説明

マイクロカプセル混合農薬組成物

【課題】マイクロカプセル製剤による土壌害虫及び殺線虫の同時防除に必要な、初期効果及び残効性の両方を満足することができるマイクロカプセル混合組成物を提供する。
【解決手段】第1の農薬である殺線虫有効成分を含有するマイクロカプセル(A)、及び第2の農薬である土壌害虫防除有効成分を含有するマイクロカプセル(B)を含有するマイクロカプセル混合農薬組成物であって、前記マイクロカプセル(A)の体積中位径が1〜20μmの範囲であり、前記マイクロカプセル(B)の体積中位径が20〜100μmの範囲であるマイクロカプセル混合農薬組成物を提供する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土壌害虫及び線虫を防除する農薬製剤の分野に関し、その中でもマイクロカプセル農薬製剤の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、土壌害虫や線虫といった有害生物を同時に防除するために、様々な農薬が混合使用されている。農薬の混合使用は農薬散布の省力化を促進し、施用者の負担を減らすことができる。一方で、農薬同士の相互作用によって、活性成分が分解し効力が低下したり、作物への薬害を増強したりといった負の作用も引き起こす可能性があった。
特許文献1では、特定の有機リン系殺線虫剤と有機リン系殺虫剤を組み合わせて使用することで、線虫に対する相乗的な防除効果が得られることを記載している。しかしながら、該組み合わせ使用において、土壌害虫に対する相乗的な防除効果を示す結果について記載がなく、更に線虫と土壌害虫の同時防除効果に関する開示はない。加えて、該有機リン系殺線虫剤と該有機リン系殺虫剤の混合における安定性について考慮されておらず、異なる物理化学的安定性を有する複数の農薬をボトル混合した、混合製剤に関するものではない。
【0003】
一方、農薬成分をマイクロカプセル化したマイクロカプセル製剤は、農薬成分がカプセル膜に包まれているため、物理化学的安定性に優れ、更に施用者や周辺環境への安全性が高いことが知られている。しかしながら、一般にマイクロカプセル製剤は、長期に亘り農薬効力を維持できる残効性に優れているものの、農薬散布直後における初期効力については不十分なことが多かった。またマイクロカプセル製剤の場合、内包薬剤のカプセル膜からの溶出性の制御や、マイクロカプセルの安定性制御などのマイクロカプセル製剤としての条件設定が難しく、2種類以上のマイクロカプセル製剤を混用し、防除対象有害生物のスペクトラムを拡充させる等の検討はほとんどなされていない。
【0004】
特許文献2には、2種以上の活性成分を封入したマイクロカプセル製剤について記載されている。マイクロカプセル中に、第1の農薬であるクロマゾンと第2の農薬を含有したマイクロカプセルの製造法について、また、除草剤クロマゾンのマイクロカプセル懸濁液と他除草剤のカプセル化していても良い粒子懸濁液を混合する方法について記載されている。しかしながら2種以上の活性成分を同一のマイクロカプセル内に封入すると、それぞれの活性成分の水溶解性及び安定性などの物性が異なるため、溶出コントロールや製剤の安定化が難しくなる。カプセル化懸濁液を混合する方法においても双方のマイクロカプセルについて安定性を調整する必要がある。また除草を目的とした製剤であり、土壌害虫及び殺線虫の同時防除を目的とした製剤ではない。
【0005】
特許文献3には、膜厚の異なる2種類のマイクロカプセルを混合することで、初期活性ならびに残効性、殺虫スペクトラム拡大を目的としたピレスロイド系殺虫剤のマイクロカプセルについて記載がある。2種類のマイクロカプセルの膜厚を一方は0.001μm〜0.01μmに、もう一方は0.01μm〜0.5μmにすることで活性成分の溶出をコントロールし、初期効果の発揮及び残効性を長くしている。しかし膜厚を変えて溶出を制御することはマイクロカプセルの強度が低下するため、製剤安定性の面で好ましくない。またピレスロイド系殺虫剤以外の異なる活性成分を用いての記載はなく、2種類の農薬で殺虫及び殺線虫の同時防除を目的とした製剤ではない。
【0006】
マイクロカプセル製剤は、皮膜にて内封した農薬成分を外部に溶出させ、対象有害生物に感作させることにより、所望の防除効果を発揮される農薬製剤である。しかしながら農園芸における有害生物は多様であり、マイクロカプセルから農薬成分を溶出させる機構、及び至適農薬施用量や至適感作時間、並びに薬剤における感受性は、各有害生物種により異なるため、複数種の対象有害生物の同時防除が可能なマイクロカプセル製剤の製剤設計は困難であった。特に土壌中に生息する有害昆虫類と線虫類は、それぞれ体位長や生態が大きく異なるため、これら土壌有害生物を同時防除できるマイクロカプセル製剤は知られていない。すなわち、土壌中害虫として代表的なコガネムシ類幼虫は、体位長1〜3cmで運動性が高く、土中の農園芸作物の根茎部などを食害する生態である。一方、線虫類は体位長が1mm以下で極めて小さく、農園芸作物に寄生する吸汁性生物である。したがって昆虫幼虫類と線虫類は生態が大きく異なり、更に農薬感受性も異なるため、これら有害昆虫類と線虫類を同時防除できるマイクロカプセル製剤を処方するためには、内包農薬の溶出機構の設計、及び内包農薬の溶出速度制御、並びに内包農薬の適切な選択、等が重要である。特に、線虫類は体位長が極めて小さく、土壌中で高密度に増殖する生態である。このため線虫汚染土壌における線虫防除には、高用量の殺線虫有効成分を要する。そこで殺線虫有効成分のマイクロカプセルは、内包薬剤の速やかな溶出が担保される特性であることが望まれ、加えて長期に亘り持続的に内包薬剤を溶出できる特性が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−269787号公報
【特許文献2】特表2002−523338号公報
【特許文献3】特開平10−59812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
農園芸業において、土壌中に生息し農園芸作物に被害を与える線虫及び土壌害虫は、その双方を防除しなければならない。線虫及び土壌害虫に対するそれぞれの防除方法は知られているが、一度の農薬散布により、これらを同時に防除できる有効な方法は知られていない。更に農薬散布の施用者が、安全に散布できる線虫及び土壌害虫防除農薬が希求されている。加えて、農薬散布初期における十分な初期防除効力を発揮すると共に、一度の農薬散布によって長期間に亘りその防除効果を維持できる線虫及び土壌害虫防除農薬製剤が求められている。しかし初期防除効力を求めるためにマイクロカプセルの膜を薄くして溶出性を上げることはマイクロカプセルの強度及び安定性の面から好ましくなく、残効性が維持できない。本発明は上記課題を解決することを目的としている。
【0009】
すなわち、本発明はマイクロカプセル製剤技術を用い、農薬散布施用者の安全性と長期薬効持続性を確保されたマイクロカプセル農薬組成物において、一度の農薬散布において、線虫及び土壌害虫を同時防除でき、且つその防除効果は線虫に対し十分な効果を達成するための溶出による初期効果及びマイクロカプセルの強度及び安定性を十分に保つことによる残効性の両方を満足することができるマイクロカプセル農薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、殺線虫有効成分を芯物質として含有する体積中位径が1〜20μmのマイクロカプセル、及び土壌害虫防除有効成分を芯物質として含有する体積中位径が20〜100μmのマイクロカプセルをそれぞれ調製し、これらを混合したマイクロカプセル混合組成物とすることで、所望の効果が達せられることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は
(1) 第1の農薬である殺線虫有効成分を含有するマイクロカプセル(A)、及び第2の農薬である土壌害虫防除有効成分を含有するマイクロカプセル(B)を含有するマイクロカプセル混合農薬組成物であって前記マイクロカプセル(A)の体積中位径が1〜20μmの範囲であり、前記マイクロカプセル(B)の体積中位径が20〜100μmであるマイクロカプセル混合農薬組成物、
(2) 前記第1の農薬及び前記第2の農薬の少なくとも一つが有機リン剤である前記(1)に記載のマイクロカプセル混合農薬組成物、
(3) 前記第1の農薬が、O−エチル−S−n−プロピル(2−シアノイミノ−3−エチルイミダゾリジン−1−イル)ホスホノチオレート(一般名:イミシアホス)、S,S−ジ−sec−ブチル−O−エチル−ホスホロジチオアート(一般名:カズサホス)、(R,S)−S−sec−ブチル−O−エチル−2−オキソ−1,3−チアゾリジン−イルホスホノチオアート(一般名:ホスチアゼート)からなる群から選択されるいずれか一つ以上の有機リン系殺線虫有効成分であり、前記第2の農薬が、O,O−ジエチル−O−2−イソプロピル−6−メチルピリミジン−4−イル−ホスホロチオエート(一般名:ダイアジノン)、O,O−ジメチル−O−4−メチルチオ−m−トルイル−ホスホロチオエート(一般名:フェンチオン)、O,O−ジメチル−O−4−ニトロ−m−トルイル−ホスホロチオエート(一般名:フェニトロチオン)からなる群から選択されるいずれか一つ以上の有機リン系土壌害虫防除剤である前記(1)〜(2)のいずれか一項に記載のマイクロカプセル混合農薬組成物、
(4) 前記第1の農薬と前記第2の農薬の有効成分比率が1:5〜5:1である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のマイクロカプセル混合農薬組成物、
(5) グリコール類を添加する前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のマイクロカプセル混合農薬組成物、
(6) 前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のマイクロカプセル混合農薬組成物を有効成分総量に対して10〜200倍に希釈し、土壌に直接散布処理する土壌有害生物の防除方法、
(7) 土壌線虫と土壌害虫を同時に防除する前記(6)に記載の土壌有害生物の防除方法、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロカプセル混合農薬組成物は、異なる物理化学的安定性を有する殺線虫有効成分と土壌害虫防除有効成分の混合組成物であるにも関わらず、混合製剤として安定性に優れる。当該マイクロカプセル混合農薬組成物は、2つのマイクロカプセル製剤を混合することにより、前記マイクロカプセル(A)から膜の強度が保たれつつ殺線虫有効成分の溶出が促進される作用がもたらされ、これまでマイクロカプセル製剤の課題であった散布初期効果、特に殺線虫効果の改善、及び長期防除効果の両方を満足することができ、一度の散布で線虫と土壌害虫の同時防除を可能にする。更に農薬有効成分がマイクロカプセルに封入されており、散布施用者に高濃度の農薬有効成分が直接曝露されることがないため、安全性も確保されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、第1の農薬として殺線虫有効成分が適用される。用いられる殺線虫有効成分としては特に制限されず、例えば適用できる殺線虫剤の具体例としては、ホスチアゼート、イミシアホス、カズサホス等の有機リン系殺線虫剤、D−D剤、クロルピクリン剤、メチルイソチオシアネート油剤等の土壌燻蒸剤、NCS、キルパー等のカーバム系殺線虫剤、オキサミル等のカーバメート系殺線虫剤などが挙げられる。その中でも、マイクロカプセル製剤化における殺線虫活性効力を考慮すると有機リン系殺線虫剤が特に好ましく、イミシアホス、カズサホス、ホスホチアゼートが特に好ましい。混合安定性に問題がない場合、これらの中から2種以上を使用しても良い。
【0014】
また、本発明において第2の農薬として、土壌害虫防除有効成分が適用される。用いられる土壌害虫防除有効成分としては特に制限されず、例えば適用できる土壌害虫防除剤の具体例としては、ダイアジノン、フェニトロチオン、フェンチオン、カルビンホス、クロルピリホス、クロルピリホスメチル、シアノフェンホス、シアノホス、ジクロルボス、マラチオン、ナレド、ピリミホスメチル、プロチオホス、ピリダフェンチオン、サリチオン、テトラクロロビンホス、トリクロルホン、プロモホス、プロペタンホス等の有機リン系殺虫剤、BPMC、カルバリル、エチオフェンカーブ、プロポキサー、XMC等のカーバメート系殺虫剤、サイパーメスリン、サイフェノトリン、デルタメスリン、フェンプロパスリン、フェンバレレート、カデスリン、ペルメトリン、フェノトリン、プロパルスリン、レスメスリン、アルファーメスリン、トラロメスリン、フルサイスリネート、ビフェノトリン、サイハロスリン、フルメトリン、フェンクルスリン、シクロプロトリン、フルバリネート、エトフェンプロックス、シラネオファン等のピレスロイド系殺虫剤、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、アセタミプリド、チアクロプリド、ニテンピラム、ジノテフラン等のネオニコチノイド系殺虫剤、その他メタアルデヒド、ヘキサフルムロン、ヒドラメチルノン、スルフルラミドなどが挙げられる。その中でも、マイクロカプセル製剤化における殺虫活性効力を考慮すると有機リン系殺虫剤が好ましく、ダイアジノン、フェニトロチオン、フェンチオンが特に好ましい。混合安定性に問題がない場合、これらの中から2種以上を使用しても良い。
【0015】
本発明において、第1の農薬である殺線虫有効成分、及び第2の農薬である土壌害虫防除有効成分をそれぞれ内包する各マイクロカプセルは、特に制限されず、公知の技術によって調製したマイクロカプセルを使用することができる。好ましいマイクロカプセル調製方法は化学的調製方法であり、特に好ましくは、界面重合法及びInSitu法が、製造が容易で短時間でカプセル化が可能であり、粒径の制御が容易な方法として挙げられる。
界面重合法とは、例えば、多塩基酸ハライドとポリオールとを界面重合させてポリエステルからなる膜を形成する方法、多塩基酸ハライドとポリアミンとを界面重合させてポリアミドからなる膜を形成する方法、ポリイソシアネートとポリオールとを界面重合させてポリウレタンからなる膜を形成する方法、ポリイソシアネートとポリアミンとを界面重合させてポリウレアからなる膜を形成する方法などが用いられる。
InSitu法では、例えば、スチレンとジビニルベンゼンとを共重合させてポリスチレン共重合体からなる膜を形成する方法、メチルメタクリレートとn−ブチルメタクリレートとを共重合させてポリメタクリレート共重合体からなる膜を形成する方法、メラミンとホルムアルデヒドを共重合させてメラミン樹脂からなる膜を形成する方法などが用いられる。
本発明において、上記したいずれの方法によってマイクロカプセルを調製するかは、有効成分の種類、使用目的あるいは用途などによって、適宜選択することができるが、界面重合法が特に好ましく用いられる。次に、界面重合法によって、そのような有効成分を内包するマイクロカプセルの製造方法について、より詳細に説明する。
【0016】
界面重合法では、まず農薬有効成分及び油溶性膜形成成分を含む油相成分を調製する。
油溶性膜形成成分としては、例えば、ポリイソシアネート、ポリカルボン酸ハライド、ポリスルホン酸ハライドなどが挙げられる。
ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートの脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂環族ポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ポリイソシアネートなどが挙げられる。また、これらポリイソシアネートの誘導体、例えば、ダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレットジオン、オキサジアジントリオンなどや、これらポリイソシアネートの変性体、例えば、トリメチロールプロパンなどの低分子量のポリオールやポリエーテルポリオールなどの高分子量のポリオールを予め反応させることにより得られるポリオール変性ポリイソシアネートなども挙げられる。
ポリカルボン酸ハライドとしては、例えば、セバシン酸ジハライド、アジピン酸ジハライド、アゼライン酸ジハライド、テレフタル酸ジハライド、トリメシン酸ジハライドなどが挙げられる。ハライドとしてはクロライドが汎用されるものであり好ましい。
ポリスルホン酸ハライドとしては、例えば、ベンゼンスルホニルジハライドが挙げられ、ベンゼンスルホニルクロライドがより好ましい。
これら油溶性膜形成成分は、単独で使用してもよく、また2 種以上併用してもよい。好ましくは、ポリイソシアネートが挙げられ、さらに好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。
【0017】
油相成分は、油溶性膜形成成分が常温液体であり、農薬有効成分が油溶性膜形成成分に溶解または分散し得る場合は、これらを配合することにより調製することができる。若しくは、例えば、農薬有効成分及び油溶性膜形成成分を、必要により有機溶媒を用いて、配合することにより、調製することができる。
有機溶媒としては、農薬有効成分を溶解または分散し得るものであれば特に制限されず、有効成分の種類に応じて、適宜選択することができる。そのような有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、高沸点芳香族系有機溶媒としては、例えば、アルキルベンゼン類、アルキルナフタレン類、アルキルフェノール類、フェニルキシリルエタンなどが挙げられ、より具体的には、石油留分より得られる種々の市販の有機溶媒、例えば、サートレックス48(高沸点芳香族系溶剤、蒸留範囲254〜386℃、モービル石油(株)製)、アルケンL (アルキルベンゼン、蒸留範囲285〜309℃、日本石油化学(株)製)、ソルベッソ150(アルキルナフタレン、蒸留範囲179〜213℃、エクソン化学(株)製)、ソルベッソ200(アルキルナフタレン、蒸留範囲226〜286℃、エクソン化学(株)製)、KMC−113(ジイソプロピルナフタレン、沸点300℃、呉羽化学工業(株)製)、SAS296(フェニルキシリルエタン、蒸留範囲290〜305℃、日本石油化学(株)製)などが挙げられる。これら有機溶媒は、単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよい。
農薬有効成分と有機溶媒との配合割合は、例えば、農薬有効成分と有機溶媒との合計100重量部に対して、農薬有効成分が、5〜60重量部、好ましくは、10〜50重量部であり、有機溶媒が、40〜95重量部、好ましくは、50〜90重量部の割合であることが好ましい。
【0018】
油溶性膜形成成分の配合割合は、油相成分100重量部に対して、0.1〜99.9 重量部の範囲において配合可能であるが、1〜90重量部、さらには、10〜50重量部の範囲において配合することが好ましい。油溶性膜形成成分の配合割合が多くなると、得られるマイクロカプセルの皮膜が厚くなりすぎる場合がある。一方、油溶性膜形成成分の配合割合が少なくなると、マイクロカプセルの皮膜を形成することができなくなる場合がある。
そして、油相成分は、農薬有効成分及び油溶性膜形成成分を、必要により有機溶媒を用いて配合し、攪拌混合することにより調製することができる。
【0019】
界面重合法では、次いでこのようにして調製された油相成分を、水相成分に配合して、攪拌により油相微小滴の分散体を調製し、その後、界面重合させる工程をとる。
水相成分は、前記油相成分と混和しない媒体を主成分として調製されるものであり、好ましくは水が使用される。この媒体に分散安定剤を配合することによって調製することができる。
分散剤としては、例えばアクリル酸重合物、(メタ)アクリル酸共重合物(アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル、アクリル酸アミド、アクリロニトリル、スチレンスルホン酸、酢酸ビニル等との共重合物)、マレイン酸共重合物(スチレン、エチレン、プロピレン、メチルビニルエーテル、酢酸ビニル、イソブチレンとの共重合物)、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子物質、キサンタンガム、アラビアガム、アルギン酸ソーダ等の天然多糖類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニル縮合物、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミド類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、アルキルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等の界面活性剤等の単独または2種以上を組み合わせて使用し、使用方法としては水相成分に所定量の分散剤を溶解して使用する。尚、これらの分散剤はマイクロカプセルを製造した後、マイクロカプセル分散液中で沈降凝集がないように分散系を安定化させる機能も担うものである。分散剤としては、ポリビニルアルコールがより好ましい。なお分散剤の配合割合は、水相成分100重量部に対して20重量部以下の使用が好ましく、より好ましくは5重量部以下の配合である。分散剤の濃度が大きいほど細かな体積中位径を得ることができる。
【0020】
油相成分を水相成分に配合するには、油相成分を水相成分中に加えて、常温下、油相が微小滴になるまでヒスコトロン、ホモミキサーなどによって攪拌し分散させる方法が挙げられる。
【0021】
そして、界面重合させる方法は、例えば、油相成分を水相成分中に分散後に、水溶性膜形成成分を滴下する方法が挙げられる。
水溶性膜形成成分としては、油溶性膜形成成分と反応して界面重合するものであれば、特に制限されず、例えば、ポリアミンやポリオールなどが挙げられる。すなわち、水溶性膜形成成分としてポリアミンを使用した場合、油溶性膜形成成分がポリイソシアネート、ポリカルボン酸ハライド、ポリスルホン酸ハライドを使用していると、マイクロカプセル膜として形成される膜成分は、それぞれポリウレア膜、ポリアミド膜、ポリスルホンアミド膜のマイクロカプセルが調製される。一方、水溶性膜形成成分としてポリオールを使用した場合、油溶性膜形成成分がポリイソシアネート、ポリカルボン酸ハライド、ポリスルホン酸ハライドを使用していると、それぞれポリウレタン膜、ポリエステル膜、ポリスルホン酸エステル膜のマイクロカプセルが調製されることになる。
【0022】
本発明で使用されるポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノトルエン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ピペラジンなどが挙げられ、これら2種類以上の混合物を使用しても良い。
ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられ、これら2種類以上の混合物を使用しても良い。
【0023】
本発明のマイクロカプセル混合農薬組成物は、水溶性膜形成成分としてポリアミンの使用が好ましい。水溶性膜形成成分は、そのまま、若しくはその水溶液として使用される。水溶性膜形成成分を水溶液とするには、水溶性膜形成成分の50重量%以下の濃度で使用することが好ましい。この水溶性膜形成成分は、水溶性膜形成成分の反応性基が、油溶性膜形成成分の反応性基に対してほぼ等しい当量(例えば、ポリイソシアネートとポリアミンとが用いられる場合では、イソシアネート基/アミノ基の当量比がほぼ1となる割合)となるまで滴下し、当該界面重合に供せられる。
【0024】
前記農薬成分と前記油溶性膜形成成分を含有する前記油相成分の微小油滴が前記水相成分中に分散した分散液に、このような水溶性膜形成成分を滴下することにより、水溶性膜形成成分と油溶性膜形成成分とが、油相成分微小油滴と水相成分との界面で反応し、重合反応によりマイクロカプセル膜が形成され、有効成分が内包されるマイクロカプセルを、前記水相中の分散液として得ることができる。本発明のマイクロカプセル混合農薬組成物は、油溶性膜形成成分としてポリイソシアネートの使用が好ましく、水溶性膜形成成分としてポリアミンの使用が好ましく、これらの界面重合反応により膜形成され調製されるポリウレア膜によるマイクロカプセルを用いることが好ましい。
この界面重合反応を促進するために、反応温度を25〜85℃、好ましくは40〜80℃で、反応時間を30分〜24時間、好ましくは1〜12時間攪拌して反応させることが好ましい。
【0025】
このようにして得られるマイクロカプセルに、必要により、増粘剤、凍結防止剤、防腐剤、比重調節剤などの公知の添加剤を適宜配合しても良い。増粘剤としてはキサンタンガム、ローカストビームなどの天然多糖類、マグネシウムアルミニウムシリケートなどのベントナイト類、カルボキシメチルセルロースなどの半合成多糖類が挙げられる。凍結防止剤としては尿素、またはプロピレングリコール、エチレングリコールなどグリコール類が挙げられる。防腐剤としては1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−メチルーイソチアゾリン−3−オンなどが挙げられる。比重調節剤としては硫酸ナトリウム等の水溶性塩などが挙げられる。
【0026】
本発明に係るマイクロカプセル製剤は、適用するマイクロカプセルの体積中位径が、土壌有害生物の防除効力の発揮に大きく影響を及ぼすものである。ここでいう体積中位径とは体積基準での平均粒子径を表し、その集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブの50%となる点の粒子径をいう。
マイクロカプセル調製において、目的とする体積中位径に調整するには、分散剤の種類及び濃度、並びに油相成分を分散させる撹拌条件(撹拌機種、撹拌速度、撹拌時間等)が重要な役割を果たし、マイクロカプセルの粒子径は芯物質を水中で微小滴を形成させ、分散系を作製する工程でほぼ決定されるので、この工程でカプセル粒子の設計に合わせた分散剤及び撹拌方法を選ぶことが重要である。
【0027】
撹拌機種としては、ヒスコトロン(マイクロテックニチオン(株)製)及びミキシングアナライザー(特殊機化工業(株)製)などが挙げられる。撹拌速度としては、100〜10000rpmの範囲で撹拌することが好ましく、1000〜8000rpmがより好ましい。撹拌時間としては、0.1〜30分の範囲で行うことが好ましく、0.5〜15分の範囲がより好ましい。攪拌速度を速くすることにより、小さい体積中位径のマイクロカプセルを調製することができる。また、撹拌時間を長くすることによっても、小さい体積中位径のマイクロカプセルを調製することができる。
【0028】
本発明のマイクロカプセル混合組成物において、マイクロカプセルの体積中位径は、例えば市販されているレーザー回折式粒度分布測定装置、具体的にはSALD2200((株)島津製作所 製)などを用いて、体積中位径の大きさとその分布状態を測定することにより求めることができる。
【0029】
本発明のマイクロカプセル混合農薬組成物は、それぞれ異なる体積中位径のマイクロカプセル製剤を組み合せて混合させることを特徴とする。すなわち、第2の農薬である土壌害虫防除有効成分を含有するマイクロカプセル(B)と比較して、第1の農薬である殺線虫有効成分を含有するマイクロカプセル(A)の体積中位径が小さいことを特徴とし、具体的には、前記マイクロカプセル(A)の体積中位径が1〜20μmであり、前記マイクロカプセル(B)の体積中位径が20〜100μmであることが好ましい。特に、線虫は極めて小さい体位長であり、それに伴い前記マイクロカプセル(A)はより小さい体積中位径であることが望まれ、マイクロカプセル(A)の体積中位径は1〜10μmであることが好ましく、1〜5μmであることがより好ましい。一方、前記マイクロカプセル(B)は防除対象害虫の体位が大きいことから、それに伴う体積中位径であることが望ましく、より好ましくは30〜80μmである。
【0030】
また別の観点では、前記マイクロカプセル(A)と前記マイクロカプセル(B)における第1の農薬と第2の農薬の各有効成分重量比率が1:5〜5:1であることが好ましい。本発明は、2種類のマイクロカプセルを混用することにより、前記マイクロカプセル(A)から第1の農薬である殺線虫有効成分の溶出が促進される効果を有し、特に第2の農薬の組成含量比率を高めることにより、第1の農薬の溶出促進効果が高められる。このためより好ましくは第1の農薬と第2の農薬の各有効成分重量比率が1:0.9〜1:2の割合で混合する組成含量比率が望ましい。
【0031】
本発明のマイクロカプセル混合農薬組成物は、上述したマイクロカプセル調製方法によって、それぞれ規定された体積中位径のマイクロカプセル(A)及び(B)を調製し、次いで、このマイクロカプセル(A)及び(B)を混合することによって得ることができる。混合は物理混合すればよく、本発明の製造方法において混合工程では、当該それぞれのマイクロカプセルが破壊されない程度の撹拌力において、機械的な撹拌を行うのが好都合であり、撹拌条件を一定にすることで均一な混合を可能にする。撹拌には羽根、プロペラ、タービン等が使用できる。
【0032】
本発明のマイクロカプセル混合農薬組成物は、殺線虫マイクロカプセル(A)及び土壌害虫防除マイクロカプセル(B)に、更に補助剤を添加して混合することにより製造しても良い。
補助剤としては増粘剤、浸透圧調節剤、pH調整剤、凍結防止剤、殺菌剤、防黴剤、安定剤、着色剤、分散剤などが使用できる。例えば適用できる補助剤の具体例として、増粘剤としてはキサンタンガム、ローカストビームなどの天然多糖類、マグネシウムアルミニウムシリケートなどのベントナイト類、カルボキシメチルセルロースなどの半合成多糖類が挙げられ、浸透圧調節剤としてはマンニトール、グルコース、ソルビトールなどの糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの無機物が挙げられ、pH調整剤としてはリン酸、酢酸、塩酸、クエン酸など酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなど塩基類が挙げられ、凍結防止剤としては尿素、またはプロピレングリコール、エチレングリコールなどグリコール類が挙げられ、殺菌剤、防黴剤としては1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−メチルーイソチアゾリン−3−オンなどが挙げられ、安定剤としてはBHT、酸化銅などが挙げられ、着色剤として各種染料、界面活性剤としてナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ポリスチレンマレイン酸ナトリウム塩など各種分散剤など使用できる。これらはマイクロカプセル組成物に影響を与えないものが好ましく、単独で使っても、2つ以上を組み合わせて使用することも可能である。グリコール類は凍結防止効果以外にマイクロカプセル同士の会合防止向上機能を有することから、特に好ましい。これらの補助剤は0〜30質量%の範囲内で使用することができる。
【0033】
本発明のマイクロカプセル混合農薬組成物は、通常、当該組成物の有効成分総重量に対して10〜200倍に希釈され、土壌混和、土壌灌注処理等で土壌に直接処理される。希釈液としては水を用いることが好ましい。若しくは、希釈操作を行なわないで、マイクロカプセル調製に使用された水相成分である分散媒を除かないで、そのままマイクロカプセルスラリーとして土壌処理することも可能である。若しくは分散媒を除去してマイクロカプセル単体として土壌処理に用いることができる。また、例えば、粉剤、粒剤など適宜公知の剤型に製剤化してもよい。
【0034】
本発明のマイクロカプセル混合農薬組成物は、主に果樹、茶樹、野菜、花卉を育成する土壌に発生する土壌有害生物に対して、その防除する農薬として用いられる。防除対象となる土壌害虫としてはコガネムシ類幼虫、ハリガネムシ、シバオサゾウムシ幼虫、キスジノミハムシなどが挙げられ、その他にナガシロシタバ、アメリカシロヒトリ、シバツトガ、スジキリヨトウ、ケラ、チャバネゴキブリ、クロゴキブリなどが挙げられる。また、線虫類としてはネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウなどが挙げられる。本発明のマイクロカプセル混合農薬組成物は、上記した土壌害虫及び線虫の双方の防除に有効であり、一度の当該農薬組成物の散布において、上記土壌害虫及び上記線虫の同時防除を達成し、農薬散布直後の初期効力と、その後の長期に亘る残効性の両立を図ることができるものである。
【0035】
マイクロカプセル製剤が有害生物に対して防除効果を発揮する作用機作としては、マイクロカプセルの物理的破壊による農薬有効成分の漏洩による対象有害生物への接触や吸収による第1の機作、またはマイクロカプセルからの農薬有効成分の溶出による対象有害生物への接触や吸収による第2の機作が挙げられる。
土壌害虫防除に関しては、害虫自体のサイズが大きいため、対象害虫の運動や摂餌によるマイクロカプセルの破壊が可能であり、前記第1の作用機作による効果発現の寄与が大きい。更に、有効成分の安定性確保、及び長期間薬効維持する観点から、マイクロカプセル膜からの有効成分の溶出は抑制された製剤が望ましい。そこで、土壌害虫防除有効成分を含有するマイクロカプセル(B)は、薬剤溶出を抑え、且つマイクロカプセルが摂餌等により対象害虫の体内に取り込まれたり、体表面に付着したりしやすいよう、大きい体積中位径によるマイクロカプセル製剤とすることが効率的であり、斯様なマイクロカプセル製剤設計とすることが好ましい。
一方、線虫防除に関して、線虫は体位サイズが非常に小さく吸汁性生物であり、運動や摂餌行動によるマイクロカプセルの物理的破壊はできない。このため、後者の第2の作用機作であるマイクロカプセルから溶出された殺線虫有効成分の直接接触のみが殺線虫活性発現に寄与する。更に、線虫類は土壌中に高密度に増殖する性質があり、有効に土壌中の線虫防除効果を発揮するためには、高用量の殺線虫有効成分量を確保できることも重要である。
通常、マイクロカプセル製剤は残効性を長くするために、マイクロカプセルの膜厚や体積中位径を大きくするが、これらを調整すると活性成分の溶出性が低下するために初期効果が低下する。一方、膜厚や体積中位径を小さくすると、農薬有効成分の溶出性が大きくなり、初期効果は確保されるものの、残効性が低下するという不具合が生じる。土壌害虫防除には、マイクロカプセルの膜厚等を調整して残効性を高める製剤設計をしても、害虫が接触しマイクロカプセルの物理的破壊による第1の作用機作に基づき、初期効果も期待できる。しかしながら、殺線虫防除用マイクロカプセル製剤としては、線虫によるカプセルの破壊ができないという特性状、土壌害虫防除剤ほど初期効果は期待できない。そこで殺線虫用マイクロカプセル(A)は体積中位径を小さく設定して、マイクロカプセル表面積を増やすことにより、線虫へのマイクロカプセル(A)の付着量を増加させて、溶出した殺線虫有効成分との接触量を増加させることにより、線虫に対する殺線虫効果を高めたマイクロカプセル製剤設計をする必要がある。
【0036】
更に本発明に係るマイクロカプセル混合組成物は、もう一方の土壌害虫防除用マイクロカプセル(B)を殺線虫用マイクロカプセル(A)に混合することで、殺線虫マイクロカプセル(A)からの殺線虫有効成分の溶出が促進される作用が発現される両剤混合における新たな効果が見出された。この効果により線虫に対する殺線虫有効成分の感作量が更に増加し、初期効果が確実に確保されることを可能とした。したがって、一度の農薬組成物の散布により、土壌害虫と線虫を同時に防除するためのマイクロカプセル混合組成物は、殺線虫用マイクロカプセル(A)に薬剤溶出性を高める性能を持たせた製剤設計であり、土壌害虫防除用マイクロカプセル(B)に対象害虫への接触確率を高めると共に薬剤溶出性を極力抑えた性能を持たせた製剤設計である。本発明のマイクロカプセル混合組成物は、25℃、20分振とう下におけるそれぞれの内封薬剤の水中溶出率が、殺線虫用マイクロカプセル(A)は10%以上であり、土壌害虫防除用マイクロカプセル(B)は実質的に溶出が抑制されており水中溶出率は1%以下の組成物物性である。
【実施例】
【0037】
以下に製造例及び実施例により本発明を更に詳細に説明する。また、調製したマイクロカプセルは以下の分析機器、及び分析条件で体積中位径を測定した。
分析機器:レーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2200、((株)島津製作所製)
測定方式:レーザー回折およびレーザー散乱法
測定範囲:0.03〜1000μm
光源:半導体レーザー(波長680nm、出力3mW)
セル:バッチセル方式
セル材質:石英ガラス製
ソフトウェア:WingSALD−2200
分析試料:調製したマイクロカプセルを有効成分が0.1〜0.25重量%の濃度になるように水を添加し、分散して調製した。
【0038】
製造例1
(2−イソプロピル−4−メチルピリミジル−6)−ジエチルチオフォスフェート(一般名:ダイアジノン)236重量部に、油溶性膜形成成分としてMR−400((商品名)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、日本ポリウレタン(株)製)22重量部、及び溶剤としてソルベッソ150((商品名)エクソン化学(株)製)81重量部を加えて、均一に混合し油相成分を調製した。他の容器に、分散剤としてゴーセノールAL−06((商品名)、ポリビニルアルコール、日本合成化学(株)製)の0.5重量%水溶液444重量部を入れ30℃に加温し、水相成分を調製した。1Lの容器に油相成分と水相成分を入れ、ミキシングアナライザー2500型(特殊機化工業(株)製)を用い、回転数2000rpmで10分間攪拌し、油相成分を分散し、O/W型のエマルジョンを調製した。これに水溶性膜形成成分としてエチレンジアミン6重量部及びジエチレントリアミン6重量部の混合溶液を加え、攪拌下、60℃で3時間反応させ、ポリウレア膜のマイクロカプセル含有液を調製した。これに、プロピレングリコールの50%水溶液100重量部、及びキサンタンガムの2%水溶液50重量部を加え均一に混合し、ダイアジノン含量が25重量%の土壌害虫防除用マイクロカプセル(B)を含有する分散液を得た。得られたマクロカプセルの体積中位径の測定値は40μmであった。
【0039】
製造例2
S,S−ジ−sec−ブチル−O−エチル−ホスホロジチオアート(一般名:カズサホス)を219重量部に、油溶性膜形成成分としてMR−400((商品名)ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、日本ポリウレタン(株)製)82重量部、及び溶剤としてソルベッソ150((商品名)エクソン化学(株)製)88重量部を加え、均一に混合溶解し、油相成分を調製した。他の容器にゴーセノールAL−06((商品名)ポリビニルアルコール、日本合成化学(株)製)の3%水溶液410重量部を入れ、30℃に加温し水相成分を調製した。1Lの容器に油相成分と水相成分を入れ、ミキシングアナライザー2500型(特殊機化工業(株)製)を用い、回転数8000rpmで1分間攪拌し、油相成分を分散し、O/W型のエマルジョンを調製した。これに、水溶性膜形成成分としてエチレンジアミン27重量部及びジエチレントリアミン27重量部の混合溶液を加え、攪拌下、60℃で3時間反応させポリウレア膜のマイクロカプセル含有液を調製した。これに、プロピレングリコールの50%水溶液200重量部、及びキサンタンガムの2%水溶液100重量部を加え、均一に混合し、カズサホス含量が19%の殺線虫用マイクロカプセル(A)を含有する分散液を得た。得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は3.5μmであった。
【0040】
製造例3
製造例1における水相成分を調製する操作で、ゴーセノールAL−06((商品名)、ポリビニルアルコール、日本合成化学(株)製)水溶液を0.2重量%水溶液に変更した以外は、製造例1と同様の原料及び操作でマイクロカプセル調製を行い、ダイアジノン含量が25%の土壌害虫防除用マイクロカプセル(B)を含有する分散液を得た。得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は68μmであった。
【0041】
製造例4
製造例2における水相成分を調製する操作で、ミキシングアナライザー2500型(特殊機化工業(株)製)を用いた攪拌を、回転数6000rpmで1分に変更した以外は、製造例2と同様の原料及び操作でマイクロカプセル調製を行い、カズサホス含量が19%の殺線虫用マイクロカプセル(A)を含有する分散液を得た。得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は15.1μmであった。
【0042】
製造例5
製造例2における水相成分を調製する操作で、ゴーセノールAL−06((商品名)、ポリビニルアルコール、日本合成化学(株)製)水溶液を0.3重量%水溶液とし、ミキシングアナライザー2500型(特殊機化工業(株)製)を用いた攪拌を、回転数2000rpmで10分に変更した以外は、製造例2と同様の原料及び操作でマイクロカプセル調製を行い、カズサホス含量が19%の殺線虫用マイクロカプセル(A)を含有する分散液を得た。得られたマイクロカプセルの体積中位径の測定値は51μmであった。
【0043】
実施例1
製造例1で得られた土壌害虫防除(ダイアジノン)含有マイクロカプセル(B)を300重量部に、製造例2で得られた殺線虫(カズサホス)含有マイクロカプセル(A)300重量部を、25℃の温度下、2段プロペラ攪拌機にて600rpmで撹拌しながら滴下した。これを10分間撹拌して、マイクロカプセル混合農薬組成物を得た。ダイアジノン含量は12.5重量%、カズサホス含量は9.5重量%であった。
【0044】
実施例2
製造例1で得られた土壌害虫防除(ダイアジノン)含有マイクロカプセル(B)を150重量部に、製造例2で得られた殺線虫(カズサホス)含有マイクロカプセル(A)300重量部を、25℃の温度下、2段プロペラ攪拌機にて600rpmで撹拌しながら滴下した。これを10分間撹拌して、マイクロカプセル混合農薬組成物を得た。ダイアジノン含量は8.33重量%、カズサホス含量は12.7重量%であった。
【0045】
実施例3
製造例1で得られた土壌害虫防除(ダイアジノン)含有マイクロカプセル(B)を300重量部に、製造例2で得られた殺線虫(カズサホス)含有マイクロカプセル(A)150重量部を、25℃の温度下、2段プロペラ攪拌機にて600rpmで撹拌しながら滴下した。これを10分間撹拌して、マイクロカプセル混合農薬組成物を得た。ダイアジノン含量は16.7重量%、カズサホス含量は6.33重量%であった。
【0046】
実施例4
製造例1で得られた土壌害虫防除(ダイアジノン)含有マイクロカプセル(B)を380重量部に、製造例2で得られた殺線虫(カズサホス)含有マイクロカプセル(A)285重量部を、25℃の温度下、2段プロペラ攪拌機にて600rpmで撹拌しながら、滴下し、次にプロピレングリコール35重量部を加えて10分間撹拌し、マイクロカプセル混合農薬組成物を得た。ダイアジノン含量は13.6重量%、カズサホス含量は7.74重量%であった。
【0047】
実施例5
製造例1で得られた土壌害虫防除(ダイアジノン)含有マイクロカプセル(B)を285重量部に、製造例2で得られた殺線虫(カズサホス)含有マイクロカプセル組成物285重量部を、25℃の温度下、2段プロペラ攪拌機にて600rpmで撹拌しながら、滴下し、次にプロピレングリコール30重量部を加えて10分間撹拌し、マイクロカプセル混合農薬組成物を得た。ダイアジノン含量は11.9重量%、カズサホス含量は9.03重量%であった。
【0048】
実施例6
製造例1で得られた土壌害虫防除(ダイアジノン)含有マイクロカプセル(B)を190重量部に、製造例2で得られた殺線虫(カズサホス)含有マイクロカプセル(A)285重量部を、25℃の温度下、2段プロペラ攪拌機にて600rpmで撹拌しながら、滴下し、次にプロピレングリコール25重量部を加えて10分間撹拌し、マイクロカプセル混合農薬組成物を得た。ダイアジノン含量は9.50重量%、カズサホス含量は10.8重量%であった。
【0049】
実施例7
製造例1で得られた土壌害虫防除(ダイアジノン)含有マイクロカプセル(B)を285重量部に、製造例2で得られた殺線虫(カズサホス)含有マイクロカプセル(A)190重量部を、25℃の温度下、2段プロペラ攪拌機にて600rpmで撹拌しながら、滴下し、次にプロピレングリコール25重量部を加えて10分間撹拌し、マイクロカプセル混合農薬組成物を得た。ダイアジノン含量は14.3重量%、カズサホス含量は7.22重量%であった。
【0050】
実施例8
製造例3で得られた土壌害虫防除(ダイアジノン)含有マイクロカプセル(B)を380重量部に、製造例2で得られた殺線虫(カズサホス)含有マイクロカプセル(A)285重量部を、25℃の温度下、2段プロペラ攪拌機にて600rpmで撹拌しながら滴下し、10分間撹拌し、マイクロカプセル混合農薬組成物を得た。ダイアジノン含量は14.3重量%、カズサホス含量は8.14重量%であった。
【0051】
実施例9
製造例1で得られた土壌害虫防除(ダイアジノン)含有マイクロカプセル(B)を380重量部に、製造例4で得られた殺線虫(カズサホス)含有マイクロカプセル(A)285重量部を、25℃の温度下、2段プロペラ攪拌機にて600rpmで撹拌しながら滴下し、10分間撹拌し、マイクロカプセル混合農薬組成物を得た。ダイアジノン含量は14.3重量%、カズサホス含量は8.14重量%であった。
【0052】
比較例1
製造例1で得られた土壌害虫防除(ダイアジノン)含有マイクロカプセル(B)を380重量部に、製造例5で得られた殺線虫(カズサホス)含有マイクロカプセル(A)285重量部を、25℃の温度下、2段プロペラ攪拌機にて600rpmで撹拌しながら、滴下し、10分間撹拌し、マイクロカプセル混合農薬組成物を得た。ダイアジノン含量は14.3重量%、カズサホス含量は8.14重量%であった。
【0053】
比較例2
製造例1の土壌害虫防除(ダイアジノン)含有マイクロカプセル(B)を4Kg(ダイアジノンとして1.0Kg)、及びガードホープ液剤((商品名)石原産業(株)社製、ホスチアゼート含量30%)1Kg(ホスチアゼートとして0.3Kg)を25℃の温度下、ポリ容器にて均一に混合した。
【0054】
試験例1(混合安定性試験)
実施例1〜3、及び対照例としてカズサホス原体(対照例1)、ダイアジノン原体(対照例2)、及びこれら原体を重量比で1:2(対照例3)、1:1(対照例4)、2:1(対照例5)で混合した原体混合組成物を、それぞれガラスアンプルへ封入し、54℃の恒温槽にて2週間保管し加速条件下での各農薬有効成分の安定性試験を行った。加速条件下での保存期間後の各試験試料の、カズサホス及び/またはダイアジノンの定量分析を以下の分析方法にて行ない、各試料の安定性試験を実施した。その結果を表1に示した。
【0055】
カズサホス原体(対照例1)、ダイアジノン原体(対照例2)の原体試料、及びこれらの原体混合物試料(対照例3〜5)の含量分析法は、各供試試料200重量部に、内部標準物質 (4,4'−ジクロロベンゾフェノン)を20重量部を加えた後、アセト二トリルを100重量部加え分析試料溶液とした。別にダイアジノン100重量部とカズサホス100重量部をそれぞれ量り、内部標準物質(4,4'−ジクロロベンゾフェノン)を20重量部、アセト二トリルを100重量部加え、標準溶液とした。この標準溶液、及び分析試料溶液を、それぞれ高速液体クロマトグラフィーにて分析し、内部標準分析法により各試料のカズサホス及び/またはダイアジノンの含有量を求めた。
【0056】
マイクロカプセル混合試料(実施例1〜3)の、各カズサホス及び/またはダイアジノンの含量分析方法は、各供試試料800重量部を量りとり、珪砂10重量部、内部標準物質として(4,4'−ジクロロベンゾフェノン)130重量部、アセトン40重量部加えて1時間振とう後にろ過し、分析試料溶液とした。別にダイアジノン及びカズサホスを各200重量部量り、内部標準物質として(4,4'−ジクロロベンゾフェノン)130重量部、及びアセトン40重量部を加えて標準溶液とした。この分析試料溶液、及び標準溶液をガスクロマトグラフィーに注入し、内部標準分析法により各試料のカズサホス及び/またはダイアジノンの含有量を求めた。
【0057】
表1 混合安定性試験結果
サンプル 初期含有量 保存後含有量 分解率(%)
実施例1 CD含有量 9.6 9.6 0.0
DZ含有量 13.0 12.9 0.8
実施例2 CD含有量 12.7 12.5 1.6
DZ含有量 8.5 8.5 0.0
実施例3 CD含有量 6.3 6.2 1.6
DZ含有量 17.1 16.9 1.2

対照例1(CD原体) CD含有量 91.1 90.0 1.2
対照例2(DZ原体) DZ含有量 94.4 87.0 7.8
対照例3 CD含有量 30.2 30.0 0.7
(CD 1:DZ 2) DZ含有量 63.1 56.3 10.8
対照例4 CD含有量 46.7 46.1 1.3
(CD 1:DZ 1) DZ含有量 46.1 37.4 18.9
対照例5 CD含有量 61.3 60.4 1.5
(CD 2:DZ 1) DZ含有量 31.4 22.8 27.4
CD;カズサホス、DZ;ダイアジノン

【0058】
表1の結果から明らかなように、土壌害虫防除有効成分であるダイアジノンは、ダイアジノン原体試料(対照例2)において7.8重量%の分解率であり、物理化学的安定性が比較的低い物性であった。これにカズサホス原体を添加すると、ダイアジノンの分解が促進され、著しい混合安定性の低下現象が認められた(対照例3〜5)。原体混合では、カズサホスの混合量が多いほどダイアジノンの分解が促進される傾向にあった。カズサホスは酸性領域で安定であり、ダイアジノンは塩基性領域で安定であることが知られており、それぞれが異なる物理化学的安定特性を有するため、組み合せ組成物においてダイアジノンの分解が促進される現象が起こるものと考えられる。
一方、本発明のカズサホス含有マイクロカプセルとダイアジノン含有マイクロカプセルの混合組成物である実施例1〜3は、いずれの混合比率でもダイアジノンの分解は低く抑えられていた。本発明のマイクロカプセル混合組成物は、安定領域が異なる農薬原体をポット混合した組み合せ製剤を処方する場合においても、流通上における製剤安定性が確保され、当該混合製剤の有効性が確認された。
【0059】
試験例2(水中溶出性試験)
実施例4〜9及び、比較試料として各成分マイクロカプセル単体試料である製造例1〜5、及びマイクロカプセル混合製剤である比較例1を、水中で25℃、20分間振とうしたときのマイクロカプセルからの有効成分の水中溶出率を測定した。その結果を表2に示した。
ここで水中溶出率とは、水300重量部中のマイクロカプセルからの有効成分の溶出量を、以下の式から全有効成分量に基づき溶出率を算出したものである。試験方法及び分析方法としては、供試マイクロカプセル組成物1重量部を量りとり、水300重量部を加え、供試試料とした。これを270rpmの速度で20分振とうし、孔径1μmのメンブランフィルターでろ過したものを試料溶液とした。別にカズサホス20ppm及びダイアジノン5ppmのアセトニトリル溶液を調製し、標準溶液とした。標準溶液及び試料溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析し、それぞれの溶出量を求め、ダイアジノン及びカズサホスそれぞれの水中溶出率を算出した。
【0060】
溶出量(mg)=標準溶液(ppm)×0.3(L)×(AT/AS)
AT:試料溶液のピーク面積
AS:標準溶液のピーク面積
[式1]:水中溶出率(%)=溶出量(mg)/全有効成分量(mg)×100
で算出される。
【0061】
表2 水中溶出性試験
有効成分比率 体積中位径(μm) 水中溶出率(%)
サンプル CD:DZ CD DZ CD DZ
実施例4 1:1.8 3.5 40 25.0 0.1
実施例5 1:1.3 3.5 40 24.1 0.1
実施例6 1:0.9 3.5 40 22.1 0.1
実施例7 1:2.0 3.5 40 29.3 0.1
実施例8 1:1.8 3.5 68 16.9 0
実施例9 1:1.8 15.1 40 13.8 0.1

製造例1 DZ−MC − 40 − 0.1
製造例2 CD−MC 3.5 − 15.4 −
製造例3 DZ−MC − 68 − 0
製造例4 CD−MC 15.1 − 11.0 −
製造例5 CD−MC 51 − 0.6 −
比較例1 1:1.8 51 40 0.4 0.1
CD;カズサホス、DZ;ダイアジノン、DZ−MC;ダイアジノンマイクロカプセル、CD−MC;カズサホスマイクロカプセル

【0062】
表2から明らかなように、実施例及び比較例において、ダイアジノンを内包するマイクロカプセルのダイアジノンの水中溶出率はいずれにおいても0.0〜0.1%であり、水分散液における溶出はほとんど認められなかった。土壌害虫防除においては、対象害虫の行動によるマイクロカプセルの物理的破壊による漏洩農薬の接触や吸収が、対象害虫の薬剤感作の主な機作と想定しており、製剤安定性及び長期残効性と確保する観点から、内包有効成分の溶出率が低く望ましい物性を示した。
一方、カズサホスを内包するマイクロカプセルにおけるカズサホスの水中溶出率は、体積中位径が小さいほど高い水中溶出性を示す傾向にあった。これは体積中位径が小さいほど、マイクロカプセルの表面積が増加するため、マイクロカプセル表面からのカズサホスの放出が促進されていると考えられる。さらに、実施例においてダイアジノンマイクロカプセル組成物の混合が、カズサホスの放出を促進することが認められた。この傾向はカズサホス内包マイクロカプセルの体積中位径が小さいほど顕著であり、カズサホス内包マイクロカプセルの体積中位径が20μm以下のときに認められた。
一方、比較例1の体積中位径が51μmのカズサホス内包マイクロカプセルを含有する組成物では、カズサホスの溶出促進作用は認められなかった。カズサホスの溶出促進作用を奏するためには、2つのマイクロカプセル製剤における最適な体積中位径同士の組み合わせが必要であった。特にカズサホス内マイクロカプセルの体積中位径が3.5μmで、ダイアジノン内包マイクロカプセルが40μmからなる組成物が、著しいカズサホスの溶出促進作用を発現した。
また、混合における有効成分比率として、ダイアジノン比率が高いほどカズサホスの水中溶出率は高くなる傾向であった。カズサホスの溶出を促すためには、ダイアジノンの有効成分比率をカズサホスより0.9以上大きくすることにより達せられ、十分な殺線虫防除効果を発揮するためには望ましい混合組成であった。
【0063】
比較例1のマイクロカプセル混合組成物は、カズサホスの水中溶出率が低いために、線虫に対して十分な初期効力が得られない可能性が考えられる。カズサホスの溶出有効成分量を確保するためには、カズサホス内包マイクロカプセル製剤の組成含量を増やす必要があるが、農薬製剤のコストが高くなり、更に薬害が増大する可能性がある。また、農薬によっては総使用量が制限されており薬量を増やすことが難しい。以上の結果から、有効成分比率はカズサホスよりダイアジノンが大きいことが好ましく、体積中位径の範囲が1〜20μmの範囲内にある殺線虫マイクロカプセルと20〜100μmの範囲内にある土壌害虫防除マイクロカプセルのマイクロカプセル混合農薬組成物において、殺線虫マイクロカプセルからの薬剤の溶出が促進され、線虫防除における散布初期効果を確保し得ることが期待される製剤特性であることが確認された。
【0064】
試験例3(コガネムシ・センチュウ試験)
実施例4〜7を一区15m(3.0×5.0m)に、1区あたりの処理量として、実施例4を104g(ダイアジノン;14.1g、カズサホス8.05g)、実施例5を90g(ダイアジノン;10.7g、カズサホス;8.13g)、実施例6を75g(ダイアジノン;7.13g、カズサホス;8.12g)、実施例7を75g(ダイアジノン;10.7g、カズサホス;5.42g)を、1区あたりの処理液量が1.5Lになるように水で希釈し、じょうろで均一に散布した。散布処理後、土壌全面を混和処理した。比較例として、比較例2を75g(ダイアジノン;15g、ホスチアゼート;4.5g)を、1区あたりの処理水量が1.5Lになるように水で希釈し、じょうろで均一に散布した。散布処理後に土壌混和した。その後、畝間100cmで3畝、株間30cmに1条植えでベニアズマを定植した。また、薬剤処理9日前にネコブ線虫を増殖させた土壌を区あたり70L程度接種し、全面土壌混和した。
その後120日,147日,174日後に、それぞれ各区3本の畝のうち1本を掘り採り、中央の10株について、コガネムシ類幼虫と線虫による作物の被害状況を調べた。その結果を表3に示す。
【0065】
なお、コガネムシ類幼虫による被害状況は下記式2により算出される作物の被害度で表した。
[式2]:被害度=(程度1+程度2×2+程度3×3)/(調査本数×3)×100
程度1:被害痕が小さくA品出荷可能
程度2:被害痕はあるがB品出荷可能
程度3:被害痕が多く規格外品となるイモ
【0066】
また、線虫による被害状況は下記式3により算出される作物の被害度で表した。
[式3]:被害度=(程度1+程度2×2+程度3×3)/(調査本数×3)×100
程度1:根こぶ数が1〜2個程度。
程度2:根こぶ数は多いが主根に認められない。
程度3:根こぶ数が多く、主根にも認められる。
【0067】
表3 ベニアズマにおけるコガネムシ・センチュウ試験結果
被害度(コガネムシ幼虫) 被害度(線虫)
サンプル 120日 147日 174日 120日 147日 174日
実施例4 1.9 0.0 1.5 0.0 0.0 0.0
実施例5 2.6 5.0 4.3 0.0 0.0 0.0
実施例6 0.0 23.9 0.0 0.0 0.0 0.0
実施例7 0.0 4.4 13.1 0.0 0.0 0.0
比較例2 2.5 0.0 1.1 0.0 0.0 0.0
無処理 75.2 74.7 75.4 43.6 77.0 67.1

【0068】
表3から明らかなように、コガネムシ類幼虫における作物被害は、無処理区において甚発生が認められた。実施例は、実施例4において比較例2と同等の効果であり、ダイアジノン量が少ない実施例5〜7においても被害度は少ない結果であり、コガネムシ類幼虫に対して安定した効果を示した。実施例4〜7のマイクロカプセル混合組成物は、試験例2からわかるように、ダイアジノンの溶出性が抑えられたものであるが、コガネムシ類幼虫に対して強力な防除効果を示した。また、センチュウの被害において、無処理区のイモの根に瘤が着生し、甚大な被害度が認められた。一方、実施例、比較例ともに瘤の着生は認められず、センチュウによる作物への被害は認められなかった。本マイクロカプセル組成物の溶出形態がコガネムシ類幼虫と線虫の同時防除を可能にしたことを示した。
【0069】
試験例4(線虫密度試験)
試験例3を行った区で作物周辺土壌を採取し、ベールマン法により測定される土壌30gあたりの線虫数で示される土壌中線虫密度を調査した。その結果を表4に示す。
ベールマン法とは、線虫を土壌から分離するための操作であり、さらし布などで包んだ土壌をステンレスかナイロン製の網の上に置き、水を浸したロートにセットし、20℃〜25℃で一晩放置後に水をロート下部に分離することで線虫を水中に遊出させる方法である。
【0070】
各土壌の線虫密度は下記式4で算出される線虫密度指数で示される。
[式4]線虫密度指数(%)=処理区の線虫数/無処理区の線虫数×100
【0071】
表4 線虫密度試験
線虫密度指数(%)
サンプル 処理前 30日 60日 90日 120日 147日 174日
実施例4 220 7.1 19.6 3.2 2.8 2.9 3.0
実施例5 96.7 3.6 9.1 8.2 7.7 7.3 6.3
実施例6 168 2.7 19.6 2.7 2.4 3.2 3.5
実施例7 153 13.4 43.0 1.6 2.7 3.6 3.2
比較例2 83.2 41.9 59.2 28.4 22.2 33.3 34.4
無処理 100 100 100 100 100 100 100

【0072】
試験例4は詳細なセンチュウ防除効果を検討したものである。表4の結果から明らかなように、実施例4〜5は比較例2と比較し線虫密度指数に差が現れた。実施例4〜7では土壌中の線虫密度指数をほぼ10%以下に抑えていることが確認された。一方、比較例では線虫密度指数は20%以上60%以下の範囲で推移しており、実施例が比較例に比べて高い効果を示した。実施例では初期から174日まで効果が安定して持続しており、殺線虫剤であるカズサホスの残効性及び安定性が十分に達せられていることが認められた。
以上より、線虫密度を長期にわたり低く抑えるためには、土壌害虫及び線虫防除剤による2種類のマイクロカプセル組成物の混合による線虫防除剤の溶出促進が有効であり、初期活性及び残効性においても十分な効果が確認された。また、試験例3で示されるように土壌害虫防除も安定した効果で達成されるため、本発明は土壌害虫及び線虫の同時防除に有用であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の農薬である殺線虫有効成分を含有するマイクロカプセル(A)、及び第2の農薬である土壌害虫防除有効成分を含有するマイクロカプセル(B)を含有するマイクロカプセル混合農薬組成物であって、前記マイクロカプセル(A)の体積中位径が1〜20μmの範囲であり、前記マイクロカプセル(B)の体積中位径が20〜100μmであるマイクロカプセル混合農薬組成物。
【請求項2】
前記第1の農薬、及び前記第2の農薬の少なくとも一つが有機リン剤である請求項1に記載のマイクロカプセル混合農薬組成物。
【請求項3】
前記第1の農薬が、O−エチル−S−n−プロピル(2−シアノイミノ−3−エチルイミダゾリジン−1−イル)ホスホノチオレート(一般名:イミシアホス)、S,S−ジ−sec−ブチル−O−エチル−ホスホロジチオアート(一般名:カズサホス)、(R,S)−S−sec−ブチル−O−エチル−2−オキソ−1,3−チアゾリジン−イルホスホノチオアート(一般名:ホスチアゼート)からなる群から選択されるいずれか一つ以上の有機リン系殺線虫有効成分であり、前記第2の農薬が、O,O−ジエチル−O−2−イソプロピル−6−メチルピリミジン−4−イル−ホスホロチオエート(一般名:ダイアジノン)、O,O−ジメチル−O−4−メチルチオ−m−トルイル−ホスホロチオエート(一般名:フェンチオン)、O,O−ジメチル−O−4−ニトロ−m−トルイル−ホスホロチオエート(一般名:フェニトロチオン)からなる群から選択されるいずれか一つ以上の有機リン系土壌害虫防除剤である請求項1〜2のいずれか一項に記載のマイクロカプセル混合農薬組成物。
【請求項4】
前記第1の農薬と前記第2の農薬の有効成分比率が1:5〜5:1である請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロカプセル混合農薬組成物。
【請求項5】
グリコール類を添加する請求項1〜4のいずれか一項に記載のマイクロカプセル混合農薬組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のマイクロカプセル混合農薬組成物を、有効成分総量に対して10〜200倍に希釈し、土壌に直接散布処理する土壌有害生物の防除方法。
【請求項7】
土壌線虫と土壌害虫を同時に防除する請求項6に記載の土壌有害生物の防除方法。

【公開番号】特開2012−17266(P2012−17266A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153895(P2010−153895)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】