説明

プラズマ処理装置及びその誘電体窓構造

【課題】誘電体窓の内側に設けられた誘電体保護カバーが局部的に削られて消耗することを抑制することができ、誘電体保護カバーの長寿命化により生産性の向上を図ることのできるプラズマ処理装置及びその誘電体窓構造を提供する。
【解決手段】誘電体窓の外側に配設された高周波アンテナに高周波電力を印加して処理空間に誘導結合プラズマを発生させるプラズマ処理装置であって、誘電体窓は、処理空間と高周波アンテナとの間に介在するように配設され誘電体からなる窓部材と、窓部材を支持するための梁部材と、窓部材の処理空間側の面、及び、梁部材の処理空間側の面を覆いプラズマから保護する誘電体保護カバーと、少なくとも、梁部材と誘電体保護カバーとの間に設けられ、保護カバーの誘電率よりも低い誘電率を有する材料で形成された低誘電率誘電体層とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置及びその誘電体窓構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶表示装置(LCD)や半導体装置の製造分野等においては、LCDガラス基板や半導体ウエハ等の基板に、成膜処理やエッチング処理等の処理を行う装置として、誘導結合プラズマ(ICP)を用いるプラズマ処理装置が知られている。
【0003】
誘導結合プラズマを用いるプラズマ処理装置では、金属製の処理チャンバーの一部に誘電体窓を配設し、この誘電体窓の外側に設けた高周波アンテナに高周波電力(RF)を印加して、処理チャンバー内に誘導結合プラズマを発生させる。この誘電体窓を構成する窓部材(誘電体)は石英によって構成されることが多い。
【0004】
誘導結合プラズマを用いるプラズマ処理装置において、プラズマ処理を行う基板の大型化に伴い、誘電体窓部分に例えば十字状の梁を配設し、この梁によって4枚の分割した窓部材を支持する構成とする場合がある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−132618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、誘電体窓部材として石英を用いた場合、石英はプラズマによって消耗するため、石英製の窓部材の内側に、プラズマ耐性のあるアルミナ等からなる誘電体保護カバーを設けて誘電体窓を保護する場合がある。
【0007】
しかしながら、アルミナは誘電率が大きい。このため、誘電体窓部材を支持する梁が直接誘電体保護カバーで覆われている箇所においては、梁とプラズマが容量結合することによってこの部分に隣接する処理空間に新たなプラズマが生成し、梁の直下の部分の誘電体保護カバーがこのプラズマによって削られて消耗し易い。このため、誘電体保護カバーの交換頻度が高くなり、生産性の低下を招くという問題がある。
【0008】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、誘電体窓の内側に設けられた誘電体保護カバーが局部的に削られて消耗することを抑制することができ、誘電体保護カバーの長寿命化により生産性の向上を図ることのできるプラズマ処理装置及びその誘電体窓構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のプラズマ処理装置の一態様は、内部に基板を処理する処理空間を画成する処理チャンバーと、前記処理チャンバーに配設され前記処理空間と外部とを仕切る誘電体窓と、前記誘電体窓の外側に配設され、高周波電力の印加により前記誘電体窓を介して前記処理空間に誘導結合プラズマを発生させる高周波アンテナと、を具備したプラズマ処理装置であって、前記誘電体窓は、前記処理空間と前記高周波アンテナとの間に介在するように配設され、誘電体からなる窓部材と、前記窓部材を支持するための梁部材と、前記窓部材の前記処理空間側の面、及び、前記梁部材の前記処理空間側の面を覆いプラズマから保護する誘電体保護カバーと、少なくとも、前記梁部材と前記誘電体保護カバーとの間に設けられ、前記保護カバーの誘電率よりも低い誘電率を有する材料で形成された低誘電率誘電体層とを具備したことを特徴とする。
【0010】
本発明のプラズマ処理装置の誘電体窓構造の一態様は、処理空間の外部に配設された高周波アンテナに高周波電力を供給し、前記処理空間に誘導結合プラズマを発生させて基板の処理を行うプラズマ処理装置の処理チャンバーに、前記処理空間と前記高周波アンテナとの間を仕切るように配設されるプラズマ処理装置の誘電体窓構造であって、前記処理空間と前記高周波アンテナとの間に介在するように配設され、誘電体からなる窓部材と、前記窓部材を支持するための梁部材と、前記窓部材の前記処理空間側の面、及び、前記梁部材の前記処理空間側の面を覆いプラズマから保護する誘電体保護カバーと、少なくとも、前記梁部材と前記誘電体保護カバーとの間に設けられ、前記保護カバーの誘電率よりも低い誘電率を有する材料で形成された低誘電率誘電体層とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、誘電体窓の内側に設けられた誘電体保護カバーが局部的に削られて消耗することを抑制することができ、誘電体保護カバーの長寿命化により生産性の向上を図ることのできるプラズマ処理装置及びその誘電体窓構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態のプラズマ処理装置の概略構成を示す縦断面図。
【図2】図1のプラズマ処理装置の要部構成を示す図。
【図3】図1のプラズマ処理装置の要部構成を示す図。
【図4】図1のプラズマ処理装置の要部構成を示す図。
【図5】図1のプラズマ処理装置の要部構成を示す図。
【図6】図1のプラズマ処理装置の要部構成を示す図。
【図7】図1のプラズマ処理装置の要部構成を示す図。
【図8】図1のプラズマ処理装置の要部構成を示す図。
【図9】実施例によるエッチング量の測定結果を示す図。
【図10】比較例によるエッチング量の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の詳細を、図面を参照して実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置としてのプラズマエッチング装置の概略構成を模式的に示す縦断面図である。このプラズマエッチング装置は、例えば、LCDの製造において、LCDガラス基板上にTFT(Thin Film Transistor)を形成する工程で、ポリシリコン膜或いはアモルファスシリコン膜をパターニングするために使用される。
【0015】
このプラズマエッチング装置は、導電性材料、例えば表面を陽極酸化処理されたアルミニウム等からなる矩形容器状の処理チャンバー1を具備している。処理チャンバー1は、接地線1aによって接地されている。処理チャンバー1内は、誘電体窓構造2により、上側のアンテナ室4と下側の処理室(処理空間)5とに気密に区画されている。図3に示すように、誘電体窓構造2の位置に対応して、処理チャンバー1の内面には2つの水平な棚面7a、7bを規定する支持棚7が配設されている。
【0016】
図2(a)は、図1に示すプラズマエッチング装置の誘電体窓構造2を、その下側に設けられた後述する誘電体保護カバー12及び低誘電率誘電体層35を除いて示す底面図であり、図3及び図4は、図2(a)中のIII−III線及びIV−IV線に沿った誘電体窓構造2の断面図である。
【0017】
図2(a)に示すように、誘電体窓構造2は、同一寸法の4つの石英等の誘電体からなる分割窓部材3aを組み合わせてなる誘電体窓部材3を具備している。図3に示すように、誘電体窓部材3の周縁部は、支持棚7の下側の棚面7a上に載置されている。誘電体窓部材3の厚さは、例えば約30mm程度である。
【0018】
図2(a)に示すように、分割窓部材3aが互いに隣接する位置に対応して、処理チャンバー1の中央には線対称の十字形状とされた梁部材16が配設されている。梁部材16は、誘電体窓部材3の周縁部から離れた位置において、後述する複数のサスペンダ8a、8bによって処理チャンバー1の天井に吊るされ、水平状態を維持するように設定されている。図3に示すように、梁部材16はサスペンダ8a、8bと接続するための円形凸部16bを除いて水平な支持面16aを規定し、分割窓部材3aの互いに対向する縁部は、該支持面16a上に載置されている。
【0019】
分割窓部材3aの周縁部には、支持棚7及び梁部材16と相補形状の下向きの段部が形成されている。支持棚7及び梁部材16は、これ等の段部により規定される誘電体窓部材3の下面の凹部内に嵌め込まれ、支持棚7、梁部材16及び誘電体窓部材3の下面が略同一水平面上位置した状態となっている。支持棚7と梁部材16は、図2(b)のように一体化した構造体としてもよく、該一体化構造のみで誘電体窓構造2を十分支持することができれば前記のサスペンダ8a,8bは必ずしも必要ではないが、誘電体窓構造2が大型化するなどにより一体化構造のみでは十分支持できない場合には前記のサスペンダ8a,8bを併用した構造とすることが望ましい。
【0020】
支持棚7、梁部材16及び誘電体窓部材3の下面は、更に、平滑な下面を有する誘電体保護カバー12により被覆されている。この誘電体保護カバー12は、プラズマ耐性を有するセラミック(本実施形態ではアルミナ)から構成されている。また、支持棚7、梁部材16及び誘電体窓部材3の下面と、誘電体保護カバー12との間には、誘電体保護カバー12より誘電率の低い材料(本実施形態では、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン:商品名テフロン(登録商標)))で形成された低誘電率誘電体層35が配設されている。
【0021】
本実施形態では、この低誘電率誘電体層35は梁部材16及び誘電体窓部材3の下面全体を覆うように配設されている。しかし、低誘電率誘電体層35は、少なくとも梁部材16の部分のみに配設されていればよく、例えば、梁部材16の形状、大きさに合わせて梁部材16と同様に十字状の領域に設けてもよい。また、低誘電率誘電体層35は、誘電体保護カバー12より誘電率の低い材料であればPTFE以外の材料を用いてもよく、例えば、石英、多孔質セラミックス等を用いてもよい。
【0022】
誘電体保護カバー12は、その凹部内に埋め込まれた複数のビス12aによって梁部材16及び支持棚7に固定されている。ビス12aは、誘電体保護カバー12の凹部内に埋め込まれたアルミナ等からなる誘電体キャップ12bによって被覆されている。また、低誘電率誘電体層35は、誘電体保護カバー12と梁部材16との間に狭持されるように支持されている。
【0023】
一方、誘電体窓部材3の上側には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン:商品名テフロン(登録商標))等からなる樹脂板17が配設されている。樹脂板17は、1枚の板からなり、誘電体窓部材3、支持棚7の上側棚面7b及び梁部材16の円形凸部16bの上に載置されている。樹脂板17の周縁部に沿って押え枠18が配設されている。この押え枠18と支持棚7によって樹脂板17の周縁部を挟み込み、ビス18aによって樹脂板17及び押え枠18が支持棚7に固定されている。
【0024】
また、サスペンダ8a、8bと接続するための梁部材16の円形凸部16bに対応して、樹脂板17には開口が形成されている。サスペンダ8a、8bの下端部には、フランジ10が配設されている。このフランジ10によって、樹脂板17の開口の周囲部分を挟み込むようにし、フランジ10及び樹脂板17がビス10aにより梁部材16の凸部16bに固定されている。樹脂板17と支持棚7の上側棚面7bとの間、及び樹脂板17と梁部材16の円形凸部16bとの間には、弾性材料からなるシールリング17aが配設され、これにより、アンテナ室4と処理室5とを気密に区画するための、誘電体窓構造2の気密性が確保されている。
【0025】
図5は、図1に示すプラズマ処理装置の誘電体窓構造2とサスペンダ8a、8bとの関係を示す斜視図である。サスペンダ8a、8bは、梁部材16の中央に接続された1本の管状のサスペンダ8aと、支持梁16の十字形状の端部に接続された4本の中実ロッド状のサスペンダ8bとからなる。各サスペンダ8a、8bは処理チャンバー1の天井から誘電体窓構造2へ垂直に延在し、その下端部には、前述のフランジ10が配設され、上端部には、同様なフランジ9が配設されている。
【0026】
図1に示すように、全サスペンダ8a、8bの上側のフランジ9は、ビス9aによって連結板11に固定されている。連結板11は、処理チャンバーの1の天井を貫通する複数のボルト11aによって該天井に固定されている。なお、サスペンダ8a、8b及びこれ等を取付けるための部材9、10、11やビス9a、10a及びボルト11aは、プラズマに接触しない部分であるため、全て機械的強度の高いステンレス鋼から形成されている。また、梁部材16は接地線1bにより処理チャンバー1に接続されている。従って、梁部材16は、接地線1b、処理チャンバー1、接地線1aを介して接地されている。
【0027】
サスペンダ8a、8bを周回するようにコイル状の抵抗加熱ヒータ6が配設され、電源6aに接続されている。ヒータ6によりサスペンダ8a、8b、梁部材16を介して誘電体窓部材3を含む誘電体窓構造2が加熱され、これにより、処理室5に露出する誘電体窓構造2の下面を構成する誘電体保護カバー12の下面に副生成物が付着することが抑制される。
【0028】
梁部材16は、導電性材料、例えばアルミニウム製の筐体から加工された中空の部材からなり、シャワーヘッドを構成するためのシャワー筐体として兼用されている。梁部材16を構成する筐体の内外表面は、壁面から汚染物が発生しないように、陽極酸化処理されている。図3及び図4に示すように、梁部材16には、ガス流路19が内部に形成されると共に、ガス流路19に連通し且つ後述する載置台22に対向して開口する複数のガス供給孔19aが下面に形成されている。
【0029】
ガス供給孔19aの配設位置は、図2に示すように、十字状の梁部材16の中央部、及び、中央部から外周方向に向かって延在する4本の各直線部に、長手方向に間隔を設けて夫々2箇所ずつ設定されており、各配設位置には、夫々複数のガス供給孔19aが設けられている。
【0030】
図3、図4に示すように、誘電体保護カバー12には、ガス供給孔19aに対応して、貫通孔12cが形成され、低誘電率誘電体層35には、ガス供給孔19aに対応して、貫通孔35aが形成されている。図8に示すように、低誘電率誘電体層35に設けられた貫通孔35aは、上記した各ガス供給孔19aの配置位置毎に、他の部分の低誘電率誘電体層35と独立して設けられ、他の部分と同様な低誘電率誘電体からなる貫通孔形成部35bに設けられている。低誘電率誘電体層35には、貫通孔形成部35bを設けるための開口部35cが設けられており、貫通孔形成部35bは、この開口部35c内に、低誘電率誘電体層35と間隔を設けて配設され、例えば、四隅においてビス36によって、梁部材16に固定されている。これによって、低誘電率誘電体層35が熱膨張を起こした際に、貫通孔35aの位置がガス供給孔19aとずれないようになっている。本実施形態においては4本のビスにより貫通孔形成部35bを固定しているが、貫通孔形成部35bを梁部材16に固定することができればビスの本数は4本に限定されない。
【0031】
図1に示すように、梁部材16の中央に接続された管状のサスペンダ8a内には、支持梁16内のガス流路19に連通するガス供給管20aが配設されている。ガス供給管20aは、連結板11及び処理チャンバーの1の天井を貫通し、処理チャンバー1外に配設された処理ガス供給源20に接続されている。プラズマ処理中は、処理ガスが、処理ガス供給源20からガス供給管20aを介して、梁部材16内に供給され、更に、その下面のガス供給孔19a、貫通孔35a、貫通孔12cを通って処理室5内に放出される。
【0032】
アンテナ室4内には、誘電体窓部材3に面するように、誘電体窓構造2上に配設された高周波(RF)アンテナ13が配設されている。図6に示すように、高周波アンテナ13は、誘電体窓構造2上の部分が正方形若しくは矩形の角形渦巻き状をなす平面型のコイルアンテナからなる。高周波アンテナ13は、渦巻きの中心端部が処理チャンバー1の天井の略中央から導出され、図1に示す整合器14を介して高周波電源15に接続されている。一方、渦巻きの外側端部は処理チャンバー1に接続され、接地されている。
【0033】
プラズマ処理中、高周波電源15からは、プラズマ生成用の所定周波数の高周波電力、例えば周波数が13.56MHzの高周波電力が高周波アンテナ13へ供給される。高周波アンテナ13により、処理室5内に誘導電磁界が形成され、この誘導電磁界により、梁部材16から供給された処理ガスがプラズマ化される。
【0034】
誘電体窓部材3を挟んで高周波アンテナ13と対向するように、処理室5内にはLCDガラス基板LSを載置するための載置台(サセプタ)22が配設されている。サセプタ22は、導電性材料、例えばアルミニウム製の部材からなり、その表面は、汚染物が発生しないように、陽極酸化処理されている。サセプタ22の周囲には基板LSを固定するためのクランプ23が配設されている。基板LSがサセプタ22上の所定位置に配置された時、梁部材16の十字形状の中心は、基板LSの中心と一致するようになっている。なお、ガラス基板LSを載置台に固定する手段としては、前述のクランプに限定されず、例えば、クーロン力若しくはジョンソンラーベック力により静電吸着する静電チャックを用いてもよい。
【0035】
サセプタ22は、絶縁体枠24内に収納され、更に、中空の支柱25上に支持されている。支柱25は処理チャンバー1の底部を気密に貫通し、処理チャンバー1外に配設された昇降機構(図示せず)に支持されている。サセプタ22は、基板LSのロード/アンロード時に、この昇降機構により上下方向に駆動される。
【0036】
サセプタ22を収納する絶縁体枠24と処理チャンバー1の底部との間には、支柱25を気密に包囲するベローズ26が配設され、これにより、処理室5内の気密性が確保されている。また、処理室5の側部には、基板LSをロード/アンロードする際に使用されるゲートバルブ27が配設されている。
【0037】
サセプタ22は、中空の支柱25内に配置された給電棒により、整合器28を介して高周波電源29に接続されている。プラズマ処理中、高周波電源29からは、バイアス用の高周波電力、例えば3.2MHzの高周波電力がサセプタ22に印加される。このバイアス用の高周波電力は、処理室5内で励起されたプラズマ中のイオンを効果的に基板LSに引込むために使用される。
【0038】
更に、サセプタ22内には、基板LSの温度を制御するため、セラミックヒータ等の加熱手段や冷媒流路等からなる温度制御機構と、温度センサとが配設されている(いずれも図示せず)。これ等の機構や部材に対する配管や配線は、いずれも中空の支柱25を通して処理チャンバー1外に導出されている。
【0039】
処理室5の底部には、排気管30aを介して、真空ポンプなどを含む真空排気機構30が接続されている。この真空排気機構30により、処理室5内が排気されると共に、プラズマ処理中、処理室5内が真空雰囲気、例えば1.33Pa(10mTorr)の圧力雰囲気に設定及び維持される。
【0040】
次に、上記構成のプラズマエッチング装置を用いて、LCDガラス基板LSに対してプラズマエッチング処理を施す場合について説明する。
【0041】
まず、ゲートバルブ27を通して搬送機構により基板LSをサセプタ22の載置面に載置した後、クランプ23により基板LSをサセプタ22に固定する。次に、処理室5内に処理ガス供給源20からエッチングガス(例えばSFガス)を含む処理ガス吐出させると共に、排気管30aを介して処理室5内を真空引きすることにより、処理室5内を例えば1.33Pa(10mTorr)の圧力雰囲気に維持する。
【0042】
次に、高周波電源15から13.56MHzの高周波電力を高周波アンテナ13に印加することにより、誘電体窓構造2を介して処理室5内に均一な誘導電磁界を形成する。かかる誘導電磁界により、処理室5内で処理ガスがプラズマ化され、高密度の誘導結合プラズマが生成される。このようにして生成されたプラズマ中のイオンは、高周波電源29からサセプタ22に対して印加される3.2MHzの高周波電力によって、基板LSに効果的に引込まれ、基板LSに対して均一なエッチング処理が施される。
【0043】
このようなエッチング処理の際、本実施形態のプラズマエッチング装置では、梁部材16とアルミナ製の誘電体保護カバー12との間に低誘電率誘電体層35が介在した構造となっているので、梁部材16と処理室5内のプラズマの間の電位差が低誘電率誘電体層35にも分散され、プラズマと誘電体保護カバー12の表面との電位差が低減する。これによって、梁部材16の下方の空間に新たなプラズマが発生する可能性を低減することができ、梁部材16の部分の誘電体保護カバー12が局所的に多く消耗することを抑制することができる。
【0044】
図7は、本実施形態における誘電体窓構造2の部分の構成を拡大して模式的に示すものである。図7に示すように、梁部材16の下部に配設された誘電体保護カバー12(アルミナ製)の厚みをD、誘電率をεとし、低誘電率誘電体層35(テフロン(登録商標)製)の厚みをD、誘電率をεとすると、単位面積Sあたりの誘電体保護カバー12のインピーダンスZと低誘電率誘電体層35のインピーダンスZとの合成インピーダンスZ+Zは、以下の式で求められる。
+Z=(1/jωS)×{(D/ε)+(D/ε)}
ここで、アルミナの誘電率εは、約10であり、テフロン(登録商標)の誘電率εは約2であるので、これらの厚みが等しく、D=Dとすると、
+Z=(1/jωS)×(D/ε)×6
となり、低誘電率誘電体層35を設けない場合の約6倍のインピーダンスとすることができる。なお、低誘電率誘電体層35を設けずに、単に誘電体保護カバー12(アルミナ製)の厚みをDを2倍とした場合は、インピーダンスは2倍となる。また、誘電率が約4の石英製の低誘電率誘電体層35とした場合は、インピーダンスは約3.5倍となる。
【0045】
図9及び図10は、上記の実施形態における低誘電率誘電体層35の効果を調査した結果を示すものである。この調査では、シリコンウエハを誘電体保護カバー12に貼り付けて、以下の条件で10分間プラズマを発生させ、シリコンウエハが削られた量(エッチング量)を各位置にて計測した結果を各位置に数値で示しており、図9は低誘電率誘電体層35が有る場合、図10は低誘電率誘電体層35が無い場合を示している。
【0046】
(エッチング条件)
圧力:0.93Pa(7mTorr)
高周波電力(メイン/バイアス):3kW/3kW
ガス種及びガス流量:Cl=500sccm
【0047】
図10に示すように、低誘電率誘電体層35が無い場合、梁部材16の部分のシリコンウエハが、300nm〜800nm削られていた。この場合、シリコンウエハの削られた量の全体の平均値は254nmであり、梁部材16の部分の平均値は254.0nmであった。
【0048】
これに対して、図9に示すように、低誘電率誘電体層35を設けた上記実施形態では、梁部材16の部分のシリコンウエハの削られた量を、最大で18.4nmに減少させることができ、シリコンウエハの削られた量の全体の平均値は7.9nmであり、梁部材16の部分の平均値は6.3nmであった。
【0049】
この結果から、低誘電率誘電体層35を設けた上記実施形態では、梁部材16の部分に新たなプラズマが発生することを抑制することができ、これによって、梁部材16の部分の誘電体保護カバー12が局部的に削られて消耗することを抑制することができることが分かった。したがって、上記実施形態では、誘電体保護カバー12の長寿命化により生産性の向上を図ることができる。
【0050】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、各種の変形が可能であることは、勿論である。例えば、上記実施形態は、梁部材16の部分のみから処理室5内に処理ガスを供給するように構成されているが、梁部材16の部分のみではなく、梁部材16以外の部分からも処理室5内に処理ガスを供給するように構成することができる。この場合、誘電体窓部材3の所望位置に開口部を設け、この開口部に前述した管状のサスペンダ8aと同様に構成されたガスの供給構造を設ければよい。
【0051】
また、上記実施形態では、サスペンダ8a、8bは、処理チャンバー1の天井即ちアンテナ室4の天井に支持された構成となっているが、例えば、処理室5の上方に上方枠(overhead frame)を配設し、ここに、サスペンダ8a、8bを取付けるようにしてもよい。このような構成は、例えば、高周波アンテナ13を包囲するアンテナ室4を設けない場合に用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1……処理チャンバー、2……誘電体窓構造、3……誘電体窓部材、3a……分割窓部材、4……アンテナ室、5……処理室(処理空間)、12……誘電体保護カバー、13……高周波アンテナ、16……梁部材、35……低誘電率誘電体層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に基板を処理する処理空間を画成する処理チャンバーと、
前記処理チャンバーに配設され前記処理空間と外部とを仕切る誘電体窓と、
前記誘電体窓の外側に配設され、高周波電力の印加により前記誘電体窓を介して前記処理空間に誘導結合プラズマを発生させる高周波アンテナと、
を具備したプラズマ処理装置であって、
前記誘電体窓は、
前記処理空間と前記高周波アンテナとの間に介在するように配設され、誘電体からなる窓部材と、
前記窓部材を支持するための梁部材と、
前記窓部材の前記処理空間側の面、及び、前記梁部材の前記処理空間側の面を覆いプラズマから保護する誘電体保護カバーと、
少なくとも、前記梁部材と前記誘電体保護カバーとの間に設けられ、前記保護カバーの誘電率よりも低い誘電率を有する材料で形成された低誘電率誘電体層と
を具備したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ処理装置であって、
前記誘電体保護カバーがアルミナまたは石英から構成され、前記低誘電率誘電体層がポリテトラフルオロエチレンから構成されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のプラズマ処理装置であって、
前記梁部材は、前記処理空間側の面に開口する1又は複数のガス孔を有し、
前記低誘電率誘電体層は、前記ガス孔に対応した貫通孔を有する
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項3記載のプラズマ処理装置であって、
前記低誘電率誘電体層は、前記貫通孔を有する貫通孔形成部と、他の部分とが分離され、前記貫通孔形成部は前記ガス孔を有する前記梁部材の部分に固定されている
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のプラズマ処理装置であって、
前記窓部材と前記誘電体保護カバーとの間に、前記低誘電率誘電体層が設けられている
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載のプラズマ処理装置であって、
前記窓部材は、複数に分割された分割窓部材からなり、各分割窓部材は、前記梁部材の部分で隣接するよう配設されている
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
処理空間の外部に配設された高周波アンテナに高周波電力を供給し、前記処理空間に誘導結合プラズマを発生させて基板の処理を行うプラズマ処理装置の処理チャンバーに、前記処理空間と前記高周波アンテナとの間を仕切るように配設されるプラズマ処理装置の誘電体窓構造であって、
前記処理空間と前記高周波アンテナとの間に介在するように配設され、誘電体からなる窓部材と、
前記窓部材を支持するための梁部材と、
前記窓部材の前記処理空間側の面、及び、前記梁部材の前記処理空間側の面を覆いプラズマから保護する誘電体保護カバーと、
少なくとも、前記梁部材と前記誘電体保護カバーとの間に設けられ、前記保護カバーの誘電率よりも低い誘電率を有する材料で形成された低誘電率誘電体層と
を具備したことを特徴とするプラズマ処理装置の誘電体窓構造。
【請求項8】
請求項7記載のプラズマ処理装置の誘電体窓構造であって、
前記誘電体保護カバーがアルミナまたは石英から構成され、前記低誘電率誘電体層がポリテトラフルオロエチレンから構成されていることを特徴とするプラズマ処理装置の誘電体窓構造。
【請求項9】
請求項7又は8記載のプラズマ処理装置の誘電体窓構造であって、
前記梁部材は、前記処理空間側の面に開口する1又は複数のガス孔を有し、
前記低誘電率誘電体層は、前記ガス孔に対応した貫通孔を有する
ことを特徴とするプラズマ処理装置の誘電体窓構造。
【請求項10】
請求項9記載のプラズマ処理装置の誘電体窓構造であって、
前記低誘電率誘電体層は、前記貫通孔を有する貫通孔形成部と、他の部分とが分離され、前記貫通孔形成部は前記ガス孔を有する前記梁部材の部分に固定されている
ことを特徴とするプラズマ処理装置の誘電体窓構造。
【請求項11】
請求項7〜10いずれか1項記載のプラズマ処理装置の誘電体窓構造であって、
前記窓部材と前記誘電体保護カバーとの間に、前記低誘電率誘電体層が設けられている
ことを特徴とするプラズマ処理装置の誘電体窓構造。
【請求項12】
請求項7〜11いずれか1項記載のプラズマ処理装置の誘電体窓構造であって、
前記窓部材は、複数に分割された分割窓部材からなり、各分割窓部材は、前記梁部材の部分で隣接するよう配設されている
ことを特徴とするプラズマ処理装置の誘電体窓構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−258622(P2011−258622A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129653(P2010−129653)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】