説明

モータロータ用セグメント磁性片の製造方法

【課題】逆ラジアル磁化配向のセグメント磁性片を簡易かつ安価に製造する
【解決手段】中心から径方向へ延びるラジアル状の磁化配向を有する円環状の磁性体1を得る工程と、当該磁性体1を周方向へ一定長さで分割して磁性原片2を得る工程と、磁性原片2の凹状をなす内周弧面2aを所定の凸状弧面5aに成形してセグメント磁性片5を得る工程とを備える。セグメント磁性片5の外周弧面2b側を、ロータ3の、ステータ4に対向する周面に固定して当該周面の周方向へ必要数のセグメント磁性片5を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータロータ用セグメント磁性片の製造方法に関し、特に、ステータに向かって収束する逆ラジアル磁化配向を有するモータロータ用のセグメント磁性片を簡易に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で強力なブラシレスモータとしてロータの表面に磁石を貼り合わせたSPM(Surface Permanent Magnet Motor)が注目されている。この場合、特許文献1に示されているように、ロータに設けられた磁石にステータに向かって収束する逆ラジアル磁化配向を持たせると、ステータとロータの間の空隙における磁束密度が高くなるため大きなモータトルクを得ることができるとともに、コギングトルクやトルクリップルも小さくすることが可能になる。
【0003】
そこで、特許文献2には、非磁性体のダイス内に、一対のC形断面のキャビティを互いの外弧が対称に接するように設けて、これらキャビティ内に充填した磁粉に配向磁場を作用させることによって逆ラジアル磁化配向を有するセグメント磁性片(磁石)を製造する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−42414
【特許文献2】特開2005−287181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の製造方法では、複雑な形状のダイスを準備する必要があるとともに、ダイス内に設けることができるキャビティの数が実用的には一対か二対と限られることから、必要数のセグメント磁性片を得るのに手間を要するという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、複雑な形状のダイスを準備したり、必要数を確保するのに多大な手間を要することなく、逆ラジアル磁化配向のセグメント磁性片を簡易かつ安価に製造することが可能なモータロータ用セグメント磁性片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明のモータロータ用のセグメント磁性片の製造方法では、中心から径方向へ延びるラジアル状の磁化配向を有する円環状の磁性体(1)を得る工程と、当該磁性体(1)を周方向へ一定長さで分割して磁性原片(2)を得る工程と、磁性原片(2)の凹状をなす内周弧面(2a)を所定の凸状弧面(5a)に成形してセグメント磁性片(5)を得る工程とを備える。
【0008】
本第1発明によれば、ラジアル状の磁化配向を有する円環状の磁性体を製造して、これを周方向へ分割して磁性原片を得、磁性原片の内周弧面を所定の凸状弧面に成形するという簡易な方法でセグメント磁性片を得ることができるから、従来のような複雑な形状のダイスを準備したり、必要数のセグメント磁性片を確保するのに手間を要するという問題が解消される。
【0009】
本第2発明のモータロータ用のセグメント磁性片の製造方法では、上記磁性体(1)を熱間押出し成形で製造する。
【0010】
本第2発明によれば、特に配向用の磁界を作用させることなく、ラジアル状の磁化配向を有する円環状の磁性体を容易に得ることができる。
【0011】
本第3発明のモータロータでは、本第1発明に記載の製造方法によって製造されたセグメント磁性片(5)の外周弧面(2b)側を、ロータ(3)の、ステータ(4)に対向する周面に固定して当該周面の周方向へセグメント磁性片(5)を配置する。
【0012】
本第3発明においては、セグメント磁性片の外周弧面側を、ロータの、ステータに対向する周面に固定することによって、ステータに向けて収束する逆ラジアルの磁化配向を有するセグメント磁性片がロータの周面に配置される。これらセグメント磁性片を周方向で交互に異なる磁極に着磁することにより、大きなモータトルクを有し、かつコギングトルクやトルクリップルが充分小さいブラシレスモータを得ることができる。
【0013】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明のモータロータ用セグメント磁性片の製造方法によれば、複雑な形状のダイスを準備したり、必要数を確保するのに多大な手間を要することなく、逆ラジアル磁化配向のセグメント磁性片を簡易かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】磁性体の正面図である。
【図2】磁性原片の断面図である。
【図3】セグメント磁性片の断面図である。
【図4】ブラシレスモータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、セグメント磁性片の製造方法について説明する。最初に図1に示すような円環状の磁性体1を製造する。この磁性体1の磁化配向は、図中に破線で示すようにその中心から径方向へ延びるラジアル状となっている。このような磁性体1は公知の方法で製造することができる。例えば、磁性薄片をコールドプレスした後、ホットプレスし、これを押出し成形して不要部を切断することにより円環状の磁性体を得ることができる(熱間押出し成形)。このような熱間押出し成形で得た磁性体はラジアル状の磁化配向を有している。あるいは、磁粉を、ラジアル状の配向磁場を作用させた状態で冷間圧縮し、その後、焼結、アニーリングを行い、切断・研削工程を経てラジアル状磁化配向を有する円環状の上記磁性体とする。磁性体の内外径や厚みは、必要とされるセグメント磁性片の大きさや数に応じて適当に決定される。
【0017】
次に、上記磁性体1を周方向へ所定長さで切断する。本実施形態では磁性体1を周方向に等分に分割して(図1の鎖線)16個の磁性原片2を得ている。これら磁性原片2では、磁化配向は内周弧面2a側から外周弧面2b側へ向けて発散するものとなっており(図2の破線)、これは外周弧面2b側から見ると内周弧面2a側へ向けて収束するものとなっている。
【0018】
ここにおいて、本実施形態では外周弧面2b側を、モータロータの、ステータに対向する周面に固定するようにする。このために、ステータの内周面と間隙をおいて直接対向することになる磁性原片2の凹状の内周弧面2aの両側部を図2の鎖線で示すように削除して、磁性原片2の内周弧面2aを凸状弧面5aに成形してセグメント磁性片5とする(図3)。なお、この凸状弧面5aの形状は、モータのトルク、コギングトルク、トルクリップルに大きく影響を与えるため、モータに対する要求性能を勘案し、適切に調整される。一般的には、磁極端部のステータとのギャップを大きく取るにつれ、コギングトルク、トルクリップルは改善するものの、トルクは低下するというトレードオフの関係となる。
【0019】
このように成形したセグメント磁性片5の外周弧面2b側を、ブラシレスモータのインナロータ3の外周面に接合固定した例を図4に示す。本実施形態では上記ロータ3の外周面に同形のセグメント磁性片5を等間隔で複数個(8個)固定し配置してある。各セグメント磁性片5の磁化配向は外方のステータ4に向けて収束する逆ラジアル状となっている(図4中の破線)。したがって、セグメント磁性片5を公知の方法で周方向へ交互に異なる磁極に着磁することにより、大きなモータトルクを有し、かつコギングトルクやトルクリップルが充分小さいブラシレスモータを得ることができる。ここで、ロータ3の外周面に接合されるセグメント磁性片5の外周弧面2bは、ロータ外周面の成形加工やロータ外周面への接合を容易にするために平面状に削除成形すると良い。なお、図4中、符号41は三相のステータコイルである。
【0020】
(実施例)
既述の熱間押出し成形で内径36.7mm、外径43mm、軸方向の長さ35mmのNd-Fe-B製の円環状磁性体2を製作し、これを周方向へ16個の等分に分割して磁化配向が外周弧面2b側から内周弧面2a側へ逆ラジアル状の磁性原片2を得、これらを上述したように成形してセグメント磁性片5としてインナロータ3の外周面に等間隔で8個配置し(図4)、その平均トルク、コギングトルク、トルクリップルを測定した。その結果を表1に示す。比較例として、セグメント磁性片の磁化配向がパラレルの、同構造のブラシレスモータの平均トルク、コギングトルク、トルクリップルも示す。表1より明らかなように、本発明の方法で製造されたセグメント磁性片5を備えた本実施例のブラシレスモータは、充分に大きいな平均トルクを有するとともに、比較例のものに比してコギングトルク、トルクリップルのいずれも充分小さくなる。本実施例では本発明をインナロータに適用した例について説明したが、アウタロータにも同様に適用することができる。
【0021】
なお、平均トルク、トルクリップルは以下のように測定した。すなわち、上記ブラシレスモータの三相コイル41に正弦波でIrms=14.1Aの電流を通電し、外部モータで適切な回転数になるように負荷をかける。回転が一定となった後、外部モータのシャフトに発生したトルク変化をトルク検出器で検出して、ロータ一回転中のトルク平均値を平均トルクとした。また、測定時間内でのトルクの最大値と最小値の差を平均トルクに対する割合で表してトルクリップルとした。
【0022】
コギングトルクは以下のように測定した。すなわち、上記ブラシレスモータを非通電状態とした状態で外部モータによってインナロータ3をごく低速の一定速度で回転させ、外部モータのシャフトに発生したトルク変化をトルク検出器で検出して、ロータ一回転中のトルクの最大値と最小値の差をコギングトルクとした。
【0023】
【表1】

【符号の説明】
【0024】
1…磁性体、2…磁性原片、2a…内周弧面、2b…外周弧面、3…ロータ、4…ステータ、5…セグメント磁性片、5a…凸状弧面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心から径方向へ延びるラジアル状の磁化配向を有する円環状の磁性体を得る工程と、当該磁性体を周方向へ一定長さで分割して磁性原片を得る工程と、磁性原片の凹状をなす内周弧面を所定の凸状弧面に成形してセグメント磁性片を得る工程とを備えるモータロータ用のセグメント磁性片の製造方法。
【請求項2】
前記磁性体を熱間押出し成形で製造する請求項1に記載のモータロータ用のセグメント磁性片の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法によって製造されたセグメント磁性片の外周凸弧面側を、ロータの、ステータに対向する周面に固定して当該周面の周方向へセグメント磁性片を配置したモータロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−115083(P2012−115083A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263417(P2010−263417)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】