説明

ポリビニルアルキルエーテル及び無水マレイン酸共重合体の多孔質フィルムおよびシート素材及びそれからなる消臭用組成物

【課題】平均細孔径や空隙率が適切に設定されたアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の多孔フィルムおよびシート素材を提供する。
【解決手段】乾式相転換法により平均細孔径が0.5〜20μmであり、空隙率が50から80%であるアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体からなるフィルム及びシート素材。さらに当該フィルム及びシート素材の厚み(T)と平均細孔径(d)の比が1以上5以下であることが好ましく。このフィルム及びシート素材。は繊維状物質、紙、不織布、粒状物質、織物、フィラメント状物質、または多孔質物質からなる基材上に形成することができる。そして、このようにして形成さえた素材は消臭用・吸湿用組成物として好適である。さらにこれらを構成体の一部とする生理用品、汗取りパット、おむつ、介護用品、サニタリ用品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾式相転換法を用いたポリビニルアルキルエーテル/無水マレイン酸共重合体の多孔フィルムおよびシート素材に関する。さらに詳しくは、このアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の多孔フィルムおよびシート素材を用いた消臭用・吸湿用組成物に関する。さらには、水分や悪臭の元となるアンモニアなどを効率よく吸収する消臭用組成物を構成体の一部とする生理用品、汗取りパット、おむつ、介護用品、サニタリ用品を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、日常生活の中で人々の臭気に関する感覚が年々敏感になり、これらの臭気を消臭し、臭気を抑制する物が求められている。また同様に、体臭などの臭気に直接結びつく人体の分泌物から生じる臭気を抑制し減少することも求められている。これらの要望に伴い各種の匂い(臭気)を吸収する、消臭シートが提案されている。
消臭シートとしては、例えば特開平07−331596号公報に記載されているように金属フロシアニン担持体を用いる方法が提案されている。また、特開平01−339841号公報に記載されているように金属酸化物を含有させる方法も提案されている。しかしながら、これらの触媒効果を用いる方法では、人間の体内に近い、高湿下ではその性能が損なわれていた。
吸湿性と消臭の機能を兼ね備えた吸水性消臭(吸湿・消臭)シートとしては特開昭57−142256号公報に記載の、活性炭を含む吸収紙を用いて吸水性ポリマーを挟持した生理用ナプキン吸収体や、特開平8−281042号公報記載の、ホットメルト粘着剤を塗工した紙の間に活性炭を散布し一体化して得られた消臭シートが知られている。しかし、上記の構成の吸収体では、液が吸収保持される上記吸水性ポリマーを含む層が、液の消臭作用を有する上記活性炭を含む層と分離しているため、吸収保持された液の消臭作用は間接的なものでしかなく消臭効率が良くなかった。
【0003】
特開2000−93459号公報には消臭剤および吸水性ポリマーを、両者を混合させた状態で繊維ウエブ内部に埋設し、且つ該吸水性ポリマーの粘着性を利用して該消臭剤を固定する技術が開示されている。この技術によれば、吸湿性と消臭性を兼ね備えているが、消臭剤および吸水性ポリマーを混合する必要があり、工程は煩雑である。更に工程上の制限から消臭剤は水不溶性であることが必須であり、水溶性の消臭剤を用いることはできなかった。
以上のように、これまで各種の吸着シートが提案されてきたが、水溶性でありながら、消臭性能があり、加工性、性能を満足するものはなかった。特に、臭気の主要な要因であるアンモニアは、活性炭では吸着され難く、水分とアンモニアなどの悪臭成分を効率よく吸着するものは非常に困難とされてきた。
【0004】
このような中で、特開2000−225180号公報では、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体を使った消臭シートが提案されている。この公報には、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体に消臭効果があることが記載されている。そして、実施例においては、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体に酢酸ビニル-アクリル系共重合体エマルション、あるいはウレタン樹脂、あるいは、ポリエチレン樹脂を混合した消臭組成物が記載されている。
さらには、繊維状物質、紙、不織布、粒状物質、織物、または多孔質物質からなる基材に、基材100重量部に対して消臭組成物0.1〜50重量部、好ましくは10〜20重量部塗布したり含浸させたりすることが記載されている。
また実施例には基材に対して付着量50g/m(乾燥重量)で付着させることが記載されている。しかしながら、これらの技術では基材に含浸させる工程があるため、例え基材に多孔質のものを用いたとしても、多孔質な部分の目詰まりが生じ、多孔質な構造を充分に発揮することができない。またアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体と他のポリマーとの混合物では吸湿・消臭効果が少なくなる。
【0005】
一方、多孔質化させる技術についてみれば、一般的に、液体中の微小粒子を捕捉し、ろ過するため、メンブレンフィルタと称される多孔質膜(多孔質メンブレン多孔質膜)が使用されている。この多孔質膜のうち、主として液体の除粒子、除菌に使用される多孔質膜は、精密ろ過(microfiltration;MF)膜と呼ばれており、液体や気体などの流体中に含まれている微粒子を流体から分離する分離膜である。
【0006】
このようなMF膜の成膜法には大きく分けて、(1)相転換法、(2)部分的に結晶化しているフィルムを延伸して微細孔を形成する延伸法、(3)フィルムに中性子を含む荷電粒子を照射し、エッチングして中性子の飛跡を微細孔として形成するトラックエッチング法、がある。
これらの成膜法のうち、(1)相転換法では、ポリマーと、ポリマーに対する良溶媒成分と、ポリマーに対して貧溶媒や非溶媒である溶媒や無機化合物などの添加剤を含むポリマー溶液を調製し、このポリマー溶液から良溶媒成分を選択的に除去して、相分離を生じさせて微細孔を形成させる。このような多孔質膜を応用した特許として特開昭57−57727号公報では、ビニルアルコール系共重合体を用いた多孔膜の製造方法が記載されているが、多孔膜を得る工程で水溶性ポリアミド樹脂を抽出により除去しなければならず、コストアップの一因となる。このように、相転換法による良溶媒を除去する方法としては、良溶媒と貧溶媒・非溶媒との沸点差を利用する乾式法と、非溶媒である凝固液に接触もしくは浸漬させる湿式法とが知られている。
【0007】
良溶媒と非溶媒とを用いる相転換法においては、相分離から微細孔形成の過程を制御することにより、断面方向での多孔度が均一な均一膜を得られるが、相転換法の多孔質膜は、一般にその平均細孔径が小さく、微小粒子のろ過特性(すなわち、除去性能)に優れるため、水中の細菌のろ過除去などに使用される。そしてその構造は網目構造をしており、平均細孔径が2〜10μm程度であり、一般的には最大孔径で3μm程度であり、空隙率は70%以上と大きいものである。
【0008】
このような多孔質膜の場合は、当然フィルタとして用いるには適しているが、網目構造を用いた吸着性能の向上などを図る場合には、平均細孔径が小さすぎ、吸着性能が充分に発揮できないので、細孔径を大きくすることが望まれていた.
【特許文献1】特開平07−331596号公報
【特許文献2】特開平01−339841号公報
【特許文献3】特開昭57−142256号公報
【特許文献4】特開平8−281042号公報
【特許文献5】特開2000−93459号公報
【特許文献6】特開2000−225180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする課題は、乾式相転換法によるアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の多孔フィルムおよびシート素材が存在しなかったことである。更に平均細孔径や空隙率が適切に設定された多孔フィルムおよびシート素材が存在しなかったことである。更に、フィルム及びシート素材の厚み(T)と平均細孔径(d)の比(T/d)が特定の範囲に設定された多孔フィルムおよびシート素材が存在しなかったことである。そして、これらの多孔フィルムおよびシート素材を用いることにより、基材上に形成し、それ単独で用いた場合に吸湿性と消臭性を備え、特にアンモニア臭と吸湿性を兼ね備えかつ水溶性の消臭用・吸湿用組成物がなかったことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体が多孔質化されているフィルム及びシート素材を提供する。更に本発明は
(2)平均細孔径が0.5〜20μmであり、空隙率が50から80%である上記(1)記載のフィルム及びシート素材を提供する。更に本発明は
(3)フィルム及びシート素材の厚み(T)と平均細孔径(d)の比(T/d)が1以上5以下である上記(1)のフィルム及びシート素材を提供する。更に本発明は
(4)繊維状物質、紙、不織布、粒状物質、織物、フィラメント状物質、または多孔質物質からなる基材上に上記(1)から(3)何れかに記載の素材を形成されてなるか、または上記(1)から(3)何れかに記載の素材からなる消臭用・吸湿用組成物を提供する。
(5)上記の(4)に記載の消臭用・吸湿用組成物を構成体の一部とする生理用品、汗取りパット、おむつ、介護用品、サニタリ用品
本発明における多孔質化されているフィルム及びシート素材とは多孔質膜の技術分野における通常の定義に従い、1nm以上の孔を持っている少なくとも電子顕微鏡で孔の存在が確認できる膜を言う。また、フィルムおよびシートとは高分子賦形技術における一般的な定義通り、100μm以上のものをシートとし、それ未満のものをフィルムとする。平均細孔径(Pore Size)とは、分離性能を表すために用いる名目上の膜やろ材の孔の径のことであり、バブルポイント法や電子顕微鏡法などにより測定された平均細孔径のことである。空隙率は多孔質化されていないフィルムおよびシートと多孔質化されているフィルムおよびシートとの重量の比率を測定して求めることができる。
【0011】
尚、本発明の平均細孔径は大きいため、バブルポイント法で測定した場合に適切の測定されない場合がある。したがって、電子顕微鏡で撮影した上で適当な二値化する画像処理装置を用いて平均細孔径を求めることが好適である。そして、空隙率とは、素材と細孔あるいは空隙からなる多孔質体あるいは粒子充填層の全体積に対する細孔または空隙の体積の割合をいう。空隙率は、多孔度と称せられる場合もある。更には空孔率、空間率などとも称せられる場合がある。
1―充填率=空隙率
でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の多孔化されているフィルム及びシート素材は水分、アンモニアの吸着が優れている。さらに相転換法による多孔膜は、簡便で孔径の制御も容易にでき、吸湿性や消臭性を得るための平均細孔径や空隙率を得易いものである。更には、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体は水溶性高分子であるので、水分吸収性能が優れており、したがって、多孔化されている分、水分吸収が早いので酸無水物部分が開環も早く、速やかにジカルボン酸になることができ、アンモニアなどの吸着能が高くなる効果を得ることができる。加えて本発明では、多孔質シートとなっているために表面積が広く、効果はさらに高まる。
【0013】
また乾式相転換によるものであるので、基材に通常の方法でコーティングを行い、乾燥炉を通すことで容易に多孔質シートを得ることができる、そして様々な基材にその多孔質性を損なうことなく、更に消臭性に優れた、消臭用・吸湿用組成物を提供することができる。そして、乾式相転換法によう多孔化されたものは、相転換法でも溶媒抽出法、含浸法などと比較するとコストアップの要因はきわめて低いという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(1)アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体
本発明におけるアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体とは直鎖状の水溶性の高分子電解質化合物である。最近では人体に対する無毒性、長期間にわたる安定性、粘着性、凝集性、保水性、剥離性などが優れているため貼付剤(パップ剤)や接着剤、洗剤の固着防止剤、スプレ−式毛髪固定剤、合成洗剤のビルダ−などとして、幅広い産業分野で応用されている。また、この共重合体を各種アルコ−ルと反応させて無水マレイン酸部分をエステル化したものもこれら用途に用いられている。
【0015】
このアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体とはビニルアルキルエーテルと無水マレイン酸との完全交互共重合体である。無水マレイン酸と他のエチレン系モノマーとのランダム共重合体は多数あるが、本発明のアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体には、これらのランダム共重合体は含まれない。ビニルアルキルエーテルと無水マレイン酸との完全交互共重合体は、上記の通り水や親水性有機溶剤に溶解することができる水溶性高分子である。
これらのアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の中で、最も好適なものは、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体である。これらのアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の分子量としてはポリスチレン換算の重量平均分子量としては10万から200万のものが用いることができる。
【0016】
(2)製造法
本発明の多孔質化されたフィルムおよびシート素材を得る方法については、本発明の効果を発揮する限りにおいては特に限定はされず、任意の方法を取ることができる。しかしながら、本発明の効果を最大限に得るためには、空隙率が大きく平均細孔径が大きな多孔質膜(フィルムおよびシート)が好ましい。すなわち本発明のように消臭フィルムあるいはシートとして用いる場合においては、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の酸無水物の部分が開環し、ジカルボン酸となり、化学吸着能を発揮して物理吸着より以上、臭気吸着性能を効することが必要であり、このためにも、空隙率が大きく、平均細孔径が大きな多孔質化された素材が有利である。このような多孔質化された素材を得るための方法としては、乾式法による相転換法を用いることが好ましい。
【0017】
更に、本発明に用いられるアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体は親水性の高分子であり、このため良溶媒として水または水を混合した親水溶媒を用いることができるが、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸を溶解させることが可能な溶媒であればこれらに限定されない。このような方法を取った場合は、相分離の速度を遅くすることができ、平均細孔径を大きくし、かつ空隙率を高くすることができるので好適である。更に、水を添加した場合は、固形分濃度を下げることができるので、空隙率や平均細孔径を大きくしたまま、多孔質化されたフィルム及びシートの厚み薄くすることができ、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の重量当たりの臭気吸着性をより向上させることができ、好適である。このようにして得られる本発明の多孔質化されたフィルム及びシート素材の厚み(T)と平均細孔径(d)の比(T/d)は1以上5以下であれば良い。このフィルム及びシート素材の厚み(T)と平均細孔径(d)の比(T/d)は、好ましくは1以上、4以下であり、より好ましくは1.2以上、3.0以下であり、特に好ましくは1.2以上、2,0以下である。T/dが1以下であるとフィルム及びシート素材としての物理的強度が不足するため取り扱いがし難くなり、T/dが5以上であると、多孔質化の程度が不足するため多孔質化されている特長を充分に発揮できなくなる。
【0018】
良溶媒である親水性溶媒の比率としては5〜70重量%、より好ましくは10〜60重量%、更に好ましくは15〜50重量%である。また、貧溶媒の比率としては3〜80重量%、より好ましくは5〜75重量%、さらに好ましくは10〜70重量%である。また、アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の固形分濃度としては1〜20重量%を用いることができ、好適には、1〜15重量%、更に好適には2〜13重量%、最も好ましくは3から10重量%の濃度を用いることができる。
乾式相転換法でもちいることができる、水以外の良溶媒としてはアルコール類、グリコール類、グリセロール類、ケトン類、エステル類、エーテル類などから相容性が良いものを選択して用いることができる。
【0019】
これらの中でも低級脂肪族アルコールが好ましくもちいることができ、更にメタノール、エタノール、プロパノールなどが最も好ましい。
貧溶媒としては、上記良溶媒と相溶し、かつアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体と相溶しない溶媒ならなんでもよく、さらに上記良溶媒よりも沸点が高いものが望ましい。高級アルコール類、グリコール類、グリセロール類、ケトン類、エステル類などから選ばれる高沸点の溶媒が好ましい。
これらの多孔質化における乾燥条件としては、フィルムやシート塗布膜形成上の周知の乾燥方法をとることができ、好ましくは熱風ドライヤーによる乾燥を用いることができる。乾燥温度としては、固形分濃度や溶媒組成によるが、60〜150℃程度であればよく、80〜120℃程度が好ましい。乾燥時間としては、採用できる乾燥工程のドライヤー長やライン速度により、溶媒組成や固形分濃度を最適化すればよく、これらの要因にもよるが、3分から10分程度であれば良い。
【0020】
(3)基材
本発明の多孔質フィルム及びシートはそれを単体で用いることができるが、何らかの担体に塗膜として本発明の多孔質膜を形成しても良い。このような担体すなわち基材として好適なものは、繊維状物質、紙、不織布、粒状物質、織物、フィラメント状物質である。
繊維状物質としては、無機繊維の集合体などを例示することができる。紙としては、通常のクラフト紙、合成紙、あるいはセルロースの叩解パルプの抄紙したもの、あるいはセルロースアセテートと叩解パルプ混合物の抄紙物など抄紙構造を有するものを例示することができる。不織布としては、パルプ、レーヨン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、アクリル繊維から成る不織布を挙げることができ、乾式法で得られたものでも湿式法で得られたものでも、どちらも用いることができる。
【0021】
また、粒状物質としては、紙および粒状パルプ、ゼオライト、セピオライト、珪藻土、活性炭、キトサンなどの水不溶性の多糖類、キトサン誘導体など水溶性の多糖類の粒状物、発泡ポリスチレン粒状物のようなポリマーを粒状に発泡させた成形物、あるいはゼオライト、セピオライト、珪藻土、活性炭、キトサンなどの水不溶性の多糖類に中心に粘着材を配して粒状化させたものなどを用いることができる。
織物としては、セルロースアセテート、レーヨン、綿、羊毛、絹、ポリエステル、アクリル、などの各種繊維から得られる織物を例示することができる。またこれらの繊維を混合した混紡繊維も使用するとものできる。
【0022】
フィラメント状物質としては、実質的に無限長のモノフィラメントを短繊維化(ステープル)としたものを用いることができるが、好ましくは、上記のモノフィラメントを解きほぐしたものである。材質となるものとしては、セルロースアセテートなどの半合成繊維、レーヨン、ポリエステル、アクリル、などの各種合成繊維を挙げることができる。モノフィラメントを解きほぐしたものとは、これらの半合成繊維または、合成繊維の集合体(通常はトウバンドと称せられる)に対して必要に応じて捲縮加工を施し、解きほぐした(通常はブルーミングと称せられる)ものである。このようなブルーミング技術は特公平7−49611号などに記載されている。としてこのようなブルーミングされた繊維トウからなる吸収体は特許第3193371号に記載されている通りタンポン、失禁パッド、紙おむつなどの吸収体として好適である。本発明の多孔質膜はこのような吸収体へ塗布し、多孔質膜を形成することもできる。
【0023】
これらの中でも最も好適なものは、繊維状物質としては綿、リンター綿である。また、紙としては叩解パルプの紙あるいは、クリンプ加工を施された嵩高紙である。また、不織布としては、リンター不織布である。また粒状物質としては、粒状パルプである。また、織物としては綿布が挙げられる。また、フィラメント状物質としては上記の繊維トウからなる吸収体である。これらの基材としては、水に浸漬した場合水崩壊性があるものが最も好ましい。そのためには、粒状パルプや嵩高紙、繊維トウからなる吸収体などを用いることができる。
「嵩高紙」とは、繊維形状が、捻れ構造、クリンプ構造、屈曲及び/又は分岐構造等の立体構造をとるか、又は繊維断面が極太(例えば繊維粗度が0.3mg/m以上)である繊維をいう。本明細書において繊維ウエブとは、繊維の機械的絡み合い、繊維同士の接着や融着等により形成されたシート状物を意味し、その例としては紙、不織布、それらの複合体等が挙げられる。嵩高紙として好ましいものの例として、繊維粗度が0.3mg/m以上、特に0.3〜2mg/mであるセルロース繊維が挙げられる。
【0024】
また繊維粗度が0.3mg/m以上であることに加えて繊維断面の真円度が0.5〜1であるセルロース繊維も好ましい。更に、嵩高紙として、セルロース繊維の分子内及び分子間を架橋して得られる架橋セルロース繊維を用いることも好ましい。尚、繊維粗度とは、木材パルプのように、繊維の太さが不均一な繊維において、繊維の太さを表す尺度として用いられるものであり、例えば、繊維粗度計(FS−200、KAJANNI ELECTRONICS LTD.社製)を用いて測定することができる。
【0025】
(4)生理用品、汗取りパット、おむつ、介護用品
従来の消臭用・吸湿用組成物としては、活性炭を用いて匂いを吸収することが行われてきたが、活性炭はアンモニアのように臭気の原因物質が塩基性の場合には効果が少ない。更に、活性炭自身は水不溶性であり、生分解性も極めて乏しい。従って下水中に放流された場合は長期に渡り環境に残留する。
本発明の組成物は水溶性であり、下水に曝された場合、本発明の組成物自体は残留しない。そのため、上記の基材を含めて、水崩壊性とすることができる。
【0026】
更には、本発明の消臭用・吸湿用組成物は、多孔質であるため吸湿能力に優れる。このため、生理用品、汗取りパット、おむつ、介護用品などの製品として使用される場合において有利である。すなわち製品の包装を開封され、肌などに接触されて使用された場合、人体から発する湿気により、酸無水物部分が開環し、ジカルボン酸になることができ、臭気成分を吸着する能力が発現される。このよう使用状況では、肌などに接触されて使用されてから、なるべく速やかに機能を発現することが重要であり、本発明の消臭用・吸湿用組成物は多孔質であるが故に、この機能を発現するまでの時間が短く、好適である。
【0027】
更に、本発明の多孔質化されたフィルム及びシート素材は、多孔質化されているため、表面積が大きくかつ、毛細管現象で液体の吸収能力にも優れる。このため、基材に吸収性能が良いものを用いている場合は、その吸収体の体液の吸収性能を阻害することなく、消臭性能を発揮することができる。そして、本発明の多孔質化されたフィルム及びシート素材は体液が吸収された場合には、体液を多孔質の部分で保持することができる。
【0028】
本発明の消臭用・吸湿用組成物を用いた生理用品、汗取りパット、おむつ、介護用品の構成としては、トップシート及びバックシートの間に、本発明の消臭用・吸湿用組成物を配した三層構成が基本構成として用いることができ、さらにトップシートと本発明の消臭用・吸湿用組成物の間に必要に応じて本発明の基材に用いたような吸収体を配する構成を用いることができる。更には、本発明の消臭用・吸湿用組成物の両外層に吸収体を配し、さらにそれぞれの吸収体の外側にトップシート及びバックシートを配した五層構成を採用することができる。これらの構成については、本発明の本発明の消臭用・吸湿用組成物を用いた生理用品、汗取りパット、おむつ、介護用品の機能および用途に応じて定めることができる。
【0029】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
なお、特に断りのない限り、配合比率の部または%は重量基準である。またRH%とは相対湿度を表す。
[吸湿性]
実施例及び比較例で得られた多孔化されたフィルムを50mm四方の大きさに切り取った。この試料を秤量壜に入れ0.1mgまで秤量できる電子天秤で重量を測定し、試験前の重量とした。次に、50℃×90RH%の恒温恒湿槽に秤量壜ごと試料を入れた。所定時間後の試料の重量を秤量壜ごと測定し、以下の式により吸湿性を求めた。
【0030】
吸湿比率 = 所定時間後の重量 / 試験前の重量
吸湿比率が高いほど、速やかに水分を吸収する能力が高いことを示す。
[アンモニア吸着性]
実施例及び比較例で得られたフィルムを50mm四方の大きさに測り取り、試料とした。次いでこの試料を容積が3Lのガラス製の丸フラスコに入れ密封し、40ppmのアンモニアを注入した。20℃の一定温度の元で経過時間ごとの試験容器の中のアンモニアの濃度を北川式検知管で測定し、下の式によりアンモニアの残存比率を求め、消臭効果を評価した。
【0031】
アンモニア残存比率= 経過時間ごとのアンモニア濃度 / 試験前のアンモニア濃度
アンモニア残存比率が小さいほど、試料のアンモニア吸着効果が大きいことを示し、消臭性能が高いことを示す。[孔径]
実施例及び比較例で得られた多孔膜を電子顕微鏡にて5点につき写真撮影を行い、得られた画像を画像処理ソフトにより二値化して、細孔部分を求めた。得られた細孔部分について細孔の孔を真円とみなし、直径を求めた。これらを30点の細孔につき行い、平均細孔径を求めた。
[空隙率]
実施例及び比較例で得られた厚さ10μmの多孔膜A4サイズ4枚の重さをA(g)、同厚みのアルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体のフィルム(無孔)のA4サイズ4枚の重さをB(g)としたときの空隙率を次式より算出した。
【0032】
空隙率 =(1−A/B) × 100
【実施例1】
【0033】
メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(VEMA A−103、ダイセル化学工業株式会社製)8重量部、良溶媒としてメタノール46重量部、貧溶媒
として酢酸ブチル46重量部をビーカーに入れ、2時間攪拌し、塗布液を得た。この塗布液をウェット厚みが100μになるように離型処理された厚み100μmポリエステルフィルム上に塗布を行い、80℃で10分乾燥させた。次いでポリエステルフィルムより塗布膜を剥離し、多孔フィルムを得た。得られた多孔フィルムの厚みは10μmであり、平均孔径5μm、したがってT/d=2.0、空隙率58%、坪量5.8g/m2であった。表面の走査電子顕微鏡写真を図1に示す。
【実施例2】
【0034】
メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(VEMA A−103、ダイセル化学工業株式会社製)4重量部、良溶媒として水24重量部、エタノール24
重量部、貧溶媒としてブチルセロソルブ48重量部をビーカーに入れた以外は実施例1と同様とした。得られた多孔フィルムの厚みは10μmであり、平均孔径8μm、したがってT/d=1.3、空隙率69%、坪量4.3g/m2
あった。表面の走査電子顕微鏡写真を図2に示す。
【比較例】
【0035】
(比較例1)
ポリビニルアルコール(PVA−205、クラレ株式会社製)10重量部、溶媒とし
て水90重量部をビーカーに入れ、2時間攪拌し溶解液を得た。この塗布液をウェット厚みが100μになるように離型処理された厚み100μmポリエステルフィルム上に塗布を行い、80℃で10分乾燥させた。次いでポリエステルフィルムより塗布膜を剥離し、フィルムを得た。得られた塗膜の厚みは10μm、坪量12.5g/m2であったが孔は開いていなかった。
(比較例2)
水溶性高分子としてメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(VEMA A−103、ダイセル化学工業株式会社製)10重量部、溶媒として水90重量
部をビーカーに入れ、2時間攪拌し溶解液を得た。この塗布液をウェット厚みが100μになるように離型処理された厚み100μmポリエステルフィルム上に塗布を行い、80℃で10分乾燥させた。次いでポリエステルフィルムより塗布膜を剥離し、フィルムを得た。得られた塗膜の厚みは10μm、坪量13.8g/m2であったが孔は開いていなかった。
(比較例3)
水溶性高分子としてメチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(VEMA A−103、ダイセル化学工業株式会社製)3重量部、溶媒として水97重量部
をビーカーに入れ、2時間攪拌し溶解液を得た。この塗布液を厚さ40μmポリエステル不織布に含浸させ、80℃で20分乾燥させた。重量を測定した結果、メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体の付着量は1.03g/m2であった。
吸湿比率の測定結果を表1に示す。また、アンモニア残存比率の結果を表2に示す。
また、吸湿比率の結果をグラフにしたものを図-3に、アンモニア残存比率の結果をグラフにしたものを図-4に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

表−1、表−2、図-3および図-4から明らかなとおり、実施例1及び実施例2ではメチルビニルエーテル/無水マレイン酸を相転換により作成した本発明の多孔質化されているフィルムおよびシート素材は、空隙率が高いため、短時間で吸湿性を発揮する、またアンモニア吸着性に優れる。これに対し、比較例1、比較例2では多孔化されていないため、また比較例3では不織布に塗布され擬似的に多孔になっているが、塗布量が少なく、また多孔質化の程度も少ないために、効果が十分ではない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の多孔質化されているフィルム及びシート素材は、湿度があり、臭気の吸着性能に優れているので、生理用品などを含め吸湿性や消臭性を要求される用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1の多孔質化されているフィルム及びシート素材の表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2の多孔質化されているフィルム及びシート素材の表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例の多孔質化されているフィルム及びシート素材および比較例それぞれにつき、経過時間と吸湿比率の関係を示したグラフである。
【図4】実施例の多孔質化されているフィルム及びシート素材および比較例それぞれにつき、経過時間とアンモニア残存比率の関係を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体が多孔質化されているフィルム及びシート素材。
【請求項2】
平均細孔径が0.5〜20μmであり、空隙率が50から80%である請求項1記載のフィルム及びシート素材。
【請求項3】
フィルム及びシート素材の厚み(T)と平均細孔径(d)の比(T/d)が1以上5以下である請求項1記載のフィルム及びシート素材。
【請求項4】
繊維状物質、紙、不織布、粒状物質、織物、フィラメント状物質、または多孔質物質からなる基材上に請求項1から3何れかに記載の素材を形成されてなるか、または請求項1から3何れかに記載の素材からなる消臭用・吸湿用組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の消臭用・吸湿用組成物を構成体の一部とする生理用品、汗取りパット、おむつ、介護用品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−152164(P2006−152164A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346635(P2004−346635)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】