説明

ポリウレタン多孔質体

【課題】 肉厚の多孔質体であったとしても、層全域の多孔質構造が極めて均一で、微細な連続気孔を有すると共に、吸水速度に優れ、湿潤時の寸法安定性が良好なポリウレタン多孔質体を提供すること。
【解決手段】 ポリウレタン樹脂エマルジョンを、水溶性ウレタンプレポリマーに対する架橋剤として3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデセンまたは1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンを使用して、水溶性高分子化合物の存在下に架橋反応し、次いでゲル化させて得られたポリウレタン多孔質体であり、水溶性ウレタンプレポリマーが、末端イソシアネート基が重亜硫酸ナトリウムによりマスクされた水溶性ウレタンプレポリマーであることを特徴とするポリウレタン多孔質体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性ロール、化粧用のパフ、各種半導体または光学材料等の研磨パット、インキ保持材、板海苔製造用吸液パッド、人工皮革、合成皮革などの完全に空隙が連続したウレタン多孔質体の性質を利用した各種製品分野に好適に利用できるポリウレタン多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリウレタン多孔質体は、ポリウレタン樹脂エマルジョンを、水溶性ポリマー、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロースあるいはデンプン等の水溶性高分子化合物の存在下に感熱ゲル化を行った後、架橋剤により架橋反応させ、不溶化させ、水洗を行うことで製造されている。
【0003】
この製造法においては、架橋反応の終了後に、不要となった水溶性ポリマーを水洗し、完全に除去しなければならず、その水洗にかなりの時間を要し、極めて非効率的であり、その生産性を損なう原因ともなっていた。
【0004】
したがって、ポリウレタン多孔質体の生産性を上げるためには、ポリウレタン樹脂エマルジョンの感熱ゲル化の反応性を高めることと、架橋反応後の多孔質体から水溶性ポリマーを完全に除去する技術の開発が求められていたが、いまだ十分な解決がなされていないのが現状である。
【0005】
かかる問題点を解決するポリウレタン多孔質体の製造法として、いわゆる、強制乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンを用い、必要に応じて水溶性高分子化合物を粘度調整剤として添加し、かかる強制乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンの架橋剤として水溶性ポリイソシアネート化合物を使用したポリウレタン多孔質体の製造法がある。
【0006】
この場合の架橋剤として使用する水溶性ポリイソシアネート化合物とは、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーが、重亜硫酸ナトリウム、メチルエチルケトンオキシム、フェノール等でマスクされた水溶性または水分散性ポリイソシアネート化合物であり、ポリウレタン樹脂エマルジョン中の水分により、マスクされていたイソシアネート基が解離して、この遊離した末端イソシアネート基がポリウレタン樹脂と反応し、強固な分子構造を形成することで不溶化し、耐水性の連続気泡を有するポリウレタン多孔質体になるものと考えられている。
【0007】
しかしながら、水溶性または水分散性ポリイソシアネート化合物における重亜硫酸ナトリウム、メチルエチルケトンオキシムあるいはフェノール等でマスクされた末端イソシアネート基が解離した段階では、遊離したイソシアネート基はエマルジョン中の低分子化合物である水分子と優先的に反応をしてしまう傾向が強く、乳化剤で被覆されているポリウレタン樹脂との架橋反応が優先されにくいものである。そのうえ、水分子とイソシアネート基との反応では必ず二酸化炭素(炭酸ガス)が生成し、水中に放出されるため、多孔質体の中心部にこの二酸化炭素が蓄積し、粗大セルを形成させる原因となり、得られたポリウレタン多孔質体が粗大セル化、または巨大セル化する、あるいは亀裂発生の原因になり、均質な微細孔を有するポリウレタン多孔質体を得ることは困難なものであった。
【0008】
このような不都合を避けるため、イソシアネート化合物以外の架橋剤として、例えば、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物等が検討されてきたが、いずれも、水分の存在下でのウレタン樹脂との反応性が乏しいか、または架橋反応に伴う主剤のポリウレタン樹脂エマルジョンに対するゲル化効果も極めて低いものであり、目的とする微細孔を有するポリウレタン多孔質体を得ることは困難であった。
【0009】
かかる現象を抑制させるために、ポリウレタン樹脂エマルジョンの感熱ゲル化段階における、ポリウレタンエマルジョン粒子のブロック構造化を強固なものとする処方が研究され、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール変性シリコンオイル等の有機系化合物や、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム等の無機化合物を併用することによるポリウレタン多孔質体の製造法の研究が行われてきた。
【0010】
例えば、ポリウレタン樹脂のジメチルホルムアミド(DMF)溶液に炭酸ナトリウム、塩化カルシウム等の水溶性無機塩を添加した高粘度配合液を、水中でゲル化させる方法があるが、かかる方法であっても、ピンホールを完全に除去しにくく、しかも完全ゲル化に24ないし48時間と長時間を要する欠点を有していた。
【0011】
一般に、ポリウレタン樹脂エマルジョンを感熱ゲル化し、次いで架橋剤による架橋反応によりポリウレタン多孔質体を得る場合においては、感熱ゲル化の段階では、ポリウレタン樹脂エマルジョン粒子同士が強力なブロック構造を形成し、そのブロック構造を維持したまま、加熱によりポリウレタン樹脂が連結してゲル化し、この過程で水溶性ポリイソシアネート化合物等の架橋剤がポリウレタン樹脂と反応して、より一層強固な分子構造を形成することで不溶化し、耐水性に優れた連続気泡を有するポリウレタン多孔質体になると考えられている。
【0012】
したがって、緻密な多孔質体を製造する場合の重要な要素としては、ポリウレタン樹脂エマルジョン粒子同士の強固なブロック構造の形成と、かつ、そのブロック構造を維持したまま、加熱によるポリウレタン樹脂の連結/ゲル化融着であるといえる。
【0013】
かかる観点に立脚して先に本発明者は、ポリウレタン樹脂エマルジョン中のポリウレタン樹脂の架橋剤である水溶性ポリイソシアネート化合物の組成及びその使用量の検討を行い、水溶性ポリイソシアネート化合物を、二次架橋剤としてのジアミン化合物で鎖伸長させながら、ポリウレタン樹脂エマルジョンを感熱ゲル化させて、緻密なポリウレタン多孔質体を得ることを提案している(特許文献1)。しかしながら、得られたポリウレタン多孔質体は、均一なセル構造を有しているものの、吸水速度がやや遅く、寸法安定性が若干欠けるという欠点を有しており、更なる改良が求められているのが現状である。
【特許文献1】特開2003−48940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって本発明は、上記現状に鑑み、肉厚の多孔質体であったとしても、層全域の多孔質構造が極めて均一で、微細な連続気孔を有すると共に、吸水速度に優れ、寸法安定性が良好なポリウレタン多孔質体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するための本発明は、基本的態様として、ポリウレタン樹脂エマルジョンを、水溶性ウレタンプレポリマーに対する架橋剤として3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデセンまたは1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンを使用して、水溶性高分子化合物の存在下に架橋反応させて多孔質体の基本的な骨格構造体を形成した後、ポリウレタンエマルジョンを加熱によりゲル化させて骨格構造体と一体ならしめることにより得られたことを特徴とするポリウレタン多孔質体である。
【0016】
かかる本発明は、具体的態様として、水溶性ウレタンプレポリマーが、末端イソシアネート基が重亜硫酸ナトリウムによりマスクされた水溶性ウレタンプレポリマーであることを特徴とするポリウレタン多孔質体である。
【0017】
さらに本発明は、具体的態様として、水溶性高分子化合物がアルギン酸ナトリウムであるポリウレタン多孔質体である。
【0018】
また本発明は、さらに具体的な態様として、ゲル化工程を、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンまたはトリブチルアミンの共存下に行うことを特徴とするポリウレタン多孔質体である。
【0019】
すなわち本発明は、ポリウレタン樹脂エマルジョン中の水溶性ウレタンプレポリマーに対する架橋剤として、特定のヘテロ環基を有するアミン化合物をゲル化反応の系に併用させることで、水中での凝集力を高め、緻密な連続気孔を有するポリウレタン多孔質体を得ることを一つの特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により提供されるポリウレタン多孔質体は、水溶性ウレタンプレポリマーに対する架橋剤として、これまで全く検討されていなかった3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデセンまたは1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンを使用するものである。かかる架橋剤を使用することにより、得られたポリウレタン多孔質体は、湿潤時の寸法安定性に優れるとともに、吸水性が良好であって、極めて緻密で連続気孔を有するものである。
【0021】
すなわち、本発明はポリウレタン樹脂エマルジョンを、水溶性ポリウレタンプレポリマーに対する架橋剤としての特定のアミン化合物を存在させ架橋反応することにより連続多孔質骨格構造体を形成させ、該骨格構造体中またはその表面にポリウレタンエマルジョン粒子を固定させることで、加熱によりゲル化したウレタンエマルジョン粒子が乳化状態を失って完全に骨格構造体中に取り込まれ、寸法安定性に優れた多孔質体を形成するものであり、従来の水溶性ポリイソシアネート化合物を使用する場合に認められる巨大セルの発生を回避でき、肉厚の多孔質体の場合であっても、層全域の多孔質構造が極めて均一緻密で、寸法安定性の良好なポリウレタン多孔質体が得られる利点を有する。
【0022】
したがって、本発明が提供するポリウレタン多孔質体は、極めて微細な連続気孔を有するものであり、肌触りが良好であり、吸水性ロール、化粧用のパフ、各種半導体または光学材料等の研磨パット、インキ保持材、板海苔製造用吸液パッド、人工皮革基材、合成皮革基材などに好適に使用することができる利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、上記したようにその基本的態様は、水溶性ウレタンプレポリマーに対する架橋剤として3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデセンまたは1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンを使用して、水溶性高分子化合物の存在下に架橋反応した後ポリウレタンエマルジョンをゲル化させて得られたことを特徴とするポリウレタン多孔質体である。
【0024】
本発明で使用しうるポリウレタン樹脂エマルジョンとしては、基本的には、強制乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンあるいは自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョン等のいずれも使用が可能であるが、特に強制乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンを使用するのがよい。自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンとは、ポリウレタンエ樹脂マルジョンのなかでカルボン酸基が存在するもの全てを意味し、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等の、分子内にカルボン酸基を有するポリヒドロキシ化合物を共重合することで得ることができる。
【0025】
一方、強制乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンとは、カルボン酸基を有しない、強制的に乳化したポリウレタン樹脂エマルジョンを意味する。さらに自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョン構造を有しているもので、乳化安定性を向上させるために界面活性剤を併用してもよい。
【0026】
このポリウレタン樹脂エマルジョンの組成としては、ポリオール成分とポリイソシアネート成分からなるものであり、ポリオール成分としては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ−2−メチルテトラメチレングリコール、ポリブタンジオールアジペート、ポリ−3−メチルペンタンジオールアジペート、ポリ−1,6−ヘキサンジオールアジペート、ポリネオペンチルグリコールアジペート、ポリ−3−メチルペンタンジオールカーボネート、ポリノナンジオールカーボネート、ポリエチレングリコールアジペート、ポリカプロラクトン、ポリ−β−メチルバレロラクトン等を単独、または併用して使用することができる。
【0027】
さらに、ポリオール成分としての短鎖ジオール化合物としては、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、ノナンジオール、オクタンジオール、ジメチロールヘプタン等のグリコール及び上記したジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等が使用可能である。
【0028】
また、鎖伸張剤として短鎖ジアミン化合物を使用することもできる。そのような短鎖ジアミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、ビス(p−アミノフェニル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ヒドラジン、ピペラジン、テトラエチレンペンタミン等が使用できる。
【0029】
上記したように、自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンは、例えば、ジメチロールプロピオン酸またはジメチロールブタン酸を鎖伸長剤の一部に使用し、トリエチルアミン等のアルカリ性条件下で乳化・分散したものであり、その粒子径は0.01〜0.1μm程度と極めて微細なものである。
【0030】
これに対して強制乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンは、主として非イオン型界面活性剤または非イオン型界面活性剤と陰イオン界面活性剤を併用してウレタン樹脂に対して3〜5質量%程度使用して乳化させたものであり、その粒子径は0.1〜1μm程度と、自己乳化型に対して約10倍大きなものであり、またゲル化後に水洗しても界面活性剤が完全に除去されず、乾燥時の熱融着が不十分な場合、寸法安定性を損なう原因になっていた。
【0031】
そのため、ポリウレタン樹脂エマルジョンに水溶性ウレタンポリマーを使用し、ポリウレタン多孔質体を製造する方法を検討してきたが、自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンの場合、架橋剤として使用するジアミン化合物が、アルカリ条件下での乳化分散のために使用するトリエチルアミンと置換してしまい、水溶性ウレタンプレポリマーの再生イソシアネート基と反応することができず、目的とするポリウレタン多孔質体を得ることができなかった。
【0032】
そこで、さらに検討を行い、水溶性ウレタンプレポリマーの再生イソシアネート基(解離イソシアネート基)に対し架橋剤として作用するジアミン化合物を種々検討し、特異的複素環式構造を有するジアミン化合物が、両アミノ基間での凝集力に富み、良好な結果を与えることを確認し、本発明を完成するに至ったのである。
【0033】
すなわち、自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンでは、その超微細な粒子径のために、水溶性ウレタンプレポリマーにおける再生イソシアネート基が架橋剤としてのジアミン化合物と反応して析出し、水溶性高分子鎖に沿って多孔質体を形成する際に、自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョンを完全に取り込む状態となり、極めて緻密な多孔質体を形成するものと考えられる。
【0034】
その場合の水溶性ウレタンプレポリマーとは、ポリウレタン樹脂エマルジョンに対する連続多孔質骨格構造体の形成原料として使用される水溶性ポリイソシアネート化合物であり、末端イソシアネート基を有するプレポリマーに重亜硫酸ナトリウム(NaHSO)を反応させたものが、室温に近い温度条件下でイソシアネート基を解離しやすく、加熱時に金型内部での熱流動を抑制し、均一なセルを形成できることから、最も好ましく使用される。
【0035】
この場合の、ウレタンプレポリマーの構成成分としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリテトラメチレングリコール、テトラヒドロフラン/2−メチルテトラヒドロフランランダム共重合体、ポリブタンジオールアジペート、ポリエチレングリコールアジペート、ポリヘキサンジオールアジペート、ポリネオペンチルグリコールアジペート、ポリ−3−メチルペンタンジオールアジペート等のジヒドロキシ化合物と、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボネンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート等のジイソシアネートとの付加反応物であり、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを合成した後、末端のイソシアネート基を重亜硫酸ナトリウム、メチルエチルケトンオキシム、フェノール等の化合物でマスク(ブロック)したものである。なお、末端イソシアネート基の再生濃度の好ましい範囲は1.5〜7.5質量%である。
【0036】
ポリウレタン樹脂エマルジョン中のウレタン樹脂固形分と、水溶性ウレタンプレポリマー中のウレタン樹脂成分の配合比率は、プレポリマー中の解離したイソシアネート基(再生イソシアネート基)の含有比率に換算し、100/150〜100/250の範囲、より好ましくは、100/170〜100/230の範囲内である。すなわち、水溶性ウレタンプレポリマー中における解離したイソシアネート基の含有比率として、1.5〜7.5質量%の範囲が好ましく、この水溶性ウレタンプレポリマーの使用量は、ポリウレタン樹脂エマルジョンに対して150〜250質量%、好ましくは150〜250質量%の範囲内となる。
【0037】
本発明において水溶性ウレタンプレポリマーに対する架橋剤として使用するジアミン化合物としては、湿潤時の寸法安定性に優れた鎖伸長剤としての3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデセンまたは1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンである。
【0038】
上記のジアミン化合物は、湿潤時の寸法安定性に優れた鎖伸長剤であり、その骨格中の複素環がゲルの凝集力を高めていると推測される。その使用量は、ウレタンプレポリマーの再生イソシアネート基に対して、化学量論的に0.8〜1.0の範囲が好ましい。0.8未満では、水分との反応による炭酸ガスの発生が顕著をなり、微細なセル形成が困難となる。
【0039】
先に本発明者が提案した(特許文献1)ジアミン化合物のなかで、好ましく使用されていたN−メチルイミノビス(3−アミノプロピル)アミンは、その化学構造が左右対称であるばかりでなく、柔軟な構造を有するために、生成されるポリウレタン多孔質体の伸びは大きくなり、その結果、引き裂き強度を大きくできて好ましいと考えられてきた。しかしながら、吸水速度と、寸法安定性はそれほど好ましいものではない。これに対して本発明で使用するジアミン化合物は、芳香族ジアミンと異なり、酸素原子、窒素原子を有するヘテロ環構造であるために水溶性であり、また、骨格構造が強固であることから凝集力に富み、特に水膨潤率が小さくなり、極めて緻密な微細構造を有するポリウレタン多孔質体が生成され、吸水速度と、その寸法安定性が良好なものであることが判明した。
【0040】
本発明のポリウレタン樹脂エマルジョンのゲル化/架橋化に際して、上記したポリウレタン樹脂エマルジョン、水溶性ウレタンプレポリマー及びジアミン化合物以外に、水溶性高分子化合物をさらに添加することもできる。
【0041】
かかる水溶性高分子化合物は、ポリウレタン樹脂エマルジョン及び水溶性ウレタンプレポリマーを吸着して、いわば多孔質体前駆骨格構造体を形成するものと考えられる。このため、この水溶性高分子化合物に求められる性質としては、ウレタンエマルジョン粒子と水素結合を形成可能であり、かつポリウレタン樹脂エマルジョンの増粘剤として作用するものがよい。
【0042】
本発明においては、水溶性高分子化合物として一般的に使用可能な、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ジイソシアネート変性ポリエチレングリコール等は好ましくないことが判明した。すなわち、例えば、ジイソシアネート変性ポリエチレングリコールは、製造プロセス上、末端または骨格構造中にアミノ基が存在するものと推定され、水溶性ウレタンプレポリマーの高分子化を阻害するものと考えられるからである。
【0043】
したがって、本発明においては、使用する水溶性高分子化合物としてはアルギン酸ナトリウムが好ましい。水溶性高分子化合物の添加量としは、全ウレタン樹脂量に対して0.1〜3質量%の範囲が好ましいが、さらに好ましくは、0.5〜1.5質量%の範囲である。なお水溶性高分子化合物は、あらかじめ水溶液として調製しておいたものを添加するのが好ましい。
【0044】
本発明においては、重亜硫酸ナトリウムを付加した水溶性ウレタンプレポリマーが架橋剤のジアミン化合物と効率よく反応し、多孔質体を形成するために、室温付近での初期凝固が重要である。そのためには、イソシアネートとアミンの反応を促進するための触媒としてのアルカリ性付与剤が必要である。
【0045】
そのようなアルカリ性付与剤としては、水溶性ウレタンプレポリマー中の解離したイソシアネート基(再生イソシアネート基)と反応をしない、第三級アミン化合物が挙げられ、具体的にはトリエチレンジアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等をあげることができる。
【0046】
本発明においては、ポリウレタン多孔質体を調製する樹脂の配合液における全固形分濃度の好ましい範囲は、15〜30質量%であり、さらに好ましくは、18〜26質量%の範囲である。15質量%未満では固形分が不足し、均一なセルが形成できず、金型内部で上下に密度差が発生し、不均一となる。また、30質量%を超える場合には、粘度が高く、含有する空気を除去できず、ピンホールが発生しやすい。
【0047】
本発明が提供するポリウレタン多孔質体を形成するには、ゲル化工程を二段階で行うことが肝要である。すなわち、先ず室温付近、例えば、10〜25℃で徐々に水溶性ウレタンプレポリマーにおける再生イソシアネート化合物と、それに対する架橋剤としてのジアミン化合物を反応させて、熱流動が起きない状態となる擬似ゲル化体を形成する。
【0048】
次いで、加熱することによりエマルジョンの粒子のゲル化を促進させ、エマルジョン粒子を完全にゲル化構造の中に固定させることで、多孔質体の形成が完了する。この加熱ゲル化工程は、好ましくは80〜95℃まで加熱することで達成される。加熱によりゲル化が完了すると、骨格構造が最初の金型寸法より小さく、初期段階において添加した水溶性高分子化合物が多孔質体構造から異物としてはじき出され、その除去は極めて簡単に行い得るものとなる。
【0049】
なお、本発明におけるゲル化、架橋反応には、その他の成分として着色剤、抗菌剤、消泡剤、増粘剤等、高分子化学上汎用されている他の成分を、必要に応じて併用することもできることはいうまでもない。
【0050】
これらの条件により形成した本発明のポリウレタン多孔質体は、従来のポリウレタン多孔質体の吸水速度が60秒以上であったものから大幅に改善されたほかに、尿素結合間の結晶性、凝集力向上により水膨潤率も低下し、吸水ロール分野等で使用可能とされる膨潤率にすることができた。
【0051】
したがって、本発明が提供するポリウレタン多孔質体は、例えばシート状物として、介護医療用品としてのベッド、健康福祉用品、化粧品用のパフ、研磨材シート、農業資材、電子機器製造関係資材、空気洗浄機器フィルター、人工皮革基材等の各種製品に使用し得る。
【実施例】
【0052】
以下本発明を実施例及び比較例を示すことにより、より詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0053】
実施例1〜5
下記表1に示す処方により、各成分を攪拌機にて均一に混合した。次いでこの混合物をsus304製容器内に入れ、密封したのち、室温にて30分放置した後、60℃の熱媒中に浸漬させ、2時間その状態を保持した。反応終了後、水洗し、乾燥させて本発明のポリウレタン多孔質体を得た。
【0054】
得られたポリウレタン多孔質体の吸水速度、膨潤率及びセルサイズを測定し、その結果を総合評価し、それらの結果を合わせて表中に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
*1:E4500:第一工業製薬社製、強制乳化型無黄変ウレタン樹脂エマルジョン
*2:AP12:日華化学社製、強制乳化型無黄変ウレタン樹脂エマルジョン
*3:AL45:日華化学社製、水溶性ウレタンポリマー(重亜硫酸ナトリウムブロック型)
*4:APP:1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン
*5:ATOU:3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデセン
*6:B943:旭電化社製、鉱物油系消泡剤
*7:F−SSL:アルギン酸ナトリウム
*8:TEA:トリエチルアミン
*9:TBA:トリブチルアミン
【0057】
*10:吸水性(秒)の評価は以下のようにして行った。
水洗、乾燥したポリウレタン多孔質体の表面に、約0.1mLの水滴をスポイトで静かに滴下し、滴下した水滴がポリウレタン多孔質体に吸収され、完全に消失するまでの時間(秒)。
【0058】
*11:膨潤性(%)の評価は以下のようにして行った。
水洗、乾燥したポリウレタン多孔質体の表面に、10cm間隔幅で2本の標線を描き、多孔質体を水に浸漬させ、60分を経過した後の標線幅の寸法変化率を測定した。
【0059】
*12:総合評価は、上記の吸水性、膨潤性の結果及びセルサイズを総合的に評価して、以下の基準に従って評価した。
○:良好
×:不良
【0060】
比較例1〜5
下記表2に示す処方により、各成分を攪拌機にて均一に混合した。次いでこの混合物をsus304製容器内に入れ、密封したのち、室温にて30分放置した後、60℃の熱媒中に浸漬させ、2時間その状態を保持した。反応終了後、水洗し、乾燥させて比較例のポリウレタン多孔質体を得た。
【0061】
得られたポリウレタン多孔質体について、上記実施例と同様に吸水速度、膨潤率及びセルサイズを測定し、その結果を総合評価し、それらの結果を合わせて表中に示した。
【0062】
【表2】

【0063】
(注)表中の注記は、下記を除き表1と同様である。
*13:MIBPA:N−メチルイミノビス(3−アミノプロピル)アミン
*14:TEDA:トリエチレンジアミン
【0064】
以上の実施例1〜5ならび比較例1〜5の結果から明らかなように、本発明のポリウレタン多孔質体は、湿潤時の寸法安定性が良好であり、吸水性に優れ、極めて緻密なセル構造を有するものである。これは、水溶性ウレタンプレポリマーから再生したイソシアネート基間を架橋して連結するジアミン化合物として、特異的な複素環骨格を有する3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデセンまたは1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンを使用したことによるものであり、本発明のポリウレタン多孔質体にみられる特異的なものであることが判明する。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上記載したように、本発明により、湿潤時の寸法安定性が良好であり、吸水性に優れ、極めて緻密なセル構造を有するポリウレタン多孔質体が提供される。これらのポリウレタン多孔質体は、吸水性ロール、化粧用のパフ、各種半導体または光学材料等の研磨パット、インキ保持材、板海苔製造用吸液パッド、人工皮革基材、合成皮革基材などの完全に空隙が連続したウレタン多孔質体の性質を利用した各種製品分野に好適に利用できるものであり、その産業上の効果は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂エマルジョンを、水溶性ウレタンプレポリマーに対する架橋剤として3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデセンまたは1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンを使用して、水溶性高分子化合物の存在下に架橋反応し、次いでゲル化させて得られたことを特徴とするポリウレタン多孔質体。
【請求項2】
水溶性ウレタンプレポリマーが、末端イソシアネート基が重亜硫酸ナトリウムによりマスクされた水溶性ウレタンプレポリマーであることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン多孔質体。
【請求項3】
水溶性高分子化合物がアルギン酸ナトリウムである請求項1または2に記載のポリウレタン多孔質体。
【請求項4】
ゲル化工程を、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンまたはトリブチルアミンの共存下に行うことを特徴とする請求項1、2または3に記載のポリウレタン多孔質体。

【公開番号】特開2006−328288(P2006−328288A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156811(P2005−156811)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】