説明

ホウ素含有化合物

【課題】腫瘍組織への選択性および集積量が高く、水溶性が高く正常細胞に対する細胞毒性が低いホウ素含有化合物、前記ホウ素含有化合物を有効成分とするホウ素中性子捕捉療法剤およびMRI造影剤を提供する。
【解決手段】前記ホウ素含有化合物が、少なくとも1以上のホウ素リガンドを結合したデンドリマーよりなることを特徴とする。このとき、前記ホウ素リガンドがp-ボロノフェニルアラニン、p-ボロノフェニルアラニノール、o-カルボラニルアラニン、o-カルボラニルアラニノールが好ましく、p-ボロノフェニルアラニンであることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有化合物、中性子捕捉療法剤等に関し、特にホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、核磁気共鳴画像法(MRI)等に有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、放射性アイソトープを利用した新しい癌の治療方法として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が注目を集めている。ホウ素中性子捕捉療法は、ホウ素10同位体(10B)を含むホウ素化合物をガン細胞に取り込ませ、低エネルギーの中性子線(例えば熱中性子)を照射して、細胞内で起こる核反応により局所的にガン細胞を破壊する治療方法である。
【0003】
この治療方法では、10Bを含むホウ素化合物をガン組織の細胞に選択的に蓄積させることが、治療効果を高める上で重要であるため、ガン細胞に選択的に取り込まれるホウ素化合物を開発することが必要となる。
【0004】
従来までに、ホウ素中性子捕捉療法に用いる薬剤として幾つかのホウ素化合物が分子設計され合成されている。これらの化合物は、アミノ酸、核酸、糖、ポルフィリン、ポリアミン、トリアジン等の生体関連物質の基本骨格にホウ素原子またはホウ素原子団を導入したものである(例えば、非特許文献1〜8参照)。
【0005】
ホウ素中性子捕捉療法に用いられるホウ素化合物の具備すべき性質としては、人体に無毒であること、代謝速度が遅く、腫瘍細胞の内部あるいは表層に高選択的かつ多量(20〜40ppm)に集積すること、血液のpH領域での水溶性が高く、細胞膜透過性にすぐれていること、10Bの存在比率が他の同位体とくらべて大きいこと、化学的かつ生物学的に安定であること、などが挙げられる。これらの性質をすべて満たすようなホウ素化合物の開発は困難を極めており、実際の臨床で用いられている薬剤は、p-ボロノフェニルアラニン(BPA)とメルカプトウンデカハイドロドデカボレート(BSH)のみである。
【0006】
このうち、メルカプトウンデカハイドロドデカボレートは二十面体のクラスター構造をとっており、ナトリウム塩の形で主に脳腫瘍の治療に用いられてきた。一方、p-ボロノフェニルアラニンはフェニルアラニンのミミックとしてメラニン生合成経路に取り込まれやすく、メラニン生合成が活発な悪性黒色腫の治療に用いられてきた。さらに、近年、脳腫瘍細胞にもよく取り込まれることが明らかとなり、両方の治療に利用されており、特に脳腫瘍の治療については最近、p-ボロノフェニルアラニンとメルカプトウンデカハイドロドデカボレートの併用による治療が多く見られる。
【非特許文献1】I.M. Wyzlicら、 Tetrahedron Lett., 1992, 33, 7489-7490,
【非特許文献2】W. Tjark, J. Organomet. Chem., 2000, 614-615, 37-47,
【非特許文献3】K. Imamuraら、Bull. Chem. Soc. Jpn., 1997, 70. 3103-3110.
【非特許文献4】A.S.Al-Madhornら、J. Med. Chem., 2002, 45, 4018-4028,
【非特許文献5】F. Compostellaら、Res. Develop. Neutron Capture Ther., 2002, 81-84,
【非特許文献6】S. B Kahlら、Progress in Neutron Capture Therapy for Cancer, Plenum Press, New York 1992, 223,
【非特許文献7】J. Caiら、J. Med. Chem., 1997, 40, 3887-3896,
【非特許文献8】H. Limら、Res. Develop. Neutron Capture Ther., 2002, 37-42
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの化合物は先に述べた中性子捕捉療法剤の具備すべき性質をすべて満たしているとはいえず、その欠点の改善が強く望まれている。例えば、メルカプトウンデカハイドロドデカボレートを投与した際には、腫瘍細胞中および血液中に多くのメルカプトウンデカハイドロドデカボレートが残存するため、ホウ素中性子捕捉療法による正常細胞への影響が危険視されている。また、p-ボロノフェニルアラニンは細胞毒性が低く安全性は高いが、腫瘍集積量が十分ではなく溶解度が低いことから、これらの欠点を克服したより効果的な薬剤の開発が望まれている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、腫瘍組織への選択性および集積量が高く、水溶性が高く正常細胞に対する細胞毒性が低いホウ素含有化合物を提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記ホウ素含有化合物を有効成分とするホウ素中性子捕捉療法剤およびMRI造影剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、以下に示すホウ素含有デンドリマー化合物が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明のホウ素含有化合物は、少なくとも1以上のホウ素リガンドを結合したデンドリマーよりなることを特徴とする。
【0011】
腫瘍組織は正常組織と同様、血管、組織間隙、細胞の3つのコンパートメントから構成されるが、解剖学的あるいは生理学的な特徴は正常組織とは大きく異なる。腫瘍細胞は自ら血管造成因子と呼ばれる物質を産生し、増殖に必要な栄養や酸素等を補給するため、新しい毛細血管を正常部の血管より誘導する。
【0012】
一般に、腫瘍組織の毛細血管壁の間隙は50〜100nmであり、正常組織の間隙(<50nm)に比べて粗い構造をしていることが知られている。また、腫瘍組織においては組織内圧が高く、かつ場所によって圧力に偏りがあるため、組織液の回転が非常に速い。したがって、腫瘍組織での物質の血管壁透過の過程においては、こうした組織液の流れに乗る容積流輸送の機構が重要な役割を果たしている。このため、従来の低分子ホウ素含有化合物では、投与後全身に一様に分布し、かつ速やかに消失するため、腫瘍組織への選択的移行が望めなかった。
【0013】
しかしながら、デンドリマーのようなナノスケール分子は、肝臓での代謝を受け難く、血液中に長時間滞留することから、ガン組織へより多くのデンドリマー分子を蓄積させることができる。また、デンドリマーには多数の原子団を部位特異的に共有結合の形で安定に導入することが容易であり、一分子あたりのホウ素占有比の高いホウ素含有化合物を合成することができる。さらに、水溶性の高いデンドリマーを選択すれば、容易に水溶性に優れたホウ素含有化合物を合成することも可能となる。このため、本発明のホウ素含有化合物によれば、腫瘍組織への選択性及び集積性に優れ、中性子捕捉療法における治療効果の高く、正常細胞に対する細胞毒性の少ないホウ素含有化合物を提供することができる。
【0014】
前記ホウ素リガンドはp-ボロノフェニルアラニン、p-ボロノフェニルアラニノール、o-カルボラニルアラニン及びo-カルボラニルアラニノールよりなる群から選ばれることが好ましく、p-ボロノフェニルアラニンが更に好ましい。
【0015】
発明者らは、p-ボロノフェニルアラニンおよびその誘導体の生物活性の検討から、p-ボロノフェニルアラニンのアミノ基は活性発現に必要であるが、p-ボロノフェニルアラニンのカルボキシル基は活性発現に必ずしも必要ではないことを見出した。上記ホウ素リガンドは、官能基としてカルボキシル基や水酸基を有しているため、ホウ素リガンドの生物活性を損なうことなく、デンドリマーと結合させることができる。このため、上記リガンドを結合したホウ素含有化合物は、脳腫瘍や悪性黒色腫に対して高い選択性を有し、中性子捕捉療法において優れた治療効果を発揮できる。
【0016】
前記デンドリマーはポリアミドアミンデンドリマーであることが好ましい。ポリアミドアミンデンドリマーによれば、ナノメートルスケールの単一分子オブジェクトに様々な官能基を空間特異的に組み込むことが可能となり、ナノスケール分子を合成することが容易となる。また、ポリアミドアミンデンドリマーは、同程度の分子量を有する鎖状高分子に比べて、水溶性が高く、様々な官能基を位置特異的に導入することができるため、本発明のデンドリマー分子として好適である。
【0017】
本発明の中性子捕捉療法剤は、前記ホウ素含有化合物を有効成分として含有することを特徴とする。前記のように、本発明のホウ素含有化合物は、腫瘍組織選択性に優れ、水溶性で正常組織に対する細胞毒性も少ない。このため、前記ホウ素含有化合物を有効成分として含有する中性子捕捉療法剤は、中性子捕捉療法において、従来のものに比べ優れた治療効果を発揮することができる。
【0018】
前記中性子捕捉療法剤において、ホウ素リガンドに含有されるホウ素原子の80%以上が中性子数5のホウ素原子であることが好ましい。中性子数5のホウ素原子は熱中性子線捕獲断面積が非常に大きい。このため、前記中性子捕捉療法剤によれば、従来のものに比べ、治療効果の高い中性子捕捉療法剤を提供することができる。
【0019】
本発明のMRI造影剤は、前記ホウ素含有化合物を有効成分として含有することを特徴とする。ホウ素原子はNMR核種であるため、前記造影剤が腫瘍組織に集積した時点でMRIや核磁気共鳴分光法(MRS)を行えば、腫瘍組織を特異的に造影、検出することができる。
【0020】
前記MRI造影剤において、ホウ素リガンドに含有されるホウ素原子の90%以上が中性子数6のホウ素原子であることが好ましい。中性子数6のホウ素原子はNMR核種としての感度が中性子数5のホウ素原子に比べ高い。このため、前記造影剤によれば、画像コントラストを増強でき、腫瘍の識別感度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
本発明のホウ素含有化合物は、少なくとも1以上のホウ素リガンドを結合したデンドリマーよりなることを特徴とする。
【0023】
ホウ素リガンドは、分子内にホウ素原子とデンドリマーと結合し得る官能基を有する化合物であれば特に限定されない。具体的には例えば、p-ボロノフェニルアラニン、カルボラン及びこれらの誘導体及び下記式(1)
【0024】
【化1】

(式中、Rは下記式(2)
【0025】
【化2】

{式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。}で示される構造のいずれかを表し、Aはフェニル基またはインドリル基を表し、Qは直接結合又は下記式(3)
【0026】
【化3】

{式中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または水酸基を表し、Xは直接結合又は酸素原子、硫黄原子、炭素数1〜4のアルキレン基、イミノ基、イミダゾリル基またはインドリル基を表し、nは0または1の整数を表し、mは0〜4の整数を表す。}で示される構造を表す。)で表される化合物及び下記式(4)
【0027】
【化4】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、eは0または1の整数を示す)で表される化合物等を挙げることができる。これらの中でも、p-ボロノフェニルアラニン、p-ボロノフェニルアラニノール、o-カルボラニルアラニン、o-カルボラニルアラニノールが好ましく、p-ボロノフェニルアラニンが更に好ましい。上記ホウ素リガンドは、その構造中のカルボキシル基、アミノ基、水酸基等を介してデンドリマーと結合する。
【0028】
デンドリマーに対するホウ素リガンドの結合数は、1以上であれば特に制限はないが、腫瘍選択性や集積量の観点から、4以上が好ましい。
【0029】
デンドリマーとは、規則正しく分枝した樹状高分子化合物の総称であり、1)分子量の分布を持たない、2)同程度の分子量を有する鎖状高分子に比べて、溶解粘度が相対的に低い、様々な官能基を位置特異的に導入することができる等の特徴を持つ化合物である。一般的に、デンドリマーは、コア部、所定数の世代(generations)の分枝部および末端部を有する。
【0030】
本発明に用いるデンドリマーとしては、上記構造上の特徴及び物理化学的性質を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリアミドアミン、ポリリシン、ポリプロピルアミン、ポリエチレンイミン、イプティセン、脂肪族ポリエーテル又は芳香族ポリエーテル等のデンドリマーを挙げることができ、中でもポリアミドアミンデンドリマーが好ましい。これらのデンドリマーは前述のデンドリマーの特徴・性質を備えるほか、分子量を容易に制御することができるため、ホウ素含有化合物の分子設計を行う上で、極めて好適なデンドリマー材料となる。特に、エチレンジアミンを中心核とするポリアミドアミンデンドリマー(PAMAMdendrimer)は、最も早く商品化され、十分にその特性が研究されており、デンドリマー分子の末端部にアミノ基を有している。このため、カルボキシル基や水酸基を有する前記ホウ素リガンドを高分子化するのに都合のよい化合物である。
【0031】
本発明に用いられるデンドリマーの分子直径は50〜100nmの範囲であることが好ましい。分子直径が50nm未満の場合、ホウ素含有化合物が正常組織の毛細血管壁の間隙を通過して細胞毒性を生じるおそれがある。一方、分子直径が100nmを超えると腫瘍組織の毛細血管壁の間隙を通過することができなくなり、腫瘍組織に蓄積し難くなる。
【0032】
本発明に用いられるデンドリマーの世代数は特に制限されないが、腫瘍選択性や集積量の観点から、0〜4世代の範囲が好ましい。また、デンドリマーは、その末端部に4以上の官能基を有するものが好ましく、また、官能基として、アミノ基、水酸基、カルボキシル基等を有することが好ましく、特にアミノ基を有することが好ましい。デンドリマーは、これらの官能基を介してホウ素リガンドと結合する。
【0033】
本発明のホウ素含有化合物及びこれらを有効成分として含有する中性子捕捉療法剤、MRI造影剤は、悪性腫瘍の治療及び診断に有用であり、悪性腫瘍としては、大腸癌、脳腫瘍、頭頚部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、肝癌、胆嚢癌、胆管癌、膵癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、睾丸腫瘍、卵巣癌、子宮癌、甲状腺癌、皮膚癌、悪性黒色腫、骨肉腫、軟部組織肉腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫などが挙げられるが、特に、脳腫瘍、悪性黒色腫、頭頚部癌、肺癌、肝癌、甲状腺癌、皮膚癌等の治療、診断に有用である。なお、本発明の対象疾患はこれらに限定されることはない。
【0034】
本発明の中性子捕捉療法剤において、ホウ素リガンドに含有されるホウ素原子の80%以上が中性子数5のホウ素原子であることが好ましく、95%以上がさらに好ましい。中性子数5のホウ素原子が80%未満であると、熱中性子を照射した際に発生するα線量が不足して、治療効果(殺細胞効果)が不十分となる場合がある。この場合、中性子捕捉療法を複数回にわたり施行する必要があり、コストや患者に与える負担が大きくなる。
【0035】
本発明のMRI造影剤において、ホウ素リガンドに含有されるホウ素原子の90%以上が中性子数6のホウ素原子であることが好ましく、95%以上が更に好ましい。中性子数6のホウ素原子が90%未満になると、腫瘍組織と正常組織との画像コントラストが低下して、腫瘍組織の識別が困難となる場合がある。
【0036】
本発明の中性子捕捉療法剤及びMRI造影剤は、一般的な医療用製剤の形態で用いることができ、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤等の希釈剤あるいは賦形剤等を用いて調製することができる。また、その形態は、使用目的によって適宜選択されるが、例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、注射剤および坐剤等が挙げられる。
【0037】
ホウ素中性子捕捉療法では、本発明の中性子捕捉療法剤をあらかじめ患者に投与して、これらが癌細胞に蓄積した時点で、原子炉を用いて低エネルギーの熱中性子を照射する。また、MRI診断の場合、本発明のMRI造影剤をあらかじめ患者に投与して、これらが癌細胞に蓄積した時点でMRI装置を用いて撮像を行う。
【0038】
上記ホウ素化合物、薬剤の投与方法には特に制限はなく、各種製剤の形態、患者の性別、年齢、疾患の程度およびその他の条件により適宜選択されるが、正常組織への影響や腫瘍組織への蓄積性の観点から、静脈内投与や患部に直接投与する方法が好ましい。
【0039】
本発明のホウ素含有化合物等の投与量は、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度およびその他の条件により適宜選択されるが、通常、有効成分化合物の量として、1日当たり50〜5000mg/kg程度が好ましく、100〜2000mg/kgがより好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、本発明は、かかる実施例、製造例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
(±)-p-ボロノフェニルアラニン420mg(2mmol)、ジオキサン4mlおよび水2mlを100ml容ナス型フラスコに入れ、数分間撹拌した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を結晶が消えるまで滴下した。これに、氷冷下でジ-tert-ブチルジカーボネート480ml(2.4mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。薄層クロマトグラフィー(n-ブタノール:酢酸:ピリジン:水=4:1:1:2)で反応の終了を確認後、氷冷下、5%硫酸水素カリウム水溶液を加えpHを2.3に調整し、酢酸エチルで抽出した。有機層を常法どおり処理して粗生成物を得た。これを酢酸エチル−ヘキサンで再結晶化して、白色結晶の(±)-N-tert-ブトキシカルボニル-p-ボロノフェニルアラニン563mg(収率91%)を得た。以下にRf値、H-NMRデータを示す。
【0042】
薄層クロマトグラフィー;Rf値= 0.8(A,UV,V)
H-NMR(CDOD,δppm);1.36(9H,s,CH×3),2.85-3.18(2H,m,CH),4.34(1H,m,CH),7.21(2H,d,J=7.5Hz,ArH),7.62(2H,d,J=7.5Hz,ArH)
上記のようにして得られた(±)-N-tert-ブトキシカルボニル-p-ボロノフェニルアラニン750mg(2.4mmol)、N-ヒドロキシコハク酸イミド208mg(1.82mmol)およびDMSO(5ml)を窒素置換した30ml容ナス型フラスコに入れ、室温で30分間撹拌した。ここに、氷冷下でジシクロヘキシルカルボジイミド(375mg,1.82mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。これを氷冷し、ポリアミドアミンデンドリマー(0世代)(アルドリッチ社製、分子量:359)207mg(0.4mmol)のDMSO溶液を加えた(ポリアミドアミンデンドリマーのDMSO溶液は、市販のデンドリマーメタノール溶液にDMSOを適量加え、減圧蒸留して、メタノールとDMSOを置換したものである)。これを14日間室温で撹拌し、薄層クロマトグラフィーでデンドリマーの減少を確認した後、副生したジシクロヘキシルウレアを濾去した。濾液をSephadex LH−20を用いたゲルろ過により精製して、白色結晶の(±)-N-tert-ブチルオキシカルボニル-p-ボロノフェニルアラニン結合ポリアミドアミンデンドリマー(世代0)210mgを得た。得られた(±)-N-tert-ブトキシカルボニル-p-ボロノフェニルアラニン結合ポリアミドアミンデンドリマー(0世代)はp-ボロノフェニルアラニンの結合数の異なる化合物の混合物であるが、これは分離せずに以後の実験を行った。以下にRf値、UV吸収、マススペクトル、IR等の物性データを示す。
【0043】
薄層クロマトグラフィー;Rf=0.6〜0.8(E,UV,N)(スポット複数)
UV吸収;220nm(アミド結合),254nm(ベンゼン環)
MS(TOF−MASS);808,1098,1390,1681
IR(KBr、cm-1);3359,3150,2971,1650,1562,1260,669
上記のようにして得られた(±)-N-tert-ブトキシカルボニル-p-ボロノフェニルアラニン結合ポリアミドアミンデンドリマー(0世代)200mgと1M HCl/AcOH溶液50mlを100ml容ナス型フラスコに入れ、5時間撹拌した。薄層クロマトグラフィーでtert-ブトキシカルボニル基が脱保護されていることを確認後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてpH6.2付近に調整し、析出してきた結晶を濾取した。また、濾液を減圧濃縮し、析出してきた結晶を濾取した。これらの結晶を合わせて、無色結晶の(±)-p-ボロノフェニルアラニン結合ポリアミドアミンデンドリマー(0世代)141.5mgを得た。以下にRf値、UV吸収、マススペクトル、IR等の物性データを示す。
【0044】
薄層クロマトグラフィー:Rf=0.4〜0.6(E,UV,N)(スポット複数),
融点;261−262℃(decomp.)
UV吸収;220nm(アミド結合),254nm(ベンゼン環)
MS(TOF−MASS);1282,1090,898,706
IR(KBr、cm-1);3359,3150,2971,1650,1562,1260,669
実施例2
デンドリマーとして、ポリアミドアミンデンドリマー(1世代)(アルドリッチ社製、分子量:1043)200mgを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、(±)-p-ボロノフェニルアラニン結合ポリアミドアミンデンドリマー(1世代)42.5mgを得た。以下にRf値、UV吸収、マススペクトル、IR等の物性データを示す。
【0045】
薄層クロマトグラフィー:Rf=0.2〜0.3(スポット複数)
融点;262−263℃(Decomp.)
UV吸収;220nm(アミド結合)、254nm(ベンゼン環)
MS(TOF−MASS);2734,2542,2350,2158,1966,1774,1582,1390
IR(KBr、cm-1);3921,3801,1867,1518,1121,846,606
実験例1
ホウ素中性子捕捉療法によるin vitro殺細胞試験
in vitroにおける熱中性子線照射による殺細胞効果を調べた。実験には、ラット神経膠肉腫C6培養細胞を用いて、以下のように行った。各化合物をホウ素濃度(10B)が20ppmになるように培養液に加え、培養細胞を6時間培養した。洗浄処理後、細胞数が0.5×10個/mlになるように培養液で希釈し、滅菌したテフロン(登録商標)製チューブに1mlずつ移して、熱中性子線を0〜60分の範囲で照射した。照射後、6mlの培養液を入れたシャーレに、テフロン(登録商標)製のチューブから60μlずつ加え、シャーレ1枚当たりの細胞数が約300個になるように調整し、COインキュベーター内で9日間培養した。培養終了後、コロニーをクリスタルバイオレットで染色し、コロニー数を数えてinvitroでの殺細胞活性を求めた。6時間培養後の培養液のホウ素濃度を即発ガンマ(prompt γ)線測定装置を用いて直接測定することにより求めた。
【0046】
ホウ素中性子捕捉療法によるin vitro殺細胞試験の結果を図1に示す。実施例1及び実施例2ともにp-ボロノフェニルアラニンと同様に殺細胞活性を有している。
【0047】
実験例2
in vitroでの(±)-p-ボロノフェニルアラニン結合ポリアミドアミンデンドリマー(世代1)の細胞取り込み試験
種類の異なる癌細胞に対して、(±)-p-ボロノフェニルアラニン結合ポリアミドアミンデンドリマー(世代1)の取り込み量の測定を行った。invitroでの細胞取り込み試験には、HeLa、Hacat、Ihara、C6の4種の癌細胞を用いた。まず、それぞれ1.0×10個の細胞を24時間培養し、培地を除去した後、 (±)-ボロノフェニルアラニン結合ポリアミドアミンデンドリマー(1世代)190nmolを含んだ培地に交換した。24時間培養し、培地を除去して細胞をPBS(−)により洗浄した。細胞計数・細胞ペレット(2.0×10cells/pellet)を作成し、これに60%過塩素酸を0.3ml、30%過酸化水素水を0.6ml加え、75℃のヒートブロックによる加熱を16時間行い、細胞を灰化した。放冷後、超純水を加えて全量2mlにし、0.45μlのフィルターでろ過して細胞内のホウ素濃度をICP測定により求めた。
【0048】
図2に示すように、 (±)-p-ボロノフェニルアラニン結合ポリアミドアミンデンドリマー(1世代)は、C6細胞にはほとんど取り込まれないがヒトメラノーマ細胞であるIhara細胞には高選択的に取り込まれる。p-ボロノフェニルアラニンではこのような選択性は見られない(データ図示せず)。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ホウ素中性子捕捉療法によるin vitro殺細胞試験結果を示す図
【図2】in vitroでの(±)-p-ボロノフェニルアラニン結合ポリアミドアミンデンドリマー(1世代)の細胞取り込み試験結果を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1以上のホウ素リガンドを結合したデンドリマーよりなるホウ素含有化合物。
【請求項2】
ホウ素リガンドが、p-ボロノフェニルアラニン、p-ボロノフェニルアラニノール、o-カルボラニルアラニン及びo-カルボラニルアラニノールよりなる群から選ばれる請求項1記載のホウ素含有化合物。
【請求項3】
ホウ素リガンドがp-ボロノフェニルアラニンである請求項1又は2記載のホウ素含有化合物。
【請求項4】
デンドリマーがポリアミドアミンデンドリマーである請求項1〜3のいずれかに記載のホウ素含有化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のホウ素含有化合物を有効成分として含有する中性子捕捉療法剤。
【請求項6】
ホウ素リガンドに含有されるホウ素原子の80%以上が中性子数5のホウ素原子である請求項5記載の中性子捕捉療法剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のホウ素含有化合物を有効成分として含有するMRI造影剤。
【請求項8】
ホウ素リガンドに含有されるホウ素原子の90%以上が中性子数6のホウ素原子である請求項7記載のMRI造影剤。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−96870(P2006−96870A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284635(P2004−284635)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月30日 社団法人日本農芸化学会主催の「日本農芸化学会2004年度(平成16年度)大会」において文書をもって発表
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】