説明

ミシン

【課題】ミシン本体を倒置した状態で固定可能なミシンにおいて、直立位置及び倒置位置の切り換えにおける操作性の向上を図る。
【解決手段】ミシン本体3を回動させて直立位置から倒置位置に移行した際に、ミシン本体を当該倒置位置にて固定する固定装置4は、ミシンテーブル2から突設されたピン部材24と、一端部がミシン本体に回動自在に連結され、ピン部材が挿通される溝部7が形成された保持部材5と、ミシン本体の回動に伴ってピン部材が溝部内を相対的に移動する際の移動方向を規制する規制装置6と、を備え、規制装置は、溝部の係止溝部9を閉鎖する閉状態と係止溝部を開放する開状態とに変換可能に構成された可動部材61を備え、ミシン本体を回動させる際に可動部材に対してピン部材からミシン本体の自重による接触圧力が加わった場合、可動部材は開状態となって、ピン部材の移動方向を案内溝部8の方向から係止溝部の方向に移行させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベッド下面を露出するようにミシン本体を一軸中心に倒置可能としたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば特開2007−143941号公報(特許文献1)に記載されているように、ベッド下に配置された送り機構や釜機構等の部品交換やメンテナンスのため、ベッド端部に設けられたヒンジ機構によりベッド下面がミシンテーブル上方に露出するように、ミシン本体を倒置可能としたミシンが知られている。
このミシン本体を押し倒すためには、作業者がミシン本体を手によりながらミシン本体をヒンジ機構の軸中心に回転させて倒置位置にする必要があるが、ボタン穴かがりミシン等のように内部に送り制御機構などの機械機構やモータやソレノイドなどの電気機構が配置されているミシン本体は重量が重く、引上げ作業は多大な労力を必要とする。
【0003】
例えば、図11に示すようなボタン穴かがりミシンは、ミシン本体110がミシンテーブル130に載置され、常にはミシンベッド部111より下方をミシンテーブル130に形成された孔130a内に嵌入可能とした直立位置の状態となっている。ミシン本体110を直立位置からミシンベッド部下方をミシンテーブル130上に露出する倒置位置とする場合には、ヒンジ機構の軸Gを中心に所定角度回転させるようにしている。
そして重量のあるボタン穴かがりミシンにおいては、全傾状態とせずに自重で使用状態の直立位置に復帰するように前記所定角度において保持するための固定手段101が設けられている。
この固定手段101は、支軸120Aによりミシンベッド部111に回動自在に支持された保持部材120と、ミシンテーブル130の孔130aの端部から突設したピン部材131と、を備えている。
保持部材120には、長手方向に沿って溝部121が形成されており、この溝部121に、ピン部材131の先端部が挿通されている。そして、ミシン本体110を倒す場合、ヒンジ機構の軸Gとは反対側のミシン本体110の端部を持ち上げることにより、支軸120Aが次第に上昇して保持部材120が起立し、ピン部材131は、溝部121の形状に沿って下方に相対的に移動する。
このとき、図12に示すように、保持部材120は、下端に連結したバネ部材140によりミシン本体110の回転の支点である軸Gの方向(図12右方向)に付勢されているため、ピン部材131が、溝部121の下端部に設けられた横長の凹部(保持部)121aに嵌合し、ピン部材131が溝部121内を上昇しないように保持される。これにより保持部材120が起立状態に維持され、ミシン本体110を所定角度の倒置位置に保持する。
【0004】
また、ミシン本体110を直立位置に戻すときは、保持部材120に設けられた取っ手122を前記軸Gとは逆の方向(図12左方向)に引っ張ることにより、ピン部材131が凹部121aから離脱して溝部121内を移動可能となり、ミシン本体110を下降可能としている。
【0005】
また、ミシン本体110の重量が重いため、ミシン本体110の端部を持ち上げたり降ろしたりする際に誤って手を離してしまうと、ミシン本体110がミシンテーブル130に勢いよく落下する恐れがあり、落下防止機能を備えている。
具体的には、図12に示すように、溝部121の途中にバネ部材140の付勢方向に屈曲した段部(係止部)121bが形成され、ミシン本体110が急激に落下した場合、溝部121を下降するピン部材131が段部121bの上部に引っ掛かり、バネ部材140の付勢力により保持部材120がその状態を維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−143941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した固定手段101では、段部121bがピン部材131の経路上に対向しているため、作業者がミシン本体を手により保持しながら直立位置まで降ろすときに、ピン部材が段部に引っ掛かってスムーズな移動ができず、その都度、取っ手122を操作してピン部材131を段部121bから離脱しなければならず、作業が煩雑となった。
また、倒置位置と直立位置との間で段部に引っ掛かるので、ミシン本体の傾斜角度が小さくなるため、ミシン本体の下方への荷重が大きくなってミシン本体110を保持する片手により負荷が掛かり、作業者に肉体的な負担を強いることになった。
【0008】
本発明の課題は、ミシン本体を直立位置と倒置位置とへの切り換え操作時における操作性を向上し、作業者への負担を軽減すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
ミシンテーブルと、
前記ミシンテーブルに回動自在に連結され、直立位置と倒置位置とを移行可能なミシン本体と、
前記ミシン本体を回動させて前記直立位置から前記倒置位置に移行した際に、前記ミシン本体を当該倒置位置にて固定する固定手段を備え、
前記固定手段は、
前記ミシンテーブルから突設されたピン部材と、
一端部が前記ミシン本体に回動自在に連結され、前記ピン部材が挿通される溝部が形成された保持部材と、を備えたミシンにおいて、
前記ミシン本体の回動に伴って前記ピン部材が前記溝部内を相対的に移動する際の移動方向を規制する規制手段を備え、
前記溝部は、前記ミシン本体の回動時における前記ピン部材の相対的な移動を案内する案内溝部と、前記案内溝部の途中に当該案内溝部から分岐して設けられ、前記ピン部材を係止して前記ピン部材の相対的な移動を制止する係止溝部と、を有し、
前記規制手段は、前記係止溝部を閉鎖する閉状態と前記係止溝部を開放する開状態とに変換可能に構成された可動部材を備え、
前記ミシン本体を回動させる際に前記可動部材に対して前記ピン部材からミシン本体重量に対応する所定の接触圧力が加わった場合に、前記可動部材は開状態となり、前記ピン部材の移動方向を前記案内溝部の方向から前記係止溝部の方向に移行させることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、
ミシンテーブルと、
前記ミシンテーブル上に一軸線を中心に直立位置と倒置位置とに回転可能に移行可能なミシン本体と、
前記ミシンテーブルから突設されたピン部材と、
一端部が前記ミシン本体に回動自在に連結され、前記ピン部材が挿通される溝部が形成された保持部材と、を有し、
前記溝部は、前記ミシン本体の直立位置と倒置位置への回動時における前記ピン部材の相対的な移動を案内する案内部と、前記案内部の途中に設けられ、前記ピン部材を係止して前記ピン部材の直立位置方向への相対的な移動を制止する係止部と、前記ミシン本体を前記倒置位置とした際に、前記ピン部材を保持する保持部と、を備えたミシンにおいて、
前記係止部を閉鎖して前記案内部を形成する閉状態と前記係止部を開放する開状態とに変換可能に構成された可動部材を有する規制手段を設け、
前記ミシン本体を回動させる際に前記可動部材に対して前記ピン部材からミシン本体重量に対応する所定の接触圧力が加わった場合、前記可動部材は開状態となり、前記ピン部材を前記係止部により係止可能としたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のミシンにおいて、
前記規制手段は、
前記可動部材を回動可能に支持する回動軸と、
前記可動部材を閉状態に維持するように前記可動部材を付勢する付勢部材と、を備え、
前記付勢部材は、前記可動部材に加えられる前記ピン部材の当接圧力が前記所定以上となるとき、前記可動部材を回動可能とする付勢力を有することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のミシンにおいて、
前記溝部は、
個々には前記保持部材の長手方向に沿い形成されるとともに、それぞれが前記保持部材の幅方向にシフトして形成された複数の案内溝部と、各案内溝部の間を連結するように形成された傾斜案内溝部と、を備え、
前記係止部は、
前記傾斜案内溝部において、ミシン本体が前記倒置位置から前記直立位置へ回転するときのピン部材の移動経路上流側に位置する案内溝部の延長線上に溝状に形成されたことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のミシンにおいて、
前記可動部材は、
前記保持部材に固定された回動軸に回転可能に支持されるベース部と、前記ベース部から溝状の係止部に対向突出して設けられた突部と、を形成した板状部材であり、
前記突部は、
ピン部材と係合する端面を前記案内溝部側に傾斜するように形成されたことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項3に記載のミシンにおいて、
前記可動部材は、
前記保持部材に固定された回動軸に回転可能に支持されるベース部と、ベース部から溝状の係止部に対向突出して設けられた突部と、を形成した板状部材であり、
前記保持部材は、
前記可動部材の直立位置側端面に対向して設けられた係合部、を有し、
前記係合部が、前記付勢部材の付勢力により常には前記可動部材の直立位置側端面に前記係合部を当接することにより前記可動部材を閉状態に維持し、前記ピン部材から前記所定以上の当接圧力を受けるときに前記可動部材を開状態への回転を許容する位置に設けられたことを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載のミシンにおいて、
前記係止溝部は前記案内溝部の案内方向に沿って複数設けられるとともに、各々の係止溝部に対応して前記規制手段が設けられ、
前記ミシン本体を前記倒置位置から前記直立位置に移行する際に、当該ミシン本体を段階的に固定可能に構成されることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載のミシンにおいて、
前記ミシン本体を前記固定手段によって前記倒置位置に固定する際に、前記ピン部材が収納される保持溝部が前記溝部に設けられており、
前記ミシン本体を回動させて前記直立位置から前記倒置位置に移行した際に、前記ピン部材が保持溝部に収納可能となるように前記保持部材の回動を妨げない有効位置と、前記ミシン本体を回動させて前記倒置位置から前記直立位置に移行させる際に、前記ピン部材が保持溝部から外れる配置に前記保持部材を回動させる無効位置とに切替可能な切替レバーを備え、
前記ミシン本体が前記直立位置に移行した際に、そのミシン本体の一部が前記切替レバーに当接し、前記切替レバーの配置を有効位置に切り替えることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のミシンにおいて、
前記ミシン本体は、そのミシン本体が前記直立位置に移行した際に前記切替レバーに当接して、前記切替レバーの配置を有効位置に切り替える突起部を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項2に記載のミシンにおいて、
前記ミシン本体を前記固定手段によって前記倒置位置に固定する際に、前記ピン部材が収納される保持溝部が前記溝部に設けられており、
前記ミシン本体を回動させて前記直立位置から前記倒置位置に移行した際に、前記ピン部材が保持溝部に収納可能となるように前記保持部材の回動を妨げない有効位置と、前記ミシン本体を回動させて前記倒置位置から前記直立位置に移行させる際に、前記ピン部材が保持溝部から外れる配置に前記保持部材を回動させる無効位置とに切替可能な切替レバーを備え、
前記ミシン本体が前記直立位置に移行した際に、そのミシン本体の一部が前記切替レバーに当接し、前記切替レバーの配置を有効位置に切り替えることを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載のミシンにおいて、
前記ミシン本体は、そのミシン本体が前記直立位置に移行した際に前記切替レバーに当接して、前記切替レバーの配置を有効位置に切り替える突起部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1、2記載の発明は、ミシン本体を回動させて倒置位置と直立位置とに相互に移行させる場合には、規制手段によりピン部材が係止溝部に嵌ることが規制されることで案内溝部を相対移動することができるため、従来のように保持部材を引っ張らなくてもよいこととなって、ミシン本体の直立位置及び倒置位置の切り換えにおける操作性を向上させることができる。
また、ミシン本体を回動中にミシン本体から手を離した場合には、可動部材に対してピン部材からミシン本体の自重による接触圧力が加わるので、可動部材が開状態となってピン部材が係止溝部に係止されることでロックがかかることとなる。そして、ロックを解除する場合に、ミシン本体を持ち上げることで係止溝部からピン部材を離脱させることができるため、従来のように保持部材を手で引っ張る必要がなくなることとなって、ロック解除時の操作性を向上させることができる。
【0021】
請求項3記載の発明は、前記規制手段は、前記可動部材を回動可能に支持する回動軸と、可動部材を閉状態に維持するように可動部材を付勢する付勢部材と、を備え、付勢部材は、可動部材に加えられるピン部材の当接圧力が所定以上となるとき記可動部材を回動可能とする付勢力を有するので、常には円滑にミシン本体を倒置位置から直立位置に移動させることができ、所定以上の圧力が掛かるときのみピン部材を係止してミシン本体の落下を防止できる。
【0022】
請求項4乃至6に記載の発明は、簡単な構成により前記請求項3に記載の作用効果が得ることができる。
【0023】
請求項7記載の発明は、係止溝部が案内溝部の案内方向に沿って複数設けられるとともに、各々の係止溝部に対応して規制装置が設けれ、ミシン本体を倒置位置から直立位置に移行させる際に、ミシン本体を段階的に固定可能に構成されるので、段階的に、ロックを掛けることができる。
【0024】
請求項8,10記載の発明は、ミシン本体を倒置位置から直立位置に移行させたミシンであれば、切替レバーは有効位置(ストッパ有効位置)に切り替えられているので、ミシン本体を直立位置から倒置位置へ移行させる際、常に切替レバーは有効位置にあるため、速やかにミシン本体を倒置位置へ移行させて固定手段によって固定することができる。
また、ミシン本体を倒置位置から直立位置に移行させることで、切替レバーを有効位置に切り替えることができるので、ミシン本体を直立位置へ戻すために一旦無効位置(ストッパ無効位置)に切り替えた切替レバーをオペレータが手動で操作して、有効位置に切り替える手間を省くことができ、切替レバーを有効位置に戻し忘れることがない。
つまり、ミシン本体を直立位置から倒置位置へ移行させて固定することと、ミシン本体を倒置位置から直立位置へ戻すことの操作性を向上させることができる。
【0025】
請求項9,11記載の発明は、ミシン本体が直立位置に移行した際に切替レバーに当接して、切替レバーの配置を有効位置に切り替える突起部を備えているので、より確実に切替レバーを有効位置に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態1におけるミシンの倒置状態を示す斜視図である。
【図2】図1のミシンに備えられた保持部材を示す斜視図である。
【図3】保持部材の動作を説明するための図であって、(a)は移動前、(b)は移動中、(c)は移動後を示している。
【図4】規制装置の可動部材の動作を説明するための図であって、(a)は閉状態、(b)は開状態を示している。
【図5】本発明における実施形態2のミシンの全体構成を示す斜視図である。
【図6】本発明における実施形態3のミシンの全体構成を示す斜視図である。
【図7】実施形態3における切替レバーの動作を説明するための図であって、ミシン本体を直立位置から倒置位置へ移行させる際に、ストッパ有効位置に切り替えられている切替レバーを示している。
【図8】実施形態3における切替レバーの動作を説明するための図であって、ピン部材が保持溝部に収納される際に、切替レバーが保持部材の回動を妨げない状態を示している。
【図9】実施形態3における切替レバーの動作を説明するための図であって、ミシン本体を倒置位置から直立位置へ移行させるために、ストッパ無効位置に切り替えられた切替レバーを示している。
【図10】実施形態3における切替レバーの動作を説明するための図であって、ミシン本体が直立位置へ移行した際に、突起部に押された切替レバーがストッパ有効位置に切り替えられた状態を示している。
【図11】従来におけるミシンの倒置状態を示す斜視図である。
【図12】図11におけるミシンの固定手段を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明に係るミシンについて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1において、本実施形態のミシン1は、ボタン穴かがりミシンであり、略水平に保持された上面をもつミシンテーブル2と、このミシンテーブル2に載置されたミシン本体3と、を備えている。
ミシン1は、ミシンベッド部31とミシンベッド部31上に延長するミシン頭部32を有するミシンフレーム構成となっている。ミシンベッド部31の下方には、送り機構やルーパ機構、或いはルーパ機構を回転させる機構などの内部機構34が設けられている。
【0028】
ミシンテーブル2には、上面から下面に貫通し、ミシン本体3の下端部に設けられたミシンベッド部31より下方の内部機構34等を収納可能とする開口部21が形成されている。
【0029】
ミシン本体3は、ミシンベッド部31の上面がミシンテーブル2の上面に平行する直立位置と所定角度を形成する倒置位置とに位置させるヒンジ機構33が設けられ、具体的には先端側を昇降可能とするようにミシン本体3の後端側がヒンジ軸Gによってミシンテーブル2に回動自在に支持されている。
【0030】
ヒンジ機構33のヒンジ軸Gは、ミシン頭部32の長手方向に直交するとともにミシンテーブル2に対して平行な軸となっている。
【0031】
ミシン頭部32には、図示しないが、針機構や針機構を回転させる機構、ミシンモータ等が内蔵されるとともに、オペレータにより設定される各種縫製パターン等の各種縫製条件を後述の制御ボックスに送信する操作パネルが設けられている。
【0032】
固定装置4は、ミシンテーブル2の開口部21側面から内方に突設されたピン部材24と、一端部51がミシンベッド部31に回動自在に連結され、ピン部材24が挿通される溝部7が長手方向に沿い形成された保持部材5と、保持部材5に付設され、ミシン本体3の回動に伴ってピン部材24が溝部7内を相対的に移動する際の移動方向を規制する規制手段6と、を備えている。
ピン部材24は、ミシン本体3をヒンジ軸Gを中心に倒置位置または直立位置に回動した際に、保持部材5の動作に伴って、溝部7内をその長手方向に沿って相対移動する。具体的に、ピン部材24は、ミシン本体3が直立位置にある状態では、図3(a)に示すように、溝部7の一端(始点A)に位置し、ミシン本体3が倒置位置にある状態では、図3(c)に示すように溝部7の他端(終点B)に位置するように相対的移動する。
【0033】
平板状の保持部材5は、ヒンジ軸Gとの平行軸線を有する支持軸35が一端部51に突出して設けられ、支持軸35においてベッド部31に回動自在に支持されている。
保持部材5は、ミシン本体3を直立位置とする時には、ミシンテーブル2の下方に位置し、ミシン本体3を倒置位置とするときには、開口部21の一部に設けられた収容部23を介して上方に突出して、起立状態となる。
保持部材5には、ピン部材24が挿通される溝部7が形成されている。
溝部7には、図2に示すように、ミシン本体3の回動時におけるピン部材24の相対的な移動を案内する案内部としての案内溝部8と、この案内溝部8の所定の2箇所に当該案内溝部8と連通して設けられた係止部としての第一係止溝部9A及び第二係止溝部9Bと、案内溝部8の終端部において当該案内溝部8と連通して設けられた保持部としての保持溝部10と、が形成されている。
【0034】
案内溝部8は、始点A側から他端を終点Bに向けて保持部材5の長手方向に沿い、それぞれに保持部材5の長手方向との交差方向(幅方向)にシフトされた状態で形成された第1〜第3長手案内溝部81a、81b、81c、第1長手案内溝部81aと第2長手案内溝部81bとの間に連続して設けられ、保持部材5の幅方向に傾斜した第1傾斜案内溝部82aと、第2長手案内溝部81bと第3長手案内溝部81cとの間に連続して設けられ、保持部材5の幅方向に傾斜した第2傾斜案内溝部82bと、を有し、案内溝部8は、階段状に形成されている。
そして、ミシン本体3を直立位置から倒置位置に移行させた場合には、ピン部材24は、案内溝部8の始点Aから終点Bに向けて相対的に移動する。一方、ミシン本体3を倒置位置から直立位置に移行させた場合には、ピン部材24は、案内溝部8の終点Bから始点Aに向けて相対的に移動する。
【0035】
第一係止溝部9A及び第二係止溝部9Bは、案内溝部8の第2長手案内溝部81bと第3長手案内溝部81cのそれぞれの延長線上に位置し、第1傾斜案内溝部82aと第2傾斜案内溝部82bから分岐して保持板5の延長方向に沿い始点A側に向けて形成されている。
【0036】
保持溝部10は、案内溝部8における終点Bの位置において、保持部材5の幅方向においてヒンジ軸Gと反対側に向け延在するように形成されている。ピン部材24が終点Bに到達すると、保持部材5が自重によって支持軸35を中心に図3(c)の矢印Xの方向に回動することにより、ピン部材24が保持溝部10に嵌合し、ピン部材24が上昇するのを妨げ、ミシン本体3を倒置状態に維持する。
また、ミシン本体3の倒置状態の固定を解除するには、オペレータが手によってミシン本体3を持ち上げて保持部材5を図3(c)の反矢印X方向に押して、ピン部材24を保持溝部10から第3長手案内溝部81cに引っ張りだすこととなる。
【0037】
規制手段6、6は、保持部材5の第一係止溝部9A及び第二係止部材9Bに対応する位置に各々備えられ、同じ構成を備えている。
規制手段6(規制装置6)は、図4に示すように、係止溝部9A(9B)を塞ぎ案内溝部8を形成する位置に備えられた可動部材61と、この可動部材61を回動可能に保持部材5に支持する回動軸62と、可動部材61が係止溝部9A(9B)を塞ぐ位置に維持されるように付勢するコイルバネ(付勢部材)63と、可動部材61より突出して設けられ、付勢部材63の付勢力により可動部材61を塞ぐ位置で保持するストッパピン(係合部)64と、を備えている。
【0038】
可動部材61は、保持部材5に固定された回動軸62に回転可能に支持されるベース部61aと、このベース部61aから係止溝部9A(9B)の開口部に対向突出して設けられた突部61bと、を備えた板状部材であり、ベース部61aに突設された固定ピン部61cが設けられている。突部61bは、ピン部材24と係合する端面61bbを第1長手案内溝部81A(第2長手案内溝部81B)側に傾斜するように形成されている。
コイルバネ63は、両端を固定ピン部61cと保持部材5に突設されたピン52とに係止されている。そして、通常時、コイルバネ63の付勢力によって可動部材61の後側端面61dをストッパピン(係合部)64に係合させ、突部61bは係止溝部9A(9B)を閉鎖する閉状態に維持され、この状態では端面61bbが傾斜案内溝部82a(82b)の上面を構成する(図4(a))。
ピン部材24によりコイルバネ63の付勢力よりも大きい所定の当接圧力、たとえば、その倒置位置から直立位置へのミシン本体の傾倒位置におけるミシン本体3の重量の垂直方向成分(ミシン本体重量という)に相当する圧力が突部61bに加えられたときに、コイルバネ63が伸ばされて可動部材61が回動軸62を中心に図4の時計方向に回転し、突部61bは、閉状態から、係止溝部9A(9B)を開放する開状態に切り換えられるようになっている(図4(b))。これにより、ピン部材24は、開放された係止溝部9A(9B)の内部に収容可能となる。
即ち、係止溝部9A(9B)は、ミシン本体3が作業者により支えらずに倒置位置から直立位置に変化するときに、可動部材61に対してピン部材24からコイルバネ63の付勢力より大きい接触圧力が作用されるため、ピン部材24を係止して当該ピン部材24の相対的な移動、すなわちミシン本体3の移動を制止する。
前記ストッパピン64は、前記コイルバネ63の付勢力により常には前記可動部材61の直立位置側端面61bbに当接して前記可動部材61を閉状態に維持し、前記ピン部材24から前記所定以上の当接圧力を受けるときに前記可動部材61の開状態への回転を許容するように、設置位置が設定されている。
【0039】
次に、ミシン1の動作について説明する。
図3(a)〜(c)に示すように、ミシン本体3を直立位置から倒置位置に回動させてミシン本体3に取り付けられた保持部材5は図3(a)、(b)、(c)の順に移動され、保持部材5の動きに合わせてピン部材24が保持部材5に対して相対的に溝部7の始点Aから終点Bの方向に移動する。
具体的には、保持部材5は、一端部51が保持部材支持軸35によりミシンベッド部31に回動自在に連結されているので、保持部材5の角度は、ミシンテーブル2に対するミシン本体3の傾倒に合わせて適宜変更される。
即ち、ミシン本体3を傾倒させると、保持部材5はこれに伴って水平状態(図3(a))から一端51が持ち上げられた状態へと変化する(図3(b))。このとき、ピン部材24は、まず、始点Aから第1長手案内溝部81aを通って、第1傾斜案内溝部82aに至る。さらにミシン本体3を傾倒させると、保持部材5は図3(b)から図3(c)の状態になる。このときピン部材24は、第2長手案内溝部81b、第2傾斜案内溝部82bを通って、第3長手案内溝部81cに至り、終点Bに達した時点で、保持部材5が自重により矢印Xの方向に回動することによって保持溝部10内に移動し、ミシン本体3が固定される。
【0040】
一方、ミシン本体3を倒置位置から直立位置にする場合には、オペレータが、ミシン本体3をわずかに持ち上げながら、ピン部材24を保持溝部10から第3長手案内溝部81cに移動させるように保持部材5を回動させる。その後、作業者がミシン本体3を保持しながら徐々にヒンジ軸Gを中心に直立位置側に回転させると、保持部材5は一端部51が水平状態へと徐々に戻り、ピン部材24も溝部7の終点Bから始点Aに相対的に移動する。
ここで、ピン部材24が案内溝部8を移動中、通常時、可動部材61は閉状態を維持し、作業者がミシン本体3を保持しながら戻す限り、ピン部材24から前記ミシン本体重量以下の接触圧力が可動部材61に作用するため、コイルバネ63の作用力により閉状態が維持される。
【0041】
一方、作業者がミシン本体3を途中で手放したり、急激に直立状態に戻した場合、可動部材61の突部61bは、前記ミシン本体重量をそのまま受けるため、矢印X1の方向に作用する力の大きさが、コイルバネ63による付勢力よりも大きくなり、可動部材61は、時計方向に回転して閉状態から開状態へと切り換えられ、開状態においてピン部材24を係止溝部9A(9B)に嵌合する(図4(b))。
より具体的に、接触圧力をFとし、回転方向の分力をF1、水平方向の分力をF2と分解した場合、可動部材61に常時作用している付勢力に対し、回転方向の分力F1が小さい場合、図4(a)に示すように、可動部材6は回転せず、ピン部材24は、矢印X2の方向に進むこととなる。
【0042】
一方、可動部材61に常時作用している付勢力に対し、回転方向の分力F1が大きい場合、図4(b)に示すように、可動部材61は回動し、ピン部材24が係止溝部9A(9B)に嵌ることとなる。そして、一旦、ピン部材24が係止溝部9A(9B)に嵌合した場合でも、ピン部材24が係止溝部9A(9B)から外れる位置までミシン本体3を持ち上げると、ピン部材24は係止溝部9A(9B)から離脱し、また、可動部材61はコイルバネ63による付勢力により初期状態(閉状態)に復帰することとなる。
ピン部材24は、第3長手案内溝部81cを移動中にミシン本体3が急落下したときには第二係止溝部9Bに嵌合し、第2長手案内溝部81bを移動中にミシン本体3が急落下したときには第一係止溝部9Aに嵌合する。
なお、ミシン本体3を直立位置から倒置位置に移動する際にミシン本体が急落下する場合にも同様に係止溝部9A、9Bに嵌合する。
【0043】
以上のように、本実施形態のミシン1によれば、ミシン本体3を回動させて倒置位置と直立位置とに相互に移行させる場合には、規制装置6によりピン部材24が係止溝部9A、9Bに嵌ることが規制されることでピン部材24は案内溝部8を相対移動することができるため、従来のように保持部材5を手で引っ張らなくてもよいこととなって、ミシン本体3の直立位置及び倒置位置の切り換えにおける操作性を向上させることができる。
また、ミシン本体3を回動中にミシン本体3から手を離した場合には、可動部材61に対してピン部材24からミシン本体3の自重による接触圧力が加わるので、可動部材61が開状態となってピン部材24が係止溝部9A、9Bに係止されることでロックがかかることとなる。そして、ロックを解除する場合に、ミシン本体3を持ち上げることで係止溝部9A、9Bからピン部材24を離脱させることができるため、従来のように保持部材を手で引っ張る必要がなくなることとなって、ロック解除時の操作性を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態のミシン1によれば、規制装置6は、可動部材61と、この可動部材61を回動可能に支持する回動軸62と、係止溝部9A、9Bが閉状態となるように可動部材61を付勢するコイルバネ(付勢部材)63と、を備え、可動部材61は、ピン部材24によりコイルバネ63による付勢力より大きい接触圧力が加えられた場合に、回動軸周りに回動して閉状態から開状態に切り換える構成となっている。このため、簡易な構成で規制装置6を実現することができる。
【0045】
また、本実施形態のミシン1によれば、係止溝部9A、9Bは案内溝部8の案内方向に沿って複数設けられるとともに、係止溝部9A、9Bに対応して規制手段6が設けられ、ミシン本体3を倒置位置から直立位置に移行させる際に、ミシン本体3を段階的に固定可能に構成される。このため、段階的に、ロックを掛けることができる。
【0046】
(実施形態2)
図5において、ミシン1aは、ミシン本体3の回動方向とミシン本体3と保持部材5との連結位置が図1のミシン1と異なる。従って、図5のミシン1aを説明するに当たり、図1のミシン1と異なる部分を中心に説明し、図1のミシン1と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
ミシン1aは、ミシン本体3を押し倒すことが可能となっており、ミシン本体3を起立した状態(直立位置)から、押し倒された状態(倒置位置)に移行した際に、ミシン本体3を倒置位置で固定する固定手段としての固定装置4を備えている。
また、ミシン1aは、ミシンテーブル2の貫通孔21aから進退するガスバネ20を備えている。ガスバネ20は、ミシン本体3を直立位置から倒置位置に移行させる際に、オペレータがミシン本体3を持ち上げる動作をアシストする機能を有している。また、このガスバネ20は、ミシン本体3が倒置位置から直立位置に急激に落下しないように、ミシン本体3に上向きの抵抗を付与する機能も有している。
なお、このようなガスバネ20を、実施形態1のミシン1に備えるようにしてもよい。
【0048】
ミシン本体3は、当該ミシン本体3の下端部に設けられるミシンベッド部31と、このミシンベッド部31上に立設され、各操作部等が設けられたミシン頭部32と、を有する。
ミシンベッド部31は、ヒンジ機構33を備え、ヒンジ機構33のヒンジ軸Gは、ミシン頭部32の長手方向及びミシンテーブル2に対して平行な軸となっている。
【0049】
固定装置4は、ミシンテーブル2の開口部21に面した側面から開口部21に向けて突設されたピン部材24と、このピン部材24が挿通される溝部7が形成され、その一端部51がミシンベッド部31の下面の略中央に回動自在に連結された保持部材5と、保持部材5に付設され、ミシン本体3の回動に伴ってピン部材24が溝部7内を相対的に移動する際の移動方向を規制する規制手段6と、を有する。なお、開口部21は固定装置4を通過する大きさとなっている点で本実施形態と相違する。また、ミシンベッド部31の下面には、ミシン機構が配置されているが、図5においてはこれらの機構を省略している。
この実施形態2のミシン1aにおいてもミシン1と同様の効果が得られる。
【0050】
(実施形態3)
図6は、本発明の実施形態3のミシン1bを模式的に示した斜視図である。
なお、図6のミシン1bを説明するに当たり、ミシン1及びミシン1aと異なる部分を中心に説明し、ミシン1及びミシン1aと同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0051】
図6に示すミシン1bは、略水平に保持されたミシンテーブル2と、このミシンテーブル2の上側に設けられたミシン本体3と、等を備えている。
また、ミシン1bは、ミシン本体3を押し倒すことが可能となっており、ミシン本体3を起立した状態(直立位置)から、押し倒された状態(倒置位置)に移行した際に、ミシン本体3を倒置位置で固定する固定手段としての固定装置4を備えている。
特に、ミシン1bにおいて倒置位置に達したミシン本体3の重心はヒンジ軸Gを越えて、そのヒンジ軸Gを挟んで固定装置4とは反対側に移動するようになっている。つまり、倒置位置に達したミシン本体3は自重によって図中反時計回り方向に傾倒している。そのため、倒置位置に達したミシン本体3を下支えするミシン支持部25が、ミシンテーブル2の上面に設けられている。
また、このミシン1bのミシンベッド部31の下面には、下方に向けて突設された突起部36が設けられている。この突起部36は、ミシン本体3が直立位置に移行した際に、後述する切替レバー40と当接する位置に設けられている。
【0052】
固定装置4は、図7〜図10に示すように、ミシンテーブル2の開口部21に面した側面から開口部21に向けて、ミシンテーブル2から突設されたピン部材24と、このピン部材24が挿通される溝部7が形成され、その一端部51がミシンベッド部31の下面の略中央に回動自在に連結された保持部材5等を備えている。
このミシン1bの固定装置4における保持部材5の溝部7(案内溝部8)には、所定の3箇所に係止溝部9が形成されており、各係止溝部9にはそれぞれ規制装置6が設けられている。また、溝部7における案内溝部8の終端部には、ミシン本体3を倒置位置に固定する際にピン部材24が収納される保持溝部10が設けられている。
【0053】
また、図7〜図10に示すように、ミシンテーブル2の開口部21には、その開口部21の側面に設けられたピン部材24に軸支され、そのピン部材24を軸心に回動する切替レバー40が備えられている。
切替レバー40が備えられた開口部21の側面には、その開口部21に向けて突設された切替レバー当接ピン26が設けられている。また、その開口部21の近傍のミシンテーブル2の上面には、切替レバー40を係止するための凹部を有する係合バネ27が設けられている。
【0054】
切替レバー40は、略L字形状を呈する板状部材であり、その略中央側の屈曲位置にピン部材24が取り付けられている。
図7〜図10に示すように、切替レバー40の一端部は、ミシンテーブル2の開口部21からミシンテーブル2上に露出しており、その一端部に係合ピン41が設けられている。また、切替レバー40の他端部に保持部材回動ピン42が設けられている。
この切替レバー40を図中反時計回りに回動させると、切替レバー40の一端部が切替レバー当接ピン26に突き当たって止まる。切替レバー40が切替レバー当接ピン26に当接した位置が、後述するストッパ有効位置である。
また、この切替レバー40を図中時計回りに回動させると、切替レバー40の一端部の係合ピン41が係合バネ27の凹部に嵌って係合する。切替レバー40の係合ピン41が係合バネ27に係合して係止された位置が、後述するストッパ無効位置である。
このように切替レバー40は、切替レバー40の一端部が切替レバー当接ピン26に当接するストッパ有効位置と、切替レバー40の係合ピン41が係合バネ27に係合するストッパ無効位置とに切り替えが可能になっている。
【0055】
ここで、ストッパ有効位置とは、切替レバー40の一端部が切替レバー当接ピン26に当接し、切替レバー40の保持部材回動ピン42が保持部材5から離間した切替レバー40の配置である。図8に示すように、このストッパ有効位置では、案内溝部8の終端部に達したピン部材24が保持溝部10に入り込むように、保持部材5が自重によって保持部材回動ピン42側に向かって回動できる、切替レバー40の配置である。つまり、ストッパ有効位置は、ピン部材24を保持溝部10に収納するように回動する保持部材5の回動を妨げない切替レバー40の配置であるといえる。
また、ストッパ無効位置とは、切替レバー40の係合ピン41が係合バネ27と係合し、切替レバー40の保持部材回動ピン42が保持部材5に押し当てられた切替レバー40の配置である。図9に示すように、このストッパ無効位置では、図中時計回りに回動した切替レバー40が、保持部材5を図中反時計回りに回動させて、ピン部材24を保持溝部10から案内溝部8に移動させた、切替レバー40の配置である。つまり、ストッパ無効位置とは、保持溝部10からピン部材24が外れるように、保持部材5を図中反時計回りに回動させるための切替レバー40の配置であるといえる。
【0056】
次に、ミシン1bの動作について説明する。
図7に示すように、オペレータがミシン本体3を回動させて、ミシン本体3を直立位置から倒置位置へ移行させていくと、保持部材5はこれに伴って水平状態から一端部51が持ち上げられた状態へと変化する。この保持部材5の配置変化に応じて案内溝部8におけるピン部材24は、案内溝部8の始点(一端部51側)から下方に位置する終点側の保持溝部10の方向に移動する。
このとき、切替レバー40は切替レバー当接ピン26に当接しており、ストッパ有効位置にある。
【0057】
そして、切替レバー40がストッパ有効位置にある状態で、ミシン本体3が倒置位置に移行し、ピン部材24が案内溝部8の終端部に達すると、図8に示すように、保持部材5が自重によって図中時計回り方向に回動し、それに伴いピン部材24が保持溝部10に入り込み収納される。
このように保持部材5の溝部7(案内溝部8)における保持溝部10にピン部材24が収納されていれば、その保持部材5がつっかえ棒となるので、ミシン1bに何らかの作用が加わってミシン本体3を倒置位置から直立位置へ回動させる力が掛かったとしても、固定装置4がミシン本体3を回動させずにそのミシン本体3を倒置位置に固定した状態を維持することができる。
【0058】
一方、ミシン本体3を倒置位置から直立位置へ移行させる場合には、オペレータは、切替レバー40を図中時計回り方向に回動させて、切替レバー40の係合ピン41を係合バネ27に係合させて、切替レバー40をストッパ無効位置に切り替える。
そして、図9に示すように、図中時計回りに回動してストッパ無効位置に切り替えられた切替レバー40は、切替レバー40の保持部材回動ピン42を保持部材5に押し当てつつ回動することによって、保持部材5を図中反時計回りに回動させて、保持溝部10に収納されたピン部材24がその保持溝部10から外れる配置に保持部材5を回動させている。
なお、保持溝部10から外れたピン部材24は案内溝部8に移動していても、ミシン本体3はミシン支持部25に支持されており、ミシン本体3は倒置位置での姿勢を維持している。
【0059】
そして、切替レバー40をストッパ無効位置に切り替えて、ピン部材24を保持溝部10から案内溝部8に移動させた後、図10に示すように、オペレータがミシン本体3を回動させて、ミシン本体3を倒置位置から直立位置へ移行させていくと、保持部材5はこれに伴って一端部51が持ち上げられた状態から水平状態へと変化する。この保持部材5の配置変化に応じて案内溝部8におけるピン部材24は、案内溝部8の終点(保持溝部10側)から始点側の一端部51の方向に移動する。
このミシン本体3が直立位置に移行した際、ミシンベッド部31の下面に設けられた突起部36が、切替レバー40の他端部に当接してその他端部を押し下げることによって、切替レバー40が図中反時計回りに回動されて係合バネ27から係合ピン41が外れる。そして、図中反時計回りに回動された切替レバー40は、切替レバー当接ピン26に当接するストッパ有効位置に切り替えられる。
このようにミシン本体3を直立位置に戻すことによって、突起部36が切替レバー40に当接して、その切替レバー40をストッパ有効位置に切り替えることができる。なお、突起部36の長さは、ミシン本体3が直立位置にある状態で切替レバー40に当接し続ける長さであっても、切替レバー40をストッパ有効位置に切り替えた後に離れる長さであってもよい。
【0060】
以上のように、本実施形態3のミシン1bによれば、ミシン本体3が直立位置にあれば切替レバー40はストッパ有効位置に切り替えられているので、ミシン本体3を直立位置から倒置位置へ移行させる際、切替レバー40は常にストッパ有効位置にあるため、速やかにミシン本体3を倒置位置へ移行させて、固定装置4で固定することができる。
また、ミシン本体3を倒置位置から直立位置に移行させることで、切替レバー40をストッパ有効位置に切り替えることができるので、ミシン本体3を直立位置へ戻すために一旦ストッパ無効位置に切り替えた切替レバー40をオペレータが手動で操作して、ストッパ有効位置に切り替える手間を省くことができ、切替レバー40をストッパ有効位置に戻し忘れることがない。
このようなミシン1bであれば、ミシン本体3を直立位置から倒置位置へ移行させて固定装置4で固定することと、ミシン本体3を倒置位置から直立位置へ戻すことの操作性を向上させることができる。
特に、切替レバー40をオペレータが手動で操作して切り替える必要がないので、オペレータがミシン本体3を回動させる過程で切り替え忘れの切替レバー40を操作することがなく、オペレータがミシン本体3を両手で支えて回動させることができるので、ミシン本体3を直立位置から倒置位置、倒置位置から直立位置へ移行させるための操作性をより一層向上させることができる。
【0061】
なお、ミシン1bにおいては、ミシンベッド部31に設けられた突起部36が、切替レバー40に当接することでその切替レバー40を回動させて、ストッパ有効位置に切り替えるとしたが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、突起部の替わりに切替レバー40の一部を変形させた部位がミシンベッド部31と接触することで切替レバー40が回動して、切替レバー40をストッパ有効位置に切り替えるようにしてもよい。
【0062】
なお、本実施形態においては、規制手段6に係止溝部9を2箇所または3箇所設けた構成を例示して説明したが、係止溝部9の数はこれに限定されるものではなく、4つ以上設けることとしても良いし、1つであっても良い。
また、本実施形態においては、固定手段を側部に1つ設けた構成を例示して説明したが、固定手段の数はこれに限定されるものではなく、例えば、両側部に2つ設けても良い。
【0063】
また、規制手段は、コイルバネを用いた構成を例示して説明したが、これに限るものではない。例えば、可動部材を、板バネで構成し、所定以上の接触圧力がピン部材24により可動部材に作用した場合に可動部材自体が弾性変形して、係止溝部9を閉鎖した閉状態からピン部材24が係止溝部9に嵌り込む開状態に移行させるようにしてもよい。これにより、可動部材とは別の付勢手段を設ける必要がないため、より構成を簡略化することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 ミシン
1a ミシン
1b ミシン
2 ミシンテーブル
21 開口部
23 収容部
24 ピン部材
3 ミシン本体
31 ミシンベッド部
32 ミシン頭部
33 ヒンジ機構
34 内部機構
35 保持部材回動軸
36 突起部
4 固定装置(固定手段)
5 保持部材
51 一端部
6 規制装置(規制手段)
61 可動部材
62 回動軸
63 コイルバネ(付勢部材)
64 ストッパピン(係合部)
7 溝部
8 案内溝部(案内部)
A 始点
B 終点
9A 第一係止溝部(係止部)
9B 第二係止溝部(係止部)
10 保持溝部(保持部)
40 切替レバー
G ヒンジ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンテーブルと、
前記ミシンテーブルに回動自在に連結され、直立位置と倒置位置とを移行可能なミシン本体と、
前記ミシン本体を回動させて前記直立位置から前記倒置位置に移行した際に、前記ミシン本体を当該倒置位置にて固定する固定手段を備え、
前記固定手段は、
前記ミシンテーブルから突設されたピン部材と、
一端部が前記ミシン本体に回動自在に連結され、前記ピン部材が挿通される溝部が形成された保持部材と、を備えたミシンにおいて、
前記ミシン本体の回動に伴って前記ピン部材が前記溝部内を相対的に移動する際の移動方向を規制する規制手段を備え、
前記溝部は、前記ミシン本体の回動時における前記ピン部材の相対的な移動を案内する案内溝部と、前記案内溝部の途中に当該案内溝部から分岐して設けられ、前記ピン部材を係止して前記ピン部材の相対的な移動を制止する係止溝部と、を有し、
前記規制手段は、前記係止溝部を閉鎖する閉状態と前記係止溝部を開放する開状態とに変換可能に構成された可動部材を備え、
前記ミシン本体を回動させる際に前記可動部材に対して前記ピン部材からミシン本体重量に対応する所定の接触圧力が加わった場合に、前記可動部材は開状態となり、前記ピン部材の移動方向を前記案内溝部の方向から前記係止溝部の方向に移行させることを特徴とするミシン。
【請求項2】
ミシンテーブルと、
前記ミシンテーブル上に一軸線を中心に直立位置と倒置位置とに回転可能に移行可能なミシン本体と、
前記ミシンテーブルから突設されたピン部材と、
一端部が前記ミシン本体に回動自在に連結され、前記ピン部材が挿通される溝部が形成された保持部材と、を有し、
前記溝部は、前記ミシン本体の直立位置と倒置位置への回動時における前記ピン部材の相対的な移動を案内する案内部と、前記案内部の途中に設けられ、前記ピン部材を係止して前記ピン部材の直立位置方向への相対的な移動を制止する係止部と、前記ミシン本体を前記倒置位置とした際に、前記ピン部材を保持する保持部と、を備えたミシンにおいて、
前記係止部を閉鎖して前記案内部を形成する閉状態と前記係止部を開放する開状態とに変換可能に構成された可動部材を有する規制手段を設け、
前記ミシン本体を回動させる際に前記可動部材に対して前記ピン部材からミシン本体重量に対応する所定の接触圧力が加わった場合、前記可動部材は開状態となり、前記ピン部材を前記係止部により係止可能としたことを特徴とするミシン。
【請求項3】
前記規制手段は、
前記可動部材を回動可能に支持する回動軸と、
前記可動部材を閉状態に維持するように前記可動部材を付勢する付勢部材と、を備え、
前記付勢部材は、前記可動部材に加えられる前記ピン部材の当接圧力が前記所定以上となるとき、前記可動部材を回動可能とする付勢力を有することを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記溝部は、
個々には前記保持部材の長手方向に沿い形成されるとともに、それぞれが前記保持部材の幅方向にシフトして形成された複数の案内溝部と、各案内溝部の間を連結するように形成された傾斜案内溝部と、を備え、
前記係止部は、
前記傾斜案内溝部において、ミシン本体が前記倒置位置から前記直立位置へ回転するときのピン部材の移動経路上流側に位置する案内溝部の延長線上に溝状に形成されたことを特徴とする請求項3に記載のミシン。
【請求項5】
前記可動部材は、
前記保持部材に固定された回動軸に回転可能に支持されるベース部と、前記ベース部から溝状の係止部に対向突出して設けられた突部と、を形成した板状部材であり、
前記突部は、
ピン部材と係合する端面を前記案内溝部側に傾斜するように形成されたことを特徴とする請求項4に記載のミシン。
【請求項6】
前記可動部材は、
前記保持部材に固定された回動軸に回転可能に支持されるベース部と、ベース部から溝状の係止部に対向突出して設けられた突部と、を形成した板状部材であり、
前記保持部材は、
前記可動部材の直立位置側端面に対向して設けられた係合部、を有し、
前記係合部が、前記付勢部材の付勢力により常には前記可動部材の直立位置側端面に前記係合部を当接することにより前記可動部材を閉状態に維持し、前記ピン部材から前記所定以上の当接圧力を受けるときに前記可動部材を開状態への回転を許容する位置に設けられたことを特徴とする請求項3に記載のミシン。
【請求項7】
前記係止溝部は前記案内溝部の案内方向に沿って複数設けられるとともに、各々の係止溝部に対応して前記規制手段が設けられ、
前記ミシン本体を前記倒置位置から前記直立位置に移行する際に、当該ミシン本体を段階的に固定可能に構成されることを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項8】
前記ミシン本体を前記固定手段によって前記倒置位置に固定する際に、前記ピン部材が収納される保持溝部が前記溝部に設けられており、
前記ミシン本体を回動させて前記直立位置から前記倒置位置に移行した際に、前記ピン部材が保持溝部に収納可能となるように前記保持部材の回動を妨げない有効位置と、前記ミシン本体を回動させて前記倒置位置から前記直立位置に移行させる際に、前記ピン部材が保持溝部から外れる配置に前記保持部材を回動させる無効位置とに切替可能な切替レバーを備え、
前記ミシン本体が前記直立位置に移行した際に、そのミシン本体の一部が前記切替レバーに当接し、前記切替レバーの配置を有効位置に切り替えることを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項9】
前記ミシン本体は、そのミシン本体が前記直立位置に移行した際に前記切替レバーに当接して、前記切替レバーの配置を有効位置に切り替える突起部を備えることを特徴とする請求項8に記載のミシン。
【請求項10】
前記ミシン本体を前記固定手段によって前記倒置位置に固定する際に、前記ピン部材が収納される保持溝部が前記溝部に設けられており、
前記ミシン本体を回動させて前記直立位置から前記倒置位置に移行した際に、前記ピン部材が保持溝部に収納可能となるように前記保持部材の回動を妨げない有効位置と、前記ミシン本体を回動させて前記倒置位置から前記直立位置に移行させる際に、前記ピン部材が保持溝部から外れる配置に前記保持部材を回動させる無効位置とに切替可能な切替レバーを備え、
前記ミシン本体が前記直立位置に移行した際に、そのミシン本体の一部が前記切替レバーに当接し、前記切替レバーの配置を有効位置に切り替えることを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項11】
前記ミシン本体は、そのミシン本体が前記直立位置に移行した際に前記切替レバーに当接して、前記切替レバーの配置を有効位置に切り替える突起部を備えることを特徴とする請求項10に記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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