説明

メッシュ織物及び建造物用の複合構成体

【課題】モルタルやコンクリートの補強やひび割れ拡大の防止に用いて、防藻および防カビ作用を有するメッシュ織物と、このメッシュ織物により製造され、機械的な強度に関して施工後の長期的に構造欠陥が生じにくく、カビや藻などが発生しにくい建造物用の複合構成体を提供する。
【解決手段】樹脂によって表面を被覆されたガラス繊維がメッシュ状に製織されたメッシュ織物であって、防カビ剤が付着してなる織物。防カビ剤の付着率は、質量百分率表示で0.05〜1.5%であることが好ましい。また、前記メッシュ織物がモルタル層に施工された建造物用複合構成体であって、メッシュ織物が複合構成体の表面に貼設されてなるか、またはかぶり厚を有するモルタル層中に埋設されてなる建造物用複合構成体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタルやコンクリートの補強やひび割れの拡大を防止しするために用いられるメッシュ織物と、このメッシュ織物が使用された建造物用の複合構成体に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な建造物や治水設備に用いられるモルタルやコンクリートは、施工後の乾燥、収縮により施工面の表面部にひび割れや欠損などが生じやすいという問題がある。施工後に発生したひび割れ等の欠陥を長期間に亘り放置し続けると、ひび割れはモルタルやコンクリートの表面部からその内部、さらに裏面に達するまで徐々に拡大していくこともある。こうして拡大したひび割れがあると、そこには水、汚泥等が侵入して漏水が発生するという問題があり、また外力に対する機械的な耐久性の低下に伴って構造物全体の強度が弱体化するという問題もある。このような問題が生じるのを防ぐために、建物の外壁等に用いられるモルタルなどの中に、ガラス繊維等よりなるメッシュ織物を埋設して補強し、ひび割れの拡大を防止する施工法が行われている。また壁材、トンネル又は水路等、戸外で自然環境に曝されるモルタルやコンクリートの表面は非常に汚れやすく、モルタルやコンクリートの表面の凹凸にほこりなどの空気中の浮遊物が付着し、カビ類や藻類が発生する。カビ類や藻類は、コンクリート表面の空隙に増殖するため、コンクリートの耐久性が低下する危険性がある。また、カビ類や藻類は美観を損ない、水路などでは藻類が付着することにより、水利機能が低下するおそれがある。
【0003】
このような問題を解決するため様々な発明がこれまでも行われている。例えば特許文献1には、セメントおよび骨材を含むコンクリート原料に防藻・防カビ剤とシリカフューム、フライアッシュおよび微粉末高炉スラグの少なくともいずれか一方を混和する発明が開示されている。
【0004】
特許文献2には、シリコーン系化合物、シラノール系化合物、シラン系化合物、スチロール系化合物、アクリル樹脂系化合物、塩化ビニリデン樹脂系化合物、塩化ビニル系化合物、変性ポリエステル共重合体系化合物、酢酸ビニル共重合樹脂系化合物、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、スチレン系化合物、ウレタン系化合物のうちの少なくとも1種類の化合物と、有機溶剤と、防カビ剤とよりなることを特徴とするセメント系硬化体防カビ性表面処理剤が開示されている。
【0005】
特許文献3には、金属系抗菌剤を添加しても下水道管のコンクリート色を損ねず、しかも均一で安定した抗菌効果が得られる抗菌性下水道管として、水酸化アパタイト中のカルシウムイオンの一部を抗菌性の金属イオンで置換した金属置換型水酸化アパタイトが、上記下水道管の内周面および/またはその付近に存在する抗菌性下水道管が開示されている。
【特許文献1】特開平9−002859号公報
【特許文献2】特開平9−095401号公報
【特許文献3】特開2003−138634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでに行われてきた発明だけでは、経費面あるいは環境保護面等の観点から十分なものではなかった。施工されるコンクリート全体に防カビ剤を混練する場合には、それなりの効果は実現できるが、部材厚の大きいコンクリートであれば多量の防かび剤を使用せねばならず、このためのコストアップという問題がある。また特殊な防カビ性表面処理剤を処理する場合もあり、そのための施工の工程数が増加する、あるいは作業時間の増加といった点も指摘されていた。さらに多量の防カビ剤の使用は、本来生息した方が好ましい微生物をも死滅させることになり、長期的な環境保全という点から好ましいものとは言えない。
【0007】
本発明は、上述したような観点から、トンネルあるいは水路等に用いられるモルタルやコンクリートの施工時に使用され、これらの構造物の補強を行うことができ、施工後にひび割れ等の欠陥の拡大防止を実現でき、施工後に経費負担や施工労力の負担を軽減できるように防カビ剤を適量使用することによって防藻および防カビ性能を発揮するメッシュ織物と、このメッシュ織物が使用された建造物用の複合構成体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のメッシュ織物は、樹脂によって表面を被覆されたガラス繊維がメッシュ状に製織された織物であって、前記織物に防カビ剤が付着してなることを特徴とする。
【0009】
樹脂によって表面を被覆されたガラス繊維がメッシュ状に製織された織物であって、前記織物に防カビ剤が付着してなるとは、メッシュ状に織られたガラス繊維の表面に、液体状あるいは粉末状の防カビ剤が被覆するように均等に付着した状態の織物であることを意味している。
【0010】
本発明のメッシュ織物は、ガラス繊維が製織され、樹脂によってその表面が被覆されたものであるが、樹脂の種類については特に限定するものではなく、目止め等の所定の機能を実現できるものであればよい。表面を被覆する樹脂として特に好適なものとしては、樹脂の粘性や繊維との馴染みやすさ、使用の容易さといった観点から選択できる。このような樹脂としては、例えばウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、SBR樹脂、NBR樹脂、そしてMBR樹脂がある。このような樹脂は、必要に応じて単独あるいは複数種を適量比で混合して使用することができる。また、所定の性能を付与するため上記以外の成分を添加することも差し支えない。さらに、樹脂の性能を改質する各種の微量添加剤を適量添加することも可能である。また、ガラス繊維表面に被覆する方法についても、浸漬法、スプレー法等種々の方法を採用してよい。
【0011】
ここで、防カビ剤とは、微生物を死滅させないまでも、微生物の発育、成長を抑制、あるいは阻止する薬剤を意味している。防カビ剤としては、抗菌スペクトル、すなわち適用可能な微生物の範囲が広く、様々な化学的、物理的な刺激に対する耐久性の高いものであれば、どのようなものであっても採用することができる。
【0012】
防カビ剤としては、例えばリン酸塩系、珪酸塩系などの金属及びその化合物系であってもよく、無機有機複合系であってもよく、酸化物光触媒系や有機系であってもよい。有機系であれば、合成有機系であっても天然有機系であってもよい。
【0013】
本発明に係る防カビ剤としては、無機系金属イオンや合成有機系のものが用いられる。無機系金属イオンとしては、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、ゼオライト、シリカゲル、ケイ酸カルシウムなどの無機材料の担体に銀、銅、亜鉛などの抗菌性を有する金属を担持させたものが用いられる。合成有機系としては、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、2−メチルカルボニルアミノベンツイミダゾールなどのイミダゾール系や2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンツチアゾールなどのチアゾール系や2−n−オクチル−4−イソチアゾリン3−オンなどのイソチアゾリン系や2,3,5,6−テトラクロロー4−(メチルスルホン)ピリジン、ビス(ピリジン−2−チオール−1オキシド)亜鉛酸、2−ピリジンチオールー1−オキシドナトリウム塩、2、2´−ジチオビスピリジン−1−オキシドなどのピリジン系やヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシルエチル)−S−トリアジンなどのトリアジン系などが用いられる。特に上記のうち、含窒素複素環系の防カビ剤が好ましく、より好ましくはイミダゾール系である2−ベンゾイミダゾールカルバミンサンメチル、2−メチルカルボニルアミノベンツイミダソール、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾールなどを使用することである。また、防藻・防カビ剤のメッシュ織物への付着法についても、浸漬法、スプレー法等の種々の方法を採用することが可能である。
【0014】
また本発明のメッシュ織物は、上述に加えて防カビ剤の付着率が、質量百分率表示で0.05〜1.5%であるならば、長期に及びカビの繁殖を抑止する働きを持続させることができるので好ましい。
【0015】
防カビ剤の付着率が、質量百分率表示で0.05〜1.5%であるとは、樹脂によって表面を被覆されたガラス繊維が製織されたメッシュ織物の質量を100とした場合に、防カビ剤の質量が0.05から1.5の範囲内となるように付着率を予め調整したように適量配合した被覆用樹脂を塗布したものである。
【0016】
本発明のメッシュ織物は、メッシュ織物に対する防かび剤の付着率が、質量百分率表示で0.05%未満である場合に、建造物に使用された後に防藻および防カビ作用が低下し、長期に亘る性能維持に支障が生じるため好ましくない。一方、メッシュ織物に対する防かび剤の付着率が、質量百分率表示で1.5%を超える付着の場合には施工コストが高価になるため好ましくない。
【0017】
本発明に係る樹脂のメッシュ織物に対する付着率は特に限定されないが、より安定した品位を実現するにはメッシュ織物に対して質量百分率表示で3%から25%の範囲内とすることが好ましい。すなわち、メッシュ織物に対して樹脂の付着率が3質量%より小さいと目止めの効果が小さくなる場合があり、そのような場合には目ズレの危険性が大きくなる。またメッシュ織物に対して樹脂の付着率が25質量%を超えると、メッシュ織物の費用が高価になるとともにメッシュ織物の開口部、すなわち目の開いた箇所に樹脂の膜が形成されやすくなり、その結果モルタルやコンクリートとのなじみ易さが損なわれるため好ましくない。このような観点から、本発明に係る樹脂の繊維に対する付着率は、質量百分率表示で5%から20%の範囲であることがさらに好ましい。樹脂の付着率に関しては、強熱源量を計測するなど、公知の方法により計測、分析することができる。
【0018】
本発明のメッシュ織物に用いられるガラス繊維は、酸化物換算の質量百分率表示で酸化ジルコニウムとして表記される、すなわちZrOの含有率が質量百分率表示で14質量%以上の耐アルカリ性ガラス繊維であれば、これをモルタルに混入してもセメント中のアルカリ性物質によって経時的にガラス繊維の引張強度が低下するのを抑制することができる。そしてこのようなガラス繊維を使用すると、モルタル中にひび割れ等の各種の欠陥が生じる危険性を低下させる効果を長期間に亘り維持し続けることができるため特に好ましい。
【0019】
本発明のメッシュ織物に使用するに好適な耐アルカリ性ガラス繊維の組成を例示すれば、酸化物換算の質量百分率表示でSiO 55〜65%、ZrO 14〜25%、LiO 0〜5%、NaO 10〜17%、KO 0〜8%、RO(但し、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す) 0〜10%、TiO 0〜7%、Al2O3 0〜2%であり、より好ましくは、質量%で、SiO 57〜64%、ZrO 18〜24%、Li2O 0.5〜3%、NaO 11〜15%、KO 1〜5%、RO(但し、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す)0.2〜8%、TiO 0.5〜5%、Al 0〜1%である。ここでRO(但し、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す)と表記したのは、これらの成分を全て含有するという意味ではなく、MgOとCaOとSrOとBaOとZnOの合量をROとして表した場合に酸化物換算の質量百分率表示で0から10%の範囲、より好ましくは0.2質量%から8質量%の範囲であることを意味している。
【0020】
本発明のメッシュ織物が酸化物換算の質量百分率表示でSiO 55〜65%、ZrO 14〜25%、LiO 0〜5%、NaO 10〜17%、KO 0〜8%、RO(但し、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す) 0〜10%、TiO 0〜7%、Al2O3 0〜2%であり、より好ましくは、質量%で、SiO 57〜64%、ZrO 18〜24%、Li2O 0.5〜3%、NaO 11〜15%、KO 1〜5%、RO(但し、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す)0.2〜8%、TiO 0.5〜5%、Al 0〜1%であれば、高い強度性能ばかりでなく、化学的な耐久性についても優れた性能を有するものとなるので、さらに安定したものとなる。
【0021】
本発明のメッシュ織物は、本発明のメッシュ織物の性能に大きな影響を及ぼさない範囲で上記に加え必要に応じて各種の成分を添加することができる。本発明のメッシュ織物の構成成分として使用できるものを酸化物表示で具体的に例示するならば、P、Fe、Sb、As、SO、Cl、F、PbO、La、WO、Nb、Y、MoO、希土類酸化物、ランタノイド酸化物等を質量%表示で3%以下の含有量であれば含有することができる。
【0022】
またこれらの添加物の内、Feは少ない方が好ましいため、その上限は酸化物換算の質量%表示で1%以下とする方がよい。
【0023】
また上述以外にも、微量成分を質量%表示で0.1%まで含有することができる。例えば、OH、H、CO、CO、HO、He、Ne、Ar、N等の各種微量成分がこの上限値をもつものとして該当する。
【0024】
また本発明の強化板ガラスでは、メッシュ織物の性能に大きな影響がないならば、ガラス中に微量の貴金属元素が含有してもよい。例えばPt、Rh、Os等の白金属元素をppmオーダーまで含有してもよい。
【0025】
本発明のメッシュ織物を構成するガラス繊維の形態としては、ヤーン、ロービング、DWR(ダイレクトワインディングロービング)等がある。
【0026】
本発明のメッシュ織物は、上述に加え織方向に沿った主面方向と主面方向に垂直な方向に関わる引張強度が、JIS L1096(1999)に従う計測によって500N/25mm以上であるならば、モルタルやコンクリート中に乾燥、収縮に伴って微細なクラックが生じるのを抑止する効果が大きく、高強度な構造を実現できる。このため各種の建造物において、長期的な信頼性が必要とされる場合に、その強度を向上するために適正な使用方法に従って利用することで高い安定性を具備した建造物を構成することが可能となる。
【0027】
織方向に沿った長尺方向と長尺方向に垂直な方向に関わる引張強度が、JIS L1096(1999)に従う計測によって500N/25mm以上であるとは、メッシュ織物の織り方向すなわち長尺側に相当する織物のたて方向すなわちタテ糸の製織方向、及び長尺側の方向に垂直なよこ方向すなわちヨコ糸の製繊方向に25mmの寸法で保持した状態で、1999年に発行された日本工業規格(JIS)の L1096に従う測定方法によってメッシュ織物に沿った引張力を印加した場合に、その強度が500N以上となることを意味している。
【0028】
引張強度は、JIS L1096(1999)「一般織物試験方法」に従う方法で、標準分銅により校正された強度試験装置を使用することによって、測定すればよい。
【0029】
本発明の建造物の複合構成体に用いられるメッシュ織物の目間隔は特に限定されず、その目間隔が小さいほどモルタルのクラックを防止しやすいため好ましいが、目間隔を極端に小さくしようとするとモルタルとメッシュ織物のなじみが悪く剥離を生じやすいため、3mm以上が好ましい。
【0030】
本発明の建造物用の複合構成体は、モルタル層にメッシュ織物が施工された建造物用複合構成体であって、前記メッシュ織物が本発明のメッシュ織物であり、該メッシュ織物が複合構成体の表面に貼設されてなるか、または該メッシュ織物がかぶり厚を有するモルタル層中に埋設されてなるものであることを特徴とする。
【0031】
ここで、モルタル層にメッシュ織物が施工された建造物用複合構成体であって、前記メッシュ織物が本発明のメッシュ織物であり、該メッシュ織物が複合構成体の表面に貼設されてなるか、または該メッシュ織物がかぶり厚を有するモルタル層中に埋設されてなるものであるという点について、以下で説明する。すなわち、樹脂によって表面を被覆されたガラス繊維が製織されたものであって、メッシュ織物に対する防かび剤の付着率が、質量百分率表示で0.05〜1.5%であるメッシュ織物が、建造物用の複合構成体の施工位置をモルタル層の表面にその一部が埋められたように貼り付けられるか、あるいは複合構成体の内部にある所定の厚み深さのモルタル層の下に埋めた態様とすることによって使用されることを表している。
【0032】
メッシュ織物を複合構成体の表面に貼設する場合は、予めロール状に巻き取ったメッシュ織物を未乾燥状態のモルタル層の表面に拡げ、メッシュ織物の厚さ寸法の内、その所定の厚さ寸法だけがモルタル層中に埋入されるように圧力を加えて押しつけ、その状態で保持してメッシュ織物をモルタル層の表面に貼設した状態にすることができる。
【0033】
また、かぶり厚を有するモルタル層中にメッシュ織物を埋設する場合は、所定厚だけ予めモルタルを打ち込んだ後、その表面に貼設する場合と同様にロール状に巻き取ったメッシュ織物を未乾燥状態のモルタル層の表面に拡げ、さらにその上からモルタルを所定厚となるように打ち込むことで施工することができる。
【0034】
また本発明の建造物用の複合構成体は、上述に加えかぶり厚が、モルタル層の厚さ寸法に対して4割未満であるならば、建造物用の複合構成体のモルタル層の表面に発生しやすいクラックを確実に抑制する性能、すなわちクラック防止効果を充分に発揮するものとなるので好ましい。
【0035】
かぶり厚がモルタル層の厚さ寸法に対して4割未満であるとは、建造物の複合構成体の全体の厚みを100とすると、クラックの発生を抑制したい表面からの厚みが40%までの深さ寸法となるように、メッシュ織物を埋め込むことを表している。
【0036】
本発明の建造物用の複合構成体は、上述に加え壁材、床材及び天井材の内の1以上の部位に用いられて建造物を構成するものであれば、微細なクラックの発生が懸念される箇所を効率よく補強することが可能であり、安定した建造物を得ることができる。
【0037】
ここで、壁材、床材及び天井材の内の1以上の部位に用いられて建造物を構成するとは、建造物用の複合構成体が、建物、湾岸、河川、鉄道、道路、橋梁、ダム、下水道、用水路、土地造成等の様々な分野で利用される複合構成体として、構造物の壁材、床材や天井材、あるいは予め形成されたモルタルを使用したブロック状物を組み合わせる材料等の一部として使用されるものであることを意味している。
【0038】
本発明の建造物用の複合構成体は、上述に加えトンネル又は水路を構成するものであるならば、その強度に関して様々な問題が生じるトンネルや水路に本発明を適用することができるので、長期に亘りクラック等の発生し難い建造物を構築することが可能となる。
【0039】
トンネル又は水路は、その大きさや内部を流通するものの種類によらず、2地点間の交通や物資の輸送あるいは貯留などの目的のために建造されるものであればよく、その断面形状などによらず本発明を適用してよい。
【発明の効果】
【0040】
(1)以上のように、本発明のメッシュ織物は、樹脂によって表面を被覆されたガラス繊維がメッシュ状に製織された織物であって、前記織物に防カビ剤が付着してなるものであるため、トンネルあるいは水路等に用いられるモルタルやコンクリートの施工時に使用され、これらの構造物の補強を行うことができ、施工後にひび割れ等の欠陥の拡大防止を実現でき、施工後に経費負担や施工労力の負担を軽減できるように防カビ剤を適量使用することによって防藻および防カビ性能を発揮するメッシュ織物として好適である。
【0041】
(2)また本発明のメッシュ織物は、防カビ剤の付着率が、質量百分率表示で0.05〜1.5%であれば、カビすなわち真菌や藻などが繁殖しやすい環境でメッシュ織物が用いられる場合であっても、十分高い防カビ性能を発揮するものである。そしてこのような環境面から適正な防カビ性能を高価な経費を要せずに実現することが可能である。
【0042】
(3)また本発明のメッシュ織物は、織方向に沿った長尺方向と長尺方向に垂直な方向に関わる引張強度が、JIS L1096(1999)に従う計測によって500N/25mm以上であるならば、高い防カビ性能に加えて十分な引張強度を有するため、脆弱な建造物に本発明のメッシュ織物を使用することによって高い強度性能を発揮するものとすることができ、建造物を効率的に補強することが可能となる。
【0043】
(4)本発明の建造物用の複合構成体は、モルタル層にメッシュ織物が施工された建造物用複合構成体であって、前記メッシュ織物が本発明のメッシュ織物であり、該メッシュ織物が複合構成体の表面に貼設されてなるか、または該メッシュ織物がかぶり厚を有するモルタル層中に埋設されてなるものであるため、必要に応じて様々な施工方法を適所に採用でき、従来は施工が困難であった各種建造物であっても、本発明を採用することでコンクリートやモルタルの使用が可能となるものである。
【0044】
(5)また本発明の建造物用の複合構成体は、かぶり厚が、モルタル層の厚さ寸法に対して4割未満であるならば、モルタルとなじみ易いメッシュ織物をモルタルの適所に埋設することによって、メッシュ織物の補強効果を確実に発揮させることが可能となり、複合構成体の表面に発生しやすいクラック等の構造欠陥を効果的に抑制できるものとなる。
【0045】
(6)また本発明の建造物用の複合構成体は、壁材、床材及び天井材の内の1以上の部位に用いられて建造物を構成するものであるならば、強度上の問題を有する施工物の強度を効率よく改善することができ、メッシュ織物の適用される用途を拡げることができるものである。
【0046】
(7)また本発明の建造物用の複合構成体は、トンネル又は水路を構成するものであるならば、強度ばかりでなくカビなどの微生物の繁殖が問題視される場合であっても、その繁殖を効率よく抑制することができるので、高価な経費を要せずに高い安定性を有するトンネルや水路の補強を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下に本発明のメッシュ織物と、メッシュ織物を使用して構成される建造物用の複合構成体について、実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0048】
本発明のメッシュ織物については、次のような手順で製造し、その性能の評価を行った。まず、予め調整したガラス原料を加熱し、均質化した溶融ガラスを白金製のブッシングから引き出して集束剤を塗布してガラスストランドを成形した。得られたガラス繊維の組成は、質量百分率表示でSiO 61.0%、ZrO 19.5%、LiO 1.5%、NaO 12.3%、KO 2.6%、CaO 0.5%、TiO 2.6%となる耐アルカリ性ガラス繊維である。この耐アルカリ性ガラス繊維の表面に塗布した集束剤は、澱粉、潤滑剤、柔軟剤を含むものである。
【0049】
次いで、表1に示す番手(tex)となるようにメッシュ織物を製織するために用いるたて糸用とよこ糸用のヤーンをそれぞれ作製した。このヤーンを用いて表1に示す目間隔で平織りし、メッシュ生地を作製した。さらに得られたメッシュ生地を浸漬法によってアクリル樹脂を質量百分率表示で10%の付着率になるように塗布し、乾燥固化することによってメッシュ織物を作製した。その後、メッシュ織物を防カビ剤である2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール水分散液に浸漬し、表1に示す付着率となるようにメッシュ織物に防カビ剤を処理した。
【0050】
【表1】

【0051】
メッシュ織物の引張強度については、JIS L1096の方法に従い、各メッシュ織物から幅25mm、長さ200mmの試験片をたて方向、及びよこ方向それぞれ5枚ずつ採取して、島津製作所製オートグラフを使用してスパン100mm、引張速度50mm/分の測定条件で測定を行い、メッシュ織物の引張強度を計測し、平均値を算出して各試料の引張強度とした。
【0052】
また建造物用の複合構成体についてのひび割れ発生荷重と曲げ強度の評価は、次のようにして行った。まず250×50×20mmの型枠に単位容積質量1.3kg/lのモルタルを流し込んだ。モルタルを打ち込む際に試料No.1〜No.5では打ち込み厚が2mm、試料No.6では打ち込み厚が4mm、試料No.7では打ち込み厚が8mmの厚みになるように流し込んだ。その後流し込まれた未硬化のモルタルの上にそれぞれメッシュ織物を1枚置き、さらにモルタルを流し込んで、厚さ20mmの試験体を成形した。そしてこの試験体を20℃、60%RHの温度湿度を管理した室内にて28日間養生した。このようにして28日間養生した材令28日の試験体について、曲げ試験を行った。曲げ試験の測定は、型枠面(ネット埋設面)を下方にし、支点間距離200mmの中央載荷方式で、載荷速度2mm/分で計測を行った。試験に供した試験体の数は、1試験条件につき5体とした。表1中でひび割れ発生荷重として表記したものは、材令28日の曲げ試験時に、目視により試験体にひび割れが発生した時の荷重をニュートン単位で示す。
【0053】
またカビ抵抗性の評価用試験体には、上記曲げ強度用の試験体を50×50×20mmの大きさに切断したものを用いた。評価は、アピザス法によるもので、シャーレ中に71種の真菌71菌を入れ、温度28〜30℃、湿度85%R.H以上で試験体を保持し、培養期間を28日間とした。カビ抵抗性に関する判定は、表2のような5段階評価とした。
【0054】
【表2】

【0055】
以上の評価によって、表1からも明らかなように、試験を行った実施例のメッシュ織物の試料No.1から試料No.7の各試料は、引張強度がたて方向が577N/25mmから682N/25mmの範囲内にあり、よこ方向が580N/25mmから695N/25mmの範囲にあり、いずれも500N/25mm以上にあることが判明した。
【0056】
また試験を行った実施例のメッシュ織物を使用して成形した建造物の複合構成体の試料No.1から試料No.7の各試料は、ひび割れ発生荷重が小さいものでも252N、大きいものでは305Nという高い値を示し、曲げ強度についても6.0MPaから7.9MPaの範囲内の値となり、いずれも充分に高い値となることが判明した。
【0057】
また試験を行った実施例のメッシュ織物を使用して成形した建造物の複合構成体の試料No.1から試料No.7の各試料は、アピザス法の評価によって培養期間28日後も全く菌が発育しないことが確認され、防カビ性に優れることが判明した。
【0058】
[比較例]次いで建造物用の複合構成体についての比較例として、本発明の実施例と同様の手順により一部の手順を変えることによって、比較例のNo.8〜No.10の各試料を調整した。具体的には、実施例と同様の組成を有する耐アルカリ性ガラス繊維からなるたて糸とよこ糸用のヤーンを準備し、比較例の試料No.8については、表2に示す目間隔で平織りし、メッシュ生地を作製した。さらに得られたメッシュ生地を浸漬法によってアクリル樹脂を質量百分率表示で10%の付着率になるように塗布し、乾燥固化することによってメッシュ織物を作製した。このメッシュ織物には防カビ剤である2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール水分散液を処理しなかった。また、比較例の試料No.9については、メッシュ織物を防カビ剤である2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール水分散液に浸漬し、表2に示す付着率となるようにメッシュ織物に防カビ剤を処理した。試料No.10については、250×50×20mmの型枠にモルタルを12mmの厚みになるように流し込んだ後、モルタルの上にメッシュ織物を1枚置くことによって、メッシュ織物のかぶり厚が60%の位置になるように曲げ試験体を作製した。
【0059】
【表3】

【0060】
評価の結果、比較例の試料No.8については、メッシュ織物に防カビ剤が付着されていないため、アピザス法の評価によって培養期間28日後60%以上の完全発育と防カビ性に劣ることが判明した。また、比較例の試料No.9については、防カビ剤の付着率が低いため、アピザス法の評価によって培養期間28日後10〜30%以下の発育と防カビ性にやや劣ることが判明した。比較例の試料No.10については実施例の試料No.1と同じメッシュ織物を使用しているにも関わらず、メッシュ織物がモルタル層の厚みに対するメッシュ織物のかぶり厚が40%を超えた60%の位置に埋設されているため、ひび割れ発生荷重、曲げ強度が低い値を示すことが判明した。また、メッシュ織物はかぶり厚が60%の位置に埋設されているため、アピザス法の評価によって培養期間28日後10%以下の発育と防カビ性にやや劣ることが判明した。
【0061】
以上のように、本発明のメッシュ織物は防カビ性に優れ、充分に高い強度を有するものであり、さらにこのメッシュ織物を所定のモルタルとともに使用することで得られた建造物用の複合構成体は、カビが発生しにくく、クラック等の構造欠陥が生じにくい建造物用の複合構成体となることが明瞭となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂によって表面を被覆されたガラス繊維がメッシュ状に製織された織物であって、
前記織物に防カビ剤が付着してなることを特徴とするメッシュ織物。
【請求項2】
防カビ剤の付着率が、質量百分率表示で0.05〜1.5%であることを特徴とする請求項1に記載のメッシュ織物。
【請求項3】
織方向に沿った長尺方向と長尺方向に垂直な方向に関わる引張強度が、JIS L1096(1999)に従う計測によって500N/25mm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のメッシュ織物。
【請求項4】
モルタル層にメッシュ織物が施工された建造物用複合構成体であって、
前記メッシュ織物が請求項1から請求項3の何れかに記載のメッシュ織物であり、該メッシュ織物が複合構成体の表面に貼設されてなるか、または該メッシュ織物がかぶり厚を有するモルタル層中に埋設されてなるものであることを特徴とする建造物用の複合構成体。
【請求項5】
かぶり厚が、モルタル層の厚さ寸法に対して4割未満であることを特徴とする請求項4に記載の建造物用の複合構成体。
【請求項6】
壁材、床材及び天井材の内の1以上の部位に用いられて建造物の一部を構成するものであることを特徴とする請求項4から請求項5の何れかに記載の建造物用の複合構成体。
【請求項7】
トンネル又は水路を構成するものであることを特徴とする請求項4から請求項6の何れかに記載の建造物用の複合構成体。

【公開番号】特開2010−121248(P2010−121248A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297564(P2008−297564)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】