説明

マグネタイト粉末

【課題】高周波領域での電波吸収特性を改善したマグネタイトを提供する。
【解決手段】AFM(原子間力顕微鏡)像において粒子表面に5〜80nm間隔の層状凹凸模様が観察されるヘマタイトを還元してなるマグネタイトの粉末。前記ヘマタイトは、鉄鋼酸洗廃液等のFe含有酸液を450℃以上好ましくは450〜900℃の大気雰囲気中で熱分解して得たヘマタイトを還元することにより得ることができる。平均粒径D50が1〜10μm、D90が10〜50μmであるものが好適な対象となる。また、これを更に湿式粉砕して、1次粒子の平均粒径を0.1〜1.0μmに微細化したマグネタイトの粉末が特に好ましい対象となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘマタイト(Fe23)を還元して得られるマグネタイト(Fe34)の粉末であって、特にGHz帯域での電波吸収性を改善したものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信手段の急速な発達により、GHz帯域の高周波を利用した電子機器が急増している。これに伴い、電子機器の誤動作防止等の観点から、GHz帯域で良好な特性を示す電波吸収体の普及が強く望まれている。
【0003】
従来、マイクロ波領域(MHz帯域〜GHz帯域にかけて)の電波に対する電波吸収体には、特殊な用途を除きソフトフェライトがほぼ独占的に使用されている。しかし、ソフトフェライトはヘマタイトに複合化のための金属酸化物を添加して製造されるので高価であり、電波吸収体ひいては電子機器のコストを増大させる一因となっている。また、ソフトフェライトには「スネークの限界」と言われる電波吸収限界があって、10GHz以上の高周波の電波に対しては吸収能力が急速に減衰するので、通信用電波の高周波化に十分対応できないという問題がある。
【0004】
一方、マグネタイト(Fe34)は数少ない黒色顔料の一つで、可視光領域の電磁波を吸収することから高周波領域の電波吸収能力も期待できるが、塗料、黒色トナーの用途に広く利用されているものの、電波吸収体としては広く普及するには至っていない。
【0005】
マグネタイトの工業的製法としては、「湿式法」によりヘマタイトを経ずにFeイオン含有水溶液から直接マグネタイトを製造する方法(例えば特許文献1)が知られている。また、塩化第一鉄とヘマタイトの混合材料から、熱分解と固相反応を利用してマグネタイトを得る方法(例えば特許文献2)も知られている。
【0006】
中間物質であるヘマタイトの製造法としては「湿式法」と「乾式法」がある。「湿式法」はFe含有酸液を中和するものであり、中和条件の設定を入念に行うことにより粒径の精度を高めることができる。しかし、工程が多いのでコストは高くなる。他方、「乾式法」はFe含有酸液を脱水・大気酸化するものであり、一旦低温で乾燥したのち高温で焼成する「低温乾燥方式」と、高温で一気に焼成する「熱分解方式」がある。乾式法は工程が少ないのでコスト面で有利となる。
【0007】
【特許文献1】特開平7−257930号公報
【特許文献2】特開平9−71423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、マグネタイトは高周波域での電波吸収特性が期待されるにもかかわらず、現時点ではまだソフトフェライトに代わって広く流通するには至っていない。本発明は、電波吸収性能を顕著に改善したマグネタイトを開発し提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は種々検討の結果、Fe含有酸液を乾式法で熱分解して得たヘマタイトを使用し、これを還元してマグネタイトとしたとき、湿式法を主体として製造される既存のマグネタイトと比べGHz帯域の高周波に対する電波吸収性能が顕著に向上することを見出した。そして、中間物質であるヘマタイトの構造についても調査を進めたところ、熱分解法によるヘマタイトは湿式法によるものと顕著に異なる表面性状をもつことが明らかになった。本発明はこのような新規な知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち本発明では、電波吸収性能を顕著に改善したマグネタイト粉末として、AFM(原子間力顕微鏡)像において5〜80nm間隔の層状凹凸模様が観察されるヘマタイトを還元してなるマグネタイトの粉末が提供される。
ここで、層状凹凸とは、畝状の凸部がほぼ平行に並んだ凹凸形状あるいは階段状の凹凸形状である。層状凹凸模様の間隔は、隣り合う凸部同士(あるいは凹部同士)のAFM像における投影距離である。
【0011】
このような層状凹凸模様が観察されるマグネタイトの粉末は、Fe含有酸液を450℃以上の大気雰囲気中で熱分解して得たヘマタイト(以下「熱分解ヘマタイト」という)を還元して得ることができる。例えば、鉄鋼酸洗廃液を450〜900℃の大気雰囲気中に噴霧することにより熱分解して得たヘマタイトを還元することによって得られる。
【0012】
このようなマグネタイト粉末のうち、平均粒径D50が1〜10μm、D90が10〜50μmのものが好適な対象となる。
ここで、D50はレーザー回折法で測定される粒度分布における平均粒径である。D90はレーザー回折法で測定される粒度分布における90%個数存在率に相当する粒径である。
【0013】
上記の熱分解ヘマタイトを還元して得たマグネタイトの粉末は更に湿式粉砕に供してもよい。また、上記熱分解ヘマタイトを湿式粉砕した粉末を還元してマグネタイトとすることができる。このように微細化したマグネタイトとしては、1次粒子の平均粒径が0.1〜1.0μmにまで粉砕されたマグネタイト粉末が好適な対象となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、後述のように、従来のマグネタイトに比べGHz帯域の電波吸収性能を大幅に改善したマグネタイトが提供可能になった。このマグネタイトは原料として鉄鋼酸洗廃液を熱分解したヘマタイトを使用できるので、従来のソフトフェライトと比べコスト低減が可能である。また、熱分解ヘマタイトは通常ブロードな粒度分布を有するので、これを基にして作られたマグネタイトも湿式法のものに比べブロードな粒度分布なる。ブロードな粒度分布をもつマグネタイト粉末はフィラーとして大きな充填率が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に、後述実施例の試料E(本発明例のマグネタイト)の製造に使用したヘマタイトのAFM(原子間力顕微鏡)像を例示する。このヘマタイトは鉄鋼酸洗廃液を約700℃の大気雰囲気中に噴霧して熱分解することにより得られたものである。AFM観察は、島津製作所製SFT−9800を用いてダイナミックモードで行った。ヘマタイト粉末を原子レベルで平坦な雲母劈開面に均一に塗り、これを観察した。図1から判るように、このヘマタイト粒子の表面には層状の凹凸模様が見られる。その凹凸模様の間隔(例えば白く見える凸部同士の写真上における投影距離)が5〜80nmである部分がいたるところに観察される。
【0016】
図2に、後述実施例の試料D(比較例のマグネタイト)の製造に使用したヘマタイトのAFM(原子間力顕微鏡)像を例示する。このヘマタイトは硫酸第一鉄の水溶液に水酸化ナトリウムを添加してオキシ水酸化鉄を生成し、これをエアー曝気して製造した湿式法によるヘマタイト(以下「湿式ヘマタイト」という)である。AFM観察は上記と同様にして行った。図2のAFM像には明瞭な表面凹凸は見られない。
【0017】
図1に見られる層状の表面凹凸は、ヘマタイト粒子の結晶内部に多数の面状欠陥が存在する構造を反映したものと推察される。すなわちこのヘマタイト粒子は、いわば多数の断層を含むような構造であると捉えることができる。このような断層構造は、湿式ヘマタイト(図2)には見られないものであり、熱分解を伴う乾式法で得られたヘマタイトに特有なものである。その生成メカニズムは十分解明されていないが、結晶の成長過程において熱分解による大きな熱的衝撃が加わることによって結晶内部に多数の欠陥が導入されるものと考えられる。
【0018】
図3には、図1の熱分解ヘマタイトを還元して得たマグネタイト粒子(後述の試料E)のTEM(透過型電子顕微鏡)写真を示す。凹凸の輪郭が観察され、これはヘマタイト粒子表面に見られた層状凹凸に由来するものと考えられる。このマグネタイトは後述実施例で示すように、湿式法で直接得たマグネタイトや、湿式ヘマタイトを還元して得たマグネタイトに比べ、電波吸収特性が顕著に改善されている。その改善メカニズムも未解明であるが、内部欠陥に起因する構造の相違が有効に作用しているものと推察される。
【0019】
本発明のマグネタイトの粉末を得るための中間物質である熱分解ヘマタイトは、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、原料としてFe含有酸液を用意する。塩化第一鉄を主体とする溶液が好ましい。例えば、鉄鋼酸洗ラインから出る廃酸は塩化第一鉄主体であり、本発明で利用することが可能である。特に普通鋼の酸洗ラインから出る廃酸は含有メタル分の大部分(概ね95質量%以上)がFeであるため、これを使用するとヘマタイト主体の金属酸化物が得られ、そのまま選別せずにマグネタイトへの還元処理に供することができる。ステンレス鋼などの高合金鋼の酸洗ラインから出る廃酸は、Feの他、Cr、Niなどのメタル分を多く含むので、注意を要する。
【0020】
次に、Fe含有酸液を高温の大気雰囲気中で焙焼することにより、熱分解ヘマタイトを得る。雰囲気の温度は450℃以上とすることが望ましい。それより低温だと断層構造を有するヘマタイトを安定して得ることが難しくなる。これは熱衝撃が不足するためだと考えられる。実用的には500〜900℃程度が良く、550〜850℃が一層好ましい。雰囲気温度が高くなると一般には得られるヘマタイトの平均粒径が大きくなる傾向がある。このような焙焼は、後述する耐酸性のロータリーキルンを用いることにより好適に実施できる。鉄鋼酸洗廃液を利用する場合は、塩酸回収を主たる目的としたルスナー法による処理を流用することも可能である。
【0021】
このようにして、AFM(原子間力顕微鏡)像に5〜80nm間隔の層状凹凸模様が観察されるヘマタイトが得られる。この熱分解ヘマタイトをマグネタイトまで還元すると、高周波帯域での電波吸収特性が改善されたマグネタイトとなる。マグネタイトへの還元は、基本的には水素等の還元雰囲気中で加熱することによって行われる。ただし、熱分解ヘマタイトは一般に粒度分布がブロードであり、粉末の中にはサブミクロンの超微粒子も含まれる点に注意する必要がある。すなわち、粉体の乾燥や焙焼処理に使われる一般的な炉(ロータリーキルンなど)を用いると、サブミクロンの超微粒子ヘマタイトがライニングの目地に入り込み、滞留時間が長くなると金属鉄にまで過剰還元されてしまう恐れがある。この微細な金属鉄粉が製品中に混入すると大気中で発火することもあり、危険である。また、炉内開放時には炉内で発火し、ライニングを損傷することがある。
【0022】
発明者は種々検討の結果、このようなトラブルを引き起こさずに安全にマグネタイトの段階で還元を終了し、目的のマグネタイト粉末製品を得るためには、以下のような構成を備えた還元炉を使用すればよいことを見出した。
すなわち、還元性ガスを導入して炉内を還元雰囲気に保てるロータリーキルンにおいて、i) 微細なヘマタイト粒子の飛散を防止するため、加熱は外熱式のラジアル方式とし、ii) 炉心管はライニングを施す必要のないステンレス鋼等の高耐食・耐熱合金で作り、iii) 粉体全体がガスとできるだけ均一に接触するように攪拌機構を設け、iv) 金属鉄粉が生成した場合の発火を防止するため、炉心管の後面(粉体取り出し側)に強力な冷却機構(水冷装置など)を設ける。
このような特殊構造のロータリーキルンによって目的のマグネタイト粉末を安全かつ安定的に得ることができた。
【0023】
還元雰囲気は、例えばH2やCOなどの還元性ガスを連続的に導入しながら、温度を400〜650℃程度に維持した雰囲気が採用できる。400℃未満では還元反応が進行し難い。650℃を超えると過剰還元を防止するための滞留時間のコントロールが難しくなる。つまり、滞留時間遅延によりマグネタイトを超えてウスタイトあるいはさらに金属鉄にまで還元され易くなる。上記温度範囲においては、適正な還元滞留時間を概ね数分〜30分程度の範囲で設定することが可能であり、工業生産に適している。
【0024】
電波吸収体の用途を考慮した場合、平均粒径D50が1〜10μm、D90が10〜50μmの粒度分布をもつマグネタイトの粉末が好ましい。マグネタイトは磁性粒子であるから、通常、1次粒子に分離した形態で存在することはなく、1次粒子が凝集した2次粒子として存在する。上記D50は2次粒子の粒径として測定される値である。ところが、発明者の研究により、その2次粒子を構成する1次粒子自体の平均粒径D50が1μm以下に細粒化されているとき、電波吸収性能はより一層向上することがわかった。具体的には、マグネタイト粉末の1次粒子の平均粒径D50が0.1〜1.0μmになっている微粉砕マグネタイトはGHz帯域での電波吸収特性改善に極めて有効となる。この場合、1次粒子のD90は0.4〜3.0μm程度となっていることが望ましい。
【0025】
通常の熱分解法では、通常、D50が1〜数μm程度の熱分解ヘマタイトが得られるが、還元処理時に造粒や若干の焼結が生じることから、還元後のマグネタイト粉末のD50はそれより大きくなる。還元後の状態において、マグネタイト粉末のD50が10μmを超えているような場合には、その粉末を湿式粉砕することによりD50を1〜10μmに調整することができる。D90も同時に10〜50μmに調整可能である。また、還元して得たマグネタイト粉末を十分に湿式粉砕することで1次粒子を0.1〜1.0μmに細粒化したマグネタイト粉末を得ることができる。このような湿式粉砕手段としては、高速ビーズミルを使用することが好適である。ただし、還元後に粉砕する場合は、乾燥時にマグネタイトが酸化しないように乾燥温度や雰囲気に注意する必要がある。
【実施例】
【0026】
〔実施例1〕
普通鋼の酸洗ラインから出る鉄鋼酸洗廃液を濃縮した後、ルスナー法により噴霧焙焼して熱分解ヘマタイトを得た。この濃縮廃酸は、含有メタル分の97%がFeからなるものであった。噴霧焙焼では、濃縮廃酸を焙焼炉(ロースター)の頂部から数本のスプレーノズルにより50〜80N/cm2の圧力で約700℃の大気雰囲気中に噴霧した。得られた熱分解ヘマタイトの粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製SALD−2000)にて測定した結果、平均粒径D50=2.93μm、D90=19.40μmであった。また、この熱分解ヘマタイトをAFM(原子間力顕微鏡)で観察した結果、前述の図1に示すとおり、5〜80nm間隔の層状凹凸模様が見られた。AFMの観察手法は前述したとおりである。
【0027】
この熱分解ヘマタイトを前述の特殊構造のロータリーキルンにより還元して、マグネタイト粉末を得た。このロータリーキルンは、炉心管の内径が約250mmであり、前述のi)〜iv)の構成を有するものであり、炉心管および攪拌羽はステンレス鋼で構成され、内部にライニングは施していない。H2ガスを150L/分の流量で導入し、還元温度500℃で15分間還元処理を行った。得られた粉体は、X線回折の結果、98質量%以上がマグネタイトからなるものであった。このマグネタイト粉末の粒度分布を上記の方法で測定した結果、D50=6.2μm、D90=35.3μmであった。熱分解ヘマタイトと、それを還元して得たマグネタイトの粒径が異なるのは、ロータリーキルン方式で還元したことによる造粒と若干の焼結によるものと考えられる。
このマグネタイト粉末を試料Eとして、後述の電波吸収特性試験および実施例3の粉砕処理に供した。
【0028】
〔実施例2〕
Fe濃度20%の塩化第一鉄水溶液を用意し、実施例1でヘマタイトの還元に用いたロータリーキルンの炉内に滴下する方法で噴霧焙焼を行い、熱分解ヘマタイトを得た。焙焼雰囲気は約800℃の大気雰囲気とした。得られた熱分解ヘマタイトの粒度分布を上記の方法で測定した結果、平均粒径D50=6.61μm、D90=19.40μmであった。また、この熱分解ヘマタイトを実施例1と同様の方法でAFM(原子間力顕微鏡)で観察した結果、図1と同様に5〜80nm間隔の層状凹凸模様が見られた。
【0029】
この熱分解ヘマタイトを実施例1で使用したロータリーキルンにより還元して、マグネタイト粉末を得た。H2ガスを150L/分の流量で導入し、還元温度600℃で20分間還元処理を行った。得られた粉体は、X線回折の結果、98質量%以上がマグネタイトからなるものであった。このマグネタイト粉末の粒度分布を上記の方法で測定した結果、D50=9.4μm、D90=39.0μmであった。
このマグネタイト粉末を試料Fとして、後述の電波吸収特性試験に供した。
【0030】
〔実施例3〕
実施例1で得られた試料Eのマグネタイト粉末を、湿式高速ビーズミルで60分間粉砕して、微細化したマグネタイト粉末を得た。このマグネタイト粉末の粒度分布を上記の方法で測定した結果、D50=1.61μm、D90=3.42μmであった。この粒度分布の測定値は1次粒子が凝集した2次粒子のものであるが、ヘマタイト粉末を用いて上記と同様の条件で粉砕処理実験を行ったところ、その微粉砕ヘマタイトの粒度分布はD50=0.37μm、D90=0.64μmであった。ヘマタイトは磁性を有しない(すなわち1次粒子が分離して存在できる)粒子であるから、その測定値は1次粒子の測定値であると考えよく、ここで得られた微粉砕マグネタイトの1次粒子の粒度分布もこれと同程度になっていると見てよい。このことは、当該微粉砕マグネタイト粒子の走査型電子顕微鏡観察の結果から肯定される。
この微細化したマグネタイト粉末を試料Gとして、後述の電波吸収特性試験に供した。
【0031】
〔電波吸収特性試験〕
(1)電子レンジ被爆試験
試料として、下記のマグネタイト粉末を用意した。
・試料C:湿式法によりオキシ水酸化鉄を還元して直接得られたマグネタイト粉末。平均粒径D50=2.3μm、D90=4.2μm。
・試料D:湿式法によりFe含有酸液を中和する方法で得られたヘマタイトを、実施例1と同様の方法で還元して得たマグネタイト粉末。平均粒径D50=2.8μm、D90=5.3μm。
・試料E:熱分解ヘマタイトを還元して得た実施例1のマグネタイト粉末。D50=6.2μm、D90=35.3μm。
・試料F:熱分解ヘマタイトを還元して得た実施例2のマグネタイト粉末。D50=9.4μm、D90=39.0μm
・試料G:試料Eを粉砕して得た実施例3マグネタイト粉末。D50=1.61μm、D90=3.42μm。かつ1次粒子の平均粒径は0.1〜1.0μmの範囲にある。
【0032】
電波吸収体では、電波のエネルギーを熱エネルギーに変換することにより電波を吸収する。そこで、各試料のGHz帯域での電波吸収特性を簡便に比較するために、電子レンジを用いて試料の反応を調べた。電子レンジは2.45GHzの強力な電波を照射する調理器具である。ここでは家庭用として市販されている出力1000Wの電子レンジを用いた。試料粉末5gを蒸発皿に入れ、電子レンジで2.45GHzの強力な電波に被爆させ、被爆開始から赤熱するまで、または放電が開始するまでの時間を計測した。この反応時間が短いほど当該電波のエネルギーを熱に変換する作用が大きい、すなわち電波吸収作用が大きいと考えられる。各試料につき繰り返し数n=5で実験を行った。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から判るように、熱分解ヘマタイトを経て得られたマグネタイト(試料E、F、G)は、湿式法を経て得られたマグネタイト(試料C、D)に比べ、赤熱・放電開始までの時間が大幅に短縮され、2.45GHzの電波に対する吸収特性は顕著に改善された。これは、熱分解ヘマタイトを生成する過程で導入された結晶内部の欠陥構造が何らかの作用をもたらしているものと推察される。また、1次粒子の平均粒径が0.1〜1.0μmの範囲にある微粉砕されたマグネタイト(試料G)は、微粉砕していないもの(試料E、F)と比べても更に吸収特性が改善された。
【0035】
(2)粉体のみでの電波吸収量測定試験
一般に電波吸収体用の磁性粉末はポリマーなど他の成形材料に混練されて使用され、電波吸収量はポリマーの種類、フィラーの充填率、コンパウンドの厚みなどによって影響を受ける。ここでは粉体独自がもつ吸収特性を把握するためにコンパウンド化していない粉体のみを自然堆積・平準化法により厚さ2mmまたは6mmに調製して測定用サンプルとした。試料としては前記マグネタイト粉末の試料Cおよび試料Eと、試薬のカルボニル鉄粉(平均粒径8.5μm)を用いた。各測定用サンプルについて近傍電界吸収量測定法により0.1〜3GHzでの電波吸収量を測定した。測定は電磁波吸収特性JIS化委員所属機関にて、マイクロストリップライン法により行った。電波吸収量は、各圧粉体厚さともカルボニル鉄粉の吸収量を基準(100%)とした吸収率(%)で評価した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から判るように、熱分解ヘマタイトを還元して得られた本発明のマグネタイト粉末(試料E)のものは、湿式法を経て得られた従来のマグネタイト粉末(試料C)のものと比べ、吸収特性は格段に改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】試料E(本発明例)のマグネタイトの製造に使用した熱分解ヘマタイトについてのAFM(原子間力顕微鏡)像。
【図2】試料D(比較例)のマグネタイトの製造に使用した湿式ヘマタイトについてのAFM(原子間力顕微鏡)像。
【図3】試料E(本発明例)のマグネタイト粒子の一部を撮影した透過型電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AFM(原子間力顕微鏡)像において粒子表面に5〜80nm間隔の層状凹凸模様が観察されるヘマタイトを還元してなるマグネタイトの粉末。
【請求項2】
Fe含有酸液を450℃以上の大気雰囲気中で熱分解して得たヘマタイトを還元してなるマグネタイトの粉末。
【請求項3】
鉄鋼酸洗廃液を450〜900℃の大気雰囲気中に噴霧することにより熱分解して得たヘマタイトを還元してなるマグネタイトの粉末。
【請求項4】
平均粒径D50が1〜10μm、D90が10〜50μmである請求項1〜3に記載のマグネタイトの粉末。
ただし、D50はレーザー法で測定される平均粒径であり、D90はレーザー法で測定される粒度分布における90%個数存在率に相当する粒径である。
【請求項5】
請求項1〜3に記載のマグネタイトの粉末を湿式粉砕してなるマグネタイトの粉末。
【請求項6】
前記ヘマタイトを湿式粉砕したのち還元してなる請求項1〜3に記載のマグネタイトの粉末。
【請求項7】
1次粒子の平均粒径が0.1〜1.0μmである請求項5または6に記載のマグネタイトの粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−160559(P2006−160559A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353980(P2004−353980)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(502127010)日新フェライト株式会社 (2)
【Fターム(参考)】