説明

マルチ敷設機

【課題】圃場にマルチシートを適度なたるみを持たせた状態で敷設することができるマルチ敷設機を提供すること。
【解決手段】機体1の前部に設けられ、マルチシートSが巻回されたシートロールRを軸回転可能に支持するロール支持手段2と、このロール支持手段2よりも後方に設けられ、シートロールRから繰り出したマルチシートSを踏圧しながら地面上を転動することにより機体1を前進走行させる駆動輪3と、この駆動輪3よりも後方に設けられ、駆動輪3により踏圧されたマルチシートSの側縁に土を覆い被せてマルチシートSを固定する覆土手段6と、からマルチ敷設機10を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場にマルチシートを敷設するためのマルチ敷設機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば茶の栽培等において、その施肥量を削減する方法の一つとして、施肥直後に圃場のうね同士の間にマルチシートを敷設して、降雨等による肥料成分の流出を抑制する方法が知られている。この方法によれば、茶栽培の場合、年1回の施肥だけで、年5、6回施肥していた従来の栽培方法と同等以上の収量、品質の茶葉を収穫することも可能となる。さらに、生分解性マルチシートを用いれば、施肥時に、マルチシートを肥料と共に土壌に鋤き込むことが可能となり、マルチシートの除去作業を省くことができる。
【0003】
ところで、従来、マルチシートを圃場に敷設するためのマルチ敷設機として、例えば、下記の特許文献1に記載のものが知られている。しかしながら、従来のマルチ敷設機はいずれも、ロール巻きされたマルチシートをトラクター等で牽引して、シートに所定の張力をかけながら敷設してゆくものであったため、うねの間へのシート敷設には適用することができない難点があった。というのは、圃場のうねの間は、栽培管理や収穫作業の通路として利用されることが殆どであり、このうね間に敷設されたマルチシートがピンと張られていると、作業者の歩行や各種管理機の走行によってマルチシートが簡単に破れてしまう問題があったからである。
【0004】
したがって、従来においては、マルチシートを適度なたるみを持たせたながら敷設するために、うね間へのシート敷設は手作業で行っていたのが実情である。
【特許文献1】特開昭56−32929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来のマルチ敷設機に上記のような難点があったことに鑑みて為されたもので、マルチシートに適度なたるみを持たせながら敷設することができるマルチ敷設機を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圃場にマルチシートを敷設するマルチ敷設機であって、
機体の前部に設けられ、前記マルチシートが巻回されたシートロールを軸回転可能に支持するロール支持手段と、前記機体の前記ロール支持手段よりも後方に設けられ、前記シートロールから繰り出したマルチシートを踏圧しながら地面上を転動して前記機体を走行させる駆動輪と、前記機体の前記駆動輪よりも後方に設けられ、前記駆動輪により踏圧されたマルチシートの側縁に土を覆い被せる覆土手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、前記機体の前記覆土手段よりも後方に従動輪を備え、該従動輪が前記覆土手段により覆い被せた土を踏圧することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記機体の前記駆動輪よりも前方に、地面に溝を形成する溝切手段を備え、該溝内において前記駆動輪が前記マルチシートを踏圧することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るマルチ敷設機によれば、その駆動輪が、シートロールから繰り出したマルチシートを踏圧しながら地面上を転動して機体を走行させるので、マルチシートをその長さ方向に張力をかけることなく、適度なたるみを持たせた状態で連続的に敷設することができる。したがって、作業通路とされることの多いうねの間にマルチシートを敷設した場合においても、従来のように、作業者の歩行等によってマルチシートが簡単に破れてしまう問題もない。
【0010】
また、機体の前部に、シートロールを支持するロール支持手段を設けているので、作業者は、機体の前方においてシートロールの着脱操作を行うことができ、操作性に優れたマルチ敷設機を提供することができる。
【0011】
また、マルチシートの側縁に土を覆い被せる覆土手段よりも後方に従動輪を設ければ、この従動輪でシート側縁に覆い被せた土を踏圧することができ、敷設したマルチシートをより安定的に地面に固定することができる。
【0012】
また、駆動輪よりも前方に溝切手段を設ければ、この溝切手段により形成した溝内において駆動輪でマルチシートの側縁を踏圧することができ、シート側縁を溝内へ押し込んだ状態で、覆土手段によりシート側縁に土を覆い被せることができ、マルチシートに適度なたるみを持たせながらも確実にマルチシートを地面に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1〜図5を参照しながら本実施形態のマルチ敷設機10について説明する。
【0014】
図1及び図2に示すように、本実施形態のマルチ敷設機10は主として、エンジン11を搭載した機体1と、マルチシートが巻回されたシートロールRを軸回転可能に支持するロール支持手段2と、エンジン11により駆動回転して機体1を走行させる一対の駆動輪3と、機体1の走行時に従動回転する一対の従動輪4と、地面に溝を形成するための一対の溝切手段5と、マルチシートの側縁に土を覆い被せるための一対の覆土手段6と、機体1に設けられたハンドル7と、機体1を覆うカバー8と、から構成されている。
【0015】
マルチ敷設機10は、エンジン11の動力により駆動輪3及び従動輪4によって圃場を自走し、図中の矢印Fで指し示すように、溝切手段5を先頭に前進走行する。作業者は、マルチ敷設機10の前方に立ってハンドル7を握り、自らは後退しながら、マルチ敷設機10を前進走行させてマルチシートの敷設作業を行う。
【0016】
マルチ敷設機10のロール支持手段2は、図1及び図2に示すように、機体1の前部に設けられている。本実施形態のロール支持手段2は、機体1に固定された左右一対のブラケット21と、各ブラケット21の上部に形成された凹部22と、から構成されている。これら一対の凹部22でシートロールRの軸部両端を支承することによって、シートロールRを軸回転可能に支持する。また、ブラケット21の間には、シートロールRから繰り出されたマルチシートを案内するための複数のガイドローラ23が配設されている。
【0017】
駆動輪3は、機体1の左右両側に一対設けられ、上記ロール支持手段2よりも後方に設けられている。駆動輪3は、図示しない動力伝達機構によりエンジン11の動力が伝達され、駆動回転する。図2に示すように、左右の駆動輪3・3同士の間隔は、シートロールRのシート幅よりも小さく設定されている。このことで、図3に示すように、一対の駆動輪3は、シートロールRから繰り出されたマルチシートSの両側縁を踏圧しながら地面上を転動する。即ち、駆動輪3は駆動回転することによって、機体1を前進走行させると同時にシートロールRからマルチシートSを積極的に繰り出すのである。
【0018】
従動輪4は、図1及び図2に示すように、機体1の左右両側に一対設けられ、上記駆動輪3よりも後方に設けられている。従動輪4は空転可能に設けられており、機体1の走行によって従動回転する。図2に示すように、左右の従動輪4・4同士の間隔は、駆動輪3・3同士の間隔とほぼ同じに設定されている。
【0019】
溝切手段5は、機体1の左右両側に一対設けられ、上記駆動輪3よりも前方に設けられている。本実施形態の溝切手段5は、機体1の前進方向に対し傾斜した斜面を備えた傾斜爪51から成り、上記ブラケット21に固定されたフレーム52に取り付けられている。つまり、本実施形態の溝切手段5は、ロール支持手段2よりも前方に設けられている。また、左右の溝切手段5・5同士の間隔は、駆動輪3・3同士の間隔とほぼ同じに設定されている。そして、各溝切手段5は、フレーム52に内蔵された図示しない送りネジ機構により上下移動可能に設けられ、調節ハンドル53を回すことによって各傾斜爪51の地面に対する上下位置を適宜に調節することができる。
【0020】
覆土手段6は、機体1の左右両側に一対設けられ、上記駆動輪3よりも後方で、かつ、上記従動輪4よりも前方に設けられている。本実施形態の覆土手段6は、機体1の前進方向に対し傾斜した斜面を備えた傾斜板61から成り、上記機体1の両側に固定されたフレーム62に取り付けられている。左右の覆土手段6・6同士の最大間隔は、駆動輪3・3同士の間隔よりも大きく設定されている。そして、各覆土手段6は、調節ピン63を抜き差しすることによって、各傾斜板61の地面に対する上下位置を段階的に調節することができる。
【0021】
以下、図3〜図10を参照しながら、本実施形態のマルチ敷設機10によるマルチシートSの敷設作業について順に説明する。マルチ敷設機10は、図3に示すように、方向Fへ前進走行しながら、その後方にマルチシートSを連続的に敷設してゆく。
【0022】
まず、マルチ敷設機10は、前進走行しながら、溝切手段5により地面に溝54を形成する。即ち、地面に所望の深さだけ差し込まれた傾斜爪51が機体1に伴って前進移動することによって、図4及び図5に示すように、傾斜爪51の前方の土が、傾斜爪51の斜面に沿って機体1の外側へ導かれる。このことで、傾斜爪51の後方に溝54が連続的に形成される。図中、符号55で指示するものは、傾斜爪51により外側へ寄せられた土で形成された盛土部である。
【0023】
次に、マルチ敷設機10は、図6に示すように、駆動輪3によって、マルチシートSをシートロールRから積極的に繰り出し、この繰り出したマルチシートSを車重Wで踏圧しながら地面上に敷いてゆく。このとき、図6に示すように、シートロールRから繰り出されて駆動輪3で踏圧されるまでのシート範囲Aでは、マルチシートSの長さ方向にシートロールRの繰出抵抗による張力が掛かるのに対し、駆動輪3で踏圧された後のシート範囲Bでは、マルチシートSには張力が掛かることがない。したがって、マルチシートSを適度なたるみを持たせた状態で地面上に敷設してゆくことが可能となる。
【0024】
また、マルチ敷設機10は、地面が比較的に柔らかい圃場を走行することから、駆動輪3は、マルチシートSとの間で殆どすべりが発生することがないのに対し、地面に対してはある程度のすべりが発生する。このとき、駆動輪3によるマルチシートSの繰り出し量が、機体1の走行移動量よりも大きくなる。このことによっても、マルチシートSに適度なたるみを持たせながら地面上に敷設してゆくことができるのである。なお、図7に示すように、マルチシートSの側縁は、溝54内において駆動輪3で踏圧されて溝54の溝底へ押し込まれる。
【0025】
次に、マルチ敷設機10は、前進走行しながら、覆土手段6によりマルチシートSの両側縁に土を覆い被せる。即ち、図8に示すように、覆土手段6の傾斜板61が、盛土部55と接触しながら機体1に伴って前進方向Fへ移動することによって、盛土部55の土が傾斜板61の斜面に沿って機体1の内側へ導かれる。このことで、図9に示すように、盛土部55の土で溝54を埋めながらマルチシートSの両側縁に土を覆い被せるのである。図中、符号64で指示するものは、この覆土手段6による覆土部である。この覆土部64によって地面上に敷設されたマルチシートSが安定に固定される。
【0026】
最後に、マルチ敷設機10は、図10に示すように、従動輪4により覆土部64を踏圧する。この従動輪4による踏圧によって、マルチシートSをより安定に固定することができる。これら一連の敷設作業によって、前進走行するマルチ敷設機10の後方に、適度なたるみを持たせながらマルチシートSを連続的に敷設してゆくことができる。
【0027】
このように、本実施形態のマルチ敷設機10にあっては、駆動輪3が、シートロールRから繰り出したマルチシートSを踏圧しながら地面上を転動して機体1を走行させるので、マルチシートSをその長さ方向に張力をかけることなく、適度なたるみを持たせた状態で連続的に敷設することができる。したがって、作業通路とされることの多いうねの間にマルチシートを敷設した場合においても、従来のように、作業者の歩行等によってマルチシートが簡単に破れてしまう問題もない。
【0028】
また、この駆動輪3が、機体1を走行させる役割だけでなく、マルチシートSを繰り出す役割を同時に担っているので、その分、マルチ敷設機の全長を短縮化し、コンパクト化することができる。したがって、例えば、一のうね間から他のうね間への移動や方向転換などの取り回し操作の容易なマルチ敷設機を提供することができる。
【0029】
また、本実施形態のマルチ敷設機10にあっては、機体1の前部にロール支持手段2が設けられているので、作業者が機体1の前方においてシートロールRの着脱操作を行うことができ、操作性に優れたマルチ敷設機を提供することができる。
【0030】
また、本実施形態のマルチ敷設機10にあっては、覆土手段6よりも後方に従動輪4が設けられているので、この従動輪4でマルチシートSの側縁に覆い被せた土を踏圧することができ、敷設したマルチシートSをより安定的に地面に固定することができる。
【0031】
また、本実施形態のマルチ敷設機10にあっては、駆動輪3よりも前方に溝切手段5が設けられているので、この溝切手段5により形成した溝54内において、駆動輪3でマルチシートSの側縁を踏圧することができ、マルチシートSの側縁を溝54内へ押し込んだ状態で、覆土手段4によりシート側縁に土を覆い被せることができる。このことで、マルチシートSに適度なたるみを持たせながらも確実にマルチシートSを地面に固定することが可能となる。
【0032】
また、本実施形態のマルチ敷設機10にあっては、機体1を覆うカバー8を備えているので、例えば茶畑のうね間にマルチ敷設を行う場合において、作業通路へ張り出す茶葉をカバー8でスムーズに押し分けながらマルチ敷設作業を行うことができる。
【0033】
以上、本実施形態のマルチ敷設機10について説明したが、本発明は、その他の形態でも実施することができる。
【0034】
例えば、上記実施形態では、駆動輪3の前方に溝切手段5を設けているが、この溝切手段5は必ずしも設ける必要はない。つまり、本発明に係るマルチ敷設機は、その駆動輪が車重Wを支えながら地面上を転動するため、地面が柔らかい場合には、駆動輪の転動動作によって地面に溝状の轍が形成されると同時に、轍の底部へマルチシートの側縁が押し込まれることになる。したがって、マルチ敷設時に、必ずしも溝切手段5によって溝を形成しなくても良く、また、溝切手段5を地面に接触しないように上方に退避させておいても良い。このように溝切手段5によって溝を形成しない場合、覆土手段6を地面に接触するまで下げ、直接地面の土をマルチシートSの側縁に覆い被せるようにすれば良い。
【0035】
また、上記実施形態では、覆土手段6よりも後方に従動輪4を設けているが、必ずしもこの位置に設ける必要はなく、例えば、溝切手段5の前方に設けても良い。このことで、溝形成時における溝切手段5の地面に対する抵抗による機体1の前部の沈み込みを抑制することが可能となる。
【0036】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づいて種々の改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものである。同一の作用または効果が生じる範囲内でいずれかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良く、また、一体に構成されている発明特定事項を複数の部材から構成したり、複数の部材から構成されている発明特定事項を一体に構成した形態で実施しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るマルチ敷設機の全体側面図である。
【図2】同マルチ敷設機の全体平面図である。
【図3】同マルチ敷設機のシート敷設作業を示す全体側面図である。
【図4】同マルチ敷設機の溝切手段による溝形成作用を説明する部分断面平面図である。
【図5】同マルチ敷設機の溝切手段により溝が形成された状態を示す横断面図である。
【図6】同マルチ敷設機の駆動輪によるシート敷設作用を説明する要部拡大側面図である。
【図7】同マルチ敷設機の駆動輪により踏圧されたマルチシートの横断面図である。
【図8】同マルチ敷設機の覆土手段による覆土作用を説明する部分断面平面図である。
【図9】同マルチ敷設機の覆土手段によりマルチシートの側縁に覆土された状態を示す横断面図である。
【図10】同マルチ敷設機の従動輪により覆土部分が踏圧された状態を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10 マルチ敷設機
1 機体
2 ロール支持手段
3 駆動輪
4 従動輪
5 溝切手段
6 覆土手段
R シートロール
S マルチシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場にマルチシートを敷設するマルチ敷設機であって、
機体の前部に設けられ、前記マルチシートが巻回されたシートロールを軸回転可能に支持するロール支持手段と、
前記機体の前記ロール支持手段よりも後方に設けられ、前記シートロールから繰り出したマルチシートを踏圧しながら地面上を転動して前記機体を走行させる駆動輪と、
前記機体の前記駆動輪よりも後方に設けられ、前記駆動輪により踏圧されたマルチシートの側縁に土を覆い被せる覆土手段と、
を備えることを特徴としたマルチ敷設機。
【請求項2】
前記機体の前記覆土手段よりも後方に従動輪を備え、該従動輪が前記覆土手段により覆い被せた土を踏圧する請求項1記載のマルチ敷設機。
【請求項3】
前記機体の前記駆動輪よりも前方に、地面に溝を形成する溝切手段を備え、該溝内において前記駆動輪が前記マルチシートを踏圧する請求項1または請求項2記載のマルチ敷設機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−189992(P2007−189992A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13264(P2006−13264)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【Fターム(参考)】