説明

ボルト締結構造

【課題】 ボルトを一方の接合部材の雌ねじ部に螺合して、複数の接合部材を接合する場
合に、この雌ねじ部を有する一方の接合部材の雌ねじ部用穴の周辺における接合面圧の分
布の均一化、接合面における構造減衰作用の増加を図って低騒音化することができるボル
ト締結構造を提供する。
【解決手段】 複数の接合部材10,20をボルト30を用いて締結するボルト締結構造
1A,1B,1Cにおいて、前記ボルト30に螺合する雌ねじ部11を有する第1接合部
材10と、該第1接合部材10と接する第2接合部材20との少なくとも一方の接合面1
2,22において、前記ボルト30が挿通する部分に凹部13,23を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのラダーフレーム構造を持つシリンダブロックの低騒音化に役立つ
ボルト締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンは、シリンダヘッド、シリンダブロック、オイルパン等でその本体を構成して
いるが、剛性の向上を目指して、ラダーフレーム構造を持つシリンダブロックがディーゼ
ルエンジンを中心に多く使用されている。このラダーフレーム構造のシリンダブロックは
、図10に示すように、ベアリングキャップ部20を梯子状に連結した構成をしており、
この構成により、エンジンブロックの剛性の向上とクランク軸の支持剛性の向上を図って
いる。
【0003】
そして、エンジンにおいては、シリンダヘッドとシリンダブロックをボルト締めにより
締結しており、この締結構造において、様々な工夫がなされている。
【0004】
その一つに、シリンダブロックとシリンダヘッドの熱膨張率の差に基づく、熱変形を少
なくするために、円筒形の位置決めピンをボルト穴と同心状に立設し、この位置決めピン
を熱膨張の少ない吸気側に設けたエンジンのシリンダヘッド位置決め装置が提案されてい
る(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、クランクケースに植設したスタッドボルトに、シリンダー及びシリンダーヘッド
のボルト孔を挿入して、スタッドボルトの上端にナットを締着する際に、エンジンの運転
中の振動で、スタッドボルトが傾いて、シリンダー等のボルト孔に接触して振動騒音が発
生するのを防止するために、シリンダーのボルト孔の両端部やシリンダーヘッドのボルト
孔の周囲に弾性筒を挿入し、この弾性筒の内周にスタッドボルトを当てるようにしたエン
ジンのシリンダー及びシリンダーヘッド取着装置が提案されている(例えば、特許文献2
参照。)。
【0006】
一方、発明者らは、実験などにより次のような知見を得た。
【0007】
つまり、エンジンの振動特性及び騒音に対して、シリンダヘッド、シリンダブロック、
オイルパン等の接合部材の間の接合部の影響が大きいことが分かってきており、接合面に
おける圧力分布がより均一であり、実際に圧力を受けるている面積である真実接触面積が
より広い程、接合面における減衰作用は大きくなる。つまり、接触面積が広く、接触圧力
がより広範囲となる程、接合面間の微小すべりによる摩擦減衰作用によると考えられる接
合部の摩擦減衰が大きくなり、振動抑制効果と低騒音化効果が増すことが分かった。
【0008】
このような観点から、ボルト締め付け状態を詳細に観察すると、図11に示すように、
接合部材10X,20Xを重ねて、ボルト30を第2接合部材20Xのボルト穴21を通
して、第1接合部材10Xの雌ねじ部11に螺合して、ボルト30を締め付けていくと、
次第に、接合面においてボルト30に螺合する雌ねじ部11の周辺が変形して盛り上がっ
てくる。そして、図7に点線Bで示すように、雌ねじ部11周辺の接触面圧が上昇し、雌
ねじ部11から半径方向に離れた部分では接触面圧が著しく低下する。この状態において
は、雌ねじ部11周辺部のみで接合面圧を支えているため、接合部材10X,20X同士
の接触力が弱くなり、接合部で発生する構造減衰作用が低くなる。
【特許文献1】実開昭58−75936号公報
【特許文献2】特開2002−285822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ボルトを一方の接合部材の雌ねじ部に螺合して、複数の接合部材を接
合する場合に、この雌ねじ部を有する一方の接合部材の雌ねじ部用穴の周辺における接合
面圧の分布の均一化、接合面における構造減衰作用の増加を図って低騒音化することがで
きるボルト締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明のボルト締結構造は、複数の接合部材をボルトを用
いて締結するボルト締結構造において、前記ボルトに螺合する雌ねじ部を有する第1接合
部材と、該第1接合部材と接する第2接合部材との少なくとも一方の接合面において、前
記ボルトが挿通する部分に凹部を形成して構成される。
【0011】
この凹部は、第1接合部材の盛り上がり変形を吸収できる範囲、即ち、盛り上がり変形
を逃げられる範囲の空間を形成できればよく、円盤形状(断面が矩形形状)でも皿状(図
8,9に示すような断面が三角形や円弧や楕円弧等)でもよい。この凹部は座ぐり加工で
加工できる。なお、その平面形状は、通常は加工が容易であるので円形に形成するが、接
合部位によって制限を受けたりする場合には、四角形や六角形等の多角形やその他の形状
であってもよい。
【0012】
この構成によれば、押えボルト及び植込みボルトのボルトによる接合において、凹部で
接合面における第1接合部材の雌ねじ部及び雌ねじ部を設けた雌ねじ部用穴の周辺の盛り
上がり変形を吸収して、この周辺における接合面圧の分布を均一化でき、この接合面にお
ける構造減衰作用の増加を図ることができる。
【0013】
そして、この凹部は、ボルトの締め付け力によって生じる、第1接合部材の接合面にお
ける雌ねじ部(雌ねじ部を備えた雌ねじ部用穴を含む)の周辺の盛り上がり変形を吸収で
きる大きさで有れば良いが、前記ボルトにおける首下長さをL(mm),ネジ山のピッチ
をp(mm),ヤング率をE(kgf/mm2 )としたときに、前記凹部の深さを、0.
18×L/E(mm)以上で、かつ、4.0×p(mm)以下とし、前記凹部を円形に形
成する場合において、前記ボルトにおけるネジ山のピッチをp(mm),ボルト径をD(
mm)としたときに、前記凹部の半径を、0.5×D+1.5×p(mm)以上、0.5
×D+4.0×p(mm)以下とすると、より適切な接合面圧分布を得ることができ、構
造減衰を高める効果が大きいので、この範囲の寸法で形成することが好ましい。なお、こ
のボルト径Dは、雄ねじ外径のことをいう。
【0014】
凹部の深さが、0.18×L/E(mm)よりも小さい場合には、第1接合部材の盛り
上がりを十分に吸収しきれず、4.0×p(mm)よりも大きい場合には、第2接合部材
とねじ山噛み合い部が離れ過ぎるために、接合部の剛性が低下してしまい、効果が得られ
ない。この範囲は、盛り上がり変形の現象を解析して、実用に便利な簡略式として求めた
ものである。なお、第1接合部材と第2接合部材の両方に凹部を設ける場合には、両方の
凹部の深さの和がこの凹部の深さに対応することになる。
【0015】
また、凹部の半径が、0.5×D+1.5×p(mm)以上、0.5×D+4.0×p
(mm)以下の範囲が、最も接触面圧が上がる範囲であり、盛り上がり変形の現象を解析
して、実用に便利な簡略式として求めたものである。この範囲において盛り上がり変形を
逃げることにより面圧の均一化を図ることができる。なお、この範囲は、エンジン構造部
品に使われるような材料であれば、殆ど変化しない。
【0016】
そして、このボルト締結構造は、エンジン構造体に使用される押さえボルト、例えば、
エンジンとトランスミッションをつなぐボルト締結部や、エンジン補機をシリンダブロッ
クに取り付けている押さえボルト等に対してもすべて適用が可能であり、ある程度の効果
を発揮するが、前記接合部材を結合して得られる部材がエンジンのラダーフレーム構造を
持つシリンダブロックである場合には、特に効果が大きく、シリンダブロック構造の剛性
を下げることなく、振動や騒音に対する構造減衰の増大を図ることができる。この構造減
衰の増大により、エンジンから発せられる騒音を大幅に低減できる。この効果はエンジン
ブロックが放射する騒音が最も大きい周波数域に顕著に現れるので、エンジン騒音の大幅
な低減に寄与することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のボルト締結構造によれば、ボルトを第1接合部材の雌ねじ部に螺合して、複数
の接合部材を接合する場合に、凹部で接合面における第1接合部材の雌ねじ部及び雌ねじ
部を設けた雌ねじ部用穴の周辺の盛り上がり変形を吸収して、この周辺における接合面圧
の分布を均一化して、振動や騒音に対する接合面における構造減衰作用の増加を図ること
ができる。
【0018】
そして、本発明のボルト締結構造をラダーフレーム構造を持つシリンダブロックに適用
すると、シリンダブロック構造の剛性を下げることなく、振動や騒音に対する構造減衰の
増大を図ることができ、エンジン騒音を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施の形態のボルト締結構造について、エンジンのラダーフレーム
構造を持つシリンダブロックを備えたエンジンのボルト締結構造を例にして図面を参照し
ながら説明する。
【0020】
図10に示すように、ラダーフレーム構造を持つシリンダブロックは、上部のシリンダ
ブロック部を構成する第1接合部材10と下部のラダーフレーム部を構成する第2接合部
材20をボルト30で接合して形成される。このボルト30は、下側から第2接合部材2
0のボルト穴21を挿通して、第1接合部材10の雌ねじ部11に螺合する。
【0021】
図1及び図2に示す第1の実施の形態のボルト締結構造1Aでは、締結ボルト30が螺
合する雌ねじ部11を有する第1接合部材10において、接合面12の雌ねじ部11の周
囲に凹部13を設ける。この凹部13は、締結ボルト30における首下長さをL(mm)
,ネジ山のピッチをp(mm),ヤング率(縦弾性係数)をE(kgf/mm2 ),ボル
ト径(雄ねじ外径)D(mm)としたときに、深さh(mm)が(0.18×L/E)≦
h≦(4.0×p)となるように、また、この凹部13を円形に形成する場合においては
、凹部13の半径r(mm)を、(0.5×D+1.5×p)≦r≦(0.5×D+4.
0×p)の範囲内になるように形成する。
【0022】
凹部の深さhが、この範囲よりも小さい場合には、第1接合部材10の盛り上がりを十
分に吸収しきれず、大きい場合には、第2接合部材20とねじ山噛み合い部が離れ過ぎる
ために、接合部の剛性が低下してしまい、効果が得られない。
【0023】
この凹部の半径rは、盛り上がり変形の現象を解析して、最も接触面圧が上がる範囲を
実用に便利な簡略式として求めたものであり、この範囲において盛り上がり変形を逃げる
ことにより面圧の均一化を図ることができる。なお、この範囲は、エンジン構造部品に使
われるような材料であれば、殆ど変化しない。
【0024】
図3及び図4に示す第2の実施の形態のボルト締結構造1Bでは、雌ねじ部11を有す
る第1接合部材10と接合する第2接合部材20の接合面22において、締結ボルト30
が挿通するボルト孔21の周囲に凹部23を設ける。この凹部23も、第1の実施の形態
の凹部13と同様に、深さh(mm)が(0.18×L/E)≦h≦(4.0×p)、半
径r(mm)が(0.5×D+1.5×p)≦r≦(0.5×D+4.0×p)の範囲内
になるように形成する。
【0025】
図5及び図6に示す第3の実施の形態のボルト締結構造1Cでは、締結ボルト30が螺
合する雌ねじ部11を有する第1接合部材10において、接合面12の雌ねじ部11の周
囲に凹部13を設けると共に、この第1接合部材10と接合する第2接合部材20におい
ても、締結ボルト30が挿通するボルト孔21の周囲に凹部23を設ける。
【0026】
この凹部13,23は、双方の深さの和h(mm)が(0.18×L/E)≦h≦(4
.0×p)、双方の半径r(mm)が(0.5×D+1.5×p)≦r≦(0.5×D+
4.0×p)の範囲内になるように形成する。なお、この半径rは双方で同じとすること
が加工上は好ましいが、同じにしなくてもよい。
【0027】
これらの構成によれば、締結ボルト30を雌ねじ部11に螺合して締め付けた時に、図
2,図4,図6に模式的に示すように、第1接合部材10の雌ねじ部11に締結ボルト3
0の締め付けによるボルト軸方向の力が作用し、雌ねじ部11近傍に盛り上がりが発生す
るが、凹部13又は凹部23の少なくとも一方が設けられているため、盛り上がり部分を
この凹部13や凹部23で吸収できるので、この凹部13や凹部23の外側における第1
接合部材10と第2接合部材20との間の接合面圧を均一化することができる。
【0028】
図7に示す本発明のボルト締結構造1A,1B,1C等の接合面圧(実線A)と、従来
技術の凹部無しの接合面圧(破線B)とを比較すれば分かるように、凹部13,23を設
けることにより、雌ねじ部11及びボルト穴21の周辺において、接合面圧が著しく上昇
するのを抑えることができる。
【0029】
従って、この接合面圧の均一化により、エンジンの振動に対する構造減衰を増加して、
エンジンから発せられる騒音は大幅に低減することができる。この効果はエンジンブロッ
クが放射する騒音が最も大きい周波数域に顕著に現れるので、エンジンの騒音の発生を大
幅に減少できる。
【0030】
なお、本発明のボルト締結構造は、図10に示すようなラダーフレーム構造を有するシ
リンダブロックに適用すると、特に効果が大きいが、これに限定されず、エンジン構造体
に使用される押えボルトにはすべて適用が可能であり、例えば、エンジンとトランスミッ
ションをつなぐボルト締結部や、エンジン補機をシリンダブロックに取り付ける押えボル
ト等への適用も可能である。更に、エンジン構造体以外のボルトを使用した押えボルトに
よる締結構造や植込みボルトによる締結構造等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る第1実施の形態のボルト締結構造を示す部分断面図である。
【図2】図1のボルト締結構造におけるボルト締め付け状態を模式的に示す部分断面図である。
【図3】本発明に係る第2実施の形態のボルト締結構造を示す部分断面図である。
【図4】図3のボルト締結構造におけるボルト締め付け状態を模式的に示す部分断面図である。
【図5】本発明に係る第3実施の形態のボルト締結構造を示す部分断面図である。
【図6】図5のボルト締結構造におけるボルト締め付け状態を模式的に示す部分断面図である。
【図7】雌ねじ部及びボルト穴の周辺の半径方向の接合面圧を模式的に示す図である。
【図8】本発明に係る別の実施の形態のボルト締結構造を示す部分断面図である。
【図9】本発明に係る別の実施の形態のボルト締結構造を示す部分断面図である。
【図10】ラダーフレーム構造を持つシリンダブロックの一例を示す斜視図である。
【図11】従来技術のボルト締結構造におけるボルト締め付け状態を模式的に示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 シリンダブロック
10 第1接合部材
11 雌ねじ部
12 接合面
13 凹部
20 第2接合部材
21 ボルト穴
22 接合面
23 凹部
30 ボルト
D ボルト径(mm)
E ボルトのヤング率(kgf/mm2
L 締結ボルトの首下長さ(mm)
h 凹部の深さ(mm)
p ボルトのネジ山のピッチ(mm)
r 凹部の半径(mm)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の接合部材をボルトを用いて締結するボルト締結構造において、前記ボルトに螺合
する雌ねじ部を有する第1接合部材と、該第1接合部材と接する第2接合部材との少なく
とも一方の接合面において、前記ボルトが挿通する部分に凹部を形成したことを特徴とす
るボルト締結構造。
【請求項2】
前記ボルトにおける首下長さをL(mm),ネジ山のピッチをp(mm),ヤング率を
E(kgf/mm2 )としたときに、前記凹部の深さを、0.18×L/E(mm)以上
で、かつ、4.0×p(mm)以下とすることを特徴とする請求項1記載のボルト締結構
造。
【請求項3】
前記凹部を円形に形成する場合において、前記ボルトにおけるネジ山のピッチをp(m
m),ボルト径をD(mm)としたときに、前記凹部の半径を、0.5×D+1.5×p
(mm)以上、0.5×D+4.0×p(mm)以下とすることを特徴とする請求項1又
は2に記載のボルト締結構造。
【請求項4】
前記接合部材を結合して得られる部材がエンジンのラダーフレーム構造を持つシリンダ
ブロックであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のボルト締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−2828(P2006−2828A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179048(P2004−179048)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】