説明

ブレーキ液圧制御装置

【課題】ブレーキ液圧制御装置の電磁弁を駆動するコイルユニットの構造に関する。コイルユニットを収容ケース内で確実に固定すると共に、コイルユニット内部に発生する熱を外部に逃がしやすい構造とすること。
【解決手段】コイルユニットはフランジ部を有するボビン62に電線63が巻回されたコイル、及び当該コイルを囲繞するコイルハウジング61により構成される。ボビンの上方フランジ部62aには寸法許容差を吸収するための突起62cが形成され、ボビンの液圧ユニット側フランジ部62b全面がコイルハウジングに接するようにボビンがコイルハウジングに固定される。これにより、コイルで発生した熱を熱伝導率の高い液圧ユニット側へ逃がすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ブレーキ液圧制御装置に係り、特にブレーキ液流路の切替を行う電磁弁を駆動するためのコイルユニットの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば特許文献1に開示されるように、アンチロックブレーキ制御等を行う液圧ブレーキ装置に用いられる電磁弁が知られている。かかる電磁弁は、液圧ユニットから突出する部位にコアおよびプランジャを内装したプランジャ部と、該液圧ユニットの突出部の周囲に配設されるコイルと、コイルの周囲に配設されるヨークとにより構成されている。上記の構成において、コイルに励磁電流が供給されていない場合、コアとプランジャとの間には所定のエアギャップが形成されている。かかる状態でコイルに励磁電流が供給されると、プランジャにはコアに向かう電磁力が作用することで、コアとプランジャとの間のエアギャップを減少させることができる。従って、上記従来の電磁弁によれば、コイルに適当な励磁電流を供給することで、液圧通路を導通または遮断することができる。
【0003】
この電磁弁を適正に開閉駆動するためには、電磁弁を構成するコイルを、液圧ユニットに対して確実に固定する必要があるが、特許文献1には、コイルの液圧ユニットに対抗する面に弾性変形可能な突起部を形成することにより、コイルを液圧ユニットに固定する構造が開示されている。
(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−179734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電磁弁を駆動するにはコイルに電流を流す必要があるが、その際、コイルの通電抵抗によりコイルが発熱する。通常、コイルに発生した熱は、金属性のヨークを通じて外部に放熱されるが、特許文献1に示される構造では、コイル線が巻かれるボビンの液圧ユニット側のフランジ部がヨークに接していない一方、収容ケース側のフランジ部がヨークに接しているため、コイルに発生した熱は、ヨークを介して、収容ケースへ伝達される。しかし、収容ケースは通常、金属に比較して熱伝導率の低い樹脂製材料により形成されているため、収容ケース側へ放熱を行っても十分な放熱を行うことができない。
【0006】
本発明の発明者は、このような課題を鑑みて検討した結果、ボビンの液圧ユニット側のフランジ部をヨークに接するようにし、収容ケース側のフランジ部上面にヨーク内壁を押圧する突起を設けることにより上記の課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、コイルに発生した熱を効率的に放熱することができると共に、コイルを液圧ユニットに対して確実に固定することが可能なブレーキ液圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ブレーキ液の流路を形成する液圧ユニットと、前記流路の開閉を行い前記液圧ユニットの一面に取付けられる電磁弁と、前記電磁弁を取り囲むコイルユニットを少なくとも有し、
前記コイルユニットは、前記電磁弁を囲繞する筒部を有するボビンと、前記筒部に電線を巻きつけて形成したコイルと、前記コイルを収容するコイルハウジングを備えており、
前記コイルハウジングが前記液圧ユニットの一面に接した状態で前記コイルユニットが前記液圧ユニットに取り付けられている形式のブレーキ液圧制御装置において、
前記ボビンはその軸方向端部にフランジ部を備え、一方のフランジ部の外面が前記液圧ユニット側のコイルハウジングに内接しており、他方のフランジ部の外面に設けた突起がコイルハウジングの内壁に押圧されることにより前記コイルが前記コイルハウジングに支持されていることを特徴とするブレーキ液圧制御装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0008】
すなわち、ボビンの液圧ユニット側のフランジ部がヨークに接し、かつヨークも液圧ユニットの一面に接しているため、コイルに発生した熱がヨークを介してアルミ合金などの金属で形成される液圧ユニットへ熱伝達し、効率よく放熱を行うことが可能となる。
また、ボビンの収容ケース側のフランジ部に設けた突起がヨーク内壁に押圧されることにより、ボビンの液圧ユニット側フランジ面が安定してヨークに接し、放熱を安定的に行うことが可能となる。
【0009】
また本発明のブレーキ液圧制御装置において、前記コイルハウジングは前記液圧ユニットに接する平板ヨーク部と、コイルに周接する周接ヨーク部とから構成されており、前記平板ヨーク部と前記周接ヨーク部が嵌合することにより、前記突起が圧壊されて前記コイルがコイルハウジングに支持されることが好ましい。このようにコイルが支持される構造とすることにより、ボビンの軸方向の寸法ばらつきが突起の圧壊によって調整されるため、ヨーク内壁から突起への押圧力により、ボビンがヨーク内で確実に固定されると共に、ボビンの寸法ばらつきをある程度許容でき、製造費用をおさえることができる。
【0010】
また本発明のブレーキ液圧制御装置において、前記ブレーキ液圧制御装置は更に前記電磁弁及び前記コイルユニットを収容する収容ケースを有しており、前記収容ケースは、その一部に前記コイルユニットの上面を弾性部材を介して前記液圧ユニット側へ押圧する押圧部を有しており、前記コイルユニットは、前記液圧ユニットの一面と前記押圧部により狭持されることが好ましい。
このような構成とすることにより、コイルユニットを液圧ユニットに確実に固定することができる。また押圧部材がコイルユニットの上面を弾性部材を介して液圧ユニット側へ押圧しているため、車両の振動によるコイル上面からの応力を弾性部材により吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例である液圧ブレーキ制御装置のシステム構成図である
【図2】本実施例の液圧ブレーキ制御装置の組み立て前の状態を表した図である
【図3】本実施例の液圧ブレーキ制御装置の組み立て後の電磁弁の断面図である
【0012】
以下、本発明の実施の形態にかかるブレーキ液圧制御装置に関する実施の形態を、図面に基づいて具体的に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施例である電磁弁を備える液圧ブレーキ装置100の一例のシステム構成図を示す。本実施例の液圧ブレーキ装置100は、電子制御ユニット(以下、ECUと称す)10を備えている。液圧ブレーキ装置100は、ECU10に制御されることにより、
ブレーキ操作に応じた制動力を発生する。尚、図1においては、右側前輪の液圧回路が示されている。
【0014】
液圧ブレーキ装置100は、ブレーキペダル30を備えている。ブレーキペダル30は、ブレーキブースタ32
の作動軸33に連結されている。ブレーキブースタ32は、ブレーキペダル30が踏み込まれた場合にブレーキ踏力に対して所定の倍力比を有するアシスト力を発生する。ブレーキブースタ32には、マスタシリンダ31が固定されている。マスタシリンダ31は、その内部に液圧室を備えている。この液圧室には、ブレーキ踏力とアシスト力との合力に応じたマスタシリンダ圧が発生する。
【0015】
マスタシリンダ31の液圧室には、液圧通路16が接続されている。液圧通路16には、電磁弁11を介して制御液圧通路18が連通している。電磁弁11には、リリーフ弁11aが並列に配設されている。電磁弁11は、常態で開弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより閉弁状態となる2位置弁である。リリーフ弁11aは、制御液圧通路18側の液圧が液圧通路16側の液圧に比して所定のリリーフ圧を越えて高圧である場合に、制御液圧通路18側から液圧通路16側へ向かうブレーキフルードの流れを許容する定圧開放弁である。尚、電磁弁11の構成については後に詳細に説明する。
【0016】
制御液圧通路18には、前輪のホイルシリンダ4が接続されている。ホイルシリンダ4には、電磁弁12を介して液圧通路19が連通している。電磁弁12は、常態で閉弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより開弁状態となる2位置弁である。液圧通路19は、低圧リザーバ13に連通している。低圧リザーバ13は、制御液圧通路18側から液圧通路19に流出したブレーキフルードを貯留する。
【0017】
図1に示す液圧ブレーキ装置100は、ブレーキペダルの操作に応じた制動力を発生させる通常の機能(以下、通常ブレーキ機能と称す)、および、ブレーキ操作中に車輪に過大なスリップ率が発生することを防止するアンチロックブレーキ機能(以下、ABS機能と称す)を実現する。通常ブレーキ機能は、図1に示す如く、電磁弁11,12を共にオフ状態、すなわち、電磁弁11を開弁状態に、かつ、電磁弁12を閉弁状態に維持することにより実現される。かかる状態が実現されると、マスタシリンダ31とホイルシリンダ4とが導通状態となる。この場合、ホイルシリンダ4のホイルシリンダ圧は、マスタシリンダ圧と等圧に制御される。従って、本実施例の液圧ブレーキ装置100において、通常時はブレーキ操作量に応じた制動力を発生させることができる。
【0018】
ABS機能は、ブレーキペダル30が踏まれている状態で、電磁弁11,12を適宜開閉することにより実現される。ブレーキペダル30が握られている状態で電磁弁11,12が共にオフ状態に維持される(図1に示す状態)と、マスタシリンダ31とホイルシリンダ4とが導通状態となる。この場合、ホイルシリンダ圧は、マスタシリンダ圧に向けて増圧される。以下、この状態を増圧モードと称す。
【0019】
また、電磁弁12がオフ状態に維持され、電磁弁11がオン状態にされると、マスタシリンダ31とホイルシリンダ4とが遮断状態となる。この場合、ホイルシリンダ圧は保持される。以下、この状態を保持モードと称す。更に、電磁弁11,12が共にオン状態にされると、マスタシリンダ31とホイルシリンダ4とが遮断状態となり、ホイルシリンダ4と低圧リザーバ13とが導通状態となる。この場合、ホイルシリンダ4内のブレーキフルードが低圧リザーバ13に向けて流出することで、ホイルシリンダ圧は減圧される。以下、この状態を減圧モードと称す。
【0020】
上記のABS機能によれば、車輪のホイルシリンダ圧を、過大なスリップ率が生じないように適正な圧力に制御することができる。このため、本実施例の液圧ブレーキ装置100によれば、運転者によってブレーキ操作が行われる場合に、車輪をロックさせることなく、すべての車輪に大きな制動力を発生させることができる。
【0021】
次に、図2および図3を参照して、本実施例の液圧ブレーキ装置100が備える電磁弁11,12の構成について説明する。尚、電磁弁11と電磁弁12とは、常態におけるコアおよびプランジャの状態に関する構成を除いて同様の構成を有している。このため、以下では、その代表として電磁弁11の構成について説明する。
【0022】
図2は、本実施例の液圧ブレーキ装置100の組み立て前の状態を示す。尚、図2においては、液圧ブレーキ装置100が備える電磁弁のうち4つの電磁弁が示されているが、液圧ユニット40および収容ケース50には、全車輪に対応する電磁弁11,12が組み付けられている。図2に示す如く、液圧ブレーキ装置100は、上記の液圧通路16,18が形成される液圧ユニット40、および、液圧ユニット40にボルト締着される収容ケース50を備えている。
尚、液圧ユニット40は、例えばアルミ等の塑性変形可能な部材で構成されている。
【0023】
図3は、本実施例の液圧ブレーキ装置100の組み立て後の電磁弁11の断面図を示す。電磁弁11のコイルハウジング61はコイルを取り囲みコイルに接する周接ヨーク部61aとコイルを下方から支持する平板ヨーク部61bとにより構成されている。コイルハウジング61は金属製材料により形成され、前面開口の筒状をし、その内側に筒状ボビン62が同一軸心に設けられ、そのボビン62の外周面に電線63が巻回されている。コイルユニット60は、コイルハウジング61とボビン62に電線63が巻回されたコイルにより構成される。ボビン62内には可動鉄心(プランジャ)64がその軸心方向に移動自在に設けられ、その可動鉄心64はそのガイド65の端面との隙間を進退し、その進退により弁軸を介して弁体を弁座に接離させる(図示せず)。図中、71は通電用端子、66はスプリングである。
【0024】
図3においてボビンの上方フランジ部62aには寸法許容差を吸収するための突起62cが形成されている。これによりコイルユニットを組み立てる際に周接ヨーク部61a及び平板ヨーク部61bによりボビン62が挟み込まれ、突起62cが周接ヨーク部61aにより圧接、又は圧壊されることによって、ボビン62がコイルハウジング内で確実に支持される。一方、ボビンの下方フランジ部62bはその全体が、平板ヨーク部に接している。このため、コイルに発生した熱が下方フランジ部を介して平板ヨーク部へ伝わりやすくなる。
【0025】
コイルユニットの外部には、コイルユニットの外部上面を液圧ユニット40の方向に押圧することによりコイルユニットを支持する支持部51が形成されている。
支持部は収容ケースと一体に形成されており、弾性部材52を介してコイルユニット上面を押圧している。弾性部材52はコイルユニットの振動を適度に吸収する、例えばシリコンゴムの成形品が好適である。
【0026】
次に電磁弁11の実際の動作について説明する。
通常状態、すなわちABSが作動していない状態においては、コア67と可動鉄心64との間には、両者を離間させる向きにスプリング66により付勢力が発生している。このため、可動鉄心64とコア67との間は、常態で所定長のエアギャップGが形成されている。この状態において、可動鉄心の先端部は弁体を下方へ押し込んでおり、弁体が弁座から離座することで、液圧通路16と制御液圧通路18とは導通状態に維持される。
【0027】
一方、ABSが機能している状態では、ECU10により電流が電線に流れ、コイルに磁界が発生することにより、可動鉄心64がコア67側へ動く。このため、弁体は弁座に接座した状態となるため、電磁弁11は閉弁状態となる。
【0028】
上述の如く、本実施例のコイルユニットは、突起部62cの変形により、コイルをコイルハウジング内に固定する構成である。従って、本実施例によれば、簡素な構成でコイルをコイルハウジングに対して固定することができると共に、ボビンの寸法逸脱を吸収することができる。またボビン62の下方フランジ部が平板ヨーク部に接しているため、コイルで発生した熱を液圧ユニット側に伝わりやすくすることにより、放熱効果をあげることができる。
【0029】
本実施例において、上述の如く、収容ケース50を液圧ユニット40に組み付けると、コイルユニット60には、液圧ユニット40からの押力が作用する。一方、コイルユニット上面は収容ケースの一部である支持部51に弾性部材52を介して押圧されることによりコイルユニットは収容ケースと液圧ユニットとの間で固定される。
【0030】
このように、本実施例によれば、車両からブレーキ液圧制御装置100に伝わる振動によりコイルユニットが振動するのを適度に抑制し、コイルユニットが安定して固定されるため、電磁弁11の適正な開閉駆動を確保することが可能となる。
【符号の説明】
【0031】
10 ECU
11、12 電磁弁
40 液圧ユニット
50 収容ケース
51 支持部
60 コイルユニット
62c 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ液の流路を形成する液圧ユニットと、前記流路の開閉を行い前記液圧ユニットの一面に取付けられる電磁弁と、前記電磁弁を取り囲むコイルユニットを少なくとも有し、
前記コイルユニットは、前記電磁弁を囲繞する筒部を有するボビンと、前記筒部に電線を巻きつけて形成したコイルと、前記コイルを収容するコイルハウジングを備えており、
前記コイルハウジングが前記液圧ユニットの一面に接した状態で前記コイルユニットが前記液圧ユニットに取り付けられている形式のブレーキ液圧制御装置において、
前記ボビンはその軸方向端部にフランジ部を備え、一方のフランジ部の外面が前記液圧ユニット側のコイルハウジングに内接しており、他方のフランジ部の外面に設けた突起がコイルハウジングの内壁に押圧されることにより前記コイルが前記コイルハウジングに支持されていることを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のブレーキ液圧制御装置であって、前記コイルハウジングは前記液圧ユニットに接する平板ヨーク部と、コイルに周接する周接ヨーク部とから構成されており、前記平板ヨーク部と前記周接ヨーク部が嵌合することにより、前記突起が圧接されて前記コイルがコイルハウジングに支持されることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項1及び2記載のブレーキ液圧制御装置であって、前記ブレーキ液圧制御装置は更に前記電磁弁及び前記コイルユニットを収容する収容ケースを有しており、前記収容ケースは、その一部に弾性部材を介して前記コイルユニットの上面を前記液圧ユニット側へ押圧する押圧部を有しており、前記コイルユニットは、前記液圧ユニットの一面と前記押圧部により狭持されることを特徴とするブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−79025(P2013−79025A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220763(P2011−220763)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】