プラズマ処理装置
【課題】 誘導結合型の装置であって、アンテナの実効インダクタンスを小さくしてプラズマ電位を低く抑えることができ、しかも当該アンテナによってその長手方向におけるプラズマ密度分布を制御することができるプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】 このプラズマ処理装置は、平面形状がまっすぐなアンテナ30を、基板2の表面に立てた垂線3に沿う方向である上下方向Zに互いに接近して配置されていて、高周波電流IR が互いに逆向きに流される往復導体31、32によって構成している。かつ、往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおいて変化させている。
【解決手段】 このプラズマ処理装置は、平面形状がまっすぐなアンテナ30を、基板2の表面に立てた垂線3に沿う方向である上下方向Zに互いに接近して配置されていて、高周波電流IR が互いに逆向きに流される往復導体31、32によって構成している。かつ、往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおいて変化させている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマを用いて基板に、例えばプラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等の処理を施すプラズマ処理装置に関し、より具体的には、アンテナに高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波を用いてプラズマを生成するプラズマ処理装置に属するものとして、容量結合型プラズマ(略称CCP)を生成する容量結合型のプラズマ処理装置と、誘導結合型プラズマ(略称ICP)を生成する誘導結合型のプラズマ処理装置とがある。
【0003】
容量結合型のプラズマ処理装置は、簡単に言えば、2枚の平行電極間に高周波電圧を印加して、両電極間に発生する高周波電界を用いてプラズマを生成するものである。
【0004】
この容量結合型のプラズマ処理装置においては、プラズマに高い電圧が印加されてプラズマ電位が高くなり、プラズマ中の荷電粒子(例えばイオン)が高いエネルギーで基板に入射衝突するので、基板上に形成する膜に与えるダメージが大きくなり、膜質が低下する等の課題がある。
【0005】
一方、誘導結合型のプラズマ処理装置は、簡単に言えば、アンテナに高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成するものであり、基本的に、容量結合型に比べてプラズマ電位を低くすることができる等の利点がある。
【0006】
このような誘導結合型のプラズマ処理装置の一例として、特許文献1には、平板状のアンテナを真空容器の開口部に絶縁枠を介して取り付け、当該アンテナの一端と他端間に高周波電源から高周波電力を供給して高周波電流を流し、それによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施すプラズマ処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO 2009/142016号パンフレット(段落0024−0026、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
誘導結合型のプラズマ処理装置においても、大型の基板に対応する等のためにアンテナを長くすると、当該アンテナのインピーダンス(特にインダクタンス)が大きくなり、それによってアンテナの両端間に大きな電位差が発生する。
【0009】
このアンテナの電位は、プラズマとの間の静電容量を介してプラズマ電位に反映されるので、アンテナの電位が高いとプラズマ電位も高くなる。その結果、プラズマ中の荷電粒子(例えばイオン)が高いエネルギーで基板に入射衝突するので、基板上に形成する膜に与えるダメージが大きくなり、膜質が低下する等の課題が生じる。
【0010】
そこでこの発明は、誘導結合型の装置であって、アンテナの実効インダクタンスを小さくしてプラズマ電位を低く抑えることができ、しかも当該アンテナによってその長手方向におけるプラズマ密度分布を制御することができるプラズマ処理装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るプラズマ処理装置は、平面形状が実質的にまっすぐなアンテナに高周波電流を流すことによって真空容器内に誘導電界を発生させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置であって、前記アンテナを、前記基板の表面に立てた垂線に沿う方向に互いに接近して配置されていて、前記高周波電流が互いに逆向きに流される往復導体によって構成し、かつ前記往復導体間の前記垂線に沿う方向の間隔を、前記アンテナの長手方向において変化させていることを特徴としている。
【0012】
以下においては、表現を簡略化するために、基板の表面に立てた垂線に沿う方向を上下方向と呼び、当該垂線に交差する方向を左右方向と呼ぶ。従って、上下方向は必ずしも垂直方向とは限らない。
【0013】
このプラズマ処理装置においては、アンテナを、上下方向に互いに接近して配置されていて高周波電流が互いに逆向きに流される往復導体によって構成しているので、往復導体間の相互インダクタンスのぶん、アンテナの実効インダクタンスが小さくなる。従って、アンテナの電位を低く抑えて、プラズマ電位を低く抑えることができる。
【0014】
しかも、往復導体間の上下方向の間隔をアンテナの長手方向において変化させることによって、往復導体間の相互インダクタンスをアンテナの長手方向において変化させることができるので、アンテナからプラズマに供給する電磁エネルギーを、アンテナの長手方向において変化させることができる。従って、このアンテナによって、その長手方向におけるプラズマ密度分布を制御することができる。
【0015】
往復導体間の上下方向の間隔を、アンテナの長手方向における中央部の間隔よりも両端部の間隔を大きくしておいても良い。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、アンテナを、上下方向に互いに接近して配置されていて高周波電流が互いに逆向きに流される往復導体によって構成しているので、往復導体間の相互インダクタンスのぶん、アンテナの実効インダクタンスが小さくなる。従って、アンテナの電位を低く抑えて、プラズマ電位を低く抑えることができる。その結果、プラズマから基板に入射する荷電粒子のエネルギーを小さく抑えることができる。それによって例えば、基板上に形成する膜に与えるダメージを小さく抑えて、膜質向上を図ることができる。また、アンテナを長くする場合でも、上記理由によって、アンテナの電位を低く抑えてプラズマ電位を低く抑えることができるので、アンテナを長くして基板の大型化に対応することが容易になる。
【0017】
しかも、往復導体間の上下方向の間隔をアンテナの長手方向において変化させることによって、往復導体間の相互インダクタンスをアンテナの長手方向において変化させることができるので、アンテナからプラズマに供給する電磁エネルギーを、アンテナの長手方向において変化させることができる。従って、このアンテナによって、その長手方向におけるプラズマ密度分布を制御することができる。その結果、アンテナの長手方向における基板の処理状態を制御することができる。例えば、アンテナの長手方向における膜厚分布を制御することができる。
【0018】
更に、アンテナを、上下方向に互いに接近して配置されていて高周波電流が互いに逆向きに流される往復導体によって構成し、かつ当該往復導体間の上下方向の間隔をアンテナの長手方向において変化させているので、左右方向に互いに接近して配置された往復導体間の左右方向の間隔を変化させる場合に比べて、往復導体間の間隔変化によるアンテナ下方近傍の磁束密度の制御性が良い。従って、往復導体間の間隔を変化させることによる、アンテナからプラズマに供給する電磁エネルギーの制御性、ひいてはプラズマ密度分布の制御性が良い。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布は、通常は、中央部よりも両端部のプラズマ密度が小さい山型の分布になる。これに対して、この発明のように、往復導体間の上下方向の間隔を、アンテナの長手方向における中央部の間隔よりも両端部の間隔を大きくすることによって、アンテナの長手方向において、中央部よりも両端部の相互インダクタンスを小さくすることができるので、アンテナの中央部よりも両端部の実効インダクタンスが相対的に大きくなる。その結果、アンテナからプラズマに供給する電磁エネルギーを、山型とは反対に、アンテナの長手方向における中央部付近よりも両端部付近において相対的に大きくすることができるので、上記山型のプラズマ密度分布を補正して、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナの長手方向における基板処理の均一性を高めることができる。例えば、アンテナの長手方向における膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、互いに並列に配置され、かつ並列に高周波電力が供給される複数の前記アンテナを備えているので、より大面積のプラズマを生成することができる。しかも、前記作用によって、各アンテナの電位を低く抑えることができると共に、各アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布を制御することができる。更に、各アンテナに可変インピーダンスを介在させていて、当該可変インピーダンスによって複数のアンテナに流れる高周波電流のバランスを調整することができるので、複数のアンテナの並列方向におけるプラズマ密度分布をも制御することができる。その結果、プラズマの電位を低く抑えることができ、しかもより大面積でかつプラズマ密度分布の均一性の良いプラズマを生成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1中のアンテナを示す図であり、(A)は平面図、(B)は側面図、(C)はC−C断面図である。
【図3】上下方向に配置された板状の往復導体の断面形状の他の例を示す図である。
【図4】公知の単純な平面アンテナを用いた場合のその長手方向におけるプラズマ密度分布の概略例を示す図である。
【図5】互いに接近している往復導体のインピーダンス等を説明するための図である。
【図6】上下方向に配置された往復導体間の上下方向の間隔を、アンテナの長手方向において変化させているアンテナの一例を示す概略側面図である。
【図7】上下方向に配置された板状の往復導体間の上下方向の間隔を変化させて、アンテナの中央下方近傍での磁束密度の変化をシミュレーションしたときに用いたモデルを示す図である。
【図8】上下方向に配置された往復導体間の上下方向の間隔を、アンテナの長手方向において変化させているアンテナの他の例を示す概略側面図である。
【図9】上下方向に配置された往復導体間の上下方向の間隔を、アンテナの長手方向において変化させているアンテナの更に他の例を示す概略側面図である。
【図10】上下方向に配置された棒状の往復導体の断面形状の一例を示す図である。
【図11】一方の導体が板状、他方の導体が棒状の往復導体の断面形状の一例を示す図である。
【図12】一方の導体が板状、他方の導体が棒状の往復導体の断面形状の他の例を示す図である。
【図13】左右方向に配置された板状の往復導体間の左右方向の間隔を変化させて、アンテナの中央下方近傍での磁束密度の変化をシミュレーションしたときに用いたモデルを示す図である。
【図14】上下方向に配置された棒状の往復導体間の上下方向の間隔を変化させて、アンテナの中央下方近傍での磁束密度の変化をシミュレーションしたときに用いたモデルを示す図である。
【図15】左右方向に配置された棒状の往復導体間の左右方向の間隔を変化させて、アンテナの中央下方近傍での磁束密度の変化をシミュレーションしたときに用いたモデルを示す図である。
【図16】図7に示したモデルの場合(実施例)と図13に示したモデルの場合(比較例)の、間隔変化に対する磁束密度変化の一例を示すグラフである。
【図17】図14に示したモデルの場合(実施例)と図15に示したモデルの場合(比較例)の、間隔変化に対する磁束密度変化の一例を示すグラフである。
【図18】複数のアンテナを並列配置した例を示す概略平面図である。
【図19】この発明に係るプラズマ処理装置の他の実施形態を示す概略側面図である。
【図20】上下方向に配置された往復導体間の左右方向の間隔を、アンテナの長手方向において変化させているアンテナの一例を示す概略図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を図1に示し、そのアンテナ30を抜き出して図2に示す。アンテナ30等の向きを表すために、一点で互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を図中に記載している。Z方向は基板2の表面に立てた垂線3に沿う(例えば平行な)方向であり、Y方向は当該垂線3に交差する(例えば直交する)方向であり、これらは、前述したように表現を簡略化するために、それぞれ、上下方向Z、左右方向Yと呼ぶことにする。X方向は、垂線3に交差する(例えば直交する)方向であり、かつアンテナ30の長手方向である。例えば、X方向およびY方向は水平方向であるが、これに限られるものではない。以上のことは、他の図においても同様である。
【0023】
この装置は、平面形状が実質的にまっすぐなアンテナ30に高周波電源42から高周波電流IR を流すことによって真空容器4内に誘導電界を発生させて当該誘導電界によってプラズマ50を生成し、このプラズマ50を用いて基板2に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置である。
【0024】
「実質的にまっすぐ」というのは、文字どおりまっすぐな状態だけでなく、まっすぐに近い状態(ほぼまっすぐな状態)をも含む意味である。
【0025】
基板2は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板、太陽電池等の半導体デバイス用の基板等であるが、これに限られるものではない。
【0026】
基板2の平面形状は、例えば円形、四角形等であり、特定の形状に限定されない。
【0027】
基板2に施す処理は、例えば、プラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等である。
【0028】
このプラズマ処理装置は、プラズマCVD法によって膜形成を行う場合はプラズマCVD装置、エッチングを行う場合はプラズマエッチング装置、アッシングを行う場合はプラズマアッシング装置、スパッタリングを行う場合はプラズマスパッタリング装置とも呼ばれる。
【0029】
このプラズマ処理装置は、例えば金属製の真空容器4を備えており、その内部は真空排気装置8によって真空排気される。
【0030】
真空容器4内には、ガス導入管22を通してガス24が導入される。ガス24は、基板2に施す処理内容に応じたものにすれば良い。例えば、プラズマCVD法によって基板2に膜形成を行う場合は、ガス24は、原料ガスまたはそれを希釈ガス(例えばH2 )で希釈したガスである。より具体例を挙げると、原料ガスがSiH4 の場合はSi 膜を、SiH4 +NH3 の場合はSiN膜を、SiH4 +O2 の場合はSiO2 膜を、それぞれ基板2の表面に形成することができる。
【0031】
真空容器4内には、基板2を保持するホルダ10が設けられている。この例では、ホルダ10は軸16に支持されている。軸16が真空容器4を貫通する部分には、電気絶縁機能および真空シール機能を有する軸受部18が設けられている。この例のように、ホルダ10にバイアス電源20から軸16を経由して負のバイアス電圧を印加するようにしても良い。バイアス電圧は負のパルス状電圧でも良い。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマ50中の正イオンが基板2に入射するときのエネルギーを制御して、基板2の表面に形成される膜の結晶化度を制御することができる。
【0032】
真空容器4の天井面6の開口部7に、絶縁枠38を介在させて、アンテナ30が設けられている。これらの要素の間には、真空シール用のパッキン40がそれぞれ設けられている。このアンテナ30は、上下方向Zに互いに接近して配置されている往復導体31、32によって構成されている。アンテナ30(より具体的にはそれを構成している往復導体31、32)は、この例では、その平面形状が面状をしている。より具体的には、当該平面形状はこの実施形態では長方形であるが、これに限られるものではない。このアンテナ30については、後で詳述する。
【0033】
アンテナ30の材質は、例えば、銅(より具体的には無酸素銅)、アルミニウム等であるが、これに限られるものではない。
【0034】
アンテナ30には、より具体的にはその往復導体31、32には、高周波電源42から整合回路44を経由して、高周波電力が供給され、それによってアンテナ30に高周波電流IR が流される。即ち、アンテナ30を構成する往復導体31、32には、互いに逆向きの高周波電流(往復電流)IR が流される(高周波だから、この高周波電流IR の向きは時間によって反転する。以下同様)。この高周波電流IR によって、アンテナ30の周囲に高周波磁界が発生し、それによって高周波電流IR と逆方向に誘導電界が発生する。この誘導電界によって、真空容器4内において、電子が加速されてアンテナ30の近傍のガス24を電離させてアンテナ30の近傍にプラズマ50が発生する。このプラズマ50は基板2の近傍まで拡散し、このプラズマ50によって基板2に前述した処理を施すことができる。
【0035】
高周波電源42から出力する高周波電力の周波数は、例えば、一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。
【0036】
上記アンテナ30について詳述する。図5に示すような、互いに接近している平行な往復導体61、62の総合インピーダンスZT は、差動接続として電気理論の書籍等にも記載されているように、次式で表される。ここで、R1 、L1 は、それぞれ、一方の導体61の抵抗、自己インダクタンス、R2 、L2 は、それぞれ、他方の導体62の抵抗、自己インダクタンス、Mは両導体61、62間の相互インダクタンスである。
【0037】
[数1]
ZT =(R1 +R2 )+j(L1 +L2 −2M)
【0038】
ここで、説明を簡略化するために、R1 =R2 =R、L1 =L2 =Lとすると、総合インピーダンスZT は数2で表され、その内のインダクタンスLT は数3で表される。このインダクタンスLT のように、自己インダクタンスと相互インダクタンスとを合成したものを、この明細書では実効インダクタンスと呼ぶことにする。
【0039】
[数2]
ZT =2R+j2(L−M)
【0040】
[数3]
LT =2(L−M)
【0041】
上記式からも分るように、往復導体61、62間の相互インダクタンスMが大きくなると、総合インピーダンスZT および実効インダクタンスLT は小さくなる。この往復導体61、62に高周波電源42から高周波電流IR を流すことによって発生する電磁エネルギーGは次式で表されるので、相互インダクタンスMが大きくなると、この電磁エネルギーGは小さくなり、外部に作用する磁気的な効果が減少する。プラズマ生成の場合は、プラズマへ供給できる電磁エネルギーが減少し、プラズマ密度が下がる。逆の場合は逆になる。
【0042】
[数4]
G=(1/2)LTIR2
=(L−M)IR2
【0043】
往復導体61、62の長手方向において相互インダクタンスMが一様でない場合、即ち相互インダクタンスMを変化させている(換言すれば、変化を付けている)場合は、各領域について見れば、当該領域の相互インダクタンスMに応じて、上記実効インダクタンスおよび電磁エネルギーが決まる。
【0044】
この発明を構成しているアンテナ30は、上記原理を応用したものである。例えば、図6に示す例のように、アンテナ30を、上下方向Zに互いに接近して配置されている往復導体31、32によって構成し、かつ往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおいて2段階に変化させている場合、小さい間隔D2 の領域A2 の相互インダクタンスM2 よりも、大きい間隔D1 の領域A1 の相互インダクタンスM1 の方が小さくなる(即ちM1 <M2 )。従って、上記数3を参照すれば分るように、領域A2 よりも領域A1 の実効インダクタンスが大きくなり、上記数4を参照した説明からも分るように、アンテナ30(より具体的にはその導体31)から距離H1 だけ離れた空間の磁束密度は、領域A2 における磁束密度B2 よりも、領域A1 における磁束密度B1 の方が大きくなる(即ちB1 >B2 )。従って、領域A2 のプラズマ密度よりも、領域A1 のプラズマ密度を大きくすることができる。
【0045】
なお、この図6や後述する他の例では、説明を簡略化するために整合回路44を省略しているが、通常は、図1に示す例と同様に、高周波電源42とアンテナ30との間には整合回路44が設けられる。
【0046】
上下方向Zに配置された板状の往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを変化させて、アンテナ30の中央下方近傍での磁束密度の変化をシミュレーションした結果を説明する。このシミュレーションに用いたモデルを図7に示す。両導体31、32の厚さTを3mm、左右方向Yの幅Wを70mmとし、X方向の長さを十分に長いものとして、一定の(ピーク値が100Aの)高周波電流IR を流したときの、導体31の左右方向Yにおける中央下方に距離H1 (5mmで固定)離れた点Pにおける磁束密度Bを、間隔Dを変化させて測定した。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1中の磁束密度B0 は、導体32がなくて導体31だけの公知の平面アンテナの場合の点Pにおける磁束密度である。その場合の磁束密度B0 と、往復導体31、32の場合の磁束密度との比B/B0 およびその2乗比(B/B0 )2 を表1中に示す。2乗比(B/B0 )2 に着目しているのは、プラズマに対する電磁エネルギー供給は、渦電流損のように、近似的には磁束密度Bの2乗に比例するからである。この表から分るように、間隔Dを変化させることによって、磁束密度Bおよび2乗比(B/B0 )2 を大きく変化させることができる。例えば、間隔Dが1mmのときと50mmのときとでは、2乗比(B/B0 )2 に約60倍の差を付けることができる。
【0049】
図8は、上下方向Zに互いに接近して配置されている往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部の領域A2 の間隔D2 よりも両端部の領域A1 、A3 の間隔D1 、D3 (この例ではD1 =D3 )を段階的(階段状)に大きくした例である。この場合は、各領域A1 〜A3 の相互インダクタンスM1 〜M3 はM1 =M3 <M2 となり、領域A2 よりも領域A1 、A3 の実効インダクタンスが大きくなる。磁束密度B1 〜B3 はB1 =B3 >B2 となる。その結果、アンテナ30からプラズマに供給する電磁エネルギーを、中央部の領域A2 よりも両端部の領域A1 、A3 において相対的に大きくすることができる。
【0050】
図1、図2に示すアンテナ30は、図8に示すアンテナ30に相当し、それをより具体化した例である。この図1、図2に示すアンテナ30について詳述すると、アンテナ30は、上下方向Zに間隔Dをあけて互いに接近して配置されている往復導体31、32を有している。両導体31、32は板状であり、その平面形状は前述したように長方形である。下側(プラズマ50側)の導体31の下面は真空容器4内の真空雰囲気中に位置しており、上側の導体32は大気中に位置している。両導体31、32の一端部は電気的に開いていて、そこにこの例では絶縁物36が設けられている。他端部は接続部33で互いに電気的に接続されている。両導体31、32の一端部間に、高周波電源42から整合回路44を経由して高周波電力が供給される。
【0051】
両導体31、32は、この例では板状(具体的には、導体31は平板状、導体32は折り曲げられた板状)である。この場合、例えば、図1、図2(C)に示す例のように下側の導体31の厚さを大きくしても良いし、図3に示す例のように両導体31、32の厚さを互いに同程度にしても良い。
【0052】
上側の導体32は、階段状に折り曲げられており、これによって、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部の領域の間隔D2 よりも両端部の領域の間隔D1 、D3 (この例ではD1 =D3 )を段階的に大きくしている。このようにして、上述した説明からも分るように、アンテナ30の長手方向Xにおいて、中央部よりも両端部の相互インダクタンスMを段階的に小さくしている。即ち、この例ではM1 =M3 <M2 にしている。これによって、図8の場合と同様に、アンテナ30からプラズマ50に供給する電磁エネルギーを、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部よりも両端部において相対的に大きくすることができる。
【0053】
アンテナ30の上記間隔Dおよび相互インダクタンスMは、アンテナ30の長手方向Xにおいて、図1、図8等に示す例のように段階的に変化させても良いし、連続的に変化させても良い。後述する他の例においても同様である。上記間隔D等を段階的に変化させても、プラズマには拡散作用があるので、プラズマ密度を滑らかに変化させることができる。例えば、図1、図2に示す上側の導体32を、中央部が窪んだなだらかな谷状にして、アンテナ30の上記間隔Dおよび相互インダクタンスMを、アンテナ30の長手方向Xにおいて連続的に変化させても良い。
【0054】
図1、図2、図8に示すアンテナ30の代わりに、図6に示した構造のアンテナ30を設けても良い。更には、図9等に示す他の構造のアンテナ30を設けても良い。
【0055】
図9に示す例は、図1、図8に示す例を変形したものである。即ち、図1、図8に示す例のようにアンテナ30の端部から高周波電力を供給(端部給電)する代わりに、図9に示す例のようにアンテナ30の中央部から高周波電力を供給(中央給電)するようにしても良い。これと同様に、他の例のアンテナ30においても、中央給電にしても良い。
【0056】
アンテナ30を構成する往復導体31、32は、例えば、前述した例のように板状でも良いし、図10に示す例のように棒状でも良いし、板状と棒状とを組み合わせたもの等でも良い。例えば、図11に示す例のように、下側の導体31が板状、上側の導体32が棒状でも良い。その場合、図12に示す例のように、上側の棒状の導体32を、互いに電気的に並列な複数本(図12では2本)にしても良い。これらの場合も、往復導体31、32は、長手方向Xの端部において接続部(図1中の接続部33参照)で互いに電気的に接続されている。
【0057】
各導体31、32の断面形状は、図示例のものに限られるものではなく、円形、楕円形、四角形等が採り得る。また、各導体31、32を中空にして、そこに冷却水等の冷媒を流して、各導体31、32を強制的に冷却する構造を採用しても良い。
【0058】
この発明に係るプラズマ処理装置においては、アンテナ30を、上下方向Zに互いに接近して配置されていて高周波電流IR が互いに逆向きに流される往復導体31、32によって構成しているので、上記数3を参照すれば分るように、往復導体31、32間の相互インダクタンスのぶん、アンテナ30の実効インダクタンスが小さくなる。高周波領域においては、アンテナ30のインピーダンスは殆どがインダクタンスであるので、実効インダクタンスが小さくなることによって、アンテナ30に発生する電位差を小さく抑えて、アンテナ30の電位を低く抑え、プラズマ50の電位を低く抑えることができる。
【0059】
その結果、プラズマ50から基板2に入射する荷電粒子(例えばイオン)のエネルギーを小さく抑えることができる。それによって例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、当該膜に与えるダメージを小さく抑えて、膜質向上を図ることができる。また、アンテナ30を長くする場合でも、上記理由によって、アンテナ30の電位を低く抑えてプラズマ電位を低く抑えることができるので、アンテナ30を長くして基板2の大型化に対応することが容易になる。
【0060】
しかも、往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dをアンテナの長手方向Xにおいて変化させることによって、往復導体31、32間の相互インダクタンスMを、アンテナ30の長手方向Xにおいて変化させることができるので、アンテナ30からプラズマ50に供給する電磁エネルギーを、アンテナ30の長手方向Xにおいて変化させることができる。従って、このアンテナ30によって、その長手方向Xにおけるプラズマ密度分布を制御することができる。その結果、アンテナ30の長手方向Xにおける基板の処理状態を制御することができる。例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、アンテナ30の長手方向Xにおける膜厚分布を制御することができる。
【0061】
更に、アンテナ30を、上下方向Zに互いに接近して配置されていて高周波電流IR が互いに逆向きに流される往復導体31、32によって構成し、かつ当該往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dをアンテナ30の長手方向Xにおいて変化させているので、左右方向に互いに接近して配置された往復導体間の左右方向Yの間隔を変化させる場合に比べて、往復導体31、32間の間隔Dの変化によるアンテナ30の下方近傍の磁束密度の制御性が良い。従って、往復導体31、32間の間隔Dを変化させることによる、アンテナ30からプラズマ50に供給する電磁エネルギーの制御性、ひいてはプラズマ密度分布の制御性が良い。これを、シミュレーション結果に基づいて以下に説明する。
【0062】
シミュレーションでは、アンテナ30を構成する往復導体31、32の間隔Dを変化させたときの、アンテナ30の左右方向Yにおける中央下方の点P(図7、図13〜図15参照)での磁束密度Bの変化を計算した。
【0063】
まず、この発明の一実施形態を成すものとして、先に図7に示したように、アンテナ30を構成する板状の往復導体31、32が上下方向Zに互いに接近して配置されている場合で、その往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを変化させたときの上記点Pにおける磁束密度Bの変化を図16中に実施例として示す。このときの計算条件は、先に図7の説明箇所で説明したものと同じであり、この実施例は表1中の磁束密度Bと同じである。
【0064】
また、上記に対する比較例として、図13に示すように、アンテナ30を構成する板状の往復導体31、32が左右方向Yに互いに接近して配置されている場合で、その往復導体31、32間の左右方向Yの間隔Dを変化させたときの上記点Pにおける磁束密度Bの変化を図16中に比較例として示す。このときの計算条件は、両導体31、32の厚さTを70mm、左右方向Yの幅Wを3mmとし、その他の距離H1 、高周波電流IR の大きさ等は図7の場合と同じにした。
【0065】
図16から分るように、間隔Dを変化させたとき、比較例の場合は、磁束密度Bの変化がすぐに飽和してしまうのに対して、実施例の場合は、磁束密度Bがなだらかに比例に近い状態で変化しており、その変化幅も大きい。従って、比較例に比べて、実施例の方が磁束密度Bの制御性が良い。即ち、間隔Dを変化させることによって、磁束密度Bを制御し、それによってアンテナ30からプラズマに供給する電磁エネルギーを制御し、ひいてはプラズマ密度分布を制御する、という制御を行いやすい。
【0066】
次に、この発明の一実施形態を成すものとして、図14に示すように、アンテナ30を構成する棒状の往復導体31、32が上下方向Zに互いに接近して配置されている場合で、その往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを変化させたときの上記点Pにおける磁束密度Bの変化を図17中に実施例として示す。このときの計算条件は、両導体31、32の直径dを6mmとし、その他の距離H1 、高周波電流IR の大きさ等は図7の場合と同じにした。
【0067】
また、上記に対する比較例として、図15に示すように、アンテナ30を構成する棒状の往復導体31、32が左右方向Yに互いに接近して配置されている場合で、その往復導体31、32間の左右方向Yの間隔Dを変化させたときの上記点Pにおける磁束密度Bの変化を図17中に比較例として示す。このときの計算条件は、両導体31、32の配置を上記のように変更した以外は、図14の場合と同じにした。
【0068】
図17から分るように、間隔Dを変化させたとき、比較例の場合は、磁束密度Bが一旦上がった後に下がるという複雑な変化をしているのに対して、実施例の場合は、磁束密度Bがなだらかに比例に近い状態で変化している。従って、この場合も、比較例に比べて、実施例の方が磁束密度Bの制御性が良い。即ち、間隔Dを変化させることによって、磁束密度Bを制御し、それによってアンテナ30からプラズマに供給する電磁エネルギーを制御し、ひいてはプラズマ密度分布を制御する、という制御を行いやすい。
【0069】
なお、図20に示す例のように、アンテナ30を構成する往復導体31、32を上下方向Zに互いに接近して配置しておいて、往復導体31、32間の左右方向Yの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおいて変化させることによって、往復導体31、32間の相互インダクタンスを、アンテナ30の長手方向Xにおいて変化させる、という考えもある。
【0070】
図20は、往復導体31、32間の左右方向Yの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部の領域A2 の間隔D2 よりも両端部の領域A1 、A3 の間隔D1 、D3 (この例ではD1 =D3 )を大きくした例である。この場合は、図8に示した例の場合と同様に、各領域A1 〜A3 の相互インダクタンスM1 〜M3 はM1 =M3 <M2 となり、領域A2 よりも領域A1 、A3 の実効インダクタンスが大きくなる。磁束密度B1 〜B3 はB1 =B3 >B2 となる。その結果、アンテナ30からプラズマに供給する電磁エネルギーを、中央部の領域A2 よりも両端部の領域A1 、A3 において相対的に大きくすることができる。
【0071】
この図20に示す例では、間隔Dによる磁束密度Bの制御性は、上記図13、図15に示した比較例に近いものになると考えられるので、これよりも上記実施例の方が好ましいと言える。
【0072】
ところで、通常は、即ち公知の単純な平面アンテナを用いた場合は、その長手方向Xにおけるプラズマ密度分布は、例えば図4に示すように、中央部のプラズマ密度よりも両端部のプラズマ密度が小さい山型の分布になる。その理由を簡単に説明すると、中央部には左右両側からプラズマが拡散して来るのに対して、両端部は片側からしかプラズマが拡散して来ないからである。
【0073】
これに対して、図1、図2、図8等に示した例のように、往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部の間隔よりも両端部の間隔を大きくすることによって、アンテナ30の長手方向Xにおいて、中央部よりも両端部の相互インダクタンスを小さくすることができるので、前述したように、アンテナ30の中央部よりも両端部の実効インダクタンスが相対的に大きくなる。その結果、アンテナ30からプラズマ50に供給する電磁エネルギーを、山型とは反対に、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部付近よりも両端部付近において相対的に大きくして、中央部付近よりも両端部付近においてより強力にプラズマ50を生成することができるので、上記山型のプラズマ密度分布を補正して、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナ30の長手方向における基板処理の均一性を高めることができる。例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、アンテナ30の長手方向Xにおける膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0074】
なお、図1に示す実施形態のように、アンテナ30の真空容器4内側の面をプラズマ50から遮蔽する遮蔽板46を備えていても良い。遮蔽板46は絶縁物から成る。遮蔽板46は、真空容器4の天井面6の開口部7の入口部付近に直接取り付けても良いし、この実施形態のように枠状の支持板48を用いて取り付けても良い。図1に示す例以外のアンテナ30を用いる場合も、このような遮蔽板46を備えていても良い。
【0075】
遮蔽板46の材質は、例えば、石英、アルミナ、炭化ケイ素、シリコン等である。水素系プラズマで還元されて遮蔽板46から酸素が放出されると困る場合は、シリコン、炭化ケイ素等の非酸化物系の材質を用いれば良い。例えばシリコン板を用いるのが簡単で良い。
【0076】
遮蔽板46を設けておくと、アンテナ30等の表面がプラズマ50中の荷電粒子(主としてイオン)によってスパッタされてプラズマ50および基板2に対して金属汚染(メタルコンタミネーション)が生じること等の不都合発生を防止することができる。
【0077】
遮蔽板46を設けていても、遮蔽板は絶縁物から成りアンテナ30の電位がプラズマ50に及ぶことを防止することはできないので、前述したようにアンテナ30の実効インダクタンスを小さくして、アンテナ30の電位を低く抑えることは有効である。
【0078】
図18に示す例のように、前記構成のアンテナ30を、複数、互いにY方向に並列に配置し、各アンテナ30にそれぞれ直列に接続された可変インピーダンス52を介して、当該複数のアンテナ30に、共通の高周波電源42から高周波電力を並列に供給するようにしても良い。
【0079】
各アンテナ30は、図1、図2、図6、図8、図9等を参照して上述したいずれの構成でも良い。
【0080】
可変インピーダンス52は、図18に示すような可変インダクタンスでも良いし、可変コンデンサ(可変キャパシタンス)でも良いし、両者を混在させても良い。可変インダクタンスを挿入することによって、給電回路のインピーダンスを増大させることができるので、高周波電流が流れ過ぎるアンテナ30の電流を抑えることができる。可変コンデンサを挿入することによって、誘導性リアクタンスが大きい場合に容量性リアクタンスを増大させて、給電回路のインピーダンスを低下させることができるので、高周波電流が流れにくいアンテナ30の電流を増加させることができる。
【0081】
図18に示す例の場合は、互いに並列に配置され、かつ並列に高周波電力が供給される複数のアンテナ30を備えているので、より大面積のプラズマを生成することができる。しかも、前記作用によって、各アンテナ30の電位を低く抑えることができると共に、各アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布を制御することができる。更に、各アンテナ30に可変インピーダンス52を介在させていて、当該可変インピーダンス52によって複数のアンテナ30に流れる高周波電流のバランスを調整することができるので、複数のアンテナ30の並列方向Yにおけるプラズマ密度分布をも制御することができる。その結果、プラズマの電位を低く抑えることができ、しかもより大面積でかつプラズマ密度分布の均一性の良いプラズマを生成することが可能になる。
【0082】
上記例は、いずれも、真空容器4内において基板2を移動させずに固定しておいて処理を施す場合の例であるが、図19に示す例のように、真空容器(図示省略)内において基板2を、基板搬送装置54によって、矢印F(またはその逆方向)に示すように、アンテナ30の長手方向Xと交差(例えば直交)する方向に、即ちY方向に沿う方向に搬送しながら、基板2に処理を施すようにしても良い。そのようにすると、プラズマ50のX方向における均一性はアンテナ30の上記構成によって高めることができ、かつ基板搬送によってプラズマ50のY方向における均一性はあまり問題にならなくなるので、大面積の基板2に均一性良く処理を施すことが可能になる。また、複数枚の基板2を連続的に処理することも可能になる。この場合のアンテナ30は、図1、図2、図6、図8、図9等を参照して上述したいずれの構成でも良い。また、この基板2を搬送する思想と、図18に示した複数のアンテナ30を並列配置する思想とを併用しても良い。
【符号の説明】
【0083】
2 基板
4 真空容器
24 ガス
30 アンテナ
31、32 往復導体
42 高周波電源
50 プラズマ
52 可変インピーダンス
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマを用いて基板に、例えばプラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等の処理を施すプラズマ処理装置に関し、より具体的には、アンテナに高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波を用いてプラズマを生成するプラズマ処理装置に属するものとして、容量結合型プラズマ(略称CCP)を生成する容量結合型のプラズマ処理装置と、誘導結合型プラズマ(略称ICP)を生成する誘導結合型のプラズマ処理装置とがある。
【0003】
容量結合型のプラズマ処理装置は、簡単に言えば、2枚の平行電極間に高周波電圧を印加して、両電極間に発生する高周波電界を用いてプラズマを生成するものである。
【0004】
この容量結合型のプラズマ処理装置においては、プラズマに高い電圧が印加されてプラズマ電位が高くなり、プラズマ中の荷電粒子(例えばイオン)が高いエネルギーで基板に入射衝突するので、基板上に形成する膜に与えるダメージが大きくなり、膜質が低下する等の課題がある。
【0005】
一方、誘導結合型のプラズマ処理装置は、簡単に言えば、アンテナに高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成するものであり、基本的に、容量結合型に比べてプラズマ電位を低くすることができる等の利点がある。
【0006】
このような誘導結合型のプラズマ処理装置の一例として、特許文献1には、平板状のアンテナを真空容器の開口部に絶縁枠を介して取り付け、当該アンテナの一端と他端間に高周波電源から高周波電力を供給して高周波電流を流し、それによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施すプラズマ処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO 2009/142016号パンフレット(段落0024−0026、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
誘導結合型のプラズマ処理装置においても、大型の基板に対応する等のためにアンテナを長くすると、当該アンテナのインピーダンス(特にインダクタンス)が大きくなり、それによってアンテナの両端間に大きな電位差が発生する。
【0009】
このアンテナの電位は、プラズマとの間の静電容量を介してプラズマ電位に反映されるので、アンテナの電位が高いとプラズマ電位も高くなる。その結果、プラズマ中の荷電粒子(例えばイオン)が高いエネルギーで基板に入射衝突するので、基板上に形成する膜に与えるダメージが大きくなり、膜質が低下する等の課題が生じる。
【0010】
そこでこの発明は、誘導結合型の装置であって、アンテナの実効インダクタンスを小さくしてプラズマ電位を低く抑えることができ、しかも当該アンテナによってその長手方向におけるプラズマ密度分布を制御することができるプラズマ処理装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るプラズマ処理装置は、平面形状が実質的にまっすぐなアンテナに高周波電流を流すことによって真空容器内に誘導電界を発生させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置であって、前記アンテナを、前記基板の表面に立てた垂線に沿う方向に互いに接近して配置されていて、前記高周波電流が互いに逆向きに流される往復導体によって構成し、かつ前記往復導体間の前記垂線に沿う方向の間隔を、前記アンテナの長手方向において変化させていることを特徴としている。
【0012】
以下においては、表現を簡略化するために、基板の表面に立てた垂線に沿う方向を上下方向と呼び、当該垂線に交差する方向を左右方向と呼ぶ。従って、上下方向は必ずしも垂直方向とは限らない。
【0013】
このプラズマ処理装置においては、アンテナを、上下方向に互いに接近して配置されていて高周波電流が互いに逆向きに流される往復導体によって構成しているので、往復導体間の相互インダクタンスのぶん、アンテナの実効インダクタンスが小さくなる。従って、アンテナの電位を低く抑えて、プラズマ電位を低く抑えることができる。
【0014】
しかも、往復導体間の上下方向の間隔をアンテナの長手方向において変化させることによって、往復導体間の相互インダクタンスをアンテナの長手方向において変化させることができるので、アンテナからプラズマに供給する電磁エネルギーを、アンテナの長手方向において変化させることができる。従って、このアンテナによって、その長手方向におけるプラズマ密度分布を制御することができる。
【0015】
往復導体間の上下方向の間隔を、アンテナの長手方向における中央部の間隔よりも両端部の間隔を大きくしておいても良い。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、アンテナを、上下方向に互いに接近して配置されていて高周波電流が互いに逆向きに流される往復導体によって構成しているので、往復導体間の相互インダクタンスのぶん、アンテナの実効インダクタンスが小さくなる。従って、アンテナの電位を低く抑えて、プラズマ電位を低く抑えることができる。その結果、プラズマから基板に入射する荷電粒子のエネルギーを小さく抑えることができる。それによって例えば、基板上に形成する膜に与えるダメージを小さく抑えて、膜質向上を図ることができる。また、アンテナを長くする場合でも、上記理由によって、アンテナの電位を低く抑えてプラズマ電位を低く抑えることができるので、アンテナを長くして基板の大型化に対応することが容易になる。
【0017】
しかも、往復導体間の上下方向の間隔をアンテナの長手方向において変化させることによって、往復導体間の相互インダクタンスをアンテナの長手方向において変化させることができるので、アンテナからプラズマに供給する電磁エネルギーを、アンテナの長手方向において変化させることができる。従って、このアンテナによって、その長手方向におけるプラズマ密度分布を制御することができる。その結果、アンテナの長手方向における基板の処理状態を制御することができる。例えば、アンテナの長手方向における膜厚分布を制御することができる。
【0018】
更に、アンテナを、上下方向に互いに接近して配置されていて高周波電流が互いに逆向きに流される往復導体によって構成し、かつ当該往復導体間の上下方向の間隔をアンテナの長手方向において変化させているので、左右方向に互いに接近して配置された往復導体間の左右方向の間隔を変化させる場合に比べて、往復導体間の間隔変化によるアンテナ下方近傍の磁束密度の制御性が良い。従って、往復導体間の間隔を変化させることによる、アンテナからプラズマに供給する電磁エネルギーの制御性、ひいてはプラズマ密度分布の制御性が良い。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布は、通常は、中央部よりも両端部のプラズマ密度が小さい山型の分布になる。これに対して、この発明のように、往復導体間の上下方向の間隔を、アンテナの長手方向における中央部の間隔よりも両端部の間隔を大きくすることによって、アンテナの長手方向において、中央部よりも両端部の相互インダクタンスを小さくすることができるので、アンテナの中央部よりも両端部の実効インダクタンスが相対的に大きくなる。その結果、アンテナからプラズマに供給する電磁エネルギーを、山型とは反対に、アンテナの長手方向における中央部付近よりも両端部付近において相対的に大きくすることができるので、上記山型のプラズマ密度分布を補正して、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナの長手方向における基板処理の均一性を高めることができる。例えば、アンテナの長手方向における膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、互いに並列に配置され、かつ並列に高周波電力が供給される複数の前記アンテナを備えているので、より大面積のプラズマを生成することができる。しかも、前記作用によって、各アンテナの電位を低く抑えることができると共に、各アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布を制御することができる。更に、各アンテナに可変インピーダンスを介在させていて、当該可変インピーダンスによって複数のアンテナに流れる高周波電流のバランスを調整することができるので、複数のアンテナの並列方向におけるプラズマ密度分布をも制御することができる。その結果、プラズマの電位を低く抑えることができ、しかもより大面積でかつプラズマ密度分布の均一性の良いプラズマを生成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1中のアンテナを示す図であり、(A)は平面図、(B)は側面図、(C)はC−C断面図である。
【図3】上下方向に配置された板状の往復導体の断面形状の他の例を示す図である。
【図4】公知の単純な平面アンテナを用いた場合のその長手方向におけるプラズマ密度分布の概略例を示す図である。
【図5】互いに接近している往復導体のインピーダンス等を説明するための図である。
【図6】上下方向に配置された往復導体間の上下方向の間隔を、アンテナの長手方向において変化させているアンテナの一例を示す概略側面図である。
【図7】上下方向に配置された板状の往復導体間の上下方向の間隔を変化させて、アンテナの中央下方近傍での磁束密度の変化をシミュレーションしたときに用いたモデルを示す図である。
【図8】上下方向に配置された往復導体間の上下方向の間隔を、アンテナの長手方向において変化させているアンテナの他の例を示す概略側面図である。
【図9】上下方向に配置された往復導体間の上下方向の間隔を、アンテナの長手方向において変化させているアンテナの更に他の例を示す概略側面図である。
【図10】上下方向に配置された棒状の往復導体の断面形状の一例を示す図である。
【図11】一方の導体が板状、他方の導体が棒状の往復導体の断面形状の一例を示す図である。
【図12】一方の導体が板状、他方の導体が棒状の往復導体の断面形状の他の例を示す図である。
【図13】左右方向に配置された板状の往復導体間の左右方向の間隔を変化させて、アンテナの中央下方近傍での磁束密度の変化をシミュレーションしたときに用いたモデルを示す図である。
【図14】上下方向に配置された棒状の往復導体間の上下方向の間隔を変化させて、アンテナの中央下方近傍での磁束密度の変化をシミュレーションしたときに用いたモデルを示す図である。
【図15】左右方向に配置された棒状の往復導体間の左右方向の間隔を変化させて、アンテナの中央下方近傍での磁束密度の変化をシミュレーションしたときに用いたモデルを示す図である。
【図16】図7に示したモデルの場合(実施例)と図13に示したモデルの場合(比較例)の、間隔変化に対する磁束密度変化の一例を示すグラフである。
【図17】図14に示したモデルの場合(実施例)と図15に示したモデルの場合(比較例)の、間隔変化に対する磁束密度変化の一例を示すグラフである。
【図18】複数のアンテナを並列配置した例を示す概略平面図である。
【図19】この発明に係るプラズマ処理装置の他の実施形態を示す概略側面図である。
【図20】上下方向に配置された往復導体間の左右方向の間隔を、アンテナの長手方向において変化させているアンテナの一例を示す概略図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を図1に示し、そのアンテナ30を抜き出して図2に示す。アンテナ30等の向きを表すために、一点で互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を図中に記載している。Z方向は基板2の表面に立てた垂線3に沿う(例えば平行な)方向であり、Y方向は当該垂線3に交差する(例えば直交する)方向であり、これらは、前述したように表現を簡略化するために、それぞれ、上下方向Z、左右方向Yと呼ぶことにする。X方向は、垂線3に交差する(例えば直交する)方向であり、かつアンテナ30の長手方向である。例えば、X方向およびY方向は水平方向であるが、これに限られるものではない。以上のことは、他の図においても同様である。
【0023】
この装置は、平面形状が実質的にまっすぐなアンテナ30に高周波電源42から高周波電流IR を流すことによって真空容器4内に誘導電界を発生させて当該誘導電界によってプラズマ50を生成し、このプラズマ50を用いて基板2に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置である。
【0024】
「実質的にまっすぐ」というのは、文字どおりまっすぐな状態だけでなく、まっすぐに近い状態(ほぼまっすぐな状態)をも含む意味である。
【0025】
基板2は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板、太陽電池等の半導体デバイス用の基板等であるが、これに限られるものではない。
【0026】
基板2の平面形状は、例えば円形、四角形等であり、特定の形状に限定されない。
【0027】
基板2に施す処理は、例えば、プラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等である。
【0028】
このプラズマ処理装置は、プラズマCVD法によって膜形成を行う場合はプラズマCVD装置、エッチングを行う場合はプラズマエッチング装置、アッシングを行う場合はプラズマアッシング装置、スパッタリングを行う場合はプラズマスパッタリング装置とも呼ばれる。
【0029】
このプラズマ処理装置は、例えば金属製の真空容器4を備えており、その内部は真空排気装置8によって真空排気される。
【0030】
真空容器4内には、ガス導入管22を通してガス24が導入される。ガス24は、基板2に施す処理内容に応じたものにすれば良い。例えば、プラズマCVD法によって基板2に膜形成を行う場合は、ガス24は、原料ガスまたはそれを希釈ガス(例えばH2 )で希釈したガスである。より具体例を挙げると、原料ガスがSiH4 の場合はSi 膜を、SiH4 +NH3 の場合はSiN膜を、SiH4 +O2 の場合はSiO2 膜を、それぞれ基板2の表面に形成することができる。
【0031】
真空容器4内には、基板2を保持するホルダ10が設けられている。この例では、ホルダ10は軸16に支持されている。軸16が真空容器4を貫通する部分には、電気絶縁機能および真空シール機能を有する軸受部18が設けられている。この例のように、ホルダ10にバイアス電源20から軸16を経由して負のバイアス電圧を印加するようにしても良い。バイアス電圧は負のパルス状電圧でも良い。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマ50中の正イオンが基板2に入射するときのエネルギーを制御して、基板2の表面に形成される膜の結晶化度を制御することができる。
【0032】
真空容器4の天井面6の開口部7に、絶縁枠38を介在させて、アンテナ30が設けられている。これらの要素の間には、真空シール用のパッキン40がそれぞれ設けられている。このアンテナ30は、上下方向Zに互いに接近して配置されている往復導体31、32によって構成されている。アンテナ30(より具体的にはそれを構成している往復導体31、32)は、この例では、その平面形状が面状をしている。より具体的には、当該平面形状はこの実施形態では長方形であるが、これに限られるものではない。このアンテナ30については、後で詳述する。
【0033】
アンテナ30の材質は、例えば、銅(より具体的には無酸素銅)、アルミニウム等であるが、これに限られるものではない。
【0034】
アンテナ30には、より具体的にはその往復導体31、32には、高周波電源42から整合回路44を経由して、高周波電力が供給され、それによってアンテナ30に高周波電流IR が流される。即ち、アンテナ30を構成する往復導体31、32には、互いに逆向きの高周波電流(往復電流)IR が流される(高周波だから、この高周波電流IR の向きは時間によって反転する。以下同様)。この高周波電流IR によって、アンテナ30の周囲に高周波磁界が発生し、それによって高周波電流IR と逆方向に誘導電界が発生する。この誘導電界によって、真空容器4内において、電子が加速されてアンテナ30の近傍のガス24を電離させてアンテナ30の近傍にプラズマ50が発生する。このプラズマ50は基板2の近傍まで拡散し、このプラズマ50によって基板2に前述した処理を施すことができる。
【0035】
高周波電源42から出力する高周波電力の周波数は、例えば、一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。
【0036】
上記アンテナ30について詳述する。図5に示すような、互いに接近している平行な往復導体61、62の総合インピーダンスZT は、差動接続として電気理論の書籍等にも記載されているように、次式で表される。ここで、R1 、L1 は、それぞれ、一方の導体61の抵抗、自己インダクタンス、R2 、L2 は、それぞれ、他方の導体62の抵抗、自己インダクタンス、Mは両導体61、62間の相互インダクタンスである。
【0037】
[数1]
ZT =(R1 +R2 )+j(L1 +L2 −2M)
【0038】
ここで、説明を簡略化するために、R1 =R2 =R、L1 =L2 =Lとすると、総合インピーダンスZT は数2で表され、その内のインダクタンスLT は数3で表される。このインダクタンスLT のように、自己インダクタンスと相互インダクタンスとを合成したものを、この明細書では実効インダクタンスと呼ぶことにする。
【0039】
[数2]
ZT =2R+j2(L−M)
【0040】
[数3]
LT =2(L−M)
【0041】
上記式からも分るように、往復導体61、62間の相互インダクタンスMが大きくなると、総合インピーダンスZT および実効インダクタンスLT は小さくなる。この往復導体61、62に高周波電源42から高周波電流IR を流すことによって発生する電磁エネルギーGは次式で表されるので、相互インダクタンスMが大きくなると、この電磁エネルギーGは小さくなり、外部に作用する磁気的な効果が減少する。プラズマ生成の場合は、プラズマへ供給できる電磁エネルギーが減少し、プラズマ密度が下がる。逆の場合は逆になる。
【0042】
[数4]
G=(1/2)LTIR2
=(L−M)IR2
【0043】
往復導体61、62の長手方向において相互インダクタンスMが一様でない場合、即ち相互インダクタンスMを変化させている(換言すれば、変化を付けている)場合は、各領域について見れば、当該領域の相互インダクタンスMに応じて、上記実効インダクタンスおよび電磁エネルギーが決まる。
【0044】
この発明を構成しているアンテナ30は、上記原理を応用したものである。例えば、図6に示す例のように、アンテナ30を、上下方向Zに互いに接近して配置されている往復導体31、32によって構成し、かつ往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおいて2段階に変化させている場合、小さい間隔D2 の領域A2 の相互インダクタンスM2 よりも、大きい間隔D1 の領域A1 の相互インダクタンスM1 の方が小さくなる(即ちM1 <M2 )。従って、上記数3を参照すれば分るように、領域A2 よりも領域A1 の実効インダクタンスが大きくなり、上記数4を参照した説明からも分るように、アンテナ30(より具体的にはその導体31)から距離H1 だけ離れた空間の磁束密度は、領域A2 における磁束密度B2 よりも、領域A1 における磁束密度B1 の方が大きくなる(即ちB1 >B2 )。従って、領域A2 のプラズマ密度よりも、領域A1 のプラズマ密度を大きくすることができる。
【0045】
なお、この図6や後述する他の例では、説明を簡略化するために整合回路44を省略しているが、通常は、図1に示す例と同様に、高周波電源42とアンテナ30との間には整合回路44が設けられる。
【0046】
上下方向Zに配置された板状の往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを変化させて、アンテナ30の中央下方近傍での磁束密度の変化をシミュレーションした結果を説明する。このシミュレーションに用いたモデルを図7に示す。両導体31、32の厚さTを3mm、左右方向Yの幅Wを70mmとし、X方向の長さを十分に長いものとして、一定の(ピーク値が100Aの)高周波電流IR を流したときの、導体31の左右方向Yにおける中央下方に距離H1 (5mmで固定)離れた点Pにおける磁束密度Bを、間隔Dを変化させて測定した。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1中の磁束密度B0 は、導体32がなくて導体31だけの公知の平面アンテナの場合の点Pにおける磁束密度である。その場合の磁束密度B0 と、往復導体31、32の場合の磁束密度との比B/B0 およびその2乗比(B/B0 )2 を表1中に示す。2乗比(B/B0 )2 に着目しているのは、プラズマに対する電磁エネルギー供給は、渦電流損のように、近似的には磁束密度Bの2乗に比例するからである。この表から分るように、間隔Dを変化させることによって、磁束密度Bおよび2乗比(B/B0 )2 を大きく変化させることができる。例えば、間隔Dが1mmのときと50mmのときとでは、2乗比(B/B0 )2 に約60倍の差を付けることができる。
【0049】
図8は、上下方向Zに互いに接近して配置されている往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部の領域A2 の間隔D2 よりも両端部の領域A1 、A3 の間隔D1 、D3 (この例ではD1 =D3 )を段階的(階段状)に大きくした例である。この場合は、各領域A1 〜A3 の相互インダクタンスM1 〜M3 はM1 =M3 <M2 となり、領域A2 よりも領域A1 、A3 の実効インダクタンスが大きくなる。磁束密度B1 〜B3 はB1 =B3 >B2 となる。その結果、アンテナ30からプラズマに供給する電磁エネルギーを、中央部の領域A2 よりも両端部の領域A1 、A3 において相対的に大きくすることができる。
【0050】
図1、図2に示すアンテナ30は、図8に示すアンテナ30に相当し、それをより具体化した例である。この図1、図2に示すアンテナ30について詳述すると、アンテナ30は、上下方向Zに間隔Dをあけて互いに接近して配置されている往復導体31、32を有している。両導体31、32は板状であり、その平面形状は前述したように長方形である。下側(プラズマ50側)の導体31の下面は真空容器4内の真空雰囲気中に位置しており、上側の導体32は大気中に位置している。両導体31、32の一端部は電気的に開いていて、そこにこの例では絶縁物36が設けられている。他端部は接続部33で互いに電気的に接続されている。両導体31、32の一端部間に、高周波電源42から整合回路44を経由して高周波電力が供給される。
【0051】
両導体31、32は、この例では板状(具体的には、導体31は平板状、導体32は折り曲げられた板状)である。この場合、例えば、図1、図2(C)に示す例のように下側の導体31の厚さを大きくしても良いし、図3に示す例のように両導体31、32の厚さを互いに同程度にしても良い。
【0052】
上側の導体32は、階段状に折り曲げられており、これによって、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部の領域の間隔D2 よりも両端部の領域の間隔D1 、D3 (この例ではD1 =D3 )を段階的に大きくしている。このようにして、上述した説明からも分るように、アンテナ30の長手方向Xにおいて、中央部よりも両端部の相互インダクタンスMを段階的に小さくしている。即ち、この例ではM1 =M3 <M2 にしている。これによって、図8の場合と同様に、アンテナ30からプラズマ50に供給する電磁エネルギーを、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部よりも両端部において相対的に大きくすることができる。
【0053】
アンテナ30の上記間隔Dおよび相互インダクタンスMは、アンテナ30の長手方向Xにおいて、図1、図8等に示す例のように段階的に変化させても良いし、連続的に変化させても良い。後述する他の例においても同様である。上記間隔D等を段階的に変化させても、プラズマには拡散作用があるので、プラズマ密度を滑らかに変化させることができる。例えば、図1、図2に示す上側の導体32を、中央部が窪んだなだらかな谷状にして、アンテナ30の上記間隔Dおよび相互インダクタンスMを、アンテナ30の長手方向Xにおいて連続的に変化させても良い。
【0054】
図1、図2、図8に示すアンテナ30の代わりに、図6に示した構造のアンテナ30を設けても良い。更には、図9等に示す他の構造のアンテナ30を設けても良い。
【0055】
図9に示す例は、図1、図8に示す例を変形したものである。即ち、図1、図8に示す例のようにアンテナ30の端部から高周波電力を供給(端部給電)する代わりに、図9に示す例のようにアンテナ30の中央部から高周波電力を供給(中央給電)するようにしても良い。これと同様に、他の例のアンテナ30においても、中央給電にしても良い。
【0056】
アンテナ30を構成する往復導体31、32は、例えば、前述した例のように板状でも良いし、図10に示す例のように棒状でも良いし、板状と棒状とを組み合わせたもの等でも良い。例えば、図11に示す例のように、下側の導体31が板状、上側の導体32が棒状でも良い。その場合、図12に示す例のように、上側の棒状の導体32を、互いに電気的に並列な複数本(図12では2本)にしても良い。これらの場合も、往復導体31、32は、長手方向Xの端部において接続部(図1中の接続部33参照)で互いに電気的に接続されている。
【0057】
各導体31、32の断面形状は、図示例のものに限られるものではなく、円形、楕円形、四角形等が採り得る。また、各導体31、32を中空にして、そこに冷却水等の冷媒を流して、各導体31、32を強制的に冷却する構造を採用しても良い。
【0058】
この発明に係るプラズマ処理装置においては、アンテナ30を、上下方向Zに互いに接近して配置されていて高周波電流IR が互いに逆向きに流される往復導体31、32によって構成しているので、上記数3を参照すれば分るように、往復導体31、32間の相互インダクタンスのぶん、アンテナ30の実効インダクタンスが小さくなる。高周波領域においては、アンテナ30のインピーダンスは殆どがインダクタンスであるので、実効インダクタンスが小さくなることによって、アンテナ30に発生する電位差を小さく抑えて、アンテナ30の電位を低く抑え、プラズマ50の電位を低く抑えることができる。
【0059】
その結果、プラズマ50から基板2に入射する荷電粒子(例えばイオン)のエネルギーを小さく抑えることができる。それによって例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、当該膜に与えるダメージを小さく抑えて、膜質向上を図ることができる。また、アンテナ30を長くする場合でも、上記理由によって、アンテナ30の電位を低く抑えてプラズマ電位を低く抑えることができるので、アンテナ30を長くして基板2の大型化に対応することが容易になる。
【0060】
しかも、往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dをアンテナの長手方向Xにおいて変化させることによって、往復導体31、32間の相互インダクタンスMを、アンテナ30の長手方向Xにおいて変化させることができるので、アンテナ30からプラズマ50に供給する電磁エネルギーを、アンテナ30の長手方向Xにおいて変化させることができる。従って、このアンテナ30によって、その長手方向Xにおけるプラズマ密度分布を制御することができる。その結果、アンテナ30の長手方向Xにおける基板の処理状態を制御することができる。例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、アンテナ30の長手方向Xにおける膜厚分布を制御することができる。
【0061】
更に、アンテナ30を、上下方向Zに互いに接近して配置されていて高周波電流IR が互いに逆向きに流される往復導体31、32によって構成し、かつ当該往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dをアンテナ30の長手方向Xにおいて変化させているので、左右方向に互いに接近して配置された往復導体間の左右方向Yの間隔を変化させる場合に比べて、往復導体31、32間の間隔Dの変化によるアンテナ30の下方近傍の磁束密度の制御性が良い。従って、往復導体31、32間の間隔Dを変化させることによる、アンテナ30からプラズマ50に供給する電磁エネルギーの制御性、ひいてはプラズマ密度分布の制御性が良い。これを、シミュレーション結果に基づいて以下に説明する。
【0062】
シミュレーションでは、アンテナ30を構成する往復導体31、32の間隔Dを変化させたときの、アンテナ30の左右方向Yにおける中央下方の点P(図7、図13〜図15参照)での磁束密度Bの変化を計算した。
【0063】
まず、この発明の一実施形態を成すものとして、先に図7に示したように、アンテナ30を構成する板状の往復導体31、32が上下方向Zに互いに接近して配置されている場合で、その往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを変化させたときの上記点Pにおける磁束密度Bの変化を図16中に実施例として示す。このときの計算条件は、先に図7の説明箇所で説明したものと同じであり、この実施例は表1中の磁束密度Bと同じである。
【0064】
また、上記に対する比較例として、図13に示すように、アンテナ30を構成する板状の往復導体31、32が左右方向Yに互いに接近して配置されている場合で、その往復導体31、32間の左右方向Yの間隔Dを変化させたときの上記点Pにおける磁束密度Bの変化を図16中に比較例として示す。このときの計算条件は、両導体31、32の厚さTを70mm、左右方向Yの幅Wを3mmとし、その他の距離H1 、高周波電流IR の大きさ等は図7の場合と同じにした。
【0065】
図16から分るように、間隔Dを変化させたとき、比較例の場合は、磁束密度Bの変化がすぐに飽和してしまうのに対して、実施例の場合は、磁束密度Bがなだらかに比例に近い状態で変化しており、その変化幅も大きい。従って、比較例に比べて、実施例の方が磁束密度Bの制御性が良い。即ち、間隔Dを変化させることによって、磁束密度Bを制御し、それによってアンテナ30からプラズマに供給する電磁エネルギーを制御し、ひいてはプラズマ密度分布を制御する、という制御を行いやすい。
【0066】
次に、この発明の一実施形態を成すものとして、図14に示すように、アンテナ30を構成する棒状の往復導体31、32が上下方向Zに互いに接近して配置されている場合で、その往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを変化させたときの上記点Pにおける磁束密度Bの変化を図17中に実施例として示す。このときの計算条件は、両導体31、32の直径dを6mmとし、その他の距離H1 、高周波電流IR の大きさ等は図7の場合と同じにした。
【0067】
また、上記に対する比較例として、図15に示すように、アンテナ30を構成する棒状の往復導体31、32が左右方向Yに互いに接近して配置されている場合で、その往復導体31、32間の左右方向Yの間隔Dを変化させたときの上記点Pにおける磁束密度Bの変化を図17中に比較例として示す。このときの計算条件は、両導体31、32の配置を上記のように変更した以外は、図14の場合と同じにした。
【0068】
図17から分るように、間隔Dを変化させたとき、比較例の場合は、磁束密度Bが一旦上がった後に下がるという複雑な変化をしているのに対して、実施例の場合は、磁束密度Bがなだらかに比例に近い状態で変化している。従って、この場合も、比較例に比べて、実施例の方が磁束密度Bの制御性が良い。即ち、間隔Dを変化させることによって、磁束密度Bを制御し、それによってアンテナ30からプラズマに供給する電磁エネルギーを制御し、ひいてはプラズマ密度分布を制御する、という制御を行いやすい。
【0069】
なお、図20に示す例のように、アンテナ30を構成する往復導体31、32を上下方向Zに互いに接近して配置しておいて、往復導体31、32間の左右方向Yの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおいて変化させることによって、往復導体31、32間の相互インダクタンスを、アンテナ30の長手方向Xにおいて変化させる、という考えもある。
【0070】
図20は、往復導体31、32間の左右方向Yの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部の領域A2 の間隔D2 よりも両端部の領域A1 、A3 の間隔D1 、D3 (この例ではD1 =D3 )を大きくした例である。この場合は、図8に示した例の場合と同様に、各領域A1 〜A3 の相互インダクタンスM1 〜M3 はM1 =M3 <M2 となり、領域A2 よりも領域A1 、A3 の実効インダクタンスが大きくなる。磁束密度B1 〜B3 はB1 =B3 >B2 となる。その結果、アンテナ30からプラズマに供給する電磁エネルギーを、中央部の領域A2 よりも両端部の領域A1 、A3 において相対的に大きくすることができる。
【0071】
この図20に示す例では、間隔Dによる磁束密度Bの制御性は、上記図13、図15に示した比較例に近いものになると考えられるので、これよりも上記実施例の方が好ましいと言える。
【0072】
ところで、通常は、即ち公知の単純な平面アンテナを用いた場合は、その長手方向Xにおけるプラズマ密度分布は、例えば図4に示すように、中央部のプラズマ密度よりも両端部のプラズマ密度が小さい山型の分布になる。その理由を簡単に説明すると、中央部には左右両側からプラズマが拡散して来るのに対して、両端部は片側からしかプラズマが拡散して来ないからである。
【0073】
これに対して、図1、図2、図8等に示した例のように、往復導体31、32間の上下方向Zの間隔Dを、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部の間隔よりも両端部の間隔を大きくすることによって、アンテナ30の長手方向Xにおいて、中央部よりも両端部の相互インダクタンスを小さくすることができるので、前述したように、アンテナ30の中央部よりも両端部の実効インダクタンスが相対的に大きくなる。その結果、アンテナ30からプラズマ50に供給する電磁エネルギーを、山型とは反対に、アンテナ30の長手方向Xにおける中央部付近よりも両端部付近において相対的に大きくして、中央部付近よりも両端部付近においてより強力にプラズマ50を生成することができるので、上記山型のプラズマ密度分布を補正して、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナ30の長手方向における基板処理の均一性を高めることができる。例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、アンテナ30の長手方向Xにおける膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0074】
なお、図1に示す実施形態のように、アンテナ30の真空容器4内側の面をプラズマ50から遮蔽する遮蔽板46を備えていても良い。遮蔽板46は絶縁物から成る。遮蔽板46は、真空容器4の天井面6の開口部7の入口部付近に直接取り付けても良いし、この実施形態のように枠状の支持板48を用いて取り付けても良い。図1に示す例以外のアンテナ30を用いる場合も、このような遮蔽板46を備えていても良い。
【0075】
遮蔽板46の材質は、例えば、石英、アルミナ、炭化ケイ素、シリコン等である。水素系プラズマで還元されて遮蔽板46から酸素が放出されると困る場合は、シリコン、炭化ケイ素等の非酸化物系の材質を用いれば良い。例えばシリコン板を用いるのが簡単で良い。
【0076】
遮蔽板46を設けておくと、アンテナ30等の表面がプラズマ50中の荷電粒子(主としてイオン)によってスパッタされてプラズマ50および基板2に対して金属汚染(メタルコンタミネーション)が生じること等の不都合発生を防止することができる。
【0077】
遮蔽板46を設けていても、遮蔽板は絶縁物から成りアンテナ30の電位がプラズマ50に及ぶことを防止することはできないので、前述したようにアンテナ30の実効インダクタンスを小さくして、アンテナ30の電位を低く抑えることは有効である。
【0078】
図18に示す例のように、前記構成のアンテナ30を、複数、互いにY方向に並列に配置し、各アンテナ30にそれぞれ直列に接続された可変インピーダンス52を介して、当該複数のアンテナ30に、共通の高周波電源42から高周波電力を並列に供給するようにしても良い。
【0079】
各アンテナ30は、図1、図2、図6、図8、図9等を参照して上述したいずれの構成でも良い。
【0080】
可変インピーダンス52は、図18に示すような可変インダクタンスでも良いし、可変コンデンサ(可変キャパシタンス)でも良いし、両者を混在させても良い。可変インダクタンスを挿入することによって、給電回路のインピーダンスを増大させることができるので、高周波電流が流れ過ぎるアンテナ30の電流を抑えることができる。可変コンデンサを挿入することによって、誘導性リアクタンスが大きい場合に容量性リアクタンスを増大させて、給電回路のインピーダンスを低下させることができるので、高周波電流が流れにくいアンテナ30の電流を増加させることができる。
【0081】
図18に示す例の場合は、互いに並列に配置され、かつ並列に高周波電力が供給される複数のアンテナ30を備えているので、より大面積のプラズマを生成することができる。しかも、前記作用によって、各アンテナ30の電位を低く抑えることができると共に、各アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布を制御することができる。更に、各アンテナ30に可変インピーダンス52を介在させていて、当該可変インピーダンス52によって複数のアンテナ30に流れる高周波電流のバランスを調整することができるので、複数のアンテナ30の並列方向Yにおけるプラズマ密度分布をも制御することができる。その結果、プラズマの電位を低く抑えることができ、しかもより大面積でかつプラズマ密度分布の均一性の良いプラズマを生成することが可能になる。
【0082】
上記例は、いずれも、真空容器4内において基板2を移動させずに固定しておいて処理を施す場合の例であるが、図19に示す例のように、真空容器(図示省略)内において基板2を、基板搬送装置54によって、矢印F(またはその逆方向)に示すように、アンテナ30の長手方向Xと交差(例えば直交)する方向に、即ちY方向に沿う方向に搬送しながら、基板2に処理を施すようにしても良い。そのようにすると、プラズマ50のX方向における均一性はアンテナ30の上記構成によって高めることができ、かつ基板搬送によってプラズマ50のY方向における均一性はあまり問題にならなくなるので、大面積の基板2に均一性良く処理を施すことが可能になる。また、複数枚の基板2を連続的に処理することも可能になる。この場合のアンテナ30は、図1、図2、図6、図8、図9等を参照して上述したいずれの構成でも良い。また、この基板2を搬送する思想と、図18に示した複数のアンテナ30を並列配置する思想とを併用しても良い。
【符号の説明】
【0083】
2 基板
4 真空容器
24 ガス
30 アンテナ
31、32 往復導体
42 高周波電源
50 プラズマ
52 可変インピーダンス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面形状が実質的にまっすぐなアンテナに高周波電流を流すことによって真空容器内に誘導電界を発生させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置であって、
前記アンテナを、前記基板の表面に立てた垂線に沿う方向に互いに接近して配置されていて、前記高周波電流が互いに逆向きに流される往復導体によって構成し、
かつ前記往復導体間の前記垂線に沿う方向の間隔を、前記アンテナの長手方向において変化させていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記往復導体間の前記垂線に沿う方向の間隔を、前記アンテナの長手方向における中央部の間隔よりも両端部の間隔を大きくしている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記アンテナを複数備えていてこれらは互いに並列に配置されており、
当該各アンテナにそれぞれ直列に接続された可変インピーダンスを介して、当該複数のアンテナに、共通の高周波電源から高周波電力を並列に供給するように構成している請求項1または2記載のプラズマ処理装置。
【請求項1】
平面形状が実質的にまっすぐなアンテナに高周波電流を流すことによって真空容器内に誘導電界を発生させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置であって、
前記アンテナを、前記基板の表面に立てた垂線に沿う方向に互いに接近して配置されていて、前記高周波電流が互いに逆向きに流される往復導体によって構成し、
かつ前記往復導体間の前記垂線に沿う方向の間隔を、前記アンテナの長手方向において変化させていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記往復導体間の前記垂線に沿う方向の間隔を、前記アンテナの長手方向における中央部の間隔よりも両端部の間隔を大きくしている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記アンテナを複数備えていてこれらは互いに並列に配置されており、
当該各アンテナにそれぞれ直列に接続された可変インピーダンスを介して、当該複数のアンテナに、共通の高周波電源から高周波電力を並列に供給するように構成している請求項1または2記載のプラズマ処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−8539(P2013−8539A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140128(P2011−140128)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【特許番号】特許第4844697号(P4844697)
【特許公報発行日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【特許番号】特許第4844697号(P4844697)
【特許公報発行日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】
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