説明

ポリアセン化合物及びその製造方法、並びにそれを用いた有機電子デバイス

【課題】光あるいは電気的な機能を有効に発揮する、新規な構造のポリアセン化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表わされることを特徴とする、ポリアセン化合物。


(式(1)において、
1、X2は各々独立に、S原子、Se原子、又はTe原子を表わす。
1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2は各々独立に、水素原子又は一価の有機基を表わす。但し、X1、X2の結合する環に隣接する環のRm1、Rm2、Rn1、Rn2、R1、R4、R5、R8は水素原子である。
a、Rbは各々独立に、一価の有機基を表わす。
m、nは、0≦m≦3、0≦n≦3、1≦m+nを満たす整数を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素や有機半導体等の材料として用いることができる、新規なポリアセン化合物及びその製造方法、並びにそれを用いた有機電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
直線状にベンゼン環が縮合したポリアセン化合物は、色素や有機半導体等の材料として使用できることが、古くから知られている。近年では、高い半導体特性を利用して、トランジスタや太陽電池への応用が検討されている。
【0003】
従来、有機トランジスタ等に応用されたポリアセン化合物の例としては、テトラセン(又はナフタセン)、ペンタセンが主であり、分子長の短いアントラセンやナフタレンを用いた例はほとんど見られない。これは、アントラセン等は蒸気圧が高く良好な膜を得るのが難しいことや、HOMO準位が低く金属電極から電荷を注入することが難しいこと等が原因と考えられる。一方、分子長の長い(ヘキサセン以上の)ポリアセン化合物の例も非常に少ないが、これは合成が難しく、材料が得難いことが原因と考えられる。
【0004】
また、様々な置換基を有するポリアセン化合物の合成も試みられている。例として、非特許文献1には、以下の反応式(X)に示すルートによって、ビスメチルチオアントラセン及びビスメチルテルルアントラセンを合成できることが報告されている。
【化1】

【0005】
【非特許文献1】L. Engman、J.S.E. Hellberg、Journal of Organometallic Chemistry、1985年、No.296、p.357〜366
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1記載の方法では原料としてアントラセンのジブロミドを用いているが、テトラセン以上のポリアセン化合物では選択的にジブロミドを合成して単離精製することは難しことから、アントラセン以外のポリアセン化合物に適用するのは極めて困難であると考えられる。
以上の背景から、色素や有機半導体等の材料として適用可能な、新規な構造のポリアセン化合物を合成する技術が求められていた。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明は、光あるいは電気的な機能を有効に発揮する、新規な構造のポリアセン化合物及びその製造方法を提供することを、その目的の一つとする。
また、本発明は、上述のポリアセン化合物を用いた有機電子デバイスを提供することを、その目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、後述する式(2)の(A)で表わされる部分構造を有するジアルデヒド化合物と、(B)で表わされる部分構造を有するジケトン化合物との縮合反応を用いることにより、新規な構造のポリアセン化合物、具体的には、硫黄原子、セレン原子、又はテルル原子を結合位置に有する有機基を2つ、同一環のパラ位に有するテトラセン以上のポリアセン化合物を容易に合成できることを見出した。更に、得られたポリアセン化合物が光あるいは電気的な機能を有効に発揮することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の趣旨は、下記一般式(1)で表わされることを特徴とする、ポリアセン化合物に存する(請求項1)。
【化2】

(式(1)において、
1、X2は各々独立に、S原子、Se原子、又はTe原子を表わす。
1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2は各々独立に、水素原子又は一価の有機基を表わす。但し、X1、X2の結合する環に隣接する環のRm1、Rm2、Rn1、Rn2、R1、R4、R5、R8は水素原子である。
a、Rbは各々独立に、一価の有機基を表わす。
m、nは、0≦m≦3、0≦n≦3、1≦m+nを満たす整数を表わす。)
【0010】
また、本発明の別の趣旨は、上述のポリアセン化合物を製造する方法であって、下記反応式(2)で表わされる縮合反応を利用することを特徴とする、ポリアセン化合物の製造方法に存する(請求項2)。
【化3】

(式(2)において、(A)、(B)、(C)はそれぞれ独立に、化合物の部分構造を表わし、点線は他の任意の基との結合を表わす。)
【0011】
また、本発明の別の趣旨は、上述のポリアセン化合物を用いたことを特徴とする、有機電子デバイスに存する(請求項3)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硫黄原子、セレン原子、又はテルル原子を含有する新規な構造のポリアセン化合物を効率的に製造することができる。得られたポリアセン化合物は光或いは電気的な機能を有効に発揮することから、有機電子デバイス等の用途に好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0014】
〔I.ポリアセン化合物〕
本発明に係るポリアセン化合物は、下記式(1)で表わされる構造を有する。
【化4】

【0015】
式(1)において、X1、X2は、硫黄(S)原子、セレン(Se)原子、又はテルル(Te)原子を表わす。X1とX2は同じであっても良く、異なっていても良いが、製造の容易さの観点からは同じであることが好ましい。
【0016】
また、式(1)において、R1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2は各々独立に、水素原子又は一価の置換基を表わす。
一価の置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、カルボニルオキシ基、アシル基、アミノ基、水酸基、チオール基、一価の有機基等が挙げられる。
【0017】
一価の有機基としては、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基;炭素数6〜30のアリール基;炭素数4〜30の複素環基;前述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基を有するアルコキシ基又はアリーロキシ基;前述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基を有するアルキルチオ基又はアリールチオ基;前述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基を有するカルボン酸エステル基;前述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基を有するスルホン酸エステル基;前述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基によって置換された一級〜三級の置換シリル基;前述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基によって置換された一級〜三級の置換アミノ基が挙げられる。なお、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の脂肪族炭化水素基、又はこれらの脂肪族炭化水素基をその構造内に含む基の場合、その脂肪族炭化水素基は直鎖状、分岐状、環状のいずれの構造を有するものでも良い。
【0018】
なお、これらの有機基は、別の置換基によって置換されていても良い。この置換基の種類は、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて特に制限されないが、例としては、ハロゲン原子;ニトロ基;シアノ基;スルホン酸基;カルボニルオキシ基;カルボキシル基;アミノ基;アルキル基;アルケニル基;アルキニル基;アリール基;複素環基;アルコキシ基;アリールオキシ基;アルキルチオ基;アリールチオ基;カルボン酸エステル基;スルホン酸エステル基;アルキル及び/又はアリール置換シリル基;アルキル及び/又はアリール置換アミノ基;アミド基などが挙げられる。なお、この置換基がアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の脂肪族炭化水素基、又はこれらの脂肪族炭化水素基をその構造内に含む基である場合、その脂肪族炭化水素基は直鎖状、分岐状、環状のいずれの構造を有するものでも良い。
【0019】
なお、R1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2が一価の有機基である場合、その炭素数は、上述の更なる置換基を有する場合にはその置換基も含めた有機基全体の値で、通常30以下、好ましくは20以下の範囲である。
【0020】
具体的に、アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基(n−プロピル基、i−プロピル基)、ブチル基(n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基)、ペンチル基(n−ブチル基等)、ヘキシル基(n−ヘキシル基等)、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基などが挙げられる。また、置換アルキル基の例としては、トリフルオロメチル基等のハロゲン置換アルキル基;2−メトキシエチル基等のアルコキシアルキル基;2−ニトロエチル基等のニトロ基置換アルキル基;シアノメチル基等のシアノ基置換アルキル基;3−メトキシカルボニルプロピル基等のアルコキシカルボニル基置換アルキル基;−CH2SO3Na、−CH2CH2COOK等の金属含有置換アルキル基などが挙げられる。
【0021】
アルケニル基の例としては、エテニル基、2−プロペニル基、1,3−ブタジエニル基等が挙げられる。また、置換アルケニル基の例としては、4−メトキシ−2−ブテニル基等のアルコキシアルケニル基などが挙げられる。
【0022】
アルキニル基の例としては、エチニル基、2−プロピニル基等が挙げられる。
【0023】
アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、置換アリール基の例としては、4−メトキシフェニル基等のアルコキシアリール基;3−トリフルオロメチルフェニル基等のハロゲン置換アルコキシアリール基などが挙げられる。
【0024】
複素環基の例としては、チエニル基等の含硫黄複素環基;フリル基、ピラニル基等の含酸素複素環基;ピロリル基、ピリジル基等の含窒素複素環基;セレノイル基等の含セレン複素環基;イソチアゾイル基等の異種へテロ原子を含む複素環基などが挙げられる。また、置換複素環基の例としては、3−メチルチエニル基等のアルキル置換複素環基などが挙げられる。
【0025】
無置換又は置換のアルコキシ基の例としては、上に例示した各種の無置換又は置換のアルキル基が酸素原子に結合して得られる各種のアルコキシ基が挙げられる。
【0026】
無置換又は置換のアリールオキシ基の例としては、上に例示した各種の無置換又は置換のアリール基が酸素原子に結合して得られる各種のアリールオキシ基が挙げられる。
【0027】
無置換又は置換のアルキルチオ基の例としては、上に例示した各種の無置換又は置換のアルキル基が硫黄原子に結合して得られる各種のアルキルチオ基が挙げられる。
【0028】
無置換又は置換のアリールチオ基の例としては、上に例示した各種の無置換又は置換のアリール基が硫黄原子に結合して得られる各種のアリールチオ基が挙げられる。
【0029】
アルキル及び/又はアリール置換シリル基の例としては、上に例示した各種の無置換又は置換のアルキル基及び/又はアリール基が1〜3個、ケイ素原子に結合して得られる各種の置換シリル基が挙げられる。
【0030】
カルボン酸エステル基の例としては、上に例示した各種の無置換又は置換のアルキル基又はアリール基が、カルボン酸基(−COOH)の水素原子に置換して得られる各種のカルボン酸エステル基が挙げられる。
【0031】
スルホン酸エステル基の例としては、上に例示した各種の無置換又は置換のアルキル基又はアリール基が、スルホン酸基(−S(=O)2−OH)の水素原子に置換して得られる各種のスルホン酸エステル基が挙げられる。
【0032】
アルキル及び/又はアリール置換アミノ基の例としては、上に例示した各種の無置換又は置換のアルキル基及び/又はアリール基が1個又は2個、窒素原子に結合して得られる各種の置換アミノ基が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、R1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2としては、合成の容易さと、半導体に用いられた場合の特性の面から、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基が好ましい。ハロゲン原子の場合、中でもフッ素原子、塩素原子が特に好ましい。アルキル基の場合、中でも直鎖状のものが特に好ましく、また、その炭素数が通常20以下、中でも12以下のものが特に好ましい。
【0034】
但し、後述する製造方法(本発明の製造方法)によって本発明のポリアセン化合物を製造するためには、X1、X2の結合する環に隣接する環に結合するRm1、Rm2、Rn1、Rn2、R1、R4、R5、R8は、水素原子である必要がある。
【0035】
また、式(1)において、m、nは、0≦m≦3、0≦n≦3、1≦m+nを満たす整数を表わす。但し、m、nが大きいものは、溶解度が小さくなるため、合成や精製が難しくなる傾向があることから、m及びnは何れも2以下であることが好ましい。
【0036】
また、合成の容易さの観点からは、m=nであることが好ましい。この場合、左右の環に接続する置換基が、左右対称又は中心対称になっていることが特に好ましい(即ち、R1=R8、R2=R7、R3=R6、R4=R5、Rm1=Rn1、Rm2=Rn2、又は、R1=R5、R2=R6、R3=R7、R4=R8、Rm1=Rn2、Rm2=Rn1であることが好ましい。)。
【0037】
なお、n及び/又はmが2以上の場合、Rm1・Rm2、及び/又は、Rn1・Rn2が、それぞれ2組以上存在することになるが、これらは各々独立であり、全て同じであっても互いに異なっていても良い。
【0038】
具体的に、Rm1・Rm2が結合する環の繰り返し構造を例に取って説明すると、mが2の場合(下記式(i)参照)、Rm1・Rm2が結合する環の繰り返し構造が2つ存在することになるため、Rm1・Rm2も2組存在することになる(下記式(ii)参照。ここでは2組のRm1・Rm2をそれぞれRm11・Rm12、Rm21・Rm22と表わしている。)。ここでRm11とRm21、Rm12とRm22は互いに同じであっても良く、異なっていても良い。勿論、mが3以上の場合や、nが2以上の場合も同様である。
【0039】
【化5】

【化6】

【0040】
また、式(1)において、Ra、Rbは各々独立に、一価の有機基を表わす。一価の有機基の例としては、上述のR1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2について例示した有機基と同様の基が挙げられる。
【0041】
なお、これらの有機基は、別の置換基によって置換されていても良い。置換基の例としては、上述のR1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2について例示した置換基と同様の基が挙げられる。
【0042】
中でも、Ra、Rbとしては、合成の容易さと、半導体に用いられた場合の特性の面から、アルキル基又はアリール基が好ましい。アルキル基の場合、中でも直鎖状のものが特に好ましく、また、その炭素数が通常20以下、中でも12以下、さらに好ましくは6以下のものが特に好ましい。アルキル基は置換されていても良く、置換基としてはアルキル及び/又はアリール置換シリル基が好ましい。アリール基としては、フェニル基が好ましい。
【0043】
また、上述のR1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2、Ra、Rbのうち、隣り合う環に結合した何れか2つ以上が、互いに結合して環を形成していても良い。
【0044】
なお、式(1)で表わされる本発明のポリアセン化合物の分子量は特に制限されないが、通常2000以下であることが好ましい。更に好ましくは1000以下である。分子量が2000より大きいと、高純度のものを得ることが困難になる。
【0045】
なお、式(1)で表わされる本発明のポリアセン化合物は、単独の分子(モノマー)として存在していても良いが、上述のR1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2、Ra、Rb(以下これらを総称して「置換基R」という。)を介して、二つ以上の分子が互いに結合しオリゴマーや高分子を形成していても良い。この場合、置換基Rの何れかが主鎖を形成し、式(1)のポリアセン骨格部分が側鎖としてぶら下がっていてもよく、ポリアセン骨格部分が置換基Rの何れかを介して高分子やオリゴマーの主鎖を形成していても良い。また、結合するポリアセン化合物の数も特に制限されず、2個〜10個程度のポリアセン化合物が結合してなるオリゴマーであっても、それ以上のポリアセン化合物が結合してなる高分子であってもよい。これらのオリゴマーや高分子は溶解性が良好で、成膜性に優れた特性が期待できる。但し、有機半導体材料として用いる場合には、ポリアセン骨格部分が整列して配向していることが望ましい。
【0046】
本発明のポリアセン化合物の好ましい例を以下に示す。但し、本発明のポリアセン化合物はこれらの例示化合物に限定される訳ではない。
【化7】

【0047】
アントラセンやペンタセン等の通常の無置換ポリアセンの結晶構造は、隣り合うポリアセン環が直交に近い配置(herringbonc stacking もしくは edge-to-face π-π stacking)を取ることが知られている。有機半導体として高い特性を示すためには、分子のπ電子間の相互作用が大きく、分子間の電荷の移動が容易なものが望ましい。これに対して、本発明のポリアセン化合物は、硫黄原子、セレン原子、又はテルル原子を含んでいるために、その原子間のn−σ*軌道間相互作用により分子が二次元上に配向する為、ポリアセン環が平行に重なる傾向が強くなり(face-to-face π-π stacking)、π電子間の相互作用も強くなることが期待され、高い半導体特性を得られると期待される。
【0048】
〔II.ポリアセン化合物の製造方法〕
上に詳述した本発明のポリアセン化合物を製造する方法は特に制限されないが、中でも、下記反応式(2)で表わされる縮合反応を利用する方法を用いて製造することが好ましい。以下、この製造方法(以下、適宜「本発明のポリアセン化合物の製造方法」或いは単に「本発明の製造方法」と略称する。)について説明する。
【0049】
【化8】

(上記式(2)において、(A)、(B)、(C)はそれぞれ独立に、化合物の部分構造を表わし、点線は他の任意の基との結合を表わす。)
【0050】
以下、まずは本発明のポリアセン化合物の中でも、上記式(1)のm及びnがともに1である化合物(ペンタセン化合物)を合成する場合を例として、本発明の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、以下の反応式に示すように、上記式(2)の反応を第1段階とする、4段階の工程(Step−1〜Step−4)からなる。なお、以下の説明及び反応式において、式(1)のX1とX2とを特に区別しない場合には、総称してXで表わす。同様に、式(1)のRaとRbとを特に区別しない場合には、総称してRで表わす。また、説明の便宜上、式(1)のR1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2については、特に断りの無い限り全て水素原子として示している。
【0051】
【化9】

【0052】
<Step−1>
本ステップは、上記式(2)の反応を利用して、ポリアセン化合物の基本骨格となるポリアセンキノン化合物(本例では6,13−ペンタセンキノン)を形成する反応である。
【0053】
原料となる化合物(反応基質)としては、部分構造(A)を有する化合物(以下、適宜「化合物(A)」という。)と、部分構造(B)を有する化合物(以下、適宜「化合物(B)」という。)とを用いる。化合物(A)及び化合物(B)の種類及び比率は、目的とするポリアセン化合物の骨格に合わせて適切に選択する。本例の様にm=n=1のペンタセン化合物を合成する場合は、化合物(A)としてo−フタルアルデヒドを、化合物(B)としてシクロヘキサン−1,4−ジオンをそれぞれ選択し、これらを2:1のモル比で使用する。
【0054】
本ステップの反応は、通常は塩基の存在下で行なう。塩基の種類は特に制限されないが、強塩基が好ましい。例としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。塩基の使用量は特に制限されないが、全ホルミル基の通常2モル%以上、好ましくは5モル%以上、また、通常100モル%以下、好ましくは50モル%以下の範囲で使用する。塩基は通常2〜20%程度の水溶液にして使用する。
【0055】
反応には通常、反応溶媒を用い、これに基質を溶解又は分散させた系に、上述の塩基を共存させて反応を行なわせる。基質と塩基を反応溶媒に加える順序は特に制限されず、何れを先に加えても良く、同時に加えても良い。
【0056】
反応溶媒の種類は特に制限されず、基質を好適に溶解又は分散させて所望の反応を起させることができ、且つ、基質や塩基、生成物に対して好ましからぬ反応を生じないものであれば、任意のものを用いることができる。例としては、水、有機溶媒などが挙げられる。溶媒は一種類を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いても良い。中でも、基質と塩基をともに好適に溶解又は分散させる観点からは、水溶性有機溶媒と水との混合溶媒を用いることが好ましい。水溶性有機溶媒としては、アルコール(メタノール、エタノール等)、エーテル(ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル等)、THF(テトラヒドロフラン)などが好ましい。中でもアルコールが好ましい。
【0057】
反応雰囲気は特に制限されないが、通常は窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の、不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。反応温度は特に制限されないが、通常は室温以上、使用する反応溶媒の沸点以下の範囲で行なう。中でも、反応性を向上させる観点からは、50℃以上が好ましい。反応圧力も特に制限されず、常圧、減圧、加圧の何れであってもよいが、反応を促進させる観点からは常圧から加圧の条件下で行なうことが好ましい。
【0058】
<Step−2>
本ステップは、Step−1により得られたポリアセンキノン化合物について、還元剤を用いてキノンを水酸基に還元し、ジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物(本例では6,13−ジヒドロキシ−6,13−ジヒドロペンタセン)とする反応である。
【0059】
還元剤の種類は特に制限されないが、例としては水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)や水素化リチウムアルミニウム(Li(AlH4)。以下適宜「LAH」と略称する。)等が挙げられる。中でも、試薬の使い易さや後処理の容易さの点から、NaBH4が好ましく用いられる。還元剤の使用量は特に制限されないが、ポリアセンキノン化合物1モルに対して通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上、また、通常10モル以下、好ましくは4モル以下の範囲で使用する。
【0060】
反応には通常、反応溶媒を用い、これにポリアセンキノン化合物を溶解又は分散させた系に、上述の還元剤を共存させて反応を行なわせる。ポリアセンキノン化合物と還元剤を反応溶媒に加える順序は特に制限されず、何れを先に加えても良く、同時に加えても良い。また、Step−1で得られたポリアセンキノン化合物が溶液として存在している場合には、そこに還元剤を加えて反応を連続して行なっても良い。
【0061】
反応溶媒の種類は特に制限されず、反応材料等を好適に溶解又は分散させて所望の反応を起させることができ、且つ、反応材料や反応生成物等に対して好ましからぬ反応を生じないものであれば、任意のものを用いることができる。例としては、水、有機溶媒などが挙げられるが、中でも水溶性有機溶媒が好ましい。水溶性有機溶媒としては、アルコール(メタノール、エタノール等)、エーテル(ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル等)、THF(テトラヒドロフラン)などが挙げられる。中でも、還元剤がNaBH4の場合にはアルコール、LAHの場合にはエーテルやTHF等を溶媒として用いることが好ましい。これらの有機溶媒を用いる場合には、乾燥したものを用いることが好ましい。溶媒は一種類を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いても良い。
【0062】
反応雰囲気は特に制限されないが、通常は窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。反応温度は特に制限されず、室温でも反応は進行するが、発熱による副反応や暴走反応を抑制するために、通常は室温以下、好ましくは15℃〜25℃付近で行なうのが望ましい。必要に応じて反応系を冷却し、温度を制御してもよい。反応圧力も特に制限されず、常圧、減圧、加圧の何れであってもよいが、通常は常圧の条件下で行なうことが好ましい。
【0063】
<Step−3>
本ステップは、Step−2により得られたジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物に対して、R−X−Hで表わされる化合物(以下「水素化RX化合物」と略称する。)を反応させ、ヒドロキシ基をRX基に置換することにより、RX基二置換ジヒドロポリアセン化合物(本例では6,13−RX基二置換−6,13−ジヒドロペンタセン)を得る反応である。ジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物1モルに対する水素化RX化合物の使用比率は、通常は2モル又はそれ以上である。
【0064】
本ステップの反応は、通常はルイス酸金属塩の存在下で行なう。ルイス酸金属塩の種類は特に制限されない。例としては、ハロゲン化亜鉛、塩化アルミニウム、四塩化スズ、トリフロロホウ素等が挙げられる。中でも、ハロゲン化亜鉛、特にヨウ化亜鉛を用いることが好ましい。ルイス酸金属塩の使用量は特に制限されないが、ジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物1モルに対して、通常0.8モル以上、好ましくは0.9モル以上、また、通常1.2モル以下、好ましくは1.1モル以下の範囲で使用する。
【0065】
反応には通常、反応溶媒を用い、これにジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物と水素化RX化合物を溶解又は分散させた系に、上述のルイス酸金属塩を共存させて反応を行なわせる。ジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物、水素化RX化合物、ルイス酸金属塩を反応溶媒に加える順序は特に制限されない。これらをどの順番で加えても良く、何れか二つ又は三つ全てを同時に加えても良い。
【0066】
反応溶媒の種類は特に制限されず、反応材料等を好適に溶解又は分散させて所望の反応を起させることができ、且つ、反応材料や反応生成物等に対して好ましからぬ反応を生じないものであれば、任意のものを用いることができる。具体的には、有機溶媒が挙げられるが、中でも塩素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。塩素系溶媒の中でも、ジクロロメタンやクロロホルム等が好ましく用いられる。芳香族炭化水素系溶媒の中では、ベンゼンが好ましく用いられる。ベンゼンを使用する際には、添加剤としてK2CO3を加えることで、収率をさらに向上させることができる。
【0067】
反応雰囲気は特に制限されないが、通常は窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。反応温度は特に制限されないが、高温で行なうと副反応や暴走反応が起こる可能性があるので、通常は室温以下、好ましくは15℃〜25℃付近で行なうのが望ましい。必要に応じて反応系を冷却し、温度を制御してもよい。反応圧力も特に制限されず、常圧、減圧、加圧の何れであってもよいが、通常は常圧の条件下で行なうことが好ましい。
【0068】
<Step−3(代替反応)>
Step−3は、以下の代替反応によって行なうことも可能である。
【化10】

【0069】
本代替反応は、Step−2により得られたジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物に対して塩化メタンスルホニル等のメタンスルホン酸塩を作用させメシル化した後、ここにR−X−Mで表わされる化合物(Mはアルカリ金属原子を表わす。中でもNaが好ましい。以下「RXM化合物」と略称する。)を反応させ、メシル基をRX基に置換することにより、RX基二置換ジヒドロポリアセン化合物を得る反応である。
【0070】
Xが硫黄原子の場合、上記のStep−3ではチオール(R−SH)を使用することになるが、低分子量のチオールは低沸点であり、悪臭が強い傾向がある。これに対して、本代替反応によれば、チオールの代わりに固体で臭気の低いチオラート(R−SNa)等を用いることができる点で望ましい。
【0071】
ジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物1モルに対するメタンスルホン酸塩及びRXM化合物の使用比率は、何れも通常2モル以上である。
【0072】
前半のジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物とメタンスルホン酸との反応は、通常は塩基の共存下で行なう。塩基の種類は特に制限されないが、トリエチルアミン等が好ましい。塩基の使用量は特に制限されないが、ジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物1モルに対して、通常2モル以上、好ましくは2.2モル以上、また、通常10モル以下、好ましくは5モル以下の範囲で使用する。
【0073】
反応は通常、反応溶媒を用いて、ジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物とメタンスルホン酸塩を溶解又は分散させた系に、塩基を共存させて行なう。ジヒドロキシジヒドロポリアセン化合物、メタンスルホン酸塩、塩基を反応溶媒に加える順序は特に制限されない。これらをどの順番で加えても良く、何れか二つ又は三つ全てを同時に加えても良い。
【0074】
反応溶媒の種類は特に制限されず、反応材料等を好適に溶解又は分散させて所望の反応を起させることができ、且つ、反応材料や反応生成物等に対して好ましからぬ反応を生じないものであれば、任意のものを用いることができる。具体的には、有機溶媒が挙げられるが、中でも塩素系溶媒が好ましい。塩素系溶媒の中でも、ジクロロメタンやクロロホルム等が好ましく用いられる。
【0075】
反応雰囲気としては、通常は窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で行なう。反応温度は特に制限されないが、非常に反応が激しいので、通常0℃以下、好ましくは−10℃以下に反応系を冷却して反応を制御する。反応圧力も特に制限されず、常圧、減圧、加圧の何れであってもよいが、通常は常圧の条件下で行なうことが好ましい。
【0076】
続いて、前半の反応により得られたメシル化ジヒドロポリアセン化合物に対して、RXM化合物を反応させる。この後半の反応は、別途調製したRXM化合物を、上述のメシル化ジヒドロポリアセン化合物の反応系に加えることにより行なう。
【0077】
RXM化合物は、例えば、水素化RX化合物を水素化ナトリウム等の水素化アルカリ金属化合物と反応させることにより調製できる。このRXM化合物の調製反応も反応溶媒の存在下で行なうことが好ましい。反応溶媒は特に制限されないが、有機溶媒が好ましく、特にDMF(ジメチルホルムアミド)等の極性溶媒が好ましい。
【0078】
後半の反応は、通常は窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で行なう。反応温度は特に制限されないが、通常は室温で、又は冷却して室温以下で行なう。反応圧力も特に制限されず、常圧、減圧、加圧の何れであってもよいが、通常は常圧の条件下で行なうことが好ましい。
【0079】
<Step−4>
本ステップは、Step−3により得られたRX基二置換ジヒドロポリアセン化合物を酸化剤により酸化して、所望のRX基二置換ポリアセン化合物(本発明のポリアセン化合物。本例では6,13−RX基二置換ペンタセン)を得る反応である。
【0080】
酸化剤の種類は特に制限されないが、例としてはクロラニルやキノン系の酸化剤が挙げられる。酸化剤の使用量は特に制限されないが、RX基二置換ポリアセン化合物1モルに対して、通常1モル以上、好ましくは2モル以上、また、通常10モル以下、好ましくは5モル以下の範囲で使用する。
【0081】
反応は通常、反応溶媒中でRX基二置換ジヒドロポリアセン化合物と酸化剤を接触させることにより行なう。RX基二置換ジヒドロポリアセン化合物と酸化剤を反応溶媒に加える順序は特に制限されず、何れを先に加えても良く、同時に加えても良い。
【0082】
反応溶媒の種類は特に制限されず、反応材料等を好適に溶解又は分散させて所望の反応を起させることができ、且つ、反応材料や反応生成物等に対して好ましからぬ反応を生じないものであれば、任意のものを用いることができる。例としては、水、有機溶媒などが挙げられるが、中でも塩素系溶媒が好ましい。塩素系溶媒の中でも、ジクロロメタンやクロロホルム等が好ましく用いられる。
【0083】
反応雰囲気としては、生成物が酸素に不安定であるため、通常は窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で行なう。反応温度は特に制限されないが、通常は室温以上、好ましくは30℃以上、また、通常は使用する反応溶媒の沸点以下、好ましくは50℃以下の範囲で行なう。反応時の温度が低すぎると反応速度が遅く、高温では反応の制御が難しくなる傾向がある。反応圧力も特に制限されず、常圧、減圧、加圧の何れであってもよいが、通常は常圧の条件下で行なうことが好ましい。
【0084】
以上のStep−1〜Step−4からなる反応を利用して、適宜変更を加えることにより、様々な形態の本発明のポリアセン化合物を製造することができる。
【0085】
例えば、Step−3で使用する水素化RX化合物を選択することにより、ポリアセン化合物に導入されるRX基の種類を制御することができる。
【0086】
例えば、式(1)においてRa=Rb(=R)であるポリアセン化合物を製造する場合には、所望の基Rを有する1種類の水素化RX化合物を用いればよい。一方、式(1)においてRa≠Rbであるポリアセン化合物を合成する場合には、Step−3において、2種類の水素化RX化合物(Ra−XHとRb−XH)を混合して用いれば、下の反応式に示されるように、生成する混合物の中に、Ra−X−とRb−X−を同時に有する非対称なポリアセン化合物を得ることができる(その他にも、Ra−X−のみを2つ有するポリアセン化合物と、Rb−X−のみを2つ有するポリアセン化合物とが生成する。)。
【0087】
【化11】

【0088】
また、同様に、Step−3において、使用する水素化RX化合物のXの種類を選択することにより、下記反応式に示すように、S原子、Se原子、又はTe原子のうち所望の原子を2つ有するポリアセン化合物(式(1)においてXa=Xbであるポリアセン化合物)を製造することができる。更に、異なるX(Xa≠Xb)を含有する2種類の水素化RX化合物(R−XaHとR−XbH)を混合して使用すれば、生成する混合物の中に、R−Xa−とR−Xb−を同時に有する非対称なポリアセン化合物を得ることができる。
【0089】
【化12】

【0090】
なお、以上の説明では、式(1)のR1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2が全て水素原子の場合について示しているが、原料化合物(化合物(A)及び化合物(B))として適切な置換基を有する化合物を用いれば、R1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2として水素原子以外に何らかの置換基を有するものも合成することができる。例として、式(1)においてR1=R8、R2=R7、R3=R6、R4=R5であるペンタセン化合物と、式(1)においてR1=R5、R2=R6、R3=R7、R4=R8であるペンタセン化合物とを同時に合成する場合における、原料化合物の選択の例を以下の反応式に示す。もちろんこれは一例であり、異なる置換基を有する複数種の原料化合物を混合して用いる等の手法により、非対称のペンタセン化合物を合成することも可能である。
【0091】
【化13】

【0092】
なお、以上の記載では、式(1)においてm=n=1であるペンタセン化合物を例として説明しているが、その他の骨格を有するポリアセン化合物についても、原料化合物である化合物(A)及び化合物(B)の種類及び比率を適切に選択することにより、合成することが可能である。
【0093】
例えば、式(1)においてm=n≧2であるポリアセン化合物(即ち、対称性のヘプタセン以上の化合物)を合成する場合には、化合物(A)として2環以上(ナフタレン以上)の環を有するジアルデヒド化合物を用いればよい。例として、m=n=2のポリアセン化合物を合成する場合を下の反応式に示す。
【0094】
【化14】

【0095】
また、式(1)においてm≠nであるポリアセン化合物(即ち、非対称性のポリアセン化合物)を合成する場合には、例えば、化合物(B)として2環以上の化合物を用い、これを化合物(A)と1:1のモル比で反応させればよい。例として、m=1、n=0のポリアセン化合物を合成する場合を下の反応式に示す。
【0096】
【化15】

【0097】
また、式(1)においてm≠nであるポリアセン化合物を合成する別の手法として、化合物(A)として異なる2種類の化合物(A−1)、(A−2)を用い、これらを化合物(B)と順次、反応させる手法も挙げられる。この場合、Step−1の反応は2段階で行なうことになる。また、化合物(A−1):化合物(A−2):化合物(B)の使用モル比は1:1:1とする。例として、m=1、n=2のポリアセン化合物を合成する場合を下の反応式に示す。
【0098】
【化16】

【0099】
なお、上に挙げた反応式は何れも例示であって、本発明の製造方法はもちろんこれらに限定されるものではない。原料化合物の組み合わせを適切に選択すれば、上の反応式に示した構造以外の様々な構造を有するポリアセン化合物についても製造することが可能である。また、上の反応式に示したポリアセン化合物を、反応式に示した原料化合物以外の原料化合物の組み合わせにより合成することも可能である。
【0100】
また、m=n=1以外のポリアセン化合物を合成する場合についても、原料化合物として適切な置換基を有するものを用いれば、上述と同様にR1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2として水素原子以外の置換基を有するポリアセン化合物を製造することができる。また、Step−3で使用する水素化RX化合物を選択することにより、上述と同様にRX基の種類を制御することができる。
【0101】
〔III.ポリアセン化合物の用途〕
本発明のポリアセン化合物の用途は特に制限されないが、光或いは電気的な機能を有効に発揮することから、有機電子デバイス等の材料としての用途に好適に利用できる。具体例としては、以下の3つが挙げられる。
【0102】
(1)有機半導体:
平面性の高いπ共役系の分子は、有機半導体として用いることができる。有機半導体とは、電荷を運搬できる材料であり、不純物のドーピングや印加する電場により、半導体中のキャリア密度を制御することにより、種々の機能を発現するものである。例としては、整流素子やトランジスタ等が挙げられる。
【0103】
半導体には正孔を輸送するp型と電子を輸送するn型とがあるが、有機半導体の大多数がp型半導体であるように、本発明のポリアセン化合物もp型として動作するものが多い。しかし、ポリアセン化合物はp型、n型の両方になり得る材料として知られており、本発明のポリアセン化合物も、フッ素原子等の電子吸引性基を結合させることにより、n型半導体材料として使用することができる。
【0104】
また、本発明のポリアセン化合物を利用して、特殊な分子集合体を合成することができる。例えば、上記式(1)における置換基Ra及びRbとしてそれぞれ極性の異なる基を導入することにより両親媒性を付与すれば、このポリアセン化合物を用いてペシクルやナノチューブを作製できる可能性がある。このようにπ共役分子で形成されたベシクルやナノチューブは、良好な電気物性あるいは光・物性を有する半導体として期待される。
【0105】
(2)光機能材料:光電変換、有機EL等
本発明のポリアセン化合物は強い光吸収帯を有する。これを利用して、光機能材料として用いることができる。一つの例としては、吸収された光により電荷分離を引き起こし機能する素子が挙げられる。これには、太陽電池や光電変換素子(フォトダイオード)等を具体的に挙げることができる。太陽電池は、金属や他の半導体との接合部分に生じる内部電界を利用して、光での電荷分離を引き起こしこれを外部に取り出すものである。また、光の吸収により生じた励起状態を利用して、ラジカル発生剤を増感したり、直接励起状態からラジカルを発生させることにより、光ラジカル発生等にも応用できる。
【0106】
(3)色素、顔料:
本発明のポリアセン化合物は、可視〜近紫外光の波長領域に吸収体を有することから、色素として用いることができる。この色素としての特徴を利用すれば、染色のための色素の他、インクジェットや熱転写等の記録、光ディスク等の記憶、ディスプレー等の光学フィルター等への応用が可能である。
【実施例】
【0107】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0108】
〔実施例1:6,13−ビス(オクチルチオ)ペンタセンの合成〕
以下の反応式に示すStep−1〜Step−4に従って合成した。
【化17】

【0109】
<Step−1:6,13−ペンタセンキノンの合成>
W. Ried, F. Anthofer、Angewandte Chemie、1953、vol.65、p.601の記載に従って合成を行なった。具体的には、シクロヘキサン−1,4−ジオン(9.57g、85.4mmol)とo−フタルアルデヒド(22.90g、170.7mmol)をエタノール500mLに溶解させ、5%水酸化カリウム水溶液(36mL)を加えて室温で30分撹拌した後、更に70℃に加熱して3時間加熱撹拌した。粗生成物を吸引濾過により分離し、水とエタノールで順に洗浄した。濾過物をエタノールに懸濁させた後、更に濾過し、エタノールとエーテルで順に洗浄し、真空乾燥することにより、黄色の固体状の生成物を得た。得られた生成物について1H NMR分析を行なった。1H NMRの結果を下に示す。この結果より、得られた生成物が目的化合物の6,13−ペンタセンキノンであることが確認された。生成物の収量は24.32g、収率は92%であった。
【0110】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.98 (s, 4H), 8.15 (dd, J = 3.3 and 6.2 Hz, 4H), 7.73 (dd, J = 3.3 and 6.2 Hz, 4H).
【0111】
<Step−2:6,13−ジヒドロキシ−6,13−ジヒドロペンタセンの合成>
アルゴン雰囲気下で、上記Step−1により得られた6,13−ペンタセンキノン(10g、32.43mmol)と水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)(4.908g、129.7mmol)との混合物を氷冷し、アルゴンバブリングしたメタノール(100mL)を加え、0℃で30分撹拌し、室温に戻して更に1時間撹拌した。反応系には発泡、発熱が見られた。氷冷下で水10mLを加えて反応をクエンチさせた後、粗生成物を濾過により分離し、水洗した。この濾過物をクロロホルムに懸濁させた後、再び濾過により分離し、真空乾燥することにより、白色の固体状の生成物を得た。得られた生成物について融点測定、1H NMR分析(異なる溶媒を用いて2回測定した。)、13C NMR分析を行なった。それぞれの結果を下に示す。これらの結果より、得られた生成物が目的化合物の6,13−ジヒドロキシ−6,13−ジヒドロペンタセンであることが確認された。生成物の収量は7.822g、収率は77%であった。
【0112】
Mp: 235.2 ℃ (decomp)
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ8.11 (s, 4H), 7.94 (dd, J = 3.3 and 6.2 Hz, 4H), 7.46(dd, J = 3.3 and 6.2 Hz, 4H), 6.63 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 5.68 (d, J = 6.8 Hz, 2H).
1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): δ8.11 (s, 4H), 7.94 (dd, J = 3.3 and 6.4 Hz, 4H), 7.46 (dd, J = 3.3 and 6.4 Hz, 4H), 6.64 (d, J = 6.7 Hz, 2H), 5.80 (d, J = 6.7 Hz, 2H).
13C NMR (75 MHz, DMSO-d6): δ138.3, 131.8, 127.6, 125.6, 121.0, 67.1.
【0113】
<Step−3:6,13−ビス(オクチルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセンの合成>
Y. Guindon, R. Frenette, R. Fortin, J. Rokach、Journal of Organic Chemistry、1983、Vol.48、p.1357-1359の記載を参考にして合成を行なった。具体的には、反応装置内でヨウ化亜鉛(ZnI2)(135.6mg、0.425mmol)を、ヒートガンを用いて5分間真空加熱乾燥した。反応装置内をアルゴン置換した後、上記Step−2により得られた6,13−ジヒドロキシ−6,13−ジヒドロペンタセン(133.5mg、0.425mmol)を加えた。更に乾燥ジクロロメタン(CH2Cl2)(20mL)を加え、続いて1−オクタンチオール(324mL、1.87mmol)を加えて、室温で1時間撹拌した。この過程で、反応液は白色の懸濁液からピンク色の溶液へと変化した。その後、反応溶液に水を加えて溶媒分画を行ない、ジクロロメタン(CH2Cl2)を加えて生成物を抽出した。得られた有機相を飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相から溶媒を留去した後、得られた残渣をシリカゲルカラムに通過させて精製し(シリカゲル50mLをカラムに充填して使用した。移動相としては、最初にヘキサンのみ、次にクロロホルム:ヘキサン=5:1、続いてクロロホルム:ヘキサン=1:1、最後にクロロホルムのみを用いた。)、目的物を含むカラム流出液から有機溶媒を留去することにより、粘性無色の液体状の生成物を得た。得られた生成物について1H NMR分析(trans体、cis体)、13C NMR分析(trans体のみ)を行なった。それぞれの結果を下に示す。これらの結果より、得られた生成物が目的化合物の6,13−ビス(オクチルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセン(trans体、cis体の混合物)であることが確認された。生成物の全収量は242.8mg、trans体の収量は238mg、cis体の収量は4.8mg、trans体:cis体の比率は約50:1、収率は90%であった。
【0114】
trans体:1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.87 (s, 4H), 7.85 (dd, J = 3.0 and 6.3 Hz, 4H), 7.48 (dd, J = 3.0 and 6.3 Hz, 4H), 5.47 (s, 2H), 2.74 (t, J = 7.4 Hz,4H), 1.70-1.85 (m, 4H), 1.2-1.5 (m, 20H), 0.89 (t, J = 6.3 Hz, 6H).
cis体:1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.19 (s, 4H), 7.89 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.49 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 5.65 (s, 2H), 2.55 (t, J = 7.3 Hz, 4H), 1.60-1.75 (m, 4H), 1.20-1.50 (m, 20H), 0.88 (t, J = 6.3 Hz, 6H).
trans体:13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 135.2, 132.5, 127.5, 127.3, 126.1, 48.1, 33.8, 31.8, 29.3, 29.24, 29.21, 29.16, 22.6, 14.0.
【0115】
<Step−3(代替反応)>
反応装置内で、アルゴン雰囲気下、上記Step−2により得られた6,13−ジヒドロキシ−6,13−ジヒドロペンタセン(157.065mg、0.5mol)に、乾燥ジクロロメタン(CH2Cl2)(30mL)を加えた(白色懸濁)。−15℃に冷却し、乾燥トリエチルアミン(174mL、1.25mmol)と塩化メタンスルホニル(85mL、1.1mmol)を加えた後、0℃に昇温して30分撹拌した。反応系は紫色の溶液となった(これを以下「メシル化基質溶液」と言う。)。別の反応装置内で、アルゴン雰囲気下、水素化ナトリウム(NaH)(48mg、2.0mmol)の乾燥DMF(10mL)懸濁溶液を氷冷し、そこへ1−オクタンチオール(347mL、2.0mmol)を加え、0℃で30分撹拌し、続いて室温に昇温して30分撹拌した。この過程で反応系中には発泡が生じ、その後無色溶液になった(これを以下「オクタンチオラート溶液」と言う。)。得られたオクタンチオラート溶液をトランスファーチューブを用いて上述のメシル化基質溶液へ加え、室温で4時間撹拌した。反応系は濃紫色の溶液となった。得られた反応溶液に水を加えて溶媒分画を行い、クロロホルムを加えて目的物を抽出した。得られた有機相を水で8回、飽和食塩水で1回洗浄した後、硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。更に有機溶媒を留去後、残渣をシリカゲルカラムに通過させて精製し(シリカゲル50mLをカラムに充填して使用した。移動相としては、最初にヘキサンのみ、次にクロロホルム:ヘキサン=5:1、続いてクロロホルム:ヘキサン=1:1、最後にクロロホルムのみを用いた。)、目的物を含むカラム流出液から有機溶媒を留去することにより、粘性無色の液体状の生成物を得た。得られた生成物について1H NMR分析、13C NMR分析を行なうことにより、得られた生成物が目的化合物の6,13−ビス(オクチルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセン(trans体、cis体の混合物)であることが確認された。生成物の全収量は165.0mg、trans体:cis体の比率は約2:1、収率は54%であった。
【0116】
<Step−4:6,13−ビス(オクチルチオ)ペンタセンの合成>
反応装置内で、アルゴン雰囲気下、クロラニル(125.4mg、0.51mmol)に、乾燥トリクロロメタン(CHCl3)(10mL)を加えた。反応系は黄色の懸濁溶液となった。続いて、この反応溶液に、上記Step−3により得られた6,13−ビス(オクチルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセン(96.6mg、0.17mmol)の乾燥トリクロロメタン(CHCl3)(5mL)溶液を加え、遮光下、40℃で24時間撹拌した。反応系は濃青色の溶液となった。得られた反応溶液を濃縮し、残渣をアルミナゲルカラムに通過させ(アルミナゲル50mLをカラムに充填して使用した。移動相としては、クロロホルム:ヘキサン=1:5の混合液を用いた。)、濃青色のフラクションを集め、それをリサイクル分取HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて精製することにより、濃青色の固体状の生成物を得た。得られた生成物について融点測定、1H NMR分析、13C NMR分析、元素分析を行なった。それぞれの結果を下に示す。また、図1に1H NMRスペクトルを、図2に13C NMRスペクトルをそれぞれ示す。これらの結果より、得られた生成物が目的化合物の6,13−ビス(オクチルチオ)ペンタセンであることが確認された。生成物の収量は67.6mg、収率は70%であった。
【0117】
Mp: 120.6 ℃
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ 9.73 (s, 4H), 8.06 (dd, J = 3.2 and 6.6 Hz, 4H), 7.41 (dd, J = 3.2 and 6.6 Hz, 4H), 3.03 (t, J = 7.1 Hz, 4H), 1.35-1.50 (m, 4H), 1.10-1.35 (s, 20H), 0.82 (t, J = 6.6 Hz, 6H).
13C-NMR (75 MHz, CDCl3): δ 132.7, 132.6, 132.0, 128.7, 126.9, 125.8, 38.0, 31.7, 30.0, 29.14, 29.07, 28.9, 22.6, 14.0.
Anal. Calcd for C38H46S2: C, 80.38; H, 8.02. Found: C, 80.42; H, 8.19.
【0118】
〔実施例2:6,13−ビス(メチルチオ)ペンタセンの合成〕
<Step−1:6,13−ビス(メチルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセンの合成>
【化18】

【0119】
反応装置内でヨウ化亜鉛(ZnI2)(3.862g、12.1mmol)をヒートガンを用いて5分間真空加熱乾燥した。アルゴン置換後、実施例1のStep−2で得られた6,13−ジヒドロキシ−6,13−ジヒドロペンタセン(1.90g、6.05mmol)を入れ、乾燥ジクロロメタン(CH2Cl2)(160mL)を加えた。これに、メチルチオナトリウム(1.696mg、24.2mmol)の乾燥ジクロロメタン(CH2Cl2)(30mL)懸濁溶液に氷冷下で酢酸(1.39mL、24.2mmol)を加えメチルチオールを調製したものをトランスファーチューブで移し、室温で19時間撹拌した。反応溶液に水を加えジクロロメタン(CH2Cl2)抽出し、有機層を飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥した。有機溶媒を留去後、残渣をシリカゲルカラムで精製することにより(シリカゲル250mL;移動相、クロロホルム:ヘキサン=1:1、2:1)、白色固体状の生成物を得た。得られた生成物について融点測定、1H NMR分析、13C NMR分析、元素分析を行なった。それぞれの結果を下に示す。これらの結果より、得られた生成物が目的化合物である6,13−ビス(メチルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセン(trans体)ことが確認された。収量は924.4mg、収率41%であった。
【0120】
Mp: 203.8 ℃.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.89 (s, 4H), 7.87 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.50 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 5.38 (s, 2H), 2.34 (s, 6H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 134.5, 132.5, 127.7, 127.6, 126.2, 50.1, 17.7.
Anal. Calcd for C24H20S2: C, 77.37; H, 8.02. Found: C, 77.12; H, 8.15.
【0121】
<Step−4:6,13−ビス(メチルチオ)ペンタセンの合成>
【化19】

【0122】
Step−1で得られた6,13−ビス(メチルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセン(1.500g、4.03mmol)、クロラニル(1.979g、8.05mmol)、炭酸カリウム(5.565g、40.27mmol)をナスフラスコに入れ、アルゴン置換後、凍結脱気ベンゼン(250mL)を加え(黄色懸濁溶液)、遮光下、密閉系、60℃で72時間撹拌した(濃青色溶液)。反応溶液を濃縮し、濃縮物を水、エタノール、ジエチルエーテル、THFの順に懸濁・濾過することにより、濃青色固体状の生成物を得た。得られた生成物について融点測定、1H NMR分析、元素分析を行なった。それぞれの結果を下に示す。また、図3に1H NMRスペクトルを示す。これらの結果より、得られた生成物が目的化合物の6,13−ビス(メチルチオ)ペンタセンであることが確認された。収量は989mg、収率は66%であった。
【0123】
Mp: 289.3 ℃.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 9.73 (s, 4H), 8.09 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.43 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 2.58 (s, 6H).
Anal. Calcd for C24H18S2: C, 77.80; H, 4.90. Found: C, 77.75; H, 5.01.
【0124】
〔実施例3:6,13−ビス(ペンチルチオ)ペンタセンの合成〕
<Step−1:6,13−ビス(ペンチルチオ)ペンタセンの合成>
【化20】

【0125】
実施例1のStep−2で得られた6,13−ジヒドロキシ−6,13−ジヒドロペンタセン(1.00g、3.18mmol)を基質として用い、実施例1のStep−3と同様の方法で合成及び精製を行なうことにより、白色固体状の生成物を得た。得られた生成物について融点測定、1H NMR分析、13C NMR分析、元素分析を行なった。それぞれの結果を下に示す。これらの結果より、得られた生成物が目的化合物の6,13−ビス(ペンチルチオ)ペンタセン(trans体)であることが確認された。収量は1.31g、収率は85%であった。
【0126】
Mp: 111.5 ℃
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.87 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.82 (s, 4H), 7.48 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 5.39 (s, 2H), 2.72 (t, J = 7.4 Hz, 4H), 1.27-1.78 (m, 12 H), 0.92 (t, J = 7.3 Hz, 6H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 135.2, 132.5, 127.5, 127.3, 126.1, 48.0, 33.8, 31.3, 28.9, 22.4, 14.0.
Anal. Calcd for C32H36S2: C, 79.29; H, 7.49. Found: C, 79.37; H, 7.56.
【0127】
<Step−2:6,13−ビス(ペンチルチオ)ペンタセンの合成>
【化21】

【0128】
Step−1で得られた6,13−ビス(ペンチルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセン(820mg、1.692mmol)を基質として用い、実施例1のStep−4と同様の方法で合成及び精製を行なうことにより、濃青色固体状の生成物を得た。得られた生成物について融点測定、1H NMR分析、13C NMR分析、元素分析を行なった。それぞれの結果を下に示す。また、図4に1H NMRスペクトルを示す。これらの結果より、得られた生成物が目的化合物の6,13−ビス(ペンチルチオ)ペンタセンであることが確認された。収量は483.4mg、収率は59%であった。
【0129】
Mp: 176.8 ℃.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 9.74 (s, 4H), 8.08 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.42 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 3.03 (t, J = 7.4 Hz, 4H), 1.16-1.62 (m, 12 H), 0.80 (t, J = 7.3 Hz, 6H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 132.7, 132.6, 132.0, 128.7, 126.8, 125.8, 38.0, 31.0, 29.7, 22.2, 13.9.
Anal. Calcd for C32H34S2: C, 79.62; H, 7.10. Found: C, 79.39; H, 7.10.
【0130】
〔実施例4:6,13−ビス(2−TMSエチルチオ)ペンタセンの合成〕
<Step−1:6,13−ビス(2−TMSエチルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセンの合成>
【化22】

【0131】
実施例1のStep−2で得られた6,13−ジヒドロキシ−6,13−ジヒドロペンタセン(962.8mg、3.07mmol)を基質として用い、実施例1のStep−3と同様の方法で合成及び精製を行なうことにより、白色固体状の生成物を得た。得られた生成物について融点測定、1H NMR分析、13C NMR分析、元素分析を行なった。それぞれの結果を下に示す。これらの結果より、得られた生成物が目的化合物の6,13−ビス(2−TMSエチルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセン(trans体)であることが確認された。収量は1.35g、収率は81%であった。
【0132】
Mp: 122.0 ℃.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.86 (s, 4H), 7.84 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.48 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 5.47 (s, 2H), 2.74-2.80 (m, 4H), 1.04-1.10 (m, 4H), 0.08 (s, 18H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 135.0, 132.4, 127.5, 127.2, 126.1, 47.3, 29.2, 16.9, -1.6.
Anal. Calcd for C32H40S2Si2: C, 70.53; H, 7.40. Found: C, 70.26; H, 7.48.
【0133】
<Step−2:6,13−ビス(2−TMSエチルチオ)ペンタセンの合成>
【化23】

【0134】
Step−1で得られた6,13−ビス(2−TMSエチルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセン(100mg、0.183mmol)を基質として用い、実施例1のStep−4と同様の方法で合成及び精製を行なうことにより、濃青色固体状の生成物を得た。得られた生成物について融点測定、1H NMR分析、13C NMR分析、元素分析を行なった。それぞれの結果を下に示す。また、図5に1H NMRスペクトルを示す。これらの結果より、得られた生成物が目的化合物の6,13−ビス(2−TMSエチルチオ)ペンタセンであることが確認された。収量は45.0mg、収率は45%であった。
【0135】
Mp: 184.4 ℃.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 9.74 (s, 4H), 8.09 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.42 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 3.04-3.10 (m, 4H), 0.97-1.03 (m, 4H), 0.02 (s, 18H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 132.68, 132.65, 131.9, 128.7, 126.8, 125.7, 33.8, 18.1, -1.8.
Anal. Calcd for C32H38S2Si2: C, 70.79; H, 7.05. Found: C, 70.62; H, 7.22.
【0136】
〔実施例5:6,13−ビス(フェニルチオ)ペンタセンの合成〕
<Step−1:6,13−ビス(フェニルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセンの合成>
【化24】

【0137】
実施例1のStep−2で得られた6,13−ジヒドロキシ−6,13−ジヒドロペンタセン(1.00g、3.18mmol)を基質として用い、実施例1のStep−3と同様の方法で合成及び精製を行なうことにより、白色固体状の生成物を得た。得られた生成物について融点測定、1H NMR分析、13C NMR分析、元素分析を行なった。それぞれの結果を下に示す。これらの結果より、得られた生成物が目的化合物の6,13−ビス(フェニルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセンであることが確認された。収量はtrans体が1.1631g、cis体が148.2mg、収率は83%であった。
【0138】
〔trans体〕
Mp: 161.0 ℃.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.66 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.50-7.53 (m, 4H), 7.48 (s, 4H), 7.43 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.30-7.41 (m, 6H), 5.73 (s, 2 H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 136.3, 135.5, 133.9, 132.4, 128.9, 128.7, 127.7, 127.5, 126.1, 54.7.
Anal. Calcd for C34H24S2: C, 82.22; H, 4.87. Found: C, 82.18; H, 4.87.
【0139】
〔cis体〕
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.01 (s, 4H), 7.78 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.45 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.15-7.30 (m, 10H), 6.02 (s, 2H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ 134.8, 134.0, 132.4, 132.0, 128.9, 127.7, 127.1, 126.7, 126.1, 52.9.
【0140】
<Step−2:6,13−ビス(フェニルチオ)ペンタセンの合成>
【化25】

【0141】
Step−1で得られた6,13−ビス(フェニルチオ)−6,13−ジヒドロペンタセン(1.00g、2.02mmol)、クロラニル(994.3mg、4.04mmol)をナスフラスコに入れ、アルゴン置換後、凍結脱気クロロホルム(200mL)を加え(黄色懸濁溶液)、遮光下、密閉系、60℃で48時間撹拌した(濃青色溶液)。反応溶液を濃縮し、濃縮物を水、エタノール、ジエチルエーテル、THFの順に懸濁ろ過することにより、濃青色固体状の生成物を得た。得られた生成物について融点測定、1H NMR分析、元素分析を行なった。それぞれの結果を下に示す。また、図6に1H NMRスペクトルを示す。これらの結果より、得られた生成物が目的化合物の6,13−ビス(フェニルチオ)ペンタセンであることが確認された。収量は325.8mg、収率は33%であった。
【0142】
Mp: 299.8 ℃.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 9.64 (s, 4H), 7.96 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.37 (dd, J = 3.2 and 6.2 Hz, 4H), 7.03-7.15 (m, 10H).
Anal. Calcd for C34H22S2: C, 82.55; H, 4.48. Found: C, 82.52; H, 4.55.
【0143】
〔実施例6:有機FETの製造及び評価〕
300nmの酸化膜を形成したN型のシリコン基板(Sbドープ、抵抗率0.02Ωcm以下、住友金属工業社製)上に、フォトリソグラフィーで長さ(L)10μm、幅(W)500μmのギャップを有する金電極(ソース、ドレイン電極)を形成した。また、この電極と異なる位置の酸化膜をフッ酸/フッ化アンモニウム液でエッチングし、剥き出しになったSi部分に金を蒸着し、これをシリコン基板(ゲート電極)に電圧を印加するための電極とした。
【0144】
実施例1で合成された6,13−ビス(オクチルチオ)ペンタセンを、クロロホルムに0.5重量%濃度で溶解させた。得られた溶液を上述の電極付きシリコン基板上に回転数1000rpmでスピンコートして、厚さ100nmの膜を作製し、ボトムコンタクト型の有機トランジスタ素子を得た。
【0145】
こうして作製された有機トランジスタ素子を減圧チャンバー内に設置し、真空ポンプで10-2Torrに減圧した後、Agilent社製の半導体パラメーターアナライザー4155で測定した。ソースとドレイン間に印加された電圧Vdに対して流れる電流をId、ソースとゲートに印加される電圧をVg、閾値電圧をVt、絶縁膜の単位面積当たりの静電容量をCi、ソース電極とドレイン電極の間隔をL、幅をW、半導体層の移動度をμとすると、その動作は、次のように表すことができる。
【0146】
【数1】

【0147】
μは素子の電流電圧特性から求めることができる。μを求めるには式(1)或いは(2)を用いるが、(2)式の飽和電流部分のId1/2−Vgの傾きから求める方法を採用した。このプロットのId=0との切片からスレシホールド電圧Vt、Vd=−30V印加時のVg=30VとVg=−50VとのIdの比をオンオフ比とした。
【0148】
このようにして得られた実施例2の有機トランジスタ素子の移動度は1.1×10-5cm2/Vs、Vtは−2.7V、オンオフ比は3.8×101であった。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明のポリアセン化合物は、光或いは電気的な機能を有効に発揮することから、有機半導体材料、光機能材料(光電変換材料、有機EL素子材料等)、色素・顔料等の様々な用途に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】実施例1により得られた6,13−ビス(オクチルチオ)ペンタセンの1H NMRスペクトルである。
【図2】実施例1により得られた6,13−ビス(オクチルチオ)ペンタセンの13C NMRスペクトルである。
【図3】実施例2により得られた6,13−ビス(メチルチオ)ペンタセンの1H NMRスペクトルである。
【図4】実施例3により得られた6,13−ビス(ペンチルチオ)ペンタセンの1H NMRスペクトルである。
【図5】実施例4により得られた6,13−ビス(2−TMSエチルチオ)ペンタセンの1H NMRスペクトルである。
【図6】実施例5により得られた6,13−ビス(フェニルチオ)ペンタセンの1H NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされることを特徴とする、ポリアセン化合物。
【化1】

(式(1)において、
1、X2は各々独立に、S原子、Se原子、又はTe原子を表わす。
1〜R8、Rm1、Rm2、Rn1、Rn2は各々独立に、水素原子又は一価の有機基を表わす。但し、X1、X2の結合する環に隣接する環のRm1、Rm2、Rn1、Rn2、R1、R4、R5、R8は水素原子である。
a、Rbは各々独立に、一価の有機基を表わす。
m、nは、0≦m≦3、0≦n≦3、1≦m+nを満たす整数を表わす。)
【請求項2】
請求項1記載のポリアセン化合物を製造する方法であって、下記反応式(2)で表わされる縮合反応を利用することを特徴とする、ポリアセン化合物の製造方法。
【化2】

(式(2)において、(A)、(B)、(C)はそれぞれ独立に、化合物の部分構造を表わし、点線は他の任意の基との結合を表わす。)
【請求項3】
請求項1記載のポリアセン化合物を用いた
ことを特徴とする、有機電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−199682(P2006−199682A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360221(P2005−360221)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】