説明

マイクロニードルデバイスの製造方法

【課題】マイクロニードルの微細突起部形状を正確に転写、成形し、離型する際、微細突起部の先端部が折損、欠損することなく、離型でき、均一かつ細く鋭く尖った微細突起部を有するマイクロニードルデバイス製造方法を提供する。
【解決手段】成形材料として環状オレフィン系樹脂であるシクロオレフィンポリマーを用い、該環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱し、マイクロニードルデバイスの微細突起部形状の凹部を有する成形型部材をシクロオレフィンポリマーのガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱しながら、シクロオレフィンポリマーをプレス成形し、マイクロニードルデバイスを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にマイクロニードルと呼ばれるような数十μm〜数mmの高さを有し、皮膚の最外層である角質層を貫通できる針状等の形状を有する微細突起部に薬剤を適用し、該薬剤を経皮吸収するために提案されたデバイスに関する。
本発明は、具体的には、成形材料に環状オレフィン構造を有し、非晶性である環状オレフィン系樹脂を採用し、成形型部材に加熱加圧して充填することを特徴とする針状等の微細突起部を有するマイクロニードルデバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬剤の投与方法として、経口投与と非経口投与の方法がある。しかし,経口投与は、消化器系を経由するので、薬剤の種類によっては患部へ効果的に到達しないなどの問題がある。また、非経口投与の一例である注射による投与は,注射針により皮下、筋肉などに直接薬剤を注入することが行われ、通常痛みを伴うなどの問題や,皮膚が損傷するなどの問題がある。
そこで、非経口投与であって、苦痛が少なくかつ広範の薬剤にも利用できる皮膚から薬剤を投与する経皮投与が求められ、開発が進められている。
【0003】
薬理活性物質等の薬剤を身体に投与する非経口投与方法として、塗り薬や貼り薬などの経皮投与がある。これらの経皮投与は,簡便であり,かつ長時間かけて投与量を調整することで、ある程度投与量を制御できるという利点がある。しかし,これらの方法では,角質層は新油性の強い薬剤であればある程度の浸透が可能であるが、親水性の薬剤では角質層のバリア機能によって浸透が妨げられてしまい、効果的な投与が困難である。
【0004】
このように、経皮経路で薬理活性物質等を投与する場合、角質層の機能によって、多くの薬理活性物質等の皮膚からの浸透性、透過性が制限を受けている。
このため、経皮吸収型の薬理活性物質等は、比較的皮膚からの浸透性、透過性の高いものが選択されており、皮膚からの浸透性、透過性の低い薬理活性物質等の経皮投与への適用は難しいとされている。
【0005】
そこで、近年、広範な薬理活性物質等を経皮投与する方法として、痛みが低減され、あるいは無痛である、微細な針状等の微細突起部を多数具備するマイクロニードルデバイスを用いて薬剤を経皮投与する方法が提案され、開発が進められ、注目を集めている。
【0006】
このマイクロニードルデバイスは、微細な針状等の微細突起部により、バリア機能を有する角質層を穿刺し、表皮/あるいは真皮中に直接薬剤を投与することで、広範な薬理活性物質等の経皮投与を可能としたものである。針状等の微細突起部は様々な形状あるいはサイズにしたものが提案されており、非侵襲的な薬剤の投与方法、かつ従来のパッチ方式の鎮痛剤などの経皮投与とは異なり皮下注射の代替方法としても期待されている。
【0007】
このようなマイクロニードルデバイスを成型する方法としては、吸水性ポリマー素材で構成する平板状基部にポリ乳酸のような、生体に対して毒性が低く、且つ生分解性のあるポリマー素材あるいはシリコンのような機械的強度の高い無機素材で構成する多数の略錐状の凸部が担持された医薬物運搬用器具を、金型を用いインプリント法によってポリマー材料を成型する方法(特許文献1)が提案されている。
【0008】
また、粒状薬物あるいは薬物を吸着した不活性粒子である粒状成分を、可溶性マトリッ
クス材料と組み合わせた懸濁液をマイクロニードル型に流延し、遠心分離することにより先端部に高濃度で薬物が存在するマイクロニードルを製造し、乾燥させた後に剥離するキャスト法(特許文献2)が提案されている。
【0009】
また、PLA、PGA、PLGAなどの樹脂を溶融し、液体吐出装置を用いて微細な内径の多連ノズルから吐出させ、基板に熔融樹脂を接着させ、接着された溶融樹脂を引き伸ばして微小針を形成する、あるいは、多連ノズルと基板を引き離すと共に、さらに熔融樹脂を1回以上多連ノズルから吐出して多連ノズルと基板の間を複数回の吐出溶融樹脂で充填し、多連ノズルと基板を引き離し、吐出熔融樹脂を伸展させて微小針を形成する溶融樹脂を押出し伸展する方法(特許文献3)が提案されている。
【0010】
さらに、マイクロニードルデバイスを形成する材料内に、体内で溶解させ、あるいは徐放させる低分子溶液の薬剤を流し込み、混合し、成形型内でラジカル重合させることでポリマー化した後、離型する方法(例えば非特許文献1)など様々な方法が提案されている。
【0011】
これらの手法では、材料として、身体内に針状体を留置させるタイプでは、ポリ乳酸やデキストラン、マルトースなどの多糖類などの生分解性材料が採用され、また、針状体部に薬剤を塗布し、身体内に薬剤を経皮的に供給するタイプでは、材質は特に制限されず、ポリビニルピロリドン、その他の汎用的なプラスチック又はセラミックスなどが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−341089
【特許文献2】特表2009−507573
【特許文献3】特開2011−5245
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Adv.Mater.2008,20,pp933〜938
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
薬剤の経皮投与用途に提案されているマイクロニードルデバイスは、先端がより細いほうが皮膚への穿刺が容易になるため好ましいとされている。しかしながら、このようなマイクロニードルデバイスは、何れも高さ数十〜数百マイクロメートル程度の非常に小さな突起物を備えた針形状等を有するものであり、アスペクト比が大きい形状であるため、上記従来技術の手法で均一に該微細突起部を形成することは容易ではなかった。
【0015】
例えば、特許文献1の手法では、ポリ乳酸はガラス転移温度(Tg)以上で結晶化が進行するため、成型時に大きな圧力を必要とし、ニードル部の成形が困難となり、また高い圧力をかけるため量産性が低下し、凹版の劣化が促進されることが考えられるが、そのような成形時の課題に関し、詳細な検討はなされていない。
また、ポリ乳酸は、金属やその他の樹脂と密着しやすく、剥離が困難になることで高アスペクト比かつ、先端径が細い形状を製造する場合には、欠けや折れなどの不良が発生する場合が想定される。
【0016】
特許文献2の手法では、乾燥時に気泡が混入しやすく乾燥時間も長いため量産性に課題がある。同様にキャストした多糖類などは剥離時に鋳型と密着することで剥離時にはポリ乳酸と同様の課題が想定される。
特許文献3の手法では、型成形とは異なり、剥離による破損などの問題は生じないものの、生分解性ポリマーを溶融させ、溶融樹脂を伸展させて、先端部を針状にするもので、その形状は限定され、しかも、樹脂の吐出量、溶融樹脂の温度や粘度、基板と吐出ノズルの引き離し速度、製造時の環境条件など様々な条件を制御する必要があり、均一な形状の針の安定的な製造、さらには量産性も課題がある。
【0017】
また、非特許文献1では、マイクロニードルデバイスの成型加工時に成形材料に投与する薬剤を混入するのは、薬剤がムダに消費すること、経皮吸収の際に身体内に吸収されず、微細突起部等に残留すること、成形時に薬剤が変質することなど適正な薬剤投与を実現することが困難なものであり、重合反応を利用するため、反応率を制御する必要やその他の手法同様に剥離が困難になることが想定され、量産性に課題がある。
【0018】
一般的に、マイクロニードルデバイスを成形するためのマスタ型を機械加工或いはフォトレジスト技術を応用して作製していたが、機械加工にしろ、微細な形状に加工するフォトレジストに光照射して特定の形状を有する基板を作成する技術にしろ、表面に微細な凹凸が形成された表面荒れが生じ、その型を利用して得られるマスタ原版に表面凹凸が転写され、離型時の剥離性を悪くする一因になるものである。また、フォトレジスト技術では、表面的な形状はフォトマスクにより自在に変化させられる反面、深さ方向に自在に成形する方法がなく、円錐や四角錐などの錐状を形成するには問題がある。
【0019】
以上のように、特許文献1ないし3や非特許文献1などの先行技術では、マイクロニードルデバイスの製造において、成形型部材の所望の微細突起部形状を正確に成形体に転写する成形性、離型する際の微細突起部における先端部の折損、欠損の発生という離型性の問題を解消して、歩留まり良い、高い生産性効率を実現しようとした場合、想定される課題に対する解決方法を何ら示していない。
【0020】
上記従来のマイクロニードルデバイスの製造方法では、前記デバイス全体に均一に尖鋭な微細突起部を形成する試みはあるものの、製造方法の特性、使用する材料の結晶度、物理、化学的な性質に起因して、加工精度が高く、かつ機械的強度の大きい針状等の微細突起部を有するマイクロニードルデバイスの成形を安定して量産できるまでには未だ到達しておらず、量産に至っていないのが現状である。
【0021】
一方で、マイクロニードルデバイスの製造方法として、成形型部材に成形材料を充填する製造方法は、生産性を向上し、低コスト化を図るためには非常に効率的な方法であり、特に、成形材料を加熱加圧して流動化し、成形型部材に充填し、成形する方法によりマイクロニードルの微細突起部を正確に転写し、その先端まで容易に尖鋭に成形できるマイクロニードルデバイスの製造方法が望まれている。
【0022】
本発明は、上記従来技術の方法の状況に鑑み、マイクロニードルデバイスの成形加工時に、比較的低い温度、低い圧力でもマイクロニードルの微細突起部形状を正確に成形体に転写し、成形体を離型する際、微細突起部の先端部が折れることなく、離型でき、均一かつ尖鋭な微細突起部を有するマイクロニードルデバイスを製造する方法を実現するものである。
【0023】
しかも、マイクロニードルデバイスの製造に際し、成形型部材の微細突起部を成形する凹部からの成形材料の除去、成形型部材の洗浄、清掃などのメンテナンスに手間の掛からず、安定的に連続生産でき、製造方法の維持、管理に費用が掛からない、低コストで歩留まりに優れた生産性の高いマイクロニードルデバイスの製造方法及び、低コストで優れた経皮吸収性を発揮するマイクロニードルデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の目的は、上記先行技術にみられる問題点、課題を解決するものであって、微細突起部形状を正確にマイクロニードルデバイスに転写でき、成形性が優れ、かつ該微細突起部形状の先端部で折れ、欠損など成形品の成形不良を生じないで、歩留まり良く製造できるマイクロニードルデバイスの製造方法を提供することである。
【0025】
本発明は、上記目的、課題を達成するために種々検討の結果、成形材料として、環状オレフィン系樹脂を採用することにより、マイクロニードルの微細突起部の先端が十分に鋭利であり、高アスペクト比の微細突起部形状に成形すること、
成形方法として、型に離型処理を特に行わず、成形材料及び又は成形型部材を加熱加圧して樹脂材料を成形型部材に充填するという簡易で、低コストである成形加工方式を適用し、微細突起部形状を容易に転写、成形し、離型すること、及び上記成形材料を充填する工程が、材料へ型を押し込むあるいは型へ材料を充填する際の圧力を比較的低圧条件で実施可能であること
を見出し、本発明に至った。
【0026】
また、本発明は、マイクロニードルデバイスの微細突起部を成形する材料として、環状オレフィン構造を有し、かつ非晶性である環状オレフィン系樹脂を選択することにより、かつ成形加工方法として従来公知の成形法を適用し、該環状オレフィン系樹脂を、賦形しやすくかつ転写性の良好な所定の加熱、加圧下で成形型部材に充填することにより、正確にかつ確実に微細突起部形状の凹部に充填し、その形状を転写、賦形すること、さらに、迅速かつ効率的にマイクロニードルデバイスを連続的に成形加工し、離型することができることを見出した。
【0027】
本発明は、成形材料を環状オレフィン系樹脂とし、かつ非晶性のものとすること、さらに、成形材料及び又は成形型部材をガラス転移温度(Tg)以上に加熱し、その状態を維持しつつ、加圧することにより軟化又は流動化し、針状等の微細突起部を形成する凹部に成形材料を充填し、加熱加圧状態を維持した後、ガラス転移温度(Tg)以下まで冷却し、離型するという簡易な成形加工条件下で連続的かつ安定的に生産でき、低コストで、生産性の高いマイクロニードルデバイスの製造が実現可能であることを確認し、本発明を完成したものである。
【0028】
本発明は、さらに具体的には、少なくとも環状オレフィン構造を有し、非晶性であるシクロオレフィンポリマーを含む成形材料を準備する工程、成形材料及び又は成形型部材を該環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)以上に加熱する工程、該成形材料を加圧することによりマイクロニードルデバイスのマスタ原版の成形型部材に充填する工程、その後、ガラス転移温度(Tg)以下まで冷却し、離型する工程を含むことを特徴とする針状等の微細突起部を有するマイクロニードルデバイスの製造方法により従来の問題点等を解決したものである。
【0029】
この環状オレフィン系樹脂を採用し、従来の公知のプラスチック成形加工技術をマイクロニードルデバイスの製造方法に適用することにより、針状等の微細突起部を正確に転写し、かつ多数の微細突起部を形成する凹部を有する成形型部材からマイクロニードルデバイスを容易に離型でき、しかも、簡易な製造条件下で安定的にマイクロニードルデバイスを製造することができ、低コストで、生産性の高いマイクロニードルデバイスの製造方法を実現したものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明の製造方法によれば、マイクロニードルデバイスの成形材料に環状オレフィン構造を有し、非晶性であるポリマー材料を選択することで、十分に先端が尖鋭で、且つ高ア
スペクト比の針状等の形状の微細突起部を正確かつ精密に成形することが可能となり、穿刺性の高いマイクロニードルデバイスを得ることができる。
また、製造時に、離型処理を行わない成形型部材を用いても十分に良好な形状に転写可能となり、しかも低圧充填処理でも良好に成形できることから、製造工程が少なく、製造効率のよい、低コストでのマイクロニードルデバイスが製造可能となる。
【0031】
本発明は、微細突起部を環状オレフィン系樹脂とすることで、生体に対して毒性が少なく、かつ耐熱性、変形性、機械的強度がよく、成形品の寸法安定性に優れており、しかも、耐薬品性、耐蒸気滅菌性、耐γ線性などにも優れている安全性の高いマイクロニードルデバイスとすることができる。
しかも、表面自由エネルギーが低く、水に対する接触角が高く、離型性にも優れていることから、離型処理などの前処理等を施す必要なく、マイクロニードルデバイスの微細突起部の先端部から基端部にかけて正確に形状を転写でき、かつ先端部の折損、欠損のないマイクロニードルデバイスを確実に簡易に製造できる。
【0032】
本発明の環状オレフィン系樹脂を用いた成形方法は、マイクロニードルデバイスの微細突起部の先端部形状まで成形でき、安定した成形加工を実現できるものであり、歩留まりも良く、生産性に優れた、安定した製造方法を実現できる。
【0033】
そして、本発明の方法により製造される経皮吸収用マイクロニードルデバイスは、欠損のない平均先端径20μm以下の鋭利な微細突起部を有し、かつ鋭利な先端部により正確かつ確実に皮膚を穿刺し、微細突起部に担持した薬理活性物質等の薬剤を経皮吸収できる製品であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】写真1 実施例1で成形したマイクロニードルデバイスの針状等の微細突起部の先端部形状
【図2】写真2 実施例2で成形したマイクロニードルデバイスの針状等の微細突起部の先端部形状
【図3】写真3 比較例1で成形したマイクロニードルデバイスの針状等の微細突起部の先端部形状
【図4】写真4 比較例2で成形したマイクロニードルデバイスの針状等の微細突起部の先端部形状
【図5】(a)及び(b)は、それぞれ、マイクロニードルデバイスの微細突起部が鈍化した先端及び尖鋭な先端のSEM画像から該微細突起部の先端の先端径を求める模式図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明のマイクロニードルデバイスの製造方法の実施の形態の一例を説明する。
なお、以下の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、当然のことながら、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0036】
本発明に係るマイクロニードルデバイスの製造方法により製造される経皮吸収用マイクロニードルデバイスは、基本的な構造として、マイクロニードルデバイス基材と、該基材上に皮膚を穿孔可能な、二次元状に配置された複数のマイクロニードルである針状等の微細突起部を有する。さらに、針状等の微細突起部には、マイクロニードルデバイスにより身体内へ経皮吸収される薬理活性物質等の薬剤を有することができる。
【0037】
針状等の微細突起部は、経皮吸収用マイクロニードルデバイスにより身体内に薬剤を経皮吸収させるために皮膚の角質層を穿刺するためものである。
針状等の微細突起部の形状は、穿刺に好ましい形状であることが望ましい。しかし、針状等の微細突起部は、ミクロン単位の微細突起体であることから、その形状は、特に限定されず、例えば、円錐状又は角錐状などの各種錐形状、円柱状や角柱状などの柱状、及び
これらに準ずる形状であってよく、あるいは別の形状でもよい。
【0038】
針状等の微細突起部上には、薬理活性物質等の薬剤を保持するもので、マイクロニードルデバイスの微細突起部に薬液を保持しやすいように、例えば、前記微細突起部の頂部又は側部に凹所又は切り欠きを形成した形状とし、薬液を収容、保持し、薬液の液ダレを防止できるようにしてもよい。
【0039】
また、微細突起部の表面に多数の微細な多孔又は凹凸を有するようにしてもよい。特に、針状等の微細突起部の成形材料によっては、薬液の塗着効率に重要な影響を及ぼすことになることから、表面に微細な凹凸構造を設けるようにすることは、成形型部材とマイクロニードルデバイスとの離型性との関係を考慮し、適宜設計することが必要である。
【0040】
いずれにしても、微細突起部に薬液を確実にかつ効率よく保持するようにして、薬液を経皮吸収に関与する微細突起部に塗着するように形成することはその塗着効率を向上し、製造効率を向上することができる。
本発明の目的と合致する限り、微細突起部の形状・構造は、これに限定されない。
【0041】
該微細突起部は、薬理活性物質等の薬剤投与先を穿刺するために設けられるものであり、少なくとも1つあればよいが、薬剤供給効率を重視すれば、多数形成することが望ましい。
微細突起部の列は、列内の微細突起部の空間に対し実質等しい距離だけ離れているものであってもよいし、なんらかの規則性をもって配列されていてもよい。微細突起部は、例えば、格子状、最密充填配列、同心円状、ランダムなどの配列を採用できる。その配列の仕方は限定されない。
【0042】
針状等の微細突起部の密度は1〜5cm2の面積中に10から10000本の密度を有することが好ましい。10本以上の針密度があると、経皮吸収で適用される薬理活性物質等の薬剤を効率よく、必要量投与することができ、また10000本を超える微細突起部の密度では、ニードル同士の間隔が狭くなり成型加工が困難になることがある。
【0043】
針状等の微細突起部の基端部の寸法は、微細突起部の全体形状、薬剤供給デバイスの用途などに応じて決定することができる。具体的には、人の皮膚に適用する場合、微細突起部の基端部の径は、穿刺する際の微細突起部の先端部との関係で決まるものであり、微細突起部の基端部の径は20μm〜3mm程度であってよく、50〜1000μmであることが好ましい。
【0044】
該微細突起部の高さ(長さ)は、無痛針としての機能を保持するために、皮膚における角質層の厚さ以上、表皮の厚さ以下とすることが好ましい。
また、痛みを軽減する観点から、微細突起部の先端が鋭く尖った高さ、アスペクト比の構造であることが好ましい。
具体的には、微細突起部の高さは、100〜1000μmの範囲が好ましく、アスペクト比としては、1.5以上の微細突起部の形状であり、微細突起部の先端の径は、0.5〜50μm、より好ましくは20μm以下の細く鋭く尖った形状であることが好ましい。
【0045】
該微細突起部は、微小構造であり、微細突起部の高さ(長さ)を、100μm以上とするのは薬理活性物質等の経皮からの投与を確実とするためであり、1000μm以下とするのは微細突起部による痛みの可能性を減少させることができると同時に出血の可能性を回避するためである。また、上記高さとすることで、皮内に入る薬理活性物質等の量を効率良く投与することができる。
【0046】
マイクロニードルデバイスの基材は、多数の針状等の微細突起部を保持するものであり、人体の皮膚に貼着した際、皮膚表面に密着し、微細突起部を皮膚内へ穿刺することを容易にすることができるものであることが求められる。基材の形状及び構造は、微細突起部を支持できるものであれば、特に限定されるものではなく、微細突起部を設ける面が略平面上で、微細突起部の高さが略均一となるようにその表面を形成し、基材の厚さは、その目的により適宜設定可能であり、使用する用途に応じて適宜決定すればよく、経皮吸収用マイクロニードルデバイスとして機能できるような厚さに設定すればよい。さらに、省資源、省コスト化を考慮すると、薄く形成するのが望ましい。
基材の形状は、例えば、角板状、円板状などにすることができる。
【0047】
そして、マイクロニードルデバイスが人の皮膚に針状等の微細突起部を穿刺すること及び製造効率から、該基材と前記微細突起部は、一体成形するのがよい。しかし、マイクロニードルデバイスの基材と微細突起部とは製造する際に別体であってもよい。
【0048】
マイクロニードルデバイスの基材の材料は、微細突起部を支持でき、皮膚へ微細突起部を穿刺することを可能にするものであれば、特に材料は限定されるものではなく、一般的には、製造方法の簡易さ、工程数の低減、製品の成形安定性などを考慮すると、微細突起部を形成する成形材料と同じ材料が用いられる。
しかしながら、本発明のように微細突起部を特定の成形材料を採用する場合、基材の材料として微細突起部を成形する材料と別材料を用いることが可能であり、例えば、合成樹脂、天然樹脂、金属、セラミックなど、公知の汎用される安価な材料を選択し、用いることができる。
【0049】
一方、マイクロニードルデバイスの針状等の微細突起部の材料は、マイクロニードルデバイスの微細突起部を再現性良く、先端部形状を転写でき、折損、欠損なく確実に製造できるものであり、しかも、人の皮膚に微細突起部を穿刺し、薬剤を供給するマイクロニードルデバイスの微細突起部であり、滅菌でも変形せず、不純物、特に金属の溶出や薬品成分の吸着がない無害の成形材料であり、穿刺時に該微細突起部の折れなども生じることも考慮するならば、成形性、成形安定性、離型性に優れ、かつ医療成形材料生体への刺激が少ない材料、あるいは生体への親和性又は適合性のある材料を用いて作製されることが望ましい。そのような材料は、当然、基材の材料として使用できるものであることは明らかである。
【0050】
本発明で用いる針状等の微細突起部の好ましい材料としては、環状オレフィン系樹脂から構成されるものである。環状オレフィン系樹脂は、主鎖および/または側鎖に脂環式構造を有するものであり、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するものが好ましい。
【0051】
脂環式構造としては、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造などが挙げられるが、機械的強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造を有するものが最も好ましい。
【0052】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械的強度、耐熱性、及び成形性の各特性が高度にバランスされ好適である。
【0053】
環状オレフィン系樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の含有割合を変更することにより、その成形材料の物性、性質等が変わることから、要求する物性、性状に応じて適宜選択する必要があり、環状オレフィン系樹脂の全繰り返し単位中の、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上とする。この範囲にすることで、成形性、機械的強度、硬度、透明性および耐熱性が高度にバランスされ、好適で
ある。また、滅菌時に、変色や強度の劣化などが起きにくくなる。
【0054】
こうした環状オレフィン系樹脂の具体例としては、有機溶媒に溶ける性質を持つシクロオレフィンポリマー(COP)、又はシクロオレフィン共重合体(COC)を用いることができる。シクロオレフィンポリマーとして、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、側鎖に脂環構造を有するビニル炭化水素系重合体、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体、環状共役ジエン系重合体及びその水素添加物が好ましく、ノルボルネン系重合体がより好ましい。
【0055】
ノルボルネン系重合体としては、格別な制限はなく、具体的には、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なビニル系単量体との付加型重合体などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、透明性を高度にバランスさせる上で、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加型重合体、ノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なビニル系単量体との付加型重合体などが好ましく、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびその水素添加物がより好ましく、ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素添加物が最も好ましい。
【0056】
これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0057】
環状オレフィンと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のエチレンまたはα−オレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。
【0058】
これらのビニル系単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて他の不飽和単量体の共重合体成分を含有させてもよい。
【0059】
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を挙げることができる。
【0060】
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−または1,4−付加重合した重合体及びその水素添加物などを挙げることができる。
【0061】
側鎖に脂環構造を有するビニル炭化水素系重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素添加物スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分
の水素添加物などを挙げることができる。
【0062】
成形性及び寸法安定性、機械的強度の面から、好ましいものとしてシクロオレフィン系樹脂であるゼオノア(日本ゼオン(株))やTOPAS(ポリプラスチックス(株))、アペル(三井化学(株))があり、最も好ましいものとして、シクロオレフィンポリマーのゼオノア(日本ゼオン(株))を挙げることができる。
【0063】
本発明における環状オレフィン系樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲の種類及び量の、酸化防止剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、着色剤、耐候安定剤等の種々の添加剤を含むものを用いてもよい。
【0064】
本発明で用いる環状オレフィン系樹脂は、その成形性、離型性、機械的強度、寸法安定性がバランスしたものであることが好ましく、特に、非晶性の環状オレフィン系樹脂がマイクロニードルデバイスの微細突起部を欠損なく正確に転写し、成形する上で非常にバランスしている。
【0065】
本発明で用いる環状オレフィン系樹脂の粘度は、成形材料として使用できる程度のものであれば特に制限はないが、280°C、荷重2.16kgfにおけるJIS−K−6719により測定したメルトフローレート(MFR)は、通常、1〜70g/10min.好ましくは20g/min.以上の範囲であるときに、成形加工性および成形品の良品率が向上する。
【0066】
本発明で用いる環状オレフィン系樹脂の分子量は、使用状態に応じて適宜選択されるが、シクロヘキサン溶液(樹脂が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリイソプレン換算(トルエン溶液の場合はポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、(5000)以上、好ましくは(5000〜500000)、より好ましくは、(8000〜200000)、特に好ましくは(10000〜100000)の範囲であるときに、機械的強度と成形加工性とが高度にバランスし好適である。
【0067】
本発明で用いる環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、得られるマイクロニードルデバイスの微細突起部の成形性、寸法安定性、離型性など生産性を考慮すると、ガラス転移温度(Tg)は、耐熱性を有していながらも適宜低い方が好ましく、通常、70〜160℃、好ましくは70〜140℃、より好ましくは90〜110℃であるときに、耐熱性と成形加工性とが高度にバランスし好適である。
【0068】
本発明で用いる環状オレフィン系樹脂の水に対する接触角が高く、表面自由エネルギーが小さいと、低摩擦性であり、成形型部材などの他の材料への密着性が低くなることから、環状オレフィン系樹脂の表面自由エネルギーは、微細突起部を正確に賦形するため、及びマイクロニードルデバイスを成形型部材から離型する時の重要なファクターであり、その値は、42mJ/m2以下であることが必要であり、42mJ/m2を超えると、低摩擦性が低下し、離型性が悪くなることがあり、微細突起部の成形性には好ましくない。
【0069】
共重合成分は、1種のみ含有されていても、2種以上含有されていても良いが、その含有する量は、環状オレフィン系樹脂としての物性、性質を十分に発揮することができる範囲で添加されるべきものであり、しかも、成形材料としての本発明の目的を達成するための諸物性を発揮するように調整するために適した範囲で使用するものである。
環状オレフィン系樹脂100重量部に対して10から200重量部含有されるのが好ましい。
【0070】
本発明のマイクロニードルデバイスの製造方法は、さらに、針状等の微細突起部に薬理活性物質等の薬剤コーティングする工程を有するものである。
コーティングされた薬理活性物質等の薬剤は、本発明のマイクロニードルデバイスの製造方法により製造されたマイクロニードルデバイスを用い、皮膚の表皮に微細突起部に付着した薬剤が接触することにより皮膚に薬剤が付着し、表皮内へ浸透することにより所定の薬剤が投与される。
【0071】
その薬理活性物質等の薬剤として、例えば、タンパク質、ポリペプチドなどのペプチド類、DNA、RNAなどの核酸、インフルエンザ、風疹、麻疹、百日咳、おたふくなどのワクチン、抗生物質、インシュリン、ペパリン、ニトログリセリン、喘息薬、鎮痛剤・医療用麻薬、局所麻酔剤、抗アナフェラキシー薬、皮膚疾患用薬、睡眠導入薬、ビタミン剤、禁煙補助剤、美容薬(例えばヒアルロン酸)等を挙げることができる。なお、薬剤は単独でも2種以上併用してもかまわない、薬剤として許容できる塩であれば、無機塩あるいは有機塩のいずれの形態でもかまわない。さらに、薬剤は、薬理学的に許容される担体などを含むものであってもよく,薬理学的に許容される担体として、賦形剤,希釈剤,滑沢剤,結合剤,安定剤などから適宜選択されるものが挙げられる。
【0072】
次に、以下、本発明に係るマイクロニードルデバイスの製造方法について説明する。
【0073】
本発明のマイクロニードルデバイスの製造方法は、マイクロニードルデバイスのマスタ原版を作製する工程、上記したような少なくとも環状オレフィン構造を有し、非晶性であるシクロオレフィンポリマーを含む成形材料を準備する工程、成形材料及び又は成形型部材を該環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)以上に加熱する工程、該成形材料を加圧することによりマイクロニードルデバイスのマスタ原版の成形型部材に充填する工程、その後、ガラス転移温度(Tg)以下まで冷却し、離型する工程を含むことを特徴とするものである。
【0074】
マイクロニードルデバイスの製造方法において、微細突起部を形成するための凹部を有する成形型部材を作製するためのマスタ原版を作製する工程は、次のとおりである。
マスタ原版の作製工程は、樹脂又は金属を成形材料として用いて、機械切削加工、射出成型加工、ホットエンボス加工、放電加工、レーザー加工、ダイシング加工等の精密成形加工、シリコン基板を用いたウエットエッチング加工又はドライエッチング加工等の加工法を用いて、基板にリソグラフィ技術、ドライエッチングプロセスを用いて針状等の微細突起部となる凸部形状を形成してマスタブロックとすることができる。
【0075】
該微細突起部を形成したマスタブロック上にニッケル等の金属層を成長させることにより、マスタブロックの表面を導電化し、金属電鋳により金属層を成長させ、マスタブロックの微細突起部の形状を成長させた金属層に転写し、該金属層に針状等の微細突起部を形成するための凹部を有するマスタ原版を作製することができる。このマスタ原版の凹部は、マスタブロックの微細突起部の形状及び表面状態の凹凸が反転して転写され、形成されたものである。
凹部を有するマスタ原版の製造を転写方法により製造する方法を中心に説明してきたが、マイクロニードルデバイスのマスタ原版を製造する方法としては、成形型部材の基材ブロックに凸部形状を形成したマスタブロックを製造する加工法を用いて針状等の微細突起部となる凹部形状を直接加工して、成形型部材の凹部を形成してもよいことは当然のことである。
【0076】
マスタ原版は、例えば、表面に任意の高さ寸法の針状等の微細突起部を形成したマスタブロックを種々用意し、ブロックを任意選択してマイクロニードルデバイスの形態に配列することにより、該微細突起部寸法が所望のものに変更したマイクロニードルデバイスの
マスタ原版を作製することができる。
【0077】
次いで、該作製したマスタ原版を成形型部材として用いて、上記した環状オレフィン系樹脂を成形材料として準備し、該成形材料を用いて該微細突起部を有するマイクロニードルデバイスを成形する。
この成形法としては、例えば、ホットプレス(熱インプリント)法により加熱して軟化した成形材料と該成形型部材を押し当てて、微細突起部の形状を転写した凹部に成形材料を充填し、成形材料基板に微細突起部を成形する方法、成形材料と成形型部材を押し当てる際に、成形材料を真空又は減圧吸引しつつ該成形型部材の凹部に成形材料を充填する方法、あるいは、該マスタ原版の成形型部材凹部に溶融した成形材料を流し込むキャスティング方法、又は従来周知の射出成形法など、成形材料及び又は成形型部材をガラス転移温度(Tg)以上に加熱し、加圧して成形材料をマスタ原版の成形型部材の凹部に充填する成形法が広く適用できる。
【0078】
本発明では、成形材料を成形型部材に充填する際に、成形材料や成形型部材に対して圧力を加えるものである。該充填時に加える圧力は、特に、限定されるものではないが、微細突起部形状の転写性を簡易に実現でき、成形型部材の損耗等を最小限に抑え、優れた生産性、製造効率を実現するため、充填時に加える圧力は、20MPa以下であることが好ましい。
該圧力として20MPaより高い圧力を加えても転写性が向上するものではなく、むしろ、成形材料と成形型部材との間の密着性が増し、離型時に微細突起部が折損、欠損することなく、離型し難くなる。また、本発明において、環状オレフィン系樹脂材料を成形材料として採用し、離型性を付与した効果を減殺する恐れがある。
【0079】
本発明では、成形材料を充填する工程として、成形型部材の微細突起部形状の凹部の先端部まで充填するため所定時間加熱加圧状態を維持することが好ましい。その後、成形材料をガラス転移温度(Tg)以下まで冷却した後、離型する工程を実行するものである。
該離型工程において、成形材料をガラス転移温度(Tg)以下に冷却せずに、成形時の温度に近い状態で離型しようとすると、成形材料と成形型部材との間の剥離性が十分でなく、正確に形状を転写した微細突起部の形状が崩れる恐れがある。
ガラス転移温度(針状等の微細突起部となる凸部形状を形成Tg)まで十分に冷却し、離型することにより成形材料の特性を生かし、微細突起部の形状が正確に転写され、寸法安定性が保持され、また、離型時の成形体と成形型部材の動きのぶれ等による変形も起こさず、スムーズに離型できる。
【0080】
充填する工程において、成形型部材の凹部等を真空又は減圧しつつ加熱加圧して充填することにより、微細突起部形状の凹部先端部まで十分に成形材料を充填することができるので、欠陥のないマイクロニードルデバイスを製造することができる。
【0081】
本発明の加熱、冷却する方法としては、特に限定されるものではないが、加熱の温度制御については、室温から280℃程度まで温度制御でき、一定温度を正確に保持できるものであればよく、公知の成形型の温度制御機構を用いることができる。
冷却の温度制御についても、冷媒として水冷、空冷いずれでもよく、冷媒の温度は、成形温度や冷却速度などにより適宜選択され得るもので、所定の温度に調整し、一定温度に正確に保持できるものであればよく、通常、10〜80℃である。公知の成形型の冷却制御機構を用いることができる。
【0082】
上述したとおり、本発明のマイクロニードルデバイスの製造方法としては、特に、基板と針状等の微細突起部とからなるマイクロニードルデバイスを一体成形することができるだけではなく、成形時のシート厚みやプレス圧力を制御することでマイクロニードルデバ
イスの厚みを可変制御可能とすることで、マイクロニードルデバイスに剛直性やフレキシブル性を適宜変更して付与することが可能となる熱インプリント法が好ましい。
該熱インプリント法は、樹脂シートを軟化し、プレス成形することにより成形型部材に充填し、成形するものであり、溶融することによる樹脂が劣化するのを防ぐことができ、材料の変質を生じさせない成形法でもあることから、上記した賦形性、生産性だけでなく、医療用具としての材質の安全性、安定性においても優れた成形法であるため好ましい。
さらに、熱インプリント法では、成形条件として成形材料が軟化し、微細突起部形状に賦形できる状態にするようにガラス転移温度(Tg)以上に加熱するだけでよく、しかも、その賦形のために加える圧力も比較的低圧で済むことからも、好ましい成形法である。
【0083】
本発明の上述した製造方法によれば、従来、樹脂の充填が不十分であり、また、折損、欠損を生じていた従来の成形法に比べ、成形材料が成形型部材の微細凹部へ充填され易く、微細な形状の転写、成形性に優れること、及び成形した細く鋭く尖った形状の針状等の微細突起部を形状を保持したまま離型することができる離型性に優れることから、従来の課題を解決した、マイクロニードルデバイスの微細突起部形状として、高さが10〜1000μmであって、1.5以上の高アスペクト比を有し、先端の径が20μm以下の細く尖ったものを成形することが容易となる。
【0084】
本発明の製造方法に含まれるマイクロニードルデバイスの針状等の微細突起部に薬液をコーティングする工程において、微細突起部に薬液を塗着する塗布方法としては、特に、限定されるものではない。従来公知の塗布方法を用いることができる。例えば、インクジェット方式、ディスペンサ方式、凹版からの転着する浸漬方式などにより薬剤を微細突起部に塗着することができる。
【実施例】
【0085】
本発明を以下の実施例に基づいて説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
本発明における実施例は、下記のように環状オレフィン系樹脂を成形材料とし、下記のとおり形成した、針状等の微細突起部を形成する凹部を有する成形型部材に充填し、マイクロニードルデバイスを成形する実験を行い、また、記載のような測定又は評価方法を用いて成形結果を測定又は観察を行い、評価した。
【0086】
(先端径の測定)
成形したマイクロニードルデバイスの微細突起部が、マスタ原版の凹部形状を正確に転写でき、成形した該微細突起部形状として正確に転写されていることを評価するためマイクロニードルデバイスの微細突起部の先端部の先端径を測定した。
その先端の観察には、使用装置として走査型電子顕微鏡(SEM)を用いる。ここでは、実施例に挙げた例を用いて先端平均径の求め方を示す。
実際に形成される四角錐の微細突起部の先端は、先端まで形成されず、又は折損、欠損して、理想的な三角形の直線から離れるように先端輪郭が形成される。そこで、先端径の測定方法として、図5(a)、(b)に示したSEM画像のように、まずは該実際に形成された微細突起部の四角錐の各面にて直線を延ばし、理想的な四角錐(各面に形成される形状は三角形となる)を想定し、先端部の先端径は理想的に成形された場合、ゼロとなるものとした。
【0087】
そして、実際に形成された微細突起部の先端部が形成する先端輪郭が、各四角錐の各辺の理想的な三角形の2辺の直線から離れる箇所を先端点と定める(以下、「先端点」という)。このように定めた四角錐の一辺の2直線上の各先端点を2つ特定し、当該2つの先端点を結んだ直線の長さをSEM観察し、求める。その2直線から離れる先端点間を結ぶ
直線の長さを先端部位における「先端径」と定義する。
同様にして、四角錐の他の辺の2直線の先端点もSEMを用いて観察し、1つの微細突起部について「先端点」を4つ求めることができる。こうして求めた4つの四角錐の各辺の先端点間の直線の長さを平均し、成形されたマイクロニードルデバイスの1つの微細突起部の「先端平均径」と定義した。
【0088】
以上のように求めた1つの該微細突起部の先端平均径をマイクロニードルデバイスに形成された100本の微細突起部すべてについて走査型電子顕微鏡で1500倍で観察し、先端点及び先端径を定め、その平均値を算出して求め、100本の微細突起部の先端平均径の平均値をマイクロニードルデバイスの「平均先端径」とすることとした。
なお、マイクロニードルデバイスの微細突起部の形状として、各種形状のものを採用することができる。そのような各種形状の先端径の測定は、上記した方法を応用して適宜求めることができる。例えば、多角形錐体の場合の3角形の数がn個からなる多面体であるが、任意の4つあるいはn個などの3角形について、先端点、先端点間距離を求め先端平均径を求め、1つのマイクロニードルデバイスの微細突起部すべてについて同様に求め、平均し、平均先端径を求める。円錐の場合は、精度との兼ね合いで多方面からSEM画像を得て、投影3角形から上記と同様に求めることができる。長方形の四角錐ように底面形状が異形の場合は、同じような3角形が2組できることから、特異形状を特定する立体形状を構成する面毎に平均値を求め、複数の平均先端径の組み合わせとして微細突起部の成形できた先端径を特定することもできる。
【0089】
(材料の表面自由エネルギー測定)
成形材料の離型性を評価するため成形材料の表面自由エネルギーγsを求めた。
表面自由エネルギーは、液滴法により接触角計(協和界面科学(株)製:DM500)を用い、シート化した各成形材料に対する、気温25℃、湿度40%の条件下、水1.5μL、ジヨードメタン2.0μLおよびエチレングリコール2.0μLのそれぞれの接触角を測定し、それぞれの接触角の測定値から協和界面科学(株)製のソフトウェア(FAMAS)のkitazaki-Hata理論を用いて算出した。
【0090】
(微細突起部の先端形状の欠損の有無)
マイクロニードルデバイスに形成された微細突起部の先端部を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1500倍で観察し、成形した各マイクロニードルデバイスに形成された100本の微細突起部の先端部が欠損した本数を計数する方法により、同じ針状等の微細突起部となる凸部形状を形成材料で成形した別ロットのマイクロニードルデバイスについて5ロット測定し、その平均値を算出した。
【0091】
(マイクロニードルデバイスの製造)
本発明において、本発明の製造方法によるマイクロニードルデバイスの成形性、寸法安定性、機械的強度を測定、評価するために使用したマイクロニードルデバイスは、以下の公知の製造方法により製造した。
【0092】
[マイクロニードルデバイスのマスタ原版の製造]
まず、アルミ金属板を切削加工にて底辺が0.25×0.25mm、高さ0.5mmの四角錘形状のニードルを1mmピッチで縦横に10本ずつ配置した100本のマイクロニードルのマスタ形状を作製した。該四角錐形状の微細突起部のマスタ形状の平均先端径は3.4μmである。
次に、作成したマイクロニードルデバイスのマイクロニードルの微細突起部を複製するために、作成したマスタを母型とし、該母型から複製原版を造るためニッケルを用いて電鋳を行い、該マスタ形状とは逆の凹版のマスタ原版を複製した。
【0093】
[成形材料]
本発明の実施例で用いるマイクロニードルデバイスの成形材料として、環状オレフィン系樹脂である、シクロオレフィンポリマーであるゼオノア(日本ゼオン社製:型番Zeonor 1060R)の厚さ2mmのシートを準備した。因みに、使用したシクロオレフィンポリマー1060Rはガラス転移温度:100℃、MFR:280℃、21.18N、60g/minである。
また、比較例で用いるマイクロニードルデバイスの成形材料として、ポリ乳酸(ユニチカ社製:テラマックTP−4000)のペレットを射出成形し、厚さ1mmのシートに成形したものを準備した。
【0094】
[マイクロニードルデバイスの成形]
(実施例1)
上記シクロオレフィンポリマーであるゼオノアシートをガラス転移温度(100℃)以上の120℃に加熱し、電鋳で作成した針状等の微細突起部形状の凹部を有するマスタ原版の成形型部材を、ガラス転移温度以上の120℃に加熱しながら、12MPaの圧力でゼオノアシートをプレス成形し、該加圧プレスした状態のまま成形型部材を冷却し、十分に室温付近まで温度が下がってから、垂直方向に剥離するホットプレス(熱インプリント)を実施することで、ゼオノア製のマイクロニードルを得た。
SEM写真(図1)から求められるように成形されたマイクロニードルデバイスの微細突起部の平均先端径は3.9μm、先端部の欠損はみられなかった。
【0095】
(実施例2)
プレスする圧力を2.4MPaとした以外は、実施例1と同じ条件でマイクロニードルデバイスを成形し、ゼオノア製のマイクロニードルデバイスを得た。
SEM写真(図2)から求められるように、成形されたマイクロニードルデバイスの微細突起部の平均先端径は5.8μm、先端部の欠損はみられなかった。
【0096】
(比較例1)
該ポリ乳酸のシートをガラス転移温度以上の90℃に加熱したポリ乳酸のシートを、電鋳で複製した該マスタ原版の成形型部材をガラス転移温度以上の90℃に加熱しながら重ね合わせ、前記ポリ乳酸の基材に対して熱をかけながらプレス成形し、該加圧プレスした状態のまま成形型部材を徐冷し、室温付近まで温度が下がってから、垂直方向に剥離することで、ポリ乳酸からなるマイクロニードルデバイスを得た。
SEM写真(図3)から求められるように成形されたマイクロニードルデバイスの微細突起部の平均先端径は24.2μm、先端部の欠損は平均で12本みられた。
【0097】
(比較例2)
プレスする圧力を2.4MPaとした以外は、比較例1と同じ条件で製造し、ポリ乳酸製のマイクロニードルデバイスを得た。
SEM写真(図4)にみられるように成形されたマイクロニードルデバイスの微細突起部の先端径は、先端平均径200μm以上で微細突起部の先端部がほとんど成形できなかった。
【0098】
(結果の評価)
上記本発明の実施例及び比較例に示したマイクロニードルデバイスの製造方法による針状等の微細突起部の成形性、寸法安定性及び歩留まりについて、微細突起部の形成状態を上記測定方法又は評価方法に従い測定し、それぞれの評価を行った。
【0099】
上記実施例1、2、及び比較例1、2における成形結果について、表1にまとめたとおりである。また、それぞれの成形時の微細突起部形状の先端部の画像を図1〜4の写真1
〜4に示した。
【0100】
【表1】

【0101】
非晶性のシクロオレフィンポリマーを成形材料とする実施例1、2において、成形時に加える圧力が大きいと、微細突起部の先端径は、より小径となり、明らかに、微細突起部形状が鋭利に成形できることを示している。また、シクロオレフィンポリマーを成形材料とし、低圧条件下で成形したマイクロニードルデバイスは、ポリ乳酸を成形材料に用いた高圧条件下で成形したマイクロニードルデバイスより微細突起部の先端径よりも先端が小さく、低圧でも微細突起部の先端形状が鋭利に成形でき、転写性に優れている。因みに、マスタ原版の成形型部材を製造するために製作したマスタブロックにおける四角錐形状のニードルの平均先端径は3.4μmであり、実施例における非晶性のシクロオレフィンポリマーを成形材料とする場合、ほぼマスタ形状と同等の微細突起部を正確に成形できる。
【0102】
結晶性ポリ乳酸を成形材料とした場合、成形圧を同程度にしても、微細突起部の先端部を正確に転写できず、丸い形状となっているあるいは樹脂が微細突起部の凹部にまで侵入できないことを示している。
また、先端部の欠損の結果から、比較例1では成形できたものの12本の欠損が観察され、ポリ乳酸のマイクロニードルデバイスは、成形時、先端部まで樹脂が侵入できないにもかかわらず、成形できた微細突起部が、離型時に微細突起部の先端部で折れを生じていることがわかる。これは、成形材料の表面自由エネルギーを比較すると明らかなとおり、結晶性のポリ乳酸は非晶性のシクロオレフィンポリマーと比較して、表面自由エネルギーが高く、成形型部材とポリ乳酸との密着性が強く、高アスペクト比の微細突起部の先端や根元で剥がれ難く、欠けや折れが発生し易くなっているためと考えられる。
【0103】
本発明の非晶性のシクロオレフィンポリマーを成形材料とすることで、優れた成形性、寸歩安定性及び歩留まりを達成できる優れた製造方法であり、先端がより鋭利なマイクロニードルデバイスの製造が容易となること、及び低圧条件下や成形型部材への離型処理を施さなくても容易に製造可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のマイクロニードルデバイスの製造方法において、成形材料として環状オレフィン系樹脂であるシクロオレフィンポリマーを用い、成形材料及び又は成形型部材を該環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱し、マイクロニードルデバイスの微細突起部形状の凹部を有する成形型部材をシクロオレフィンポリマーのガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱しながら、シクロオレフィンポリマーをプレス成形し、
マイクロニードルデバイスを製造する熱インプリント法等は、成形性及び離型性に優れた経皮吸収に有効に機能できるマイクロニードルデバイスを、安定的に製造できる方法である。
得られたマイクロニードルデバイスは、マイクロニードルデバイス上の微細突起部の先端部形状が正確に転写でき、穿刺性の優れた経皮吸収効率を発揮できるものである。
本発明の環状オレフィン系樹脂製のマイクロニードルデバイスの製造方法は形状及び構造が異なる微細突起部を有するマイクロニードルデバイスの製造及びその用途に広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも環状オレフィン構造を有し、非晶性である環状オレフィン系樹脂を含む成形材料を準備し、該成形材料及び又は微細突起部形状の凹部を有する成形型部材を成形材料のガラス転移温度(Tg)以上に加熱し、加圧下、成形型部材に該成形材料を充填し、ガラス転移温度(Tg)以下まで冷却後、離型することを特徴するマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項2】
成形材料を充填する工程において、充填する圧力が20MPa以下である請求項1に記載のマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項3】
環状オレフィン系樹脂の表面自由エネルギーが42mJ/m2以下である請求項1又は2に記載のマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項4】
環状オレフィン系樹脂が、少なくとも環状オレフィン構造を有し、非晶性であるシクロオレフィンポリマー(COP)又はシクロオレフィン共重合体(COC)である請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項5】
成形材料を充填する工程が、熱インプリント法である請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の、平均先端径20μm以下であるマイクロニードルデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−111104(P2013−111104A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257414(P2011−257414)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】