説明

ポリウレタン弾性繊維及びその製法

【課題】脂肪酸金属塩の凝集が抑制された紡糸原液及び繊維処理剤を用いて乾式紡糸して得られる、紡糸生産安定性とパッケージからの良好な解舒性や繊維の加工性良好な摩擦性を有するポリウレタン弾性繊維の提供。
【解決手段】ポリウレタン重合体100重量部、該ポリウレタン重合体100重量部に対して、炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩0.01〜3重量部、及びポリカルボン酸系共重合化合物0.00001〜5重量部を含むポリウレタン弾性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン弾性繊維に関する。より詳細には、本発明は、脂肪酸金属塩の凝集が抑制された紡糸原液及び繊維処理剤を用いて乾式紡糸して得られた、紡糸生産安定性とパッケージからの良好な解舒性や繊維の加工性良好な摩擦性を有するポリウレタン弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン系弾性繊維は、高伸度と優れた弾性特性を有する。しかしながら、ポリウレタン重合体は柔軟かつ粘着性の素材であるために、紡糸工程でのガイドやローラーでの糸切れや生地加工工程において、編み針、ガイドによる糸切れや摩擦変動を受けやすく生地にした場合には、生地品位が低下しやすい。
【0003】
これらの諸問題を改善するため、ポリウレタン系弾性繊維の紡糸原液中に脂肪酸金属塩を添加したり、紡糸時に繊維を巻き取る際に脂肪酸金属塩を配合した繊維処理剤を付着させている。しかしながら、近年、ポリウレタン弾性繊維製造技術のトレンドが、一層の細繊度(5〜20デシテックス)化とコストダウン化のための高速度巻取りでの紡糸が進みつつある為、紡糸原液中に一部凝集した脂肪酸金属塩が混在した場合には、紡糸工程で糸切れが多発し著しい生産性の低下が起こる。そのため紡糸原液が通過する配管中に、凝集物を除去する為に幾重にもフィルターが設置されている。また、紡糸直前の紡糸ノズル中にも細孔口サイズ(20μm〜50μm粒子サイズのカット)の金属製積層フィルターが組み込まれ凝集物を排除している。
【0004】
脂肪酸金属塩の分散状態が不良な場合には、フィルターが詰まり、頻繁にフィルターの交換を必要とする。紡糸原液に脂肪酸金属塩を単に混合させるだけの場合、紡糸原液中で脂肪酸金属塩が安定的に分散せず、凝集物が発生しやすく、得られた繊維の脂肪酸金属塩の含有量の減少や偏在によってパッケージの捲形状が悪くなる。さらには繊維から布帛への加工工程においても、該パッケージからの解舒不良や繊維の平滑性も悪くなる。
【0005】
また、ポリウレタン弾性繊維の布帛加工性向上のために、紡糸巻き取りにおける繊維の表面処理剤のオイル成分中にも、ポリアルキルシロキサンや鉱物油と共に脂肪酸金属塩が配合されている。しかしながら、オイル成分中でも脂肪酸金属塩は凝集しやすい。そのため、処理剤付与オイルノズルの穴詰まりやオイルローラー上で脂肪酸金属塩の凝集による蓄積が起こり、その結果、繊維表面に付着斑や糸切れが生じたり、更には布帛への加工時にはガイド、ローラー、編み針等への脂肪酸金属塩のスカムが発生したり、繊維の平滑性、対金属摩擦性を大きく低下する問題がある。
【0006】
ポリウレタン弾性繊維に使用されている脂肪酸金属塩の分散安定化の技術的課題に対して、従来から多くの試みが行われてきている。例えば、以下の特許文献1と2には、紡糸原液用の脂肪酸金属塩の分散剤として特定の有機リン酸含有化合物を用いることが、以下の特許文献3には、特定の窒素含有化合物を用いることが、以下の特許文献4と5には、特定の変性シリコーン化合物を用いることが、そして以下の特許文献6には、アニオン系界面活性剤で固体微粒子を表面処理することが開示されている。
しかしながら、これらの分散剤を用いても、調製したポリウレタン弾性繊維紡糸液中に脂肪酸金属塩を十分に安定的に分散させることは未だ達成されていない。
【0007】
また、以下の特許文献7〜9には、繊維処理剤に、シリコーン、アミノ変性シリコーン、脂肪酸金属塩と有機カルボン酸類を用いることが開示されている。

しかしながら、これらの繊維処理剤は、温度分散安定性が低く、特に夏場において繊維処理剤の脂肪酸金属塩の凝集に起因する問題が発生している。また、繊維処理剤を繊維に付着させる工程でも、繊維に一定量のオイルを均一に付着させるためには、オイル粘度を一定に保つ必要がある。そのため、繊維処理剤浴の温度を50℃付近に設定している。その場合も、処理剤浴中の脂肪酸金属塩の凝集はいっそう進みやすいという問題がある。
【0008】
このように、脂肪酸金属塩のポリウレタン弾性繊維の平滑性、摩擦性改善のために、多くの試みが行われてきたが、未だに紡糸原液や繊維処理剤を用いてのポリウレタン弾性繊維における諸問題を十分に解決するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003−527476号公報
【特許文献2】特許第4397028号公報
【特許文献3】特開2006−219768号公報
【特許文献4】特開2009−287126号公報
【特許文献5】特開2007−100251号公報
【特許文献6】特開2004−76207号公報
【特許文献7】特開平11−12951号公報
【特許文献8】特開2002−371467号公報
【特許文献9】特開2009−179889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、脂肪酸金属塩の凝集が抑制された紡糸原液及び繊維処理剤を用いて乾式紡糸して得られる、紡糸生産安定性とパッケージからの良好な解舒性や繊維の加工性良好な摩擦性を有するポリウレタン弾性繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩と特定のポリカルボン酸系共重合化合物を含むポリウレタン弾性繊維に関する。
一般に脂肪酸金属塩は、ポリウレタン重合体を溶解するアミド系溶剤や繊維処理剤のポリアルキルシロキサンに親和性が乏しく、混合前には固体微粒子の平均粒子径が1μm以下の微粒子であっても、アミド溶剤やポリアルキルシロキサン中では、速やかに凝集が進み、数十μmの粒子凝集体になり、工程中各所に存在するフィルターを閉塞する。よって、脂肪酸金属塩をアミド系溶剤やポリアルキルシロキサン中で親和性を向上させる好適な分散剤を見出すことが肝要であった。ポリアルキルシロキサン中では、ミル等で機械的分散して、一時的に微粒子化された脂肪酸金属塩であっても、経時的に凝集が進行するため、30℃以下好ましくは20℃以下の低温保管でないと、脂肪酸金属塩の凝集体が生成し、処理剤ノズル詰まりや繊維に付着すると加工問題を起こす原因になる。
【0012】
本発明者らは、かかる観点から鋭意検討し実験を重ねた結果、ポリウレタン弾性繊維用の脂肪酸金属塩に対して、アミド系溶剤中及び繊維処理剤のポリアルキルシロキサン中の両者で脂肪酸金属塩に著しい分散効果を持つ特定のポリカルボン酸系共重合化合物を見出し、これを用いることにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]ポリウレタン重合体100重量部、該ポリウレタン重合体100重量部に対して、炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩0.01〜3重量部、及びポリカルボン酸系共重合化合物0.00001〜5重量部を含むポリウレタン弾性繊維。
【0014】
[2]前記炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩の脂肪酸は、ステアリン酸及びパルチミン酸からなる群から選ばれ、かつ、金属は、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、及び亜鉛からなる群から選ばれる、前記[1]に記載のポリウレタン弾性繊維。
【0015】
[3]前記ポリカルボン酸系共重合化合物は、ポリオキシアルキレン誘導体と不飽和カルボン酸化合物との共重合化合物であり、かつその主鎖にポリカルボン酸基を、そしてそのグラフト鎖にポリオキシアルキレン基を有する、前記[1]又は[2]に記載のポリウレタン弾性繊維。
【0016】
[4]前記ポリカルボン酸系共重合化合物は、以下の式(1):
【化1】

{式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜22の炭化水素基を表し、AOは、それぞれ独立に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、sは、1〜150の整数であり、AOは、複数存在する場合、ブロック状でもランダム状でもよい。}又は以下の式(2):
【化2】

{式中、R、R及びRは、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜22の炭化水素基を表し、AOは、それぞれ独立に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、pは、1〜150の整数であり、AOは、複数存在する場合、ブロック状でもランダム状でもよい。}で表されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル構成単位(a)10〜90モル%と、以下の式(3):
【化3】

{式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表し、Xは、−OM又は−Y−(AO)を表し、ここで、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表し、Yは、エーテル基又はイミノ基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜22の炭化水素基を表し、AOは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、rは、1〜150の整数であり、AOは、複数複数存在する場合、ブロック状でもランダム状でもよい。}で表されるジカルボン酸又は以下の式(4):
【化4】

{式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、そしてMは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表す。}で表されるモノカルボン酸構成単位(b)10〜90モル%と、前記構成単位(a)又は(b)以外の共重合可能な単量体構成単位(c)0〜30モル%とから構成され、であり、前記炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩100重量部に対して0.1〜20重量部含有される、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維。
【0017】
[5]以下の工程:
ポリウレタン重合体100重量部、該ポリウレタン重合体100重量部に対して、炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩0.01〜3重量部、及びポリカルボン酸系共重合化合物0.0001〜5重量部を、アミド系溶剤に溶解・混合して、紡糸原液を作製し、そして
該紡糸原液を乾式紡糸法で紡糸し、得られた糸を巻き取って、ポリウレタン弾性繊維を製造する、
を含む、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【0018】
[6]前記紡糸後に得られた糸を巻き取る際に、25℃における動粘度が5〜50センチストークスであるポリアルキルシロキサンと25℃における動粘度が30〜70センチストークスである鉱物油との比が100:0〜50:50であるオイル成分と、該オイル成分100重量部に対して炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩0.1〜10重量部、ポリカルボン酸系共重合物0.001〜0.1重量部を含む繊維処理剤とを、該糸に付着する、前記[5]に記載のポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリウレタン弾性繊維は、脂肪酸金属塩と特定のポリカルボン酸系共重合化合物とを含み、脂肪酸金属塩が安定に分散され、紡糸時の糸切れが少なく、布帛加工安定性も優れたポリウレタン弾性繊維である。本発明のポリウレタン弾性繊維においては、紡糸工程の前後のいずれか又は両方の段階で、良好に分散された脂肪酸金属塩が繊維中に含有又は繊維表面に付着されており、その結果、紡糸糸切れが少なく、捲形状も良好なパッケージを得ることができる。本発明のポリウレタン弾性繊維は、その繊維中及び糸表面に脂肪酸金属塩が微粒子状態で存在するため、脂肪酸金属塩の機能が効果的に発揮され、その結果、生地面の表面品位が良好な商品価値の高い生地が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明における試験糸の金属摩擦性評価装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、脂肪酸金属塩と特定のポリカルボン酸系共重合化合物とを含むポリウレタン弾性繊維である。
すなわち、本発明は、ポリウレタン重合体100重量部、該ポリウレタン重合体100重量部に対して、炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩0.01〜3重量部、及びポリカルボン酸系共重合化合物0.00001〜5重量部を含むポリウレタン弾性繊維である。
【0022】
該脂肪酸金属塩は、炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩の脂肪酸がステアリン酸又はパルチミン酸であり、金属塩の金属がマグネシウム、カルシウム、アルミニウム、及び亜鉛から選ばれることが好ましい。該脂肪酸金属塩は、ポリウレタン重合体100重量部に対して0.01重量部未満では効果がなく、3重量部を超える場合にはパッケージの巻き姿が悪くなる。
【0023】
ポリカルボン酸系共重合化合物は、好ましくはポリオキシアルキレン誘導体及び不飽和カルボン酸化合物との共重合化合物であり、かつ、その主鎖にポリカルボン酸基を、そしてそのグラフト鎖にポリオキシアルキレン基を有する共重合化合物である。
【0024】
脂肪酸金属塩は、ポリウレタン重合体用の溶剤や油剤との親和性が乏しい。本発明に用いられるポリカルボン酸系共重合物の主鎖にあるカルボニル基は脂肪酸金属塩側に向き、グラフト鎖にあるポリオキシアルキレン基は、脂肪酸金属塩に対して外側に向き、溶剤や油剤に対して親和性を持つため溶剤や油剤中での分散安定性が向上すると推測する。
【0025】
ポリカルボン酸系共重合化合物は、好ましくは、上記式(1)又は上記式(2)で表されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル構成単位(a)10〜90モル%と、無水マレイン酸若しくは上記式(3)で表されるジカルボン酸又は上記式(4)で示されるモノカルボン酸構成単位(b)10〜90モル%と、上記構成単位(a)又は(b)以外の共重合可能な単量体構成単位(c)0〜30モル%とから構成されるポリカルボン酸系共重合化合物であり、前記ポリウレタン重合体100重量部に対して0.00001〜5重量部で含有される。ポリカルボン酸系共重合化合物の含有量が、0.00001重量部未満であると効果が乏しく、5重量部を超える量を添加しても効果は変わらず経済的でない。
【0026】
ポリカルボン酸系共重合化合物の例としては以下のものを挙げることができる。
水酸基(−OH)末端モノメタクリレートで:ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)−モノメタクリレート、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール−モノメタクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)−モノメタクリレート、プロピレングリコール・ポリブチレングリコール−モノメタクリレート等;
水酸基(−OH)末端モノアクリレート:ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート等;
【0027】
アルキル基又はアリール基末端ポリアルキレングリコールモノメタクリレート:メトキシポリエチレングリコール−メタクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−メタクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール−メタクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール−メタクリレート、フェノキシポリエチレングリコール−メタクリレート、フェノキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−メタクリレート等;
アルキル基又はアリール基末端ポリアルキレングリコールモノアクリレート:メトキシポリエチレングリコール−アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール−アクリレート、ノニルフェノキシ-ポリプロピレングリコール−アクリレート、ノニルフェノキシ−ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)−アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール−アクリレート。
【0028】
好ましいポリカルボン酸系共重合化合物は、マレイン酸及び又は無水マレイン酸由来のジカルボン酸と水酸基(−OH)末端モノメタクリレート及び又は水酸基(−OH)末端モノアクリレートとの共重合物である。
【0029】
構成単位(a)又は(b)以外の共重合可能な単量体構成単位(c)としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、イソブチレン、ジイソブチレン、1−ドデセン、スチレン、p−メチルスチレン、イソプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソプロペニルメチルエーテル、酢酸ビニル、アクリルアミド等が挙げられ、好ましくはイソブチレン、スチレンである。
【0030】
ポリカルボン酸系共重合化合物の製造方法としては、公知の方法を用いることができる。以下、製造法の1例を示す。
5リットル加圧反応器にアリルアルコール58g(1.0モル)と触媒としてナトリウムメチラート1.0gを入れ、系内の空気を窒素ガスで置換した後、100〜120℃でエチレンオキシド1408g(32.0モル)とプロピレンオキシド116g(2.0モル)とを予め混合しておいた溶液を約0.05〜0.5MPa(ゲージ圧)で徐々に圧入して付加反応を行う。反応終了後60℃まで冷却する。次いで、上記加圧反応器で60℃に保たれている反応溶液中に水1198g、無水マレイン酸176.4g(1.8モル)を加え、35℃で水溶性開始剤として過硫酸アンモニウム38.8g(0.170モル)を加え、系内の空気を窒素ガスで置換した後、60±2℃で10時間反応させる。重合反応終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液225g(水酸化ナトリウムとして2.7モル)を加えて中和し、ポリカルボン酸系共重合体の水溶液を得る。
【0031】
本発明に用いられるポリカルボン酸系共重合物のGPC測定による重量平均分子量は、好ましくは、500〜100000であり、より好ましくは3000〜80000であり、さらに好ましくは、5000〜50000である。該重量平均分子量が500未満や100000を超える場合には、効果が乏しい。
本発明のポリカルボン酸系重合物の具体的な1例として、日油株式会社製商品名マリアリムAKM−0531、AFB−0561、AFB−1521、AAB−0851、AEM3511,AWS−0851等があげられる。好ましい化合物は、AKM−0851である。
【0032】
前記したように、本発明における脂肪酸金属塩は、炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩の脂肪酸がステアリン酸又はパルチミン酸であり、金属塩の金属がマグネシウム、カルシウム、アルミニウム、及び亜鉛から選ばれることが好ましい。該脂肪酸金属塩は、ポリウレタン重合体100重量部に対して0.01〜3重量部でポリウレタン弾性繊維に付着又は含有される。0.01重量部未満では、効果がなく、3重量部を超える場合には、効果は変わらず経済的でもなく、却って、繊維の強伸度物性を始めとする弾性機能を低下したり、繊維相互の摩擦性が低下して糸すべりが起こり、パッケージの巻き形状が悪くなる。好ましい脂肪酸金属塩は、ステアリン酸マグネシウム、パルチミン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウムである。
【0033】
本発明のポリウレタン弾性繊維を製造するのに際し、脂肪酸金属塩とポリカルボン酸系共重合化合物とを、ポリウレタン重合体と炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩とポリカルボン酸系共重合化合物をポリウレタン重合体を溶解する溶剤に配合し紡糸工程を経て製造する場合の溶剤としては、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドを挙げることができ、好ましくは、ジメチルアセトアミドである。
【0034】
紡糸原液中の、ポリウレタン重合体の固形分濃度は、好ましくは、20重量%以上50重量%以下である。
【0035】
脂肪酸金属塩とポリカルボン酸系共重合化合物とを含む紡糸原液の調製方法としては、(1)予め両者を均一に混合した後に、ポリウレタン系重合体に添加する方法、(2)ポリウレタン系重合体溶液と脂肪酸金属塩を混合した後に、ポリカルボン酸系共重合物を混合させる方法、(3)ポリウレタン系重合体の溶液とポリカルボン酸系共重合物を混合した後に、脂肪酸金属塩を混合させる方法、(4)ポリカルボン酸共重合化合物とポリウレタン系重合体溶液と脂肪酸金属塩とを同時に加えて混合する方法が挙げられる。
【0036】
好ましくは、予め脂肪酸金属塩の表面をポリカルボン酸共重合化合物で均一に処理した後に、これをポリウレタン重合体の溶液に添加混合させる方法である。これにより、溶剤中での脂肪酸金属塩相互の凝集がより抑制され、脂肪酸金属塩の分散状態が好ましく維持された紡糸原液を得ることができる。
【0037】
ポリカルボン酸系共重合物と脂肪酸金属塩を溶剤中で混合する場合、高速攪拌のホモミキサーを用いることもできるが、ホモミキサー以外にも、ボールミル、ビーズミル等を用いて、微粒子化と微分散化を同時に行うこともできる。この場合、ポリカルボン酸系共重合物を脂肪酸金属塩に混合して粉砕することで、さらに強力な分散効果が期待できる為、ボールミル、ビーズミルでの混合・粉砕が好ましく、より好ましくは、均一微分散の観点からビーズミルである。
ビーズミル等を用いる場合においては、平均粒子径50〜100μmの、脂肪酸金属塩を用いることができるが、ホモミキサー使用の場合は、溶剤に混合前の状態で平均粒子径10μm以下、好ましくは5μm以下の脂肪酸金属塩を用いることが好ましい。
【0038】
本発明に用いる特定のポリカルボン酸系共重合物と併用することにより、脂肪酸金属塩は、溶剤、ポリウレタン重合体に均一に微分散され、容積分布による平均粒経が好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは0.1〜10μmである分散状態の紡糸原液が得られる。
【0039】
ポリウレタン弾性繊維への紡糸方法としては、一般に、溶融紡糸法、湿式紡糸法、乾式紡糸法が知られている。本発明のポリウレタン弾性繊維の紡糸方法は、好ましくは乾式紡糸法である。
本発明のポリウレタン弾性繊維を製造しパッケージに巻き取るに際し、25℃における動粘度が5〜50センチストークスであるポリアルキルシロキサンと25℃における動粘度が30〜70センチストークスである鉱物油との比が100/0〜50/50であるオイル成分と、脂肪酸金属塩とポリカルボン酸系共重合物とを含む繊維処理剤で、得られた糸を処理することができる。
【0040】
本発明で使用される好ましい繊維処理剤のオイル成分は、25℃で5〜30cstのポリアルキルシロキサンと30〜70cstの鉱物油との比が100:0〜50:50であるものである。ポリアルキルシロキサンの代表例はジメチルシロキサンであり、好ましくは、ポリアルキルシロキサンは25℃で8〜15cstであり、そして鉱物油の粘度は25℃で40〜60cstである。繊維処理剤には、公知のポリエステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミノエーテル変性シリコーン、シリコンレジン、アミノエーテル変性シリコーン、リン酸系化合物、タルク、シリカ、コロイダルアルミナ等の鉱物性徴粒子、高級脂肪族アルコール、パラフィン、ポリエチレン常温で固体のワックスや着色剤、ロジン、顔料、カーボンブラック等を、本発明の効果を損なわない限度において、さらに付与しても構わない。
【0041】
これらの混合組成からなる繊維処理剤は、公知の方法により、ボールミル装置、ビーズミル装置、ホモミキサー装置で均一に分散させることができる。湿式ビーズミルで均一分散させることが好ましい。
【0042】
このような繊維処理剤の、ポリウレタン弾性繊維への付着量は、処理剤未付与のポリウレタン弾性繊維100重量部に対して、0.5〜10重量部であり、好ましくは2重量部〜8重量部である。
【0043】
本発明のポリウレタン重合体は、高分子ジオールとジイソシアネートとが反応して得られたプレポリマーに、活性水素含有化合物を反応させる公知の方法で得られる。
本発明に用いるポリウレタン重合体に用いられる高分子ジオールとしては、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエーテルジオール等を挙げることができる。該高分子ジオールは、好ましくはポリエーテルジオールであり、より好ましくは1種又は2種以上の炭素数2〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基がエーテル結合しているポリアルキレンエーテルジオールである。
【0044】
ポリアルキレンエーテルジオールは、1種又は2種以上の炭素数2〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基がエーテル結合しており、かつ、数平均分子量が500〜6000である単一又は共重合ポリアルキレンエーテルジオールである。共重合ポリアルキレンエーテルジオールは、アルキレン基がブロック状又はランダム状にエーテル結合しており、かつ、数平均分子量が500〜6000である共重合ポリアルキレンエーテルジオールである。従来からポリウレタン弾性繊維の原料として広範に用いられている単一重合ポリアルキレンエーテルジオールであるPTMG(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)に比較して、2種類以上のアルキレン基からなる共重合ポリアルキレンエーテルジオールを用いた場合には、共重合であり、ポリウレタン成分の65wt%〜85wt%を占めるジオール成分が非晶性であるため、ポリウレタン系重合体がより粘着性を有するため、本発明における効果が一層発揮され易い。
【0045】
共重合ジオールを用いる場合の利点としては、弾性機能がさらに改善されることが挙げられる。共重合ジオールを用いた場合には、得られるポリウレタン弾性繊維は、優れた弾性機能、すなわち、高い破断伸度、伸長時の歪に対する小さな応力変動、伸長時の応力の小さなヒステリシス損失等を有する。従って、共重合ジオールを用いたポリウレタン弾性繊維を使用したパンティストッキングやアウターは、優れた弾性機能を有し、着用感にも優れ、審美性良好な繊維製品となる。共重合ポリアルキレンエーテルジオールの中でも、得られるポリウレタン弾性繊維の耐水性、耐光性、耐摩耗性および弾性機能等の観点から、ブチレン基、すなわちテトラメチレンエーテルユニットを含む共重合ポリアルキレンエーテルジオールが好ましく、更にはブチレン基、すなわちテトラメチレンエーテルユニットと2,2−ジメチルプロピレン基、すなわちネオペンチレンエーテルユニットとの組み合わせや、テトラメチレンエーテルユニットと2−メチルブチレン基との組み合わせが好ましい。
【0046】
本発明のポリウレタン重合体に用いられるジイソシアネートとしては、分子内に2個のイソシアネート基を有す公知の脂肪族、脂環族又は芳香族の有機ジイソシアネートが挙げられ、これらを単独又は組み合わせて使用してもよい。具体的には、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の有機ジイソシアネートが挙げられ、好ましくは4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートである。また、有機ジイソシアネートとしては、遊離のイソシアネート基に変換される封鎖されたイソシアネート基を有する化合物を使用してもよい。
【0047】
本発明のポリウレタン重合体に用いられるイソシアネート基と反応する活性水素含有化合物としては、ポリウレタン重合体における常用の鎖伸長剤、すなわち、イソシアネートと反応し得る水素原子を少なくとも2個含有する分子量500以下の低分子化合物を用いることができる。具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ヒドラジン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、ジヒドラジド、ピペラジン等のジアミン類、特開平5−155841号公報で開示されたジアミン化合物類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のジオール類等が挙げられ、好ましくはエチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、特開平5−155841号公報で開示されたジアミン化合物類が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。また場合により、イソシアネートと反応し得る活性水素を1個含有する化合物と併用してもよい。
【0048】
ジイソシアネート、高分子ジオール、及び活性水素含有化合物を用いてポリウレタンを製造する方法に関しては、公知のウレタン化反応の技術を採用することができる。また、本発明で用いられる各種化合物の化学量論的割合は、高分子ジオールの水酸基と活性水素含有化合物の活性水素の総和が、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基に対して1.00以上1.1当量未満であることが好ましい。
【0049】
本発明のポリウレタン重合体の比粘度(ηsp/c)は、1.1〜3.5dl/gであることが好ましい。この範囲とすることにより、弾性回復性に優れた弾性繊維となる。尚、ここで比粘度(ηsp/c)とは、N,N’−ジメチルアセトアミド溶媒中における(η/η−1)/Cで計算した値である。ここで、Cは、ポリマー0.5g/DMAC99.5gの溶液粘度(0.5wt%)であり、ηは、オストワルド粘度計による希薄溶液中の落下秒数であり、ηは、同上粘度計によるDMACのみの落下秒数である。
【0050】
この様にして得られるポリウレタン重合体に、ポリウレタン重合体に有用な公知の有機化合物又は無機化合物の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、黄変防止剤、熱変色防止剤、耐プール用殺菌塩素剤、着色剤、ロジン、顔料、カーボンブラック等を、さらに添加してもよい。また、場合によりポリウレタン弾性繊維の紡糸性をさらに良くするために公知の界面活性剤を併用してもよい。
【0051】
本発明のポリウレタン弾性繊維は、タイツ、パンティストッキング、ファウンデーション、靴下留め、口ゴム、コルセット、外科用の包帯、織物及び編物の水着等にも用いることができる。特に、インナー、アウター、レッグ、スポーツウェヤー、ジーンズ、水着、及び衛生材からなる群から選ばれる用途に好ましく用いられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例により、本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例で使用した各種測定法を以下に述べる。
[ポリウレタン重合体溶液の製造]
数平均分子量1800のポリテトラメチレンエーテルジオール(PTMG)400gと、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)91.7gとを乾燥窒素雰囲気下、80℃で3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーを得た。これを室温に冷却した後、ジメチルアセトアミド720gを加えて溶解し、ポリウレタンプレポリマー溶液を調製した。一方、エチレンジアミン8.11g及びジエチルアミン1.37gをジメチルアセトアミド390gに溶解し、これを前記プレポリマー溶液に室温高速攪拌下で添加して、粘度4200ポイズ(30℃)のポリウレタン溶液(PUと略す)を得た。
【0053】
このPUのポリウレタン重合体固形分100重量部に対して、1重量部の1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸、0.2重量部の2,4−ビス(2,4-ジメチルフェニル)―6−(2―ヒドロキシ−4―nオクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジンを、PUに加えて攪拌し、均一なウレタン重合体紡糸原液(以下、PUSと略す)を得た。
【0054】
[ポリカルボン酸系共重合物の共重合組成:表1]
以下の表1に、原料である各モノマー及び重合仕込みモル数を示す。重量平均分子量は、GPCを用いて測定した。
【0055】
【表1】

【0056】
ポリカルボン酸系共重合物の種類PC−1〜PC−6は、後述の脂肪酸金属塩の溶剤分散調製液の例で用いた。以下の表2に、これを用いたポリウレタン弾性繊維用紡糸原液組成を示す。
【0057】
【表2】

【0058】
[脂肪酸金属塩のアミド系溶剤分散液の調製方法の1例]
容器に、表1に示すポリカルボン酸系共重合物15g、表2に示す脂肪酸金属塩1500g、ジメチルアセトアミド(DMAcと略す)6000gを加えて、冷却しながら、アシザワ・ファインテック株式会社製湿式ビーズミル(スターミル LMZ2)にて、ジルコニア製0.3mmのビーズを用いて、ローター2000rpm、毎分2リッターで循環させて、1時間処理し、ポリウレタン弾性繊維用の脂肪酸金属塩分散調製液(以下、PUDと略す)を作製した。
【0059】
前記の脂肪酸金属塩のアミド系溶剤分散液の調製方法に記載した方法に準じた方法に従って作製した分散調整液(PUD)を前記のウレタン重合体紡糸液(PUS)に加えて、脂肪酸金属塩とポリカルボン酸系共重合物が、ポリウレタン重合体の固形分100重量部に対して、表2のMB−1〜6、及び比較−MB1〜2に記載された質量部になるようにウレタン重合体紡糸液(PUS)に配合し、均一に攪拌・混合して、ポリウレタン弾性繊維用紡糸原液(以下、PUMBと略す)とし、これを乾式紡糸してポリウレタン弾性繊維を製造した。
【0060】
表2の比較MB−1では、ポリカルボン酸系共重合物の代わりにマレイン酸を用い、比較MB−2では、ポリカルボン酸系共重合物を無添加とした。
【0061】
<実施例1A〜F、比較例1〜2>
以下の表3に、紡糸原液用MB1〜6、及び比較として比較MB−1、比較MB−2で得られたポリウレタン弾性繊維の各種評価結果を、それぞれ、実施例1のA〜F、及び比較例1〜2で示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3中の○印が、用いた紡糸原液MBを示し、例えば、実施例1のAに関しては、表2のMB−1をポリウレタン重合体100重量部に対して、脂肪酸金属塩(ステアリン酸マグネシウム)0.5重量部、表1のポリカルボン酸系共重合物PC−1を0.05重量部配合してポリウレタン弾性繊維を製造したことを意味する。
このとき用いた繊維処理剤は、ポリアルキルシロキサン99重量部、ステアリン酸マグネシウム1重量部からなる繊維処理剤であり、これを未付着のポリウレタン弾性繊維100重量部に対して2.5重量部付与した。
【0064】
[繊維処理剤の成分組成:表4]
以下の表4のFT−1〜FT−5、及び比較FT−1〜比較FT−3に、ポリアルキルシロキサン、鉱物油、脂肪酸金属塩、ポリカルボン酸系共重合物の各配合組成を示す。比較FT−1と2では、ポリカルボン酸系共重合物の代わりに、無水コハク酸、アクリル酸重合物を用い、比較FT−3では、ポリカルボン酸系共重合物成分を無添加とした。
【0065】
【表4】

【0066】
<実施例2G〜L、実施例3M〜N、比較例3〜5>
ポリウレタン弾性繊維の各種評価結果を、以下の表5に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
表5の実施例2のG〜L、及び比較例3〜5に、繊維処理剤としてのみ使用した例、すなわち、PUSのみから紡糸して得られた弾性繊維に繊維処理剤を付着して各種評価を行った結果を示す。
実施例3M〜Nに、紡糸原液中と繊維処理剤の両者に脂肪酸金属塩とポリカルボン酸系共重合物を用いて得られたポリウレタン弾性繊維の評価結果を示す。
【0069】
[ポリウレタン弾性繊維の紡糸方法]
得られた弾性繊維用紡糸原液(PUMB)を脱泡した後、紡口フィルターとして400メッシュの金網フィルターを用いて、16個の紡糸ノズル(各々の口金は4個の細孔を有す)の細孔から熱風中250℃に押しだして溶剤を蒸発させた。乾燥された糸条をリング仮撚り機に通過する過程で仮撚りし、ゴッデトローラを経てオイリングローラ上でポリアルキルシロキサン、鉱物油を主成分とする表4の油剤成分(ジメチルシロキサンは25℃で10センチストークス品、鉱物油は25℃で50センチストークス品)を表3に記載に従って付着させて、毎分800m/分の速度で、44デシテックス/4フィラメントのポリウレタン弾性繊維500gを紙管に巻き取った。
【0070】
[各種評価]
(1)紡糸安定性
紡糸時の24時間の紡糸中に起こった糸切れ回数で評価した。結果を表3と5に示す。
【0071】
(2)ポリウレタン弾性繊維の解じょ性の評価方法
ポリウレタン弾性繊維を25℃、65%RH及び45℃、65%RHの各雰囲気にて各30日間放置後、紙管を梨地ローラー上に置き、ローラーを回転させながら、ローラー表面速度40m/分で、弾性繊維を送り出す。送り出された弾性繊維を50cm離れた所に設置された同じ径の梨地ローラ上に巻き取る。巻き取るローラー上の表面速度を80m/分から徐々に低下させて、送り出すローラー上の紙管に弾性繊維が紙管にからみついて逆巻きし、弾性繊維が切断されて送り出されなくなった時点の速度Sm/分を測定する。Sm/分の値が小さいほど紙管から弾性糸の糸離れが良いことを示し、これを解じょ性が良好と判断する。
しかし、逆にあまりに糸離れが良すぎると、紙管に巻かれたポリウレタン弾性繊維を運搬する時に、紙管に巻かれた弾性繊維の外層が糸落ちし易く、取り扱い上の問題となるので、適正な範囲が存在する。本測定において、好ましいチーズ外層の弾性繊維のS(以下、SOと表す)は、SO=45〜55m/分、チーズ内層の弾性繊維のS(以下、SIと表す)は、SI=50〜65m/分である。SI、SOのいずれかの値がこの範囲をはずれ、値が小さいと運搬時や整経工程で、糸落ちし易く、逆に値が大きいとチーズへの逆巻きや糸切れが頻発する場合があり、問題となる。結果を表3と5に示す。
【0072】
(3)スカム評価方法
44デシテックス/4フィラメントの弾性繊維を、45℃、65%RHの雰囲気で30日間放置後、紙管を梨地ローラー上に置き、ローラーを回転させながら、ローラー表面速度40m/分で、弾性繊維を送り出す。送り出された弾性繊維を50cm離れた所に設置された同じ径の梨地ローラー上に巻き取る。送り出す弾性糸から25cmの中間地点にかみそり刃を糸角115度になるように設定して立てておき、巻き取るローラー上の表面速度を70m/分設定した。かみそり刃上に弾性繊維を1時間走行させた後、かみそり刃(エヌティー(株)製:NT−L型刃品番L−300)上に付着した脂肪酸金属塩の白色スカムの量を目視によって1級から5級の判断をした。結果を表3と5に示す。
5級:かみそり刃に全く付着無し。
4級:かみそり刃にほんのわずか付着あり。
3級:かみそり刃に若干付着あり。
2級:かみそり刃にやや付着量多し。
1級:かみそり刃に多量の付着物あり。
【0073】
(4)金属摩擦性評価試験
25℃、65%RHの雰囲気で30日間放置後、試験糸を、図1の装置にかけ、送り速度100m/分、巻き取り速度200m/分の延伸倍率2倍で走行させ、編み針通過前後の試験糸の糸条の走行応力とその応力変動を測定した。摩擦係数μdは下記式(5)で与えられる。
μd=Ln(T1/T2)/2.6376・・・式(5)
式中、T1、T2は、それぞれ、編み針通過後の走行応力の中心値(g)、編み針通過前の走行応力の中心値(g)であり、摩擦係数μdは、値が小さい程、摩擦が小さく良好である。結果を表3と5に示す。
【0074】
(5)整経糸切れ回数の評価法
44デシテックス/4フィラメントの弾性繊維を、588本をリバー社製の弾性糸用整経機に取り付け、弾性繊維送り出し速度150m/分、ビーム巻き取り速度300m/分にて整経し、1ビームあたり弾性繊維重量で14.7kgを16ビーム整経し、全て完了するまでに発生した弾性繊維の糸切れ回数で評価した。但し、糸切れが発生した場合も切れた糸は結んでつなぎ、588本の状態で再びスタートさせた。また、ほぼ同時に複数本糸切れした場合も糸切れ回数は1回としてカウントした。結果を表3と5に示す。
【0075】
(6)編成時の糸切れ回数評価
整経したポリウレタン弾性繊維をバックの試験糸とし、ナイロン66加工糸44デシテックス/34フィラメントをフロントとしドラフト率80%で整経し、下記条件のハーフ生地編成条件で編成した。
<編成条件>
編機:36ゲージ/インチ カールマイヤー社製 トリコット編機
組織:フロント 10/23 バック 12/10
ランナー長:フロント120cm/480コース
バック77.6cm/480コース
機上コース:100コース/インチ
この編成工程で15kg/1反の条件で20反編んだときのポリウレタン弾性繊維の編成糸切れ回数を評価した。結果を表3と5に示す。
【0076】
(7)生地の品位の評価
得られた経編生機を、90℃で1分間精錬し、プレセットとしてテンター仕上げ機を用いて熱処理条件として温度190℃、時間60秒で処理した。次いで、液流染色機を用いて100℃×60分の条件で染色した。ファイナルセットとして、テンター仕上げ機を用いて、熱処理条件180℃×45秒で処理して、経編地の染上げ反を得た。試験糸とナイロンを交編させて得られた経編地の生地品位を、以下の評価基準に従って5人の目視で総合評価した。結果を表3と5に示す。
○:経筋が目立たず美しい
×:経筋が多く、美しくない
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のポリウレタン弾性繊維は、紡糸時の糸切れが少なく、布帛加工特性が良好である。この繊維を用いたタイツ、パンティストッキング、ファウンデーション、靴下留め、口ゴム、コルセット、オムツ、外科用の包帯、織物又は編物の水着、衣料品の製紐、衛生材等は、解除性や摩擦性が良好なため、表面品位が均一で商品価値の高い商品を得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 試験糸
2 送り出しローラー
3 テンションメーター
4 編み針
5 巻き取り部
6 巻き取りローラー
7 試験糸走行糸条
8 編み針にかかる糸条がなす角度=29°

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン重合体100重量部、該ポリウレタン重合体100重量部に対して、炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩0.01〜3重量部、及びポリカルボン酸系共重合化合物0.00001〜5重量部を含むポリウレタン弾性繊維。
【請求項2】
前記炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩の脂肪酸は、ステアリン酸及びパルチミン酸からなる群から選ばれ、かつ、金属は、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、及び亜鉛からなる群から選ばれる、請求項1に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸系共重合化合物は、ポリオキシアルキレン誘導体と不飽和カルボン酸化合物との共重合化合物であり、かつその主鎖にポリカルボン酸基を、そしてそのグラフト鎖にポリオキシアルキレン基を有する、請求項1又は2に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項4】
前記ポリカルボン酸系共重合化合物は、以下の式(1):
【化1】

{式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜22の炭化水素基を表し、AOは、それぞれ独立に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、sは、1〜150の整数であり、AOは、複数存在する場合、ブロック状でもランダム状でもよい。}又は以下の式(2):
【化2】

{式中、R、R及びRは、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜22の炭化水素基を表し、AOは、それぞれ独立に、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、pは、1〜150の整数であり、AOは、複数存在する場合、ブロック状でもランダム状でもよい。}で表されるポリオキシアルキレンアルケニルエーテル構成単位(a)10〜90モル%と、以下の式(3):
【化3】

{式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表し、Xは、−OM又は−Y−(AO)を表し、ここで、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表し、Yは、エーテル基又はイミノ基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜22の炭化水素基を表し、AOは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、rは、1〜150の整数であり、AOは、複数複数存在する場合、ブロック状でもランダム状でもよい。}で表されるジカルボン酸又は以下の式(4):
【化4】

{式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、そしてMは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表す。}で表されるモノカルボン酸構成単位(b)10〜90モル%と、前記構成単位(a)又は(b)以外の共重合可能な単量体構成単位(c)0〜30モル%とから構成され、であり、前記炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩100重量部に対して0.1〜20重量部含有される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項5】
以下の工程:
ポリウレタン重合体100重量部、該ポリウレタン重合体100重量部に対して、炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩0.01〜3重量部、及びポリカルボン酸系共重合化合物0.00001〜5重量部を、アミド系溶剤に溶解・混合して、紡糸原液を作製し、そして
該紡糸原液を乾式紡糸法で紡糸し、得られた糸を巻き取って、ポリウレタン弾性繊維を製造する、
を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維の製造方法。
【請求項6】
前記紡糸後に得られた糸を巻き取る際に、25℃における動粘度が5〜50センチストークスであるポリアルキルシロキサンと25℃における動粘度が30〜70センチストークスである鉱物油との比が100:0〜50:50であるオイル成分と、該オイル成分100重量部に対して炭素原子数10〜30の脂肪酸金属塩0.1〜10重量部、ポリカルボン酸系共重合物0.001〜0.1重量部を含む繊維処理剤とを、該糸に付着する、請求項5に記載のポリウレタン弾性繊維の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−207332(P2012−207332A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72996(P2011−72996)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】