れるように形成された複数本の受入溝42と、その複数本の受入溝42の両側に設けられてシューリム16の内周面をそれぞれ支持する複数対の支持面24と、同時に加熱接着する他のブレーキシュー本体20との間に空間を設けるためのスペーサ溝44とを備えている。上記の各支持面24にはその長手方向に沿った凹溝46がそれぞれ設けられているとともに、その支持面24における凹溝46の周囲には、シリコンゴム等の耐熱シール材48が貼り着けられている。また、上記本体40内には、各凹溝46内の一端部にそれぞれ連通し且つ本体40の一端面に開口する導入通路50と、各凹溝46内の他端部にそれぞれ連通し且つ本体40の一端面に開口する排出通路52とが設けられている。
【0024】
前記駆動装置32は、たとえば空圧シリンダ、油圧シリンダ、電動シリンダ等の駆動装置から構成され、図示しない案内装置により上下方向すなわち支持治具26に対して接近離隔方向に案内される可動部材56に取付軸54によってその取付軸54まわりに回動可能に取り付けられた押圧治具30を支持治具26に向かって駆動し、その支持治具26に装着されて位置決めされたブレーキシュー本体20のシューリム16の外周面にライニング18を押圧するものである。上記押圧治具30は、シューリム16の外周面と同様の曲率半径を備えた押圧面28と、その押圧面28に貼り着けられたシリコンゴム等の耐熱シート58とを備えている。
【0025】
前記加熱装置38は、過熱水蒸気発生装置36から発生する常圧過熱水蒸気を前記支持治具26の本体40の端面に開口する導入通路50へ供給するための開閉弁60を有する供給管62と、その本体40の端面に開口する排出通路52から排出される常圧過熱水蒸気を回収して再使用のために過熱水蒸気発生装置36へ循環させる回収管64とを備えている。
【0026】
上記過熱水蒸気発生装置36は、高周波電源66から出力される高周波電力によって加熱される金属発熱体を内部に有する過熱水蒸気発生管68と、燃料を燃焼させることによって水及び回収した常圧過熱水蒸気を加熱して常圧の飽和水蒸気を出力して上記過熱水蒸気発生管68内へ供給するボイラ70とを備え、飽和水蒸気に過熱水蒸気発生管68を通過させることによって最大500℃程度までの常圧過熱水蒸気を発生させ、シューリム16を直接加熱するために前記支持治具26の本体40の凹溝46に供給する。この過熱水蒸気発生装置36においては、圧力を加えないで高温の蒸気を発生させることができるので、大がかりな装置が不要である。過熱水蒸気とは、ボイラからの飽和水蒸気に圧力を加えることなく加熱することにより得られる100℃以上の水蒸気のことである。この過熱水蒸気においては、加熱空気に比較して熱容量が大きく、たとえば5倍以上の熱容量を有する性質がある。また、この過熱水蒸気は、加熱空気による伝熱が対流伝熱であるのに比較して、その対流伝熱だけでなく放射伝熱および凝縮伝熱によっても伝熱するので、高い伝熱効率を有し且つ速やかに加熱する性質がある。また、この過熱水蒸気は、飽和蒸気に比較して他に単位体積当たりの水分量が少ないため、湿熱と乾熱の性質を合わせ持つという性質がある。さらに、この過熱水蒸気は、低酸素雰囲気で加熱処理ができるため、被加熱物の酸化や燃焼を抑制することができるという性質がある。
【0027】
次に、以上のように構成されたブレーキシュー加熱接着装置10を用いたブレーキシュー12の製造方法を図5を用いて説明する。先ず、接着剤塗布工程P1では、ブレーキシュー本体20のシューリム16の外周面とライニング18の内周面との一方または両方に接着剤が塗布され、必要に応じて乾燥炉内においてその塗布された接着剤が熱風乾燥される。次いで、積層工程P2では、ブレーキシュー本体20が図2、図3に示すように支持治具26に装着されるとともに、そのブレーキシュー本体20のシューリム16の外周面にライニング18の内周面を対向させた状態でシューリム16の上にライニング18が積み重ねられる。図3および図4はこの状態を示している。次に、加熱接着工程P3においては、押圧治具30が支持治具26に向かって駆動され、その支持治具26に装着されたブレーキシュー本体20シューリム16の外周面に対してライニング18の内周面がたとえば0.6〜3.5MPa程度の圧力で押圧され、この押圧が1〜2分程度の押圧期間だけ持続される。同時に、この押圧期間において、前記開閉弁60が閉状態から開状態に切り換えられ、数百℃たとえば300℃程度の常圧過熱水蒸気が過熱水蒸気発生装置36から支持治具26の凹溝46内に供給される。上記積層工程P2においてこの凹溝46はシューリム16の内周面によって気密に閉じられていることから、シューリム16は上記常圧過熱水蒸気に直接的に接触して効率良く急速加熱され、接着剤が熱溶解されてシューリム16の外周面とライニング18の内周面とが相互に接着される。そして、上記押圧期間の末期となると開閉弁60が開状態から閉状態に切り換えられて冷却が開始される。そして、上記この押圧期間が終了すると、押圧治具30が支持治具26から離れる方向に駆動され、ライニング18が接着されたブレーキシュー12が支持治具26から取り出される。次いで、検査工程P4において、上記ブレーキシュー12が検査される。
【0028】
上述のように、本実施例のブレーキシュー12の製造方法によれば、ライニング18をシューリム16の外周面に加熱接着するに際して、常圧過熱水蒸気を用いてそのシューリムを加熱するが、その過熱水蒸気は加熱空気に比較して5倍以上の熱容量を有するとともに常圧で最大500℃程度までの高温とすることが可能である性質であるのに加えて、対流伝熱だけでなく放射伝熱および凝縮伝熱によってもシューリムが加熱されるので、高い伝熱効率が得られるとともに、接着剤の迅速な硬化およびシューリム16に対するライニング18の迅速な固着が得られる。
【0029】
また、本実施例のブレーキシュー12の製造方法によれば、ブレーキシュー本体20を支持するための支持治具26の支持面24にシューリム16の内周面を密着状態で支持させ、その支持面24に設けられた凹溝46に常圧過熱水蒸気を通すことによりそのシューリム16を加熱することから、過熱水蒸気をシューリム16の内周面に直接接触させることができるので、一層、高い伝熱効率が得られるとともに、接着剤の迅速な硬化およびシューリム16に対するライニング18の迅速な固着が得られる。
【0030】
また、本実施例のブレーキシュー12の製造方法によれば、(a) ライニング18の内周面およびシューリム16の外周面のうちの少なくとも一方に接着剤を塗布する接着剤塗布工程P1と、(b) シューリム16の外周面にライニング18の内周面を対向させた状態で相互に積み重ねる積層工程P2と、(c) シューリム16にライニング18が積み重ねられた状態で押圧するとともに、そのシューリム16をその内周面から過熱水蒸気を用いて加熱する加熱接着工程P3とを、含むことから、常圧過熱水蒸気は加熱空気に比較して5倍以上の熱容量を有するとともに常圧で最大500℃程度までの高温とすることが可能である性質であるのに加えて、対流伝熱だけでなく放射伝熱および凝縮伝熱によってもシューリム16が加熱されるので、高い伝熱効率が得られるとともに、接着剤の迅速な硬化およびシューリム16に対するライニング18の迅速な固着が得られる。
【0031】
また、本実施例のブレーキシュー加熱接着装置10によれば、(a) シューリム16の内周面を密着状態で支持する支持面24を備えてブレーキシュー本体20を支持する支持治具26と、その支持治具26の支持面24に対向する押圧面28を備えた押圧治具30とを備え、その支持治具26の支持面24上に載置されたライニング28の上から押圧治具30をその支持治具26の支持面24に向かって押圧する押圧装置34と、(b) 常圧過熱水蒸気を発生する過熱水蒸気発生装置36を備え、前記押圧装置34による押圧状態において、その常圧過熱水蒸気を用いてシューリム16の内周面に導くことによりそのシューリム16の外周面にライニング18を加熱接着させる加熱装置38とを、含むことから、常圧過熱水蒸気は加熱空気に比較して5倍以上の熱容量を有するとともに常圧で最大500℃までの高温とすることが可能である性質であるのに加えて、対流伝熱だけでなく放射伝熱および凝縮伝熱によってもシューリム16が加熱されるので、高い伝熱効率が得られるとともに、接着剤の迅速な硬化およびシューリム16に対するライニング18の迅速な固着が得られる。
【0032】
また、本実施例のブレーキシュー加熱接着装置10によれば、支持治具26の支持面24には凹溝46が設けられ、常圧過熱水蒸気はその凹溝46内を縦通されることによりシューリム16を加熱することから、常圧過熱水蒸気をシューリム16の内周面に直接接触させることができるので、一層、高い伝熱効率が得られるとともに、接着剤の迅速な硬化およびシューリム16に対するライニング18の迅速な固着が得られる。
【0033】
また、本実施例のブレーキシュー加熱接着装置10によれば、過熱水蒸気発生装置36は、シューリム16の内周面に導かれた過熱水蒸気を回収して再利用するための回収管(循環路)64を有するものであることから、装置全体として、一層高いエネルギ効率が得られる。
【0034】
図6は、本発明の他の実施例のブレーキシュー加熱接着装置10に用いられる支持治具26の構成を説明する図である。本実施例の支持治具26では、本体40内に設けられた導入通路50および排出通路52は、1つの凹溝46内の複数箇所にそれぞれ開口している。本実施例によれば、シューリム16が一層効率良く且つ均一に加熱される。
【0035】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0036】
たとえば、前述の実施例において、過熱水蒸気発生装置36から発生される常圧過熱水蒸気は、大気圧と完全に一致する圧でなく、その大気圧に近い圧を有するものである。また、常圧過熱水蒸気に替えて、常圧よりも高い圧を有する過熱水蒸気が用いられてもよい。
【0037】
また、前述の実施例において、過熱水蒸気発生装置36から発生される常圧過熱水蒸気がシューリム16の内周面に直接的に接触させられるものであったが、熱伝動性の高い伝熱材を介して間接的に接触させられるものであっても一応の効果が得られる。
【0038】
また、前述の実施例において、過熱水蒸気発生装置36から発生される常圧過熱水蒸気がシューリム16の内周面に直接的に接触させられるものであったが、シューウエブ14も同時に常圧過熱水蒸気によって加熱されるものであってもよい。
【0039】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一例のブレーキシューの製造方法に用いられるブレーキシュー加熱接着装置の構成を説明する図である。
【図2】図1のブレーキシュー加熱接着装置の要部を詳しく説明するための斜視図である。
【図3】図1のブレーキシュー加熱接着装置に用いられている支持治具の受入溝を通る面で切断された断面図である。
【図4】図1のブレーキシュー加熱接着装置に用いられている支持治具の縦断面図である。
【図5】本発明の一例のブレーキシューの製造方法を説明する工程図である。
【図6】本発明の他の実施例のブレーキシューの製造方法に用いられる支持治具の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
10:ブレーキシュー加熱接着装置(ブレーキシュー製造装置)
12:ブレーキシュー
16:シューリム
18:ライニング
20:ブレーキシュー本体
24:支持面
26:支持治具
28:押圧面
30:押圧治具
32:駆動装置
34:押圧装置
36:過熱水蒸気発生装置
38:加熱装置
46:凹溝
64:回収管(循環路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキシュー本体のシューリムの外周面にライニングが接着されてなるブレーキシューの製造方法であって、
前記ライニングを前記シューリムの外周面に加熱接着するに際して、過熱水蒸気を用いて該シューリムを加熱することを特徴とするブレーキシューの製造方法。
【請求項2】
前記ブレーキシュー本体を支持するための支持治具の支持面に前記シューリムの内周面を密着状態で支持させ、該支持面に設けられた凹溝に過熱水蒸気を通すことにより、該シューリムを加熱することを特徴とする請求項1のブレーキシューの製造方法。
【請求項3】
前記ライニングの内周面および前記シューリムの外周面のうちの少なくとも一方に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記シューリムの外周面に前記ライニングの内周面を対向させた状態で相互に積み重ねる積層工程と、
前記シューリムに前記ライニングが積み重ねられた状態で押圧するとともに、該シューリムをその内周面から過熱水蒸気を用いて加熱する加熱接着工程と
を、含むことを特徴とする請求項1または2のブレーキシューの製造方法。
【請求項4】
ブレーキシュー本体のシューリムの外周面にライニングを加熱接着することによりブレーキシューを製造するブレーキシューの製造装置であって、
前記シューリムの内周面を密着状態で支持する支持面を備えて前記ブレーキシュー本体を支持する支持治具と、該支持治具の支持面に対向する押圧面を備えた押圧治具とを備え、該支持治具の支持面上に載置された前記ライニングの上から押圧治具を該支持治具の支持面に向かって押圧する押圧装置と、
過熱水蒸気を発生する過熱水蒸気発生装置を備え、前記押圧装置による押圧状態において、該過熱水蒸気を用いて前記シューリムの内周面に導くことにより該シューリムの外周面に前記ライニングを加熱接着させる加熱装置と
を、含むことを特徴とするブレーキシューの製造装置。
【請求項5】
前記支持治具の支持面には凹溝が設けられ、前記過熱水蒸気は該凹溝内を通されることにより前記シューリムを加熱することを特徴とする請求項4のブレーキシューの製造装置。
【請求項6】
前記過熱水蒸気発生装置は、前記シューリムの内周面に導かれた過熱水蒸気を回収して再利用するための循環路を有するものであることを特徴とする請求項4または5のブレーキシューの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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