説明

メタクリル樹脂組成物、その製造方法および難燃板

【課題】難燃性を有し、かつ耐熱性に優れるメタクリル樹脂組成物、その製造方法および難燃板を提供する。
【解決手段】本発明のメタクリル樹脂組成物は、メタクリル酸メチルと、特定のホスホン酸エステルとからなる単量体混合物が重合してなる共重合体を含有し、単量体混合物に含まれるメタクリル酸メチル及び特定のホスホン酸エステルの各含有量が、メタクリル酸メチル及びホスホン酸エステルの総量を100モル%として、メタクリル酸メチルが70〜99.9モル%であり、ホスホン酸エステルが0.1〜30モル%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、建築材料、装飾材料等に好適に用いられるメタクリル樹脂組成物、その製造方法および難燃板に関する。
【背景技術】
【0002】
難燃性を有するメタクリル樹脂組成物として、特許文献1〜3には、非ハロゲン系リン酸エステルを含有するメタクリル樹脂組成物が記載されている。
すなわち、非ハロゲン系リン酸エステルとして、具体的には、以下のものが使用されている。
特許文献1:2−メタクリロイロキシ−1−メチルエチル ホスフェート、2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ビス(2−メタクリロイロキシエチル) ホスフェート、2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ビス(2−アクリロイロキシエチル) ホスフェート
特許文献2:トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート
特許文献3:2−メタクリロイロキシエチル アシッドホスフェート
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−137915号公報
【特許文献2】特開2003−268022号公報
【特許文献3】特開2009−221261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のメタクリル樹脂組成物は、難燃性および耐熱性の両立という点で、必ずしも満足のいくものではなかった。
そこで、本発明の課題は、難燃性を有し、かつ耐熱性に優れるメタクリル樹脂組成物、その製造方法および難燃板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)メタクリル酸メチルと、下記式(1)で示されるホスホン酸エステルとからなる単量体混合物が重合してなる共重合体を含有することを特徴とするメタクリル樹脂組成物。
【化1】


(式中、R1は炭素数1〜5のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
(2)単量体混合物に含まれるメタクリル酸メチル及び式(1)で示されるホスホン酸エステルの各含有量が、メタクリル酸メチル及び式(1)で示されるホスホン酸エステルの総量を100モル%として、メタクリル酸メチルが70〜99.9モル%であり、式(1)で示されるホスホン酸エステルが0.1〜30モル%である前記(1)に記載のメタクリル樹脂組成物。
(3)式(1)で示されるホスホン酸エステルにおけるR2がメチル基である前記(1)又は(2)に記載のメタクリル樹脂組成物。
(4)式(1)で示されるホスホン酸エステルにおけるR1がメチレン基である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のメタクリル樹脂組成物。
(5)前記(1)に記載のメタクリル樹脂組成物を製造する方法であって、メタクリル酸メチルと式(1)で示されるホスホン酸エステルとからなる単量体混合物及びラジカル重合開始剤を含む重合性混合物を重合反応させることを特徴とするメタクリル樹脂組成物の製造方法。
(6)単量体混合物に含まれるメタクリル酸メチル及び式(1)で示されるホスホン酸エステルの各含有量が、メタクリル酸メチル及び式(1)で示されるホスホン酸エステルの総量を100モル%として、メタクリル酸メチルが70〜99.9モル%であり、式(1)で示されるホスホン酸エステル0.1〜30モル%である前記(5)に記載の製造方法。
(7)式(1)で示されるホスホン酸エステルにおけるR2がメチル基である前記(5)又は(6)に記載の製造方法。
(8)式(1)で示されるホスホン酸エステルにおけるR1がメチレン基である前記(5)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)重合反応がキャスト重合により行われる前記(5)〜(8)のいずれかに記載の製造方法。
(10)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のメタクリル樹脂組成物からなる難燃板。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、メタクリル酸メチルと、特定のホスホン酸エステルとからなる単量体混合物が重合してなる共重合体を含有するので、難燃性を有し、かつ耐熱性に優れるメタクリル樹脂組成物とすることができ、該メタクリル樹脂組成物は、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、建築材料、装飾材料等に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、メタクリル酸メチルと、特定のホスホン酸エステルとからなる単量体混合物が重合してなる共重合体を含有したものである。
【0008】
本発明におけるホスホン酸エステルは、下記式(1)で示される。
【化2】


式中、R1は炭素数1〜5のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜6のアルキル基を表す。なかでも、上記式(1)中、R1としてはメチレン基が好ましく、R2としてはメチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、前記ホスホン酸エステルは、必要に応じてそれらの1種または2種以上用いてもよい。
【0009】
上記式(1)で示されるホスホン酸エステルの市販品としては、例えば、SPECIFIC POLYMERS社製の「MAPC1 ME」、「MAPC1 ET」などが挙げられる。
【0010】
単量体混合物に含まれるメタクリル酸メチル及びホスホン酸エステルの各含有量は、メタクリル酸メチル及びホスホン酸エステルの総量を100モル%として、好ましくは、メタクリル酸メチルが70〜99.9モル%であり、ホスホン酸エステルが0.1〜30モル%であり、さらに好ましくは、メタクリル酸メチルが80〜99モル%であり、ホスホン酸エステル1〜20モル%であり、特に好ましくはメタクリル酸メチルが85〜95モル%であり、ホスホン酸エステル5〜15モル%である。メタクリル酸メチル及びホスホン酸エステルの各含有量が上記範囲であれば、得られるメタクリル樹脂組成物に優れた難燃性および耐熱性を付与することができる。
【0011】
尚、メタクリル樹脂組成物には、必要に応じて、離型剤、重合調節剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、着色剤、補強剤、充填剤、安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤等の各種添加剤を、1種または2種以上含有させてもよい。例えば、光拡散剤を含有するメタクリル樹脂組成物は、看板やディスプレイの前面板に利用できる拡散板や乳半板として好適である。光拡散剤の種類は限定されることなく、有機系もしくは無機系の微粒子が用いられ、有機系微粒子としては、例えば、ポリスチレン架橋粒子、ポリメタクリルスチレン(MS)架橋粒子、アクリル系架橋粒子などが挙げられ、無機系微粒子としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化ケイ素などが挙げられる。
【0012】
(製造方法)
次に、本発明のメタクリル樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、上記単量体混合物とラジカル重合開始剤を含む重合性混合物を重合反応させることで、難燃性を有し、かつ耐熱性に優れるメタクリル樹脂組成物を製造する方法である。
【0013】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの過酸化物などが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよく、必要に応じて、アミン類などの促進剤と併用してもよい。
ラジカル重合開始剤の添加量は、単量体混合物に対して、通常、0.01〜1重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0014】
この重合反応の温度は、通常、使用するラジカル重合開始剤の種類等によって、常温〜150℃の範囲で適宜設定され、また、必要に応じて多段階の温度条件で重合を行ってもよい。
【0015】
重合性混合物の重合方法としては、得られるメタクリル樹脂組成物の用途に応じて適宜選択すればよく、例えば、キャスト重合(注型重合)などの塊状重合;懸濁重合;乳化重合;分散重合などが挙げられ、中でも、塊状重合、特に、得られるメタクリル樹脂組成物を板状にして使用する場合、良好な外観となる点や、大きなサイズの板や厚い板などの生産性の点で、キャスト重合が好ましい。
【0016】
キャスト重合としては、例えば、上記重合性混合物をセルに注入して重合させるセルキャスト法、対向配置された一対のステンレス製エンドレスベルトを用いる連続キャスト法などが挙げられる。
セルキャスト法に用いられるセルは、例えば、2枚のガラス板と軟質塩化ビニルチューブなどのシール材から構成され、そのセルの空隙の間隔は所望の厚さのメタクリル樹脂組成物が得られるように適宜調整され、一般的には1〜30mmである。
【0017】
このようにして、良好な難燃性に加え、優れた耐熱性を有するメタクリル樹脂組成物が得られる。
このメタクリル樹脂組成物は、例えば、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、建築材料、装飾材料等に利用することができ、特に、ガソリンスタンドなどの可燃性物質を取り扱う場所において、その店名や商品価格等を表示する看板等の難燃板;高速道路や幹線道路等に設置される透明な遮音板;鉄道高架に設置される防風パネル等に好適に用いられる。なお、このメタクリル樹脂組成物を、遮音板などの透明性が必要とされる用途に使用する場合、その好ましい全光線透過率は80%以上であり、より好ましくは90%以上である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、メタクリル樹脂組成物の難燃性試験、耐熱性試験および全光線透過率測定は、下記の方法で行った。
【0019】
(難燃性試験)
JIS K 6911-1979の耐燃性試験A法に準拠して、3個1組のサンプルにて不燃性、自消性、可燃性の判定を行った。尚、サンプルのうち3個とも不燃性の場合には「◎」、サンプルのうち3個とも自消性の場合には「○」、サンプルのうち3個とも可燃性の場合には「×」を示した。
(耐熱性試験)
JIS K 7191-2に準拠して、80℃の熱風循環炉中で16時間アニールしたサンプルの荷重たわみ温度(℃)を測定した。
(全光線透過率測定)
透過率計((株)村上色彩技術研究所製の「HR-100」)を用い、JIS K7361-1に準拠して、全光線透過率Ttを測定した。この数値が大きいほど、光線の透過が大きい、つまり透明性が高いことを示す。
【0020】
<実施例1>
(メタクリレート系樹脂板の製造)
メタクリル酸メチル 90mol%とジメチル(メタクリロイロキシメチル)ホスホネート (DMMMP,SPECIFIC POLYMERS社製の「MAPC1 ME」(P/N:SP-41-003))10mol%の単量体混合物100重量部、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN:ラジカル重合開始剤)0.08重量部、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム (離型剤)0.1重量部、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン (重合調節剤)0.01重量部および2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール (紫外線吸収剤)0.01重量部を混合して得られた重合性混合物を真空脱気した。
次いで、厚さ10mm、300mm四方のガラス同士を対向させ、その両方の面の間に3mm用の軟質塩化ビニル製ガスケット(シール材)を挟み込んで形成されたセルの中空部に、重合性混合物を注入し、室温から72℃まで3時間かけて重合硬化させた後、72℃から120℃まで1時間かけて熱処理し、3mm厚の板状のメタクリル樹脂組成物を得た。
得られたメタクリル樹脂組成物の難燃性、荷重たわみ温度および全光線透過率の測定結果を表1に示す。
【0021】
<実施例2>
ジメチル(メタクリロイロキシメチル)ホスホネート(DMMMP)10mol%に代えて、ジエチル(メタクリロイロキシメチル)ホスホネート(DEMMP,SPECIFIC POLYMERS社製の「MAPC1 ET」(P/N:SP-41-006))10mol%とした以外は、実施例1に準じて3mm厚の板状のメタクリル樹脂組成物を得た。
得られたメタクリル樹脂組成物の難燃性、荷重たわみ温度および全光線透過率の測定結果を表1に示す。
【0022】
<比較例1>
ジメチル(メタクリロイロキシメチル)ホスホネート(DMMMP)10mol%に代えて、ジエチル−p−ビニルベンジルホスホネート(DEBP,片山化学工業(株)製の「S-2」) 10mol%とした以外は、実施例1に準じて3mm厚の板状のメタクリル樹脂組成物を得た。
得られたメタクリル樹脂組成物の難燃性、荷重たわみ温度および全光線透過率の測定結果を表1に示す。
【0023】
<比較例2>
ジメチル(メタクリロイロキシメチル)ホスホネート(DMMMP)10mol%に代えて、ジフェニルビニルホスホネート(DEVBP,片山化学工業(株)製の「APO-12」) 10mol%とした以外は、実施例1に準じて3mm厚の板状のメタクリル樹脂組成物を得た。
得られたメタクリル樹脂組成物の難燃性、荷重たわみ温度および全光線透過率の測定結果を表1に示す。
【0024】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチルと、下記式(1)で示されるホスホン酸エステルとからなる単量体混合物が重合してなる共重合体を含有することを特徴とするメタクリル樹脂組成物。
【化1】


(式中、R1は炭素数1〜5のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【請求項2】
単量体混合物に含まれるメタクリル酸メチル及び式(1)で示されるホスホン酸エステルの各含有量が、メタクリル酸メチル及び式(1)で示されるホスホン酸エステルの総量を100モル%として、メタクリル酸メチルが70〜99.9モル%であり、式(1)で示されるホスホン酸エステルが0.1〜30モル%である請求項1に記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項3】
式(1)で示されるホスホン酸エステルにおけるR2がメチル基である請求項1又は2に記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項4】
式(1)で示されるホスホン酸エステルにおけるR1がメチレン基である請求項1〜3のいずれかに記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のメタクリル樹脂組成物を製造する方法であって、
メタクリル酸メチルと式(1)で示されるホスホン酸エステルとからなる単量体混合物及びラジカル重合開始剤を含む重合性混合物を重合反応させることを特徴とするメタクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
単量体混合物に含まれるメタクリル酸メチル及び式(1)で示されるホスホン酸エステルの各含有量が、メタクリル酸メチル及び式(1)で示されるホスホン酸エステルの総量を100モル%として、メタクリル酸メチルが70〜99.9モル%であり、式(1)で示されるホスホン酸エステル0.1〜30モル%である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
式(1)で示されるホスホン酸エステルにおけるR2がメチル基である請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
式(1)で示されるホスホン酸エステルにおけるR1がメチレン基である請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
重合反応がキャスト重合により行われる請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載のメタクリル樹脂組成物からなる難燃板。

【公開番号】特開2013−82814(P2013−82814A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223794(P2011−223794)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】