マイクロ・トータル・アナリシス・システム
【課題】 微量な物質の分析を微細なデバイスで行うマイクロ・トータル・アナリシス・システム(μTAS)において、従来のシリコンウェハーやガラス、石英などの基板を備えたμTASと比較して、製作が容易かつ安価で大量生産に適した実用的なμTASを提供する。
【解決手段】 微量な物質の試料およびもしくは各試薬が輸送される溝状の流路1jが表面に形成されたプラスチック基板1と、少なくともこのプラスチック基板1の表面の各流路1jをコーティングする薄膜部3とを備え、この薄膜部3は、少なくとも無機化合物、有機化合物、金属のいずれかを、誘導結合プラズマCVD(Chemical・vepor・deposition)法により蒸着したものである。
【解決手段】 微量な物質の試料およびもしくは各試薬が輸送される溝状の流路1jが表面に形成されたプラスチック基板1と、少なくともこのプラスチック基板1の表面の各流路1jをコーティングする薄膜部3とを備え、この薄膜部3は、少なくとも無機化合物、有機化合物、金属のいずれかを、誘導結合プラズマCVD(Chemical・vepor・deposition)法により蒸着したものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量な物質の分析を微細なデバイスで行うマイクロ・トータル・アナリシス・システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、微量な物質の分析を微細なデバイスで行うさまざまなマイクロ・トータル・アナリシス・システム(Micro・Total・Analysis・System、以下μTASと称する)が開発されている。
【0003】
このμTASは、シリコンやガラスなどの基板上に、高精度な微細加工を施し、化学合成や、化学分析の単位操作である混合、反応、検出や分離回収といったさまざまな要素をマイクロ化して基板上に集積化したものである。このμTASの応用例として、遺伝子の分析に用いられるDNAチップや、微量の血液を分析するヘルスケアチップなどが提案されている。
【0004】
また、μTASの一例として、特許文献1には、試料流体が流入する試料流入部と、試料流体が流出する試料流出部と、試料流入部と試料流出部とを接続する試料流路とからなる複数のフロースルーセルが配設された帯状シートからなるラボオンチップの技術が開示されている。
【0005】
このようなμTASの場合、従来は、化学的に安定な基板として、シリコンウェハーやガラス、石英などが用いられることが多かったが、これらの材料からμTASの基板を形成するには、硬い表面を高精度に切削加工しなければならず、製作が容易でなかった。
【0006】
一方で、遺伝子の分析に用いられるDNAチップなどでは、使い捨てであることが要求されるものもあり、大量生産することができる安価なμTASの実現が望まれている。
【0007】
そこで、特許文献1に開示のラボオンチップでは、上述のような加工上の理由から、基板としては、製造の容易な樹脂が好ましいとの記載がある。また、フロースルーセル内部に有機溶媒が使用される場合は、無機系の材料あるいは有機系の材料の架橋されたものを使用する事が好ましいとの記載がある。さらに、親油性あるいは親水性を付与したい部分については、プラズマ処理、コロナ処理あるいはイオン処理により表面にヒドロキシ基やカルボキシル基を形成する方法、蒸着、スパッタ、CVD等の方法により金属あるいは金属酸化物層を形成する方法、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基等の親水基を持つポリマー、オリゴマーを塗布する方法、メッキにより金属を形成する方法、シラン、チタンをジルコニア等の前駆体をセルに塗布した後に加水分解する事によりヒドロキシ基を含む金属酸化物を表面に形成する方法等が採用可能であるとの記載がある。
【特許文献1】特開2004−156925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1に提示された薄膜の形成方法のうち、基板の表面に塗料や塗布剤を塗布する方法、メッキにより金属を形成する方法、イオン処理等は、微細なμTASの場合、基板の微細な溝構造を埋めないようにして緻密な薄膜を一定の厚みで均一に形成するのには限界があると言わざるを得ない。
【0009】
また、プラズマ処理、コロナ処理、蒸着、スパッタ、CVD等の方法は、微細構造に対する薄膜の製作に適していると考えられるが、大量生産が可能なものとしてプラスチック基板を採用しようとすると、これらの技術では一般的に蒸着基板の表面が高温になるため、プラスチック基板の損傷が大きく、実際上、実用的なμTASが得られないという問題があった。
【0010】
本発明は上記不具合に鑑みてなされたものであり、従来のシリコンウェハーやガラス、石英などの基板を備えたμTASと比較して、製作が容易かつ安価で大量生産に適した実用的なμTASを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、微量な物質の分析を微細なデバイスで行うマイクロ・トータル・アナリシス・システム(Micro・Total・Analysis・System以下μTASと称する)であって、微量な物質の試料およびもしくは各試薬が輸送される溝状の流路が表面に形成されたプラスチック基板と、少なくともこのプラスチック基板の表面の各流路をコーティングする薄膜部とを備え、この薄膜部は、少なくとも無機化合物、有機化合物、金属のいずれかを、誘導結合プラズマCVD(Chemical・vepor・deposition)法により蒸着したものであることを特徴とするμTASである。
【0012】
本発明によれば、プラスチック基板は、型押し加工や、射出成形により簡単に形成できるなど、製作が容易であるので、プラスチック基板を備えたμTASは、従来のシリコンウェハーやガラス、石英などの基板を備えたμTASと比較して、安価に大量生産することができる。
【0013】
また、薄膜部が、誘導結合プラズマCVD法により形成されたものであるので、同じプラズマ密度を得るのに比較的ガスの供給量が少なくてすむ。その結果、基板と衝突する高温のガス分子の数が少なくなり、蒸着中も基板を比較的低温に維持することができるようになる。例えば平行平板プラズマCVDと比較すると、誘導コイルを用いた誘導結合プラズマCVD法は、イオン電流密度およびプラズマ密度が100倍ほど高くなるため、加速された電子がガス分子と衝突する確率が2桁高い。このように誘導結合プラズマCVD法によりガス分子の励起、分解、イオン化の確率を高くすることにより、ガスの乖離が促進され、必要なプラズマ密度を得るのにガスの供給を少なくすることができる結果、基板と衝突する高温のガス分子の数を少なくし、蒸着中の基板の温度を低く維持することができるようになる。その結果、プラスチック基板が溶融したり変形したり、あるいは硬化して割れるなどの損傷を防止することができ、歩留まりの良好な大量生産に適したμTASとすることができる。
【0014】
ここで、上記薄膜部は、プラズマ圧力が、0.1Pa以下の雰囲気の条件で形成されたものであることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、プラズマ圧力が、0.1Pa以下の雰囲気の条件で、薄膜部が形成されるので、基板と衝突する高温のガス分子の数をさらに少なくすることができる結果、基板の温度上昇をより少なくすることができる。
【0016】
また、上記薄膜部は、プラスチック基板をプラズマ源から200mm以上の距離を隔てるという条件で積層されたものであることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、プラスチック基板をプラズマ源から200mm以上の距離を隔てて、薄膜部が形成されているので、プラズマ源からの輻射熱の流入が少ない結果、基板を常温に維持することができるようになる。
【0018】
また、基板と衝突する高温のガス分子の数をさらに少なくすることができるので、蒸着過程で薄膜部をエッチングする要素を低減して、高密度で、均一な薄膜部をより速く形成することができるようになる。特に、溝状の各流路の壁面に対しても、途切れることなく高密度で、均一な膜を形成することができるようになる。
【0019】
さらに、上記μTASは、微量のDNA試料の分析を行うDNAチップであって、上記薄膜部は、上記プラスチック基板において、DNA試料およびもしくは各試薬の流路を保護する保護膜を形成するものであることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、薄膜部が、DNA試料や各試薬液からプラスチック基板を保護する保護膜を形成するものであるので、DNA試料や各試薬液がプラスチック基板に浸透したり、プラスチック基板を溶解したり、プラスチック基板と反応したりすることを防止することができる。また、DNAや蛋白質がプラスチック基板に吸着されることも防止することができる。
【0021】
また、プラスチック基板であれば、石英やガラスなどの基板を備えた従来のDNAチップのように基板の切削加工を必要とせず、型押し加工や、射出成形により基板を簡単に製作できるので、DNAチップを安価に大量に生産することができるようになる。
【0022】
そして、上記薄膜部は、窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンのいずれかもしくはこれらを組み合わせた無機膜で構成されていることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、これら窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンなどの化合物は、光の透過率が非常に良いので、光学特性に優れたDNAチップを製作することができるようになる。
【0024】
また、これらの化合物を組み合わせて薄膜部の組成を制御することにより、薄膜部の、成長速度、物性、性状をコントロールすることができるようになる。すなわち、一方の窒化シリコンは、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンと比較して成長速度が遅いが、バリアー性に優れているので、DNA試料や各試薬液がプラスチック基板に浸透したり反応したり、プラスチック基板を溶解したりすることをより良く防止することができるなどの特性がある。また、DNAや蛋白質などの有機物がプラスチック基板に吸着されることもより良く防止することができるという特性がある。さらに、水蒸気の透過率も少ない。
【0025】
他方、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンは、窒化シリコンと比較して膜の成長速度が速く、薄膜部の厚みを大きくすることができるという特性がある。また、窒化シリコンと比較してより柔軟性がある。それ故、これらの化合物のいずれかもしくはこれらを組み合わせて薄膜部の組成を制御することにより、薄膜部の成長速度と、バリアー性、柔軟性などの物性と、厚みなどの性状とをコントロールすることができるようになる。
【0026】
また、上記薄膜部の原料ガスの主要成分は、窒化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび窒素ガスであり、窒酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガス、窒素ガスおよび酸素ガスであり、酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび酸素ガスであることが好ましい。
【0027】
このようにすれば、蒸着過程で薄膜部をエッチングする要素を低減して、高密度で、均一な薄膜部をより速く形成することができるようになる。
【0028】
特に、窒化シリコン、窒酸化シリコンの無機膜においては、従来のプラズマCVD法では、シラン系ガスと窒素ガスとに加えてアンモニアガスが主要成分であったが、本発明のように、シラン系ガスと窒素ガスとを主要成分とすることで、蒸着過程で薄膜部をエッチングする要素となる水素成分を低減することができるようになる。その結果、薄膜部の成長を阻害することなく、高密度で、均一な薄膜部をより速く形成することができるようになる。
【0029】
さらに、上記プラスチック基板は、PDMS(PolyDiMethylSiloxane)で構成することも可能である。
【0030】
このようにすれば、プラスチック基板が、PDMSで構成されるので、エンボス成形加工などによりサブミクロンオーダーの構造をプラスチック基板にパターン転写することができ、プラスチック基板同士の接合も容易である結果、さらにより安価に大量にμTASやDNAチップを生産することができるようになる。
【0031】
また、上記プラスチック基板は、PMMA(PolyMethylMethAcrylate)からなることが好ましい。
【0032】
このようにすれば、プラスチック基板が、PMMAで構成されるので、フォトリソグラフィーで容易にプラスチック基板の表面に高精度にパターンを形成することができる結果、より安価に大量にμTASやDNAチップを生産することができるようになる。
【0033】
また、上記薄膜部は、100℃以下の温度のプラスチック基板に対して成膜されるものであることが好ましい。
【0034】
このようにすれば、プラスチック基板の温度が100℃以下の温度で、プラスチック基板に対して薄膜部が成膜されるので、プラスチック基板が溶融したり変形したり、あるいは硬化して割れるなどの損傷を確実に防止することができるようになる結果、より信頼性が高く、歩留まりの良好な大量生産に適したμTASとすることができる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、従来のシリコンウェハーやガラス、石英などの基板を備えたμTASと比較して、製作が容易かつ安価で大量生産に適した実用的なμTASを提供することができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。図1は、本発明の実施の形態に係るμTAS10の構成を示す斜視図であり、図2は、図1におけるプラスチック基板1のA−A断面図である。また、図3は、図1におけるプラスチック基板1のB−B断面図である。
【0037】
図1〜図3を参照して、図示の本発明の実施の形態に係るμTAS(マイクロ・トータル・アナリシス・システム)10は、微量な物質の分析を微細なデバイスで行うものであって、微量な物質の試料および各試薬が輸送される溝状の流路1jが表面(図1〜図3においてプラスチック基板1の下側の表面)に形成されたプラスチック基板1と、主にこのμTAS10の電気系統のデバイスを担持するシリコン基板2と、プラスチック基板1の表面をコーティングする薄膜部3とを備えている。
【0038】
本実施形態では、このμTAS10は、微量な物質として微量な血液試料を受け入れ、この血液試料の中に含まれるDNAの分析を行うDNAチップとして構成されている。そして、表面を薄膜部3でコーティングされたプラスチック基板1と、シリコン基板2とは、樹脂系の接着剤で接合されて図2、図3に示すように一体に形成される。
【0039】
上記プラスチック基板1は、プラスチック素材の上に高精度な微細加工を施し、化学合成や、化学分析の単位操作である混合、反応、検出といったさまざまな要素をマイクロ化して基板上に集積化したものであり、本実施形態では、PDMS(PolyDiMethylSiloxane)からなるプラスチック基板1の下側の表面に、溝状の流路1jとして、血液試料の受け入れ部1aと、三種類の試薬の受け入れ部1bとが、下方に開口する溝状に形成されている(図2)。また、プラスチック基板1の同じ下側の面に、溝状の流路1jとして、これら血液試料と三種類の試薬とを混合して反応させる反応部1cと、反応後の試料を4種類の分析のために4つの流路1jに分岐させるマニホールド1dと、反応後の試料をμTAS10の外に流出させる前に一時貯蔵するためのリザーバ部1eと、これら微量な物質の試料および各試薬と反応後の試料とが輸送される連絡通路1f(図3)とが、同様に下方に開口する溝状に形成されている。
【0040】
また、後述するシリコン基板2には、電気系統に対して電力の供給や信号の授受を行う電極部2dが設けられているが、この電極部2dを外部の図略のリード線と接続するために開けられた14個の電極孔1gがプラスチック基板1の上面から下面を貫通する状態で形成されている。
【0041】
これら、下側から見て溝状の部分が形成された部分では、溝状の部分の底部にも十分な基板の厚みを維持するために、プラスチック基板1の上面においてそれぞれの部分に対応する箇所がやや盛り上がった状態に形成加工されている。
【0042】
図4は、このプラスチック基板1の製作方法であるエンボス成形加工の手順を示す概略図であり、図4(a)は、エンボス成形加工前のプラスチック基板1と、下側のモールド4bとの状態を示している。また、図4(b)は、エンボス成形加工中のプラスチック基板1と、上下モールド4a、4bとの状態を示しており、加熱されて可塑性を呈したプラスチック基板1が、上下のモールド4a、4bに型押しされた状態を示している。また、図4(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板1が下側モールド4bから離型して溝状の流路1jが形成された状態を示している。
【0043】
このように、プラスチック基板1は、エンボス成形加工により微細な溝状の構造がプラスチック基板1にパターン転写されたものである。
【0044】
上記シリコン基板2は、図1に示すように、主にμTAS10の電気系統のデバイスを担持する基板であり、シリコンウェハーから構成されている。このシリコン基板2は、基板2の上のリード線の詳細な回路は図示しないが、プラスチック基板1の反応部1cを加熱するヒーター部2aと、試料の中のDNA情報を4通りに検出する検出部2bと、μTAS10の電気系統を制御する集積回路部2cと、電気系統に外部から電力を受け入れたり、信号を授受する電極部2dとを備えている。
【0045】
また、シリコン基板2は、プラスチック基板1の受け入れ部1a、1bに下側から血液試料や試薬を供給するためのそれぞれの貫通孔2e、2fと、リザーバ部1eから検出後の試料をμTAS10の外に流出させるための貫通孔2gとを備えている。
【0046】
このように、本発明の実施の形態に係るμTAS10は、血液試料と4種類の試薬とをそれぞれ貫通孔2e、2fを通して、それぞれ受け入れ部1a、1bに受け入れた後、反応部1cで混合し、ヒーター部2aにより加熱してこれらを反応させる。また、反応後の試料の中のDNA情報を4通りの検出部2bで検出し、その後、検出後の試料をリザーバ部1eからμTAS10の外に貫通孔2gを通して流出させるように構成されている。
【0047】
また、集積回路部2cが、電極部2dを介して外部から電力を受け入れたり、信号を授受しながら、反応部1cを加熱するヒーター部2aと、DNA情報を検出する検出部2bなどの電気系統を制御している。
【0048】
上記薄膜部3は、図2、図3に示すように、プラスチック基板1の下側の表面において、DNA試料および各試薬と接触する受け入れ部1a、1bなどの流路1jの部分を保護するために形成された保護膜である。この薄膜部3は、本実施形態では、バリア性の高い、窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンのいずれかもしくはこれらを組み合わせた無機化合物が、誘導結合プラズマCVD(Chemical・vepor・deposition)法によりプラスチック基板1に蒸着されることにより形成されている。
【0049】
そして、これらの化合物を組み合わせて薄膜部3の組成を制御することにより、薄膜部3の成長速度、物性、性状をコントロールすることができるようになっている。すなわち、一方の窒化シリコンは、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンと比較してCVD法による成長速度が遅いが、バリアー性に優れているので、DNA試料や各試薬液がプラスチック基板1に浸透したり反応したり、プラスチック基板1を溶解したりすることをより良く防止することができるなどの特性がある。また、DNAや蛋白質などの有機物がプラスチック基板1に吸着されることもより良く防止することができるという特性がある。さらに、水蒸気の透過率も少ない。
【0050】
他方、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンは、窒化シリコンと比較して膜の成長速度が速く、薄膜部の厚みを大きくすることができるという特性がある。また、窒化シリコンと比較してより柔軟性がある。それ故、これらの化合物のいずれかもしくはこれらを組み合わせて薄膜部3の組成を制御することにより、薄膜部3の成長速度と、バリアー性、柔軟性などの物性と、厚みなどの性状とをコントロールすることができるようになる。
【0051】
これら薄膜部3の原料ガスの主要成分は、窒化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび窒素ガスが用いられ、窒酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガス、窒素ガスおよび酸素ガスが用いられ、酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび酸素ガスが用いられる。
【0052】
ここで、図5〜図9を参照して、プラスチック基板1に、薄膜部3を形成する誘導結合型プラズマCVD装置15と、この装置15を用いた誘導結合型プラズマCVD法の詳細について説明する。図5は、本実施形態に係る誘導結合型プラズマCVD装置15の概略を示す正面断面図であり、図6は、後述する処理容器16の蓋体62を開放した状態の平面図である。また、図7は、同CVD装置15の部分拡大断面図であり、図8は、同CVD装置15の昇降装置を示す説明図である。そして、図9は、同CVD装置15の誘導コイル18を示す概略斜視図である。
【0053】
上記誘導結合型プラズマCVD装置15は、内部を略真空にした状態でプラズマを発生させ、内部でプラスチック基板1に対して薄膜部3の形成処理を施すものであり、図5〜図6に示すように、プラスチック基板1を収容する処理容器16と、この処理容器16内に配設されプラスチック基板1等を設置させる基板設置部17と、処理容器16の上方に配設され処理容器16内に磁場を発生させる平板型の誘導コイル18と、処理容器16内に配設されガス供給源30〜32から容器16内に所定の原料ガスを供給するガス供給部19と、処理容器16内を所定気圧の高真空状態にする真空ポンプ20とを備えている。そして、ガス供給部19が基板設置部17に設置されたプラスチック基板1に対して均一に原料ガスを供給するように構成されている。
【0054】
また、基板設置部17に設置されたプラスチック基板1の下方側には、真空ポンプ20によって排気されるガスを整流する整流板21が設けられている。そして、この誘導結合型プラズマCVD装置15は、ガス供給部19から処理容器16内に原料ガスを導入し、この原料ガスを誘導コイル18によってプラズマ化して、プラスチック基板1上に薄膜部3を形成してDNAチップを製造する。
【0055】
上記処理容器16は、内部にプラスチック基板1を収容可能な大きさに形成された上方に開口する容器本体61と、この上方開口部を閉塞する蓋体62とを有し、全体として直方体状の箱体をなしている。
【0056】
容器本体61は、その底壁部の略中央に排気口61aが設けられ、排気管22を通じて真空ポンプ20に接続されている。この底壁部の周縁から立設された周壁部のうちの一つには、横長のプラスチック基板挿通口61bが設けられ、このプラスチック基板挿通口61bを通じてCVD装置15がこれに並設されたプラスチック基板セット装置23に接続されるとともに、プラスチック基板挿通口61bにはこの挿通口61bを気密に閉塞可能な開閉蓋体63が配設されている。
【0057】
そして、プラスチック基板1が基板セット装置23から基板挿通口61bを通じて基板設置部17にセットされ、開閉蓋63が閉められた状態で、プラズマCVD処理が実行され、プラスチック基板1が製造される。
【0058】
その後、再び開閉蓋63が開放されることにより、プラスチック基板1が、基板挿通口61bを通じて基板セット装置23に搬送されるように構成されている。
【0059】
蓋体62は、その中央領域に貫通孔が形成され、この貫通孔内に透過窓62aが気密状態に嵌め込まれている。この透過窓62aの上面には誘導コイル18が配置され、この誘導コイル18によって発生した磁場は透過窓62aを通じて処理容器16内に生じるようになっている。
【0060】
上記基板設置部17は、設置本体部171と、この本体部170から上方に突出する複数本の設置突出部172と、下面がこの設置突出部172の先端に支持された板状の設置板部173(図7)とを有し、この設置板部173上にプラスチック基板1を載置するものとなされている。この設置本体部171と、設置板部173との間には、整流板21が配置されている。整流板21は、真空ポンプ20によって排気されるガスを整流するためのものであり、所定のパターンで多数の貫通孔210が配置された偏平体をなしている(図7)。本実施形態では特に、整流板21は、プラスチック基板1を収容可能な偏平皿状体を構成し、プラズマCVD処理の際に、設置板部173とともにプラスチック基板1を収容してプラスチック基板1の回りを囲むことにより原料ガスがプラスチック基板1回りに対流し易いように構成されている。なお、整流板21は、後述するように、基板設置部17に対して相対移動するように構成されているが、この相対移動時も含めて基板設置部17の設置突出部172が整流板21と干渉しないように干渉回避孔211が設けられている(図6)。
【0061】
上記基板設置部17および整流板21は、次に説明する昇降機構24により上下昇降可能に構成されている。すなわち昇降機構24は、図8に示すように、長手方向両端部が容器本体61の所定箇所に軸支された左右一対の駆動軸241と、この駆動軸241を正逆方向に回転駆動させる駆動モータ(図示せず)と、下端部がこの駆動軸241に固定され駆動軸241の正逆回転に伴い揺動する一対の揺動部材242とを備え、各揺動部材242の途中部分に基板設置部17が枢支されるとともに、揺動部材242の先端(上端)部分に整流板21が枢支されている。
【0062】
従って、基板設置部17および整流板21は、この昇降機構24における揺動部材242の揺動に伴って、相対高さを変更しつつ、双方とも上下昇降動するものとなされている。言い換えると、昇降機構24は、揺動部材242を倒伏させて設置板部173および整流板21の相対位置を離間させることにより、プラスチック基板1を容易にセットおよび取出可能にするセット姿勢(図8で実線で示す)と、このセット姿勢から揺動部材242を駆動軸241回りに引き起こして設置板部173と整流板21との相対位置を近接させるとともに整流板21の上端縁をガス供給部19の下面に当接させることによりプラスチック基板1回りにガスを対流させやすくした処理姿勢(図8で二点鎖線で示す)との間で切換可能に構成されている。
【0063】
この昇降機構24のセット姿勢においては、基板設置部17および整流板21はともに容器本体61の基板挿通口61bよりも下方に位置する下限位置にあり、設置板部173に対するプラスチック基板1の載置、および設置板部173からプラスチック基板1の取出が容易に実行できるようになっている。一方、処理姿勢においては、基板設置部17、言い換えるとこの設置板部173に載置されたプラスチック基板1が、ガス供給部19に略対向する位置にあるとともに、高さ方向において透過窓62aの下面から比較的離間した位置(例えば200mm程度の位置)にあるように設定されている。すなわち、従来の装置では、透過窓62aからプラスチック基板1までの距離が50mm程度と比較的近接した位置に設けられていたが、本実施形態に係る装置では上記のように比較的離間した位置に設けられる。そのため、プラスチック基板1の温度上昇を抑制することができ、これにより温度上昇に伴うプラスチック基板1の損傷を効果的に防止することができるようになっている。また、整流板21によりガス供給部19から供給された原料ガスがプラスチック基板1回りに対流するので、均一な膜厚の薄膜部3を形成することができ、ピンホールの発生を効果的に防止することができるとともに、プラスチック基板1の全体にわたる膜厚調整が容易になる。このように、薄膜部3は、プラスチック基板1をプラズマ源(本実施形態では透過窓62aの下面を基準とする)から200mm以上の距離を隔てるという条件で積層されたものである。また、薄膜部3は、100℃以下の温度のプラスチック基板1に対して成膜される。本実施形態では、略50℃以下(例えば40℃)の常温雰囲気下でプラズマCVD法が行われるようになっている。
【0064】
上記誘導コイル18は、図9に示すように、インピーダンス整合器25を介して高周波電源26に接続されている。この誘導コイル18は、金属等の導電性線材が略同一平面内に巻回された平板型のコイルである。特に、本実施形態では、この巻回し部180が略矩形状に形成されるとともに、この巻回し部180が略同一平面内に密集した状態で並設されている。すなわち、誘導コイル18は、導線が略矩形状に一回り(回り方向は特に限定するものではないが図示例では左回り)して形成された巻回し部180と、この巻回し部180から延びる導線を集合させてインピーダンス整合器25に接続される分岐部181とを有し、基板設置部17に設置されたプラスチック基板1よりも広い領域において磁場を発生可能に構成されている。巻回し部180の配設パターンは特に限定するものではないが、ここでは、矩形状の巻回し部180がその短辺方向に所定間隔置きに配設されている。
【0065】
このように、誘導コイル18に複数の巻回し部180を設けるとともに各巻回し部180が略矩形状に形成され、この巻回し部180が同一平面内に並設されているので、処理容器16内において磁場を比較的均一に発生させることができるとともに、磁場強度のピークを近接して設けることができ、これによりこの磁場によってプラズマをコイル配設領域の全域に亘って満遍なく発生させ、プラスチック基板1においてプラズマによって均一な膜厚で形成することができる。
【0066】
上記ガス供給部19は、供給するガスの種類によって複数設けられている。本実施形態では、3種類のガスが2つのガス経路を通って処理容器16内に供給可能に構成されており、従って、ガス供給部19(19a、19b)が上下2つ重ねた状態で蓋体62に取り付けられている。なお、これらの2種類のガス供給部19a,19bは、導入されるガスの種類や後述するガス噴出チューブ192(図7)の本数等を除き、その構成が略同様であるので、ここでは下方に配設されたガス供給部19bを中心に説明する。
【0067】
本実施形態に係るガス供給部19(19b)は、図7に示すように、基板設置部17に設置されたプラスチック基板1に略対向した状態で設けられるとともに、ガス噴出孔195が散点的に設けられている。
【0068】
このガス供給部19は、例えば石英、或いはアルミナ等のセラミックスなどの化学的に安定な材料で形成されている。そして、このガス供給部19は、図6および図7に示すように、左右方向に延びる前後一対のヘッダ191と、両端部がこのヘッダ191に連通接続された複数本のガス噴出チューブ192と、一対のヘッダ191の長手方向両端部を連結する連結部材193とを備え、平面視略方形状の枠状体をなしている。
【0069】
ヘッダ191は、図7に示すように、長手方向に沿って内部にガス流通路191aが形成され、このガス流通路191aとガス噴出チューブ192とが連通する状態でガス噴出チューブ192の端部を気密保持している。このガス流通路191aは、蓋体62に設けられたガス流通路62bを介して、ガス供給源31〜32(図5)に連通接続されている。
【0070】
そして、この蓋体62に設けられたガス流通路62bには、処理容器16内に開口する排気口62cが設けられ、ガス流通路62bを排気口62c側とガス供給部19側との間で切り換える切換弁621が配設されている。この排気口62cは、プラズマCVD処理後にガス供給部19やガス流通路62bに残存するガスを早期に排出するために設けられたものであり、プラズマ処理後に切換弁621を切り換えて開口(図7に実線で示す状態)されるように構成されている。なお、切換弁621はプラズマCVD処理時には、図7に二点鎖線で示すように、排気口62cを閉塞するように構成され、ガス供給源31〜32から供給されるガスはこの切換弁621の周囲を通ってガス供給部19に供給される。
【0071】
ガス噴出チューブ192は、その長手方向に沿って所定間隔置きに原料ガスを処理容器16内に噴出するガス噴出孔195が均一に設けられている。このガス噴出孔195は、水平方向に開口するものとなされている。また、ガス噴出孔195の配設位置は、ここでは他方のガス供給部19における噴出口195に対して千鳥配置となるように設けられている。
【0072】
ここで、これらのガス供給部19a,19bに導入される原料ガスについて説明する。この誘導結合型プラズマCVD装置15において薄膜部3を形成するには、ガス供給源30〜32のそれぞれにシランガス(SiH4)、窒素ガス(N2)、酸素ガス(O2)が封入されている。そして、窒化シリコンの無機膜を形成するにあたって、ガス供給源30,31からガス供給部19aにシランガスおよび窒素ガスが導入され、ガス噴出孔195を通じて処理容器16内に供給されるように構成されている。この状態で窒酸化シリコンの無機膜を形成する場合には、ガス供給部19aからシランガスおよび窒素ガスが導入されるのに加えて、ガス供給源32からガス供給部19bに酸素ガスが導入されるように構成されている。また、酸化シリコンの無機膜を形成する場合には、ガス供給部19aからシランガスが導入されるのに加えて、ガス供給源32からガス供給部19bに酸素ガスが導入されるように構成されている。
【0073】
なお、これらのガス供給量や供給タイミング等、この装置15における種々の制御は、CPU、ROM等からなる図示しない制御手段によって行われており、同じく図示しない入力手段からの設定条件に基づいて、制御手段が種々の制御を実行するように構成されている。
【0074】
ここで、この装置15では、窒化シリコン膜を形成するにあたって、アンモニアガス(NH3)や水素ガス(H2)を導入するのではなく、窒素ガス(N2)を導入するように構成されている。これは、原料ガスとして水素原子を用いた場合、励起させやすい反面、水素原子の量が多くなりすぎると、雰囲気温度が上昇してプラスチック基板1に悪影響を与えるためである。従って、原料ガスとして窒素ガスを用いることにより温度上昇を抑制して、この温度上昇に伴うプラスチック基板1の損傷を効果的に防止することができる。
【0075】
上記真空ポンプ20は、排気管22を通じて処理容器16に接続されている。真空ポンプ20には、高出力ポンプが用いられ、原料ガスが注入されている状態で0.1Pa以下の圧力に設定可能に構成されている。このように、薄膜部3は、プラズマ圧力が、0.1Pa以下の雰囲気の条件で形成されたものである。
【0076】
排気管22には、処理容器16内の真空度合を調節するためのバルブ28が設けられている。なお、バルブ28も処理容器16内に設けられた気圧センサ(図示せず)に基づき、制御手段によって制御される。この真空ポンプ20は、図示しない排気管に接続されている。
【0077】
次に、図5を参照して、上記構成の誘導結合型プラズマCVD装置15を用いて薄膜部3を形成する手順について説明する。
【0078】
まず、プラスチック基板1を基板セット装置23によって基板挿通口61bを通じて基板設置部17に設置する。このとき、昇降機構24は、揺動部材242が倒伏したセット姿勢にある。次に、開閉蓋体63が気密状態に閉塞されるとともに、駆動軸241が反時計回りに回転駆動し、これにより揺動部材242が駆動軸241回りに回動して引き起こされる。この揺動部材242の引き起こし動作に伴って、基板設置部17および整流板21がガス供給部19に近接する方向に上昇し、整流板21の周壁部上端縁がガス供給部19のヘッダ191(図7)に当接して昇降機構24が処理姿勢に移行する。このとき、設置板部173に載置されたプラスチック基板1と整流板21の底壁部とが近接する方向に相対移動し、これによりプラスチック基板1が整流板21内に完全に収容された状態となっている。そして、真空ポンプ20を駆動するとともにバルブ28を調整することにより、処理容器16内を0.1Pa以下の高真空状態として形成準備工程が完了する。
【0079】
この形成準備工程が完了すると、次に形成工程に入る。具体的には、誘導コイル18にバイアス電位を印加して誘導磁場を生成するとともに、ガス供給源30,31の上流側に設けられた図示しない開閉弁を開放してガス供給部19にシランガス、窒素ガス、酸素ガスのいずれかもしくはこれらの組み合わせでガスを供給し、このガス供給部19からガス噴出孔195を通して処理容器16内に原料ガスを所定の時間、量、供給する。
【0080】
処理容器16内では、原料ガスがプラズマ化し、整流板21によってこの原料ガスのプラズマがプラスチック基板1回りに集まった状態となっている。そして、時間の経過とともに、プラスチック基板1の表面上にそれぞれの無機膜を形成する。この無機膜は、プラスチック基板1がある部分ではこのプラスチック基板1の形状に沿って形成され、従ってプラスチック基板1の溝部の壁面部にまで窒化シリコンが堆積し薄膜部3が形成される。
【0081】
なお、原料ガスは整流板21の貫通孔210を通って排気管22に導出され真空ポンプ20によって排気される。この整流板21によって、ガスがプラスチック基板1上を均一に流れ、均一な膜厚を形成することができるようになっている。
【0082】
この時、窒酸化シリコンの無機膜の形成速度は、窒化シリコン膜の形成速度よりも速く、従って膜厚が窒化シリコンの無機膜よりも厚い場合であっても迅速に形成することができる。それ故、窒酸化シリコンの無機膜を厚くすることにより、プラスチック基板1に微細なゴミが付着している場合でも、このゴミを封入することができる結果、微細なゴミに起因するピンホールの発生を効果的に防止することができるようになる。
【0083】
そして、この形成工程の終了後に、誘導コイル18に電圧の供給を停止するとともに、真空ポンプ20を停止して、昇降機構24の揺動部材242を倒伏させて処理姿勢からセット姿勢に移行させる。次に、開閉蓋体63を開放してセット姿勢にある設置板173からプラスチック基板1を基板挿通口61bを通じて基板セット装置23へと取り出す。
【0084】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、プラスチック基板1は、型押し加工や、射出成形により簡単に形成できるなど、製作が容易であるので、プラスチック基板1を備えたμTAS10は、従来のシリコンウェハーやガラス、石英などの基板を備えたμTAS10と比較して、安価に大量生産することができる。
【0085】
また、薄膜部3が、誘導結合プラズマCVD法により形成されたものであるので、同じプラズマ密度を得るのに比較的ガスの供給量が少なくてすむ。その結果、基板と衝突する高温のガス分子の数が少なくなり、蒸着中も基板1を比較的低温に維持することができるようになる。その結果、プラスチック基板1が溶融したり変形したり、あるいは硬化して割れるなどの損傷を防止することができ、歩留まりの良好な大量生産に適したμTAS10とすることができる。
【0086】
また、本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、DNAチップとして、薄膜部3が、DNA試料や各試薬液からプラスチック基板1を保護する保護膜を形成するものであるので、DNA試料や各試薬液がプラスチック基板1に浸透したり、プラスチック基板1を溶解したり、プラスチック基板1と反応したりすることを防止することができる。また、DNAや蛋白質がプラスチック基板1に吸着されることも防止することができる。
【0087】
また、プラスチック基板1であれば、石英やガラスなどの基板を備えた従来のDNAチップのように基板1の切削加工を必要とせず、型押し加工や、射出成形により基板を簡単に製作できるので、DNAチップを安価に大量に生産することができるようになる。
【0088】
また、本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、プラズマ圧力が、0.1Pa以下の雰囲気の条件で、薄膜部3が形成されるので、基板1と衝突する高温のガス分子の数をさらに少なくすることができる結果、基板の温度上昇をより少なくすることができる。
【0089】
また、プラスチック基板1をプラズマ源から200mm以上の距離を隔てて、薄膜部3が形成されているので、プラズマ源からの輻射熱の流入が少ない結果、基板1を常温に維持することができるようになる。また、基板1と衝突する高温のガス分子の数をさらに少なくすることができるので、蒸着過程で薄膜部3をエッチングする要素を低減して、高密度で、均一な薄膜部3をより速く形成することができるようになる。特に、溝状の各流路1jの壁面に対しても、途切れることなく高密度で、均一な膜を形成することができるようになる。
【0090】
本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンなどの化合物は、光の透過率が非常に良いので、光学特性に優れたDNAチップを製作することができるようになる。
【0091】
また、これらの化合物を組み合わせて薄膜部3の組成を制御することにより、薄膜部3の成長速度と、バリアー性、柔軟性などの物性と、厚みなどの性状とをコントロールすることができるようになる。
【0092】
また、本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、蒸着過程で薄膜部3をエッチングする要素を低減して、高密度で、均一な薄膜部3をより速く形成することができるようになる。
【0093】
特に、窒化シリコン、窒酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスと窒素ガスとを主要成分とすることで、蒸着過程で薄膜部3をエッチングする要素となる水素成分を低減することができるようになる。その結果、薄膜部3の成長を阻害することなく、高密度で、均一な薄膜部3をより速く形成することができるようになる。
【0094】
また、本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、プラスチック基板1が、PDMSで構成されるので、エンボス成形加工などによりサブミクロンオーダーの構造をプラスチック基板1にパターン転写することができ、プラスチック基板1同士の接合も容易である結果、さらにより安価に大量にμTAS10やDNAチップを生産することができるようになる。
【0095】
上述した実施の形態は本発明の好ましい具体例を例示したものに過ぎず、本発明は上述した実施の形態に限定されない。
【0096】
(1)例えば、μTAS10は、必ずしも血液試料と、三種類の試薬とを受け入れてDNAを分析するDNAチップに限定されない。微量な物質の分析を微細なデバイスで行うものであって、基板上に、高精度な微細加工を施し、化学合成や、化学分析の単位操作である混合、反応、検出や分離回収といったさまざまな要素をマイクロ化して基板上に集積化したものであれば、その他のDNAチップや、微量の血液を分析するヘルスケアチップなど、広く一般のμTASに適用可能である。
【0097】
(2)また、プラスチック基板1の成形加工も必ずしもエンボス成形加工に限定されない。微細な溝状の構造をプラスチック基板1にパターン転写することが可能な方法であれば、例えば、図10に示すインジェクション成形加工や、図11に示すキャスティング成形加工も採用可能である。
【0098】
図10は、インジェクション成形加工の手順を示す概略図であり、図10(a)は、溶融した合成樹脂4eがインジェクション孔4cから供給されている成形加工中の上下モールド4a、4bの状態を示している。また、図10(b)は、溶融した合成樹脂4eのインジェクション孔4cからの供給が停止した状態を示しており、図10(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板1が上下モールド4a、4bから離型した状態を示している。
【0099】
また、図11は、キャスティング成形加工の手順を示す概略図であり、図11(a)は、溶融した合成樹脂4eがキャスティング口4dから供給されている状態を示している。また、図11(b)は、溶融した合成樹脂4eのキャスティング口4dからの供給が停止した状態を示しており、図11(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板1が下側モールド4bから離型した状態を示している。
【0100】
(3)プラスチック基板1は、本実施形態では、PDMS(PolyDiMethylSiloxane)から構成されているが、必ずしもPDMSに限定されない。種々の合成樹脂が採用可能であり、例えばPMMA(PolyMethylMethAcrylate)で構成すれば、フォトリソグラフィーで容易にプラスチック基板1の表面に高精度にパターンを形成することができる結果、より安価に大量にμTAS10やDNAチップを生産することができるようになる。
【0101】
(4)シリコン基板2は、必ずしも必須ではく、ヒーター部2a、検出部2b、集積回路部2cなど、電気系統のないμTASも採用可能である。
【0102】
(5)薄膜部3は、本実施形態では、DNA試料およびもしくは各試薬の流路1jを保護する保護膜としてバリア性の高い、窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンのいずれかもしくはこれらを組み合わせた無機化合物で構成されているが、必ずしもこれらの材料に限定されない。誘導結合プラズマCVD法により蒸着可能であり、μTASの用途に応じてプラスチック基板1と流体とに適したものであれば、その他の無機化合物、有機化合物、金属など、いずれも薄膜部3を構成する材料として採用可能である。
【0103】
(6)上記実施形態における誘導結合型プラズマCVD装置15において、誘導コイル18の形状は特に限定されるものではなく、例えば従来装置において採用されている渦巻き型コイルであってもよい。
【0104】
図12は、同誘導コイルの変形例を示す概略斜視図である。図12に示すように、誘導コイル18aは、一本の導線を蛇行状に湾曲形成することにより巻回し部180aを形成するものであってもよい。
【0105】
さらに、巻回し部180の巻回し方向について同一方向である必要はなく、交互に逆方向に巻回されるものであってもよい。ただし、均一な磁場を形成することにより膜圧も均一にすることができることから、平板型コイル18の巻回し部180は、略矩形状に形成されるとともにこの巻回し部180が略同一平面内に並設されているのが好ましい。
【0106】
(7)誘導結合型プラズマCVD装置15のガス噴出孔195の開口方向や、配設位置、並びに大きさ、形状等は特に限定するものではなく、噴出する原料ガスが満遍なく処理容器16内に充満するように適宜設計可能である。例えば、ガス噴出孔195は、プラスチック基板1に対向する領域の略中央部分において密に設け、外周部分で粗に設けるものであってもよい。
【0107】
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の設計変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施の形態に係るμTASの構成を示す斜視図である。
【図2】図1におけるプラスチック基板1のA−A断面図である。
【図3】図1におけるプラスチック基板1のB−B断面図である。
【図4】エンボス成形加工の手順を示す概略図であり、(a)は、エンボス成形加工前のプラスチック基板と下側のモールドの状態を、(b)は、エンボス成形加工中のプラスチック基板と上下モールドの状態を、(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板が下側モールドから離型して溝状の流路が形成された状態を、それぞれ示している。
【図5】本実施形態に係る誘導結合型プラズマCVD装置の概略を示す正面断面図である。
【図6】同CVD装置において処理容器の蓋体を開放した状態の平面図である。
【図7】同CVD装置の部分拡大断面図である。
【図8】同CVD装置の昇降装置を示す説明図である。
【図9】同CVD装置の誘導コイルを示す概略斜視図である。
【図10】インジェクション成形加工の手順を示す概略図であり、(a)は、成形加工中のプラスチック基板と上下モールドの状態を、(b)は、溶融した合成樹脂のインジェクション孔からの供給が停止した状態を、(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板が上下モールドから離型した状態を、それぞれ示している。
【図11】キャスティング成形加工の手順を示す概略図であり、(a)は、溶融した合成樹脂がキャスティング口から供給されている状態を、(b)は、溶融した合成樹脂のキャスティング口からの供給が停止した状態を、(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板が下側モールドから離型した状態を、それぞれ示している。
【図12】同誘導コイルの変形例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0109】
1 プラスチック基板
1j 流路
3 薄膜部
10 マイクロ・トータル・アナリシス・システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量な物質の分析を微細なデバイスで行うマイクロ・トータル・アナリシス・システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、微量な物質の分析を微細なデバイスで行うさまざまなマイクロ・トータル・アナリシス・システム(Micro・Total・Analysis・System、以下μTASと称する)が開発されている。
【0003】
このμTASは、シリコンやガラスなどの基板上に、高精度な微細加工を施し、化学合成や、化学分析の単位操作である混合、反応、検出や分離回収といったさまざまな要素をマイクロ化して基板上に集積化したものである。このμTASの応用例として、遺伝子の分析に用いられるDNAチップや、微量の血液を分析するヘルスケアチップなどが提案されている。
【0004】
また、μTASの一例として、特許文献1には、試料流体が流入する試料流入部と、試料流体が流出する試料流出部と、試料流入部と試料流出部とを接続する試料流路とからなる複数のフロースルーセルが配設された帯状シートからなるラボオンチップの技術が開示されている。
【0005】
このようなμTASの場合、従来は、化学的に安定な基板として、シリコンウェハーやガラス、石英などが用いられることが多かったが、これらの材料からμTASの基板を形成するには、硬い表面を高精度に切削加工しなければならず、製作が容易でなかった。
【0006】
一方で、遺伝子の分析に用いられるDNAチップなどでは、使い捨てであることが要求されるものもあり、大量生産することができる安価なμTASの実現が望まれている。
【0007】
そこで、特許文献1に開示のラボオンチップでは、上述のような加工上の理由から、基板としては、製造の容易な樹脂が好ましいとの記載がある。また、フロースルーセル内部に有機溶媒が使用される場合は、無機系の材料あるいは有機系の材料の架橋されたものを使用する事が好ましいとの記載がある。さらに、親油性あるいは親水性を付与したい部分については、プラズマ処理、コロナ処理あるいはイオン処理により表面にヒドロキシ基やカルボキシル基を形成する方法、蒸着、スパッタ、CVD等の方法により金属あるいは金属酸化物層を形成する方法、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基等の親水基を持つポリマー、オリゴマーを塗布する方法、メッキにより金属を形成する方法、シラン、チタンをジルコニア等の前駆体をセルに塗布した後に加水分解する事によりヒドロキシ基を含む金属酸化物を表面に形成する方法等が採用可能であるとの記載がある。
【特許文献1】特開2004−156925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1に提示された薄膜の形成方法のうち、基板の表面に塗料や塗布剤を塗布する方法、メッキにより金属を形成する方法、イオン処理等は、微細なμTASの場合、基板の微細な溝構造を埋めないようにして緻密な薄膜を一定の厚みで均一に形成するのには限界があると言わざるを得ない。
【0009】
また、プラズマ処理、コロナ処理、蒸着、スパッタ、CVD等の方法は、微細構造に対する薄膜の製作に適していると考えられるが、大量生産が可能なものとしてプラスチック基板を採用しようとすると、これらの技術では一般的に蒸着基板の表面が高温になるため、プラスチック基板の損傷が大きく、実際上、実用的なμTASが得られないという問題があった。
【0010】
本発明は上記不具合に鑑みてなされたものであり、従来のシリコンウェハーやガラス、石英などの基板を備えたμTASと比較して、製作が容易かつ安価で大量生産に適した実用的なμTASを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、微量な物質の分析を微細なデバイスで行うマイクロ・トータル・アナリシス・システム(Micro・Total・Analysis・System以下μTASと称する)であって、微量な物質の試料およびもしくは各試薬が輸送される溝状の流路が表面に形成されたプラスチック基板と、少なくともこのプラスチック基板の表面の各流路をコーティングする薄膜部とを備え、この薄膜部は、少なくとも無機化合物、有機化合物、金属のいずれかを、誘導結合プラズマCVD(Chemical・vepor・deposition)法により蒸着したものであることを特徴とするμTASである。
【0012】
本発明によれば、プラスチック基板は、型押し加工や、射出成形により簡単に形成できるなど、製作が容易であるので、プラスチック基板を備えたμTASは、従来のシリコンウェハーやガラス、石英などの基板を備えたμTASと比較して、安価に大量生産することができる。
【0013】
また、薄膜部が、誘導結合プラズマCVD法により形成されたものであるので、同じプラズマ密度を得るのに比較的ガスの供給量が少なくてすむ。その結果、基板と衝突する高温のガス分子の数が少なくなり、蒸着中も基板を比較的低温に維持することができるようになる。例えば平行平板プラズマCVDと比較すると、誘導コイルを用いた誘導結合プラズマCVD法は、イオン電流密度およびプラズマ密度が100倍ほど高くなるため、加速された電子がガス分子と衝突する確率が2桁高い。このように誘導結合プラズマCVD法によりガス分子の励起、分解、イオン化の確率を高くすることにより、ガスの乖離が促進され、必要なプラズマ密度を得るのにガスの供給を少なくすることができる結果、基板と衝突する高温のガス分子の数を少なくし、蒸着中の基板の温度を低く維持することができるようになる。その結果、プラスチック基板が溶融したり変形したり、あるいは硬化して割れるなどの損傷を防止することができ、歩留まりの良好な大量生産に適したμTASとすることができる。
【0014】
ここで、上記薄膜部は、プラズマ圧力が、0.1Pa以下の雰囲気の条件で形成されたものであることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、プラズマ圧力が、0.1Pa以下の雰囲気の条件で、薄膜部が形成されるので、基板と衝突する高温のガス分子の数をさらに少なくすることができる結果、基板の温度上昇をより少なくすることができる。
【0016】
また、上記薄膜部は、プラスチック基板をプラズマ源から200mm以上の距離を隔てるという条件で積層されたものであることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、プラスチック基板をプラズマ源から200mm以上の距離を隔てて、薄膜部が形成されているので、プラズマ源からの輻射熱の流入が少ない結果、基板を常温に維持することができるようになる。
【0018】
また、基板と衝突する高温のガス分子の数をさらに少なくすることができるので、蒸着過程で薄膜部をエッチングする要素を低減して、高密度で、均一な薄膜部をより速く形成することができるようになる。特に、溝状の各流路の壁面に対しても、途切れることなく高密度で、均一な膜を形成することができるようになる。
【0019】
さらに、上記μTASは、微量のDNA試料の分析を行うDNAチップであって、上記薄膜部は、上記プラスチック基板において、DNA試料およびもしくは各試薬の流路を保護する保護膜を形成するものであることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、薄膜部が、DNA試料や各試薬液からプラスチック基板を保護する保護膜を形成するものであるので、DNA試料や各試薬液がプラスチック基板に浸透したり、プラスチック基板を溶解したり、プラスチック基板と反応したりすることを防止することができる。また、DNAや蛋白質がプラスチック基板に吸着されることも防止することができる。
【0021】
また、プラスチック基板であれば、石英やガラスなどの基板を備えた従来のDNAチップのように基板の切削加工を必要とせず、型押し加工や、射出成形により基板を簡単に製作できるので、DNAチップを安価に大量に生産することができるようになる。
【0022】
そして、上記薄膜部は、窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンのいずれかもしくはこれらを組み合わせた無機膜で構成されていることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、これら窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンなどの化合物は、光の透過率が非常に良いので、光学特性に優れたDNAチップを製作することができるようになる。
【0024】
また、これらの化合物を組み合わせて薄膜部の組成を制御することにより、薄膜部の、成長速度、物性、性状をコントロールすることができるようになる。すなわち、一方の窒化シリコンは、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンと比較して成長速度が遅いが、バリアー性に優れているので、DNA試料や各試薬液がプラスチック基板に浸透したり反応したり、プラスチック基板を溶解したりすることをより良く防止することができるなどの特性がある。また、DNAや蛋白質などの有機物がプラスチック基板に吸着されることもより良く防止することができるという特性がある。さらに、水蒸気の透過率も少ない。
【0025】
他方、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンは、窒化シリコンと比較して膜の成長速度が速く、薄膜部の厚みを大きくすることができるという特性がある。また、窒化シリコンと比較してより柔軟性がある。それ故、これらの化合物のいずれかもしくはこれらを組み合わせて薄膜部の組成を制御することにより、薄膜部の成長速度と、バリアー性、柔軟性などの物性と、厚みなどの性状とをコントロールすることができるようになる。
【0026】
また、上記薄膜部の原料ガスの主要成分は、窒化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび窒素ガスであり、窒酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガス、窒素ガスおよび酸素ガスであり、酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび酸素ガスであることが好ましい。
【0027】
このようにすれば、蒸着過程で薄膜部をエッチングする要素を低減して、高密度で、均一な薄膜部をより速く形成することができるようになる。
【0028】
特に、窒化シリコン、窒酸化シリコンの無機膜においては、従来のプラズマCVD法では、シラン系ガスと窒素ガスとに加えてアンモニアガスが主要成分であったが、本発明のように、シラン系ガスと窒素ガスとを主要成分とすることで、蒸着過程で薄膜部をエッチングする要素となる水素成分を低減することができるようになる。その結果、薄膜部の成長を阻害することなく、高密度で、均一な薄膜部をより速く形成することができるようになる。
【0029】
さらに、上記プラスチック基板は、PDMS(PolyDiMethylSiloxane)で構成することも可能である。
【0030】
このようにすれば、プラスチック基板が、PDMSで構成されるので、エンボス成形加工などによりサブミクロンオーダーの構造をプラスチック基板にパターン転写することができ、プラスチック基板同士の接合も容易である結果、さらにより安価に大量にμTASやDNAチップを生産することができるようになる。
【0031】
また、上記プラスチック基板は、PMMA(PolyMethylMethAcrylate)からなることが好ましい。
【0032】
このようにすれば、プラスチック基板が、PMMAで構成されるので、フォトリソグラフィーで容易にプラスチック基板の表面に高精度にパターンを形成することができる結果、より安価に大量にμTASやDNAチップを生産することができるようになる。
【0033】
また、上記薄膜部は、100℃以下の温度のプラスチック基板に対して成膜されるものであることが好ましい。
【0034】
このようにすれば、プラスチック基板の温度が100℃以下の温度で、プラスチック基板に対して薄膜部が成膜されるので、プラスチック基板が溶融したり変形したり、あるいは硬化して割れるなどの損傷を確実に防止することができるようになる結果、より信頼性が高く、歩留まりの良好な大量生産に適したμTASとすることができる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、従来のシリコンウェハーやガラス、石英などの基板を備えたμTASと比較して、製作が容易かつ安価で大量生産に適した実用的なμTASを提供することができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。図1は、本発明の実施の形態に係るμTAS10の構成を示す斜視図であり、図2は、図1におけるプラスチック基板1のA−A断面図である。また、図3は、図1におけるプラスチック基板1のB−B断面図である。
【0037】
図1〜図3を参照して、図示の本発明の実施の形態に係るμTAS(マイクロ・トータル・アナリシス・システム)10は、微量な物質の分析を微細なデバイスで行うものであって、微量な物質の試料および各試薬が輸送される溝状の流路1jが表面(図1〜図3においてプラスチック基板1の下側の表面)に形成されたプラスチック基板1と、主にこのμTAS10の電気系統のデバイスを担持するシリコン基板2と、プラスチック基板1の表面をコーティングする薄膜部3とを備えている。
【0038】
本実施形態では、このμTAS10は、微量な物質として微量な血液試料を受け入れ、この血液試料の中に含まれるDNAの分析を行うDNAチップとして構成されている。そして、表面を薄膜部3でコーティングされたプラスチック基板1と、シリコン基板2とは、樹脂系の接着剤で接合されて図2、図3に示すように一体に形成される。
【0039】
上記プラスチック基板1は、プラスチック素材の上に高精度な微細加工を施し、化学合成や、化学分析の単位操作である混合、反応、検出といったさまざまな要素をマイクロ化して基板上に集積化したものであり、本実施形態では、PDMS(PolyDiMethylSiloxane)からなるプラスチック基板1の下側の表面に、溝状の流路1jとして、血液試料の受け入れ部1aと、三種類の試薬の受け入れ部1bとが、下方に開口する溝状に形成されている(図2)。また、プラスチック基板1の同じ下側の面に、溝状の流路1jとして、これら血液試料と三種類の試薬とを混合して反応させる反応部1cと、反応後の試料を4種類の分析のために4つの流路1jに分岐させるマニホールド1dと、反応後の試料をμTAS10の外に流出させる前に一時貯蔵するためのリザーバ部1eと、これら微量な物質の試料および各試薬と反応後の試料とが輸送される連絡通路1f(図3)とが、同様に下方に開口する溝状に形成されている。
【0040】
また、後述するシリコン基板2には、電気系統に対して電力の供給や信号の授受を行う電極部2dが設けられているが、この電極部2dを外部の図略のリード線と接続するために開けられた14個の電極孔1gがプラスチック基板1の上面から下面を貫通する状態で形成されている。
【0041】
これら、下側から見て溝状の部分が形成された部分では、溝状の部分の底部にも十分な基板の厚みを維持するために、プラスチック基板1の上面においてそれぞれの部分に対応する箇所がやや盛り上がった状態に形成加工されている。
【0042】
図4は、このプラスチック基板1の製作方法であるエンボス成形加工の手順を示す概略図であり、図4(a)は、エンボス成形加工前のプラスチック基板1と、下側のモールド4bとの状態を示している。また、図4(b)は、エンボス成形加工中のプラスチック基板1と、上下モールド4a、4bとの状態を示しており、加熱されて可塑性を呈したプラスチック基板1が、上下のモールド4a、4bに型押しされた状態を示している。また、図4(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板1が下側モールド4bから離型して溝状の流路1jが形成された状態を示している。
【0043】
このように、プラスチック基板1は、エンボス成形加工により微細な溝状の構造がプラスチック基板1にパターン転写されたものである。
【0044】
上記シリコン基板2は、図1に示すように、主にμTAS10の電気系統のデバイスを担持する基板であり、シリコンウェハーから構成されている。このシリコン基板2は、基板2の上のリード線の詳細な回路は図示しないが、プラスチック基板1の反応部1cを加熱するヒーター部2aと、試料の中のDNA情報を4通りに検出する検出部2bと、μTAS10の電気系統を制御する集積回路部2cと、電気系統に外部から電力を受け入れたり、信号を授受する電極部2dとを備えている。
【0045】
また、シリコン基板2は、プラスチック基板1の受け入れ部1a、1bに下側から血液試料や試薬を供給するためのそれぞれの貫通孔2e、2fと、リザーバ部1eから検出後の試料をμTAS10の外に流出させるための貫通孔2gとを備えている。
【0046】
このように、本発明の実施の形態に係るμTAS10は、血液試料と4種類の試薬とをそれぞれ貫通孔2e、2fを通して、それぞれ受け入れ部1a、1bに受け入れた後、反応部1cで混合し、ヒーター部2aにより加熱してこれらを反応させる。また、反応後の試料の中のDNA情報を4通りの検出部2bで検出し、その後、検出後の試料をリザーバ部1eからμTAS10の外に貫通孔2gを通して流出させるように構成されている。
【0047】
また、集積回路部2cが、電極部2dを介して外部から電力を受け入れたり、信号を授受しながら、反応部1cを加熱するヒーター部2aと、DNA情報を検出する検出部2bなどの電気系統を制御している。
【0048】
上記薄膜部3は、図2、図3に示すように、プラスチック基板1の下側の表面において、DNA試料および各試薬と接触する受け入れ部1a、1bなどの流路1jの部分を保護するために形成された保護膜である。この薄膜部3は、本実施形態では、バリア性の高い、窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンのいずれかもしくはこれらを組み合わせた無機化合物が、誘導結合プラズマCVD(Chemical・vepor・deposition)法によりプラスチック基板1に蒸着されることにより形成されている。
【0049】
そして、これらの化合物を組み合わせて薄膜部3の組成を制御することにより、薄膜部3の成長速度、物性、性状をコントロールすることができるようになっている。すなわち、一方の窒化シリコンは、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンと比較してCVD法による成長速度が遅いが、バリアー性に優れているので、DNA試料や各試薬液がプラスチック基板1に浸透したり反応したり、プラスチック基板1を溶解したりすることをより良く防止することができるなどの特性がある。また、DNAや蛋白質などの有機物がプラスチック基板1に吸着されることもより良く防止することができるという特性がある。さらに、水蒸気の透過率も少ない。
【0050】
他方、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンは、窒化シリコンと比較して膜の成長速度が速く、薄膜部の厚みを大きくすることができるという特性がある。また、窒化シリコンと比較してより柔軟性がある。それ故、これらの化合物のいずれかもしくはこれらを組み合わせて薄膜部3の組成を制御することにより、薄膜部3の成長速度と、バリアー性、柔軟性などの物性と、厚みなどの性状とをコントロールすることができるようになる。
【0051】
これら薄膜部3の原料ガスの主要成分は、窒化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび窒素ガスが用いられ、窒酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガス、窒素ガスおよび酸素ガスが用いられ、酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび酸素ガスが用いられる。
【0052】
ここで、図5〜図9を参照して、プラスチック基板1に、薄膜部3を形成する誘導結合型プラズマCVD装置15と、この装置15を用いた誘導結合型プラズマCVD法の詳細について説明する。図5は、本実施形態に係る誘導結合型プラズマCVD装置15の概略を示す正面断面図であり、図6は、後述する処理容器16の蓋体62を開放した状態の平面図である。また、図7は、同CVD装置15の部分拡大断面図であり、図8は、同CVD装置15の昇降装置を示す説明図である。そして、図9は、同CVD装置15の誘導コイル18を示す概略斜視図である。
【0053】
上記誘導結合型プラズマCVD装置15は、内部を略真空にした状態でプラズマを発生させ、内部でプラスチック基板1に対して薄膜部3の形成処理を施すものであり、図5〜図6に示すように、プラスチック基板1を収容する処理容器16と、この処理容器16内に配設されプラスチック基板1等を設置させる基板設置部17と、処理容器16の上方に配設され処理容器16内に磁場を発生させる平板型の誘導コイル18と、処理容器16内に配設されガス供給源30〜32から容器16内に所定の原料ガスを供給するガス供給部19と、処理容器16内を所定気圧の高真空状態にする真空ポンプ20とを備えている。そして、ガス供給部19が基板設置部17に設置されたプラスチック基板1に対して均一に原料ガスを供給するように構成されている。
【0054】
また、基板設置部17に設置されたプラスチック基板1の下方側には、真空ポンプ20によって排気されるガスを整流する整流板21が設けられている。そして、この誘導結合型プラズマCVD装置15は、ガス供給部19から処理容器16内に原料ガスを導入し、この原料ガスを誘導コイル18によってプラズマ化して、プラスチック基板1上に薄膜部3を形成してDNAチップを製造する。
【0055】
上記処理容器16は、内部にプラスチック基板1を収容可能な大きさに形成された上方に開口する容器本体61と、この上方開口部を閉塞する蓋体62とを有し、全体として直方体状の箱体をなしている。
【0056】
容器本体61は、その底壁部の略中央に排気口61aが設けられ、排気管22を通じて真空ポンプ20に接続されている。この底壁部の周縁から立設された周壁部のうちの一つには、横長のプラスチック基板挿通口61bが設けられ、このプラスチック基板挿通口61bを通じてCVD装置15がこれに並設されたプラスチック基板セット装置23に接続されるとともに、プラスチック基板挿通口61bにはこの挿通口61bを気密に閉塞可能な開閉蓋体63が配設されている。
【0057】
そして、プラスチック基板1が基板セット装置23から基板挿通口61bを通じて基板設置部17にセットされ、開閉蓋63が閉められた状態で、プラズマCVD処理が実行され、プラスチック基板1が製造される。
【0058】
その後、再び開閉蓋63が開放されることにより、プラスチック基板1が、基板挿通口61bを通じて基板セット装置23に搬送されるように構成されている。
【0059】
蓋体62は、その中央領域に貫通孔が形成され、この貫通孔内に透過窓62aが気密状態に嵌め込まれている。この透過窓62aの上面には誘導コイル18が配置され、この誘導コイル18によって発生した磁場は透過窓62aを通じて処理容器16内に生じるようになっている。
【0060】
上記基板設置部17は、設置本体部171と、この本体部170から上方に突出する複数本の設置突出部172と、下面がこの設置突出部172の先端に支持された板状の設置板部173(図7)とを有し、この設置板部173上にプラスチック基板1を載置するものとなされている。この設置本体部171と、設置板部173との間には、整流板21が配置されている。整流板21は、真空ポンプ20によって排気されるガスを整流するためのものであり、所定のパターンで多数の貫通孔210が配置された偏平体をなしている(図7)。本実施形態では特に、整流板21は、プラスチック基板1を収容可能な偏平皿状体を構成し、プラズマCVD処理の際に、設置板部173とともにプラスチック基板1を収容してプラスチック基板1の回りを囲むことにより原料ガスがプラスチック基板1回りに対流し易いように構成されている。なお、整流板21は、後述するように、基板設置部17に対して相対移動するように構成されているが、この相対移動時も含めて基板設置部17の設置突出部172が整流板21と干渉しないように干渉回避孔211が設けられている(図6)。
【0061】
上記基板設置部17および整流板21は、次に説明する昇降機構24により上下昇降可能に構成されている。すなわち昇降機構24は、図8に示すように、長手方向両端部が容器本体61の所定箇所に軸支された左右一対の駆動軸241と、この駆動軸241を正逆方向に回転駆動させる駆動モータ(図示せず)と、下端部がこの駆動軸241に固定され駆動軸241の正逆回転に伴い揺動する一対の揺動部材242とを備え、各揺動部材242の途中部分に基板設置部17が枢支されるとともに、揺動部材242の先端(上端)部分に整流板21が枢支されている。
【0062】
従って、基板設置部17および整流板21は、この昇降機構24における揺動部材242の揺動に伴って、相対高さを変更しつつ、双方とも上下昇降動するものとなされている。言い換えると、昇降機構24は、揺動部材242を倒伏させて設置板部173および整流板21の相対位置を離間させることにより、プラスチック基板1を容易にセットおよび取出可能にするセット姿勢(図8で実線で示す)と、このセット姿勢から揺動部材242を駆動軸241回りに引き起こして設置板部173と整流板21との相対位置を近接させるとともに整流板21の上端縁をガス供給部19の下面に当接させることによりプラスチック基板1回りにガスを対流させやすくした処理姿勢(図8で二点鎖線で示す)との間で切換可能に構成されている。
【0063】
この昇降機構24のセット姿勢においては、基板設置部17および整流板21はともに容器本体61の基板挿通口61bよりも下方に位置する下限位置にあり、設置板部173に対するプラスチック基板1の載置、および設置板部173からプラスチック基板1の取出が容易に実行できるようになっている。一方、処理姿勢においては、基板設置部17、言い換えるとこの設置板部173に載置されたプラスチック基板1が、ガス供給部19に略対向する位置にあるとともに、高さ方向において透過窓62aの下面から比較的離間した位置(例えば200mm程度の位置)にあるように設定されている。すなわち、従来の装置では、透過窓62aからプラスチック基板1までの距離が50mm程度と比較的近接した位置に設けられていたが、本実施形態に係る装置では上記のように比較的離間した位置に設けられる。そのため、プラスチック基板1の温度上昇を抑制することができ、これにより温度上昇に伴うプラスチック基板1の損傷を効果的に防止することができるようになっている。また、整流板21によりガス供給部19から供給された原料ガスがプラスチック基板1回りに対流するので、均一な膜厚の薄膜部3を形成することができ、ピンホールの発生を効果的に防止することができるとともに、プラスチック基板1の全体にわたる膜厚調整が容易になる。このように、薄膜部3は、プラスチック基板1をプラズマ源(本実施形態では透過窓62aの下面を基準とする)から200mm以上の距離を隔てるという条件で積層されたものである。また、薄膜部3は、100℃以下の温度のプラスチック基板1に対して成膜される。本実施形態では、略50℃以下(例えば40℃)の常温雰囲気下でプラズマCVD法が行われるようになっている。
【0064】
上記誘導コイル18は、図9に示すように、インピーダンス整合器25を介して高周波電源26に接続されている。この誘導コイル18は、金属等の導電性線材が略同一平面内に巻回された平板型のコイルである。特に、本実施形態では、この巻回し部180が略矩形状に形成されるとともに、この巻回し部180が略同一平面内に密集した状態で並設されている。すなわち、誘導コイル18は、導線が略矩形状に一回り(回り方向は特に限定するものではないが図示例では左回り)して形成された巻回し部180と、この巻回し部180から延びる導線を集合させてインピーダンス整合器25に接続される分岐部181とを有し、基板設置部17に設置されたプラスチック基板1よりも広い領域において磁場を発生可能に構成されている。巻回し部180の配設パターンは特に限定するものではないが、ここでは、矩形状の巻回し部180がその短辺方向に所定間隔置きに配設されている。
【0065】
このように、誘導コイル18に複数の巻回し部180を設けるとともに各巻回し部180が略矩形状に形成され、この巻回し部180が同一平面内に並設されているので、処理容器16内において磁場を比較的均一に発生させることができるとともに、磁場強度のピークを近接して設けることができ、これによりこの磁場によってプラズマをコイル配設領域の全域に亘って満遍なく発生させ、プラスチック基板1においてプラズマによって均一な膜厚で形成することができる。
【0066】
上記ガス供給部19は、供給するガスの種類によって複数設けられている。本実施形態では、3種類のガスが2つのガス経路を通って処理容器16内に供給可能に構成されており、従って、ガス供給部19(19a、19b)が上下2つ重ねた状態で蓋体62に取り付けられている。なお、これらの2種類のガス供給部19a,19bは、導入されるガスの種類や後述するガス噴出チューブ192(図7)の本数等を除き、その構成が略同様であるので、ここでは下方に配設されたガス供給部19bを中心に説明する。
【0067】
本実施形態に係るガス供給部19(19b)は、図7に示すように、基板設置部17に設置されたプラスチック基板1に略対向した状態で設けられるとともに、ガス噴出孔195が散点的に設けられている。
【0068】
このガス供給部19は、例えば石英、或いはアルミナ等のセラミックスなどの化学的に安定な材料で形成されている。そして、このガス供給部19は、図6および図7に示すように、左右方向に延びる前後一対のヘッダ191と、両端部がこのヘッダ191に連通接続された複数本のガス噴出チューブ192と、一対のヘッダ191の長手方向両端部を連結する連結部材193とを備え、平面視略方形状の枠状体をなしている。
【0069】
ヘッダ191は、図7に示すように、長手方向に沿って内部にガス流通路191aが形成され、このガス流通路191aとガス噴出チューブ192とが連通する状態でガス噴出チューブ192の端部を気密保持している。このガス流通路191aは、蓋体62に設けられたガス流通路62bを介して、ガス供給源31〜32(図5)に連通接続されている。
【0070】
そして、この蓋体62に設けられたガス流通路62bには、処理容器16内に開口する排気口62cが設けられ、ガス流通路62bを排気口62c側とガス供給部19側との間で切り換える切換弁621が配設されている。この排気口62cは、プラズマCVD処理後にガス供給部19やガス流通路62bに残存するガスを早期に排出するために設けられたものであり、プラズマ処理後に切換弁621を切り換えて開口(図7に実線で示す状態)されるように構成されている。なお、切換弁621はプラズマCVD処理時には、図7に二点鎖線で示すように、排気口62cを閉塞するように構成され、ガス供給源31〜32から供給されるガスはこの切換弁621の周囲を通ってガス供給部19に供給される。
【0071】
ガス噴出チューブ192は、その長手方向に沿って所定間隔置きに原料ガスを処理容器16内に噴出するガス噴出孔195が均一に設けられている。このガス噴出孔195は、水平方向に開口するものとなされている。また、ガス噴出孔195の配設位置は、ここでは他方のガス供給部19における噴出口195に対して千鳥配置となるように設けられている。
【0072】
ここで、これらのガス供給部19a,19bに導入される原料ガスについて説明する。この誘導結合型プラズマCVD装置15において薄膜部3を形成するには、ガス供給源30〜32のそれぞれにシランガス(SiH4)、窒素ガス(N2)、酸素ガス(O2)が封入されている。そして、窒化シリコンの無機膜を形成するにあたって、ガス供給源30,31からガス供給部19aにシランガスおよび窒素ガスが導入され、ガス噴出孔195を通じて処理容器16内に供給されるように構成されている。この状態で窒酸化シリコンの無機膜を形成する場合には、ガス供給部19aからシランガスおよび窒素ガスが導入されるのに加えて、ガス供給源32からガス供給部19bに酸素ガスが導入されるように構成されている。また、酸化シリコンの無機膜を形成する場合には、ガス供給部19aからシランガスが導入されるのに加えて、ガス供給源32からガス供給部19bに酸素ガスが導入されるように構成されている。
【0073】
なお、これらのガス供給量や供給タイミング等、この装置15における種々の制御は、CPU、ROM等からなる図示しない制御手段によって行われており、同じく図示しない入力手段からの設定条件に基づいて、制御手段が種々の制御を実行するように構成されている。
【0074】
ここで、この装置15では、窒化シリコン膜を形成するにあたって、アンモニアガス(NH3)や水素ガス(H2)を導入するのではなく、窒素ガス(N2)を導入するように構成されている。これは、原料ガスとして水素原子を用いた場合、励起させやすい反面、水素原子の量が多くなりすぎると、雰囲気温度が上昇してプラスチック基板1に悪影響を与えるためである。従って、原料ガスとして窒素ガスを用いることにより温度上昇を抑制して、この温度上昇に伴うプラスチック基板1の損傷を効果的に防止することができる。
【0075】
上記真空ポンプ20は、排気管22を通じて処理容器16に接続されている。真空ポンプ20には、高出力ポンプが用いられ、原料ガスが注入されている状態で0.1Pa以下の圧力に設定可能に構成されている。このように、薄膜部3は、プラズマ圧力が、0.1Pa以下の雰囲気の条件で形成されたものである。
【0076】
排気管22には、処理容器16内の真空度合を調節するためのバルブ28が設けられている。なお、バルブ28も処理容器16内に設けられた気圧センサ(図示せず)に基づき、制御手段によって制御される。この真空ポンプ20は、図示しない排気管に接続されている。
【0077】
次に、図5を参照して、上記構成の誘導結合型プラズマCVD装置15を用いて薄膜部3を形成する手順について説明する。
【0078】
まず、プラスチック基板1を基板セット装置23によって基板挿通口61bを通じて基板設置部17に設置する。このとき、昇降機構24は、揺動部材242が倒伏したセット姿勢にある。次に、開閉蓋体63が気密状態に閉塞されるとともに、駆動軸241が反時計回りに回転駆動し、これにより揺動部材242が駆動軸241回りに回動して引き起こされる。この揺動部材242の引き起こし動作に伴って、基板設置部17および整流板21がガス供給部19に近接する方向に上昇し、整流板21の周壁部上端縁がガス供給部19のヘッダ191(図7)に当接して昇降機構24が処理姿勢に移行する。このとき、設置板部173に載置されたプラスチック基板1と整流板21の底壁部とが近接する方向に相対移動し、これによりプラスチック基板1が整流板21内に完全に収容された状態となっている。そして、真空ポンプ20を駆動するとともにバルブ28を調整することにより、処理容器16内を0.1Pa以下の高真空状態として形成準備工程が完了する。
【0079】
この形成準備工程が完了すると、次に形成工程に入る。具体的には、誘導コイル18にバイアス電位を印加して誘導磁場を生成するとともに、ガス供給源30,31の上流側に設けられた図示しない開閉弁を開放してガス供給部19にシランガス、窒素ガス、酸素ガスのいずれかもしくはこれらの組み合わせでガスを供給し、このガス供給部19からガス噴出孔195を通して処理容器16内に原料ガスを所定の時間、量、供給する。
【0080】
処理容器16内では、原料ガスがプラズマ化し、整流板21によってこの原料ガスのプラズマがプラスチック基板1回りに集まった状態となっている。そして、時間の経過とともに、プラスチック基板1の表面上にそれぞれの無機膜を形成する。この無機膜は、プラスチック基板1がある部分ではこのプラスチック基板1の形状に沿って形成され、従ってプラスチック基板1の溝部の壁面部にまで窒化シリコンが堆積し薄膜部3が形成される。
【0081】
なお、原料ガスは整流板21の貫通孔210を通って排気管22に導出され真空ポンプ20によって排気される。この整流板21によって、ガスがプラスチック基板1上を均一に流れ、均一な膜厚を形成することができるようになっている。
【0082】
この時、窒酸化シリコンの無機膜の形成速度は、窒化シリコン膜の形成速度よりも速く、従って膜厚が窒化シリコンの無機膜よりも厚い場合であっても迅速に形成することができる。それ故、窒酸化シリコンの無機膜を厚くすることにより、プラスチック基板1に微細なゴミが付着している場合でも、このゴミを封入することができる結果、微細なゴミに起因するピンホールの発生を効果的に防止することができるようになる。
【0083】
そして、この形成工程の終了後に、誘導コイル18に電圧の供給を停止するとともに、真空ポンプ20を停止して、昇降機構24の揺動部材242を倒伏させて処理姿勢からセット姿勢に移行させる。次に、開閉蓋体63を開放してセット姿勢にある設置板173からプラスチック基板1を基板挿通口61bを通じて基板セット装置23へと取り出す。
【0084】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、プラスチック基板1は、型押し加工や、射出成形により簡単に形成できるなど、製作が容易であるので、プラスチック基板1を備えたμTAS10は、従来のシリコンウェハーやガラス、石英などの基板を備えたμTAS10と比較して、安価に大量生産することができる。
【0085】
また、薄膜部3が、誘導結合プラズマCVD法により形成されたものであるので、同じプラズマ密度を得るのに比較的ガスの供給量が少なくてすむ。その結果、基板と衝突する高温のガス分子の数が少なくなり、蒸着中も基板1を比較的低温に維持することができるようになる。その結果、プラスチック基板1が溶融したり変形したり、あるいは硬化して割れるなどの損傷を防止することができ、歩留まりの良好な大量生産に適したμTAS10とすることができる。
【0086】
また、本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、DNAチップとして、薄膜部3が、DNA試料や各試薬液からプラスチック基板1を保護する保護膜を形成するものであるので、DNA試料や各試薬液がプラスチック基板1に浸透したり、プラスチック基板1を溶解したり、プラスチック基板1と反応したりすることを防止することができる。また、DNAや蛋白質がプラスチック基板1に吸着されることも防止することができる。
【0087】
また、プラスチック基板1であれば、石英やガラスなどの基板を備えた従来のDNAチップのように基板1の切削加工を必要とせず、型押し加工や、射出成形により基板を簡単に製作できるので、DNAチップを安価に大量に生産することができるようになる。
【0088】
また、本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、プラズマ圧力が、0.1Pa以下の雰囲気の条件で、薄膜部3が形成されるので、基板1と衝突する高温のガス分子の数をさらに少なくすることができる結果、基板の温度上昇をより少なくすることができる。
【0089】
また、プラスチック基板1をプラズマ源から200mm以上の距離を隔てて、薄膜部3が形成されているので、プラズマ源からの輻射熱の流入が少ない結果、基板1を常温に維持することができるようになる。また、基板1と衝突する高温のガス分子の数をさらに少なくすることができるので、蒸着過程で薄膜部3をエッチングする要素を低減して、高密度で、均一な薄膜部3をより速く形成することができるようになる。特に、溝状の各流路1jの壁面に対しても、途切れることなく高密度で、均一な膜を形成することができるようになる。
【0090】
本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンなどの化合物は、光の透過率が非常に良いので、光学特性に優れたDNAチップを製作することができるようになる。
【0091】
また、これらの化合物を組み合わせて薄膜部3の組成を制御することにより、薄膜部3の成長速度と、バリアー性、柔軟性などの物性と、厚みなどの性状とをコントロールすることができるようになる。
【0092】
また、本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、蒸着過程で薄膜部3をエッチングする要素を低減して、高密度で、均一な薄膜部3をより速く形成することができるようになる。
【0093】
特に、窒化シリコン、窒酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスと窒素ガスとを主要成分とすることで、蒸着過程で薄膜部3をエッチングする要素となる水素成分を低減することができるようになる。その結果、薄膜部3の成長を阻害することなく、高密度で、均一な薄膜部3をより速く形成することができるようになる。
【0094】
また、本発明の実施の形態に係るμTAS10によれば、プラスチック基板1が、PDMSで構成されるので、エンボス成形加工などによりサブミクロンオーダーの構造をプラスチック基板1にパターン転写することができ、プラスチック基板1同士の接合も容易である結果、さらにより安価に大量にμTAS10やDNAチップを生産することができるようになる。
【0095】
上述した実施の形態は本発明の好ましい具体例を例示したものに過ぎず、本発明は上述した実施の形態に限定されない。
【0096】
(1)例えば、μTAS10は、必ずしも血液試料と、三種類の試薬とを受け入れてDNAを分析するDNAチップに限定されない。微量な物質の分析を微細なデバイスで行うものであって、基板上に、高精度な微細加工を施し、化学合成や、化学分析の単位操作である混合、反応、検出や分離回収といったさまざまな要素をマイクロ化して基板上に集積化したものであれば、その他のDNAチップや、微量の血液を分析するヘルスケアチップなど、広く一般のμTASに適用可能である。
【0097】
(2)また、プラスチック基板1の成形加工も必ずしもエンボス成形加工に限定されない。微細な溝状の構造をプラスチック基板1にパターン転写することが可能な方法であれば、例えば、図10に示すインジェクション成形加工や、図11に示すキャスティング成形加工も採用可能である。
【0098】
図10は、インジェクション成形加工の手順を示す概略図であり、図10(a)は、溶融した合成樹脂4eがインジェクション孔4cから供給されている成形加工中の上下モールド4a、4bの状態を示している。また、図10(b)は、溶融した合成樹脂4eのインジェクション孔4cからの供給が停止した状態を示しており、図10(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板1が上下モールド4a、4bから離型した状態を示している。
【0099】
また、図11は、キャスティング成形加工の手順を示す概略図であり、図11(a)は、溶融した合成樹脂4eがキャスティング口4dから供給されている状態を示している。また、図11(b)は、溶融した合成樹脂4eのキャスティング口4dからの供給が停止した状態を示しており、図11(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板1が下側モールド4bから離型した状態を示している。
【0100】
(3)プラスチック基板1は、本実施形態では、PDMS(PolyDiMethylSiloxane)から構成されているが、必ずしもPDMSに限定されない。種々の合成樹脂が採用可能であり、例えばPMMA(PolyMethylMethAcrylate)で構成すれば、フォトリソグラフィーで容易にプラスチック基板1の表面に高精度にパターンを形成することができる結果、より安価に大量にμTAS10やDNAチップを生産することができるようになる。
【0101】
(4)シリコン基板2は、必ずしも必須ではく、ヒーター部2a、検出部2b、集積回路部2cなど、電気系統のないμTASも採用可能である。
【0102】
(5)薄膜部3は、本実施形態では、DNA試料およびもしくは各試薬の流路1jを保護する保護膜としてバリア性の高い、窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンのいずれかもしくはこれらを組み合わせた無機化合物で構成されているが、必ずしもこれらの材料に限定されない。誘導結合プラズマCVD法により蒸着可能であり、μTASの用途に応じてプラスチック基板1と流体とに適したものであれば、その他の無機化合物、有機化合物、金属など、いずれも薄膜部3を構成する材料として採用可能である。
【0103】
(6)上記実施形態における誘導結合型プラズマCVD装置15において、誘導コイル18の形状は特に限定されるものではなく、例えば従来装置において採用されている渦巻き型コイルであってもよい。
【0104】
図12は、同誘導コイルの変形例を示す概略斜視図である。図12に示すように、誘導コイル18aは、一本の導線を蛇行状に湾曲形成することにより巻回し部180aを形成するものであってもよい。
【0105】
さらに、巻回し部180の巻回し方向について同一方向である必要はなく、交互に逆方向に巻回されるものであってもよい。ただし、均一な磁場を形成することにより膜圧も均一にすることができることから、平板型コイル18の巻回し部180は、略矩形状に形成されるとともにこの巻回し部180が略同一平面内に並設されているのが好ましい。
【0106】
(7)誘導結合型プラズマCVD装置15のガス噴出孔195の開口方向や、配設位置、並びに大きさ、形状等は特に限定するものではなく、噴出する原料ガスが満遍なく処理容器16内に充満するように適宜設計可能である。例えば、ガス噴出孔195は、プラスチック基板1に対向する領域の略中央部分において密に設け、外周部分で粗に設けるものであってもよい。
【0107】
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の設計変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施の形態に係るμTASの構成を示す斜視図である。
【図2】図1におけるプラスチック基板1のA−A断面図である。
【図3】図1におけるプラスチック基板1のB−B断面図である。
【図4】エンボス成形加工の手順を示す概略図であり、(a)は、エンボス成形加工前のプラスチック基板と下側のモールドの状態を、(b)は、エンボス成形加工中のプラスチック基板と上下モールドの状態を、(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板が下側モールドから離型して溝状の流路が形成された状態を、それぞれ示している。
【図5】本実施形態に係る誘導結合型プラズマCVD装置の概略を示す正面断面図である。
【図6】同CVD装置において処理容器の蓋体を開放した状態の平面図である。
【図7】同CVD装置の部分拡大断面図である。
【図8】同CVD装置の昇降装置を示す説明図である。
【図9】同CVD装置の誘導コイルを示す概略斜視図である。
【図10】インジェクション成形加工の手順を示す概略図であり、(a)は、成形加工中のプラスチック基板と上下モールドの状態を、(b)は、溶融した合成樹脂のインジェクション孔からの供給が停止した状態を、(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板が上下モールドから離型した状態を、それぞれ示している。
【図11】キャスティング成形加工の手順を示す概略図であり、(a)は、溶融した合成樹脂がキャスティング口から供給されている状態を、(b)は、溶融した合成樹脂のキャスティング口からの供給が停止した状態を、(c)は、冷却されて硬化した成形加工後のプラスチック基板が下側モールドから離型した状態を、それぞれ示している。
【図12】同誘導コイルの変形例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0109】
1 プラスチック基板
1j 流路
3 薄膜部
10 マイクロ・トータル・アナリシス・システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量な物質の分析を微細なデバイスで行うマイクロ・トータル・アナリシス・システムであって、
微量な物質の試料およびもしくは各試薬が輸送される溝状の流路が表面に形成されたプラスチック基板と、
少なくともこのプラスチック基板の表面の各流路をコーティングする薄膜部とを備え、
この薄膜部は、少なくとも無機化合物、有機化合物、金属のいずれかを、誘導結合プラズマCVD法により蒸着したものであることを特徴とするマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項2】
上記薄膜部は、プラズマ圧力が、0.1Pa以下の雰囲気の条件で形成されたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項3】
上記薄膜部は、プラスチック基板をプラズマ源から200mm以上の距離を隔てるという条件で積層されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項4】
上記マイクロ・トータル・アナリシス・システムは、微量のDNA試料の分析を行うDNAチップであって、
上記薄膜部は、上記プラスチック基板において、DNA試料およびもしくは各試薬の流路を保護する保護膜を形成するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項5】
上記薄膜部は、窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンのいずれかもしくはこれらを組み合わせた無機膜で構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項6】
上記薄膜部の原料ガスの主要成分は、窒化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび窒素ガスであり、窒酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガス、窒素ガスおよび酸素ガスであり、酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび酸素ガスであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項7】
上記プラスチック基板は、PDMSからなることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項8】
上記プラスチック基板は、PMMAからなることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項9】
上記薄膜部は、100℃以下の温度のプラスチック基板に対して成膜されるものであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項1】
微量な物質の分析を微細なデバイスで行うマイクロ・トータル・アナリシス・システムであって、
微量な物質の試料およびもしくは各試薬が輸送される溝状の流路が表面に形成されたプラスチック基板と、
少なくともこのプラスチック基板の表面の各流路をコーティングする薄膜部とを備え、
この薄膜部は、少なくとも無機化合物、有機化合物、金属のいずれかを、誘導結合プラズマCVD法により蒸着したものであることを特徴とするマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項2】
上記薄膜部は、プラズマ圧力が、0.1Pa以下の雰囲気の条件で形成されたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項3】
上記薄膜部は、プラスチック基板をプラズマ源から200mm以上の距離を隔てるという条件で積層されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項4】
上記マイクロ・トータル・アナリシス・システムは、微量のDNA試料の分析を行うDNAチップであって、
上記薄膜部は、上記プラスチック基板において、DNA試料およびもしくは各試薬の流路を保護する保護膜を形成するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項5】
上記薄膜部は、窒化シリコン、窒酸化シリコンおよび酸化シリコンのいずれかもしくはこれらを組み合わせた無機膜で構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項6】
上記薄膜部の原料ガスの主要成分は、窒化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび窒素ガスであり、窒酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガス、窒素ガスおよび酸素ガスであり、酸化シリコンの無機膜においては、シラン系ガスおよび酸素ガスであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項7】
上記プラスチック基板は、PDMSからなることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項8】
上記プラスチック基板は、PMMAからなることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【請求項9】
上記薄膜部は、100℃以下の温度のプラスチック基板に対して成膜されるものであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のマイクロ・トータル・アナリシス・システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−153823(P2006−153823A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349064(P2004−349064)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(301071413)株式会社 セルバック (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(301071413)株式会社 セルバック (9)
【Fターム(参考)】
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