プラズマ処理装置
【課題】 内部アンテナ型のプラズマ処理装置において、真空容器の小容積化、高周波電力の効率的な利用および供給ガスの効率的な利用を可能にする。
【解決手段】 このプラズマ処理装置は、真空容器4の壁面に設けられた1以上のアンテナ用開口22と、その真空容器外側の面を塞いでいる蓋24と、各アンテナ用開口22内に設けられたアンテナ導体26と、各アンテナ用開口22内においてアンテナ導体26を覆っている誘電体カップ30とを備えている。各誘電体カップ30は、その底面に複数の小孔を有している。各誘電体カップ30内には、ガス導入部36から導入されたガス34を前記各小孔に導くガス流路を有している誘電体製の充填物38が充填されている。
【解決手段】 このプラズマ処理装置は、真空容器4の壁面に設けられた1以上のアンテナ用開口22と、その真空容器外側の面を塞いでいる蓋24と、各アンテナ用開口22内に設けられたアンテナ導体26と、各アンテナ用開口22内においてアンテナ導体26を覆っている誘電体カップ30とを備えている。各誘電体カップ30は、その底面に複数の小孔を有している。各誘電体カップ30内には、ガス導入部36から導入されたガス34を前記各小孔に導くガス流路を有している誘電体製の充填物38が充填されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマを用いて基板に、例えばCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等の処理を施すプラズマ処理装置に関し、より具体的には、真空容器内に設けられたアンテナ導体に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってガスを電離させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置に関する
【背景技術】
【0002】
内部アンテナ型とは、高周波放電のためのアンテナ導体が、電流導入端子(フィードスルー)を介する等して、真空容器内に配置された構造のアンテナをいう。
【0003】
従来の誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置を構成する一つのアンテナ周りの一例を図1に示す。これと同様の構造は、例えば、特許文献1、2および非特許文献1に記載されている。
【0004】
この従来のプラズマ処理装置では、コ字状またはU字状のアンテナ導体66を誘電体68で覆った構造の1以上のアンテナ70を、真空容器64内に突き出すように取り付けている。
【0005】
真空容器64内に設けられている被処理用の基板2の寸法に応じて、複数のアンテナ70が設けられる。複数のアンテナ70は、例えば、図1に示す例のように基板2の処理面に対向する真空容器64の天井面に配置する場合(例えば特許文献1参照)と、真空容器64の側面に基板2を取り囲むように配置する場合(例えば特許文献2参照)と、両者を併用する場合(例えば非特許文献1参照)とがある。
【0006】
プラズマ76の生成に必要なガスを真空容器64内へ導入するガス導入部は、真空容器64の天井面または側面の適当な箇所に設けられている。
【0007】
真空容器64内に上記ガスを導入すると共に、アンテナ70(具体的にはそのアンテナ導体66)に高周波電流を流すことによって、アンテナ70の周辺に高周波磁界が発生し、それによって誘導電界が発生する。この誘導電界によって電子が加速されて上記ガスを電離させて、アンテナ70の周辺にプラズマ76が生成される。このプラズマ76によって基板2に、CVD法による膜形成、エッチング、アッシング等の所望の処理を施すことができる。
【0008】
上記内部アンテナ型とは別のものとして、高周波放電のためのアンテナ導体を、真空を保持する誘電体窓を介在させて真空容器外に配置した構造の外部アンテナ型がある(例えば特許文献3参照)。
【0009】
上記従来技術や本発明で採用している内部アンテナ型は、外部アンテナ型と比べると、アンテナ導体を覆っている誘電体(誘電体68または後述する誘電体カップ30)は、圧力(大気圧)に耐える必要がないことから、当該誘電体の厚さを小さくすることができるので、プラズマにその近くから効率良く高周波電力を供給することができ、プラズマへの電力吸収効率が高いという利点がある(例えば、特許文献1の段落0005、非特許文献1の194頁右欄参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−220600号公報(図2、図8)
【特許文献2】特開2004−39719号公報(図1、図3)
【特許文献3】特開2005−285564号公報(図1)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】節原裕一著,「マルチ低インダクタンス内部アンテナを用いた次世代メートル級大面積プロセスに向けたプラズマ生成制御技術」, J. Plasma Fusion Res. Vol. 84, No. 4(2008), p. 193-198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記従来のプラズマ処理装置には次の課題がある。
【0013】
(a)アンテナ70と基板2との間には、離散的に配置した複数のアンテナ70で生成されるプラズマ76を基板2上で均一化させる等のために、ある程度の距離L1 を確保しなければならないが、それに加えて、アンテナ70が真空容器64内に突き出している距離L2 (これは例えば100mm程度)を確保する必要があるので、この距離L2 に相当する分、真空容器64の容積を大きくしなければならない。それに伴って、真空容器64用の真空排気装置の排気容量も大きくしなければならない。
【0014】
(b)アンテナ70の周辺にプラズマ76が発生するけれども、詳しく見れば、コ字状またはU字状のアンテナ70の内側72に強い誘導電界が発生するので、その辺りを中心にプラズマ76が発生する。これは、基板2から見て遠い位置にプラズマ76を発生させることになる。このプラズマ76が基板2まで拡散することを利用して基板2を処理するのであるが、プラズマ密度はおおよそ距離の2乗に逆比例するので、プラズマ76の発生位置が上記のように遠いと、基板2の処理にプラズマ76を効率良く利用することができなくなる。これは結局は、プラズマ生成のエネルギー源である高周波電力を効率良く利用することができないことである。
【0015】
(c)従来技術では、真空容器64の天井面または側面の適当な箇所に設けられたガス導入部から真空容器64内にガスを導入して、真空容器64内全体をほぼ一様なガス圧にしてプラズマ76を発生させているので、プラズマ生成に必要のない所にまでガスを同じように供給しており、従って供給ガスを効率良く利用することができていない。
【0016】
そこでこの発明は、内部アンテナ型のプラズマ処理装置において、真空容器の小容積化、高周波電力の効率的な利用および供給ガスの効率的な利用を可能にすることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係るプラズマ処理装置は、真空容器内に設けられたアンテナ導体に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってガスを電離させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置であって、前記真空容器内に設けられていて前記基板を保持するホルダと、前記真空容器の壁面に設けられた1以上のアンテナ用開口と、前記各アンテナ用開口の真空容器外側の面を塞いでいる蓋と、前記各アンテナ用開口内にそれぞれ設けられた前記アンテナ導体と、前記ホルダ側に位置する底面、当該底面につながる側面および当該底面に設けられた複数の小孔を有するものであって、前記各アンテナ用開口内に、前記各アンテナ導体を覆うように、かつ前記側面が前記アンテナ用開口の壁面に近接するようにそれぞれ設けられた誘電体カップと、前記各誘電体カップ内に前記ガスをそれぞれ導入するガス導入部と、前記各誘電体カップ内にそれぞれ充填されており、かつ前記ガス導入部から導入された前記ガスを前記誘電体カップの底面の各小孔に導くガス流路を有している誘電体製の充填物と、前記各アンテナ導体に高周波電力を供給して当該各アンテナ導体に前記高周波電流を流す高周波電源とを備えていることを特徴としている。
【0018】
このプラズマ処理装置においては、各誘電体カップ内に導入されたガスは、当該誘電体カップ内の充填物のガス流路を通って当該誘電体カップの各小孔に導かれ、この各小孔を通って各誘電体カップの底面の外側付近に供給される。
【0019】
また、各アンテナ導体に高周波電流を流すことによって各アンテナ導体の周辺に高周波磁界が発生するけれども、各誘電体カップ内には充填物を充填しており、かつ各誘電体カップの側面をアンテナ用開口の壁面に近接させていて、各誘電体カップの内側およびその側面の外側空間では電子は十分に走行できないのでプラズマの発生が防止され、各誘電体カップの底面の外側付近でのみプラズマが発生し、そこがプラズマ生成領域となる。
【0020】
このようにして、各誘電体カップの底面の外側付近のプラズマ生成領域でのみプラズマを発生させることができ、かつ当該プラズマ生成領域にそのすぐ近くからガスを供給して、当該プラズマ生成領域のガス圧を局所的に高くすることができる。
【0021】
前記誘電体カップの側面と、当該誘電体カップが収納されている前記アンテナ用開口の壁面との間の距離は、0mm〜5mmにするのが好ましい。
【0022】
前記充填物は、例えば、多数の誘電体粒または多数の誘電体短管である。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば次の効果を奏する。
【0024】
(ア)各誘電体カップ内に充填物を充填しており、かつ誘電体カップの側面をアンテナ用開口の壁面に近接させているので、各誘電体カップの内側および側面の外側空間でのプラズマ発生を防止して、各誘電体カップの底面の外側付近のプラズマ生成領域でのみプラズマを発生させることができる。従って、プラズマ生成用の高周波電力を、当該プラズマ生成領域で発生させるプラズマに効率良く供給することができるので、高周波電力を効率良く利用することができる。
【0025】
(イ)上記各プラズマ生成領域は、各アンテナ導体よりも基板に近い位置にあるので、各プラズマ生成領域で発生させたプラズマを、基板の処理に効率良く利用することができる。従ってこの理由からも、高周波電力を効率良く利用することができる。
【0026】
(ウ)各誘電体カップ内に導入されたガスは、各誘電体カップの底面の各小孔を通って、当該底面の外側付近の上記各プラズマ生成領域にそのすぐ近くから供給することができるので、各プラズマ生成領域のガス圧を局所的に高くすることができる。従って、各プラズマ生成領域により高密度のプラズマを生成することができると共に、供給ガスを効率良く利用することができる。
【0027】
(エ)真空容器の壁面に設けられたアンテナ用開口内にアンテナ導体を設けているので、アンテナ導体と基板との間の距離をほぼ同一にして比べた場合、真空容器内にアンテナ導体を突き出している従来技術に比べて、真空容器の容積を小さくすることができる。従って、当該真空容器用の真空排気装置の排気容量を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来の誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置を構成する一つのアンテナ周りの一例を示す概略図である。
【図2】この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を示す断面図である。
【図3】図2中の一つのアンテナ周りを拡大して示す正面図である。
【図4】図2のアンテナ周りの右側面図である。
【図5】図2のアンテナ周りの下面図であり、充填物の図示は省略している。
【図6】図2のガス導入部の位置を変えた例を示す図である。
【図7】図2の変形例を示す図である。
【図8】充填物が多数の誘電体短管である場合の例を拡大して部分的に示す図である。
【図9】コイル状のアンテナ導体の他の例を誘電体カップと共に示す図であり、充填物の図示は省略している。
【図10】渦巻状のアンテナ導体の一例を示す平面図である。
【図11】2本の棒状のアンテナ導体の一例を示す平面図である。
【図12】平面状のアンテナ導体の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を図2に示し、その一つのアンテナ周りを拡大して図3〜図5に示す。
【0030】
このプラズマ処理装置は、真空容器4内に設けられたアンテナ導体26に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってガス34を電離させてプラズマ46を生成し、当該プラズマ46を用いて基板2に処理を施す誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置である。
【0031】
基板2は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板等であるが、これに限られるものではない。
【0032】
基板2に施す処理は、例えば、CVD法等による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等である。
【0033】
このプラズマ処理装置は、CVD法によって膜形成を行う場合はプラズマCVD装置、エッチングを行う場合はプラズマエッチング装置、アッシングを行う場合はプラズマアッシング装置、スパッタリングを行う場合はプラズマスパッタリング装置とも呼ばれる。
【0034】
このプラズマ処理装置を詳述すると、真空容器4は例えば金属製であり、その内部は真空排気装置8によって真空排気される。
【0035】
真空容器4内には、基板2を保持するホルダ10が設けられている。この例では、ホルダ10は軸11に支持されている。軸11が真空容器4を貫通する部分には、電気絶縁機能および真空シール機能を有する軸受部12が設けられている。この例のように、ホルダ10にバイアス電源14から軸11を経由して負のバイアス電圧を印加するようにしても良い。バイアス電圧は負のパルス状電圧でも良い。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマ46中の正イオンが基板2に入射するときのエネルギーを制御して、基板2の表面に形成される膜の結晶化度を制御することができる。
【0036】
真空容器4の壁面に、ホルダ10上の基板2に向くように、1以上のアンテナ用開口22が設けられている。より具体的には、真空容器4の天井面6に、ホルダ10上の基板2に向くように、複数のアンテナ用開口22が設けられている。この各アンテナ用開口22に、アンテナ部20をそれぞれ設けている。各アンテナ部20は、蓋24、アンテナ導体26、誘電体カップ30、ガス導入部36および充填物38をそれぞれ有している。これらについては以下に詳述する。
【0037】
各アンテナ用開口22およびアンテナ部20の平面形状、数、配置等は、例えば、処理しようとする基板2の寸法や形状等に応じて決めれば良い。図2に示す例では、基板2に対向する天井面6に、複数のアンテナ用開口22を、基板2より広い範囲にほぼ等間隔に設け、その各アンテナ用開口22にアンテナ部20をそれぞれ設けている。
【0038】
各アンテナ部20の構造の例を、主として図3〜図5を参照して詳述する。
【0039】
各アンテナ用開口22の真空容器4(具体的にはその天井面6)外側の面は、蓋24によって塞がれている。両者4、24間には真空シール用のパッキン40が設けられている。蓋24は、より具体的には、この例では金属製のフランジである。
【0040】
各アンテナ用開口22内には、アンテナ導体26がそれぞれ設けられている。各アンテナ導体26は、この例ではコイル状(正確には、螺旋のコイル状。以下同様)をしている。このアンテナ導体26の両端の給電部28、29が蓋24を貫通する部分には、真空シール機能および電気絶縁機能を有する電流導入端子(フィードスルー)42がそれぞれ設けられている。
【0041】
アンテナ導体26の平面形状は、処理しようとする基板2の形状等に応じて決めれば良い。図3〜図5等に示す例では、アンテナ導体26の平面形状は長円形(換言すれば、レーストラック形。以下同様)をしている(図5参照)。
【0042】
コイル状のアンテナ導体26の巻き数は、この例では1.5回巻きであるが、これに限られるものではない。
【0043】
各アンテナ導体26の中に冷却水等の冷媒を流して、各アンテナ導体26を冷却するようにしても良い。後述する他の例においても同様である。
【0044】
蓋24を、図7に示す例のように絶縁物製のフランジにして、電流導入端子42を省略しても良い。その場合は、例えば、アンテナ導体26の給電部28、29が蓋24を貫通する部分に、真空シール用のパッキン41を設ければ良い。上記絶縁物の材質は、例えば、石英、アルミナ等であるが、これに限られるものではない。
【0045】
各アンテナ用開口22内には、各アンテナ導体26を覆うように、誘電体カップ30がそれぞれ設けられている。各誘電体カップ30は、ホルダ10(図2参照)側に位置する底面31、当該底面31につながる側面32を有するカップ状(換言すれば有底筒状)のものである。
【0046】
誘電体カップ30の平面形状は、アンテナ導体26の平面形状に対応したものにすれば良く、アンテナ用開口22の平面形状は、誘電体カップ30の平面形状に対応したものにすれば良い。この例では前述したようにアンテナ導体26の平面形状が長円形をしているので、誘電体カップ30およびアンテナ用開口22の平面形状も長円形をしている(図5参照)。
【0047】
各誘電体カップ30は、その側面32がアンテナ用開口22の壁面に近接するようにアンテナ用開口22内に設けている。換言すれば、アンテナ用開口22は誘電体カップ30よりも僅かに大きくしている。両者をほぼ同じ寸法にして、誘電体カップ30の側面32がアンテナ用開口22の壁面に接していても良い。
【0048】
誘電体カップ30の底面31には、複数の小孔33を設けている。小孔にすることによって、各小孔33を通して、ガス導入部36から誘電体カップ30内に導入されたガス34を外に通すことができるけれども、後述するプラズマ46が誘電体カップ30内に入り込むのを防ぐことができる。この観点からは、各小孔33は、その直径が底面31の厚さよりも十分に(例えば1/5〜1/10程度に)小さい細孔が好ましい。複数の小孔33を設けることによって、より具体的には複数の小孔33を分散させて設けることによって、後述するプラズマ生成領域44にガス34を満遍なく供給することができる。
【0049】
誘電体カップ30は、図3等に示す例のように、蓋24に取り付けて蓋24から支持しても良いし、図7に示す例のように、押え板48等を用いて、アンテナ用開口22の周囲の真空容器4から支持しても良い。押え板48は、複数の部分的なものでも良いし、リング状のものでも良い。
【0050】
誘電体カップ30の底面31は、図3等に示す例のように、その周りの真空容器4の面とほぼ同一面内にあるように構成するのが良いけれども、アンテナ用開口22内に幾分入り込んでいても構わないし、幾分突き出していても構わない。
【0051】
各誘電体カップ30の材質は、例えば、石英ガラス、アルミナ、炭化シリコン、窒化シリコン、シリコン、その他セラミックスである。
【0052】
各誘電体カップ30内にガス34を導入するガス導入部36をそれぞれ設けている。このガス導入部36は、図3等に示す例のように、蓋24の部分に設けても良いし、図6に示す例のように、誘電体カップ30の側面32の部分に設けても良い。
【0053】
ガス34は、基板2に施す処理内容に応じたものにすれば良い。例えば、プラズマCVDによって基板2に膜形成を行う場合は、ガス34は、原料ガスを希釈ガス(例えばH2 )で希釈したガスである。より具体例を挙げると、原料ガスがSiH4 の場合はSi 膜を、SiH4 +NH3 の場合はSiN膜を、SiH4 +O2 の場合はSiO2 膜を、それぞれ基板2の表面に形成することができる。
【0054】
各誘電体カップ30内に、誘電体製の充填物38を充填している。つまり、誘電体カップ30内においてアンテナ導体26は充填物38の中に埋まっている。この充填物38は、ガス導入部36から導入されたガス34を誘電体カップ30の底面31の各小孔33に導くガス流路を有している。この充填物38は、アンテナ導体26と誘電体カップ30との間の空間を、ガス34の流路を確保しつつ、誘導電界による電子加速で放電に至って誘電体カップ30内でプラズマが発生しない程度に密に埋めるものである。この充填物38は、誘電体カップ30内にほぼ一杯に充填しておくのが好ましい。そのようにすると、誘電体カップ30内でプラズマが発生するのをより確実に防止することができる。
【0055】
より具体的には、図3〜図7の例の充填物38は、多数の誘電体粒である。この場合は、隣り合う誘電体粒間に小さな隙間が存在し、このような複数の隙間が互いに屈曲しながらつながって、上記ガス流路を形成している。この誘電体粒は、図3〜図7の例では球状であるが、それ以外に楕円状球などでも良い。また、全て同一寸法の誘電体粒を用いても良いし、空隙をより小さく埋める等のために、2種類以上の異なる寸法の誘電体粒を用いても良い。
【0056】
充填物38は、多数の誘電体粒以外のものでも良い。例えば、充填物38は、図8に拡大して示すような多数の誘電体短管でも良い。この場合は、隣り合う誘電体短管間に小さな隙間が存在し、かつ各誘電体短管内にも空間が存在し、このような複数の隙間および空間が互いに屈曲しながらつながって、上記ガス流路を形成している。2種類以上の異なる寸法の誘電体短管を用いても良い。
【0057】
充填物38は、例えばグラスウールのような、綿(わた)状の誘電体でも良い。これを誘電体カップ30内に詰め込んでおけば良い。この場合は、隣り合う短繊維状の誘電体間に小さな空間が存在し、このような複数の空間が互いに屈曲しながらつながって、上記ガス流路を形成している。
【0058】
充填物38の材質は、例えば、誘電体カップ30の材質として先に例示したものと同様である。
【0059】
各アンテナ用開口22内のアンテナ導体26は、誘電体カップ30で覆われており、かつ誘電体カップ30内には充填物38が充填されているけれども、上記のように各誘電体カップ30は複数の小孔33を有しており、かつ充填物38は上記のようなガス流路を有していて、各アンテナ導体26を真空容器4内から真空シールしている訳ではないので、各アンテナ導体26は、真空容器4内の真空雰囲気中に存在している。従って、この各アンテナ導体26は、基本的には、真空容器4内に配置された構造をしているので、内部アンテナ型である。
【0060】
再び図2を参照して、このプラズマ処理装置は、各アンテナ導体26に高周波電力を供給して各アンテナ導体26に高周波電流を流す高周波電源50を備えている。この例では、アンテナ導体26と同数の高周波電源50を備えており、各高周波電源50からの高周波電力は、整合回路52をそれぞれ介して、各アンテナ導体26の一方の給電部28(図3等参照)に供給される。各アンテナ導体26の他方の給電部29(図3等参照)は、この例では終端キャパシタ54を介して接地しているが、直接接地しても良い。
【0061】
アンテナ導体26と同数の高周波電源50を設ける代わりに、一つの高周波電源50と電力分配器とを設けて、この電力分配器からの高周波電力を各整合回路52を介して各アンテナ導体26に供給しても良い。
【0062】
高周波電源50から出力する高周波電力の周波数は、例えば、一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。
【0063】
このプラズマ処理装置の作用を説明する。各誘電体カップ30内にガス導入部36からガス34を導入すると、当該ガス34は、誘電体カップ30内の充填物38のガス流路を通って誘電体カップ30の各小孔33に導かれ、この各小孔33を通って、各誘電体カップ30の底面31の外側(真空容器4内側)付近に供給される。
【0064】
また、各アンテナ導体26に高周波電源50から高周波電力を供給して高周波電流を流すことによって、各アンテナ導体26の周辺に高周波磁界が発生し、それによって各アンテナ導体26の周辺に誘導電界が発生する。この高周波磁界および誘導電界は、誘電体カップ30を通して、誘電体カップ30の底面31の外側付近にも発生する。
【0065】
しかし、各誘電体カップ30内には充填物38を充填しており、かつ各誘電体カップ30の側面32をアンテナ用開口22の壁面に近接させていて、各誘電体カップ30の内側およびその側面32の外側空間では電子は十分に走行できないのでプラズマの発生が防止され、各誘電体カップ30の底面31の外側付近でのみプラズマ46が発生し、そこがプラズマ生成領域44となる。
【0066】
つまり、各誘電体カップ30内の充填物38は、ガス34は通すけれども、電子が放電を維持できるのに十分な距離を走行することを妨げるので、各誘電体カップ30内にプラズマが発生するのを防止することができる。
【0067】
更に、各誘電体カップ30の側面32をアンテナ用開口22の壁面に近接させていて、アンテナ用開口22の壁面と側面32間の空間では、電子は放電を維持できるのに十分な距離を走行することができないので、当該空間にプラズマが発生するのを防止することができる。
【0068】
上記のような作用によって、各誘電体カップ30の内側および側面32の外側空間でのプラズマ発生を防止して、各誘電体カップ30の底面31の外側付近のプラズマ生成領域44でのみプラズマ46を発生させることができる。従って、プラズマ生成用の高周波電力を、当該プラズマ生成領域44で発生させるプラズマに効率良く供給することができるので、高周波電力を効率良く利用することができる。
【0069】
プラズマ生成領域44で発生させたプラズマ46は、拡散して基板2の近傍に達する。このプラズマ46によって基板2に、CVD法による膜形成、エッチング、アッシング等の所望の処理を施すことができる。
【0070】
しかも、上記各プラズマ生成領域44は、各アンテナ導体26よりも基板2に近い位置にあるので、各プラズマ生成領域44で発生させたプラズマ46を、基板2の処理に効率良く利用することができる。従ってこの理由からも、高周波電力を効率良く利用することができる。
【0071】
更に、各誘電体カップ30内に導入されたガス34は、各誘電体カップ30の底面31の各小孔33を通って、当該底面31の外側付近の上記各プラズマ生成領域44にそのすぐ近くから供給することができるので、各プラズマ生成領域44のガス圧を局所的に高くすることができる。従って、各プラズマ生成領域44により高密度のプラズマを生成することができると共に、供給ガス34を効率良く利用することができる。
【0072】
また、真空容器4の壁面に設けられたアンテナ用開口22内にアンテナ導体26を設けているので、アンテナ導体と基板2との間の距離をほぼ同一にして比べた場合、真空容器64内にアンテナ導体66を突き出している従来技術(図1参照)に比べて、真空容器4の容積を小さくすることができる。従って、当該真空容器4用の真空排気装置8の排気容量を小さくすることができる。
【0073】
つまり、図1に示す距離L1 と図2に示す距離L3 とをほぼ同一にして比べた場合、本発明では、図1中のアンテナ突出距離L2 に相当する距離だけ真空容器4の壁面を内側に配置することができるので(図2参照)、当該距離L2 を容積に換算した程度の量だけ、真空容器4の容積を小さくすることができる。
【0074】
より具体例を示すと、図1に示す従来技術における距離L1 は約200mm〜約300mmであるのに対して、距離L2 は約100mmもあり、本発明によれば、この距離L2 に相当する距離を無くすることができるので、基板2と真空容器4の内壁との間の距離を、従来技術の約2/3〜約3/4に短くすることができ、それに応じて真空容器4の容積を小さくすることができる。その結果、真空排気装置8の排気容量を小さくすることができる。
【0075】
更に、プラズマCVDのようにプラズマを利用して膜を形成する場合、図1に示すような従来技術では、真空容器64内に突き出しているアンテナ70の表面にも不要な膜堆積が生じて、それがゴミ発生源となって基板2を汚染する可能性があるのに対して、本発明では真空容器4内にアンテナは突き出していないので、不要な膜堆積およびそれに伴うゴミ発生を減らすことができる。その結果、装置のメインテナンス頻度を減らすことができる。
【0076】
各誘電体カップ30の側面32とアンテナ用開口22の壁面との間の空間の距離L4 (図3、図4参照)は、0mm〜5mmの範囲内にするのが好ましい。これは、当該プラズマ処理装置の運転時の上記空間のガス圧は、例えば、0.7Pa〜133Pa程度であり、この程度のガス圧雰囲気中における電子の平均自由行程を考えると、5mmは当該平均自由行程よりも十分に小さいので、上記空間では電子はガスを電離させるのに十分な距離を走行できず、従ってプラズマは発生しないからである。
【0077】
アンテナ導体26は、例えば、上記例のようにコイル状のものである。この場合は、巻き数を増やすことで、誘導電界をより強く発生させることができるので、より密度の高いプラズマ46を発生させることができる。もっとも、アンテナ導体26の巻き数を増やすとインピーダンスが増大するので給電側に大きな電位が発生するため、プラズマ46の電位上昇を伴う。この観点からは、コイル状のアンテナ導体26の巻き数は、例えば1回巻きから2回巻き程度にするのが好ましい。図2〜図7、図9に示す例は1.5回巻きの例である。
【0078】
コイル状のアンテナ導体26は、例えば図9に示す例のように、その前面部27が誘電体カップ30の底面31に実質的に平行になるように巻かれたものにしても良い。そのようにすると、図3等に示すアンテナ導体26に比べて、プラズマ生成領域44により均一に誘導電界を発生させて、プラズマの均一性をより高めることが期待できる。
【0079】
アンテナ導体26は、例えば図10に示す例のように、渦巻状のものでも良い。この場合は、アンテナ導体26を広くかつ満遍なく巻くことができるので、コイル状に比べて、面内の広がりおよび均一性のより良いプラズマの生成が可能になる。また、巻き数を増やすことで、誘導電界をより強く発生させて、より高密度のプラズマを発生させることができる。
【0080】
アンテナ導体26は、例えば図11に示す例のように、棒状(直線棒状)のものでも良い。これによって、線状のプラズマを発生させることができる。図11は、2本並列の例を示すが、2本以外でも良い。あるいは、例えば図12に示す例のように、アンテナ導体26は平面状のものでも良い。これにより、面状のプラズマを生成することができる。また、棒状や平面状のアンテナ導体26はインピーダンスが低いので、プラズマの電位を低くすることができる。
【0081】
図1は、複数のアンテナ用開口22およびアンテナ部20を、基板2の処理面に対向する真空容器4の天井面6に配置した例であるが、本発明はそれに限られるものではない。例えば、複数のアンテナ用開口22およびアンテナ部20を、真空容器4の側面に基板2を取り囲むように配置しても良いし、両者(天井面配置と側面配置)を併用しても良い。また、基板2の寸法等に応じて、アンテナ用開口22およびアンテナ部20は一つずつでも良い。
【符号の説明】
【0082】
2 基板
4 真空容器
10 ホルダ
20 アンテナ部
22 アンテナ用開口
24 蓋
26 アンテナ導体
30 誘電体カップ
31 底面
32 側面
33 小孔
34 ガス
36 ガス導入部
38 充填物
44 プラズマ生成領域
46 プラズマ
50 高周波電源
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマを用いて基板に、例えばCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等の処理を施すプラズマ処理装置に関し、より具体的には、真空容器内に設けられたアンテナ導体に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってガスを電離させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置に関する
【背景技術】
【0002】
内部アンテナ型とは、高周波放電のためのアンテナ導体が、電流導入端子(フィードスルー)を介する等して、真空容器内に配置された構造のアンテナをいう。
【0003】
従来の誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置を構成する一つのアンテナ周りの一例を図1に示す。これと同様の構造は、例えば、特許文献1、2および非特許文献1に記載されている。
【0004】
この従来のプラズマ処理装置では、コ字状またはU字状のアンテナ導体66を誘電体68で覆った構造の1以上のアンテナ70を、真空容器64内に突き出すように取り付けている。
【0005】
真空容器64内に設けられている被処理用の基板2の寸法に応じて、複数のアンテナ70が設けられる。複数のアンテナ70は、例えば、図1に示す例のように基板2の処理面に対向する真空容器64の天井面に配置する場合(例えば特許文献1参照)と、真空容器64の側面に基板2を取り囲むように配置する場合(例えば特許文献2参照)と、両者を併用する場合(例えば非特許文献1参照)とがある。
【0006】
プラズマ76の生成に必要なガスを真空容器64内へ導入するガス導入部は、真空容器64の天井面または側面の適当な箇所に設けられている。
【0007】
真空容器64内に上記ガスを導入すると共に、アンテナ70(具体的にはそのアンテナ導体66)に高周波電流を流すことによって、アンテナ70の周辺に高周波磁界が発生し、それによって誘導電界が発生する。この誘導電界によって電子が加速されて上記ガスを電離させて、アンテナ70の周辺にプラズマ76が生成される。このプラズマ76によって基板2に、CVD法による膜形成、エッチング、アッシング等の所望の処理を施すことができる。
【0008】
上記内部アンテナ型とは別のものとして、高周波放電のためのアンテナ導体を、真空を保持する誘電体窓を介在させて真空容器外に配置した構造の外部アンテナ型がある(例えば特許文献3参照)。
【0009】
上記従来技術や本発明で採用している内部アンテナ型は、外部アンテナ型と比べると、アンテナ導体を覆っている誘電体(誘電体68または後述する誘電体カップ30)は、圧力(大気圧)に耐える必要がないことから、当該誘電体の厚さを小さくすることができるので、プラズマにその近くから効率良く高周波電力を供給することができ、プラズマへの電力吸収効率が高いという利点がある(例えば、特許文献1の段落0005、非特許文献1の194頁右欄参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−220600号公報(図2、図8)
【特許文献2】特開2004−39719号公報(図1、図3)
【特許文献3】特開2005−285564号公報(図1)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】節原裕一著,「マルチ低インダクタンス内部アンテナを用いた次世代メートル級大面積プロセスに向けたプラズマ生成制御技術」, J. Plasma Fusion Res. Vol. 84, No. 4(2008), p. 193-198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記従来のプラズマ処理装置には次の課題がある。
【0013】
(a)アンテナ70と基板2との間には、離散的に配置した複数のアンテナ70で生成されるプラズマ76を基板2上で均一化させる等のために、ある程度の距離L1 を確保しなければならないが、それに加えて、アンテナ70が真空容器64内に突き出している距離L2 (これは例えば100mm程度)を確保する必要があるので、この距離L2 に相当する分、真空容器64の容積を大きくしなければならない。それに伴って、真空容器64用の真空排気装置の排気容量も大きくしなければならない。
【0014】
(b)アンテナ70の周辺にプラズマ76が発生するけれども、詳しく見れば、コ字状またはU字状のアンテナ70の内側72に強い誘導電界が発生するので、その辺りを中心にプラズマ76が発生する。これは、基板2から見て遠い位置にプラズマ76を発生させることになる。このプラズマ76が基板2まで拡散することを利用して基板2を処理するのであるが、プラズマ密度はおおよそ距離の2乗に逆比例するので、プラズマ76の発生位置が上記のように遠いと、基板2の処理にプラズマ76を効率良く利用することができなくなる。これは結局は、プラズマ生成のエネルギー源である高周波電力を効率良く利用することができないことである。
【0015】
(c)従来技術では、真空容器64の天井面または側面の適当な箇所に設けられたガス導入部から真空容器64内にガスを導入して、真空容器64内全体をほぼ一様なガス圧にしてプラズマ76を発生させているので、プラズマ生成に必要のない所にまでガスを同じように供給しており、従って供給ガスを効率良く利用することができていない。
【0016】
そこでこの発明は、内部アンテナ型のプラズマ処理装置において、真空容器の小容積化、高周波電力の効率的な利用および供給ガスの効率的な利用を可能にすることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係るプラズマ処理装置は、真空容器内に設けられたアンテナ導体に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってガスを電離させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置であって、前記真空容器内に設けられていて前記基板を保持するホルダと、前記真空容器の壁面に設けられた1以上のアンテナ用開口と、前記各アンテナ用開口の真空容器外側の面を塞いでいる蓋と、前記各アンテナ用開口内にそれぞれ設けられた前記アンテナ導体と、前記ホルダ側に位置する底面、当該底面につながる側面および当該底面に設けられた複数の小孔を有するものであって、前記各アンテナ用開口内に、前記各アンテナ導体を覆うように、かつ前記側面が前記アンテナ用開口の壁面に近接するようにそれぞれ設けられた誘電体カップと、前記各誘電体カップ内に前記ガスをそれぞれ導入するガス導入部と、前記各誘電体カップ内にそれぞれ充填されており、かつ前記ガス導入部から導入された前記ガスを前記誘電体カップの底面の各小孔に導くガス流路を有している誘電体製の充填物と、前記各アンテナ導体に高周波電力を供給して当該各アンテナ導体に前記高周波電流を流す高周波電源とを備えていることを特徴としている。
【0018】
このプラズマ処理装置においては、各誘電体カップ内に導入されたガスは、当該誘電体カップ内の充填物のガス流路を通って当該誘電体カップの各小孔に導かれ、この各小孔を通って各誘電体カップの底面の外側付近に供給される。
【0019】
また、各アンテナ導体に高周波電流を流すことによって各アンテナ導体の周辺に高周波磁界が発生するけれども、各誘電体カップ内には充填物を充填しており、かつ各誘電体カップの側面をアンテナ用開口の壁面に近接させていて、各誘電体カップの内側およびその側面の外側空間では電子は十分に走行できないのでプラズマの発生が防止され、各誘電体カップの底面の外側付近でのみプラズマが発生し、そこがプラズマ生成領域となる。
【0020】
このようにして、各誘電体カップの底面の外側付近のプラズマ生成領域でのみプラズマを発生させることができ、かつ当該プラズマ生成領域にそのすぐ近くからガスを供給して、当該プラズマ生成領域のガス圧を局所的に高くすることができる。
【0021】
前記誘電体カップの側面と、当該誘電体カップが収納されている前記アンテナ用開口の壁面との間の距離は、0mm〜5mmにするのが好ましい。
【0022】
前記充填物は、例えば、多数の誘電体粒または多数の誘電体短管である。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば次の効果を奏する。
【0024】
(ア)各誘電体カップ内に充填物を充填しており、かつ誘電体カップの側面をアンテナ用開口の壁面に近接させているので、各誘電体カップの内側および側面の外側空間でのプラズマ発生を防止して、各誘電体カップの底面の外側付近のプラズマ生成領域でのみプラズマを発生させることができる。従って、プラズマ生成用の高周波電力を、当該プラズマ生成領域で発生させるプラズマに効率良く供給することができるので、高周波電力を効率良く利用することができる。
【0025】
(イ)上記各プラズマ生成領域は、各アンテナ導体よりも基板に近い位置にあるので、各プラズマ生成領域で発生させたプラズマを、基板の処理に効率良く利用することができる。従ってこの理由からも、高周波電力を効率良く利用することができる。
【0026】
(ウ)各誘電体カップ内に導入されたガスは、各誘電体カップの底面の各小孔を通って、当該底面の外側付近の上記各プラズマ生成領域にそのすぐ近くから供給することができるので、各プラズマ生成領域のガス圧を局所的に高くすることができる。従って、各プラズマ生成領域により高密度のプラズマを生成することができると共に、供給ガスを効率良く利用することができる。
【0027】
(エ)真空容器の壁面に設けられたアンテナ用開口内にアンテナ導体を設けているので、アンテナ導体と基板との間の距離をほぼ同一にして比べた場合、真空容器内にアンテナ導体を突き出している従来技術に比べて、真空容器の容積を小さくすることができる。従って、当該真空容器用の真空排気装置の排気容量を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来の誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置を構成する一つのアンテナ周りの一例を示す概略図である。
【図2】この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を示す断面図である。
【図3】図2中の一つのアンテナ周りを拡大して示す正面図である。
【図4】図2のアンテナ周りの右側面図である。
【図5】図2のアンテナ周りの下面図であり、充填物の図示は省略している。
【図6】図2のガス導入部の位置を変えた例を示す図である。
【図7】図2の変形例を示す図である。
【図8】充填物が多数の誘電体短管である場合の例を拡大して部分的に示す図である。
【図9】コイル状のアンテナ導体の他の例を誘電体カップと共に示す図であり、充填物の図示は省略している。
【図10】渦巻状のアンテナ導体の一例を示す平面図である。
【図11】2本の棒状のアンテナ導体の一例を示す平面図である。
【図12】平面状のアンテナ導体の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を図2に示し、その一つのアンテナ周りを拡大して図3〜図5に示す。
【0030】
このプラズマ処理装置は、真空容器4内に設けられたアンテナ導体26に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってガス34を電離させてプラズマ46を生成し、当該プラズマ46を用いて基板2に処理を施す誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置である。
【0031】
基板2は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板等であるが、これに限られるものではない。
【0032】
基板2に施す処理は、例えば、CVD法等による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等である。
【0033】
このプラズマ処理装置は、CVD法によって膜形成を行う場合はプラズマCVD装置、エッチングを行う場合はプラズマエッチング装置、アッシングを行う場合はプラズマアッシング装置、スパッタリングを行う場合はプラズマスパッタリング装置とも呼ばれる。
【0034】
このプラズマ処理装置を詳述すると、真空容器4は例えば金属製であり、その内部は真空排気装置8によって真空排気される。
【0035】
真空容器4内には、基板2を保持するホルダ10が設けられている。この例では、ホルダ10は軸11に支持されている。軸11が真空容器4を貫通する部分には、電気絶縁機能および真空シール機能を有する軸受部12が設けられている。この例のように、ホルダ10にバイアス電源14から軸11を経由して負のバイアス電圧を印加するようにしても良い。バイアス電圧は負のパルス状電圧でも良い。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマ46中の正イオンが基板2に入射するときのエネルギーを制御して、基板2の表面に形成される膜の結晶化度を制御することができる。
【0036】
真空容器4の壁面に、ホルダ10上の基板2に向くように、1以上のアンテナ用開口22が設けられている。より具体的には、真空容器4の天井面6に、ホルダ10上の基板2に向くように、複数のアンテナ用開口22が設けられている。この各アンテナ用開口22に、アンテナ部20をそれぞれ設けている。各アンテナ部20は、蓋24、アンテナ導体26、誘電体カップ30、ガス導入部36および充填物38をそれぞれ有している。これらについては以下に詳述する。
【0037】
各アンテナ用開口22およびアンテナ部20の平面形状、数、配置等は、例えば、処理しようとする基板2の寸法や形状等に応じて決めれば良い。図2に示す例では、基板2に対向する天井面6に、複数のアンテナ用開口22を、基板2より広い範囲にほぼ等間隔に設け、その各アンテナ用開口22にアンテナ部20をそれぞれ設けている。
【0038】
各アンテナ部20の構造の例を、主として図3〜図5を参照して詳述する。
【0039】
各アンテナ用開口22の真空容器4(具体的にはその天井面6)外側の面は、蓋24によって塞がれている。両者4、24間には真空シール用のパッキン40が設けられている。蓋24は、より具体的には、この例では金属製のフランジである。
【0040】
各アンテナ用開口22内には、アンテナ導体26がそれぞれ設けられている。各アンテナ導体26は、この例ではコイル状(正確には、螺旋のコイル状。以下同様)をしている。このアンテナ導体26の両端の給電部28、29が蓋24を貫通する部分には、真空シール機能および電気絶縁機能を有する電流導入端子(フィードスルー)42がそれぞれ設けられている。
【0041】
アンテナ導体26の平面形状は、処理しようとする基板2の形状等に応じて決めれば良い。図3〜図5等に示す例では、アンテナ導体26の平面形状は長円形(換言すれば、レーストラック形。以下同様)をしている(図5参照)。
【0042】
コイル状のアンテナ導体26の巻き数は、この例では1.5回巻きであるが、これに限られるものではない。
【0043】
各アンテナ導体26の中に冷却水等の冷媒を流して、各アンテナ導体26を冷却するようにしても良い。後述する他の例においても同様である。
【0044】
蓋24を、図7に示す例のように絶縁物製のフランジにして、電流導入端子42を省略しても良い。その場合は、例えば、アンテナ導体26の給電部28、29が蓋24を貫通する部分に、真空シール用のパッキン41を設ければ良い。上記絶縁物の材質は、例えば、石英、アルミナ等であるが、これに限られるものではない。
【0045】
各アンテナ用開口22内には、各アンテナ導体26を覆うように、誘電体カップ30がそれぞれ設けられている。各誘電体カップ30は、ホルダ10(図2参照)側に位置する底面31、当該底面31につながる側面32を有するカップ状(換言すれば有底筒状)のものである。
【0046】
誘電体カップ30の平面形状は、アンテナ導体26の平面形状に対応したものにすれば良く、アンテナ用開口22の平面形状は、誘電体カップ30の平面形状に対応したものにすれば良い。この例では前述したようにアンテナ導体26の平面形状が長円形をしているので、誘電体カップ30およびアンテナ用開口22の平面形状も長円形をしている(図5参照)。
【0047】
各誘電体カップ30は、その側面32がアンテナ用開口22の壁面に近接するようにアンテナ用開口22内に設けている。換言すれば、アンテナ用開口22は誘電体カップ30よりも僅かに大きくしている。両者をほぼ同じ寸法にして、誘電体カップ30の側面32がアンテナ用開口22の壁面に接していても良い。
【0048】
誘電体カップ30の底面31には、複数の小孔33を設けている。小孔にすることによって、各小孔33を通して、ガス導入部36から誘電体カップ30内に導入されたガス34を外に通すことができるけれども、後述するプラズマ46が誘電体カップ30内に入り込むのを防ぐことができる。この観点からは、各小孔33は、その直径が底面31の厚さよりも十分に(例えば1/5〜1/10程度に)小さい細孔が好ましい。複数の小孔33を設けることによって、より具体的には複数の小孔33を分散させて設けることによって、後述するプラズマ生成領域44にガス34を満遍なく供給することができる。
【0049】
誘電体カップ30は、図3等に示す例のように、蓋24に取り付けて蓋24から支持しても良いし、図7に示す例のように、押え板48等を用いて、アンテナ用開口22の周囲の真空容器4から支持しても良い。押え板48は、複数の部分的なものでも良いし、リング状のものでも良い。
【0050】
誘電体カップ30の底面31は、図3等に示す例のように、その周りの真空容器4の面とほぼ同一面内にあるように構成するのが良いけれども、アンテナ用開口22内に幾分入り込んでいても構わないし、幾分突き出していても構わない。
【0051】
各誘電体カップ30の材質は、例えば、石英ガラス、アルミナ、炭化シリコン、窒化シリコン、シリコン、その他セラミックスである。
【0052】
各誘電体カップ30内にガス34を導入するガス導入部36をそれぞれ設けている。このガス導入部36は、図3等に示す例のように、蓋24の部分に設けても良いし、図6に示す例のように、誘電体カップ30の側面32の部分に設けても良い。
【0053】
ガス34は、基板2に施す処理内容に応じたものにすれば良い。例えば、プラズマCVDによって基板2に膜形成を行う場合は、ガス34は、原料ガスを希釈ガス(例えばH2 )で希釈したガスである。より具体例を挙げると、原料ガスがSiH4 の場合はSi 膜を、SiH4 +NH3 の場合はSiN膜を、SiH4 +O2 の場合はSiO2 膜を、それぞれ基板2の表面に形成することができる。
【0054】
各誘電体カップ30内に、誘電体製の充填物38を充填している。つまり、誘電体カップ30内においてアンテナ導体26は充填物38の中に埋まっている。この充填物38は、ガス導入部36から導入されたガス34を誘電体カップ30の底面31の各小孔33に導くガス流路を有している。この充填物38は、アンテナ導体26と誘電体カップ30との間の空間を、ガス34の流路を確保しつつ、誘導電界による電子加速で放電に至って誘電体カップ30内でプラズマが発生しない程度に密に埋めるものである。この充填物38は、誘電体カップ30内にほぼ一杯に充填しておくのが好ましい。そのようにすると、誘電体カップ30内でプラズマが発生するのをより確実に防止することができる。
【0055】
より具体的には、図3〜図7の例の充填物38は、多数の誘電体粒である。この場合は、隣り合う誘電体粒間に小さな隙間が存在し、このような複数の隙間が互いに屈曲しながらつながって、上記ガス流路を形成している。この誘電体粒は、図3〜図7の例では球状であるが、それ以外に楕円状球などでも良い。また、全て同一寸法の誘電体粒を用いても良いし、空隙をより小さく埋める等のために、2種類以上の異なる寸法の誘電体粒を用いても良い。
【0056】
充填物38は、多数の誘電体粒以外のものでも良い。例えば、充填物38は、図8に拡大して示すような多数の誘電体短管でも良い。この場合は、隣り合う誘電体短管間に小さな隙間が存在し、かつ各誘電体短管内にも空間が存在し、このような複数の隙間および空間が互いに屈曲しながらつながって、上記ガス流路を形成している。2種類以上の異なる寸法の誘電体短管を用いても良い。
【0057】
充填物38は、例えばグラスウールのような、綿(わた)状の誘電体でも良い。これを誘電体カップ30内に詰め込んでおけば良い。この場合は、隣り合う短繊維状の誘電体間に小さな空間が存在し、このような複数の空間が互いに屈曲しながらつながって、上記ガス流路を形成している。
【0058】
充填物38の材質は、例えば、誘電体カップ30の材質として先に例示したものと同様である。
【0059】
各アンテナ用開口22内のアンテナ導体26は、誘電体カップ30で覆われており、かつ誘電体カップ30内には充填物38が充填されているけれども、上記のように各誘電体カップ30は複数の小孔33を有しており、かつ充填物38は上記のようなガス流路を有していて、各アンテナ導体26を真空容器4内から真空シールしている訳ではないので、各アンテナ導体26は、真空容器4内の真空雰囲気中に存在している。従って、この各アンテナ導体26は、基本的には、真空容器4内に配置された構造をしているので、内部アンテナ型である。
【0060】
再び図2を参照して、このプラズマ処理装置は、各アンテナ導体26に高周波電力を供給して各アンテナ導体26に高周波電流を流す高周波電源50を備えている。この例では、アンテナ導体26と同数の高周波電源50を備えており、各高周波電源50からの高周波電力は、整合回路52をそれぞれ介して、各アンテナ導体26の一方の給電部28(図3等参照)に供給される。各アンテナ導体26の他方の給電部29(図3等参照)は、この例では終端キャパシタ54を介して接地しているが、直接接地しても良い。
【0061】
アンテナ導体26と同数の高周波電源50を設ける代わりに、一つの高周波電源50と電力分配器とを設けて、この電力分配器からの高周波電力を各整合回路52を介して各アンテナ導体26に供給しても良い。
【0062】
高周波電源50から出力する高周波電力の周波数は、例えば、一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。
【0063】
このプラズマ処理装置の作用を説明する。各誘電体カップ30内にガス導入部36からガス34を導入すると、当該ガス34は、誘電体カップ30内の充填物38のガス流路を通って誘電体カップ30の各小孔33に導かれ、この各小孔33を通って、各誘電体カップ30の底面31の外側(真空容器4内側)付近に供給される。
【0064】
また、各アンテナ導体26に高周波電源50から高周波電力を供給して高周波電流を流すことによって、各アンテナ導体26の周辺に高周波磁界が発生し、それによって各アンテナ導体26の周辺に誘導電界が発生する。この高周波磁界および誘導電界は、誘電体カップ30を通して、誘電体カップ30の底面31の外側付近にも発生する。
【0065】
しかし、各誘電体カップ30内には充填物38を充填しており、かつ各誘電体カップ30の側面32をアンテナ用開口22の壁面に近接させていて、各誘電体カップ30の内側およびその側面32の外側空間では電子は十分に走行できないのでプラズマの発生が防止され、各誘電体カップ30の底面31の外側付近でのみプラズマ46が発生し、そこがプラズマ生成領域44となる。
【0066】
つまり、各誘電体カップ30内の充填物38は、ガス34は通すけれども、電子が放電を維持できるのに十分な距離を走行することを妨げるので、各誘電体カップ30内にプラズマが発生するのを防止することができる。
【0067】
更に、各誘電体カップ30の側面32をアンテナ用開口22の壁面に近接させていて、アンテナ用開口22の壁面と側面32間の空間では、電子は放電を維持できるのに十分な距離を走行することができないので、当該空間にプラズマが発生するのを防止することができる。
【0068】
上記のような作用によって、各誘電体カップ30の内側および側面32の外側空間でのプラズマ発生を防止して、各誘電体カップ30の底面31の外側付近のプラズマ生成領域44でのみプラズマ46を発生させることができる。従って、プラズマ生成用の高周波電力を、当該プラズマ生成領域44で発生させるプラズマに効率良く供給することができるので、高周波電力を効率良く利用することができる。
【0069】
プラズマ生成領域44で発生させたプラズマ46は、拡散して基板2の近傍に達する。このプラズマ46によって基板2に、CVD法による膜形成、エッチング、アッシング等の所望の処理を施すことができる。
【0070】
しかも、上記各プラズマ生成領域44は、各アンテナ導体26よりも基板2に近い位置にあるので、各プラズマ生成領域44で発生させたプラズマ46を、基板2の処理に効率良く利用することができる。従ってこの理由からも、高周波電力を効率良く利用することができる。
【0071】
更に、各誘電体カップ30内に導入されたガス34は、各誘電体カップ30の底面31の各小孔33を通って、当該底面31の外側付近の上記各プラズマ生成領域44にそのすぐ近くから供給することができるので、各プラズマ生成領域44のガス圧を局所的に高くすることができる。従って、各プラズマ生成領域44により高密度のプラズマを生成することができると共に、供給ガス34を効率良く利用することができる。
【0072】
また、真空容器4の壁面に設けられたアンテナ用開口22内にアンテナ導体26を設けているので、アンテナ導体と基板2との間の距離をほぼ同一にして比べた場合、真空容器64内にアンテナ導体66を突き出している従来技術(図1参照)に比べて、真空容器4の容積を小さくすることができる。従って、当該真空容器4用の真空排気装置8の排気容量を小さくすることができる。
【0073】
つまり、図1に示す距離L1 と図2に示す距離L3 とをほぼ同一にして比べた場合、本発明では、図1中のアンテナ突出距離L2 に相当する距離だけ真空容器4の壁面を内側に配置することができるので(図2参照)、当該距離L2 を容積に換算した程度の量だけ、真空容器4の容積を小さくすることができる。
【0074】
より具体例を示すと、図1に示す従来技術における距離L1 は約200mm〜約300mmであるのに対して、距離L2 は約100mmもあり、本発明によれば、この距離L2 に相当する距離を無くすることができるので、基板2と真空容器4の内壁との間の距離を、従来技術の約2/3〜約3/4に短くすることができ、それに応じて真空容器4の容積を小さくすることができる。その結果、真空排気装置8の排気容量を小さくすることができる。
【0075】
更に、プラズマCVDのようにプラズマを利用して膜を形成する場合、図1に示すような従来技術では、真空容器64内に突き出しているアンテナ70の表面にも不要な膜堆積が生じて、それがゴミ発生源となって基板2を汚染する可能性があるのに対して、本発明では真空容器4内にアンテナは突き出していないので、不要な膜堆積およびそれに伴うゴミ発生を減らすことができる。その結果、装置のメインテナンス頻度を減らすことができる。
【0076】
各誘電体カップ30の側面32とアンテナ用開口22の壁面との間の空間の距離L4 (図3、図4参照)は、0mm〜5mmの範囲内にするのが好ましい。これは、当該プラズマ処理装置の運転時の上記空間のガス圧は、例えば、0.7Pa〜133Pa程度であり、この程度のガス圧雰囲気中における電子の平均自由行程を考えると、5mmは当該平均自由行程よりも十分に小さいので、上記空間では電子はガスを電離させるのに十分な距離を走行できず、従ってプラズマは発生しないからである。
【0077】
アンテナ導体26は、例えば、上記例のようにコイル状のものである。この場合は、巻き数を増やすことで、誘導電界をより強く発生させることができるので、より密度の高いプラズマ46を発生させることができる。もっとも、アンテナ導体26の巻き数を増やすとインピーダンスが増大するので給電側に大きな電位が発生するため、プラズマ46の電位上昇を伴う。この観点からは、コイル状のアンテナ導体26の巻き数は、例えば1回巻きから2回巻き程度にするのが好ましい。図2〜図7、図9に示す例は1.5回巻きの例である。
【0078】
コイル状のアンテナ導体26は、例えば図9に示す例のように、その前面部27が誘電体カップ30の底面31に実質的に平行になるように巻かれたものにしても良い。そのようにすると、図3等に示すアンテナ導体26に比べて、プラズマ生成領域44により均一に誘導電界を発生させて、プラズマの均一性をより高めることが期待できる。
【0079】
アンテナ導体26は、例えば図10に示す例のように、渦巻状のものでも良い。この場合は、アンテナ導体26を広くかつ満遍なく巻くことができるので、コイル状に比べて、面内の広がりおよび均一性のより良いプラズマの生成が可能になる。また、巻き数を増やすことで、誘導電界をより強く発生させて、より高密度のプラズマを発生させることができる。
【0080】
アンテナ導体26は、例えば図11に示す例のように、棒状(直線棒状)のものでも良い。これによって、線状のプラズマを発生させることができる。図11は、2本並列の例を示すが、2本以外でも良い。あるいは、例えば図12に示す例のように、アンテナ導体26は平面状のものでも良い。これにより、面状のプラズマを生成することができる。また、棒状や平面状のアンテナ導体26はインピーダンスが低いので、プラズマの電位を低くすることができる。
【0081】
図1は、複数のアンテナ用開口22およびアンテナ部20を、基板2の処理面に対向する真空容器4の天井面6に配置した例であるが、本発明はそれに限られるものではない。例えば、複数のアンテナ用開口22およびアンテナ部20を、真空容器4の側面に基板2を取り囲むように配置しても良いし、両者(天井面配置と側面配置)を併用しても良い。また、基板2の寸法等に応じて、アンテナ用開口22およびアンテナ部20は一つずつでも良い。
【符号の説明】
【0082】
2 基板
4 真空容器
10 ホルダ
20 アンテナ部
22 アンテナ用開口
24 蓋
26 アンテナ導体
30 誘電体カップ
31 底面
32 側面
33 小孔
34 ガス
36 ガス導入部
38 充填物
44 プラズマ生成領域
46 プラズマ
50 高周波電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に設けられたアンテナ導体に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってガスを電離させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置であって、
前記真空容器内に設けられていて前記基板を保持するホルダと、
前記真空容器の壁面に設けられた1以上のアンテナ用開口と、
前記各アンテナ用開口の真空容器外側の面を塞いでいる蓋と、
前記各アンテナ用開口内にそれぞれ設けられた前記アンテナ導体と、
前記ホルダ側に位置する底面、当該底面につながる側面および当該底面に設けられた複数の小孔を有するものであって、前記各アンテナ用開口内に、前記各アンテナ導体を覆うように、かつ前記側面が前記アンテナ用開口の壁面に近接するようにそれぞれ設けられた誘電体カップと、
前記各誘電体カップ内に前記ガスをそれぞれ導入するガス導入部と、
前記各誘電体カップ内にそれぞれ充填されており、かつ前記ガス導入部から導入された前記ガスを前記誘電体カップの底面の各小孔に導くガス流路を有している誘電体製の充填物と、
前記各アンテナ導体に高周波電力を供給して当該各アンテナ導体に前記高周波電流を流す高周波電源とを備えていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記誘電体カップの側面と、当該誘電体カップが収納されている前記アンテナ用開口の壁面との間の距離を0mm〜5mmにしている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記充填物は、多数の誘電体粒である請求項1または2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記充填物は、多数の誘電体短管である請求項1または2記載のプラズマ処理装置。
【請求項1】
真空容器内に設けられたアンテナ導体に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってガスを電離させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型かつ内部アンテナ型のプラズマ処理装置であって、
前記真空容器内に設けられていて前記基板を保持するホルダと、
前記真空容器の壁面に設けられた1以上のアンテナ用開口と、
前記各アンテナ用開口の真空容器外側の面を塞いでいる蓋と、
前記各アンテナ用開口内にそれぞれ設けられた前記アンテナ導体と、
前記ホルダ側に位置する底面、当該底面につながる側面および当該底面に設けられた複数の小孔を有するものであって、前記各アンテナ用開口内に、前記各アンテナ導体を覆うように、かつ前記側面が前記アンテナ用開口の壁面に近接するようにそれぞれ設けられた誘電体カップと、
前記各誘電体カップ内に前記ガスをそれぞれ導入するガス導入部と、
前記各誘電体カップ内にそれぞれ充填されており、かつ前記ガス導入部から導入された前記ガスを前記誘電体カップの底面の各小孔に導くガス流路を有している誘電体製の充填物と、
前記各アンテナ導体に高周波電力を供給して当該各アンテナ導体に前記高周波電流を流す高周波電源とを備えていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記誘電体カップの側面と、当該誘電体カップが収納されている前記アンテナ用開口の壁面との間の距離を0mm〜5mmにしている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記充填物は、多数の誘電体粒である請求項1または2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記充填物は、多数の誘電体短管である請求項1または2記載のプラズマ処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−49065(P2012−49065A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191914(P2010−191914)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】
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