説明

マシンリーマー

【課題】 マシンリーマーとして、切削速度を上げても被削材が刃部へ溶着しにくく、高い加工能率が得られ、重切削でも刃先の損耗が少なく、耐久性に優れて超寿命なものを提供する。
【解決手段】 リーマーヘッド本体11の外周部に細長い複数本の刃部5A〜5Fが突設され、これら複数本の刃部5A〜5Fとして異なる材質のものが混在してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルによる穿孔後のリーマー加工に用いるマシンリーマーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、リーマー加工は、先にドリルによって穿孔した被削材の穴の寸法を正確にしたり、穴内周の面均しを行うために、ヘッド周囲に多数本(6本又は8本が多い)の細長い刃部が突設された切削工具のリーマーによって穴内周を浅い削り代で切削する。しかして、工作機械の回転主軸に取り付けるマシンリーマー(チャッキングリーマー)としては、工具全体又はヘッド部全体が高速度鋼等の単一の工具材料からなるものに代わり、近年では鋼製等のリーマーヘッド本体に被削材種や加工条件等に応じて超硬合金、セラミック、サーメット等の硬質工具材料からなる刃部を固着したものが広く使用され、特に超硬合金及びサーメットの刃部を有するものが多用されている。
【0003】
しかるに、最近においては、切削加工全般に更なる高精度化と高能率化が希求されており、リーマー加工でも加工能率の向上が要望されているが、従来のマシンリーマーでは刃部の材質による一長一短があるために上記要望には充分に対応できなかった。例えば、超硬合金の刃部を設けたマシンリーマーは、刃先の靱性が大きいために重切削にも適用できるが、周速を上げると被削材が刃部へ溶着し易くなることから、高速加工が困難である上、刃先の摩耗が速く短寿命である。一方、セラミックの刃部を設けたマシンリーマーは、刃先硬度が大きいので周速を高められるが、刃先が脆く欠け易いために重切削には適用困難である。また、サーメットの刃部を有するマシンリーマーは、サーメットが靱性や硬度の面で超硬合金とセラミックとの中間的な性状であるため、加工速度、耐久性、耐切削負荷といった性能面でも全2者の中間的なものでしかない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の情況に鑑み、マシンリーマーとして、切削速度を上げても被削材が刃部へ溶着しにくく、もって高い加工能率が得られる上、重切削でも刃先の損耗が少なく、耐久性に優れて超寿命なものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るマシンリーマーは、図面の参照符号を付して示せば、リーマーヘッド本体(ヘッド部11)の外周部に細長い複数本の刃部5A〜5Fが突設され、これら複数本の刃部5A〜5Fとして異なる材質のものが混在してなる構成としている。
【0006】
請求項2の発明は、上記請求項1のマシンリーマーにおいて、複数本の刃部5A〜5Fとして、超硬合金、焼結セラミックス、サーメット、微結晶ダイヤモンド焼結体より選ばれる少なくとも2種の材質のものが混在してなるものとしている。
【0007】
請求項3の発明は、上記請求項1又は2のマシンリーマーにおいて、鋼製のリーマーヘッド本体(ヘッド部11)の外周部に、該リーマーヘッド本体1とは異なる複数種の材質の刃部5A〜5Fが固着されてなるものとしている。
【0008】
請求項4の発明は、上記請求項1〜3のいずれかのマシンリーマーにおいて、リーマーヘッド本体(ヘッド部11)の外周部に4本以上の偶数本の刃部5A〜5Fが周方向に等配して突設され、径方向に対向する各対の刃部が互いに異なる材質であるものとしている。
【0009】
請求項5の発明は、上記請求項4のマシンリーマーにおいて、前記各対の一方の刃部5A,5C,5Eが超硬合金からなると共に、他方の刃部5B,5D,5Fが焼結セラミックス、サーメット、微結晶ダイヤモンド焼結体より選ばれる一種からなるものとしている。
【0010】
請求項6の発明は、上記請求項4のマシンリーマーにおいて、前記各対の一方の刃部5A,5C,5Eがサーメットからなると共に、他方の刃部5B,5D,5Fが焼結セラミックス及び微結晶ダイヤモンド焼結体より選ばれる一種からなるものとしている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明に係るマシンリーマーによれば、リーマーヘッド本体の外周部に突設された複数本の刃部に異なる材質のものが混在し、刃部同士で材質の違いに基づく硬さや靱性等の物性に差があることから、異なる材質の刃部間において各々の難点を相互に補完し合うと共に、相乗効果で利点が更に伸ばされる形で、マシンリーマー全体としての加工性能と耐久性が共に良好となる。
【0012】
請求項2の発明によれば、上記マシンリーマーにおける複数本の刃部として、特定の工具材料から選ばれる少なくとも2種の材質のものが混在していることから、異なる材質の刃部間における各々の難点の相互補完作用と利点の伸長作用がより効果的に発現し、マシンリーマー全体としての加工性能と耐久性が更に良好となる。
【0013】
請求項3の発明によれば、鋼製のリーマーヘッド本体の外周部に、異なる複数種の材質の刃部をロウ付けやメタライジングで固着することにより、上記マシンリーマーを容易に製作できる。
【0014】
請求項4の発明によれば、リーマーヘッド本体の径方向に対向する各対の刃部が互いに異なる材質であることから、加工中に両刃部の材質特性が強く影響し合い、相互の難点の補完作用が一層効果的に発揮され、マシンリーマー全体としての加工性能と耐久性がより向上する。
【0015】
請求項5の発明によれば、リーマーヘッド本体の径方向に対向する各対の一方の刃部は靱性が高く耐欠損性に優れる反面で硬さ及び耐摩耗性に劣る超硬合金からなるのに対し、他方の刃部が高硬度で耐摩耗性に優れる反面で靱性に乏しく耐欠損性に劣る材質からなるが、各々の同一材質からなる刃部を有するリーマーヘッドよりも格段に高い加工能率が得られる上に、刃先の耐摩耗性と耐欠損性が共に良好となり、刃先寿命も大幅に延びる。
【0016】
請求項6の発明によれば、リーマーヘッド本体の径方向に対向する各対の一方の刃部は靱性が比較的高く耐欠損性のよい反面で硬さ及び耐摩耗性にやや劣るサーメットからなるのに対し、他方の刃部が高硬度で耐摩耗性に優れる反面で靱性に乏しく耐欠損性に劣る材質からなるが、各々の同一材質からなる刃部を有するリーマーヘッドよりも格段に高い加工能率が得られる上に、刃先の耐摩耗性と耐欠損性も向上して刃先寿命が延びる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係るマシンリーマーの実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
図1及び図2に示すマシンリーマーは、鋼製の本体1の一端側が径大のヘッド部11をなし、他端側が工作機械の回転主軸(図示省略)に嵌装するテーパーシャンク部12をなし、軸心Oに沿って貫設されたクーラント供給孔2がヘッド部11の先端面11aの中心にクーラント放出口2aとして開口すると共に、該クーラント供給孔2の基端側内周面に雌ねじ10が刻設され、また中間のネック部13の径方向両側に回転主軸の回転駆動力を伝えるドライブピン3,3か突設されている。
【0019】
この本体1のヘッド部11の外周面11bには、軸心Oに対して傾斜した方向に沿う6本の凹溝部4…が周方向に等配形成され、これら凹溝部4…の片側側面に臨んで略角軸状の独立部材からなる細長い刃部5A〜5Fが固着されている。そして、これらの刃部5A〜5Fは、ヘッド周囲に角度60°の位相差で配置し、それぞれ一端側51がヘッド部11の先端面11aよりも若干突出すると共に、外面部52もヘッド部11の外周面11bよりも若干突出するように配置している。
【0020】
ここで、6本の刃部5A〜5Fは、これら全部が同じ材質ではなく、少なくとも2種の材質のものが混在したものとなっている。その材質としては、WC−Co系の如きタングステンカーバイドを主体とした超硬合金、アルミナ系、窒化珪素系、窒化ホウ素系の如き焼結セラミックス、TiC/N系の如きサーメット、微結晶ダイヤモンド焼結体等が好適なものとして挙げられる。
【0021】
しかして、より好適な態様は、6本の刃部5A〜5Fの内、ヘッド径方向で対向する各対、つまり刃部5A−5D対、刃部5B−5E対、刃部5C−5F対の各々一方と他方とが異なる材質からなる構成である。
【0022】
更に、最も好適な態様は、これら各対における一方の刃部が超硬合金又はサーメットからなる構成である。すなわち、具体的には、例えば周方向一つ置きの刃部5A,5C,5Eを超硬合金製として、他の刃部5B,5D,5Fが焼結セラミックス、サーメット、微結晶ダイヤモンド焼結体のいずれかとした構成と、同じく刃部5A,5C,5Eをサーメット製として、他の刃部5B,5D,5Fが焼結セラミックス又は微結晶ダイヤモンド焼結体とした構成である。
【0023】
なお、本体1の鋼製のヘッド部11に対し、サーメットや超硬合金からなる刃部はロウ付けできるが、焼結セラミックスからなる刃部はロウ付け困難である。しかるに、焼結セラミックスでもメタライジング法によれば確実に固着できる。このメタライジング法は、セラミックス表面を金属化して相手の金属材にロウ付けを行うもので、ロウ付け不能なセラミックスと金属材を接合する技術として知られている。
【0024】
また、微結晶ダイヤモンド焼結体は、一般的に、超硬合金の基材表面に超高圧高温技術によって微結晶ダイヤモンドを緻密に焼結させた多結晶人造ダイヤモンド層として得られる。従って、これを用いた刃部としては、超硬合金からなる基材表面に微結晶ダイヤモンド焼結体の焼結層を設けたものを使用し、超硬合金からなる刃部と同様にロウ付けによって鋼製のヘッド部11に固着すればよい。
【0025】
このような構成のマシンリーマーによれば、ヘッド部11の外周部に突設された刃部5A〜5Fに異なる材質のものが混在し、刃部同士で硬さや靱性等の物性に差があることから、異なる材質の刃部間では各々の難点を相互に補完し合うと共に、相乗効果で利点が伸ばされる形になり、特にヘッド部11の径方向に対向する各対の刃部が互いに異なる材質であれば、加工中に両刃部の材質特性が強く影響し合い、相互の難点の補完作用と利点の伸長作用がより効果的に発揮され、マシンリーマー全体としての加工性能と耐久性が共に大きく向上する。
【0026】
刃部の材質による物性の差については、対比する具体的な材種毎に違いがあるが、代表的な工具材料の大まかな傾向として次のように例示できる。例えば、硬度と耐摩耗性では、微結晶ダイヤモンド焼結体,立方晶窒化ホウ素焼結体>アルミナ系焼結セラミックス>窒化珪素系焼結セラミックス>TiC/N系サーメット>超硬合金の順となる。一方、靱性と耐欠損性では、超硬合金>TiC/N系サーメット>窒化珪素系焼結セラミックス>アルミナ系焼結セラミックス>微結晶ダイヤモンド焼結体,立方晶窒化ホウ素焼結体と、前者の場合とは略逆の順序になる。また、被削材の溶着性については、サーメットや焼結セラミックスでは概して小さいが、超硬合金では大きくなる。
【0027】
上記の代表的な工具材料の特性対比から、ヘッド部11の径方向に対向する各対の刃部の材質は、相互の補完作用を効果的に発揮させる上で、両者間での特性差が大きくなる組合せが好ましい。このような観点に材料コスト面からの優位性を加味すれば、上記の工具材料からの選択では、各特性の一極にある超硬合金を各対の一方の刃部に用いる組合せが加工速度と刃先の耐久性を共に飛躍的に向上できる点で推奨される。この場合の他方の刃部については、微結晶ダイヤモンド焼結体、焼結セラミックス、サーメットのいずれでもよいが、特に特性差と材料コストより焼結セラミックスが最適である。なお、ここでいう超硬合金には、比較的に高硬度のコーティング超硬合金や、靱性の大きい超微粒子超硬合金も含まれる。
【0028】
更に、ヘッド部11の径方向に対向する各対の刃部の材質として、サーメットを一方の刃部として、他方を焼結セラミックス又は微結晶ダイヤモンド焼結体とする組合せも推奨される。すなわち、このような組合せによれば、後述する実施例と比較例の対比で示すように、刃部にサーメットを用いた従来のマシンリーマーに対し、加工速度を格段に高めることができる上、刃先寿命も大きく延びることが判明している。
【0029】
図1及び図2で例示したマシンリーマーは6本の刃部を具備するが、本発明のマシンリーマーには2本以上の刃部を有するもの全てが包含される。ただし、マシンリーマーとしてのバランスと前記作用効果から、4本以上の偶数本の刃部が周方向に等配して突設され、且つヘッド径方向に対向する各対の刃部が異なる材質からなるものが好適である。また、例示したマシンリーマーでは複数本の刃部が軸心に対して傾斜した方向に沿うが、これら刃部の長手方向が軸心と平行になったタイプのマシンリーマーも本発明の適用対象である。
【実施例】
【0030】
図1及び図2に示す形態及び寸法比で、工具切削径20.0mm、軸方向長さ13.5mmの6本の刃部5A〜5Fを下記表1に記載の材質としたマシンリーマーM1〜M7を用い、それぞれ油性クーラントを5kg/cm2 の圧力で供給しつつ、同表記載の条件でS50Cからなる被削材に予め穿孔した径19.5mmの下穴に対するリーマー加工を行い、切削速度、穴内周の面粗さ、被削材溶着性を調べた。その結果を表1に示す。なお、刃部に使用した工具材料の略称と内訳は次の通りである。
【0031】
超硬・・・・WC系超硬合金(ISO−P20)
セラ・・・・アルミナ系焼結セラミックス(85%Al2 3 、3.5%TiC、1 0%ZrO3
サーメ・・・TiC/N系サーメット〔89%(Ti,W)(C,N)、0.6%( Ti,Mo,W)C、10.4%Ni/Co〕
DIA・・・微結晶ダイヤモンド焼結体(ダイヤモンド含有量88容積%、粒径4. 5μm、硬さHv9000、抗折力1.8GPa)


【0032】
【表1】

【0033】
上表から明らかなように、6本の刃部5A〜5Fの全部が超硬合金からなる従来構成のマシンリーマーM4に対し、同刃部5A〜5Fに超硬合金と他の硬質工具材料(焼結セラミックス、サーメット、微結晶ダイヤモンド焼結体)とを交互配置で用いた本発明のマシンリーマーM1〜M3では、約6〜10倍の加工速度(テーブル送り速度F)が得られている上、刃先寿命も約2.7〜3.3倍に延びている。また、同刃部5A〜5Fの全部がサーメットからなる従来構成のマシンリーマーM7に対し、同刃部5A〜5Fにサーメットと焼結セラミックス又は微結晶ダイヤモンド焼結体とを交互配置で用いたマシンリーマーM5,M6では、約5.3〜6.4倍の加工速度が得られ、刃先寿命も約1.3〜〜1.5倍に延びている。この結果から、マシンリーマーの複数の刃部として異なる硬質工具材料を組み合わせることにより、それぞれの難点が相互に補完され、よい特性が顕著に伸ばされるという相乗効果を生じていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係るマシンリーマーの正面図である。
【図2】同マシンリーマーの側面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 本体
11 ヘッド部(リーマーヘッド本体)
12 テーパシャンク部
2 クーラント供給孔
4 凹溝部
5A〜5F 刃部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーマーヘッド本体の外周部に細長い複数本の刃部が突設され、これら複数本の刃部として異なる材質のものが混在してなるマシンリーマー。
【請求項2】
前記複数本の刃部として、超硬合金、焼結セラミックス、サーメット、微結晶ダイヤモンド焼結体より選ばれる少なくとも2種の材質のものが混在してなる請求項1記載のマシンリーマー。
【請求項3】
鋼製のリーマーヘッド本体の外周部に、該リーマーヘッド本体とは異なる複数種の材質の刃部が固着されてなる請求項1又は2に記載のマシンリーマー。
【請求項4】
リーマーヘッド本体の外周部に4本以上の偶数本の刃部が周方向に等配して突設され、径方向に対向する各対の刃部が互いに異なる材質である請求項1〜3のいずれかに記載のマシンリーマー。
【請求項5】
前記各対の一方の刃部が超硬合金からなると共に、他方の刃部が焼結セラミックス、サーメット、微結晶ダイヤモンド焼結体より選ばれる一種からなる請求項4記載のマシンリーマー。
【請求項6】
前記各対の一方の刃部がサーメットからなると共に、他方の刃部が焼結セラミックス及び微結晶ダイヤモンド焼結体より選ばれる一種からなる請求項4記載のマシンリーマー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−30077(P2007−30077A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214243(P2005−214243)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(390033330)ユニタック株式会社 (38)
【Fターム(参考)】