説明

ブレ補正装置及び光学機器

【課題】良好なブレ補正が可能なブレ補正装置及び光学機器を提供する。
【解決手段】本発明のブレ補正装置30は、光学機器1に作用する角速度を検出する角速度検出部25と、前記角速度検出部25による検出信号ω0から所定の周波数成分を抽出して出力する信号抽出部61と、前記信号抽出部61の出力信号ω3を利得調整して出力する利得調整部62と、前記角速度検出部25による検出信号ω0と前記利得調整部62の出力信号ω5とに基づいてブレ補正量を演算する演算部41と、を備えること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレ補正装置及び光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像光学機器において、手ブレ等に起因する撮像光学機器のブレを補正するブレ補正機能を備えるものがある。
ブレ補正は、たとえば、ピッチおよびヨーの2方向に備えた角度センサが検知した角速度情報から撮像光学機器のブレ量を演算し、この演算結果に基づいて撮像面におけるブレを相殺するようにブレ補正光学系を移動させる。
ところで、高倍率撮影時には、回転ブレに加えて並進ブレの影響が大きくなる。上記のような角速度センサからの角速度情報のみでは、並進ブレを正しく検出することができず、高精度のブレ補正制御を行えない。このため、角速度センサに加えて加速度センサを備え、それらの出力から並進ブレ成分を演算して補正することで、高倍率撮影時における防振精度を向上させる構成が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−225405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のごとく角速度センサに加えて加速度センサを備える構成では、ブレ補正システムが複雑化すると共に演算に時間を要するという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、良好なブレ補正が可能なブレ補正装置及び光学機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0007】
請求項1に記載の発明は、光学機器(1)に作用する角速度を検出する角速度検出部(25)と、前記角速度検出部(25)による検出信号(ω0)から所定の周波数成分を抽出して出力する信号抽出部(61)と、前記信号抽出部(61)の出力信号(ω3)を利得調整して出力する利得調整部(62)と、前記角速度検出部(25)による検出信号(ω0)と前記利得調整部(62)の出力信号(ω5)とに基づいてブレ補正量を演算する演算部(41)と、を備えること、を特徴とするブレ補正装置(30)である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のブレ補正装置であって、前記利得調整部(62)は、前記光学機器(1)の倍率に応じて利得を変化させること、を特徴とするブレ補正装置(30)である。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のブレ補正装置であって、前記角速度検出部(25)は、第1の方向における角速度を検出する第1の検出部(25P)と、前記第1の方向と交差する方向における角速度を検出する第2の検出部(25Y)とを備え、前記利得調整部(62)は、第1の方向における前記信号抽出部(61)の出力信号と、第2の方向における前記信号抽出部(61)の出力信号とを、異なる利得で利得調整すること、を特徴とするブレ補正装置(30)である。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレ補正装置であって、前記信号抽出部(61A,61B)は、前記角速度検出部(25)による検出信号から複数の周波数成分(ω3,ω3′)をそれぞれ抽出して出力し、前記利得調整部(62A,62B)は、前記各周波数成分において異なる利得で利得調整すること、を特徴とするブレ補正装置(30)である。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のブレ補正装置であって、前記演算部(41)の演算結果に基づいて、像ブレ補正を行うブレ補正部(VL)を備えること、を特徴とするブレ補正装置(30)である。
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載のブレ補正装置であって、前記信号抽出部(61)が抽出する周波数成分は、角度ブレの位相と並進ブレの位相とが略対応する周波数帯域に設定されていること、を特徴とするブレ補正装置(30)である。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のブレ補正装置であって、前記信号抽出部(61)が抽出する周波数成分は、2Hzを含む周波数帯域に設定されていること、を特徴とするブレ補正装置(30)である。
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7に記載のブレ補正装置(30)を備える光学機器(1)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好なブレ補正が可能なブレ補正装置及び光学機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態を適用したカメラの概略構成を示す図である。
【図2】ブレ補正を説明するカメラの斜視図である。
【図3】カメラにおけるブレ補正制御部の機能ブロック図である。
【図4】目標速度演算部の回路ブロック図である。
【図5】カメラブレと撮像面でのブレ量の関係を説明する図である。
【図6】並進ブレを撮像面より後方側回転中心のブレと見なした説明図である。
【図7】並進ブレを撮像面より前方側回転中心のブレと見なした説明図である。
【図8】手持ちによるブレ波形の一例を示すグラフである。
【図9】角度ブレと並進ブレのスペクトル分布を示した図である。
【図10】角度ブレと並進ブレとの相関関係を示す図である。
【図11】図8のグラフからそれぞれ2Hzのブレを抽出した波形を示すグラフである。
【図12】本願構成のブレ補正制御と従来のブレ補正制御との撮像面における誤差量の比較を示すグラフである。
【図13】ピッチ方向およびヨー方向の角度ブレと並進ブレの2Hz成分における相関関係を示すグラフである。
【図14】第3実施形態における目標速度演算部の回路ブロック図および利得グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態を適用したカメラ1の概略構成を示す図である。図2は、ブレ補正を説明するカメラ1の斜視図である。図3は、カメラ1におけるブレ補正装置30の機能ブロック図である。カメラ1は、被写体像を電気信号に変換した画像データとして出力する電子スチルカメラである。
【0011】
図1に示すように、カメラ1は、カメラ本体10と、カメラ本体10に対して着脱可能なレンズ鏡筒20と、により構成されている。なお、本発明は、このようなレンズ着脱式のカメラに限定されるものではなく、カメラ本体とレンズとが一体に構成されたカメラ適用してもよい。
【0012】
カメラ本体10は、CPU11と、撮像素子12と、シャッター13と、信号処理回路14と、EFPROM15と、AFセンサ16と、記録媒体17等を備えている。また、カメラ本体10の背面には表示装置18が配設され、カメラ本体10の上面には操作部材19が設けられている。
【0013】
CPU11は、後述するレンズ鏡筒20におけるズームレンズ群ZLおよびフォーカスレンズ群FLの移動量演算や、当該カメラ1全体の制御を行う。
撮像素子12は、レンズ鏡筒20の結像光学系によってその撮像面に結像された画像を電気信号に変換して出力する、たとえば、CCDやCMOS等の光電変換素子である。撮像素子12は、その撮像面がレンズ鏡筒20の光軸OAと直交する姿勢で、カメラ筐体に固定されている。撮像素子12は、撮像素子駆動回路からの入力に基づいて、信号処理回路14に画像データを出力する。
【0014】
シャッター13は、レンズ鏡筒20の結像光学系から撮像素子12へ向かう撮影光を遮蔽および通過させることによって、露光時間を調整する。
信号処理回路14は、撮像素子12からの出力を受けて、ノイズ処理やA/D変換等を行う。
EFPROM15は、レンズ鏡筒20に備えられた後述する角速度センサ25のゲイン値などの調整値情報を有し、CPU11に出力する。
AFセンサ16は、焦点検出を行うためのCCDラインセンサ等である。
【0015】
記録媒体17は、カメラ本体10に設けられたスロットに着脱可能なSDカード、CFカード等のメモリであって、CPU11から出力された画像情報を記録する。
表示装置18は、液晶パネル等によって構成され、当該カメラ1の設定に係るメニューや、撮像素子12によって撮像したスルー画像、撮像画像等を表示する。
操作部材19は、シャッター駆動のタイミングを操作するスイッチであって、半押し、全押し信号をCPU11に出力する。
【0016】
レンズ鏡筒20は、ズームレンズ群ZLと、フォーカスレンズ群FLと、ブレ補正レンズ群VLと、絞り機構Dとを備え、結像光学系を構成している。また、レンズ鏡筒20は、ズーム駆動機構21と、フォーカス駆動機構22と、ブレ補正駆動機構23と、絞り駆動機構24と、角速度センサ25とを備えている。
【0017】
ズームレンズ群ZLは、光軸OA方向に移動して当該レンズ鏡筒20の焦点距離を変化させるレンズ群である。ズームレンズ群ZLは、ズーム駆動機構21によって移動駆動される。
フォーカスレンズ群FLは、光軸OA方向に移動して当該レンズ鏡筒20による結像位置を変化させるレンズ群である。フォーカスレンズ群FLは、フォーカス駆動機構22によって移動駆動される。
【0018】
ブレ補正レンズ群VLは、光軸OAと直交する面内で移動して当該レンズ鏡筒20による結像位置を変化させるレンズ群である。ブレ補正レンズ群VLは、ブレ補正駆動機構23によって移動駆動される。このブレ補正レンズ群VLは、後述するブレ補正装置30を構成する。
絞り機構Dは、レンズ鏡筒20から撮像素子12に達する露光光量を制御する機構である。絞り機構Dは、絞り駆動機構24によって駆動される。
【0019】
ズーム駆動機構21は、ズームレンズ群ZLを移動駆動する機構であって、カメラ本体10のCPU11によって制御される。
フォーカス駆動機構22は、フォーカスレンズ群FLを移動駆動する機構であって、カメラ本体10のCPU11によって制御される。
【0020】
ブレ補正駆動機構23は、ブレ補正レンズ群VLを移動駆動する機構であって、カメラ本体10のCPU11によって制御される。本実施形態では、ブレ補正駆動機構23は、図2に示すように、カメラ1を撮影者が光軸OAを水平として横長の画像を撮影する場合の位置(以下、正位置という)において、水平な方向であるX軸方向にブレ補正レンズ群VLを移動駆動するブレ補正駆動機構23Xと、正位置において垂直方向であるY軸方向にブレ補正レンズ群VLを移動駆動するブレ補正駆動機構23Yとを備えている。以下、特に必要のない場合以外は、ブレ補正駆動機構23として説明する。このブレ補正駆動機構23は、後述するブレ補正装置30を構成する。
【0021】
絞り駆動機構24は、絞り機構Dを駆動する機構であって、カメラ本体10のCPU11によって制御される。
角速度センサ25は、レンズ鏡筒20に生じるブレの角速度を検出し、ブレ補正制御情報としてカメラ本体10のCPU11に出力する。本実施形態では、角速度センサ25は、図2に示すように、X軸回りの角速度(ピッチ)を検出する角速度センサ25Pと、Y軸回りの角速度(ヨー)を検出する角速度センサ25Yの2組を備えている。以下、特に必要のない場合以外は、角速度センサ25として説明する。この角速度センサ25は、後述するブレ補正装置30を構成する。
【0022】
そして、カメラ1は、レンズ鏡筒20が被写体像光を撮像素子12の撮像面に結像させ、撮影者による操作部材19の押圧操作によって、撮像素子12が電気信号に変換した被写体の画像情報を記録媒体17に記録(撮影)する。これら撮影を含むカメラ1における全ての動作制御は、CPU11によって行われる。
【0023】
撮影時において、フォーカスレンズ群FLは、フォーカス駆動機構22によって撮像素子12の撮像面に結像させるようAF駆動される。このフォーカスレンズ群FLのAF駆動は、AFセンサ16の焦点検出情報に基づいてCPU11により制御される。このAF制御時に取得された被写体距離、撮影倍率、焦点距離情報等の制御情報は、後述するブレ補正制御時においてレンズ状態情報として用いられる。
【0024】
ここで、カメラ1は、図3に示すように、手ブレを補正するブレ補正装置30を備えている。
つぎに、このブレ補正装置30について、前述した図1〜図3に加えて図4〜図12を参照して説明する。
図4は、ブレ補正装置30のブレ補正制御部40における目標速度演算部50の回路ブロック図である。図5は、カメラブレと撮像面でのブレ量の関係を説明する図である。図6は、並進ブレを撮像面より後方側回転中心のブレと見なした説明図である。図7は、並進ブレを撮像面より前方側回転中心のブレと見なした説明図である。図8は、手持ちによるブレ波形の一例を示すグラフである。図9は、角度ブレと並進ブレのスペクトル分布を示した図である。図10は角度ブレと並進ブレとの相関関係を示す図である。図11は図8のグラフからそれぞれ2Hzのブレを抽出した波形を示すグラフである。図12は、本願構成のブレ補正制御と従来のブレ補正制御との撮像面における誤差量の比較を示すグラフである。
【0025】
なお、本実施形態におけるブレ補正装置30は、図2に示すように、角速度センサ25P,25Yによって、X軸回りであるピッチ方向とY軸回りであるヨー方向の角速度を検出してブレ補正制御を行うものである。従って、ピッチ方向とヨー方向の2系統のブレ補正制御系を備えるが、以下の説明では1つのブレ補正制御系(ブレ補正制御部40)として説明する。
【0026】
図3に示すように、ブレ補正装置30は、ブレ補正レンズ群VLと、ブレ補正駆動機構23と、角速度センサ25と、レンズ位置検出部26と、CPU11の機能部であるブレ補正制御部40と、により構成されている。
そして、ブレ補正装置30は、ブレ補正制御部40が、角速度センサ25によるレンズ鏡筒20に作用するブレの角速度検出情報等に基づいて、撮像素子12の受光面における被写体像のブレを相殺するように、ブレ補正駆動機構23によってブレ補正レンズ群VLを移動駆動する。
ここで、本実施形態におけるブレ補正装置30は、角速度センサ25によって検出されるレンズ鏡筒20に作用するブレの角速度検出情報に基づいて、角度ブレに加えて並進ブレについても補正する。
【0027】
まず、図5を参照して、角速度センサ25によるブレの角速度検出情報からの並進ブレ要素の抽出について説明する。
図5(a)は、角度ブレと撮像面でのブレ量の関係を示しており、撮像面を中心に、角度θのブレが発生したとすると、撮像面上のブレ量:Diは、
Di=β・R・θ
で表される。なお、β:撮像倍率(=b/D)、R:被写体距離である。
【0028】
図5(b)は、並進ブレと撮像面でのブレ量の関係を示しており、並進ブレ:lが発生したとすると、撮像面上のブレ量:Diは、
Di=β・l
で表される。なお、β:撮像倍率(b/D)、マクロの場合は略1/10以上。
上記より、角度ブレ:θと並進ブレ:lとが同時に生じた場合における撮像面でのブレ量:Diは、
Di=β・R・θ+β・l
【0029】
図5(c)は、並進ブレを回転中心のブレと見なして回転中心位置を求めるものであり、並進ブレ:lが発生したとすると、撮像面上のブレ量:Diは、
Di=β・(R−n)・θ
=β・R・θ−β・n・θ …式1
となり、図5(c)より、回転中心位置と並進ブレとの関係は、
nθ=l
と表すことができる。
【0030】
つまり、並進ブレを回転中心のブレと見なして撮像面でのブレ量は、前述の式1によって求められ、式1における第一項(β・R・θ)は角度ブレを、第2項(β・n・θ)は並進ブレを表す。
式1は撮像面上のブレ量を表すため、撮像面を基準として、回転中心位置が被写体側にあれば並進ブレは角度ブレを打消すようなブレであり、回転中心位置が撮影者側にあれば並進ブレは角度ブレを増幅させるようなブレであると言える。
【0031】
すなわち、図6(a)に示すように、回転中心位置RCが撮像面12Aより撮影者側にある場合には、図6(b)に示す角度ブレのブレ量と、図6(c)に示す並進ブレのブレ量とが加算されて、撮像面12A上でのブレ量は図6(d)に示すように大きくなる。
一方、図7(a)に示すように、回転中心位置RCが撮像面12Aより被写体側にある場合には、図7(b)に示す角度ブレのブレ量と、図7(c)に示す並進ブレのブレ量とが相殺されて、撮像面12A上でのブレ量は図7(d)に示すように小さくなる。
【0032】
実際に手持ち撮影時に生じるブレには、様々な周波数(〜10Hz程度)が混在しており、回転中心位置は、−∞〜+∞の間を不定期に変化している。図8は手持ちによるブレ波形の一例であり、(a)は角度ブレによる撮像面におけるブレ量、(b)は並進ブレによる撮像面におけるブレ量、(c)は角度ブレと並進ブレとが加算された撮像面におけるブレ量を示している。
【0033】
ここで、図8(a)〜(c)に示す波形のうち、特定の周波数帯に着目すると、角度ブレと並進ブレの間に相関があることが分かった。図9は角度ブレと並進ブレのスペクトル分布を示した図である。図9で示す角度ブレと並進プレのスペクトルより相関を求めたものが図10である。図10において、正の相関が強いほど、角度ブレと並進ブレとの位相が一致している。また、負の相関が強いほど、角度ブレと並進ブレとの位相は180°ずれている。図9で示すように、図10に示すように、2Hz近傍において、角度ブレと並進ブレとの位相が一致し、正の相関が強いことがわかる。
図11(a)〜(c)は、図8(a)〜(c)からそれぞれこの2Hzのブレを抽出した波形を示している。なお、このデータはピッチ方向のものである。
【0034】
このように、2Hzの成分で比較すると、並進ブレと角度ブレの位相は一致している。これは、回転中心位置が撮像面(撮像素子12)から見て、撮影者側に位置していることを示す。1.5〜4Hzの周波数帯に関しては、個人差、姿勢差は多少あるものの、概ね上記の関係にある。それ以外の周波数帯に関しては、バラツキが大きく、個人差、姿勢差も大きい。
このような関係を利用し、角速度センサ25からの角速度信号のみを用いて、特定の周波数帯(1.5〜4Hz)の並進ブレを補正することが可能となる。
【0035】
本実施形態におけるブレ補正装置30は、ブレ補正制御部40が、角速度センサ25の角速度信号から、並進ブレと角度ブレの位相が一致する2Hzの成分を抽出し、角度ブレと並進ブレとを補正する。
図3に示すように、ブレ補正制御部40は、目標速度演算部50と、目標位置変換部41と、追従制御演算部42と、を備えている。
【0036】
ブレ補正制御部40には、前述した角速度センサ25によるブレの角速度検出情報、およびレンズ状態情報が入力される。レンズ状態情報は、被写体距離、撮影倍率、焦点距離情報であり、これらは、AF制御の際に取得された情報を用いる。
そして、ブレ補正制御部40は、目標速度演算部50がブレ補正レンズ群VLを駆動する目標速度:Vcを演算し、目標位置変換部31が目標速度:Vcを積算してブレ補正レンズ群VLの目標位置を演算する。追従制御演算部42は、レンズ位置検出部26からのレンズ位置情報を参照してブレ補正駆動機構23を駆動し、ブレ補正レンズ群VLを目標位置変換部が算出した目標位置に移動制御する。
【0037】
つぎに、目標速度演算部50について、詳細に説明する。
図4に示すように、目標速度演算部50は、ハイパスフィルター部51と、並進ブレ抽出加算部60と、目標速度目標速度演算部52と、を備えている。
【0038】
ハイパスフィルター部51は、A/D変換後の角速度信号:ω0に対してローパスフィルター51AでLPF処理(fc=0.1Hz程度)を行ってω1を取得し、ω0からω1を減算することで、直流成分が除去された角速度信号:ω2を得る。なお、角速度信号:ω0からハイパスフィルターによって直流成分が除去された角速度信号:ω2を得ても良い。
【0039】
並進ブレ抽出加算部60は、バンドパスフィルター61と、利得調整部62と、から成る。
並進ブレ抽出加算部60は、バンドパスフィルター61で角速度信号:ω2から周波数成分(2Hz):ω3を分離抽出すると共に、その周波数成分:ω3を利得調整部62が増幅器62aによって所定の利得で増幅して並進ブレ要素周波数成分:ω4とし、この並進ブレ要素周波数成分:ω5を周波数成分:ω3が分離された角速度信号:ω4に加えて対象角速度信号:ωを得る。
【0040】
利得調整部62は、図4(b)に、撮影倍率の対する利得の一例を示すように、バンドパスフィルター61で分離抽出された周波数成分:ω3に対して、撮影倍率情報に基づいて決定した利得を掛ける。これは、並進ブレによる撮像面上の誤差は、撮影倍率βに比例するため、利得の大きさを撮影倍率により対応させて変更するものである。
【0041】
目標速度目標速度演算部52は、並進ブレ抽出加算部60で得られた角速度信号:ωと、被写体距離、撮影倍率、焦点距離情報に基づいて、ブレ補正レンズ群VLを駆動する際の目標速度:vcを演算する。
至近側撮影時における目標速度演算式は、
R:被写体距離[mm]
β:撮影倍率
K:レンズ固有値
として、
vc=K・β・R・ω
によって求める。
【0042】
そして、ブレ補正制御部40は、前述したように、目標速度演算部50が算出した目標速度:Vcに基づいて、目標位置変換部31がVcを積算してブレ補正レンズ群VLの目標位置を演算し、追従制御演算部42がレンズ位置検出部26からのレンズ位置情報を参照してブレ補正駆動機構23を駆動し、ブレ補正レンズ群VLを目標位置変換部31が算出した目標位置に移動制御する。
【0043】
上記のように構成されたブレ補正装置30では、ブレ補正制御部40が角速度センサ25からの角速度信号のみを用いて、角度ブレに加えて特定の周波数帯(2Hz)の並進ブレを補正することが可能となり、ブレ補正効果を向上できる。
図12は、上記本願構成のブレ補正制御部40によるブレ補正制御と、本実施形態を適用しないブレ補正制御とで、撮像面における誤差量の比較を示す。
このように、本願構成のブレ補正制御部40によるブレ補正制御では、従来のブレ補正制御に対して誤差量が抑制されて、ブレ補正効果が向上していることが解る。
【0044】
(第2実施形態)
つぎに、図13を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
本第2実施形態におけるブレ補正装置の構成は、前述した第1実施形態と全く同様であるため、説明は省略する。また、構成要素の符号も同符号を用いる。
本第2実施形態は、2つの検出軸(ピッチ方向,ヨー方向)で異なるブレ補正制御を行うものである。
【0045】
すなわち、ブレ補正制御部40は、前述した第1実施形態において図4(a)に示した目標速度演算部50をピッチ方向とヨー方向の2系統備えているが、そのピッチ方向とヨー方向とで、利得調整部62によって異なった利得を掛ける。
これは、図13(a)にピッチ方向、(b)にヨー方向の角度ブレと並進ブレの2Hz成分における相関関係を示すように、検出軸方向(ピッチ方向またはヨー方向)によって角度ブレと並進ブレの割合に異なる傾向があるためである。
【0046】
つまり、図13(a)に示すピッチ方向の角度ブレと並進ブレの大きさは略1:1であるが、図13(b)に示すヨー方向は、角度ブレに比べて並進ブレの振幅はやや小さいという傾向にあり、また、位相もタイミングによっては十数度ずれていることが分かる。
このため、図13(c)に示すように、2Hzの並進ブレに対して利得調整部62が掛ける利得の撮影倍率に対する変化率を、ピッチ方向とヨー方向とで異ならせ、ピッチ方向>ヨー方向となるように設定する。
これにより、より精度の高いブレ補正制御を行うことができる。
【0047】
(第3実施形態)
つぎに、図14に示す、本発明の第3実施形態について説明する。
図14(a)は本第3実施形態にかかるブレ補正装置における目標速度演算部50′の回路ブロック図、(b)は、加算処理回路50A,50Bにおける撮影倍率の対する利得を示す。なお、ブレ補正装置の基本構成は、第1実施形態と同様であり、構成要素の符号も同符号を用いる。
【0048】
図14(a)に示す目標速度演算部50′における並進ブレ抽出加算部60は、複数系統の加算処理回路(第1加算処理回路60Aおよび第2加算処理回路60B)を備えるものである。図14中、第1加算処理回路60Aに係る構成要素の符号には末尾にAを、第2加算処理回路60Bに係る構成要素の符号には末尾にはBを、それぞれ付して示す。また、第2加算処理回路60Bに係る信号には「′」(ダッシュ)を付して示す。
【0049】
そして、各加算処理回路50A,50Bにおいて、それぞれバンドパスフィルター61A,51Bで角速度信号:ω2から抽出分離する周波数成分ω3,ω3′を異なる周波数(たとえば2Hzと4Hz)に設定する。各加算処理回路50A,50Bにおける利得調整部62A,52Bが掛ける利得は、図14(b)に示すように、それぞれの抽出分離した周波数に対応した異なる利得とする。
【0050】
本第3実施形態におけるブレ補正装置によれば、複数の周波数帯域における並進ブレを補正することが可能となり、より広範囲の周波数における並進ブレを補正できる。
なお、並進ブレ抽出加算部60における加算処理回路は、本実施形態では2系統としたが、これに限らず3系統以上としても良い。
【0051】
以上、本実施形態によると、以下の効果を有する。
(1)本構成におけるブレ補正部30によれば、ブレ補正制御部40における目標速度演算部50が、角速度センサ25の角速度信号:ω0に対して、並進ブレと角度ブレの位相が一致する周波数成分を抽出して所定の利得を掛けて戻し、対象角速度信号:ωとすることで、角速度センサ25による角速度信号のみを用いて角度ブレに加えて特定の周波数帯域の並進ブレを補正することが可能となり、その結果、ブレ補正効果を向上できる。
【0052】
(変形形態)
以上、説明した実施形態に限定されることなく、以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
【0053】
(1)上記実施形態では、ブレ補正装置30のブレ補正制御部40は、角速度センサ25の角速度信号から、並進ブレと角度ブレの位相が同位相で一致する周波数成分を抽出し、所定の利得を掛けて対象角速度信号としたが、抽出する周波数成分は、並進ブレと角度ブレとが逆位相の関係であっても相関関係が認められる周波数であれば適用可能なものである。
【0054】
(2)上記実施形態は、ブレ補正部としてのブレ補正レンズ群VLをブレ補正駆動機構23によって移動させてブレ補正を行う構成に適用したものである。しかし、ブレ補正部はこれに限るものではなく、撮像素子を移動させてブレ補正する構成や、画像処理でブレ補正する構成に適用しても良い。
(3)上記実施形態では、電子スチルカメラであるカメラ1によって撮影した画像の像振れを補正処理する例を説明したが、必ずしもこの内容に限定する必要はない。本発明は、動画を扱うビデオカメラで撮影した画像のブレ補正にも適用できる。
【0055】
なお、実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本発明は以上説明した実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0056】
1:カメラ、10:カメラ本体、11:CPU、12:撮像素子、12A:撮像面、20:レンズ鏡筒、23:ブレ補正駆動機構、25:角速度センサ、25P:角速度センサ、25Y:角速度センサ、26:レンズ位置検出部、30:ブレ補正装置、40:ブレ補正制御部、41:目標位置変換部、42:追従制御演算部、50:目標速度演算部、51:ハイパスフィルター部、52:目標速度演算部、60:並進ブレ抽出加算部、60A:第1加算処理回路、60B:第2加算処理回路、61,61A,61B:バンドパスフィルター、62,62A,62B:利得調整部、VL:ブレ補正レンズ群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学機器に作用する角速度を検出する角速度検出部と、
前記角速度検出部による検出信号から所定の周波数成分を抽出して出力する信号抽出部と、
前記信号抽出部の出力信号を利得調整して出力する利得調整部と、
前記角速度検出部による検出信号と前記利得調整部の出力信号とに基づいてブレ補正量を演算する演算部と、を備えること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレ補正装置であって、
前記利得調整部は、前記光学機器の倍率に応じて利得を変化させること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブレ補正装置であって、
前記角速度検出部は、第1の方向における角速度を検出する第1の検出部と、前記第1の方向と交差する方向における角速度を検出する第2の検出部とを備え、
前記利得調整部は、第1の方向における前記信号抽出部の出力信号と、第2の方向における前記信号抽出部の出力信号とを、異なる利得で利得調整すること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレ補正装置であって、
前記信号抽出部は、前記角速度検出部による検出信号から複数の周波数成分をそれぞれ抽出して出力し、
前記利得調整部は、前記各周波数成分において異なる利得で利得調整すること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のブレ補正装置であって、
前記演算部の演算結果に基づいて、像ブレ補正を行うブレ補正部を備えること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のブレ補正装置であって、
前記信号抽出部が抽出する周波数成分は、角度ブレの位相と並進ブレの位相とが略対応する周波数帯域に設定されていること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項7】
請求項6に記載のブレ補正装置であって、
前記信号抽出部が抽出する周波数成分は、2Hzを含む周波数帯域に設定されていること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のブレ補正装置を備える光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−54316(P2013−54316A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194309(P2011−194309)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】