説明

マカロン用粉体混合物、マカロンの製造方法及びマカロン

【課題】ピエを有するマカロンを熟練の技術を要さず製造する方法を提供する。
【解決手段】サイクロデキストリンの配合割合が乾燥卵白100部に対して30〜100部、且つ増粘多糖類の配合割合がサイクロデキストリン100部に対して0.5〜25部であるマカロン用粉体混合物及び清水を攪拌してメレンゲを製し、該メレンゲを配合することを特徴とするマカロンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熟練の技術を要さずピエを有するマカロンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マカロンとはメレンゲ菓子の一種であり、種実類粉末とメレンゲとを混ぜ合わせて製した生地を板やシート上で丸型やハート型等に成型し、焼成して製するものである。種実類粉末とメレンゲとを混ぜ合わせる際に、マカロナージュと呼ばれるメレンゲの泡を潰す特徴的な工程を有することで、側面にピエと呼ばれる多孔質部が得られる。しかし、マカロナージュにおけるメレンゲの泡の潰し方や潰す程度が適切でない場合にピエを呈さないため、未熟な作業者はマカロンを製造することができない。
【0003】
マカロン様の焼き菓子の物性を改善する方法として、特許文献1に主原料としてマカダミアナッツの破砕物と卵白と糖類とを含み、かつ前記糖類を前記卵白の乾燥重量の6〜12倍含む原料を混合して生地を調製し、成形して焼成した後、直ちに圧延する製造方法が記載されている。特許文献1の製造方法で得られたマカロン様の焼き菓子は、ぎっしりと詰まった食感を有しているものの、未熟な作業者でも安定してピエを有するマカロンを製することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−329008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ピエを有するマカロンを熟練の技術を要さず製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記目的を達成すべく、乾燥卵白、サイクロデキストリン及び増粘多糖類を配合してマカロンを製したところ、意外にも熟練の技術を用いずとも熟練の職人が手作りしたマカロンと同等にピエを有するマカロンが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)乾燥卵白、サイクロデキストリン及び増粘多糖類を配合するマカロン用粉体混合物、
(2)サイクロデキストリンの配合割合が乾燥卵白100部に対して30〜100部、且つ増粘多糖類の配合割合がサイクロデキストリン100部に対して0.5〜25部である(1)記載のマカロン用粉体混合物、
(3)前記サイクロデキストリンがα−サイクロデキストリンである請求項1又は2記載のマカロン用粉体混合物、
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載のマカロン用粉体混合物及び清水を攪拌してメレンゲを製し、該メレンゲを配合するマカロンの製造方法、
(5)乾燥卵白、サイクロデキストリン、増粘多糖類及び清水を攪拌してメレンゲを製し、該メレンゲを配合するマカロンの製造方法、
(6)乾燥卵白、サイクロデキストリン及び増粘多糖類を配合するマカロン、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熟練の職人が製さずとも、高品位なマカロンを安定して製造できる。これにより、マカロンの品位向上や大量生産が可能となり、洋菓子業界の発展に貢献する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳述する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
本発明は、マカロン用粉体混合物、マカロンの製造方法及びマカロンに係る発明である。
【0011】
マカロンとは、メレンゲと種実類粉末とを混合し、泡を潰して製した生地を、板やシート上に成型し焼成して製造される、側面にピエと呼ばれる多孔質部を有する焼き菓子である。
【0012】
本発明のマカロン用粉体混合物は、乾燥卵白、サイクロデキストリン及び増粘多糖類を配合する。
【0013】
本発明のマカロン用粉体混合物のマカロン生地への配合量は、本発明のマカロン用粉体混合物がマカロン生地へ容易に分散してピエ形成の効果を発揮しやすいことから、マカロン生地中に1〜50%配合することが好ましい。
【0014】
本発明のマカロン用粉体混合物に用いる乾燥卵白は、通常食品素材として利用されているものであれば特に限定されない。例えば、殻付卵を割卵分離して得られた生卵白、ろ過、殺菌、凍結、濃縮、希釈、加糖、加塩、pH調整、粘度調整等の各種処理を施した卵白、糖分、塩分、リゾチーム、アビジン等の特定成分を除いた卵白に噴霧乾燥、静置乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施して水分量を15%以下としたものを用いれば良い。
【0015】
本発明のマカロン用粉体混合物に用いる乾燥卵白の配合量は、マカロン生地が充分に膨張してピエを形成しやすいことから、マカロン用粉体混合物中に2〜80%配合することが好ましい。
【0016】
本発明のマカロン用粉体混合物に用いるサイクロデキストリンは、特に限定されないが、例えば、α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン、γ−サイクロデキストリン、分岐サイクロデキストリン等を用いれば良く、ピエをより形成しやすいことからα−サイクロデキストリンを用いることが好ましい。
【0017】
本発明のマカロン用粉体混合物に用いるサイクロデキストリンの配合量は、乾燥卵白100部に対して30〜100部配合することが好ましく、30〜50部がより好ましい。上記範囲よりも配合量が少ないと、安定的にピエを形成しない場合がある。上記範囲よりも配合量が多いと、生地の柔軟性が失われてピエを形成しない場合がある。マカロン用粉体混合物中のサイクロデキストリンの配合量は1〜55%が好ましい。
【0018】
本発明のマカロン用粉体混合物に用いる増粘多糖類は、特に限定されないが、例えば、キサンタンガム、カラギナン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアガム、寒天等を挙げることができる。
【0019】
本発明のマカロン用粉体混合物に用いる増粘多糖類の配合量は、サイクロデキストリン100部に対して0.5〜25部配合することが好ましく、0.5〜5部がより好ましい。上記範囲よりも配合量が少ないと、安定的にピエを形成しない場合がある。上記範囲よりも配合量が多いと、生地の粘度が高くなり過ぎて歪な形状になったりピエを形成しない場合がある。マカロン用粉体混合物中の増粘多糖類の配合量は0.01〜15%が好ましい。
【0020】
マカロン生地への分散性を高めピエ形成の効果を発揮しやすくするため、本発明のマカロン用粉体混合物は砂糖を配合することが好ましく、粉糖を配合することがより好ましい。マカロン用粉体混合物中の砂糖の配合量は15〜90%が好ましく、50〜90%がより好ましい。
【0021】
本発明のマカロン用粉体混合物は、上記した原料の他に本発明の効果を損なわない範囲で、食品製造に一般的に使用されている原料を用いることができる。このような原料としては、特に限定されないが、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、ラクトース、マルトース、トレハロース、イヌリン、オリゴ糖、還元オリゴ糖、異性化糖、転化糖、糖アルコール、澱粉を加水分解して製したデキストリン、還元デキストリン等の糖類、コーンスターチ、加工澱粉等の澱粉類、大豆蛋白質、ゼラチン等の蛋白質原料、脱脂粉乳、乳蛋白質等の乳原料、粉末果汁、野菜粉末、コーヒー粉末、紅茶粉末、抹茶、ココア等の風味原料、バニラフレーバー、フルーツフレーバー等の香料、クチナシ色素等の着色料、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、酒石酸水素カリウム等のpH調整剤、クエン酸、乳酸等の酸味料、塩化ナトリウム等の塩類、食物繊維等が挙げられる。
【0022】
本発明のマカロン用粉体混合物の生地への添加方法は、清水と共に攪拌して起泡させメレンゲとして添加する方法と、メレンゲに種実粉末と共に添加する方法が挙げられる。ピエを形成しやすいことから、清水と共に攪拌して起泡させメレンゲとして添加する方法が好ましい。
【0023】
本発明のマカロン用粉体混合物を用いるマカロンの製造方法では、まず、メレンゲを調製する。
【0024】
メレンゲとは一般的に、卵白に糖類を添加し形が保たれる程度まで泡立てたものである。泡立てる方法は、特に限定されないが、例えば、泡立て器による手動での攪拌、製菓用縦型ミキサーによる攪拌、連続ミキサーによる強制的な空気の吹き込み等が挙げられる。攪拌前後や攪拌中に卵白を冷却、加熱、加圧、減圧する等の処理を行っても良く、例えば、攪拌中の卵白を湯煎や熱した砂糖水の添加により加熱処理して製するスイスメレンゲやイタリアンメレンゲを使用しても良い。
【0025】
本発明に用いるメレンゲは、本発明のマカロン用粉体混合物を清水と共に攪拌し起泡させたものを用いても、本発明のマカロン用粉体混合物を用いずに卵白等を起泡させたものを用いても良い。
【0026】
上記メレンゲに用いる卵白は、家禽の卵から分離した卵白であれば、特に限定されないが、凍結、泡立ちを損なわない程度の加熱、乾燥、濃縮、希釈、分画、酵素処理、加糖、加塩、pH調整、粘度調整等の処理を施した卵白でも良い。
【0027】
本発明のマカロン用粉体混合物を用いるマカロンの製造方法では、次に、上記メレンゲと種実粉末とを混合する。上記メレンゲと種実粉末との混合後や混合中にマカロナージュを行い、生地に含まれる泡を潰す。泡の潰し方は特に限定されないが、例えば、ゴムベラやカードで生地を押し潰す、ホイッパーで攪拌する等の方法が挙げられる。泡を潰す程度は特に限定されないが、例えば、流動性が高まる、比重が高まる、生地につやが出る等の変化を指標にして行えば良い。
【0028】
種実粉末とは一般的に、種子類を砕き粉末にしたものである。上記種子類としては、食用となるものであれば、特に限定されないが、例えば、アーモンド、くるみ、ピーナッツ、ヘーゼルナッツ、カシューナッツ、ペカンナッツ、松の実、ひまわりの種、ゴマ、ココナッツ、大豆等を用いれば良く、ピエをより形成しやすいことからアーモンド粉末を用いることが好ましい。
【0029】
本発明のマカロン用粉体混合物を用いるマカロンの製造において、上記した原料の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、食品製造に一般的に使用されている原料を用いることができる。このような原料としては、特に限定されないが、例えば、種実粉砕物、種実ペースト等の種実類、果汁、果肉ペースト、ドライフルーツ等の果実類、野菜汁、野菜ペースト、乾燥野菜等の野菜類、雑穀、シリアル、酒類、コーヒー、紅茶、チョコレート、キャラメル等が挙げられる。
【0030】
以下、本発明について、実施例、比較例に基き具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
乾燥卵白9.0g、α−サイクロデキストリン2.9g、キサンタンガム0.1g及び粉糖78.0gからなる本発明のマカロン用粉体混合物を調製した。
【0032】
[比較例1]
α−サイクロデキストリン2.9gを粉糖2.9gに置き換えた以外は実施例1に準じて粉体混合物を調製した。
【0033】
[比較例2]
キサンタンガム0.1gを粉糖0.1gに置き換えた以外は実施例1に準じて粉体混合物を調製した。
【0034】
[試験例1]
実施例1のマカロン用粉体混合物90.0g、比較例1の粉体混合物90.0g又は比較例2の粉体混合物90.0gに清水60.0gを加えて混合した後、ホイッパーを取り付けた卓上ミキサー(ケンウッド社製、KM−800型)で目盛り6にて4分間攪拌してメレンゲを製した。アーモンドパウダー90.0gと粉糖90.0gを粉体混合し、メレンゲに添加した後、ビーターを取り付けた卓上ミキサーで目盛り3にて1分間攪拌して泡を潰し、生地を製した。生地を天板に6gずつ丸型に搾り出し、オーブンで150℃、15分間焼成してマカロンを製した。実施例1のマカロン用粉体混合物を配合したマカロンは、側面に幅3mmのピエを有しており非常に好ましかった。一方、比較例1及び比較例2の粉体混合物を配合したマカロンは、ピエを有しておらず好ましくなかった。
【0035】
[試験例2]
サイクロデキストリン及び増粘多糖類の配合割合によるピエの形成に与える影響を調べた。各配合量を表1の量に変更した以外は、実施例1に準じて粉末混合物を製した。得られた粉体混合物を用い、試験例1に準じてマカロンを製した。得られたマカロンを、下記の評価基準で評価した。
【0036】
【表1】

【0037】
<評価基準>
◎:幅3mm以上のピエを有している。
○:幅2〜3mmのピエを有している。
△:幅2mm未満のピエを有している。
×:ピエを有していない。
【0038】
表1より、サイクロデキストリン及び増粘多糖類を配合したマカロンは側面にピエを有しており好ましかった。サイクロデキストリンを乾燥卵白100部に対して30〜100部の範囲で配合し、増粘多糖類をサイクロデキストリン100部に対して0.5〜25部の範囲で配合したマカロンは幅2mm以上のピエを有してより好ましかった。特にサイクロデキストリンを乾燥卵白100部に対して30〜50部の範囲で配合し、増粘多糖類をサイクロデキストリン100部に対して0.5〜5部の範囲で配合したマカロンは幅3mm以上のピエを有しており非常に好ましかった。
【0039】
[実施例2]
α−サイクロデキストリン2.9gを、β−サイクロデキストリン2.0g及びγ−サイクロデキストリン0.9gに変更した以外は、実施例1に準じて粉末混合物を製した。得られた粉末混合物を用い、試験例1に準じてマカロンを製した。得られたマカロンは、側面に幅2mmのピエを有しており好ましかった。
【0040】
[実施例3]
乾燥卵白9.0gを清水60.0gで溶解して製した卵白液を、ホイッパーを取り付けた卓上ミキサーで目盛り6にて1分間攪拌した後、グラニュー糖78.0g、α−サイクロデキストリン2.9g及びグアーガム0.1gからなる粉体混合物を加えてさらに3分間攪拌してメレンゲを製した。アーモンドパウダー90.0g、粉糖90.0gを粉体混合し、メレンゲに添加した後、ビーターを取り付けた卓上ミキサーで目盛り3にて1分間攪拌して泡を潰し、生地を製した。試験例1に準じて生地を焼成してマカロンを製した。得られたマカロンは、側面に幅1mmのピエを有しており好ましかった。
【0041】
[実施例4]
乾燥卵白4.5g、α−サイクロデキストリン2.9g、キサンタンガム0.1gからなる本発明のマカロン用粉体混合物を調製した。グラニュー糖78gを清水20gに加えて117℃まで加熱して砂糖液を調製した。液卵白36gを、ホイッパーを取り付けた卓上ミキサーで目盛り6にて2分間攪拌し、砂糖液を加えながらさらに2分間攪拌を続けてメレンゲを製した。アーモンドパウダー90g、粉糖90g及び本発明のマカロン用粉体混合物7.5gを粉体混合し、清水30gを加えて混合してペースト状とした後、メレンゲに添加し、ビーターを取り付けた卓上ミキサーで目盛り3にて1分間攪拌して泡を潰し、生地を製した。試験例1に準じて生地を焼成してマカロンを製した。得られたマカロンは、側面に幅1mmのピエを有しており好ましかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥卵白、サイクロデキストリン及び増粘多糖類を配合することを特徴とするマカロン用粉体混合物。
【請求項2】
サイクロデキストリンの配合割合が乾燥卵白100部に対して30〜100部、且つ増粘多糖類の配合割合がサイクロデキストリン100部に対して0.5〜25部である請求項1記載のマカロン用粉体混合物。
【請求項3】
前記サイクロデキストリンがα−サイクロデキストリンである請求項1又は2記載のマカロン用粉体混合物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のマカロン用粉体混合物及び清水を攪拌してメレンゲを製し、該メレンゲを配合することを特徴とするマカロンの製造方法。
【請求項5】
乾燥卵白、サイクロデキストリン、増粘多糖類及び清水を攪拌してメレンゲを製し、該メレンゲを配合することを特徴とするマカロンの製造方法。
【請求項6】
乾燥卵白、サイクロデキストリン及び増粘多糖類を配合することを特徴とするマカロン。


【公開番号】特開2011−55771(P2011−55771A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209948(P2009−209948)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】